(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/32 20220101AFI20220916BHJP
G01P 5/24 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
G01F1/32 T
G01P5/24 Z
(21)【出願番号】P 2018239071
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000104836
【氏名又は名称】クボタ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090181
【氏名又は名称】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】菊地 哲也
(72)【発明者】
【氏名】梶原 大跳
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-304557(JP,A)
【文献】特開2004-117283(JP,A)
【文献】特開2004-347353(JP,A)
【文献】特開2002-181598(JP,A)
【文献】米国特許第6212975(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/32
G01P 5/00- 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を挟んで対向する超音波送信器と超音波受信器を含み、前記超音波送信器は一定周期で超音波パルスを送信し、前記超音波受信器が前記超音波パルスを受信するカルマン渦センサ、
前記超音波送信器が送信する超音波パルスと前記超音波受信器が受信する超音波パルスの間の位相差データを前記一定周期で取得する取得手段、
前記取得手段で取得した位相差データを間引きする間引き手段、
前記間引き手段で間引いた位相差データから高周波成分を除去する高周波除去手段、
前記高周波除去手段で高周波成分が除去された位相差データの閾値を決定する閾値決定手段、および
前記閾値を通過する位相差データの数に基づいて前記流路における流速を計算する計算手段を備える、流速計測装置。
【請求項2】
前記間引き手段は、連続する複数の位相差データを積算して1つの位相差データに変換する、請求項1記載の流速計測装置。
【請求項3】
前記閾値決定手段は、前記高周波除去手段で高周波成分が除去された位相差データが表す位相差の周期的な経時変化における最小ピークと最大ボトムの平均値に基づいて前記閾値を決定する、請求項1または2記載の流速計測装置。
【請求項4】
前記高周波除去手段は、前記間引き手段で間引かれた位相差データを移動平均する移動平均演算手段を含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の流速計測装置。
【請求項5】
前記高周波除去手段は、前記移動平均演算手段で移動平均された位相差データに対して指数平滑演算を行う指数平滑演算手段をさらに含む、請求項
4記載の流速計測装置。
【請求項6】
流路を挟んで対向する超音波送信器と超音波受信器を含み、前記超音波送信器は一定周期で超音波パルスを送信し、前記超音波受信器は前記超音波パルスを受信するカルマン渦センサを備える流速計測装置のコンピュータを、
前記超音波送信器が送信する超音波パルスと前記超音波受信器が受信する超音波パルスの間の位相差データを前記一定周期で取得する取得手段、
前記取得手段で取得した位相差データを間引きする間引き手段、
前記間引き手段で間引いた位相差データから高周波成分を除去する高周波除去手段、
前記高周波除去手段で高周波成分が除去された位相差データの閾値を決定する閾値決定手段、および
前記閾値を通過する位相差データの数に基づいて前記流路における流速を計算する計算手段、として機能させる、流速計測プログラム。
【請求項7】
流路を挟んで対向する超音波送信器と超音波受信器を含み、前記超音波送信器は一定周期で超音波パルスを送信し、前記超音波受信器は前記超音波パルスを受信するカルマン渦センサを備える流速計測装置のコンピュータが、
前記超音波送信器が送信する超音波パルスと前記超音波受信器が受信する超音波パルスの間の位相差データを前記一定周期で取得し、
取得した位相差データを間引き処理し、
間引き処理した後の位相差データから高周波成分を除去し、
高周波成分を除去した位相差データの閾値を決定し、そして
