(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】反射防止構造体付き光学素子、製造用金型、反射防止構造体付き光学素子の製造方法及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20220916BHJP
G02B 1/118 20150101ALI20220916BHJP
C03B 11/00 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
G02B1/118
C03B11/00 A
(21)【出願番号】P 2018204820
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊矢
(72)【発明者】
【氏名】國定 照房
(72)【発明者】
【氏名】細谷 成紀
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-133764(JP,A)
【文献】特開2009-175481(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141264(WO,A1)
【文献】特開2012-058424(JP,A)
【文献】特開2006-124274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0188634(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0656082(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00
G02B 1/118
C03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学有効面の少なくとも一部に反射防止構造体を備える
レンズであって、
前記光学有効面の少なくとも一面側の外周全体に、他面側に向けて、光軸と略平行となる外周壁面を備え、
当該外周壁面から光軸に垂直な径方向外側に向けて延在する環状板部を備え、
当該環状板部は、
前記光軸方向に垂直な2つの面が共に平面であり、当該光学有効面の外周全体を取り囲み、且つ、その外周先端は
レンズ硝材が流動して形成した自由端面を備え
、
前記環状板部は、レンズ厚さTを基準としたとき、厚さが0.5mm~0.8Tmmであることを特徴とする反射防止構造体付き
レンズ。
【請求項2】
前記環状板部は、前記光学有効面の外周壁面から、光学有効面径Dmmを基準とし、0.5mm≦d≦Dmmで示す突出距離dを備える請求項1に記載の反射防止構造体付き
レンズ。
【請求項3】
前記反射防止構造体は、
使用平均波長をλとしたとき、微細凹凸の微細柱状突起の配列ピッチが
λ/2以下である請求項1
又は請求項2に記載の反射防止構造体付き
レンズ。
【請求項4】
請求項1~
請求項3のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き
レンズの製造に用いる一対の金型であって、
第1金型は、得ようとする
レンズの一面側の光学有効面を形成するための第1光学領域形成面と、当該第1光学領域形成面の外周端から光軸方向に平行に設けた第1外径規制壁面と、当該第1外径規制壁面の先端から光軸方向に垂直となるレンズ径方向に水平に設けた第1水平規制面とを備え、
第2金型は、得ようとする
レンズの他面の光学有効面を形成するための第2光学領域形成面と、当該第2光学領域形成面の光軸方向に垂直となるレンズ径方向に水平に設けた第2水平規制面とを備え、
当該第1光学領域形成面と第2光学領域形成面との少なくとも一方に反射防止構造体を形成するための微細凹凸形状を備えることを特徴とする反射防止構造体付き
レンズの製造用金型。
【請求項5】
請求項4に記載の反射防止構造体付き
レンズの製造用金型を用いた反射防止構造体付き
レンズの製造方法であって、
第1金型と第2金型とを対向配置し、第1金型の第1光学領域形成面と第2金型の第2光学領域形成面とからなる有効光学領域の形成空間に原料硝材を挟み込み、
当該原料硝材を加熱軟化させ、第1金型の第1水平規制面と第2金型の第2水平規制面とが0.5mm~0.8Tmm離間した状態となるまでプレス成形し、軟化した原料硝材を当該第1水平規制面と第2水平規制面との隙間に流動侵入させ、光学有効面の外周全体を取り囲み、且つ、先端が自由端面である環状板部を形成することを特徴とする反射防止構造体付き
レンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1~
