IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人海上技術安全研究所の特許一覧 ▶ 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構の特許一覧

<>
  • 特許-海運市況予測運用システム 図1
  • 特許-海運市況予測運用システム 図2
  • 特許-海運市況予測運用システム 図3
  • 特許-海運市況予測運用システム 図4
  • 特許-海運市況予測運用システム 図5
  • 特許-海運市況予測運用システム 図6
  • 特許-海運市況予測運用システム 図7
  • 特許-海運市況予測運用システム 図8
  • 特許-海運市況予測運用システム 図9
  • 特許-海運市況予測運用システム 図10
  • 特許-海運市況予測運用システム 図11
  • 特許-海運市況予測運用システム 図12
  • 特許-海運市況予測運用システム 図13
  • 特許-海運市況予測運用システム 図14
  • 特許-海運市況予測運用システム 図15
  • 特許-海運市況予測運用システム 図16
  • 特許-海運市況予測運用システム 図17
  • 特許-海運市況予測運用システム 図18
  • 特許-海運市況予測運用システム 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】海運市況予測運用システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/04 20120101AFI20220920BHJP
   G06Q 50/30 20120101ALI20220920BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q50/30
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018067719
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019179355
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 祐次郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 収司
(72)【発明者】
【氏名】石澤 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一郎
【審査官】加舎 理紅子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-062231(JP,A)
【文献】特開2015-135545(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1722611(KR,B1)
【文献】滕 玲,数値情報とテキスト情報によるバルチック海運指数の予測,第79回(平成29年)全国大会講演論文集(2) 人工知能と認知科学,一般社団法人情報処理学会,2017年03月24日,pp.2-341~2-342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の海運市況を予測して提供する海運市況予測運用システムであって、
過去の前記船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ、及び前記船舶で使用される燃料の燃料価格データに基づいて、前記海運市況データを教師データとした機械学習により構築された予測モデルに、入力された現時点以前の前記船舶データ、前記海運市況データ、及び前記燃料価格データを適用し、指定された将来の指定日及び/又は指定期間の海運市況を予測して海運市況予測結果を出力する予測分析手段と、
前記海運市況予測結果を記憶する記憶手段を有する海運市況予測サーバと、
通信回線及び/又はネットワークを介して、前記海運市況予測結果の閲覧を可能とするデータ提供手段とを備えることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項2】
請求項1に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段は、前記海運市況データとして前記船舶の積載対象となる貨物の市況価格データに基づいて前記機械学習を行って前記予測モデルを構築し、入力された前記貨物の市況価格データを前記予測モデルに適用して前記海運市況を予測することを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項3】
請求項1に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段は、前記海運市況データとして前記船舶の積載対象となる貨物に関連した業種の株価指数データに基づいて前記機械学習を行って前記予測モデルを構築し、入力された前記株価指数データを前記予測モデルに適用して前記海運市況を予測することを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段は、前記海運市況予測結果を閲覧するユーザから取得した情報に基づいて、前記予測分析手段において前記海運市況予測結果を予測するための前記予測モデルを変更することを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記船舶データは、自動船舶識別装置(AIS)から取得したデータと個船データとを含むことを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記海運市況データは、バルチック海運指数及び/又は前記バルチック海運指数の算出ベースである船種別データであることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段の開発事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段で使用するデータの提供事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項9】
請求項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記データ提供事業者は、前記船舶データの提供事業者であることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項10】
請求項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記データ提供事業者は、前記海運市況データの提供事業者であることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項11】
請求項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記データ提供事業者は、前記燃料価格データの提供事業者であることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項12】
請求項2に従属する請求項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記データ提供事業者は、前記貨物の市況価格データ提供事業者であることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項13】
請求項3に従属する請求項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記データ提供事業者は、前記株価指数データ提供事業者であることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項14】
請求項13のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記データ提供事業者以外の事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項15】
請求項13のいずれか1項に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段は、前記予測モデルの構築手法を前記予測分析手段の開発事業者が開発し、前記予測モデルを前記データ提供事業者が構築したものであることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【請求項16】
請求項14に記載の海運市況予測運用システムであって、
前記予測分析手段は、前記予測モデルの構築手法を前記予測分析手段の開発事業者が開発し、前記予測モデルを前記データ提供事業者以外の事業者が構築したものであることを特徴とする海運市況予測運用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海運市況予測運用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
海運業界における海上運賃は、世界的な経済の動きや船舶の建造数等に大きく影響を受ける。このように海運業界は変動が激しいため、継続的に利益を獲得するためには、海運市況を予測し、その予測結果を基に経営判断を行うことが船社にとって重要となる。
【0003】
このような特徴を踏まえ、これまでにも海運市況の予測に関する研究が行われている。例えば、時系列解析の手法を用いてドライバルク市場における海運市況を予測する手法が提案されている(非特許文献1)。また、近年では、機械学習の手法を用いた海運市況の予測手法も提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】V., Tsioumas, et al.:A Novel Approach to Forecasting the Bulk Freight Market. The Asian Journal of Shipping and Logistics, Vol.33, Issue 1, 2017, pp.33-41.
