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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】起倒式マスト構造物
(51)【国際特許分類】
   B63B 15/02 20060101AFI20220916BHJP
【FI】
B63B15/02 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019016377
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020121700
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)譲渡日:平成30年2月9日(2)譲渡場所:株式会社名村造船所 伊万里事業所(佐賀県伊万里市黒川町塩屋5-1)(3)公開者:株式会社名村造船所(4)公開された発明の内容:株式会社名村造船所が、株式会社名村造船所 伊万里事業所において、古野洋樹及び溝上健が発明した「起倒式マスト構造物」を備えた船舶(11万5千トン型油送船「SPERCHIOS」)をJASMINE SHIPHOLDINGS INC.に譲渡した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)譲渡日:平成30年8日17日(2)譲渡場所:株式会社名村造船所 伊万里事業所(佐賀県伊万里市黒川町塩屋5-1)(3)公開者:株式会社名村造船所(4)公開された発明の内容:株式会社名村造船所が、株式会社名村造船所 伊万里事業所において、古野洋樹及び溝上健が発明した「起倒式マスト構造物」を備えた船舶(11万5千トン型油送船「SEA PANTHER」)をPOTENTIAL INVESTMENT CO.に譲渡した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)譲渡日:平成31年1月7日(2)譲渡場所:株式会社名村造船所 伊万里事業所(佐賀県伊万里市黒川町塩屋5-1)(3)公開者:株式会社名村造船所(4)公開された発明の内容:株式会社名村造船所が、株式会社名村造船所 伊万里事業所において、古野洋樹及び溝上健が発明した「起倒式マスト構造物」を備えた船舶(11万5千トン型油送船「SEA PUMA」)をMEDLEY INVESTMENT COMPANYに譲渡した。
(73)【特許権者】
【識別番号】391058082
【氏名又は名称】株式会社名村造船所
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】古野 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】溝上 健
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-108382(JP,A)
【文献】実開昭60-118588(JP,U)
【文献】特開昭60-042196(JP,A)
【文献】米国特許第04546718(US,A)
【文献】実開昭52-038890(JP,U)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0031451(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 15/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に備えられた設置用構造物上に設けられたステージ上に直接または間接的に回転可能に固定された回転構造部を中心にして起倒可能に固定されたマスト構造体と、
前記マスト構造体を倒す際には前記マスト構造体を徐々に傾倒させる力を発生し、前記マスト構造体を起こす際には前記マスト構造体を徐々に起立させる力を発生する起倒力発生機構を備えた起倒式マスト構造物であって、
前記回転構造部は、前記ステージ上に間隔を開けて配置され且つ前記ステージに沿って延びる仮想中心線を中心としてそれぞれ回転する2つの回転部から構成されており、
前記マスト構造体は、
一端が前記2つの回転部にそれぞれ固定され他端が直接または間接的に相互に連結された2本のメインフレームと、
前記2本のメインフレームのそれぞれに対して前記マスト構造体が傾倒する方向とは逆の方向に位置して、一端が前記2つの回転部にそれぞれ固定され他端が直接または間接的に前記2本のメインフレームに固定され、前記一端と前記他端との間に前記逆の方向に向かって凸となる頂部を有する2本のサブフレームと、