請求項3のいずれか一項に記載の反射防止構造体付き
レンズを用いることを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、光学機器に用いる反射防止構造体付き光学素子、その製造用金型及び反射防止構造体付き光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の映像技術の発展にともない、高い光学性能を有する光学素子が求められ、光学素子表面に対する入射光が反射することにより発生する透過光の損失を低減させる必要がある。そのため、光学素子の光学有効面の光入射面及び光出射面の少なくとも一方の面に対し、反射防止構造体を設ける等の表面処理を施すことが行われている。
【0003】
最近では、反射防止構造体として、使用波長以下の微細な凹凸構造を光学素子の表面に形成する方法を採用し、屈折率の急激な変化を抑制することで、波長帯域特性や入射角度特性に優れた反射防止性能を実現してきた。この微細凹凸構造の形成には、特許文献1に開示されているように、金型を用いるプレス成形法が広く利用され、反射防止構造体付き光学素子として生産されている。
【0004】
そして、この反射防止構造体付き光学素子を各種光学機器に組み込む場合、反射防止構造体付き光学素子を鏡筒等の枠体へ精度良く組み付けて使用される。このとき、反射防止構造体付き光学素子の光学有効面を高精度に作製しても、組み付け精度が低い場合には、高い光学性能が得られなくなる。このときの組み付けは、光学素子に形成する組み付け面を基準に、
図7(a)に示すように接着剤を用いるか、
図7(b)に示すように枠体の一部を塑性変形させて固定するかの方法が採用されている。一般的に、この光学素子に形成する組み付け面は、芯取り加工(ベルクランプと呼ばれる方式で光学面を保持し姿勢を整えた後に、光学素子を回転させながら研削加工)により形成されてきた。
【0005】
一方、芯取り加工を省略する組み付け面の形成手法も提唱されてきた。例えば、特許文献2及び特許文献3には、金型を用いたプレス成形を用いて、光学有効面の隣接部に設けた空間又は面取り部へ余剰材料を逃がし、反射防止構造体付き光学素子の組み付け面として用いる外径を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-283581号公報
【文献】特開2000-1322号公報
【文献】特開2007-91569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金型を用いるプレス成形法で、光学有効面に微細凹凸を備える反射防止構造体付き光学素子を製造する場合、事後的に芯取り加工を行うことが困難である。なぜなら、ベルクランプで光学有効面を保持しても姿勢制御が困難であり、光学有効面にある微細凹凸が破壊されてしまうためである。
【0008】
一方で、従来のプレス成形に用いる金型を用いて、従来の組み付け面形状を備えた反射防止構造体付き光学素子を得ようとしても、金型を構成するブロックの隙間から、必然的に原料硝材のはみ出す量が多くなり、事後的な芯取り加工が必須となる。なぜなら、反射防止構造体を構成する微細凹凸をプレス成形法で形成する場合、反射防止構造体を備えない光学素子のプレス成形に比べ、微細凹凸を形成するためにプレス時間を長く要する。従って、従来の金型を用いたプレス成形法で光学有効面に微細凹凸を形成する場合は、高精度な曲率を備える光学有効面と、事後的に芯取り加工を必要としない組み付け面を、プレス成形時に同時形成することができないことになる。
【0009】
上述の特許文献に共通する問題は、プレス成形時の原料硝材の逃げ量が少ないため、微細凹凸構造の転写に対応できないという点にある。そして、先行技術毎にみれば、以下のような問題もある。上述の特許文献1に開示の発明では、原料硝材の体積ばらつきと、余剰材料の逃げを考慮できないため、必然的に組み付け面にバリが発生する。そのため、芯取り加工無しで枠体へ精度良く組み付けることが困難になる。
【0010】
一方、芯取り加工を省略する組み付け面の形成手法を提唱している特許文献2及び特許文献3に開示のプレス成形法の場合でも、高精度な曲率を備える光学有効面と、事後的に芯取り加工を必要としない組み付け面を、プレス成形時に同時形成することができないという問題がある。
【0011】
特許文献2に開示の発明の場合、プレス成形時の余剰材料の逃げを考慮しながら外径を形成できるが、製造される製品の形状的特徴から、光軸に対する配置位置が明瞭に決まらないため、枠体に対する組み付けに際し、他部品との位置決めを行うことが困難となる。
【0012】
