(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】細胞含有ハイドロゲル体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/00 20060101AFI20220920BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220920BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20220920BHJP
A61L 27/38 20060101ALN20220920BHJP
A61L 27/52 20060101ALN20220920BHJP
【FI】
C12N11/00
C12N5/071
C12N5/077
A61L27/38 200
A61L27/52
(21)【出願番号】P 2018094499
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 達斗
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/108069(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/129672(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/073625(WO,A1)
【文献】特開2008-029331(JP,A)
【文献】特開2003-070466(JP,A)
【文献】特開2017-051160(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217393(WO,A1)
【文献】特表2016-522682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00
C12N 5/00
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中、基材の表面上に、分散された第一の細胞と、第一のハイドロゲル高分子とを含む第一のハイドロゲル液滴を形成すること、
気相中、前記表面上に、分散された第二の細胞と、第二のハイドロゲル高分子とを含み、前記第一のハイドロゲル液滴と連結した第二のハイドロゲル液滴を形成すること、
気相中、前記表面上で、前記第一のハイドロゲル液滴に由来する第一の液滴部と、前記第二のハイドロゲル液滴に由来する第二の液滴部とを含むハイドロゲル液滴連結体をゲル化させて、細胞含有ハイドロゲル体を形成すること、
を含む細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項2】
前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養することをさらに含む、
請求項1に記載の細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項3】
前記細胞含有ハイドロゲル体を前記表面から脱離させた後、前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養する、
請求項2に記載の細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項4】
前記細胞含有ハイドロゲル体を前記表面から脱離させた後、浮遊状態の前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養する、
請求項3に記載の細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項5】
前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養して、前記第一の細胞が凝集して形成された第一の細胞凝集塊、及び/又は、前記第二の細胞が凝集して形成された第二の細胞凝集塊、を含む細胞含有ハイドロゲル体を得る、
請求項2乃至4のいずれかに記載の細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項6】
前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養して、下記(a)及び/又は(b)の特性:
(a)
接着性細胞である前記第一の細胞が凝集して形成された前記第一の細胞凝集塊と、前記第一の細胞凝集塊を覆う第一のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第一の細胞凝集塊の内部における
、前記第一の細胞に対して細胞接着性を有する前記第一のハイドロゲル高分子の密度が、前記第一のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、
(b)
接着性細胞である前記第二の細胞が凝集して形成された前記第二の細胞凝集塊と、前記第二の細胞凝集塊を覆う第二のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第二の細胞凝集塊の内部における
、前記第二の細胞に対して細胞接着性を有する前記第二のハイドロゲル高分子の密度が、前記第二のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、
を有する細胞含有ハイドロゲル体を得る、
請求項5に記載の細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項7】
前記第一の細胞と前記第二の細胞との組み合わせが、上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせである、
請求項1乃至
6のいずれかに記載の細胞含有ハイドロゲル体の製造方法。
【請求項8】
第一の細胞と第一のハイドロゲル高分子とを含む第一のハイドロゲル液滴のゲル化体である第一のハイドロゲル部と、
第二の細胞と第二のハイドロゲル高分子とを含む第二のハイドロゲル液滴のゲル化体であり、前記第一のハイドロゲル部と連結した第二のハイドロゲル部と、
を含み、
前記第一のハイドロゲル高分子と前記第二のハイドロゲル高分子とは、異なる種類の高分子であり、
前記第一のハイドロゲル部は、前記第一の細胞の凝集体である第一の細胞凝集塊を含み、及び/又は、前記第二のハイドロゲル部は、前記第二の細胞の凝集体である第二の細胞凝集塊を含む、
細胞含有ハイドロゲル体。
【請求項9】
下記(a)及び/又は(b)の特性:
(a)
接着性細胞である前記第一の細胞が凝集して形成された前記第一の細胞凝集塊と、前記第一の細胞凝集塊を覆う第一のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第一の細胞凝集塊の内部における
、前記第一の細胞に対して細胞接着性を有する前記第一のハイドロゲル高分子の密度が、前記第一のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、
(b)
接着性細胞である前記第二の細胞が凝集して形成された前記第二の細胞凝集塊と、前記第二の細胞凝集塊を覆う第二のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第二の細胞凝集塊の内部における
、前記第二の細胞に対して細胞接着性を有する前記第二のハイドロゲル高分子の密度が、前記第二のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、
を有する、
請求項
8に記載の細胞含有ハイドロゲル体。
【請求項10】
前記第一の細胞と前記第二の細胞との組み合わせが、上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせである、
請求項
8又は9に記載の細胞含有ハイドロゲル体。
【請求項11】
溶液中で浮遊状態にある、
請求項
8乃至
10のいずれかに記載の細胞含有ハイドロゲル体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞含有ハイドロゲル体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、規則的な配置の微小凹部からなるマイクロ凹版に、マウス胎児から採取された上皮系細胞及び間葉系細胞の細胞混合懸濁液を加えて、酸素を供給しながら混合培養することにより、再生毛包原基を作製したことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、毛乳頭細胞とケラチノサイトとを含む混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、当該Wntシグナル活性化剤を含有する培養液をハンギングドロップ法で培養することにより、細胞塊を製造する方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、培養液中において、毛包間葉系細胞の細胞集塊を形成させ、次いで、この細胞集塊と上皮系細胞を、培養液中で共存させて、細胞選別現象により、毛包間葉系細胞の細胞集塊の周囲に上皮系細胞を細胞接着させることにより、毛包間葉系細胞の細胞集塊の外側に上皮系細胞が細胞接着している人工毛球部を製造する方法が記載されている。また、この特許文献3には、培養液中において、毛包間葉系細胞と上皮系細胞とを共存させて、細胞選別現象により、毛包間葉系細胞の細胞集塊を形成させると共に、この細胞集塊の周囲に上皮系細胞を細胞接着させることにより、毛包間葉系細胞の細胞集塊の外側に上皮系細胞が細胞接着している人工毛球部を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/073625号
