(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】光う蝕診断計及び光う蝕診断計の作動方法、並びにう蝕診断システム
(51)【国際特許分類】
A61C 19/04 20060101AFI20220920BHJP
A61B 1/24 20060101ALI20220920BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220920BHJP
A61B 1/045 20060101ALI20220920BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
A61C19/04 Z
A61B1/24
A61B1/00 731
A61B1/00 554
A61B1/045 610
A61B10/00 E
(21)【出願番号】P 2020553112
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039804
(87)【国際公開番号】W WO2020080219
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018196773
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】595148176
【氏名又は名称】学校法人大阪歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間 久直
(72)【発明者】
【氏名】粟津 邦男
(72)【発明者】
【氏名】吉川 一志
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-170088(JP,A)
【文献】特開2001-299699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/04
A61B 1/24
A61B 1/00
A61B 1/045
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、歯に当接する圧子と、受光素子とを備えた光う蝕診断計であって、
前記圧子は、光透過性を有し、かつ先細り形状を有しており、
前記光源は、前記圧子に光を出射し、
前記受光素子は、前記圧子の先端部からの光を受光し、
前記圧子の先端部と前記受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズを有していることを特徴とする光う蝕診断計。
【請求項10】
う蝕を診断する
ための、
請求項1~9のいずれかに記載の光う蝕診断計
の作動方法であって、
前記圧子の先端部が非当接の状態で、前記光源から出射し前記圧子の先端部で反射された反射光を前記受光素子
が受光し撮像するステップと
、
前記圧子の先端部が歯に当接した状態で、前記光源から出射し前記圧子の先端部で反射された反射光を前記受光素子
が受光し撮像するステップと、
からなる光う蝕診断
計の作動方法。
【請求項13】
光源と、歯肉に当接する圧子と、受光素子とを備えた光歯周病診断計であって、
前記圧子は、光透過性を有し、かつ先細り形状を有しており、
前記光源は、前記圧子に光を出射し、
前記受光素子は、前記圧子の先端部からの光を受光し、
前記圧子の先端部と前記受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズを有していることを特徴とする光歯周病診断計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片手でも持てる小型の装置により、う蝕を診断できる光う蝕診断計、及び光う蝕診断方法、並びにそれらを含むう蝕診断システム、さらに歯周病を診断できる光歯周病診断計に関する。
【背景技術】
【0002】
歯及び歯肉の健康、ひいては全身の健康を維持するために、う蝕及び歯周病の予防や適切な治療は社会的要請である。特に高齢者においては、歯の残存数と認知症発症の関連性は非常に高いことが知られており、歯の健康を維持することが認知症予防に有効であるといわれている。予防歯科医療により、認知症発症を減らすことができれば、介護費用の大きな削減を見込むことができる。
【0003】
歯の硬組織(エナメル質、象牙質)は、う蝕に罹患すると脱灰され、欠損が生じる。エナメル質に白斑が生じる程度の軽いものは経過観察されるが、進行が進むと罹患部分を削る必要が生じる。現在のう蝕の診断及び治療において、う蝕と健全歯との識別、また治療の選択は、歯科医療者の感覚に頼っているのが現状である。例えば、う蝕と健全歯との識別は、歯科用探針や染色液等により歯科医療者の感覚で行われており、定量的な指標は得られていない。また、う蝕を切除する場合は、歯科医療者の手指の感覚に頼っている部分が多い。そのため、本来切除する必要のない歯まで切除される事例も多く、歯科医療者の経験に左右されることなくう蝕の進行程度を診断できる技術が求められている。
【0004】
また、う蝕の進行を止めるためにフッ素等の塗布が行われているが、う蝕の進行程度を定量評価して最適なフッ素等の塗布を行うためにも、う蝕の進行程度を正確に知ることが必要である。
