(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】高分子電解質成形体、ならびにそれを用いた高分子電解質膜、触媒層付電解質膜、膜電極複合体、固体高分子型燃料電池および水電解式水素発生装置
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1067 20160101AFI20220916BHJP
H01M 8/1025 20160101ALI20220916BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20220916BHJP
C08G 65/40 20060101ALI20220916BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20220916BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20220916BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
H01M8/1067
H01M8/1025
H01M8/10 101
C08G65/40
C25B1/04
C25B9/23
C25B13/08
(21)【出願番号】P 2022527104
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012208
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2021048314
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 和歩
(72)【発明者】
【氏名】松井 一直
(72)【発明者】
【氏名】田中 毅
(72)【発明者】
【氏名】出原 大輔
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027724(WO,A1)
【文献】特開2013-196915(JP,A)
【文献】国際公開第2011/016444(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 4/86
H01M 4/88
C25B 9/00
C25B 11/00
C25B 13/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小角X線散乱によって観察される相分離構造の平均周期サイズにおいて、大気中での平均周期サイズと水中での平均周期サイズが、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦2.20を満たすことを特徴とする高分子電解質成形体。
【請求項2】
前記相分離構造が共連続相分離構造である請求項1に記載の高分子電解質成形体。
【請求項3】
示差走査熱量分析法によって測定される前記高分子電解質成形体の結晶化熱量が0.1J/g以上である、または、広角X線回折によって測定される前記高分子電解質成形体の結晶化度が0.5%以上である、請求項1または2のいずれかに記載の高分子電解質成形体。
【請求項4】
前記大気中での平均周期サイズが35nm以上である、請求項1~3のいずれかに記載の高分子電解質成形体。
【請求項5】
前記高分子電解質成形体が芳香族炭化水素系重合体を含む、請求項1~4のいずれかに記載の高分子電解質成形体。
【請求項6】
前記高分子電解質成形体が芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーを含む、請求項1~5のいずれかに記載の高分子電解質成形体。
【請求項7】
前記高分子電解質成形体が、イオン性基を含有するセグメント(以下「イオン性セグメント」という)と、イオン性基を含有しないセグメント(以下「非イオン性セグメント」という)と、をそれぞれ一個以上有するブロック共重合体を含む、請求項1~6のいずれかに記載の高分子電解質成形体。
【請求項8】
前記イオン性セグメントが下記一般式(S1)で表される構造を含有する、請求項7に記載の高分子電解質成形体。
【化1】
(一般式(S1)中、Ar
1~Ar
4は、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表し、Ar
1~Ar
4のうち少なくとも1つはイオン性基を有する。Y
1およびY
2は、それぞれ独立に、ケトン基または、ケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S1)または他の構成単位との結合を表す。)
【請求項9】
前記非イオン性セグメントが下記一般式(S2)で表される構造を含有する、請求項7または8に記載の高分子電解質成形体。
【化2】
(一般式(S2)中、Ar
5~Ar
8は、それぞれ独立に、アリーレン基を表す。ただしAr
5~Ar
8はいずれもイオン性基を有さない。Y
3およびY
4は、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S2)または他の構成単位との結合を表す。)
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の高分子電解質成形体からなる、高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項10に記載の高分子電解質膜を用いてなる、触媒層付電解質膜。
【請求項12】
請求項10に記載の高分子電解質膜を用いてなる、膜電極複合体。
【請求項13】
請求項1~9のいずれかに記載の高分子電解質成形体を用いてなる、固体高分子燃料電池。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の高分子電解質成形体を用いてなる、水電解式水素発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質成形体、ならびにそれを用いた高分子電解質成形体、高分子電解質膜、触媒層付電解質膜、膜電極複合体、固体高分子型燃料電池および水電解式水素発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも固体高分子形燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、および自動車や船舶などの移動体における発電装置として幅広い応用が期待されている。また、固体高分子形燃料電池は、小型移動機器や携帯機器の電源としても注目されており、携帯電話やパソコンにおける、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替用途としても期待されている。
【0003】
燃料電池は、通常、膜電極複合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)がセパレータによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。MEAは、電解質膜の両面に触媒層を配置し、その両側にさらにガス拡散層を配置したものである。MEAにおいては、電解質膜を挟んで両側に配置された触媒層とガス拡散層とで一対の電極層が構成され、そのうちの一方がアノード電極であり、他方がカソード電極である。アノード電極に水素を含む燃料ガスが接触するとともに、カソード電極に空気が接触することにより電気化学反応によって電力が作り出される。電解質膜は高分子電解質材料を主として構成される。高分子電解質材料は触媒層のバインダーにも用いられる。
【0004】
従来、高分子電解質材料としてフッ素系高分子電解質である“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)が広く用いられてきた。一方で、“ナフィオン”(登録商標)に替わり得る、安価で、膜特性に優れた炭化水素系電解質材料の開発も近年活発化している。炭化水素系電解質材料は、低ガス透過性や耐熱性に優れており、芳香族ポリエーテルケトンや芳香族ポリエーテルスルホンを用いた電解質材料について特に活発に検討されてきた。しかしながら、従来の炭化水素系電解質材料は、高加湿条件下においてはフッ素系電解質材料と同等か、またはより優位なプロトン伝導性を示す一方で、低加湿条件下においてはプロトン伝導性が不十分であった。
【0005】
低加湿条件下においても優れたプロトン伝導性を有し、かつ機械強度および化学的安定性に優れた炭化水素系高分子電解質として、相分離構造を有する高分子電解質が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/018487号
【文献】国際公開第2013/031675号
【文献】特開2006-278321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載の高分子電解質を用いてもなお、低加湿条件下におけるプロトン伝導性、機械強度および化学的安定性の向上効果は完全でなく、産業上有用な高分子電解質成形体としてはさらなる向上が望まれていた。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の背景を鑑み、優れたプロトン伝導性を有し、物理的耐久性に優れた高分子電解質成形体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高分子電解質成形体において、水中の相分離の平均周期サイズと大気中の相分離の平均周期サイズが適切な範囲にあることで、プロトン伝導性と物理的耐久性を両立できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、小角X線散乱によって観察される相分離構造の平均周期サイズにおいて、水中での平均周期サイズと大気中での平均周期サイズが、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦2.20を満たすことを特徴とする、高分子電解質成形体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高分子電解質成形体は、優れたプロトン伝導性を有し、物理的耐久性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、高分子電解質成形体における相分離構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0014】
[相分離構造]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体は、相分離構造を有する。ここで、高分子電解質成形体が相分離構造を有するとは、高分子電解質成形体を小角X線散乱(SAXS)または透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときに相分離構造が確認できることを意味する。
【0015】
本発明の高分子電解質成形体は、SAXSによって観察される相分離構造の平均周期サイズにおいて、相分離構造の水中での平均周期サイズ(以下、「水中の平均周期サイズ」という)と相分離構造の大気中での平均周期サイズ(以下、「大気中の平均周期サイズ」という)が、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦2.20を満たす。本発明における水中での平均周期サイズおよび大気中での平均周期サイズとは、放射光小角X線散乱法によって、後述の実施例に記載される条件で測定された値と定義される。
【0016】
高分子電解質成形体において、水中の平均周期サイズと大気中に平均周期サイズの関係は、(水中の平均周期サイズ)≧(大気中の平均周期サイズ)となる。これは、水中では電解質中の親水性ドメインが水により膨潤するためである。つまり、水中の平均周期サイズが大気中の平均周期サイズと近いほど、膨潤が抑制された優れた高分子電解質成形体となることが予測される。本発明者らは、上記の仮説に基づいて検討した結果、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦2.20の関係を満たす場合、プロトン伝導性と物理的耐久性とを比較的高いレベルで両立できることを見出した。
【0017】
水中での平均周期サイズと大気中での平均周期サイズの関係は、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦2.10であることが好ましく、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦1.80であることがより好ましく、(水中の平均周期サイズ)/(大気中の平均周期サイズ)≦1.40であることが特に好ましい。
【0018】
大気中での平均周期サイズは、35nm以上であることが、低加湿におけるプロトン伝導性の観点から好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることが特に好ましい。上限は、特に制限はないが、相分離構造を維持する観点から、100nm以下が好ましい。
【0019】
水中での平均周期サイズは、50nm以上であることが、高加湿におけるプロトン伝導性の観点から好ましく、60nm以上であることがより好ましい。寸法安定性を高める観点から、80nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましい。
【0020】
