(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】インク追従体
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20220916BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/00
(21)【出願番号】P 2018239350
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐一
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124291(JP,A)
【文献】特開2004-268420(JP,A)
【文献】特開2001-347789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、結晶性αオレフィン重合体と、鉱油と、増粘剤とを含
むインク追従体
であって、該インク追従体の25℃におけるスプレッドメーター60秒値が30~40mmであることを特徴とするインク追従体。
【請求項2】
25℃、剪断速度8000/sにおける粘度値が1.5Pa・s以上であることを特徴とする請求項
1記載のインク追従体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク収容管に筆記具用インクを収容する筆記具において、その保存中、使用中でのインクの揮発を防止し、且つインクの漏出を防止するためにインクの尾端部にインク面と密接して配設するインク追従体(フォロアー)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインク収容管に直に筆記具用インクを収容する筆記具、例えば、ボールペンにおいてはインクの揮発、漏出を防止するためにインク収容管の尾端部にインク面と密接してインク追従体が充填されている。
【0003】
インク追従体としては、これまで数多くの種類、物性のものが知られている。例えば、ノック式形態の出没式筆記具に適用した場合であっても、ノック衝撃による応力で変形することなく、耐衝撃性能を満足できるインク追従体として、ポリブテンを基材としてゲル化剤と結晶性ポリαオレフィンを添加してなることを特徴とするインク追従体(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されるインク追従体(インキ逆流防止体組成物)には、段落〔0002〕において、従来、筆記に適用されるインク追従体として、筆記具が高所から落下した際のインク飛散やインク流出を防ぐ耐衝撃性能が要求されていることを記載しているが、実際上、明細書には、主にノック衝撃による耐衝撃性能を言及しており、実施例等での評価もノック式ボールペンにおけるノック操作2000回繰り返した後の7日間静置した際のインク追従体の初期との変形度合いを目視観察するものであり、落下によるインク追従体の課題等については実際上の言及はなく、かつ、その評価等もないものである。また、落下も横向き落下、ペン先の上向き落下、下向きの落下など種々の落下があるものである。
上記特許文献1を含む従来のボールペン等に用いるインク追従体では、上記各種の落下において、特に、ペン先を上向きの状態でペンを落下させると、落下によってインク及びインク追従体にペン先側に向かって力が作用し、この力は概ねボールペンチップのボールが集中して受けこととなる。その結果、場合によっては、ボールペンチップのカシメからボールが外れてしまうなどの課題が少なからずあった。しかも、この課題は、ボール径が0.5mm以下、すなわち、小さなボール径ほど、落下によるボール保持性が更に低くなるなどの課題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-124291号公報(特許請求の範囲、段落〔0023〕、〔0031〕等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題などに鑑み、これを解消しようとするものであり、インク追従性能を損なうことなく、ペン先の落下、特にペン先の上向き落下に対するボール保持性、すなわち、ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)に優れたインク追従体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、鋭意研究を行った結果、インク追従体の組成に、特定の成分を有機的に組み合わせることなどにより、上記目的のインク追従体が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明のインク追従体は、少なくとも、結晶性αオレフィン重合体と、鉱油と、増粘剤とを含むことを特徴とする。
25℃におけるスプレッドメーター60秒値が30~40mmであることが好ましい。
25℃、剪断速度8000/sにおける粘度値が1.5Pa・s以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インク追従性能を損なうことなく、ペン先の落下、特にペン先の上向き落下に対するボール保持性、すなわち、ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)に優れたインク追従体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明のインク追従体は、少なくとも、結晶性αオレフィン重合体と、鉱油と、増粘剤とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本発明に用いる結晶性αオレフィン重合体は、特定構造の主鎖および側鎖からなり、α-オレフィン、環状オレフィンおよび/またはスチレン類から製造され、溶融流動の非ニュートン性や溶融張力の制御が可能であって、物性と加工性のバランスに優れるポリオレフィンであり、以下に示す構造と性状を有する。
【0012】
