(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】昇降機の検査装置および検査方法
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20220916BHJP
B66B 31/00 20060101ALN20220916BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B31/00 D
(21)【出願番号】P 2020052464
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】川崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】宋 彦舟
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-060295(JP,A)
【文献】特開平09-002752(JP,A)
【文献】特開平09-030749(JP,A)
【文献】特開平7-228443(JP,A)
【文献】特開2014-105075(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125256(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0148504(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1754816(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 - 5/28
B66B 21/00 - 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機から発生する音を計測した結果である計測データに基づいて、昇降機を検査する昇降機の検査装置において、
昇降機の機種を受け付ける機種選択部と、
前記昇降機の計測データを計測する計測部と、
前記機種毎に昇降機を構成する部品、音及び当該機種における音計測位置を対応付けて格納した部品テーブルを格納する記憶部と、
前記計測データの周波数成分を用いて、前記部品テーブルを参照し所定条件を満たす音を発生している部品を特定する部品特定部と、
前記部品特定部が特定した部品に対応する音計測位置を特定するための情報を出力する出力部を備える昇降機の検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の昇降機の検査装置において、
前記部品テーブルには当該機種に使用されている部品の個数が格納されており、前記特定された所定条件を満たす音を発生している同じ種類の部品が複数使用されている場合に、複数使用されている部品のどの部品から前記所定条件を満たす音が発生しているかを特定するための音計測位置を格納している昇降機の検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の昇降機の検査装置において、
前記部品特定部は、複数の音計測位置で計測データを用いて前記所定条件を満たす音を発生している部品を特定する昇降機の検査装置。
【請求項4】
請求項2に記載の昇降機の検査装置において、
前記部品特定部は、他の昇降機の検査装置から同じ時刻に計測した計測データを受取り、
前記所定条件を満たす音を発生している部品を特定する昇降機の検査装置。
【請求項5】
検査装置を用いて、昇降機の発生する音を計測した計測データに基づいて検査を行う昇降機の検査方法において、
機種選択部が昇降機の機種を受付け、
計測部が、前記昇降機の計測データを計測し、
記憶部が前記機種毎に昇降機を構成する部品、音及び当該機種における音計測位置を対応付けて格納した部品テーブルを格納し、
部品特定部が、前記計測データの周波数成分を用いて、前記部品テーブルを参照し所定条件を満たす音を発生している部品を特定し、