特許文献3に開示の発明の場合、光軸に対する配置は容易であるが、プレス成形時の余剰材料が流動してできる光軸に垂直な平面として形成される部位の先端部の上下に突出部位が生じる。従って、事後的に芯取り加工を行って、突出部位を除去する必要が生じ、芯取り加工の省略が困難となる。
【0013】
以上のことから、本件出願は、金型を用いるプレス成形法で得られる反射防止構造体付き光学素子であって、高精度な曲率の光学有効面に微細凹凸を備え、プレス成形後に芯取り加工を行わずとも、枠体に対する良好な組み付け性を発揮する反射防止構造体付き光学素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、以下に述べる反射防止構造体付き光学素子、その製造に用いる金型、製造方法に想到した。
【0015】
A.本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子は、光学有効面の少なくとも一部に反射防止構造体を備える光学素子であって、前記光学有効面の少なくとも一面側の外周全体に、他面側に向けて、光軸と略平行となる外周壁面を備え、当該外周壁面から光軸に垂直な径方向外側に向けて延在する環状板部を備え、当該環状板部は、当該光学有効面の外周全体を取り囲み、且つ、その外周先端は光学素子硝材が流動して形成した自由端面を備えることを特徴とする。
【0016】
B.反射防止構造体付き光学素子の製造用金型
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造用金型は、上述の反射防止構造体付き光学素子の製造に用いる一対の金型である。一方の、第1金型は、得ようとする光学素子の一面側の光学有効面を形成するための第1光学領域形成面と、当該第1光学領域形成面の外周端から光軸方向に平行に設けた第1外径規制壁面と、当該第1外径規制壁面の先端から光軸方向に垂直となるレンズ径方向に水平に設けた第1水平規制面とを備えている。他方の第2金型は、得ようとする光学素子の他面の光学有効面を形成するための第2光学領域形成面と、当該第2光学領域形成面の光軸方向に垂直となるレンズ径方向に水平に設けた第2水平規制面とを備えている。そして、当該第1光学領域形成面と第2光学領域形成面との少なくとも一方に反射防止構造体を形成するための微細凹凸形状を備えることを特徴とする。
【0017】
C.反射防止構造体付き光学素子の製造方法
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造方法は、上述の反射防止構造体付き光学素子の製造用金型を用いるものであって、第1金型と第2金型とを対向配置し、第1金型の第1光学領域形成面と第2金型の第2光学領域形成面とからなる有効光学領域の形成空間に原料硝材を挟み込み、原料硝材を加熱軟化させ、第1金型の第1水平規制面と第2金型の第2水平規制面とが0.5mm~0.8Tmm離間した状態となるまでプレス成形し、軟化した原料硝材を第1水平規制面と第2水平規制面との隙間に流動侵入させ、光学有効面の外周全体を取り囲み、且つ、先端が自由端面である環状板部を形成することを特徴とする。
【0018】
D.本件出願に係る撮像装置
本件出願に係る撮像装置は、上述の反射防止構造体付き光学素子を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子は、プレス成形法を採用して得られる高精度な光学有効面へ良好な反射防止性能を備えると共に、事後的な芯取り加工が不要な組み付け面を備えるものである。この反射防止構造体付き光学素子には、軟化流動した原料硝材が金型間の隙間へ侵入してできるバリが生じないため、撮像装置への組み付けを、容易かつ高精度に行える。従って、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子を搭載した撮像装置は、良好な撮像性能を発揮するものとなる。また、この反射防止構造体付き光学素子は、心取り加工が不要なため、生産コストが削減でき、安価である。
【0020】
そして、上述の反射防止構造体付き光学素子の製造用金型及び製造方法を採用することで、プレス成形後の光学素子に対する芯取り加工が不要となり、生産コストを顕著に削減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の模式断面図である。
【
図2】本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の他の形態の模式断面図である。
【
図3】本件出願に係る金型に関する模式断面図である。
【
