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特許7142702酸化セルロース、酸化セルロースおよびナノセルロースの製造方法ならびにナノセルロース分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】酸化セルロース、酸化セルロースおよびナノセルロースの製造方法ならびにナノセルロース分散液
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20220916BHJP
【FI】
C08B15/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020534759
(86)(22)【出願日】2019-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2019030392
(87)【国際公開番号】W WO2020027307
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2018146352
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100199679
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲尾 透
(74)【代理人】
【識別番号】100149168
【弁理士】
【氏名又は名称】若山 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】神谷 大介
(72)【発明者】
【氏名】松木 詩路士
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 じゆん
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】井上 典之
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-193814(JP,A)
【文献】特開昭49-034989(JP,A)
【文献】米国特許第5414079(US,A)
【文献】特開2015-113453(JP,A)
【文献】特開2009-197122(JP,A)
【文献】特開2011-184648(JP,A)
【文献】特許第5843313(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0101738(US,A1)
【文献】特開2017-090436(JP,A)
【文献】再公表特許第2018/230354(JP,A1)
【文献】特許第6769550(JP,B2)
【文献】荒木綱男ほか,「酸化剤酸化法による微結晶セルロースの製造」,高分子化学,1972,Vol.29,No.329,p.652-656
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セルロースの13Cの固体NMRスペクトルにおいて、165ppm~185ppmの範囲に複数のピークを有する酸化セルロースであって、
前記酸化セルロースのカルボキシル基の含有量が酸化セルロースの乾燥質量に対して0.55mmol/g~3.0mmol/gである、
酸化セルロース(ただし、酸化再生セルロースを除く)。
【請求項2】
酸化セルロースの13Cの固体NMRスペクトルにおいて、165ppm~185ppmの範囲に複数のピークを有し、かつ、N-オキシル化合物を含まない酸化セルロースであって、
前記酸化セルロースのカルボキシル基の含有量が酸化セルロースの乾燥質量に対して0.55mmol/g~3.0mmol/gである、
酸化セルロース(ただし、酸化再生セルロースを除く)。
【請求項3】
有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸またはその塩を用いて、pHを5.0~14.0の範囲に調整しながら、セルロース系原料(ただし、再生セルロースを除く)を酸化反応させることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化セルロース(ただし、酸化再生セルロースを除く)の製造方法。
【請求項4】
前記次亜塩素酸またはその塩が次亜塩素酸ナトリウムである請求項3に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項5】
pHを7.0~14.0の範囲に調整しながら、セルロース系原料を酸化反応させることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の酸化セルロースの製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2の酸化セルロース(ただし、酸化再生セルロースを除く)を解繊処理してナノ化させる工程を有するナノセルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系原料を酸化した酸化セルロース、酸化セルロースおよびナノセルロースの製造方法ならびにナノセルロース分散液に関する。さらに詳しくは、酸化剤として、有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸またはその塩を用いて、特定なpHの範囲内で酸化反応を行うことで、複数の位置の水酸基が酸化された酸化セルロース、およびその酸化セルロースの製造方法に関する。