出力部が、前記部品特定部が特定した部品に対応する音計測位置を特定するための情報を出力する昇降機の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械設備の稼働に伴い発生する音や振動などの物理量を計測する技術に関する。その中でも、特に、エレベーターやエスカレーターといった昇降機を対象とする。また、音や振動の計測結果を用いた検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、機械設備の稼働に伴い発生する音や振動などの物理量を計測し、この結果を利用することがなされている。例えば、機械設備の一例であるエレベーターの構成機器の稼働状態検査をするための手段として、音や振動等を計測し過去の正常データと異常データと比較して機器ごとの健全性を判別する方法が知られている。例えば、特許文献1では、エレベーター内もしくは外に、集音ユニットを2つ以上設け、ステレオの原理により音源位置を特定する前処理を行うことで、環境音とエレベーターの異常音の誤検知を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、集音ユニットを予め配置するため、異常部品の位置に適した計測位置でのより適切な検査を行うことができない。特許文献1では、音源位置は特定できるが、異常部品と集音ユニットとの位置関係によっては、適切な検査ができないことを意味する。
【0005】
また、この課題は、検査(特に、異常部品の検査)に限らず、物理量を計測する際に生じる。例えば、所定の音で部品、特に消耗品の交換時期を知らせる保守作業などでも生じる。
【0006】
そこで、本発明はスマートデバイスを用いてエレベーターおよびエスカレーターの昇降機等の機械設備に対する計測を行う際に、計測対象の部品(機器を含む)に応じた計測位置を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、昇降機から発生する音を計測した結果である計測データに基づいて、昇降機を検査する昇降機の検査装置において、昇降機の機種を受け付ける機種選択部と、前記昇降機の計測データを計測する計測部と、前記機種毎に昇降機を構成する部品、音及び当該機種における音計測位置を対応付けて格納した部品テーブルを格納する記憶部と、前記計測データの周波数成分を用いて、前記部品テーブルを参照し異常の際に生じる音を発生している部品を特定する部品特定部と、前記部品特定部が特定した部品に対応する音計測位置を特定するための情報を出力する出力部を備える昇降機の検査装置である。
【0008】
なお、本発明には、検査装置で行う検査方法や当該検査方法を実現するためのコンピュータプログラムも含まれる。
【0009】
また、本発明には、機械設備の故障、予兆、障害などの異常の発生や交換時期の到来を検査することが含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、計測対象に応じた再計測位置の提示が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例におけるエレベーターへのスマートデバイスの設置位置を示す概略図。
【
図2】本発明の一実施例における異常検査の判定フローを示すフローチャート。
【
図3】本発明の一実施例における乗りかごプーリー8、または、乗りかごレール9で異常が発生した場合の再計測位置指示位置を示す概略図。
【
図4】本発明の一実施例における乗りかごプーリー8で異常の際に生じる音の波形14~15を示す概略図。
【
図5】本発明の一実施例における乗りかごレール9で異常に際に生じる音の波形16~17を示す概略図。
【
図6】本発明の一実施例における頂部プーリー6で異常の際に生じる音が発生した場合の再計測位置指示位置を示す概略図。
【
図7】本発明の一実施例における頂部プーリー6で異常の際に生じる音の波形19~22を示す概略図。
【
図8】本発明の一実施例における釣合い錘レール10で異常の際に生じる音が発生した場合の再計測位置指示位置を示す概略図
【
図9】本発明の一実施例における釣合い錘レール10で異常の際に生じる音の波形24~27を示す概略図。
【
図10】本発明の一実施例で異常検査を実行するシステムの構成図。
【
図11】本発明の一実施例で用いられる入力音-音収集位置対応表341を示す図。
【
図12】本発明の一実施例における部品配置パターン(1)と音収集位置(1)を示す図。
【
図13】本発明の一実施例における部品配置パターン(2)と音収集位置(2)を示す図。
【
図14】本発明の一実施例における部品配置パターン(3)と音収集位置(3)を示す図。
【
