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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20220916BHJP
   B60C 15/04 20060101ALI20220916BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20220916BHJP
   B29D 30/30 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
B60C15/06 N
B60C15/04 C
B60C9/00 A
B60C9/00 G
B60C9/00 H
B60C9/00 D
B60C9/00 B
B29D30/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018233923
(22)【出願日】2018-12-13
(65)【公開番号】P2020093716
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】大澤 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】吉見 拓也
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-058807(JP,A)
【文献】特開2013-001206(JP,A)
【文献】特開2015-131523(JP,A)
【文献】特開2012-162204(JP,A)
【文献】特開2013-052720(JP,A)
【文献】特開2000-198331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアをそれぞれ有する一対のビード部と、該一対のビード部のそれぞれに連なり半径方向外方に延びる一対のサイドウォール部と、該一対のサイドウォール部の外周端を接続するトレッド部と、を備えるとともに、
両端部がそれぞれ前記一対のビード部における前記ビードコアに折り返すように配置され前記サイドウォール部から前記トレッド部にかけてトロイド状をなすカーカスと、該カーカスのクラウン部分の外周側に設けられたベルトと、前記ビード部における前記カーカスの本体部と折り返し部との間に設けられたビードコアと、
前記ビード部から前記サイドウォール部までの少なくとも一部分に、周方向に対して0°以上10°未満の角度をなして設けられたコードと、
を備え、かつ
前記ビード部における前記カーカスの本体部と折り返し部との間で、前記ビードコアと滑らかに接続するビードフィラーを有するか又はビードフィラーを有しない空気入りタイヤにおいて、
前記ビードコアが、タイヤ幅方向断面において、該コアの最大幅と該コアの高さとの比が0.8以下であり、
かつ、前記コードが、応力-歪曲線において変曲点を有し、該変曲点以下の低歪領域では低弾性率を、変曲点を超えた高歪領域では高弾性率を有するものであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ビードコアが、該コアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7以下である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記コードが、材質の異なる2種以上の繊維からなり、前記繊維は有機繊維又は無機繊維からなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記コードが前記カーカスの本体部プライとビードフィラーとの間に配置されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記コードがビードフィラーと前記カーカスの折り返しプライとの間に配置されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記コードが前記カーカスの折り返し部プライよりもタイヤ半径方向外側に配置されている請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記コードの材料が、少なくともアラミド又はポリエチレンテレフタレートを含む請求項1~6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記コードは、前記変曲点が引張歪1~8%の範囲にある請求項1~7のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記コードは、低歪領域の弾性率が高歪領域の弾性率に対して10~90%の範囲にある請求項1~8のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の空気入りタイヤを製造する方法であって、
