(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】研磨具ホルダおよび研磨工具
(51)【国際特許分類】
B24B 49/16 20060101AFI20220920BHJP
B24B 45/00 20060101ALI20220920BHJP
B24B 29/00 20060101ALI20220920BHJP
B24D 13/14 20060101ALI20220920BHJP
B24D 3/28 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B45/00 Z
B24B29/00 H
B24D13/14 A
B24D3/28
(21)【出願番号】P 2019564279
(86)(22)【出願日】2018-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2018022754
(87)【国際公開番号】W WO2019138595
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/000340
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】597022425
【氏名又は名称】株式会社ジーベックテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】391062595
【氏名又は名称】大明化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】福島 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋一
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/021460(WO,A1)
【文献】特開2003-031530(JP,A)
【文献】特開2007-168051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0235142(US,A1)
【文献】米国特許第8250720(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/16
B24B 45/00
B24B 29/00
B24D 13/14
B24D 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に接続されるシャンクを備え、砥材ホルダおよび当該砥材ホルダに保持された砥材を有する研磨具を着脱可能に保持
し、前記シャンクが前記工作機械のスピンドルに接続され前記工作機械により前記シャンクの軸線回りに回転させられて使用される研磨具ホルダにおいて、
前記研磨具を前記シャンクの軸線方向に移動可能に支持する支持機構と、
駆動源を備え、前記研磨具を前記軸線方向に移動させる移動機構と、
前記支持機構に支持された前記研磨具によってワークを研磨しているときに当該ワークの側から当該研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、
前記負荷検出器からの出力に基づいて前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記軸線方向に移動させる制御部と、を有
し、
前記支持機構は、前記砥材ホルダが連結される連結部材を備え、
前記連結部材は、前記軸線方向に貫通する貫通穴を備え、
前記貫通穴の内周面には、雌ネジが設けられており、
前記移動機構は、前記駆動源としてのモータと、前記貫通穴を貫通して延びる軸部材と、前記モータの回転を前記軸部材に伝達する駆動力伝達機構と、前記軸部材の外周面に設けられて前記雌ネジと螺合する雄ネジと、前記連結部材と前記軸部材との供回りを規制する回転規制機構と、を備え、
前記制御部は、前記モータの駆動により前記軸部材を回転させて前記連結部材を前記軸線方向に移動させることを特徴とする研磨具ホルダ。
【請求項2】
前記制御部は、前記負荷検出器からの出力に基づいて前記ワークの側から当該研磨具にかかる負荷が予め定めた設定負荷よりも低下したと判断した場合には、前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記ワークに接近する方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項3】
前記制御部は、前記負荷検出器からの出力に基づいて前記ワークの側から当該研磨具にかかる負荷が予め定めた設定負荷よりも上昇したと判断した場合には、前記移動機構を駆
動して前記研磨具を前記ワークから離間する方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項4】
前記制御部は、前記移動機構を駆動しているときに前記負荷検出器からの出力を監視し、前記出力に基づいて前記移動機構の駆動を停止して前記研磨具の移動を停止させることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項5】
前記負荷検出器は、前記支持機構により支持された前記研磨具にかかる前記軸線方向の圧力を検出する圧力センサであることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項6】
前記負荷検出器は、前記支持機構により支持された前記研磨具の振動を検出する振動検出器であることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項7】
前記負荷検出器は、前記支持機構により支持された前記研磨具に発生している音の振幅を検出する音波検出器であることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項8】
前記制御部が前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記ワークに接近する方向に移動させる毎に、移動回数をカウントする計数部を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項9】
前記移動機構の前記駆動源に電力を供給する第1電源と、
前記制御部に電力を供給する第2電源と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項10】
前記負荷検出器からの出力を外部に送信するための無線通信部を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項11】
前記制御部と外部の機器との間の通信を行う無線通信部を有することを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項12】
前記支持機構は、前記連結部材の外周側で当該連結部材を軸線方向に案内する案内部材を備え、
前記案内部材は、前記軸線方向に延びる溝部を備え、
前記連結部材は、外周側に突出して前記溝部に挿入された突起を備え、
前記回転規制機構は、前記溝部と前記突起とを備えることを特徴とする請求項1に記載の研磨具ホルダ。
【請求項13】
前記案内部材は、前記シャンクと同軸に延びる筒状のスリーブであり、
前記支持機構は、研磨具を、前記砥材ホルダが前記スリーブ内に位置し、前記砥材の一部分が前記スリーブから突出させて支持することを特徴とする請求項12に記載の研磨具ホルダ。
【請求項14】
前記移動機構は、前記軸部材を前記軸線方向に移動可能かつ当該軸線回りに回転可能に支持する支持部材を備え、
前記支持部材は、前記軸線方向で前記連結部材と前記駆動力伝達機構との間に位置し、
前記駆動力伝達機構は、前記軸部材と平行な回転軸回りに回転し前記モータの駆動力が伝達される最終歯車と、前記軸部材に同軸に固定され前記最終歯車と噛合する出力歯車と、前記出力歯車を前記支持部材に向かって付勢する付勢部材と、を備え、
前記圧力センサは、前記軸部材に前記軸線方向から接触して当該軸部材にかかる圧力を検出することを特徴とする請求項5に記載の研磨具ホルダ。
【請求項15】
請求項1に記載の研磨具ホルダと、
前記研磨具と、を有し、
前記砥材は、長さ方向を前記軸線方向に向けて並列に配列された複数本の線状砥材を備え、
前記砥材ホルダは、前記複数本の線状砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持し、
前記研磨具は、前記研磨具ホルダに保持されて、前記複数本の線状砥材の他方の端部をワークに接触させて当該ワークを研磨することを特徴とする研磨工具。
【請求項16】
請求項1に記載の研磨具ホルダと、
前記研磨具と、を有し、
前記砥材は、弾性砥石であり、
前記砥材ホルダは、前記弾性砥石の前記軸線方向の一方の端部を保持し、
