(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】一材型の歯面処理材
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20220916BHJP
A61K 8/20 20060101ALI20220916BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20220916BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/20
A61K8/21
A61Q11/00
(21)【出願番号】P 2018551713
(86)(22)【出願日】2017-11-17
(86)【国際出願番号】 JP2017041505
(87)【国際公開番号】W WO2018092889
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2016225020
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】畑中 憲司
(72)【発明者】
【氏名】西垣 直樹
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-176220(JP,A)
【文献】米国特許第06461161(US,B1)
【文献】特表2006-523735(JP,A)
【文献】特開平03-099007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 6/00- 6/90
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)及び水を含有し、
溶液中に溶解状態で存在する銀原子濃度が、一材型の歯面処理材の質量に対して500~125,000質量ppmであ
り、
処置後24時間以上経過しても黒変しない、一材型の歯面処理材。
【請求項2】
前記ヨウ化物イオンがヨウ化物塩(B)由来であり、前記銀イオンが銀塩(C)由来であり、前記銀塩(C)が、フッ化ジアンミン銀、硝酸銀(I)、フッ化銀(I)、塩化銀(I)、臭化銀(I)、炭酸銀(I)、ヨウ化銀(I)、酸化銀(I)、塩素酸銀(I)、過塩素酸銀(I)、クロム酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、亜硝酸銀(I)、硫酸銀(I)、チオシアン酸銀(I)、バナジン酸銀及び有機物銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物であり、前記ヨウ化物塩(B)/前記銀塩(C)のモル比が、前記銀塩(C)が一材型の歯面処理材に完全に溶解する下限値以上である、請求項1に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項3】
前記ヨウ化物イオンがヨウ化物塩(B)由来であり、前記銀イオンが銀塩(C)由来であり、前記銀塩(C)が、ヨウ化銀(I)及び有機物銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物であり、前記ヨウ化物塩(B)/前記銀塩(C)のモル比が、前記銀塩(C)が一材型の歯面処理材に完全に溶解する下限値未満である、請求項1に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項4】
前記有機物銀塩が、ギ酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、シュウ酸銀(II)、グルコン酸銀、プロピオン酸銀(I)、コハク酸銀(I)、マロン酸銀(I)、DL-酒石酸銀(I)、ラウリン酸銀(I)、パルミチン酸銀(I)、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸銀(I)、2-エチルヘキサン酸銀(I)、乳酸銀(I)、メタンスルホン酸銀(I)、サリチル酸銀(I)、p-トルエンスルホン酸銀(I)、トリフルオロ酢酸銀(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)及びステアリン酸銀(I)からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物である、請求項2又は3に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項5】
前記ヨウ化物イオンがヨウ化物塩(B)由来であり、前記ヨウ化物塩(B)が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム及びヨウ化ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項6】
ヒドロキシアパタイト板に塗布した後、25℃で照度が1200ルクスの環境下にて24時間静置して水を蒸散させた際に黒変しない、請求項1~5のいずれか1項に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項7】
さらに、水溶性フッ化物塩(D)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項8】
齲蝕防止用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の一材型の歯面処理材。
【請求項9】
知覚過敏抑制用である、請求項1~7のいずれか1項に記載された一材型の歯面処理材。
【請求項10】
ヨウ化物塩(B)の濃度が5~60質量%であるヨウ化物水溶液と、銀塩(C)とを、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が0.5以上となるように混合させる錯イオン(A)の生成工程を含み、
溶液中に溶解状態で存在する銀原子濃度が、一材型の歯面処理材の質量に対して500~125,000質量ppmであ
り、
処置後24時間以上経過しても黒変しない、請求項1~9のいずれか1項に記載の一材型の歯面処理材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一材型で取り扱いが容易で、貯蔵安定性に優れ、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行を抑制し、また、知覚過敏を抑制する歯面処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療技術の向上や8020運動に代表される啓蒙活動によって、高齢者の歯牙残存率は高まっている。しかしながら、高齢化や認知症等の発症によって、定常的な口腔ケアのレベルが低下することで、歯質根面や隣接面における同時多発的な齲蝕の増加が臨床的な課題となっている。