【0005】
中でも高齢者においては、歯根部のう蝕である根面う蝕の罹患率が50%を超えているが、根面う蝕の進行程度を定量的に評価する手法は確立されていない。特に、切削すべき症例と予防処置でよい症例との間の中間状態の診断が非常に難しく、う蝕の進行程度を診断する技術の向上が必要である。
【0006】
う蝕を診断する技術として、特許文献1の「う蝕診断装置」が知られている。この装置は、う蝕部に探針を押しあて引き上げた時に生じる抵抗(タグバック)の有無を測定することにより、軟化象牙質の存在の有無を判定する。しかし、これにより軟化の有無は判別できるものの、軟化の度合いまで測定してう蝕の進行程度を定量化することはできない。
【0007】
特許文献2の「う蝕診断装置」は、歯の隣接面に光を照射することで発生する蛍光の強度を測定することにより、う蝕を診断している。しかし、この方法でもう蝕の進行程度を定量的に評価するのは困難である。さらに、歯の隣接面以外への適用も想定されていないため利用目的が制限される上、歯とプローブとの間を充填剤で満たす必要があり、測定手順が煩雑である。
【0008】
特許文献3の「硬さ測定用圧子とそれを用いた硬さ測定方法」では、定量的な硬さ測定を試みている。円錐形圧子の表面に塗料を塗布し、一定の力で圧子を測定対象に押しつけたときに対象に陥入した部分の塗料が消失することを利用して、塗料消失部の長さを顕微鏡で測定することで硬さを測定している。しかし、円錐形圧子の表面に塗料を塗布する工程に加え、測定後に顕微鏡観察が必要であるなど、工程、装置共に複数に及び、測定手順が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-29412号公報
【文献】特開2010-252911号公報
【文献】特開2011-112629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば片手でも持てる小型の装置により、う蝕及び歯周病の進行度合いを定量的に診断できるう蝕診断計及び歯周病診断計、並びにその診断方法を提供することにある。また、これらの診断計を含む診断システムを提供し、う蝕及び歯周病の予防や診断に寄与するだけでなく、低侵襲な歯科治療を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、歯及び歯肉に当接する圧子に光を入射し、その反射光を受光することで歯及び歯肉の硬さを定量的に測定できることを見出して、本発明を完成した。
【0012】
上記課題を達成し得た本発明の光う蝕診断計、光歯周病診断計、及び光う蝕診断方法、並びに該診断計を含む診断システムは、以下の点に要旨を有する。
[1]光源と、歯に当接する圧子と、受光素子とを備えた光う蝕診断計であって、
前記圧子は、光透過性を有し、かつ先細り形状を有しており、
前記光源は、前記圧子に光を出射し、
前記受光素子は、前記圧子の先端部からの光を受光することを特徴とする光う蝕診断計。
[2]前記圧子の先端部と前記受光素子の受光面が互いに結像関係となる位置に配置されているレンズを有している上記[1]に記載の光う蝕診断計。
[3]前記受光素子が、二次元に配列している単位セルを含む上記[1]又は[2]に記載の光う蝕診断計。
[4]前記圧子と前記光源との間の光路上、及び前記圧子と前記受光素子との間の光路上に配置されたビームスプリッタを有している上記[1]~[3]のいずれかに記載の光う蝕診断計。
[5]圧力センサを備え、前記圧子が歯に当接する圧力が特定の値に達すると前記受光素子が撮像する上記[1]~[4]のいずれかに記載の光う蝕診断計。
[6]前記圧子の先端部が歯に非当接であるとき(以下、単に「非当接」という場合がある。)の前記受光素子の受光強度から、前記圧子の先端部が歯に当接しているときの前記受光素子の受光強度を差し引くことにより、差分強度画像を取得する上記[1]~[5]のいずれかに記載の光う蝕診断計。
[7]所定の値を閾値として前記差分強度画像を二値化する上記[6]に記載の光う蝕診断計。
[8]前記二値化により得られた差分強度画像の外形のアスペクト比((長軸の長さ)/(短軸の長さ))が所定の値以上であるときに、エラー信号を発する上記[7]に記載の光う蝕診断計。
[9]前記閾値を超えた領域の面積を取得する上記[7]又は[8]に記載の光う蝕診断計。
[10]更に筐体を有しており、前記圧子が前記筐体に着脱可能である上記[1]~[9]のいずれかに記載の光う蝕診断計。
[11]う蝕を診断する方法であって、
上記[1]~[10]のいずれかに記載の光う蝕診断計を用意するステップと、
前記圧子の先端部の水分を除去するステップと、
前記光源から出射し前記圧子の先端部で反射された反射光を前記受光素子で受光し撮像するステップと、
前記圧子の先端部を歯に当接させるステップと、
前記圧子の先端部が歯に当接した状態で、前記光源から出射し前記圧子の先端部で反射された反射光を前記受光素子で受光し撮像するステップと、
を有している光う蝕診断方法。
[12]上記[1]~[10]のいずれかに記載の光う蝕診断計を含むう蝕診断システムであって、有線又は無線で接続されている情報端末装置と、前記情報端末装置に蓄積されている光う蝕診断情報(上記[1]~[10]のいずれかに記載の光う蝕診断計により測定されたもの)を有しているう蝕診断システム。
