(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】選択的抗菌用組成物、及び、皮膚外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9728 20170101AFI20220920BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20220920BHJP
A61K 36/06 20060101ALI20220920BHJP
A61K 31/23 20060101ALI20220920BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20220920BHJP
A61K 36/63 20060101ALI20220920BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20220920BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220920BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20220920BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220920BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
A61K8/9728
A61K8/92
A61K36/06
A61K31/23
A61K31/716
A61K36/63
A61K36/185
A61K45/00
A61Q19/00
A61P31/04
A61P17/00 101
(21)【出願番号】P 2020033205
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2019166111
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112266
【氏名又は名称】ピアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】國米 ▲恵▼子
(72)【発明者】
【氏名】有田 祥
(72)【発明者】
【氏名】松本 亘平
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一広
(72)【発明者】
【氏名】久恒 幸也
(72)【発明者】
【氏名】濱田 和彦
【審査官】寺▲崎▼ 遥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/208530(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216744(WO,A1)
【文献】特開2005-002087(JP,A)
【文献】特開2001-031522(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0026800(KR,A)
【文献】Dai Kitamoto et al.,Journal of Biotechnology,vol.29,1993年,p.91-96
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/00-33/44
A61K 36/00-36/9068
A61K 45/00-45/08
A61P 1/00-43/00
JST7580/JMEDPlus/JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリドを含有する植物油の、酵
母による培養抽出物を含
み、
前記酵母が、Candida bombicolaであり、
前記培養抽出物が、ソフォロース構造を分子中に有する糖脂質を含有する、
表皮ブドウ球菌よりも黄色ブドウ球菌に対して選択的に抗菌作用を有する選択的抗菌用組成物。
【請求項2】
トリグリセリドを含有する植物油の、酵母による培養抽出物と、表皮ブドウ球菌の増殖成分とを含み、
前記酵母が、Candida bombicolaであり、
前記培養抽出物が、ソフォロース構造を分子中に有する糖脂質を含有し、
前記増殖成分
が、細菌死菌
体を含む、皮膚外用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば皮膚に塗布されて使用される、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌用組成物、及び、皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚上には、様々な微生物が皮膚常在菌として存在している。皮膚常在菌としては、皮膚にとって有益な表皮ブドウ球菌、及び、有害な黄色ブドウ球菌などが挙げられる。健常な皮膚上においては、表皮ブドウ球菌が優勢であり、疾患を有する皮膚においては、黄色ブドウ球菌が優勢であることが知られている。このことから、皮膚疾患を改善させるためには、黄色ブドウ球菌よりも表皮ブドウ球菌を優勢にすべきと考えられている。しかしながら、上記の2種のブドウ球菌は、分類学的に近い種類であるため、黄色ブドウ球菌の生育だけを抑える抗菌剤の開発は、比較的困難である。
【0003】