用いる結晶性αオレフィン重合体の主鎖および側鎖は、エチレン、炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンおよびスチレン類の少なくとも一種以上の単量体の重合体からなる主鎖と、プロピレン単独重合体またはプロピレンとエチレン、炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンおよびスチレン類の少なくとも一種以上の単量体との共重合体からなる側鎖、または、炭素数2~20のα-オレフィン、環状オレフィンおよびスチレン類の少なくとも一種以上の単量体の重合体からなる主鎖と、プロピレンとエチレン、炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンおよびスチレン類の少なくとも一種以上の単量体との共重合体からなる側鎖からなる。
【0013】
この主鎖および側鎖の構成単量体であるα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどを、環状オレフィンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン、1-メチルノルボルネン、5-メチルノルボルネン、7-メチルノルボルネン、5,6-ジメチルノルボルネン、5,5,6-トリメチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-プロピルノルボルネン、5-フェニルノルボルネンなどを、スチレン類としては、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、o-メチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレンなどのアルキルスチレン、p-クロロスチレン、m-クロロスチレン、o-クロロスチレン、p-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、o-ブロモスチレン、p-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、o-フルオロスチレン、o-メチル-p-フルオロスチレンなどのハロゲン化スチレン、4-ビニルビフェニル、3-ビニルビフェニル、2-ビニルビフェニル、などのビニルビフェニル類などを挙げることができる。
【0014】
上記オレフィン類は、上記の条件に合致するように一種用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。二種以上のオレフィンを用いる場合、上記オレフィン類を任意に組み合わせることができる。側鎖においては、プロピレン含有量が50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。プロピレン含有量が前記範囲内では十分な機械物性が得られる。また、側鎖の一次構造については特に制限はなく、直鎖状あるいは長鎖分岐を持つ分岐状など、いずれの構造でもよい。
【0015】
立体規則性については、主鎖においては、エチレンを除く単量体ではアタクチック、アイソタクチック、シンジオタクチックのいずれの構造でもよく、したがって、非晶性、結晶性のいずれの構造でもよい。側鎖においては、そのプロピレン連結部の立体規則性を示すアイソタクチックトリアッド分率[mm]が80%以上であることが必要である。80%より低いと機械的強度が低下してしまい、好ましくない。機械的強度の面から、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0016】
本発明において、用いられるアイソタクチックトリアッド分率[mm]とは、「高分子ハンドブック,日本分析化学会高分子分析研究懇談会編」に記載されている13C核磁気共鳴スペクトルにより測定されるポリプロピレン分子鎖中のトリアッド単位での、アイソタクチック分率を意味する。
また、上記13C核磁気共鳴スペクトルの測定におけるピークの帰属決定法は、エイ・ザンベリ(A. Zambelli)等の“Macromolecules, 8, 687 (1975)”で提案された帰属に従った。
【0017】
本発明に用いる結晶性αオレフィン重合体の重量平均分子量Mwは、5,000~1,000,000であることが好ましく、10,000以上がより好ましく、15,000以上がより好ましく、20,000以上が特に好ましい。
この重量平均分子量が5,000未満であると、機械的強度が低下してしまい、好ましくない。本発明に用いる結晶性αオレフィン重合体の分子量分布については、特に制限はなく、通常、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、1.5~30の範囲であり、好ましくは1.5~15、より好ましくは1.5~10、さらに好ましくは1.5~5、特に好ましくは1.5~4.5の範囲である。この比が前記範囲内では十分な機械的強度が得られる。
【0018】
用いる結晶性αオレフィン重合体の側鎖は、通常、炭素数100~40,000または側鎖の原料となるマクロモノマーの重量平均分子量が2,000~500,000の鎖長である。分岐数としては、通常、0.001~10個/1,000炭素原子の分岐を有する。
【0019】
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の装置および条件にて測定したポリエチレン換算の重量平均分子量である。
装置:本体 Waters ALC/GPC150C カラム 東ソー社製 TSK MH+GMH6×2本 条件:温度135℃、溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼン、流量 1.0ミリリットル/分
また、本発明に用いる結晶性αオレフィン重合体の溶融張力MS(分岐)が、共重合組成とメルトインデックスMIとを同一とした直鎖状ポリオレフィンの溶融張力MS(直鎖)よりも大きいことが好ましい。つまり、MS(分岐)>MS(直鎖)である。この関係が上記範囲内では十分な溶融加工性が得られる。溶融加工性の面から、より好ましくは、MS(分岐)≧1.03MS(直鎖)さらに好ましくは、MS(分岐)≧1.05MS(直鎖)、特に好ましくは、MS(分岐)≧1.07MS(直鎖)、さらに好ましくは、MS(分岐)≧1.09MS(直鎖)である。