前記研磨具は、前記研磨具ホルダに保持されて、前記弾性砥石の他方の端部をワークに接触させて当該ワークを研磨することを特徴とする研磨工具。
【請求項17】
前記弾性砥石は、弾性発泡体と、ポリマーと、砥粒とを含むことを特徴とする請求項16に記載の研磨工具。
【請求項18】
請求項1に記載の研磨具ホルダと、
前記研磨具と、を有し、
前記砥材は、剛性の砥石であり、
前記砥材ホルダは、前記砥石の前記軸線方向の一方の端部を保持し、
前記研磨具は、前記研磨具ホルダに保持されて、前記砥石の他方の端部をワークに接触させて当該ワークを研磨することを特徴とする研磨工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨ブラシなどの研磨具を着脱可能に保持する研磨具ホルダに関する。また、研磨具が研磨具ホルダに保持された研磨工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを切削或いは研磨するための研磨工具は特許文献1に記載されている。同文献の研磨工具は、研磨具と、研磨具を着脱可能に保持する研磨具ホルダと、を有する。研磨具は、研磨ブラシであり、並列に配置された複数本の線状砥材と、これら複数本の線状砥材の一方の端部を保持する砥材ホルダと、を有する。研磨具ホルダは、シャンクと、シャンクと同軸のスリーブと、を備える。研磨ブラシは、砥材ホルダがスリーブ内に固定され、複数本の線状砥材の自由端(他方の端部)がスリーブから突出する姿勢で研磨具ホルダに保持される。ワークを切削或いは研磨する際には、研磨工具のシャンクが工作機械のスピンドルに接続される。工作機械は、研磨工具をシャンクの軸線回りに回転させるとともに、スリーブから突出する複数本の線状砥材の他方の端部をワークに接触させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工作機械がスピンドルとワークとの間の距離を一定に維持した状態でワークに対する加工を行っているときに研磨ブラシの線状砥材が摩耗すると、線状砥材の自由端の位置がワークから離間する方向に移動する。従って、線状砥材が過度に摩耗すると、工作機械が研磨ブラシをワークに接触させている切込み量が低下して、ワークに対する加工精度を維持することが困難となる。このような問題を解消するためには、工作機械が、線状砥材が摩耗するのに伴って研磨工具をワークに接近する方向に移動させて、ワークに対する線状砥材の自由端の位置を維持しながら加工動作を行うことが考えられる。しかし、工作機械にこのような制御を行わせる場合には、工作機械を制御するための制御プログラムが複雑になる。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、研磨具の砥材が摩耗した場合でも、ワークに対する研磨或いは切削の加工精度を維持できる研磨具ホルダを提供することにある。また、このような研磨具ホルダに研磨具を保持した研磨工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、工作機械に接続されるシャンクを備え、砥材ホルダおよび当該砥材ホルダに保持された砥材を有する研磨具を着脱可能に保持し、前記シャンクが前記工作機械のスピンドルに接続され前記工作機械により前記シャンクの軸線回りに回転させられて使用される研磨具ホルダにおいて、前記研磨具を前記シャンクの軸線方向に移動可能に支持する支持機構と、駆動源を備え、前記研磨具を前記軸線方向に移動させる移動機構と、前記支持機構に支持された前記研磨具によってワークを研磨しているときに当該ワークの側から当該研磨具にかかる負荷を検出する負荷検出器と、前記負荷検出器からの出力に基づいて前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記軸線方向に移動させる制御部と、を有し、前記支持機構は、前記砥材ホルダが連結される連結部材を備え、前記連結部材は、前記軸線方向に貫通する貫通穴を備え、前記貫通穴の内周面には、雌ネジが設けられており、前記移動機構は、前記駆動源としてのモータと、前記貫通穴を貫通して延びる軸部材と、前記モータの回転を前記軸部材に伝達する駆動力伝達機構と、前記軸部材の外周面に設けられて前記雌ネジと螺合する雄ネジと、前記連結部材と前記軸部材との供回りを規制する回転規制機構と、を備え、前記制御部は、前記モータの駆動により前記軸部材を回転させて前記連結部材を前記軸線方向に移動させることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、研磨具ホルダが負荷検出器を備えるので、工作機械に接続された研磨工具がワークを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークの側から研磨ブラシにかかる負荷を検出できる。また、研磨具ホルダは、負荷検出器からの出力に基づいて移動機構を駆動して研磨ブラシを前記軸線方向に移動させる制御部を備える。従って、砥材が過度に摩耗した場合には、制御部が、研磨具をワークに接近する方向に移動させて、砥材のワークに対する切込み量を元に戻すことができる。すなわち、工作機械がスピンドルとワークとの間の距離を一定に維持した状態で加工を行っているときに砥材が過度に摩耗した状態となると、ワークに接触している砥材の端の位置がワークから離間する方向に移動する。これにより、工作機械が砥材をワークに接触させている切込み量が低下するので、ワークの側から研磨具にかかる負荷が低下する。よって、制御部が、負荷検出器からの出力(負荷の低下)に基づいて移動機構を駆動して研磨具を軸線方向でワークに接近させる方向に移動させれば、切込み量を増加させることができる。
【0008】
また、本発明によれば、スピンドルとワークとの間の距離を一定に維持した状態で加工を開始したときに、スピンドルとワークとの間の距離が短くて、ワークに過度な加工を施してしまうような場合にも、ワークに対する加工精度を維持できる。例えば、ワークの寸法誤差などによってスピンドルとワークとの間の距離が接近し過ぎている場合には、工作機械が砥材をワークに接触させている切込み量が増加する。従って、ワークに過度な切削、研磨を施してしまうことがある。このような場合には、切込み量の上昇によりワークの側から研磨具にかかる負荷が上昇する。従って、研磨具ホルダの制御部が、負荷検出器からの出力(負荷の上昇)に基づいて制御部が移動機構を駆動して研磨具を軸線方向でワークに離間させる方向に移動させれば、切込み量を低減させることができる。これにより、ワークに対する加工精度を維持できる。
【0009】
本発明において、前記制御部は、前記負荷検出器からの出力に基づいて前記ワークの側から当該研磨具にかかる負荷が予め定めた設定負荷よりも低下したと判断した場合には、前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記ワークに接近する方向に移動させることが望ましい。このようにすれば、砥材が摩耗したときに、研磨具をワークに接近させることができる。
【0010】
本発明において、前記制御部は、前記負荷検出器からの出力に基づいて前記ワークの側から当該研磨具にかかる負荷が予め定めた設定負荷よりも上昇したと判断した場合には、前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記ワークから離間する方向に移動させることが望ましい。このようにすれば、研磨具をワークに接触させる切込み量が大きすぎる場合に、切込み量を適切なものとすることができる。
【0011】
本発明において、前記制御部は、前記移動機構を駆動しているときに前記負荷検出器からの出力を監視し、前記出力に基づいて前記移動機構の駆動を停止して前記研磨具の移動を停止させることが望ましい。
【0012】
本発明において、前記負荷検出器は、前記支持機構により支持された前記研磨具にかかる前記軸線方向の圧力を検出する圧力センサとすることができる。すなわち、工作機械は、加工動作中に砥材をワークに接触させている。従って、ワークの側から研磨具にかかる負荷が変化すると、研磨具にかかる軸線方向の圧力が変動する。よって、圧力センサを用いれば、加工動作中にワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。
【0013】
本発明において、前記負荷検出器は、前記支持機構により支持された前記研磨具の振動を検出する振動検出器とすることができる。すなわち、工作機械は、加工動作中に砥材をワークに接触させている。従って、ワークの側から研磨具にかかる負荷が変化すると、研磨具の振動が変化する。よって、振動検出器を用いれば、ワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。例えば、加工動作中に研磨具の砥材が過度に摩耗して、ワークに接触している砥材の端の位置がワークから離間する方向に移動した場合には、ワークの側から研磨具にかかる負荷が小さくなるのに伴って研磨具の振動が小さくなる。一方、移動機構を駆動して研磨具を軸線方向でワークに接近させる方向に移動させれば、切込み量が増加してワークの側から研磨具にかかる負荷が大きくなるのに伴って、研磨具の振動が大きくなる。