【文献】特開2008-029331号公報
【文献】特開2003-070466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、2種類以上の細胞を使用する場合に、一方の細胞と、他方の細胞とが相互作用を行うための境界面の大きさを制御することは容易ではなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、細胞間の相互作用のための境界面の大きさを簡便且つ効果的に制御できる、細胞含有ハイドロゲル体及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法は、気相中、基材の表面上に、分散された第一の細胞と、第一のハイドロゲル高分子とを含む第一のハイドロゲル液滴を形成すること、気相中、前記表面上に、分散された第二の細胞と、第二のハイドロゲル高分子とを含み、前記第一のハイドロゲル液滴と連結した第二のハイドロゲル液滴を形成すること、気相中、前記表面上で、前記第一のハイドロゲル液滴に由来する第一の液滴部と、前記第二のハイドロゲル液滴に由来する第二の液滴部とを含むハイドロゲル液滴連結体をゲル化させて、細胞含有ハイドロゲル体を形成すること、を含む。本発明によれば、細胞間の相互作用を行うための境界面の大きさを簡便且つ効果的に制御できる細胞含有ハイドロゲル体の製造方法が提供される。
【0009】
前記方法は、前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養することをさらに含むこととしてもよい。この場合、前記細胞含有ハイドロゲル体を前記表面から脱離させた後、前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養することとしてもよい。さらに、この場合、前記細胞含有ハイドロゲル体を前記表面から脱離させた後、浮遊状態の前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養することとしてもよい。
【0010】
また、前記方法においては、前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養して、前記第一の細胞が凝集して形成された第一の細胞凝集塊、及び/又は、前記第二の細胞が凝集して形成された第二の細胞凝集塊、を含む細胞含有ハイドロゲル体を得ることとしてもよい。
【0011】
また、前記方法においては、前記細胞含有ハイドロゲル体内で前記第一の細胞及び前記第二の細胞を培養して、下記(a)及び/又は(b)の特性:(a)前記第一の細胞凝集塊と、前記第一の細胞凝集塊を覆う第一のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第一の細胞凝集塊の内部における前記第一のハイドロゲル高分子の密度が、前記第一のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、(b)前記第二の細胞凝集塊と、前記第二の細胞凝集塊を覆う第二のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第二の細胞凝集塊の内部における前記第二のハイドロゲル高分子の密度が、前記第二のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、を有する細胞含有ハイドロゲル体を得ることとしてもよい。
【0012】
また、前記方法において、前記第一のハイドロゲル高分子は、前記第一の細胞に対して細胞接着性を有し、及び/又は前記第二のハイドロゲル高分子は、前記第二の細胞に対して細胞接着性を有することとしてもよい。また、前記方法において、前記第一の細胞と前記第二の細胞との組み合わせが、上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせであることとしてもよい。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体は、第一の細胞と第一のハイドロゲル高分子とを含む第一のハイドロゲル液滴のゲル化体である第一のハイドロゲル部と、第二の細胞と第二のハイドロゲル高分子とを含む第二のハイドロゲル液滴のゲル化体であり、前記第一のハイドロゲル部と連結した第二のハイドロゲル部と、を含み、前記第一のハイドロゲル部は、前記第一の細胞の凝集体である第一の細胞凝集塊を含み、及び/又は、前記第二のハイドロゲル部は、前記第二の細胞の凝集体である第二の細胞凝集塊を含む。本発明によれば、細胞間の相互作用を行うための境界面の大きさが簡便且つ効果的に制御された細胞含有ハイドロゲル体が提供される。
【0014】
前記細胞含有ハイドロゲル体は、下記(a)及び/又は(b)の特性:(a)前記第一の細胞凝集塊と、前記第一の細胞凝集塊を覆う第一のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第一の細胞凝集塊の内部における前記第一のハイドロゲル高分子の密度が、前記第一のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、(b)前記第二の細胞凝集塊と、前記第二の細胞凝集塊を覆う第二のハイドロゲル被覆部とを含み、前記第二の細胞凝集塊の内部における前記第二のハイドロゲル高分子の密度が、前記第二のハイドロゲル被覆部におけるそれより大きい;、を有することとしてもよい。
【0015】
また、前記細胞含有ハイドロゲル体において、前記第一のハイドロゲル高分子は、前記第一の細胞に対して細胞接着性を有し、及び/又は前記第二のハイドロゲル高分子は、前記第二の細胞に対して細胞接着性を有することとしてもよい。また、前記細胞含有ハイドロゲル体において、前記第一の細胞と前記第二の細胞との組み合わせが、上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせであることとしてもよい。また、前記細胞含有ハイドロゲル体は、溶液中で浮遊状態にあることとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞間の相互作用を行うための境界面の大きさを簡便且つ効果的に制御できる、細胞含有ハイドロゲル体及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる操作の一部を模式的に示す説明図である。
【
図1B】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる操作の他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図1C】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる操作のさらに他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図1D】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる操作のさらに他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図1E】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる操作のさらに他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図2】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例で使用される自動分注システムを模式的に示す説明図である。
【
図3A】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる、自動分注システムを使用した操作の一部を模式的に示す説明図である。
【