前記閾値を通過する位相差データの数に基づいて前記流路における流速を計算する、流速計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法に関し、特にたとえば、カルマン渦センサの送信波(基準波)と受信波との位相差に基づく位相復調方式の超音波渦流流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この発明の背景となる従来の渦流流速計測装置の一例が、特許文献1に開示されている。この特許文献1に記載された超音波式渦流量計では、カルマン渦発生領域を間にして配設される送、受信器からなる超音波センサと、送信器から送信される超音波と受信器で受信される超音波との位相差信号を出力する位相比較器を備え、受信器と位相比較器との間にコンパレータを設け、受信器からの超音波信号を基準値に基づいて矩形の超音波信号に変換するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-97741 [G01F 1/32 15/02]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の超音波式渦流量計のような従来の渦流流速計測装置は、位相比較器などの必要なコンポーネントを組み込んだASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)を用いており、仕様毎にASICを再設計する必要があり、仕様変更への柔軟な対応が難しいという問題がある。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、柔軟な仕様変更が可能な、流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法を提供することである。
【0007】
この発明のさらに他の目的は、コンピュータによる処理が容易に行える、流流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法を提供することである。
【0008】
この発明のその他の目的は、適正な閾値を設定して計測誤差を抑制することができる、流速計測装置、流速計測プログラムおよび流速計測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の課題を解決するために、以下の構成を採用した。なお、括弧内の参照符号および捕捉説明などは、本発明の理解を助けるために後述する実施の形態との対応関係を示したものであって、この発明を何ら限定するものではない。
【0010】
第1の発明は、流路を挟んで対向する超音波送信器と超音波受信器を含み、超音波送信器は一定周期で超音波パルスを送信し、超音波受信器が超音波パルスを受信するカルマン渦センサ、超音波送信器が送信する超音波パルスと超音波受信器が受信する超音波パルスの間の位相差データを一定周期で取得する取得手段、取得手段で取得した位相差データを間引きする間引き手段、間引き手段で間引いた位相差データから高周波成分を除去する高周波除去手段、高周波除去手段で高周波成分が除去された位相差データの閾値を決定する閾値決定手段、および閾値を通過する位相差データの数に基づいて流路における流速を計算する計算手段を備える、流速計測装置である。
【0011】
第1の発明では、流速計測装置(10:実施例において相当する参照符号。以下、同様。)は、流路(14)のカルマン渦発生領域を挟んで対向する超音波送信器(16)および超音波受信器(18)を含むカルマン渦センサ(12)を含む。コンピュータ(22)はたとえば外部クロックを分周したクロックを超音波駆動回路(30)に与える。超音波駆動回路(30)はそのクロックに応答してたとえばPWM信号のような超音波駆動信号を出力する。このPWM信号(矩形波)が超音波送信器(16)に与えられるとともに、たとえば位相差データを生成して出力するインプットキャプチャ(36)の一方入力に与えられる。超音波駆動信号に応答して超音波送信器(16)が送信した超音波パルスが、流路(14)を流れる流体を通って、超音波受信器(18)によって受信され、超音波受信器(18)から正弦波信号が出力される。超音波受信器(18から出力される正弦波信号は、たとえば増幅器(34)によって矩形波に変換されて、インプットキャプチャ(36)の他方入力に与えられる。
【0012】
取得手段たとえばコンピュータ(22)は、インプットキャプチャ(36)から一定周期で順次出力される位相差データを取得する(S1、S3)。順次の位相差データはたとえばメモリ(28)に順次記憶され、間引き手段たとえばコンピュータ(22)は、このように順次記憶している位相差データを間引く(S5、S7)。