【0014】
本発明において、前記負荷検出器は、前記支持機構により支持された前記研磨具に発生している音の振幅を検出する音波検出器とすることができる。すなわち、工作機械は、加工動作中に砥材をワークに接触させている。従って、ワークの側から研磨具にかかる負荷が変化すると、研磨具の振動が変化する。また、研磨具の振動が変化すると、研磨具に発生している音の振幅が変化する。よって、音波検出器を用いれば、ワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。例えば、加工動作中に研磨具の砥材が過度に摩耗して、ワークに接触している砥材の端の位置がワークから離間する方向に移動した場合には、ワークの側から研磨具にかかる負荷が小さくなるのに伴って研磨具の振動が小さくなる。従って、研磨具に発生している音の振幅は小さくなる。一方、移動機構を駆動して研磨具を軸線方向でワークに接近させる方向に移動させれば、切込み量が増加してワークの側から研磨具にかかる負荷が大きくなるのに伴って、研磨具の振動が大きくなる。従って、研磨具に発生している音の振幅は大きくなる。
【0015】
本発明において、前記制御部が前記移動機構を駆動して前記研磨具を前記ワークに接近する方向に移動させる毎に、移動回数をカウントする計数部を有することが望ましい。このようにすれば、移動回数に基づいて、砥材の摩耗状態を把握できる。これにより、研磨具の交換時期を把握することが容易となる。
【0016】
本発明において、前記移動機構の前記駆動源に電力を供給する第1電源と、前記制御部に電力を供給する第2電源と、を有することが望ましい。このようにすれば、研磨具ホルダに対して外部から電力を供給する必要がない。従って、研磨工具を工作機械のスピンドルに接続し、回転させることが容易である。
【0017】
本発明において、前記負荷検出器からの出力を外部に送信するための無線通信部を有することが望ましい。このようにすれば、ワークの側から研磨具にかかる負荷の状態を、外部からモニタすることができる。
【0018】
本発明において、前記制御部と外部の機器との間の通信を行う無線通信部を有することが望ましい。このようにすれば、制御部による制御動作を外部の機器から変更することが可能となる。
【0020】
本発明において、前記支持機構は、前記連結部材の外周側で当該連結部材を軸線方向に案内する案内部材を備え、前記案内部材は、前記軸線方向に延びる溝部を備え、前記連結部材は、外周側に突出して前記溝部に挿入された突起を備え、前記回転規制機構は、前記溝部と前記突起とを備えることが望ましい。このようにすれば、案内部材によって前記連結部材を軸線方向に案内するとともに、案内部材を用いて連結部材と軸部材との供回りを防止できる。従って、移動機構を駆動したときに、連結部材を軸線方向に精度よく移動させることができる。
【0021】
前記案内部材は、前記シャンクと同軸に延びる筒状のスリーブであり、前記支持機構は、研磨具を、前記砥材ホルダが前記スリーブ内に位置し、前記砥材の一部分が前記スリーブから突出させて支持することが望ましい。このようにすれば、研磨具が砥材として線状砥材の束を備える場合、或いは、研磨具が砥材として弾性砥石を備える場合などに、スリーブによって、砥材が外周側に撓む撓み量を抑制できる。
【0022】
本発明において、前記移動機構は、前記軸部材を前記軸線方向に移動可能かつ当該軸線回りに回転可能に支持する支持部材を備え、前記支持部材は、前記軸線方向で前記連結部材と前記駆動力伝達機構との間に位置し、前記駆動力伝達機構は、前記軸部材と平行な回転軸回りに回転し前記モータの駆動力が伝達される最終歯車と、前記軸部材に同軸に固定され前記最終歯車と噛合する出力歯車と、前記出力歯車を前記支持部材に向かって付勢する付勢部材と、を備え、前記圧力センサは、前記軸部材に前記軸線方向から接触して当該軸部材にかかる圧力を検出するものとすることができる。このようにすれば、ワークの側から研磨具にかかる負荷の変化に起因して連結部材が軸線方向に移動したときに、軸部材が軸線方向に移動する。従って、軸部材に軸線方向から接触して当該軸部材にかかる圧力を検出する圧力センサにより、ワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。また、出力歯車が固定された軸部材と最終歯車の回転軸は平行なので、軸部材が軸線方向に移動した場合でも、出力歯車と最終歯車との噛合は解除されることがなく、モータの回転は駆動力伝達機構を介して軸部材に伝達される。
【0023】
次に、本発明の研磨工具は、上記の研磨具ホルダと、前記研磨具と、を有し、前記砥材は、長さ方向を前記軸線方向に向けて並列に配列された複数本の線状砥材を備え、前記砥材ホルダは、前記複数本の線状砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持し、前記研磨具は、前記研磨具ホルダに保持されて、前記複数本の線状砥材の他方の端部をワークに接触させて当該ワークを研磨することを特徴とする。
【0024】
本発明の研磨工具によれば、研磨具ホルダが負荷検出器を備えるので、工作機械に接続された研磨工具がワークを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。また、研磨具ホルダは、負荷検出器からの出力に基づいて移動機構を駆動して研磨具を軸線方向に移動させる制御部を備える。従って、線状砥材が過度に摩耗して研磨具にかかる負荷が低下した場合には、研磨具ホルダが研磨具をワークの側に接近させて、研磨具によるワークの切込み量を前の状態に戻すことができる。さらに、スピンドルとワークとの間の距離を一定に維持した状態で加工を行っているときに、スピンドルとワークとの間の距離が接近して研磨具にかかる負荷が上昇した場合には、研磨ホルダが研磨具をワークから離間させて、研磨具によるワークの切込み量を低減させることができる。これにより、ワークに対する加工精度を維持できる。また、本発明の研磨工具によれば、研磨具は、砥材として、複数本の線状砥材を備える。ここで、線状砥材は撓むので、研磨部ホルダが研磨具をワークに接近させる方向に移動させてワークへの切込み量を増加させたときに、研磨具の砥材が破損することを防止或いは抑制できる。
【0025】
また、本発明の別の形態の研磨工具は、上記の研磨具ホルダと、前記研磨具と、を有し、前記砥材は、弾性砥石であり、前記砥材ホルダは、前記弾性砥石の前記軸線方向の一方の端部を保持し、前記研磨具は、前記研磨具ホルダに保持されて、前記弾性砥石の他方の端部をワークに接触させて当該ワークを研磨することを特徴とする。
【0026】
本発明の研磨工具によれば、研磨具ホルダが負荷検出器を備えるので、工作機械に接続された研磨工具がワークを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。また、研磨具ホルダは、負荷検出器からの出力に基づいて移動機構を駆動して研磨具を軸線方向に移動させる制御部を備える。従って、砥材が過度に摩耗して研磨具にかかる負荷が低下した場合には、研磨具ホルダが研磨具をワークの側に接近させて、研磨具によるワークの切込み量を前の状態に戻すことができる。さらに、スピンドルとワークとの間の距離を一定に維持した状態で加工を行っているときに、スピンドルとワークとの間の距離が接近して研磨具にかかる負荷が上昇した場合には、研磨ホルダが研磨具をワークから離間させて、研磨具によるワークの切込み量を低減させることができる。これにより、ワークに対する加工精度を維持できる。ここで、研磨具の砥材は弾性を備える。従って、研磨部ホルダが研磨具をワークに接近させる方向に移動させてワークへの切込み量を増加させたときに、研磨具の砥材が破損することを防止或いは抑制できる。
【0027】
本発明において、前記弾性砥石は、弾性発泡体と、ポリマーと、砥粒とを含むものとすることができる。
【0028】
さらに、本発明の別の形態の研磨工具は、上記の研磨具ホルダと、前記研磨具と、を有し、前記砥材は、砥石であり、前記砥材ホルダは、前記砥材の前記軸線方向の一方の端部を保持し、前記研磨具は、前記研磨具ホルダに保持されて、前記砥材の他方の端部をワークに接触させて当該ワークを研磨することを特徴とする。
【0029】