1種又は2種以上の非線形弾性率を有する非線形弾性率コードを用意し、タイヤ成型工程にて、タイヤ内の位置によって前記非線形弾性率コードに異なる張力を付与することで、前記非線形弾性率コードの弾性率を制御して、用意した非線形弾性率コードよりも多い種類の非線形弾性率特性コードをタイヤ内で形成させることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ、詳しくは、乗り心地と操縦安定性とを高いレベルで両立させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの構造において、乗り心地を向上させるための工夫と、操縦安定性を向上させるための工夫とは相反することが多く、乗り心地と操縦安定性とを両立させるための研究開発がなされている。空気入りラジアルタイヤに関し、繊維コード又はスチールコードからなる補強層をビード部からサイドウォール部にかけてタイヤ全周にわたって配置し、当該補強層のコード角度をカーカス層のカーカスコードに対しほぼ直角としたものがある(特許文献1)。また、ビード補強層を内外2つの層に分け、サイド中央部に近い外層の周方向のプライ剛性を、ビードコアに近い内層より大きくした空気入りラジアルタイヤがある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-29403号公報
【文献】特開2004-58807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の空気入りラジアルタイヤは、いずれも直進時におけるサイドウォール部の曲げ変形で生じるビード補強層のコードへの入力に対し伸び拘束力が強くなり過ぎるため、結果としてタイヤの縦ばね係数が高くなり乗り心地が悪化させていた。
【0005】
そこで本発明の目的は、乗り心地と操縦安定性とを高いレベルで両立させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、ビードコアをそれぞれ有する一対のビード部と、該一対のビード部のそれぞれに連なり半径方向外方に延びる一対のサイドウォール部と、該一対のサイドウォール部の外周端を接続するトレッド部と、を備えるとともに、
両端部がそれぞれ前記一対のビード部における前記ビードコアに折り返すように配置され前記サイドウォール部から前記トレッド部にかけてトロイド状をなすカーカスと、該カーカスのクラウン部分の外周側に設けられたベルトと、前記ビード部における前記カーカスの本体部と折り返し部との間に設けられたビードコアと、
前記ビード部から前記サイドウォール部までの少なくとも一部分に、周方向に対して0°以上10°未満の角度をなして設けられたコードと、
を備え、かつ
前記ビード部における前記カーカスの本体部と折り返し部との間で、前記ビードコアと滑らかに接続するビードフィラーを有するか又はビードフィラーを有しない空気入りタイヤにおいて、
前記ビードコアが、タイヤ幅方向断面において、該コアの最大幅と該コアの高さとの比が0.8以下であり、
かつ、前記コードが、応力-歪曲線において変曲点を有し、該変曲点以下の低歪領域では低弾性率を、変曲点を超えた高歪領域では高弾性率を有するものであることを特徴とする。
【0007】
かかる空気入りタイヤは、ビードコアの最大幅がビードコア高さとの関係で求められる値よりも小さいので、ビードフィラーを小型化でき、タイヤが軽量化される。また、変曲点以下の低歪領域では低弾性率を、変曲点を超えた高歪領域では高弾性率を有するコードにより補強されているから、乗り心地に関与する縦剛性については低弾性率領域における作用で剛性の増加を抑制しつつ、操縦安定性に関与する横剛性については、高弾性率領域における作用で高い剛性を示し、よって、乗り心地と操縦安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【0008】
本発明の空気入りタイヤは、上記ビードコアが、該コアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7以下であることが好ましい。
また、上記コードが、材質の異なる2種以上の繊維からなり、上記繊維は有機繊維又は無機繊維からなる構造とすることができる。
また、上記コードは、上記カーカスの本体部プライとビードフィラーとの間に配置されているようにしてもよいし、ビードフィラーと上記カーカスの折り返しプライとの間に配置されているようにしてもよいし、上記カーカスの折り返し部プライよりもタイヤ半径方向外側に配置されているようにしてもよい。
さらに、上記コードの材料は、少なくともアラミド又はポリエチレンテレフタレートを含むことが好ましい。
またさらに、上記コードは、上記変曲点が引張歪1~8%の範囲にあることが好ましく、低歪領域の弾性率が高歪領域の弾性率に対して10~90%の範囲にあることが好ましい。
【0009】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上記の空気入りタイヤを製造する方法であって、
1種又は2種以上の非線形弾性率を有する非線形弾性率コードを用意し、タイヤ成型工程にて、タイヤ内の位置によって上記非線形弾性率コードに異なる張力を付与することで、上記非線形弾性率コードの弾性率を制御して、用意した非線形弾性率コードよりも多い種類の非線形弾性率特性コードをタイヤ内で形成させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、乗り心地と操縦安定性とを高いレベルで両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤの幅方向断面図である。
