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特許7142748チタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】チタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/14 20060101AFI20220916BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20220916BHJP
   B22F 3/18 20060101ALI20220916BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20220916BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20220916BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
B22F3/14 D
B22F3/11 C
B22F3/18
H01M4/66 A
H01M4/64 A
C22C1/08 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021105985
(22)【出願日】2021-06-25
【審査請求日】2022-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/180797(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/120803(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のチタン多孔質体であって、
相対密度(‐)に対する導電率(kS/cm)の比率が8.0kS/cm以上であり、厚み(mm)に対する透気抵抗度(s)の比率が8.0s/mm以下であるチタン多孔質体。
【請求項2】
酸素含有量が0.15質量%~0.50質量%である請求項1に記載のチタン多孔質体。
【請求項3】
窒素含有量が0.02質量%~0.15質量%である請求項1又は2に記載のチタン多孔質体。
【請求項4】
厚みが0.2mm~4.0mmである請求項1~3のいずれか一項に記載のチタン多孔質体。
【請求項5】
相対密度が0.05~0.50である請求項1~のいずれか一項に記載のチタン多孔質体。
【請求項6】
シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、
チタン繊維の堆積物を、真空又は不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱し、チタン焼結体を得る第一焼結工程と、
前記チタン焼結体に対し、窒素雰囲気下で温間圧延を施す温間圧延工程と、
温間圧延工程の後、前記チタン焼結体を、真空又は不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱する第二焼結工程と
を含
温間圧延工程で、前記チタン焼結体を200℃~400℃の範囲内の温度にして温間圧延を行う、チタン多孔質体の製造方法。
【請求項7】
チタン繊維を乾式で堆積させ、チタン繊維の前記堆積物を形成する乾式堆積工程をさらに含む、請求項に記載のチタン多孔質体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート状のチタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属繊維を焼結させて製造される金属多孔質体は、電池その他の様々な用途に用いられている。
【0003】
たとえば特許文献1には、「金属繊維が交絡されていると共に交絡された金属繊維同士が直接接合されて空孔を囲む骨格を形成し、多孔性繊維構造体あるいは三次元網状構造体となっていることを特徴とする電池電極基板用金属繊維多孔体」が記載されている。また、この特許文献1には、その製造方法として、「金属繊維からなるウエブを支持体上に載置し、該ウエブに対して高圧高速流体を噴射して、金属繊維を三次元に交絡させたシートとし、ついで、上記金属繊維交絡シートを、加圧下において、金属繊維の融点以下の温度で加熱して、金属繊維の交点を融着している電池電極基板用金属繊維多孔体の製造方法」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-143510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属多孔質体のうち、主としてチタンからなるチタン多孔質体は、チタンが有する優れた耐食性及び電気伝導性の故に、PEM水電解装置の腐食が生じ得る環境下にあるPTL(porous transport layer)等として用いることが検討されている。