図15】本発明の一実施例における部品配置パターン(4)と音収集位置(4)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例を、図面を参照して説明する。本実施例は、機械設備として、エレベーター(昇降機)の異常検査を例に説明する。但し、本発明は、後述するように、異常検査に限定されない。例えば、交換時期の判断や音の大きさに伴う再計測にも適用可能である。 まず、
図1は、本実施例における検査対象であるエレベーターに、検査装置として設置したスマートデバイス11a、11bの設置位置を示す概略図である。検査対象のエレベーターは、機械室無しエレベーターであり、昇降路1内には乗りかご3と釣合い錘4が頂部プーリー6a、6bと乗りかごプーリー8a、8bと釣合い錘プーリー7を介しロープ5で接続されている。このロープ5を、モーター2を用いて送り出すことで、釣合い錘4が釣り合い錘レール10a、10bに沿って移動して、乗りかご3が乗りかごレール9a、9bに沿って上下に移動する。
【0013】
図1には、異常検査の際に乗りかご3内(乗りかご内)に設置されたスマートデバイス11a、異常検査の際に乗りかご3上に設置されたスマートデバイス11bを示している。検査する対象に応じてスマートデバイス11a、11bの設置位置を変えて計測を行うことが可能で、音、振動、加速度などを計測し判定を行う。なお、
図1では、スマートデバイスを1つ設置する例を挙げたが、数はこれに限定されない。また、後述する機能を実現できれば、スマートデバイス以外のデバイスであってもよい。
【0014】
また、
図10に、スマートデバイス11a、11bの構成および異常検査のためのシステム構成を示す。ここでは、スマートデバイス11の構成について説明する。まず、スマートデバイス11a、11bのそれぞれは、計測部である各種センサーを備える。センサーは、加速度センサー29、マイク30からなる。なお、速度センサーなど他のセンサーを加えてもよいし、その一部のセンサーはなくとも構わない。
【0015】
また、各種情報を表示し、さらに利用者(検査者)からの入力を受け付ける表示画面/IF部28を有する。表示画面/IF部28は、いわゆるタッチパネルで実現可能である。
【0016】
また、スマートデバイス11を複数使用して計測を行う場合には、スマートデバイス11aは、他のスマートデバイス11bと接続する通信部33を備える。さらに、各種情報を記憶する記憶部34と、記憶部に格納されRAM(Random Access Memory)に読み出されたプログラム、アプリケーションに従った演算を行う制御部31、結果を判定する判定部32を有する。なお、判定部32は、アプリケーションと実現し、その処理を制御部31での演算でその機能を実行してもよい。なお、これら各構成は、それぞれバスなどを介して接続されている。
【0017】
本検査は、
図1に示すスマートデバイス11a、11bのうちいずれか単体で行ってもよい。つまり、スマートデバイス11a、11bを異常検査装置として用いる。また、センサーをエレベーターに設置して、当該センサーとネットワークを介したサーバー装置で異常検査を行ってもよい。この場合、センサーは複数でも単数でもよい。また、センサーとして、スマートデバイスを用いてもよい。
【0018】
以下、本実施例では、スマートデバイス11aないし11b単体(以下、単にスマートデバイス11)で行う処理を主に説明する。
【0019】
図2は、本実施例の異常検査の判定フローを示すフローチャートである。
【0020】
まず、ステップS101において、異常検査が開始されると、制御部31は、検査対象となるエレベーター特有の検査モデルを特定する。これは、まず、利用者から表示画面/IF部28に対する検査対象であるエレベーターを特定する入力を受け付ける。そして、制御部31は、これに対応する検査モデルを特定する。また、記憶部34の代わりに、ネットワークを介して接続されたサーバー装置からの検査モデルの入力を受け付けてもよい。なお、上記の入力には、例えば、エレベーターの機種やエレベーターの設置場所、建物、サイトなどを特定する識別子が含まれる。
【0021】
ここで、検査モデルとは、エレベーターを構成する各部品について、その特性を示す情報を含むものである。そして、特性には、異常の際の周波数特性などの異常判定のための情報が含まれる。また、検査モデルには、該当のエレベーターにおける各部品の配置を示す情報も含まれる。
【0022】
次に、ステップS102において、エレベーターを運転した際に発生する音や振動を、マイク30および加速度センサー29のそれぞれにより計測する。これら、音や振動を計測データと称する。