図2】ビード部の模式的な断面図である。
図3】直進時の変形状態を示す空気入りタイヤの幅方向断面図である。
図4】コーナリング時の変形状態を示す空気入りタイヤの幅方向断面図である。
図5】非線形弾性率コードの応力-歪曲線を示すグラフである。
図6】非線形弾性率コードの配置を示す空気入りタイヤの幅方向断面図であり、図6(a)はカーカスの本体部プライとビードフィラーとの間に配置された例、図6(b)はビードフィラーとカーカスの折り返し部プライとの間に配置された例、図6(c)はカーカスの折り返し部プライよりもタイヤ半径方向外側に配置された例である。
図7】従来例、比較例及び実施例のビードコア形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう。)の実施形態を、図面を用いて、より具体的に説明する。
【0013】
図1に、ホイールのリムRにリム組みされた状態の、本発明の一実施形態の空気入りタイヤ1の幅方向断面図を示す。図1において、空気入りタイヤ1は、一対のビード部2と、これらのビード部2にそれぞれ連なる一対のサイドウォール部3と、これら一対のサイドウォール部3の外周端を接続するトレッド部4とを備えている。ビード部2は、ビードワイヤが巻回されてなるビードコア5を有している。このビードコアに隣接して、硬質ゴムからなるビードフィラー6が配置されている。ビード部2は空気入りタイヤ1の幅方向に一対を備え、その一方のビード部2のビードコア5及びビードフィラー6に、カーカス7の一方の一端が折り返されるように配置され、他方のビード部2のビードコア5及びビードフィラー6に、カーカス7の他方の一端が折り返されるように配置されている。
【0014】
カーカス7は、一対のビード部2に連なる一対のサイドウォール部3からトレッド部4にかけて,トロイド状をなしている。カーカス7は、カーカスコードをゴムで被覆したカーカスプライからなり、空気入りタイヤ1のタイヤ形状を保持するための骨格となっている。ラジアルタイヤではカーカス7のカーカスコードはタイヤ半径方向に(ラジアル方向に)延びている。
カーカス7のクラウン部分の外周側に、一枚以上のベルトプライからなるベルト層8が配置されている。
【0015】
本発明の空気入りタイヤは、ビードコア5が、タイヤ幅方向断面において、該コアの最大幅と該コアの高さとの比が0.8以下である。このビードコア5について、より詳細に説明する。
空気入りタイヤは、自動車のばね下重量の軽減のために軽量化が求められていて、そのために、ビードコアやビードフィラーを小さくすることが考えられる。ここに、ビードコアは、複数のビードワイヤからなる集合体であり、単にビードコアの断面積を小さくすると、耐圧性能が低下するため、必要な最小限の断面積は確保する必要がある。このような所定の断面積を有するビードコアに対して、ビードフィラーを薄くして小型化すればタイヤが軽量化できる。もっとも、ビードフィラーとビードコアとが滑らかに接続しないと、カーカスプライの本体部と折り返し部とが滑らかにつながらない。このようなビードフィラーの薄型化や、ヒードコアとのビードフィラーとの滑らかな接続を考慮すると、ビードフィラーの薄型化に合わせてビードコアもタイヤ幅方向に短く、タイヤ径方向に長くするのがよい。
【0016】
このビードコアのタイヤ幅方向の寸法としての最大幅とタイヤ径方向の寸法としてのコアの高さとの好ましい関係について研究を重ねた結果、該コアの最大幅と該コアの高さとの比が0.8以下であることにより、ビードフィラーを含めてタイヤ重量を軽減できることが判明した。
【0017】
また、ビードコアとビードフィラーとが滑らかに接続されるためには、そのビードフィラーのタイヤ径方向内側の幅と、当該ビードフィラーのタイヤ径方向内側と対向するビードコアのタイヤ径方向外側の幅とが、ほぼ同じであり、かつビードコアのタイヤ径方向外側の幅が、ビードコアの最大幅よりも狭いことが好ましい。このことから、ビードコアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7以下であることにより、上述したコアの最大幅と該コアの高さとの比が0.8以下の関係と相俟って、ビードフィラーを含めてタイヤ重量を軽減できる。
【0018】
図2に、空気入りタイヤのビード部の模式的な断面図を示す。図2(a)は、従来の空気入りタイヤのビードコア部102の例であり、ビードフィラー106は、大きく、ビードコア105はコアの最大幅と高さとの比が0.8を超えている。
図2(b)は、本発明の一実施形態の空気入りタイヤのビード部12の例であり、ビードフィラー16は、図2(a)の例に比べて薄く、小さく、ビードコア15は、コアの最大幅と高さとの比が0.8以下であり、かつ、コアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7以下である。
図2(c)は、本発明の別の実施形態の空気入りタイヤのビード部22の例であり、ビードフィラー26は、図2(a)の例に比べて薄く、小さく、ビードコア25は、コアの最大幅と高さとの比が0.8以下であり、かつ、コアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7以下である。
