(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】歯肉炎の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 33/06 20060101AFI20220920BHJP
A61K 33/16 20060101ALI20220920BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220920BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220920BHJP
A61K 9/68 20060101ALI20220920BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20220920BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220920BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220920BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220920BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220920BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220920BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220920BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20220920BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20220920BHJP
A23G 3/00 20060101ALI20220920BHJP
A23G 4/06 20060101ALI20220920BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220920BHJP
A23G 4/14 20060101ALI20220920BHJP
A61K 6/838 20200101ALI20220920BHJP
【FI】
A61K33/06
A61K33/16
A61P1/02
A61P31/04
A61K9/68
A61K47/42
A61K9/06
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/20
A61K47/02
A61Q11/00
A61K8/24
A61K6/30
A23G3/00
A23G4/06
A23L33/10
A23G4/14
A61K6/838
(21)【出願番号】P 2019550245
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 AU2018050231
(87)【国際公開番号】W WO2018165708
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-03-15
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】504348389
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ メルボルン
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MELBOURNE
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイノルズ エリック チャールズ
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-531553(JP,A)
【文献】国際公開第03/059304(WO,A1)
【文献】特表2017-505760(JP,A)
【文献】Clin Oral Invest,2014年,18,pp.589-598
【文献】Caries Res,2007年,41,pp.377-383
【文献】BRITISH DENTAL JOURNAL,2016年,221(10),pp.657-666
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61Q
A23G
A23L
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔のディスバイオシスの抑制;
歯肉の炎症の軽減のそれが必要な個体に対する実施;
歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施;又は
慢性歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施、
のための医薬品の調製における
カゼインホスホペプチド-安定化非晶質リン酸カルシウム(
CPP-ACP)及び/又は
カゼインホスホペプチド-安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(
CPP-ACFP)複合体の使用。
【請求項2】
前記個体が軽度、中等度又は重度の歯肉の炎症を有する、請求項1に記載の使
用。
【請求項3】
前記個体が1、2、3又は4の改良歯肉炎指数スコアを有する、請求項1
又は2に記載の使
用。
【請求項4】
前記個体が検出可能な歯の表面又は表面下の病変を有さない、請求項1
~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記個体が、デブリードマン、スケーリング、ルートプラニング(root planning)、及び歯肉縁下若しくは歯肉縁上の細菌を除去するためのあらゆる他の処置から選択される歯科処置を受けている、請求項1
~4のいずれか一項に記載の使
用。
【請求項6】
前記
CPP-ACP又は
CPP-ACFP複合体が、前記個体に5~60分間、10~45分間、10~30分間、又は20分間投与される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の使
用。
【請求項7】
前記
CPP-ACP又は
CPP-ACFP複合体が、1日当たり又は24時間当たり4、5又は6回投与される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の使
用。
【請求項8】
前記
CPP-ACP又は
CPP-ACFP複合体が1~2週間の期間投与される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の使
用。
【請求項9】
前記
CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体が、練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、並びにその他の食品のいずれか1つの中に配合される、請求項1~
8のいずれか一項に記載の使
用。
【請求項10】
前記CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体がチューインガム
の中に配合される、請求項
9に記載の使
用。
【請求項11】
前記チューインガムが、少なくとも約15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、又は60mgの
CPP-ACP又は
CPP-ACFP複合体を含む、請求項
10に記載の使
用。
【請求項12】
前記チューインガムが、約18.8又は56.4mgの
CPP-ACP又は
CPP-ACFP複合体を含む、請求項
11に記載の使用。
【請求項13】
口腔のディスバイオシスの抑制;
歯肉の炎症の軽減のそれが必要な個体に対する実施;
歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施;又は
慢性歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施、
に
用いられる、カゼインホスホペプチド-安定化非晶質リン酸カルシウム(
CPP-ACP)及び/又は
カゼインホスホペプチド-安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(
CPP-ACFP)複合体
を含む、組成物。
【請求項14】
前記個体が軽度、中等度又は重度の歯肉の炎症を有する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記個体が1、2、3又は4の改良歯肉炎指数スコアを有する、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
前記個体が検出可能な歯の表面又は表面下の病変を有さない、請求項13~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記個体が、デブリードマン、スケーリング、ルートプラニング(root planning)、及び歯肉縁下若しくは歯肉縁上の細菌を除去するためのあらゆる他の処置から選択される歯科処置を受けている、請求項13~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体が、前記個体に5~60分間、10~45分間、10~30分間、又は20分間投与される、請求項13~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体が、1日当たり又は24時間当たり4、5又は6回投与される、請求項13~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体が1~2週間の期間投与される、請求項13~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体が、練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、並びにその他の食品のいずれか1つの中に配合される、請求項13~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記CPP-ACP又はCPP-ACFP複合体がチューインガムの中に配合される、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記チューインガムが、少なくとも約15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、又は60mgのCPP-ACP又はCPP-ACFP複合体を含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記チューインガムが、約18.8又は56.4mgのCPP-ACP又はCPP-ACFP複合体を含む、請求項23に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体の全内容が参照によりに援用されるオーストラリア仮特許出願第2017900893号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、口腔ケアのための組成物及びそれらの使用に関する。特に、これらの組成物及び方法は、口腔の健康の維持、及び/又は歯肉炎などの種々の口腔症状の処置のためのものである。
【背景技術】
【0003】
口腔微生物は、ほぼ調和した共生関係で数百万年間、それらの宿主とともに進化し共存してきた。宿主及び口腔マイクロバイオームは、別個の存在ではなく、ともに「超個体」又はホロビオント(holobiont)を形成し、口腔マイクロバイオームは口腔の維持及び健康において重要な役割を果たす。口は、体内で2番目に多い種類の微生物群の環境を提供し、歯の硬い表面及び口腔粘膜の軟組織にコロニーを作る700を超える細菌の定住種を有する。DNAシーケンシング技術の最近の進歩によって、口腔マイクロバイオームの複雑性が明らかとなり、それによって健康及び疾患の両方の間の異なる口腔内多菌性バイオフィルムの役割に対する新しい見識が得られた。
【0004】
健康に関連する多くの細菌種は、単に片利共生生物として考えられたが、このより重要な見識によって、多くは実際にそれらの宿主に対して有益であることが今では明らかである。これらの片利共生/有益種は、それらの宿主との真の共生関係が健康の改善、及び/又は疾患の原因となる病原性種のコロニー形成の防止のための重要な要因となるので、現在では共生生物と呼ばれる。しかし、現代のライフスタイル(たとえば食事の糖質、喫煙、不十分な口腔衛生など)又はその他の要因(たとえば遺伝性素因)による口腔マイクロバイオームの混乱によって、全体的及び口腔の健康に有害な結果が生じうる。続いて、口腔生態系の微調整された平衡(ホメオスタシス又は共生)が破壊されることがあり、それによって疾患を促進する細菌(病原性共生生物)が有益/片利共生的共生生物を駆逐して、ディスバイオシスが生じ、歯周病(歯肉炎及び歯周炎)などの疾患を引き起こすことがある。したがって、口腔の健康を有効に維持又は回復するために、バランスの取れた口腔マイクロバイオームを促進することが重要である。バランスの取れた口腔マイクロバイオーム及びホメオスタシスを得るための有益/片利共生的共生生物を活性化させる方法はプレバイオシス(prebiosis)と呼ばれる。したがって、共生細菌の比率を増加させることによってバランスの取れた口腔マイクロボーム(microbome)及びホメオスタシスを促進する物質はプレバイオティクスと呼ばれる。
【0005】
カゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム(CPP-ACP)は、エナメル質及び象牙質の早期段階の齲蝕を再石灰化するために生物が利用可能なカルシウムイオン及びリン酸イオンを供給する唾液の生体模倣技術の1つである。カゼインホスホペプチドと非晶質リン酸カルシウムとの特殊な複合体(「CPP-ACP」、Recaldent(商標)として市販されている)は、エナメル質表面下病変をin vitro及びin situで再石灰化することが知られている。
【0006】
The University of Melbourneの名義の国際公開第98/40408号パンフレット(その内容全体が参照により本明細書に援用される)には、アルカリ性pHで生成されたカゼインホスホペプチド-非晶質リン酸カルシウム複合体(CPP-ACP)及びCPP-安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム複合体(CPP-ACFP)が記載されている。このような複合体は、動物及びヒトのin situ齲蝕モデルにおいてエナメル質表面下病変の再石灰化を促進することが示されている。さらに、これらの組成物の改善及び特殊な使用が国際公開第2006/066013号パンフレット及び国際公開第2007/090242号パンフレットに開示されている(これらの内容全体が参照により本明細書に援用される)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
