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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-15
(45)【発行日】2022-09-27
(54)【発明の名称】膨張抑制材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 14/10 20060101AFI20220916BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20220916BHJP
   C04B 103/60 20060101ALN20220916BHJP
【FI】
C04B14/10 Z
C04B22/08 A
C04B103:60
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022531331
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024888
(87)【国際公開番号】W WO2021260860
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-06-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591063486
【氏名又は名称】一般財団法人先端建設技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直良
(72)【発明者】
【氏名】藤森 ▲祥▼弘
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亮
(72)【発明者】
【氏名】丸 章夫
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136665(JP,A)
【文献】特開2015-129064(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073634(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105753406(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 14/10
C04B 22/08
C04B 103/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カオリナイトと炭質物を含む原料を粉砕して最大径600μm以下の粉とし、
前記粉を~10mmの径の粒に造粒し、
前記粒を350~750℃の温度で、30~90分間か焼する
ことを特徴とする膨張抑制材の製造方法。
【請求項2】
前記粒を400~650℃の温度で、30~60分間か焼する
ことを特徴とする請求項1記載の膨張抑制材の製造方法。
【請求項3】
前記原料を粉砕して最大径300μm以下の粉とする
ことを特徴とする請求項1または2記載の膨張抑制材の製造方法。
【請求項4】
前記原料を粉砕して最大径150μm以下の粉とする
ことを特徴とする請求項1または2記載の膨張抑制材の製造方法。
【請求項5】
前記炭質物は前記カオリナイトに対し3~15重量%含まれている
ことを特徴とする請求項1~4記載の膨張抑制材の製造方法。
【請求項6】
前記原料は石炭ボタ由来である
ことを特徴とする請求項1~5記載の膨張抑制材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントと骨材からなるコンクリートに混和される混和材、特に、コンクリートの膨張抑制効果を期待する膨張抑制材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、セメント、骨材、水を混練させて形成する。コンクリートは、一般的に広く利用される建設材料であるが、いくつかの問題がある。例えば、アルカリ骨材反応のようなセメントの異常反応による膨張などがある。このような異常膨張は、ひび割れ等コンクリート構造物の劣化要因の1つとなる。
【0003】