図2(d)は、本発明のさらに別の実施形態の空気入りタイヤのビード部32の例であり、本実施形態ではビードフィラーはなく、ビードコア35は、コアの最大幅と高さとの比が0.8以下であり、かつ、コアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7以下である。図2(d)に示されるように、本発明の空気入りタイヤはビードフィラーを有していない実施形態を包含するものである。一般にビードフィラーはタイヤ横方向の変位を抑えてタイヤの横ばね係数を上げる効果を有するが、本発明では、ビードフィラーがなくても、後で述べるようにビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に、周方向に対して角度が小さいコードによって同様の効果が得られる。
図2(e)は、比較例の空気入りタイヤのビード部112の例であり、ビードフィラー116は、図2(a)の例に比べて薄く、小さいが、ビードコア115は、コアの最大幅と高さとの比が0.8を超え、かつ、コアの径方向外側の部分の幅と該コアの高さとの比が0.7を超えていて、ビードフィラー116とビードコア115とが滑らかには接続されていない。
図2(b)~(d)から理解されるようにビードコアの最大幅Wmaxとは、ビードコアのタイヤ幅方向の最大長さをいい、ビードコアの高さHとは、ビードコアのタイヤ径方向の長さをいい、ビードコアの径方向外側の部分の幅W1とは、ビードコアのタイヤ径方向外側部分のタイヤ幅方向の長さをいう。
【0019】
ビードコアの寸法を最適化し、ビードフィラーの厚さを薄くすることで、タイヤの縦ばね係数と横ばね係数の双方が低くなり、乗り心地は向上するが、操縦安定性が低下するおそれがある。この点については、本発明の空気入りタイヤ1は、ビード部2からサイドウォール部3までの少なくとも一部分に、コード9が設けられているので、このコード9により対応し得る。このコード9について、以下詳述する。
【0020】
図1の断面図に示されるように、本発明の空気入りタイヤ1は、ビード部2からサイドウォール部3までの少なくとも一部分に、コード9が設けられている。コード9は、タイヤ周方向に対して、0~10°の角度をなしている。このコード9は、応力-歪曲線において変曲点を有し、引張歪-応力の曲線が、原点から変曲点までを低歪領域とし、変曲点より引張歪が大きい領域を高歪領域とすると、該変曲点以下の低歪領域では低弾性率を、変曲点を超えた高歪領域では高弾性率を有するものである。かかる変曲点以下の低歪領域では低弾性率を、変曲点を超えた高歪領域では高弾性率を有するコードを本明細書では「非線形弾性率コード」という。
【0021】
図1に示した本実施形態においては、コード9は、カーカス7を、本体部7aと折り返し部7bとで区分したときの、本体部7aと、ビードフィラー6との間に配置されている。
【0022】
このコード9の作用効果について図3及び図4を用いて説明する。
タイヤ1に荷重が加えられているときのタイヤ回転軸を含む垂直断面で見た変形状態を、図3にタイヤ幅方向断面図で示す。図3に示した変形状態は、直進して走行中の変形状態と同じである。
【0023】
図3において、直進時にタイヤ1に荷重が負荷されたとき、一対のサイドウォール部3はそれぞれタイヤの幅方向の外側へ膨出変形する。この時、図3のタイヤ幅方向断面で見ると、ビード部2のうち、ホイールのリム部に組み付けられた部分はほぼ固定され、それ以外の部分が曲げ変形する。かかる変形は、タイヤの半径方向の力による変形である。
【0024】
次に、タイヤ1に荷重が加えられてコーナリングしているときのタイヤ回転軸を含む垂直断面で見たタイヤ変形状態を、図4に、タイヤ幅方向断面図で示す。コーナー内側のビード部2は、矢印のように外側へ変形するが、コーナー外側のビード部2は、図1の直進時より変形が小さくなっている。この変形をより詳しく説明すると、コーナリング時には、タイヤ1の接地面へ対してコーナーの外側から内側向きに横方向の力がかかるため、図3に示した直進時のタイヤ変形に比べると、一対のサイドウォール部3のうち、コーナーの外側のサイドウォール部では外側への膨出が減り、コーナーの内側のサイドウォール部3では外側への膨出が増えるような変形をする。この時、図4のタイヤ幅方向断面内で見ると一対のビード部2のうち、コーナーの外側に位置するビード部2では曲げ変形が減少し、コーナーの内側に位置するビード部2では曲げ変形が増加する。
【0025】
このような図3に示した直進時のタイヤ変形及び図4に示したコーナリング時のタイヤ変形に関して、本実施形態の空気入りタイヤが備える、周方向に対して0~10°の角度をなす非線形弾性率コード9の効果を、幾つかの比較用タイヤと対比させて説明する。
【0026】
まず、ビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に、周方向に対して10°を超える大きな角度を付けた補強用コードを設けた比較用タイヤの場合を述べる。
