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特許7142631インクジェット捺染用インク組成物及び疎水性繊維の捺染方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インク組成物及び疎水性繊維の捺染方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20220916BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20220916BHJP
   D06P 1/16 20060101ALI20220916BHJP
   D06P 3/54 20060101ALI20220916BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20220916BHJP
   D06P 5/26 20060101ALI20220916BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20220916BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
C09D11/328
C09D11/54
D06P1/16 Z
D06P3/54 Z
D06P5/00 102
D06P5/00 104
D06P5/26
D06P5/30
B41M5/00 100
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 132
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019522168
(86)(22)【出願日】2018-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2018019963
(87)【国際公開番号】W WO2018221370
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2017109095
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 桂丈
(72)【発明者】
【氏名】赤沼 里麻
(72)【発明者】
【氏名】樋口 比呂子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勝典
(72)【発明者】
【氏名】寺西 諒
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-168151(JP,A)
【文献】特開平09-111173(JP,A)
【文献】特開2004-018544(JP,A)
【文献】特開2015-059197(JP,A)
【文献】特開2017-043736(JP,A)
【文献】特開2017-171907(JP,A)
【文献】特開2012-236954(JP,A)
【文献】特開2007-270143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/328
B41M 5/00
C09D 11/54
D06P 1/16
D06P 3/54
D06P 5/00
D06P 5/26
D06P 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタン樹脂、分散剤、及び分散染料を含有し、前記ウレタン樹脂の含有率が0.035質量%より多く、6質量%未満であり、前記分散剤が、質量平均分子量1000~20000のスチレン-(メタ)アクリル共重合体を含む、インクジェット捺染用インク組成物。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂の含有率が、2質量%より多く、6質量%未満である請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項4】
前記分散染料が、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースブルー、及びC.I.ディスパースレッドからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項5】
前記分散染料が、C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースブルー56、C.I.ディスパースブルー72、C.I.ディスパースブルー359、C.I.ディスパースブルー360、及びC.I.ディスパースレッド60からなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項4に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項6】
前記スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量が、2000~19000である請求項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項7】
前記スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量が、4000~17000である請求項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項8】
さらに、水溶性有機溶剤を含有する請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項9】
前記水溶性有機溶剤が、グリセリン及びプロピレングリコールから選択される少なくと
も1種を含む請求項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物により染色された繊維。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物をインクとして用い、該インクの液滴をインクジェットプリンタにより疎水性繊維に付着させる付着工程と、
前記付着工程にて前記疎水性繊維に付着させたインク中の染料を、熱により該疎水性繊維に固着させる固着工程と、
前記疎水性繊維中に残存する未固着の染料を洗浄する洗浄工程と、
を含む疎水性繊維の捺染方法。
前記疎水性繊維は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維、及びこれらの繊維を2種類以上用いた混紡繊維、また、これらと、レーヨン等の再生繊維、木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡繊維、から選択される。
【請求項12】
前記インクを付着させる前の前記疎水性繊維に、糊材、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤を含有する水溶液を付与する前処理工程をさらに含む請求項11に記載の疎水性繊維の捺染方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物をインクとして用い、該インクの液滴をインクジェットプリンタにより中間記録媒体に付着させ、記録画像を得るプリント工程と、
前記中間記録媒体における前記インクの付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより前記記録画像を前記疎水性繊維に転写する転写工程と、
を含む疎水性繊維の捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物及びそれを用いた疎水性繊維の捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットによる無製版印刷を行う記録方法が提案され、布等を含めた繊維の捺染においてもインクジェット印刷による捺染(インクジェット捺染)が行われている。インクジェット印刷による捺染は、従来のスクリーン印刷等による捺染と比較して、無製版であること;省資源であること;省エネルギーであること;高精細表現が容易であること;等の様々な利点がある。