【0003】
このような症状の多くの場合、患者が治療のために口を十分に開くことも難しいため、コンポジットレジン等による充填修復処置は極めて困難となる。このような状況における治療方法の一つとして、銀化合物の抗菌性を利用して、齲蝕の進行を抑制させることが行われる。例えば、フッ化ジアンミン銀を配合したサホライド(ビーブランド メディコデンタル社製)等の薬剤を塗布することにより齲蝕を停止させる方法が行われてきた。しかしながら、従来の方法では、薬剤を塗布した患部が黒く変色して審美性を大きく損なうという臨床的な課題があった。
【0004】
特許文献1には、患部に銀化合物を含む液(第一液)を適用し、それから、ハロゲン化アルカリ金属やハロゲン化アルカリ土類金属を含む液(第二液)を適用する二段階の歯面処置方法が記載されている。これによれば、治療後に6ケ月経過しても二次齲蝕は発生しておらず、処置部に黒い変色は認められなかった。しかしながら、当該処置方法では、二つの薬剤が必要となり、先ず銀化合物を含む液を塗布、乾燥後に、前記第二液を塗布することで、変色の原因となる余剰な銀化合物を別の銀化合物に変えて処置部から除去するという煩雑な操作が必要であった。
【0005】
特許文献2には、フッ化ジアンミン銀と、フッ化ジアンミン銀の持続的な放出を可能とするとともに歯面に接着するキャリアとを含む組成物を患部に適用させて齲蝕を軽減させる方法が記載されている。これによれば、治療後に6ケ月経過して齲蝕の停止が認められている。しかしながら、当該処置方法では、患部が黒く変色するという課題が解決されていない。このように、一材型であり、かつ処理後に患部を黒く変色させないという点の両立は困難であり、この点を両立させた歯面処理材は存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6,461,161号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0247456号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行を抑制することができる歯面処理材を提供することを目的とする。また、本発明は、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く知覚過敏を抑制することができる歯面処理材を提供することを目的とする。さらに、本発明は、アンモニア臭もなく、使用感に優れる一材型の歯面処理材を提供することを目的とする。また、本発明は、貯蔵安定性に優れる一材型の歯面処理材を提供することを目的とする。さらに、本発明は、耐酸性に優れる一材型の歯面処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)及び水を含有する、一材型の歯面処理材を提供する。
【0009】
本発明の一材型の歯面処理材は、溶液中に溶解状態で存在する銀原子濃度が、一材型の歯面処理材の質量に対して10~125,000質量ppmであることが好ましい。
【0010】
本発明の一材型の歯面処理材は、ある実施形態としては、前記ヨウ化物イオンがヨウ化物塩(B)由来であり、前記銀イオンが銀塩(C)由来であり、前記銀塩(C)が、フッ化ジアンミン銀、硝酸銀(I)、フッ化銀(I)、塩化銀(I)、臭化銀(I)、炭酸銀(I)、ヨウ化銀(I)、酸化銀(I)、塩素酸銀(I)、過塩素酸銀(I)、クロム酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、亜硝酸銀(I)、硫酸銀(I)、チオシアン酸銀(I)、バナジン酸銀及び有機物銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物であり、前記ヨウ化物塩(B)/前記銀塩(C)のモル比が、前記銀塩(C)が一材型の歯面処理材に完全に溶解する下限値以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の一材型の歯面処理材は、他の実施形態としては、前記ヨウ化物イオンがヨウ化物塩(B)由来であり、前記銀イオンが銀塩(C)から供給され、前記銀塩(C)が、ヨウ化銀(I)及び有機物銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物であり、前記ヨウ化物塩(B)/前記銀塩(C)のモル比が、前記銀塩(C)が一材型の歯面処理材に完全に溶解する下限値未満であることが好ましい。
【0012】
本発明の一材型の歯面処理材は、前記有機物銀塩が、ギ酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、シュウ酸銀(II)、グルコン酸銀、プロピオン酸銀(I)、コハク酸銀(I)、マロン酸銀(I)、DL-酒石酸銀(I)、ラウリン酸銀(I)、パルミチン酸銀(I)、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸銀(I)、2-エチルヘキサン酸銀(I)、乳酸銀(I)、メタンスルホン酸銀(I)、サリチル酸銀(I)、p-トルエンスルホン酸銀(I)、トリフルオロ酢酸銀(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)及びステアリン酸銀(I)からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物であることが好ましい。
【0013】
本発明の一材型の歯面処理材は、前記ヨウ化物イオンがヨウ化物塩(B)由来であり、前記ヨウ化物塩(B)が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム及びヨウ化ストロンチウムからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0014】
本発明の一材型の歯面処理材は、ヒドロキシアパタイト板に塗布した後、25℃で照度が1200ルクスの環境下にて24時間静置して水を蒸散させた際に黒変しないことが特長の1つである。
【0015】
本発明の一材型の歯面処理材は、水溶性フッ化物塩(D)を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の一材型の歯面処理材は、齲蝕防止用である。
【0017】
本発明の一材型の歯面処理材は、知覚過敏抑制用である。
【0018】