また、前記酸化セルロースを解繊処理してナノ化させる工程を有するナノセルロースの製造方法およびナノセルロース分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
各種セルロース系原料を酸化処理することで、セルロースナノファイバーなどのナノセルロース材料を製造する方法が検討されている。例えば、セルロース系原料を、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(以下、TEMPOという)の存在下に、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムで酸化処理する方法が開示されている(非特許文献1)。
【0003】
また、TEMPOなどのN-オキシル系触媒を用いない方法で製造して、カルボキシル基の含有量がセルロースナノファイバーの乾燥質量に対し0.20~0.50mmol/gであり、平均繊維径が3~100nmであり、N-オキシル化合物を含まないセルロースナノファイバーが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-193814号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cellulose Commun.,14(2),62(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記先行技術文献におけるTEMPOなどのN-オキシル化合物を触媒として製造された酸化セルロース中には、十分に洗浄した後であっても、窒素分として数ppm程度のN-オキシル化合物が残留する。
N-オキシル化合物は環境や人体に対する毒性が懸念されているため、酸化セルロースを用いてセルロースナノファイバー水分散液を調製した場合、該分散液中にもN-オキシル化合物が混在することになり、ナノセルロースを高機能性材料として利用する場合、その用途によっては、分散液中に存在するN-オキシル化合物が好ましくない影響を与えることがある。
また、N-オキシルは非常に高価な材料であるため、N-オキシルを使用する方法は、経済的な製造方法とは言えない。
【0007】
特許文献1によれば、次亜塩素酸または次亜塩素酸塩を含む溶媒中、pH=5.0~9.0でセルロースの酸化反応を行って酸化セルロースを得る酸化工程と、前記酸化セルロースを溶媒中で解繊してセルロースナノファイバーの分散液を得る解繊工程を有し、N-オキシル化合物を含まないセルロースナノファイバー分散液を得ると記載されている。しかしながら、酸化セルロース中のカルボキシル基量が0.20~0.50mmol/gと少ないため、解繊工程において、過度の機械的解繊処理が必要となるなど、効率的な製造方法とは言えない。
【0008】
本発明は、上記の状況を鑑み、TEMPOなどのN-オキシル化合物をナノセルロース中に残存させずに、かつ、過度の機械的解繊処理が必要としない効率的な方法でナノセルロースを製造することができる、酸化セルロースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、セルロース系原料の複数の位置の水酸基が酸化された酸化セルロースが、過度な条件の機械的処理を必要とせずに解繊できること、また、酸化剤として有効塩素濃度が6質量%以上で14質量%以下である次亜塩素酸またはその塩を用いて、酸化反応時のpHを5.0~14.0の範囲に調整することにより、TEMPOなどのN-オキシル化合物を触媒として用いなくても、セルロース系原料を酸化させて、前記解繊性に優れた酸化セルロースが製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)酸化セルロースの13Cの固体NMRスペクトルにおいて、165ppm~185ppmの範囲に複数のピークを有する酸化セルロース。
(2)酸化セルロースの13Cの固体NMRスペクトルにおいて、165ppm~185ppmの範囲に複数のピークを有し、かつ、N-オキシル化合物を含まない酸化セルロース。
(3)有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸またはその塩を用いて、pHを5.0~14.0の範囲に調整しながら、セルロース系原料を酸化反応させることを特徴とする(1)または(2)に記載の酸化セルロースの製造方法。
(4)次亜塩素酸またはその塩が次亜塩素酸ナトリウムである(3)に記載の酸化セルロースの製造方法。
(5)pHを7.0~14.0の範囲に調整しながら、セルロース系原料を酸化反応させることを特徴とする(3)または(4)に記載の酸化セルロースの製造方法。
(6)前記酸化セルロースにおいて、カルボキシル基の含有量が酸化セルロースの乾燥質量に対し、0.20mmol/g~3.0mmol/gである(3)~(5)のいずれかに記載の酸化セルロースの製造方法。
(7)(1)または(2)の酸化セルロースを解繊処理してナノ化させる工程を有するナノセルロースの製造方法。