【0003】
ここで、ポリエステル繊維を代表とする疎水性繊維は、一般に水不溶性色材により染色される。このため、インクジェット印刷により疎水性繊維を捺染するための水性インクとしては、一般に水不溶性色材を水中に分散させた分散インクが用いられる。
【0004】
疎水性繊維へのインクジェット捺染方法は、ダイレクト捺染法(ダイレクトプリント法)と昇華転写捺染法(昇華転写プリント法)とに大別される。ダイレクト捺染法は、疎水性繊維へ直接インクを付与(プリント)した後、高温スチーミング等の熱処理によりインク中の染料を疎水性繊維に染着させる捺染方法である。一方、昇華転写捺染法は、中間記録媒体(専用の転写紙等)にインクを付与(プリント)した後、中間記録媒体のインク付与面と疎水性繊維とを重ね合わせ、熱圧着ローラー、熱プレス機等による熱圧着方式によって、染料を中間記録媒体から疎水性繊維へと転写させる捺染方法である。
【0005】
昇華転写捺染法は、のぼり旗等の捺染加工に主に用いられており、インク中には熱処理による疎水性繊維への転写適性に優れた易昇華型の染料が用いられる。加工工程は、(1)プリント工程:インクジェットプリンタにより染料インクを中間記録媒体に付与する工程、(2)転写工程:熱処理により染料を中間記録媒体から繊維へと転写及び染着させる工程、の2工程であり、市販の転写紙が広く使用できるため繊維の前処理は必要とせず、洗浄工程も省略されている。
【0006】
昇華転写捺染法に使用されるインクとしては、水不溶性の昇華性染料を水中に分散させた水性インクが知られている。例えば、特許文献1には、分散染料及び油溶性染料から選ばれる昇華性染料を分散剤により水中に分散させた水性分散液に対して、保湿剤(乾燥防止剤)としての水溶性有機溶剤、表面張力調整剤としての界面活性剤、及びその他の添加剤(pH調整剤、防腐防黴剤、消泡剤等)を添加し、粒度、粘度、表面張力、pH等の物理特性(物性)を最適化させてインクを調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2005/121263号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、商業用印刷においては、インクジェット印刷はより高速化しており、インクジェット用インクにも高速化に対応したインクの設計が求められている。インクジェット記録の速度を向上させるために記録後の乾燥、定着等の処理時間を短縮すると、インク中の水又は有機溶剤の記録媒体中への浸透又は乾燥が追い付かないままに次の記録画像が重ねられてしまい、記録媒体上に形成した画像がその上に積み重ねられた記録媒体の裏面に転写されてしまう現象や、記録媒体同士がくっついてしまう現象等が生じ、記録画像及び記録媒体を損ねてしまう。これらの課題を防止するため、インク調製時に揮発性の高い有機溶剤を使用する方法が知られているが、有機溶剤を使用することにより、紙等の記録媒体への浸透性が高くなり、インクとしての発色性が下がってしまう。この問題は、特に坪量の低い紙を使用する場合に顕著である。このため、記録媒体上の乾燥性及び発色性に優れたインクが求められている。
【0009】
また、水不溶性色材を繊維に定着する目的で、インクにバインダー樹脂を添加することも提案されている。しかし、バインダー樹脂の種類によっては、開放放置後の再吐出性が悪くなることが判明した。インクジェット捺染を行う場合、プリンタにインクを充填して吐出を行った後、数10分間程度吐出を中断し、吐出を再開して捺染を行うことが多い。このように、吐出を中断した後に吐出を再開することを「開放放置後の再吐出」、「間欠吐出」等という。開放放置後の再吐出性が悪いインクは、吐出を再開するときにヘッドの洗浄操作が必須となり、使い勝手が極めて悪くなる。このため、インクジェット捺染用のインクにおいては、特に開放放置後の再吐出性の向上が強く求められている。
【0010】
そこで、本発明は、開放放置後の再吐出性、記録媒体上の乾燥性、及び発色性に優れるインクジェット捺染用インク組成物、及びそれを用いた疎水性繊維の捺染方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の1)~15)に記載の本発明を完成させた。
【0012】
1)
ウレタン樹脂、分散剤、及び分散染料を含有し、前記ウレタン樹脂の含有率が0.035質量%より多く、6質量%未満であるインクジェット捺染用インク組成物。
2)
前記ウレタン樹脂の含有率が、2質量%より多く、6質量%未満である1)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
3)
前記ウレタン樹脂が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂及びポリエーテル系ウレタン樹脂から選択される少なくとも1種を含む1)又は2)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
4)
前記分散染料が、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースブルー、及びC.I.ディスパースレッドからなる群より選択される少なくとも1種を含む1)~3)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
5)
前記分散染料が、C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースブルー56、C.I.ディスパースブルー72、C.I.ディスパースブルー359、C.I.ディスパースブルー360、及びC.I.ディスパースレッド60からなる群より選択される少なくとも1種を含む4)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
6)
前記分散剤が、スチレン-(メタ)アクリル共重合体及び芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物から選択される少なくとも1種を含む1)~5)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
7)
前記スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量が、1000~20000である6)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
8)
前記スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量が、2000~19000である7)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
9)
前記スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量が、4000~17000である8)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
10)
さらに、水溶性有機溶剤を含有する1)~9)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
11)
前記水溶性有機溶剤が、グリセリン及びプロピレングリコールから選択される少なくとも1種を含む10)に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
12)
1)~11)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物により染色された繊維。
