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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】癌発生疑い部位特定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220920BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
A61B10/00 E
A61B10/00 T
A61B5/1455
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019005209
(22)【出願日】2019-01-16
(65)【公開番号】P2020110481
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505227043
【氏名又は名称】野村ユニソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】橋元 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】和田 健嗣
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第204468040(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第104523229(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0228008(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0110458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 5/1455
A61B 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の被検査部位に照射光を照射し該被検査部位から外部に出射した出射光を解析することにより癌発生の疑いのある部位を特定する癌発生疑い部位特定装置であって、
少なくとも700nm~1200nmの範囲内の特定波長で出力強度を有している前記照射光を出力する光源と、
前記光源と光学的に接続され、前記照射光を前記被検査部位に向け照射する照射器と、
前記生体の体表に沿った複数の受光箇所にそれぞれ配置され、前記被検査部位から外部に出射した前記出射光を受ける複数の受光器と、
前記受光器が受けた前記出射光を検出して光計測信号に変換し該光計測信号を出力する光検出器と、を備え、
前記癌発生疑い部位特定装置は、
前記被検査部位に所定の圧力を印加する圧力印加モード、及び、前記被検査部位への圧力を開放する圧力開放モードのそれぞれのモードにおいて、(a)前記光計測信号から抽出された前記出射光の前記特定波長における出射光強度、及び、前記照射光の前記特定波長における照射光強度に基づき前記特定波長における吸光度を算出することを、互いに波長の異なる複数の前記特定波長についてそれぞれ行うとともに、(b)互いに波長が異なる前記特定波長毎に算出された前記吸光度、並びに、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出することを前記受光箇所毎に行い、
前記圧力印加モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRpと、前記圧力開放モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRrとの間の差であるDHR変化量を前記受光箇所毎に算出し、
算出した前記受光箇所毎の前記DHR変化量の2次元的又は3次元的な分布を表すDHR変化量マップ情報を生成し、
前記DHR変化量マップ情報に基づいて癌発生疑い部位の場所を特定する、
ことを特徴とする癌発生疑い部位特定装置。
【請求項2】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
前記被検査部位を前記圧力印加モードの下に置いて前記還元ヘモグロビン比率HDRpを取得し、次いで、前記被検査部位を前記圧力開放モードの下に置いて前記還元ヘモグロビン比率HDRrを取得することにより、前記受光箇所毎の前記DHR変化量を算出するものである、
ことを特徴とする請求項1に記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項3】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
前記圧力印加モードにおいては、前記被検査部位に対して15mmHg~25mmHgの範囲内の圧力を印加するものである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項4】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線において、酸化ヘモグロビンの吸光係数及び還元ヘモグロビンの吸光係数が等しくなる波長をλEとすると、
少なくとも、λE以下の波長の中から1つの波長を前記特定波長として選択し、且つ、λEを超える波長の中から1つの波長を前記特定波長として選択し、選択したそれぞれの波長における前記吸光度をそれぞれ算出するものである、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項5】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
互いに波長の異なる3つ以上の波長を前記特定波長として選択して、選択したそれぞれの波長における前記吸光度をそれぞれ算出するものである、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項6】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
前記光源として、700nm~1200nmの範囲内の波長であって互いに波長の異なる波長に出力強度のピークをそれぞれ有する前記照射光を出力する複数のレーザ光源を有し、
前記複数の前記レーザ光源の中からいずれか1つを選択し、該選択された前記レーザ光源に基づく前記照射光を前記被検査部位に照射することにより、前記吸光度を算出すべき前記特定波長を選択するものである、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項7】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
互いに異なる波長域の光を通過する複数のバンドパスフィルタを更に備え、
前記複数のバンドパスフィルタの中からいずれか1つを選択し、該選択された当該バンドパスフィルタを前記受光器の前段に配置するものである、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項8】
前記レーザ光源は、前記照射光としてパルスレーザ光を出力するパルスレーザ光源であり、
前記癌発生疑い部位特定装置は、
(a)所与の前記パルスレーザ光の照射タイミングに基づいて前記光検出器が出力する前記光計測信号を入力し、前記光計測信号に基づいて前記特定波長別の前記吸光度のプロファイルを算出することを、互いに波長の異なる複数の前記特定波長についてそれぞれ行うとともに、(b)前記特定波長別の前記吸光度のプロファイルに基づいて前記受光箇所毎の還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルを算出することを前記受光箇所毎に行い、
前記受光箇所毎の前記還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルに基づき拡散光トモグラフィーによる演算を行って、前記被検査部位における前記DHR変化量の分布を前記DHR変化量マップ情報として再構成し、
前記DHR変化量マップ情報に基づいて癌発生疑い部位の場所を特定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の癌発生疑い部位特定装置。
【請求項9】
前記癌発生疑い部位特定装置は、
前記被検査部位として乳房の一部又は全部が適用されて、乳癌の癌発生疑い部位を特定するものである、
ことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の癌発生疑い部位特定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌発生疑い部位特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、乳癌の癌発生疑い部位を発見し特定するために様々な取り組みがなされてきた。
乳癌の癌発生疑い部位特定装置としては、例えば、乳房X線検査装置(X線マンモグラフィー)が普及している。X線マンモグラフィーは、X線を用いて被検査者の乳房の内部の様子を撮影し、撮影によって得られた画像を解析することにより癌発生疑い部位を発見し癌発生疑い部位が存在する場所を特定することができる(以下、癌発生疑い部位を発見し癌発生疑い部位が存在する場所を特定することを単に「検査」ということがある。)。
しかし、X線マンモグラフィーによる検査においては、乳腺が白く映り込んでしまうため、もし乳腺が緻密に分布している部位の背後に癌細胞が存在している場合には、癌細胞が乳腺の映像の背後に隠れてしまい、癌細胞を見落としてしまう可能性がある。また、X線マンモグラフィーによる検査は、X線の被爆を伴うものであり、且つ、圧迫板で乳房を強く挟み込んでX線撮影を行うことから、被検査者に対し多かれ少なかれダメージを与えるという問題がある(侵襲的な検査)。これらの問題は、乳癌検査の受診を躊躇させる要因にもなっている。
【0003】
上記問題を解消しながら癌検査を行う装置として、近赤外光を用いて発生疑い部位を表示する装置も提案されている(従来の発生疑い部位表示装置)。
生体の組織(生体組織)に光を照射すると、生体組織ではその内部の物質によって光が吸収されて光の強度は光の進行とともに減衰する。生体組織の内部で光を吸収する主な物質は、主に水及びヘモグロビン(血液)であると言われている。これら水及びヘモグロビンの光吸収スペクトルは波長に強く依存する。近赤外域の波長の光に対しては水及びヘモグロビンによる光の吸収が比較的弱く、このため近赤外域の波長の光は生体組織の内部に深く浸透することとなる(この近赤外域の波長を「生体の光学的窓」と呼ぶ。)。
従来の癌発生疑い部位表示装置は、このような「生体の光学的窓」と呼ばれる波長域を含む近赤外光を被検査者の体表に照射し、生体組織で吸収及び散乱を繰り返し再び体表に戻った光を捉えて解析することにより、生体内の様子を表示するものである。例えば、非特許文献1に記載されたDOSイメージングと呼ばれる手法を用いた装置の場合には、組織内に存在する酸化ヘモグロビンによる光吸収及び還元ヘモグロビンによる光吸収を捉えてこれらの信号を定量化し、これらに基づきDOSイメージングを表示し、癌発生疑い部位を表示して特定しようとするものである(非特許文献1の382頁及び図2参照)。