一般にアルカリ骨材反応とは、骨材中の反応性シリカやシリケート鉱物がセメント中のアルカリと反応してひび割れを発生させる反応とされている。
【0004】
また、骨材がドロマイト質石灰石の場合では、セメント中の影響により、骨材中のマグネシウムが水と反応し、水酸化マグネシウムが形成される際の膨張によりコンクリートにひび割れが起きるおそれがある。
【0005】
アルカリ骨材反応によりひび割れが発生する結果、漏水、鉄筋腐食、耐久性低下などの不具合をもたらす。
【0006】
ところで、本願発明者は、長年、異常膨張したコンクリートを観察して、知見を蓄積している(非特許文献1~3)。これらの知見に基づき焼成カオリン族鉱物由来の膨張抑制材を提案している(特許文献1および2)。
膨張抑制効果を実証している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-136665号公報
【文献】特開2015-129064号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】丸章夫:コンクリート構造物の異常ひび割れに関する岩石鉱物学的考察,コンクリート工学,vol.42,No.12,32~42,2004
【文献】丸章夫:異常ひび割れが発生した構造物コンクリートの鉱物学的考察,粘土科学,第45巻,第2号,pp.75~89,2006
【文献】丸章夫:石灰系骨材を使用して異常ひび割れが発生した構造物コンクリートの鉱物学的考察,粘土科学,第46巻,第2号,pp.105~111,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明者は、特許文献1および2記載の膨張抑制材の実証試験を繰り返している。その過程で、いくつかの改善点を見出した。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、従来同等の膨張抑制効果を有し、従来に比べて経済的に製造できる膨張抑制材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は膨張抑制材の製造方法である。カオリナイトと炭質物を含む原料を粉砕して最大径600μm以下の粉とし、前記粉を数~10mmの径の粒に造粒し、前記粒を350~750℃の温度で、30~90分間か焼する。
【0012】
これによりか焼条件を従来焼成条件より低温・短時間とすることができる。その結果、経済的に製造できる。
【0013】
好ましくは、前記粒を400~650℃の温度で、30~60分間か焼する。
【0014】
これによりか焼条件を従来焼成条件より更に低温・短時間とすることができる。
【0015】
更に好ましくは、前記原料を粉砕して最大径300μm以下の粉とする。
【0016】
これにより、か焼温度管理及びか焼温度管理が容易となり、その結果、品質管理が容易となる
【0017】
更に好ましくは、前記原料を粉砕して最大径150μm以下の粉とする。
【0018】
これにより、か焼温度管理及びか焼温度管理が容易となり、その結果、品質管理が容易となる
【0019】
これによりか焼条件を従来焼成条件より更に低温・短時間とすることができる。
【0020】
好ましくは、前記炭質物は前記カオリナイトに対し3~15重量%含まれている。さらに5~10重量%含まれていることが好ましい。これは、カオリナイト1Kgに対し炭質物の燃焼熱量数百~1000Kcalに相当する。
【0021】
これにより、粒内部の炭質物が着火燃焼し、原料自体が昇温する。相対的に外部加熱温度を下げることができる。
【0022】
好ましくは、前記原料は石炭ぼた由来である。
【0023】
石炭ぼた由来の原料には揮発性炭質物を含む。石炭ぼたは廃棄物として扱われており廉価で入手可能である。また、石炭ぼた由来の原料に粘性がある場合は、バインダは不要である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の膨張抑制材は、従来同等の膨張抑制効果を有する。本発明の膨張抑制材は、従来に比べて経済的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】炭質物を含むカオリナイト結晶のイメージ
図2】か焼条件
図3】か焼条件
図4】造粒粒イメージ
図5】X線回析結果
【発明を実施するための形態】
【0026】