本発明によれば、研磨工具の研磨具ホルダが負荷検出器を備えるので、工作機械に接続された研磨工具がワークを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークの側から研磨具にかかる負荷を検出できる。また、研磨工具の研磨具ホルダは、負荷検出器からの出力に基づいて移動機構を駆動して研磨具を軸線方向に移動させる制御部を備える。従って、砥材が過度に摩耗して研磨具にかかる負荷が低下した場合には、研磨具ホルダが研磨具をワークの側に接近させて、研磨具によるワークの切込み量を前の状態に戻すことができる。さらに、スピンドルとワークとの間の距離を一定に維持した状態で加工を行っているときに、スピンドルとワークとの間の距離が接近して研磨具にかかる負荷が上昇した場合には、研磨ホルダが研磨具をワークから離間させて、研磨具によるワークの切込み量を低減させることができる。これにより、ワークに対する加工精度を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明を適用した実施例1の研磨工具の斜視図である。
【
図2】実施例1の研磨工具の研磨具である研磨ブラシの斜視図である。
【
図4】制御部が研磨ブラシの移動を制御する制御動作の説明図である。
【
図5】制御部が研磨ブラシの移動を制御する制御動作の説明図である。
【
図6】加工動作中に圧力センサから出力されるセンサ検出圧力のグラフである。
【
図7】本発明を適用した実施例2の研磨工具の斜視図である。
【
図8】実施例2の研磨工具の研磨具の斜視図である。
【
図9】本発明を適用した実施例3の研磨工具の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態である研磨工具を説明する。
(実施例1)
図1は本発明を適用した研磨工具の外観斜視図である。
図1に示すように、研磨工具1は、複数本の線状砥材2(砥材)を備える研磨ブラシ3(研磨具)と、研磨ブラシ3を着脱可能に保持する研磨ブラシホルダ4(研磨具ホルダ)と、を有する。研磨ブラシホルダ4は、工作機械5に接続されるシャンク6と、シャンク6と同軸のスリーブ7と、を備える。シャンク6とスリーブ7との間には、シャンク6およびスリーブ7と比較して大径の大径部8が設けられている。研磨ブラシ3は、スリーブ7から線状砥材2の端部を突出させた状態で研磨ブラシホルダ4に保持されている。
【0032】
研磨工具1は研磨ブラシホルダ4のシャンク6が工作機械5のスピンドル5a(
図4参照)に接続される。工作機械5は、研磨工具1をシャンク6の軸線L回りに回転させる。また、工作機械5は、スリーブ7から突出する線状砥材2の端部をワークWに接触させて当該ワークWを切削あるいは研磨する。以下の説明では、シャンク6の軸線L方向を研磨工具1の軸線L方向とする。また、軸線L方向において、スリーブ7が位置する側を研磨工具1の前方L1とし、シャンク6が位置する側を研磨工具1の後方L2とする。
【0033】
(研磨ブラシ)
図2は研磨工具1が備える研磨ブラシ3の斜視図である。
図3は
図1の研磨工具1の概略構造を示す説明図である。
図3では研磨工具1を軸線Lに沿って切断している。
【0034】
図2に示すように、研磨ブラシ3は、並列に配置された複数本の線状砥材2と、これら複数本の線状砥材2の一方の端部を保持する砥材ホルダ11と、を有する。複数本の線状砥材2が並列に配置されているとは、複数本の線状砥材2において、各線状砥材2の長さ方向が平行または略平行に配置された状態である。線状砥材2は、アルミナ長繊維などといった無機長繊維の集合糸にバインダー樹脂を含浸、硬化させたものである。
図3に示すように、砥材ホルダ11は、軸線L方向に延びるホルダ貫通穴12を備える環状の部材である。また、砥材ホルダ11は、
図2に示すように、その前端面に、複数の線状砥材保持孔13を備える。各線状砥材保持孔13は円形である。複数本の線状砥材保持孔13は、軸線L回りの等角度間隔に設けられてホルダ貫通穴12を囲んでいる。
【0035】
複数本の線状砥材2は、複数本ずつ小分けされて束ねられている。束ねられた状態の砥材束14は、その後端部(一方の端部)が線状砥材保持孔13に挿入されている。各砥材束14は、線状砥材保持孔13に充填された接着剤により砥材ホルダ11に固定されている。また、
図3に示すように、砥材ホルダ11は、その後端面に、ホルダ貫通穴12を包囲する凹部を備える。凹部は、研磨ブラシ3を研磨ブラシホルダ4に着脱可能に装着するためのブラシ側連結部15(研磨具側連結部)である。
【0036】
(研磨ブラシホルダ)
図3に示すように、研磨ブラシホルダ4は、シャンク6と、研磨ブラシ3を軸線L方向に移動可能に支持する支持機構21と、研磨ブラシ3を軸線L方向に移動させる移動機構22と、を備える。
【0037】
支持機構21は、スリーブ7と、軸線L方向に移動可能な状態でスリーブ7内に配置された連結部材24を備える。スリーブ7は筒状である。その後端には、外周側に広がるフランジ7aが設けられている。フランジ7aは大径部8の前端面を規定している。
【0038】
連結部材24は、スリーブ7の内周面7bと僅かな隙間を開けて対向する環状の対向面25aを備える円盤部25と、円盤部25の中心から前方L1に突出する突起26を備える。突起26は、研磨ブラシ3のブラシ側連結部15に嵌合する形状を備える連結部である。研磨ブラシ3は、そのブラシ側連結部15が連結部材24の連結部(突起26)に嵌合することにより、研磨ブラシホルダ4に着脱可能に装着される。研磨ブラシ3が連結部材24に連結された状態では、研磨ブラシ3と連結部材24とは一体となり、これらが軸線L回りで相対回転することはない。また、連結部材24は、前記軸線L方向に貫通する貫通穴28を備える。貫通穴28の内周面には、雌ネジ29が設けられている。
【0039】
研磨ブラシ3は、連結部材24に装着されることにより、軸線L方向に移動可能な状態で支持機構21に支持される。また、研磨ブラシ3は、砥材ホルダ11がスリーブ7内に位置し、複数本の線状砥材2の他方の前端部(他方の端部・自由端)がスリーブ7から突出した姿勢で支持機構21に支持される。研磨ブラシ3が連結部材24に装着されると、連結部材24の貫通穴28と、ホルダ貫通穴12とは連通する。ホルダ貫通穴12の内径寸法は連結部材24の貫通穴28の内径寸法よりも大きい。
【0040】
ここで、スリーブ7は、その内周面7bに、軸線L方向に延びる溝部31を備える。連結部材24は、環状の対向面25の周方向の一部分に、外周側に突出して軸線L方向に延びる突起32を備える。連結部材24は、突起32をスリーブ7の溝部31内に挿入した状態でスリーブ7内に配置される。従って、連結部材24が軸線L方向に移動する際に、連結部材24は溝部31に沿って案内される。よって、スリーブ7は連結部材24を軸線L方向に案内する案内部材である。なお、溝部31は、径方向に貫通して軸線L方向に延びる長穴としてスリーブ7に設けられていてもよい。
【0041】
移動機構22は、駆動源としてのモータ35を備える。本例では、モータ35は、ステッピングモータである。また、移動機構22は、軸線L方向に延びる軸部材36と、軸部材36を軸線L方向に移動可能かつ当該軸線L回りに回転可能に支持する支持部材37と、モータ35の回転を軸部材36に伝達する駆動力伝達機構38と、軸部材36の外周面に設けられた雄ネジ39と、連結部材24と軸部材36との軸線L回りの供回りを規制する回転規制機構40と、備える。支持部材37は、軸線Lと直交する方向に広がる円盤状の部材である。
【0042】
ここで、大径部8は、筒部16と、筒部16の後端開口を封鎖する封鎖部17と、を有するハウジング18を備える。シャンク6は封鎖部17の中心部分から後方L2に突出している。支持部材37は筒部16の前端開口を封鎖している。支持部材37において軸線Lと直交する径方向の外側に位置する環状の外周面37aは、筒部16の外周面とともに大径部8の外周面を構成している。モータ35および駆動力伝達機構38はハウジング18と支持部材37とによって区画された大径部8の内側の空間に配置されている。
【0043】
支持部材37は、軸線L方向で駆動力伝達機構38と連結部材24との間に位置する。支持部材37の中心には、軸部材36を支持するための軸穴41が軸線L方向に貫通している。支持部材37の前面はスリーブ7のフランジ7aに固定されている。軸部材36は、軸穴41を貫通するとともに、スリーブ7内に配置された連結部材24の貫通穴28を貫通する。また、軸部材36は、連結部材24に装着された研磨ブラシ3のホルダ貫通穴12を貫通して前方L1に延びる。軸部材36の雄ネジ39は連結部材24の貫通穴28の雌ネジ29に螺合する。スリーブ7の内周面7bに設けられた溝部31と、連結部材24の外周面に設けられた突起32とは、回転規制機構40を構成する。
【0044】
駆動力伝達機構38は、モータ35の駆動力が伝達される最終歯車45と、軸部材36に同軸に固定されて最終歯車45と噛合する出力歯車46と、出力歯車46を支持部材37に向かって付勢する付勢部材47と、を備える。最終歯車45は支持部材37から後方L2に延びる支軸48に回転可能に支持されている。支軸48は軸部材36と平行である。従って、最終歯車45と軸部材36に固定された出力歯車46とは平行な回転軸回りに回転する。出力歯車46は、付勢部材47の付勢力により、後方L2から支持部材37に当接している。