【0004】
このような従来の癌疑い部位表示装置を用いれば、癌発生疑い部位を特定する装置を構成することも可能である(従来の癌発生疑い部位特定装置)。
従来の癌発生疑い部位特定装置によれば、近赤外光を用いるため、被検査者に対する侵襲的なダメージをほとんど与えることなく検査を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】上田重人、「光マンモグラフィー:拡散光スペクトロスコピーを用いた乳がんイメージングの臨床応用」、腫瘍内科/腫瘍内科編集委員会編、科学評論社、7巻4号(通号40号)、p.382-387
【文献】山田幸生、”3 光を用いた非侵襲生体診断”、[online]、平成19年9月5日、文部科学省科学技術・学術審議会・資源調査分科会報告書、[2018年6月11日検索]、インターネット(URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1333543.htm)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの光吸収の特性曲線をみると、生体の光学的窓と呼ばれる波長域においてはヘモグロビンの光吸収の強さが光散乱の強さの1/10以下となっており、信号の強度(ヘモグロビンの光吸収の強さ)がノイズの強度(光散乱の強さ)に対して極めて弱くなっている(図12参照)。
このため、従来の癌発生疑い部位特定装置では、散乱によって歪められた光の情報の中から酸化ヘモグロビンの光吸収及び還元ヘモグロビンの光吸収という微弱な信号成分を引き出さなければならない。いうなれば、信号がノイズに埋もれがちであり、信号ノイズ比(S/N比)は決して高いとはいえない。これが、従来の癌発生疑い部位特定装置における癌発生疑い部位の検出精度を上げるための障害の1つとなっている。
【0007】
そこで本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりもS/N比が高く、従来よりも癌発生疑い部位の検出精度が高い癌発生疑い部位特定装置を提供することを目的とする。
【0008】
なお、図12は、生体組織による光吸収(吸光)及び光散乱の波長特性を示す図である。図12において、「ヘモグロビン」及び「水」と付記されたグラフはそれぞれの物質による光吸収の強さ(吸光係数)を示すグラフを表しており、「散乱」と付記されたグラフは生体組織内での光散乱の強さを示すグラフを表している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、生体の被検査部位に照射光を照射し該被検査部位から外部に出射した出射光を解析することにより癌発生の疑いのある部位を特定する癌発生疑い部位特定装置であって、少なくとも700nm~1200nmの範囲内の特定波長で出力強度を有している照射光を出力する光源と、光源と光学的に接続され、照射光を被検査部位に向け照射する照射器と、生体の体表に沿った複数の受光箇所にそれぞれ配置され、被検査部位から外部に出射した出射光を受ける複数の受光器と、受光器が受けた出射光を検出して光計測信号に変換し該光計測信号を出力する光検出器と、を備えることを特徴とする。
また、かかる癌発生疑い部位特定装置は、被検査部位に所定の圧力を印加する圧力印加モード、及び、被検査部位への圧力を開放する圧力開放モードのそれぞれのモードにおいて、(a)光計測信号から抽出された出射光の特定波長における出射光強度、及び、照射光の特定波長における照射光強度に基づき特定波長における吸光度を算出することを、互いに波長の異なる複数の特定波長についてそれぞれ行うとともに、(b)互いに波長が異なる特定波長毎に算出された吸光度、並びに、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出することを受光箇所毎に行い、圧力印加モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRpと、圧力開放モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRrとの間の差であるDHR変化量を受光箇所毎に算出し、算出した受光箇所毎のDHR変化量の2次元的又は3次元的な分布を表すDHR変化量マップ情報を生成し、DHR変化量マップ情報に基づいて癌発生疑い部位の場所を特定する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明の癌発生疑い部位特定装置は、互いに波長の異なる複数の特定波長について吸光度を算出することをそれぞれ行うとともに、特定波長毎に算出された吸光度、並びに、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出するため、受光器側の出射光強度の絶対値(明るさ/暗さ)に影響を受けることなく還元ヘモグロビン比率DHRを高精度に算出することができることから、従来よりもS/N比が高く、従来よりも癌発生疑い部位の検出精度が高い癌発生疑い部位特定装置となる。
また、本発明の癌発生疑い部位特定装置は、被検査部位に所定の圧力を印加する圧力印加モード、及び、被検査部位への圧力を開放する圧力開放モードのそれぞれのモードにおいて、還元ヘモグロビン比率DHRを算出することを受光箇所毎に行い、圧力印加モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRpと、圧力開放モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRrとの間の差であるDHR変化量を受光箇所毎に算出し、受光箇所毎のDHR変化量の2次元的又は3次元的な分布を表すDHR変化量マップ情報に基づいて癌発生疑い部位の場所を特定する。
このように被検査部位に所定の圧力を印加することで新生血管内に停滞する赤血球に対してのみ限定的に還元ヘモグロビン比率DHRを高めることができることから、還元ヘモグロビン比率DHRというメジャーで被検査部位を計測する際、正常組織の中から新生血管のみを際立たせながら焙り出すことができる。したがって、本発明の癌発生疑い部位特定装置は、従来よりもS/N比が高く、従来よりも癌発生疑い部位の検出精度が高い癌発生疑い部位特定装置となる。
なお、本明細書において「還元ヘモグロビン比率DHR」とは、単位体積でみたときの総ヘモグロビン数(酸化ヘモグロビン及び還元ヘモグロビンの合計数)に対する還元ヘモグロビン数の比率をいうものとし、便宜的にDHR(Deoxy-Hemoglobin Raio)の変数表記をするものとする。
【0011】
[2]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、被検査部位を圧力印加モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRpを取得し、次いで、被検査部位を圧力開放モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRrを取得することにより、受光箇所毎のDHR変化量を算出するものである、ことが好ましい。
【0012】
このような順番で還元ヘモグロビン比率DHRを取得することにより、S/N比を一層高めることができる。また、始めに圧力印加モードにて還元ヘモグロビン比率HDRpが比較的高い部位を探し当て、その後圧力開放モードで当該部位について特に精密に還元ヘモグロビン比率HDRrを取得するといったことも可能となり、検出精度を上げることができる。
【0013】
[3]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、圧力印加モードにおいては、被検査部位に対して15mmHg~25mmHgの範囲内の圧力を印加するものである、ことが好ましい。
【0014】
このような構成とすることにより、好適に新生血管の内部に存在する赤血球に対してのみ限定的に還元ヘモグロビン比率DHRを高めることができる。
【0015】
[4]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線において、酸化ヘモグロビンの吸光係数及び還元ヘモグロビンの吸光係数が等しくなる波長をλEとすると、少なくとも、λE以下の波長の中から1つの波長を特定波長として選択し、且つ、λEを超える波長(λEよりも長い波長)の中から1つの波長を特定波長として選択し、選択したそれぞれの波長における吸光度をそれぞれ算出するものである、ことが好ましい。
【0016】
このような構成とすることにより、還元ヘモグロビングロビンの吸光係数及び酸化ヘモグロビンの吸光係数の大小関係が逆転しているポイントの2つの波長を少なくとも特定波長として選択することとなり、より誤差が抑えられ高精度に還元ヘモグロビン比率DHRを算出することが可能となる。
【0017】
[5]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、互いに波長の異なる3つ以上の波長を特定波長として選択して、選択したそれぞれの波長における吸光度をそれぞれ算出するものである、ことが好ましい。
【0018】
このように3以上の波長を特定波長として選択することにより、3以上の条件式に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出することとなるため、より一層高精度に還元ヘモグロビン比率DHRを算出することが可能となる。
【0019】
[6]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、光源として、700nm~1200nmの範囲内の波長であって互いに波長の異なる波長に出力強度のピークをそれぞれ有する照射光を出力する複数のレーザ光源を有し、複数のレーザ光源の中からいずれか1つを選択し、該選択されたレーザ光源に基づく照射光を被検査部位に照射することにより、吸光度を算出すべき特定波長を選択するものである、ことが好ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、意図する波長に出力強度のピークを有するレーザ光源を複数のレーザ光源の中から選択することで、比較的容易に吸光度を計測すべき波長を選択し設定することが可能となる。
【0021】
[7]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、互いに異なる波長域の光を通過する複数のバンドパスフィルタを更に備え、複数のバンドパスフィルタの中からいずれか1つを選択し、該選択された当該バンドパスフィルタを受光器の前段に配置するものである、ことが好ましい。
【0022】
このような構成とすることにより、意図する波長域の光を通過するバンドパスフィルタを複数のバンドパスフィルタの中から選択することで、比較的容易に吸光度を計測すべき波長を選択し設定することが可能となり、また、投光側(光源及び照射器)においても複数の光源を準備する必要もなく1種類の光源のみで癌発生疑い部位特定装置を構成することが可能となる。