従来、有益な表皮ブドウ球菌でなく、有害な黄色ブドウ球菌に対して選択的に抗菌作用を及ぼす選択的抗菌用組成物が知られている。この種の選択的抗菌用組成物としては、例えば、ボタンピ、カンゾウ、ウーロン茶、ローズマリー、クララ、オオレン、タイム、アロエ、ナンキンハゼ、マングーシ、冬虫夏草、センソウ、ミツガシワ、リョウブ、エンレイソウ、トウガラシから選択される植物抽出エキスの1種又は2種以上を含む選択的抗菌用組成物が知られている(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載された選択的抗菌用組成物は、皮膚に塗布されることによって、黄色ブドウ球菌に対して選択的に抗菌作用を発揮することから、黄色ブドウ球菌よりも表皮ブドウ球菌をやや優勢に生育させることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された選択的抗菌用組成物は、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用が必ずしも十分でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点等に鑑み、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用を十分に発揮できる選択的抗菌用組成物、及び、皮膚外用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌用組成物は、トリグリセリドを含有する植物油の、酵母による培養抽出物を含む、ことを特徴とする。
上記の選択的抗菌用組成物によれば、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用を十分に発揮できる。
【0009】
本発明に係る皮膚外用組成物は、トリグリセリドを含有する植物油の、酵母による培養抽出物を含む、ことを特徴とする。
上記の皮膚外用組成物によれば、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用を十分に発揮できる。
【0010】
本発明に係る皮膚外用組成物は、表皮ブドウ球菌の増殖成分をさらに含むことが好ましい。
本発明に係る皮膚外用組成物において、前記増殖成分は、細菌死菌体、又は、グルコースオリゴマー構造を分子中に含有する糖化合物の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の選択的抗菌用組成物及び皮膚外用組成物は、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用を十分に発揮できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】各種物質の最小発育阻止濃度の測定結果を表すグラフ。
【
図2】各種物質の最小発育阻止濃度の測定結果を表すグラフ。
【
図3】本実施形態の培養抽出物の黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌に対する増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図4】本実施形態の培養抽出物の黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌に対する増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図5】本実施形態の培養抽出物と増殖成分とを含む培地における黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図6】本実施形態の培養抽出物と増殖成分とを含む培地における黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図7】本実施形態の培養抽出物と増殖成分とを含む培地における黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図8】本実施形態の培養抽出物と増殖成分とを含むモデル組成物における黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図9】本実施形態の培養抽出物と増殖成分とを含むモデル組成物における黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果を表すグラフ。
【
図10】本実施形態の培養抽出物と増殖成分とを含むモデル組成物における黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖抑制効果を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌用組成物及び皮膚外用組成物(以下、単に組成物ともいう)の一実施形態について以下に説明する。
【0014】
本実施形態の組成物は、トリグリセリドを含有する植物油の、酵母による培養抽出物を含む。
本実施形態における上記の培養抽出物は、酵母によって、トリグリセリドを含有する植物油を培養処理することによって得られたものである。
【0015】
上記の植物油は、植物の種などから得られる。上記の植物油に含まれるトリグリセリドは、1分子のグリセロール(グリセリン)に3分子の脂肪酸がエステル結合したアシルグリセロールを示す。
トリグリセリドとしては、例えば、脂肪酸基として炭素数12以上22以下の不飽和脂肪酸基を有するトリグリセリドが挙げられる。
【0016】