かかる比較用タイヤのように、ビード部に、周方向に対して大きな角度を有するコードを設けると、タイヤ幅方向断面内でのビード部の曲げ変形の力に対して、ゴムよりも剛性が高いコードに歪がかかる。したがって、当該コードが、タイヤ変形、特にビード部の曲げ変形を抑制するような剛性を発揮する。したがって、かかる比較用タイヤは、縦ばね係数(タイヤ半径方向のばね定数)が大きくなり、換言すれば縦剛性が高くなり、乗り心地は悪化する。また、当該コードがビード部の曲げ変形を抑制することは、縦方向(タイヤ半径方向)の変形を抑制するばかりでなく横方向(タイヤ幅方向)の変形を抑制する。したがって、タイヤの横ばね係数(タイヤ幅方向のばね定数)が大きくなり、換言すれば横剛性が高くなり、操縦安定性は向上する。
【0027】
次に、ビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に、周方向に対して角度が小さいコード(周方向に対して0~10°の角度をなすもの)であるけれども、非線形弾性率コードではない、補強用コードを設けた比較用タイヤの場合を考える。
かかる比較用タイヤのように、ビード部に、周方向に対して角度が小さいコードを設けると、直進時には、タイヤ幅方向断面内でのビード部の曲げ変形の力に対しては、低弾性率であるコード間のゴムが伸びて変形するため、コードの影響がない。また、サイドウォール部の膨出変形の力に対しては高弾性率である周方向に対して近い角度のコードに歪がかかり、このコードが伸びにくいためタイヤの剛性を上げる。したがって、かかる比較用タイヤは、縦ばね係数について、ビード部に設けられたコードの影響はないが、サイドウォール部に設けられたコードの影響のために大きくなる。
【0028】
この比較用タイヤのコーナリング時を考える。周方向に対して角度が小さいコードをビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に設けると、タイヤ幅方向断面内でのビード部の曲げ変形の力に対して、低弾性率であるコード間のゴムが伸びて変形するため、影響がない。また、サイドウォール部の膨出変形の力に対しては、一対のサイドウォール部のうち、コーナーの外側のサイドウォール部における膨出変形が減少する部分は、高弾性率である周方向に近い角度のコードが設けてあるものの、膨出変形が減少するためコードには力が加わらずにコードの影響がない。また、コーナーの内側のサイドウォール部の膨出が増大する部分は、高弾性率である周方向に近い角度のコードに歪がかかり、このコードが伸びにくいためタイヤ剛性を上げることができる。このため、タイヤの横ばね係数は、ビード部のコード及びコーナー外側のコードの影響はないが、コーナー内側のコードの影響のため大きくなることが、発明者らの研究により新たに分かった。
【0029】
直進時のタイヤ縦ばね係数は、乗り心地に影響を及ぼし、コーナー時のタイヤ横ばね係数は、操縦安定性に影響を及ぼす。そこで、直進時のタイヤ縦ばね増加を抑制して乗り心地を向上させ、コーナリング時の横ばね係数の増加を増やして操縦安定性を向上させるためには、ビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に設けられる、周方向に対して角度が小さいコードについて、直進時の小さな変形時はコード剛性が低く、コーナリング時の大きな変形時はコード剛性を高くすれば良いことが分かった。このようなコード特性は、ビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に設けられるコードに、非線形弾性率コードを用いることで実現できることを発明者らは研究開発の結果、発見した。
【0030】
図5に、非線形弾性率コードの弾性応力-歪曲線の一例をグラフで示す。図5に示すように、非線形弾性率コードは、同図における曲線の傾きで示される弾性率について、変曲点で区分される低歪領域では低弾性率、高歪領域では高弾性率である非線形弾性率の特性を有している。
【0031】
図5に示した非線形弾性率コードを周方向に対して低い角度でビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に設けた本実施形態のタイヤの直進時及びコーナリング時の変形状態を述べる。まず、直進時は、図3を用いて説明したようにビード部が曲げ変形しサイドウォール部が膨出変形し、このサイドウォール部の膨出変形の力に対して非線形弾性率コードに歪がかかる。このときの該非線形弾性率コードにかかる歪が、図5に示した曲線の変曲点よりも小さい低歪領域になるようなコードであることにより、コードには弾性率が低い領域で力が加えられる。その結果、直進時は非線形弾性率コードを設けてもタイヤの剛性が大きくならないため、タイヤの縦ばね係数は増加しない。したがって、直進時の乗り心地が悪化しない。
【0032】
次に、コーナリング時は、図4を用いて説明したようにビード部が曲げ変形しサイドウォール部が膨出変形するものの、コーナーの外側のサイドウォール部では、直進時より変形が小さくなるので、非線形弾性率コードにかかる歪は小さくなる。また、コーナー内側のサイドウォール部では非線形弾性率コードにかかる歪は図5に示した曲線の変曲点よりも大きい高歪領域になるようなコードであることにより、コードには弾性率の高い領域で力が加えられる。その結果、コーナリング時には非線形弾性率コードを設けることでタイヤの剛性を大きくすることができ、タイヤの横ばね係数を増加させることができ、コーナリング時の接地状態を改良できる。例えば、コーナリング内側で発生する接地面浮き上がりを抑制することで、接地面積を増加させたり、コーナリング内側での接地圧減少を抑制させたりすることができる。したがって、コーナリング時の操縦安定性を向上できる。