【0020】
ここで、直鎖状ポリオレフィンは、チタン化合物と有機アルミニウム化合物を必須成分として製造されるポリオレフィン全般、例えば、塩化マグネシウムに担持した四塩化チタンを主触媒とし有機アルミニウムを助触媒として製造されるポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体などを指し、および、炭素数50以上の側鎖を含まないポレオレフィン全般を指す。また、MS(分岐)とMS(直鎖)の比較は、直鎖状ポリオレフィンの共重合組成とメルトインデックスMIが分岐状ポリオレフィンの共重合組成とメルトインデックスMIの±5%以内となるように調整して比較した。
【0021】
なお、メルトインデックスMIは、ASTM D1238に準拠して、温度230℃で荷重2.16kgでのMIを測定した。測定の際、予め酸化防止剤としてイルガノックス1010とBHTとの重量比1:1の混合物を4000重量ppm添加した。測定温度は通常230℃であるが、構成するモノマーにより190~300℃の範囲で任意に設定してもよく、分子量が大きく溶融流動性が低い場合は、この範囲で高温で測定してもよい。
【0022】
前記溶融張力MSは、東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、下記の条件で測定した値である。キャピラリー:直径2.095mm,長さ8.0mm 、シリンダー径:9.6mm、シリンダー押出速度:10mm/分、巻き取り速度:3.14m/分、温度:190~300℃の範囲で任意(MIと同一温度)。ただし、プロピレン含有量が60~99.9モル%の場合、230℃、サンプル:酸化防止剤としてイルガノックス1010とBHTとの重量比1:1の混合物を4000重量ppm添加さらに、本発明の分岐状ポリオレフィンの温度230℃において測定した溶融張力MS(g)と、メルトインデックスMI(g/10分)とが、式 logMS≧-0.907×logMI+0.375 …(I)の関係を満たし、かつプロピレン含有量が60ないし99.9モル%の範囲にあることが好ましい。
【0023】
logMSが-0.907×logMI+0.375の値より小さい場合は、溶融加工性に劣り好ましくない。溶融加工性の面から、より好ましくは、logMS≧-0.907×logMI+0.450さらに好ましくは、logMS≧-0.907×logMI+0.50特に好ましくは、logMS≧-0.907×logMI+0.60である。
【0024】
本発明に用いる結晶性αオレフィン重合体としては、主鎖の構造により、下記(1)~(5)の構造を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
(1) エチレン系主鎖ポリエチレンに対して、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリエチレンが挙げられる。
【0025】
主鎖ポリエチレンに対して、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリエチレンが挙げられる。
主鎖がエチレンと炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリエチレンであり、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリエチレンが挙げられる。
【0026】
主鎖がエチレンと炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリエチレンであり、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリエチレンが挙げられる。上記の分岐ポリエチレンは結晶性または非結晶性であり、結晶性の場合は、通常、60~135℃に融点を持つ。また、主鎖のエチレン含有量は50%を超える。
(2) プロピレン系主鎖ポリプロピレンに対して、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンを有する分岐ポリプロピレン。ただし、主鎖の立体規則性はアタクチックまたはシンジオタクチック構造である。
【0027】
主鎖ポリプロピレンに対して、分岐としてプロピレンとエチレンまたは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリプロピレン。ただし、主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。
主鎖ポリプロピレンに対して、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリプロピレン。ただし、主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。
【0028】
主鎖がプロピレンとエチレン、炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリプロピレンであり、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリプロピレン。ただし、主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。
【0029】
主鎖がプロピレンとエチレン、炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリプロピレンであり、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリプロピレンが挙げられる。ただし、主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。