【0023】
そして、ステップS103において、判定部32は、計測された計測データに対する解析を実行する。具体的には、まず、制御部31が計測データを記憶部34に保存する。そして、判定部32が、検査モデルを用いて、計測データが所定条件を満たすかを判定し、また、当該計測データを発生させた発生部品を特定する解析処理を実行する。本実施例では、当該計測データが異常の際に発生する計測データであるかを判定し、また、その計測データを発生した発生部品を特定する解析処理を実行する。そして、この結果である発生部品を、制御部31の処理により、表示画面/IF部28表示する。
【0024】
なお、解析処理には、以下の処理が含まれる。まず、計測データから異常波形(周波数成分)を、抽出する(この例は、
図4~6を用いて後述する)。そして、検査モデルである周波数成分と比較して、所定条件を満たす類似であれば、異常と判定する。また、検査モデルとして、異常の際の特徴を記憶しておき、抽出された異常波形がそれを満たすかを判定することで、発生部品を特定する。この発生部位の特定に、
図11に示す入力音-音収集位置対応表341を用いる。つまり、入力音-音収集位置対応表341から、検査モデルの一例である音パターンを特定し、当該音パターンに該当する発生部品を特定する。つまり、異常の際に生じる音を発生する発生部品を特定する。
【0025】
また、本実施例を消耗品などの部品の交換時期を判断する際には、本ステップS103では、判定部32は、計測データが交換時期を示す音を発生しているかを判定する。この例では、部品が消耗すると金属片などが表面に現れ、これと他の部分が擦れると生じる特有の音を利用する。本例では、判定部32が、計測データがこの特有の音であるかを判定する。また、判定部32では、この特有の音を発生した発生部品を特定する解析処理を実行する。この場合、検査モデルとして、上記の特有の音に対応するものを用いる。
【0026】
さらに、他の例としては、計測データが再計測を必要とするかを判断することがある。この例では、判定部32では、計測データが再計測を必要とする大きさかを判定する。この例では、検査モデルの代わりに音量の閾値を用いる。また、判定部32では、上述の例と同様に、この計測データを発生する部品を特定する。
【0027】
次に、ステップS104において、判定部32は、発生部品が昇降路内に複数個存在する部品かを判定する。つまり、異常や交換時期などの所定条件を満たす場合に、同様の周波数成分を生じる発生部品が複数個、検査対象の昇降路内に存在しているかを判定する。これは、入力音-音収集位置対応表341の個体数を用いて、判定される。なお、記憶部34に格納されたエレベーターの構造データにより、同様の周波数成分を生じる発生部品が複数個存在するか、で判定してもよい。
【0028】
また、同様の周波数成分とは、全く同一以外にも、その振幅、発生時間が所定条件を満たすように類似のものを含む。このため、同じ種類の部品が複数個存在する場合以外にも、異なる種類の部品でも同様の周波数成分を発する部品も含まれる。
【0029】
以上のステップS104の判定の結果、Yes、つまり、発生部品が複数個存在すると判定した場合には、ステップS105に進む、また、No、つまり、発生部品が複数個存在しないと判定した場合には、ステップS109へ進む。なお、本実施例では、発生部品として、同じ種類の部品が複数個あるかを判定する例で説明する。このため、
図2では、Yesの例として、発生部品として、頂部プーリー6a、6b、乗りかごプーリー8a、8b、乗りかごレール9a、9b、釣り合い錘レール10a、10bを記載している。また、
図2には、Noの例として、マシン、ブレーキ、ガバナを記載している。
【0030】
なお、再計測が必要かの判断する場合では、本ステップ104を省略してもよい。この場合、ステップS103からステップS105へ進む。
【0031】
次に、ステップS105において、制御部31は、表示画面/IF部28に、再計測位置を表示する。これは、S104で複数個存在すると判定された発生部品から、故障を発生した個体(以下、発生個体)を特定するために行われる。具体的な表示内容は、発生
個体の名称、再計測指示および再計測際におけるスマートデバイス設置位置である。ここで、スマートデバイス11の再計測位置の例を、
図3、
図6、
図8に示す。
図3では13a、13b、
図6では18a、18b、
