(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】配向性圧電体膜、およびその製造方法、並びに、液体吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
H01L 41/187 20060101AFI20220920BHJP
H01L 41/319 20130101ALI20220920BHJP
H01L 41/047 20060101ALI20220920BHJP
H01L 41/318 20130101ALI20220920BHJP
H01L 41/43 20130101ALI20220920BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20220920BHJP
C30B 29/32 20060101ALI20220920BHJP
C04B 35/468 20060101ALI20220920BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/319
H01L41/047
H01L41/318
H01L41/43
H01L41/09
C30B29/32 A
C04B35/468 200
B41J2/14 613
B41J2/14 305
(21)【出願番号】P 2018116857
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391003598
【氏名又は名称】富士化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大橋 良太
(72)【発明者】
【氏名】小谷 佳範
(72)【発明者】
【氏名】小林 本和
(72)【発明者】
【氏名】清水 千恵美
(72)【発明者】
【氏名】内田 文生
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153359(JP,A)
【文献】特開2002-084012(JP,A)
【文献】特開2014-199910(JP,A)
【文献】特開2015-195236(JP,A)
【文献】特開2012-054538(JP,A)
【文献】特開2017-108125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/319
H01L 41/047
H01L 41/318
H01L 41/43
H01L 41/09
C30B 29/32
C04B 35/468
B41J 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
Ba
1-xCa
xTi
1-yZr
yO
3 (0≦x≦0.2、0≦y≦0.2) (1)
で表されるペロブスカイト型結晶によって構成される配向性圧電体膜であって、
前記配向性圧電体膜が(111)面に配向した配向性下地上に形成され、
前記配向性圧電体膜が、膜面に対し(111)面に配向した第一の結晶粒と、ランダムに配向した第二の結晶粒とを含み、
前記第一の結晶粒が300~600nmの平均粒径を有し、
前記第二の結晶粒が50~200nmの平均粒径を有
し、
前記第二の結晶粒が前記第一の結晶粒の周囲に分散していることを特徴とする、配向性圧電体膜。
【請求項2】
前記第一の結晶粒が、前記配向性下地上から膜表面まで連続した柱状結晶であることを特徴とする、
請求項1に記載の配向性圧電体膜。
【請求項3】
前記第一の結晶粒と、前記第二の結晶粒の単位面積当たりの占有比(第一の結晶粒:第二の結晶粒)が、40:60~90:10であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の配向性圧電体膜。
【請求項4】
前記配向性下地が、(111)面に配向した白金および金の少なくとも1種を含む電極であることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜。
【請求項5】
前記配向性圧電体膜が空隙を含むことを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜。
【請求項6】
前記配向性圧電体膜の膜厚が0.1~4μmであることを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜。
【請求項7】
前記配向性圧電体膜のヤング率が60~110GPaであることを特徴とする、
請求項1~6のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜。
【請求項8】
(1)基板上に(111)面に配向した配向性下地を設ける工程と、
(2)(a)(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分と、
(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分と、を含む、
ゾル-ゲル原料、および
(b)β-ケトエステル化合物、
を含む、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する工程と、
(3)(c)(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分と、
(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分と、を含む、
ゾル-ゲル原料、および
(d)β-ジケトン類、アミン類、グリコール類および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種、
を含む、第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する工程と、
(4)前記第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記基板上に塗布および仮焼成して、第一の塗膜を形成する工程と、
(5)前記第一の塗膜を焼成して配向制御層を形成する工程と、
(6)前記第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記配向制御層上に塗布および仮焼成して、第二の塗膜を形成する工程と、
(7)前記第二の塗膜を焼成して配向性圧電体膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項9】
前記工程(1)と工程(4)との間に、前記基板を600℃以上の温度で熱処理する工程をさらに含むことを特徴とする、
請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記配向制御層の層厚が30nm以上100nm未満となるまで、前記工程(4)を繰り返すことを特徴とする、
請求項8または9に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項11】
前記配向制御層の層厚が30nm以上100nm未満となるまで、前記工程(4)および(5)を繰り返すことを特徴とする、
請求項8または9に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項12】
前記配向性圧電体膜の膜厚が100nm~150nmとなるまで、前記工程(6)を繰り返すことを特徴とする、
請求項8~11のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項13】
前記配向性圧電体膜の膜厚が100nm~150nmとなるまで、前記工程(6)および(7)を繰り返すことを特徴とする、