【0030】
上記の分岐ポリプロピレンは結晶性または非結晶性であり、結晶性の場合は、通常、60~163℃に融点を持つ。また、主鎖のプロピレン含有量は50%を超える。
(3) 高級α-オレフィン系主鎖が炭素数4~20のα-オレフィンのポリマーであり、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4ないし20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリオレフィンが挙げられる。
【0031】
主鎖が炭素数4~20のα-オレフィンのポリマーであり、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリオレフィンが挙げられる。
主鎖が炭素数4~20のα-オレフィンと該オレフィンを除く炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリオレフィンであり、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリオレフィンが挙げられる。
【0032】
主鎖が炭素数4~20のα-オレフィンと該オレフィンを除く炭素数4~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリオレフィンであり、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリオレフィンが挙げられる。上記の分岐ポリオレフィンは結晶性または非結晶性である。主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。また、主鎖の高級α-オレフィン含有量は50%を超える。
(4)環状オレフィン系主鎖ポリ環状オレフィンに対して、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリ環状オレフィンが挙げられる。
【0033】
主鎖ポリ環状オレフィンに対して、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリ環状オレフィンが挙げられる。
主鎖が環状オレフィンと炭素数2~20のα-オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリ環状オレフィンであり、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリ環状オレフィンが挙げられる。
【0034】
主鎖が環状オレフィンと炭素数2~20のα-オレフィンまたはスチレン類との共重合ポリ環状オレフィンであり、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリ環状オレフィンが挙げられる。上記の分岐ポリ環状オレフィンは結晶性または非結晶性である。主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。また、主鎖の環状オレフィン含有量は50%を超える。
(5)スチレン系主鎖ポリスチレンに対して、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリスチレンが挙げられる。
【0035】
主鎖ポリスチレンに対して、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリスチレンが挙げられる。
主鎖がスチレンと炭素数2~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレンを除くスチレン類との共重合ポリスチレンであり、分岐としてアイソタクチックポリプロピレンまたはプロピレンとエチレン若しくは炭素数4~20のα-オレフィンとの共重合体を有する分岐ポリスチレンが挙げられる。
【0036】
主鎖がスチレンと炭素数2~20のα-オレフィン、環状オレフィンまたはスチレンを除くスチレン類との共重合ポリエチレンであり、分岐としてプロピレンと環状オレフィンまたはスチレン類との共重合体を有する分岐ポリスチレンが挙げられる。上記の分岐ポリスチレンは結晶性または非結晶性である。主鎖の立体規則性はアタクチック、シンジオタクチックまたはアイソタクチック構造である。また、主鎖のスチレン含有量は50%を超える。
【0037】
本発明に用いる結晶性αオレフィン重合体は、上記に挙げられたものなどの少なくとも1種(単独又は2種以上の混合物)を用いることができる。用いる上記結晶性αオレフィン重合体の製造方法は、既知であり、種々の製造法により得たものを用いることができ、また、市販品があれば、これらのものを用いることができる。
具体的に用いることができる結晶性αオレフィン重合体の市販品としては、例えば、HSクリスタ4100、同6100、同7100(以上、豊国製油社製)などが挙げられる。
【0038】
これらの結晶性αオレフィン重合体の含有量は、本発明の効果を発揮せしめる点、後述するスプレッドメーターでの60秒値、剪断速度8000/sにおける粘度値の各好ましい範囲などを勘案等して設定されるものであり、用いる各成分などから変動するものであるが、インク追従体全量に対して、好ましくは、0.1~2質量%、更に好ましくは、0.5~1質量%が望ましい。
この結晶性αオレフィン重合体の含有量が2質量%より多くなると、インク追従体粘度の著しい高まりによりインク追従性が悪化し、一方、0.1質量%未満であると、十分な発明の効果が得られない。
【0039】
本発明に用いる鉱油は、インク追従体の主成分となるものであり、原料となる石油を常法により精製して得られるものであってもよく、市販されているものを入手してもよい。鉱油の市販品としては、例えば、ダイアナプロセスオイルPW-90、PW-150、PW-380、ダイアナフレシアP-90、P-180、P-430(以上出光興産社製、商品名)、スーパーオイルN68、M68、N460、M460(以上JX日鉱日石エネルギー社製、商品名)、コスモニュートラル100、150、350、500(以上コスモ石油ブリカンツ社製、商品名)が挙げられる。