[13]前記情報端末装置は、さらに、上記[1]~[10]のいずれかに記載の光う蝕診断計以外の装置により測定されたう蝕診断情報を有している上記[12]に記載のう蝕診断システム。
[14]光源と、歯肉に当接する圧子と、受光素子とを備えた光歯周病診断計であって、
前記圧子は、光透過性を有し、かつ先細り形状を有しており、
前記光源は、前記圧子に光を出射し、
前記受光素子は、前記圧子の先端部からの光を受光することを特徴とする光歯周病診断計。
【発明の効果】
【0013】
う蝕や歯周病に罹患すると、歯及び歯肉は本来の硬さを失って軟化する。これに着目した本発明の光う蝕診断計及び光う蝕診断方法、並びに光歯周病診断計とそれらを含む診断システムは、歯に当接した圧子からの光の反射を定量的に測定することで歯及び歯肉の硬さを定量化し、う蝕及び歯周病の進行程度を診断することができる。それにより、う蝕と健全歯、及び歯周病の有無の識別、また、それらの進行程度を、歯科医療者の経験によらず定量的に診断できる。また、単に測定や診断を行うだけではなく、本発明のう蝕診断システムにより、パソコン、タブレット、スマートフォン等のアプリケーション等で測定及び診断結果を管理し、情報を蓄積することができる。これらを利用して歯科医療者をサポートすれば、低侵襲な歯科治療が可能となるだけでなく、う蝕及び歯周病の予防にも役立つ。これにより、医療費の大幅な削減も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)は本発明の一態様に係る圧子の側面図を表し、
図1(b)は
図1(a)に示した圧子の平面図を表し、
図1(c)は本発明の別の一態様に係る圧子の側面図を表す。
【
図2】
図2(a)は本発明の一実施形態に係る光う蝕診断計の断面図を表し、
図2(b)は
図2(a)に示した光う蝕診断計の別の断面の断面図を表す。
【
図3】
図2(b)に示した光う蝕診断計のIII-III断面図を表す。
【
図4】圧子の先端部が何にも当接していないとき(非当接)の圧子の先端部からの反射光の撮像画像を表す。
【
図5】
図5(a)は圧子の先端部が健全象牙質を有する歯に当接しているときの圧子の先端部からの反射光の撮像画像を表し、
図5(b)は圧子の先端部が脱灰象牙質を有する歯(う蝕モデル)に当接しているときの圧子の先端部からの反射光の撮像画像を表す。
【
図6】
図1(a)に示した圧子に光が入射したときの側面図を表す。
【
図8】
図8(a)は圧子の先端部が非当接であるときの圧子の先端部からの反射光の撮像画像を表し、
図8(b)は圧子の先端部が歯に当接したときの圧子の先端部からの反射光の撮像画像を表し、
図8(c)は
図8(a)の撮像強度から
図8(b)の撮像強度を差し引いた差分強度画像を表し、
図8(d)は
図8(c)の差分強度画像を二値化した二値化後差分強度画像を表す。
【
図9】
図9(a)は圧子の先端部が歯に垂直に当接したときの模式図を表し、
図9(b)は圧子の先端部が歯に垂直から逸脱して当接したときの模式図を表す。
【
図10】本発明の一実施形態に係る光う蝕診断計の模擬装置の断面図を表す。
【
図11】ヌープ硬さと二値化後差分強度画像面積の関係を示すグラフを表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0016】
本発明の光う蝕診断計は、光源と、歯に当接する圧子と、受光素子とを備えている。圧子は、光透過性を有する材料からなり、圧子の先端部は、先細り形状を有している。光源から出射した光が圧子に入射すると、該入射光は圧子の先端部で反射される。このとき、圧子の先端部が何にも当接せず空気中にあれば、該入射光は、屈折率の大きい媒質(圧子を構成する材料)から屈折率の小さい媒質(空気)に進むことで圧子の先端部において反射し、入射角によっては全反射が起きる。これを受光素子が検出する。逆に、圧子の先端部が歯に当接しているときは、全反射は起こりにくく、受光素子が検出する反射光は弱くなる。この反射光強度の減少を観測することで、当接した歯の情報を得ることができる。
【0017】
一般に、屈折率nAの物質Aに向かって、屈折率nBの物質Bから光が垂直入射する場合、物質Aの表面における表面反射率Rrefは下記式(1)で与えられる。
Rref=[(nB-nA)/(nB+nA)]2 (1)
【0018】
従って、圧子の屈折率をnp、歯の屈折率をntとすると、空気の屈折率は1.0であるから、圧子から空気に光が入射する場合の反射率は下記式(2)、圧子から歯に光が入射する場合の反射率は下記式(3)で与えられる。
Rref(圧子→空気)=[(np-1.0)/(np+1.0)]2 (2)
Rref(圧子→歯)=[(np-nt)/(np+nt)]2 (3)