【文献】Han, Q., et al. : Forecasting dry bulk freight index with improved SVM., Mathematical Problems in Engineering , 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、船舶動静情報と機械学習を組み合わせて海運市況を予測する研究は実施されておらず、海運市況を高い精度で予測する技術は確立されておらず、海運市況の予測値を提供するサービスも存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る船舶の海運市況を予測して提供する海運市況予測運用システムは、過去の前記船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ、及び前記船舶で使用される燃料の燃料価格データに基づいて、前記海運市況データを教師データとした機械学習により構築された予測モデルに、入力された現時点以前の前記船舶データ、前記海運市況データ、及び前記燃料価格データを適用し、指定された将来の指定日及び/又は指定期間の海運市況を予測して海運市況予測結果を出力する予測分析手段と、前記海運市況予測結果を記憶する記憶手段を有する海運市況予測サーバと、通信回線及び/又はネットワークを介して、前記海運市況予測結果の閲覧を可能とするデータ提供手段とを備えることを特徴とする海運市況予測運用システムである。
【0007】
ここで、前記予測分析手段は、前記海運市況データとして前記船舶の積載対象となる貨物の市況価格データに基づいて前記機械学習を行って前記予測モデルを構築し、入力された前記貨物の市況価格データを前記予測モデルに適用して前記海運市況を予測することが好適である。
【0008】
また、前記予測分析手段は、前記海運市況データとして前記船舶の積載対象となる貨物に関連した業種の株価指数データに基づいて前記機械学習を行って前記予測モデルを構築し、入力された前記株価指数データを前記予測モデルに適用して前記海運市況を予測することが好適である。
【0010】
また、前記予測分析手段は、前記海運市況予測結果を閲覧するユーザから取得した情報に基づいて、前記予測分析手段において前記海運市況予測結果を予測するための前記予測モデルを変更することが好適である。
【0011】
また、前記船舶データは、自動船舶識別装置(AIS)から取得したデータと個船データとを含むことが好適である。
【0012】
また、前記海運市況データは、バルチック海運指数及び/又は前記バルチック海運指数の算出ベースである船種別データであることが好適である。
【0013】
また、前記海運市況予測結果は、将来の指定日及び/又は指定期間の予測結果であることが好適である。
【0014】
また、前記予測分析手段の開発事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることが好適である。
【0015】
また、前記予測分析手段で使用するデータの提供事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることが好適である。
【0016】
また、前記データ提供事業者は、前記船舶データの提供事業者であることが好適である。
【0017】
また、前記データ提供事業者は、前記海運市況データの提供事業者であることが好適である。また、前記データ提供事業者は、前記燃料価格データの提供事業者であることが好適である。また、前記データ提供事業者は、前記貨物の市況価格データ提供事業者であることが好適である。また、前記データ提供事業者は、前記株価指数データ提供事業者であることが好適である。
【0018】
また、前記データ提供事業者以外の事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることが好適である。
【0019】
また、前記予測分析手段は、前記予測モデルの構築手法を前記予測分析手段の開発事業者が開発し、前記予測モデルを前記データ提供事業者が構築したものであることが好適である。また、前記予測分析手段は、前記予測モデルの構築手法を前記予測分析手段の開発事業者が開発し、前記予測モデルを前記データ提供事業者以外の事業者が構築したものであることが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の請求項1に係る船舶の海運市況を予測して提供する海運市況予測運用システムによれば、過去の前記船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ、及び前記船舶で使用される燃料の燃料価格データに基づいて、前記海運市況データを教師データとした機械学習により構築された予測モデルに、入力された現時点以前の前記船舶データ、前記海運市況データ、及び前記燃料価格データを適用し、指定された将来の指定日及び/又は指定期間の海運市況を予測して海運市況予測結果を出力する予測分析手段と、前記海運市況予測結果を記憶する記憶手段を有する海運市況予測サーバと、通信回線及び/又はネットワークを介して、前記海運市況予測結果の閲覧を可能とするデータ提供手段とを備えることによって、高い精度で予測された海運市況の指標をユーザに提供することができる。
【0021】
また、前記予測分析手段は、前記予測分析手段は、前記海運市況データとして前記船舶の積載対象となる貨物の市況価格データに基づいて前記機械学習を行って前記予測モデルを構築し、入力された前記貨物の市況価格データを前記予測モデルに適用して前記海運市況を予測することによって、海運市況をより高い精度で予測することができる。
【0022】
また、前記予測分析手段は、前記海運市況データとして前記船舶の積載対象となる貨物に関連した業種の株価指数データに基づいて前記機械学習を行って前記予測モデルを構築し、入力された前記株価指数データを前記予測モデルに適用して前記海運市況を予測することによって、海運市況をより高い精度で予測することができる。
【0024】
また、前記予測分析手段は、前記海運市況予測結果を閲覧するユーザから取得した情報に基づいて、前記予測分析手段において前記海運市況予測結果を予測するための前記予測モデルを変更することによって、ユーザの要求に応じた予測モデルの構築が可能となり、海運市況をより高い精度で予測することができる。
【0025】
また、前記船舶データは、自動船舶識別装置(AIS)から取得したデータと個船データとを含むことによって、海運市況をより高い精度で予測することができる。
【0026】
また、前記海運市況データは、バルチック海運指数及び/又は前記バルチック海運指数の算出ベースである船種別データであることによって、バルチック海運指数及び/又は前記バルチック海運指数の算出ベースである船種別データを高い精度で予測することができる。