【0045】
軸部材36が後方L2に移動すると、軸部材36に固定された出力歯車46は、付勢部材47の付勢力に抗して、後方L2に移動する。従って、軸部材36が後方L2に移動する際には、軸部材36は付勢部材47の付勢力に抗して移動している。軸部材36が後方L2に移動すると、出力歯車46は支持部材37から後方L2に離間する。
【0046】
ここで、出力歯車46が固定された軸部材36と最終歯車45の回転軸は平行である。従って、出力歯車46が軸線L方向に移動した場合でも、出力歯車46と最終歯車45との噛合状態は維持される。これにより、モータ35の回転は、常に、駆動力伝達機構38を介して、出力歯車46に伝達される。モータ35の駆動力が出力歯車46に伝達されると、軸部材36は軸線L回りに回転する。
【0047】
(制御系)
研磨ブラシホルダ4の制御系は、
図3に示すように、CPUを備える制御部51と、制御部51に接続された不揮発性メモリ52を備える。不揮発性メモリ52には、制御部51で動作する制御プログラムが記憶保持されている。制御部51は制御プログラムを動作させることにより研磨ブラシ3の移動を制御する。
【0048】
制御部51の入力側には圧力センサ53が接続されている。圧力センサ53は、研磨ブラシ3によってワークWを研磨しているときに当該ワークWの側から当該研磨ブラシ3にかかる負荷を検出する負荷検出器である。圧力センサ53は、軸部材36に後方L2から接触して当該軸部材36にかかる圧力を検出する。制御部51の出力側には、モータ35が接続されている。
【0049】
制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)が予め定めた第1圧力閾値よりも低下したと判断すると、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を前方L1に移動させる。制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)が予め定めた第2圧力閾値よりも上昇していると判断すると、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を後方L2に移動させる。さらに、制御部51は、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を移動させているときに圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視し、監視している出力に基づいてモータ35の駆動を停止して研磨ブラシ3の移動を停止させる。
【0050】
また、制御部51には、制御部51がモータ35(移動機構22)を駆動して研磨ブラシ3を前方L1に移動させる毎に移動回数をカウントする計数部54と、制御部51と外部の機器との間の通信を行う無線通信部55と、が接続されている。計数部54は、研磨ブラシ3を前方L1に移動させるためにモータ35に入力された駆動ステップ数を計数して、移動回数として、制御部51に入力する。なお、計数部54は、制御部51の一部として構成されていてもよい。この場合には、制御部51が、研磨ブラシ3を前方L1に移動させるための駆動信号をモータ35に入力する毎に、計数部54が移動回数をカウントする。
【0051】
無線通信部55は、例えば、IEEE802.11の規格により規定される無線ネットワークを介して外部の機器と制御部51との間で通信を行う。制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P:
図6参照)を、無線通信部55を介して、外部の機器に送信する。また、制御部51は、計数部54によりカウントされた研磨ブラシ3の移動回数を、無線通信部55を介して、外部の機器に送信する。なお、外部の機器は、無線ネットワークおよび無線通信部55を介して、不揮発性メモリ52に記憶保持される制御プログラムを書き換えることができる。
【0052】
ここで、研磨ブラシホルダ4は、移動機構22の駆動源であるモータ35に電力を供給するモータ用電池57(第1電源)を備える。また、研磨ブラシホルダ4は、制御部51、圧力センサ53、計数部54、無線通信部55に電力を供給する制御用電池58(第2電源)を備える。モータ用電池57および制御用電池58は、外部からケーブルを接続して充電可能である。制御部51、不揮発性メモリ52、計数部54、無線通信部55、モータ用電池57、および、制御用電池58は、ハウジング18と支持部材37とにより区画された大径部8の内側の空間に配置されている。
【0053】
(制御動作)
次に、研磨工具1によってワークWを切削或いは研磨する加工動作中に、制御部51が研磨ブラシホルダ4に保持された研磨ブラシ3を移動させる制御動作を説明する。制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)に基づいてモータ35(移動機構22)を駆動して研磨ブラシ3を軸線L方向に移動させる。
図4、
図5は加工動作の説明図である。
図6は加工動作中において圧力センサ53から出力されるセンサ検出圧力Pを示すグラフである。
図4、
図5において、上側の図は、工作機械5に研磨工具1を接続してワークWを加工している状態を示す。
図4、
図5において、下側の図は、上側の図において点線で囲んだ範囲Aを拡大して示す部分拡大図である。
図4は、加工動作中において、工作機械5が線状砥材2をワークWに接触させている切込み量が適切な状態を示す。
図5は、加工動作中において、線状砥材2が摩耗して、工作機械5が線状砥材2をワークWに接触させている切込み量が低減した状態を示す。
【0054】
本例では、工作機械5は、
図4、
図5に示すように、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に維持した状態で、研磨ブラシ3の線状砥材2の自由端をワークWに接触させてワークWの加工を行う。換言すれば、工作機械5は、研磨工具1のスリーブ7の前端7cとワークWとの間の距離D1を一定に維持した状態で、研磨ブラシ3の線状砥材2の自由端をワークWに接触させてワークWの加工を行う。
【0055】
図4に示すように、加工動作中において、工作機械5が線状砥材2をワークWに接触させている切込み量S1が適切な状態では、軸部材36は、付勢部材47の付勢力に抗して後方L2に移動している。すなわち、加工動作中には、ワークWの側から研磨ブラシ3に負荷(圧力F1)がかかる。また、この負荷(圧力F1)は、連結部材24を介して軸部材36に伝わる。従って、軸部材36は、出力歯車46を付勢する付勢部材47の付勢力に抗して、後方L2に移動している。よって、
図6の時点t0に示すように、圧力センサ53は、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷(圧力F1)に対応するセンサ検出圧力P1を検出する。ここで、センサ検出圧力P1は、圧力F1と付勢部材47による付勢力との差分に対応するものである。軸部材36が後方L2に移動した状態では、軸部材36に固定された出力歯車46は支持部材37から後方L2に離間している。
【0056】
次に、線状砥材2が摩耗すると、
図5に示すように、線状砥材2の前端2aの位置がワークWから離間する方向に移動するので、工作機械5が線状砥材2をワークWに接触させている切込み量S1は減少して、切込み量S2となる。この結果、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷は、圧力F1よりも小さい圧力F2となる。よって、圧力センサ53は、
図6の時点t1に示すように、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷(圧力F2)に対応するセンサ検出圧力P2を検出する。
【0057】
ここで、制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P2)が予め定めた第1圧力閾値P3よりも低下したと判断すると、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を前方L1に移動させる(
図5の二点鎖線の矢印参照)。換言すれば、制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)に基づいてワークWの側から研磨ブラシ3にかかる圧力F2が予め定めた設定負荷よりも低下したと判断すると、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を前方L1に移動させる。
【0058】
そして、制御部51は、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を移動させているときに圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視し、監視している出力に基づいてモータ35の駆動を停止して研磨ブラシ3の移動を停止させる。これにより、