【0013】
高周波除去手段たとえばコンピュータ(22)は、たとえば、移動平均演算処理および/または指数平滑演算処理のような高周波除去処理を実行する(S11、S13)。その後、閾値決定手段たとえばコンピュータ(22)が、高周波成分が除去された位相差データの閾値を決定する(S15)。そして、計算手段たとえばコンピュータ(22)が、閾値を通過する位相差データの数に基づいて流路における流速を計算する(S17)。具体的には、まず、閾値を通過する位相差データ数(N)をカウントする。そして、閾値を通過した最大位相差データの番号と最小位相差データとに基づいて半サイクル周期を計算する。その半サイクル周期の逆数がカルマン渦周波数として、そのカルマン渦周波数を所定値(流速1m/秒に相当する周波数)で除算して、流速を求めることができる。
【0014】
第1の発明によれば、連続する位相差データを間引いた後に流速計算するようにしたので、コンピュータの計算速度等の処理能力があまり大きくなくても流速計算することができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明に従属し、間引き手段は、連続する複数の位相差データを積算して1つの位相差データに変換する、流速計測装置である。
【0016】
第2の発明では、近接する複数の位相差データを積算(累算)して1つの位相差データを生成する。
【0017】
第2の発明によれば、近接する位相差データを加算するため、間引き区間内でも高周波をある程度除去することができるだけでなく、位相差データの振幅自体が元データより大きくなるので、高周波除去手段による高周波成分の除去効果を大きく設定することができ、計測精度の向上が期待できる。
【0018】
第3の発明は、第1または第2の発明に従属し、閾値決定手段は、高周波除去手段で高周波成分が除去された位相差データが表す位相差の周期的な経時変化における最小ピークと最大ボトムの平均値に基づいて閾値を決定する、流速計測装置である。
【0019】
第3の発明では、最小ピークと最大ボトムの平均値を閾値として、あるいはその平均値を中間値としてヒステリシスを考慮した閾値を決定する。
【0020】
第3の発明によれば、最小ピークと最大ボトムの平均値に基づいて閾値を決定するようにしたので、閾値を超える抽出値が欠落したりする不都合を抑制することができ、計測誤差を可及的抑制することができる。
【0021】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに従属し、高周波除去手段は、間引き手段で間引かれた位相差データを移動平均する移動平均演算手段を含む、流速計測装置である。
【0022】
第5の発明は、第4の発明に従属し、高周波除去手段は、移動平均演算手段で移動平均された位相差データに対して指数平滑演算を行う指数平滑演算手段をさらに含む、流速計測装置である。
【0023】
第6の発明は、流路を挟んで対向する超音波送信器と超音波受信器を含み、超音波送信器は一定周期で超音波パルスを送信し、超音波受信器が超音波パルスを受信するカルマン渦センサを備える流速計測装置のコンピュータを、超音波送信器が送信する超音波パルスと超音波受信器が受信する超音波パルスの間の位相差データを一定周期で取得する取得手段、取得手段で取得した位相差データを間引きする間引き手段、間引き手段で間引いた位相差データから高周波成分を除去する高周波除去手段、高周波除去手段で高周波成分が除去された位相差データの閾値を決定する閾値決定手段、および閾値を通過する位相差データの数に基づいて流路における流速を計算する計算手段、として機能させる、流速計測プログラム。
【0024】
第7の発明は、流路を挟んで対向する超音波送信器と超音波受信器を含み、超音波送信器は一定周期で超音波パルスを送信し、超音波受信器が超音波パルスを受信するカルマン渦センサを備える流速計測装置のコンピュータが、超音波送信器が送信する超音波パルスと超音波受信器が受信する超音波パルスの間の位相差データを一定周期で取得し、
取得手段で取得した位相差データを間引き、間引いた位相差データから高周波成分を除去し、高周波成分を除去した位相差データの閾値を決定し、そして閾値を通過する位相差データの数に基づいて流路における流速を計算する、流速計測方法である。
【0025】
第6の発明または第7の発明によっても、第1の発明と同様の効果が期待できる。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、位相差データを間引いた後に演算処理して流速計算するようにしたため、コンピュータによる処理が容易に行える、流速計測装置および流速計測プログラムが実現できる。