【0033】
以上述べた直進時及びコーナリング時のタイヤの変形状態の変化により本実施形態の空気入りタイヤは、乗り心地と操縦安定性とを、高いレベルで両立させることができる。
【0034】
また、先に述べたように、本実施形態の空気入りタイヤは、ビードコアの寸法を特定し、ビードフィラーが小さい。このことにより、タイヤの縦ばね係数及び横ばね係数のいずれもが低下する。このことは、直進時の乗り心地を向上させるが、コーナリング時の操縦安定性を低下させるおそれがある。この点、タイヤ周方向にビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分に設けられたコードは、ビードフィラーの小型化を補い、タイヤの縦ばね係数及び横ばね係数を向上させ得る。
もっとも、コードが非線形弾性率コードではない場合は、ビードフィラーの補強のためにコードは常に引張の応力が付与された状態で使用されることになり、コーナリング時に十分な操縦安定性を有するものの、直進時には、縦ばね係数が高くなり過ぎて乗り心地が悪化したり、直進時の乗り心地は良くても、コーナリング時に十分な操縦安定性が悪化したりすることが考えられる。これに対し、本実施形態の空気入りタイヤは、コード9が非線形弾性率コードであるため、低歪領域では低弾性率の特性を有し、コーナリング時に十分な操縦安定性を有しつつ、直進時の縦ばね係数を下げて乗り心地を良好にすることができる。したがって、ビードフィラーを小さくしてタイヤの軽量化を図りつつ、コーナリング時の優れた操縦安定性と、直進時の良好な乗り心地を得ることができる。そして、コードの非線形弾性率の特性を調整することにより、タイヤの軽量化やコーナリング時の優れた操縦安定性や、直進時の良好な乗り心地を、調整することができる。
【0035】
次に、本実施形態の空気入りタイヤの非線形弾性率コードについて、より詳しく説明する。
非線形弾性率コードの弾性率は、タイヤからコードを切り出して計測する。つまり、非線形弾性率コードは、実際のタイヤに組み込まれた状態において、直進時やコーナリング時の変形に応じて低い弾性率や高い弾性率を示すコードである。
【0036】
弾性率の計測の具体的な方法は、JIS L1017の「引張強さ及び伸び率」の試験と同様な方法で試験を行い、引張強さ及び伸び率を測定し、この測定結果から、初期長さと伸長長さの比である引張歪、縦軸を応力として曲線をグラフに描く。この応力をY軸に、歪をX軸にしたグラフの曲線において、歪が0の状態における曲線に引いた接線と、破断点において曲線に引いた接線との交点を通る垂線が当該曲線と交わる点を変曲点とする。
【0037】
この変曲点は引張歪が1~8%の範囲にあることが好ましい。また、低歪領域の弾性率は高歪領域の弾性率に対して10~90%の範囲にあることが好ましい。
低歪領域の弾性率に対して、高歪領域の弾性率は2倍以上大きいような非線形性を持つコードであることが、より好ましい。なお、低歪領域と高歪領域との弾性率の比率は、歪0から変曲点までを結んだ直線の傾きと、変曲点から破断点までを結んだ直線の傾きとの比率で表される。
【0038】
なお、周方向に対して低い角度をなすコードに関して、本実施形態の空気入りタイヤに設けられる非線形弾性率コードを用いるのではなく、例えばタイヤ径方向の内側に剛性の低いコードを、外側に剛性が高いコードをそれぞれ設けることが考えられる。しかし、このような複数種類のコードを用いたタイヤは、タイヤ径方向で剛性が変化する場所、つまり異なるコードの種類が切り替わる場所で、ゴムに歪集中が発生し、使用時にクラックが発生するなど耐久性に課題がある。これに対して、本実施形態の空気入りタイヤは、非線形な弾性率特性を持つコードを用いることにより、非線形弾性率コードによるタイヤ径方向での剛性は徐々に変化する。よってゴムへの歪集中を避けることができ、耐久性を向上することができる。
【0039】
非線形弾性率コードは、材質の異なる2種以上の繊維からなり、前記繊維は有機繊維又は無機繊維からなるものとすることができる。
非線形弾性率コードを実現するには、一例では低弾性率のコードと高弾性率のコードという、異なる弾性率の材料の2種以上を用いる。異なる弾性率の2つのコードを撚り合わせて非線形弾性率コードとすることで、低歪時には低弾性率のコード特性を発揮し、高歪時には高弾性のコード特性を発揮することができる。この結果、非線形な弾性率特性が得られる。また、材料の選択により、非線形な弾性率の特性を調整することができる。
【0040】
非線形弾性率コードは、材料としては、タイヤ用に使われる有機繊維又は無機繊維を用いることができる。有機繊維として、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド等を挙げることができる。また、無機繊維としてガラスファイバー、カーボンファイバー、スチール等を挙げることができる。これらの材料から、弾性率の異なるものを組み合わせる。例えば、低弾性率の材料としてこれらの中で一番弾性率の低いナイロンを選択し、高弾性率の材料として、ナイロン以外の上記材料を選択して組み合わせることができる。また、低弾性率の材料としてポリエチレンテレフタレートを選択し、高弾性率の材料としてポリエチレンナフタレート、アラミド、ガラスファイバー、カーボンファイバー、スチールのいずれかを選択して組み合わせることができる。さらに、低弾性率の材料としてポリエチレンナフタレートを選択し、高弾性率の材料としてアラミド、ガラスファイバー、カーボンファイバー、スチールのいずれかを選択して組み合わせることができる。