上記の植物油としては、例えば、ココナッツ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、菜種油、サフラワー油(紅花油)、ごま油、大豆油、ヒマワリ油、アーモンド油、カシュー油、ヘーゼルナッツ油、マカダミア油、松の実油、ピスタチオ油、クルミ油、アマニ油、エゴマ油、コメ油、ツバキ油、ヒマシ油、ホホバ油、マフア油などが挙げられる。
【0017】
上記の植物油は、揮発性溶媒による抽出処理、又は、圧搾処理などによって、植物の種子などから得られた植物油である。斯かる植物油を採取するための方法としては、特に限定されず、一般的な方法が採用される。
【0018】
上記の酵母は、基本的に単細胞性で真核の微生物である。上記の酵母は、細胞壁を有し運動性も光合成能も有しない従属栄養生物である。上記の酵母の多くは、子嚢菌門に属するが、担子菌門に属する酵母もある。
【0019】
上記の酵母としては、子嚢菌門に属する、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、トルロプシス属(Torulopsis)、ジゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、ピチア属(Pichia)、ヤロウィア属(Yarrowia)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、デバリオマイセス属(Debaryomyces)、ゲオトリクム属(Geotrichum)、ウィッケルハミア属(Wickerhamia)、フェロマイセス属(Fellomyces)などが挙げられ、また、担子菌門に属するスポロボロマイセス属(Sporobolomyces)、シュードザイマ属(Pseudozyma)、ウスチラゴ属(Ustilago)、ロドトルラ属(Rhodotorula)などが挙げられる。
【0020】
上記の酵母としては、カンジダ属の酵母、シュードザイマ属の酵母、ウスチラゴ属の酵母、及び、ロドトルラ属の酵母のうち少なくとも1種が好ましい。
【0021】
カンジダ属の酵母としては、Candida bombicola 、Candida albicans、Candida dubliniensis、Candida guiliermondii、Candida parapsilosis、Candida pelliculosa、Candida tropicalis、Candida etchellsii 、Candida versatilis 、Candida stellate 、Candida tropicalis 、及び、Candida utilis からなる群より選択される少なくとも1 種が好ましく、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用をより十分に発揮できるという点で、Candida bombicolaがより好ましい。
【0022】
シュードザイマ属の酵母としては、Pseudozyma tsukubaensis、Pseudozyma antarctica、Pseudozyma aphidis、Pseudozyma chanxiensis、Pseudozyma flocculosa、Pseudozyma fusiformata、Pseudozyma graminicola、Pseudozyma hubeiensis、Pseudozyma parantarctica、Pseudozyma prolifica、Pseudozyma rugulosa、Pseudozyma siamensis、Pseudozyma thailandica、及び、Pseudozyma tsukubaensis からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌作用をより十分に発揮できるという点で、Pseudozyma tsukubaensisがより好ましい。
ウスチラゴ属の酵母としては、Ustilago maydis、及び、Ustilago scitaminea のうち少なくとも一方が好ましい。
【0023】
本実施形態における上記の培養抽出物は、例えば、オリーブ油などの食用植物油、又は、マフア油などの非食用植物油が、上述した酵母の少なくとも1種によって培養処理されることによって得られる。
【0024】
上記の植物油に、上記の酵母による培養処理を施すことによって、酵母が植物油を栄養源として利用し、酵母が様々な代謝成分を生成し得る。そのため、上記の培養抽出物は、様々な代謝成分を含むこととなる。
なお、培養に伴って生成される代謝産物の種類及び量は、様々であるため、培養抽出物に含まれるすべての成分を同定及び定量することは、出願時において非実際的である。
【0025】
上記の培養抽出物に含まれる主な代謝成分は、例えば、ソフォロース構造を分子中に有する糖脂質などである。この化合物は、ラクトン型であってもよく、酸型であってもよい。
また、上記の培養抽出物に含まれる主な代謝成分は、例えば、マンノース及びエリスリトールと脂肪酸とからなる糖脂質などである。
このように、上記の培養抽出物は、単糖、二糖、又はオリゴ糖の分子構造を分子中に有する糖脂質を少なくとも含有する場合が多い。
【0026】
上記の培養抽出物としては、市販製品を用いることができる。例えば、製品名「ACS-Sophor」(アライドカーボンソリューションズ社製)、又は、製品名「セラメーラ-HBG」(東洋紡社製)などを用いることができる、
【0027】