大気中の平均周期サイズおよび水中の平均周期サイズを調整する方法として、(1)高分子電解質成形体の成形時に温湿度条件、溶媒の乾燥速度を調整する方法、(2)高分子電解質の極性に合わせて、好ましい相分離サイズとなるよう成形溶媒を適宜選択する方法、(3)高分子電解質を構成するブロック共重合体中の、イオン性基を含有するセグメント(以下「イオン性セグメント」という)の分子量とイオン性基を含有しないセグメント(以下「非イオン性セグメント」という)の分子量、つまり分子鎖長を制御する方法などが挙げられる。例えば、非イオン性セグメントに対して、イオン性セグメントの分子量を上げた場合、水中の平均周期サイズが大きくなる傾向があり、イオン性セグメントに対して、非イオン性セグメントの分子量を上げた場合、大気中の平均周期サイズが大きくなる傾向がある。イオン性セグメントの分子量および非イオン性セグメントの分子量をいずれも上げた場合、大気中の平均周期サイズが大きくなる傾向がある。
【0021】
これらの中でもプロセス性の観点から(3)の方法が好ましい。イオン性セグメントの分子鎖長は、相分離構造において、プロトン伝導チャネルを形成する親水性ドメインサイズに影響する因子の1つである。親水性ドメインサイズを拡大する観点から、イオン性セグメントの数平均分子量Mn1は、45,000超であることが好ましい。Mn1は、より好ましくは50,000超であり、さらに好ましくは60,000超であり、最も好ましくは80,000超である。Mn1の上限は、特に制限はないが、高分子電解質成形体の高温高加湿化での寸法安定性をより高める観点から、150,000未満であることが好ましい。
【0022】
非イオン性セグメントの分子鎖長は、結晶性や耐水性に寄与する疎水性ドメインサイズに影響する因子の1つである。非イオン性セグメントの数平均分子量Mn2は、10,000以上であることが好ましく、15,000以上であることがより好ましい。Mn2の上限は、特に制限はないが、重合性の観点から、50,000以下であることが好ましい。
【0023】
また、ブロック共重合体において、Mn1およびMn2は、下記式1を満たすことが好ましく、下記式2を満たすことがより好ましい。このようなブロック共重合体は、相分離構造の大気中および水中の平均周期サイズを前述の範囲に調整するという観点から好ましい。
【0024】
1.7≦Mn1/Mn2≦7.0 (式1)
2.0≦Mn1/Mn2≦5.0 (式2)。
【0025】
Mn1およびMn2を好ましい分子量に調整する方法として、目的の分子量を達成できるならば方法は特に限定されないが、芳香族求核置換反応やカップリング反応により目的の数平均分子量のセグメントを合成する方法や、目的の数平均分子量よりも小さい数平均分子量を有する重合体を合成しておき、この重合体をセグメントの構成単位として、重合体間をリンカー(L1)によって連結する方法などが挙げられる。プロセス上の制約が小さいことから、重合体間をリンカーによって連結する方法が特に好ましい。
【0026】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体は、共連続相分離構造を有することが好ましい。相分離構造はイオン性セグメントと非イオン性セグメントの凝集状態およびその形状や、相分離形成時の温湿度条件、溶媒の極性や溶媒の乾燥速度を調整することによって制御することができる。電解質膜の相分離構造の形態例を
図1に示す。相分離構造は、共連続(M1)、ラメラ(M2)、シリンダー(M3)、海島(M4)の4つに大きく分類される。本発明の高分子電解質成形体は、(M1)~(M4)のいずれかの相分離構造を有する。
【0027】
図1の(M1)~(M4)において、白色部の連続相(相1)がイオン性セグメントおよび非イオン性セグメントから選ばれる一方のセグメントにより形成され、グレー色部の連続相または分散相(相2)が他方のセグメントにより形成される。
【0028】
上記相分離構造は、例えばアニュアル レビュー オブ フィジカル ケミストリ-(Annual Review of Physical Chemistry), 41, 1990, p.525等に記載がある。
【0029】
イオン性セグメントと非イオン性セグメントの高次構造や形状を制御することで、低加湿においても優れたプロトン伝導性が実現可能となる。すなわち、電解質膜が(M1)~(M4)の相分離構造を有することによって、連続したプロトン伝導チャネルの形成が可能となり、プロトン伝導性が向上する。
【0030】
共連続(M1)およびラメラ(M2)からなる相分離構造では、イオン性セグメントおよび非イオン性セグメントが、いずれも連続相を形成する。このような相分離構造を有する電解質膜は、連続したプロトン伝導チャネルが形成されることでプロトン伝導性に優れると同時に、非イオン性セグメントからなるドメインの結晶性によって、優れた機械的耐久性を有する。すなわち、本発明の高分子電解質成形体は、共連続様(M1)またはラメラ様(M2)の相分離構造を有することが好ましく、共連続様(M1)の相分離構造を有することが特に好ましい。
【0031】
上記のドメインとは、1本または複数のポリマー鎖において、類似するセグメントが凝集してできた塊のことを意味する。
【0032】
電解質膜が共連続様(M1)あるいはラメラ様(M2)の相分離構造を有することは、以下の手法により確認できる。具体的には、以下の手法により所望とする像が観察される場合に、該構造を有すると定義する。その手法として、TEMトモグラフィー観察により得られた3次元図に対して、縦、横、高さの3方向から切り出したデジタルスライス3面図を比較する。例えば、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体を含む電解質膜において、その相分離構造が、共連続様(M1)またはラメラ様(M2)の場合、3面図すべてにおいてイオン性セグメントを含む親水性ドメインと非イオン性セグメントを含む疎水性ドメインがともに連続相を形成する。
【0033】
共連続様(M1)の場合は連続相のそれぞれが入り組んだ模様を示し、ラメラ様(M2)の場合は連続相のそれぞれが層状に連なった模様を示す。ここで連続相とは、巨視的に見て、個々のドメインが孤立せずに繋がっている相のことを意味するが、一部繋がっていない部分があってもかまわない。
【0034】
一方、シリンダー構造(M3)や海島構造(M4)の場合、少なくとも1面で前記ドメインのいずれかが連続相を形成しないので、上記共連続様(M1)およびラメラ様(M2)とは区別できるし、また3面図の各々が示す模様からも構造を判別することができる。
【0035】
相分離構造の観察において、イオン性セグメントと非イオン性セグメントの凝集状態やコントラストを明確にするために、例えば、電解質膜を2重量%酢酸鉛水溶液中に2日間浸漬してイオン性基を鉛でイオン交換した後、透過型電子顕微鏡(TEM)およびTEMトモグラフィー観察に供することができる。
【0036】
相分離構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)以外にも、小角X線散乱(SAXS)、原子間力顕微鏡(AFM)等によって分析することが可能である。
【0037】
[ブロック共重合体]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体は、イオン性セグメントと、非イオン性セグメントとをそれぞれ一個以上有するブロック共重合体を含むことが好ましい。なお本発明において、非イオン性セグメントは本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲でイオン性基を少量含んでいても構わない。本発明において「イオン性基を含有しない」と「非イオン性」は同様の意味で用いる場合がある。本発明において、セグメントとはブロック共重合体を合成する際に用いるマクロモノマーの、ブロック共重合体中での部分構造である。
【0038】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体のイオン交換容量は、プロトン伝導性と物理的耐久性のバランスの点から、1.5meq/g以上、3.1meq/g以下が好ましい。イオン交換容量は、より好ましくは1.9meq/g以上、3.0meq/g以下であり、2.1meq/g以上2.8meq/g以下である。
【0039】
ブロック共重合体中のイオン性セグメントのイオン交換容量は、低加湿条件下でのプロトン伝導性の点から、高いことが好ましく、好ましくは2.5meq/g以上、さらに好ましくは3.0meq/g以上、最も好ましくは3.5meq/g以上である。また、その上限は特に制限はないが、6.5meq/g以下が好ましく、5.0meq/g以下がさらに好ましく、最も好ましいのは4.5meq/g以下である。
【0040】
ブロック共重合体中の非イオン性セグメントのイオン交換容量は、耐熱水性、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点から、低いことが好ましく、好ましくは1.0meq/g以下、さらに好ましくは0.5meq/g、最も好ましくは0.1meq/g以下である。
【0041】
ここで、イオン交換容量とは、ブロック共重合体、高分子電解質成形体、高分子電解質材料、および高分子電解質膜の単位乾燥重量当たりに導入されたイオン交換基のモル量である。イオン交換容量は、元素分析、中和滴定法等により測定が可能である。イオン交換基がスルホン酸基である場合、元素分析法を用い、S/C比から算出することもできるが、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは測定することが難しい。従って、本発明においては、イオン交換容量は、後述の中和滴定法により求めた値と定義する。
【0042】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体に含まれる高分子電解質は、物理的耐久性の観点から、炭化水素系重合体であることが好ましい。本発明でいう炭化水素系重合体とは、パーフルオロ系重合体以外の重合体のことを意味している。
【0043】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体に含まれる高分子電解質は、結晶性および寸法安定性、機械的耐久性の観点から、芳香族炭化水素系重合体であることが好ましい。芳香族炭化水素系重合体とは、主として芳香環から構成される重合体である。
【0044】
本発明において、芳香族炭化水素系重合体に含まれる芳香環は、炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環を含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットが重合体を構成していてもよい。芳香族炭化水素系重合体の構成要素であるポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。
【0045】
これらの中でも、コスト、重合性の観点から、芳香族ポリエーテル系ポリマーが好ましい。芳香族ポリエーテル系ポリマーとは、主として芳香環から構成される重合体において、繰り返し単位中に、芳香環ユニットが連結する様式として少なくともエーテル結合が含まれているものをいう。芳香族ポリエーテル系ポリマーの構造として、例えば、芳香族ポリエーテル、芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、芳香族ポリエーテルイミド、芳香族ポリエーテルスルホンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
これらの中でも、化学的安定性とコストの点から、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマーが好ましく、機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の観点から、芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーが最も好ましい。
【0047】
芳香族ポリエーテルケトン系ポリマーとは、主として芳香環から構成される重合体において、繰り返し単位中に、芳香環ユニットが連結する様式として少なくともエーテル結合とケトン結合が含まれているものをいう。
【0048】
芳香族ポリエーテルスルホン系ポリマーとは、主として芳香環から構成される重合体において、繰り返し単位中に、芳香環ユニットが連結する様式として少なくともエーテル結合とスルホン結合が含まれているものをいう。
【0049】
[イオン性セグメント]
ブロック共重合体に含まれるイオン性セグメントは、下記一般式(S1)で表される構造を含有することが、高分子電解質成形体の物理的耐久性および寸法安定性の観点から好ましい。
【0050】
【0051】
一般式(S1)中、Ar1~Ar4は、それぞれ独立に、置換または無置換のアリーレン基を表し、Ar1~Ar4のうち少なくとも1つはイオン性基を有する。Y1およびY2は、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S1)または他の構成単位との結合を表す。
【0052】
ここで、Ar1~Ar4として好ましい芳香環は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
本発明においてイオン性基は、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、下記(f1)~(f7)に示されるような、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基およびカルボン酸基が好ましく用いられる。
【0054】
【0055】
かかるイオン性基は、上記官能基(f1)~(f7)が塩となっている場合を含むものとする。このような塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR4
