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  • 特許-異方性グラファイト複合体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】異方性グラファイト複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220920BHJP
【FI】
H01L23/36 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018185364
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020057648
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】509204286
【氏名又は名称】株式会社サーモグラフィティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】村島 健介
(72)【発明者】
【氏名】沓水 真琴
(72)【発明者】
【氏名】奥 聡志
(72)【発明者】
【氏名】竹馬 克洋
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-238733(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213207(WO,A1)
【文献】特開平07-263599(JP,A)
【文献】特開2018-082180(JP,A)
【文献】特開平09-321190(JP,A)
【文献】特開2017-130494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)異方性グラファイトと、(B)金属含有ろう材層および金属層が一体化したクラッド材シートと、を接合する接合工程を含み、
前記接合工程において、(A)異方性グラファイトの結晶配向面に対して垂直な面と、(B)クラッド材シートの金属含有ろう材層とを接合する工程を含み、
前記接合工程において、700℃以上830℃以下の温度、かつ、0.1kPa以上5.0kPa以下で加圧することによって、(A)異方性グラファイトと(B)クラッド材シートとを接合する、異方性グラファイト複合体の製造方法。
【請求項2】
前記金属含有ろう材層が、チタン含有銀ろう材層である、請求項1に記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
【請求項3】
前記金属含有ろう材層と前記金属層とが合金化している、請求項1または2に記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
【請求項4】
前記接合工程が真空雰囲気下で行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
【請求項5】
前記金属含有ろう材層の厚みが10μm以上30μm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異方性グラファイト複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異方性グラファイトは、グラファイトの結晶配向面に対して平行な方向への熱伝導率は高いが、垂直な方向への熱伝導率が低いという性質を有する。異方性グラファイトとしては、例えばグラファイトの積層体が知られている。
【0003】
異方性グラファイトは、その優れた熱伝導性のため、半導体パッケージにおいて熱拡散部材(ヒートスプレッダ)として利用される。熱拡散部材とは、その上部に配置している半導体素子から発生する熱が集中しないように、熱を半導体素子から冷却器に効果的に移動させて放熱するものである。
【0004】
特許文献1には、熱拡散部材として、グラフェンシートが積層された構造体と金属とを、チタンを含有したインサート材を介して加圧接合されてなる異方性熱伝導素子が開示されている。また、特許文献2には、半導体パッケージにおいて金属層と基板とを接合する技術が開示されている。具体的には、特許文献2には、ろう材成分と活性金属とが合金化してなる活性金属ろう材を銅板材にクラッドした複合材料を、加熱することでセラミックス基板に接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-238733号公報