【0006】
そのような用途では、耐食性及び電気伝導性の他、厚み方向に気体及び液体の少なくとも一方を良好に通す通気性ないし通液性を有するシート状のチタン多孔質体が求められることがある。通気性及び通液性の少なくとも一方に優れたチタン多孔質体であれば、上記の用途に好適に使用できる可能性がある。
【0007】
しかしながら、通気性ないし通液性を高めることを目的としてチタン多孔質体の相対密度を低くすれば、空隙の増大により電気伝導性が低下し、電気的特性に対する要求を満足しなくなる。したがって、これまでは、相反する電気伝導性と通気性ないし通液性とを高い次元で両立させることは困難であった。
【0008】
特許文献1では、金属多孔質体のなかでもチタン多孔質体で電気伝導性と通気性ないし通液性の両特性を高めるための具体的な条件については何ら検討されていない。
【0009】
この発明の目的は、比較的高い電気伝導性及び通気性ないし通液性を有するチタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は鋭意検討の結果、チタン繊維に対して所定の第一焼結工程、温間圧延工程及び第二焼結工程を行うことで、高い電気伝導性及び通気性ないし通液性を有するチタン多孔質体を製造できることを見出した。
【0011】
より詳細には、第一焼結工程でチタン繊維をある程度焼結させてチタン焼結体とした後、温間圧延工程を行う。ここでは、冷間圧延ではなく温間圧延とすることにより、チタン焼結体を構成するチタン繊維の塑性変形が進みやすくなり、チタン繊維どうしの接触箇所が増加するという現象や、接触箇所が大きくなるという現象等が生じると考えられる。なお、温間圧延ではチタン新生面が生じうるが、窒素雰囲気下で温間圧延を行うため、チタン新生面が生じても薄い窒化チタン膜で覆われる。よって、温間圧延後の冷却において酸化チタン膜の形成が抑制され、その結果、チタン中の酸素含有量の増加が抑制される。その後の第二焼結工程では、チタン繊維は温間圧延で増加ないし増大した接触箇所にて焼結が進行し、また第一焼結工程で既に形成されていた結合部は焼結の進行により更に大きくなると考えられる。これにより、チタン多孔質体の通気性を犠牲にせずに電気伝導性を向上させることができると推測される。但し、この発明は、このような理論に限定されない。
【0012】
なお、温間圧延工程は、チタン焼結体の酸化を抑制するとともに、チタン焼結体が圧延によって生じる新生面で圧延ロールに貼り付くことを防止するため、窒素雰囲気とする。窒素雰囲気で温間圧延を行うと、チタン焼結体に薄い窒化チタン膜が形成されることがあり、この窒化チタン膜が、圧延ロールへのチタン焼結体の貼り付きを阻止するべく機能する。窒化チタン膜は成長し難く、また別途実施する焼結により窒素が内部に拡散することで消失すると考えられるので、チタン多孔質体の窒素含有量の意図しない増加は抑えられる。
【0013】
この発明のチタン多孔質体は、シート状のものであって、相対密度(‐)に対する導電率(kS/cm)の比率が8.0kS/cm以上であり、厚み(mm)に対する透気抵抗度(s)の比率が8.0s/mm以下である。
【0014】
上記のチタン多孔質体では、酸素含有量が0.15質量%~0.50質量%であることが好ましい。
【0015】
上記のチタン多孔質体の厚みは、0.2mm~4.0mmとすることができる。
【0016】
上記のチタン多孔質体は、相対密度が0.05~0.50であることが好ましい。
【0017】
この発明のチタン多孔質体の製造方法は、シート状のチタン多孔質体を製造する方法であって、チタン繊維の堆積物を、真空又は不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱し、チタン焼結体を得る第一焼結工程と、前記チタン焼結体に対し、窒素雰囲気下で温間圧延を施す温間圧延工程と、温間圧延工程の後、前記チタン焼結体を、真空又は不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱する第二焼結工程とを含むものである。
【0018】
この製造方法は、チタン繊維を乾式で堆積させ、チタン繊維の前記堆積物を形成する乾式堆積工程をさらに含むことが好ましい。
【0019】