これらの鉱油は、精製方法、動粘度又は商品名等により区別されるもののうち、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、従来のインク追従体では、鉱油に代えてポリブテンなどを用いるものも知られているが、本発明では、ペン先の落下、特にペン先の上向き落下に対するボール保持性、すなわち、ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)を発揮するために、鉱油に限定されるものである。
これらの鉱油の含有量は、インク追従体全量に対して、好ましくは、90~99質量%、更に好ましくは、93~96質量%が望ましい。
【0040】
本発明に用いる増粘剤としては、例えば、増粘剤のなかで、弾性を付与できる性質を持つものであれば、全ての材料が使用可能である。その具体例としては、リン酸エステルのカルシウム塩、微粒子シリカ、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマー、水添スチレン-ブタジエンラバー、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマー及びアセトアルコキシアルミニウムジアルキレートなどが挙げられ、これらを1種もしくは2種以上用いることができる。
リン酸エステルのカルシウム塩の好ましい市販品としては、CrodaxDP-301LA(クローダジャパン社製)等が挙げられる。
【0041】
用いることができる微粒子シリカは、親水性微粒子シリカと疎水性微粒子シリカがあり、親水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-300、AEROSIL-380(日本アエロジル社製)等が挙げられ、また、疎水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL-974D、AEROSIL-972(日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、ポリスチレン-ポリエチレン/ブチレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGFG-1901X、クレイトンGG-1650(以上、シェルジャパン社製)、セプトン8007、セプトン8004(以上、クラレ社製)などが挙げられる。更に、ポリスチレン-ポリエチレン/プロピレンゴム-ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGG-1730(シェルジャパン社製)、セプトン2002、2006、セプトン2063(以上、クラレ社製)などが挙げられる。
【0042】
水添スチレン-ブタジエンラバーの好ましい市販品としては、DYNARON1320P、DYNARON1321P(以上、JSR社製)、タフテックHl041、タフテックHl141(以上、旭化成工業社製)などが挙げられる。
スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON4600P(JSR社製)等が挙げられ、オレフィン結晶-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON6200P、6201B(JSR社製)等が挙げられる。
アセトアルコキシアルミニウムジアルキレートの好ましい市販品としては、プレンアクトAL-M(味の素ファインテクノ社製)などが挙げられる。
これらの増粘剤の中で、本発明の効果を更に発揮せしめる点等から、好ましくは、スチレン-エチレンブチレン-オレフィン結晶のブロックコポリマーの使用が望ましい。
これらの増粘剤の含有量は、インク追従体全量に対して、好ましくは、1~10質量%、更に好ましくは、2~6質量%が望ましい。
【0043】
その他のインク追従体成分として、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば、増粘助剤(粘土増粘剤、金属石鹸など)、インク追従体の追従性向上剤(界面活性剤など)、酸化防止剤等を適宜量含有することができる。
【0044】
本発明のインク追従体は、例えば、少なくとも、上述の結晶性αオレフィン重合体、鉱油及び増粘剤とを室温(25℃)下で予備混練し、ロールミル、ニーダーなどの分散機で混練するというきわめて単純な方法により製造することができ、また、室温下で溶解、分散する際は、必要に応じて、加熱撹拌、加熱混練等することができる。
また、製造されたインク追従体を、更にロールミル、ニーダーなどの分散機で再混練したり、加熱したりすることで、調製することもできる。
【0045】
本発明のインク追従体は、温度25℃におけるスプレッドメーターでの60秒値が30~40mmであることが好ましい。
本発明のインク追従体のような高粘稠液体の硬さ及び流動性等を測定する簡便な手段としてスプレッドメーター(平行板粘度計)があり、その測定値をSM値という。本発明の効果を更に発揮するためには、SM値として、25℃の60秒(1分)値が30~40mmの範囲にあるインク追従体であれば、瞬間的な強い応力に対する耐ボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)を最大限に発揮できるものとなる。
このSM値を30~40mmの範囲にするためには、用いる結晶性αオレフィン重合体、鉱油及び増粘剤の各成分種、含有量を好適に組み合わせることにより、調製することができる。
【0046】
また、本発明のインク追従体は、温度25℃、剪断速度8000/sにおける粘度値が1.5Pa・s以上であることが好ましく、更に好ましくは、2~5Pa・sとすることが望ましい。
上記剪断速度8000/sにおける粘度値を1.5Pa・s以上とすることにより、上記瞬間的な強い応力に対するボボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)を最大限に発揮できるものとなる。