【0027】
また、前記海運市況予測結果は、将来の指定日及び/又は指定期間の予測結果であることによって、将来の指定日及び/又は指定期間の海運市況を高い精度で予測することができる。
【0028】
また、前記予測分析手段の開発事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることにより、前記予測分析手段の開発事業者から前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。
【0029】
また、前記予測分析手段で使用するデータの提供事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることにより、前記予測分析手段で使用するデータの提供事業者から前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。
【0030】
また、前記データ提供事業者は、前記船舶データの提供事業者であることによって、前記船舶データの提供事業者から前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。
【0031】
また、前記データ提供事業者は、前記海運市況データの提供事業者であること、又は、前記データ提供事業者は、前記燃料価格データの提供事業者であること、又は、前記データ提供事業者は、前記貨物の市況価格データ提供事業者であること、又は、前記データ提供事業者は、前記株価指数データ提供事業者であることによって、それぞれのデータ提供事業者から前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。
【0032】
また、前記データ提供事業者以外の事業者が保有する前記予測分析手段及び前記データ提供手段によって前記海運市況予測結果の閲覧が提供されることにより、前記データ提供事業者以外の事業者から前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。
【0033】
また、前記予測分析手段は、前記予測モデルの構築手法を前記予測分析手段の開発事業者が開発し、前記予測モデルを前記データ提供事業者が構築したものであることによって、前記データ提供事業者自身が構築した予想モデルによって予想された前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。また、前記予測分析手段は、前記予測モデルの構築手法を前記予測分析手段の開発事業者が開発し、前記予測モデルを前記データ提供事業者以外の事業者が構築したものであることによって、前記データ提供事業者自身以外が構築した予想モデルによって予想された前記海運市況予測結果を閲覧させるサービスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施の形態における海運市況予測の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムの構成を示す機能ブロック図である。
図3】本発明の実施の形態における海運市況予測サーバ及びデータ提供手段の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における海運市況予測方法を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態における船舶が航行している海域の条件例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態におけるデータの選定処理を説明するための図である。
図7】本発明の実施の形態におけるディープニューラルネットワーク(DNN)のモデル例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるディープニューラルネットワーク(DNN)のモデル例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態における海運市況の指標の予想結果を説明するための図である。
図10】本発明の実施の形態における予測モデル構築の条件例を示す図である。
図11】本発明の実施の形態における時系列的な予測結果例を示す図である。
図12】本発明の実施の形態における予測結果についての実績値と予測値との間の相関関係及び方向一致率を示す図である。
図13】本発明の実施の形態における予測に対する入力データの影響を検討するための図である。
図14】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムの構成を示す図である。
図15】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムの構成を示す図である。
図16】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムの構成を示す図である。
図17】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムにおけるデータ取得方法を示すフローチャートである。
図18】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムにおけるデータ取得方法を示すフローチャートである。
図19】本発明の実施の形態における海運市況予測運用システムにおける海運市況の予測に対する設定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施の形態における海運市況予測システム100は、図1に示すように、海運市況予測サーバ102、データ提供手段104及びクライアントコンピュータ106を含んで構成される。
【0036】
海運市況予測サーバ102とクライアントコンピュータ106は、データ提供手段104及びネットワーク108を介して情報交換可能に接続される。ネットワーク108は、有線であっても、無線であってもよく、例えば、インターネット等の公共回線とされる。
【0037】
海運市況予測サーバ102は、図2に示すように、データ取得手段10、クレンジング手段12、データ補完手段14、データ抽出手段16、データ平準化手段18、データ選定手段20、予測分析手段22、時系列処理手段24及び表示手段26を含んで構成される。
【0038】
海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104は、図3に示すように、処理部30、記憶部32、入力部34、出力部36及び通信部38を含んで構成されるコンピュータによって実現することができる。