【0023】
[8]上記[6]に記載された癌発生疑い部位特定装置において、レーザ光源は、照射光としてパルスレーザ光を出力するパルスレーザ光源であることが好ましい。
加えて、癌発生疑い部位特定装置は、(a)所与のパルスレーザ光の照射タイミングに基づいて光検出器が出力する光計測信号を入力し、光計測信号に基づいて特定波長別の吸光度のプロファイルを算出することを、互いに波長の異なる複数の特定波長についてそれぞれ行うとともに、(b)特定波長別の吸光度のプロファイルに基づいて受光箇所毎の還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルを算出することを受光箇所毎に行い、受光箇所毎の還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルに基づき拡散光トモグラフィーによる演算を行って、被検査部位におけるDHR変化量の分布をDHR変化量マップ情報(ここでは3次元イメージング)として再構成し、DHR変化量マップ情報に基づいて癌発生疑い部位の場所を特定する、ことが好ましい。
【0024】
このような構成とすることにより、拡散光トモグラフィーによってDHR変化量の3次元的な分布を再構成したDHR変化量マップ情報が得られるため、被検査部位の内部におけるDHR変化量の分布状況を立体的に(例えば照射器~受光器間の深さ方向についても)俯瞰し相対評価することができ、より高精度に癌発生疑い部位の位置を特定することが可能となる。
【0025】
[9]本発明の癌発生疑い部位特定装置は、被検査部位として乳房の一部又は全部が適用されて、乳癌の癌発生疑い部位を特定するものである、ことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1の使用例を説明するために示す図である。
図2】実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1を説明するために示す図である。
図3】実施形態1の制御演算部50及び癌発生疑い判断部60が行う制御・演算を説明するために示すフロー図である。
図4】酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線C1及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線C2を示す図である。
図5】実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1による吸光度の計測タイミング、還元ヘモグロビン比率DHRに関係する演算及びDHR変化量マップを説明するために示す図である。
図6】実施形態2に係る癌発生疑い部位特定装置2を説明するために示すブロック図である。
図7】実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3を説明するために示すブロック図である。
図8】拡散光トモグラフィーのデータ計測部及び画像再構成アルゴリズムを説明するために示す図である。
図9】変形例1に係る癌発生疑い部位特定装置1’を説明するために示す要部ブロック図である。
図10】変形例2としての吸光度の計測タイミングを説明するために示す図である。
図11】変形例3に係る癌発生疑い部位特定装置4を説明するために示す要部ブロック図である。
図12】生体組織による光吸収(吸光)及び光散乱の波長特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の癌発生疑い部位特定装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。なお、各図面は模式図であり、必ずしも実際の寸法を厳密に反映したものではない。以下の説明及び図面において記載されている添え字i,j,kは、いずれも自然数である。
【0028】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1の使用例
実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1の理解を容易にするため、癌発生疑い部位特定装置1の構成を説明する前に、当該癌発生疑い部位特定装置1がどのように適用され使用されるのか、その一例を説明する。
【0029】
図1は、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1の使用例を説明するために示す図である。なお、図1及び図2に共通する符号の説明は図2の説明において行う。
実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、生体Biの被検査部位INPに照射光ILを照射し該被検査部位INPから外部に出射した出射光OLを解析することにより癌発生の疑いのある部位(癌発生疑い部位S)を特定する癌発生疑い部位特定装置である(図1参照)。
乳癌の検査のために癌発生疑い部位特定装置1を構成する場合、内壁に照射器15及び受光器25が対向するようにして配置された検査空間660を設けてもよい(図1参照)。この場合には、まず、被検査者(ヒトHu)の乳房Brを検査空間660に「挿入」し、次いで、癌発生疑い部位特定装置1を作動させることにより癌発生疑い部位特定装置1を使用する。
また例えば、ベルト形状やクリップ形状のセンサヘッド《照射器15、受光器25及び圧力印加手段40(後述)からなるセット》を有する簡易血圧計の如き持ち運び容易な態様で癌発生疑い部位特定装置1を構成してもよい(図示を省略)。この場合には、まず、癌発生疑い部位特定装置1を被検査部位INPに「装着」し、次いで、癌発生疑い部位特定装置1を作動させることにより癌発生疑い部位特定装置1を使用する。
【0030】
ここで「解析」とは、後述する出射光OLの検出~DHR変化量マップ情報に基づく癌発生疑い部位の場所の特定までの一連の検出、演算等を含む解析をいう。
「被検査部位INP」とは、生体Biのうち癌発生疑い部位特定装置1が計測を行う対象となる部位をいう。本明細書においては被検査部位INPの中に癌発生疑い部位Sが含まれていることを想定して説明する。
【0031】
2.実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1の構成
図2は、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1を説明するために示す図である。図2(a)は癌発生疑い部位特定装置1のブロック図である。なお、被検査部位INPの領域内に描かれた矢印は、照射光が入射した後、吸収・散乱をしながら図面の下方向に光が進行する様子を模式的に表したものであり、また、圧力印加手段40において描かれた太矢印は圧力印加手段40によって発生する力の一部を模式的に表したものであり、矢印の方向は力が加わる方向を示したものである(以下の図面においても同様)。なお、符号Nは新生血管を示し、符号Cは癌細胞を示すものとする(他の図面においても同様)。
【0032】
(1)光学系の構成
図1及び図2(a)に示すように、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、少なくとも光源10と、照射器15と、受光器25と、光検出器20と、を備える。また、癌発生疑い部位特定装置1は、光源10と照射器15との間に配置された波長選択器30を備える。
【0033】
光源10は、少なくとも700nm~1200nmの範囲内の特定波長で出力強度を有している照射光ILを出力する。より好ましくは、照射光ILが700nm~900nmの範囲内の特定波長で出力強度を有していてもよい。
ここでは、複数のレーザ光源10a,10b,10c,・・をもって光源10を構成する。複数のレーザ光源10a,10b,10c,・・は、700nm~1200nmの範囲内の波長であって互いに波長の異なる波長λ1,λ2,λ3,・・に出力強度のピークをそれぞれ有する照射光ILを、それぞれが出力することができる。
【0034】
照射器15は、ライトガイド17等を介して光源10と光学的に接続されており、光源10が出力した照射光ILを被検査部位INPに向け照射する。照射器15は、例えばライトガイド17の端部(光出射端面を含む端部)がこれに相当することになる。しかし、照射器15の具体的構成はこれに限定されるものではない。
照射器15は、該癌発生疑い部位特定装置1と被検査部位INPとが所定の関係で配置されたときに(被検査部位INPが癌発生疑い部位特定装置1に「挿入」されたとき又は癌発生疑い部位特定装置1が被検査部位INPに「装着」されたとき)、被検査部位INPに面するようにして配置される。
【0035】
波長選択器30は、複数のレーザ光源10a,10b,10c,・・の中からいずれか1つを選択し、該選択されたレーザ光源に基づく照射光ILを被検査部位INPに照射することにより、吸光度aを算出(後述)すべき特定波長を選択する。
波長選択器30は、複数のノッチ(符号なし)がそれぞれのレーザ光源10a,10b,10c,・・に接続され、且つ、コモン端子(符号なし)が照射器15に接続された光路セレクタによって構成してもよい(図1及び図2参照)。
【0036】
次に、受光器25について説明する前に受光箇所Rjkについて説明しておく。
図2(b)は、照射器15、被検査部位INP、複数の受光箇所Rjk及び複数の受光器25の位置関係を説明するための斜視図である。被検査部位INP及び受光箇所Rjk等の範囲は仮想的に一点鎖線及び点線で表示している。また、受光器25は符号で示すのみであり、その輪郭は描いていない。図2(c)は、図2(b)の領域Aを照射器15側から視たときの複数の受光箇所Rjkの配置を例示したものである。受光箇所Rjkは、実際には生体Biの体表Bsの曲面(xy面)において設定されるものであるが説明のために平面上に示している。
【0037】
受光箇所Rjkは、体表Bsにおいて出射光OLを受光する箇所である。本明細書において、受光箇所Rjkを、受光する「位置」として説明するが、このような位置を含んだ一定の面積を有する「小領域」として説明する場合がある。「小領域」としての受光箇所Rjkの集合体により、後述するDHR変化量のマップ化を行う範囲であるマップ領域を形成する。図2の例においては、4行5列の並びでR11~R45で示される20箇所の受光箇所Rjkが設定されており、それらの集合体がマップ領域となる。
【0038】
癌発生疑い部位特定装置1は受光器25を複数備える。
受光器25は、当該癌発生疑い部位特定装置1と被検査部位INPとが所定の関係で配置されたときに、生体Biの体表Bsに沿った複数の受光箇所Rjkにそれぞれ配置され、被検査部位INPから外部に出射した出射光OLを受ける。
【0039】
図2の例では、受光器25はR11~R45で示される20箇所の受光箇所Rjkに配置される。また、図1及び図2の例では、いわゆる透過型の癌発生疑い部位特定装置を例にして説明しているため、ここでの受光器25は被検査部位INPを挟んで照射器15にほぼ対向するようにそれぞれ配置されることとなる。