図4に示すように、切込み量S2を切込み量S1に近い状態として、ワークWに対する研磨工具1の加工精度を維持する。
【0059】
また、本例では、制御部51は、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を移動させているときに圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視し、監視している出力に基づいてモータ35の駆動を停止するので、摩耗による線状砥材2の全長の変化に起因して研磨ブラシ3がワークWを切削或いは研磨する加工性能が変化した場合でも、研磨工具1の加工精度を維持できる。
【0060】
すなわち、線状砥材2の摩耗が少なく線状砥材2の全長が長い場合には、線状砥材2のコシが弱く、研磨ブラシ3の加工性能が低い。従って、研磨ブラシ3をワークWに接近させた初期の時点では、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる圧力(負荷)は小さい。よって、制御部51が研磨ブラシ3の移動中に圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視して、
図6に示すように、そのセンサ検出圧力Pが所定のセンサ検出圧力P4となる時点t2で研磨ブラシ3の移動を停止すれば(モータ35の駆動を停止すれば)、研磨ブラシ3の移動量が大きくなる。研磨ブラシ3の移動量が大きくなると、工作機械5が研磨ブラシ3をワークWに接触させている切込み量が大きくなるので、線状砥材2のコシが弱い場合でも、研磨ブラシ3がワークWを加工する加工精度を維持できる。
【0061】
一方、線状砥材2が摩耗して線状砥材2の全長が短くなった場合には、線状砥材2のコシが強く、研磨ブラシ3の加工性能が上昇している。従って、研磨ブラシ3をワークWに接近させた初期の時点から、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる圧力(負荷)が大きい。よって、制御部51が研磨ブラシ3の移動中に圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視して、
図6に示すように、そのセンサ検出圧力Pが所定のセンサ検出圧力P4となる時点t2で研磨ブラシ3の移動を停止すれば(モータ35の駆動を停止すれば)、研磨ブラシ3の移動量が小さくなる。研磨ブラシ3の移動量が小さくなると、工作機械5が研磨ブラシ3をワークWに接触させている切込み量が小さくなるので、線状砥材2のコシが強い場合でも、研磨ブラシ3がワークWを加工する加工精度を維持できる。
【0062】
なお、本例によれば、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に維持した状態で加工を開始したときに、ワークWの寸法誤差などにより、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dが短くて、ワークWに過度な加工を施してしまうような場合にも、ワークWに対する加工精度を維持できる。
【0063】
すなわち、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dが接近し過ぎている場合には、工作機械5が線状砥材2をワークWに接触させている切込み量が増加するので、ワークWに過度な切削、研磨を施してしまうことがある。このような場合には、線状砥材2をワークWに接触させている切込み量が上昇して、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷(圧力)が上昇する。従って、制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)に基づいてモータ35を駆動して、研磨ブラシ3を後方L2に移動させる。すなわち、制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)が予め定めた第2圧力閾値(センサ検出圧力P)よりも上昇していると判断すると、モータ35を駆動して研磨ブラシ3を後方L2に移動させる。
【0064】
ここで、研磨ブラシ3を後方L2に移動すると、研磨ブラシ3がワークWから離間するのに伴って、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷(圧力)は減少する。よって、制御部51が研磨ブラシ3の移動中に圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視して、そのセンサ検出圧力P1が所定のセンサ検出圧力P4となる時点で研磨ブラシ3の移動を停止すれば、工作機械5が研磨ブラシ3をワークWに接触させている切込み量が適切なものとなる。これにより、研磨ブラシ3がワークWを加工する加工精度を維持できる。
【0065】
また、本例によれば、研磨ブラシ3の線状砥材2が摩耗して短くなったときに、工作機械5が、加工精度を維持するために、スピンドル5aをワークWに接近する方向に移動させる必要がない。すなわち、本例によれば、工作機械5は、加工動作中にスピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定として、加工姿勢を維持できる。
【0066】
(作用効果)
本例によれば、研磨ブラシホルダ4が圧力センサ53を備えるので、工作機械5に接続された研磨工具1がワークWを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷(圧力)を検出できる。また、研磨ブラシホルダ4の制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)に基づいて移動機構22を駆動して研磨ブラシ3を前記軸線L方向に移動させる。これにより、研磨工具1は、研磨ブラシ3の線状砥材2が摩耗した場合でも、ワークWに対する研磨或いは切削の加工精度を維持できる。従って、線状砥材2が摩耗するのに伴って研磨工具1をワークWに接近する方向に移動させる等の複雑な制御動作を工作機械5に行わせる必要がない。よって、工作機械5を制御するための制御プログラムが複雑化することを回避できる。さらに、本例によれば、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に維持した状態で加工を開始したときに、ワークWの寸法誤差などによりスピンドル5aとワークWとの間の距離Dが短くてワークWに過度な加工を施してしまうような場合にも、ワークWに対する加工精度を維持できる。
【0067】
また、本例では、研磨具の砥材が複数本の線状砥材14からなる。ここで、線状砥材14は撓むので、研磨ブラシホルダ4が研磨ブラシ3をワークWに接近させる方向に移動させてワークWへの切込み量を増加させたときに、研磨具の砥材が破損することを防止或いは抑制できる。
【0068】
また、本例によれば、工作機械5は、加工動作中にスピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に保つことができるので、その加工姿勢を維持できる。従って、工作機械5は工作機械5の静的精度の影響を受けずにワークWを加工できる。よって、研磨工具1装着した工作機械5がワークWを加工する加工動作では、加工動作の開始時点から終了時点まで加工動作を一定に保ちやすい。
【0069】
ここで、工作機械5は、加工動作中にスピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に保つ。従って、線状砥材2の全長が過度に短くなっているにも関わらず工作機械5が研磨工具1をワークWに接近させてしまうことを回避できる。これにより、研磨工具1のスリーブ7がワークWやワークWの近傍に位置する他の部材に接触する干渉事故を防止できる。
【0070】
また、本例では、スリーブ7は軸線L方向に延びる溝部31を備える。一方、連結部材24は、外周側に突出して溝部31に挿入された突起32を備える。これにより、スリーブ7は、連結部材24を軸線L方向に案内する。また、スリーブ7の溝部31と連結部材24の突起32とは、連結部材24と軸部材36との供回りを規制する回転規制機構40を構成する。従って、モータ35(移動機構22)を駆動したときに、連結部材24(研磨ブラシ3)を軸線L方向に精度よく移動させることができる。
【0071】
さらに、本例では、研磨ブラシホルダ4がスリーブ7を備えるので、研磨工具1を回転させたときに研磨ブラシ3の線状砥材14が外周側に撓む撓み量を規定できる。
【0072】