【0041】
非線形弾性率コードの材料の少なくとも1つにアラミドを使うことで、アラミドが持つ耐カット性が良いことを活かして、走行時に異物が当たった場合に発生する可能性がある外傷を抑制することができる。また、非線形弾性率コードの材料の少なくとも1つにポリエチレンテレフタレートを使うことで、低コストで弾性率を高めることができる。
【0042】
非線形弾性率コードに適用される材料と前記カーカスに適用される材料が異なるようにしてもよい。非線形弾性率コードの材料を本体プライと同じ材料にした場合、本体プライと非線形弾性率コードが交差する部分で、間に挟まれるゴムに歪が集中する。これに対し、異なる弾性率のコードを使うことで、低い弾性率のコードを持つ側が高い弾性率のコードを持つ側から押されてコード相互間にも歪を分散できる。
【0043】
非線形弾性率コードはタイヤ周方向に対する角度が0~10°の範囲とする。タイヤ周方向に対する角度の絶対値が10°を超えると、直進時における縦ばね係数が高くなって乗り心地が悪化する。
【0044】
非線形弾性率コードの配置は、特に限定されず、ビード部からサイドウォール部までの少なくとも一部分の、変形が生じ得る位置とすることができる。直進時及びコーナリング時のタイヤの変形状態に応じて、適切な位置に、適切な弾性率の非線形弾性率コードを配置することにより、乗り心地と操縦安定性とを高いレベルで両立させることができる。
少なくともビード部を含む領域に配置するときには、非線形弾性率コード9は図6(a)に示すようにカーカスの本体部プライとビードフィラーの間に配置することができ、また、図6(b)に示すようにビードフィラーとカーカスの折り返し部プライとの間に配置することができ、さらに、図6(c)に示すようにカーカスの折り返し部プライよりもタイヤ半径方向外側に配置することができる。
【0045】
非線形弾性率コードを図6(a)に示すようにカーカスの本体部プライとビードフィラーとの間に配置することにより、非線形弾性率コードは、カーカスの本体部プライに隣接して配置することになり、これにより内圧を負担する本体部プライの変形を効果的に抑制できるので、タイヤの横ばね係数を効果的に上げることができる。本体部プライは内圧を負荷することで張力を発生し、剛性を発揮する。このためタイヤ変形は本体部プライが主として負担しており、隣接した外側に非線形弾性率コードを配置することは、この部分が外側へ変形することを抑制するのに効果的である。
【0046】
非線形弾性率コードを図6(b)に示すようにビードフィラーとカーカスの折り返し部プライとの間に配置することにより、非線形弾性率コードが発揮する剛性をビードフィラーが受け止める形になり、横ばね係数をさらに上げることができる。カーカスの本体部プライの変形を抑制するためにビードフィラーが配置されているところにおいて、ビードフィラーの外側に非線形弾性率コードを配置すれば、本体部プライだけでなく、ビードフィラーの変形も抑制することができるため、この部分が外側へ変形することをさらに抑制できる。
【0047】
非線形弾性率コードを図6(c)に示すようにカーカスの折り返し部プライよりもタイヤ半径方向外側に配置することにより、非線形弾性率コードが発揮する剛性を本体プライと折り返しプライに挟まれたビードフィラーを合わせた全体が受け止める形になり、横ばね係数を大きく上げることができる。本体プライ、ビードフィラー、折り返しプライは3者一体となってビード部変形を抑制している。折り返しプライの外側に非線形弾性率コードを配置すれば、これら3者一体部分の変形を抑制できるため、この部分が外側へ変形することをさらに大きく抑制できる。
【0048】
非線形弾性率コードは、タイヤ内において適切な弾性率となるようなものを準備してもよい。また、非線形弾性率コードの非線形弾性率特性を活用して、タイヤ製造工程での変形により製品での弾性率を制御してもよい。タイヤの製造工程において、非線形弾性率コードに対して当該コード方向に引張変形を付与すると、当該コードの低歪で低弾性の特性を活用して容易に変形でき、そして製品タイヤ内部では制御された適切な非線形弾性率特性が得られる。
【0049】
非線形弾性率コードは、タイヤに配置される位置により、タイヤ内において非線形弾性率特性が異なっていてもよい。タイヤの位置により異なる変形に応じて、適切な非線形弾性率特性の非線形弾性率コードを配置することにより、乗り心地と操縦安定性とを高いバランスで向上させることができる。
【0050】