13)
1)~11)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物をインクとして用い、該インクの液滴をインクジェットプリンタにより疎水性繊維に付着させる付着工程と、
前記付着工程にて前記疎水性繊維に付着させたインク中の染料を、熱により該疎水性繊維に固着させる固着工程と、
前記疎水性繊維中に残存する未固着の染料を洗浄する洗浄工程と、
を含む疎水性繊維の捺染方法。
14)
前記インクを付着させる前の前記疎水性繊維に、糊材、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤を含有する水溶液を付与する前処理工程をさらに含む13)に記載の疎水性繊維の捺染方法。
15)
1)~11)のいずれか一項に記載のインクジェット捺染用インク組成物をインクとして用い、該インクの液滴をインクジェットプリンタにより中間記録媒体に付着させ、記録画像を得るプリント工程と、
前記中間記録媒体における前記インクの付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより前記記録画像を前記疎水性繊維に転写する転写工程と、
を含む疎水性繊維の捺染方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、開放放置後の再吐出性、記録媒体上の乾燥性、及び発色性に優れるインクジェット捺染用インク組成物、及びそれを用いた疎水性繊維の捺染方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<インク組成物>
本実施形態に係るインクジェット捺染用インク組成物(以下、単に「インク組成物」という。)は、ウレタン樹脂、分散剤、及び分散染料を含有し、ウレタン樹脂の含有率が0.035質量%より多く、6質量%未満であるものである。以下、本実施形態に係るインク組成物に含有される各成分について説明する。
【0015】
[ウレタン樹脂]
ウレタン樹脂としては、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂等の公知のウレタン樹脂を特に制限なく使用することができる。ウレタン樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
ウレタン樹脂は、エマルション(ラテックス)の形態で市販されていることも多く、その多くは固形分濃度30~60質量%の乳化液である。ウレタン樹脂の市販品としては、例えば、パーマリンUA-150、200、310、368T、3945、ユーコートUX-320(以上、三洋化成株式会社製);ハイドランWLS-201、210、HW-312B(以上、DIC株式会社製);スーパーフレックス150、170、470(以上、第一工業製薬株式会社製);UPUD-UW-1527F(宇部興産株式会社製);等が挙げられる。これらのうち、ポリカーボネート系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンUA-310、UA-368T、3945;ユーコートUX-320;等が挙げられる。また、ポリエーテル系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンUA-150、200;ユーコートUX-340;UPUD-UW-1527F;等が挙げられる。これらのエマルションは、希釈等により固形分濃度を調整してもよい。
【0017】
ウレタン樹脂の含有率は、0.035質量%より多く、6質量%未満である。ウレタン樹脂の含有率が0.035質量%より多く、6質量%未満であると、開放放置後の再吐出性、記録媒体上の乾燥性、及び発色性が良好なものとなる。ウレタン樹脂の含有率は、0.2質量%より多くかつ6質量%未満であることがより好ましく、2質量%以上かつ6質量%未満であることがさらに好ましく、3質量%以上かつ6質量%未満であることが特に好ましく、3質量%以上かつ5質量%以下であることが極めて好ましい。
【0018】
[分散剤]
分散剤としては、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物等の公知の分散剤を使用することができる。分散剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」を含む意味として用いる。
【0019】
スチレン-(メタ)アクリル共重合体としては、例えば、(α-メチル)スチレン系モノマーと(メタ)アクリル系モノマーとの共重合体が挙げられる。なお、本明細書において、「(α-メチル)スチレン」は、「α-メチルスチレン」及び「スチレン」を含む意味として用いる。
【0020】
スチレン-(メタ)アクリル共重合体の具体例としては、(α-メチル)スチレン-アクリル酸共重合体、(α-メチル)スチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、(α-メチル)スチレン-メタクリル酸共重合体、(α-メチル)スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、(α-メチル)スチレン-アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル-スチレンスルホン酸共重合体、(α-メチル)スチレン-メタクリルスルホン酸共重合体等が挙げられる。これらのスチレン-(メタ)アクリル共重合体は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量は、例えば、1000~20000であることが好ましく、2000~19000であることがより好ましく、4000~17000であることがさらに好ましい。なお、スチレン-(メタ)アクリル共重合体の質量平均分子量は、GPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフ)法で測定する。
【0022】
また、スチレン-(メタ)アクリル共重合体のガラス転移温度は、例えば、45~135℃であることが好ましく、55~120℃であることがより好ましく、60~110℃であることがさらに好ましい。
【0023】
また、スチレン-(メタ)アクリル共重合体の酸価は、例えば、50~250mgKOH/gであることが好ましく、100~250mgKOH/gであることがより好ましく、150~250mgKOH/gであることがさらに好ましい。酸価を50mgKOH/g以上とすることにより、水に対する樹脂の溶解性が良好なものとなり、分散染料の分散安定化力が向上する傾向にある。また、酸価を250mgKOH/g以下とすることにより、水性媒体との親和性が抑えられ、印字後の画像に滲みが発生するのを抑制することができる傾向にある。なお、樹脂の酸価は、樹脂1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、JIS-K3054に従って測定する。
【0024】
スチレン-(メタ)アクリル共重合体の市販品としては、例えば、JoncrylRTM 67、678、682、683、690、52J、57J、60J、63J、70J、JDX-6180、HPD-196、HPD96J、PDX-6137A、6610、JDX-6500、JDX-6639、PDX-6102B、PDX-6124(以上、BASF社製)等が挙げられる。これらの中でも、JoncrylRTM 67(質量平均分子量:12500、酸価:213mgKOH/g)、JoncrylRTM 678(質量平均分子量:8500、酸価:215mgKOH/g)、JoncrylRTM 682(質量平均分子量:1700、酸価:230mgKOH/g)、JoncrylRTM 683(質量平均分子量:4900、酸価:215mgKOH/g)、及びJoncrylRTM 690(質量平均分子量:16500、酸価:240mgKOH/g)が好ましく、JoncrylRTM 678がより好ましい。なお、本明細書において上付きのRTMは登録商標を意味する。