圧子は固体であるから、固体の屈折率の範囲では常にRref(圧子→空気)はRref(圧子→歯)よりも大きくなる(Rref(圧子→空気)>Rref(圧子→歯))。また、上記式(1)~(3)は光が反射面に垂直入射する場合(入射角=0)の式であるが、全反射しない入射角の範囲において、入射角=0以外の場合もRref(圧子→空気)>Rref(圧子→歯)が満たされる(全反射する場合については後述する。)。すなわち、圧子の先端部が歯に当接している部分の反射光強度は弱く、当接していない部分の反射光強度は強くなるため、受光素子が受光する反射強度は圧子の先端部が歯に当接している部分の面積が大きければ減少する。ここで、歯が柔らかいほど圧子の先端部が歯に侵入する深さが増大するから、圧子の先端部が歯に当接する面積は、歯が柔らかいほど大きく、歯が固いほど小さくなる。従って、歯が柔らかいほど圧子の先端部の当接面積は大きくなり反射光強度は弱くなり、歯が固いほど圧子の先端部の当接面積は小さくなり反射強度は強くなる。こうして、受光素子が検出する反射光強度を得ることで、歯の硬さを定量的に測定することができる。
【0019】
本発明の光う蝕診断計は、上述のように、歯に当接した圧子の先端部からの反射光を測定することで、歯の硬さを定量的に求め、う蝕の診断を行う。これによれば、従来技術のように、充填剤や塗料、顕微鏡等を用いる煩雑な手順を経ずに、歯の硬さを定量的に測定できる。また、携帯に適した構成とすることも可能であるため、どのような場所でも歯の硬さを測定し、う蝕の診断ができる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る光う蝕診断計1を、
図1~
図6を参照しつつ詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る光う蝕診断計1は、光源20と、歯に当接する圧子30と、受光素子40とを備えている。
【0022】
光源20としては、特に制限されないが、半導体レーザー、発光ダイオード等が用いられる。これらは、特定の波長の光を得られるため不要な光との分離が容易であり好適である。中でも、半導体レーザーを用いる場合は、指向性を有するため好適である。
【0023】
圧子30は、光透過性を有する材料からなり、圧子30の先端部31は、先細り形状を有するように縮径されている。圧子30の先端部31の好ましい形状は、概ね錐状であり、例として
図1に示した円錐の他、多角錐等が挙げられる。中でも円錐、四角錐が好ましい。先端部31は、頂部32を有する。先端部31が円錐や多角錐等の場合は、頂部32はそれらの頂点である。圧子30の頂部32とは反対側にある面(以下、底面と呼ぶこともある。)の形状は円や多角形であってもよいが、これに制限されず任意の形状でよい。
【0024】
図1に示すのは圧子30の一例であり、
図1(a)は円柱と、円柱が縮径された円錐形とを有する圧子30の側面図である。
図1(b)は
図1(a)を真上から見た平面図である。圧子30は、直径dの円(底面)の中心と円錐の頂点とを結ぶ中心軸cを有し、円錐形の先端部31は、角度θを有する。
【0025】
圧子30の中心軸cに垂直な面の大きさは、口腔内への挿入に支障がなく歯に当接可能であれば特に制限されないが、直径又は長径が3mm以下であることが好ましく、より好ましくは2mm以下である。縮径された先端部31の角度θは、例えば
図1に示す先端部31の形状が円錐の場合は、対向する母線同士がなす角度、また例えば先端部31の形状が四角錐の場合は対向する面同士がなす角度θ(以下、単にθと呼ぶことがある。)である。
【0026】
圧子30の先端部31の頂部32は、
図1(c)に示すように、尖鋭ではなくある程度の丸み(R部)を有していてもよく、歯の形状や硬さ、また被験者の症状や年齢等によって適宜選択される。ある程度の丸みを有している方が、破損しにくく、被験者が痛みを感じにくいという利点がある。一方で、丸みが付き過ぎると歯への当接のし易さが損なわれたり反射光の検出に悪影響があったりするため、R部の曲率半径rは、上記条件を満たすように適宜定めればよいが、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは30μm以上、また、500μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは150μm以下である。
【0027】
圧子30を形成する材料は、光透過性を有する限り特に制限されず、ガラス、鉱石、樹脂材料等から適宜選ぶことができる。具体的には、ガラス、有機ガラス等のガラス;サファイア、ルビー等の天然鉱物;人工鉱物;アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の樹脂材料等が挙げられる。これらの中から、屈折率や硬さが、歯の条件に最適となるような材料を用いて、圧子30とすればよい。
【0028】
本発明の光う蝕診断計1は、
図2(a)に示すように、さらに、圧子30の先端部31と受光素子40の受光面とが互いに結像関係となる位置に配置されているレンズ51を有することが好ましい。圧子30の先端部31で反射した反射光をレンズ51で結像して受光素子40で受光することで、反射光の弱い領域と強い領域とのコントラストを観測することができる。さらに、単に反射光強度を測定する手法と比べて、測定値の較正の変動が少ないという利点がある。
【0029】