また、本発明は、ヨウ化物塩(B)の濃度が5~60質量%であるヨウ化物水溶液と、銀塩(C)とを、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が0.5以上となるように混合させる錯イオン(A)の生成工程を含む一材型の歯面処理材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行を抑制することができる歯面処理材を提供することができる。また、本発明は、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く知覚過敏を抑制する歯面処理材を提供することができる。さらに、本発明は、アンモニア臭もなく、使用感に優れる一材型の歯面処理材を提供することができる。また、本発明は、貯蔵安定性に優れる一材型の歯面処理材を提供することを目的とする。さらに、本発明は、耐酸性に優れる一材型の歯面処理材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例2に係る一材型の歯面処理材に、水を同量添加して析出させた析出物のX線回折分析の結果を示す分析チャートである。
【
図2】本発明の実施例15に係る一材型の歯面処理材に、水を同量添加して析出させた析出物のX線回折分析の結果を示す分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)及び水を含有することを特徴とする一材型の歯面処理材である。
【0022】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0023】
銀イオンは細菌に対して殺菌力を有するため、広く抗菌剤として使用されており、齲蝕の抑制を目的に歯科用薬剤としても応用されている。しかしながら、従来から用いられている銀系の歯科用薬剤は空気中では酸化銀(I)(Ag2O)を生成して処置した箇所が黒く変色する。さらには、酸化銀(I)の生成を回避するために、銀化合物を含む液(第一液)を塗布後、ハロゲン化アルカリ金属やハロゲン化アルカリ土類金属を含む液(第二液)を塗布して、患部に過剰に存在する銀化合物を化学的に除去する方法も用いられているが、二材型であり操作が煩雑である(特許文献1参照)。
【0024】
それに対し本発明者らは、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行を抑制し、また、知覚過敏を抑制する歯面処理材を開発するにあたり、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)及び水を含有することを特徴とする組成物が、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行を抑制し、また、知覚過敏を抑制することができることを見出した。
【0025】
本発明の一材型の歯面処理材が、一材型で取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行を抑制できることについては、以下のように考えられる。先ず、処置部が酸化銀(I)(Ag2O)の生成によって黒く変色しないようにするために、歯面処理材を塗布した後に、空気中では黒変し難いヨウ化銀(AgI)を生成させることとした。次に、齲蝕の進行を抑制するために、銀化合物は歯面処理材中に銀イオン状態で存在する必要があるが、ヨウ化銀は水には殆ど溶解しない。しかしながら、ヨウ化物塩(B)を含む水溶液中では、ヨウ化銀は溶解して銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)として存在し得る。特許文献1に記載された方法では、効果を得るために余剰な銀化合物を除去していたのに対して、本発明では、銀化合物について、ヨウ化物塩(B)を含む水溶液の形でヨウ化銀の存在下に供給することで、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)として存在させることによって齲蝕抑制効果を得るものである。このため、本発明の一材型の歯面処理材は、銀は予めイオン状態で存在しており、歯の隣接面等の塗布器具が届きにくい場所に対しても極めて容易に行き渡ることができる。これによって、如何なる患部においても優れた齲蝕抑制効果が期待される。また、患部に浸透した銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)は、歯質中ではヨウ化銀になって析出するために処置部が黒変しない。さらには、この銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む溶液は、それ自体が黒変や再沈殿することなく安定であるため、一材型として容易に貯蔵及び取り扱うことができる。また、本発明の一材型の歯面処理材は、口腔内で必要な耐酸性を有する。
【0026】
また、歯面処理材を塗布した後に歯質にヨウ化銀を生成させる手段として、上述のようにヨウ化銀自体をヨウ化物塩(B)を含む水溶液中に溶解させて銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を得る以外にも、ヨウ化物塩(B)を含む水溶液中に溶解し得るヨウ化銀以外の銀塩(C)を選択することも効果的である。ヨウ化銀以外の銀塩(C)は、ヨウ化物塩(B)を含む水溶液中に溶解すると、Ag-I結合が強い共有結合性を帯びるため、安定な銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)が生成するものと考えられる。
【0027】
本発明の一材型の歯面処理材が、一材型で、取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く知覚過敏を抑制することができることについては、以下のように考えられる。歯面処理材が象牙細管の中に浸透すると象牙細管内に存在する組織液と接触する。銀イオンは組織液を構成する蛋白質の特にチオール基と反応性が高い。反応した結果、蛋白質が変性することで象牙細管内の組織液の粘度が上昇して、象牙細管内での組織液の移動が抑制されることで知覚過敏が抑制されると考えられる。また、象牙細管内で析出してくるヨウ化銀による物理的封鎖も知覚過敏の抑制に併せて効果的であると考えられる。本発明の一材型の歯面処理材が、知覚過敏抑制用である場合、象牙細管封鎖率が高いことが好ましい。知覚過敏抑制材として用いる場合、溶液中に溶解状態で存在する銀原子濃度は、一材型の歯面処理材の質量に対して500~125,000質量ppmが好ましく、2,000~125,000質量ppmがより好ましく、10,000~125,000質量ppmがさらに好ましい。