歯肉の疾患の新規又は改善された処置が必要とされている。さらに、歯肉の健康を維持又は回復するための新規又は改善された療法が必要とされている。
【0008】
本明細書におけるあらゆる従来技術に対する言及は、この従来技術が、あらゆる管轄区における共通の一般知識の一部を構成するものであり、この従来技術が当業者によって関連する及び/又は従来技術の他の要素と組み合わされるものとして理解され、見なされるものと合理的に予想されうるとの承認でも示唆でもない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様においては、本発明は、個体の口腔部位における病原性口腔細菌を減少させる方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって口腔部位における病原性細菌を減少させるステップを含む方法を提供する。
【0010】
別の一態様においては、本発明は、個体の口腔部位における片利共生口腔細菌を増加させる方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって口腔部位における片利共生口腔細菌を増加させるステップを含む方法も提供する。
【0011】
別の一態様においては、本発明は、個体の口腔部位における病原性口腔細菌の比率を低下させる方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって口腔部位における病原性口腔細菌の比率を低下させるステップを含む方法も提供する。
【0012】
本明細書に記載の本発明のいずれかの態様においては、病原性口腔細菌は、歯肉の炎症、歯肉炎、慢性歯肉炎、歯周炎、又は歯周病に関連するいずれか1つ以上であってよい。典型的には、病原性口腔細菌は、酸産生性及び/又は耐酸性及び/又は炎症誘発性である。好ましくは、細菌は炎症誘発性である。リポ多糖(LPS)を産生しLPSを組織中にLPSとして放出する細菌は高い炎症誘発性である。
【0013】
好ましくは、細菌は、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、アクチノミセス・ネスルンディ(Actinomyces naeslundii)、ベイロネラ・パルブーラ(Veillonella parvula)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、タネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)、トレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)、レプトトリキア・ウェイディイ(Leptotrichia wadei)、レプトトリキア・シャーイイ(Leptothrichia shahii)、レプトトリキア・ブカリス(Leptotrichia buccalis)、及びロートロピア・ミラビリス(Lautropia mirabilis)から選択されるいずれか1つ以上である。
【0014】
本明細書に記載の本発明のいずれかの態様においては、片利共生口腔細菌は、アルギニンデイミナーゼ及び/又は硝酸レダクターゼを発現するいずれか1つ以上の種であってよい。典型的には、細菌は、コリネバクテリウム・デュルム(Corynebacterium durum)、ロシア・デントカリオーサ(Rothia dentocariosa)、ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)、及びフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)のいずれか1つ以上である。
【0015】
一態様においては、本発明は、口腔のディスバイオシスを抑制する方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって口腔のディスバイオシスを抑制するステップを含む方法を提供する。
【0016】
別の一態様においては、本発明は、歯肉の炎症の軽減をそれが必要な個体に対して行う方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって歯肉の炎症を軽減するステップを含む方法を提供する。好ましくは、この方法は、歯肉の炎症を有する個体を特定する初期ステップをさらに含む。
【0017】
別の一態様においては、本発明は、歯肉炎の処置をそれが必要な個体に対して行う方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって歯肉炎を処置するステップを含む方法を提供する。好ましくは、この方法は、歯肉炎を有する個体を特定する初期ステップをさらに含む。
【0018】
別の一態様においては、本発明は、慢性歯肉炎の処置をそれが必要な個体に対して行う方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって慢性歯肉炎を処置するステップを含む方法を提供する。好ましくは、この方法は、慢性歯肉炎を有する個体を特定する初期ステップをさらに含む。
【0019】
別の一態様においては、本発明は、歯周炎の処置をそれが必要な個体に対して行う方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって歯周炎を処置するステップを含む方法を提供する。好ましくは、この方法は、歯周炎を有する個体を特定する初期ステップをさらに含む。
【0020】
本発明のいずれかの態様においては、本方法は、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与するステップの前に歯科処置を行うステップをさらに含む。歯科処置の例としては、デブリードマン、スケーリング、ルートプラニング(root planning)、又は歯肉縁下若しくは歯肉縁上の細菌を除去するためのあらゆる他の処置が挙げられる。
【0021】
別の一態様においては、本発明は:
-個体の口腔部位における病原性口腔細菌の減少;
-個体の口腔部位における片利共生口腔細菌の増加;
-個体の口腔部位における病原性口腔細菌の比率の低下
-口腔のディスバイオシスの抑制;
-歯肉の炎症の軽減のそれが必要な個体に対する実施;
-歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施;又は
-慢性歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施
のための医薬品の調製における安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)の使用を提供する。
【0022】
別の一態様においては、本発明は:
-個体の口腔部位における病原性口腔細菌の減少;
-個体の口腔部位における片利共生口腔細菌の増加;
-個体の口腔部位における病原性口腔細菌の比率の低下
-口腔のディスバイオシスの抑制;
-歯肉の炎症の軽減のそれが必要な個体に対する実施;
-歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施;又は
-慢性歯肉炎の処置のそれが必要な個体に対する実施
において使用するための安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を提供する。
【0023】
別の一態様においては、本発明は、個体の歯のエナメル質の脱灰を減少させる方法であって、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を個体の口腔に投与し、それによって個体の歯のエナメル質の脱灰を減少させるステップを含む方法を提供する。好ましくは、安定化ACP複合体は、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)で安定化された非晶質リン酸カルシウム(ACP)複合体であり、安定化ACFP複合体は、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)で安定化された非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体である。好ましくは、脱灰の減少は脱灰速度の低下である。
【0024】
好ましくは、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)は、ホスホペプチド安定化される。好ましくは、ホスホペプチド(後述のように定義される)はカゼインホスホペプチドである。
【0025】
本発明のいずれかの方法又は使用においては、安定化ACP又はACFP複合体は、個体に5~60分間、10~45分間、10~30分間、又は20分間投与することができる。さらに、安定化ACP又はACFP複合体は、1日当たり又は24時間当たり4、5、又は6回投与することができる。好ましくは、安定化ACP又はACFP複合体は、1~2週間の期間に投与される。
【0026】
いずれかの態様においては、本組成物は、歯磨き剤、たとえば練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品及びその他の食品、たとえばヨーグルトなどの口に使用可能な種々の形態で調製し使用することができる。好ましくは、この組成物はチューインガムである。好ましくは、チューインガムは、少なくとも約15mg、20mg、25mg、30mg、35mg、40mg、45mg、50mg、55mg、又は60mgの安定化ACP又はACFP複合体を含む。チューインガムは、約18.8又は56.4mgの安定化ACP又はACFP複合体を含むことができる。
【0027】
いずれかの態様においては、安定化ACP又はACFP複合体のカルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30モルを超える。好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~約50モルの範囲内のカルシウム。
【0028】
いずれかの態様においては、安定化ACP複合体は、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)で安定化された非晶質リン酸カルシウム(ACP)複合体であり、安定化ACFP複合体は、第一スズが会合したホスホペプチド(PP)で安定化された非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体である。
【0029】
いずれかの態様においては、ACP及び/又はACFP複合体は、カゼインホスホペプチド安定化されたACP及び/又はACFP複合体の形態である。
【0030】
好ましくは、ACPの相は、主として(すなわち>50%)塩基性相であり、ACPは、主としてCa2+、PO4
3-、及びOH-の化学種を含む。ACPの塩基性相は、一般式[Ca3(PO4)2]x[Ca2(PO4)(OH)]で表すことができ、式中、x≧1である。好ましくはx=1~5である。より好ましくは、x=1であり、すなわち上式の2つの成分は同じ比率で存在する。したがって、一実施形態において、ACPの塩基性相は式Ca3(PO4)2Ca2(PO4)(OH)で表される。
【0031】
好ましくは、ACFPの相は、主として(すなわち>50%)塩基性相であり、ACFPは、主としてCa2+、PO4
3-及びF-の化学種を含む。ACFPの塩基性相は、一般式[Ca3(PO4)2]x[Ca2(PO4)F]yで表すことができ、式中、y=1の場合x≧1、又はx=1の場合y≧1である。好ましくは、y=1及びx=1~3である。より好ましくは、y=1及びx=1であり、すなわち、上式の2つの成分は同じ比率で存在する。したがって、一実施形態において、ACFPの塩基性相は式Ca3(PO4)2Ca2(PO4)Fで表される。
【0032】
一実施形態において、ACP複合体は、ホスホペプチド、カルシウムイオン、リン酸イオン、及び水酸化物イオン、並びに水から本質的になる。好ましくは、複合体は第一スズイオンをさらに含む。
【0033】
一実施形態において、ACFP複合体は、ホスホペプチド、カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、及び水酸化物イオン、並びに水から本質的になる。好ましくは、複合体は第一スズイオンをさらに含む。
【0034】
本発明は、本発明の方法又は使用に使用するためのキットであって:
(a)本明細書に記載の組成物、又は
(b)本明細書に記載の安定化ACP若しくはACFP複合体
を含むキットにも関する。
【0035】
本明細書において使用される場合、文脈が別のことを要求する場合を除けば、用語「含む」(comprise)、並びにその用語の変形、たとえば「含むこと」(comprising)、「含む」(comprises)、及び「含んだ」(comprised)は、さらなる添加剤、構成要素、整数、又はステップを排除することを意図するものではない。
【0036】
本発明のさらなる態様、及び上記の段落に記載の態様のさらなる実施形態は、例として添付の図面を参照しながら示される以下の説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】無作為化され制御された臨床試験におけるプラークインデックスに対するCPP-ACPの影響。
【
図2】無作為化され制御された臨床試験における歯肉炎指数に対するCPP-ACPの影響。
【
図3】1%のスクロースを用いて1日当たり4回のパルスを加える一定深さフィルムファーメンター(constant depth film fermenter)中でヒトエナメル質下層とともに培養した6つの種の多菌性バイオフィルムの平均種組成。6つ全ての種のA.ネスルンディ(A.naeslundii)(An)、F.ヌクレアタム(F.nucleatum)(Fn)、L.カゼイ(L.casei)(Lc)、S.ミュータンス(S.mutans)(Sm)、S.サングイニス(S.sanguinis)(Ss)、及びV.パルブーラ(V.parvula)(Vp)を各時点で検出した。S.ミュータンス(S.mutans)は、19日間にわたって比較的一定のままであり、最も豊富な種であった。A.ネスルンディ(A.naeslundii)及びL.カゼイ(L.casei)の両方は経時により存在度が高くなり、一方、S.サングイニス(S.sanguinis)は低下した。これは、多菌性バイオフィルムが経時により酸性度が高くなることと一致する。それぞれの種の名称の上の3つの棒は、接種後の第6日(黒色)、第12日(灰色)、及び第19日(ストライプ)の相対存在度を意味する。
【
図4】多菌性バイオフィルム齲蝕モデルにおけるエナメル質表面下の脱灰。A.多菌性齲蝕モデルにおける19日の期間にわたるエナメル質下層の積分ミネラル損失(体積%分・μm)。これらのデータは対照(処置なし)の4つの生物学的反復試験を表し、平均±S.Dとして表される。B.第6日、第12日、及び第19日における表面下の脱灰を示すエナメル質下層の代表的な横方向のマイクロラジオグラフ。C.細菌性バイオフィルムの密接な結合及び歯肉縁上歯垢様構造を示す12日の多菌性バイオフィルムの代表的な電子顕微鏡写真。