【文献】国際公開第2017/213207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1または2で開示されるような加圧加熱処理を、熱拡散部材としてのグラファイト複合体の製造に応用する場合、ろう材の漏れ出しが発生し、金属層が汚染されるという問題があることを本発明者は独自に見出した。
【0007】
本発明の一態様は、ろう材の漏れ出しによる表面の金属層の汚染を抑制し得る、異方性グラファイト複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、金属含有ろう材層と金属層とが一体となった積層体であるクラッド材シートを用いて、異方性グラファイトの特定の面と接合させることにより、ろう材の漏れ出しを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、以下を包含する。
〔1〕(A)異方性グラファイトと、(B)金属含有ろう材層および金属層が一体化したクラッド材シートとを接合する接合工程を含み、前記接合工程において、(A)異方性グラファイトの結晶配向面に対して垂直な面と、(B)クラッド材シートの金属含有ろう材層とを接合する異方性グラファイト複合体の製造方法。
〔2〕前記金属含有ろう材層が、チタン含有銀ろう材層である〔1〕に記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
〔3〕前記接合工程において、700℃以上830℃の温度、かつ、0.1kPa以上5.0kPa以下で加圧することによって(A)異方性グラファイトと(B)クラッド材シートとを接合する〔1〕または〔2〕に記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
〔4〕前記金属含有ろう材層と前記金属層とが合金化している〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
〔5〕前記接合工程が真空雰囲気下で行われる、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
〔6〕前記金属含有ろう材層の厚みが10μm~30μm以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の異方性グラファイト複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、金属含有ろう材による表面の金属層の汚染を抑制できる、異方性グラファイト複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る接合工程における異方性グラファイト複合体の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る異方性グラファイト複合体の正面図である。
図3】比較例1に係る接合工程における異方性グラファイト複合体の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0012】
〔1.異方性グラファイト複合体の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る異方性グラファイト複合体の製造方法は、(A)異方性グラファイトと、(B)金属含有ろう材層および金属層が一体化したクラッド材シートとを接合する接合工程を含み、前記接合工程において、(A)異方性グラファイトの結晶配向面に対して垂直な面と、(B)クラッド材シートの金属含有ろう材層とを接合する。
【0013】
<異方性グラファイト>
異方性グラファイトは、六員環が共有結合で繋がったグラフェン構造を有する層が多数積層したブロック状の形状を有する。このようなブロック状の異方性グラファイトは、グラフェン構造の結晶配向面と平行な方向に高熱伝導性を有する。異方性グラファイトの「異方性」とは、グラファイト層が配向していることから、結晶配向面に対して平行な方向の熱伝導性と垂直な方向の熱伝導性とが大きく異なることを意味する。
【0014】
図1に示すX軸、X軸と直交するY軸、X軸とY軸とによって規定される平面に垂直なZ軸において、前記異方性グラファイトの結晶配向面は、X軸とZ軸とによって規定される平面と平行である。上述のように異方性グラファイトは結晶配向面と平行な方向に優れた熱伝導性を有している。そのため、異方性グラファイトの結晶配向面が、X軸とZ軸とによって規定される平面と平行であることにより、異方性グラファイトの厚み方向に熱を拡散させることができる。
【0015】