【0039】
処理部30は、CPU等を含んで構成され、海運市況予測システム100における処理を統合的に行う。処理部30は、記憶部32に記憶されている海運市況予測プログラムを実行することにより、本実施の形態における海運市況予測方法を実現することを可能にする。すなわち、コンピュータをデータ取得手段10、クレンジング手段12、データ補完手段14、データ抽出手段16、データ平準化手段18、データ選定手段20、予測分析手段22、時系列処理手段24及び表示手段26として機能させる。記憶部32は、海運市況予測システム100における海運市況予測処理において用いられる海運市況予測プログラムや学習に用いられるデータ等の情報を記憶する。記憶部32は、例えば、半導体メモリ、ハードディスク等で構成することができる。入力部34は、海運市況予測システム100に対して情報を入力するための手段を含む。入力部34は、例えば、キーボードやマウス等を含んで構成される。出力部36は、海運市況予測システム100で処理された情報を表示させる手段を含む。出力部36は、例えば、ディスプレイとすることができる。通信部38は、外部の装置との情報交換を行うためのインターフェースを含んで構成される。通信部38は、例えば、インターネット等の情報通信網や専用回線に接続されることによって外部の装置との通信を可能にする。
【0040】
以下、図4のフローチャートに沿って、海運市況予測システム100における海運市況予測方法について説明を行う。本実施の形態の海運市況予測システム100は、船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ及び船舶で使用される燃料の燃料価格データを用いて、船舶が関係する海運市況を示す指標を予測する処理を行う。
【0041】
ステップS10では、データの取得処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100はデータ取得手段10として機能する。処理部30は、海運市況予測処理において使用されるデータを取得する。データは、入力部34を介してユーザによって入力されてもよいし、通信部38を介して外部装置等からネットワーク108から取得してもよい。
【0042】
海運市況予測システム100において海運市況に関する指標の予測モデルを構築するためのデータは、船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ、船舶で使用される燃料の燃料価格データを含む。データは、時間的な変化を示す時系列データとする。
【0043】
船舶の動きに関する情報を含む船舶データは、自動船舶識別装置(AIS)情報から取得することができる。AISは、放送型自動従属監視(ADS-B)の一種であり、船舶航行の安全性向上を目的として自船の船名及び船舶位置等の航海情報を無線によって定期的に送信し、また他船から船名及び船舶位置等の航海情報を無線によって受信できるようにしたものである。AIS情報には、静的情報、動的情報、航海関連情報、航海安全関連情報が含まれる。静的情報には、船名及びコールサイン等の船舶を識別するために必要な情報が含まれる。動的情報には、刻々と変化する船舶の航海状況に関する情報(現在位置、航海速力、針路等の情報)が含まれる。具体的には、AIS情報は、船名、MMSI番号、IMO番号、船舶の種類、船体長・船幅、GNSSのアンテナ位置等の静的情報、船舶の位置、UTC、対地針路(COG)、対地船速(SOG)、船首方向、回頭角速度、航海の状態(航海中、アンカリング中、接岸中等)の動的情報、喫水、積載物、目的地、到着予定時刻等の航海関連情報等を含む。AIS情報は、時系列データとして取得することができる。AIS情報の送信間隔は、船舶の速力によって変動するが、最大3分間隔以内最小2秒間隔以上の時間間隔で取得される。
【0044】
本実施の形態における船舶データは、静的情報、動的情報から選択された情報又はそれらの情報に基づいて得られる情報を含むようにすればよい。例えば、船舶データとして、時刻毎の船舶の対地針路(COG)及び船舶の対地速度(SOG)を用いることが好適である。
【0045】
また、データ取得処理では、個船データが取得される。個船データは、船舶名、船舶のID、船舶の積貨重量トン(DWT)を含むことが好適である。個船データは、Astra-paging個船データから取得することができる。個船データに基づいて、上記船舶データに含まれる船名に対応する船舶の積貨重量トン(DWT)を求めることができる。
【0046】
また、データ取得処理では、海運市況データが取得される。海運市況データは、海運における船舶の運賃等の海運市況に関する情報である。海運市況データは、海運市況予測システム100において海運市況を示す指標の将来的な値を予想するために機械学習のための教師データとして使用される。
【0047】
海運市況データは、例えば、ロンドンのバルチック海運取引所が発表する外航不定期船の運賃指数であるバルチック海運指数が上げられる。バルチック海運指数は、取引所が開かれている日毎に提供される。また、バルチック海運指数は、総合型(BDI)、ケープ型(BCI)、パナマックス型(BPI)、スープラマックス型(BSI)、ハンディサイズ型(BHSI)等の算出ベースである船種別データに細分される。したがって、海運市況データとしてバルチック海運指数を用いる場合には、これらの細分化された指数のいずれかを選択すればよい。
【0048】
なお、海運市況データは、バルチック海運指数に限定されるものではなく、タンカー運賃指数やコンテナ貨物運賃指数他、海運市況予測システム100において予測する対象となる海運市況(指標)に関連するものであれば何でもよい。
【0049】
具体例として、鉄鉱石を運搬する船舶の海運市況を示す指標を予測する場合、バルチック海運指数のケープ型(BCI)を取得する。
【0050】
また、データ取得処理では、予測する対象となる海運市況において積載対象となる貨物の価格や市場に関する情報が取得される。例えば、鉄鉱石を運搬する船舶の海運市況を示す指標を予測する場合、貨物の価格として鉄鉱石の価格を取得し、貨物の市場に関する情報として鉄鋼業に関する株価指数データを取得する。また、例えば、穀物の運搬する船舶の海運市況を示す指標を予測する場合、貨物の価格として当該穀物の価格を取得し、貨物の市場に関する情報として当該穀物に関する業界の株価指数データを取得する。これらの情報は、取引所が開かれている日毎に提供される。
【0051】
具体例として、鉄鉱石を運搬する船舶の海運市況を示す指標を予測する場合、鉄鉱石の価格として鉄鉱石細粒・62%Fe・CFR先物価格の日別データを取得し、鉄鉱石の市場に関する情報としてTokyo SE TOPIX17 Steel Stock Priceの日別データを取得する。