また、レンズ51は、圧子30の先端部31の頂部32よりも所定距離だけ圧子30の底面側にずれた位置と受光素子40の受光面とが互いに結像関係となる位置に配置されていてもよい。こうすることにより、反射光の弱い領域と強い領域とのコントラストの違いをより精度よく観測することができる。上記所定距離は、0よりも大きく、上記R部の曲率半径rの3倍以下が好ましく、2倍以下がより好ましい。
【0030】
受光素子40は、二次元に配列している単位セルを含んでいてもよい。該二次元に配列している単位セルは、固体撮像素子(イメージセンサ)であってよく、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等であってよい。中でも、供給価格が比較的安く、消費電力が少なく携帯用に好適であるという理由からCMOSイメージセンサが好ましい。
【0031】
図4は、圧子30の先端部31が歯に非当接のとき、レンズ51で結像した反射光を受光素子40が撮像した画像の一例である。
図4の画像の中央の白くなっている部分は、圧子30の先端部31からの反射光が強く観測され、白く明るい撮像画像となったものである。
【0032】
図5(a)は、圧子30の先端部31が健全象牙質を有する歯に当接したとき、レンズ51で結像した先端部31からの反射光を受光素子40が撮像した画像の一例であり、
図5(b)は、圧子30の先端部31が脱灰象牙質を有する歯(う蝕モデル)に当接したとき、レンズ51で結像した先端部31からの反射光を受光素子40が撮像した画像の一例である。圧子30の先端部31が歯に当接すると、先端部31の歯に当接した領域からの反射光が弱まり、
図5(a)の画像の中央が黒くなっているように、反射光が弱くなる領域が生じた撮像画像が得られる。さらに、脱灰象牙質を有する歯(う蝕モデル)に圧子30の先端部31が当接すると、先端部31が歯に当接する領域の面積が増大し、それに伴って
図5(b)の画像の中央の黒い部分のように反射光が弱くなる領域の面積が増大した撮像画像が得られる。
【0033】
圧子30の先端部31が歯に当接する面積は、歯の硬さに依存する。そして、反射光が弱くなる領域の面積は、圧子30の先端部31が歯に当接している面積を反映しているから、反射光が弱い領域の面積を取得することで歯の硬さを測定することができる。例えば
図5(a)の撮像画像が得られた歯と
図5(b)の撮像画像が得られた歯の硬さを、反射光が弱まっている領域(中央の黒くなっている領域)の面積を比較することで、歯の硬さを定量的に比較できる。
【0034】
ここで、圧子30の先端部31は角度θを有するから、圧子30の底面側から入射した光は、先端部31においてそれぞれのθに依存した入射角で反射する。このとき、圧子30の先端部31から空気中に光が進む(非当接)ときには全反射が起こり、歯に当接したときには全反射が起こらないθを有する圧子30を用いると、反射光が強くなる領域と弱くなる領域のコントラストをより鮮明に観測することができる。
【0035】
ところで、全反射とは、屈折率が大きい媒質Bから小さい媒質Aに光が入るときに(媒質Aの屈折率をnA、媒質Bの屈折率をnBとすると、nB>nAを満たすとき)、入射光が境界面を透過せず、全て反射する現象である。このとき、入射角がある一定の角度以上の場合に全反射が起こり、その角度(臨界角θC)は、スネルの法則により下記式(4)で与えられる。
sinθC=nA/nB (4)
【0036】
固体の屈折率は一般に空気の屈折率1.0よりも大きく、圧子30の屈折率npは、np>1.0を満たす。圧子30が非当接のときは、圧子30の先端部31から空気中に光が進むから、nA=1.0及びnB=npを式(4)に代入すると、入射角が下記式(5)で与えられるθCa(圧子から空気に向かって光が入射するときの臨界角)よりも大きいときに先端部31で全反射が起こる。
sinθCa=1.0(空気の屈折率)/np(圧子30の屈折率) (5)
【0037】
ここで、光源20からの光が、
図6に示す光21のように、圧子30の中心軸cに平行に入射するとしたとき、光21と圧子30の先端部31の母線がなす角度はθ/2と等しい。そして、光21の入射角θ
iは、上記母線に対する垂線vと光21のなす角度であるから、入射角θ
iは下記式(6)で求められる。圧子30から空気中に光が進むときは、θ
iがθ
Caよりも大きい場合(下記式(7))に先端部31で全反射が起こるので、θが下記式(8)を満たすときに、非当接の圧子30の先端部31で全反射が起こる。
θ
i=90-θ/2 (6)
θ
i>θ
Ca (7)
θ≦2(90-θ
Ca) (8)
【0038】
次に、圧子30の先端部31が歯に当接した場合、先端部31のうち歯に当接している領域からの反射は、歯の屈折率をntとすると、npがnt以下のときとnpがntよりも大きいときとで異なる。
【0039】
[np≦ntのとき]
np≦ntのときは、屈折率の小さい圧子30の先端部31から屈折率の大きい歯に光が入射することになり、先端部31のうち歯に当接している領域では全反射は起こらない。したがって、θが上記式(8)を満たすとき、非当接の領域では全反射が起こる一方、歯に当接した領域では全反射が起こらず、非当接と当接とで受光素子40の受光強度にコントラストが生じ、受光強度の弱い領域の面積を取得することで歯の硬さを測定することができる。
【0040】
[np>ntのとき]