(8)(7)に記載のナノセルロースを、水、アセトニトリルおよび炭酸エステルから選ばれる群の少なくとも1つに分散させたナノセルロース分散液。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸化セルロースは、従来のN-オキシルを用いて製造した酸化セルロースとは、化学構造が異なるため、酸化セルロースを解繊する際に過度な機械的処理を必要とせずに解繊することができる。また、触媒であるN-オキシル化合物を使用しないため、得られた酸化セルロースにはN-オキシル化合物が含まれず、環境や人体に対する毒性の恐れが低減する。また、高価な触媒であるTEMPO化合物を使用しないため、経済的に優れた製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例3で得られた酸化セルロースを解繊した後の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図2図2は、実施例14で得られた酸化セルロースを解繊した後の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図3図3は、実施例2で得られた酸化セルロースの13Cの固体NMRである。
図4図4は、図3における165ppm~185ppm部分の拡大図である。
図5図5は、比較例8のTEMPO触媒を用いて製造した酸化セルロースの13Cの固体NMRである。
図6図6は、図5における165ppm~185ppm部分の拡大図である。
図7図7は、図4図6における165ppm~185ppm部分のピークを対比させた図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の酸化セルロースは、13Cの固体NMRスペクトルにおいて、165ppm~185ppmの範囲に複数のピークを有する酸化セルロースであり、N-オキシル化合物を含まない酸化セルロースが好ましい。ここで、N-オキシル化合物を含まないとは、N-オキシル化合物の含有量が3ppm以下を意味する。
【0014】
(酸化セルロースの13Cの固体NMRの測定)
本発明における酸化セルロースの13Cの固体NMRは、以下の条件で測定する。
(1)試料管:ジルコニア製の4mm径
(2)磁場強度:9.4T(1H共鳴周波数:400MHz)
(3)MAS回転数:15kHz
(4)パルスシーケンス:CPMAS法
(5)コンタクトタイム:4ms
(6)待ち時間:5秒
(7)積算回数:10000~15000回
(8)測定装置:JNM ECA-400(日本電子株式会社製)
【0015】
前記13Cの固体NMRスペクトルにおける165ppm~185ppmの範囲のピークは、カルボキシル基(-COOH)に基因するピークであり、該ピークが複数であれば、原料セルロースの構成単位における炭素の複数が酸化された構造であることを意味する。
ここで、ピークが複数であるか1本であるかについて、該当するピークの面積比率により決めることができる。
すなわち、NMRスペクトルにおける165ppm~185ppmの範囲のピークにベースラインを引いて、全体の面積値を求めた後、ピークトップで面積値を垂直分割して得られる2つのピーク面積値の比率(大きな面積値/小さな面積値)を求め、該ピーク面積値の比率が1.2以上であればピークが複数であると考えられる。
すなわち、前記165ppm~185ppmの範囲に1つのピークしかなければ、前記ピーク面積値の比率は1.0に近い値を示し、面積値の計算誤差を考慮しても1.2未満である。
【0016】
なお、前記13Cの固体NMRスペクトルの炭素ピークの帰属については、高分子先端材料「One Point」別巻「高分子分析技術最前線」125頁~126頁(共立出版株式会社、2007年12月25日発行)および「セルロースの事典」153頁~156頁(株式会社朝倉書店、2000年11月10日発行)に記載されている。
原料セルロースの構成単位における炭素の複数が酸化された構造である酸化セルロースは、解繊する際に過度な機械的処理を必要とせずに解繊することができる。
【0017】
本発明の酸化セルロースの製造方法は、有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸またはその塩を用いて、pHを5.0~14.0の範囲に調整しながら、セルロース系原料を酸化反応させる方法である。以下、詳しく説明する。
【0018】
本発明におけるセルロース系原料は、セルロースを主体とした材料であれば限定はなく、例えば、パルプ、天然セルロース、再生セルロースおよびセルロース原料を機械的処理することで解重合した微細セルロースなどが挙げられる。なお、セルロース系原料として、パルプを原料とする結晶セルロースなどの市販品をそのまま使用することができる。また、使用する酸化剤が原料パルプの中に浸透しやすくする目的で、予めセルロース系原料を適度な濃度のアルカリで処理しても良い。
【0019】
本発明における酸化セルロースの製造方法は、有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸またはその塩を用いて、pHを5.0~14.0の範囲に調整しながら、セルロース系原料を酸化させて酸化セルロースを製造する方法である。