【
図5】第19日のCDFF中の多菌性バイオフィルム細菌種の組成物にSnF
2、2%のCPP-ACP、及び2%のCPP-ACP-SnF
2を1日2回加えることの影響。A.バイオフィルム中の全細菌のパーセント値としての細菌種の組成(データ及び統計分析は表7中に示される)。B.対照に対する処置後の各種の存在度の変化。F.ヌクレアタム(F.nucleatum)は、2%のCPP-ACP-SnF
2で処置した多菌性バイオフィルム中で4,981%と非常に大きい相対的増加であったため示していない。SnF
2の処置は、F.ヌクレアタム(F.nucleatum)の存在度には影響しなかったが(-2%)、CPP-ACP処置では第19日において355%増加となった。ストライプの棒=対照、黒色=SnF
2、灰色=2%のCPP-ACP、及び白色=2%のCPP-ACP-SnF
2。C.第19日のCPP-ACP-SnF
2で処置された多菌性バイオフィルムの代表的な3DレンダリングされたCLSM画像。細菌の細胞は、4つの種の特異的FISHプローブで染色した(紫色-F.ヌクレアタム(F.nucleatum);青色-A.ネスルンディ(A.naeslundii);赤色-S.ミュータンス(S.mutans);緑色-S.サングイニス(S.sanguinis))。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書に開示され規定される本発明は、本文又は図面に記載される、又はそれらより明らかとなる個別の特徴の2つ以上のすべての別の組合せまで拡張されると理解されたい。これらの異なる組合せのすべては、本発明の種々の別の態様を構成している。
【0039】
本発明のさらなる態様、及び上記の段落に記載した態様のさらなる実施形態は、添付の図面を参照しながら例として示される以下の説明から明らかとなるであろう。
【0040】
これより本発明の特定の実施形態の詳細に言及する。実施形態とともに本発明が説明されるが、それらの実施形態に本発明が限定されることを意図したものではないことを理解されたい。逆に、本発明は、請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれうるすべての代案、修正、及び同等物を含むことが意図される。
【0041】
当業者であれば、本発明の実施に使用可能となる、本明細書に記載のものと類似又は同等の多くの方法及び材料を認識するであろう。本発明は、記載の方法及び材料に限定されるものでは決してない。
【0042】
本明細書に引用されるすべての特許及び刊行物は、それら全体が参照により援用される。
【0043】
本明細書を説明するために、単数形で使用される用語は複数形をも含み、逆の場合も同様である。
【0044】
文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、用語「含む」(comprise)、並びにその用語の変形、たとえば「含むこと」(comprising)、「含む」(comprises)、及び「含んだ」(comprised)は、さらなる添加剤、構成要素、整数、及びステップを排除することを意図するものではない。文脈が他のことを必要とする場合を除けば、本明細書において使用される場合、「含む」(comprise)及び「含める」(include)は同義で使用することができる。
【0045】
本発明は、CPP-ACP、CPP-ACFP、又は第一スズが会合したACP若しくはACFPなどの安定化非晶質リン酸カルシウムの形態によって、歯肉の炎症の軽減、及び歯肉炎などの種々の歯肉症状の処置が可能となるという予期せぬ発見に基づいている。安定化非晶質リン酸カルシウムの形態は、カルシウム及びリン酸塩を送達して、歯の病変内に結晶性ハイドロキシアパタイト又はフルオロアパタイトを形成することによって、歯の病変を再石灰化することが以前に示されているが、これらの安定化非晶質リン酸カルシウムの形態が、驚くべきことに口腔中、及び中の組織(すなわち歯肉)中に存在する有益及び病原性の口腔細菌に対して影響を与えることが今回示された。さらに驚くべきことに、安定化非晶質リン酸カルシウムの形態は、有益口腔細菌の相対存在度を増加させ、病原性口腔細菌の相対存在度を低下させる。なんらかの理論又は作用機序によって束縛しようとするものではないが、歯肉の炎症を軽減すると思われるのは、この口腔細菌に対する異なる影響である。
【0046】
本発明のいずれかの方法は、個体の口腔部位の処置を含むことができ、この口腔部位は、遠心面頬面、中間頬面(mid-buccal)、近心面頬面、近心口蓋側、中間口蓋側(mid-palatal)、及び遠心口蓋側、並びに遠心面舌面、中間舌面(mid-lingual)、及び近心面舌面などの歯の周囲の1つ以上の領域である。処置は、口腔内の別の部位ではなく、歯肉に対して直接行うことができる。処置は複数の口腔部位であってよい。或いは、口腔全体を処置することができる。さらに、処置の効果は、1つ以上の口腔部位又は口腔全体の分析によって求めることができる。たとえば、病原性細菌の減少、又は片利共生細菌の増加は、本明細書に記載のように1つ以上の口腔部位の分析によって、又は口腔全体の分析によって求めることができる。
【0047】
本発明のいずれかの態様においては、個体は、処置又は予防を必要とする個体である。特に、本発明のいずれかの態様においては、本方法又は使用は、処置又は予防を必要とする個体を特定するステップをさらに含む。
【0048】
病原性口腔細菌の減少、又は片利共生口腔細菌の増加のための処置が必要な個体は、現在のライフスタイル(たとえば、過度の食事の糖質の接種、喫煙、不十分な口腔衛生)又はその他の要因(たとえば遺伝性素因)による口腔マイクロバイオームの混乱を有する、又は経験している個体であってよい。
【0049】
本発明のいずれかの態様においては、個体は、歯の病変を有さなくてよい。たとえば、個体は、歯肉の炎症又は歯肉炎を有するが、検出可能な歯の表面又は表面下の病変を有さないとして特定されうる。
【0050】
「処置する」又は「処置」という単語は、望ましくない生理学的変化又は不調を鈍化させる(軽減する)ことが目的である治療的処置を意味する。本発明の目的では、有益又は望ましい臨床結果としては、検出可能若しくは検出不可能のいずれかの、症状の緩和、疾患の程度の軽減、疾患の安定した(すなわち、悪化していない)状態、疾患の進行の遅延若しくは減速、病状の回復若しくは一時的緩和、及び寛解(部分的若しくは完全のいずれか)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。処置は、必ずしも疾患の検出可能な症状が完全にはなくならない場合があるが、疾患の合併症及び副作用を軽減したり、最小限にしたりすることができる。処置の成功又はその他は、個体の理学的検査、細胞病理学的技術、血清学的DNA、mRNA検出技術、又は本明細書に記載のあらゆる他の技術によって監視することができる。
【0051】
「予防する」及び「予防」という単語は、一般に、歯肉の炎症、又は本明細書に記載のあらゆる他の症状を有しない個体のその合併症への進行から守る又は進行しないようにするための予防的又は防止的手段を意味する。予防が必要な個体としては、ディスバイオシスを有する個体が挙げられる。
【0052】
「薬学的に許容される」という表現は、物質又は組成物が、ある配合物を含む別の成分、及び/又はそれを用いて処置される個体に、化学的及び/又は毒物学的に適合する必要があることを示している。
【0053】
本発明の方法は、本明細書に記載のような口腔組織の疾患又は状態の潜在性又は臨床的症状を示す個体に適用可能である。
【0054】
個体のディスバイオシスは、無作為に選択された個体のコホートに関連して、個体が、口腔内に異常な総量又は相対存在度の微生物病原体を有することを意味する。たとえば、その個体は、歯肉の炎症、歯肉炎、慢性歯肉炎、歯周炎、又は歯周病に関連する1つ以上の病原性細菌を多い量又は高い比率で有しうる。典型的には、病原性細菌は、酸産生性及び/又は耐酸性及び/又は炎症誘発性である。好ましくは、細菌は、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、アクチノミセス・ネスルンディ(Actinomyces naeslundii)、ベイロネラ・パルブーラ(Veillonella parvula)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、タネレラ・フォーサイシア(Tannerella forsythia)、及びトレポネーマ・デンティコーラ(Treponema denticola)から選択されるいずれか1つ以上である。
【0055】
歯肉の炎症の症状は、前記個体の口腔組織中に1つ以上の口腔部位において現れうる。存在しうる炎症の細部的特徴としては、血液から損傷組織中への血漿及び白血球の移動の増加が挙げられる。発赤(赤み)、発熱(高い熱)、腫脹(膨張)、疼痛(痛み)、及び機能喪失(機能が失われること)などの歯肉の炎症の臨床的兆候も存在しうる。慢性炎症は白血球細胞(単球、マクロファージ、リンパ球、形質細胞)の浸潤を特徴とすることができる。組織及び骨の減少が観察されうる。炎症の例としては歯肉炎が挙げられる。
【0056】
歯肉の炎症の軽減は、歯肉の炎症の発生及び/又は重症度の減少であってよい。これは、直前に概要を示したものなどの本明細書に記載のようなあらゆる臨床的、細胞的、及び生化学的な特徴の発生又は重症度の減少によって決定することができる。
【0057】
さらなる実施形態においては、個体は、口腔組織の慢性炎症を示しうる。一例においては個体は、歯肉炎(慢性歯肉炎など)、歯槽骨の吸収、及び歯から歯槽骨へのコラーゲンの付着が徐々に減少することに起因する最終的な歯の損失を示すことがある。粘膜又は関連の口腔組織の別の病変もありうる。
【0058】
いずれかの態様においては、それが必要な個体は、軽度、中等度、又は重度の歯肉の炎症を有するとして特定される個体であってよい。慢性歯肉炎は、より重度の歯周炎となりうるので、本発明は、Eke et al J Dent Res 91:914-920(2012)に記載のCDC-AAP法によって決定されるような軽度、中等度、及び重度の歯周炎を有する個体にも適用可能である。本発明は、改良歯肉炎指数(Modified Gingival Index)(Lobene et al 1986 Clin Prev Dent.Jan-Feb;8(1):3-6)を用いて特定される歯肉の炎症を有する個体にも適用可能である。この指数は、Loee及びSilnessの歯肉炎指数を改良したものであり、より十分に軽度及び中等度の歯肉炎を識別することができる。個体は、1つ以上の部位(たとえば頬、舌、近心、及び遠心)と関連する歯肉組織について0~4のスケールで歯肉の炎症を有すると判断されうる。好ましくは、それが必要な個体は、1、2、3又は4の改良歯肉炎指数スコアを有する。したがって、本発明のいずれかの態様においては、個体は、本明細書に記載のようなある程度の歯肉の炎症を有するものと規定される。本発明のいずれかの態様においては、本方法又は使用は、個体が本明細書に記載のようなある程度の歯肉の炎症を有するかどうかを調べるステップをさらに含む。
【0059】
病原性口腔細菌の減少を必要とする個体、片利共生口腔細菌の増加を必要とする個体、又は口腔のディスバイオシスを有する個体の特定は、口腔から採取される口腔液から得られる試料中の細菌の量又は相対比率によって行うことができる。特に、口腔液は、唾液、歯肉溝浸出液、又は血液であってよい。口腔液、たとえば唾液は、耳下腺、下顎下、舌下、副腺、歯肉粘膜、及び頬粘膜などの多数の供給源からの分泌物の組合せであると認識され、口腔液という用語は、これらの供給源のそれぞれの単独又は組合せの分泌物を含んでいる。唾液は、刺激される場合があり、又は好ましい一実施形態においては刺激されない場合がある。個体の唾液の刺激は、個体が無糖ガム、パラフィンフィルム片、又は酸っぱいキャンディを噛むことによって行うことができる。刺激されない唾液は、唾液の分泌を刺激せずに収集容器中に個体が吐き出すことを意味する。
【0060】
試験用の唾液標本は、当技術分野において周知の種々の方法により収集することができ、たとえば、刺激された又は刺激されていない唾液は、個体が収集容器中に吐き出すことによって、又はスワブ若しくはシリンジを用いて唾液を抽出することによって採取することができる。刺激されない唾液を得るための別の方法は当技術分野において周知である。(Nazaresh and Christiansen,J.Dent.Res.61:1158-1162(1982))。唾液を収集する方法及び装置も記載されている。(米国特許第5,910,122号明細書も参照されたい)。
【0061】
本発明の方法は、刺激された唾液を分析することによっても実施できることが考慮される。
【0062】
さらに、本発明の方法は、試料の収集直後に唾液分析を行うことに限定されるものではない。ある実施形態においては、本発明の方法による唾液分析は、保管された唾液試料に対して行うことができる。試験用の唾液試料は、当技術分野において周知の方法及び装置を用いて保存することができる。(たとえば、米国特許第5,968,746号明細書を参照されたい)。
【0063】
粘度を低下させるための処理が行われた唾液試料に対して唾液分析を行うために本発明の方法が使用されることも考慮される。
【0064】
ムコ多糖の性質による唾液の粘稠性のために、これらの流体の試験が困難になる。あらゆる実験室試験手順のための唾液を準備するために、唾液を十分に流動性にして(すなわち粘度を低下させる必要があり)、破片が存在しないようにすることができる。破片を除去するために使用される技術としては、遠心分離及び濾過が挙げられる。唾液の粘度は、唾液試料をカチオン性第4級アンモニウム試薬と混合することによって低下させることもできる。(米国特許第5,112,758号明細書を参照されたい)。
【0065】
別の一実施形態においては、個体からの試料は、舌背の陰窩から採取することができる。
【0066】
個体からの試料は、特定の歯周部位から採取することができる。歯周部位は、口腔内の領域である。好ましくは、歯周部位は、遠心面頬面、中間頬面、近心面頬面、近心口蓋側、中間口蓋側、及び遠心口蓋側、並びに遠心面舌面、中間舌面、及び近心面舌面などの歯の周囲の領域である。試料は、炎症の臨床的兆候を示す歯周部位から採取することができる。
【0067】
別の一実施形態においては、個体からの試料は、組織の試料であってよい。組織又はその一部は、口腔からのものであってよい。ある実施形態においては組織は歯肉組織であってよい。歯肉組織は、遠心面頬面、中間頬面、近心面頬面、近心口蓋側、中間口蓋側、及び遠心口蓋側、並びに遠心面舌面、中間舌面、及び近心面舌面などの歯の周囲の種々の部位から得ることができる。組織は、通常の生検によって得ることができるし、又は抜いた歯から得ることができる。
【0068】