+(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンには特に制限はないが、安価で、容易にプロトン置換可能なNa、KおよびLiが好ましい。
【0056】
これらのイオン性基は高分子電解質材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、原料コストの点からスルホン酸基を有することが最も好ましい。
【0057】
本発明に用いられるブロック共重合体としては、一般式(S1)で表される構造が、下記一般式(P1)で表される構造であることが、寸法安定性、原料入手性の点から好ましく、下記一般式(P2)で表される構造であることが、原料入手性と重合性の点からさらに好ましい。
【0058】
【0059】
一般式(P1)及び(P2)中、Y1およびY2は、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。M1~M4は、それぞれ独立に、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。n1~n4は、それぞれ独立に、0または1であり、n1~n4のうち少なくとも1つは1である。*は一般式(P1)、(P2)または他の構成単位との結合を表す。
【0060】
さらに原料入手性と重合性の点からn1=1、n2=1、n3=0、n4=0またはn1=0、n2=0、n3=1、n4=1であることが最も好ましい。
【0061】
イオン性セグメント中に含まれる一般式(S1)で表される構成単位の含有量としては、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。
【0062】
上記のようなイオン性セグメントの構成単位を合成するために用いられるイオン性モノマーとしては、例えば再公表特許WO2013/031675の段落0109~0115に記載されているモノマー等を用いることができる。
【0063】
イオン性セグメントとして、またはイオン性セグメントを構成する構成単位として、一般式(S1)で表される構造以外に含まれていてもよい構造の好ましい例としては、下記一般式(T1)および(T2)で表される構造からなる芳香族ポリエーテルケトン系共重合体の構造が挙げられる。
【0064】
【0065】
一般式(T1)および(T2)中、Bは芳香環を含む2価の有機基を表す。M5およびM6は、それぞれ独立に、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。
【0066】
この芳香族ポリエーテルケトン系共重合体において、一般式(T1)と(T2)で表される構成単位の組成比を変えることで、イオン交換容量を制御することが可能である。
【0067】
中でも、一般式(P1)で表される構造と、一般式(T1)および(T2)で表される構造とを有するイオン性セグメントが特に好ましい。このようなイオン性セグメントにおいて、一般式(P1)、(T1)および(T2)で表わされる構成単位の量を、それぞれp1、t1およびt2とするとき、t1とt2の合計モル量を100モル部として、p1が75モル部以上であることが好ましく、90モル部以上であることがより好ましく、100モル%である部以上であることがさらに好ましい。
【0068】
一般式(T1)および(T2)中の芳香環を含む2価の有機基Bとしては、芳香族求核置換反応による芳香族ポリエーテル系重合体の重合に用いることができる各種2価フェノール化合物の残基や、それにスルホン酸基が導入されたものを挙げることができる。
【0069】
芳香環を含む2価の有機基Bの好適な具体例としては、下記一般式(X’-1)~(X’-6)で示される基を例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
【0071】
これらはイオン性基や芳香族基を有していてもよい。また、これらは必要に応じて併用することも可能である。なかでも、結晶性、寸法安定性、強靱性、化学的安定性の観点から、より好ましくは一般式(X’-1)~(X’-4)で示される基、最も好ましくは一般式(X’-2)および(X’-3)で示される基である。
【0072】
Mn1を目的の分子量に調整する方法として、目的の分子量を達成できるならば方法は特に限定されないが、目的の数平均分子量よりも小さい数平均分子量を有する重合体を合成しておき、この重合体をセグメントの構成単位として、重合体間をリンカー(L1)によって連結する方法などが挙げられる。
【0073】
例えば、数平均分子量30,000の重合体を構成単位として、これをリンカー(L1)によって連結すると、二量体とした場合は数平均分子量60,000のセグメントとなり、三量体とした場合は数平均分子量90,000のセグメントとなる。
【0074】
リンカー(L1)によって連結する構成単位は、同じ構成単位であっても、異なる複数の構成単位の組み合わせであっても良い。
【0075】
このリンカー(L1)部位となる化合物は、重合体のランダム化やセグメント切断を抑制しながら、構成単位間を連結できるような反応性の高い化合物である必要がある。
【0076】
リンカー(L1)の好適な具体例としては、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、2,6-ジフルオロベンゾニトリル等を挙げることができるが、本発明において、これらに限定されるものではない。
【0077】
[非イオン性セグメント]
本発明の高分子電解質膜として、ブロック共重合体に含まれる非イオン性セグメントが、下記一般式(S2)で表される構造を含有することが、機械強度、寸法安定性の観点から好ましい。
【0078】
【0079】
一般式(S2)中、Ar5~Ar8は、それぞれ独立に、アリーレン基を表す。ただしAr5~Ar8はいずれもイオン性基を有さない。Y3およびY4は、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(S2)または他の構成単位との結合を表す。
【0080】
ここで、Ar5~Ar8として好ましい芳香環は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フルオレンジイル基などの炭化水素系アリーレン基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイルなどのヘテロアリーレン基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明のブロック共重合体としては、非イオン性セグメントが下記式(P3)で表される構造を含有することが、原料入手性の点から好ましい。中でも、下記式(P4)で表される構成単位を含有することが、結晶性による機械強度、寸法安定性、物理的耐久性の点からさらに好ましい。
【0082】
【0083】
一般式(P3)および(P4)中、Y3およびY4は、それぞれ独立に、ケトン基またはケトン基に誘導され得る保護基を表す。*は、一般式(P3)および(P4)または他の構成単位との結合を表す。
【0084】
非イオン性セグメント中に含まれる前記一般式(S2)または(P3)及び(P4)で表される構造の含有量としては、より多い方が好ましく、20モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、80モル%以上が最も好ましい。含有量が20モル%未満である場合には、結晶性による機械強度、寸法安定性、物理的耐久性に対する本発明の効果が不足する場合があり好ましくない。
【0085】
[ブロック共重合体の詳細説明]
本発明にブロック共重合体を用いる場合、上記一般式(S1)で表される構成単位を含有するイオン性セグメントと、上記一般式(S2)で表される構成単位を含有する非イオン性セグメントと、を有するブロック共重合体から構成されることが好ましい。
【0086】
非イオン性セグメントは、一般式(S3)で表される構成単位を含有する場合、結晶性を示すセグメントである。このような非イオン性セグメントを含むブロック共重合体は、少なくとも非イオン性セグメントに保護基を導入したブロック共重合体前駆体を成形した後、成形体に含有される該保護基の少なくとも一部を脱保護せしめることにより製造することができる。ブロック共重合体では、ランダム共重合体よりも、ドメインを形成したポリマーの結晶化により、加工性が不良となる傾向があるので、少なくとも非イオン性セグメントに保護基を導入し、加工性を向上させることが好ましく、イオン性セグメントについても、加工性が不良となる場合には保護基を導入することが好ましい。
【0087】
このような保護基としては、例えば特開2015-79762の段落0122~0135に記載されている保護基を用いることができる。
【0088】
ブロック共重合体は、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとの間を連結するリンカー(L2)部位を1個以上含有することが好ましい。本発明において、リンカー(L2)とは、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとの間を連結する部位であって、イオン性セグメントや非イオン性セグメントとは異なる化学構造を有する部位と定義する。
【0089】
リンカー(L2)は、前述のリンカー(L1)と同一の構造であっても良いし、異なる構造であっても良い。このリンカー(L2)は、エーテル交換反応による共重合体のランダム化、セグメント切断、その他共重合体の合成時に生じうる副反応などを抑制しながら、異なるセグメントを連結する。そのため、このようなリンカー(L2)を与えるような化合物を原料として用いることで、それぞれのセグメントの分子量を下げることなく、ブロック共重合体を得ることができる。
【0090】
リンカー(L2)の好適な具体例としては、デカフルオロビフェニル、ヘキサフルオロベンゼン、4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン、2,6-ジフルオロベンゾニトリル等を挙げることができるが、本発明において、これらに限定されるものではない。
【0091】
ブロック共重合体の具体的な合成方法を以下に例示する。ただし、本発明は、これらに限定されない。
【0092】
ブロック共重合体中の各セグメントは、芳香族求核置換反応によって合成することが、プロセス上容易であることから好ましい。芳香族求核置換反応は、ジハライド化合物とジオール化合物のモノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させる方法である。重合は、0~350℃の温度範囲で行うことができるが、50~250℃の温度であることが好ましい。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0093】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、ジオール類を活性なフェノキシド構造にし得るものであれば、これらに限定されず使用することができる。また、フェノキシドの求核性を高めるために、18-クラウン-6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。クラウンエーテル類は、スルホン酸基のナトリウムイオンやカリウムイオンに配位して有機溶媒に対するモノマーやポリマーのスルホン酸塩部の溶解性が向上する場合があり、好ましく使用できる。
【0094】
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
【0095】
ブロック共重合体は、ブロック共重合体前駆体を合成した後、前駆体に含有される保護基の少なくとも一部を脱保護させることにより製造することが出来る。本発明のブロック共重合体およびブロック共重合体前駆体の製造方法としては、少なくとも下記工程(1)~(2)を備えることが好ましい。これら工程を備えることにより、高分子量化による機械的耐久性と耐久性の向上を達成でき、かつ、両セグメントの交互導入によって、相分離構造やドメインサイズが厳密に制御された低加湿プロトン伝導性に優れたブロック共重合体を得ることができる。
【0096】
(1)両末端に-OM基(Mは、水素原子、金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを表す。)を有するイオン性セグメントおよび両末端に-OM基を有する非イオン性セグメントのうちの一方のセグメントについて、そのセグメントの両末端の-OM基とリンカー化合物とを反応させて、そのセグメントの両末端にリンカー部位を導入する工程
(2)(1)で合成したリンカー部位を導入したセグメントの両末端リンカー部位と、もう一方のセグメントの両末端の-OM基とを重合させることにより、イオン性セグメントと非イオン性セグメントとを有するブロック共重合体またはブロック共重合体前駆体を製造する工程。
【0097】
両末端とも-OM基であるような一般式(S1)で表されるセグメントと、両末端とも-OM基であるような一般式(S2)で表されるセグメントの具体例としては、それぞれ、下記式(H3-1)、(H3-2)で表される構造のセグメントが挙げられる。また、式(H3-1)、(H3-2)で表される構造のセグメントをそれぞれハライドリンカーと反応させた後の構造としては、例えば、それぞれ下記式(H3-3)、(H3-4)で表される構造が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0098】
【0099】
上記式(H3-1)~(H3-4)において、N1、N2、N3、N4はそれぞれ独立して1~200の整数を表す。
【0100】
イオン性セグメントがリンカーを有するものである場合、上記工程(1)により得られる、リンカー部位を導入したイオン性セグメントの具体例としては、下記式(H3-1L)、(H3-3L)で表される構造が挙げられる。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