異方性グラファイトの立体形状は、当該異方性グラファイトの結晶配向面が、X軸とZ軸とによって規定される平面と平行である限りにおいて、特に限定されない。異方性グラファイトの側面の形状としては、正方形、長方形、台形、階段状等が挙げられる。優れた熱伝導率を示すという観点からは、異方性グラファイトの立体形状は、直方体が好ましい。
【0016】
異方性グラファイトのX軸に平行な辺の長さは、4mm以上300mm以下が好ましく、10mm以上100mm以下がより好ましい。
【0017】
異方性グラファイトのY軸に平行な辺の長さは、4mm以上300mm以下が好ましく、10mm以上100mm以下がより好ましい。
【0018】
異方性グラファイトのZ軸方向の厚さは、0.5mm以上5.0mm以下が好ましく、1.0mm以上3.5mm以下がより好ましく、1.2mm以上2.5mm以下がさらに好ましい。
【0019】
異方性グラファイトとしては、結晶配向面に高熱伝導性を有するものであれば特に制限はされず、高分子分解異方性グラファイト、熱分解異方性グラファイト、押出成形異方性グラファイト、モールド成形異方性グラファイトなどを用いることが可能である。中でも、異方性グラファイトは、高分子分解異方性グラファイトまたは熱分解異方性グラファイトであることが好ましい。高分子分解異方性グラファイトおよび熱分解異方性グラファイトは、グラフェン構造の結晶配向面に1500W/mK以上の高熱伝導率を有する。そのため、これらの異方性グラファイトから得られた異方性グラファイト複合体は、熱伝達性が優れる。
【0020】
<異方性グラファイトの製造方法>
異方性グラファイトの製造方法としては、ポリイミドなどの高分子のフィルム積層体をグラファイト化して得られるグラファイトブロックを、切断する方法がある。切断方法としては、ダイヤモンドカッター、ワイヤーソーおよびマシニングなど公知の技術を適宜選択することが可能である。中でも、略直方体形状に容易に加工できる観点で、切断方法としては、ワイヤーソーが好ましい。また、表面を研磨もしくは粗面化する方法として、やすり研磨、バフ研磨およびブラスト処理など公知の技術を適宜用いることも可能である。
【0021】
グラファイトブロックの第一の製造方法では、メタンなどの炭素質ガスを炉内に導入し、次いでヒーターで2000℃程度まで加熱することにより、微細な炭素核を形成する。形成された炭素核は、基板上で層状に堆積し、これにより熱分解グラファイトブロックを得ることができる。また、得られた熱分解グラファイトブロックを2800℃以上まで熱処理することで、配向性を向上させることもできる。
【0022】
グラファイトブロックの第二の製造方法では、ポリイミド樹脂などの高分子フィルムを多層に積層した後、プレス加圧しながら熱処理する。具体的には、まず、出発物質である高分子フィルムを多層に積層したものを、減圧下または不活性ガス中で、1000℃程度の温度まで予備加熱処理して炭素化することにより、炭素化ブロックとする。その後、この炭素化ブロックを不活性ガス雰囲気下、プレス加圧しながら、2800℃以上の温度まで熱処理することによりグラファイト化させることで、良好なグラファイト結晶構造を形成することができる。これにより、熱伝導性に優れたグラファイトブロックを得ることができる。ポリイミドフィルムを1枚ずつ焼成することによって炭素化フィルムを作製し、得られた炭素化フィルムを多層に積層した後、2800℃以上の温度まで熱処理することによっても、優れたグラファイトブロックを得ることができる。
【0023】
<クラッド材シート>
本明細書においてクラッド材シートとは、金属含有ろう材層と金属層とが一体化した積層体である。異方性グラファイトの結晶配向面に垂直な方向(図1のY軸方向)へは、熱が相対的に伝わりにくい。そこで、熱伝導率が比較的高く、等方性の材料である金属層を、異方性グラファイトと接合することで、異方性グラファイトのY軸方向の熱伝導性を補うことができる。これによって、より高い放熱効果を発現することができる。
【0024】