【0028】
本発明の一材型の歯面処理材は、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)及び水を含有するが、溶液中に溶解状態で存在する銀原子の濃度は、一材型の歯面処理材の質量に対して10~125,000質量ppmであることが好ましい。銀原子濃度が10質量ppm未満の場合、歯面処理材を塗布した際の齲蝕抑制効果が、市販の齲蝕抑制材(例えば、サホライド等)と比較してかなり小さくなる。銀原子濃度は、好適には1000質量ppm以上であり、より好適には10000質量ppm以上である。一方、濃度が125,000質量ppmを超える場合には、それ以上の濃度になっても抗菌効果が変わらない。銀化合物は一般的には高価であるのでコスト面でもメリットがなくなる。また、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)が溶解しきれなくなりヨウ化銀が析出するおそれがある。銀原子濃度は、より好適には120,000質量ppm以下である。銀原子濃度の算出方法は、後記する実施例のとおりである。
【0029】
本発明の一材型の歯面処理材に使用される銀イオンは、銀塩(C)由来であり、特に限定されないが、銀塩(C)は、ある実施形態(「第一実施形態」ともいう。)では、フッ化ジアンミン銀(Ag(NH3)2F)、硝酸銀(I)、フッ化銀(I)、塩化銀(I)、臭化銀(I)、炭酸銀(I)、ヨウ化銀(I)、酸化銀(I)、塩素酸銀(I)、過塩素酸銀(I)、クロム酸銀(I)、ヘキサフルオロアンチモン(V)酸銀、ヘキサフルオロリン酸銀(I)、亜硝酸銀(I)、硫酸銀(I)、チオシアン酸銀(I)、バナジン酸銀(AgVO3)及び有機物銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用される。これらの中でも、溶液中の銀濃度を高めやすいため、ヨウ化銀(I)がより好適である。本発明の歯面処理材に使用される銀塩(C)が、前記第一実施形態における好適な化合物である場合には、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が、前記銀塩(C)が一材型の歯面処理材に完全に溶解する下限値以上であることが好ましい。但し、後述のようにヨウ化銀(I)及び有機物銀塩はその限りではない。ここで、「完全に溶解する下限値」とは、目視で銀塩(C)が溶解しているヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比の下限値を意味する。
【0030】
銀塩(C)が完全に溶解する下限値については、銀塩(C)のタイプによって異なる。フッ化銀(I)、臭化銀(I)、2-エチルヘキサン酸銀(I)等のAgX(XはAg原子の結合対象となる原子又は官能基を意味する。)タイプの場合、銀塩(C)が完全に溶解する下限値は、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が3.5となる。すなわち、第一実施形態の一材型の歯面処理材としては、AgXタイプの場合、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比は3.5以上が好ましい。但し、AgXタイプでもヨウ化銀(I)の場合、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比は1.9以上が好ましい。次に、酸化銀等のAg2Xタイプの場合は、銀塩(C)が完全に溶解する下限値は、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が7.5となる。すなわち、第一実施形態の一材型の歯面処理材としては、Ag2Xタイプの場合、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比は7.5以上が好ましい。さらには、クエン酸銀等のAg3Xタイプの場合は、銀塩(C)が完全に溶解する下限値は、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が10となる。すなわち、第一実施形態の一材型の歯面処理材としては、Ag3Xタイプの場合、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比は10以上が好ましい。ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が、銀塩(C)のタイプ毎の下限値未満の場合は、歯面処理材中に未溶解の銀塩(C)が存在する。このため、銀塩(C)の種類によっては、歯面処理材を塗布した際に未溶解の銀塩(C)が酸化されて黒変するおそれがある。
【0031】
本発明の一材型の歯面処理材に使用される銀塩(C)が、それ自体が黒変し難いヨウ化銀(I)及び有機物銀塩である場合は、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が、前記の銀塩(C)が一材型の歯面処理材に完全に溶解する下限値未満であっても構わない。そのため、他の実施形態(「第二実施形態」ともいう。)としては、銀塩(C)が、ヨウ化銀(I)及び有機物銀塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の銀化合物であり、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が、前記銀塩(C)が完全に溶解する下限値未満である実施形態が挙げられる。歯面処理材中に未溶解の銀塩(C)が存在するものの、歯面処理材を塗布した際に、銀塩(C)がヨウ化銀(I)又は有機物銀塩であるため、第二実施形態の一材型の歯面処理材も黒変し難い。
【0032】
本発明の一材型の歯面処理材に使用される有機物銀塩としては特に限定されないが、ギ酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、シュウ酸銀(II)、グルコン酸銀、プロピオン酸銀(I)、コハク酸銀(I)、マロン酸銀(I)、DL-酒石酸銀(I)、ラウリン酸銀(I)、パルミチン酸銀(I)、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸銀(I)、2-エチルヘキサン酸銀(I)、乳酸銀(I)、メタンスルホン酸銀(I)、サリチル酸銀(I)、p-トルエンスルホン酸銀(I)、トリフルオロ酢酸銀(I)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(I)及びステアリン酸銀(I)からなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。これらの中でも、生体への安全性の観点から、ギ酸銀(I)、クエン酸銀(I)、シュウ酸銀(II)、プロピオン酸銀(I)、コハク酸銀(I)、2-エチルヘキサン酸銀(I)、乳酸銀(I)、サリチル酸銀(I)、N,N-ジエチルジチオカルバミド酸銀(I)がより好適である。