請求項8~11のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項14】
前記(a)ゾル-ゲル原料が、(iii)カルシウムアルコキシド、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物および前記カルシウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム成分をさらに含むことを特徴とする、
請求項8~13のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項15】
前記(a)ゾル-ゲル原料が、(iv)ジルコニウムアルコキシド、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、および前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のジルコニウム成分をさらに含むことを特徴とする、
請求項8~14のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項16】
前記(c)ゾル-ゲル原料が、(iii)カルシウムアルコキシド、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物および前記カルシウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム成分をさらに含むことを特徴とする、
請求項8~15のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項17】
前記(c)ゾル-ゲル原料が、(iv)ジルコニウムアルコキシド、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、および前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のジルコニウム成分をさらに含むことを特徴とする、
請求項8~16のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項18】
前記第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物および前記第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物の少なくとも1種を、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法およびフローコート法からなる群より選択される少なくとも1種により塗布することを特徴とする、
請求項8~17のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜の製造方法。
【請求項19】
液体吐出口と、前記液体吐出口に連通する圧力室と、前記圧力室に前記液体吐出口から液体を吐出するための容積変化を生じさせるアクチュエーターと、
を有し、
前記アクチュエーターは、前記圧力室側から順に設けられた振動板と、下部電極と、
請求項1~7のいずれか1項に記載の配向性圧電体膜と、上部電極と、を有することを特徴とする、液体吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向性圧電体膜、およびその製造方法、並びに、液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉛含有の誘電体薄膜を用いた各種電子機器の廃棄後の環境負荷を危惧し、鉛フリーの誘電体薄膜が求められている。これらの膜の製法として、複雑な膜組成の精密制御が容易であり、大面積基板上への均質な塗工が可能であるゾル-ゲル法が注目されている。こうした鉛フリーの誘電体薄膜として、これまでチタン酸バリウム(BT)系膜があり、BT膜にCa、Zrを添加した、BCTZ系膜などがある。
【0003】
誘電体薄膜の用途として、インクジェット記録ヘッドなどのアクチュエーターとして好適に用いることができることができるが、この場合大きな圧電定数が求められる。一般的に、膜の配向性が高いと、大きな圧電定数を示す傾向にある。このため、これらの用途に用いるには、塗布、仮焼成、焼成による成膜プロセスを経て形成される膜の配向性が高いことが求められる。ゾル-ゲル法により配向性の高いBT系膜を作製した例としては、特許文献1に示されるように、単結晶シード層(MgO)を用いて配向膜を作製した報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記先行技術のような配向性が強い単結晶シード層を用いた場合では、その上に形成される圧電層は大きな結晶粒を形成し易かった。その結果、物質の硬さの目安となる膜のヤング率が高くなりすぎ、圧電性能の向上が困難になるという課題を有していた。
【0006】
本発明は、低いヤング率を維持しながら、(111)配向を有するチタン酸バリウム系の圧電体膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、下記一般式(1)
Ba1-xCaxTi1-yZryO3(0≦x≦0.2、0≦y≦0.2)(1)
で表されるペロブスカイト型結晶によって構成される圧電体膜であって、前記圧電体膜が(111)面に配向した配向性下地上に形成され、膜面に対し(111)面に配向した第一の結晶粒と、ランダムに配向した第二の結晶粒とを含み、前記第一の結晶粒が300nm~600nmの平均粒径を有し、前記第二の結晶粒が50nm~200nmの平均粒径を有することを特徴とする配向性圧電体膜が提供される。
【0008】
また、本発明の他の一態様によれば、
(1)基板上に(111)面に配向した配向性下地を設ける工程と、
(2)(a)(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分と、(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分と、を含む、ゾル-ゲル原料、および、(b)β-ケトエステル化合物、を含む、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する工程と、
(3)(c)(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分と、(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分と、を含む、
ゾル-ゲル原料、および(d)β-ジケトン類、アミン類、グリコール類および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種、を含む、第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する工程と、
(4)前記第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記基板上に塗布および仮焼成して、第一の塗膜を形成する工程と、
(5)前記第一の塗膜を焼成して配向制御層を形成する工程と、
(6)前記第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記配向制御層上に塗布および仮焼成して、第二の塗膜を形成する工程と、