【0040】
個体(ディスクリート)の受光素子をそれぞれの「受光器25」として構成してもよい。或いはまた、一定の面積を有するCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサの1ピクセル単位の素子を、それぞれの「受光器25」として構成してもよい。
【0041】
光検出器20は、受光器25が受けた出射光OLを検出して光計測信号(図示を省略)に変換し該光計測信号を出力する。
具体的には、光検出器20は、波長(換言すると周波数)に応じた光の強度を検出して光計測信号(受光強度のスペクトラムを含む信号)として出力するものとして構成してもよい。例えば、分光器を光検出器20として採用することができる。
光検出器20は、複数の受光器25に共通の1つの光検出器が接続されている(図1及び図2参照)。しかし、光検出器20具体的構成はこれに限定されるものではない、複数の受光器25にそれぞれ対応するように個別の光検出器を配置してもよい。
【0042】
(2)圧力印加手段40
癌発生疑い部位特定装置1は、圧力印加手段40を備える(図1及び図2参照)。
圧力印加手段40は、被検査部位INPに所与の圧力を印加する。圧力印加手段40は、検査空間660に収容される被検査部位INPを含む生体Biに対して凡そ均等に圧力が印加されるように、検査空間660の内壁によって生体Biを押すような機構により構成してもよい。
ここでの「圧力」はいわゆる静圧であり、例えば乳房Br内部の水分等の流動・揺動の影響が無い状態での圧力をいうものとする。
【0043】
圧力印加手段40は、後述する制御演算部50内の圧力印加制御部(図示を省略)に接続され、該圧力印加制御部からの指示に従って動作する。制御演算部50内の圧力印加制御部(図示を省略)は、圧力を印加するタイミング、圧力の大きさ、印加時間に対する圧力の大きさの変化を表すプロファイル等を適宜変更するなどの指示を圧力印加手段40に出力して、圧力印加に関する制御を行う。
【0044】
本明細書において、被検査部位INPに所与の圧力が印加された動作状態を「圧力印加モード」というものとする。また、圧力印加手段40による圧力印加が解除されて、被検査部位INPが強制的な圧力から解放された状態を「圧力開放モード」というものとする。
【0045】
なお、癌発生疑い部位特定装置1は、圧力印加モードにおいては、被検査部位INPに対して所定の圧力を印加するものである。「所定の圧力」の程度として、新生血管の中を通過しようとする赤血球の流れは滞るが正常組織の毛細血管の中を通過しようとする赤血球の流れは阻害されない程度の圧力であることが好ましい。さらには、15mmHg~25mmHgの範囲内の圧力を印加するものである、ことが一層好ましい。
【0046】
(3)制御演算部50
図3は、実施形態1の制御演算部50及び癌発生疑い判断部60が行う制御・演算を説明するために示すフロー図である。図3(a)はゼネラルフロー図である。図3(b)は、還元ヘモグロビン比率DHR算出するステップS10又は/及びステップS20のみを詳細に示したフロー図である。
以下、図3を中心に参照しながら制御演算部50が行う制御演算について説明する。
【0047】
(3-1)制御演算部50の概要
癌発生疑い部位特定装置1は、制御演算部50を備える。
制御演算部50は、光検出器20と接続されており、光検出器20から光計測信号(後述)を入力する。また、制御演算部50は、圧力印加手段40、波長選択器30及び光源10と接続されている。さらに、制御演算部50には、制御演算部50が生成したDHR変化量マップ情報(後述)を表示するための表示手段500が接続されていてもよい。
制御演算部50には、外部より照射光強度Iinλiに関する信号が与えられる。この照射光強度Iinλiに関する信号は、制御演算部50が特定波長に対応した吸光度aを算出する際(後述)に用いられる。この照射光強度Iinλiは、光源10から出力された照射光ILを参照光として直に制御演算部50側に引き込むことによって与えてもよいし、照射光強度Iinλiが既知の場合には情報として制御演算部50に与えてもよい(図1及び図2も併せて参照)。
【0048】
制御演算部50は、以下に説明する制御・演算機能を提供するものであれば、如何なるもので具現化してもよい。例えば、必要な変換回路(A/D変換回路等)の他、DSP(Digital Signal Processor)、マイコン等のプロセッサを準備し、以下に説明する制御・演算に関するアルゴリズムを記述したプログラムや関連するデータをプロセッサに実装して当該プログラムを実行することにより制御演算部50を実現してもよい。
【0049】
制御演算部50は、上記した圧力印加に関する制御、波長選択に関する制御、光の照射に関する制御(照射出力の大きさの調整、照射タイミングの制御等)を行う。また制御演算部50は、受光箇所Rjk毎の還元ヘモグロビン比率DHRの算出を行い(S10,S20)、癌発生疑いの判断に用いられるDHR変化量マップを生成する(S30,S40)。
【0050】
(3-2)制御演算部50が行う還元ヘモグロビン比率DHRの算出(S10,S20)
制御演算部50は、被検査部位INPに所定の圧力を印加する圧力印加モード、及び、被検査部位INPへの圧力を開放する圧力開放モードのそれぞれのモードにおいて、受光箇所Rjk毎の還元ヘモグロビン比率DHRを算出する。
【0051】
実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、被検査部位INPを圧力印加モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRpを取得し、次いで、被検査部位INPを圧力開放モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRrを取得することにより、受光箇所Rjk毎のDHR変化量を算出するものとして構成する。
具体的には、まず、「第1計測」として、圧力印加モードで出射光OLを計測し還元ヘモグロビン比率DHRを算出して(S10)、圧力印加モード時の還元ヘモグロビン比率DHRpを受光箇所Rjk毎に取得する(D1)。次いで、「第2計測」として、圧力開放モードで出射光OLを計測し還元ヘモグロビン比率DHRを算出して(S20)、圧力開放モード時の還元ヘモグロビン比率DHRrを受光箇所Rjk毎に取得する(D2)(図5も併せて参照)。
【0052】
(3-3)吸光度aを得るまでの制御・演算
制御演算部50による受光箇所毎の還元ヘモグロビン比率DHRを得るまでの詳しい制御・演算は、以下のとおり行う《以下、図3(b)参照》。
【0053】
(a)特定波長における出射光強度Ioutλiの計測(S2)
まず、波長λi(但し、iは自然数)を特定波長として選択する(S201)。具体的には波長選択器30の光路セレクタのノッチをレーザ光源10aに切り替えることによって行う。次いで、照射器15より被検査部位INPに向け照射光ILを照射を開始する(S202)。これに伴い、受光器25は出射光OLを受け、光検出器20は受光器25が受けた出射光OLに基づいて光計測信号を出力することとなる(S203)。次いで、光計測信号に基づいて特定波長λiにおける出射光強度Ioutλiを抽出する(S204)。この段階では照射光ILの照射を終了していてもよい。なお、これらのうちステップS203及びステップS204については受光箇所Rjk毎に行う。
【0054】
(b)特定波長における吸光度aiの算出(S4)
次に、光計測信号から抽出された出射光OLの特定波長における出射光強度Ioutλi、及び、照射光ILの特定波長における照射光強度Iinλiに基づき特定波長λiにおける吸光度aiを算出する(S4)。
出射光強度Ioutλiは上記したステップS2によって得られた値を用い、照射光強度Iinλiは外部から与えられた所与の値を用いる。また、吸光度aiの算出にあたっては、ランベルト・ベール法則の公式《ここでは、図3(b)のS4の枠内の左端に示された式》を用いる。吸光度aiの算出は、受光箇所Rjk毎に行う。
【0055】
(c)多波長による出射光強度Ioutλの計測と吸光度aの算出
次に、波長λiとは異なる波長λi+1を特定波長として選択しなおす(S301)。その上で、新たな波長λi+1による照射光ILの照射を開始する(S302)。受光器25は出射光OLを受け、光検出器20は受光器25が受けた出射光OLに基づいて光計測信号を出力することとなる(S303)。次いで、光計測信号に基づいて特定波長λi+1における出射光強度Ioutλi+1を抽出する(S304)。同様に、これらのうちステップS303及びステップS304については受光箇所Rjk毎に行う。
その上で、光計測信号から抽出された出射光OLの特定波長における出射光強度Ioutλi+1、及び、照射光ILの特定波長における照射光強度Iinλi+1に基づき特定波長λi+1における吸光度ai+1を算出する(ここでは、図3(b)のS4の枠内の中央に示された式を用いる)。吸光度ai+1の算出は、受光箇所Rjk毎に行う。
以降、特定波長としての波長λを変えながら、つまりiの値を1ずつ増やしながら、同様の制御・演算を繰り返す(S2参照)。
【0056】
このように、制御演算部50は、互いに波長の異なる複数の特定波長(本明細書において「多波長」ということがある。)について、特定波長の波長を変えながら上記(a)特定波長における出射光強度Ioutλの計測S2及び(b)特定波長における吸光度aの算出を、それぞれ行う。
これにより、多波長(λi,λi+1,λi+2,・・)についての吸光度(ai,ai+1,ai+2,・・)を、受光箇所Rjk毎に得ることができる。
【0057】
なお、癌発生疑い部位特定装置1は、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線C1及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線C2において、酸化ヘモグロビンの吸光係数及び還元ヘモグロビンの吸光係数が等しくなる波長をλEとすると、少なくとも、λE以下の波長の中から1つの波長を特定波長として選択し、且つ、λEを超える波長(λEよりも長い波長)の中から1つの波長を特定波長として選択し、選択したそれぞれの波長における吸光度aをそれぞれ算出するものである、ことが好ましい。
また、癌発生疑い部位特定装置1は、互いに波長の異なる3つ以上の波長を特定波長として選択して、選択したそれぞれの波長における吸光度aをそれぞれ算出するものである、ことがより好ましい。
【0058】
(3-4)還元ヘモグロビン比率DHR算出の詳細(S8)
図4は、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線C1及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線C2を示す図である。ここで「酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線」とは、酸化ヘモグロビンに特有の光吸収曲線(図4のC1参照)及び還元ヘモグロビンに特有の光吸収曲線(図4のC2)のことをいうものとする。