なお、有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸またはその塩を用いることにより、酸化セルロース中のカルボキシル基量が適切な量になり、ナノセルロースにするための酸化セルロースの解繊を容易に行うことができる。
【0020】
また、反応中のpHは7.0~14.0に調整することが好ましく、この範囲であると、酸化セルロース中のカルボキシル基量が適切な量になり、ナノセルロースにするための酸化セルロースの解繊を容易に行うことができる。
【0021】
ここで、次亜塩素酸またはその塩における有効塩素濃度はよく知られた概念であり、以下のように定義される。
次亜塩素酸は水溶液としてのみ存在する弱酸であり、次亜塩素酸塩は次亜塩素酸の水素が他の陽イオンに置換された化合物である。
例えば、次亜塩素酸塩である次亜塩素酸ナトリウムは溶液中にしか存在しないため、次亜塩素酸ナトリウムの濃度ではなく、溶液中の有効塩素量を測定する。
次亜塩素酸ナトリウムの有効塩素とは,次亜塩素酸ナトリウムの分解により生成する2価の酸素原子の酸化力が1価の塩素の2原子当量に相当するため、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の結合塩素原子は,非結合塩素(Cl2)の2原子と同じ酸化力を持っていて、有効塩素=2×(NaClO 中の塩素)となる。
具体的な有効塩素濃度の測定は、試料を精秤し、水、ヨウ化カリウム、酢酸を加えて放置し、遊離したヨウ素についてデンプン水溶液を指示薬としてチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し測定する。
【0022】
本発明のおける次亜塩素酸またはその塩としては、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムおよび次亜塩素酸アンモニウムなどが例示され、これらの中でも、取り扱いやすさの点から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
以下、次亜塩素酸またはその塩として次亜塩素酸ナトリウムを例にして、本発明の製造方法を説明する。
【0023】
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度を6質量%~14質量%に調整する方法としては、有効塩素濃度が6質量%より低い次亜塩素酸ナトリウム水溶液を濃縮する方法、および目標濃度よりも有効塩素濃度の高い次亜塩素酸ナトリウム水溶液の希釈や次亜塩素酸ナトリウムの結晶、例えば、5水和物の溶解により調整する方法がある。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を希釈、または次亜塩素酸ナトリウムの結晶を溶解して酸化剤としての有効塩素濃度に調整する方法が、自己分解が少なく、すなわち有効塩素濃度の低下が少なく、調整が簡便であるため好ましい。
【0024】
酸化剤である有効塩素濃度が6質量%~14質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液の使用量は、酸化反応が促進する範囲で選択できる。
セルロース系原料と次亜塩素酸ナトリウム水溶液の混合方法の限定はないが、操作の容易さの面から、次亜塩素酸ナトリウム水溶液にセルロース系原料を加えて混合させることが好ましい。
【0025】
前記酸化反応における反応温度は15℃~100℃であることが好ましく、20℃~90℃であることがさらに好ましい。酸化反応によりセルロース系原料にカルボキシル基が生成するに伴い、反応系のpHが低下するが、酸化反応を効率よく進めるために、反応系のpHを5.0~14.0の範囲に調整する必要がある。pHを調整するために、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤および塩酸などの酸を添加することができる。
酸化反応の反応時間は、酸化の進行の程度に従って設定することができるが、例えば、15分~50時間程度反応させることが好ましい。
反応系のpHを10以上とする場合には、反応温度を30℃以上および/または反応時間を30分間以上に設定することが好ましい。
【0026】
前記酸化反応では、セルロース系原料中の1級水酸基がカルボキシル基へ酸化され酸化セルロースが生成する。該酸化セルロースのカルボキシル基量は特に限定されないが、さらに、酸化セルロースを解繊してナノ化させてナノセルロースを製造するに際し、酸化セルロース1g当たりのカルボキシル基量が、0.20mmol/g~3.0mmol/gであることが好ましく、0.55mmol/g~3.0mmol/gであることがより好ましい。
酸化セルロース中のカルボキシル基量が0.20mmol/g~3.0mmol/gの範囲であると、ナノセルロースにするための酸化セルロースの解繊を容易に行うことができ、0.55mmol/g~3.0mmol/gの範囲であれば更に容易に行うことができる。
【0027】
なお、酸化セルロース中のカルボキシル基量は、次の方法で測定することができる。