(7)前記第二の塗膜を焼成して配向性圧電体膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、配向性圧電体膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(111)面に配向した大きな結晶粒と、ランダムに配向した小さな結晶粒とを含むことで、低いヤング率と(111)配向を両立したチタン酸バリウム系膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた膜の、表面SEM像(a)、斜め断面SEM像(b)である。
【
図2】本発明の配向性圧電体膜の縦断面模式図である。
【
図3】実施例1で得られた膜のX線回折結果である。
【
図4】一実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的斜視図である。
【
図5】一実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的斜視断面図である。
【
図6】一実施形態の液体吐出ヘッドを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る配向性圧電体膜は、下記一般式(1)
Ba1-xCaxTi1-yZryO3(0≦x≦0.2、0≦y≦0.2)(1)
で表されるペロブスカイト型結晶によって構成される配向性圧電体膜であって、前記配向性圧電体膜が(111)面に配向した配向性下地上に形成され、膜面に対し(111)面に配向した第一の結晶粒と、ランダムに配向した第二の結晶粒とを含む。ここで、前記第一の結晶粒が300~600nmの平均粒径を有し、前記第二の結晶粒が50~200nmの平均粒径を有することを特徴とする。
【0012】
なお、本明細書中における粒径とは、柱状結晶粒、またはランダムな結晶粒に対し、それぞれの結晶粒を膜上方から投影した投影像を考えた場合、その投影像に外接する円の直径のことを指す。また、平均粒径は各々の結晶粒の粒径の平均値のことを指す。
【0013】
本発明において、カルシウム、およびジルコニウムの組成比は、上記一般式(1)において0≦x≦0.2、かつ0≦y≦0.2で表される範囲である。好ましくは、0≦x≦0.1、かつ0≦y≦0.1である。また、(Ba+Ca)と(Ti+Zr)の比が1からずれていてもよく、0.95≦(Ba+Ca)/(Ti+Zr)≦1.05の範囲とすることができる。好ましくは、1.00≦(Ba+Ca)/(Ti+Zr)≦1.02の範囲である。
【0014】
<チタン酸バリウム系塗工液組成物の調製>
本発明に係る配向性圧電体膜は、以下に示すチタン酸バリウム系塗工液組成物を用いて製造される。すなわち、本発明に用いるチタン酸バリウム系塗工液組成物は、上記一般式(1)で表わされる金属酸化物の原料化合物を含むものである。ここで原料化合物は、バリウムおよびチタンを必須金属成分とし、カルシウムおよびジルコニウムからなる群から選択される金属の少なくとも1種を任意金属成分として含むゾル-ゲル原料である。
【0015】
本発明に用いられるチタン酸バリウム系塗工液組成物には、配向制御層を形成する為の塗工液組成物(第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物)と配向制御層上に配向性圧電体膜を形成する為の塗工液組成物(第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物)とがある。
【0016】
第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物は、バリウムおよびチタンを必須金属成分とし、カルシウムおよびジルコニウムからなる群から選択される金属の少なくとも1種を任意金属成分として含むゾル-ゲル原料、並びに、β-ケトエステル化合物を含む。
【0017】
第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物は、バリウムおよびチタンを必須金属成分とし、カルシウムおよびジルコニウムからなる群から選択される金属の少なくとも1種を任意金属成分として含むゾル-ゲル原料を含む。さらに、第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物は、β-ジケトン類、アミン類、グリコール類および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0018】
まず、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物と第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物に共通する物質について、以下に説明する。
【0019】
本発明に用いられるチタン酸バリウム系塗工液組成物は、(i)バリウムアルコキシド、前記バリウムアルコキシドの加水分解物および前記バリウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分を必須成分とする。また、本発明に用いられるチタン酸バリウム系塗工液組成物は、(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分を必須成分とする。
【0020】
また、(iii)カルシウムアルコキシド、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物および前記カルシウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム成分を任意成分として用いることができる。
【0021】
さらに、(iv)ジルコニウムアルコキシド、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、および前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のジルコニウム成分を任意成分として用いることができる。
【0022】
チタン酸バリウム系塗工液組成物の原料としては、各々の金属アルコキシドや塩化物や硝酸塩などの塩化合物を用いることができる。塗工液の安定性や製膜時の膜均質性の観点から、原料としては金属アルコキシドを用いるのが好ましい。
【0023】
バリウムアルコキシドとしては、ジメトキシバリウム、ジエトキシバリウム、ジ-i-プロポキシバリウム、ジ-n-プロポキシバリウム、ジ-i-ブトキシバリウム、ジ-n-ブトキシバリウム、ジ-sec-ブトキシバリウム等が挙げられる。チタンアルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ-n-プロポキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトライソブトキシチタン等が挙げられる。カルシウムアルコキシドとしては、ジメトキシカルシウム、ジエトキシカルシウム、ジ-n-プロポキシカルシウム、ジ-n-ブトキシカルシウム等が挙げられる。ジルコニウムアルコキシドとしては、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn-プロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラn-ブトキシド、ジルコニウムテトラt-ブトキシド等が挙げられる。
【0024】