【0059】
制御演算部50は、続いて、互いに波長が異なる特定波長(λi,λi+1,λi+2,・・)毎に算出された吸光度(ai,ai+1,ai+2,・・)、並びに、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報INF1に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出することを受光箇所毎Rjkに行う(S8)。
【0060】
還元ヘモグロビン比率DHRの算出は、具体的には次のように行う(図4参照)。
まず、「酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線C1及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線C2」より、意図する特定波長に対応した「酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報」を把握する。酸化ヘモグロビンの吸光係数及び還元ヘモグロビンの吸光係数が等しくなる波長をλE(図4では800nm付近)としたときに、例えば、特定波長λ1として700nm付近の波長を、特定波長λ2として880nm付近の波長を、特定波長λ3としてλEを選択したとする。λ1における酸化ヘモグロビン(以下便宜上「HbO2」とする)の吸光係数は0.3、還元ヘモグロビン(以下便宜上「Hb」とする)の吸光係数は1.8として把握される。同様にλ2におけるHbO2の吸光係数は1.3、Hbの吸光係数は0.8として把握され、λ3におけるHbO2の吸光係数は0.85、Hbの吸光係数は0.85として把握される。これらを「酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報」とする。
特定波長がそれぞれλ1,λ2,λ3のときのそれぞれの吸光度をa1,a2,a3とし、還元ヘモグロビン数と酸化ヘモグロビン数との割合をx:yとすると、次の(1)式~(3)式のような連立方程式を立てることができる。
a1=1.8x+0.3y ・・・(1)
a2=0.8x+1.3y ・・・(2)
a3=0.85x+0.85y ・・・(3)
続いて、特定波長毎に計測され算出された吸光度a1,a2,a3を上記連立方程式に与える。制御演算部50は、この連立方程式を解くことにより当該受光箇所Rjkに対応したx,yの値を算出することができる。
最終的には、これら算出されたx,yの解を用いて、次の(4)式により、当該受光箇所Rjkに対応した還元ヘモグロビン比率DHRを算出することができる。
還元ヘモグロビン比率DHR=x/(x+y) ・・・(4)
【0061】
圧力印加モードの下で制御演算部50が上記演算を行うことにより、圧力印加モード時の還元ヘモグロビン比率DHRpを得ることができる《図3(a)のD1参照》。同様に、圧力開放モードの下で制御演算部50が上記演算を行うことにより、圧力開放モード時の還元ヘモグロビン比率DHRrを得ることができる(同D2)。
【0062】
(3-5)制御演算部50が行うDHR変化量マップ情報の生成(S30,S40)
(a)DHR変化量の算出(S30)
制御演算部50は、圧力印加モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRpと、圧力開放モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRrとの間の差である「DHR変化量」を受光箇所毎に算出する《図3(a)のS30,D3》。
【0063】
図5は、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1による吸光度の計測タイミング、還元ヘモグロビン比率DHRに関係する演算及びDHR変化量マップを説明するために示す図である。
【0064】
上記(3-1)~(3-4)の制御・演算によって、受光箇所Rjk毎に圧力印加モードによる還元ヘモグロビン比率DHRpの値(以下単に「DHRp」ということがある)、及び、圧力開放モードによる還元ヘモグロビン比率DHRrの値(以下単に「DHRr」ということがある)が得られた《図3(a)のD1,D2及び図5のMAPp,MAPrを参照》。
制御演算部50は、これらDHRp及びDHRrに基づき、DHRpとDHRrとの差をとる演算を行うことにより、受光箇所Rjk毎のDHR変化量を算出する《図3(a)のS30及び図5のS30を参照》。
【0065】
(b)DHR変化量マップ情報の生成(S40)
制御演算部50は、受光箇所Rjkに対応するようにしてそれぞれ得られたDHR変化量に基づき、受光箇所Rjk毎のDHR変化量の2次元的又は3次元的な分布を表すDHR変化量マップMAPdを生成する。制御演算部50は、DHR変化量マップMAPdを表すための情報であるDHR変化量マップ情報を生成する《図3(a)のS40,D4及び図5のMAPdを参照》。
【0066】
「DHR変化量」の態様は、連続的な数値であってもよいし、所定の数値幅毎に定義された水準/段階/レベル/ランク等と呼ばるもので表されるものであってもよい。図5のDHR変化量マップMAPdにおいては、DHR変化量が小さい方から大きい方までの間を便宜上4つの段階(Po1~Po4)に区分けした「水準」として表しており、図においてそれぞれの水準に応じて網掛けの種類を変えて描いている。
【0067】
なお、図5においては、便宜上、圧力印加モードによる還元ヘモグロビン比率DHRpのマップMAPpを作成し、且つ、圧力開放モードによる還元ヘモグロビン比率DHRrのマップMAPrを作成したうえで、DHR変化量マップMAPdを作成する例を記載した。しかし制御演算部50の具体的構成はこれに限定されるものではない。例えば、MAPp及びMAPrを作成せず、受光箇所Rjk毎にDHR変化量を個別に求め、これら受光箇所毎RjkのDHR変化量に基づいてDHR変化量マップMAPdを作成してもよい。
【0068】
(4)癌発生疑い判断部60
癌発生疑い部位特定装置1は、癌発生疑い判断部60を備える(図1及び図2参照)。
癌発生疑い判断部60は、DHR変化量マップ情報に基づいて癌発生疑い部位Sの場所を特定する。
【0069】
癌発生疑いの判断は、被検査者の状況、癌発生疑い部位特定装置1による検査パラメータの設定、癌発生疑い部位の見逃し回避のためのマージン等を考慮に入れながら、DHR変化量の絶対値、他の部位のDHR変化量との相対的な違いなどに基づいて行う。何を観点としてどの程度の閾値をもって癌発生疑い部位の存否を判断するかは、最終的には医師に依るところが大きい。しかしながら、癌発生疑い部位特定装置1は後述するように従来の装置よりもS/N比が高いため、一定程度の高い精度をもって癌発生疑い部位を特定することができ、検査を行う医師の大きな助けとなる。
【0070】
癌発生疑い判断部60は、DHR変化量マップ情報MAPdに基づき、DHR変化量が大きい部位(つまり、圧力開放モードでは還元ヘモグロビン比率DHRが低かった部位で、且つ、圧力印加モードでは還元ヘモグロビン比率DHRが高くなった部位)を新生血管Nが存在するものと推定し、癌発生疑い部位Sの場所として特定する。
【0071】
癌発生疑い判断部60は、DHR変化量マップ情報MAPdを参照し、所与の「閾値」よりもDHR変化量が大きい部位を、癌発生疑い部位Sとして特定してもよい。
例えば、被検査部位INPの中に、図2(b)に示すような位置に癌発生疑い部位Sが存在しており、例えば図5で示されたDHR変化量マップMAPdのようにDHR変化量が分布していたものとする。
上記「閾値」を、第2水準Po2と第3水準Po3との間に設定したとする。DHR変化量マップMAPdにおいて「閾値」よりも大きなDHR変化量を示す部位を抽出すると、受光箇所R23,R33,R34に対応した部位(第3水準Po3)及び受光箇所R24に対応した部位(第4水準Po4)が抽出される。この場合、受光箇所R23,R33,R34,R24に対応した部位は、癌発生疑い部位Sが存在する可能性が高い部位と評価することができる。さらに、DHR変化量が最も大きい第4水準Po4を示している受光箇所R24に対応した部位は、癌発生疑い部位Sが存在する可能性がより高いと評価することができる。癌発生疑い判断部60はこれらの評価結果を基に癌発生疑い部位Sを特定することができる。
【0072】
参考までに、受光箇所Rjkの括りでDHR変化量に基づき癌発生疑い部位を特定する意義について、以下に補足説明する。
図2(b)に示すように、照射光ILは照射器15から被検査部位INPに対し照射される。このようにして被検査部位INPに入射した光は様々な方向に散乱しながら被検査部位INP内を進行するため、個別的/微視的にみれば複数の受光器25で受ける光の像は、必ずしも照射器15から受光器25の間を直線的に結んだときの投影像を直接的に反映したものとなっていない。
ただ、被検査部位INP内には水、脂肪等が凡そ均一に分布しているとするならば、複数の受光器25によって受けた出射光に基づく2次元的なイメージ(2次元的なマップ)においても、被検査部位INP内の癌発生疑い部位Sの位置関係が大体において反映されるものと考えられる。例えば、被検査部位INP内の中央付近に癌発生疑い部位Sが存在しているとすると、受光器25によって受けた出射光に基づいて描かれたDHR変化量マップにおいても、凡そマップ領域の中央付近に特異箇所として表示されるものと考えられる。
したがって、癌発生疑い部位特定装置1(図1及び図2の例)では、深さ方向における癌発生疑い部位Sの位置/場所は不明ではあるが、DHR変化量マップにおける2次元的な癌発生疑い部位Sの場所/位置を、受光箇所Rjkの括り分解能をもって簡易的に特定することができる。
【0073】
3.実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1の作用・効果
(1)多波長を用いて算出する還元ヘモグロビン比率DHR
従来の癌発生疑い部位特定装置においては、1つの特定波長(本明細書において「単波長」ということがある。)で計測した吸光度のみに基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出することも一定の条件の下で可能かもしれない。
しかしこの場合、算出される還元ヘモグロビン比率DHRの値が条件によってバラつくこととなる。例えば、図4で示す波長λ1で吸光度aを計測して還元ヘモグロビン比率DHRを算出したとする。出射光が比較的暗かった場合を考えると、出射光強度Iの絶対値は比較的小さな値として計測され、それを基に算出した吸光度aは比較的高い値として算出されることになる。ただ、このように吸光度aが高くなった原因は、生体組織が元々光透過しづらい組織であるがために全体として吸光度aが高くなったのか、それとも、被検査部位INPにおける還元ヘモグロビン比率DHRが実際に高いために吸光度aが高くなったのか、判別することができない。仮に、還元ヘモグロビン比率DHRを算出したとしてもその値には多分に誤差を内包していることになる。