【0102】
上記式(H3-1L)~(H3-3L)において、N5、N6はそれぞれ独立して1~200の整数を表す。
【0103】
式(H3-1)~(H3-4)、(H3-1L)および(H3-3L)において、ハロゲン原子はF、末端-OM基は-OK基、アルカリ金属はNaおよびKでそれぞれ示しているが、これらに限定されることなく使用することが可能である。また、これらの式は読み手の理解を助ける目的で挿入するものであり、ポリマーの重合成分の化学構造、正確な組成、並び方、スルホン酸基の位置、数、分子量などを必ずしも正確に表すわけではなく、これらに限定されるものでない。
【0104】
さらに、式(H3-1)~(H3-4)、(H3-1L)および(H3-3L)では、いずれのセグメントに対しても、保護基としてケタール基を導入したが、本発明においては、結晶性が高く溶解性が低い成分に保護基を導入すればよい。したがって、上記イオン性セグメントには必ずしも保護基が必要ではなく、耐久性や寸法安定性の観点から、保護基がないものも好ましく使用できる。
【0105】
[高分子電解質成形体]
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体は、相分離構造を有しながら、結晶性を有することが、寸法安定性や機械強度の観点から好ましい。一般に、寸法安定性や機械強度は、イオン交換容量に負の相関となる。しかし本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体は、結晶性を有することで、イオン交換容量を大きくした場合でも、結晶性を有さない高分子電解質と比較して、高い寸法安定性を実現することができる。
【0106】
結晶性の有無は、示差走査熱量分析法(DSC)あるいは広角X線回折によって確認することができる。ここで結晶性を有するとは、示差走査熱量分析法によって測定される高分子電解質成形体の結晶化熱量が0.1J/g以上であるか、または、広角X線回折によって測定される高分子電解質成形体の結晶化度が0.5%以上であることを指す。つまり本発明において、「結晶性を有する」とは、ポリマーが昇温すると結晶化されうること、結晶化可能な性質を有すること、および既に結晶化していること、のいずれかを意味する。また、非晶性ポリマーとは、結晶性ポリマーではないこと、または実質的に結晶化が進行しないポリマーであることを意味する。従って、結晶性ポリマーであっても、結晶化が十分に進行していない場合には、その時点でのポリマーの状態としては非晶状態である場合がある。
【0107】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体の具体的な態様としては、膜類( フィルムおよびフィルム状のものを含む) の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状、微多孔状、コーティング類、発泡体類、電極触媒層のバインダーなど使用用途によって様々な形態をとりうる。中でも膜、バインダーが好ましく、膜が特に好ましい。本発明の実施の形態に係る高分子電解質膜は、上記高分子電解質成形体からなるものである。
【0108】
本発明の実施の形態に係る高分子電解質成形体は、膜状に成形する場合、ケタール等の保護基を有する段階で、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該高分子電解質材料をN-メチル-2-ピロリドン等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。
【0109】
製膜に用いる溶媒としては、ブロック共重合体を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、Nメチル-2ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物が好適に用いられるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。また、イオン性セグメントの溶解性を高めるために、18-クラウン-6などのクラウンエーテルを添加することも好適である。
【0110】
必要な固形分濃度に調製したポリマー溶液を常圧の濾過もしくは加圧濾過などに供し、高分子電解質溶液中に存在する異物を除去することは強靱な膜を得るために好ましい方法である。ここで用いる濾材は特に限定されるものではないが、ガラスフィルターや金属性
フィルターが好適である。該濾過で、ポリマー溶液が通過する最小のフィルターの孔径は、1μm以下が好ましい。
【0111】
高分子電解質膜を得る方法としては、例えば、該ブロック共重合体から構成される膜を上記手法により作製後、保護基で保護した部位の少なくとも一部を脱保護するものである。例えば、保護基としてケタール部位を有する場合、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護し、ケトン部位とする。この方法によれば、溶解性に乏しいブロック共重合体の溶液製膜が可能となり、プロトン伝導性と寸法安定性、機械強度、物理的耐久性を両立することができる。
【0112】
また、含まれるイオン性基がアルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンと塩を形成した状態で電解質膜を成形した後に、当該アルカリ金属またはアルカリ土類金属の陽イオンをプロトンと交換する工程を行っても良い。この工程は、成形後の膜を酸性水溶液と接触させる工程であることが好ましく、特に成形後の膜を酸性水溶液に浸漬する工程であることがより好ましい。この工程においては、酸性水溶液中のプロトンがイオン性基とイオン結合している陽イオンと置換されるとともに、残留している水溶性の不純物や、残存モノマー、溶媒、残存塩などが同時に除去される。
【0113】
酸性水溶液は特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、クエン酸などを用いることが好ましい。酸性水溶液の温度や濃度等も適宜決定すべきであるが、生産性の観点から0℃以上80℃以下の温度で、3質量%以上、30質量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
【0114】
本発明における高分子電解質膜の膜厚としては、実用に耐える膜の機械強度、物理的耐久性を得るには1μm以上がより好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μm以下が好ましい。膜厚のさらに好ましい範囲は3μm以上200μm以下である。膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができる。
【0115】
また、高分子電解質膜は、通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で含有していてもよい。
【0116】
また、本発明の高分子電解質成形体には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有していてもよい。高分子電解質成形体を、また、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強しても良い。
【0117】
本発明の高分子電解質成形体は、種々の用途に適用可能である。例えば、人工皮膚などの医療用途、ろ過用途、耐塩素性逆浸透膜などのイオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途、加湿膜、防曇膜、帯電防止膜、脱酸素膜、太陽電池用膜、ガスバリアー膜に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置、電気化学式水素ポンプ、水電解式水素発生装置が挙げられる。
【0118】
固体高分子形燃料電池、電気化学式水素ポンプ、および水電解式水素発生装置において、高分子電解質膜は、両面に触媒層、電極基材及びセパレータが順次積層された構造体で使用される。このうち、電解質膜の両面に触媒層を積層させたもの(即ち触媒層/電解質膜/触媒層の層構成のもの)は触媒層付電解質膜(CCM)と称され、さらに電解質膜の両面に触媒層及びガス拡散基材を順次積層させたもの(即ち、ガス拡散基材/触媒層/電解質膜/触媒層/ガス拡散基材の層構成のもの)は、膜電極複合体(MEA)と称されている。本発明の高分子電解質膜は、こうしたCCMおよびMEAを構成する高分子電解質膜として特に好適に用いられる。
【実施例】
【0119】
(1)ポリマーの分子量
ポリマーの数平均分子量、重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー社製HLC-8022GPCを、またガードカラムとして、東ソー製TSKgelGuardColumnSuperH-H(内径4.6mm、長さ3.5cm)を用い、GPCカラムとして東ソー製TSKgelSuperHM-H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N-メチル-2-ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN-メチル-2-ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1wt%、流量0.2mL/min、温度40℃、測定波長265nmで測定し、標準ポリスチレン換算により数平均分子量、重量平均分子量を求めた。
【0120】
(2)イオン交換容量(IEC)
以下の1.~4.に示す中和滴定法により測定した。測定は3回実施し、その平均値を取った。
1.プロトン置換し、純水で十分に洗浄したブロック共重合体の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。
2.ブロック共重合体に5wt%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。
3.0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。
4.IECは下記式により求めた。
IEC(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/ml)×滴下量(ml)〕/試料の乾燥重量(g)。
【0121】
(3)乾湿寸法変化率
膜状の試料片を3mm×20mmの大きさで採取し、温湿度調整機能付炉を有する熱機械分析装置TMA/SS6100((株)日立ハイテクサイエンス製)のサンプルホルダーに上記試料片の長辺が測定方向となるように設置し、20mNの応力がかかるよう設定した。炉内で、23℃、50%RHで試料を1時間定常化し、この試料片の長さをゼロ点とした。炉内温度を23℃で固定し、30分かけて30%RH(乾燥条件)に湿度調整し、20分間ホールドした。次に30分かけて90%RH(加湿条件)に湿度調整した。この乾湿サイクル(30%RH-90%RH)を1サイクルとして、10サイクル目の30%RHの寸法変化率(%)と90%RHの寸法変化率(%)の差を、乾湿寸法変化率(%)とした。
【0122】
乾湿寸法変化率は、7.0%以下が好ましく、6.5%以下がより好ましく、6.0%以下が特に好ましい。
【0123】
(4)小角X線散乱(SAXS)による相分離の平均周期サイズの算出
膜状の試料を2枚重ねてシリコーン製ホルダーにカプトン箔を窓材として封じ、加熱ス
テージに設置して、小角X線散乱測定を行った。測定は以下の条件に従って、大気中及び水中で行った。大気中での測定は、25℃30%Rhの環境下でセルの温度を80℃まで昇温して測定を行った。水中での測定は、セル内部を純水で満たした状態でセルの温度を80℃まで昇温して測定を行った。
測定 : 放射光小角X線散乱法
放射光施設 : SPring-8 BL08B2
波長 : 0.10nm
ビーム径 : 縦0.15mm、横0.40mm (試料位置)
カメラ長 : 約6,000mm
測定時間 : 60秒
検出器 : Pilatus
画素サイズ:172μm角
加熱ステージ :リンカム社製加熱ステージ
測定温度 :80°C
小角散乱プロファイルについて、周期性ピークを以下の式のようにフーリエ変換することにより、密度相関関数K(z)を導出した。
【0124】
【0125】
K(z)の形状から、相分離の平均周期サイズを求めた。
【0126】
(5)透過型電子顕微鏡(TEM)による相分離構造の観察
染色剤として2重量%酢酸鉛水溶液中に試料片を浸漬させ、25℃下で72時間放置した。染色処理された試料を取りだし、エポキシ樹脂で包埋した。ウルトラミクロトームを用いて室温下で薄片80nmを切削し、得られた薄片をCuグリッド上に回収しTEM観察に供した。観察は加速電圧100kVで実施し、撮影は、写真倍率として×20,000、×40,000になるように撮影を実施した。機器としては、HT7700(日立ハイテク社製)を使用した。また、TEM像を高速フーリエ変換(FFT)して、得られたリング状のFFTパターンからTD方向の空間周波数を測長し、そこから相分離の平均周期長を算出した。空間周波数は、画像の中心からリングの厚み中心までの距離を測長した。FFTおよび測長はDigitalMicrograph(Gatan社製)を使用した。
【0127】
(6)透過型電子顕微鏡(TEM)トモグラフィーによる相分離構造の観察
上記(5)記載の方法にて作成した薄片試料を、コロジオン膜上にマウントし、以下の条件に従って観察を実施した。
装置: 電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)JEOL製JEM 2100F