温間圧延工程では、前記チタン焼結体を200℃~400℃の範囲内の温度にして温間圧延を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明のチタン多孔質体は、比較的高い電気伝導性及び通気性ないし通液性を有するものである。この発明のチタン多孔質体の製造方法によれば、そのようなチタン多孔質体を良好に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のチタン多孔質体は、シート状のものであり、相対密度(‐)に対する導電率(kS/cm)の比率が8.0kS/cm以上であり、厚み(mm)に対する透気抵抗度(s)の比率が8.0s/mm以下である。
【0022】
このような高い電気伝導性及び通気性ないし通液性は、チタン多孔質体の製造時に、原料のチタン繊維に対し、第一焼結工程、温間圧延工程及び第二焼結工程を順次に行うことにより実現することができる。この発明の一の実施形態によれば、各工程の条件を適正に制御することにより、原料として使用したチタン繊維どうしの接触箇所が適切に多くなり、かつ、望ましい大きさの結合部が形成されると考えられる。これにより製造されたチタン多孔質体は、高い電気伝導性と通気性ないし通液性を達成しうると思われる。第一焼結工程では、チタン繊維の堆積物を、真空又は不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱する。これにより得られるチタン焼結体は、温間圧延工程で窒素雰囲気の下、温間圧延が施される。温間圧延工程の後は、第二焼結工程で、チタン焼結体を、真空又は不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱する。
【0023】
(組成)
チタン多孔質体は、チタン製とする。チタン製であれば、ある程度の相対密度で高い電気伝導性を有するとともに、厚み方向に気体を良好に通すチタン多孔質体が得られる。チタン多孔質体のTi含有量は、たとえば99質量%以上、好ましくは99.3質量%以上である。Ti含有量は多いほうが望ましいが、99.8質量%以下となることがある。
【0024】
チタン多孔質体は不純物としてFeを含有することがあり、Fe含有量は、たとえば0.25質量%以下である。またチタン多孔質体には、たとえば製造過程に起因する不可避的不純物として、Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snが含まれる場合がある。Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snの各々の含有量は0.10質量%未満、それらの合計の含有量は0.30質量%未満であることが好適である。
【0025】
チタン多孔質体の酸素含有量は、好ましくは0.15質量%~0.50質量%であり、より好ましくは0.15質量%~0.35質量%である。このような少ない酸素含有量である場合は、導電率がより一層高くなり、電気伝導性がさらに向上する。また、酸素含有量を少なくすれば、チタン多孔質体の脆化による破損が抑制される。
【0026】
チタン多孔質体の窒素含有量は、0.02質量%~0.15質量%となる場合がある。チタン多孔質体を製造する際には、詳細については後述するが、窒素雰囲気の温間圧延工程を行うが、そのときに形成され得る窒化チタン膜は、その後の第二焼結工程でほぼ消失すると推測される。これにより、チタン多孔質体の窒素含有量を、上記のように少ない範囲内に抑えることが可能である。なお、チタン多孔質体の炭素含有量は、たとえば0.02質量%~0.20質量%であり、また例えば、0.02質量%~0.10質量%である。
【0027】
上述した酸素含有量は不活性ガス溶融-赤外線吸収法、窒素含有量は不活性ガス溶融-熱伝導度法、炭素含有量は燃焼赤外線吸収法によりそれぞれ測定することができる。
【0028】
なお、チタン多孔質体は、上記の酸素含有量を除き、JIS H 4600(2012)の純チタン1~4種、典型的には1~2種に相当する純度である場合がある。
【0029】
(相対密度と導電率)
チタン多孔質体は一般に、相対密度が低いと電気伝導性が低下する傾向がある。チタン多孔質体の相対密度をd(‐、無次元)とし、導電率をσ(kS/cm)としたとき、相対密度d(‐)に対する導電率σ(kS/cm)の比率σ/dは、8.0kS/cm以上である。このように相対密度dに対する導電率σの比率σ/dが大きいチタン多孔質体は、電気伝導性に優れるものであると評価することができる。この場合、上記のチタン多孔質体をPEM水電解装置のPTL(porous transport layer)等として用いたときの電解時の電力損失を低減することができる。
【0030】
さらに相対密度dと導電率σとの比率σ/dが10kS/cm以上であるチタン多孔質体は、より一層優れた電気伝導性を発揮し得る。なお、相対密度dと導電率σとの比率σ/dは、たとえば20kS/cm以下となる場合がある。