図3B】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる、自動分注システムを使用した操作の他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図3C】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる、自動分注システムを使用した操作のさらに他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図4】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例において自動分注装置を使用して形成されたハイドロゲル液滴連結体の写真を示す説明図である。
【
図5A】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる培養操作の一部を模式的に示す説明図である。
【
図5B】本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法の一例に含まれる培養操作の他の一部を模式的に示す説明図である。
【
図6A】本実施形態に係る実施例1における培養初日の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図6B】本実施形態に係る実施例1における培養1日目の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図6C】本実施形態に係る実施例1における培養3日目の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図7】本実施形態に係る実施例1において、位相差顕微鏡下で細胞含有ハイドロゲル体の投影面積を評価した結果を示す説明図である。
【
図8A】本実施形態に係る実施例2において、移植後11日目の発毛した細胞含有ハイドロゲル体の写真を示す説明図である。
【
図8B】本実施形態に係る実施例2において、移植後19日目の発毛した細胞含有ハイドロゲル体の写真を示す説明図である。
【
図8C】本実施形態に係る実施例2において、移植後24日目の発毛した細胞含有ハイドロゲル体の写真を示す説明図である。
【
図9A】本実施形態に係る実施例3における培養1日目のスフェロイド融合組織の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図9B】本実施形態に係る実施例3における培養3日目のスフェロイド融合組織の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図9C】本実施形態に係る実施例3における培養6日目のスフェロイド融合組織の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図10A】本実施形態に係る実施例3における培養1日目の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図10B】本実施形態に係る実施例3における培養3日目の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【
図10C】本実施形態に係る実施例3における培養6日目の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は本実施形態に限られるものではない。
【0019】
図1A~
図1Eには、本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体の製造方法(以下、「本方法」という。)の一例に含まれる操作を模式的に示す。本方法は、気相100中、基材110の表面111上に、分散された第一の細胞11と、第一のハイドロゲル高分子とを含む第一のハイドロゲル液滴21を形成すること、気相100中、当該表面111上に、分散された第二の細胞12と、第二のハイドロゲル高分子とを含み、当該第一のハイドロゲル液滴21と連結した第二のハイドロゲル液滴22を形成すること、気相100中、当該表面111上で、当該第一のハイドロゲル液滴21に由来する第一の液滴部31と、当該第二のハイドロゲル液滴22に由来する第二の液滴部32とを含むハイドロゲル液滴連結体30をゲル化させて、細胞含有ハイドロゲル体40を形成すること、を含む。
【0020】
すなわち、本方法においては、まず、
図1A及び
図1Bに示すように、気相100中、基材110の表面111上に第一のハイドロゲル液滴21を形成する。第一のハイドロゲル液滴21は、分散された第一の細胞11と、第一のハイドロゲル高分子とを含む。
【0021】
第一のハイドロゲル液滴21は、分散された第一の細胞11と、第一のハイドロゲル高分子とを含む第一のハイドロゲル水溶液を、基材110の表面111上に滴下することにより形成する。
図1Aに示す例では、ピペット200を使用して、第一のハイドロゲル水溶液を、基材110の表面111上に滴下して、第一のハイドロゲル液滴21を形成している。
【0022】
第一のハイドロゲル液滴21の体積は、特に限られないが、例えば、0.01μL以上、1mL以下であることとしてもよく、0.1μL以上、100μL以下であることとしてもよく、1μL以上、10μL以下であることとしてもよい。
【0023】
第一のハイドロゲル液滴21に含まれる第一の細胞11の密度は、特に限られないが、例えば、1×102cells/mL以上、1×109cells/mL以下であることとしてもよく、1×103cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×104cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×105cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよく、1×106cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよい。
【0024】
第一のハイドロゲル液滴21は、細胞として主に第一の細胞11を含む。すなわち、第一のハイドロゲル液滴21に含まれる細胞の総数に対する第一の細胞11の数の割合は、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがより一層好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0025】
本方法においては、基材110の表面111上に第一のハイドロゲル液滴21が形成された後、
図1Cに示すように、気相100中、当該表面111上に、第一のハイドロゲル液滴21と連結した第二のハイドロゲル液滴22を形成する。第二のハイドロゲル液滴22は、分散された第二の細胞12と、第二のハイドロゲル高分子とを含む。
【0026】
第二のハイドロゲル液滴22は、分散された第二の細胞12と、第二のハイドロゲル高分子とを含む第二のハイドロゲル水溶液を、基材110の表面111のうち、第一のハイドロゲル液滴21に隣接し、且つ当該第一のハイドロゲル液滴21と接する位置に滴下することにより形成する。その結果、第二のハイドロゲル液滴22は、その一部が表面111に接し、且つ他の一部が第一のハイドロゲル液滴21に接することとなる。
図1Cに示す例では、ピペット200を使用して、第二のハイドロゲル水溶液を、基材110の表面111上に滴下して、第二のハイドロゲル液滴22を形成している。
【0027】
第二のハイドロゲル液滴22の体積は、特に限られないが、例えば、0.01μL以上、1mL以下であることとしてもよく、0.1μL以上、100μL以下であることとしてもよく、1μL以上、10μL以下であることとしてもよい。
【0028】
第二のハイドロゲル液滴22に含まれる第二の細胞12の密度は、特に限られないが、例えば、1×102cells/mL以上、1×109cells/mL以下であることとしてもよく、1×103cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×104cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×105cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよく、1×106cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよい。
【0029】
第二のハイドロゲル液滴22は、細胞として主に第二の細胞12を含む。すなわち、第二のハイドロゲル液滴22に含まれる細胞の総数に対する第二の細胞12の数の割合は、例えば、50%以上であることとしてもよく、60%以上であることとしてもよく、70%以上であることとしてもよく、80%以上であることとしてもよく、90%以上であることとしてもよい。
【0030】
そして、本方法においては、
図1Dに示すように、気相100中、表面111上において、第一のハイドロゲル液滴21に由来する第一の液滴部31と、第二のハイドロゲル液滴22に由来する第二の液滴部32とを含むハイドロゲル液滴連結体30(以下、単に「液滴連結体30」という。)が形成される。