画像取得: DigitalMicrograph(Gatan社製)
システム: マーカー法
加速電圧: 200kV
撮影倍率: 30,000倍
傾斜角度: +60°~-62°
再構成解像度: 0 .71nm/pixel。
【0128】
3次元再構成処理は、マーカー法を適用した。3次元再構成を実施する際の位置合わせマーカーとして、コロジオン膜上に付与したAuコロイド粒子を用いた。マーカーを基準として、+61°から-62° の範囲で、試料を1°毎に傾斜しTEM像を撮影する連続傾斜像シリーズより取得した計124枚のTEM像を基にCT再構成処理を実施、3次元相分離構造を観察した。
【0129】
(7)プロトン伝導度
セルの白金電極上にイソプロパノールベースのカーボンペースト(イーエムジャパン社製 G7711)を塗布し、18mm×6mmにカットされた拡散層電極(E-TEK社製 ELAT GDL 140-HT)を貼り付けた。セルの電極間に30mm×8mmにカットした電解質膜を配置し、セルを1MPaで締結してMTS740のチャンバー内に格納した。電解質膜の膜厚方向のプロトン抵抗はMTS740膜抵抗測定システム(Scribner社製)で評価した。MTS740は温度制御したチャンバー内にセルを格納し、加湿器を通してチャンバー内にマスフローコントローラーで空気ガスを供給した。セルには周波数応答アナライザーPSM1735(Newtons4th社製)が接続されており、交流信号を1MHzから1KHzに掃引することにより抵抗を求めることができる。
【0130】
MTS740とPSM1735はパソコンに接続されソフトウェアでコントロールすることができる。チャンバーの温度を80℃に設定した後、90%RHの空気ガスを供給し1時間保持し電解質膜を十分湿潤させた。その後、20%RHの空気を供給し乾燥させ、30%RHの空気を供給し30分保持し抵抗を測定した。このとき周波数は1MHzから1KHzまで掃引した。その後、80%RHの空気を供給し30分保持し同様に抵抗を測定した。測定した抵抗のデータからCole-Coleプロットを作成した。1MHz付近の周波数帯はセルとPSM1735を接続するケーブルのインダクタンス成分の影響を受けるため、その影響が少ない200kHzの実軸の値を抵抗値(Ω)とした。30%RHの空気を供給した際のプロトン伝導度を低加湿プロトン伝導度、80%RHの空気を供給した際のプロトン伝導度を高加湿プロトン伝導度として、測定した抵抗値を用いて以下の式より、プロトン伝導度を算出した。
プロトン伝導度(mS/cm)=1/(抵抗値(Ω)×アクティブエリア(cm2)/試料厚(cm))。
【0131】
低加湿プロトン伝導度は、0.90mS/cm以上が好ましく、1.00mS/cm以上がより好ましく、1.10mS/cm以上が特に好ましい。高加湿プロトン伝導度は、9.50mS/cm以上が好ましく、11.00mS/cm以上がより好ましく、12.00mS/cm以上が特に好ましい。
【0132】
(8)示差走査熱量分析法(DSC)による結晶化熱量測定
検体となる高分子電解質10mgを、DSC装置内において、110℃で3時間予備乾燥した後、検体をDSC装置から出さずに、以下の条件にて200℃まで昇温させ、昇温段階の温度変調示差走査熱量分析を行った。
DSC装置:DSC7000X(日立ハイテク社製)
測定温度範囲:30℃~200℃
温度制御:交流温度制御
昇温速度:2℃/min
振幅:±3℃
印加周波数:0.02Hz
試料パン:アルミニウム製クリンプパン
測定、予備乾燥雰囲気:窒素100mL/min
予備乾燥:110℃、3時間。
【0133】
(9)広角X線回折(XRD)による結晶化度測定
検体となる高分子電解質材料を回折計にセットし、以下の条件にてX 線回折測定を行った。
X線回折装置:ブルカー社製D8 ADVANCE
X線:Cu-Kα
X線出力:40kV-40mA
光学系: 集中法光学系
スキャン速度:2θ=2/min
スキャン方法:2θ-θ
スキャン範囲:2θ=5~60°
スリット:発散スリット-1/2°、受光スリット-0.15mm散乱スリット-1/2°
結晶化度はプロファイルフィッティングを行うことにより各成分の分離を行い、各成分
の回折角と積分強度を求め、得られた結晶質ピークと非晶質ハローの積分強度を用いて下
記の計算式から結晶化度を算出した。
【0134】
結晶化度(%)= 全ての結晶質ピークの積分強度の和/全ての結晶質ピークと非晶質ハローの積分強度の和×100。
【0135】
以下の合成例1~3において、得られた化合物の構造は1H-NMRで確認した。純度はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析した。
【0136】
合成例1(下記式(G1)で表される2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン(K-DHBP)の合成)
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp-トルエンスルホン酸一水和物0.50gを仕込み、溶液とした。その後78~82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温し、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで120℃に保った。この反応液を室温まで冷却した後、反応液を酢酸エチルで希釈した。有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mlで洗浄し分液した後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mlを加え結晶を析出させ、これを濾過し、乾燥して、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3-ジオキソラン52.0gを得た。純度は99.9%であった。
【0137】
【0138】
合成例2(下記式(G2)で表されるジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩(NaCl)200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。
【0139】
【0140】
合成例3(下記式(G3)で表される3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンの合成)
4,4-ジフルオロジフェニルスルホン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホンを得た。純度は99.3%であった。
【0141】
【0142】
実施例1
(下記一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa1の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、合成例1で得たK-DHBP25.83g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン21.38g(アルドリッチ試薬、98mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で3時間重合を行った。多量のメタノールに再沈殿精製を行い、非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は20,000であった。 攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、上記非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体を20.0g(1mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、NMP100mL、トルエン30mLを加え、100℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去した。さらに、ヘキサフルオロベンゼン1.1g(アルドリッチ試薬、6mmol)を入れ、105℃で12時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa1(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa1の数平均分子量は21,000であった。
【0143】
【0144】
(下記式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa2の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム27.64g(アルドリッチ試薬、200mmol)、合成例1で得たK-DHBP12.91g(50mmol)、4,4’-ビフェノール9.31g(アルドリッチ試薬、50mmol)、合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.60g(98.5mmol)および18-クラウン-6 26.40g(和光純薬100mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、NMP300mL、トルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で6時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G5)で示されるイオン性オリゴマーa2(末端:ヒドロキシ基)を得た。このイオン性オリゴマーa2の数平均分子量は45,000であった。なお、式(G5)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表す。
【0145】
【0146】
(下記式(G6)で表されるイオン性オリゴマーa2’の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、400mmol)およびイオン性オリゴマーa2 49.0gを入れた。装置内を窒素置換した後、NMP500mLを加え、60℃で内容物を溶解させた後に、ヘキサフルオロベンゼン/NMP溶液(1wt%)を19.8g加えた。80℃で18時間反応を行い、式(G6)で示されるイオン性オリゴマーa2’(末端:OM)を含むNMP溶液を得た。このイオン性オリゴマーa2’の数平均分子量は90,000であった。なお、式(G6)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表す。
【0147】
【0148】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa2’、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa1を含有するブロック共重合体b1の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa2’ 49.0gおよび非イオン性オリゴマーa1 7.65gを入れ、オリゴマーの総仕込み量が7wt%となるようにNMPを加えて、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコール/NMP混合液(重量比2/1)への再沈殿を行い、多量のイソプロピルアルコールで精製を行い、ブロック共重合体b1を得た。このブロック共重合体b1の数平均分子量は170,000であり、重量平均分子量は410,000であった。
【0149】
得られたブロック共重合体b1を溶解させた20重量%NMP溶液を、ガラス繊維フィルターにより加圧ろ過した後、ガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥し、膜状成形体を得た。この成形体を10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬して、プロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜A(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は15.8J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0150】
実施例2
(イオン性セグメントしてオリゴマーa2’、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa1を含有するブロック共重合体b2の合成)
非イオン性オリゴマーa1の使用量を5.4gとしたこと以外は実施例1と同様にして、ブロック共重合体b2を得た。このブロック共重合体b2の数平均分子量は180,000であり、重量平均分子量は430,000であった。
【0151】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b2を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜B(膜厚11μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は13.2J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0152】
実施例3
(式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa3の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.45gとしたこと以外はオリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、オリゴマーa3の末端ヒドロキシ体を得た。このオリゴマーa3の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は25,000であった。