【0025】
後述する分散染料の分散は、例えば、以下の方法で行うことができる。すなわち、スチレン-(メタ)アクリル共重合体を水溶性有機溶剤に投入し、温度を90~120℃に昇温してスチレン-(メタ)アクリル共重合体溶液を調製する。調製したスチレン-(メタ)アクリル共重合体溶液にアルカリ性化合物及び水を投入し、温度を下げてエマルション液とする。そして、得られたエマルション液に分散染料を混合し、分散処理を行う。
【0026】
芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としては、例えば、クレオソート油スルホン酸;クレゾールスルホン酸;フェノールスルホン酸;β-ナフタレンスルホン酸;β-ナフトールスルホン酸;β-ナフタリンスルホン酸;β-ナフトールスルホン酸;クレゾールスルホン酸;2-ナフトール-6-スルホン酸;リグニンスルホン酸;等の各ホルマリン縮合物及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)が挙げられる。これらの中でも、クレオソート油スルホン酸;β-ナフタレンスルホン酸;リグニンスルホン酸;の各ホルマリン縮合物及びそれらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等)が好ましい。これらの芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物は、市販品として入手することもできる。例えば、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としては、デモールN(花王株式会社製)が挙げられる。クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンWシリーズ、デモールC(いずれも花王株式会社製)が挙げられる。特殊芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としては、デモールSN-B(花王株式会社製)が挙げられる。メチルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンANシリーズ(第一工業製薬株式会社製)が挙げられる。これらの中でも、デモールN、ラベリンWシリーズ、ラベリンANシリーズが好ましく、デモールN、ラベリンWがより好ましく、ラベリンWがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態に係るインク組成物は、分散剤として、スチレン-(メタ)アクリル共重合体及び芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、スチレン-(メタ)アクリル共重合体及びクレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物から選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0029】
分散剤の含有率は、特に制限されないが、例えば、1~15質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることがさらに好ましい。
【0030】
[分散染料]
分散染料としては、分散染料、油溶性染料等が挙げられる。具体的には、C.I.ディスパースイエロー3、4、5、6、7、8、9、13、23、24、30、33、34、39、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、142、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、186、192、198、199、200、202、204、210、211、215、216、218、224、237;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、3、5、7、11、13、17、20、21、23、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、60、61、66、71、73、76、78、80、86、89、90、91、93、96、97、118、119、127、130、139、142;C.I.ディスパースレッド1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、55:1、56、58、59、60、65、70、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、158、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、283、288、298、302、303、310、311、312、320、323、324、328、359;C.I.ディスパースバイオレット1、4、8、11、17、23、26、27、28、29、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77、97;C.I.ディスパースグリーン9;C.I.ディスパースブラウン1、2、4、9、13、19、27;C.I.ディスパースブルー3、5、7、9、14、16、19、20、26、26:1、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、64:1、71、72、72:1、73、75、77、79、79:1、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、131、139、141、142、143、145、146、148、149、153、154、158、165、165:1、165:2、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、266、267、270、281、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、341、353、354、358、359、360、364、365、366、368;C.I.ディスパースブラック1、3、10、24;C.I.ソルベントイエロー114;C.I.ソルベントオレンジ67;C.I.ソルベントレッド146;C.I.ソルベントブルー36、63、83、105、111;等が挙げられる。
【0031】
これら分散染料のうち、好ましいものとしては、C.I.ディスパースイエロー42、49、76、83、88、93、99、119、126、160、163、165、180、183、186、198、199、200、224、237、C.I.ディスパースオレンジ25、29、30、31、38、42、44、45、53、54、55、71、73、80、86、96、118、119;C.I.ディスパースレッド73、88、91、92、111、127、131、143、145、146、152、153、154、179、191、192、206、221、258、283、302、323、328、359;C.I.ディスパースバイオレット26、35、48、56、77,97;C.I.ディスパースブルー27、54、60、73、77、79、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、225、257、266、267、281、341、353、354、358、360、364、365、368;等が挙げられる。また、熱転写適性のある好ましい染料としては、C.I.ディスパースイエロー51、54、60、82;C.I.ディスパースオレンジ5、7、20、23、25;C.I.ディスパースレッド4、11、50、53、59、60、239、240、364;C.I.ディスパースバイオレット8、11、17、26、27、28、36;C.I.ディスパースブルー3、5、26、35、55、56、72、81、91、108、334、359、360、366;C.I.ディスパースブラウン27;C.I.ソルベントイエロー114;C.I.ソルベントオレンジ60、67;C.I.ソルベントレッド146;C.I.ソルベントブルー36、63、83、105、111;等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係るインク組成物は、分散染料として、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースブルー、及びC.I.ディスパースレッドからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、C.I.ディスパースイエロー54、C.I.ディスパースオレンジ25、C.I.ディスパースブルー360、及びC.I.ディスパースレッド60からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0033】