【0052】
また、データ取得処理では、船舶で使用される燃料の燃料価格データが取得される。船舶で使用される燃料が原油である場合、例えば、原油の価格を示すWTI価格が取得される。船舶が原油以外の燃料を使用している場合、当該燃料の価格を示す情報が取得される。これらの情報は、取引所が開かれている日毎に提供される。
【0053】
なお、予想する日(指定日)や期間のデータは、例えば、データ取得手段10に設けられたデータ入力手段10aからユーザが入力するようにすればよい。
【0054】
ステップS12では、データに対するクレンジング処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100はクレンジング手段12として機能する。処理部30は、ステップS10において取得されたデータから不要なデータを除去したり、データの密度を調整したりする等のクレンジング処理を行う。
【0055】
AIS情報では、異なる船舶が同一のMMSI番号を使っている等の影響により、データにノイズが含まれることがある。また、AIS情報では、数秒から数分間隔の時系列データとなっており、情報量が多くなり過ぎる場合がある。したがって、データの時間間隔を間引く処理を行う。具体例として、AIS情報から取得した船舶の対地針路(COG)及び船舶の対地速度(SOG)の時間間隔を10分間隔となるように、10分毎のデータ値の平均値を算出する処理を行う。また、対地速度(SOG)が30ノット以上であるデータはノイズであるとして除去する処理を行う。
【0056】
なお、データのクレンジング処理は、これらの処理に限定されるものではなく、後述する予測分析手段22において行われる予測分析処理に合わせてデータを調整する処理であればよい。
【0057】
ステップS14では、データに対する補完処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100はデータ補完手段14として機能する。処理部30は、ステップS10において取得されたデータについて、必要なデータが欠けている場合にデータを補完する処理を行う。
【0058】
例えば、個船データについては、データが欠落している場合にITU等から提供されているデータにより補完する処理を行う。また、海運市況データ、積載対象となる貨物の価格や市場に関する情報、船舶で使用される燃料の燃料価格データについて、取引所が閉場している日のデータについて補完する処理が行われる。具体例として、取引所が閉場している日のデータとして前日のデータを使用するように処理を行う。
【0059】
なお、データの補完処理は、これらの処理に限定されるものではなく、後述する予測分析手段22において行われる予測分析処理に合わせてデータを補完する処理であればよい。
【0060】
ステップS16では、データを抽出する処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100はデータ抽出手段16として機能する。処理部30は、データクレンジング処理及びデータ補完処理が施されたデータから必要なデータを抽出する処理を行う。
【0061】
抽出条件は、後述する予測分析処理において機械学習による予測モデルの構築が適切に行えるデータを抽出する条件とする。具体的には、例えば、船舶の種類、船舶が航行している海域及び期間、船舶の動きに関する条件とする。船舶の種類の条件としては、積貨重量トン(DWT)、船舶のサイズ(船長・船幅等)等に関する条件とすることができる。船舶が航行している海域の条件としては、予測する海運市況の指標に関連する海域とすることができる。船舶が航行している期間は、海運市況の指標を予測したい期間に応じた期間とすることができる。また、船舶の動きに関する条件は、船舶の対地速度(SOG)の範囲や対地針路(COG)の範囲とすることができる。
【0062】
鉄鉱石を運搬する船舶の海運市況を示す指標を予測する場合、船舶が航行している海域の条件として、図5に示すように、鉄鉱石を運搬する船舶が通過するオーストラリアの近海領域やインド南方の海域を通過している船舶のデータのみを抽出する。また、鉄鉱石を運搬する船舶として、積貨重量トン(DWT)が180,000DWT以上の船舶に関するデータのみを抽出する。また、船舶の動きに関する条件として、船舶の対地針路(COG)は、各海域において鉄鉱石を積載した船舶が向かう方向と速度の範囲を抽出条件とすることが好適である。具体的には、3ノット以上の対地速度(SOG)であり、オーストラリア近海では対地針路(COG)が80°以下かつ270°以上の船舶及びインド南方の海域では対地針路(COG)が10°以上170°以下の船舶のデータのみを抽出する。また、予想する日に合わせて、期間の条件として、例えば、2014年8月から2017年1月のデータのみを抽出する。
【0063】
また、各データの期間の単位が異なっている場合、それらの期間の単位を合わせる処理を行う。例えば、海運市況データや燃料価格データが日単位のデータである場合、それに合わせて船舶データを日単位のデータに合わせる処理を施す。具体的には、上記抽出条件に基づいて抽出された船舶データを日単位のデータとするために平均化する処理を施す。例えば、各船舶の船速を平均化させて日毎の平均船速を算出する。また、抽出条件に合致する船舶の積貨重量トン(DWT)を足し合わせて日毎の総貨物量を示す総積貨重量トン(総DWT)を算出する。
【0064】
ステップS18では、データを平準化する処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100はデータ平準化手段18として機能する。処理部30は、データの時間的な平均化処理等によってデータを平準化する処理を行う。例えば、上記処理にて得られるデータには日毎にばらつきが含まれているので、日毎に14日移動平均値を算出してデータを平準化する。
【0065】
ステップS20では、データを選定する処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100はデータ選定手段20として機能する。ステップS16で抽出され、ステップS18で平準化されたデータには、図6の破線円で示すように、データが欠落している期間が含まれている場合がある。例えば、AIS情報から取得された総積貨重量トン(総DWT)や船舶の対地速度(SOG)のデータでは、衛星が停止している期間のデータが欠落していることがある。そこで、それらの期間の他のデータを除去する処理が行われる。図6の例では、期間P1及び期間P2のデータのみを残し、他の期間のデータを除去する処理が行われる。