前記2本のメインフレーム間、前記2本のサブフレーム間及び前記2本のメインフレームと前記2本のサブフレームとの間に配置された複数本の補強フレームを備えた骨組構造からなり、
前記ステージ上には、前記マスト構造体に対して前記逆の方向に位置して、起立した状態の前記マスト構造体の前記2本のサブフレームまたは前記補強フレームに当接する当接部を備えて前記マスト構造体を支持する支持構造物をさらに備えていることを特徴とする起倒式マスト構造物。
【請求項2】
船舶に備えられた設置用構造物上に設けられたステージ上に直接または間接的に回転可能に固定された回転構造部を中心にして起倒可能に固定されたマスト構造体と、
前記マスト構造体を倒す際には前記マスト構造体を徐々に傾倒させる力を発生し、前記マスト構造体を起こす際には前記マスト構造体を徐々に起立させる力を発生する起倒力発生機構を備えた起倒式マスト構造物であって、
前記回転構造部は、前記ステージ上に間隔を開けて配置され且つ前記ステージに沿って延びる仮想中心線を中心としてそれぞれ回転する2つの回転部から構成されており、
前記マスト構造体は、
一端が前記2つの回転部にそれぞれ固定され他端が直接または間接的に相互に連結された2本のメインフレームと、
前記2本のメインフレームの上下方向の中央部よりも前記ステージ側に設けられて前記2本のメインフレームを連結する複数本の横フレームと、
前記2本のメインフレームのそれぞれに対して前記マスト構造体が傾倒する方向とは逆の方向に位置しており、前記複数本の横フレームのうち最も前記ステージに近い位置にある1本の前記横フレームに一端が固定され、他端が直接または間接的に前記2本のメインフレームに固定され、且つ、前記一端と前記他端との間に前記逆の方向に向かって凸となる頂部を有する1本のサブフレームと、
前記2本のメインフレームと前記1本のサブフレームとの間に配置された複数本の補強フレームを備えた骨組構造からなり、
前記ステージ上には、前記マスト構造体に対して前記逆の方向に位置して、起立した状態の前記マスト構造体の前記1本のサブフレームに当接する当接部を備えて前記マスト構造体を支持する支持構造物をさらに備えていることを特徴とする起倒式マスト構造物。
【請求項3】
前記ステージ上面から上方向に計測した、傾倒した状態の前記マスト構造体の最大高さ寸法は、前記ステージ上面から上方向に計測した前記支持構造物の高さ寸法よりも低く、
前記支持構造物の前記当接部は、前記支持構造物の上端近傍に設けられている請求項1または2に記載の起倒式マスト構造物。
【請求項4】
前記支持構造物の前記当接部は、起立した状態における前記マスト構造体の重心よりも下側で且つ前記重心よりも前記逆の方向にある位置で前記サブフレームまたは前記補強フレームと当接する請求項1または2に記載の起倒式マスト構造物。
【請求項5】
前記マスト構造体の重心は、前記起倒力発生機構が前記力を発生していないときに、前記マスト構造体が自重で倒れる位置に存在する請求項1または2に記載の起倒式マスト構造物。
【請求項6】
前記起倒力発生機構は、
前記マスト構造体の前記サブフレームの前記頂部の下方にあって前記当接部が当接する部分より下の位置に設けられた定滑車と、
前記支持構造物よりも前記逆の方向に配置されたウィンチと、
前記支持構造物に設けられたガイドローラと、
前記支持構造物の前記ガイドローラより下の位置に設けられたガイド部と、
一端が前記ウィンチに巻回され、他端が前記ステージまたは前記支持構造物の前記ガイド部が設けられた位置よりも下の位置に固定され、前記ガイドローラと前記ガイド部と前記定滑車によりガイドされるように配置されたワイヤとから構成されている請求項1または2に記載の起倒式マスト構造物。
【請求項7】
前記サブフレームと前記支持構造物の間には、前記マスト構造体を傾倒させ、傾倒が完了すると張力を発生する連結体が備えられている請求項1または2に記載の起倒式マスト構造物。
【請求項8】
前記マスト構造体が前記支持構造物の前記当接部に当接した状態で前記マスト構造体を前記支持構造物に固定する固定具をさらに備えている請求項1または2に記載の起倒式マスト構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に備えられた設置用構造物上に設けられたステージ上に設置された起倒式マスト構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の甲板上には、レーダー等を設置するための設置用構造物が備えられている。設置用構造物上には、ステージが設けられており、ステージ上にレーダー等を直接設置するマストが設置されている。
【0003】