【0027】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1はこの発明の一実施例の渦流流速計測装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は
図1実施例の渦流流速計測装置のメモリのメモリマップの一例を示す図解図である。
【
図5】
図5は
図1実施例における第1の態様の間引き処理を示す図解図である。
【
図6】
図6は
図1実施例において
図5に示す第1の態様で間引きした場合の位相差データの変化の一例を示す波形図であり、縦軸が位相差の大きさを示し、横軸が位相差データの番号(間引き数が1:4なので全1040個である)を示す。
【
図7】
図7は
図5に示す第1の態様での間引きの場合のデータ抽出の一例(閾値を最小ピークと最大ボトムの中間値とした場合)を示す波形図である。
【
図8】
図8は
図5に示す第1の態様での間引きの場合のデータ抽出の他の例(閾値を最大ピークと最小ボトムの中間値とした場合)を示す波形図である。
【
図9】
図9は
図1実施例における第2の態様の間引き処理を示す図解図である。
【
図10】
図10は
図1実施例において
図9に示す第2の態様で間引きした場合の位相差データの変化の一例を示す波形図であり、縦軸が位相差の大きさを示し、横軸が位相差データの番号を示す。
【
図11】
図11は
図9に示す第2の態様での間引きの場合のデータ抽出の一例閾値を最小ピークと最大ボトムの中間値とした場合)を示す波形図である。
【
図12】
図12は
図9に示す第2の態様での間引きの場合のデータ抽出の他の例(閾値を最大ピークと最小ボトムの中間値とした場合)を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1を参照して、この発明の一実施例である渦流流速計測装置(単に「流速計測装置」と呼ぶこともある。)10は、カルマン渦センサ12を含む。カルマン渦センサ12は、流路14を挟んで対向する超音波送信器16および超音波受信器18を含む。このようなカルマン渦センサ12は、流路14内に配置される渦発生体(図示せず)の下流においてカルマン渦が発生する領域(カルマン渦発生領域)に、そのカルマン渦を検出可能に配置される。つまり、超音波送信器16から流路14内に送信される超音波パルスを、対向して配置される超音波受信器18が受信する。
【0030】
このようなカルマン渦センサ12を制御する制御基板20が設けられ、この制御基板20にはコンピュータ22が組み込まれる。
【0031】
コンピュータ22は、この流速計測装置10の全体制御を司るCPU24を備える。CPU24は、バス26を通してメモリ28にアクセスでき、このメモリ28に設定されているプログラム(後述)に従って流速計測装置10の全体制御を司る。
【0032】
コンピュータ22は、外部クロック32からたとえば4MHzのクロックを受け、そのクロックを40kHzに分周して、超音波駆動信号、たとえばデューティ比50%のパルス(PWM信号)を超音波駆動回路30に入力する。超音波駆動回路30はこのPWM信号に応答して超音波送信器16に含まれる、たとえば圧電振動子のような超音波振動子を駆動する。したがって、超音波送信器16から超音波信号(超音波パルス)が発生される。
【0033】
超音波送信器16からこのようにして発生される超音波パルスは流路14を挟んで対向する超音波受信器18で受信される。この超音波受信器18にも超音波送信器16と同様の圧電振動子が設けられていて、この圧電振動子が超音波パルスを電気信号(正弦波信号)に変換する。この正弦波信号は、増幅器34によって増幅・矩形波変換されて、矩形波信号として、インプットキャプチャ36に入力される。インプットキャプチャ36にはさらに、上述の超音波駆動回路30からのPWM信号(パルス)が、基準波折返し信号(基準信号)として、入力される。
【0034】
インプットキャプチャ36は、後述する
図3のメモリ28のデータ記憶領域40に形成されるキャプチャカウンタ40aと2つのラッチ40bおよび40cで構成される。この実施例では、このキャプチャカウンタ40aはたとえば64MHzのクロックによってインクリメントされるが、超音波駆動回路30からの基準PWM信号が与えられる都度リセットされる。つまり、キャプチャカウンタ40aは、基準PWM信号から次の基準PWM信号までの間、64MHzの内部クロックによってインクリメント(歩進)される。
【0035】
そして、基準PWM信号が入力されたときのキャプチャカウンタ40aのカウント値(実施例では「0」)を一方のラッチ40b(