【0031】
液滴連結体30の第一の液滴部31は、分散された第一の細胞11と、第一のハイドロゲル高分子とを含む。また、液滴連結体30の第二の液滴部32は、分散された第二の細胞12と、第二のハイドロゲル高分子とを含む。液滴連結体30において、第一の連結部31及び第二の液滴部32は、いずれも、その一部が表面111に接し、且つ他の一部で互いに連結している。
【0032】
ここで、第一のハイドロゲル液滴21及び第二のハイドロゲル液滴22は、それぞれ第一のハイドロゲル高分子及び第二のハイドロゲル高分子を含み、水よりも粘性及び比重が大きい。このため、気相100中、表面111に形成された液滴連結体30は、液体であるため流動性を有するが、
図1Dに示すように、当該液滴連結体30の第一の液滴部31及び第二の液滴部32において、第一の細胞11及び第二の細胞12は、それぞれ分散された状態で維持される。
【0033】
分散された細胞は、他の細胞と結合しておらず、又は数個の細胞と結合しているのみであり、溶液中に分散されて浮遊している細胞である。例えば、細胞懸濁液に含まれる細胞と溶媒とを分離するために、分散された細胞を含む当該細胞懸濁液を遠心する場合、遠心後に形成される当該細胞の沈殿物は、当該細胞の凝集塊であり、当該沈殿物を構成する細胞は、分散された細胞ではない。
【0034】
なお、
図1A~
図1Eに示す例において、液滴連結体30は、2つのハイドロゲル液滴部31,32から構成されているが、例えば、3つ以上のハイドロゲル液滴を同様に連結させて形成されてもよい。
【0035】
すなわち、例えば、第一のハイドロゲル液滴部31及び第二のハイドロゲル液滴部32から構成される液滴連結体30を表面111上に形成した後、さらに、分散された第三の細胞と、第三のハイドロゲル高分子とを含む当該第三のハイドロゲル液滴を、気相100中、当該表面111上で、当該液滴連結体30と連結するよう形成することにより、当該第三のハイドロゲル液滴に由来する第三のハイドロゲル液滴部をさらに含む液滴連結体30を形成してもよい。
【0036】
最終的に表面111上に形成される液滴連結体30の体積は、特に限られないが、例えば、0.02μL以上、100mL以下であることとしてもよく、0.2μL以上、10mL以下であることとしてもよく、2μL以上、1mL以下であることとしてもよい。
【0037】
液滴連結体30に含まれる細胞の密度は特に限られないが、例えば、1×102cells/mL以上、1×109cells/mL以下であることとしてもよく、1×103cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×104cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×105cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよく、1×106cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよい。
【0038】
上述したようなハイドロゲル液滴21,22の滴下には、例えば、
図2に示すように、規則的に配置された複数のピペット200を有する自動分注システム300が好ましく使用される。
図2に示す自動分注システム300は、分散された細胞10を含む水溶液S1と、ハイドロゲル高分子を含むハイドロゲル水溶液S2との混合水溶液を収容するタンク310と、基材110を置くステージ320とを有し、その動作は、コンピュータ400により制御される。
【0039】
そして、自動分注システム300を使用することにより、複数のピペット200から、タンク310内の混合水溶液を、基材110の表面111上に滴下することにより、規則的に配置された、複数のハイドロゲル液滴20を効率よく当該表面111上に形成することができる。
【0040】
図3A~
図3Cには、自動分注システム300を使用する操作の例を模式的に示す。まず、
図3Aに示すように、気相100中、複数のピペット200から、表面111上に、複数の第一のハイドロゲル液滴21を滴下する。次いで、
図3Bに示すように、その各々が、複数の第一のハイドロゲル液滴21の一つと連結するよう、複数のピペット200から、複数の第二のハイドロゲル液滴22を表面111上に滴下する。その結果、
図3Cに示すように、表面111上で規則的に配置された、各々が第一の液滴部31及び第二の液滴部32から構成される複数の液滴連結体30が形成される。
【0041】
図4には、実際に自動分注システム300を使用して形成された液滴連結体30の写真を示す。
図4に示される、表面111上に規則的に配置された複数の液滴連結体30の各々において、着色された左半分は、視認性を高めるために染料が添加された第一のハイドロゲル液滴部31であり、着色されていない右半分は、第二のハイドロゲル液滴部32である。
【0042】
本方法においては、さらに、気相100中、表面111上で、液滴連結体30をゲル化させて、
図1Eに示すように、細胞含有ハイドロゲル体40(以下、単に「ハイドロゲル体40」という。)を形成する。
【0043】
ゲル化により、液滴連結体30に含まれていたハイドロゲル高分子が分子間ネットワークを形成し、当該液滴連結体30は流動性を失い、ハイドロゲル体40が得られる。ゲル化の方法は、特に限られず、例えば、液滴連結体30に含まれているハイドロゲル高分子の種類及び/又は濃度に応じて、適切な条件でゲル化を行う。具体的に、例えば、液滴連結体30が、ハイドロゲル高分子としてI型コラーゲンを含む場合、当該液滴連結体30を25℃~37℃で、15分~60分維持することにより、ゲル化を行うことができる。
【0044】
ハイドロゲル体40は、第一のハイドロゲル液滴21のゲル化体である第一のハイドロゲル部41と、第二のハイドロゲル液滴22のゲル化体であり、当該第一のハイドロゲル部41と連結した第二のハイドロゲル部42とを含む。第一のハイドロゲル部41は、液滴連結体30の第一の液滴部31のゲル化体でもあり、第二のハイドロゲル部42は、当該液滴連結体30の第二の液滴部32のゲル化体でもある。
【0045】
後述するように培養されていないハイドロゲル体40(すなわち、培養前、又は培養開始時のハイドロゲル体40)において、第一のハイドロゲル部41は、分散された第一の細胞11と、ゲル化された第一のハイドロゲル高分子とを含み、第二のハイドロゲル部42は、分散された第二の細胞12と、ゲル化された第二のハイドロゲル高分子とを含む。
【0046】
ハイドロゲル体40は、ゲル化されているため、流動性を有しない。このため、ゲル化により得られたハイドロゲル体40の第一のハイドロゲル部41及び第二のハイドロゲル部42においても、第一の細胞11及び第二の細胞12は、それぞれ分散された状態で維持される。ハイドロゲル体40において、第一のハイドロゲル部41及び第二のハイドロゲル部42は、いずれも、その一部が表面111に接し、且つ他の一部で互いに連結している。
【0047】
培養されていないハイドロゲル体40の体積は、特に限られないが、例えば、0.02μL以上、100mL以下であることとしてもよく、0.2μL以上、10mL以下であることとしてもよく、2μL以上、1mL以下であることとしてもよい。
【0048】
培養されていないハイドロゲル体40に含まれる細胞の密度は、特に限られないが、例えば、1×102cells/mL以上、1×109cells/mL以下であることとしてもよく、1×103cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×104cells/mL以上、1×108cells/mL以下であることとしてもよく、1×105cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよく、1×106cells/mL以上、1×107cells/mL以下であることとしてもよい。
【0049】
このように、本方法では、気相100中、基材110の表面111上において、まず、各々が分散された細胞を含む複数のハイドロゲル液滴を、互いに連結するよう順次滴下して、液滴連結体を形成し、次いで、気相100中、当該表面111上で、当該液滴連結体をゲル化することにより、当該分散された細胞を含むハイドロゲル体40を得る。
【0050】
気相110中で、複数のハイドロゲル液滴を連結するため、例えば、各ハイドロゲル液滴のサイズ、及び/又は、当該複数のハイドロゲル液滴の配置を調節することにより、最終的に形成されるハイドロゲル体40における細胞間の相互作用のための境界面の大きさを簡便且つ効果的に調節することができる。
【0051】