別の一実施形態においては、個体からの試料は歯垢であってよい。歯垢は、歯肉縁下又は歯肉縁上歯垢であってよい。歯肉縁下の歯垢は、滅菌キュレット又はペーパーポイントを用いて採取することができる。歯肉縁上歯垢は、当技術分野において周知の標準技術を用いて除去することができる。歯肉縁下の歯垢は、遠心面頬面、中間頬面、近心面頬面、近心口蓋側、中間口蓋側、及び遠心口蓋側、並びに遠心面舌面、中間舌面、及び近心面舌面の歯周部位などの歯の周囲の種々の部位から収集することができる。歯肉縁下の歯垢試料は、有資格歯科医又は歯周病専門歯科医による通常の歯科検診中に得ることができる。歯垢試料は、そのまま分析することができるし、又は抽出緩衝剤を用いて対象のタンパク質、ペプチド、若しくはそれらのフラグメントを抽出するために処理することができる。抽出緩衝剤は、pH緩衝剤(たとえばリン酸塩、HEPESなど)、イオン強度を維持するための塩(たとえばNaCl)、及びタンパク質可溶化剤(たとえば洗剤(SDS、Triton X100など))、還元剤(たとえばジチオトレイトール、システインHCl)、及び/又はカオトロピック剤(たとえば尿素、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム)を含むことができる。
【0069】
ディスバイオシスは、個体からの試料の病原性口腔細菌及び/又は片利共生口腔細菌の量又は、又は相対比率を比較し、ディバイオシス(dybiosis)、又は歯肉の炎症のいずれかの臨床的、細胞的、若しくは生化学的な特徴を有する個体の特性を有さない個体からあらかじめ規定された一連のパラメーターと比較することによって調べることができる。健康な口腔を有する個体は、存在する病原性細菌を低レベルで含みうることが考慮される。この低レベル、すなわち通常レベルの病原性細菌コロニー形成は、ディスバイオシスを示さない。このような対照を用いて、それを試験試料と比較して、個体がディスバイオシスを有するかどうかの決定は、(1)対照試料と比較して、個体から採取した試料中で本明細書に記載のような1つ以上の病原性細菌のレベルが増加すること、又は(2)対照試料中の全細菌レベルと比較して、個体から採取した試料中の1つ以上の病原性細菌の比率が増加すること、又は(3)対照試料と比較した場合に、個体から採取した試料中で1つ以上の別の細菌種に対して1つ以上の病原性細菌の比率が増加することを含む。
【0070】
本明細書に言及されるような安定化ACP又はACFP複合体としては、内容が参照により援用される国際出願PCT/AU2005/001781号明細書に記載されるような安定化ACP又はACFP複合体が挙げられる。
【0071】
好ましい一実施形態において、ホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、強く結合したカルシウム及び緩く結合したカルシウムを有し、複合体中の結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACP又はACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少ない。任意選択により、ACP又はACFPは主として塩基形態である。
【0072】
本明細書において言及されるような安定化ACP又はACFP複合体としては、7.0未満のpHで形成された安定化ACP又はACFP複合体が挙げられる。好ましくは複合体は約5.0~7.0未満の範囲内のpHで形成される。より好ましくは複合体は、約5.0~約6.0のpH範囲で形成される。好ましい一実施形態において、複合体は約5.5のpHで形成される。好ましくは、複合体中のACP又はACFPは主として塩基形態である。
【0073】
安定化ACPは:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.0以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、及び水酸化物イオンを含む溶液を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0074】
安定化ACFPは:
(i)少なくとも1種類のホスホペプチドを含む溶液を得るステップと;
(ii)pHを約7.0以下に維持しながら、カルシウムイオン、ホスフェートイオン、水酸化物イオン、及びフッ化物イオンを含む溶液を混合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0075】
ホスホペプチド安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は、をも含むことができ、複合体中のACPが強く結合したカルシウム及び緩いカルシウムを有し、複合体中の強く結合したカルシウムは、pH7.0において形成されるACP又はACFP複合体中の強く結合したカルシウムよりも少なく、ACP又はACFPは主として塩基形態であり:
a)約5~7未満のpHで、カルシウムイオンを含む第1の溶液、ホスフェートイオンを含む第2の溶液、及び任意選択によりフッ化物イオンを含む第3の溶液を、ホスホペプチド及び溶媒を含む溶液と混合するステップと;
b)水酸化物イオンを加えることによって、混合中に溶液のpHを約5.0~7.0未満に維持するステップと
を含む方法によって得ることができる、又は得られる。
【0076】
ACP又はACFP中の「強く」及び「緩く」結合したカルシウム及びホスフェートは、分析用限外濾過を用いて測定することができる。簡潔に述べると、pHを約7.0以下に維持しながら混合したホスホペプチド、カルシウム、ホスフェート、及び任意選択によりフッ化物の溶液を、最初に0.1ミクロンのフィルターで濾過して、複合体に会合していない遊離のカルシウム及びホスフェートを除去することができる。この遊離のカルシウム及びホスフェートは、濾液中に存在し、廃棄される。複合体と全く会合していないすべての遊離のカルシウム又はホスフェートは、生物学的に利用されない、すなわちホスホペプチドによって歯に送達されることがない。0.1ミクロン濾過で得られる保持液を、3000mwカットオフフィルターを介する1,000gで15分間の遠心分離によってさらに分析することができる。これによって得られる濾液は、複合体に緩く結合又は会合したカルシウム及びホスフェートを含有する。この遠心力において、複合体に強く結合していないカルシウム及びホスフェートは放出されて、濾液中に移動する。複合体中の強く結合したCa及びPiは、保持液中に維持される。次に保持液中の強く結合したCa及びPiの量は、濾液中のCa及びPiの量を、0.1ミクロン濾過の保持液中のCa及びPiの総量から引くことによって求めることができる。
【0077】
本明細書において言及されるような安定化ACP又はACFP複合体としては、内容が参照により援用される国際出願PCT/AU2006/000885号明細書に記載されるような安定化ACP又はACFP複合体が挙げられる。
【0078】
「過充填」(superloaded)ホスホペプチド又はリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体。この複合体は、あらゆるpH(たとえば3~10)で形成することができる。好ましくはホスホペプチドは、配列-A-B-C-を含み、Aはホスホアミノ酸、好ましくはホスホセリンであり、Bはホスホアミノ酸を含めた任意のアミノ酸であり、Cは、グルタミン酸、アスパラギン酸、又はホスホアミノ酸である。ホスホアミノ酸はホスホセリンであってよい。PPにはカルシウムイオン及びホスフェートイオンが過充填される。カルシウムイオンは、1モルのPP当たり30~1000モルの範囲内のCa、又は1モルのPP当たり30~100若しくは30~50モルの範囲内のCaであってよい。別の一実施形態において、1モルのPP当たりのCaのモルは、少なくとも25、30、35、40、45又は50である。
【0079】
ホスホペプチド又はリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム又は非晶質フッ化リン酸カルシウム複合体は、1モルのPP当たり約30モルを超えるカルシウムのカルシウムイオン含有量を有することができる。好ましい一実施形態において、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~100モルの範囲内のカルシウムである。より好ましくは、カルシウムイオン含有量は、1モルのPP当たり約30~約50モルの範囲内のカルシウムである。
【0080】
ホスホペプチド又はリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体は:
(i)カルシウム、無機ホスフェート、及びフッ化物(任意選択)を含む溶液を得るステップと;
(ii)PP-ACPを含む溶液と(i)を混合するステップ
とを含む方法によって製造することができる。
【0081】
好ましい一実施形態において、PPはカゼインホスホペプチド(CPP)である。
【0082】
PP安定化ACP及び/又はACFP複合体は、少なくとも同重量のリン酸カルシウムをさらに含むことができる。好ましくはリン酸カルシウムはCaHPO4である。好ましくは、リン酸カルシウム(たとえばCaHPO4)をPP安定化ACP及び/又はACFP複合体と乾式ブレンドする。好ましい一実施形態において、PP-ACP及び/又はPP-ACFP複合体:リン酸カルシウムの比は約1:1~50であり、より好ましくは約1:1~25、より好ましくは約1:5~15である。一実施形態において、PP-ACP及び/又はPP-ACFP複合体:リン酸カルシウムの比は約1:10である。
【0083】
口腔中で使用する場合に、1モルのPP当たりの約30モルを超えるカルシウムのカルシウムイオン含有量を有する、ホスホペプチド又はリンタンパク質(PP)安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)複合体を含む口腔ケア配合物は:
(i)PP-ACP及び/又はPP-ACFP複合体を含む粉末を得るステップと;
(ii)有効量のリン酸カルシウムと乾式ブレンドするステップと;
(iii)乾式ブレンドしたPP-ACP及び/又はPP-ACFP及びリン酸カルシウム混合物から口腔ケア配合物を配合するステップと
を含む方法によって製造することができる。
【0084】
好ましくは、乾式ブレンドのためのリン酸カルシウムの形態は、限定するものではないがCaHPO4、Ca2HPO4、及び乳酸カルシウムなどの任意の可溶性リン酸カルシウムである。
【0085】
本明細書に記載の組成物は、遊離のフッ化物イオンをさらに含むことができる。フッ化物イオンは、あらゆる好適な供給源に由来してよい。フッ化物イオン源としては、遊離のフッ化物イオン又はフッ化物塩を挙げることができる。フッ化物イオン源の例としては、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、ケイフッ化ナトリウム、及びアミンフッ化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは溶液(典型的には水溶液)中、又は懸濁液中に供給することができる。
【0086】
フッ化物イオンは好ましくは1ppmを超える量で組成物中に存在する。より好ましくは、その量は3ppmを超える。別の一実施形態において、好ましくは10ppmを超える。後述の典型的な実施形態においては、その量は数百又は数千ppmとなりうる。フッ化物含有量は典型的には、当技術分野において一般に使用される方法で口腔用組成物中のppmとして測定される。フッ化物が安定化ACPを有する供給源から得られる場合、ppmは、典型的には生物学的に利用可能なフッ化物の溶液又は懸濁液であるその供給源中のフッ化物濃度を意味する。
【0087】
本明細書において言及されるような第一スズが会合したACP又はACFP複合体は、その全体の全内容が参照により援用されるPCT/AU2014/050447号明細書に記載のいずれかを含む。
【0088】
本発明の使用方法に使用するために本明細書に記載されるような組成物は、第一スズが会合したACP又はACFP複合体を含むことができる。この組成物は、2%のCPP-ACP及び290ppmのフッ化物を含むことができ、220ppmのフッ化物はフッ化第一スズとして、70ppmはフッ化ナトリウムとして含むことができる。
【0089】
本発明の説明の文脈における「ホスホペプチド」は、少なくとも1つのアミノ酸がリン酸化されているアミノ酸配列を意味する。好ましくは、ホスホペプチドは、1つ以上のアミノ酸配列-A-B-C-を含み、式中、Aはホスホアミノ残基であり、Bはホスホアミノ残基を含めた任意のアミノアシル残基であり、Cはグルタミル残基、アスパルチル残基、又はホスホアミノ残基から選択される。任意のホスホアミノ残基は、独立して、ホスホセリル残基であってよい。Bは望ましくは、側鎖が比較的大きくなく疎水性でもない残基である。これは、Gly、Ala、Val、Met、Leu、Ile、Ser、Thr、Cys、Asp、Glu、Asn、Gln、又はLysであってよい。
【0090】
別の一実施形態において、配列中のホスホアミノ酸の少なくとも2つが好ましくは隣接する。好ましくは、ホスホペプチドは、配列A-B-C-D-Eを含み、式中、A、B、C、D、及びEは独立して、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホスホチロシン、ホスホヒスチジン、グルタミン酸、又はアスパラギン酸であり、A、B、C、D、及びEの少なくとも2つ、好ましくは3つはホスホアミノ酸である。好ましい一実施形態において、ホスホアミノ酸残基はホスホセリンであり、最も好ましくは3つの隣接するホスホセリン残基である。D及びEが、独立してグルタミン酸又はアスパラギン酸であることも好ましい。
【0091】
一実施形態において、ACP又はACFPは、無傷のカゼイン又はカゼインのフラグメントの形態であるカゼインホスホペプチド(CPP)によって安定化され、形成される複合体は、好ましくは、式[CPP(ACP)8]n又は[(CPP)(ACFP)8]nで表され、式中のnは1以上であり、たとえば6である。形成される複合体は、コロイド状複合体であってよく、そのコア粒子は凝集し、水中で懸濁して大型(たとえば100nm)のコロイド粒子を形成する。したがって、PPはカゼインタンパク質又はホスホペプチドであってよい。
【0092】
PPは、あらゆる供給源から得られてよく、全長カゼインポリペプチドを含めたより大きなポリペプチドの状況で存在することができるし、カゼイン、若しくはホスフィチン(phosphitin)などの別のホスホアミノ酸に富むタンパク質のトリプシン消化若しくはその他の酵素消化若しくは化学的消化によって、又は化学合成若しくは組替え合成によって単離されてよく、但し、前述の配列-A-B-C-又はA-B-C-D-Eを含むことが条件である。このコア配列を隣に有する配列は、あらゆる配列であってよい。しかし、αs1(59-79)、β(1-25)、αs2(46-70)、及びαs2(1-21)中の隣接配列が好ましい。隣接配列は、任意選択により、1つ以上の残基の欠失、付加、又は保存的置換によって改変されてよい。隣接領域のアミノ酸組成及び配列は重要ではない。
【0093】
保存的置換の例を以下の表Aに示す。
【0094】
【0095】
隣接配列は、非天然アミノ酸の残基を含むこともできる。遺伝暗号によってコードされない一般的に遭遇するアミノ酸としては以下のものが挙げられる:
Glu及びAspの場合の2-アミノアジピン酸(Aad);
Glu及びAspの場合の2-アミノピメリン酸(Apm);
Met、Leu、及び別の脂肪族アミノ酸の場合の2-アミノ酪(Abu)酸;
Met、Leu、及び別の脂肪族アミノ酸の場合の2-アミノヘプタン酸(Ahe);
Glyの場合の2-アミノイソ酪酸(Aib);
Val及びLeu及びIleの場合のシクロヘキシルアラニン(Cha);
Arg及びLysの場合のホモアルギニン(Har);
Lys、Arg及びHisの場合の2,3-ジアミノプロピオン酸(Dpr);
Gly、Pro,及びAlaの場合のN-エチルグリシン(EtGly);
Asn、及びGlnの場合のN-エチルアスパリギン(N-ethylasparigine)(EtAsn);
Lysの場合のヒドロキシルリシン(Hyl);
Lysの場合のアロヒドロキシルリシン(AHyl);
Pro、Ser、及びThrの場合の3-(及び4)ヒドロキシプロリン(3Hyp、4Hyp);
Ile、Leu,及びValの場合のアロイソロイシン(Alle);
Alaの場合のρ-アミジノフェニルアラニン;
Gly、Pro、Alaの場合のN-メチルグリシン(MeGly、サルコシン)。
Ileの場合のN-メチルイソロイシン(MeIle);
Met及び別の脂肪族アミノ酸の場合のノルバリン(Nva);
Met及び別の脂肪族アミノ酸の場合のノルロイシン(Nle);
Lys、Arg及びHisの場合のオルニチン(Orn);
Thr、Asn及びGlnの場合のシトルリン(Cit)及びメチオニンスルホキシド(MSO);
Pheの場合のN-メチルフェニルアラニン(MePhe)、トリメチルフェニルアラニン、ハロ(F、Cl、Br及びI)フェニルアラニン、トリフロウリルフェニルアラニン(triflourylphenylalanine)。
【0096】
一実施形態において、PPは、αs1(59-79)[1]、β(1-25)[2]、αs2(46-70)[3]及びαs2(1-21)[4]からなる群から選択される1種類以上のポリペプチドである:
[1]Gln59-Met-Glu-Ala-Glu-Ser(P)-Ile-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ile-Val-Pro-Asn-Ser(P)-Val-Glu-Gln-Lys79 αs1(59-79)
[2]Arg1-Glu-Leu-Glu-Glu-Leu-Asn-Val-Pro-Gly-Glu-Ile-Val-Glu-Ser(P)-Leu-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ser-Ile-Thr-Arg25 β(1-25)
[3]Asn46-Ala-Asn-Glu-Glu-Glu-Tyr-Ser-Ile-Gly-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ser(P)-Ala-Glu-Val-Ala-Thr-Glu-Glu-Val-Lys70 αs2(46-70)
[4]Lys1-Asn-Thr-Met-Glu-His-Val-Ser(P)-Ser(P)-Ser(P)-Glu-Glu-Ser-Ile-Ile-Ser(P)-Gln-Glu-Thr-Tyr-Lys21 αs2(1-21)。
【0097】
本発明の別の一実施形態において、安定化ACP及び/又は安定化ACFP複合体は、歯肉炎又は歯周炎の予防及び/又は治療を促進するための練り歯磨き、マウスウォッシュ、又は口用配合物などの口腔用組成物中に混入される。歯の表面上に層を形成するのに十分な量の安定化ACP及び/又はACFPを含む口腔用組成物、好ましくは、この層はカルシウム:ホスフェートの比が通常のアパタイトと同じであり、たとえばこの比は約2:1である。この層は、約20重量%の量のカルシウムを含有することができる。安定化ACP及び/又はACFP複合体は、組成物の0.01~50重量%、好ましくは組成物の1.0~50重量%、好ましくは1.0~30重量%、好ましくは1.0~20重量%、好ましくは1.0~10重量%、好ましくは2~10重量%を構成することができる。特に好ましい一実施形態において、本発明の口腔用組成物は、約2%の安定化ACP若しくはACFP複合体、又はそれら両方の混合物を含有する。上記物質を含有する本発明の口腔用組成物は、練り歯磨き、歯磨き粉、及び液体歯磨きなどの歯磨き剤、マウスウォッシュ、マウスリンス、マウススプレー、バーニッシュ、歯科用セメント、トローチ、チューインガム、歯科用軟膏、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、乳製品、及びその他の食品などの口に使用可能な種々の形態で調製し使用することができる。本発明による口腔用組成物は、個別の口腔用組成物の種類及び形態によって、さらなる周知の成分を含むことができる。練り歯磨き、歯磨き粉及び液体歯磨き、マウスウォッシュ、マウスリンス、及びマウススプレーなどの本発明の特定の組成物は、比較的低い粘度を有し、口腔内での短い滞留時間で治療または予防に好ましい効果を有する。
【0098】
本発明の特定の好ましい形態において、口腔用組成物は、マウスウォッシュ、リンス、又はスプレーなどの実質的に液体の性質であってよい。このような調製物においては、ビヒクルは、典型的には、後述のような湿潤剤を望ましくは含む水-アルコール混合物である。一般に、水対アルコールの重量比は約1:1~約20:1の範囲内である。この種類の調製物中の水-アルコール混合物の総量は、典型的には調製物の約70~約99.9重量%の範囲内である。アルコールは典型的にはエタノール又はイソプロパノールである。エタノールが好ましい。
【0099】
本発明の別の望ましい形態においては、組成物は、歯磨き粉、デンタルタブレット、又は練り歯磨き(歯磨きクリーム)、又はゲル歯磨き剤などの実質的に固体又はペースト状の性質であってよい。このような固体又はペースト状の口腔用調製物のビヒクルは、一般に、歯科的に許容される研磨材料を含有する。研磨材料の例は、水不溶性メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、二水和リン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ水和物、焼成アルミナ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、シリカ、ベントナイト、及びそれらの混合物である。別の好適な研磨材料としては、メラミン-ホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、及び尿素-ホルムアルデヒドなどの粒子状熱硬化性樹脂、並びに架橋ポリエポキシド及びポリエステルが挙げられる。好ましい研磨材料としては、粒度が最大約5ミクロンであり、平均粒度が最大約1.1ミクロンであり、表面積が最大約50,000cm2/gである結晶シリカ、シリカゲル又はコロイダルシリカ、並びに複合非晶質アルカリ金属アルミノケイ酸塩が挙げられる。
【0100】
視覚的に透明のゲルが使用される場合、SYLOIDの商標でSyloid 72及びSyloid 74として、又はSANTOCELの商標でSantocel 100として販売されるものなどのコロイダルシリカの研磨剤、アルカリ金属アルミノケイ酸塩複合材料が、歯磨き剤中に一般に使用されるゲル化剤-液体(水及び/又は湿潤剤を含む)系の屈折率に近い屈折率を有するので、特に有用である。
【0101】
いわゆる「水不溶性」研磨材料の多くはアニオン性であり、少量の可溶性材料も含む。たとえば、不溶性メタリン酸ナトリウムは、たとえばThorpe’s Dictionary of Applied Chemistry,Volume 9,4th Edition,pp.510-511に示されるようなあらゆる好適な方法で形成することができる。Madrell塩及びKurrol塩として知られる不溶性メタリン酸ナトリウムの形態は、好適な材料のさらなる例となる。これらのメタリン酸塩は、水に対する溶解性がごくわずかであり、したがって一般に不溶性メタリン酸塩(IMP)と呼ばれる。これらの中には、不純物として少量の可溶性ホスフェート材料が存在し、通常は最大4重量%などの数パーセントで存在する。希望するなら、可溶性ホスフェート材料(不溶性メタリン酸塩の場合には可溶性トリメタリン酸ナトリウムを含むと考えられる)の量は、水で洗浄することによって減少させたり除去したりすることができる。不溶性アルカリ金属メタリン酸塩は、典型的には、1%以下の材料が37ミクロンを超えるような粒度の粉末形態で使用される。
【0102】
一般に研磨材料は、固体又はペースト状の組成物中に約10%~約99%の重量濃度で存在する。好ましくは、練り歯磨き中に約10%~約75%の量で存在し、歯磨き粉中に約70%~約99%の量で存在する。練り歯磨き中、研磨材料がケイ質である場合、その研磨材料は一般に約10~30重量%の量で存在する。別の研磨材料は典型的には約30~75重量%の量で存在する。
【0103】
練り歯磨き中、液体ビヒクルは、典型的には調製物の約10重量%~約80重量%の範囲の量の水及び湿潤剤を含むことができる。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、及びポリプロピレングリコールが好適な湿潤剤/担体の例である。水、グリセリン、及びソルビトールの液体混合物も好都合となる。屈折率が重要な問題となる透明ゲルでは、約2.5~30%w/wの水、0~約70%w/wのグリセリン、及び約20~80%w/wのソルビトールが好ましくは使用される。
【0104】
練り歯磨き、クリーム、及びゲルは、典型的には、天然又は合成の増粘剤又はゲル化剤を約0.1~約10、好ましくは約0.5~約5%w/wの比率で含有する。好適な増粘剤は、合成ヘクトライトであり、たとえばLaporte Industries Limitedより販売されるLaponite(たとえばCP、SP 2002、D)として入手可能な合成コロイド状マグネシウムアルカリ金属ケイ酸塩複合クレイである。Laponite Dは、おおよその重量基準で58.00%のSiO2、25.40%のMgO、3.05%のNa2O、0.98%のLi2O、及びある程度の水、及び微量の金属である。この真比重は2.53であり、8%の水分において1.0g/mlの見掛けのかさ密度を有する。
【0105】
別の好適な増粘剤としては、アイルランドゴケ、イオタカラギーナン、トラガカントゴム、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(たとえばNatrosolとして入手可能)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及び微粉砕Syloid(たとえば244)などのコロイダルシリカが挙げられる。保湿性ポリオール、たとえばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、及びヘキシレングリコール、セロソルブ、たとえばメチルセロソルブ及びエチルセロソルブ、直鎖中に少なくとも約12個の炭素を含有する植物油及び蝋、たとえばオリーブ油、ヒマシ油、及びペテロラタム、並びにエステル、たとえば酢酸アミル、酢酸エチル、及び安息香酸ベンジルなどの可溶化剤も含むことができる。
【0106】
従来通り、口腔用調製物は、通常、好適な表示付き包装材料で販売又はその他の方法で配布されることは理解されよう。したがって、マウスリンスの瓶は、実質的にそれがマウスリンス又はマウスウォッシュであることが記載され、その使用法が記載された表示を有し、練り歯磨き、クリーム、又はゲルは、通常、実質的にそれが練り歯磨き、ゲル又は歯磨きクリームであることが記載された表示を有する、典型的にはアルミニウム、ライニングされた鉛、若しくはプラスチックの折りたたみ可能なチューブ中、又はその他の内容物を計量供給するための圧搾式、圧送式、若しくは加圧式のディスペンサー中に存在する。
【0107】
予防作用を増加させ、口腔全体への有効物質の徹底的で完全な分散を促進し、本発明の組成物をより化粧品的に許容されるようにするために、有機界面活性物質を本発明の組成物中に使用することができる。有機界面活性材料は、好ましくはアニオン性、非イオン性、又は両性であり、好ましくは有効物質と相互作用しない。組成物に洗浄性及び発泡性を付与する洗浄材料を界面活性物質として使用することが好ましい。アニオン性界面活性剤の好適な例は、高級脂肪酸モノグリセリドモノサルフェートの水溶性塩、たとえば水素化ヤシ油脂肪酸の一硫酸化モノグリセリドのナトリウム塩、高級アルキルサルフェート、たとえばラウリル硫酸ナトリウム、アルキルアリールサルフェート、たとえばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、高級アルキルスルホアセテート、1,2-ジヒドロキシプロパンスルホネートの高級脂肪酸エステル、並びに脂肪酸、アルキル基、又はアシル基中に12~16個の炭素を有するものなどの低級脂肪族アミノカルボン酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミドなどである。最後に記載のアミドの例は、N-ラウロイルサルコシン、並びにN-ラウロイル、N-ミリストイル、又はN-パルミトイルサルコシンのナトリウム塩、カリウム塩、及びエタノールアミン塩であり、これらはセッケン及び類似の高級脂肪酸材料を実質的に有するべきではない。本発明の口腔用組成物中でのこれらのサルコナイト(sarconite)化合物の使用は、酸溶液に対する歯のエナメル質の溶解性をある程度低下させることに加えて炭水化物を分解するために、これらの材料が口腔内の酸形成の阻害において長期間顕著な効果を示すので、特に好都合である。使用に好適な水溶性非イオン性界面活性剤の例は、エチレンオキシドと、エチレンオキシドに対して反応性であり長い疎水性鎖(たとえば約12~20個の炭素原子の脂肪族鎖)を有する種々の反応性水素含有化合物との縮合生成物であり、これらの縮合生成物(「エトキサマー」(ethoxamers))は親水性ポリオキシエチレン部分を含有し、たとえば、ポリ(エチレンオキシド)と、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪アミド、多価アルコール(たとえばソルビタンモノステアレート)、及びポリプロピレンオキシド(たとえばPluronic材料)との縮合生成物である。
【0108】
界面活性剤は、典型的には約0.1~5重量%の量で存在する。界面活性剤は、本発明の有効物質の溶解を促進し、それによって必要な可溶化湿潤剤の量を減少させることができることに注目すべきである。
【0109】
ホワイトニング剤、保存剤、シリコーン類、クロロフィル化合物、及び/又はアンモニア化材料、たとえば尿素、リン酸二アンモニウム、及びそれらの混合物などの種々の他の材料を本発明の口腔用調製物中に混入することができる。これらの補助剤が存在する場合は、望ましい性質及び特性に実質的に悪影響を与えない量で調製物中に混入される。
【0110】