図8では23a、23bがそれぞれ再計測位置を示す。本例では、発生部品が2個あるため、それぞれ2か所の再計測位置を、発生部品それぞれからの相対位置が異なるように特定し、表示することになる。ここで、発生部品が3個あると判定されると、再計測位置として3か所が表示される。なお、これらについては、後述する。なお、本実施例では、複数の再計測位置を表示するが、部品の個体が1つの場合、再計測位置を1か所としてもよい。
【0032】
次に、スマートデバイス11は、利用者により上述の再計測位置に配置される。そして、ステップS106の処理を、再計測位置毎に実行される。例えば、
図3の例では、スマートデバイス11を再計測位置(A)13aに配置し、ステップS106の再計測を行う。そして、利用者により再計測位置(B)13b付近にスマートデバイス11を移動し、再度ステップS106の再計測を実行する。このように、ステップS106は、発生部品の個数回分実行される。なお、このステップS106の処理は、ステップS102と同様の処理を実行する。
【0033】
次に、ステップS107において、判定部32は、ステップS106の結果を比較し、解析する。この結果、所定条件を満たす個体を特定する。本実施例では、異常個体を特定する。また、上述の交換時期の判断においては、交換が必要な個体を特定する。
【0034】
以下、ステップS105、S107の具体的な内容を、異常判定を例に、
図3~15を用いて説明する。以下では、異常と判定された発生部品が、(1)乗りかごプーリー8a、8b、(2)頂部プーリー6a、6b、(3)釣り合い錘レール10a、10bの3つ例を用いて説明する。また、(2)頂部プーリー6a、6bでの説明においては、ステップS105の詳細も併せて説明する。
【0035】
まず、
図3、
図4を用いて、ステップS103で異常の際に生じる音を生じると判定された発生部品が乗りかごプーリー8a、8bの例を説明する。また、
図3、
図5を用いて、ステップS103で異常と判定された発生部品が乗りかごレール9a、9bの例を説明する。
【0036】
図3は、ステップS103で異常と判定された発生部品が、昇降路内に2個存在する乗りかごプーリー8a、8bまたは乗りかごレール9a、9bの場合の、表示画面/IF部28に表示される再計測位置(A)13a、(B)13bを示す概略図である。この例では、スマートデバイス11を、乗りかごプーリー8aおよび乗りかごレール9aの近傍での再計測位置(A)13aと、乗りかごプーリー8bおよび乗りかごレール9bの近傍での再計測位置(B)13bに配置するように、表示されている。
【0037】
そして、ステップS107において、判定部32では、ステップS106で再計測された再計測データを、異常個体を判定する。この判定の方法を、
図4を用いて説明する。
【0038】
図4は、乗りかごプーリー8bで異常が生じる際の音が発生した場合に、スマートデバイス11を用い、
図3の再計測位置(A)13a、(B)13bでの計測データに基づく波形14、15を示す概略図である。そして、
図3、4を用いて、発生個体を判定する処理を説明する。ここで、波形14、15は、計測データから異常を示す周波数成分を抽出したものである。これは、下記の
図5、7、9でも同様である。
【0039】
波形14、15は、対象部品からの距離が近いほどスマートデバイス11内のセンサーへの入力が早く、振幅が大きくなる。つまり、乗りかごプーリー8bに異常が発生した際の計測(S106の再計測)においては、再計測位置(A)13aと再計測位置(B)13bで計測した波形14と波形15を比較すると、以下の結果となる。それは、信号の発生時間は、再計測位置(B)13bの波形15が、再計測位置(A)13aの波形14よりα1早く、振幅A1が大きくなる。これにより、異常の発生した発生個体が、乗りかごプーリー8aではなく、乗りかごプーリー8bと判定することが可能である。なお、発生時間とは、計測された時間でもある。
【0040】
次に、乗りかごレールが発生部品として判定された例を説明する。
図5は、乗りかごレール9bで異常が発生した場合に、スマートデバイス11を用い、
図3の再計測位置(A)13aと再計測位置(B)13bでの計測データに基づく波形16、17を示す概略図である。そして、
図3、5を用いて発生個体を判定する処理を説明する。
【0041】