図3)で取り込む。キャプチャカウンタ40aがその基準PWM信号によってリセットされ、その後増幅回路34からの矩形波信号が入力されたときのカウント値が、他方のラッチ40c(
図3)で取り込まれる。基準PWM信号が入力されたときのカウント値(C1)と矩形波信号が入力されたときのカウント値(C2)との差(C2-C1)が基準PWM信号と矩形波信号との間の位相差データとなる。この位相差データは、一定周期(40kHz)毎に超音波送信器16から送信された超音波信号と超音波受信器18が受信した超音波信号との間の位相差データであり、バス26を介して、メモリ28のバッファ40dに順次記憶(蓄積)される。
【0036】
コンピュータ22すなわちCPU24での処理はすべてディジタル信号ないしディジタルデータによって行われるが、以下には、理解を容易にするために、
図2、
図6、
図7、
図8、
図10‐
図12に図解する波形図を用いて説明する。
【0037】
図2の一番上には、インプットキャプチャ36の一方入力に入力される基準PWM信号が示され、それの下に、インプットキャプチャ36の他方入力に入力される、増幅器34の出力である矩形波(センサ波)信号が示される。この基準PWM信号とセンサ波信号は、1対1でインプットキャプチャ36に入力されるが、この
図2では、参照符号36Aは、基準PWM信号に対して位相が進んでいる各センサ波信号をまとめて示し、参照符号36Bは、基準PWM信号に対して位相が遅れている各センサ波信号をまとめて示している。
【0038】
インプットキャプチャ36は、上述したように、このような2つの信号の位相差に応じたキャプチャカウンタ40aのカウント値を位相差データとしてメモリ28すなわちCPU24に入力する。CPU24はそのカウント値データに基づいて基準波PWM信号とセンサ波信号の位相差を求め、
図2に示す正弦波37のような位相差交番サイクル(周波数)を演算し、この位相差交番サイクルからカルマン渦波数を求める。
【0039】
なお、参照符号36Aで示すようにセンサ波信号の位相が基準波信号に対して進んでいるときは
図2に示す正弦波37の谷側を示し、参照符号36Bで示すようにセンサ波信号の位相が基準信号に対して遅れているときは正弦波信号37の山側を示す(このことは、
図6(B)等においても同様である。)。
【0040】
詳しくいうと、この実施例では、インプットキャプチャ36での処理の関係で、センサ波は基準波に対して一定の遅れ(オフセット)を持った状態で、進み、遅れが発生するように調整している。そのため位相差データは正の範囲で交番するようになる。そして、位相進みの場合、基準波に対するセンサ波の距離が小さくなるので、位相差は小さくなり(谷側)、位相遅れの場合、基準波に対するセンサ波の距離が大きくなるので、位相差は大きくなる(山側)。
【0041】
コンピュータ22のメモリ28は
図3に示すようにプログラム記憶領域38およびデータ記憶領域40を含む。
【0042】
プログラム記憶領域38には、
図4のフロー図に示すような計測プログラム38aが予め設定される。
【0043】
データ記憶領域40には、前述したキャプチャカウンタ40a、ラッチ40bおよびラッチ40cの他に、バッファ40d、位相差データレジスタ40e(複数)、間引きカウンタ40f、データ数カウンタ40gなどが形成される。
【0044】
バッファ40dは、インプットキャプチャ36から連続して取り込まれる位相差データを一時的に記憶しておくためのバッファレジスタである。位相差データレジスタ40eは、後述の第1の態様または第2の態様の間引き処理に従って取得した複数の位相差データを記憶するための複数のレジスタである。
【0045】
間引きカウンタ40fは、この実施例に従って位相差データを間引く数(n)をカウントするためのカウンタであり。基準信号数カウンタ40gは、超音波駆動回路30からインプットキャプチャ36に入力される基準PWM信号の数(m)をカウントするためのカウンタである。
【0046】
図4を参照して、実施例において計測プログラムの実行が開始されると、コンピュータ22のCPU24は、最初のステップS1で、先に説明したインプットキャプチャ処理を実行する。ステップS3で、ステップS1で取得した位相差データ(C2-C1)をメモリ28のデータ記憶領域40のバッファ40dに取り込む(記憶する)。
【0047】
そして、次のステップS5で、間引きカウンタ40fのカウント値が間引き数n(この実施例では、「4」とした。)をカウントしたかどうか判断する。このステップS5で“NO”を判断したとき、CPU24は、ステップS1に戻り、次の位相差データをバッファ40dに記憶する(ステップS3)。この処理は間引きカウンタ40fが間引き数n(実施例では「4」)をカウントするまで繰り返し実行される。