~基本原理~
本発明の膨張抑制にかかる基本原理について説明する。本願発明者は、長年、異常膨張したコンクリートを観察して、以下の知見を得た。
【0027】
アルカリ骨材反応を含めて、膨張ひび割れ現象により、ひび割れが発生したコンクリート中のセメント硬化体を調べると、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)や3CaO・Al2O3・8~12H2O、4CaO・Al2O3・13H2O、Ca2Al(OH)7・3H2Oなどのカルシウム・アルミネート・ハイドレートならびにエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)が共通して生成している。
【0028】
ところで、最近のセメントの粉末度は、コンクリート強度を早く出すために高く(細かく)なり、普通ポルトランドセメントでブレーン値が実測値3,200~3,800cm2/g,高炉セメントでは3,800~4,300cm2/gであり、JASS5で示す2,700cm2/g(この値以上の意味)よりも極めて高く、非常に細かくなっている。
【0029】
このように、セメントの粉末度が高い場合や、水・セメント比が高い場合、あるいは、骨材成分がコンクリート中(セメントの系)に溶出する場合、セメント成分中のイオン化傾向が高いカルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)がイオン化し、セメントの水和反応が正常でなくなり、水酸化カルシウム、カルシウム・アルミネート・ハイドレート、エトリンガイトなどの水和物が生成される。これらの水和物の生成は膨張を伴う。これが、コンクリートの膨張原因となる。
【0030】
焼成カオリン族鉱物由来の膨張抑制材は、所定時間、所定温度にて、天然のカオリン族鉱物を焼成したものである。
【0031】
焼成カオリン族鉱物は、セメントから異常に溶出するカルシウムやアルミニウム、あるいは、セメント中またコンクリート中に含まれるナトリウムやカリウムを吸収し固定する。
【0032】
焼成カオリン族鉱物がコンクリート中に溶出したカルシウムを吸収すると、水和セメント硬化体の骨格であるC-S-Hが形成される。
【0033】
C-S-HとはCaOとSiO2およびH2Oの略記号であり、セメントの水和反応により生成するセメント水和反応生成物の骨格成分を表す。物理的に安定したC-S-H組成の例として、3CaO・2SiO2・3H2Oあるいは6CaO・5SiO2・6H2Oがある。非結晶に近い物質である。組成が天然鉱物トベルモライト(3CaO・2SiO2・3H2O)と同じであるため、トベルモライト・ゲルとも呼ばれる。
【0034】
これにより、膨張作用のある上記水和物の生成を抑制し、その結果、アルカリ骨材反応を含むコンクリートの異常膨張を抑制する。膨張抑制によりコンクリートのひび割れを抑制する。
【0035】
~カオリン族鉱物とカオリナイト~
混和材に含まれる焼成カオリンは、所定時間、所定温度にて、天然のカオリン族鉱物を焼成したものである。カオリン族鉱物とは、唯、カオリンということもあり、カオリン鉱物ということもある。カオリン族鉱物には、結晶構造や結晶形態の違いにより、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、メタハロイサイト、アロフェーンがあり、カオリン族鉱物とはこれらの総称である。
【0036】
結晶系は異なるがカオリナイト、ディッカイト、ナクライトならびにメタハロイサイトは、Al2O3・2SiO2・2H2Oの組成を有し、ハロイサイト(加水ハロイサイト)はAl2O3・2SiO2・4H2O、アロフェーンはAl2O3・2SiO2・nH2Oの組成である。
【0037】
焼成カオリン族鉱物は、結晶水が飛ぶことにより、Al2O3・2SiO2の組成となり化学反応性の高い物質となる。
【0038】
本願では、カオリン族鉱物のうち特にカオリナイトに着目している。カオリナイトの埋蔵量および産出量は他のカオリン族鉱物よりも格段に多い。
【0039】
カオリナイトは長石や雲母を多く含む花崗岩や閃緑岩あるいはこれらの岩石を起源とする頁岩、粘板岩または砂岩などの堆積岩が長年の風化作用や温泉作用あるいは圧力変成作用によって生成される。カオリナイトはハロイサイトと一緒に産することがある。表層がカオリナイト、深層がハロイサイトであることがある。