乗りかごレール9bに異常が発生した際の計測(S106の再計測)においては、異常が発生した乗りかごレール9bからの距離は、再計測位置(A)13aよりも再計測位置(B)13bとの距離の方が近い。このため、再計測位置(A)13aと再計測位置(B)13bで計測した波形16と波形17を比較すると、信号の発生時間は、再計測位置(B)13bの方がα2早く、振幅A2が大きくなる。これにより、異常の発生した発生個体が、乗りかごレール9bと判定することが可能となる。
【0042】
次に、
図6、
図7を用いて、ステップS103で異常と判定された発生部品が、昇降路内に2個存在する頂部プーリー6a、6bの場合の処理を説明する。
図6は、ステップS105(再計測位置の表示)において、表示画面/IF部28に表示される、再計測位置(A)18a、(B)18bを示す概略図である。この例では、スマートデバイス11を、頂部プーリー6a近傍での再計測位置(A)18aと、頂部プーリー6bから再計測位置(A)18a距離と等距離になる計測位置(B)18bを示す概略図である。本例では、再計測のうち、一方の再計測位置を、複数個の発生部品それぞれから略等距離とし、他方の再計測位置を、複数個の発生部品それぞれから異なる距離とするものである。
【0043】
ここで、
図6に示すような表示を行うための処理の詳細を説明する。まず、本処理で用いられる各種情報を説明する。本処理では、記憶部34に格納された入力音-音収集位置対応表341を用いる。この入力音-音収集位置対応表341は、
図11に示すとおり、音パターン、発生部品、個体数、部品配置パターン識別情報および音収集位置識別情報がそれぞれ対応付けられて格納されている。音パターンは、連続音、高周波(周波数)、衝撃音といった該当する部品で故障が生じた場合の音の特徴が記録される。また、音パターンとして、周波数を示すグラフ情報を記録してもよい。さらに、音の代わりないし音に加え、振動情報を記録してもよい。
【0044】
また、発生部品は、故障が発生した部品を特定する情報であり、頂部プーリーと言った名称を記録してもよいし、番号のようなID情報を記録してもよい。また、個体数は、エレベーターに設置された該当部品における個体の数を示す。
【0045】
また、部品配置パターン識別情報は、エレベーター内で故障部品が配置された位置を特定する部品配置パターンを識別する情報((1)~(4))である。この部品配置パターン識別情報は、記憶部34に格納された部品配置パターン342と対応付けられている。さらに、音収集位置識別情報は、表示画面/IF部28に表示する内容である音収集位置を識別する情報((1)~(4))である。そして、音収集位置情報は、記憶部34に格納された音収集位置343と対応付けられている。なお、入力音-音収集位置対応表341において、互いに部品配置パターンと音収集位置を共通情報とすることで、いずれか一方のみを記録する構成としてもよい。
【0046】
次に、上述した各種情報を用いたステップS105の詳細な内容を説明する。制御部31は、入力音-音収集位置対応表341から、ステップS103で特定された発生部品に対応する部品配置パターン識別情報と音収集位置識別情報を特定する。本例では、発生部品が頂部プーリーであるので、部品配置パターン識別情報として(1)~(4)が、音収集位置識別情報として(1)~(4)が特定される。
【0047】
次に、制御部31は、部品配置パターン342および音収集位置343から、特定された部品配置パターン識別情報(1)~(4)および音収集位置識別情報(1)~(4)に対応する情報を抽出する。つまり、
図12~15に示す部品配置パターン342-1~4および音収集位置343-1~4を抽出する。ここで、
図12~
図15は、頂部プーリー6a、6bの配置位置毎の部品配置パターン342-1~4および音収集位置343-1~4を示すものである。そして、
図12~15の部品配置パターン342-1~4のハッチング部分が、頂部プーリー6a、6bの配置位置を示す。つまり、頂部プーリー6a、6bは、
図12では図面左上方に横配置(本例である
図6の場合)、
図13では図面右上方に横配置、
図14では図面左上方に縦配置、
図15では図面左下方に縦配置されていることを示す。そして、音収集位置343-1~4では、これら頂部プーリー6a、6bの配置位置毎の再計測の位置を(A)(B)として表される。
【0048】
次に、制御部31は、表示画面/IF部28に、これらについて、所定の表示を行う。本例では、
図6、つまり、