タイヤに配置される位置に応じて、非線形弾性率特性が異なる複数種類の非線形弾性率コードをタイヤ成型前に用意してもよいが、1種又は2種以上の非線形弾性率コードを用意し、タイヤ製造時におけるタイヤ成型工程にて、タイヤの位置によって非線形弾性率コードに異なる張力を付与することで、製品タイヤ内の位置により非線形弾性率コードの弾性率を制御して、用意した非線形弾性率コードよりも多い種類の非線形弾性率コードをタイヤ内で得ることもできる。製造工程時にタイヤ内の位置に応じて非線形弾性率コードの張力を変化させることで、当該コードの弾性率を変化できるので、同じ材料を用いながらタイヤの位置により弾性率を変化させることができる。よって準備する非線形弾性率コードの材料の種類数を減らし、効率的に生産することができる。
【0051】
かかるタイヤ製造時に加える張力の制御により、種々の特性のタイヤを得ることができる。例えば、タイヤ成型工程では、ドラム上に巻いた部材を生タイヤに拡張して作るので、サイドウォール部の非線形弾性率コードは周方向に大きく伸ばされる。そのためサイドウォール部では、非線形弾性率コードの高歪領域を使用することになり、結果としてビード部の非線形弾性率コードより剛性が高くなる。このようにすることで、より効果的にタイヤのコーナリング時の剛性を高めることができる。
【0052】
また、例えば、製造時の張力により弾性率を変化させ、ビード部の非線形弾性率コードをサイドウォール部に比べて弾性率を高くすることもできる。結果として、タイヤのコーナリング時の剛性を少しだけ高めることができる。
【0053】
また、例えばタイヤ成型工程での拡張と張力により、ビード部とサイドウォール部にまたがる非線形弾性率コードを、タイヤ径方向中央部において弾性率を高くすることもできる。結果として、タイヤのコーナリング時の剛性を中くらい高めることができる。
【実施例
【0054】
以下の試験方法で試験を行う場合のデータを表1に示す。
タイヤサイズ 205/60R16 92Vの乗用車用タイヤを、以下に示す従来例、比較例及び実施例の種々のコードをビード部に配置して製造する。このとき、ビードコアを図5に示す3種の形状のものを用いる。なお従来例はコードを配置しなかった。本体プライコードはポリエチレンテレフタレート製とする。内圧210kPa、荷重5.73kN、リム6J×16で、リム組みする。内圧充填後に荷重6kNまで負荷し、荷重とたわみの関係をプロットし、荷重5.73kN時の傾きを縦ばね係数とする。また、荷重5.73kNを負荷した状態で、横方向に10mmまで変位させて、変位量と横方向の力の関係をプロットし、横方向変位が5mmの時の傾きを横ばね係数とする。その縦ばね係数及び横ばね係数の推測値を表1に示す。なお、表1において、いずれのばね係数も、従来例を100として表記する。
【0055】
従来例: 図7(a)のビードコアであり、周方向のコード配置なし。
比較例1: 図7(a)のビードコアであり、周方向角度45度のアラミドコードを配置。
比較例2: 図7(b)のビードコアであり、周方向のコード配置なし。
比較例3: 図7(b)のビードコアであり、周方向角度が45度で、非線形弾性率のアラミドコードを配置。
実施例1: 図7(b)のビードコアであり、周方向角度が実質0度で、非線形弾性率のナイロンとアラミドを撚り合わせた非線形弾性率コードを本体プライ内側に配置。変曲点は引張歪の2%にあり、低歪領域の弾性率は高歪領域弾性率の20%。
実施例2: 図7(b)のビードコアであり、周方向角度が実質0度で、非線形弾性率のナイロンとアラミドを撚り合わせた非線形弾性率コードをビードフィラーと折り返しプライ間に配置。変曲点は引張歪の2%にあり、低歪領域の弾性率は高歪領域弾性率の20%。
実施例3: 図7(b)のビードコアであり、周方向角度が実質0度で、非線形弾性率のナイロンとアラミドを撚り合わせた非線形弾性率コードを折り返しプライ外側に配置。変曲点は引張歪の2%にあり、低歪領域の弾性率は高歪領域弾性率の20%。
実施例4: 図7(b)のビードコアであり、周方向角度が実質0度で、非線形弾性率のナイロンとポリエチレンテレフタレートを撚り合わせた非線形弾性率コードを折り返しプライ外側に配置。変曲点は引張歪の2%にあり、低歪領域の弾性率は高歪領域弾性率の50%。
実施例5: 図7(c)のビードコアであり、ビードフィラーを設けなかった周方向角度が実質0度で、非線形弾性率のナイロンとアラミドを撚り合わせ非線形弾性率コードを本体プライ内側に配置。変曲点は引張歪の2%にあり、低歪領域の弾性率は高歪領域弾性率の20%。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から、実施例1~5は、従来例に比べて縦ばね係数の増加がなく、乗り心地が良好であり、また、従来例に比べて横ばね係数が増加し、操縦安定性が良好である。これに対して、比較例1、3は、従来例に比べて縦ばね係数が増加していて乗り心地が悪化する。
【0058】
以上、本発明の空気入りタイヤを、実施形態及び実施例により説明したが、本発明の空気入りタイヤは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で幾多の変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 空気入りタイヤ、2 ビード部、3 サイドウォール部、4 トレッド部、5 ビードコア、6 ビードフィラー、7 カーカス、8 ベルト層、9 コード

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7