この剪断速度8000/sにおける粘度の算出方法としては、所定の粘度計を用いることなどにより求めることができる。例えば、剪断速度1/sから連続的に1000/sまで変化させ、1、10、100、1000/sと4点から得られた直線式から外挿して、8000/sの粘度値を求めることができる。なお、上記では1、10、100、1000/sと4点から得られた直線式から外挿したが、1、10、100、1000、1500/sと5点(~7点)から得られた直線式から外挿して8000/sにおける粘度を算出してもよい。
【0047】
本発明のインク追従体は、従来の水性インク(ゲルインク含む)、油性インクなどを充填したボールペン、修正液を用いたボールペン型塗布具、マーカー、サインペンなどに用いられていたインク追従体の代替として用いることができるので、筆記具に用いるインクの配合組成、インク追従体を搭載する筆記具の構造は特に限定されるものではない。
本発明のインク追従体は、好ましくは、油性インク、水性インクが収容されたボールペン用に好適に用いることができる。
【0048】
このように構成される本発明のインク追従体では、インク追従体としての性能を損なうことなく、ペン先の落下、特にペン先の上向き落下に対するボール保持性、すなわち、ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)に優れたインク追従体が得られることとなる。
【0049】
得られるインク追従体は、上記ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)に優れたものであり、インクの機能・物性を損なわず、経時的にインク追従体が、インク側に移行することもなく、かつ、インク消費に伴うインク追従体の追従応答性が高く、ボール径が0.5mm以下の細字(例えば、ボール径0.38mmなどの細字)使用にも好適に適用できるなどの特性を更に発揮することができるボールペンなどの筆記具に好適に提供することができる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1~6及び比較例1~2:インク追従体の調製〕
下記表1に示す、鉱油等、結晶性αオレフィン重合体及び増粘剤の組み合わせを調合し、常温でミキサーにて高速で約120分間攪拌し、その後ロール処理を1回行い、真空脱泡し、各インク追従体を得た。
得られた各インク追従体のSM値、温度25℃、剪断速度8000/sにおける粘度値を下記方法などにより求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0052】
〔SM(スプレッドメーター)での60秒値の測定方法〕
得られた各インク追従体について、JIS K-5701-1:2000に記載の流動性試験に準拠して、平行板粘度計(安田精機製作所製、型式506-B)により測定した。
【0053】
(温度25℃、剪断速度8000/sにおける粘度値の算出方法)
得られた各インク追従体について、下記測定機器を用いて、剪断速度1/sから連続的に1000/sまで変化させ、1、10、100、1000/sと4点から得られた直線式から外挿して、各インク追従体の8000/sの粘度値を求めた。
測定機器:Anton Paar(アントンパール社製)MCR―302
【0054】
得られた各インク追従体を用いて、下記組成のインクを調製して、下記構造のボールペン体を作製した。このボールペン体を用いて下記試験方法により、上向き落下におけるボール保持試験を行った。これらの結果を下記表1に示す。
【0055】
(筆記具用インクの調製)
常法により下記組成の筆記具用インク組成物(全量100質量%)を調製した。
FUJI RED2510(冨士色素社) 8質量%
ジョンクリル63J(BASF JAPAN社) 6質量%
KELSAN S(三晶社) 0.32質量%
プライサーフA208F(第一工業製薬社) 0.5重量%
バイオデンS(日本曹達社) 0.2質量%
ベンゾトリアゾール 0.3質量%
トリエタノールアミン 1.4質量%
プロピレングリコール 15質量%
蒸留水 68.28質量%
【0056】
〔ボールペン体(筆記具)の作製〕
内径4.7mmのポリプロピレン製インク収容管に上記インク1g充填し、その後端部に上記表1で調製した各インク追従体を0.2g充填してインク後端面とインク追従体が密接な状態となるように700Gの遠心力をペン先方向に付与して脱泡した。なお、ペン先はボール径0.38mmのステンレス製チップを用いた。
【0057】
(上向き落下におけるボール保持試験での評価方法)
得られたボールペン体(n=10本)を、それぞれ1mの高さから杉板の上に、キャップ無しで上向き落下させ、ボール脱落を下記評価基準で評価した。
評価基準:
A:10本全てボール脱落なし。
B:1~5本のボール脱落あり。
C:6~10本のボール脱落あり。
【0058】
【0059】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1~6のインク追従体を搭載したボールペン体は、本発明範囲外となる比較例1~2のインク追従体を搭載したボールペンに較べて、ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)に優れるものであることが判明した。
また、上記落下衝撃によるインク追従体のインク収容管外への飛散もなく。インクとインク追従対の界面も鮮明であり、落下試験後の筆記においてもインク追従体の追従性能も良好であることが確認された。
比較例を見ると、比較例1は先行技術文献1(特開2016-124291号公報の実施例2)に準拠するもの(ポリブテン使用)であり、比較例2は結晶性αオレフィン重合体を使用しないものであり、これらの場合は、本発明の効果を発揮できないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
インク追従性能を損なうことなく、ペン先上向き落下等による瞬間的な強い応力に対するボール保持性能(衝撃を受けた瞬間の変形を小さくする性能)に優れたボールペンなどの筆記具用に好適なインク追従体が得られる。