酸化セルロースの0.5質量%スラリーに純水を加えて60mlに調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5にした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が穏やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下記式を用いて算出する。
カルボキシル基量(mmol/g酸化セルロース)=a(ml)×0.05/酸化セルロース質量(g)
【0028】
本発明の製造方法で得られた酸化セルロースは、解繊してナノ化することにより、ナノセルロースを製造することができる。ここで、ナノセルロースとは、セルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタルなどを含むセルロースをナノ化したものの総称である。
前記酸化セルロースを解繊する方法では、溶媒中でスターラーなどの弱い撹拌や、機械的解繊を行うことで、解繊時間の短縮が可能になる。ただし、機械的解繊が強すぎると、ナノセルロースが折れたり、切れたりする場合がある。
【0029】
前記機械的解繊の方法は、例えば、酸化セルロースを十分に溶媒で洗浄した後、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対抗衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイター、コニカル型リファイター、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、一軸または多軸混錬機などの公知の混合・撹拌装置が挙げられ、これらを単独または2種類以上組合せて溶媒中で処理することで、酸化セルロースをナノ化して、ナノセルロースを製造することができる。
【0030】
解繊処理に使用する溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、水、アルコール類、エーテル類、ケトン類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドおよびジメチルスルホキサイドなどが挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
前記アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチレングリコールおよびグリセリン等が挙げられる。
前記エーテル類としては、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサンおよびテトラヒドロフラン等が挙げられる。
前記ケトン類としては、アセトンおよびメチルエチルケトン等が挙げられる。
【0032】
溶媒として有機溶剤を選択することにより、前記工程で得られた酸化セルロースおよびそれを解繊して得られたナノセルロースの単離が容易となる。また、有機溶剤中に分散したナノセルロースが得られるため、有機溶剤に溶解する樹脂やその樹脂原料モノマー等との混合が容易となる。
【0033】
さらに、前記ナノセルロースを水、アセトニトリルおよび炭酸エステルから選ばれる群の少なくとも1つに分散させたナノセルロース分散液は、樹脂成分との混合などに使用することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例および比較例により、本発明を具体的に説明する。
実施例1
ビーカーに、有効塩素濃度が42質量%である次亜塩素酸ナトリウム5水和物結晶を30.3g入れ、純水を加えて撹拌し有効塩素濃度を14質量%とした。そこへ、35質量%塩酸を加えて撹拌し、pH7.0の水溶液とした。
前記次亜塩素酸ナトリウム水溶液をスターラーで撹拌しながら恒温水浴にて30℃に加温した後、セルロース系原料として、針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を綿状に機械解繊したもの(カルボキシル基量が0.05mmol/g)を0.35g加えた。
セルロース系原料を供給後、同じ恒温水槽で30℃に保温しながら、48質量%水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを7.0に調整して、30分間スターラーで撹拌を行った。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシル基量を測定した。カルボキシル基量は0.62mmol/gで、ろ過上物量は0.16gであった。
【0035】
実施例2~実施例16
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度、反応中のpH、反応温度および反応時間を表1に示す条件とした以外は、実施例1と同じ条件で酸化反応を行った。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシル基を測定した。カルボキシル基量とろ過上物量を表1に記載した。
【0036】
実施例3および14で得られた酸化セルロースの1質量%水分散液を20g作製し、ヒールッシャー製「UP-400S」超音波ホモジナイザーにてCYCLE0.5、AMPLITUDE50の条件で10分間解繊した。その液を遠沈管に入れ、t-ブタノールを加えた後に、十分に混合し遠心分離させた。得られた上澄み分を除去してt-ブタノールを加える操作を10回繰り返して溶媒置換した。