図12の音収集位置343-1が表示されるが、この内容には限定されない。つまり、所定の表示として、設計情報を利用したり、利用者からの指定などに応じて特定される情報を表示することが含まれる。
【0049】
例えば、検査対象のエレベーターの設計情報を、部品配置パターン342-1~4のそれぞれと比較し、該当する部品配置パターンを特定する。そして、該当する部品配置パターンに対応する音収集位置を表示する。
【0050】
また、スマートデバイス11aに、音収集位置343-1~4のそれぞれを表示し、利用者に選択を促してもよい。さらに、スマートデバイス11aに、部品配置パターン342-1~4のそれぞれを表示し、利用者に選択を促してもよい。この場合、選択された部品配置パターンに該当する音収集位置を表示する。
【0051】
またさらに、検査の事前準備として、スマートデバイス11aは利用者から検査対象のエレベーターにおける部品配置パターン識別情報の選択を受け付けてもよい。この場合、選択された部品配置パターン識別情報に対応する音収集位置識別情報を抽出対象として活性化することで、表示する音収集位置を特定できる。
【0052】
なお、音収集位置の代わりに、部品配置パターンを表示してもよい。この場合、利用者は発生部品の位置(
図12~15のハッチング部分)を確認し、これに応じた再計測位置への配置を行う。
【0053】
また、本実施例において、入力音-音収集位置対応表341は、部品配置パターン識別情報や音収集位置識別情報の代わりに、それぞれ部品配置パターンや音収集位置を格納してもよい。さらに、部品配置パターンや部品配置パターンの格納を省略してもよい。
【0054】
以上により、表示を行うための処理の詳細の説明を終了する。
【0055】
次に、本例におけるステップS107での発生個体を判定する処理を、
図7を用いて説明する。
【0056】
図7は、頂部プーリー6a、6bのいずれかで異常が発生した場合(頂部プーリー6が発生部品)に、スマートデバイス11を
図6に示す再計測位置(A)18aと計測位置(B)18bに配置し計測した計測データに基づく波形19~22を示す概略図である。
【0057】
頂部プーリー6aに異常が発生した場合は、頂部プーリー6aから再計測位置(A)18aまでの距離L1と、頂部プーリー6aから計測位置(B)18bまでの距離L2の関係がL1<L2である。このため、波形19、20は、異常音ないし振動が発生した頂部プーリー6aからの距離がより近い再計測位置(A)18aでの波形20の方がα3早く、振幅A3が大きくなる。これにより、異常の発生した発生個体が、頂部プーリー6aと判定することが可能である。
【0058】
一方、頂部プーリー6bに異常が発生した場合は、頂部プーリー6bから再計測位置(A)18aまでの距離L3と、頂部プーリー6aから計測位置(B)18bまでの距離L4がほぼ等しい(L3=L4)ため、波形21と波形22はほぼ等しくなる。ここで、波形がほぼ等しいとは、振幅の大きさと発生時間のいずれか一方がほぼ等しい場合としてもよい。これにより、異常の発生した発生個体が、頂部プーリー6bと判定することが可能である。なお、本例ではL3=L4、L2-L1が最大となるかごの内の位置を、再計測位置とすると、周波数成分の比較がより容易になり、より望ましい再計測位置となる。
【0059】
次に、
図8、
図9を用いて、ステップS103で異常と判定された発生部品が、昇降路内に2個存在する釣り合い錘レール10a、10bの場合の処理を説明する。
【0060】
図8は、表示画面/IF部28に表示される再計測位置(A)23a、(B)23bを示す概略図である。スマートデバイス11を、釣り合い錘レール10bにより近い近傍での再計測位置(B)23bと、釣り合い錘レール10aから再計測位置(B)23bまでの距離と等距離となる再計測位置(A)23aを示す概略図である。
【0061】
図9は、釣り合い錘レール10a、10bのいずれかで異常が発生した場合に、スマートデバイス11を
図8に示す再計測位置(A)23a、(B)23bに配置した場合の計測データに基づく波形24~27を示す概略図である。
【0062】
釣り合い錘レール10aに異常が発生した場合は、釣り合い錘レール10aから再計測位置(A)23aまでの距離L5と、釣り合い錘レール10aから再計測位置(B)23bまでの距離L6がほぼ等しい(L5=L6)。このため、波形24と波形25はほぼ等しくなる。ここで、波形がほぼ等しいとは、振幅の大きさと発生時間のいずれか一方がほぼ等しい場合としてもよい。これにより、異常の発生した発生個体が、釣り合い錘レール10aと判定することが可能となる。