【0066】
なお、ステップS16におけるデータの補完処理、ステップS18におけるデータの平準化処理及びステップS20におけるデータの選定処理は、必要に応じて行えばよく、必須の処理ではない。
【0067】
ステップS22では、船舶が関係する海運市況を示す指標を予測する予測分析処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100は予測分析手段22として機能する。処理部30は、ステップS20までで準備したデータを用いて機械学習により船舶が関係する海運市況を示す指標を予測する予測モデルを構築する。
【0068】
機械学習としては、ディープラーニング(DL)を適用することができる。ディープラーニング(DL)には、例えば、ディープニューラルネットワーク(DNN)、リカレントニューラルネットワーク(RNN),サポートベクターマシーン(SVM),XG-Boost等の手法が挙げられる。本実施の形態では、適用するモデルは特に限定されるものではなく、予測する海運市況の指標や入力データ(特徴ベクトル)に応じて適宜選択すればよい。
【0069】
具体例として、ディープニューラルネットワーク(DNN)を用いて、将来のバルチック海運指数のケープ型(BCI)を予想するモデルを構築した。図7に示すように、ニューラルネットワークを単純に多層化したディープニューラルネットワーク(DNN)を用いた。入力層及び出力層の活性化関数はLinearとし、中間層の活性化関数にはReLUを適用した。また、学習時には、すべての中間層に対してドロップアウト(Dropout)を組み込んだ。ドロップアウト率(Dropout率)は0.2とした。また、全層においてバッチ正規化(Batch Normalization)を組み込んだ。また、学習率等に関しては、参考文献(Kingma, D., & Ba, J. :Adam: A method for stochastic optimization, 2014, arXiv preprint arXiv:1412.6980.)の値を用いた。
【0070】
予測モデルにおける入力データの関係を数式(1)~数式(3)に示す。
【数1】
【数2】
【数3】
ここで、ΔBCI:BCIの増減分(index),f:BCIの増減予測モデル,D:入力データの集合(詳細はTable 1を参照),ΔD:入力データの差分値,S:統計データの集合,Io:取得した衛星AISデータ(インド洋),Au:取得した衛星AISデータ(オーストラリア),t:現在の日(day),pt:pt日先の日(day)(本具体例では、3日,7日,14日,30日)
【0071】
具体的な入力データは、図8に示すデータ群(特徴ベクトル)とした。すなわち、入力データDは、日毎に図8に示したデータの組み合わせたデータ群(特徴ベクトル)とした。入力データとして現時点(t)から過去60日(t-60)のデータを用いた。さらに、前日からの差分値ΔD(前日の値と比べ,現時点の値がどの程度増減したか)も入力データに加えた。差分値は、データの種類毎の差分値とした。
【0072】
ただし、入力データは、図8に示したデータ群(特徴ベクトル)に限定されるものではなく、船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ及び船舶で使用される燃料の燃料価格データを含むものであればよい。さらに、入力データは、予測対象とする海運市況における運搬物(例えば、鉄鉱石等)の価格の情報や予想対象となる海運市況に関連する市場の情報を含むようにしてもよい。
【0073】
出力データは、図9に示すように、3日先、1週間先、2週間先、1ヶ月先の将来のバルチック海運指数のケープ型(BCI)の増減分とした。予想する日の設定・変更は、予測分析手段22に設けた可変部22aによって行った。
【0074】
具体的には、図10に示す条件下において、ディープニューラルネットワーク(DNN)において教師付データを適用して機械学習を行わせた。ただし、入力層、中間層及び出力層の活性化関数や学習の条件は、上記例に限定されるものではなく、適宜最適化することが好適である。
【0075】
ステップS24では、出力データに対して時系列処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100は時系列処理手段24として機能する。上記予測モデルを用いて、予想日を変更しつつ海運市況の指標を予測分析することで、海運市況の指標の予測値の時系列データを生成する。
【0076】
具体例では、予想日を変更しつつ、図11に示すように、3日先、1週間先、2週間先、1ヶ月先の予測値を求め、時系列データを求めた。図11において、実線は入力データ(特徴ベクトル)にAIS情報から得られた船舶の動きに関する船舶データを含めて機械学習により予測モデルを構築した場合(Case1)の結果、破線は入力データ(特徴ベクトル)にAIS情報から得られた船舶の動きに関する船舶データを含めないで機械学習により予測モデルを構築した場合(Case2)の結果を示す。なお、図11において、点線は実績値を示している。
【0077】
Case1の場合、1ヶ月先、2週間先では良好にバルチック海運指数のケープ型(BCI)の時間的な傾向を再現できた。一方、Case2の場合、いずれの場合もバルチック海運指数のケープ型(BCI)の時間的な傾向を十分に再現できなかった。
【0078】
図12は、実績値と予測値との間の相関関係及び方向一致率を検討した結果を示す。方向一致率とは、予測結果と実績値の動きの方向の一致率を示す指標である。1ヶ月先、2週間先、1週間先の予測結果では、方向一致率は70%以上を超えた。これは、Case2に比べて高い値であった。また、Case1の場合、相関係数についても1ヶ月先、2週間先、1週間先では0.5以上となっており、実績値との相関が高いことが確認された。
【0079】
なお、上記具体例において、バルチック海運指数のケープ型(BCI)の予測結果に対する入力データの影響について検討した。図13は、図8に示した入力データのすべてを考慮したときの予測結果、株価指数を入力データに含めなかったときの予測結果、原油価格を入力データに含めなかったときの予測結果、鉄鉱石価格を入力データに含めなかったときの予測結果を示す。予測結果は、1ヶ月先及び2週間先の予測における方向一致率と相関関係を示している。
【0080】
株価指数を入力データに含めなかった場合、実績値と予測値との相関係数、方向一致率の双方とも低下した。しかし、方向一致率は若干低下する程度であった。また、原油価格を入力データに含めなかった場合、実績値と予測値との方向一致率及び相関係数のいずれも著しく低下した。鉄鉱石価格を入力データに含めなかった場合、1ヶ月先の予測においては実績値と予測値との方向一致率及び相関係数は若干の低下を示したが、2週間先の予測においては方向一致率及び相関係数は大きく改善した。