これらの金属アルコキシド原料を用いる場合、水に対する反応性が高いため、空気中の水分や水の添加により急激に加水分解され溶液の白濁、沈殿を生じる。これらを防止するために安定化剤を添加し、溶液の安定化を図ることが好ましい。安定化剤の具体例としては、以下に述べるとおり、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物と第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物について、それぞれより好適な安定化剤を見出した。これらの安定化剤の配位能を適切に調整することで、配向性を制御することが可能である。すなわち、安定化剤の金属アルコキシドからの脱離と結晶核生成段階のタイミングが膜の配向性に影響していると考えられ、塗工液に含まれる安定化剤の配位能が低いと安定化剤が脱離し易く、膜の焼成プロセスに伴う結晶核生成段階で結晶核生成が進みやすいため、基板下地の白金(Pt)電極や金(Au)電極の(111)面に沿ってエピタキシャル配向し、(111)配向した膜が得られると考えられる。ここで述べている安定化剤の配位能とは、金属アルコキシドの金属元素と安定化剤の相互作用を意味する。
【0025】
本発明において、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物および第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物のそれぞれに、有機溶媒を含んでいてもよい。
【0026】
有機溶媒としては、アルコール、カルボン酸、脂肪族系または脂環族系の炭化水素類、芳香族系炭化水素類、エステル、ケトン類、エーテル類、その他塩素化炭化水素類、非プロトン性極性溶剤等、あるいはこれら2種以上の混合溶媒を挙げることができる。
【0027】
ここで、アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、1-プロポキシ-2-プロパノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどが好ましい。
【0028】
カルボン酸としては、具体的には、n-酪酸、α-メチル酪酸、i-吉草酸、2-エチル酪酸、2,2-ジメチル酪酸、3,3-ジメチル酪酸、2,3-ジメチル酪酸、3-メチルペンタン酸、4-メチルペンタン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、2,2-ジメチルペンタン酸、3,3-ジメチルペンタン酸、2,3-ジメチルペンタン酸、2-エチルヘキサン酸、3-エチルヘキサン酸を用いるのが好ましい。
【0029】
脂肪族系または脂環族系の炭化水素類としては、具体的にはn-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロオクタンなどが好ましい。
【0030】
芳香族炭化水素類としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどが好ましい。
【0031】
エステル類としては、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが好ましい。
【0032】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが好ましい。
【0033】
エーテル類としては、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテルなどが好ましい。
【0034】
本発明において、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物および第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を調製するに当たり、溶液の安定性の点から上述した各種の溶剤類のうちアルコール類を使用することが好ましい。
【0035】
なお、第一の塗工液組成物と第二の塗工液組成物における金属原料の種類や割合は適宜選択することができるが、圧電特性を一定に保つためには、同様の組成としたほうが好ましい。
【0036】
<配向制御層の塗工液組成物(第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物)>
配向制御層を形成する為の塗工液組成物については、上述したように膜の焼成プロセスにおいて安定化剤の金属アルコキシドからの脱離が起こり、結晶核生成が進みやすくなるように、安定化剤の配位能を適切に調整する必要がある。結晶核生成が進み易い場合は、下地のPt電極やAu電極等の(111)面とエピタキシャル成長して(111)配向した膜が得られると考えられる。安定化剤の配位能が強過ぎたり、弱過ぎたりすると、結晶核生成が進まず、下地のPt電極やAu電極等の(111)面とエピタキシャル成長せずに、ランダムな配向となってしまう。検討の結果、配向制御層が高い(111)配向性を有することを目的とした場合、β-ケトエステル化合物類が好ましいことがわかった。前記のβ-ケトエステル化合物類のより具体的な例としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸-sec-ブチル、アセト酢酸-tert-ブチル、アセト酢酸ヘキシル、3-オキソヘキサン酸エチル、イソブチリル酢酸メチル、などが挙げられる。
【0037】
上記の金属アルコキシドおよび安定化剤は、有機溶媒に溶解させて、チタン酸バリウム系塗工液組成物が調製される。有機溶媒の添加量は、金属アルコキシドの総モル量に対して20から30倍モルとすることが好ましい。
【0038】
また、用いる安定化剤の量としては、安定化剤の種類により変わることがあるが、例えばチタン酸バリウム系塗工液組成物中のバリウム原料1モルに対して、1~4.5モル、好ましくは2~4モルとすることが挙げられる。特に、安定化剤としてアセト酢酸エチルを用いた場合は、2~4モルとすることが好ましい。
【0039】
本発明に用いられる第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物は、前記有機溶媒に、安定化剤である前記β-ケトエステル化合物を添加する工程と、その後バリウムアルコキシドおよびチタンアルコキシドを添加し還流する工程と、により調製することができる。また、任意成分として、カルシウムアルコキシドおよびジルコニウムアルコキシドから選択される少なくとも1種の成分を添加し還流してもよい。
【0040】
より具体的には、例えば上記有機溶剤に安定化剤を添加した溶液に、上記金属アルコキシドを混合した後、80~200℃の温度範囲において2~10時間加熱し反応させる、すなわち還流することが望ましい。
【0041】
また必要に応じて、水や触媒を添加し、アルコキシル基を部分的に加水分解させておくことが好ましい。触媒としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、アンモニア等を例示することができる。よって、本発明の塗工液中には金属アルコキシドの加水分解物やその縮合物が含まれてもよい。
【0042】
また、必要に応じて水溶性有機高分子を添加することができる。水溶性有機高分子としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。水溶性有機高分子の添加量は、膜の酸化物質量に対して質量比で0.1から10の範囲にすることが好ましい。
【0043】
<配向性圧電体膜の塗工液組成物(第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物)>