このような事情から、単波長で計測した吸光度のみで還元ヘモグロビン比率DHRを算出する場合、還元ヘモグロビン比率DHRの値の精度を上げるのには限界がある。
【0074】
一方、本発明の癌発生疑い部位特定装置においては、(a)光計測信号から抽出された出射光の特定波長における出射光強度、及び、照射光の特定波長における照射光強度に基づき特定波長における吸光度を算出することを、互いに波長の異なる複数の特定波長についてそれぞれ行うとともに、(b)互いに波長が異なる特定波長毎に算出された吸光度、並びに、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線情報及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線情報に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出する、よう構成されている。
【0075】
このように、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、互いに波長の異なる複数の特定波長について吸光度を求め、それら複数の吸光度に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出ものであることから、受光器側の出射光強度Ioutλiの絶対値(明るさ/暗さ)に影響を受けることなく還元ヘモグロビン比率DHRを高精度に算出することができる。
したがって、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1によれば、従来よりもS/N比が高く、従来よりも癌発生疑い部位の検出精度が高い癌発生疑い部位特定装置を提供することができる。
【0076】
(2)圧力印加モード及び圧力開放モードによる計測
(2-1)癌細胞,新生血管,還元ヘモグロビン比率DHR,圧力印加の関係の考察
一般に、癌細胞はその増殖のために多くの栄養と酸素を必要とするため、癌細胞の周囲には新生血管が密集していることが知られている。こうしたことから、新生血管が密集している部位を発見することにより、発見した新生血管付近の部位を癌発生疑い部位として特定することができる(癌細胞と新生血管との関係)。
【0077】
新生血管の形状についてみると、新生血管の内側(内腔)は、その内径が極めて小さく赤血球が1個通過するのがやっとという程度の狭い部分も多く散在している。また、新生血管は、所どころで屈曲しトグロを巻くような部分もあり不規則的な管の形状を有しており、流体を流通させるのに元々不適な形状となっている(新生血管の形状に関する知見)。
新生血管はこのような形状となっているため、発明者らは、新生血管を含む生体組織が圧迫(圧力印加)されると、屈曲している部分を中心に新生血管の内側が更に狭くなり、新生血管の中を通過しようとする赤血球の流れが滞るものと考察している。また、新生血管は、正常な毛細血管等に比べて圧迫による赤血球の停滞を惹き起こし易いものと考察している。
【0078】
新生血管の内側で赤血球が停滞すると、近傍に存在している癌細胞(慢性的に酸素枯渇状態にある)により当該停滞した赤血球から酸素が奪われ、酸化ヘモグロビンは高率に還元ヘモグロビンへと変換され(脱酸素化され)、新生血管の内部では還元ヘモグロビン比率DHRが高まるものと考えられる。
【0079】
以上より、発明者らは、生体組織が圧迫(圧力印加)されるのに呼応して還元ヘモグロビン比率DHRが特に高まった部位には新生血管が存在するものと推定し、さらに、新生血管の存在が推定される部位付近には、癌細胞が存在している可能性が高いものとして癌発生疑い部位として特定することができると、考察している。
【0080】
(2-2)圧力印加モード及び圧力開放モードを駆使した新生血管の存在部位の焙り出し
(a)総ヘモグロビン数の多寡によって新生血管を検出するとした場合の問題
癌細胞の周囲には新生血管が密集していることから、新生組織付近においては、正常組織に比べて血流量が多く総ヘモグロビン数が多いという他説もある。この説に則れば、被検査部位に特段の圧力を印加せずとも、血流量、総ヘモグロビン数等を計測し、それらの値が大きい部位を癌発生疑い部位とすることも可能である。しかし、この場合、正常組織の毛細血管が存在する部位であるために血流量、総ヘモグロビン数等が大きいのか、新生血管があるから血流量、総ヘモグロビン数等が大きいのか判別が難しい場合もある。その場合には、正常組織であるのにもかかわらず新生血管であるとの誤検出をする可能性もある(誤検出問題)。いわばノイズを拾う可能性がある。
【0081】
(b)実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1による新生血管の検出
一方、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1においては、上記「(2-1)癌細胞,新生血管,還元ヘモグロビン比率DHR,圧力印加の関係の考察」を踏まえて次のように構成されている。
すなわち、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、被検査部位に所定の圧力を印加する圧力印加モード、及び、被検査部位INPへの圧力を開放する圧力開放モードのそれぞれのモードにおいて、還元ヘモグロビン比率DHRを算出することを受光箇所毎に行うよう構成されている。そして、圧力印加モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRpと、圧力開放モードで算出した還元ヘモグロビン比率DHRrとの間の差であるDHR変化量を受光箇所毎に算出するよう構成されている。
これにより、少なくとも受光箇所Rjk単位での分解能をもってDHR変化量を把握することができるようになる。
また、癌発生疑い部位特定装置1は、算出した受光箇所Rjk毎のDHR変化量の2次元的又は3次元的な分布を表すDHR変化量マップ情報を生成するよう構成されている。これにより、被検査部位INPの内部におけるDHR変化量の2次元的又は3次元的な分布状況を俯瞰し相対評価することができる。
さらに、癌発生疑い部位特定装置1は、DHR変化量マップ情報MAPdに基づき、DHR変化量が大きい部位(つまり、圧力開放モードでは還元ヘモグロビン比率DHRが低かった部位で、且つ、圧力印加モードでは還元ヘモグロビン比率DHRが高くなった部位)を新生血管Nが存在するものと推定し、癌発生疑い部位Sの場所として特定するよう構成されている。
【0082】
このように、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1によれば、被検査部位に所定の圧力を印加することで新生血管内に停滞する赤血球に対してのみ限定的に還元ヘモグロビン比率DHRを高めることができる。つまり圧力を印加することにより、還元ヘモグロビン比率DHRというメジャーで被検査部位を計測する際、例えば光吸収の強さ/光散乱の強さが1/10という悪条件(図12、[発明が解決しようとする課題]等参照)の下においても信号(光吸収)を高精度に抽出することができ、いわば正常組織の中から新生血管のみを際立たせながら焙り出すことができる。
したがって、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、従来よりもS/N比が高く、従来よりも癌発生疑い部位の検出精度が高い癌発生疑い部位特定装置となる。
【0083】
(3)特定波長の選択の仕方
実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、酸化ヘモグロビンの特性吸収曲線C1及び還元ヘモグロビンの特性吸収曲線C2において、酸化ヘモグロビンの吸光係数及び還元ヘモグロビンの吸光係数が等しくなる波長をλEとすると、少なくとも、λE以下の波長の中から1つの波長を特定波長として選択し、且つ、λEを超える波長(λEよりも長い波長)の中から1つの波長を特定波長として選択し、選択したそれぞれの波長における吸光度をそれぞれ算出する。
このような構成となっているため、還元ヘモグロビングロビンの吸光係数及び酸化ヘモグロビンの吸光係数の大小関係が逆転しているポイントの2つの波長を少なくとも特定波長として選択することとなり、より誤差が抑えられ高精度に還元ヘモグロビン比率DHRを算出することが可能となる。
【0084】
さらに、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、互いに波長の異なる3つ以上の波長を特定波長として選択して、選択したそれぞれの波長における吸光度をそれぞれ算出するものである。
このような構成となっているため、3以上の条件式に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出することとなり、一層高精度に還元ヘモグロビン比率DHRを算出することが可能となる。
【0085】
(4)複数のレーザ光源を切り替えることによる波長選択
実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、光源10として、700nm~1200nmの範囲内の波長であって互いに波長の異なる波長に出力強度のピークをそれぞれ有する照射光ILを出力する複数のレーザ光源を有し、複数のレーザ光源の中からいずれか1つを選択し、該選択されたレーザ光源に基づく照射光ILを被検査部位INPに照射することにより、吸光度aを算出すべき特定波長を選択する。
このような構成となっているため、意図する波長に出力強度のピークを有するレーザ光源を複数のレーザ光源の中から選択することで、比較的容易に吸光度を計測すべき波長を選択し設定することが可能となる。
【0086】
(5)実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、被検査部位を圧力印加モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRpを取得し、次いで、被検査部位を圧力開放モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRrを取得することにより、受光箇所毎のDHR変化量を算出するものである。
このような順番で還元ヘモグロビン比率DHRを取得することにより、S/N比を一層高めることができる。また、始めに圧力印加モードにて還元ヘモグロビン比率HDRpが比較的高い部位を探し当て、その後圧力開放モードで当該部位について特に精密に還元ヘモグロビン比率HDRrを取得するといったことも可能となり、検出精度を上げることができる。
【0087】
なお、圧力印加を開始してから光計測を行うまでの時間t1(図5)は、新生血管Nの中を通過しようとする赤血球の大多数が、新生血管Nで停滞をする状態になるまでの時間であることが好ましい。この時間t1は、検査を行う部位が生体Biのどの部位であるか、印加する圧力の大きさ等によって適宜設定することができるが、例えば、乳房Brであれば約20秒~30秒の範囲内で設定してもよい。
一方で、第1計測が完了した時刻から、圧力印加モードより圧力開放モードに移行する時刻までの時間t2(図5)は可能な限り短い方が好ましい。被検査者の状態や外部環境の状態が変化しないうちに、可能な限り同じ条件の下で検査することができるからである。