【0040】
なお、本願において、原料主成分としてカオリナイトを用いる際に、他のカオリン族鉱物が混じることを除外するものではない。主成分とは原材料のうち5割以上であることを言う。
【0041】
また、原料主成分としてカオリナイトが含まれているかは、原料の一部を取り出し、粉末X線回析分析により確認する。これは、他の粘土鉱物の確認と同様である。
【0042】
~石炭ぼた~
ぼた山とは石炭の採掘に伴い発生する捨石(ぼた)の集積場である。ぼたはずりということもある。ぼたは石炭としての商品価値はないが、揮発性炭質物を含む。炭質物は数~数十μm程度である。
【0043】
そのため、ぼた山から自然発火し、防災上問題となることもある。
【0044】
本願発明者は、石炭ぼたにカオリナイトやハロイサイト等のカオリン族鉱物が含まれることに気が付いた。したがって、石炭ぼた由来のカオリナイト原料には炭質物が含まれる。具体的には、カオリナイトを主成分とする石炭ぼたは、数~数十μmのカオリナイト結晶と、カオリナイト結晶間または結晶のひび割れに浸み込んだ状態の炭質物との集合体である。炭質物は、固相、液相、気相状のものがある。図1に炭質物を含むカオリナイト結晶のイメージを示す。
【0045】
ところで、高品質のカオリン族鉱物は陶磁器用として高額で取引される。これに対し、石炭ぼた由来の原料を用いることで、原価コストを大きく低減できる。
【0046】
なお、石炭ぼた同等に炭質物が含まれるのであれば、たとえば、中生代や古生代の炭質物を含む頁岩や粘板岩を用いてもよい。
【0047】
また、炭質物は通常カオリナイトに対し3~13重量%含まれていることが多く、5~10重量%含まれていることが好ましい。これは、カオリナイト1Kgに対し炭質物の燃焼熱量数百~1000Kcalに相当する。700~1000Kcalであると、より好ましくは、所定の炭質物が含まれているかは、目視により確認(炭質物により黒くなっている)するとともに、原料の一部を取り出し、燃焼試験により発熱量を計測する。
【0048】
~従来焼成条件~
本願発明者は、焼成温度600~900℃、焼成時間180分以下、より好ましくは、焼成温度750℃以上850℃以下、焼成時間60分以上120分以下を焼成カオリン族鉱物の焼成条件とした。
【0049】
さらに、最適な焼成温度と焼成時間との組み合わせを検討し、アレニウス則を参考に、最適条件を近似式として求めた。
t=exp(1.41*(104/T)-9.34) (中央値)
t:焼成時間(分),T:焼成温度(絶対温度K)
t=exp(3.08*(104/T)-22.64) (上限式:上側ライン)
t=exp(0.81*(104/T)-4.45) (下限式:下側ライン)
従来の焼成条件を比較例として図3に示す。
【0050】
~本願発明に至る経緯~
本願発明者は、さらに、実証試験を繰り返し、下記の知見を得た。
【0051】
炭質物を多く含む原料を加熱すると、300℃強の温度で炭質物が着火し、原料内部が昇温するので、相対的に外部からの加熱を低温とすることができることに気が付いた。
【0052】
また、原料を粉砕し、粒度(粉度)の管理をすることにより、均一性が向上することに気が付いた。その結果、燃焼熱は発散し、原料中に籠ることがなく、従来に比べて低温加熱により脱水構造崩壊が容易となり、化学的に活性化しやすくなる。また、原料を粉砕し、粒度(粉度)の管理をすることにより、炭質物も均質に含まれることに気が付いた。
【0053】
また、原料を粉砕し、粒度(粉度)の管理をすることにより、か焼温度管理及びか焼温度管理が容易となり、その結果、品質管理が容易となることを見出いした。
【0054】
以上3つの知見を組み合わせて、本願膨張抑制材を発明するに至った。
【0055】
~か焼前~
カオリナイトと炭質物を含む原料を用いる。石炭ぼた由来の原料を用いても良い。原料を粉砕して最大径600μm以下の粉とする。なお、最大径600μmとはそれよりも細かい粉を含む。最大径300μm以下の粉とすると好ましい。なお、最大径300μmとはそれよりも細かい粉を含む。最大径150μm以下の粉とするとさらに好ましい。なお、最大径150μmとはそれよりも細かい粉を含む。
【0056】