異方性グラファイトと金属層とを接合する際に、金属含有ろう材を使用することが従来技術として知られている。しかし、本発明者は、特許文献1に開示されているような金属層とグラフェンシートとをインサート材を介して接合する場合、加圧加熱処理の際に、金属含有ろう材層の漏れ出しが発生し、表面の金属層を汚染する場合があることを見出した。特に、異方性グラファイト複合体はサイズが比較的小さいため、表面の汚染が品質に大きな影響を与える。金属含有ろう材が表面に漏れ出した場合、研磨工程が必要となったり、後の薬液処理およびメッキ処理に大きく影響を与えたりする。そこで、金属含有ろう材層の漏れ出しを抑制した上で、異方性グラファイトと金属層の強固な接合を実現するために、本発明の一実施形態では、あらかじめ金属層と金属含有ろう材層とを接合したクラッド材シートを用いる。そして、異方性グラファイトの結晶配向面に対して垂直な面と、当該クラッド材シートの金属含有ろう材層とを接合する。この方法により、濡れ性を制御することができるため、金属含有ろう材層の漏れ出しを抑制することができる。そのため、メッキむらを抑制することができるとともに、研磨工程が不要となる。また、寸法精度が向上する。なお、特許文献2に記載の技術はあくまでセラミックス基板を対象としており、かつ、ろう材の漏れ出しという課題は全く考慮されていない。
【0025】
クラッド材シートの金属層を形成する金属の種類としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、モリブデン、タングステン、およびこれらを含む合金が挙げられる。中でも熱伝導性をより高める観点からは、銅が好ましい。
【0026】
金属層の厚さは、高い熱伝導性と充分な材料強度を両立させる観点から、20~500μmであることが好ましく、50~300μmであることがより好ましい。
【0027】
クラッド材シートの金属含有ろう材層に含まれるろう材を構成する金属としては、銀、銅、りん銅およびアルミニウムなどが挙げられる。中でも銀は熱伝導率が高いため好ましい。また、金属含有ろう材層は、活性金属として、チタン、ジルコニウム、ハフニウムまたはこれらの水素化物のうちいずれかを含むことが好ましい。異方性グラファイトと金属層との間に、活性金属を含むろう材層を設けることで、異方性グラファイトおよび金属層に対する濡れ性が極めて高くなり、原子拡散が良好に進みやすくなる。このため、得られる異方性グラファイト複合体の長期信頼性に優れると考えられる。中でも、チタン含有ろう材層は、異方性グラファイトと結合し易い。以上のことから、金属含有ろう材層は、チタン含有銀ろう材層であることが特に好ましい。
【0028】
金属含有ろう材層における活性金属の含有量は、0.1重量%~2.0重量%であることが好ましく、0.5重量%~1.5重量%であることがより好ましい。活性金属の含有量が2.0重量%以下であれば、十分な熱伝達性能を確保することができる。また、活性金属の含有量が0.1重量%以上であれば、金属層に対する濡れ性が向上するため、原子拡散が進みやすくなる。
【0029】
また、使用する金属含有ろう材層の厚さは、異方性グラファイト複合体が良好な熱伝達率を有すること、長期信頼性の観点から、5~30μmであることが好ましく、10μm~30μmであることがより好ましく、8~17μmであることがさらに好ましい。
【0030】
金属間の熱伝導性を向上させる観点から、クラッド材シートにおいて、金属含有ろう材層と金属層とは、合金化していることが好ましい。
【0031】
<クラッド材シートの製造方法>
例えば、圧延処理等によって金属層と金属含有ろう材とを接合し、その後成形することで、所望の大きさのクラッド材シートが作製可能である。
【0032】
<接合工程>
接合工程は、(A)異方性グラファイトと、(B)金属含有ろう材層および金属層が一体化したクラッド材シートとを接合する工程である。前記接合工程においては、異方性グラファイトの結晶配向面に対して垂直な面と、クラッド材シートの金属含有ろう材層とを接合する。接合工程は、例えば、クラッド材シートおよび異方性グラファイトを含む積層体を加圧および/または加熱することにより、行われる。好ましくは、接合工程は、当該積層体を加圧しながら加熱することにより、行われる。接合工程は、例えば、加熱炉内で行われる。
【0033】
クラッド材シートは、異方性グラファイトの少なくとも1つの面に接合される。クラッド材シートは、異方性グラファイトの複数の面に接合されてもよい。例えば、図1に示すように、クラッド材シート2を、異方性グラファイト1の結晶配向面に垂直な面に接するように、異方性グラファイト1の上下に配置する。そのクラッド材シート2および異方性グラファイト1を含む積層体に、上下方向から圧力を加えることで、異方性グラファイト複合体が得られる。
【0034】
接合工程における温度は、680℃~850℃であることが好ましく、700℃~830℃であることがより好ましい。接合工程における温度が680℃~850℃であれば、クラッド材シートと異方性グラファイトとを十分に接合することができる。また、当該温度が700℃~830℃であれば、ろう材の漏れ出しをより抑制することができる。