【0031】
チタン多孔質体の相対密度は、0.05~0.50、さらに0.10~0.35であることが好ましい。相対密度がこのような範囲内であれば、所要の高い強度を有しつつ、さらに良好な通気性ないし通液性を発揮することができる。
【0032】
上記の導電率としては、日東精工アナリテック製低抵抗率計ロレスタGP(MCP-T610)、プローブ(MCP-TP08P)等の、JIS K7194に対応した低抵抗率計を用いて、シート状のチタン多孔質体の中央で、圧延方向に一回、圧延方向と直角方向に一回、計二回測定した導電率測定値の平均値を用いる。相対密度を求めるには、シート状のチタン多孔質体の面積及び厚みから体積Vを算出する。また、チタン多孔質体の質量Mを測定し、見かけ密度ρ(g/cm3)を体積Vと質量Mの比として求める。この見かけ密度ρ(g/cm3)をTiの真密度4.51g/cm3で除して、相対密度(ρ/4.51)を算出する。
【0033】
(厚みと透気抵抗度)
チタン多孔質体の厚み方向の通気性ないし通液性は、厚みの影響で変化し得る。チタン多孔質体の厚みをt(mm)とし、体積が300mLの空気を厚み方向に通過させるに要する時間である透気抵抗度をT(s)としたとき、厚みt(mm)に対する透気抵抗度T(s)の比率T/t(s/mm)は、8.0s/mm以下である。厚みtに対する透気抵抗度Tの比率T/tが8.0s/mm以下であれば、所定の用途で要求される通気性及び通液性の要求を満たすことができると考えられる。たとえば、PEM水電解装置のPTLとしたチタン多孔質体で、酸素や水の拡散速度が向上し、そこに供給された水等の流体が電極に到達しやすくなるとともに、電極で発生する酸素が外部に排出されやすくなる。これにより電解効率が高まる。
【0034】
厚みt(mm)と透気抵抗度T(s)との比率T/t(s/mm)は、5.0s/mm以下であることが好適である。この比率T/tの好ましい下限値は特にないが、1.0s/mm以上、典型的には2.0s/mm以上となる場合がある。
【0035】
シート状のチタン多孔質体の厚みは、好ましくは0.2mm~4.0mm、より好ましくは0.3mm~2.0mmである。ある程度厚い厚みとすることにより、PEM水電解装置の用途にて酸素や水の不均一な拡散が抑えられ、電解効率の低下を抑制することができる。なお、チタン多孔質体についての「シート状」とは、平面視の寸法に対して厚みが小さい板状もしくは箔状を意味し、平面視の形状については特に問わない。
【0036】
厚みは、チタン多孔質体の周縁の4点と中央の1点の計5点について、例えばミツトヨ製デジタルシックネスゲージ(型番547-321)等の、測定子がΦ10mmのフラット型で測定精度が0.001~0.01mmのデジタルシックネスゲージを用いて測定し、それらの測定値の平均値とする。シート状のチタン多孔質体が平面視で矩形状をなす場合は、上記の周縁の四点は、四隅の四点とする。
【0037】
透気抵抗度はガーレー試験機法に準拠して測定するが、ここではチタン多孔質体を通過させる空気の体積は300mLとする。具体的には、例えば、東洋精機製作所製ガーレー式デンソメータ(品番:G-B3C)等のISO5635-5番対応のガーレー式デンソメータを用いて、測定孔径をΦ6mmとし、空気体積を300mLとして、当該空気の通過に要する時間(s)を測定する。この時間を透気抵抗度とする。
【0038】
(製造方法)
上述したチタン多孔質体を製造するには、たとえば、原料のチタン繊維に対して第一焼結工程、温間圧延工程及び第二焼結工程をこの順序で行うことができる。第一焼結工程の前には、乾式堆積工程を行うことがある。
【0039】
原料のチタン繊維としては、先述したチタン多孔質体の組成になるように、主としてTiを含むものを用いる。チタン繊維は繊維状であり、より詳細には、繊維長さが1mm~10mmであって繊維太さが0.01mm~0.10mmであるものとすることが好ましい。
【0040】
繊維長さ及び繊維太さを求めるには、走査電子顕微鏡(SEM)により任意の30本のチタン繊維の画像を撮影する。そして、その画像上にて、チタン繊維の端部間の直線距離を繊維長さとし、上記の端部間の中点で繊維長さに直交する方向に沿う幅の直線距離を繊維太さとしてそれぞれ測定し、それらの平均値を算出する。なお、途中で曲がっているチタン繊維については、端部間の最短距離を繊維長さとする。二股以上に分岐しているチタン繊維では、最も離れた端部間の直線距離を繊維長さとする。
【0041】
チタン繊維は、たとえば、チタン含有塊ないし板等に対してコイル切削法又はびびり振動切削法等を行うことにより作製することができる。この場合、球状ではなく繊維状の粉末が得られやすく、これをチタン繊維として良好に用いることができる。