【0033】
本発明に使用されるヨウ化物イオンは、ヨウ化物塩(B)由来であり、特に限定されないが、ヨウ化物塩(B)が、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム及びヨウ化ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。これらの中でも、銀塩(C)の溶解性の点から、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化カリウムがより好適である。
【0034】
本発明の一材型の歯面処理材は、歯質等に塗布後に水を蒸散させると歯質の内部と表層にヨウ化銀(I)が生成するため、処置後24時間以上経過しても黒変しない。実施例に記載の方法で黒変の度合いを数値化した。歯面処理材を塗布する前のL値から歯面処理材を塗布した後のL値を引いた値、すなわち、歯面処理材の塗布前後の色差(△L*)が20以下であることが好ましい。好適には15以下であり、より好適には10以下である。色差の測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【0035】
本発明の一材型の歯面処理材は、耐酸性の観点から、ある実施形態では、さらに水溶性フッ化物塩(D)を含むことが好ましい。水溶性フッ化物塩(D)としては特に限定されないが、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類等が挙げられる。中でも生体への安全性の観点からフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズが好適に用いられる。
【0036】
本発明の一材型の歯面処理材において、水溶性フッ化物塩(D)の濃度は、換算フッ素イオン濃度として0.01~5.0%が好ましい。濃度が0.01%未満の場合、歯面処理材を塗布した歯質の耐酸性が向上しないおそれがある。濃度は、より好適には0.02%以上である。一方、濃度が5.0%を超える場合には、生体への安全性が損なわれるおそれがある。水溶性フッ化物塩(D)の濃度はより好適には4.5%以下である。
【0037】
本発明の一材型の歯面処理材の製造方法は特に限定されないが、例えば、ヨウ化物塩(B)、銀塩(C)と水を混合させて溶解させる方法;ヨウ化物塩(B)と水の溶液に、銀塩(C)を加えて溶解させる方法;銀塩(C)と水の混合液に、ヨウ化物塩(B)を加えて溶解させる方法等によって、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を生成させる工程を含む。また、前記諸成分を混合させた後で溶解させる手段は特に限定されないが、撹拌羽を使った撹拌溶解、振動溶解、超音波溶解、自転公転式撹拌溶解等の方法で達成できる。
【0038】
本発明の一材型の歯面処理材の製造方法として、例えば、ヨウ化物塩(B)と水の溶液に、銀塩(C)を加えて溶解させる方法の場合には、ヨウ化物塩(B)の濃度が5~60質量%であるヨウ化物水溶液と、銀塩(C)とを、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比が0.5以上となるように混合させる錯イオン(A)の生成工程を含むことが好ましい。ヨウ化物塩(B)の濃度は、銀塩(C)の溶解性の観点から、好適には10質量%以上であり、より好適には20質量%以上である。一方、60質量%を超える場合にはヨウ化物塩(B)が未溶解状態になるため、好適には55質量%以下である。また、ヨウ化物塩(B)/銀塩(C)のモル比は、銀塩(C)の溶解性の観点から、好適には1.0以上であり、より好適には2.0以上である。
【0039】
本発明の一材型の歯面処理材は、本発明の効果を阻害しない範囲で、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)、ヨウ化物塩(B)、銀塩(C)、水溶性フッ化物塩(D)並びに水以外の他の成分を含有しても構わない。例えば、増粘剤、溶剤、着色剤、香料等を配合することができる。他の成分の含有量は、特に限定されないが、一材型の歯面処理材中、10質量%未満が好ましく、5質量%未満がより好ましく、1質量%未満がさらに好ましい。
【0040】
上記増粘剤としては特に限定されず、微粒子シリカ、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリ-L-リジン、ポリ-L-リジン塩、セルロース以外のデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、グアーガム、キタンサンガム、セルロースガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ペクチン、ペクチン塩、キチン、キトサン等の多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル、またコラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体等のタンパク質類等の高分子等から選択される1つ又は2つ以上が挙げられる。
【0041】
上記溶剤としては特に限定されないが、水溶性のテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、エタノール、メタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、Tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、1,2-ジメトキシエタン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、生体への安全性が高いエタノール、1-プロパノール、アセトン、グリセリンが好ましい。
【0042】