第一の細胞11及び第二の細胞12は、動物に由来する生きた細胞であれば特に限られない。動物は、ヒトであってもよいし、非ヒト動物(ヒト以外の動物)であってもよい。非ヒト動物は、特に限られないが、非ヒト脊椎動物(ヒト以外の脊椎動物)であることが好ましい。非ヒト脊椎動物は、特に限られないが、非ヒト哺乳類であることが好ましい。非ヒト哺乳類は、特に限られないが、例えば、霊長類(例えば、サル)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ)、食肉類(例えば、イヌ、ネコ)、又は有蹄類(例えば、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)であってもよい。
【0052】
第一の細胞11及び/又は第二の細胞12は、分化細胞であってもよいし、幹細胞(未分化細胞)であってもよい。幹細胞は、全能性幹細胞であってもよいし、多能性幹細胞であってもよいし、組織幹細胞であってもよい。具体的に、幹細胞は、例えば、人工多能性(iPS)幹細胞であってもよいし、胚性幹(ES)細胞であってもよいし、胚性生殖(EG)細胞であってもよい。分化細胞は、分化した機能を有する細胞であれば特に限られないが、例えば、生体から採取された細胞(生体から採取された後に培養された細胞であってもよい。)であってもよいし、生体外において幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0053】
第一の細胞11及び/又は第二の細胞12は、生体内の組織に由来する細胞であることとしてもよい。生体内の組織は、特に限られないが、例えば、毛包組織、皮膚組織、肝臓組織、心臓組織、腎臓組織、神経組織、骨組織、軟骨組織、骨髄組織、肺組織、腺組織、歯周組織又は血液であることとしてもよい。
【0054】
第一の細胞11及び/又は第二の細胞12は、接着性細胞であってもよいし、非接着性細胞であってもよい。接着性細胞は、生体内において、他の細胞及び/又は細胞外マトリクスに接着した状態で存在する細胞である。非接着性細胞は、生体内において、浮遊した状態で存在する細胞(例えば、リンパ球等の血液細胞)である。
【0055】
第一の細胞11と第二の細胞12との組み合わせは、相互作用する異なる細胞の組み合わせであれば特に限られない。異なる細胞の組み合わせは、例えば、分化機能、増殖性、及び細胞表面マーカーからなる群より選択される1以上が異なる細胞の組み合わせである。
【0056】
第一の細胞11と第二の細胞12との相互作用は、特に限られないが、例えば、一方の細胞が分泌する物質が他方の細胞に作用する組み合わせ、及び/又は、細胞間結合を形成する組み合わせであることが好ましい。なお、一方の細胞が分泌する物質が他方の細胞に作用する場合、さらに、当該他方の細胞が分泌する物質が当該一方の細胞に作用してもよい。また、一方の細胞が分泌する物質が他方の細胞に作用する場合、当該物質がハイドロゲル体40の内部を拡散して当該他方の細胞に作用することとしてもよいし、当該物質がハイドロゲル体40を含む溶液(例えば、培養液)中に拡散し、その後、当該溶液中から当該ハイドロゲル体40の当該他方の細胞に作用することとしてもよい。
【0057】
第一の細胞11と第二の細胞12との組み合わせは、生体内において相互作用する細胞の組み合わせであることが好ましい。この場合、第一の細胞11と第二の細胞12との組み合わせは、生体内の同一の組織において相互作用する細胞の組み合わせであってもよい。生体内の組織は、特に限られないが、例えば、毛包組織、皮膚組織、肝臓組織、心臓組織、腎臓組織、神経組織、骨組織、軟骨組織、骨髄組織、肺組織、腺組織、歯周組織又は血液であることとしてもよい。
【0058】
第一の細胞11と第二の細胞12との組み合わせは、同一の動物に由来する細胞の組み合わせであってもよいし、異なる動物に由来する細胞の組み合わせであってもよい。すなわち、第一の細胞11及び第二の細胞12は、いずれもヒト細胞(ヒトに由来する細胞)であってもよいし、いずれも非ヒト動物細胞(ヒト以外の動物に由来する細胞)であってもよいし、一方がヒト細胞であり、他方が非ヒト動物細胞であってもよい。
【0059】
第一の細胞11と第二の細胞12との組み合わせは、例えば、上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせであることとしてもよい。上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせは、特に限られないが、例えば、毛包組織において相互作用する上皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせであってもよい。
【0060】
この場合、上皮系細胞及び/又は間葉系細胞は、生体の毛包組織から採取された細胞(当該毛包組織から採取された後に培養された細胞であってもよい。)であってもよいし、生体外において幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0061】
具体的に、上皮系細胞は、毛包組織のバルジ領域の外毛根鞘最外層細胞、毛母基部に由来する上皮系細胞、又は幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、又はEG細胞)から誘導された毛包上皮系細胞であることとしてもよい。また、上皮系細胞は、上皮幹細胞であってもよい。
【0062】
間葉系細胞は、毛乳頭細胞、真皮毛根鞘細胞、発生期の皮膚間葉系細胞、又は幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、又はEG細胞)から誘導された毛包間葉系細胞であることとしてもよい。
【0063】
第一のハイドロゲル高分子及び第二のハイドロゲル高分子は、ゲル化能を有する親水性高分子であれば特に限られない。第一のハイドロゲル高分子及び/又は第二のハイドロゲル高分子は、天然由来の高分子であってもよいし、人工的に合成された高分子であってもよいが、天然由来の高分子であることが好ましい。また、第一のハイドロゲル高分子及び/又は第二のハイドロゲル高分子は、生体適合性の高分子であることが好ましい。
【0064】
第一のハイドロゲル高分子及び/又は第二のハイドロゲル高分子は、細胞外マトリクスであることが好ましい。細胞外マトリクスは、生体内に存在するものであれば特に限られない。
【0065】
第一のハイドロゲル高分子は、第一の細胞11に対して細胞接着性を有し、及び/又は第二のハイドロゲル高分子は、第二の細胞12に対して細胞接着性を有することとしてもよい。細胞接着性を有するハイドロゲル高分子は、細胞表面の分子と結合する高分子であり、例えば、当該細胞表面の分子と特異的に、又は非特異的に結合する特定のアミノ酸配列、及び/又は糖鎖を有する。
【0066】
具体的に、細胞接着性を有するハイドロゲル高分子は、例えば、コラーゲン(例えば、I型、II型、III型、IV型、V型、及びXI型からなる群より選択される1以上)、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、グリコサミノグリカン(例えば、ヒアルロン酸)、プロテオグリカン、フィブリン、及びゼラチンからなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0067】
また、ハイドロゲル高分子は、ゼラチン、アガロース、アルギン酸ナトリウム、及び合成高分子(例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレンオキシド等)からなる群より選択される1以上であることとしてもよい。
【0068】
第一のハイドロゲル高分子と第二のハイドロゲル高分子とは、同一種類の高分子であってもよいし、異なる種類の高分子であってもよい。すなわち、例えば、第一のハイドロゲル高分子及び第二のハイドロゲル高分子は、いずれもI型コラーゲンであることとしてもよいし、第一のハイドロゲル高分子がI型コラーゲンであり、第二のハイドロゲル高分子がグリコサミノグリカンであることとしてもよい。
【0069】
基材110は、その表面111上にハイドロゲル液滴21,22、液滴連結体30、及びハイドロゲル体40を形成できるものであれば特に限られず、例えば、樹脂、ガラス、セラミックス又は金属の基材であることとしてもよい。
【0070】
基材110の表面111は、その上にハイドロゲル液滴21,22、液滴連結体30、及びハイドロゲル体40を形成できるものであれば特に限られないが、撥水性表面であることが好ましい。
【0071】
撥水性表面の水接触角は、例えば、90°以上であることとしてもよく、100°以上であることが好ましく、105°以上であることがより好ましく、110℃以上であることが特に好ましい。
【0072】
撥水性の表面111は、例えば、撥水性の材料(例えば、フッ素含有ポリマー等の疎水性樹脂)の基材110の使用、及び/又は撥水性処理(例えば、フッ素含有官能基等の疎水性官能基による修飾)により実現される。また、基材110の表面111は、平坦であることが好ましい。
【0073】
気相100は、気体の相であれば特に限られないが、当該気体は、酸素を含むことが好ましく、空気が好ましく使用される。第一のハイドロゲル液滴21の形成、第二のハイドロゲル液滴22の形成(液滴結合体30の形成)、及びハイドロゲル体40の形成において、気相100の気体組成は同一であってもよいし、互いに異なってもよい。