任意の好適な着香又は甘味材料を使用することもできる。好適な着香成分の例は、香味油、たとえばスペアミント油、ペパーミント油、ウインターグリーン油、サッサフラス油、丁子油、セージ油、ユーカリ油、マヨラナ油、桂皮油、レモン油、及びオレンジ油、並びにサリチル酸メチルである。好適な甘味剤としては、スクロース、ラクトース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、シクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン、AMP(アスパルチルフェニルアラニンメチルエステル)、サッカリンなどが挙げられる。好適には、着香剤及び甘味剤は、それぞれ又は合わせたものが、調製物の約0.1%~5%超を構成しうる。
【0111】
本発明の組成物は、たとえば温かいガムベース中で撹拌することによって、又はガムベースの外面にコーティングすることによって、ロゼンジ中、又はチューインガム若しくは他の製品中に混入することもでき、ガムベースの例は、ジェルトン、ゴムラテックス、ビニライト樹脂などであり、望ましくは従来の可塑剤又は軟化剤、糖又は別の甘味料、又はグルコース、ソルビトールなどを有する。本発明の組成物は、各相が異なる時間にわたって成分を放出することができる二重相組成物であってよい。
【0112】
別の組成物は、安定化ACP又はACFPと第一スズ化合物とを提供する組成物であって、口腔などのその場で、第一スズが会合した安定化ACP又はACFPを形成する組成物であってよい。代表的な組成物は、ペレット中に安定化ACP又はACFPを含有し、中央のガム中に第一スズ化合物を含有するチューインガムであってよい。
【0113】
さらなる一態様において、本発明は、前述のような安定化ACP又はACFP複合体のいずれかとともに、溶液のpHの上昇又は維持が可能な化合物と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を含む組成物を提供する。このような組成物は、歯科用の抗齲蝕組成物及び治療用組成物からなる群から選択することができる。歯科用組成物又は治療用組成物は、ゲル、液体、固体、粉末、クリーム、又はロゼンジの形態であってよい。治療用組成物は錠剤又はカプセルの形態であってもよい。一実施形態において、安定化ACP又はACFP複合体は、そのような組成物の実質的に唯一の有効成分である。たとえば、水、グリセロール、CPP-ACP/SnF2、D-ソルビトール、二酸化ケイ素、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、プロピレングリコール、二酸化チタン、キシリトール、リン酸、グアーガム、サッカリンナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、酸化マグネシウム、pヒドロキシ安息香酸ブチル、及びp-ヒドロキシ安息香酸プロピルを含有するクリーム配合物を使用することができる。
【0114】
本発明は、提供された前述の配合物とともに、齲蝕又は齲歯、歯牙酸蝕症及びフッ素症、象牙質知覚過敏、歯垢、歯肉炎又は歯周炎のいずれか1つ以上の治療又は予防使用にするためのその使用説明書をさらに含む。
【0115】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、リン酸緩衝液及び/又はカルシウムキレーターを含まない。たとえば、本明細書に記載のいずれかの歯磨き剤は、リン酸緩衝液及び/又はカルシウムキレーターを含まなくてよい。
【0116】
本発明の一実施形態において、組成物が提供され、この組成物はリン酸緩衝液及び/又はカルシウムキレーターを含まない。
【0117】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、粘度調節剤を含まない、又は0.5~50%の粘度調節剤を含まない。
【0118】
別の一実施形態において、本明細書に記載の本発明の組成物は、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを含まない、又は0.7~1.0のエステル化度を有する0.01~10%のナトリウムカルボキシメチルセルロースを含まない。
【0119】
一実施形態において、組成物の有効成分は、安定化ACP又はACFP複合体から本質的になる。
【0120】
本明細書は、特に人間に対する用途に言及しているが、本発明は獣医学的目的にも有用であることは明らかに理解されよう。したがってすべての態様において、本発明は、ウシ、ヒツジ、ウマ、及び家禽などの家畜、ネコ及びイヌなどのコンパニオンアニマル、並びに動物園の動物に有用である。
【0121】
石灰化組成物の一例は、(比率が小さくなる順序で)以下のものを含む:
水
グリセロール
CPP-ACP/SnF2
D-ソルビトール
二酸化ケイ素
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)
プロピレングリコール
二酸化チタン
キシリトール
リン酸
グアーガム
サッカリンナトリウム
p-ヒドロキシ安息香酸エチル
酸化マグネシウム
p-ヒドロキシ安息香酸ブチル
p-ヒドロキシ安息香酸プロピル
【0122】
本発明は、安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を含むキットであって、上記方法における使用に適合させた前記キットも提供する。
【0123】
このキットは:
-安定化非晶質リン酸カルシウム(ACP)及び/又は安定化非晶質フッ化リン酸カルシウム(ACFP)を含む組成物を収容する容器;
-使用説明書を有するラベル又は添付文書
を含むことができる。
【0124】
ある実施形態においては、キットは、疾患又は症状の処置のための1つ以上のさらなる有効成分又は成分をさらに含むことができる。
【0125】
キットは、容器と、容器上又は容器に関連するラベル又は添付文書とを含むことができる。好適な容器としては、たとえば、瓶、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなどの種々の材料から形成することができる。容器は、症状の処置に有効な治療組成物を収容し、容器は滅菌アクセスポートを有することができる(たとえば容器は、静脈注射溶液バッグ、又は皮下注射針を突き刺すことができるストッパーを有するバイアルであってよい)。ラベル又は添付文書には、治療組成物が、選択された症状を処置するために使用されることが示されている。一実施形態においては、ラベル又は添付文書は、使用説明書を含み、治療組成物を特定の疾患又は症状の処置のために使用できることが示されている。
【0126】
キットは、(a)治療組成物と;(b)第2の有効成分又は成分が中に収容された第2の容器とを含むことができる。本発明のこの実施形態におけるキットは、組成物及び別の有効成分を本明細書に記載のような障害若しくは症状の処置、又はディバイオシス(dybiosis)に起因する合併症の防止に使用できることを示す添付文書をさらに含むことができる。これとは別に、又はこれに加えて、キットは、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝食塩水、リンガー溶液、及びデキストロース溶液などの薬学的に許容される緩衝剤を含む第2(又は第3)の容器をさらに含むことができる。これは、別の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジなどの商業的及び使用者の観点から望ましい別の材料をさらに含むことができる。
【0127】
これより本発明は、以下の非限定的な例を参照しながらさらに記載される。
【実施例】
【0128】
実施例1
臨床研究:歯肉縁上歯垢及び口腔の健康に対するCPP-ACPのプレバイオティクス効果
研究の目的
第1の目的
それぞれ14日にわたる通常の口腔衛生手順とともに、56.4mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、18.8mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、及びガムを噛まないことの、上顎大臼歯上に形成された歯肉縁上歯垢の微生物組成に対する効果を比較すること。
【0129】
第2の目的
A.それぞれ14日にわたる通常の口腔衛生手順とともに、56.4mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、18.8mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、及びガムを噛まないことの、歯肉縁上歯垢の形成に対する効果を比較すること。
B.それぞれ14日にわたる通常の口腔衛生手順とともに、56.4mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、18.8mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、及びガムを噛まないことの、歯肉炎の発症に対する効果を比較すること。
【0130】
人間倫理的承認
この研究を開始する前にUniversity of Melbourne Human Research Ethics Committeeから人間倫理的承認を得た。全ての参加者には、この研究を開始する前に書面によるインフォームドコンセントの提出を要求した。
【0131】
研究計画
研究デザイン
この評価者盲検無作為化比較臨床試験では、14日にわたって、56.4mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、18.8mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを噛むこと、及びガムを噛まないことの、歯肉縁上歯垢の形成及び組成の変化、並びに歯肉炎の発症に対する効果を通常の口腔衛生手順の存在下で評価するために、3つの処置、3つの期間の交叉デザインを使用した。参加者は、それぞれの処置期間が14日を含む3つの処置の1つを無作為に割り当てた。3つの処置は以下の通りであった:
A.56.4mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを、20分間、1日当たり6回、連続する14日間噛む;
B.18.8mgのCPP-ACPを含む無糖ガムを、20分間、1日当たり6回、連続する14日間噛む;
C.ガムを噛まない。
【0132】
処置期間中、各被験者は、フッ化物練り歯磨き(供給される)及び歯ブラシ(供給される)を用いて1日2回ブラッシングを行うことからなる口腔衛生作業を続けた。ガム製品を噛む参加者には、抗菌性のミント菓子、ロゼンジ、フィルム、及び他の研究されないチューインガムを処置期間中に摂取しないように要求した。同様に、処置期間中のガムを噛まない参加者には、抗菌性のミント菓子、ロゼンジ、フィルム、及び他の研究されないチューインガムを処置期間中に摂取しないように要求した。
【0133】
参加者の所在
参加者は、University of MelbourneのMelbourne Dental School及びMelbourne Dental Clinicのスタッフから募集した。全ての研究参加者は、参加前に署名したインフォームドコンセントを提出した。
【0134】
参加者の選択基準
採用基準:
この研究への参加に適切となるためには、個体は以下の基準の全てに適合した:
1.インフォームドコンセントフォームを理解することができ、読んで署名する意欲及び能力を有すること。
2.年齢範囲:18~55歳。
3.良好な全体的健康。
4.最小で20本の本来の歯。
5.ガムで刺激された全唾液流量≧1.0ml/分及び刺激なしの全唾液流量≧0.2ml/分。
6.全ての研究手順に従う意欲があり、研究期間に対応できること。
【0135】
除外基準:
無作為化の時点で以下の除外基準のいずれかを示す個体は研究対象としなかった:
1.乳タンパク質又はガム製品中の他の成分に対するアレルギー。
2.歯列矯正装置又は可撤性義歯。
3.ベニア、又は補綴歯冠を有する2本以上の切歯。
4.肉眼的口腔病変(歯周病(CPITN≧3)及び口腔軟組織若しくは硬組織の腫瘍を含む)。
5.随伴口腔症状を発現する慢性疾患(たとえば、糖尿病[管理水準は無関係]、ヒト免疫不全症ウイルス感染又は後天性免疫不全症候群、歯肉増殖症に関連する薬物の使用)。
6.未修復の象牙質齲蝕。
7.研究開始前の月の抗生物質又は抗炎症薬物を用いた治療。
8.試験薬物と相互作用しうる薬物を用いた併用薬物療法。
9.侵襲性歯科処置前に抗生物質被覆を必要とする症状歴。
10.妊娠/授乳期。
【0136】
試験製品
試験製品の説明
各参加者を以下の3つの処置の1つに無作為に割り当てた:
A.56.4mgのCPP-ACPを含む無糖チューインガムを20分間、1日当たり6回、連続する14日間;
B.18.8mgのCPP-ACPを含む無糖チューインガムを20分間、1日6回、連続する1日間;
C.ガムを噛まない。
【0137】
分配方法
各区間の開始時に、参加者には、その期間で割り当てられた処置を含むパッケージ、フッ化物練り歯磨きのチューブ、及び歯ブラシを支給した。各処置期間の終了時に、14日の評価に参加した場合、参加者はすべての未使用のガム及び全ての使用したガムの包み紙を返却した。分配され返却されたガムの量を記録した。
【0138】
投与の方法及びタイミング
ガム試験製品を割り当てる場合、参加者は、20分間、1日当たり6回、連続する14日間に、朝食後、モーニングティー後、昼食後、アフターヌーンティー後、夕食後、及び就寝前の時点で、割り当てられたガムを噛んだ。
【0139】
無作為化及び盲検化の方法
6つすべての処置の組合せ(ABC、ACB、BAC、BCA、CAB、CBA)が同等の可能性となるように、ブロック無作為化計画を作成した。
【0140】
この研究は評価者盲検であった。この研究全体にわたって、歯垢試料を処理する臨床検査員及び研究室スタッフは、どの処置群が参加者に割り当てられたかを知らなかった。チューインガムは同一のコード化されたパッケージ中に入れられたので、参加者及び研究員は、どのチューインガムが割り当てられたかも知らなかった。参加者はある処置期間中にはガムを噛まなかったので、参加者に処置の割り当てを完全に隠すことは不可能であった。潜在的バイアスを最小限にするため、試験材料の分配又はそれらの使用を管理する人員は、参加者の検査又は歯垢試料の分析に関与しなかった。
【0141】
いずれの分析にも関与しなかった研究員が、コード識別のマスターリストを保管した。
【0142】
参加者の処置への割り当て:基礎調査に従って、参加者に参加者番号を割り当てた。参加者には、3つの処置の1つを無作為に割り当てた。並行研究の処置の番号のための標準無作為化表から無作為化を行った。
【0143】
処置期間
3つの処置期間のそれぞれは、連続する14日間であった。処置期間は14日のウォッシュアウト期間によって分離された。
【0144】
付随する手順
参加者には、供給されたフッ化物練り歯磨き及び歯ブラシを用いて1日に2回歯を磨き続けるように指示した。参加者には、それぞれ14日の処置期間の間、洗口(水を使用するものを除く);デンタルフロスの使用;他の口腔衛生用具の使用;抗菌性のミント菓子、ロゼンジ、フィルム、及び他の研究されないチューインガムの消費を控えるように指示した。
【0145】
測定及び観察
有効性評価項目
臨床検査