橋の下等、高さ制限のある場所を船舶が航行する際に、一時的にマスト構造物の高さを低くして、その場所を通過することが行われている。例えば、実開平4-58496号公報(特許文献1)の図1乃至図3には、従来の起倒式マスト構造物が開示されている。この起倒式マスト構造物は、固定マスト(7)に対して可動マスト(8)が軸(10)を中心にするヒンジ(9)を介して支持されており、また可動マスト(8)は2本の支持脚(14)によって補強された状態で支持されている。2本の支持脚(14)は、固定マスト(7)の後方に位置する固定支持脚(16)と継手フランジ(17)を介して固定支持脚(16)と連結される可動支持脚(18)を有している。可動マスト(8)と可動支持脚(18)を倒す際には、継手フランジ(17)の図示しない取付ボルトを外し、ウインチ(21)で巻いたワイヤロープを繰り出すことにより、固定マスト(7)から離すように、可動マスト(8)と可動支持脚(18)をヒンジ(9)を中心にして回転する。可動マスト(8)を倒した状態で、ステージ上には、固定マスト(7)と固定支持脚(16)が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平4-58496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の起倒式マスト構造物は、起倒作業中や、可動マスト(8)を倒した状態では、可動マスト(8)がヒンジ(9)を介して台(4)に固定された固定マスト(7)の基部に対して連結されているだけであり、固定マスト(7)及び固定支持脚(1)は可動マスト(8)の強度維持には寄与していない。そのため可動マスト(8)を倒した状態では、可動マスト(8)の強度は低下する。また可動マスト(8)を倒す際には、継手フランジ(17)の複数本のボルトを安全に取り外しが必要になり、また可動マストを起立させて固定するためには複数本のボルトをしっかりと締め付ける作業が必要になり、作業が非常に面倒であるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、マスト構造体を倒す際及び起立させる際に面倒な作業が必要なく、しかも倒したマスト構造体の強度を低下させることがない起倒式マスト構造物を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、マストを起立した状態で、航行時に揺れの少ない起倒式マスト構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、船舶に備えられた設置用構造物上に設けられたステージ上に直接または間接的に回転可能に固定された回転構造部を中心にして起倒可能に固定されたマスト構造体と、マスト構造体を倒す際にはマスト構造体を徐々に傾倒させる力を発生し、マスト構造体を起こす際にはマスト構造体を徐々に起立させる力を発生する起倒力発生機構を備えた起倒式マスト構造物を改良の対象とする。
【0009】
本発明では、回転構造部は、ステージ上に間隔を開けて配置され且つステージに沿って延びる仮想中心線を中心としてそれぞれ回転する2つの回転部から構成されている。そして、マスト構造体は、一端が2つの回転部にそれぞれ固定され他端が直接または間接的に相互に連結された2本のメインフレームと、2本のメインフレームのそれぞれに対してマスト構造体が傾倒する方向とは逆の方向に位置して、一端が2つの回転部にそれぞれ固定され他端が直接または間接的に2本のメインフレームに固定され、一端と他端との間に逆の方向に向かって凸となる頂部を有する2本のサブフレームと、2本のメインフレーム間、2本のサブフレーム間及び2本のメインフレームと2本のサブフレームとの間に配置された複数本の補強フレームを備えた骨組構造からなる。さらに、ステージ上には、マスト構造体に対して逆の方向に位置して、起立した状態のマスト構造体の2本のサブフレームまたは補強フレームに当接する当接部を備えてマスト構造体を支持する支持構造物を備えている。
【0010】
上記のように回転構造部及びマスト構造体が構成されていると、マスト構造体を倒した状態でもサブフレームがメインフレームから構造上切り離されないので、倒した状態のマスト構造体の強度が低下することはない。さらに、マスト構造体を倒す際に、従来のようにボルトを取り外す作業が必要になることはなく、またマスト構造体を起立した状態にする際にも、ボルトを締め付ける作業が必要になることはない。また支持構造物が存在するため、マスト構造体が起立した状態では、2つの回転部からなる回転構造部と、上方に離れた位置に存在する当接部とでマスト構造体を支持することになる。これにより、航行時でも揺れの少ない起倒式マスト構造物を得ることができる。
【0011】