【0048】
そして、ステップS5で“YES”を判断すると、CPU24は、続くステップS7で、そのときバッファ40dに記憶された位相差データから間引き処理後の位相差データを求め、データ記憶領域40の位相差レジスタ40eに順次記憶する。
【0049】
具体的には、この実施例における第1の態様の間引き処理が
図5に示される。ここに示す第1の態様の間引き処理は、よく知られている一般的な間引き(通常間引き)方法であり、間引き数nに相当するn個の位相差データ毎に1つの位相差データを求める方法である。実施例では、間引き数を1:4としたので、3つ目までの位相差データを捨てて4つ目毎の位相差データを、後に処理すべき位相差データとして取得する。
図5でいえば、第4番目の位相差データ(d)を取得し、次には第8番目の位相差データ(h)を取得し、第12番目(l)、第16番目(p)、第20番目(t)、…の位相差データを順次取得する。これら順次の位相差データが位相差データレジスタ40e(
図3)に順次記憶されることは前述のとおりである。
【0050】
次に、CPU24は、ステップS9において、基準信号数カウンタ40hが所定数mをカウントしたかどうか、判断する。このステップS9で基準信号数のカウント値を判断するのは、超音波駆動回路30からの基準PWM信号は、制御基板20内で折り返されてインプットキャプチャ36に入力されるので、欠落がなく、確実に一定時間をカウントすることができるからである。
【0051】
実施例では、流速計算のために間引き後の位相差データを最低3以上用いることとし、最小流速=20Hz(0.1秒間に2Hz)を検出するためには、流速検出=0.1が下限値となり、その他の処理を考えて、上記一定時間を0.104秒とした。つまり、ステップS9では、0.104秒の経過をカウントしたとき、“YES”と判断される。
【0052】
ちなみに、この
図4に示す全体処理(ステップS1‐S17)は、0.5秒ごとに繰り返し実行される。
【0053】
ステップS11およびS13で、CPU24は、高周波成分の除去処理を実行する。先に説明した間引き処理によってもある程度の高周波成分除去効果があるが、この実施例では、間引き処理後にも残った高周波成分を除去するために、まず、ステップS11の移動平均演算(時系列データにおいて、ある一定区間毎の平均値を、区間をずらしながら求める演算)を用いる。実施例では、8個の位相差データ毎に平均値を計算することとした。
【0054】
たとえば、
図5に示す例では、まず、第4番目の位相差データ(d)を先頭に含む8個の間引き後の位相差データの平均値を求め、続いて、第8番目の位相差データ(h)を先頭に含む(第4番目の位相差データ(d)を含まない。)8個の間引き後の位相差データの平均値を求め、以下同様に平均演算を行う。
【0055】
ただし、実施例では8個の位相差データを移動平均するようにしたが、データ数を16個、32個と増やせば移動平均による平滑効果は大きくなるが、反面演算回数が増える。そこで、実施例では、時間の制約を考慮して、8個の位相差データ設定することとした。
【0056】
続くステップS13において、次の高周波成分の除去処理としての指数平滑演算(RCフィルタ演算)を実行する。ステップS13は、ステップS11での移動平均演算の後にもなお残る高周波ノイズを除去するのに有効である
なお、指数平滑演算は、基本的に積分計算であり、1番目の演算結果を1番目データとし、N番目の演算結果は、数1で求めることができる。
[数1]
k(係数)・(N-1)番目演算結果+(1-k)N番目データ
ただし、k=0.8(一般には0.00‐1.00の間とする)、(N-1)演算結果は1つ前の演算結果である。
【0057】
このように、ステップS11およびS13によって、間引きした位相差データに基づく信号(
図6(B)など)に残る高周波成分を除去することができる。
【0058】
なお、この実施例における第1の態様の間引き(通常間引き)処理をした後にステップS11の移動平均演算を行うと、
図6(B)に示す間引き&移動平均後の信号(
図2の正弦波37に相当する)の振幅が元のデータの振幅より小さくなるので、ステップS13の指数平滑演算を施すことでさらに小さくなる不利がある。
【0059】
しかしながら、たとえばステップS13の指数平滑演算の前段で乗算処理(倍率処理)をして大きくすれば、元のデータと同等またはそれ以上の振幅のデータで指数平滑演算を実施することができるので、通常間引きによって振幅が小さくなってしまう不利を抑制することができる。