【0074】
本方法は、ハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養することをさらに含むこととしてもよい。この場合、ハイドロゲル体40を培養液中に浸漬し、当該ハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養する。
【0075】
培養液は、第一の細胞11及び第二の細胞12の生存を維持するために必要な組成、pH及び浸透圧等の特性を有する水溶液であれば特に限られない。培養液に含まれる成分としては、例えば、糖類、アミノ酸、ビタミン、無機塩、抗生物質、増殖因子が挙げられる。
【0076】
培養時間は、特に限られず、例えば、12時間以上、10日以下であることとしてもよく、1日以上、7日以下であることとしてもよい。
【0077】
培養温度は、第一の細胞11及び第二の細胞12の生存を維持できる範囲であれば特に限られず、例えば、25℃以上、40℃以下であることとしてもよく、30℃以上、39℃以下であることが好ましい。
【0078】
本方法においては、基材110の表面111上のハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養することとしてもよい。この場合、例えば、ハイドロゲル体40が形成されている表面111を培養液に浸漬して、当該培養液中、当該表面111上に固定されたハイドロゲル体40内で、第一の細胞11及び第二の細胞12を培養する。
【0079】
また、本方法においては、ハイドロゲル体40を表面111から脱離させた後、当該ハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養することとしてもよい。この場合、まずはハイドロゲル体40を表面111から脱離させて、回収する。ハイドロゲル体40を表面111から脱離させる方法は、当該ハイドロゲル40に含まれる細胞の生存を維持しつつ当該ハイドロゲル体40を表面111から脱離させる方法であれば特に限られないが、例えば、当該表面111を培養液等の水溶液中に浸漬する方法や、当該表面111に培養液等の水溶液の流れを与える方法が好ましく使用される。
【0080】
本方法においては、表面111から脱離させて回収したハイドロゲル体40を、そのまま使用して、当該ハイドロゲル体40内で細胞を培養するため、当該ハイドロゲル体40に含まれるハイドロゲル高分子を分解する酵素処理を行うことなく、当該ハイドロゲル体40を当該表面111から脱離させることが好ましい。
【0081】
ハイドロゲル体40を表面111から脱離させた後、当該ハイドロゲル40を他の基材の表面上に固定し、当該表面上の当該ハイドロゲル40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養することとしてもよい。
【0082】
また、本方法においては、ハイドロゲル体40を表面111から脱離させた後、
図5Aに示すように、浮遊状態の当該ハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養することとしてもよい。
【0083】
この場合、まず、表面111から脱離させて回収したハイドロゲル体40を、培養容器120内の培養液300に浸漬し、当該培養液300中、当該ハイドロゲル体40が浮遊した状態で、当該ハイドロゲル体40に含まれる第一の細胞11及び第二の細胞12を培養する。
【0084】
培養液300中でハイドロゲル体40が浮遊している状態とは、当該ハイドロゲル体40が培養容器120の壁面121,122に実質的に接着していない状態である。すなわち、例えば、流れのない培養液300中で浮遊しているハイドロゲル体40のみならず、培養液300に流れを発生させれば、培養容器120の壁面121,122から容易に脱離する程度に当該壁面121,122に弱く接着した状態のハイドロゲル体40も、浮遊状態のハイドロゲル体40である。
【0085】
本方法においては、
図5Bに示すように、ハイドロゲル体40を培養して、第一の細胞11が凝集して形成された第一の細胞凝集塊51、及び/又は、第二の細胞12が凝集して形成された第二の細胞凝集塊52、を含むハイドロゲル体40を得ることとしてもよい。
【0086】
第一の細胞凝集塊51は、ハイドロゲル体40内において、第一の細胞11が互いに結合し、自発的に凝集することにより形成される。同様に、第二の細胞凝集塊52は、ハイドロゲル体40内において、第二の細胞12が互いに結合し、自発的に凝集することにより形成される。
【0087】
ハイドロゲル体40内において、第一の細胞11と第二の細胞12とが結合を形成する場合、
図5Bに示すように、第一の細胞凝集塊11と、当該第一の細胞凝集塊51に結合した第二の細胞凝集塊12とを含むハイドロゲル体40が得られる。
【0088】
本実施形態に係る細胞含有ハイドロゲル体は、上述のようにして得られるハイドロゲル体40である。このハイドロゲル体40は、第一の細胞11及び第一のハイドロゲル高分子を含む第一のハイドロゲル液滴21のゲル化体である第一のハイドロゲル部41と、第二の細胞12及び第二のハイドロゲル高分子を含む第二のハイドロゲル液滴22のゲル化体であり、当該第一のハイドロゲル部41と連結した第二のハイドロゲル部42と、を含み、当該第一のハイドロゲル部41は、当該第一の細胞11の凝集体である第一の細胞凝集塊51を含み、及び/又は、当該第二のハイドロゲル部42は、当該第二の細胞12の凝集体である第二の細胞凝集塊52を含む。
【0089】
第一の細胞凝集塊51及び/又は第二の細胞凝集塊52を含むハイドロゲル体40は、基材の表面に接着していてもよいが、溶液中で浮遊状態にあることとしてもよい。すなわち、ハイドロゲル体40は、上述した培養液等の溶液中で浮遊していることとしてもよい。
【0090】
このように、まず気相110中で、複数のハイドロゲル液滴を連結してハイドロゲル体40を形成し、その後、当該ハイドロゲル体40内で細胞を培養して複数の細胞凝集塊を形成する場合、例えば、当該複数のハイドロゲル液滴のサイズ、及び/又は、当該複数のハイドロゲル液滴の配置を調節することにより、最終的に得られるハイドロゲル体40における当該複数の細胞凝集塊間の相互作用のための境界面の大きさを簡便且つ効果的に制御することができる。
【0091】
培養されたハイドロゲル内40において、第一の細胞凝集塊51と第二の細胞凝集塊52とは離れて形成されてもよいが、
図5Bに示すように、第一の細胞凝集塊51と、当該第二の細胞凝集塊52とは結合していてもよい。
【0092】
この場合、第一の細胞凝集塊51に含まれる一部の第一の細胞11と、第二の細胞凝集塊52に含まれる一部の第二の細胞12とが結合を形成する。その結果、
図5Bに示すように、ハイドロゲル体40内において、互いに結合した第一の細胞凝集塊51と第二の細胞凝集塊52とを含む複合細胞凝集塊50が形成される。
【0093】
具体的に、例えば、第一の細胞11が毛包上皮系細胞(例えば、毛包組織に由来する上皮幹細胞)であり、第二の細胞12が毛包間葉系細胞(例えば、毛乳頭細胞)である場合、ハイドロゲル40内で、当該第一の細胞11が第一の細胞凝集塊51を形成するとともに、当該第二の細胞12が第二の細胞凝集塊52を形成し、さらに、当該第一の細胞凝集塊51と当該第二の細胞凝集塊52とが結合することにより、毛包原基である複合細胞凝集塊50を形成することができる。
【0094】
このように、まず気相110中で、複数のハイドロゲル液滴を連結してハイドロゲル体40を形成し、その後、当該ハイドロゲル体40内で細胞を培養して、互いに結合した複数の細胞凝集塊を形成する場合、例えば、当該複数のハイドロゲル液滴のサイズ、及び/又は、当該複数のハイドロゲル液滴の配置を調節することにより、最終的に得られるハイドロゲル体40における当該複数の細胞凝集塊間の結合面の大きさを簡便且つ効果的に制御することができる。
【0095】
第一の細胞凝集塊51、及び/又は第二の細胞凝集塊52を含むハイドロゲル体40は、ハイドロゲル体40を表面111から脱離させた後、浮遊する当該ハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養することにより、効果的に製造することができる。
【0096】
本方法においては、分散された第一の細胞11及び第二の細胞12を含むハイドロゲル体40(
図5A)を培養して、第一の細胞凝集塊51、及び/又は第二の細胞凝集塊52を含む、収縮したハイドロゲル体40(
図5B)を得ることとしてもよい。
【0097】
すなわち、ハイドロゲル体40内で細胞11,12が互いに結合し、徐々に凝集して細胞凝集塊51,52を形成する場合、当該ハイドロゲル体40は、培養時間の経過に伴って収縮する。
【0098】