粉砕した粉を水を加えて混練し、数~10mmの径の粒(球形や短柱状)に造粒する。造粒成形には皿型造粒機や押し出し造粒成形機を用いてもよい。
【0057】
なお、粉状のままでもよいが、ロータリーキルンによりか焼する際、加熱バーナーの熱風により吹き飛んでしまうおそれがあるため、造粒することが好ましい。
【0058】
~か焼条件~
か焼(calcination)とは、鉱石などの固体を加熱して熱分解や相転移を起こしたり、揮発成分を除去したりする熱処理プロセスであり、通常その物質の融点より低い温度で行うことを言う。本願では、従来の焼成条件に比べて低温であることをか焼という。なお、か焼の「か」は火偏に「暇」の旁を組み合わせた漢字である。
【0059】
本願では、炭質物の着火、原料粉砕の相互作用により、従来焼成条件に比べて低温・短時間にできる。
【0060】
以下、原料を粉砕して最大径ごとに、化学反応性の高いか焼カオリナイトが得られるか焼条件を検討した。化学反応性については、ナトリウム水溶液と反応させて生成する人工A型ゼオライトの生成率により判定した。検討結果を図2に示す。
【0061】
~考察~
図2において、点線内は、反応性の高いか焼カオリナイトが得られる条件である。原料を粉砕して最大径1.2mm以下の粉とすると、未焼成(未か焼)のカオリナイトが残る。特に、か焼温度が低い場合は未焼成のカオリナイトが残る。一方で、最大径600μm以下、最大径300μm以下、最大径300μm以下の場合、か焼温度が高くなり、か焼時間が長いと、ムライトやシリマナイトなどが発生する。これらは、化学的活性を低くする。
【0062】
図2におけるか焼条件より最大径ごとの近似式をもとめた。当該近似式は、上限ラインと下限ラインの中間値であり、実際には幅を有する。
【0063】
本願か焼条件を図3に示す。従来焼成条件を比較例として図3にも示す。図3に示すように、本願か焼条件は従来焼成条件に比べて低温・短時間となっている。
【0064】
さらに、最大径600μm以下の場合と、最大径300μm以下の場合、ならびに、最大径300μm以下の場合を比較すると、粒度が細かくなるほど、傾きが急になる傾向がみられる。これは、か焼時間を一定範囲にコントロールすれば、温度管理が多少バラついても、高品質を維持できることを示唆する。言い換えると、か焼温度管理及びか焼温度管理が容易であり、その結果、品質管理が容易となる。
【0065】
~昇温速度制御~
本願原料には炭質物が含まれている。炭質物は300℃強で着火する。
【0066】
室温から所定温度(か焼温度)まで一定速度で昇温させる。100~200℃付近にてカオリナイトの層間水が脱水する。300℃強付近から炭質物が着火燃焼を始める。やや遅れて、カオリナイトのOH基の脱水が起こる。
【0067】
なお、室温からか焼温度までの平均昇温速度は10~20℃/分とする。その後、か焼温度を所定時間(か焼時間)維持する。これにより、炭質物は完全燃焼し、カオリナイトは完全脱水し、化学的活性化を促す。その後、自然冷却する。
【0068】
図4は造粒粒(造粒物)のイメージ図である。上段は造粒した粒である。中段は粒の拡大図である。粒は大小の粉と空隙からなる。下段は粉の拡大図である。炭質物は、カオリナイト結晶間またはカオリナイト結晶のひび割れに浸み込んで存在する。以上のように粉砕粉による造粒粒は内部まで略均等に炭質物を含む。
【0069】
昇温過程において炭質物は原料の粉体化に伴い低温から着火燃焼する。燃焼した箇所には空隙が形成されると思われる。これによりか焼温度が比較的低温でも粒内部まで熱が伝導しやすくなり、炭質物の燃焼はさらに促進される。また、空隙があることにより、カオリナイトの脱水も容易になるものと推測される。
【0070】
~化学反応性~
か焼カオリナイトの化学的活性度(反応性)を調べる方法として、ナトリウム水溶液と反応させて生成する人工A型ゼオライトの生成量から推定する方法について説明した。A型ゼオライトの合成は、か焼カオリナイトを水酸化ナトリウム水溶液と共に封管中に封入して温度100℃で12~24時間攪拌しながら加熱、冷却、濾過、水洗、乾燥した産物について粉末X線回折分析を行なう。
【0071】
A型ゼオライトの生成率は、化学試薬を用いて合成する純度が高いA型ゼオライトのX線回折強度と被試験試料のA型ゼオライトのX線回折強度とを比較することによって知ることができる。
【0072】