【0081】
これらの結果から、鉄鉱石価格(積載対象となる貨物の価格)に関する情報は入力データから除いてもよい可能性がある。ただし、予測する海運市況の指標や積載対象となる貨物が代わると入力データに含めたほうがよい可能性もある。また、株価指数は、相関関係を改善するためには入力データに含めたほうがよい可能性がある。
【0082】
以上のように、本実施の形態によれば、船舶の動きに関する情報を含む船舶データを含む入力データ(特徴ベクトル)を用いて機械学習を行うことで、海運市況に関する指標を高い精度で予測できる。特に、船舶の動きに関する情報を含む船舶データ、海運市況データ、及び船舶で使用される燃料の燃料価格データを組み合わせた入力データ(特徴ベクトル)を用いて機械学習を行うことで、海運市況に関する指標をより高い精度で予測できる。なお、精度にのみ注目すれば、株価指数(株価指数データ)、鉄鉱石価格(貨物の市況価格データ)を考慮すれば、より精度が上がり、また、今後さらに予測に適したデータが出現する可能性もある。しかし、データの取得価格や予測処理等に要する時間を考慮すると、入力データは精度に影響を与える可能性の高いデータに絞ることが好ましい。
【0083】
ステップS26では、予想結果の出力処理が行われる。本ステップの処理によって、海運市況予測システム100は表示手段26として機能する。処理部30は、出力部36によって上記の処理で得られた予想結果(時系列データ等)を出力する。
【0084】
また、予測結果は、データ提供手段104を用いて海運市況予測サーバ102の外部へ出力することもできる。データ提供手段104の出力手段40は、ネットワーク108に接続されており、時系列処理手段24で生成された時系列的な予測結果をクライアントコンピュータ106へ送信する。また、データ提供手段104の通信手段42は、専用回線等を通じて時系列処理手段24で生成された時系列的な予測結果を外部へ送信する。
【0085】
[海運市況予測運用システム]
以下、上記実施の形態において説明した海運市況予測システム100を用いて海運市況の予測結果をユーザに提供する海運市況予測運用システム200の説明を行う。
【0086】
図14は、海運市況予測運用システム200の構成を示す。当該構成では、データの提供事業者以外の事業者が、海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する。当該例では、海運市況予測サーバ102の予測分析手段22を開発した予測分析手段開発事業者が海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する。海運市況予測サーバ102は、予測分析手段開発事業者ではない船舶データ提供事業者、海運市況データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者からそれぞれ船舶データ、海運市況データ、燃料価格データ、貨物市況価格データ及び価格指数データを取得する。船舶データ提供事業者、海運市況データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者は、それぞれデータを提供するためのサーバを備えるようにすればよい。そして、海運市況予測サーバ102の予測分析手段22においてこれらのデータを用いて海運市況の指標を予測し、データ提供手段104を用いて海運市況予測結果をユーザである顧客(顧客A~C)から閲覧可能とする。予測分析手段開発事業者が、海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する場合は、海運市況予測サーバ102を変更して、入力データを変更した予測結果を得ることや可変部22aを変更すること等の対応が迅速にできる。
【0087】
図15は、海運市況予測運用システム200の別の構成を示す。当該構成では、データの提供事業者が、海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する。当該例では、船舶データ提供事業者が海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する例を示している。海運市況予測サーバ102は、船舶データ提供事業者ではない予測分析手段開発事業者から海運市況予測サーバ102で使用される予測分析手段22の提供を受ける。また、海運市況予測サーバ102は、海運市況データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者からそれぞれ海運市況データ、燃料価格データ、貨物市況価格データ及び価格指数データを取得する。船舶データは、船舶データ提供事業者自らが提供する。このとき、海運市況データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者は、それぞれデータを提供するためのサーバを備えるようにすればよい。そして、海運市況予測サーバ102の予測分析手段22においてこれらのデータを用いて海運市況の指標を予測し、データ提供手段104を用いて海運市況予測結果をユーザである顧客(顧客A~C)から閲覧可能とする。船舶データ提供事業者が、海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する場合は、取得したグローバル視点での多岐に亘る船舶データを有効に生かして予測結果を得ることや、既存の船舶データ情報を提供している顧客へ船舶データとセットで海運市況予測結果を配信することができる。
【0088】
図16は、海運市況予測運用システム200の別の構成を示す。当該例では、海運市況データ提供事業者が海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する例を示している。海運市況予測サーバ102は、海運市況データ提供事業者ではない予測分析手段開発事業者から海運市況予測サーバ102で使用される予測分析手段22の提供を受ける。また、海運市況予測サーバ102は、船舶データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者からそれぞれ船舶データ、燃料価格データ、貨物市況価格データ及び価格指数データを取得する。海運市況データは、海運市況データ提供事業者自らが提供する。このとき、船舶データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者は、それぞれデータを提供するためのサーバを備えるようにすればよい。そして、海運市況予測サーバ102の予測分析手段22においてこれらのデータを用いて海運市況の指標を予測し、データ提供手段104を用いて海運市況予測結果をユーザである顧客(顧客A~C)から閲覧可能とする。海運市況データ提供事業者が、海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する場合は、現状の海運指数の提供の他に、自己の海運指数の将来の予測結果をセットで配信することができる。