また、本例では、制御部51は、計数部54によりカウントされた研磨ブラシ3の移動回数を、無線通信部55を介して外部の機器に送信している。従って、移動回数を受信した外部の機器では、移動回数に基づいて、研磨ブラシ3の線状砥材2の摩耗状態を把握できる。よって、研磨ブラシ3の交換時期を把握することができる。
【0073】
さらに、本例では、制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を、無線通信部55を介して、外部の機器に送信している。従って、外部の機器により、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷の状態をモニタして、負荷の状態を把握することができる。ここで、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷の状態を把握できれば、研磨工具1による研磨工程の前にワークWに対して行われた前工程による加工状態、例えば、前工程で発生したバリの大きさなどの状態を把握することが可能となる。
【0074】
また、本例では、研磨ブラシホルダ4は、モータ用電池57と、制御用電池58とを備える。従って、研磨ブラシホルダ4に対して外部から電力を供給する必要がない。よって、研磨工具1を工作機械5のスピンドル5aに接続した状態で回転させることが容易である。
【0075】
(変形例)
モータ用電池57および制御用電池58は無線充電可能なものとしてもよい。また、モータ用電池57および制御用電池58は、研磨ブラシホルダ4に対して着脱可能とされており、交換が可能とすることができる。さらに、研磨ブラシホルダ4にモータ用電池57および制御用電池58を保持せず、外部から電力を供給してもよい。なお、モータ用電池57と制御用電池58とを一つの電池として、同一の電源から電力を供給することもできる。
【0076】
また、無線通信部55は、赤外線通信やBluetooth(登録商標)などを介して外部の機器と制御部51との間で通信を行うものとすることもできる。
【0077】
さらに、上記の例では、連結部材24とスリーブ7との軸線L回りの相対回転を規制する回転規制機構40は、スリーブ7の内周面7bに設けられた凹部と、連結部材24の外周面に設けられた突起32とから構成されるが、回転規制機構40の構成はこれに限られるものではない。例えば、スリーブ7は、その内周面7bに、内周側に突出して軸線L方向に延びる突起32を備え、連結部材24は、スリーブ7の内周面7bと対向する対向面25に、軸線L方向に延びる溝部31を備えてもよい。この場合、連結部材24が、その溝部31にスリーブ7の突起32が挿入された状態でスリーブ7内に配置されることにより、回転規制機構40が構成される。また、例えば、スリーブ7を角筒形状として、研磨ブラシ3の砥材ホルダ11を軸線L方向から見た場合の形状をスリーブ7の形状に対応する多角形とすることにより、回転規制機構40を構成することもできる。
【0078】
また、モータ35で軸部材36を直接駆動するダイレクトドライブ機構を採用することもできる。この場合には、モータ35のロータ(出力軸)を軸部材36の後方L2に同軸に接続する。駆動力伝達機構38は、モータ35のロータ(出力軸)と軸部材36とを接続する接続部材である。また、この場合には、モータ35において、ロータを軸線L方向に移動可能に支持しておき、圧力センサ53をロータに後方L2から接触させる。圧力センサ53は、モータ3のロータにかかる圧力を、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷として、検出する。
【0079】
さらに、圧力センサ53に替えて、支持機構21により支持された研磨ブラシ3の振動を検出する振動検出器を負荷検出器として用いてもよい。すなわち、工作機械5は加工動作中に研磨ブラシ3の線状砥材2の前端部をワークWに接触させているので、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷が変化すると、研磨ブラシ3の振動が変化する。よって、振動検出器を用いれば、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷を検出できる。例えば、加工動作中に研磨ブラシ3が過度に摩耗して、線状砥材2の前端2aの位置がワークWから離間する方向に移動した場合には、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷が小さくなるのに伴って研磨ブラシ3の振動が小さくなる。一方、移動機構22を駆動して研磨ブラシ3を前方L1に移動させれば、切込み量が増加してワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷が大きくなるのに伴って、研磨ブラシ3の振動が大きくなる。ここで、振動検出器は、例えば、軸部材36の後端の振動を検出することにより、研磨ブラシ3の振動を検出するものとすることができる。
【0080】
また、圧力センサ53に替えて、支持機構21により支持された研磨ブラシ3に発生している音の振幅を検出する音波検出器を負荷検出器として用いることもできる。すなわち、工作機械5は加工動作中に研磨ブラシ3の線状砥材2の前端部をワークWに接触させているので、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷が変化すると、研磨ブラシ3の振動が変化する。また、研磨ブラシ3の振動が変化すると、研磨ブラシ3に発生している音の振幅が変化する。よって、音波検出器を用いれば、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷を検出できる。例えば、加工動作中に研磨ブラシ3が過度に摩耗して、線状砥材2の前端2aの位置がワークWから離間する方向に移動した場合には、ワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷が小さくなるのに伴って研磨ブラシ3の振動が小さくなる。従って、研磨ブラシ3に発生している音の振幅は小さくなる。一方、移動機構22を駆動して研磨ブラシ3を前方L1に移動させれば、切込み量が増加してワークWの側から研磨ブラシ3にかかる負荷が大きくなるのに伴って、研磨ブラシ3の振動が大きくなる。従って、研磨ブラシ3に発生している音の振幅は大きくなる。
【0081】
(実施例2)
図7は本発明を適用した実施例2の研磨工具の外観斜視図である。
図8は実施例2の研磨工具が備える研磨具の斜視図である。実施例2の研磨工具1Aの、研磨具60は、砥材として、弾性砥石61を備えるものであり、線状砥材14を備えるものではない。なお、研磨工具1Aは実施例1の研磨工具1と対応する構成を備えるので、対向する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0082】
図7に示すように、研磨工具1Aは、研磨具60と、研磨具60を着脱可能に保持する研磨具ホルダ4と、を有する。
図8に示すように、研磨具60は、砥材ホルダ11と、砥材ホルダ11に保持された弾性砥石61とを備える。研磨具ホルダ4は、実施例1の研磨工具1の研磨ブラシホルダ4と同一の構成を備える。
【0083】
(研磨具)
図8に示すように、研磨具60は、砥材として、軸線L方向に延びる円柱形状の弾性砥石61を備える。砥材ホルダ11は、弾性砥石61の軸線L方向の一方の端部を保持する。弾性砥石61は、弾性発泡体と、ポリマーと、砥粒とを含む。本例では、弾性発泡体はメラミン樹脂発泡体である。また、本例では、弾性発泡体は、一方向に圧縮されることにより弾性力に異方性が付与された異方弾性発泡体である。
【0084】
弾性砥石61の基材は、異方弾性発泡体に、ポリマーと砥粒を含む分散液を含浸させ、焼成することにより得られる。異方弾性発泡体において弾性力が最も強い方向は圧縮方向である。弾性砥石61は、研磨具60が研磨具ホルダ4に保持されたときに、異方弾性発泡体の圧縮方向が軸線L方向と一致するように形成される。
【0085】
ポリマーは、結着剤として機能する。ポリマーは、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、或いは、ポリロタキサンのうちのいずれかである。本例では、ポリマーはポリロタキサンである。砥粒は、ワークの種類によって適宜選択される。砥粒としては、ダイヤ、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、チタニア、酸化セリウム、又はジルコニアを用いることができる。また、砥材は、クルミ、合成樹脂等の有機物である。本例では、砥粒はアルミナである。
【0086】
また、本例の弾性砥石61は、以下の条件を満たす。
ポリマーと砥粒間の結合力>異方弾性発泡体とポリマーの内部結合力>異方弾性発泡体の内部結合力
【0087】