np>ntのときは、屈折率の大きい圧子30の先端部31から屈折率の小さい歯に光が入射することになり、この時の臨界角θCt(圧子から歯に向かって光が入射するときの臨界角)以上で光が入射するとき(θi≧θCt)には先端部31の歯に当接している領域でも全反射が起こる。逆に、臨界角θCtよりも小さい角度で光が入射するとき(θi<θCt)は全反射が起こらないから、式(6)よりθi=90-θ/2を代入すると、θCtが下記式(9)を満たすとき、先端部31が歯に当接した部分では全反射が起こらなくなり、非当接の領域とのコントラストを強く観測できる。
θ>2(90-θCt) (9)
【0041】
圧子30の先端部31が、非当接の領域では全反射が起こり、歯に当接した領域では全反射が起こらない場合に、強いコントラストで観測できるので、上記式(8)及び(9)より、θは下記式(10)を満たすことが好ましい。θがこの範囲のとき、圧子30の先端部31のうち非当接の領域では全反射が起こり、歯に当接した領域では全反射が起こらず、受光素子40の受光強度にコントラストが生じ、受光素子40の撮像画像の受光強度の弱い領域の面積を取得することで歯の硬さを測定できる。
2(90-θCt)<θ≦2(90-θCa) (10)
【0042】
このとき、歯に当接するときの臨界角θCtは下記式(11)で与えられ、歯の屈折率ntは空気の屈折率1.0よりも大きいから、常にθCtはθCaよりも大きくなるが、これらの差がより大きいほうがθの取り得る範囲が大きくなり、圧子30の選択の幅が広がるので好ましい。
sinθCt=nt(歯の屈折率)/np(圧子30の屈折率) (11)
【0043】
また、光源20から圧子30に入射する光が、圧子30の中心軸cに平行でない成分も含む場合、すなわち入射角が一定ではない場合であっても、θCtとθCaとの差が大きくなるような屈折率npを圧子30が有することが好ましい。これにより、非当接の部分の反射強度が強く、歯に当接した部分の受光強度が弱くなる角度の領域が増大し、大きなコントラストを得るために有利となる。
【0044】
歯のエナメル質の屈折率をおよそ1.63、象牙質の屈折率をおよそ1.55とすると、例えば屈折率が1.50のガラス製の圧子を用いる場合は、圧子の屈折率は歯の屈折率よりも小さいので、上記の全反射の観点から、式(8)よりθ≦96°であることが好ましい。また、例えば、屈折率が1.79のサファイア製の圧子を用いる場合は、圧子の屈折率は歯の屈折率よりも大きいので、上記の全反射の観点から、式(10)よりエナメル質を測定する場合は48°<θ≦112°、象牙質を測定する場合は60°<θ≦112°であることが好ましい。このように、用いる圧子の屈折率を上記式(8)~(10)にそれぞれ代入することにより、好ましいθの範囲を得ることができる。その上で、さらに別の条件、例えば測定箇所への挿入のし易さや被験者の身体的条件等を考慮に入れて最適なθを決定すればよい。
【0045】
以上、好ましいθについて円錐形を例に説明したが、圧子30の先端部31が別の形状を有する場合でも、同様の説明がなされる。
【0046】
本発明の光う蝕診断計1は、さらに、光源20と圧子30との間の光路上、及び圧子30と受光素子40との間の光路上に配置されたビームスプリッタ52を有していてもよい。ビームスプリッタ52を配置することで、光源20からの光軸と、受光素子40までの光軸とを異なる光軸とすることができ、光う蝕診断計1の設計の自由度が向上する。その結果、光う蝕診断計1の圧子30側を口腔内に挿入しつつ、他端を把持して操作することが容易となる形状とすることができる。また、受光信号のS/N比を高めるために、ビームスプリッタ52の反射率は、例えば52%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の光う蝕診断計1は、さらに圧力センサ61を有していてもよい。圧子30の先端部31を歯に当接する圧力が一定の規定値に達したときに、圧力センサ61からの信号により受光素子40が撮像する。こうすることで、一定の圧力における歯の硬さを測定でき、歯科医療者の技量にかかわらず定量的な測定を行うことができる。
図7に時間と当接圧力の関係を表すグラフを示す。
図7において、規定の当接圧力をaとすると、bのタイミングで撮像する。圧子30は歯科医療者により歯に当接されるため、時間とともに当接圧力が変化するのは避けられないが、当接圧力の規定値を定めてそのタイミングで撮像することで、常に一定の当接圧力における反射光を撮像できる。当接圧力の規定値は、測定する歯の条件により適宜定められるが、好ましくは3.0N以下、より好ましくは2.5N以下、さらに好ましくは2.0N以下、また、好ましくは0.1N以上、より好ましくは0.5N以上、さらに好ましくは0.8N以上である。
【0048】
図示していないが、圧力センサ61とは別に、さらにスイッチを有し、スイッチからの信号で受光素子40が撮像してもよい。スイッチからの信号で撮像することにより、圧子30の先端部31が非当接で圧力センサ61からの信号がない場合であっても随時撮像が可能となる。
【0049】
本発明の光う蝕診断計1は、
図10に示すように、さらにフィルター53を有していてもよい。フィルター53が透過することのできる光の波長(透過波長)を光源20が出射する光の波長とすることで、光源20から出射される光以外の光の影響、例えば室内蛍光灯や歯科用照明器等の影響を除くことができ、S/N比を高められる。