具体的に、培養開始時の分散された第一の細胞11及び第二の細胞12を含むハイドロゲル体40の体積に対する、第一の細胞凝集塊51、及び/又は第二の細胞凝集塊52を含むハイドロゲル体40の体積の割合は、例えば、50%以下であることとしてもよく、40%以下であることとしてもよく、30%以下であることとしてもよく、20%以下であることとしてもよく、10%以下であることとしてもよい。
【0099】
このような培養経過に伴うハイドロゲル体40の収縮は、第一のハイドロゲル高分子が第一の細胞11に対して細胞接着性を有し、及び/又は第二のハイドロゲル高分子が第二の細胞12に対して細胞接着性を有する場合に顕著となる。
【0100】
なお、第一の細胞凝集塊51、及び/又は第二の細胞凝集塊52を含むハイドロゲル体40における細胞の密度(当該ハイドロゲル体40の単位体積に含まれる細胞の数)は、例えば、1×102cells/mL以上、1×1011cells/mL以下であることとしてもよく、1×103cells/mL以上、1×1010cells/mL以下であることとしてもよく、1×104cells/mL以上、1×1010cells/mL以下であることとしてもよく、1×105cells/mL以上、1×109cells/mL以下であることとしてもよく、1×106cells/mL以上、1×109cells/mL以下であることとしてもよい。
【0101】
本方法においては、
図5Bに示すように、ハイドロゲル体40内で第一の細胞11及び第二の細胞12を培養して、下記(a)及び/又は(b)の特性:(a)第一の細胞凝集塊51と、当該第一の細胞凝集塊51を覆う第一のハイドロゲル被覆部41aとを含み、当該第一の細胞凝集塊51の内部における第一のハイドロゲル高分子の密度が、当該第一のハイドロゲル被覆部41aにおけるそれより大きい;、(b)第二の細胞凝集塊52と、当該第二の細胞凝集塊52を覆う第二のハイドロゲル被覆部42aとを含み、当該第二の細胞凝集塊52の内部における第二のハイドロゲル高分子の密度が、当該第二のハイドロゲル被覆部42aにおけるそれより大きい;、を有するハイドロゲル体40を得ることとしてもよい。
【0102】
すなわち、
図5A及び
図5Bに示すように、培養時間の経過に伴って、ハイドロゲル体40内において、第一の細胞11が凝集して第一の細胞凝集塊51を形成し、及び/又は第二の細胞12が凝集して第二の細胞凝集塊52を形成する場合、当該第一の細胞11間、及び/又は当該第二の細胞12間のハイドロゲル部分は、当該第一の細胞凝集塊51及び/又は当該第二の細胞凝集塊52を被覆するハイドロゲル部分に比べて顕著に収縮する。
【0103】
その結果、第一の細胞凝集塊51及び/又は第二の細胞凝集塊52を含むハイドロゲル体40においては、当該第一の細胞凝集塊51の内部における第一のハイドロゲル高分子の密度は、第一のハイドロゲル被覆部41aにおけるそれより大きく、及び/又は第二の細胞凝集塊52の内部における第二のハイドロゲル高分子の密度は、第二のハイドロゲル被覆部41aにおけるそれより大きくなる。
【0104】
このような第一のハイドロゲル高分子及び/又は第二のハイドロゲル高分子の局所的な濃縮は、特に、第一のハイドロゲル高分子が第一の細胞11に対して細胞接着性を有し、及び/又は第二のハイドロゲル高分子が第二の細胞12に対して細胞接着性を有する場合に顕著となる。
【0105】
すなわち、この場合、第一の細胞11及び/又は第二の細胞12は、それが接着しているハイドロゲル高分子を手繰り寄せながら凝集するため、当該第一の細胞11及び/又は第二の細胞12の近傍のハイドロゲル高分子は、当該第一の細胞11及び/又は第二の細胞12から離れたハイドロゲル高分子に比べて顕著に濃縮される。
【0106】
ハイドロゲル体40内におけるハイドロゲル高分子の密度の分布は、例えば、当該ハイドロゲル高分子に特異的な染色法を用いることにより、確認することができる。具体的に、例えば、ハイドロゲル体40に含まれる第一のハイドロゲル高分子を、蛍光標識した抗体を用いて染色し、染色後の当該ハイドロゲル体40を蛍光顕微鏡下で観察することにより、第一の細胞凝集塊51の内部における蛍光強度と、第一のハイドロゲル被覆部41aにおける蛍光強度とを比較することにより、当該第一の細胞凝集塊51の内部における第一のハイドロゲル高分子の密度と、第一のハイドロゲル被覆部41aにおける第一のハイドロゲル高分子の密度とを定量的に比較することができる。
【0107】
具体的に、第一の細胞凝集塊51を含むハイドロゲル体40において、第一のハイドロゲル被覆部41aにおける第一のハイドロゲル高分子の密度に対する、当該第一の細胞凝集塊51の内部における当該第一のハイドロゲル高分子の密度は、例えば、2倍以上であることとしてもよく、5倍以上であることとしてもよく、10倍以上であることとしてもよい。
【0108】
このようなハイドロゲル体40内における、ハイドロゲル高分子の偏在は、まず気相110中で、分散された細胞を含むハイドロゲル体40を形成し、その後、当該ハイドロゲル体40内で当該細胞を培養して細胞凝集塊形成するという本方法に特徴的な操作に起因するものである。
【0109】
本方法により製造されるハイドロゲル体40においては、第一の細胞11と第二の細胞12との相互作用のための境界面、及び/又は、第一の細胞凝集塊51と第二の細胞凝集塊52との相互作用のための境界面(当該第一の細胞凝集塊51と第二の細胞凝集塊52とが結合している場合には、その結合面)の大きさを任意に設定することができるため、当該ハイドロゲル体40は、例えば、細胞間相互作用の研究ツールや、所望の細胞間相互作用が達成される移植用組織体として有用である。
【0110】
具体的に、例えば、上述のようにして、毛包上皮系細胞の細胞凝集体と、毛包間葉系細胞の細胞凝集体とが結合して形成された毛包原基を含むハイドロゲル体40は、当該2つの細胞凝集体の結合面の大きさを調節することにより、移植後の当該毛包原基から生える毛の数を調節することもできる。
【0111】
このため、本発明は、例えば、疾患や事故等の原因により毛包が損傷した患者の治療、又は当該治療のための研究ツールとして有用である。本発明を適用可能な疾患としては、例えば、男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia:AGA)、女子男性型脱毛症(Female Androgenetic Alopecia:FAGA)、分娩後脱毛症、びまん性脱毛症、脂漏性脱毛症、粃糠性脱毛症、牽引性脱毛症、代謝異常性脱毛症、圧迫性脱毛症、円形脱毛症、神経性脱毛症、抜毛症、全身性脱毛症、症候性脱毛症が挙げられる。
【0112】
また、本方法により製造されるハイドロゲル体40は、毛包組織に限られず、例えば、毛包組織、皮膚組織、肝臓組織、心臓組織、腎臓組織、神経組織、骨組織、軟骨組織、骨髄組織、肺組織、腺組織、歯周組織又は血液といった組織を生体外で再構築した組織体として、疾患の治療(例えば、移植組織としての利用)や、脱毛を伴う疾患の治療又は予防に使用され得る物質の探索、及び/又は当該疾患の機構に関与する物質の探索等の研究ツールとしても有用である。
【0113】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0114】
[上皮系細胞及び間葉系細胞の採取]
胎齢18日のC57BL/6マウス胎児より背部の皮膚組織を採取し、中尾らが報告した方法(Koh-ei Toyoshima et al. Nature Communication, 3, 784, 2012)を一部改変して、ディスパーゼ処理を4℃で1時間、30rpm震盪条件で行い、当該皮膚組織の上皮層と間葉層とを分離した。その後、上皮層に100U/mLのコラゲナーゼ処理を1時間20分施し、さらにトリプシン処理を10分施すことで、上皮系細胞を単離した。また、間葉層には100U/mLのコラゲナーゼ処理を1時間20分施すことで間葉系細胞を単離した。
【0115】
[細胞含有ハイドロゲル体の形成]
上述のようにして採取した間葉系細胞をI型コラーゲン溶液(コラーゲンType1-A、新田ゼラチン株式会社製)に懸濁して、分散された当該間葉系細胞を1×104cells/2μLの密度で含む第一のハイドロゲル細胞懸濁液を調製した。次いで、大気中で、第一のハイドロゲル細胞懸濁液約2μLを、ポリスチレン基材の撥水性表面上に滴下して、分散された間葉系細胞を含む第一のハイドロゲル液滴を形成した。
【0116】
一方、上述のようにして採取した上皮系細胞をI型コラーゲン溶液(コラーゲンType1-A、新田ゼラチン株式会社製)に懸濁して、分散された当該上皮系細胞を1×104cells/2μLの密度で含む第二のハイドロゲル細胞懸濁液を調製した。次いで、大気中、第二のハイドロゲル細胞懸濁液約2μLを、上記撥水性表面上における第一のハイドロゲル液滴に隣接する位置に滴下することにより、分散された上皮系細胞を含み、当該第一のハイドロゲル液滴に連結した第二のハイドロゲル液滴を形成した。こうして、大気中、撥水性表面上で、第一のハイドロゲル液滴と第二のハイドロゲル液滴とが連結して形成されたハイドロゲル液滴連結体を得た。
【0117】