分散染料は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、ブラックインクの調製においては、ブルー分散染料を主体に、オレンジ分散染料及びレッド分散染料を適宜配合してブラック色に調色し、これをブラック分散染料として用いることができる。また、ブルー、オレンジ、レッド、バイオレット、ブラック等の色調をより好みの色調に微調整する目的で、複数の分散染料を配合してもよい。
【0034】
分散染料は、粉末状又は塊状の乾燥色材であってもよく、ウェットケーキ又はスラリーであってもよい。また、色材合成中又は合成後に色材粒子の凝集を抑える目的で界面活性剤等の分散剤が少量添加されたものであってもよい。また、色調調整の範囲内で他の水不溶性色材を少量含んでいてもよい。市販の色材には、工業染色用、樹脂着色用、インキ用、トナー用、インクジェット用等のグレードがあり、製造方法、純度、粒径等がそれぞれ異なる。凝集性を抑えるには、色材としてはより粒子の小さいものが好ましく、また、分散安定性及びインクの吐出精度への影響からできるだけ不純物の少ないものが好ましい。
【0035】
分散染料の含有率は、特に制限されないが、例えば、1~15質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
[水]
本実施形態に係るインク組成物は、水を含有する。インクの調製に用いる水は、イオン交換水、蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。
【0037】
水の含有率は、特に制限されないが、例えば、40~65質量%であることが好ましく、45~65質量%であることがより好ましく、45~60質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
[その他の成分]
本実施形態に係るインク組成物は、上記各成分以外に、必要に応じてインク調製剤を含有していてもよい。インク調製剤としては、例えば、水溶性有機溶剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、表面張力調整剤、消泡剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0039】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1-C4アルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、トリメチロールプロパン等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1-C4モノアルキルエーテル;γ-ブチロラクトン;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。
【0040】
水溶性有機溶剤としては、例えば、常温で固体の物質も含まれる。すなわち、室温では固体であっても水溶性を示す物質であって、その物質を含有する水溶液が水溶性有機溶剤と同様の性質を示し、同じ効果を期待して使用することができる物質は、本明細書においては水溶性有機溶剤とする。そのような物質としては、例えば、固体の多価アルコール類、糖類、アミノ酸類等が挙げられる。
【0041】
防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン-1-オキサイド、ジンクピリジンチオン-1-オキサイド、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、1-ベンズイソチアゾリン-3-オンのアミン塩、アーチケミカルズ社製の商品名プロキセルRTMGXL等が挙げられる。
【0042】
pH調整剤は、インク組成物の保存安定性を向上させる目的で、インク組成物のpHを6.0~11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。pH調整剤としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の周期表における第1族元素の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸等が挙げられる。
【0043】
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0044】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0045】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物等が挙げられる。また、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤等も使用できる。
【0046】
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に水溶性高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0047】
染料溶解剤としては、例えば、尿素、ε-カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0048】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類等が挙げられる。金属錯体系の褪色防止剤としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。
【0049】
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の種類としては、例えば、アニオン、カチオン、両性、ノニオン、シリコーン系、フッ素系等が挙げられる。
【0050】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホカルボン酸塩;α-オレフィンスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩;N-アシルアミノ酸又はその塩;N-アシルメチルタウリン塩;アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩;アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩;ロジン酸石鹸;ヒマシ油硫酸エステル塩;ラウリルアルコール硫酸エステル塩;アルキルフェノール型燐酸エステル;アルキル型燐酸エステル;アルキルアリールスルホン酸塩;ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等のスルホ琥珀酸系;等が挙げられる。市販品としては、例えば、ライオン株式会社製の商品名リパール835I、860K、870P、NTD、MSC;アデカ株式会社製の商品名アデカコールEC8600;花王株式会社製の商品名ペレックスOT-P、CS、TA、TR;新日本理化株式会社製のリカマイルドES-100、ES-200、リカサーフP-10、M-30、M-75、M-300、G-30、G-600;東邦化学工業株式会社製のコハクノールL-300、L-40、L-400、NL-400;等が挙げられる。