処置期間の開始時及び終了時に、参加者の歯肉炎及び歯垢の検査を行い、上顎大臼歯の頬面から歯肉縁上歯垢を収集した。検査及び歯肉縁上歯垢の収集の終了後、参加者に対して、全ての歯の歯肉縁上スケーリング、清掃、及び予防を行った。区間3の最後の検査の終了後、各参加者に対して、専門家によるフッ化物処置を行った。
【0146】
歯垢及び歯肉炎の測定
Turesky modification of the Quigley-Hein Index(Turesky et al 1970 J Periodontol 41(1):41-43)を用いて歯肉縁上歯垢を評価した。この指数は、歯垢で覆われた歯の領域の信頼できる推定量として認識されており、歯垢防止剤の評価に頻繁に使用されている。プラークインデックスは、それぞれの歯のスコアを足し合わせ、検査した表面の数で割ることによって求めた。第三大臼歯を除いた全ての歯の未修復の唇面、頬面、及び舌面に関連する歯垢スコアを評価した。各面に0~5のスコアを割り当てた。
【0147】
歯肉炎は、改良歯肉炎指数[Lobene et al 1986]を用いて測定した。この指数は、Loee及びSilnessの歯肉炎指数の改良であり、軽度及び中等度の歯肉炎をより十分に識別可能である。この研究においては、0~4のスケールの歯肉の炎症は、全ての歯の4つの部位(頬面、舌面、近心、及び遠心)に関連する歯肉組織についてスコアをつけた。
【0148】
歯肉縁上歯垢の収集
滅菌したスケーリング器具を用いて、参加者の上顎大臼歯(17、16、26、及び27番の歯)の頬面から全ての歯肉縁上歯垢を収集した。それぞれの歯から得た歯垢試料は、別個の滅菌管中に入れて、参加者1人当たり4つの試料を得た。
【0149】
各参加者から収集した歯垢の各容器に1枚のラベルを貼り付けた。このラベルは以下の情報を含んだ:
・参加者番号
・処置コード(A、B、又はC)
・歯(17、16、26又は27)
・処置期間(区間1、区間2、又は区間3)
・時間(0又は14日)。
【0150】
各参加者から得た4つの試料のそれぞれの歯垢塊を記録することで、DNA抽出手順の標準化が可能となった(試料1つ当たり0.2mgがDNA抽出に必要であった)。ホモジナイズした歯垢試料は必要となるまで-80℃で保管した。
【0151】
歯垢の微生物分析
Precellysホモジナイザーによる細胞の機械的破壊と、PowerLyzer PowerSoil DNA Isolation Kit(MoBio)によるゲノムDNAの化学的抽出及び精製との組合せを用いて、歯垢からゲノムDNAを抽出した。Qubit dsDNA High Sensitivity Assayキット(ThermoFisher)を用いて抽出したDNAの定量を行い、次に5ngのDNAをPCR反応のテンプレートとして使用して、16SリボゾームRNA遺伝子のV4可変領域を増幅し、各試料のPCR産物に個別にバーコードを付けた。次に、Ion Torrent Personal Genome装置及びTorrent SuiteTM Software(ThermoFisher)を用いて、バーコードを付けたDNAの配列を決定した。
【0152】
結果として得られる16SリボソームRNA遺伝子の配列の分析によって、各試料中に存在する細菌集団を種のレベルまで同定することができた。Torrent SuiteTM Softwareを用いて作成されたBAMファイルをIon TorrentからローカルのIon Reporterサーバーに転送し、そこでIon Reporter Software 16Sメタゲノミクスワークフローを使用し、プレミアムキュレーテッド(premium curated)MicroSEQ(商標)ID 16S rRNA参照データベース及びキュレーテッド(curated)Greengenesデータベースの両方を用いて、属又は種のレベルで、複合多菌性試料中に存在する微生物を同定した。データはMicrosoft Excel中で照合した。
【0153】
統計的方法
試料サイズの決定
以下の表1は、1.5%、2.0%、2.5%、及び3.0%のS.サングイニス(S.sanguinis)の存在度の平均の差、3.5%~5.5%の範囲の標準偏差、並びに80%の検定力の各群の推定試料サイズを示している。これは両側t検定及びα=0.05を想定している。試料サイズの計算に使用した平均及び標準偏差の範囲は、以前の予備的研究に基づいた。
【0154】
【0155】
表2 表2は、研究のフォローアップ期間中に10%のパーセント損耗率が可能となる各群の推定サイズを示している。
【0156】
【0157】
4.5%の標準偏差及び10%のパーセント損耗率を仮定すると、18人の参加者の試料を採用することで、3.5%のS.サングイニス(S.sanguinis)の存在度の平均の差を80パーセントの検定力で検出可能となった。
【0158】
統計的概論
無作為化及び盲検化
それぞれに1つのコードを有するラベルを付けたことを除けば同一の包装で2つのチューインガムを供給した。それぞれのチューインガムは同様の外観であった。全ての統計分析が終了するまで、コードは公開しなかった。
【0159】
参加者へのIDの割り当ては、各参加者が参加基準を満たした後に順次行った。
【0160】
この研究は評価者盲検であった。この研究全体にわたって、歯垢試料を処理する歯科検査員及び研究室スタッフは、どの処置群が参加者に割り当てられたかを知らなかった。チューインガムは同一のコード化されたパッケージ中に入れられたので、参加者及び研究員は、どのチューインガムが割り当てられたかも知らなかった。参加者はある処置期間中にガムを噛まなかったので、参加者に処置の割り当てを完全に隠すことは不可能であった。全ての参加者がこの研究を完了した。
【0161】
遵守基準:製品使用の参加者の日誌を調査し、残存する臨床用品を記録することによって遵守を判断した。
【0162】
人口統計学及び基本特性の統計分析
一次分析の組は、重大なプロトコル違反をすることなく試験を終了した全ての参加者であった。
【0163】
記述統計結果(平均、標準偏差、及び範囲)を、全ての連続変数、及び全ての順序変数の度数で計算した。全ての統計的検定は両側であり、α=0.05の有意水準を使用した。全ての分析は統計パッケージのStata(StataCorp LP,College Station,TX,USA)統計ソフトウェアを用いて行った。
【0164】
有効性データの統計分析
各試料で得られたそれぞれの16S rDNA配列を、存在する微生物系統の分類(種レベルの分類群として分類される)と、各分類群の存在度の測定との両方に使用した。経時による細菌集団の相違を、各個体の相対分類群存在度の変化の測定によって求めた。
【0165】
これによって、歯垢の細菌組成に対するCPP-ACPの効果を比較することができた。各個体から得た4つの試料によって、歯垢の細菌組成における被験者内でのばらつきを求めることができた。
【0166】
結果
全ての被験者がこの研究を終了し、プロトコルを遵守したと思われた。有害事象の報告はなかった。CPP-ACPを用いた処置では、参加者のプラークインデックスに有意な変化は生じなかった(
図1)。CPP-ACPはプラークインデックスに影響を与えなかったが、細菌組成には有意な影響があり、片利共生生物/有益共生生物の比率を増加させる実質的なプレバイオティクス効果が示された。
【0167】
全体として、300を超える異なる細菌分類群が54つの試料から同定された。歯肉縁上歯垢の細菌組成を複数の処置群にわたって調べると、CPP-ACP処置区間を無処置と比較した場合に有意な変化が存在することが明らかとなった。18.8mgのCPP-ACPによって、以下の細菌分類群の比率の統計的に有意な増加が得られた:コリネバクテリウム・デュルム(Corynebacterium durum)(80%増加);ロシア・デントカリオーサ(Rothia dentocariosa)(127%増加);ストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)(55%増加)、及びストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)(112%増加)(表3)。これら全ての種は、宿主に対して有益となることが知られている酵素系[アルギニンデイミナーゼ及び/又は硝酸レダクターゼ]の一方又は両方を有するので、現在では有益な共生生物であると見なされている。片利共生/有益種のこれらの有意な増加は、56.4mgのCPP-ACP用量の場合に増加がはるかに大きくなったので、CPP-ACP用量と関連があった。有益種の増加は、病原性種(病原性共生生物)の比率の付随する低下と関連した。この有益共生生物の存在度の増加は、歯肉炎指数のCPP-ACP用量に関連する有意な改善(
図2)によって示されるように、歯肉の健康の構造も反映した。
【0168】
【0169】
【0170】
結論として、この無作為化され制御された臨床研究によって、CPP-ACP処置によって、健康に関連する共生生物の比率の有意な増加が得られることが実証され、口腔の健康の改善によって、CPP-ACPがプレバイオティクス的であることが示された。
【0171】
実施例2
SnF2は多菌性モデル中のCPP-ACPプレバイオシスを促進する
多種口腔バイオフィルムの培養
歯肉縁上歯垢をモデル化するために、6つの代表的な口腔細菌種のストレプトコッカス・サングイニス(Streptococcus sanguinis)(NCTC 7863)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)Ingbritt、アクチノミセス・ネスルンディ(Actinomyces naeslundii)(NCTC 10301)、ベイロネラ・パルブーラ(Veillonella parvula)(ATCC 17745)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)(NCDO 161)、及びフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)(ATCC 10953)(表5)をヒトエナメル質下層上の多菌性バイオフィルムとして、一定深さフィルムファーメンター(CDFF;Cardiff University,UK)中で培養した。このCDFFは、N2中5%のCO2の1L/hにおける一定流によって維持された嫌気性条件下の37℃インキュベーター中に収容した。このCDFFは、3rpmの一定速度で回転する円形プラットフォーム上に15の取り外し可能なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)パンを含んだ。人工唾液媒体(ASM、2.5g/LのムチンII型(ブタ胃、Sigma)、2.0g/Lの細菌ペプトン(Oxoid)、2.0g/Lのトリプトン(Oxoid)、1.0g/Lの酵母抽出物(Oxoid)、0.35g/LのNaCl、0.2g/LのKCl、0.2mg/LのビタミンK、1mg/Lのヘミン、及び0.1g/Lのシステイン塩酸塩)を30mL/hの一定流量で用いて各PTFEパン中の3つのエナメル質ブロック(以下参照)上でバイオフィルムを増殖させた。接種前に、CDFFのパンの表面を10mL/hの流量のASMで24時間コンディショニングした(McBain et al(2003)J Appl Microbiol.94(4):655-66)。食事の糖類の摂取に伴う口腔内のインビボ細菌増殖条件を模倣し、高齲蝕原性攻撃を提供するために、ASM中1%(w/v)のスクロース溶液をCDFF中に、4時間間隔で1日4回、30mL/hの流量で10分間圧送した。
【0172】
【0173】
SnF2として220ppmのフッ化物及びNaFとして70ppmのフッ化物を含む290ppmのフッ化物(SnF2と記載される)、2%のCPP-ACP、並びに2%のCPP-ACP-SnF2の3つの処理を多菌性バイオフィルムに対して行った。これらの処理を、試験溶液をASMで置き換えた対照と比較した。各処理は、30mL/hの流量でのASM中への試験溶液の10分間のパルスを2回用いて行った。朝の第1のスクロースパルスの30分前に第1のパルスを開始し、第2はその日の最終スクロースパルスの3時間30分後に開始した。
【0174】
接種後の第6日、第12日、及び第19日に、4つのパンをCDFFから無菌的に取り出し、何も入っていない滅菌パンと交換した。細菌計数及び横方向のマイクロラジオグラフィのために、パンからエナメル質ブロックを取り出した。
【0175】
エナメル質ブロックの作成
抜歯された360本のヒト第三大臼歯をUniversity of Melbourneの倫理承認下(HREC #1237616)で入手し、4.1kGyのガンマ線を照射することによって滅菌した。水冷ダイヤモンドブレードソー(Minitom、Struers)を用いて歯から約6×3×3mmの寸法のエナメル質ブロックを切り出し、1200、2400、4000グリッドのラップ仕上げ紙(Struers)と、3及び1μmのダイヤモンド研磨ペースト(Struers)とを有するRotoPol/RotoForceラップ装置を用いて研磨した。これらのブロックを特別注文のCDFFパンに100μmの深さで配置し、黄色の粘稠ワックス(Kemdent)を用いて所定位置に封入し、4.1kGyのガンマ線を照射することによって滅菌した。
【0176】
試料採取
100μLのASMで軽く洗浄することによってプランクトン様の緩く付着した細菌細胞を、最初にエナメル質ブロックから除去した。各ブロック上のバイオフィルムの細胞を回収するために、1mLのASMとともに滅菌スクレーパーを用いて表面を掻き取った。バイオフィルムの細菌細胞を遠心分離(10,000g、10分)によって沈降させ、上澄みを注意深くデカンテーションし、得られた細胞ペレットは、DNA抽出に必要となるまで-80℃で保管した。次にエナメル質ブロックは、固定及びマイクロラジオグラフィのために使用した。
【0177】
バイオフィルム試料のDNA抽出及び配列決定
各時点で、PowerLyzer(登録商標)PowerSoil(登録商標)DNA Isolation Kit(MoBio Laboratories)を使用し、製造元の“Vacuum Protocol”に従ってPrecellys(登録商標)ビーズホモジナイザー(Bertin Technologies)を用いて、8~9のエナメル質ブロックから別々にDNAを抽出した。Qubit(商標)dsDNA HSアッセイキット(Life Technologies)を用いて試料を定量した後、-80℃で保管した。
【0178】
Ion Amplicon Library Preparation Fusion方法(Thermo Fisher Scientific)を、16S rRNA遺伝子のV4領域の増幅に使用した。5ngのDNA、1倍濃度のQ5反応緩衝液、0.3μMのPAGE精製カスタムバーコード化プライマー(Thermo Fisher Scientific)、0.2mMのdNTP、及び1単位のQ5 Hot Start High-Fidelity DNAポリメラーゼ(Genesearch)が入った50μLの反応容積中でPCRを行った。反応を98℃で3分間維持してDNAを変性させ、続いて98℃で10秒間、48℃で10秒間、及び72℃で15秒間の増幅を17サイクル行った。GAスペーサーと結合領域配列としてのGTGCCAGCMGCCGCGGTとを用いるFusion方法に指定されるように、1~62のバーコードを有するフォワードプライマーを設計した。リバースアダプターと、TCスペーサーと、GGACTACHVGGGTWTCTAAの結合領域配列とからなる1つのリバースプライマーを使用した。