【0050】
本発明の光う蝕診断計1は、さらに筐体10に納められていてもよい。例えば、光源20から圧子30の先端部31までの光路(光路e)、圧子30の先端部31からビームスプリッタ52までの光路(光路f)、及びビームスプリッタ52から受光素子40までの光路(光路g)が筐体10内に配置され、圧子30は筐体10の開口部に取り付けられていてもよい。
【0051】
圧子30は、筐体10の開口部に着脱可能であることが好ましい。測定前後に消毒や殺菌を行ったり、患者によって取り替えたり、測定する歯によって最適な圧子を用いたりすることができる。また、消耗部品として、定期的に交換することもできるし、使用の都度使い捨てとしてもよい。このとき、光路e、光路f、及び光路gの距離が、測定の度に変化しないことが好ましい。従って、筐体10が、圧子30が着脱される開口部内に、圧子30を固定するストッパー等の固定部を備えていることが好ましい。光路a、光路b、及び光路cの距離が一定であることで、結像関係を変えずに圧子を交換でき、安定した撮像が可能となる。
【0052】
図2及び
図3に示すように、筐体10の一部が、筐体10を納める空洞を有したハンドピース70内に取り付けられていてもよい。
図2(b)は
図2(a)に示した光う蝕診断計1の別の断面の断面図を表し、
図3は
図2に示した光う蝕診断計1のIII-III断面図を表す。一実施形態においては、
図2(b)及び
図3に示すように、筐体10の外側に設けられた回転軸62を、ハンドピース70内に設けられた軸穴に嵌合することで、筐体10に取り付けることができる。圧子30の先端部31が歯に当接すると、筐体10が回転軸62を軸として回転する。このとき生じる力を圧力センサ61が検出することができる。このとき、回転軸62を、圧子30側の力点と圧力センサ61側の作用点との間の丁度中心に配置することで、圧子30にかかる力と圧力センサ61にかかる力を同等にすることができる。
【0053】
また、図示していないが、別の一実施形態においては、回転軸62を受光素子40の受光する面とは反対側の筐体10の端部に配置し、圧子30側の力点と圧力センサ61側の作用点とが回転軸62に対して同じ側にあるように配置することができる。こうして回転軸62を筐体10の端部に配置することで、回転軸62を、ハンドピース70及び筐体10に貫通させることができ、簡単な構造とすることができる。
【0054】
硬さの測定値を定量的に取得するために、反射光が弱くなる領域の面積は一定の条件下で測定されることが好ましい。このために、本発明の光う蝕診断計は、以下の画像処理過程を有することができる。
図8及び
図9を参照しつつ説明する。
【0055】
[差分強度画像取得過程]
圧子30の先端部31が非当接であるときの反射光を受光素子40が撮像した強度画像(
図8(a))から、圧子30の先端部31が歯に当接しているときの反射光を受光素子40が撮像した強度画像(
図8(b))を差し引いて、差分強度画像(
図8(c))を取得する。差し引くことにより、圧子の個体差によるばらつきや、観測したい反射光以外の寄与分を除外することができる。このとき、圧子は同一のものを使用し、他の撮像条件も同一にして撮像する。
【0056】
[差分強度画像の二値化過程]
上記で得られた差分強度画像を、所定の値を閾値として二値化する。このとき、本発明の光う蝕診断計は、下記の条件でエラー信号を発することができる。歯に圧子30の先端部31を当接する際は、
図9(a)に示すように圧子30の中心軸cができるだけ歯の表面に対して直角に当接することが好ましいが、歯の表面の角度や歯科医療者の技量により、必ずしも直角とならない場合がある。中心軸cと歯の表面との当接角度が直角から外れると、
図9(b)に示すように、反射光が弱くなる領域の外径が円形から逸脱する。そうすると、得られた撮像画像が硬さ以外の情報を含んでしまうことになるため、上記閾値を超えた差分強度画像(二値化差分強度画像)の外形のアスペクト比((長軸mの長さ)/(短軸sの長さ))が所定の値以上であるときに、エラー信号を発することが好ましい。外形のアスペクト比が所定の値以上であるときにエラー信号を発することで、硬さ以外の情報を除外できる。
【0057】
[二値化差分強度画像の面積取得過程]
上記過程を経た二値化差分強度画像(
図8(d))の面積を取得する。当接角度によるエラーを除外しているため、該面積は歯の硬さを反映しており、硬ければ面積が小さく、柔らかければ面積が大きい。
【0058】
本発明は、本発明の実施形態に係る光う蝕診断計を用いた光う蝕診断方法を提供する。該光う蝕診断方法は、本発明の光う蝕診断計を用意するステップと、圧子30の先端部31の水分を除去するステップと、光源20から出射し圧子30の先端部31で反射された反射光を受光素子40で受光し撮像するステップと、圧子30の先端部31を歯に当接されるステップと、圧子30の先端部31が歯に当接した状態で、光源20から出射し圧子30の先端部31で反射された反射光を受光素子40で受光し撮像するステップとを有する。
【0059】