また、か焼カオリナイトの活性度は、ガス吸着試験を行った試験値と試薬を使って合成した純度の高いA型ゼオライトのガス吸着試験の参考値と比較すれば調べることができる。
【0073】
他に、か焼カオリナイトの化学的活性度(反応性)を調べる方法として、粉末X線回析法によってか焼生成物を調べる方法がある。粉末X線回析試験により、カオリナイトの結晶が崩れて非晶質に近い状態になっているかをX線回折図から読み取り、同時に加熱変化しないカオリナイトが残っているか否か、また、高温生成鉱物のシリマナイトやムライトの生成の有無を調べて、良否を判定する。
【0074】
~使用方法~
粒状のか焼カオリナイトを膨張抑制材として用いる。さらに、粉状とすると、反応性と速効性が増す。
【0075】
本願膨張抑制材をコンクリートの混練時に混和する。か焼カオリナイトは分散性が高く、均一に分散する。本願膨張抑制材は、セメント重量に対し数~10%、実用的には2~5%混和される。
【0076】
膨張抑制材混和後は、通常コンクリート同様に打設すればよい。本願膨張抑制材は、生コンクリートの流動性等その他の特性に影響を与えないため、実用的である。
【0077】
~効果実証試験~
本願膨張抑制材のアルカリ骨材反応抑制効果の実証試験および参考試験を行なった。実証試験はJIS A 5308 附属8 骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)に基づく。アルカリ骨材反応を抑制し、コンクリートの膨張を抑制できるということは、セメントの水和反応が正常化していることを示唆する。
【0078】
か焼カオリナイトおよび骨材産地の異なる実証試験1~2をおこなった。まず共通の条件について説明する。
【0079】
コンクリートの骨材となる岩石、砂利、砂は、表1の粒度分布となる様に粉砕する。骨材産地については実証試験1~3ごとに説明する。セメントは、JIS A 5210に規定される普通ポルトランドセメントを用いる。セメントのアルカリ量は事前に求めておき、NaOHを加えてセメントのアルカリ量がR2Oで1.2±0.05%となるように調整する。
【表1】

【0080】
表2に示す配合の供試体を3本作製する。成形は、4cm×4cm×16cmの型枠を用い、型枠ごとに湿空箱に入れ24±2時間後脱型し、密封容器中で、温度40±2℃、相対湿度95%以上で貯蔵する。
【表2】
【0081】
膨張抑制材については実証試験1~2および参考試験ごとに説明する。膨張抑制材混和の有無に対し膨張率を比較する。
【0082】
供試体の長さ測定は、脱型時、4週間、8週間、3ヶ月、6ヶ月で行なう。供試体3本の平均膨張率が、6ヶ月後に0.100%未満の場合は無害(ひび割れに至る膨張はない)と判定する。一方、6ヶ月後に0.100%以上の場合は無害ではない(ひび割れに至る膨張)と判定する。
【0083】
・実証試験1(低膨張骨材を用いる場合)
コンクリート骨材として東京都下産の砂岩を用いる。東京都下産の砂岩は、石英、長石、黒雲母などの鉱物破片と、頁岩、安山岩などの岩石砂粒ならびに微細な結晶である緑泥石、絹雲母、褐鉄鉱などの膠結物からなる。圧力変性作用によって二次生成された隠微晶質石英を含むこともある。
【0084】
か焼カオリナイトの原料として、中国産の炭質物を含むカオリナイト質頁岩、すなわち石炭ぼたを用いる。
【0085】
原料のカオリナイト岩を最大径0.6mm以下に粉砕する。さらに、原料を水とともに混練し、押し出し造粒機により、直径4mm、長さ5~6mmの短柱状に造粒し、乾燥させる。
【0086】
か焼条件は、炉内温度500℃、か焼時間90分とする。大型電気炉を用いる。冷却後、か焼カオリナイトを最大径0.15mm以下に粉砕する。か焼カオリナイト粉をセメント重量に対し2%混和する。
【0087】
実証試験1の結果を表3に示す。
【表3】
【0088】
上記結果について考察する。比較例(混和なし)における材令6ヶ月の膨張率は0.130%となり、規格値0.100%以下を満たさず、アルカリ骨材反応の膨張が発生する。すなわち、有害であると判定される。これに対し、実施例(2%混和)における材令6ヶ月の膨張率は0.085%であり規格値を満たす。無害であると判定される。
【0089】