【0179】
Ion Torrent Personal Genome Machineを使用し、Ion OneTouch(商標)2 200 Kit、及び535サイクルまで拡張したIon PGM(商標) Sequencing 200 Kit v2ケミストリー(Thermo Fisher Scientific)を使用して、アンプリコンライブラリの多重配列決定を行った。
【0180】
6つの種のそれぞれの既知の16S V4配列に対してマッピングすることによって、Ion Torrent Softwareを用いて配列決定データを解析した。配列決定深さの差を調節するため、読取値の総数は、読取値の最小発生数までダウンサンプリングすることによって規格化した。
【0181】
共焦点レーザースキャニング顕微鏡法
多菌性バイオフィルムが付着したエナメル質下層をPBS中に浸漬して、培地及び付着していない細菌細胞を洗い流し、次に室温で4%のパラホルムアルデヒド中に浸漬して30分間固定した。次にこれらをPBS中に浸漬して、パラホルムアルデヒドを除去した。インサイチューハイブリダイゼーションの準備において、0.02%の過硫酸アンモニウム及び0.8%のN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を有する20%のアクリルアミド中にバイオフィルムを埋め込み、続いて4℃のPBS中で保管した。
【0182】
以下のカスタマイズされた種特異的プローブを用いて、多菌性バイオフィルムの蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)を行った。5’においてAlexa594で標識されたプローブ配列ACT CCA GAC TTT CCT GACはS.ミュータンス(S.mutans)を検出し、5’においてAlexa405で標識されたAGA CGC AAT CCC CTC CTTはV.ディスパー(V.dispar)を検出し、5’においてAlexa647で標識されたACT CTG CCG ACC ATT CTT CTはL.カゼイ(L.casei)を検出し、5’においてAlexa488で標識されたAGA GAT AGA GTT TCT CTT CGGはS.サンギス(S.sanguis)を検出し、5’においてAlexa405で標識されたCGG TTA TCC AGA AGA AGG GGはA.ネスルンディ(A.naeslundii)を検出し、5’においてAlexa647で標識されたCTA ATG GGA CGC AAA GCT CTCはF.ヌクレアタム(F.nucleatum)を検出した(Thermofisher、Australia)。前述(Zainal-Abidin et al(2012).J Proteome Res.11(9):4449-4464)のように、各プローブ及び10%のホルムアミドを含むハイブリダイゼーション緩衝液を用いて、バイオフィルムを46℃で2.5時間インキュベートした。ハイブリダイズしたバイオフィルムを次に48℃の洗浄緩衝液(0.45MのNaCl、20mMのTris-HCl、5mMのEDTA、0.01%のSDS)中に25分間浸漬し、画像形成の準備を行った。前述(Zainal-Abidin et al(2012).J Proteome Res. 11(9):4449-4464)のようにZeiss Confocal Laser Scanning Microscope上でバイオフィルムを映像化し、COMSTATソフトウェアで分析して、バイオメトリックパラメーターを求めた。
【0183】
走査型電子顕微鏡法
前述(前出のZainal-Abidin et al 2012;Zhu et al(2013)PLoS One.8(8):e71727)のように走査型電子顕微鏡分析のためのバイオフィルム試料を作製した。
【0184】
横方向のマイクロラジオグラフィ
実質的に前述[Shen et al 2011]のように横方向のマイクロラジオグラフィを行った。病変及びその隣の無傷のエナメル質のラジオグラフィ画像をそれぞれ6回スキャンし、平均して、脱灰された濃度測定プロファイル及び対照の無傷のエナメル質濃度測定プロファイルを求め、体積%ミネラル(体積%分)含有量プロファイルを計算した。ミネラル含有量が無傷のエナメル質の値の95%に到達する点までの距離として病変深さ(μm)を求めた。無傷のエナメル質の濃度測定プロファイルと、脱灰したエナメル質の濃度測定プロファイルとの間の領域の台形積分として体積%分・μmの単位でΔZdで表される積分ミネラル損失(IML)を計算した。
【0185】
バイオフィルムイオン分析
実質的に前述[Dashper et al 2005]のようにして誘導結合質量分析によって、多菌性バイオフィルム試料のカルシウム、リン、及びスズの含有量を測定した。
【0186】
統計分析
細菌種及び病変のパラメーターの比較。Q-Qプロットを用いての残差の正規性を調べ、Levene検定を用いて分散の正規性及び等質性のShapiro-Wilk検定を行った。細菌種組成物の残差は、Minitab version 17ソフトウェア(Minitab Inc.State College PA,USA)を用いたBox-Cox変換の後でさえも正規分布に近づかないので、種の比率の差は、3つ以上の独立する試料に対するKruskal-Wallis検定を用いて分析した。Bonferroni補正を用いた事後Wilcoxon順位和検定を用いて、処置間の差を測定した(Sokal and Rohlf(1969).Biometry San Francisco:W.H.Freeman and Co.)。病変パラメーターの差の場合、第6日におけるLDを、事後Tukey検定を用いて測定した対差(pairwise difference)を用いる一方向ANOVAを用いてBox-Cox変換データに対して測定した。第6日におけるΔZd値、及び第12日及び第19日におけるLD及びΔZdの値の両方の差を、Kruskal-Wallis検定及び事後Wilcoxon順位和検定を使用しBonferroni補正を使用して測定した。全ての統計的検定は、SPPS version 22ソフトウェア(IBM SPSS Inc.、IL、USA)を用いて行った。全ての場合で、αは0.05に設定した。
【0187】
結果
多菌性バイオフィルムモデルの開発
16s rRNA遺伝子分析(表5)によって求められるように、多数の6つ全ての細菌種が、多菌接種材料中に存在した。頻繁にスクロースに曝露される人工唾液媒体(ASM)の存在下で増殖させた場合に、接種後に、一定深さフィルムファーメンター(CDFF)の無傷のヒトエナメル質下層上に多菌性バイオフィルムが迅速に形成された。それぞれの時点において対照の4つ全ての生物学的反復試験の多菌性バイオフィルム中で6つ全ての細菌種を検出できたが、F.ヌクレアタム(F.nucleatum)は、存在する全細菌の0.01%を超えなかった。A.ネスルンディ(A.naeslundii)は、第6日の全細菌の2%未満から第19日の全細菌の18%超まで経時により増加した(
図3)。実験の過程でL.カゼイ(L.casei)の比率は大幅に増加し、第19日までには全細菌集団の平均で16%になった。S.サングイニス(S.sanguinis)の比率は、第6日の全バイオフィルム細菌の36%から第19日までの11%未満に低下した。S.ミュータンス(S.mutans)の比率の経時による明確な傾向は見られず、この種は比較的安定なままであったと思われる。S.ミュータンス(S.mutans)は、バイオフィルム中の最も豊富な種であり、全細菌集団の48~64%の間を占めた(
図3)。
【0188】
スクロースパルスを用いた多菌性バイオフィルムにエナメル質ブロックを曝露することによって、最初は無傷のヒトエナメル質下層の脱灰が起こった。無傷の表面層を維持するエナメル質病変が発生し、インビボで見られる早期の齲蝕病変に関連するものと同様であった(
図4)。多菌性バイオフィルムは、走査型電子顕微鏡法で画像化した場合に歯肉縁上歯垢と同様の構造も有した(
図4)。病変形成は、初期遅延期間後に線形的に進行し、第6日から第19日のミネラル損失は225.1体積%分・μm/日の平均一定速度であった(
図4)。第19日において平均病変深さは87.1±8.4μmであり、平均積分ミネラル損失(ΔZd)は3575.6±562.0体積%分・μmであった(表6)。
【0189】
【0190】
多菌性バイオフィルムの組成に対するSnF
2及びCPP-ACPの効果
多菌性バイオフィルムをSnF
2で1日2回処理すると、第19日における対照に対して、A.ネスルンディ(A.naeslundii)の存在度が有意に減少し、S.サングイニス(S.sanguinis)の存在度が増加した(
図5、表7)。多菌性バイオフィルムをCPP-ACPで1日2回処理すると、特に接種後の第19日までに多菌性バイオフィルムの組成のより有意な変化が生じた。S.ミュータンス(S.mutans)及びV.パルブーラ(V.parvula)の比率は依然として比較的一定であったが、L.カゼイ(L.casei)は大幅に低下し、S.サングイニス(S.sanguinis)及びF.ヌクレアタム(F.nucleatum)の両方は対照と比較して有意に増加した(
図5)。相対存在度の最大変化は、L.カゼイ(L.casei)の一貫した>95%の低下であり、一方F.ヌクレアタム(F.nucleatum)は、第19日において355%の最大平均増加を示した(
図5B、表7)。CPP-ACPとSnF
2との組合せによって、多菌性バイオフィルムの細菌組成に対してより顕著な効果が得られた(
図5及び表7)。酸産生性及び耐酸性種のS.ミュータンス(S.mutans)、A.ネスルンディ(A.naeslundii)、及びL.カゼイ(L.casei)、並びにV.パルブーラ(V.parvula)は顕著に減少した。酸感受性種のF.ヌクレアタム(F.nucleatum)は全細菌の34%まで顕著に増加して、多菌性バイオフィルム中の2番目に多い種となり、S.サングイニス(S.sanguinis)も50%だけ存在度が増加した。6つ全ての細菌種は、処理後のバイオフィルム中に常に検出可能であった。4つの細菌種に特異的な染色を用いた、CPP-ACP/SnF
2で処理した多菌性バイオフィルムの共焦点レーザースキャニング顕微鏡法によって、集団の主要構成要素としてのF.ヌクレアタム(F.nucleatum)の出現が確認された(
図5)。
【0191】
【0192】
Bonferroni補正を用いた事後Wilcoxon順位和検定を用いて、Kruskal-Wallis検定を用いて行った複数の処理にわたる全ての比較(全体のp値を参照)及び処理間の対差を測定した。
【0193】
エナメル質脱灰に対するSnF2及びCPP-ACP薬剤の効果
SnF2による多菌性バイオフィルムの処理によって、第6日から第19日の間で脱灰速度が112.1体積%分・μm/日への50.2%の有意な低下を示した(表6)。この低下は、同じ期間にわたる脱灰速度の50.2%の低下(112.1体積%分・μm/日)が得られたCPP-ACP処置と統計的な差はなかった。しかし、SnF2/CPP-ACPの組合せの処理の場合の、64.1体積%分・μm/日への脱灰速度の低下は有意に大きかった(72%)(表6)。バイオフィルムのICP-MS分析では、CPP-ACPをSnF2と併用した場合、カルシウムに関して4倍の増加、リンに関して3倍の増加を示した。興味深いことに、SnF2処理では、カルシウム及びリンの両方が対照に対して2倍に増加した。第一スズ濃度は、SnF2薬剤及びCPP-ACP-SnF2の処理の両方の間で、1.0nmol/mgバイオフィルム湿潤重量がピークであった。しかしこの濃度は、CPP-ACP-SnF2処理を用いるとより早く到達した。
【0194】
考察
CDFF中で1日当たり4回のスクロースパルスを用いて形成された6つの種の細菌性バイオフィルム集団は、より酸産生性及び耐酸性の種、したがって齲蝕原生の種S.ミュータンス(S.mutans)、A.ネスルンディ(A.naeslundii)及びL.カゼイ(L.casei)が優位となり、これらを合わせたものは第19日において多菌性バイオフィルムの85%を構成した。この比率は第6日における55%から増加した。対照バイオフィルム中のA.ネスルンディ(A.naeslundii)及びL.カゼイ(L.casei)の比率のみを調べると、第6日~第19日で全細菌細胞の2.5%から34%まで増加した(
図3)。これは高い酸性及び齲蝕原生の環境を示しており、このことは、低レベルの好中性種F.ヌクレアタム(F.nucleatum)及びこのモデルの迅速で一定で再現性のある脱灰速度(
図4)と一致している。
【0195】
このモデルの再現性が確立されたことで、SnF2(220ppmのF):NaF(70ppmのF)の混合物としての290ppmのフッ化物を1日2回加える効果について研究を行い、これはSnF2/NaFを使用する現行の1450ppmのFの歯磨き剤が唾液中で5倍に希釈されることを示すために選択した。この研究では、SnF2処理中の多菌性バイオフィルムの相対存在度が、A.ネスルンディ(A.naeslundii)は有意に低下し、S.サングイニス(S.sanguinis)は有意に増加した。多菌性バイオフィルム中でSnが最大119ppmの濃度で蓄積した。1日2回の曝露の19日間で、この研究でSnF2によってエナメル質脱灰速度が50%だけ低下し、その主要機序は、再石灰化を促進するFイオンの作用に関連すると考えられる。
【0196】
CPP-ACPの添加によって、脱灰速度の大幅な50%の低下が得られるだけではなく、高酸産生性のL.カゼイ(L.casei)の出現も抑制された。さらに、酸感受性で有益な共生生物のF.ヌクレアタム(F.nucleatum)及びS.サングイニス(S.sanguinis)の存在度の再現性のある増加を示した(
図5、表7)。これは、このモデルにおけるバイオフィルム形成に対して、CPP-ACPがプレバイオティクス効果を有することを示している。
【0197】
CPP-ACP及びSnF2による多菌性バイオフィルムの細菌組成に対する向上したプレバイオティクス効果は、3つ全ての酸産生性及び耐酸性種の存在度の低下によって示された。V.パルブーラ(V.parvula)も低下したが、これは解糖の阻害による乳酸塩の減少を示す可能性があり、F.ヌクレアタム(F.nucleatum)はバイオフィルムの主要構成要素となった。これらの変化は、エナメル質脱灰速度の非常に顕著な72%の抑制と関連しており、これは口腔の健康の顕著な改善につながる。プレバイオシスの促進におけるSnF2及びCPP-ACPの相加効果は、実施例3に示されるように、CPP-ACPに架橋し、プレバイオティクスが多菌性バイオフィルム及び口腔内/歯の表面でより十分に得られる第一スズイオン(Sn2+)の性質によるものであった。
【0198】
本明細書において開示され規定される本発明は、本文又は図面に記載される、又はそれらより明らかとなる個別の特徴の2つ以上のすべての別の組合せまで拡張されると理解されたい。これらすべての異なる組合せは、本発明の種々の別の態様を構成する。