図4】プレス成形の概念を説明するための模式断面図である。
【
図5】プレス成形の概念を説明するための模式断面図である。
【
図6】本件出願にいう「非点収差量」を説明するための概念図である。
【
図7】従来の反射防止構造体付き光学素子の枠体に対する組み付けイメージを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本件発明に係る光学素子、製造に用いる金型、製造方法等の実施の形態に関して詳説する。
【0023】
A.反射防止構造体付き光学素子の形態
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1
は、光学有効面の少なくとも一部に反射防止構造体を備える光学素子であって、
図1に示すような断面形状を備えるものである。
図1に示す形態に限らず、光学有効面が平面、球面、非球面、自由曲面など様々な形状の光学素子が対象である。なお、
図1では両面の光学有効面5に反射防止構造体2a,2bを設けたイメージを示している。そして、
図2には、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子
の他の形態を示している。以下、
図1を参照しつつ説明する。
【0024】
(1)反射防止構造体付き光学素子の構造
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1の場合、光学有効面5の少なくとも一面側の外周全体に、他面側に向けて、光軸と略平行な外周壁面3を備えている。そして、この外周壁面3から、光軸に垂直な径方向側に向けて延在する環状板部4を備えている。以上に述べた、「光軸に平行な外周壁面3」と「光軸に垂直な環状板部4」との2面をあわせて、光学素子を枠体へ取り付ける際の「組み付け面」と称することがある。この組み付け面が存在することで、枠体に対する組み付け性が飛躍的に向上する。
【0025】
外周壁面: 本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1の外周壁面3は、
図1から理解できるように、光学有効面5の少なくとも一面側の外周において、他面側に向けて、光軸と略平行な壁面として設けられたものである。このときの外周壁面3の光軸方向の距離(以下、「外周壁面高さ」と称する。)は、後述するレンズ厚さTmmを基準とすると、0.2Tmm~0.8Tmm(T≧1)であることが好ましい。この外周壁面高さが0.2Tmm未満の場合、枠体に対する組み付け性が低下し、組み付け面として機能しないからである。一方、この外周壁面3の光軸方向の距離が0.8T(T≧1)mmを超えると、枠体に対する組み付け性が向上することもなく、光学素子としての小型化が図れなくなるため好ましくない。
【0026】
また、外周壁面高さに対する、後述する環状板部の厚さが厚いほど、プレス成形時に軟化流動した原料硝材が、金型の外周側へ流動するため、光学有効面に対して金型の微細凹凸構造の高さを転写することが困難となるため好ましくない。よって、外周壁面高さは0.2Tmm以上であることが好ましい。
【0027】
環状板部: この環状板部4は、光学有効面の外周全体を取り囲み、且つ、その外周先端は、プレス加工の際に、流動する光学素子硝材が形状規制を受けることなく形成されたものであり、この先端を自由端面6と称している。この環状板部4は、光学有効面径D(光学有効面5の直径:数値として表示する場合はDmmと表示する。)を基準として、光学有効面5の外周壁面3から自由端面6までの距離を突出距離と称している。
【0028】
そして、この突出距離dが0.5mm≦d≦Dmmであることが好ましい。物理的観点からみて、突出距離dが0.5mm未満の場合には、枠体に対する組み付け性を向上できないため好ましくない。一方、突出距離dがDmmを超える場合には、光学有効
面径Dに対して、突出距離dが過剰となり、光学素子としての小型化が図れず、市場要求も無いため、資源の無駄使いとなり好ましくない。なお、
図1に示す光学素子のように、光学有効面が表裏の2面に存在する場合、対象とする光学有効面5及び光学有効面径Dは、外周壁面3を設けている側にあるものである。即ち、
図1に示す場合には、「光学有効面」は符号5で示した方であり、「光学有効面径」は符号Dで示した方である。また、自由端面6は上述のように流動する光学素子硝材が形状規制を受けることなく形成されたものであるから(つまり、金型の内壁面により形状が規制されていない)、光軸から自由端面6までの距離(半径)が一定であるとは限らない。このような場合には、dを外周壁面3から自由端面6までの距離の全周に渡る平均として0.5mm≦d≦Dmmの範囲であれば、上述の効果を奏することができる。