【0042】
後述する第一焼結工程で用いるチタン繊維の堆積物を形成するには、チタン繊維を、バインダーに混合させて湿式で堆積させることも可能である。但し、堆積物の容易な形成やチタン多孔質体の不純物含有量の低減等の観点からは、チタン繊維を乾式で堆積させ、チタン繊維の前記堆積物を形成する乾式堆積工程を行うことが好ましい。乾式堆積工程では、チタン繊維を、たとえば空気などの気体中もしくは真空中で成形型の成形面上に落下させること等により乾式で堆積させる。乾式堆積工程を行って不純物含有量の増大を抑制することで、高純度のチタン多孔質体になって導電率がさらに高くなる。
【0043】
次いで、第一焼結工程を行う。第一焼結工程では、たとえば成形型の成形面上のチタン繊維の堆積物を、成形型とともに炉内に入れて加熱する。ここでは、チタン繊維の堆積物を、真空雰囲気(たとえば10-2Pa~10-4Pa程度)又はアルゴン等の不活性雰囲気の下、900℃以上の温度に1時間以上にわたって加熱する。このとき、比較的緩く堆積している堆積物中のチタン繊維どうしが、それらの接触箇所で焼結する。
【0044】
第一焼結工程での加熱温度が低すぎると、焼結が不十分となるか、進行しない。加熱温度は、好ましくは950℃以上、より好ましくは1000℃以上であり、たとえば900℃~1100℃とすることができる。その温度での加熱時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上であり、たとえば1時間~6時間とすることができる。加熱時の雰囲気を真空又は不活性雰囲気とすることにより、チタン繊維の過剰な酸窒化を防ぐことができる。ここでは、窒素雰囲気は不活性雰囲気には該当しないものとする。
【0045】
第一焼結工程の後、温間圧延工程を行い、チタン焼結体に対して窒素雰囲気下で温間圧延を施す。温間圧延により、第一焼結工程でチタン繊維どうしがある程度焼結して得られたチタン焼結体が、温間で押し潰される。その際に、チタン焼結体を構成するチタン繊維どうしの接触箇所が増大したり、第一焼結工程で形成された焼結部位(チタン繊維どうしの結合部)が押し広げられたりすると思われる。そのような温間圧延後のチタン焼結体を後述の第二焼結工程でさらに加熱することにより、当該接触箇所で焼結が進行して、チタン繊維どうしの結合部の個数が増加し、また、大きな結合部が形成される。その結果として、チタン多孔質体の相対密度をそれほど高くしなくても、導電率が高くなり、電気伝導性が向上する。
【0046】
温間圧延工程は、窒素雰囲気下で行う。大気等の酸化雰囲気とすると、チタン焼結体が酸素との反応により酸化し、場合によっては燃焼するおそれがある。また、アルゴン等の不活性雰囲気とした場合、酸化は防止できるが、チタン焼結体に圧延で生じるチタンの新生面が活性であることから、チタン焼結体が圧延ロールに貼り付くことがある。
窒素雰囲気とすれば、チタン焼結体の新生面が薄い窒化チタン膜で覆われる。この窒化チタン膜の形成により、チタン焼結体が圧延ロールに貼り付くことが抑制される。窒化チタン膜は成長し難いことから、チタン焼結体に過度に窒素が含まれることはない。また、後述する第二焼結工程にて窒素がチタン焼結体の内部に拡散することで、窒化チタン膜はほぼ消失する。そのため、チタン多孔質体の窒素含有量がそれほど増加することはない。
【0047】
またここでは、熱間圧延や冷間圧延ではなく温間圧延とすることにより、意図しない更なる焼結を生じさせずに、チタン焼結体の塑性変形を良好に進行させてチタン繊維どうしの接触箇所の増大を図ることができる。温間圧延は、外部から熱を加えない冷間圧延の温度より高く、かつ、再結晶を生じさせる熱間圧延の温度より低い温度、より詳細には200℃~400℃、好ましくは250℃~400℃で行うことができる。
【0048】
具体的には、温間圧延では、たとえば一対の圧延ロール間にチタン焼結体を通すことにより、チタン焼結体を押し潰して厚みを減少させる。圧延ロール間にチタン焼結体を通す回数であるパス数は2回~5回、温間圧延工程での圧下率は30%~90%とすることができる。圧下率Rは、圧延前のチタン焼結体の厚みT1と、圧延後のチタン焼結体の厚みT2から、式:R=100×(T1-T2)/T1より求める。
【0049】
その後、チタン焼結体に対して第二焼結工程を行い、温間圧延工程で増加させたチタン繊維の接触箇所を焼結し、チタン繊維どうしの大きな接合部を形成する。
【0050】