本発明の起倒式マスト構造物は、サブフレームを1本とすることも可能である。この場合には、マスト構造物は、一端が2つの回転部にそれぞれ固定され他端が直接または間接的に相互に連結された2本のメインフレームと、2本のメインフレームの上下方向の中央部よりもステージ側に設けられて2本のメインフレームを連結する複数本の横フレームと、2本のメインフレームのそれぞれに対してマスト構造体が傾倒する方向とは逆の方向に位置しており、複数本の横フレームのうち最もステージに近い位置にある1本の横フレームに一端が固定され、他端が直接または間接的に2本のメインフレームに固定され、且つ、一端と他端との間に逆の方向に向かって凸となる頂部を有する1本のサブフレームと、2本のメインフレームと1本のサブフレームとの間に配置された複数本の補強フレームを備えた骨組構造からなる。そして、さらに、ステージ上には、マスト構造体に対して逆の方向に位置して、起立した状態のマスト構造体の1本のサブフレームに当接する当接部を備えてマスト構造体を支持する支持構造物を備えている。
【0012】
このような構造にすれば、サブフレームを1本としながら、2本の場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0013】
ステージ上面から上方向に計測した、傾倒した状態のマスト構造体の最大高さ寸法は、ステージ上面から上方向に計測した支持構造物の高さ寸法よりも低いことが好ましい。そして、支持構造物の当接部は、支持構造物の上端近傍に設けるようにする。このようにすれば、支持構造物の高さ寸法を航行時の高さ制限より低くしておけば、航行に支障がなく、また、当接部を回転構造部から離すことが可能となる。
【0014】
支持構造物の当接部は、起立した状態におけるマスト構造体の重心よりも下側で且つ重心よりも逆の方向にある位置でサブフレームまたは補強フレームと当接することが好ましい。このようにすれば、マスト構造体の重心位置と当接部の位置を近づけ、支持するための力を軽減することができる。
【0015】
マスト構造体の重心は、起倒力発生機構が力を発生していないときに、マスト構造体が自重で倒れる位置に存在するのが好ましい。このようにすれば、マスト構造体を拘束する力を解除すればマスト構造体の自重で傾倒することになるため、傾倒作業がしやすい。
【0016】
起倒力発生機構の構成は任意であるが、例えば、マスト構造体のサブフレームの頂部の下方にあって当接部が当接する部分より下の位置に設けられた定滑車と、支持構造物よりも逆の方向に配置されたウィンチと、支持構造物に設けられたガイドローラと、支持構造物のガイドローラより下の位置に設けられたガイド部と、一端がウィンチに巻回され、他端がステージまたは支持構造物のガイド部が設けられた位置よりも下の位置に固定され、ガイドローラとガイド部と定滑車によりガイドされるように配置されたワイヤとから構成されていてもよい。このように構成すれば、ウィンチで巻き上げる際に要する力を半減させることができるため、作業者の負担を軽減させることができる。
【0017】
サブフレームと支持構造物の間には、マスト構造体を傾倒させ、傾倒が完了すると張力を発生する連結体が備えられているのが好ましい。このようにすれば、作業者が傾倒が完了したことを知ることができ、また、傾倒しすぎてしまうこともなくなる。
【0018】
マスト構造体が支持構造物の当接部に当接した状態を維持するため、マスト構造体を支持構造物に固定する固定具を備えていてもよい。マスト構造体を傾倒させる際には、該固定具を解除して行う。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】船舶の甲板上に備えられた設置用構造物と、その上に設置された起倒式マスト構造物の全体を示す左側面図である。
図2】(A)はマスト構造物の左側面図、(B)は正面図、(C)は背面図である。
図3】(A)は支持構造物の左側面図であり、(B)は背面図である。
図4】マスト構造体5を起立した状態の起倒式マスト構造物1を示す図である。
図5】マスト構造体5の傾倒を完了した状態を示す図である。
図6】第2の実施の形態の起倒式マスト構造物のマスト構造体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の起倒式マスト構造物の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
<第1の実施の形態>
図1は、船舶の甲板上に備えられた設置用構造物と、その上に設置された起倒式マスト構造物の全体を示す左側面図であり、図2(A)はマスト構造物の左側面図、(B)は正面図、(C)は背面図であり、図3(A)は支持構造物の左側面図であり、(B)は背面図である。
【0022】