【0153】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa3の末端ヒドロキシ体25.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa3(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa3の数平均分子量は26,000であった。
【0154】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa2’、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa3を含有するブロック共重合体b3の合成)
非イオン性オリゴマーa1 7.65gに代えて非イオン性オリゴマーa3 12.3gを用いたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b3を得た。このブロック共重合体b3の数平均分子量は160,000であり、重量平均分子量は390,000であった。
【0155】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b3を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜C(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は22.1J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0156】
実施例4
(式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa4の合成)
ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を41.38g(98.0mmol)としたこと以外はイオン性オリゴマーa2の合成と同様にして、イオン性オリゴマーa4を得た。このイオン性オリゴマーa4の数平均分子量は35,000であった。
【0157】
(一般式(G6)で表されるイオン性オリゴマーa4’の合成)
イオン性オリゴマーa2 49.0gに代えてイオン性オリゴマーa4 37.16gを用い、NMPの使用量を400mLとし、ヘキサフルオロベンゼン/NMP溶液(1wt%)の使用量を15.3gとしたこと以外はイオン性オリゴマーa2’の合成と同様にして、式(G6)で示されるイオン性オリゴマーa4’(末端:OM)を含むNMP溶液を得た。このオリゴマーa4’の数平均分子量は70,000であった。
【0158】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa4’、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa1を含有するブロック共重合体b4の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa2’ 49.0gの代わりにイオン性オリゴマーa4’ 37.16gを用い、非イオン性オリゴマーa1の使用量を5.80gとしたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b4を得た。このブロック共重合体b4の数平均分子量は190,000であり、重量平均分子量は440,000であった。
【0159】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b4を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜D(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は16.6J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0160】
実施例5
(一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa5の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.27gとしたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa5の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa5の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は16,000であった。
【0161】
非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体20.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa5の末端ヒドロキシ体16.0gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の合成と同様にして、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa5(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa5の数平均分子量は17,000であった。
【0162】
(式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa6の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム27.64g(アルドリッチ試薬、200mmol)、合成例1で得たK-DHBP12.91g(50mmol)および4,4’-ビフェノール9.31g(アルドリッチ試薬、50mmol)、合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.85g(99.1mmol)、を入れた。装置内を窒素置換した後、ジメチルスルホキシド(DMSO)300mL、トルエン100mLを加え、133℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、150℃で2時間重合し、155℃に昇温しさらに1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、式(G5)で示されるイオン性オリゴマーa6(末端:ヒドロキシ基)を得た。このイオン性オリゴマーa6の数平均分子量は56,000であった。
【0163】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa6、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa7を含有するブロック共重合体b5の合成)
イオン性オリゴマーa2’ 49.0gの代わりにイオン性オリゴマーa6 32.79gを用い、非イオン性オリゴマーa1 7.65gの代わりに非イオン性オリゴマーa5 8.19gを用いたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b5を得た。このブロック共重合体b5の数平均分子量は、140,000、重量平均分子量は360,000であった。
【0164】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b5を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜E(膜厚12μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は21.1J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0165】
実施例6
(一般式(G7)で表される非イオン性オリゴマーa7の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの代わりに、4,4-ジフルオロジフェニルスルホン23.65gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa7の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa7の末端ヒドロキシ体数平均分子量は10,000であった。
【0166】
非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体 20.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa7の末端ヒドロキシ体 10.0gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の合成と同様にして、式(G7)で示される非イオン性オリゴマーa7(末端フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa7の数平均分子量は、11,000であった。
【0167】
【0168】
(式(G8)で表されるイオン性基オリゴマーa8の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP12.9g(50mmol)および4,4’-ビフェノール9.3g(アルドリッチ試薬、50mmol)、合成例3で得た3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン45.12g(99.1mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、DMSO300mL、トルエン100mLを加え、130℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、155℃で3時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、式(G8)で示されるイオン性オリゴマーa8(末端ヒドロキシ基)を得た。このイオン性オリゴマーa8の数平均分子量は57,000であった。
【0169】
【0170】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa8、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa7を含有するブロック共重合体b6の合成)
イオン性オリゴマーa2’ 49.0gの代わりにイオン性オリゴマーa8 65.82gを用い、非イオン性オリゴマーa1 7.65gの代わりに非イオン性オリゴマーa7 10.28gを用いたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b10を得た。このブロック共重合体b6の数平均分子量は110,000であり、重量平均分子量は280,000であった。
【0171】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b6を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜F(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められなかった(結晶化熱量0J/g)。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0172】
実施例7
(下記一般式(G9)で表されるイオン性オリゴマー前駆体a9の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、乾燥したN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)200mlと、3-(2,5-ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル16.9g(42mmol)、4-クロロフェノール0.09g(0.7mmol)を入れて、窒素雰囲気下で、80℃で2時間撹拌した。その後、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル30g(109mmol)を入れて、4時間撹拌した。乾燥したDMAc300mLで希釈し、アセトンを1L注ぎ、凝固した後に、80℃で真空乾燥し、下記式(G9)で示されるイオン性オリゴマー前駆体a9(末端:ヒドロキシ基)を得た。数平均分子量は22,000であった。
【0173】
【0174】
(下記式(G10)で表されるイオン性オリゴマー前駆体a9’の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、400mmol)およびイオン性オリゴマーa10 11.1gを入れた。装置内を窒素置換した後、乾燥したDMAc200mLを加え、60℃で内容物を溶解させた後に、ヘキサフルオロベンゼン/DMAc溶液(1wt%)を30.6g加えた。80℃で24時間反応を行い、下記式(G10)で示されるイオン性オリゴマー前駆体a9’(末端:OM)を含むDMAc溶液を得た。イオン性オリゴマー前駆体a9’の数平均分子量は67,000であった。なお、式(G10)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表す。