ここでは、上記で示した(111)配向した配向制御層上に、配向性圧電体膜を形成する際の塗工液組成物の安定化剤について述べる。配向性圧電体膜の塗工液組成物の安定化剤として、β-ケトエステル化合物類を用いた場合、形成される配向性圧電体膜は、膜面に対して(111)配向した大きな結晶粒を形成しやすく、小さな結晶粒がなく、空隙のない緻密な配向性圧電体膜となる。結果として、ヤング率が高くなり、圧電性能の向上が困難となる。検討の結果、配向性圧電体膜の塗工液の安定化剤として、β-ジケトン類、アミン類、グリコール類、有機酸を用いた場合、(111)配向した結晶粒間にランダムに配向した結晶粒が分散した配向性圧電体膜が得られることがわかった。
【0044】
β-ジケトン類、アミン類、グリコール類、有機酸を用いた塗工液組成物は、β-ケトエステル化合物類を用いた場合に比べて結晶粒の成長が進みにくいことがわかった。このため、これらの塗工液組成物を直接下地のPt電極やAu電極等の(111)面に塗工しても、(111)配向した膜は得られないこととなる。
【0045】
一方で、β-ジケトン類、アミン類、グリコール類、有機酸を用いた塗工液組成物を(111)配向した配向制御層上に塗工した場合は、(111)配向した結晶粒の周囲に、ランダム配向した結晶粒が分散した膜が得られることがわかった。上記のβ-ジケトン類、アミン類、グリコール類、有機酸のより具体的な例としては、2-メチルアセト酢酸エチル、2-エチルアセト酢酸エチル、アセチルアセトン、3-メチル-2,4-ペンタンジオン、2-エチルヘキサン酸などが挙げられる。
【0046】
配向性圧電体膜の塗工液組成物の調製方法は、アルコールなどの有機溶媒中に、バリウムアルコキシド、カルシウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、安定化剤の順に混合し100℃以上で還流するとよい。有機溶媒の添加量は、金属アルコキシドの総量に対してモル比で20から30とすることが好ましい。
【0047】
以上により、上記一般式(1)で表わされる金属酸化物を主成分として含むチタン酸バリウム系配向膜塗工液組成物を得ることができる。
【0048】
<配向性圧電薄膜の製造方法>
本発明の配向性圧電体膜は、以下の工程により製造することができる。すなわち、
(1)基板上に(111)面に配向した配向性下地を設ける工程と、
(2)(a)(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分と、
(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分と、を含む、
ゾル-ゲル原料、および
(b)β-ケトエステル化合物、
を含む、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する工程と、
(3)(c)(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分と、
(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分と、を含む、
ゾル-ゲル原料、および
(d)β-ジケトン類、アミン類、グリコール類および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種、
を含む、第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する工程と、
(4)前記第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記基板上に塗布および乾燥して、第一の塗膜を形成する工程と、
(5)前記第一の塗膜を焼成して配向制御層を形成する工程と、
(6)前記第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記配向制御層上に塗布および乾燥して、第二の塗膜を形成する工程と、
(7)前記第二の塗膜を焼成して配向性圧電体膜を形成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0049】
上述した第一および第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を用いて本発明の配向性圧電体膜を形成する際には、塗布を行う雰囲気を乾燥空気もしくは乾燥窒素等の不活性気体雰囲気とすることが好ましい。より具体的には、乾燥雰囲気の相対湿度は、30%以下にすることが好ましい。
【0050】
さらに、配向性圧電体膜を形成する塗工液組成物の塗布法としては、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ならびにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。配向性圧電体膜の膜厚は、ディッピング法における引き上げ速度やスピンコート法における基板回転速度などを変化させることと、塗布溶液の濃度を変えることにより制御することができる。
【0051】
本発明の配向性圧電体膜を形成する基板は、その用途等によっても異なるが、例えば、下部電極が形成されたシリコン基板やサファイア基板等の耐熱性基板が用いられる。基板上に形成する下部電極としては、PtやAu、Ir、Ru等の導電性を有し、本発明の配向性圧電体膜と反応しない材料が用いられる。また、基板上に密着層や絶縁体膜等を介して下部電極を形成した基板等を使用することができる。具体的には、Pt/Ti/SiO2/Si、Pt/TiO2/SiO2/Si、Pt/IrO/Ir/SiO2/Si、Pt/TiN/SiO2/Si、Pt/Ta/SiO2/Si、Pt/Ir/SiO2/Siの積層構造(下部電極/密着層/絶縁体膜/基板)を有する基板等が挙げられる。
【0052】
例えば、熱酸化Si基板上に密着層としてTiをDCスパッタ法により成膜した後、PtをDCスパッタ法により成膜すると、最密面である(111)面に配向したPt電極が得られる。すなわち、上記工程(1)における基板上に(111)面に配向した配向性下地が得られることとなる。
【0053】
次に、任意の工程として、上記により作製した(111)面に配向した配向性下地を設けた基板を熱処理(アニール)することが好ましい。具体的には、Pt電極付きSi基板を、アニールしてPt粒子の結晶性と結晶粒サイズを向上させることで、Pt電極のシード効果を高めた基板を得ることができる。基板のアニール条件としては、通常600℃以上、好ましくは600~1000℃、より好ましくは900~1000℃で、5~10分間熱処理することを挙げることができる。
【0054】
次に、上記工程(2)における、(a)ゾル-ゲル原料および(b)β-ケトエステル化合物、を含む、第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する。
【0055】
ここで、(a)のゾル-ゲル原料は、(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分を含む。また、(a)のゾル-ゲル原料は、(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分を含む。
【0056】
(a)のゾル-ゲル原料として、(iii)カルシウムアルコキシド、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム成分も任意成分として挙げられる。
【0057】
(a)のゾル-ゲル原料として、(iv)ジルコニウムアルコキシド、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のジルコニウム成分も任意成分として挙げられる。
【0058】
さらに、上記工程(3)における、(c)ゾル-ゲル原料および(d)β-ジケトン類、アミン類、グリコール類および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種、を含む、第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を準備する。