【0089】
同様に、船舶データ提供事業者に代えて海運市況データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者が海運市況予測サーバ102及びデータ提供手段104を運用する構成としてもよい。
【0090】
このとき、海運市況予測サーバ102の予測分析手段22を開発した予測分析手段開発事業者が予測モデルの構築手法を開発し、その予測モデルの構築手法をデータの提供事業者に与え、予測モデルはデータ提供事業者が構築するようにしてもよい。また、海運市況予測サーバ102の予測分析手段22を開発した予測分析手段開発事業者が予測モデルの構築手法を開発し、その予測モデルの構築手法をデータの提供事業者以外の事業者に与え、予測モデルは当該事業者が構築するようにしてもよい。
【0091】
ここで、図17に示すように、船舶データ提供事業者、海運市況データ提供事業者、燃料価格データ提供事業者、貨物市況価格データ提供事業者、株価指数データ提供事業者からデータを取得するためのアクセスキーを海運市況予測サーバ102に付与し、当該アクセスキーによる認証が行われた場合に各種データが海運市況予測サーバ102へ送信されるようにしてもよい。
【0092】
具体的には、アクセスキーを管理しているデータ提供事業者サーバに対して、海運市況予測サーバ102からデータ取得サービス利用が要求されると(ステップS30)、データ提供事業者サーバにおいてアクセスキーの選択が行われ(ステップS32)、アクセスキーが海運市況予測サーバ102へ発行される(ステップS34)。海運市況予測サーバ102では、発行されたアクセスキーを表示させる等の処理をしてもよい(ステップS36)。次に、アクセスキーが入力されると(ステップS38)、海運市況予測サーバ102においてデータ取得の設定が行われると共に(ステップS40)、アクセスキーがデータ提供事業者サーバへ送信される(ステップS42)。データ提供事業者サーバでは、アクセスキーが受信され、当該アクセスキーが正しいものであればデータを提供するための認証が成立する(ステップS44)。その後、海運市況予測サーバ102からデータ送信の要求がなされると(ステップS46)、データ提供事業者サーバにおいて要求に対する処理が行われ(ステップS48)、データが海運市況予測サーバ102へ送信される(ステップS50)。海運市況予測サーバ102は、このような処理によってデータを受信すると、図4に示したフローチャートに沿って海運市況の指標の予測処理を行う。
【0093】
また、図18に示すように、海運市況予測サーバ102からインターネットにアクセスし、データ取得プログラム(スクレイピングプログラム)を用いてスクレイピングによって各種データを取得するようにしてもよい。
【0094】
具体的には、海運市況予測サーバ102においてデータ取得の設定が行われると(ステップS60)、データ取得プログラム(スクレイピングプログラム)が設定されると共に(ステップS62)、起動される(ステップS64)。これにより、インターネット等の公共通信網にアクセスが行われ、データの抽出及び抽出されたデータの取得が行われる(ステップS66)。海運市況予測サーバ102は、このような処理によってデータを受信すると、図4に示したフローチャートに沿って海運市況の指標の予測処理を行う。
【0095】
また、図19に示すように、海運市況予測サーバ102から海運市況予測結果の提供を受けようとするユーザに対してアクセスキーを付与し、利用者端末において入力されたアクセスキーによる認証が行われた場合に海運市況予測結果を海運市況予測サーバ102から利用者端末に提供するようにしてもよい。
【0096】
具体的には、アクセスキーを管理している海運市況予測サーバ102に対して、利用者端末からサービス利用が要求されると(ステップS70)、海運市況予測サーバ102においてアクセスキーの選択が行われ(ステップS72)、アクセスキーが利用者端末へ発行される(ステップS74)。利用者端末では、発行されたアクセスキーを表示させる等の処理をしてもよい(ステップS76)。次に、アクセスキーが入力されると、アクセスキーが利用者端末から海運市況予測サーバ102へ送信される(ステップS78)。海運市況予測サーバ102では、アクセスキーが受信され、当該アクセスキーが正しいものであれば海運市況の指標を予測するための認証が成立する(ステップS80)。その後、必要に応じて、利用者端末から予測分析の設定を変更する要求があれば(ステップS84)、海運市況予測サーバ102における予測分析手段22の設定を変更する。例えば、海運市況の指標を予想する日や期間の設定が要求された場合、予測分析手段22に設けられた可変部22aによって予想する日や期間が設定される。また、例えば、図10に示した予想モデルの条件の設定が要求された場合、予測分析手段22に設けられた可変部22aによって要求された条件が設定される。
【0097】
以上のように、海運市況予測運用システム200によれば、海運市況予測システム100において予想された海運市況の予測結果をユーザに提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
上記実施の形態では、鉄鉱石に関するバルチック海運指数のケープ型(BCI)の予測分析処理の予想及び予想結果の提供について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではなく、海運市況に関する他の指標の予測分析や予想結果の提供にも適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 データ取得手段、10a データ入力手段、12 クレンジング手段、14 データ補完手段、16 データ抽出手段、18 データ平準化手段、20 データ選定手段、22 予測分析手段、22a 可変部、24 時系列処理手段、26 表示手段、30 処理部、32 記憶部、34 入力部、36 出力部、38 通信部、40 出力手段、42 通信手段、100 海運市況予測運用システム、102 海運市況予測サーバ、104 データ提供手段、106 クライアントコンピュータ、108 ネットワーク、200 海運市況予測運用システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19