図1に示すように、起倒式マスト構造物1は、船舶の甲板上に備えられた設置用構造物MS上に設置されている。設置用構造物MS上には、ステージSTが設けられており、ステージST上にレーダーRDと、起倒式マスト構造物1が設置されている。図1上における右方向が船舶の進行方向である。
【0023】
起倒式マスト構造物1は、回転構造部3と、マスト構造体5と、支持構造物7と、起倒力発生機構9とから構成されている。マスト構造体5は、船舶の進行方向とは逆の方向に倒れるようになっている。
【0024】
本実施の形態では、要求されているエアドラフト(Air Draught 水面から船体構造物最先端までの高さ)が図1に示した仮想線ADであり、マスト構造体5が起立した状態では、マスト構造体5は仮想線ADを越えているため、航行ができない。そこで、マスト構造体5を傾倒し、全ての構造物が仮想線ADよりも下にくるようにすることで、要求されているエアドラフトを満たし、航行を行えるようにするものである。
【0025】
図1及び図2(A)~(C)に示すように、回転構造部3は、ステージST上に固定されており、ステージST上に間隔を開けて配置された2つの回転部11,11から構成されている。回転部11,11は、ステージSTに沿って船舶の左右方向(図1に向かって奥方向)に延びる仮想中心線ILを中心として回転軸がそれぞれ回転するようになっている。なお、図2(B)では、説明の便宜上、メインフレーム側の部材を、(C)では、サブフレーム側の部材を省略して図示してある。
【0026】
マスト構造体5は、起倒式マスト構造物1のメイン部分であり、衛星通信用アンテナSA1,SA2及び複数の航行用照明Lが設置されている。図2(A)~(C)に示すように、マスト構造体5は、2本のメインフレーム13,13と、2本のサブフレーム15,15と、複数本の補強フレーム17を備えた骨組構造からなっている。
【0027】
メインフレーム13,13は、一端13A,13Aが2つの回転部11,11にそれぞれ回転可能に支持され、他端13B,13Bが接続体13Cを介して間接的に相互に連結されている。
【0028】
サブフレーム15,15は、メインフレーム13,13のそれぞれに対してマスト構造体5が傾倒する方向とは逆の方向(船舶の進行方向)に位置して、一端15A,15Aが回転部11,11にそれぞれ回転可能に支持され、他端15B,15Bが接続体15Dを介して間接的にメインフレーム13,13に固定されている。またサブフレーム15,15は、上下方向の中央部よりも下方の位置に、船舶の進行方向に向かって凸になる頂部15C,15Cを有する。
【0029】
複数本の補強フレーム17は、2本のメインフレーム13,13の間、2本のサブフレーム15,15の間、及び、メインフレーム13,13とサブフレーム15,15との間に配置されており、骨組構造の強度を高めている。本実施の形態では、頂部15C、15Cの近傍に2本のメインフレーム13,13と2本のサブフレーム15,15の間に位置する左右方向に延びる作業ステップ18が固定されている。なお本実施の形態では、この作業ステップも補強フレーム17の機能を果たしている。
【0030】
支持構造物7は、図1に示すように、マスト構造体5に対して進行方向側に位置してステージST上に固定設置されている。支持構造物7は、図3(A)(B)に示すように、2本の支柱19,19と、支柱19,19の連結部21と、起立した状態のマスト構造体5の2本のサブフレーム15,15の頂部15Cのすぐ下の部分または近傍部分に当接する当接部23,23を備えている。
【0031】
起倒力発生機構9は、マスト構造体5を倒す際にはマスト構造体5を徐々に傾倒させる力を発生し、マスト構造体5を起こす際にはマスト構造体5を徐々に起立させる力を発生する機構である。本実施の形態では、具体的には、マスト構造体5のサブフレーム15の頂部15Cの下方にあって当接部23が当接する部分より下の2つの補強フレーム17の間に設けられた定滑車25と、支持構造物7よりも進行方向側に配置されたウィンチ27と、支持構造物7に設けられたガイドローラ29と、ガイドローラ29より下の位置に設けられたガイド部31と、一端がウィンチ27に巻回され、他端がステージST上の固定部28に固定され、ガイドローラ29と定滑車25によりガイドされるように配置されたワイヤ33とから起倒力発生機構9が構成されている。なお、図1図3(A)では、連結部21、ガイドローラ29及びガイド部31が見えるように、支柱19を透過して示してある。
【0032】