圧力印加モードより圧力開放モードに移行した時刻から第2計測を開始する時刻までの時間t3は、新生血管内の赤血球の振る舞いが圧力を掛けない状態と同様の通常通りに復帰するのに必要な最低限の時間程度に設定することが好ましい。
【0088】
(6)実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、圧力印加モードにおいて、被検査部位に対して15mmHg~25mmHgの範囲内の圧力を印加するものである。
【0089】
圧力印加モードにおいて被検査部位INPに印加する圧力の程度としては、15mmHgを下回る場合には、新生血管内の赤血球を十分に停滞させることができない。つまり脱酸素化を十分に促進することができない。一方、25mmHgを上回る場合には、正常組織の毛細血管内の赤血球まで停滞させ脱酸素化させてしまう惧れがある。
したがって、被検査部位INPに印加する圧力の程度として15mmHg~25mmHgの範囲内の圧力とすることで、好適に新生血管の内部に存在する赤血球に対してのみ限定的に還元ヘモグロビン比率DHRを高めることができる。
【0090】
(7)乳癌検査向け
実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は、被検査部位INPとして乳房Brの一部又は全部が適用されて、乳癌の癌発生疑い部位Sを特定するものである、ことが好ましい。
【0091】
乳房Brはその大部分が水及び脂肪からなる軟組織であるため、その内部では比較的深くまで光が透過/散乱し易い。また、乳房は、外形を変形させ易いことから、照射器15、受光器25、圧力印加手段40等が配置された検査空間660に対し乳房を容易に配置することができる。あるいは照射器15、受光器25、圧力印加手段40等を乳房に対し容易に装着することができる。また、医療現場の乳癌検査の大部分がX線マンモグラフィーによる検査である現状にあって、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1は被検査者にほとんどダメージを与えず、且つ、癌発生疑い部位Sの検出精度が高い点は魅力的である。したがって、癌発生疑い部位特定装置1が検査を行う対象として「乳房」は好適であり、癌発生疑い部位特定装置1によれば「乳癌」の癌発生疑い部位Sについても的確に特定することができる。
【0092】
[実施形態2]
図6は、実施形態2に係る癌発生疑い部位特定装置2を説明するために示すブロック図である。図6(a)は癌発生疑い部位特定装置2のブロック図である。図6(b)は、複数の照射器15a~15tの配置及び照射シーケンスについて説明するための図である。実施形態1と共通する構成要素については共通する符号を付し、それらの説明は省略する。
【0093】
実施形態2に係る癌発生疑い部位特定装置2は、基本的には実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1と同様の構成を有するが、照射光ILを照射する側の構成が実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1とは異なる。
すなわち、実施形態2に係る癌発生疑い部位特定装置2は、図6(a)に示すように、複数の照射器15a~15tを備え、加えて投光走査手段70を備えている。
複数の照射器15a~15tは、生体Biの体表Bsに沿った複数の投光候補箇所Pjkにそれぞれ配置される。投光候補箇所Pjkの配列は、受光箇所Rjkの配列に対応するように設定される。図6(b)の例ではP11~P45で示す20箇所に設定されている。
投光走査手段70は、例えば光路セレクタ(符号なし)によって構成する。光路セレクタは、複数のノッチがそれぞれの照射器15a~15tに接続され、且つ、コモン端子が波長選択器30に接続される《図6(a)参照》。
【0094】
照射光ILを投入する照射箇所は、投光走査手段70(光路セレクタ)のノッチを切り替えることにより、複数の投光候補箇所P11~P45の中から順次選択することができる。例えば、図6(b)に示すように、P11の照射器15aから照射して必要な計測を行ったら、投光走査手段70(光路セレクタ)で照射箇所をP12に切り替え、次にP12の照射器15bから照射して必要な計測を行うというように、次々と照射箇所を切り替えるようにして順次照射を行ってもよい。
【0095】
実施形態2に係る癌発生疑い部位特定装置2は、複数の照射器15a~15tと、投光走査手段70とを更に備え、上記のような照射シーケンスを行うよう構成されているため、単一の照射器15によって検査を行う場合に比べ、より広範囲な被検査部位INPについて検査を行うことができる。
【0096】
なお、実施形態2に係る癌発生疑い部位特定装置2は、照射光ILを照射する側の構成以外の点においては、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1と同様の構成を有する。そのため、実施形態1に係る癌発生疑い部位特定装置1が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0097】
[実施形態3]
図7は、実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3を説明するために示すブロック図である。図8は、拡散光トモグラフィーのデータ計測部及び画像再構成アルゴリズムを説明するために示す図である。図8において、上半分の「時間分解測定」と書かれて示された範囲はデータ計測部に対応し、下半分の「逆問題計算」と書かれて示された範囲は画像再構成アルゴリズムに対応している。実施形態1,2と共通する構成要素については共通する符号を付し、それらの説明は省略する。
【0098】
実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3は、基本的には実施形態1,2に係る癌発生疑い部位特定装置1,2と同様の構成を有するが、制御演算部50において光拡散トモグラフィー演算を行い3次元的な分布を表すDHR変化量マップ情報を生成する点において実施形態1,2に係る癌発生疑い部位特定装置1,2とは異なる。以下、実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3について、実施形態1,2に係る癌発生疑い部位特定装置1,2と異なる特徴点を中心に、図7及び図8を用いて説明する。
【0099】
(1)癌発生疑い部位特定装置3の基本構成
癌発生疑い部位特定装置3のレーザ光源(10a’,10b’,10c’,・・)は、照射光ILとしてパルスレーザ光を出力するパルスレーザ光源である。
癌発生疑い部位特定装置3は、(a)所与のパルスレーザ光の照射タイミングに基づいて光検出器20が出力する光計測信号を入力し、光計測信号に基づいて特定波長別の吸光度のプロファイルPRAλiを算出することを、互いに波長の異なる複数の特定波長λiについてそれぞれ行うとともに、(b)特定波長別の吸光度のプロファイルPRAλiに基づいて受光箇所毎の還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrを算出することを受光箇所Rjk毎に行う。
次いで、癌発生疑い部位特定装置3は、受光箇所Rjk毎の還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrに基づき拡散光トモグラフィーによる演算を行って、被検査部位INPにおけるDHR変化量の分布をDHR変化量マップ情報D4’として再構成する。
そして、癌発生疑い部位特定装置3は、DHR変化量マップ情報D4’に基づいて癌発生疑い部位Sの場所を特定する(以上、図7参照)。
なおここで「プロファイル」とは、時間要素を加味した当該物理量の変化履歴をいうものとする。
【0100】
(2)拡散光トモグラフィー
拡散光トモグラフィーは、主に近赤外光を用いて生体組織の断層画像を得る技術である。拡散光トモグラフィーの実現に当たっては、大きく分けてデータ計測部及び画像再構成アルゴリズムが必要とされている(非特許文献2参照)。
【0101】
(a)データ計測部
一般に、拡散光トモグラフィーにおけるデータ計測部では、対象とする生体表面のある1点に光を入射し、生体内で散乱・吸収を受けながら伝播して再度生体表面に現れた光を多くの点で同時に検出する。入射点を変えながら同様の計測を行い、多くのデータを収集する(図8参照)。
実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3においては、図7に示すように、上記した生体への光の入射の機能を、レーザ光源10a’,10b’,10c’・・及び照射器15によって構成している。一方、再度生体表面に現れた光を多くの点で検出する機能を、複数の受光器25、光検出器20及び制御演算部50の一部(必要に応じ)によって構成している。
【0102】
(b)還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrの取得
制御演算部50は一部にプロファイル演算部52を内包している。
プロファイル演算部52は、光源10(レーザ光源10a’,10b’,10c’,・・)からの照射光ILの照射タイミングに基づいて複数の受光器25及び光検出器20からの光計測信号を入力し出射光強度のプロファイルPRIiを特定波長毎に記録する。
次いで、特定波長毎の出射光強度のプロファイルPRIiと、照射光強度Iinλiのプロファイルとに基づいて、特定波長別の吸光度のプロファイルPRAλiを算出する。
次いで、これら特定波長別の吸光度のプロファイルPRAλiに基づいて、還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrを算出する。
各時刻における還元ヘモグロビン比率DHRの算出の原理は実施形態1のそれと同様であり、具体的には、某時刻における各特定波長の吸光度の値(特定波長毎の吸光度のプロファイルPRAλiより取得可能)並びに、特定波長におけるHbの吸光度及びHbO2の吸光度に基づいて還元ヘモグロビン比率DHRを算出する。このような算出を所定時刻毎に行って時系列に沿ってプロットすることにより還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrを得ることができる。
プロファイル演算部52,52,52,・・は、以上の制御・演算を受光箇所Rjk毎に行って、受光箇所Rjk毎に還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrを得る。
【0103】
(c)一般に、拡散光トモグラフィーおける画像再構成アルゴリズムでは、生体の光学特性値分布を仮定して生体内の光伝播モデルを数値的に解く(順問題)。その結果を計測データと比較して一致すれば仮定した光学特性値分布が正しいとして画像が再構成されたと考える。一致しなければ光学特性値分布を仮定し直して再び順問題を解き、一致するまでこの操作を繰り返す(逆問題)(図8参照)。