【0051】
カチオン界面活性剤としては、例えば、2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0052】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0053】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学社製の商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTG等;ポリグリコールエーテル系(SIGMA-ALDRICH社製のTergitol 15-S-7等);などが挙げられる。
【0054】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。市販品としては、例えば、いずれもビックケミー社製のBYK-347(ポリエーテル変性シロキサン);BYK-345、BYK-348(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン);等が挙げられる。
【0055】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品としては、例えば、Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、Capstone FS-30、FS-31(以上、DuPont社製);PF-151N、PF-154N(以上、オムノバ社製);等が挙げられる。
【0056】
消泡剤としては、例えば、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物等が挙げられる。
【0057】
[インク組成物の調製方法等]
本実施形態に係るインク組成物の調製方法は特に制限されないが、例えば、分散染料の水性分散液を調製した後に、水溶性有機溶剤等のインク調製剤を加える方法が挙げられる。これらを混合する順番は特に制限されない。
【0058】
分散染料の水性分散液を調製する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて、水性分散液を構成する各成分を撹拌混合する方法等の公知の方法が挙げられる。分散染料の水性分散液を調製するときに発泡が生じることがあるため、必要に応じて、シリコーン系、アセチレンアルコール系等の消泡剤を添加してもよい。但し、消泡剤には分散染料の分散を阻害するものもあるため、水性分散液の安定性等に影響を及ぼさないものを使用するのが好ましい。好ましい消泡剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製のオルフィンシリーズ(SK-14等);エアープロダクツジャパン株式会社製のサーフィノールシリーズ(104、DF-110D等);等が挙げられる。
【0059】
水性分散液中における分散染料の含有率は、通常10~60質量%であり、好ましくは20~50質量%であり、より好ましくは20~40質量%である。また、水性分散液中における分散剤の含有率は、通常1~36質量%であり、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0060】
本実施形態に係るインク組成物における水性分散液の含有率は、通常2~35質量%であり、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは5~30質量%である。また、本実施形態に係るインク組成物における水性有機溶剤の含有率は、通常10~50質量%であり、好ましくは15~50質量%であり、より好ましくは20~50質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。また、本実施形態に係るインク組成物におけるインク調製剤の合計の含有率は、通常0~25質量%であり、好ましくは0.01~20質量%である。
【0061】
水性分散液又はインク組成物は、インクジェットプリンタのノズルの目詰まり等を防止する目的で、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は、通常0.1~1μmであり、好ましくは0.1~0.8μmである。
【0062】
本実施形態に係るインク組成物の物性値は、使用するインクジェットプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴飛行特性等を考慮して適切な値に調整することが好ましい。本実施形態に係るインク組成物の25℃における粘度は、高速での吐出応答性の観点から、E型粘度計にて測定したときに、3~20mPa・s程度であることが好ましい。また、本実施形態に係るインク組成物の25℃における表面張力は、プレート法にて測定したときに、20~45mN/m程度であることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係るインク組成物は、開放放置後の再吐出性、記録媒体上の乾燥性、及び発色性に優れ、各種捺染用インク組成物、特にインクジェット捺染用インク組成物として要求される印刷適性を保つことができるため、とりわけ昇華転写用インクジェット捺染用インク組成物として極めて有用である。
【0064】
また、本実施形態に係るインク組成物は、長期間保存後の固体析出、物性変化、色変化等もなく、保存安定性に優れる。また、インクジェットプリンタヘッドへの初期充填性が良好であり、インクの吐出性、連続印刷安定性も良好である。さらに、印刷後の記録媒体上の画像の滲みがなく鮮明な画像を得ることが可能であり、印刷後の記録媒体上の臭気がなく、印刷物及び印刷作業環境への臭気に関する影響が少なく、転写性能(転写後の印刷物の紙への残りが少ない)、布や紙に印字した際の浸透性抑制性能(裏面まで透けていかない)にも優れる。これらに加え、本実施形態に係るインク組成物で記録した画像は、耐オゾンガス性に優れ、印字濃度が高く、演色性が小さく、彩度が低く、高品位な色相を有する。また、耐光性、耐湿性、耐水性、摩擦、洗濯堅牢等の各種堅牢性にも優れる。さらに、イエロー染料、オレンジ染料、マゼンタ染料、シアン染料、ブラック染料等をそれぞれ含有するインク組成物と併用することにより、各種堅牢性に優れ、保存性の優れたフルカラーのインクジェット捺染が可能である。加えて、ローコート紙における良好な発色性、印字した紙における良好なインク乾燥性、印字した紙のカール防止性、モットリング防止性にも優れる。
【0065】
<疎水性繊維の捺染方法>
本実施形態に係る疎水性繊維の捺染方法は、本実施形態に係るインク組成物をインクとし、このインクを用いて疎水性繊維に捺染する方法である。疎水性繊維としては、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維、及びこれらの繊維を2種類以上用いた混紡繊維等が挙げられる。また、これらの疎水性繊維と、レーヨン等の再生繊維、木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡繊維も、本明細書においては疎水性繊維に含まれる。これらの繊維の中にはインク受容層(滲み防止層)を有するものも知られており、そのような繊維も疎水性繊維に含まれる。インク受容層の形成方法は公知技術であり、インク受容層を有する繊維も市販品として入手が可能である。インク受容層の材質、構造等は特に限定されず、目的等に応じて適宜使用することができる。
【0066】