上記の選択的抗菌用組成物又は皮膚外用組成物に含まれる上記の培養抽出物の濃度は、特に限定されず、例えば、乾燥物換算で0.01質量%以上5.0質量%以下である。
なお、乾燥物換算とは、培養抽出物から溶媒を除いた残渣(乾燥物)の質量に換算することである。
【0028】
上記の培養抽出物は、溶媒によって希釈された希釈液、濃縮された濃縮液、又は溶媒を除去した乾燥物の態様になり得る。具体的には、培養抽出物は、例えば、液体状、ペースト状、ゲル状、粉末状などの態様になり得る。
【0029】
本実施形態の組成物は、トリグリセリドを含む植物油の、上記酵母による培養抽出物を含むため、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)に対する選択的抗菌作用を十分に発揮できる。詳しくは、上記の培養抽出物は、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)の増殖をほとんど阻害しない一方で、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)に対する抗菌作用を有する。従って、本実施形態の組成物は、皮膚等に塗布された後に、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)よりも表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)を優勢に増殖させることができる。
【0030】
本実施形態の組成物は、表皮ブドウ球菌の増殖成分をさらに含むことが好ましい。斯かる増殖成分は、細菌死菌体、又は、グルコースオリゴマー構造を分子中に含有する糖化合物の少なくとも一方を含むことがより好ましい。
本実施形態の組成物が上記の増殖成分を含むことによって、組成物が皮膚等に塗布された後に、皮膚等における表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)を増殖させることができる。一方で、上記の培養抽出物は、黄色ブドウ球菌(いわゆる悪玉菌)の増殖を抑制するものの、表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)の増殖を必ずしも抑制しない。このため、本実施形態の組成物が上記の増殖成分を含むことによって、皮膚等において表皮ブドウ球菌(いわゆる善玉菌)が優勢になり、皮膚等の状態が良好となる。
【0031】
上記の増殖成分としての細菌死菌体は、例えば、乳酸菌の死菌体、又は、Enterococcus Faecalis の死菌体などである。
乳酸菌の死菌体を含む原料としては、例えば、市販品である製品名「ラ・フローラEC-12」(一丸ファルコス社製)を用いることができる。
【0032】
上記の増殖成分としての糖化合物は、例えば、α-グルカンオリゴサッカリドなどである。
α-グルカンオリゴサッカリドを含む原料としては、例えば、市販品である製品名「BIOECOLIA」(日光ケミカルズ社販売製品)を用いることができる。
【0033】
上記の増殖成分は、組成物中に乾燥物換算で0.05質量%以上5.0質量%以下含まれることが好ましい。
【0034】
本実施形態の組成物では、上記の培養抽出物の総量(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分(乾燥物換算)の質量比(増殖成分/培養抽出物)が、0.01以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましく、1.2以上であることが特に好ましい。
また、斯かる質量比が400以下であってもよく、200以下であってもよく、150以下であってもよく、100以下であってもよく、50以下であってもよく、20以下であってもよく、15以下であってもよい。斯かる質量比は、6以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、2以下であることが特に好ましい。
斯かる質量比が上記の数値範囲内であることにより、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制させつつ表皮ブドウ球菌の増殖をより促進させることができるという利点がある。これにより、組成物を皮膚に塗布したときに皮膚をより健常な状態にすることができる。
【0035】
本実施形態の組成物は、通常、水を含む。本実施形態の組成物は、上述した成分以外にも、一般的な化粧料や皮膚外用剤等に配合される成分を含んでもよい。本実施形態の組成物が含み得る成分としては、例えば、ジプロピレングリコール、グリセリン、ペンチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール類が挙げられる。また、例えば、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、酵素等の成分が挙げられる。本実施形態の組成物は、医薬部外品原料規格、化粧品種別配合成分規格、化粧品原料基準、日本薬局方、食品添加物公定書規格等に記載の成分で構成される。
【0036】
本実施形態の組成物の性状は、特に限定されないが、通常、液状である。
【0037】
本実施形態の組成物は、上記の培養抽出物と、その他の成分とを一般的な方法によって混合撹拌することによって製造できる。
【0038】