また、必要に応じて、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール;アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出液、サッカリン、サッカリンナトリウム等の人工甘味料等を加えてもよい。さらに、薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。セチルピリジニウムクロリド等に代表される抗菌剤;消毒剤;抗癌剤;抗生物質;アクトシン、PGE1等の血行改善薬;bFGF、PDGF、BMP等の増殖因子;骨芽細胞;象牙芽細胞;さらに未分化な骨髄由来幹細胞;胚性幹(ES)細胞;線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞並びにこれらを分化させた細胞等硬組織形成を促進させる細胞等を配合させることができる。
【0043】
本発明の一材型の歯面処理材は、少なくとも銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)及び水を含む溶液として得られ、操作性に優れ、齲蝕の進行抑制や知覚過敏の抑制を可能とし、且つ、患部は黒変しないため審美的な治療が可能である。また、アンモニア臭もなく、歯肉に対する刺激性もなく、使用感に優れる。さらに、本発明の一材型の歯面処理材は、一材型として安定的に貯蔵でき、貯蔵安定性に優れる。また、本発明の一材型の歯面処理材は、口腔内で必要な耐酸性に優れる。
【0044】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0046】
実施例及び比較例のための原材料には以下のものを使用した。
ヨウ化カリウム:和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
ヨウ化ナトリウム:和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
ヨウ化銀(I):和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
フッ化銀(I):和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
臭化銀(I):和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
酸化銀(I):和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
クエン酸銀(I):和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
2-エチルヘキサン酸銀(I):和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
フッ化カリウム:和光純薬工業株式会社製品をそのまま使用した。
フッ化ジアンミン銀を38質量%含有する水溶液:サホライド(ビーブランドメディコ社製品)をそのまま使用した。
【0047】
[実施例1]
ヨウ化カリウム3.65gを水3.65gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)2.7gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0048】
[実施例2]
ヨウ化カリウム3.8gを水3.8gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)2.4gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0049】
[実施例3]
ヨウ化カリウム4.88gを水4.88gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.24gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0050】
[実施例4]
ヨウ化カリウム4.988gを水4.988gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.024gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0051】
[実施例5]
ヨウ化カリウム4.998gを水4.998gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.004gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0052】
[実施例6]
ヨウ化カリウム3.14gを水5.82gに加えて撹拌溶解させて、35質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)1.04gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0053】
[実施例7]
ヨウ化カリウム2.3gを水6.88gに加えて撹拌溶解させて、25質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.82gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0054】
[実施例8]
ヨウ化カリウム1.49gを水8.462gに加えて撹拌溶解させて、15質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.048gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0055】
[実施例9]
ヨウ化カリウム0.7gを水9.29gに加えて撹拌溶解させて、7質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.01gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0056】
[実施例10]
ヨウ化カリウム4.23gを水3.07gに加えて撹拌溶解させて、58質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)2.7gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0057】
[実施例11]
ヨウ化ナトリウム3.8gを水3.8gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化ナトリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)2.4gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0058】
[実施例12]