疎水性繊維の捺染方法は、ダイレクト捺染法(ダイレクトプリント法)と昇華転写捺染法(昇華転写プリント法)とに大別される。
【0067】
ダイレクト捺染法(ダイレクトプリント法)は、本実施形態に係るインク組成物をインクとして用い、該インクの液滴をインクジェットプリンタにより疎水性繊維に付着させる付着工程と、付着工程にて疎水性繊維に付着させたインク中の染料を、熱により該疎水性繊維に固着させる固着工程と、疎水性繊維中に残存する未固着の染料を洗浄する洗浄工程と、を含む。
【0068】
固着工程は、一般的には公知のスチーミング又はベーキングによって行われる。スチーミングとしては、例えば、高温スチーマーにより通常170~180℃で10分間程度、あるいは、高圧スチーマーにより通常120~130℃で20分間程度、それぞれ疎水性繊維を処理することにより、染料を繊維に染着(湿熱固着とも称される)する方法が挙げられる。ベーキング(サーモゾル)としては、例えば、通常190~210℃で60~120秒間程度、疎水性繊維を処理することにより、染料を繊維に染着(乾熱固着とも称される)する方法が挙げられる。
【0069】
洗浄工程は、得られた繊維を、温水、及び必要に応じて水により洗浄する工程である。洗浄に使用する温水や水は、界面活性剤を含んでいてもよい。洗浄後の繊維を、通常50~120℃で5~30分間乾燥することも好ましく行われる。
【0070】
一方、昇華転写捺染法(昇華転写プリント法)は、本実施形態に係るインク組成物をインクとして用い、該インクの液滴をインクジェットプリンタにより中間記録媒体に付着させ、記録画像を得るプリント工程と、中間記録媒体におけるインクの付着面に疎水性繊維を接触させ、熱処理することにより記録画像を疎水性繊維に転写する転写工程と、を含む。
【0071】
中間記録媒体としては、付着したインク中の染料がその表面で凝集せず、且つ、疎水性繊維へ記録画像の転写を行うときに、染料の昇華を妨害しないものが好ましい。そのような中間記録媒体としては、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が表面に形成されている紙が挙げられ、インクジェット用の専用紙等を用いることができる。
【0072】
転写工程における熱処理としては、通常190~200℃程度での乾熱処理が挙げられる。
【0073】
本実施形態に係る疎水性繊維の捺染方法は、滲み等を防止する目的で、繊維の前処理工程をさらに含んでいてもよい。この前処理工程としては、糊材、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤を含有する水溶液(前処理液)を、インクを付着させる前の疎水性繊維に付与する工程が挙げられる。
【0074】
糊剤としては、例えば、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類;澱粉類;アルギン酸ソーダ、ふのり等の海藻類;ペクチン酸等の植物皮類;メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体;カルボキシメチル澱粉等の加工澱粉;ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊;等が挙げられ、アルギン酸ソーダが好ましい。
【0075】
アルカリ性物質としては、例えば、無機酸又は有機酸のアルカリ金属塩;アルカリ土類金属の塩;加熱した際にアルカリを遊離する化合物;等が挙げられ、無機又は有機の、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム化合物及びカリウム化合物等が挙げられる。具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機化合物のアルカリ金属塩;蟻酸ナトリウム、トリクロル酢酸ナトリウム等の有機化合物のアルカリ金属塩;等が挙げられ、炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0076】
還元防止剤としては、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素等の尿素類等が挙げられ、尿素が好ましい。
【0077】
糊剤、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤は、いずれも1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
前処理液中における各成分の混合比率は、例えば、糊剤が0.5~5質量%、炭酸水素ナトリウムが0.5~5質量%、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが0~5質量%、尿素が1~20質量%、残部が水である。
【0079】
前処理液を疎水性繊維に付着させる方法としては、例えばパディング法が挙げられる。パディングの絞り率は40~90%程度が好ましく、より好ましくは60~80%程度である。
【実施例
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。実施例においては特に断りがない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
【0081】
[調製例1:エマルション液の調製]
48%水酸化リチウム(3.2部)、イオン交換水(56.8部)、及びプロピレングリコール(20部)の混合物にJoncrylRTM 678(BASF社製)20部を投入し、90~120℃に昇温して5時間撹拌することにより、JoncrylRTM 678のエマルション液を得た。
【0082】
[調製例2:水性分散液1の調製]
昇華性染料としてのカヤセットレッドB(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースレッド60)(30部)、調製例1で得たJoncrylRTM 678のエマルション液(60部)、プロキセルRTMGXL(0.2部)、サーフィノール104PG50(0.4部)、及びイオン交換水(24部)からなる混合物に対して、0.2mm径ガラスビーズを用いたサンドミルにて、冷却下、約15時間分散処理を行った。分散処理後の液にイオン交換水(60部)、調製例1で得たJoncrylRTM 678のエマルション液(30部)を加えて染料含有率を15%に調整した後、ガラス繊維濾紙GC-50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより水性分散液1を得た。
【0083】
[調製例3:水性分散液2の調製]
昇華性染料としてのカヤセットレッドB(日本化薬株式会社製、C.I.ディスパースレッド60)(30部)、アニオン分散剤としてのラベリンRTM W-40(第一工業製薬株式会社製、クレオソート油スルホン酸塩のホルマリン縮合物の40%水溶液)(45部)、ノニオン分散剤としてのNIKKOLRTM BPS-30(日光ケミカルズ株式会社製、フィトステロールのEO(エチレンオキサイド)30モル付加物)(2部)、及びイオン交換水(23部)からなる混合物に対して、0.2mm径ガラスビーズを用いたサンドミルにて、冷却下、約15時間分散処理を行った。分散処理後の液にイオン交換水(100部)を加えて染料含有率を15%に調整した後、ガラス繊維濾紙GC-50(東洋濾紙株式会社製、フィルターの孔径:0.5μm)で濾過することにより水性分散液2を得た。
【0084】
[調製例4:ポリエチレングリコール溶液の調製]
60℃に熱したイオン交換水(70部)に、50℃に熱したポリエチレングリコール2000(東京化成工業株式会社製)(30部)を投入し、50~70℃に昇温して2時間撹拌することにより、ポリエチレングリコール2000の30%溶液を得た。
【0085】
[実施例1]