得られたt-ブタノール分散液を凍結乾燥させた後、四酸化ルテニウムで蒸気染色を1時間行った。走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ社製S-4800)で観察した結果、幅が数10nmであるセルロースナノファイバーが得られていることを確認した。SEMの写真(10万倍)を図1(実施例3)および図2(実施例14)に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
比較例1~比較例7
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の有効塩素濃度、反応中のpH、反応温度および反応時間を表2に示す条件とした以外は、実施例1と同じ条件で酸化反応を行った。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシル基量を測定した。カルボキシル基量とろ過上物量を表2に記載した。
【0039】
【表2】
【0040】
比較例8
TEMPOを0.016gおよび臭化ナトリウムを0.1gビーカーに入れ、純水を加えて撹拌し水溶液とし、セルロース系原料である針葉樹パルプ(SIGMA-ALDRICH社 NIST RM 8495, bleached kraft pulp)を綿状に機械解繊したもの(カルボキシル基量が0.05mmol/g)を1.0g加えた。
前記水溶液をスターラーで撹拌しながら恒温水浴にて25℃に加温した後、0.1M水酸化ナトリウムを加えて撹拌し、pH10.0の水溶液とした。
そこへ、有効塩素濃度13.2質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液2.58gを加え、同じ恒温水槽で25℃に保温しながら、0.1M水酸化ナトリウムを添加しながら反応中のpHを10.0に調整して、120分間スターラーで撹拌を行った。
反応終了後、目開き0.1μmのPTFE製メンブランフィルターを使用して、吸引ろ過により生成物を固液分離し、得られたろ過上物を純水で洗浄した後に、カルボキシル基量を測定した。カルボキシル基量は1.50mmol/gで、ろ過上物量は約1.0gであった。
【0041】
(酸化セルロースの13Cの固体NMRの測定)
実施例2および比較例8で得られた酸化セルロースを凍結乾燥させた後、23℃、50%RHで24時間以上放置してから、下記条件で、13Cの固体NMRを測定した。結果を図3図7に示す。
図4および図6が、165ppm~185ppmの部分を拡大した図であり、図7図4図6のピーク面積比率を対比させた図である。
図7において、ピークトップで面積値を垂直分割して得られる2つのピーク面積値の比率(大きな面積値/小さな面積値)は、比較例8が1.13であり、実施例2が1.67であった。
したがって、TEOPO触媒を使用した比較例8(図6)のピークが1本であるの対して、TENPO触媒を使用しない実施例2(図4)のピークは複数存在することがわかる。
【0042】
(酸化セルロースの13Cの固体NMRの測定条件)
(1)試料管:ジルコニア製の4mm径
(2)磁場強度:9.4T(1H共鳴周波数:400MHz)
(3)MAS回転数:15kHz
(4)パルスシーケンス:CPMAS法
(5)コンタクトタイム:4ms
(6)待ち時間:5秒
(7)積算回数:10000~15000回
(8)測定装置:JNM ECA-400(日本電子株式会社製)
【0043】
<参考例1:酸化セルロースの解繊処理(1)>
実施例1および実施例6、比較例2および比較例5で得られた酸化セルロースの1%水分散液を20g作製し、ヒールッシャー社製「UP-400S」超音波ホモジナイザーにてCYCLE0.5、AMPLITUDE50の条件で解繊した。その液が目視でほぼ透明になるまでの時間、すなわちナノレベルまで解繊出来るまでの時間を測定した。また、同じ液を12時間スターラー撹拌し、目視で透明になるか確認した。
カルボキシル基量0.55mmol/g以上では超音波ホモジナイザー処理10分以内にほぼ透明となり、12時間撹拌のみでもほぼ透明化した。一方、0.20mmol/g以下では透明にならなかった。そのため、カルボキシル基量0.55mmol/g以上の酸化セルロースは解繊が容易になっていると言える。
【0044】
【表3】
【0045】
<参考例2、酸化セルロースの解繊処理(2)>
実施例2および比較例8で得られた酸化セルロース0.1%水分散液を50g作製し、マイクロテック・ニチオン社製「ヒスコトロン」(商品名)超高速ホモジナイザーで7500rpm、2分間解繊した後に、日本精機製作所株式会社製「US-300E」(商品名)超音波ホモジナイザーにて4分間刻みで解繊し、透明になるまで実施した。ここで、透明化の基準は、UV-VIS測定(セル長10mm)にて660nmでの透過率90%以上とした。
実施例2の酸化セルロースは、超高速ホモジナイザーのみで透明となったのに対し、比較例8の酸化セルロースは超音波ホモジナイザーで8分間が必要であり、実施例2の解繊処理の方が効率的であることがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7