【0175】
【0176】
(下記一般式(G11)で表される非イオン性オリゴマーa10の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、乾燥したNMP200ml、2,5-ジクロロベンゾフェノン10.08g(40mmol)および4-クロロフェノール0.12g(0.9mmol)を入れて、窒素雰囲気下で、80℃で2時間撹拌した。さらにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケル30g(109mmol)を入れて、4時間撹拌した。乾燥したNMP300mLで希釈し、10wt%塩酸水溶液1Lに沈殿したあと、80℃で真空乾燥し、下記式(G11)で示される非イオン性オリゴマーa10の末端ヒドロキシ体を得た。数平均分子量は9,000であった。
【0177】
非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体20.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa10の末端ヒドロキシ体9.0g(1mmol)を用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の合成と同様にして、下記式(G11)で示される非イオン性オリゴマーa10(末端フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa10の数平均分子量は10,000であった。
【0178】
【0179】
(イオン性セグメントとしてイオン性オリゴマーa9’’、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa10を含有するブロック共重合体b7の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、イオン性オリゴマー前駆体a9’ 11.1gおよび非イオン性オリゴマーa10 5.71gを入れ、オリゴマーの総仕込み量が7wt%となるようにDMAcを加えて、105℃で24時間反応を行った。重合反応溶液をDMAc500mlで希釈し、30分撹拌し、セライトを濾過助剤に用い、濾過した。
【0180】
濾液をエバポレーターで濃縮し、残留物に臭化リチウム21.9g(0.253mol)を加え、内温110℃で7時間、窒素雰囲気下で反応させた。反応後、室温まで冷却し、アセトン3Lに注ぎ、凝固した。凝固物を濾集、風乾後、ミキサーで粉砕し、1N塩酸1500mlで攪拌しながら洗浄を行った。濾過後、生成物は洗浄液のpHが5以上となるまで、イオン交換水で洗浄した。その後、80℃で一晩乾燥し、下記式(G12)で表されるイオン性オリゴマーa9’’を有するブロック共重合体b7を得た。式(G12)の構造式及び数平均分子量から、イオン性オリゴマーa9’’の数平均分子量は53,000と計算される。ブロック共重合体b7の数平均分子量は90,000であり、重量平均分子量は210,000であった。なお、式(G12)において、*は、非イオン性セグメントとの結合を表す。
【0181】
【0182】
ブロック共重合体b11を、0.1g/gとなるようにNMP/メタノール=30/70(質量%)からなる溶媒に溶解させた。ガラス繊維フィルターにより加圧ろ過した後、ガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥し、膜状成形体を得た。この成形体を10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜G(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められなかった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められ、その結晶化度は10.4%であった。
【0183】
比較例1
(一般式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa11の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を20.84gとしたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa11の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa9の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は9,000であった。
【0184】
非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体 20.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa11の末端ヒドロキシ体 9.0gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の合成と同様にして、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa11(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa11の数平均分子量は10,000であった。
【0185】
(一般式(G5)で表されるイオン性オリゴマーa12の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、炭酸カリウム27.64g(アルドリッチ試薬、200mmol)、合成例1で得たK-DHBP12.91g(50mmol)、4,4’-ビフェノール9.31g(アルドリッチ試薬、50mmol、合成例2で得たジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.47g(98.2mmol)および18-クラウン-6 26.40g(和光純薬100mmol)を入れた。装置内を窒素置換した後、NMP300mL、トルエン100mLを加え、150℃で脱水した後、昇温してトルエンを除去し、170℃で6時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、式(G5)で示されるイオン性オリゴマーa12(末端:ヒドロキシ基)を得た。このイオン性オリゴマーa12の数平均分子量は42,000であった。
【0186】
(イオン性セグメントしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa11を含有するブロック共重合体b8の合成)
イオン性オリゴマーa2’ 49.0gの代わりにイオン性基オリゴマーa12 43.57gを用い、非イオン性オリゴマーa1 7.65gの代わりに非イオン性オリゴマーa11 10.89gを用いたこと以外はブロック共重合体b1の合成と同様にして、ブロック共重合体b8を得た。このブロック共重合体b8の数平均分子量は140,000であり、重量平均分子量は400,000であった。
【0187】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b8を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜H(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は15.1J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0188】
比較例2
(式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa13の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を20.18gとしたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa15の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa15の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は5,000であった。
【0189】
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム2.2g(アルドリッチ試薬、16mmol)および非イオン性オリゴマーa13の末端ヒドロキシ体を10.0gを入れた。装置内を窒素置換した後、NMP100mL、トルエン30mLを加え、100℃で脱水後、昇温してトルエンを除去し、ヘキサフルオロベンゼン2.2g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で12時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa13(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa13の数平均分子量は6,000であった。
【0190】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa13を含有するブロック共重合体b9の合成)
非イオン性オリゴマーa11 10.89gの代わりに非イオン性オリゴマーa13 6.81gを用いたこと以外はブロック共重合体b8の合成と同様にして、ブロック共重合体b9を得た。このブロック共重合体b9の数平均分子量は130,000であり、重量平均分子量は400,000であった。
【0191】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b9を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜I(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していたが、一部連続していない構造が見られた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は6.4J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0192】
比較例3
(式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa14の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を19.99gとしたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa14の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa14の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は4,000であった。
【0193】
非イオン性オリゴマーa13の末端ヒドロキシ体10.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa14の末端ヒドロキシ体を8.0gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa13の合成と同様にして、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa14(末端:フルオロ基)を得た。このイオン性オリゴマーa14の数平均分子量は5,000であった。
【0194】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa14を含有するブロック共重合体b10の合成)
非イオン性オリゴマーa13 6.81gの代わりに非イオン性オリゴマーa14 4.84gを用いたこと以外はブロック共重合体b9の合成と同様にして、ブロック共重合体b10を得た。このブロック共重合体b10の数平均分子量は130,000であり、重量平均分子量は400,000であった。
【0195】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b10を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜J(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していたが、一部連続していない構造が見られた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は2.9J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0196】
比較例4
(下記一般式(G8)で表されるイオン性オリゴマーa15の合成)
ジソジウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.60gの代わりに合成例3で得た3,3’-ジスルホン酸ナトリウム塩-4,4’-ジフルオロジフェニルスルホン44.94g(98.1mmol)を用いたこと以外はイオン性オリゴマーa2の合成と同様にして、式(G8)で示されるイオン性オリゴマーa15(末端ヒドロキシ基)を得た。このイオン性オリゴマーa15の数平均分子量は41,000であった。なお、式(G8)において、Mは、水素原子、NaまたはKを表す。