図5は、X線回析結果による比較である。実施例(2%混和)および比較例(混和なし)試験供試体を砕いて、夫々、篩い分けと比重分離を繰り返してセメントを分離した。分離して得た試料のX線粉末回析試験を行なって、生成したセメント水和物を比較した。
【0090】
比較例(混和なし)におけるモルタルでは、カルシウムとアルミニウムの水和反応生成物ポルトランダイト[Ca(OH)2]や3CaO・Al2O3・8-12H20およびCaAl(OH) 7・3H20のX線回析線は実施例(2%混和)と比べて大きい。
【0091】
一方で、実施例(2%混和)におけるモルタルでは、カルシウムとアルミニウムの水和反応生成物ポルトランダイトCa(OH)2やエトリンガイト3CaO・Al2O3・8-12H20およびカルシウム・アルミネート・ハイドレートCa2Al(OH)7・3H20のX線粉末回析線が小さく、生成量が少ないことから、混和材の効果が確認できる。なお、図示、X線粉末回析線図中に現れた緑泥石・石英・長石の回析線は骨材の構成鉱物そのものである。
【0092】
・実証試験2(高膨張骨材を用いる場合)
コンクリート骨材として新潟県産砂利を用いる。表4に、新潟県産の砂利を構成する岩石の構成比率を示す。
【表4】
【0093】
か焼カオリナイトの原料は、長崎県産の石炭層の挟みであるカオリナイト質頁岩であり、カオリナイトを主成分とし、若干の炭質物を含む。
【0094】
原料の粘土を最大径0.15mm以下に粉砕する。さらに、粉砕原料に水を加えながら、皿型造粒機により、直径5-10mmの球体に成形し、乾燥させる。
【0095】
か焼条件は、炉内温度650℃、か焼時間60分とする。ロータリーキルンを用いる。冷却後、か焼カオリナイトを最大径45μm以下に粉砕する。か焼カオリナイト粉をセメント重量に対し4%混和する。
【0096】
実証試験2の結果を表5に示す。
【表5】

【0097】
上記結果について考察する。比較例(混和なし)における材令6ヶ月の膨張率は0.305%となり、規格値0.100%以下を満たさず、アルカリ骨材反応の膨張が発生すると判定する。すなわち、有害であると判定される。これに対し、実施例(4%混和)における材令6ヶ月の膨張率は0.089%であり規格値を満たす。無害であると判定される。
【0098】
このようにアルカリ反応性が高い骨材であっても、本願発明のか焼カオリナイト混和剤を混和することにより、コンクリートの膨張抑制が可能となる。
【0099】
・参考試験
コンクリート骨材として東京都下産の砂岩を用いる(実証試験1参照)。
【0100】
膨張抑制材として焼成カオリナイトを用いる。ただし、原料に炭質物を含まない。また、原料粉砕もしていない。
【0101】
従来の焼成条件、焼成温度750℃ 、焼成時間120分で焼成し、最大径0.15mm以下に粉砕する。焼成カオリナイト粉をセメント重量に対し5%混和する。
【0102】
参考試験の結果を表6に示す。
【表6】
【0103】
上記結果について考察する。比較例(混和なし)における材令6ヶ月の膨張率は0.120%となり、規格値0.100%以下を満たさず、アルカリ骨材反応の膨張が発生する。すなわち、有害であると判定される。これに対し、参考例(5%混和)における材令6ヶ月の膨張率は0.051%であり規格値を満たす。無害であると判定される。
【0104】
~効果まとめ~
本願方法により製造される膨張抑制材は、従来同様に、アルカリ骨材反応を抑制し、コンクリートの膨張を抑制できる。
【0105】
本願か焼条件は従来焼成条件に比べて低温・短時間である。また、時間管理および温度管理が容易である。その結果、品質管理が容易になる。また、低温か焼であるため製造時の消費エネルギーが少ない。短時間であることにより生産効率に優れている。これらにより製造コストを軽減でき経済的である。
【0106】
さらに、原料として石炭ぼたを用いることにより、原価コストを大きく低減できるとともに、石炭ぼたを処分することができる。
【0107】
~その他~
本実施形態では膨張ひび割れ抑制効果について説明したが、ポップアウト及び鉄錆汁発生抑制及び強度向上に係る効果もある。適用範囲はこれに限定されず、最近注目されてきた100N/mm2前後の高強度コンクリートやそれ以上の強度の超高強度コンクリートの強度向上混和材として期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5