このような条件を満たすので、弾性砥石61は、加工動作時に、まず、内部結合力の小さい異方弾性発泡体が脱落していき、異方弾性発泡体よりも結合力の大きいポリマーと砥粒が一定の割合で表出する。次に、ポリマーと砥粒とが脱落し、異方弾性発泡体が表出する。ここで、異方弾性発泡体は容易に脱落するので、ポリマーと砥粒とが、再び、一定の割合で表出する。この結果、弾性砥石61では、ポリマーと砥粒が表出する割合が一定の範囲に保たれる。従って、弾性砥石61による加工動作によって精密な表面精度を得ることができる。
【0088】
図8に示すように、砥材ホルダ11は、軸線L方向に延びるホルダ貫通穴12を備える環状の部材である。また、砥材ホルダ11は、その前端面に、ホルダ貫通穴12を包囲する円形の砥材保持凹部13を備える。ホルダ貫通穴12の前端開口は、砥材保持凹部13の円形底面の中心に開口している。弾性砥石61は、軸線L方向の後端部分が砥材保持凹部13に挿入され、接着剤により砥材ホルダ11に固定される。また、砥材ホルダ11は、その後端面に、ホルダ貫通穴12を包囲する凹部を備える。凹部は、研磨具60を研磨具ホルダ4に着脱可能に装着するための研磨具側連結部15である。
【0089】
研磨具60は、研磨具側連結部15が研磨具ホルダ4の連結部材24の連結部(突起26)に装着される。これにより、研磨具60は、軸線L方向に移動可能な状態で研磨具ホルダ4の支持機構21に支持される。また、研磨具60は、砥材ホルダ11がスリーブ7内に位置し、弾性砥石61の前端部がスリーブ7から突出した姿勢で、支持機構21に支持される。研磨具60が連結部材24に装着されると、連結部材24の貫通穴28と、ホルダ貫通穴12とは連通する。
【0090】
さらに、研磨具60が支持機構21に支持された状態では、移動機構22の軸部材36は、スリーブ7内において連結部材24の貫通穴28を貫通する。また、軸部材36の前端部分は、連結部材24に装着された研磨ブラシ3のホルダ貫通穴12に挿入された状態となる。
【0091】
ここで、研磨工具1AによってワークWを切削或いは研磨する加工動作中に、研磨具ホルダ4の制御部51が研磨具60を移動させる制御動作は、実施例1の研磨工具1において研磨ブラシホルダ4の制御部51が研磨ブラシ3を移動させる制御動作と同様である。
【0092】
(作用効果)
本例の研磨工具1Aにおいても、実施例1の研磨工具1と同様の作用効果を得ることができる。
【0093】
すなわち、本例においても、研磨具ホルダ4が圧力センサ53を備えるので、工作機械5に接続された研磨工具1AがワークWを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークWの側から研磨具60にかかる負荷(圧力)を検出できる。また、研磨具ホルダ4の制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)に基づいて移動機構22を駆動して研磨具60を前記軸線L方向に移動させる。これにより、研磨工具1Aは、研磨具60の弾性砥石61が摩耗した場合でも、ワークWに対する研磨或いは切削の加工精度を維持できる。従って、弾性砥石61が摩耗するのに伴って研磨工具1AをワークWに接近する方向に移動させる等の複雑な制御動作を工作機械5に行わせる必要がない。よって、工作機械5を制御するための制御プログラムが複雑化することを回避できる。さらに、本例によれば、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に維持した状態で加工を開始したときに、ワークWの寸法誤差などによりスピンドル5aとワークWとの間の距離Dが短くてワークWに過度な加工を施してしまうような場合にも、ワークWに対する加工精度を維持できる。
【0094】
また、本例では、研磨具3の砥材(弾性砥石61)が弾性を備える。従って、研磨具ホルダ4が研磨具3をワークWに接近させる方向に移動させてワークWへの切込み量を増加させたときに、研磨具3の砥材が破損することを防止或いは抑制できる。ここで、弾性砥石61は、砥粒と、ゴム等の結合剤と、を含むものでもよい。また、弾性砥石61は、砥粒と、エポキシ樹脂等の結合剤と、を含むものでもよい。
【0095】
さらに、本例では、研磨具ホルダ4がスリーブ7を備えるので、研磨工具1Aを回転させたときに研磨具3の弾性砥石61が外周側に撓む撓み量を規定できる。
【0096】
本例の研磨工具1Aにおいても、実施例1の研磨工具1の変形例を採用できる。
【0097】
(実施例3)
図9は実施例3の研磨工具の斜視図である。本例の研磨工具1Bは、実施例2の研磨工具1Aの研磨具60の砥材を弾性砥石61から剛性の砥石71に変更したものである。
図9に示すように、研磨工具1Bは、研磨具70と、研磨具60を着脱可能に保持する研磨具ホルダ4と、を有する。研磨具70は、砥材ホルダ11と、砥材ホルダ11に保持された剛性の砥石71とを備える。砥石71は砥粒をビトリファイド等の結合剤で固めたもの、或いは、天然砥石である。砥石71は軸線L方向に延びる円柱形状である。研磨工具1Bにおいて砥石71を除く他の構成は、実施例2の研磨工具1Aと同一である。従って、研磨工具1Bにおいて研磨工具1Aと対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
(作用効果)
本例の研磨工具1Bにおいても、実施例1の研磨工具1と同様の作用効果を得ることができる。
【0099】
すなわち、本例においても、研磨具ホルダ4が圧力センサ53を備えるので、工作機械5に接続された研磨工具1BがワークWを切削或いは研磨する加工動作中に、ワークWの側から研磨具70にかかる負荷(圧力)を検出できる。また、研磨具ホルダ4の制御部51は、圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)に基づいて移動機構22を駆動して研磨具70を前記軸線L方向に移動させる。これにより、研磨工具1Bは、研磨具70の砥石71が摩耗した場合でも、ワークWに対する研磨或いは切削の加工精度を維持できる。従って、砥石71が摩耗するのに伴って研磨工具1BをワークWに接近する方向に移動させる等の複雑な制御動作を工作機械5に行わせる必要がない。よって、工作機械5を制御するための制御プログラムが複雑化することを回避できる。さらに、本例によれば、スピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に維持した状態で加工を開始したときに、ワークWの寸法誤差などによりスピンドル5aとワークWとの間の距離Dが短くてワークWに過度な加工を施してしまうような場合にも、ワークWに対する加工精度を維持できる。
【0100】
ここで、本例では、研磨具70の砥材が剛性の磁石71なので、ワークWに対して過剰な切込み量を設定すると、磁石71が破損する可能性がある。従って、本例の研磨工具1Bを用いて加工動作を開始する際には、まず、軸線L方向における研磨具70の位置を研磨具70の移動可能範囲内で最も後方L2に配置させておく。これにより、工作機械5がスピンドル5aとワークWとの間を距離D(
図4参照)としたときに、砥石71の前端面71aがワークに接触しない状態とする。
【0101】
次に、制御部51は、モータ35を駆動して研磨具3を前方L1に移動させる。そして、制御部51は、研磨具3を移動させているときに圧力センサ53からの出力(センサ検出圧力P)を監視し、監視している出力に基づいてモータ35の駆動を停止して研磨具3の移動を停止させる。すなわち、制御部51は、圧力センサ53からの出力に基づいて砥石71の前端面71aがワークWに接触した状態が検出されると、モータ35の駆動を停止して研磨具3の移動を停止させる。これにより、研磨具3のワークWに対する切込み量が過剰になることを回避できるので、加工動作時に砥石71が破損することを防止或いは抑制できる。
【0102】
なお、本例の研磨工具1Bにおいても、実施例1の研磨工具1の変形例を採用できる。
【0103】
(その他の実施の形態)
上記の研磨工具1~1Bでは、研磨具ホルダ4は、連結部材24を軸線L方向に案内する案内部材としてスリーブ7を備える。しかし、案内部材は筒状のスリーブ7に限られるものではない。例えば、軸線Lに沿って延びる4本の円柱を連結部材24の外周側に等角度間隔に配置することにより、スリーブ7に代わる案内部材とすることができる。
【0104】
この場合、案内部材は、周方向で隣り合う2本の円柱の間の隙間が軸線L方向に延びる溝部31となる。従って、連結部材24の突起32を溝部31に挿入すれば、連結部材24が軸線L方向に移動する際に、連結部材24は溝部31に沿って案内される。また、溝部31と連結部材24の突起32とは、連結部材24と軸部材36とが供回りすることを規制する回転規制機構40を構成する。従って、モータ35(移動機構22)を駆動したときに、連結部材24を軸線L方向に精度よく移動させることができる。
【0105】
なお、研磨具ホルダ4がスリーブ7を備えていない場合には、工作機械5は、そのスピンドル5aとワークWとの間の距離Dを一定に維持して加工動作を行う。