【0059】
ここで、(c)ゾル-ゲル原料は、(i)バリウムのアルコキシド、前記バリウムの加水分解物、前記バリウムの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のバリウム成分を含む。また、(c)のゾル-ゲル原料は、(ii)チタンアルコキシド、前記チタンアルコキシドの加水分解物および前記チタンアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のチタン成分を含む。
【0060】
(c)のゾル-ゲル原料として、(iii)カルシウムアルコキシド、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物、前記カルシウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム成分も任意成分として挙げられる。
【0061】
(c)のゾル-ゲル原料として、(iv)ジルコニウムアルコキシド、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物の縮合物からなる群から選択される少なくとも1種のジルコニウム成分も任意成分として挙げられる。
【0062】
なお、上記の基板を熱処理する工程、工程(2)、工程(3)は、それぞれいずれの順序で行っても差し支えない。
【0063】
次に、(4)上記第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記基板上に塗布および仮焼成して、第一の塗膜を形成する工程と、(5)上記第一の塗膜を焼成して配向制御層を形成する工程を行う。
【0064】
さらに、(6)上記第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物を、前記配向制御層上に塗布および仮焼成して、第二の塗膜を形成する工程と、(7)上記第二の塗膜を焼成して配向性圧電体膜を形成する工程を行う。
【0065】
これにより、塗工液組成物調製において、金属アルコキシドと安定化剤の配位状態を制御し、かつ(111)面に配向した配向性下地にエピタキシャル成長するような成膜プロセスにより、(111)配向性の高いチタン酸バリウム系膜を得ることができる。
【0066】
なお、上記工程(5)により形成される層厚は30nm以上100nm未満であり、上記工程(7)により形成される膜厚は100~150nmであることが好ましい。
【0067】
ここで、上記配向制御層の層厚が30nm以上100nm未満となるまで、上記工程(4)を繰り返してもよい。さらに、上記配向制御層の層厚が30nm以上100nm未満となるまで、上記工程(4)および上記工程(5)を繰り返してもよい。
【0068】
また、上記配向性圧電体膜の膜厚が100~150nmとなるまで、上記工程(6)を繰り返してもよい。さらに、上記配向性圧電体膜の膜厚が100nm~150nmとなるまで、上記工程(6)および上記工程(7)を繰り返してもよい。
【0069】
前述の通り、成膜プロセスは乾燥、仮焼成、焼成の各工程からなる。乾燥の工程は、特に低沸点成分や吸着した水分子を除去するため、ホットプレート等を用いて100~200℃の温度で、1~5分間加熱を行う。仮焼成の工程は、ホットプレート又は赤外線集光炉(RTA)等を用いて、所定の条件で行う。仮焼成は、溶媒を除去するとともに金属化合物を熱分解又は加水分解して複合酸化物に転化させるために行うことから、空気中、酸化雰囲気中、又は含水蒸気雰囲気中で行うのが望ましい。空気中での加熱でも、加水分解に必要な水分は空気中の湿気により十分に確保されることとなる。仮焼成は、200~700℃の温度で1~10分間することにより行うのが好ましい。組成物の塗布から仮焼成までの工程は、一回の塗布で所望の膜厚が得られる場合には、塗布から仮焼成までの工程を一回行った後、焼成を行う。或いは、所望の膜厚になるように、塗布から仮焼成までの工程を複数回繰り返して、最後に一括で焼成を行うこともできる。焼成の工程は、仮焼成後の塗膜を結晶化温度以上の温度で焼成して結晶化させるための工程であり、これにより本発明の配向性圧電薄膜が得られる。この結晶化工程の焼成雰囲気は、O2、N2、Ar、N2O又はH2等或いはこれらの混合ガス等が好適である。焼成は、好ましくは700℃を超え、1100℃以下の温度で1~60分間保持することにより行われる。焼成は、急速加熱処理(RTA処理)で行ってもよい。室温から上記焼成温度までの昇温速度は10~100℃/秒とすることが好ましい。
<配向性圧電体膜の形態>
本発明に係る配向性圧電体膜は、膜面に対し(111)面に配向した第一の結晶粒と、ランダムに配向した第二の結晶粒とからなり、前記第一の結晶粒が300~600nmの平均粒径を有し、前記第二の結晶粒が50~200nmの平均粒径を有する。ここで、前記第二の結晶粒が、前記第一の結晶粒の周囲に分散していることが好ましい。平均粒径は、焼成温度や一回の塗布の膜厚、安定化剤の種類により、前述の範囲内であれば変化させることができる。ただし、第一の結晶粒は下地の配向制御層上に(111)面でエピタキシャル成長しているが、第二の結晶粒は下地と相関なく結晶成長している為、第一の結晶粒の方が、第二の結晶粒よりも粒径が大きい。すなわち、第一の結晶粒は、その粒径は、第二の結晶の粒径の2倍から6倍の範囲であるものがほとんどである。
【0070】
また、第一の結晶粒と、前記第二の結晶粒の単位面積当たりの占有比(第一の結晶粒:第二の結晶粒)は、40:60~90:10であることが好ましい。ここで、第一の結晶粒と、前記第二の結晶粒の単位面積当たりの占有比は、後方散乱電子回折(EBSD)評価によって求めることができる。第一の結晶粒は、膜面に対し(111)面に配向した結晶粒であり、ここでは、その占有面積をEBSD測定における(111)面が基板に対して5度以内である結晶粒の面積とする。第二の結晶粒は、ランダム配向した結晶粒であり、ここでは、その占有面積を、EBSD測定における(111)面が基板に対して5度より大きい結晶粒の面積とする。以上より、第一の結晶粒と、第二の結晶粒の単位面積当たりの占有比(第一の結晶粒:第二の結晶粒)を求めることができる。本件では、111配向度として、EBSD測定における(111)面が基板に対して5度以内である結晶粒の占める面積比率として定義し、前述の占有比から111配向度を表すことができる。例えば、第一の結晶粒と、第二の結晶粒の単位面積当たりの占有比が、90:10である場合の111配向度は0.90となる。
【0071】
本発明に係る配向性圧電体膜の膜厚は、通常0.1~4μmであり、好ましくは0.5~3μm、より好ましくは1~2μmを挙げることができる。
【0072】
また、本発明に係る配向性圧電体膜のヤング率は、通常60~110GPaであり、好ましくは70~100GPa、より好ましくは80~90GPaを挙げることができる。
【0073】
本発明に係る配向性圧電体膜は、一実施形態として、
図2に示すような縦断面模式図に示す構造を有するものが挙げられる。
図2中の1は基板、2は中間層、3は下部電極を示している。4の配向性圧電体膜は、5の(111)面に配向した第一の結晶粒と、6のランダムに配向した第二の結晶粒からなる。基板1の材料は少なくとも最表層にSiO
2を有し、その他としては、塗工後の乾燥工程において熱負荷を与えても、変形や溶融しない材料が好ましい。また、表面が平滑であり、熱処理時の元素の拡散も防止でき、かつ機械的強度も十分であることが好ましい。また、本実施形態により得られる圧電体膜を用いて液体吐出ヘッドを製造する際には、基板1が圧力室を形成するための圧力室基板を兼ねていてもよい。例えば、このような目的では、熱酸化によって表層をSiO