ヨウ化カリウム4.55gを水4.55gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにフッ化銀(I)0.9gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0059】
[実施例13]
ヨウ化カリウム4.31gを水4.31gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらに臭化銀(I)1.38gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0060】
[実施例14]
ヨウ化カリウム4.61gを水4.61gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらに酸化銀(I)0.78gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0061】
[実施例15]
ヨウ化カリウム4.36gを水4.36gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにクエン酸銀(I)1.28gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0062】
[実施例16]
ヨウ化カリウム4.13gを水4.13gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらに2-エチルヘキサン酸銀(I)1.74gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0063】
[実施例17]
ヨウ化カリウム3.5gを水3.5gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)3.0gを加えて室温にて撹拌することで、未溶解のヨウ化銀と、銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0064】
[実施例18]
ヨウ化カリウム3.5gを水3.5gに加えて撹拌溶解させて、50質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)2.4g、フッ化カリウム0.6gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0065】
[実施例19]
ヨウ化カリウム2.71gを水5.04gに加えて撹拌溶解させて、35質量%ヨウ化カリウム水溶液を調製した。この溶液にさらにヨウ化銀(I)0.9g、フッ化カリウム1.35gを加えて室温にて撹拌溶解することで、無色透明の銀イオンとヨウ化物イオンの錯イオン(A)を含む歯面処理材を得た。本材は一材型である。
【0066】
[比較例1]
フッ化ジアンミン銀を38質量%含有する水溶液としてサホライドを用いた。本材は一材型である。
【0067】
[比較例2]
A液として、フッ化ジアンミン銀を38質量%含有する水溶液としてサホライドを用いた。B液として、ヨウ化カリウム4.0gを水6.0gに加えて撹拌溶解させた。本材は二材型である。試験に供する場合は、先ず、A液を塗布、水洗、乾燥させた後に、B液を塗布、水洗、乾燥させた。
【0068】
[抗菌力試験(阻止円形成試験)]
JIS L 1902:2008「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」の定性試験(ハロー法)に準じて評価した。
(1)試験菌液の培養
精製水1000mLに対して肉エキス5.0g、ペプトン10.0g及び塩化ナトリウム5.0gを混合し溶解させた後で、pH7.0になるように0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で調製し、高圧蒸気殺菌して、ブイヨン培地を調製した。このブイヨン培地にミュータンス菌を1白金耳移植して、37℃で24時間培養し、菌濃度を7.1×106個/mLに調製した。
【0069】
(2)混釈平板培地の調製
上記(1)で得られた菌液1mLを滅菌したシャーレに入れて、45℃に保温した普通寒天培地15mLをシャーレに加えて十分に混ぜた後、室温で放置して寒天を凝固させる。これを倒置させて、室温でさらに1時間放置して余分な水分を乾燥させた。
【0070】
(3)試験片の設置及び培養
実施例、比較例で調製した溶液0.05mLを予め含浸させたペーパーディスク(直径10mm)を上記(2)で得られた混釈平板培地の中央に置いて密着させた。その後、37℃にて24時間培養した。
【0071】
(4)阻止円の測定
培養後に、ペーパーディスクの周囲にできた阻止円について、シャーレの底側から下記に基づいて阻止円の幅を算出する。
W=(T-D)/2
(式中、Wは阻止円(ハロー)の幅(mm)を表し、Tはペーパーディスクの長さと阻止円の幅の合計(mm)を表し、Dはペーパーディスクの長さ(mm)を表す。)
【0072】
[変色試験(黒変)]
(1)歯面処理材の塗布
縦横各々10mm、厚さ2mmのヒドロキシアパタイト板(HOYAテクノサージカル株式会社製)の上に、歯面処理材を0.01mL採取し、マイクロブラシレギュラー(Microbrush社製)を用いて、ヒドロキシアパタイト板の表面全体に行き渡るよう10秒間塗布した。その後、25℃で照度が1200ルクスの環境下にて24時間静置して水を蒸散させた。
【0073】
(2)変色の評価
上記(1)で得られたヒドロキシアパタイト板の歯面処理材を塗布した部分について、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、型番CM-3610d、JIS Z 8722:2009、条件cに準拠、光源D65、白バック)でL値(サンプルの背後に標準白板を置いて色度を測定した場合のJIS Z 8781-4:2013のL*a*b*表色系における明度指数L*を表す明度)を測定し、歯面処理材を塗布する前のL値(初期値)との色差(△L*)を求めることで黒変を評価した。
【0074】
[耐酸性試験]
(1)牛歯試験片の作製
健全牛歯切歯の頬側中央を耐水研磨紙で80番、1000番の順に研磨して象牙質を露出し、該象牙質の露出面(平面)をラッピングフィルム(スリーエム ジャパン株式会社製)で1200番、3000番、8000番の順に研磨し、該象牙質の露出面を鏡面仕上げした。次いで、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)の5倍希釈溶液に30秒間浸漬後、60秒間水洗した。作製した牛歯試験片の中央部の3mm×3mm四方の試験窓を除いてマニキュアで被覆した。