【0060】
次に、ステップS15で、閾値を演算する。具体的には、この実施例では、上で説明した0.104秒分の位相差データの内の最小ピーク(元データの各ピーク(正方向)のなかで、最小の位相差を有するピークのこと)と最大ボトム(元データの各ボトム(負方向)のなかで、最大の位相差を有するボトムのこと)とを検索する。そして、最小ピークと最大ボトムとから、その中間値を数2(第1の方法)に従って計算する。
[数2]
中間値=((最小ピーク位置での位相差)+(最大ボトム位置での位相差))÷2
ただし、低速域(概ね100Hz未満)と判断した場合、さらに、その中間値の上下に、最大振幅×10%のヒステリシス(
図6(B)に示す立ち上がりおよび立下り)を設ける。低速域かどうかは、実施例では、最大振幅(最大ピークとの最小ボトムの差)が所定値を超えるか否かで判断する。たとえば、発明者等の実験の結果として、所定値=40=10×倍率1×間引き数(4)として、計測プログラム38aに設定している。
【0061】
ここで、ヒステリシスとは、閾値42の幅を意味しており、上昇の位相差データが閾値42を超えるかどうか判断する場合、
図6(B)に示す立上り以上かどうかを判断し、下降の位相差データが閾値42を超えるかどうか判断する場合、
図6(B)に示す立下り以下かどうかを判断することになる。
【0062】
ステップS15で中間値を含む閾値42を設定した状態が、
図6(B)に示される。ただし、
図6(A)が元のデータを示し、そのような元データをこの実施例に従って間引き処理し(ステップS7)、高周波成分の除去処理を行い(ステップS11、S13)、さらに閾値42を設定した結果が
図6(B)に示される。
【0063】
その後、CPU24は、ステップS17で、流速を計算する。
【0064】
詳しくいうと、まず、閾値42を超えるデータ数(N)をカウントする。なお、
図6(B)等に示す抽出値は、このように閾値42を超える、位相差データの番号である。閾値42を超えた最大位相差データの番号(maxNo.)と閾値42を超えた最小位相差データ(minNo.)とを検索する。そして、数3に従って、半サイクル周期を計算する。
[数3]
半サイクル周期=(maxNo.-minNo.)÷(N-1)×サンプリング周期×間引き数
ただし、サンプリング周期は実施例では、25μs=1÷40kHzとする。
【0065】
カルマン渦周波数が数4で与えられる。
[数4]
カルマン渦周波数=1÷(半サイクル周期×2)
したがって、この実施例では、流速が数5で計算できる。ただし、実施例のカルマン渦センサ12の仕様では1m/秒が28.8Hz(所定値)と設定されていることを前提としている。
[数5]
流速=カルマン渦周波数÷28.8Hz
このようにしてステップS17で流速を計算することができるが、閾値42を超えるデータ数を(N)をカウントする際に、実施例のように上述の数2に示す第1の方法に従って閾値を設定すると、
図7(B)に示すように、閾値を超える位相差データの番号を正確に抽出することができる。ただし、
図7(A)が元の位相差データを示す。
【0066】
これに対して、通常よく行われる、数6に示す第2の方法に従って計算した中間値を含む閾値を使う場合、
図8(A)に示すように位相差データの振幅(縦軸)の中心より閾値がずれるので、
図8(B)に示すようにデータ抽出の欠落部が生じることがあり、位相差データの欠落は計測誤差を生じる。
[数6]
中間値=((最大ピーク位置での位相差)+最小ボトム位置での位相差))÷2
上述の実施例によれば、位相差データを間引きした後必要な演算処理を実行するので、ASICに比べて演算能力(速度)が劣ったとしても、コンピュータ22で確実に処理することができる。つまり、コンピュータ処理に適した流速計算装置を実現することができる。
【0067】
図9は
図1実施例で行う第2の態様の間引き処理を示す図解図である。この
図9では、たとえば第1‐第4の4個の位相差データ(a)-(d)を積算(累算)して1つの位相差データ(a+b+c+d)を求め、以下、同様にして、4個の位相差データを積算して後に処理すべき位相差データを順次求めるようにしている。その意味で、前述の
図5に示した第1の態様の間引きを「通常間引き」と呼び、
図9に示す第2の態様の間引きを「積算間引き」と呼ぶことができる。
【0068】
このような積算間引きを実行するためには、
図4に示すステップS3でバッファ40d(
図3)に順次一時的に記憶している位相差データを、間引き数n(実施例では「4」)毎にステップS7で積算すればよいだけである。
【0069】
その後は、先に説明したと同様に、