2の膜としたシリコン(Si)からなる半導体基板を好ましく用いることができるが、ジルコニアやアルミナ、シリカなどのセラミックを用いても構わない。また、最表層をSiO
2とするならば、これらの材料を複数種類、組み合わせてもよいし、積層して多層構成として用いてもよい。
【0074】
中間層2は、下部のSiO2層と上部の電極を密着させる機能を果たすための層である。金属であるPt等と酸化物であるSiO2だけでは密着性が弱くなるだけでなく、電極およびその上に成膜される圧電体層の結晶性が悪くなり、良好な圧電性能が得られなくなることがある。また、中間層の厚さは厚すぎても問題となる。中間層の厚さが50nmを超えると、上層の圧電体層の結晶性が劣っていく傾向にある。従って中間層は、5~50nmの厚さであることが好ましい。中間層の材料としては、Ti若しくはTiO2に代表されるTi酸化物が好ましい。
【0075】
下部電極3の材料は、5~2000nmからなる導電層で、圧電体素子では通常Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni等の金属、およびこれらの酸化物を挙げることができる。また、電極の形成方法も、ゾル-ゲル法、スパッタ法、蒸着法など幾つかの方法があるが、温度をかけずに電極を形成できる点、および(111)配向膜を簡単に得られる点でスパッタ法による形成が一番好ましい。他の方法でも配向膜が得られれば本発明で問題なく用いることができる。下部電極の厚みは、導電性を得られる厚みであれば特に限定されないが、10~1000nmであることが望ましい。また、形成した下部電極は所望の形状にパターニングして用いてもよい。
【0076】
<液体吐出ヘッド>
本発明の液体吐出ヘッドは、液体吐出口と、前記液体吐出口に連通する圧力室と、前記圧力室に前記液体吐出口から液体を吐出するための容積変化を生じさせるアクチュエーターとを有する。前記アクチュエーターは、前記圧力室側から順に設けられた振動板と、下部電極と、基板上に形成されているチタン酸バリウム系焼成膜からなる圧電体膜と、上部電極と、を有することを特徴とする。
【0077】
本発明に用いられる液体吐出ヘッドは、一実施形態として、
図4~6に示すような圧電体膜を備えたものが挙げられる。この液体吐出ヘッドMは、液体吐出ヘッド用基板21と、複数の液体吐出口22と、複数の圧力室23と、各圧力室23にそれぞれ対応するように配設されたアクチュエーター25とから構成されている。各圧力室23はそれぞれ、各液体吐出口22に対応して設けられ、液体吐出口22に連通している。アクチュエーター25はその振動により、圧力室23内の液体の容積変化を生じさせて、液体吐出口22から液体を吐出させる。液体吐出口22は、ノズルプレート24に所定の間隔をもって形成され、圧力室23は液体吐出ヘッド用基板21に、液体吐出口22にそれぞれ対応するように並列して形成されている。なお、本実施形態では、液体吐出口22がアクチュエーター25の下面側に設けられているが、アクチュエーター25の側面側に設けることもできる。液体吐出ヘッド用基板21の上面には各圧力室23にそれぞれ対応した図示しない開口部が形成され、その開口部をふさぐように各アクチュエーター25が配置されている。各アクチュエーター25は、振動板26と圧電体素子30で構成され、圧電体素子30は配向性圧電体膜27と一対の電極(下部電極28および上部電極29)とから構成されている。振動板26の材料は特に限定されないが、Siなどの半導体、金属、金属酸化物、ガラスなどが好ましい。圧電体素子30と振動板26は接合や接着により形成されてもよいし、振動板26を基板として下部電極28および圧電体膜27を基板上に直接、形成してもよい。さらに、液体吐出ヘッド用基板21上に振動板26を直接、形成してもよい。
【0078】
なお、本発明に用いる液体としては、例えばインク等を挙げることができ、また、液体吐出ヘッドとしては、例えばインクジェット記録ヘッド等を挙げることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]配向性圧電体膜の形成
(配向Pt電極付き基板)
まず、熱酸化Si基板上に密着層としてTiをDCスパッタ法により成膜した後、PtをDCスパッタ法により成膜した。成膜したPt層は、X線回折、後方散乱電子回折(EBSD)により、(111)面に配向しており、その結晶粒径は20~50nmであることを確認した。このPt電極付きSi基板を、アニール処理してPt層の配向度(結晶性と結晶粒サイズ)を向上させた。1000℃で10分間アニール処理することにより、Pt結晶粒は増大し、粒径は100~400nmの範囲で分布し、その平均粒径は約150nmとなり、結晶性も向上した。以上によりPt電極のシード効果を高めた配向Pt電極付き基板を準備した。
【0081】
(配向制御層の塗工液組成物(第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物))
配向制御層の塗工液組成物においては、安定化剤としてアセト酢酸エチルを用いた。2-メトキシエタノールと3-メトキシメチルブタノールの混合溶媒に、安定化剤であるアセト酢酸エチルを添加した溶液中に、バリウム-ジ-i-プロポキシド、チタン-n-ブトキシド、ジルコニウム-n-ブトキシドを溶解させた後、約8時間還流を行うことで配向制御層の塗工液組成物を調製した。溶液のモル比は、2-メトキシエタノール:3-メトキシメチルブタノール:アセト酢酸エチル:バリウム-ジ-i-プロポキシド:チタン-n-ブトキシド:ジルコニウム-n-ブトキシド=18:12:3:1:0.97:0.03とした。
【0082】
(配向性圧電体膜の塗工液組成物(第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物))
配向性圧電体膜の塗工液組成物においては、安定化剤として2-エチルヘキサン酸を用いた。まず、2-メトキシエタノールと3-メトキシメチルブタノールの混合溶媒に、バリウム-ジ-エトキシド、チタン-n-ブトキシド、ジルコニウム-n-ブトキシドの順に溶解させ、100℃で約24時間還流を行った。その後、安定化剤の2-エチルヘキサン酸を添加し、更に80℃で約8時間還流を行うことで配向性圧電体膜の塗工液組成物を調製した。溶液のモル比は、2-メトキシエタノール:3-メトキシメチルブタノール:2-エチルヘキサン酸:バリウム-ジ-i-プロポキシド:チタン-n-ブトキシド:ジルコニウム-n-ブトキシド=18:12:3:1:0.97:0.03とした。
【0083】
(配向性圧電体膜の形成)
以上により調製した第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物(配向制御層の塗工液組成物)を用いて、スピンコート法により前述のアニール処理済の配向Pt電極付き基板に配向制御層を形成した。乾燥工程として、150℃設定したホットプレート上で5分間熱処理した後、仮焼成工程として、赤外線加熱炉中で450℃の条件で10分間熱処理し、さらに1000℃で10分間焼成した。配向制御層を1層形成後、得られた膜について、EBSDによる配向評価を行ったところ、111配向度は0.95であった。
【0084】
ここで、111配向度とは、EBSD測定における(111)面が基板に対して5度以内である結晶粒の占める面積比率を表す。この時の膜厚は、約50nmであった。
【0085】