【0075】
(2)歯面処理材の塗布、酸浸漬サンプルの作製
3mm×3mm四方の試験窓に、歯面処理材を0.01mL滴下し、マイクロブラシレギュラー(Microbrush社製)を用いて塗布し、25℃にて4分間静置した。その後、牛歯試験片に塗布した歯面処理材を蒸留水で洗浄し、37℃の蒸留水中に24時間浸漬した。その後、さらに牛歯試験片を、乳酸緩衝液(pH=2.75)が20mL入った個別の容器に、試験窓を上向きにして37℃にて8時間浸漬した。その後、蒸留水で牛歯試験片を水洗後に乾燥した。
【0076】
(3)耐酸性の評価
上記(2)で作製した牛歯試験片から、上記(1)で被覆したマニキュアをカミソリで慎重に剥がした。マニキュアで保護されていた試験窓周囲を基準面として、酸浸漬により脱灰された試験窓の底面と基準面までの垂直距離を脱灰深さとして、3Dレーザー顕微鏡(VK-9710、株式会社キーエンス製)で測定した。測定は、3mm×3mm四方の試験窓の各辺について行い、その平均値を求めた。脱灰深さの値が小さいほど、耐酸性に優れる。歯面処理材を塗布しない場合は、103μmであった。
【0077】
[貯蔵安定性試験]
実施例1~19及び比較例1~2から得られる液状物5gをガラス製サンプル管に精秤し、25℃にて静置した。その貯蔵安定性について、以下の評価基準に従い評価した。
A:調製後1ヶ月を超えて、沈殿物、並びに変色がなく透明な性状を維持している。
B:調製後~1ヶ月において、沈殿物、並びに変色がなく透明な性状を維持している。
C:調製後において、沈殿物、又は変色が生じており、良好な性状を維持できない。
【0078】
[溶液中に溶存している銀原子濃度]
(1)銀塩(C)が完全溶解している系
組成物中の銀塩(C)の配合比率(質量比)に基づき、銀原子濃度(質量ppm)を算出した。
【0079】
(2)銀塩(C)が未溶解である系
銀イオンメーター(KDD株式会社製)を用いて、溶液中に溶解している銀原子濃度を測定した。測定対象の溶液に上記銀イオンメーター付属の発色試薬を加えて十分に振って混ぜる。発色した溶液を銀イオンメーターにセットして、銀原子濃度を測定した。銀原子濃度が、測定器の測定範囲の上限を超えた場合は、組成物を50質量%ヨウ化カリウム水溶液にて希釈して再測定する。
【0080】
[水添加によって生じる析出物の成分分析]
(1)X線回折分析用のサンプル調製
実施例で調製した組成物に同質量の水を添加する。生じた析出物を濾別して水洗、乾燥させて、X線回折分析用の粉体サンプルを調製した。
【0081】
(2)X線回折分析
上記で得た粉体サンプルを、SiO2製試料板に充填し、X線回折分析装置(SmartLab、株式会社リガク製)に設置して、管電圧・管電流は45kV-200mA、検出器は一次元半導体検出器にて、組成解析を行った。
【0082】
[実施例1~19]
上記に示す手順により、抗菌力、変色、耐酸性、貯蔵安定性、水添加時の析出物を評価した。得られた評価結果を表1~4に示す。なお、水添加時の析出物は実施例2及び15のみについて行った。実施例2及び15で得られた歯面処理材に水を同量添加して析出させた析出物に対して、X線回折分析を行って得られた分析チャートを
図1及び2に示す。実施例2、15ともに析出物の主成分はヨウ化銀(I)であり、六方晶と立方晶の二種類の結晶構造の混合物であることが確認された。
【0083】
[比較例1~2]
上記実施例と同様の手順により、抗菌力、変色、耐酸性、貯蔵安定性を評価した。得られた評価結果を表5及び6に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
前記実施例1~19及び比較例1について、象牙細管封鎖率を以下の方法で測定した。結果を表7に示す。
【0091】
[象牙細管封鎖率試験]
(1)牛歯ディスクの作製
健全牛歯切歯の頬側中央を耐水研磨紙で80番、1000番の順に研磨して象牙質を露出し、直径約7mm、厚さ2mmのディスク状にした。この牛歯研磨面をさらにラッピングフィルム(住友スリーエム株式会社製)で1200番、3000番、8000番の順に研磨した。次いで、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)の5倍希釈溶液に30秒間浸漬後、60秒間水洗し、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業株式会社製)を60秒間作用させた後、60秒間水洗した。
【0092】
(2)人工唾液の調製
塩化ナトリウム(8.77g、150mmol)、リン酸二水素一カリウム(122mg、0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg、1.5mmol)、Hepes(4.77g、20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに撹拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメーター(F55、株式会社堀場製作所)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を適下し、pH7.0とした。
【0093】
(3)象牙細管の封鎖
上記(1)で得られた牛歯ディスクの頬側象牙質表面上に、歯面処理材を0.1ml滴下し、3分間静置した。その後、牛歯ディスク表面を蒸留水で洗浄し、上記(2)で得られた人工唾液に37℃、24時間浸漬してSEM観察用の試験片を得た。
【0094】
(4)SEM観察
上記(3)で得られた試験片を、室温、減圧下で1時間乾燥し、金属蒸着処理した後、歯面処理材処理面上の任意の3点を、走査型電子顕微鏡(S-3500N、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率3000倍で観察した。各観察視野内の象牙細管封鎖率を下記式に従って計算し、3点の値を平均した。試験はn=5で行い、各試験で得られた値を平均して、象牙細管封鎖率とした。試験片の象牙細管封鎖率は下記式にて求めた。
象牙細管封鎖率(%)={(封鎖された象牙細管の数)/(象牙細管の数)}×100
【0095】
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の一材型の歯面処理材は、取り扱いが容易で、治療部位の審美面を損なうこと無く齲蝕の進行抑制及び知覚過敏の抑制に有用である。また、本発明の一材型の歯面処理材は、アンモニア臭もせず、使用感に優れ、齲蝕進行抑制材、知覚過敏抑制材等として好適に用いることができる。さらに、本発明の一材型の歯面処理材は、耐酸性及び貯蔵安定性に優れる。