さらに、起倒式マスト構造物1は、サポートワイヤ(連結体)35と、リギングスクリュー(固定具)37を備えている。サポートワイヤ35は、一端がサブフレーム15に設けられたアイプレート36Aに固定され、他端が支持構造物7の連結部21に設けられたアイプレート36Bに固定されており、マスト構造体5を傾倒させ、傾倒が完了すると張力を発生する連結体を構成するものである。リギングスクリュー37は、マスト構造体5が支持構造物7の当接部23に当接した状態でマスト構造体5を支持構造物7に固定する固定具を構成するものである。リギングスクリュー37は、一端にフックが付き他端に雄ねじ部が付いた2つのねじ付きフック部材と、2つのねじ付きフック部材の雄ネジ部と螺合する2つの雌ねじ部を両端に備えた回動操作部材を備えた構造を有している。2つのネジ付きフック部材のフックを係止する被係止部24A及び24Bが、サブフレーム15,15と支持構造物7の支柱19,19の上に固定されている。
【0033】
[起倒式マスト構造物の傾倒]
図4は、マスト構造体5を起立した状態の起倒式マスト構造物1を示す図である。この状態では、ウィンチ27によってワイヤ33が巻かれ、リギングスクリュー37によってマスト構造体5が支持構造物7に対して固定されている。
【0034】
マスト構造体5の重心位置は、図4に「G」で示した点である。図示したように、重心位置Gの水平位置は、回転部11,11の回転軸である仮想中心線ILよりも水平位置がわずかに進行方向の逆側にあるため、リギングスクリュー37の回転操作部材を回転させることにより、フック部材の解除を行った後、ウィンチ27を巻き出すと、マスト構造体5の自重によって傾倒する。
【0035】
図5は、マスト構造体5の傾倒を完了した状態を示す図である。この状態では、サポートワイヤ35が張力を発生する状態になっており、これ以上は倒れない状態になっている。図示したように、ステージST上面から上方向に計測した、傾倒した状態のマスト構造体5の最大高さ寸法は、ステージST上面から上方向に計測した支持構造物7の高さ寸法よりも低くなっている。すなわち、マスト構造体5を傾倒した状態では、ステージST上で最も高い構造物は支持構造物7であり、傾倒した状態のマスト構造体5の最大高さ寸法が支持構造物7を下回るように設計してある。
【0036】
エアドラフトの制限領域を航行し、マスト構造体5を起立させる際には、マスト構造体5が当接部23に当接するまでウィンチ27を巻き、この状態でリギングスクリュー37で固定をする。
【0037】
<第2の実施の形態>
図6は、第2の実施の形態の起倒式マスト構造物に関する図である。具体的には、図6は、マスト構造体の正面図である。メインフレームについては、参考として一点鎖線で示してある。第1の実施の形態と共通する部分については、図2(B)に付した符号に100を加えた数の符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
本実施の形態では、サブフレーム115が1本であり、補強フレーム117を備えている。符号118は作業ステップである。サブフレーム115はステージSTに近い位置にある横フレーム139に一端115Aが固定され、他端115Bがメインフレーム113,113に固定されている。また、図6には図示していないが、支持構造物[図3(A)の符号7で示す部材]の当接部図3(A)の符号23で示す部材]は、サブフレーム115に当接するようになっている。さらに、定滑車125は、頂部115Cの下方の位置でサブフレーム115に設けられている。なお図6において符号136Aで示す部材は、サポートワイヤの一端が固定されるアイプレートである。
【0039】
上記実施の形態は、一例として記載したものであり、その要旨を逸脱しない限り、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、マスト構造体を倒す際及び起立させる際に面倒な作業が必要なく、しかも倒したマスト構造体の強度を低下させることがない起倒式マスト構造物を提供することができる。また、マストを起立した状態で、航行時に揺れの少ない起倒式マスト構造物を提供することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 起倒式マスト構造物
3 回転構造部
5 マスト構造体
7 支持構造物
9 起倒力発生機構
11 回転部
13,13 メインフレーム
15,15 サブフレーム
17 補強フレーム
19,19 支柱
21 連結部
23,23 当接部
25 定滑車
27 ウィンチ
28 固定部
29 ガイドローラ
31 ガイド部
33 ワイヤ
35 サポートワイヤ(連結体)
36A,36B アイプレート
37 リギングスクリュー(固定具)
MS 設置用構造物
ST ステージ
RD レーダー
SA1,SA2 衛星通信用アンテナ
L 航行用照明
AD エアドラフトの仮想線
IL 仮想中心線
G 重心位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6