図4に示すステップS9‐S17実行を実行すればよい。積算間引き処理を適用して取得した位相差データを用いる場合、
図10(A)に示す元データから、
図10(B)に示すような、位相差データの変化が得られる。
【0070】
このように積算間引き処理によって位相差データを取得する場合、通常間引き処理によって位相差データを取得する場合に比べて、種々の利点がある。つまり、通常間引き処理では必要な位相差成分も除去されてしまうことが起こり得る。これに対して、積算間引き処理では間引きした位相差データを捨ててしまうのではなく、順次加算して1つの位相差データとして使用するため、必要な位相差成分が捨てられることがない。
【0071】
しかも、通常間引きでは、間引きをしても偶然残った位相差データに振幅の大きな高周波成分が含まれる場合があるが、積算間引きでは、近接する位相差データを加算するため、間引きの微小区間内でも高周波をある程度除去する(信号相殺する)ことができる。
【0072】
さらに、通常間引き処理した後の位相差データを移動平均処理(ステップS11)すると上述のように振幅自体が元データより小さくなるので、ステップS13の指数平滑をあまり大きく効かせることができない。これに対して、積算間引き処理の後では
図9からよくわかるように、振幅自体が元データより大きく(たとえば、元データの4倍程度)なるので、ステップS13において平滑効果をある程度大きくすることができ、通常間引きの場合に比べて、高周波成分の除去効果を大きくすることができる。このことは、計測精度の向上に資する。この意味で、積算間引き処理は、特に、振幅が小さくなる低速域(たとえば、100Hz未満)に好適する。
【0073】
そして、
図4のステップS15で最小ピークと最大ボトムの中間値を閾値として設定した場合のデータ抽出が
図11に示される。
図11(B)からよくわかるように、閾値(中間値およびヒステリシス)を超えた位相差データを確実に抽出することができる。
【0074】
これに対して、通常行われる、最大ピークと最小ボトムの中間値を閾値として使う場合、
図12(A)に示すように位相差データの振幅(縦軸)の中心より閾値がずれるので、
図12(B)に示すようにデータ抽出の欠落部が生じる。このような位相差データの欠落は計測誤差を生じる。
【0075】
発明者の実験によれば、低速域(概ね100Hz未満)では
図9に示す第2態様の間引きと、ステップS13による指数平滑演算処理が、計測誤差を少なくするのに特に有効であることが確認できた。
【0076】
また、中・高速域(概ね100Hz以上)では位相差(振幅)は大きく取れるものの、乱流等の影響で振幅が減衰することが起こり易い。ステップS15における最小ピーク/最大ボトムによる閾値演算はこのような減衰に対応するのに、特に有効であることが確認できた。
【0077】
なお、上述の実施例ではいずれも、高周波除去手段として、ステップS11の移動平均演算処理とステップS13の指数平滑演算処理を採用したが、ステップS11およびステップS13の一方だけを高周波除去手段として採用することも考えられる。
【0078】
さらに、上で説明した実施例では、中間値とそれを挟む立上りおよび立下りであるヒステリシスを全体として閾値42として設定した。しかしながら、中間値だけを閾値として設定することもできる。
【0079】
また、上述の実施例では、ステップS1‐S7で第1の態様の間引き処理または第2の態様の間引き処理をした後の位相差データを用いて
図4に示すステップS11(高周波除去)、ステップS13(高周波除去)を実行した後、ステップS15で第1の方法に従って演算した閾値を設定するようにした。しかしながら、利用可能であれば、ステップS15で第2の方法に従って演算した閾値(中間値+ヒステリシス)を設定するようにしてもよい。
【0080】
さらに、ステップS15での第1の方法による閾値演算は、それ自体新規でありかつ効果的であるので、この第1の方法に従って演算した閾値を用いるようにしたときには、上述の実施例における、ステップS1‐S7での間引き処理をしない全ての位相差データを用いる場合にも適用可能である。つまり、ステップS15で第1の方法に従って演算した閾値を設定する場合、位相差データを間引く処理は必ずも必要ない。
【0081】
そして、上で挙げた具体的な数値はいずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 …流速計測装置
12 …カルマン渦センサ
14 …流路
16 …超音波送信器
18 …超音波受信器
22 …コンピュータ
24 …CPU
28 …メモリ
30 …超音波駆動回路
36 …インプットキャプチャ