本実施形態の上記組成物は、例えば、皮膚などに塗布されて使用される。上記の組成物は、例えば、顔の皮膚、首の皮膚、四肢の皮膚、頭皮、毛髪、鼻孔・唇・耳・生殖器・肛門などにおける粘膜に塗布されることが可能な人体への外用剤である。上記の組成物は、薬事法上の化粧料、医薬部外品、医薬品等の分類には特に拘束されず、いくつかの分野に適用される。
【0039】
本発明の選択的抗菌用組成物、及び、皮膚外用組成物は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の実施形態に限定されるものではない。また、本発明では、一般の皮膚外用組成物等において採用される種々の形態を、本発明の効果を損ねない範囲で採用することができる。
【実施例】
【0040】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
<最小発育阻止濃度の測定>
各種物質を用いて、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性の有無を調べた。換言すると、黄色ブドウ球菌に対して抗菌性を発揮しつつ表皮ブドウ球菌に対しては必ずしも強い抗菌性を発揮しない物質の探索を行った。
具体的には、下記の各物質と、上述した培養抽出物とを用いて、それぞれ最小発育阻止濃度を測定した。
測定方法は、日本薬局方の微量液体希釈法に従った。
「測定した物質名」
・ポリリジン
・カプリル酸モノグリセリル
・デシレングリコール
・パラベン
・2-エチルヘキシルモノグリセリン
・フェノキシエタノール
・本実施形態の培養抽出物1及び2
(培養抽出物1)
マフア(Madhuca)属植物[Madhuca longifolia(学名)]の種子油のCandida bombicolaによる培養抽出物(固形物(乾燥物)濃度が50質量%)
製品名「ACS-Sophor」(アライドカーボンソリューションズ社製)
ソフォロース構造を分子中に有する糖脂質を含有
(培養抽出物2)
オリーブ油のPseudozyma tsukubaensisによる培養抽出物(固形物(乾燥物)濃度が50質量%)
製品名「セラメーラ-HBG」(東洋紡社製)
マンノース構造を分子中に有する糖脂質を含有
「細菌」
・黄色ブドウ球菌(有害菌/悪玉菌)
(Staphylococcus aureus:ATCC6538)
・表皮ブドウ球菌(無害菌/善玉菌)
(Staphylococcus epidermidis:ATCC12228)
【0042】
図1及び
図2に、各培養抽出物の最小発育阻止濃度の測定結果を示す。測定した物質のうち、上記の2種の培養抽出物が黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性を示した。
【0043】
<黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖に対して培養抽出物が与える影響>
「試験方法」
まず、検体の菌確認試験を行い、生菌が存在していないことを確認した。
次に、凍結保存していた試験菌を、SCD培地を用いて一晩培養した。培養後、108cfu/mLとなるように菌液を調製した。
続いて、バイアル瓶に検体を10gずつ分注し、そこへ菌液を100μL接種して素早く均一に混合し、37℃でインキュベートした。接種後6時間が経過した時点で検体を1gサンプリングし、生菌数試験を実施した。なお、本研究の生菌数試験は、第17改正日本薬局方の生菌数試験に準じた。
【0044】
培養抽出物1及び培養抽出物2を用いた上記試験の結果を
図3及び
図4にそれぞれ示す。培養抽出物1が0.03質量%以上0.5質量%(乾燥物換算)の濃度範囲のときに、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性が少なくとも発揮されることを確認できた。また、培養抽出物2が0.0003質量%以上1質量%以下(乾燥物換算)の濃度範囲のときに、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性が少なくとも発揮されることを確認できた。
【0045】
<黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌の増殖に対して、培養抽出物及び増殖成分が与える影響>
上記の「試験方法」と同様にして試験を行った。なお、増殖成分として下記のものを用いた。また、培養時間は6時間とした。
「増殖成分1」:表皮ブドウ球菌の増殖成分
・乳酸菌の死菌体を含む粉体 製品名「ラ・フローラEC-12」一丸ファルコス社製 固形物(乾燥物)濃度が100質量%
「増殖成分2」:表皮ブドウ球菌の増殖成分
・糖化合物(α-グルカンオリゴサッカリド)を含む粉体 製品名「BIOECOLIA」ソラビア社(フランス)製 固形物(乾燥物)濃度が100質量%
【0046】
図5~
図7に上記試験の結果を示す。
図5から把握されるように、培養抽出物1(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分1(乾燥物換算)の質量比(増殖成分1/培養抽出物1)が、0.1以上5.0以下(より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは2.0以下)のときに、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性が顕著に発揮されることを確認できた。
また、