【0029】
また、環状板部4は、レンズ厚さTを基準としたとき、厚さが0.5mm~0.8Tmmであることが好ましい。環状板部4の厚さが0.5mm未満の場合、組み付け面としての要求強度が不足する場合があり好ましくない。一方、環状板部4の厚さが0.8Tmmを超える場合、過剰な強度を得る必要もなく、枠体への
組み付け性も低下するため好ましくない。なお、ここでいう「レンズ厚さ」とは、
図1に示すように反射防止構造体付き光学素子1の符号「T」で表した、外周壁面3の厚さと自由端面6の厚さとを併せた厚さのことである。
【0030】
構成材料: 本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子1の場合は、プレス成形で形成可能なガラス転移点を持つ材料であれば、特段の限定はなくガラス硝材、プラスチック硝材の全てが使用できる。
【0031】
光学素子が備える反射防止構造体: 本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子において、反射防止構造体は微細凹凸を備えるものである。この微細凹凸の形状に特段の限定は無いが、反射防止効果を任意に制御するためには、微細柱状突起を使用平均波長の波長以下の周期性を備えて配列して用いることが好ましい。この微細柱状突起の配置ピッチは、使用平均波長(λ)以下であれば一定の反射防止効果を得ることができるが、λ/2以下であることがより好ましい。微細柱状突起の配置ピッチがλ/2を超えると、回折による有害光が発生しやすくなる傾向があるからである。さらに、この配列ピッチが0.2λ~0.4λの範囲にあることがさらに好ましい。当該配置ピッチが0.2λ未満の場合には、反射防止構造体の微細柱状突起の存在密度が高くなりすぎて、反射防止構造体内で無用な回折光が増加し、波長帯域特性及び入射角度特性に優れた反射防止効果を得られなくなるため好ましくない。一方、当該配置ピッチが0.4λを超える場合には、反射防止構造体の微細柱状突起の存在密度が低くなりすぎて、十分な反射防止効果が得られなくなるため好ましくない。
【0032】
B.反射防止構造体付き光学素子の製造用金型
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造に用いる一対の金型は、第1金型と第2金型とに大別できる。以下の説明では、第1金型と第2金型とに分別して述べる。
【0033】
第1金型: この第1金型10は、模式的に示した
図3から理解できるように、得ようとする反射防止構造体付き光学素子の一面側の光学有効面5を形成するための第1光学領域形成面11と、当該第1光学領域形成面11の外周端から、他面側に向けて、光軸OPに平行に設けた第1外径規制壁面12と、当該第1外径規制壁面12の先端から光軸OPに垂直となるレンズ径方向Dに水平に設けた第1水平規制面13とを備えるものである。
【0034】
この
図3から理解できるように、第1金型10及び後述する第2金型20とは、一体化したものでも、複数にブロック化したものであっても構わない。
図3に示す第1金型10は、光学有効面型10a、外径規制型10b、収容型10cとからなる複数にブロック化したものを示している。なお、
図3には、プレス成形のイメージが理解できるように、位置決めスリーブ14、プレス板15を示している。
【0035】
この1金型10を構成する材質は、タングステンカーバイドを代表とする超硬合金、サーメット、炭化ケイ素、その他セラミックス、耐熱系金属などであることが好ましい。また、10aと10bを構成する際、10bに10aより線膨張係数が小さい材質を使用すると、なお好ましい。これにより、型を組み立てる常温では両者のクリアランスを確保しながら、プレス成形温度帯ではクリアランスが狭まり、バリが発生し難くなる。また、金型10の厚さは、機械的強度を考慮し、最低3mmであることが好ましい。
【0036】
第2金型:
図3に示す第2金型20は、得ようとする光学素子の他面の光学有効面5’を形成するための第2光学領域形成面11’と、第2光学領域形成面11’の外周端から光軸方向に垂直となるレンズ径方向
に水平に設けた第2水平規制面13’を備えるものである。そして、この
図3には、第2金型20として、光学有効面型20a、収容型20cとからなるブロック化したものを示している。この第2金型20の場合、第1金型10が備える外径規制型10bを省略している。但し、第2金型20にも、外径規制型を設けることも可能である。このようにして光学素子の両面に外径規制