【0063】
一方、釣り合い錘レール10bに異常が発生した場合は、釣り合い錘レール10bから再計測位置(A)23aまでの距離L7と、釣り合い錘レール10bから再計測位置(B)23bまでの距離L8の関係がL8<L7である。このため、波形25、26は、異常音発生した釣り合い錘レール10bからの距離がより近い再計測位置(B)23bでの波形27の方がα4早く、振幅A5が大きくなる。これにより、異常の発生した発生個体が、釣り合い錘レール10bと判定することが可能である。
【0064】
以上のように、本実施例では、複数の周波数成分の振幅の大きさおよび発生時間をそれぞれ比較して、発生個体を特定する。但し、いずれか一方の比較結果を用いてもよい。また、振幅の大きさの比較結果と、発生時間の比較の結果が矛盾する場合や大きさの差が小さい場合、発生時間の比較結果を用いてもよい。つまり、発生時間により特定される部品を、発生個体と判定する。
【0065】
また、本実施例では、上記の比較を行うために、発生部品からの相対位置がそれぞれ異なる再計測位置を特定し、表示するものである。
【0066】
なお、以上、ステップS105、S107の具体的な処理を、異常判定を例に説明したが、交換時期の判定を行う場合、上述したステップS105とS107において、異常の際に生じる音の代わりに、交換時期を示す音に基づいて処理がなされる。
【0067】
以上で、ステップS107の説明を終わり、ステップS108の処理を説明する。ステップS108において、制御部31は、ステップS107で判定された発生個体の方向を、表示画面/IF部28に表示する。これは、記憶部34に格納されたエレベーターにおける各部品の配置情報ないしステップS101で特定される検査モデルに含まれる配置を示す情報を用いて行う。この際、表示画面/IF部28には、地図情報のような配置図を表示することが望ましいが、部品番号など発生個体を特定する情報であってもよい。
【0068】
また、ステップS104でNoと判定された場合と、ステップS108の後に、ステップS109を実行する。ステップS109では、制御部31は、判定された発生個体に対する是正のための処理を行う。これには、表示画面/IF部28に対し、発生個体に対する修理方法を表示すること、通信部33を介して停止信号をエレベーター制御装置に送信することが含まれる。
【0069】
以上の本実施例によれば、検査のための作業時間および部品の過剰修理・交換を削減でき、コストを抑制することが可能になる。
【0070】
また、本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、種々の変形例も含まれる。例えば、最初の計測(S102)をS106の1回目の再計測に置き換えることで、計測回数を減らすことも可能である。また、マイク30として、指向性マイクを用い、複数方向の音を、この指向性マイクを用いて計測し、計測回数を1回としてもよい。
【0071】
さらに、本実施例の再計測(計測位置(A)(B)での計測)には、1台のスマートデバイスを使った複数回の計測、スマートデバイスとこれに接続されるセンサー(例えば、マイク)それぞれでの計測、複数のスマートデバイスでそれぞれでの計測が含まれる。ここで、スマートデバイスとこれに接続されるセンサー(例えば、マイク)それぞれでの計測および、複数のスマートデバイスでそれぞれでの計測では、同じ時刻での計測することが含まれる。
【0072】
また、本実施例では、平面的に配置された各部品に対して、発生個体を判定した。垂直方向(高さ方向)に配置される部品については、その配置位置(高さ)を利用するとの別ロジックを用いることが可能である。このため、これらロジックを組み合わせて、水平方向、垂直方向に配置された部品に対する異常検査を行うことが可能になる。また、この個体の判定は、交換時期の判定など他の例でも用いることが可能である。
【0073】
さらに、本実施例では、計測結果を検査に利用しているが、検査以外を対象としたり、検査を省略してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…昇降路、2…モーター、3…乗りかご、4…釣合い錘、5…ロープ、6…頂部プーリー、7…釣合い錘プーリー、8…乗りかごプーリー、9…乗りかごレール、10…釣合い錘レール、11…スマートデバイス