第二焼結工程は、第一焼結工程について先述した条件と同様の条件とすることができる。但し、第一焼結工程と第二焼結工程を異なる条件としてもよい。第二焼結工程は、雰囲気を真空雰囲気(たとえば10-2Pa~10-4Pa程度)又はアルゴン等の不活性雰囲気とし、加熱温度を900℃以上、好ましくは950℃以上、より好ましくは1000℃以上、たとえば900℃~1100℃とし、加熱時間を1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは3時間以上であり、たとえば1時間~6時間とすることができる。
【0051】
以上に述べたようにして各工程を行うことにより、チタン多孔質体を製造することができる。
【実施例
【0052】
次に、この発明のチタン多孔質体を試作したので説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0053】
表1に示す繊維太さ及び繊維長さのチタン繊維を準備した。チタン繊維のTi含有量は99.3質量%以上であり、Fe含有量は0.25質量%以下であった。また、不可避的不純物であるNi、Cr、Al、Cu、Zn、Snの各々の含有量は0.10質量%未満、それらの合計の含有量は0.30質量%未満であることも確認した。
【0054】
比較例9~11及び実施例1~8では、チタン繊維を用いて乾式堆積工程で堆積物を形成し、表1に示す条件で第一焼結工程、温間圧延工程及び第二焼結工程を順次に行い、チタン多孔質体を製造した。第一焼結工程と第二焼結工程の条件は同じとし、各焼結工程は10-3Pa~10-2Paの範囲内である真空雰囲気で実施した。
【0055】
比較例1~4では、温間圧延工程ではなく、室温(R.T.)の冷間圧延工程とした。比較例5~8では、圧延時の温度を温間圧延工程よりも高温の550℃とした。比較例5~8は圧延の温度を高温とし、比較例11は温間圧延の雰囲気をアルゴンの不活性雰囲気としたことから、いずれも、圧延ロールにチタン焼結体が貼り付いて圧延の継続ができなくなり、チタン多孔質体を製造することができなかった。これらの比較例について、後掲表1の「第一・第二焼結工程」欄には、比較例12と異なり、「(第一焼結工程のみ)」の記載がないがこれらの比較例は第二焼結工程を実施できなかった。他方、比較例12は第一焼結工程のみとし、意図的に第二焼結工程を行わなかった。
【0056】
上記のようにして製造した比較例1~4、9、10及び12並びに実施例1~8のチタン多孔質体の酸素含有量、窒素含有量及び炭素含有量を先述した方法で測定したところ、表1に示すとおりであった。また、チタン多孔質体の厚み、相対密度、透気抵抗度、導電率を、先に述べた方法で測定した。その結果も表1に示す。なお、実施例1~8のチタン多孔質体のTi含有量は99.3質量%以上であった。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1~8のチタン多孔質体はいずれも、300mL透気抵抗度/厚みが8.0s/mm以下、導電率/相対密度が8.0kS/cm以上であり、電気伝導性並びに通気性及び通液性がいずれも良好であった。特に実施例2~4及び6~8のチタン多孔質体は、300mL透気抵抗度/厚みが5.0s/mm以下であり、通気性及び通液性にさらに優れるものであるといえる。
【0059】
比較例1~4、9、10及び12のチタン多孔質体は、導電率/相対密度が8.0kS/cm未満と小さかった。また、比較例1及び9のチタン多孔質体は、300mL透気抵抗度/厚みが8.0s/mmよりも大きくなった。比較例1~4では、圧延を室温で行ったことから塑性変形が不十分で、チタン繊維どうしの結合部が大きくならず、導電率が高くならなかったと推測される。比較例9及び10では、温間圧延を大気雰囲気下で行ったことにより酸化が進み、これに起因して導電率が低下したと考えられる。比較例12では、温間圧延を行ったものの第二焼結工程を行わなかったことにより、チタン繊維どうしの大きな結合部が形成されず、低い導電率になったと認められる。比較例12の結果より、温間圧延のみに着目すると、温間圧延ではチタン繊維どうしの結合はむしろ破壊されると思われ、温間圧延後の焼結によりチタン繊維どうしの結合が再度形成されると推測される。
【0060】
以上より、この発明によれば、比較的高い電気伝導性及び通気性ないし通液性を有するチタン多孔質体が得られることがわかった。
【要約】
【課題】比較的高い電気伝導性及び通気性ないし通液性を有するチタン多孔質体及び、チタン多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のチタン多孔質体は、シート状のものであって、相対密度(‐)に対する導電率(kS/cm)の比率が8.0kS/cm以上であり、厚み(mm)に対する透気抵抗度(s)の比率が8.0s/mm以下である。
【選択図】なし