【0035】
さらに、接合工程において、積層体へ加えられる圧力は、0.1kPa~20kPaであることが好ましく、0.1kPa~10kPaであることがより好ましく、0.1kPa~5.0kPaであることがさらに好ましい。接合工程における圧力が0.1kPa~20kPaであれば、クラッド材シートと異方性グラファイトとを十分に接合することができる。また、当該圧力が0.1kPa~5.0kPaであれば、ろう材の漏れ出しをより抑制することができる。
【0036】
前記温度による加熱時間および前記圧力による加圧時間は、充分な接合強度を確保しつつ、ろう材の漏れ出しを抑制する観点から、30分~180分であることが好ましく、60分~120分であることがより好ましい。
【0037】
また、前記接合工程は、真空雰囲気下、窒素もしくはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、または水素などの還元性ガス雰囲気下、あるいは不活性ガスと還元性ガスとの混合ガス雰囲気下で行われ得る。異方性グラファイト複合体の長期信頼性の観点から、接合工程は、真空雰囲気下で行われることが好ましい。真空雰囲気下とは10-3Pa以下であることが好ましい。
【0038】
なお、図1に示すように、接合工程においてクラッド材シート2を保護するために、クラッド材シート2の外側に保持部材3を積層させてもよい。保持部材3としては、等方性黒鉛ブロック、セラミックスおよび耐熱性金属ブロックなどが挙げられる。
【0039】
〔2.異方性グラファイト複合体〕
本発明の一実施形態に係る製造方法によって得られる異方性グラファイト複合体は、異方性グラファイトと、金属含有ろう材層および金属層を含むクラッド材層とを備える。図2に示すように、異方性グラファイト複合体10は、異方性グラファイト1の結晶配向面に対して垂直な面に、クラッド材層2’が積層されている。ここで、クラッド材層2’とは、上述のクラッド材シートに由来する層を意図している。なお、異方性グラファイト1に対して、金属含有ろう材層および金属層がこの順に積層されている。当該異方性グラファイト複合体は、上述の製造方法で得られたものであるがゆえに、ろう材の漏れ出しが抑制されている。
【0040】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0041】
<(a)異方性グラファイト>
(a1)異方性グラファイト(20mm×10mm×厚さ1.5mmの直方体、結晶配向面が異方性グラファイトの厚さ方向に平行)。
(a2)異方性グラファイト(20mm×10mm×厚さ1.5mmの直方体、結晶配向面が異方性グラファイトの20mm×10mmの面方向に平行)。
【0042】
<(b)クラッド材シート>
(b1)銅層とチタン含有銀ろう材層とからなる2層クラッド材シート(寸法:20mm×10mm×厚さ215μmの直方体、チタン含有銀ろう材層のチタン含有率1.0%、チタン含有銀ろう材層の厚さ15μm)。
(b2)銅層とチタン含有銀ろう材層とからなる2層クラッド材シート(寸法:20mm×10mm×厚さ230μmの直方体、チタン含有銀ろう材層のチタン含有率1.0%、チタン含有銀ろう材の厚さ30μm)。
(b3-1)チタン含有銀ろう材シート(寸法:20mm×10mm×厚さ30μmの直方体、チタン含有率1.0%)。
(b3-2)純銅シート(寸法:20mm×10mm×厚さ200μmの直方体、銅含有率99.9%)。
【0043】
<(c)保持部材>
(c1)保持部材(寸法:20mm×10mm×厚さ5mmの直方体、東洋炭素製の等方性黒鉛ブロック、型番:TTK-9)。
【0044】
<ろう材の漏れ出し評価>
以下の実施例および比較例の方法で作製した、異方性グラファイト複合体(A1~A6)の側面を目視で観察し、銅層と異方性グラファイト層の間からろう材が漏れ出している状態を評価した。評価基準は以下の通りとした。
A:ろう材が全く漏れ出していない状態。
B:ろう材が異方性グラファイトの側面に一部漏れ出している状態
C:ろう材が異方性グラファイトの側面および上下面に漏れ出している状態(ろう材が異方性グラファイトの側面に漏れ出し、さらに側面を伝って上下面にまで存在している状態)。
【0045】
<実施例1>
図1のように、金属含有ろう材層と、異方性グラファイトの結晶配向面に対して垂直な面とが接するように、上から保持部材3として(c1)保持部材、クラッド材シート2として(b1)銅/銀ろう材の2層クラッド材シート、異方性グラファイト1として(a1)異方性グラファイト、クラッド材シート2として(b1)銅/銀ろう材の2層クラッド材シート、保持部材3として(c1)保持部材の順に積層した。