その後、大気中、撥水性表面上のハイドロゲル液滴連結体を37℃で30分インキュベーションすることにより、コラーゲンをゲル化させて、細胞含有ハイドロゲル体を形成した。
【0118】
[細胞含有ハイドロゲル体の培養]
上述のようにして形成された細胞含有ハイドロゲル体に、ピペットを用いて培養液を流し当てることにより、当該細胞含有ハイドロゲル体を撥水性表面から脱離させて回収し、培養液に分散した。培養液としては、DMEM培地とKG2培地との混合培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン含有)を使用した。
【0119】
次いで、培養容器として浮遊培養用96ウェルプレート(Primesurface(登録商標)96Uプレート)を使用し、当該プレートの各ウェルに、細胞含有ハイドロゲル体が1個ずつ含まれるように、当該細胞含有ハイドロゲル体を含む培養液を100μLずつ注入した。その後、各ウェル内で3日間、細胞含有ハイドロゲル体を浮遊状態で培養した。
【0120】
[結果]
図6A,
図6B及び
図6Cには、それぞれ培養初日(D0)、培養1日目(D1)及び培養3日目(D3)の細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す。
図6A~
図6Cにおいて白っぽく示される部分は、予め蛍光色素(Vybrant(商標) DiI Cell-Labeling Solution)で細胞膜を染色された間葉系細胞である。また、
図6A~
図6Cにおいて白い破線で囲まれている部分が、細胞含有ハイドロゲル体である。
図6A~
図6Cのスケールバーは200μmを示す。
【0121】
図7には、位相差顕微鏡下で、培養初日(D0)、培養1日目(D1)、培養2日目(D2)及び培養3日目(D3)における細胞含有ハイドロゲル体の投影面積(mm
2)を評価した結果を示す(n=10)。
【0122】
図6A~
図6C及び
図7に示すように、培養時間が経過するにつれて、細胞含有ハイドロゲル体の内部において間葉系細胞同士、及び上皮系細胞同士が、それぞれ自発的に凝集して、間葉系細胞凝集塊及び上皮系細胞凝集塊を形成するとともに、当該細胞含有ハイドロゲル体は収縮した。また、細胞含有ハイドロゲル体において、間葉系細胞凝集塊と上皮系細胞凝集塊とは結合を形成していた。
【0123】
図7の結果に基づき算出すると、培養1日目の細胞含有ハイドロゲル体の体積は、培養初日の細胞含有ハイドロゲル体のそれの約5%であり、培養3日目の細胞含有ハイドロゲル体の体積は、当該培養初日の細胞含有ハイドロゲル体の体積の約1%であった。
【0124】
なお、このような細胞含有ハイドロゲル体の培養経過に伴う収縮は、例えば、当該細胞含有ハイドロゲル体に含まれる細胞がコラーゲンゲルの繊維に接着し、さらに当該細胞が当該コラーゲンゲルを手繰り寄せながら凝集することにより生じたものと推測された。
【実施例2】
【0125】
[上皮系細胞及び間葉系細胞の採取]
上述の実施例1と同様にして、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児の皮膚組織から、上皮系細胞及び間葉系細胞をそれぞれ単離した。
【0126】
[細胞含有ハイドロゲル体の形成]
上述の実施例1と同様にして、大気中、撥水性表面上において、分散された間葉系細胞を含む第一のハイドロゲル液滴と、分散された上皮系細胞を含む第二のハイドロゲル液滴とを連結させてハイドロゲル液滴連結体を形成し、さらに、当該ハイドロゲル液滴連結体をゲル化して、細胞含有ハイドロゲル体を形成した。
【0127】
[細胞含有ハイドロゲル体の培養]
上述の実施例1と同様にして、細胞含有ハイドロゲル体を撥水性表面から脱離させて回収し、混合培地中で3日間、浮遊状態で培養した。
【0128】
[マウスへの移植]
上述のようにして3日間培養した細胞含有ハイドロゲル体(生体外で製造した毛包原基)を回収して、ヌードマウスの皮内に移植した。すなわち、ヌードマウスにイソフルラン吸引麻酔を施し、その背部をイソジンで消毒した。次いで、Vランスマイクロメス(日本アルコン)を用いて、皮膚の表皮層から真皮層下部に至る移植創を形成した。そして、この移植創に、細胞含有ハイドロゲル体を1つずつ注入した。なお、ヌードマウスの飼育及び移植実験は、横浜国立大学動物実験委員会の指針を遵守して行った。
【0129】
[結果]
図8A、
図8B及び
図8Cには、それぞれ移植後11日目、移植後19日目及び移植後24日目における、ヌードマウスに移植した細胞含有ハイドロゲル体から生えた毛の写真を示す。
【0130】
図8A~
図8Cに示すように、移植後11目において、移植された細胞含有ハイドロゲル体からの発毛が確認され、その後、移植後19日目及び移植後24日目には、毛がさらに伸びていることが確認された。すなわち、上述のようにして製造された細胞含有ハイドロゲル体は、毛髪再生に関する治療や研究に有用であることが示された。
【実施例3】
【0131】
[上皮系細胞及び間葉系細胞の採取]
上述の実施例1と同様にして、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児の皮膚組織から、上皮系細胞及び間葉系細胞をそれぞれ単離した。
【0132】
[細胞含有ハイドロゲル体の形成]
上述の実施例1と同様にして、大気中、撥水性表面上において、分散された間葉系細胞を含む第一のハイドロゲル液滴と、分散された上皮系細胞を含む第二のハイドロゲル液滴とを連結させてハイドロゲル液滴連結体を形成し、さらに、当該ハイドロゲル液滴連結体をゲル化して、細胞含有ハイドロゲル体を形成した。
【0133】
[細胞含有ハイドロゲル体の培養]
上述の実施例1と同様にして、混合培地中で3日間、細胞含有ハイドロゲル体の浮遊培養を行った。
【0134】
[スフェロイド融合組織の形成]
一方、比較の対照として、予め形成された上皮系細胞スフェロイドと、間葉系細胞スフェロイドとを融合させることにより、スフェロイド融合組織を製造した。すなわち、まず上述の実施例1と同様にして、胎齢18日のC57BL/6マウス胎児の皮膚組織から上皮系細胞及び間葉系細胞をそれぞれ単離した。
【0135】
次いで、分散された上皮系細胞を含む細胞懸濁液を、96ウェルスフェロイド培養プレート(Prime surface 96U、住友ベークライト株式会社製)の各ウェルに、1×104cells/100μLずつ播種した。
【0136】
そして、各ウェルで上皮系細胞の浮遊培養を1日行うことにより、当該上皮系細胞を自発的に凝集させて、当該各ウェルに1つずつ、当該上皮系細胞凝集塊である上皮系細胞スフェロイドを形成した。
【0137】
同様に、各ウェルで間葉系細胞の浮遊培養を1日行うことにより、当該間葉系細胞を自発的に凝集させて、当該各ウェルに1つずつ、当該間葉系細胞凝集塊である間葉系細胞スフェロイドを形成した。
【0138】
さらに、1つの上皮系細胞スフェロイドと1つの間葉系細胞スフェロイドとを同じウェルに入れて6日間、浮遊培養を行った。なお、培養液としては、DMEM培地とKG2培地との混合培地(10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン含有)を使用した。このスフェロイド混合培養においては、1つの上皮系細胞スフェロイドと1つの間葉系細胞スフェロイドとは培養時間の経過に伴い融合して、1つのスフェロイド融合組織を形成した。
【0139】
[結果]
図9A、
図9B及び
図9Cには、それぞれ培養1日目、3日目及び6日目におけるスフェロイド融合組織の蛍光顕微鏡写真を示す。
図10A、
図10B及び
図10Cには、それぞれ培養1日目、3日目及び6日目における細胞含有ハイドロゲル体の蛍光顕微鏡写真を示す。各図において、白い破線で囲まれた部分が、スフェロイド融合組織又は細胞含有ハイドロゲル体である。また、各図のスフェロイド融合組織又は細胞含有ハイドロゲル体において白っぽく示される部分は、予め蛍光色素(Vybrant(商標) DiI Cell-Labeling Solution)で細胞膜を染色された間葉系細胞である。各図のスケールバーは、200μmを示す。
【0140】
図9A~
図9Cに示すように、スフェロイド融合組織は、培養時間の経過に伴って、その形状が大きく変化するとともに、細胞が移動し、培養6日目には、当該組織全体に、上皮系細胞及び間葉系細胞が入り混じって存在していた。
【0141】
これに対し、
図10A~
図10Cに示すように、細胞含有ハイドロゲル体においては、培養1日目において、上皮系細胞が凝集して上皮系細胞凝集塊が形成されるとともに、間葉系細胞が凝集して間葉系細胞凝集体が形成されていた。そして、培養1日目以降は、細胞含有ハイドロゲル体の形状がほとんど変化せず、上皮系細胞凝集体が含まれる部分と、間葉系細胞凝集体が含まれる部分とが安定して維持された。
【0142】
すなわち、細胞含有ハイドロゲル体においては、培養期間を通じて、上皮系細胞凝集体と、間葉系細胞凝集体との境界が安定して維持された。なお、
図10Cに示される細胞含有ハイドロゲル体の間葉系細胞凝集塊に観察される黒い点は、メラニン色素の存在を示していると推測された。