図6から把握されるように、培養抽出物2(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分1(乾燥物換算)の質量比(増殖成分1/培養抽出物2)が、特に2以上12以下のときに、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性が顕著に発揮されることを確認できた。
また、
図7から把握されるように、培養抽出物2(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分2(乾燥物換算)の質量比(増殖成分2/培養抽出物2)が、50以上450以下のときに、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性が顕著に発揮されることを確認できた。
【0047】
続いて、モデル組成物を調製して、黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌性について調査した。
【0048】
(実施例1~16)
表1~表3にそれぞれ示す配合処方に従って、各原料を混合することによって、各実施例の組成物(黄色ブドウ球菌に対する選択的抗菌用組成物、皮膚外用組成物、以下、単に組成物と称する)を製造した。
詳しくは、室温において各成分を混合及び撹拌して各組成物を製造した。
【0049】
(比較例1~3)
表1~表3にそれぞれ示す配合処方に従って、各原料を混合することによって、比較例の組成物を製造した。製造方法は、上述した実施例における製造方法と同様である。
【0050】
表1~表3における原料の詳細を下記に説明する。
「培養抽出物1」(上述したものと同じ)
「培養抽出物2」(上述したものと同じ)
「水溶性高分子I」
・(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/ビニルピロリドン)コポリマー
「水溶性高分子II」
・キサンタンガム
「増殖成分1」(上述したものと同じ)
「増殖成分2」(上述したものと同じ)
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
<組成物の黄色ブドウ球菌及び表皮ブドウ球菌に対する抗菌性能の評価>
「試験方法」
まず、検体の菌確認試験を行い、生菌が存在していないことを確認した。
次に、凍結保存していた試験菌を、SCD培地を用いて一晩培養した。培養後、108cfu/mLとなるように菌液を調製した。
続いて、バイアル瓶に検体を10gずつ分注し、そこへ菌液を100μL接種して素早く均一に混合し、37℃でインキュベートした。接種後6時間が経過した時点で検体を1gサンプリングし、生菌数試験を実施した。なお、本研究の生菌数試験は、第17改正日本薬局方の生菌数試験に準じた。得られた生菌数を基にして、増殖率を算出した。
【0055】
各組成物について上記の評価を実施した結果を
図8~
図10示す。
実施例の組成物は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用が選択的であり特異的であった。
一方、比較例の組成物は、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用が選択的でなかった。
【0056】
図8に示された結果から、培養抽出物1(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分1(乾燥物換算)の質量比(増殖成分1/培養抽出物1)が、1.2以上6.0以下であることが好ましく、選択的な抗菌性という点では、2以上6以下であることが特に好ましいことが確認された。
斯かる質量比が上記の数値範囲内であることにより、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制させつつ表皮ブドウ球菌の増殖をより促進させることができた。これにより、組成物を皮膚に塗布したときに皮膚をより健常な状態にすることができるといえる。
【0057】
図9に示された結果から、培養抽出物2(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分1(乾燥物換算)の質量比(増殖成分1/培養抽出物2)が、2以上10以下であることが好ましく、4以上6以下であることが特に好ましいことが確認された。
斯かる質量比が上記の数値範囲内であることにより、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制させつつ表皮ブドウ球菌の増殖をより促進させることができた。これにより、組成物を皮膚に塗布したときに皮膚をより健常な状態にすることができるといえる。
【0058】
図10に示された結果から、培養抽出物2(乾燥物換算)に対する、上記の増殖成分2(乾燥物換算)の質量比(増殖成分2/培養抽出物2)が、1以上500以下であることが好ましく、3以上200以下であることがより好ましいことが確認された。
斯かる質量比が上記の数値範囲内であることにより、黄色ブドウ球菌の増殖を抑制させつつ表皮ブドウ球菌の増殖をより促進させることができた。これにより、組成物を皮膚に塗布したときに皮膚をより健常な状態にすることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の選択的抗菌用組成物及び皮膚外用組成物は、例えば、健常な皮膚等の状態を維持させるために、皮膚などに塗布されて使用される。また、本発明の選択的抗菌用組成物及び皮膚外用組成物は、例えば、炎症などによって悪化した皮膚等の状態を改善させるために、皮膚などに塗布されて使用される。