【0046】
得られた積層体を、炉内の圧力を10-3Paにした加熱炉中で、上下から0.1kPaの圧力を加えつつ、810℃の温度まで昇温し、810℃に達した時点から30分加熱した。加熱炉の温度を常温まで冷却した後、積層体を取り出した。次いで、当該積層体の上下の保持部材を取り除き、(b1)銅/銀ろう材の2層クラッド材シート、(a1)異方性グラファイトおよび(b1)銅/銀ろう材の2層クラッド材シートからなる(A1)異方性グラファイト複合体を得た。
【0047】
<実施例2>
実施例1において、積層体の上下から加える圧力を0.1kPaから5.0kPaに変えた。それ以外は、実施例1と同様にして(A2)異方性グラファイト複合体を得た。
【0048】
<実施例3>
実施例1において、(b1)銅/銀ろう材の2層クラッド材シート(チタン含有銀ろう材の厚さ15μm)を(b2)銅/銀ろう材の2層クラッド材シート(チタン含有銀ろう材の厚さ30μm)に変えた。それ以外は、実施例1と同様にして(A3)異方性グラファイト複合体を得た。
【0049】
<実施例4>
実施例1において、積層体の上下から加える圧力を0.1kPaから20kPaに変えた。それ以外は、実施例1と同様にして(A4)異方性グラファイト複合体を得た。
【0050】
<実施例5>
実施例1において、加熱炉における昇温温度を810℃から、850℃に変えた。それ以外は、実施例1と同様にして(A5)異方性グラファイト複合体を得た。
【0051】
<比較例1>
図3のように、上から、保持部材3として(c1)保持部材、金属層5として(b3-1)純銅シート、金属含有ろう材層4として(b3-2)チタン含有銀ろう材シート、異方性グラファイト1として(a1)異方性グラファイト、金属含有ろう材層4として(b3-2)チタン含有銀ろう材シート、金属層5として(b3-1)純銅シート、保持部材3として(c1)保持部材の順に積層した。
【0052】
得られた積層体を、炉内の圧力を10-3Paにした加熱炉中で、上下から0.1kPaの圧力を加えつつ、810℃の温度まで昇温し、810℃に達した段階から30分加熱した。加熱炉の温度を常温まで冷却した後、積層体を取り出した。次いで、当該積層体の上下の保持部材を取り除き、(b3-1)純銅シート、(b3-2)チタン含有銀ろう材シート、(a1)異方性グラファイト、(b3-2)チタン含有銀ろう材シートおよび(b3-1)純銅シートからなる(A6)異方性グラファイト複合体を得た。
【0053】
<比較例2>
実施例1において、異方性グラファイト(a1)から、異方性グラファイト(a2)に変えた。それ以外は、実施例1と同様にして(A7)異方性グラファイト複合体を得た。
【0054】
<結果>
以下の表1および2に、実施例および比較例の異方性グラファイト複合体(A1~A7)の製造条件と評価結果をまとめた。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
あらかじめ銅と銀ろう材とを接合した2層クラッド材シートを、異方性グラファイトに接合した実施例1~5では、それぞれ独立した純銅シート、銀ろう材シートおよび異方性グラファイトを同時に加圧接合した比較例1に比べ、ろう材の漏れ出しが抑制されていることがわかる。
【0058】
また、実施例1、実施例2および実施例4のように、積層体の上下から加圧する圧力を変化させた場合でも、比較例1に対してろう材の漏れ出しが抑制されていることがわかる。その中でも、圧力が0.1kPa以上5.0kPa以下である実施例1および2において、特に優れた効果が見られた。
【0059】
実施例1および実施例5のように、加熱炉の温度を変化させた場合でも、比較例1に対してろう材の漏れ出しが抑制されていることがわかる。その中でも、810℃である実施例1において、より優れた効果が見られた。
【0060】
また、比較例2のように、グラファイトの結晶配向面に対して平行な面にクラッド材シートを接合した場合、ろう材の漏れ出しは抑制されていないことがわかる。これは、グラフェン層の表面は活性官能基や格子欠陥が少なく、また平滑であるためにろう材のはじきが起こりやすいことが原因と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、電子機器の熱拡散部材の製造において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 異方性グラファイト
2 クラッド材シート
10 異方性グラファイト複合体
図1
図2
図3