【0197】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa15、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa7を含有するブロック共重合体b11の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa15 45.76gおよび非イオン性オリゴマーa7 8.93gを入れ、オリゴマーの総仕込み量が7wt%となるようにNMPを加えて、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコール/NMP混合液(重量比2/1)への再沈殿を行い、多量のイソプロピルアルコールで精製を行い、ブロック共重合体b18を得た。このブロック共重合体b11の数平均分子量は120,000であり、重量平均分子量は290,000であった。
【0198】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b11を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜K(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められなかった(結晶化熱量0J/g)。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0199】
比較例5
(下記一般式(G13)で表される非イオン性オリゴマーa16の合成)
K-DHBPの使用量を25.22g、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.82gとしたこと以外は、非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、式(G13)で示される非イオン性オリゴマーa16(末端:フルオロ基)を得た。このイオン性オリゴマーa16の数平均分子量は17,000であった。
【0200】
【0201】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa16を含有するブロック共重合体b12の合成)
攪拌器、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた2000mL SUS製重合装置に、イオン性オリゴマーa12 43.57gおよび非イオン性オリゴマーa16 10.89gを入れ、オリゴマーの総仕込み量が21wt%となるようにNMPを加えて、180℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコール/NMP混合液(重量比2/1)への再沈殿を行い、多量のイソプロピルアルコールで精製を行い、ブロック共重合体b12を得た。このブロック共重合体b12の数平均分子量は90,000であり、重量平均分子量は210,000であった。
【0202】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b12を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜L(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、海島様の相分離構造が確認できた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は3.6J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0203】
比較例6
(式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa17の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を19.81gとしたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa17の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa17の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は3,000であった。
【0204】
非イオン性オリゴマーa13の末端ヒドロキシ体10.0gの代わりに非イオン性オリゴマーa17の末端ヒドロキシ体を6.0gを用いたこと以外は非イオン性オリゴマーa13の合成と同様にして、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa17(末端:フルオロ基)を得た。このイオン性オリゴマーa17の数平均分子量は4,000であった。
【0205】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa17を含有するブロック共重合体b13の合成)
非イオン性オリゴマーa13 6.81gの代わりに非イオン性オリゴマーa17 3.63gを用いたこと以外はブロック共重合体b9の合成と同様にして、ブロック共重合体b13を得た。このブロック共重合体b13の数平均分子量は90,000であり、重量平均分子量は220,000であった。
【0206】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b13を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜N(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していたが、一部連続していない構造が見られた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は0.5J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0207】
比較例7
(式(G4)で表される非イオン性オリゴマーa18の合成)
4,4’-ジフルオロベンゾフェノンの使用量を21.49gとしたこと以外は非イオン性オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の合成と同様にして、非イオン性オリゴマーa18の末端ヒドロキシ体を得た。この非イオン性オリゴマーa18の末端ヒドロキシ体の数平均分子量は27,000であった。
【0208】
オリゴマーa1の末端ヒドロキシ体の代わりにオリゴマーa18の末端ヒドロキシ体27.0gを用いたこと以外はオリゴマーa1の合成と同様にして、式(G4)で示される非イオン性オリゴマーa18(末端:フルオロ基)を得た。この非イオン性オリゴマーa18の数平均分子量は28,000であった。
【0209】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa12、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa18を含有するブロック共重合体b14の合成)
非イオン性オリゴマーa11 10.89gの代わりに非イオン性オリゴマーa17 14.52gを用いたこと以外ブロック共重合体b8の合成と同様にして、ブロック共重合体b13を得た。このブロック共重合体b14の数平均分子量は70,000であり、重量平均分子量は200,000であった。
【0210】
得られたブロック共重合体b14を溶解させた20重量%NMP溶液は、溶解性が悪く、ゲル状不溶物が観察された。ガラス繊維フィルターにより加圧ろ過した。ガラス基板上に流延塗布し、100℃にて4時間乾燥し、膜状成形体を得たが、除去しきれなかったゲル状不溶物に由来すると考えられる欠点が見られた。10質量%硫酸水溶液に80℃で24時間浸漬して、プロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、高分子電解質膜M(膜厚13μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していたが、一部連続しておらず、不均一な構造が見られた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は28.4J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0211】
比較例8
(下記一般式(G14)で表される非イオン性オリゴマーa19の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1,000mL三口フラスコに、炭酸カリウム16.59g(アルドリッチ試薬、120mmol)、合成例1で得たK-DHBP25.8g(100mmol)および4,4’-ジフルオロベンゾフェノン21.4g(アルドリッチ試薬、98mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中で160℃にて脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のメタノールで再沈殿することで精製を行い、イオン性基を含有しないオリゴマーa19の末端ヒドロキシル基体を得た。数平均分子量は20,000であった。
【0212】
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム1.1g(アルドリッチ試薬、8mmol)、イオン性基を含有しない前記オリゴマーa19の末端ヒドロキシル基体を40.0g(2mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中、100℃にて脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、ビス(4-フルオロフェニルスルホン)3.0g(アルドリッチ試薬、12mmol)を入れ、105℃で1時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、下記式(G14)で示される非イオン性基オリゴマーa19(末端フルオロ基)を得た。数平均分子量は21,000であった。
【0213】
【0214】
(上記一般式(G5)で表されるイオン性基オリゴマーa20の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた1,000mL三口フラスコに、炭酸カリウム27.6g(アルドリッチ試薬、200mmol)、前記合成例1で得たK-DHBP25.8g(100mmol)、合成例2で得たジソジウム 3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジフルオロベンゾフェノン41.4g(98mmol)、および18-クラウン-6 、17.9g(和光純薬82mmol)を入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)300mL、トルエン100mL中、170℃にて脱水後、昇温してトルエン除去、180℃で1時間重合を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、上記式(G5)で示されるイオン性基を含有するオリゴマーa20の末端ヒドロキシル基体を得た。数平均分子量は33,000であった。
【0215】
(イオン性セグメントとしてオリゴマーa20、非イオン性セグメントとしてオリゴマーa19を含有するブロック共重合体b15の合成)
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean-Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム0.56g(アルドリッチ試薬、4mmol)、イオン性基を含有するオリゴマーa20の末端ヒドロキシル基体を33g(1mmol)入れ、窒素置換後、N-メチルピロリドン(NMP)100mL、シクロヘキサン30mL中、100℃で脱水後、昇温してシクロヘキサン除去し、イオン性基を含有しないオリゴマーa19(末端フルオロ基)21g(1mmol)を入れ、105℃で24時間反応を行った。多量のイソプロピルアルコールで再沈殿することで精製を行い、ブロック共重合体b15を得た。このブロック共重合体b15の数平均分子量は10万であり、重量平均分子量は36万であった。
【0216】
ブロック共重合体b1に代えてブロック共重合体b15を用いた以外は実施例1と同様の方法で、高分子電解質膜O(膜厚10μm)を得た。TEMおよびTEMトモグラフィー観察により、共連続様の相分離構造が確認でき、イオン性基を含有する親水性ドメイン、イオン性基を含有しない疎水性ドメインともに連続相を形成していた。DSCにより、結晶化ピークが認められ、結晶化熱量は25.1J/gであった。また、広角X線回折で結晶質ピークは認められなかった(結晶化度0%)。
【0217】
【0218】
本発明の高分子電解質成形体において、機械強度や物理的耐久性とプロトン伝導性とを高いレベルで両立させるという観点から、乾湿寸法変化率が7.0%以下でかつ低加湿プロトン伝導度が0.90mS/cm以上、高加湿プロトン伝導度が9.50mS/cm以上であることが好ましく、乾湿寸法変化率が6.5%以下でかつ低加湿プロトン伝導度が1.00mS/cm以上、高加湿プロトン伝導度が11.00mS/cm以上であることがより好ましく、乾湿寸法変化率が6.0%以下で低加湿プロトン伝導度が1.10mS/cm以上、高加湿プロトン伝導度が12.00mS/cm以上であることが特に好ましい。
【符号の説明】
【0219】
1 相
2 相
【要約】
小角X線散乱によって観察される相分離構造の平均周期サイズにおいて、大気中での平均周期サイズと水中での平均周期サイズが、水中の平均周期サイズ/大気中の平均周期サイズ≦2.20を満たすことを特徴とする高分子電解質成形体により、優れたプロトン伝導性を有し、機械強度および化学的安定性にも優れた高分子電解質成形体を実現する。