次に、この配向制御層上に第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物(配向性圧電体膜の塗工液組成物)を用いて、配向性圧電体膜を形成した。第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物の塗布は、スピンコート法により行い、150℃設定したホットプレート上で5分間熱処理した後、仮焼成工程として、赤外線加熱炉中で450℃の条件で10分間熱処理し、さらに1000℃で10分間焼成した。同様の工程を7回繰り返すことで厚膜化を行った。
【0086】
なお、実施例の塗工膜の断面観察は、走査電子顕微鏡(SEM、商品名「Quanta FEG 250」、FEI製)を用い、加速電圧を10kVとして行った。
【0087】
(評価)
実施例1により形成した配向性圧電体膜の表面SEM像を
図1(a)に、斜め断面SEM像を
図1(b)にそれぞれ示す。膜面に対し(111)面に配向した第一の結晶粒は、
図1(b)に示すように配向性下地上から膜表面まで連続した柱状結晶であることがわかる。また、その粒径は250~650nmの範囲で分布し、平均粒径は520nmであった。一方で、ランダムに配向した第二の結晶粒は粒状形状であり、その粒径は40~180nmの範囲で分布し、平均粒径は120nmであった。ランダムに配向した結晶粒が(111)配向柱状結晶の周囲に分散している膜が得られた。また、得られた膜について、EBSDによる配向の評価を行ったところ、第一の結晶粒と、前記第二の結晶粒の単位面積当たりの占有比(第一の結晶粒:第二の結晶粒)は、約80:20であり、111配向度は0.80であった。EBSD評価は、TSL-EBSDシステム(TSLソリューションズ株式会社)を用いて行った。
【0088】
ランダムに配向した結晶粒は、(111)配向柱状結晶の周囲に分散していた。また、配向性圧電体膜の膜厚は、1.2μmであった。
【0089】
X線回折による配向度の指標であるロットゲーリングファクターの評価を行った。ロットゲーリングファクターの算出法は、対象とする結晶面から回折されるX線のピーク強度を用いて、式(2)により計算した。
【0090】
F=(ρ-ρ0)/(1-ρ0) (2)
ここで、ρ0は無配向サンプルのX線の回折強度(I0)を用いて計算し、(001)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(111)面の回折強度の合計の割合として、式(3)により求めた。
【0091】
ρ0=ΣI0(111)/ΣI0(hkl) (3)
(ここで、h、k、lは整数である。)
ρは配向膜のX線の回折強度(I)を用いて計算し、(111)配向した正方晶結晶の場合、全回折強度の和に対する、(111)面の回折強度の合計の割合として、上式(3)と同様に式(4)により求めた。
【0092】
ρ=ΣI(111)/ΣI(hkl) (4)
作製した(111)配向した厚膜のX線回折結果を
図3に示す。ほぼ111の回折ピークのみとなっており、ロットゲーリングファクターF=0.94と高い配向度を有していた。
【0093】
(圧電特性の評価)
圧電応力定数(e31)と圧電歪定数(d31)とヤング率(Y)との間には、d31=e31/Yの関係がある。配向性圧電体膜上部電極を形成後、カンチレバーを作製し、e31を評価したところ、-e31=12.1C/m2であった。また、作製した配向性圧電体膜についてナノインデンテーション法により室温でのヤング率を測定したところ、80GPaであった。これより、-d31=152pm/Vとなり、本発明の配向性圧電体膜が得られたことが示された。なお、各数値の測定結果を比較例1および2の結果とともに、後の表1に示す。
【0094】
[実施例2]
配向制御層の塗工液組成物(第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物)において、安定化剤として、実施例1に記載のアセト酢酸エチルに代えて、アセト酢酸メチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸-sec-ブチル、アセト酢酸-tert-ブチル、アセト酢酸ヘキシル、3-オキソヘキサン酸エチル、イソブチリル酢酸メチルをそれぞれ用いて、実施例1と同様に配向制御層の塗工液組成物を調製した。この塗工液組成物を用いて配向制御層を1層形成後、得られた膜について、EBSDによる配向評価を行ったところ、111配向度は0.93~0.95の範囲にあり、これらは配向制御層として用いることができることがわかった。
【0095】
[実施例3]
配向制御層上に形成する配向性圧電体膜の塗工液組成物(第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物)において、安定化剤として次のものを用いて配向性圧電体膜の塗工液組成物を調製した。すなわち、実施例1に記載の2-エチルヘキサン酸に代えて、2-メチルアセト酢酸エチル、2-エチルアセト酢酸エチル、アセチルアセトン、3-メチル-2,4-ペンタンジオンをそれぞれ用いて、実施例1と同様に配向性圧電体膜の塗工液組成物を調製した。そして、これらを用いて配向性圧電体膜を配向制御層上に作製した。
【0096】
配向制御層上に7層配向性圧電体膜を形成後、EBSDによる配向評価を行ったところ、111配向度は、0.75~0.80の範囲であった。膜面に対し(111)面に配向した結晶粒は柱状構造を有しており、その粒径は220~580nmの範囲で分布し、平均粒径は450nmであった。一方で、ランダムに配向した第二の結晶粒は粒状形状であり、その粒径は30~150nmの範囲で分布し、平均粒径は100nmであった。ランダムに配向した結晶粒が(111)配向柱状結晶の周囲に分散している膜が得られた。
【0097】
[比較例1]
実施例1で作製した配向性圧電体膜用の塗工液組成物(第二のチタン酸バリウム系塗工液組成物)のみを用いて、実施例1と同様の工程で7回成膜を行った。得られた膜についてX線回折測定を行ったところ、(111)配向に対して、ロットゲーリングファクターがF=0.04とランダム配向であった。
【0098】
配向性圧電体膜上部電極を形成後、カンチレバーを作製し、室温でのヤング率、-e31、-d31を評価した。本比較例のランダム配向の膜のヤング率は実施例1と同程度であるが、-e31が低く、結果として、圧電応力定数(-d31)は、実施例1に対して低くなった。
【0099】
[参考例1]
実施例3で作製した配向制御層の塗工液組成物(第一のチタン酸バリウム系塗工液組成物)のみを用いて、実施例1と同様の工程で7回成膜を行った。得られた膜についてX線回折測定を行ったところ、(111)配向に対して、ロットゲーリングファクターがF=0.95と高配向膜が得られた。SEM観察を行ったところ、膜面に対して(111)配向した大きな結晶粒となっており、小さな結晶粒がなく、また、空隙のない緻密な膜となっていた。室温でのヤング率測定を行ったところ、112GPaであり、結果として、圧電応力定数(-d31)は実施例1に対して低くなった。
【0100】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によって、高い圧電特性を示し、(111)配向性の高いチタン酸バリウム系膜を提供することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 基板
2 中間層
3 下部電極
4 配向性圧電体膜
5 (111)面に配向した第一の結晶粒
6 ランダムに配向した第二の結晶粒
21 液体吐出ヘッド用基板
21A 開口部
22 液体吐出口
23 圧力室
24 ノズルプレート
25 アクチュエーター
26 振動板
27 配向性圧電体膜
28 下部電極
29 上部電極
30 圧電体素子
M 液体吐出ヘッド