調製例2で得た水性分散液1(30部)、グリセリン(20部)、ユーコートUX320(三洋化成株式会社製、ウレタン樹脂固形分40%)(8.75部)、プロピレングリコール(8部)、BYK-348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)(0.2部)、及びイオン交換水(33.05部)を混合し、水性インクを調製した。
【0086】
[実施例2]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、パーマリンUA368T(三洋化成株式会社製、ウレタン樹脂固形分49.7%)(6.94部)を用い、イオン交換水の量を34.86部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0087】
[実施例3]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、パーマリンUA150(三洋化成株式会社製、ウレタン樹脂固形分30%)(11.5部)を用い、イオン交換水の量を30.30部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0088】
[実施例4]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、UPUD-UW-1527F(宇部興産株式会社製、ウレタン樹脂固形分30%)(11.7部)を用い、イオン交換水の量を30.10部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0089】
[実施例5]
調製例3で得た水性分散液2(30部)、グリセリン(20部)、ユーコートUX320(三洋化成株式会社製、ウレタン樹脂固形分40%)(8.75部)、プロピレングリコール(8部)、BYK-348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)(0.2部)、及びイオン交換水(33.05部)を混合し、水性インクを調製した。
【0090】
[実施例6]
調製例3で得た水性分散液2(30部)、グリセリン(20部)、ユーコートUX320(三洋化成株式会社製、ウレタン樹脂固形分40%)(12.5部)、プロピレングリコール(8部)、BYK-348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)(0.2部)、及びイオン交換水(29.3部)を混合し、水性インクを調製した。
【0091】
[比較例1]
ユーコートUX320を添加せず、イオン交換水の量を41.80部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0092】
[比較例2]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、AQUACER515(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエチレン樹脂エマルション)(10部)を用い、イオン交換水の量を31.80部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0093】
[比較例3]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、モビニール6960(日本合成工業株式会社製、アクリル樹脂エマルション)(7.78部)を用い、イオン交換水の量を34.02部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0094】
[比較例4]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、AE-609(株式会社イーテック製、アクリル樹脂エマルション)(14.0部)を用い、イオン交換水の量を27.80部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0095】
[比較例5]
ユーコートUX320(8.75部)の代わりに、調製例4で得たポリエチレングリコール溶液(11.7部)を用い、イオン交換水の量を30.10部に変更する以外は実施例1と同様にして、水性インクを調製した。
【0096】
[比較例6]
調製例3で得た水性分散液2(30部)、グリセリン(20部)、ユーコートUX320(三洋化成株式会社製、ウレタン樹脂固形分40%)(27.5部)、プロピレングリコール(8部)、BYK-348(ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)(0.2部)、及びイオン交換水(14.3部)を混合し、水性インクを調製した。
【0097】
上記のようにして調製した各インクを用いて、以下の各評価試験を行った。
【0098】
[開放放置後の再吐出性の評価]
調製した各インクを、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン株式会社製、PX-504A)に充填し、100%Duty画像の印刷を行った後、吐出を停止した。30分間放置した後に、再度インクジェット印刷を開始し、その開始直後の吐出状態を目視にて確認し、下記A~Cの3段階の評価基準で評価した。試験結果を下記表1に示す。
-評価基準-
A:印刷部分に擦れが全く認められない。
B:印刷部分に僅かに擦れが認められる。
C:印刷部分に明らかに擦れが認められる。
【0099】
[発色性の評価]
調製した各インクを、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン株式会社製、PX-504A)に充填し、坪量(重さ)の異なる下記3種類の記録媒体(紙A~紙C)に100%Duty画像としてベタ印刷を行った。一般的に、坪量が小さいほど溶剤等による浸透が進んでしまい発色性が落ちると考えられている。得られた記録媒体のインク付与面を所定の大きさ(35cm×40cm)に裁断し、同じ大きさのポリエステル布(ポンジ)と重ね合わせた後、トランスファープレス機(太陽精機株式会社製、TP-600A2)を用いて200℃×60秒間の条件にて熱処理し、記録媒体からポリエステル布へ昇華転写捺染を行って、染布を作製した。
紙A:昇華転写紙(Hansol社製、坪量:50g/m
紙B:PPC用和紙KB-W115w(コクヨ株式会社製、坪量:60g/m
紙C:昇華転写紙TRS75-1320(株式会社ミマキエンジニアリング製、坪量:75g/m
【0100】
得られた各染布について、測色機(GRETAG-MACBETH社製、SpectroEye)を用いて染色濃度(Density Magenta;DM)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0101】
[紙面乾燥性の評価]
調製した各インクを、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン株式会社製、PX-504A)に充填し、昇華転写紙TRS75-1320(株式会社ミマキエンジニアリング製)に100%Duty画像としてベタ印刷を行った。印刷後の用紙上の画像を擦り、欠損しなくなるまでの時間を評価した。結果を下記表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1の結果から明らかなように、実施例1~6の水性インクは、いずれも開放放置後の再吐出性、紙面乾燥性、及び発色性が良好であった。一方、比較例1~4の水性インクは、いずれも紙面乾燥性及び発色性に劣り、比較例2の水性インクは開放放置後の再吐出性も劣っていた。比較例5の水性インクは、開放放置後の再吐出性が著しく劣っていた。また、比較例6の水性インクは、開放放置後の吐出性及び発色性に劣っていた。
【0104】
これらの結果から、実施例1~6の水性インクは上記各性能(開放放置後の再吐出性、紙面乾燥性、発色性)を兼ね備えており、各種記録用インク、特にインクジェット捺染用インクとして極めて有用であることが分かった。