口腔内は唾液やうがいで残存したうがい液等の水分が多い環境であることから、これらの水分が圧子の先端部に付着する可能性がある。水分に加えて、汚れ等の付着物がある場合もあり、これらの水分や付着物は圧子の先端部からの光の反射に影響するおそれがあるため、除去する必要がある。
【0060】
本発明はまた、光歯周病診断計を提供する。現在歯周病の診断は、歯周病による歯肉の腫れを色や歯周ポケットの深さで測っているが、歯肉自体の状態を定量的に数値化できていない。歯肉は、炎症を起こすと腫れて柔らかさが変わることから、本発明の光歯周病診断計を用いることで、歯肉の炎症の進行度合いを定量的に診断することができる。
【0061】
本発明の光歯周病診断計の原理は光う蝕診断計と同様であり、圧子を歯肉用に変更することで実施する。このとき、圧子の材料や圧子先端部の角度θ、及び圧子先端部のR部の曲率半径を適宜選択することで、患者が痛みを感じず、歯肉の硬さを精度よく定量的に得ることができる。また、圧力センサを用いる場合は、圧力センサが撮像信号を発する圧力の規定値を歯肉に好適となるように設定するとよい。
【0062】
さらに、本発明は、上記の光う蝕診断計を含むう蝕診断システムを提供する。該う蝕診断システムは、有線、又は無線で接続されたパソコン、タブレット、スマートフォン等の情報端末装置と、該情報端末装置に蓄積されている光う蝕診断情報(本発明の光う蝕診断計により測定されたもの)を有している。また、該う蝕診断システムは、従来のう蝕診断方法、例えば探針やカリオテスター、パノラマレントゲン等により診断されたう蝕診断情報を有していてもよい。これら従来の方法による診断結果と本発明の光う蝕診断計による測定結果とを併せて蓄積することで、従来の方法で診断したう蝕診断結果を、本発明の光う蝕診断計で得た硬さの数値と対応させることができる。その結果、う蝕の診断における明確な診断基準を提供することが可能になる。
【0063】
本発明のう蝕診断システムは、個々のう蝕診断を実施するだけでなく、蓄積したデータをビッグデータとして歯科医療者間で共有することもできる。本発明の実施形態に係るう蝕診断システムは、歯科医療者が診断や治療を行う際に、上記データをもとにアドバイスを行うソフトウェアを有していてもよい。具体的には、治療時における切削要否の判定を行ったり、再石灰化のために塗布する薬剤の選定や、塗布の要否を判定したりするなど、歯科医療者が治療方針を決めるためのサポートを行うことなどが挙げられる。これにより、歯科医療者間の治療基準のばらつきを解消できる。また、情報端末装置間の通信により、遠隔治療も可能となり、歯科医療の地域間格差の解消にも寄与することができる。
【0064】
本願は、2018年10月18日に出願された日本国特許出願第2018-196773号に基づく優先権の利益を主張するものである。2018年10月18日に出願された日本国特許出願第2018-196773号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0065】
光う蝕診断計の模擬装置100(
図10)を作製し、試料の硬さ測定を行った。模擬装置100の構成は以下の通りである。
光源:LED(中心波長約635nm、M625L3、ソーラボジャパン社製)
圧子:ガラス(#49-397、エドモンド・オプティクス社製)
受光素子:モノクロCMOSカメラ(#89-735、エドモンド・オプティクス社製)
レンズ:AC127-025-A-ML(焦点距離25mm、ソーラボジャパン社製)
ビームスプリッタ:CCM5-BS016/M(50%透過、50%反射、ソーラボジャパン社製)
光彩絞り:SM1D12C(ソーラボジャパン社製)
フィルター:FL635-10(透過波長630~640nm、ソーラボジャパン社製)
フォースゲージ:ZTS-20N(イマダ社製)
【0066】
エドモンド・オプティクス社製、#49-397のガラス圧子は、表面がアルミコーティングされているため、塩酸に浸漬することにより表面のアルミニウム層を除去して測定に用いた。
【0067】
模擬装置100の圧子をウシ象牙質試料に当接し、フォースゲージの値が1.5N(≒150gf)となった時点の圧子先端部からの反射光の強度を撮像した。同一試料に対して、ランダムに5点ずつ測定した。同時に、同一試料のヌープ硬さを測定した。結果を
図11に示す。
【0068】
ヌープ硬さの低下に伴って、測定面積が大きくなり、模擬装置100によって試料の硬さが測定できることが確認された。また、ヌープ硬さHKが64以上の健全象牙質の試料に対し、脱灰象牙質(う蝕モデル)の試料では面積が大きくなっているだけでなく、脱灰象牙質の試料の中でもヌープ硬さと測定面積との間に相関関係がみられ、ヌープ硬さの低下に伴って測定面積が大きくなった。これにより、切削すべきう歯と予防処置を行うべきう歯との識別も可能であることがわかった。
【符号の説明】
【0069】
1:光う蝕診断計
10:筐体
20:光源
22:光彩絞り
30:圧子
31:圧子30の先端部
32:圧子30の頂部
40:受光素子
41:モノクロCMOSカメラ
51:レンズ
52:ビームスプリッタ
53:フィルター
61:圧力センサ
62:回転軸
63:フォースゲージ
70:ハンドピース
80:歯
81:象牙質試料
100:光う蝕診断計の模擬装置