実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3においては、図7に示すように、この機能をトモグラフィー演算部55によって構成している。トモグラフィー演算部55は、上記(b)により受光箇所毎に得られた還元ヘモグロビン比率DHRのプロファイルPRdhrを入力し、これらに基づいて上記逆問題計算を繰り返して(図8参照)、被検査部位INP内の還元ヘモグロビン比率DHRの分布を再構成する。
【0104】
(3)DHR変化量マップ
圧力印加モードでプロファイル演算部52及びトモグラフィー演算部55が上記(2)の制御・演算を行うことにより、圧力印加モード時の還元ヘモグロビン比率DHRpの分布を得る。また、圧力開放モードでプロファイル演算部52及びトモグラフィー演算部55が上記(2)の制御・演算を行うことにより、圧力開放モード時の還元ヘモグロビン比率DHRrの分布を得る。
次いで、被検査部位INP内の所定の各座標において、これら両モードによる還元ヘモグロビン比率の間の差をとる演算を行って各座標におけるDHR変化量を得る。
これらの各座標におけるDHR変化量に基づいて被検査部位INP内のDHR変化量マップを再構成する。DHR変化量マップを表すための情報をDHR変化量マップ情報D4’とする(実施形態3では3次元イメージングの情報となる)。
癌発生疑い判断部60は、このDHR変化量マップ情報D4’に基づいて癌発生疑い部位Sの場所を特定する。
【0105】
実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3によれば、拡散光トモグラフィーによってDHR変化量の3次元的な分布を再構成したDHR変化量マップ情報が得られるため、被検査部位の内部におけるDHR変化量の分布状況を立体的に(例えば照射器~受光器間の深さ方向についても)俯瞰し相対評価することができる。
例示であるが、図7の表示手段500には被検査部位INPの内部におけるDHR変化量の分布状況が3次元イメージングとして表示されており、DHR変化量を立体的に俯瞰し相対評価することができる。図において、照射光ILの照射方向に平行な断面をSC1,SC2,SC3として階層的に示している。また、照射光ILの照射方向に垂直な断面をSC4,SC5,SC6として階層的に示している。このように様々な切り口で被検査部位INP内のDHR変化量を評価することができる。
したがって、実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3によれば、より高精度に癌発生疑い部位の位置を特定することが可能となる。
【0106】
なお、実施形態3に係る癌発生疑い部位特定装置3は、上記した特徴点以外の構成においては、実施形態1及び2に係る癌発生疑い部位特定装置1,2と同様の構成を有する。そのため、実施形態1及び2に係る癌発生疑い部位特定装置1,2が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0107】
[変形例]
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0108】
(1)各実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0109】
(2)各実施形態では、波長選択器30を光路セレクタとして構成し、複数のレーザ光源の中からいずれか1つを選択し、該選択されたレーザ光源に基づく照射光ILを被検査部位INPに照射することにより、特定波長としての波長の切り替えを行った。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、光源10’を、少なくとも複数の特定波長で出力強度を有する連続光を出力するハロゲンランプ等をもって構成し、受光側ではバンドパスフィルタを用いて特定範囲の波長の光のみ取り出す構成としてもよい。
具体的には、図9に示すように、癌発生疑い部位特定装置1’を、互いに異なる波長域の光を通過する複数のバンドパスフィルタ35a,35bを更に備え、複数のバンドパスフィルタ35a,35bの中からいずれか1つを選択し、選択された当該バンドパスフィルタを受光器25の前段に配置するものとして構成してもよい(変形例1)。
なお、図9は、変形例1に係る癌発生疑い部位特定装置1’を説明するために示す要部ブロック図である。
【0110】
変形例1によれば、このように受光器の前段でバンドパスフィルタを選択して切り替えことにより、吸光度を計測すべき波長を選択し設定する構成となっているため、1種類の光源を準備して照射器に接続すれば足りるため、簡便かつ経済的に投光側(光源及び照射器)を構成することができる。
【0111】
(3)各実施形態では、第1計測として被検査部位INPを圧力印加モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRpを取得し、次いで、第2計測として被検査部位INPを圧力開放モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRrを取得したが、本発明はこれに限定されるものではない。
すなわち、図10に示すように、第1計測として被検査部位INPを圧力開放モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRrを取得し、次いで、第2計測として被検査部位INPを圧力印加モードの下に置いて還元ヘモグロビン比率HDRpを取得してもよい(変形例2)。この場合、第1計測が完了した時刻から圧力開放モードより圧力印加モードに移行する時刻までの時間t4は可能な限り小さい方がよい。また、t5は上記した図5におけるt1と同じ扱いとなる。すなわち、新生血管Nの中を通過しようとする赤血球の大多数が新生血管Nで停滞をする状態になるまでの時間であることが好ましい。
なお、図10は、変形例2としての吸光度の計測タイミングを説明するために示す図である。
【0112】
(4)各実施形態及び変形例1~2を説明するための図は、圧力印加モードにおける被検査部位INPに印加する圧力は一定のものとした。しかしながら、本発明においてはこれに限定されるものではない。例えば、圧力を一定でなく時間と共に変化させるものとしてもよい。効率的に新生血管内の赤血球のみ停滞することができる圧力印加プロファイルを適宜選択することができる。
【0113】
(5)実施形態2では、投光走査手段70を、複数の照射器15を前提としてこれらに接続された光路セレクタによって構成していた(順次点灯型走査)。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図示は省略するが、投光走査手段を、照射器15を投光候補箇所Piに沿って物理的に移動せしめる機構をもって構成してもよい(移動型走査)。照射器15を移動させがら順次照射光ILを照射することにより照射される部位を走査することができる。
また例えば、図示を省略するが、投光走査手段を、照射器15の位置は固定としながら照射器15の姿勢を変化せしめる機構をもって構成してもよい(首振り型走査)。照射器15の姿勢を変えながら順次照射光ILを照射することにより照射される部位を走査することができる。
さらに、順次点灯型走査及び移動型走査と首振り型走査とを組み合わせて投光走査手段70を構成してもよい。
【0114】
(6)各実施形態の癌発生疑い判断部60は、DHR変化量が所与の「閾値」よりも高くなっている部位を癌発生疑い部位Sとして判断しその場所を特定した。つまりDHR変化量の絶対値を基準に判断した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、DHR変化量の相対比較をすることによって判断してもよい。すなわち、DHR変化量が最も小さい部分のDHR変化量(最小のDHR変化量)を基準として、DHR変化量が最小のDHR変化量の所定倍以上となっている部位を癌発生疑い部位Sと判断してもよい。
また、予め正常組織のDHR変化量をサンプル計測しておき、正規の検査となる本計測においてDHR変化量が正常組織のDHR変化量の所定倍以上となっている部位を癌発生疑い部位Sと判断してもよい。
【0115】
(7)各実施形態の癌発生疑い判断部60は、狭義のDHR変化量を基に癌発生疑い部位Sを判断しその場所を特定した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、圧力印加モードで圧力印加を開始してから所定時間(例えば20~30秒)の間について連続的に各受光箇所Rjk毎にDHRを記録しておき、そのうえで、DHRの時系列上の変化の仕方/変化パターン(DHR変化プロファイル)を把握できるような形にし、DHR変化プロファイルが特徴的となっている部位を特定し、当該部位を癌発生疑い部位Sとして判断してもよい。このようなDHR変化プロファイルについても本発明における「DHR変化量」の概念に含まれるものとし、このような構成を有する装置も本発明に係る癌発生疑い部位特定装置と均等である。
【0116】
(8)各実施形態の癌発生疑い部位特定装置1,2,3はいわゆる透過型の光学系を例にして説明しており、受光器25は被検査部位INPを挟んで照射器15に対向するようにそれぞれ配置されている。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、図11に示すように、癌発生疑い部位特定装置4は、受光器25が照射器15と一対となって照射器15の近隣に配置されたいわゆる反射型の光学系を有するものであってもよい(変形例3)。
なお、図11は、変形例3に係る癌発生疑い部位特定装置4を説明するために示す要部ブロック図である。図において、照射器15A,15B,15c、受光器25A,25B,25C、及び圧力印加手段40のみを表示し、他の構成要素の表示は省略している。
【0117】
(9)実施形態1,2,3の癌発生疑い部位特定装置1,2,3は、その特徴をそのまま各処理ステップに有する癌発生疑い部位特定方法としても展開することも可能である。
【0118】
(10)各実施形態では、癌発生疑い部位Sとしてヒトの乳癌を取り上げ、乳癌を発見・特定する場合を例示して説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の癌発生疑い部位特定装置は、乳癌以外の癌を発見・特定する装置としても構成することができる。また、ヒト以外の動物(生体)の癌に対しても適用する装置を構成することができる。
【符号の説明】
【0119】
1,1’,2,3,4…癌発生疑い部位特定装置、10,10’…光源、10a,10a’,10b,10b’,10c,10c’…レーザ光源、15,15a~15t…照射器、17…ライトガイド、20…光検出器、25…受光器、30…波長選択器、35a,35b…バンドパスフィルタ、40…圧力印加手段、50…制御演算部、52…プロファイル演算部、55…トモグラフィー演算部、60…癌発生疑い判断部、70…投光走査手段、500…表示手段、660…検査空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12