壁面が設けられた場合には、光学素子の表裏を入れ替えて使用する場合の作り分けが不要となり、両面同じレンズ面を備えている場合には表裏の見分けが不要になりハンドリング性が向上する。その他の材質、最低厚さ等の概念は、第1金型10と同様であるため、重複した記載を省略する。
【0037】
C.本件出願に係る光学素子の製造形態
本件出願に係る光学素子の製造方法は、上述の反射防止構造体付き光学素子の製造用金型を用い、プレス成形することで光学素子を得るものである。
【0038】
図4に示すように、第1金型10と第2金型20とを対向配置し、第1金型10の第1光学領域形成面11及び第1外径規制壁面12と、第2金型20の第2光学領域形成面11’との間に原料硝材を挟み込み、原料硝材40をガラス転移点以上の温度に加熱し軟化させる。
【0039】
その後、第1金型10の第1水平規制面13と第2金型の第2水平規制面13’との間が0.5mm~0.8Tmm(T≧1)離間した状態となるまで加圧し、プレス状態を維持する。その結果、軟化した原料硝材が、金型の第1水平規制面13と第2水平規制面13’との隙間に侵入し、得られた光学素子の光学有効面の外周全体に、先端が自由端面である環状板部が形成できる。このときの加熱条件、プレス圧力等は、原料硝材の種類により適宜定められる。
【0040】
D.本件出願に係る撮像装置の形態
本件出願に係る撮像装置は、上述の反射防止構造体付き光学素子を用いたことを特徴とする。ここでいう撮像装置に関して、特段の限定はない。反射防止効果を必要とするデジタルカメラ、ビデオカメラ等のあらゆる撮像装置に好適である。
【実施例1】
【0041】
実施例1では、使用平均波長λ=10μmを想定したものであり、硝材としてガラス転移点180℃のカルコゲナイドガラスIRG206を用い、
図1に示した両面メニスカスレンズを作製した。
【0042】
このときのプレス成形条件は、
図4に示した反射防止構造体付き光学素子の製造用金型を用いて、
図5に示すように第1金型10と第2金型20との間に硝材ペレットを載置して220℃で4分間保持し、軟化させた。このときの第1外径規制壁面12を形成するための外径規制型の外径は約23.5mm、内径14mmとした。その後、第1金型10の第1水平規制面13と第2金型20の第2水平規制面13’との間隔が2mm、Tが3.7mmとなるまで、プレス荷重500Nで5分間プレス成形し、荷重を印加しながら180℃まで-12℃/minの速度で冷却した後、荷重の印加をやめて常温まで冷却することで、光学有効面5,5’に反射防止構造
体を形成すると同時に光学素子(両面メニスカスレンズ)を製造した。
【0043】
ここで得られた反射防止構造体付き光学素子1の備える反射防止構造体は、光学領域形成面11,11’に設けた微細凹凸を、プレス成形時に硝材に転写して形成したものである。このような転写法を採用することにより、光学素子の光学有効面に、配列ピッチが0.33λ(3μm)で、平均高さ2.9μmの微細柱状突起を形成した。この光学有効面の非点収差量は、ニュートン換算0.2本以下の誤差であった。なお、本件出願で用いる「非点収差量」という用語は、
図7に示す説明図から理解できるように、「光学有効面内の直行する2軸を測定したときに、2軸の高さが最も乖離した距離」のことをいう。
【0044】
その他の諸元に関して述べる。この光学素子の「外周壁面径が14mm、外周壁面高さが3.7mm」、「環状板部径の最大値が18.8mm、厚さが2mm」である。一方の光学有効面5は、「径が9.4mm、非球面形状のプロファイル (以下、「Sag量」と称する。)が約1mm」であり、他方の光学有効面5’は「径が14.2mm、Sag量が約2.5mm」であった。
【0045】
以上のようにして得られた反射防止構造体付き光学素子1は、組み付け面である外周壁面と環状板部とに、流動した硝材が作り出すバリが存在しなかった。そのため、芯取り加工が不要であった。
【実施例2】
【0046】
実施例2では、使用平均波長λ=1.3μmを想定したものであり、硝材としてガラス転移点344℃のK-PG375を用い、
図7(a)に示した両凸レンズを作製した。なお、
図7に示した図の中には、第1金型10の第1外径規制壁面12と第1水平規制面13とが存在していた位置、第2金型20の第2水平規制面13’とが存在していた位置を模式的に示している。
【0047】
このときのプレス成形は、
図4に示したと同様の反射防止構造体付き光学素子の製造用金型を用いて、
図5に示
したと同様に第1金型10と第2金型20との間に硝材ペレットを載置して370℃で4分間保持し、軟化させた。このときの第1外径規制壁面12を形成するための外径規制型の外径は約38mm、内径27mmとした。その後、第1金型10の第1水平規制面13と第2金型20の第2水平規制面13’との間隔が2mm、Tが3.6mmとなるまで、プレス荷重4kNで8分間プレス成形し、荷重を印加しながら288℃まで-15℃/minの速度で冷却した後、荷重の印加をやめて常温まで冷却することで、光学有効面5,5’に反射防止構造
体を形成すると同時に光学素子(両面メニスカスレンズ)を製造した。
【0048】
ここで得られた反射防止構造体付き光学素子1の備える反射防止構造体は、光学領域形成面11,11’に設けた微細凹凸を、プレス成形時に硝材に転写して形成したものである。このような転写法を採用することにより、光学素子の光学有効面に、配列ピッチが0.35λ(0.45μm)で、平均高さ0.5μmの微細柱状突起を形成した。この光学有効面の非点収差量は、ニュートン換算0.2本以下の誤差であった。
【0049】
その他の諸元に関して述べる。この光学素子の「外周壁面径が27mm、外周壁面高さが1.6mm」、「環状板部径の最大値が34mm、厚さが2mm」である。一方の光学有効面5は、「径が27mm、Sag量が約2.4mm」であり、他方の光学有効面5’は「径が27mm、Sag量が約2.2mm」であった。
【0050】
以上のようにして得られた反射防止構造体付き光学素子1は、組み付け面である外周壁面と環状板部とに、流動した硝材が作り出すバリが存在しなかった。そのため、芯取り加工が不要であった。
【実施例3】
【0051】
実施例3では、使用平均波長λ=1.3μmを想定したものであり、硝材としてガラス転移点288℃のK-PG325を用い、
図7(b)に示した両凹レンズを作製した。
【0052】
このときのプレス成形は、
図4に示したと同様の反射防止構造体付き光学素子の製造用金型を用いて、
図5に示
したと同様に第1金型10と第2金型20との間に硝材ペレットを載置して310℃で4分間保持し、軟化させた。このときの第1外径規制壁面12を形成するための外径規制型の外径は約23.5mm、内径17mmとした。その後、第1金型10の第1水平規制面13と第2金型20の第2水平規制面13’との間隔が1.8mm、Tが4.3mmとなるまでし、プレス荷重4kNで8分間プレス成形し、荷重を印加しながら288℃まで-10℃/minの速度で冷却した後、荷重の印加をやめて常温まで冷却することで、光学有効面5,5’に反射防止構造
体を形成すると同時に光学素子(両面メニスカスレンズ)を製造した。
【0053】
ここで得られた反射防止構造体付き光学素子1の備える反射防止構造体は、光学領域形成面11,11’に設けた微細凹凸を、プレス成形時に硝材に転写して形成したものである。このような転写法を採用することにより、光学素子の光学有効面に、配列ピッチが0.35λ(0.45μm)で、平均高さ0.48μmの微細柱状突起を形成した。この光学有効面の非点収差量は、ニュートン換算0.2本以下の誤差であった。
【0054】
その他の諸元に関して述べる。この光学素子の「外周壁面径が17mm、外周壁面高さが4.3mm」、「環状板部径の最大値が22mm、厚さが1.8mm」である。一方の光学有効面5は、「径が12.6mm、Sag量が約0.7mm」であり、他方の光学有効面5’は「径が14.8mm、Sag量が約0.7mm」であった。
【0055】
以上のようにして得られた反射防止構造体付き光学素子1は、組み付け面である外周壁面と環状板部とに、流動した硝材が作り出すバリが存在しなかった。そのため、芯取り加工が不要であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子は、プレス成形法を採用して得られるものであるが、プレス成形後の芯取り加工が不要であるため、レンズ加工工程が短縮化できる。従って、高品質の光学素子を安価に市場に提供し、撮像装置の低価格化にも寄与できる。また、本件出願に係る反射防止構造体付き光学素子の製造に用いる金型も容易に準備できるものであり、プレス成形を行うにあたっても、特殊な装置を必要とするものではない。よって、従来のプレス成形設備の有効利用が可能であり、新たな設備導入が不要である。
【符号の説明】
【0057】
1 反射防止構造体付き光学素子
2a,2b 反射防止構造体
3 外周壁面
4 環状板部
5,5’ 光学有効面
6 自由端面
10 第1金型
10a 光学有効面型
10b 外径規制型
10c 収容型
11 第1光学領域形成面
11’ 第2光学領域形成面
12 第1外径規制壁面
13 第1水平規制面
13’ 第2水平規制面
14 位置決めスリーブ
15 プレス板
20 第2金型
20a 光学有効面型
20c 収容型
40 原料硝材
T レンズ厚さ
D,D’ 光学有効面径
OP 光軸方向