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特許7142945活性膜に基づくATP依存性発電機/アキュムレータ
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  • 特許-活性膜に基づくATP依存性発電機/アキュムレータ 図1
  • 特許-活性膜に基づくATP依存性発電機/アキュムレータ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】活性膜に基づくATP依存性発電機/アキュムレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20220920BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20220920BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20220920BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220920BHJP
   H01M 8/24 20160101ALI20220920BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/18
H01M8/02
H01M4/90 Y
H01M8/24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019559827
(86)(22)【出願日】2017-05-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 IT2017000095
(87)【国際公開番号】W WO2018203352
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】521167729
【氏名又は名称】バイオミメシ エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】シノーポリ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】プグリエーセ,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】チプリアーニ,ダニエレ
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-534384(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0116610(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0196902(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102068916(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 8/18
H01M 14/00
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜に囲まれた内部構造を含む(ATP系)電気化学電池であって、前記内部構造が不活性物質、及び機能性膜により構成される1つの機能表面を含む容器に収容され、前記1つの機能表面がATP-ADPトランスロカーゼを含み、前記内部構造を囲む前記膜がATP-ADPトランスロカーゼ、ファニーチャネル、並びに1つ又は複数の電位開口型ナトリウムチャネル、電位開口型カリウムチャネル及びナトリウム・カリウムポンプを含
前記内部構造を収容する前記膜及び前記容器の1つの前記機能性膜が、単一のリン脂質2重層又は複数の積層されたリン脂質2重層からなる、(ATP系)電気化学電池。
【請求項2】
前記内部構造を収容する前記膜及び前記容器の1つの前記機能性膜が、支持物質をさらに含む、請求項1に記載の(ATP系)電気化学電池。
【請求項3】
前記支持物質がムレインである、請求項に記載の(ATP系)電気化学電池。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の複数の電気化学電池と、不活性物質、及び膜により構成される1つの機能表面を含む1つ又は複数の容器とを含む(ATP系)電気化学アキュムレータであって、前記1つの機能表面がATP-ADPトランスロカーゼ、及び廃液/補充区画を含む、(ATP系)電気化学アキュムレータ。
【請求項5】
前記複数の電気化学電池から前記廃液/補充区画を機械的に単離する手段をさらに含む、請求項に記載の電気化学アキュムレータ。
【請求項6】
請求項に記載のアキュムレータの前記廃液/補充区画にATPを多量に含む溶媒を投入する工程と、請求項又はに記載のアキュムレータの前記廃液/補充区画からADPを多量に含む廃液を除去する工程と、を含む電気を生産する方法。
【請求項7】
請求項又はに記載の電気化学アキュムレータにおける、エネルギーを生産するためのATPの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アキュムレータは、決められた期間で適当な電気エネルギー源から完全に再充電することができるバッテリである。これらのアキュムレータは、家庭又は公共のエネルギー供給網、あるいは発電機に依存し、その多くは内燃モータを使用して電気を発生させる。
【背景技術】
【0002】
異なる電気容量、化学組成、形状及びサイズを有する様々な種類のアキュムレータが存在する。アキュムレータの最も一般的な種類としては、
A)鉛蓄電池:主な利点はコストが低いことである。より高価な他の化学アキュムレータと比べてエネルギー密度が低いという制限がある。
1)グラスマット吸収(AGM);
2)ゲルバッテリ;
B)リチウムイオンバッテリ(化学アキュムレータ):非常に高い電荷密度を示し、記憶効果はない;
C)リチウムポリマーイオンバッテリ:リチウムイオンバッテリよりも電荷密度がわずかに劣るが、特定の形に容易に適応することができる;
D)ナトリウム硫黄電池;
E)ニッケル鉄電池;
F)ニッケル水素(NiMH)バッテリ;
G)ニッケルカドミウム(Ni-Cd)バッテリ:Liイオン及びNiMHバッテリがはるかに優れている。Ni-Cdバッテリも記憶効果があり、カドミウムは毒性重金属である;
H)ナトリウム/金属塩化物電池;
I)ニッケル亜鉛電池;
L)溶融塩電池;
M)銀亜鉛バッテリ:エネルギー密度は最も高いが、製造コストが非常に高い;が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
すでに述べたように、従来発電機は内燃エンジンに基づいているが、生培養細胞を用いて電流を生成する生物発電機に関して、実験段階の特許が出願されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
ATP依存性発電機/アキュムレータの技術は、細胞膜のタンパク質により発生する分子活性由来の電位差を利用する考えに基づいている(そのまま、又はその機能を最大限に利用するために遺伝子変更を行う)。
【0005】
従って、ATP依存性発電機/アキュムレータは、エネルギー電池と呼ばれる一連の基礎構造を構築することから開始する。エネルギー電池は二重リン脂質膜(2重層)又は同様に効率的な物質(エネルギー電池を局在化させ、前述の分子活性を実行させる)に含まれる。同様に効率的な物質は細胞膜に似ているが、あるいは簡素化されており、より簡易で同様に効率的である。
【0006】
実際に、モデルにおいて全体として使用される二重リン脂質膜は、実際の細胞と比べて膜貫通タンパク質ははるかに少ないが、より大きな表面密度を有する。我々の膜モデルが含有する基本の機能タンパク質構造は、
1)電位開口型ナトリウムチャネル(すべてが同じではない;組成は1つ又は複数のアミノ酸で異なり、わずかに異なる膜電位に応答して開く);
2)電位開口型カリウムチャネル;
3)ATP-ADPトランスロカーゼ;
4)ナトリウム・カリウムポンプ、である。
【0007】
しかしながら、目的の特性に基づき、選択されるチャネルはすでに挙げられたもの、つまりカルシウムチャネル以上に変動することができることを強調しなければならない(この場合、明らかに、システム全体はナトリウム・カルシウムポンプを含めて適応しなければならない)。
【0008】
本装置のエネルギー電池は、(タンパク質陰イオンが含まれ得る)そのすべての表面上に膜を有する内部構造(「コア」図2のE)により構成され、すでに記載した活性分子のすべてを提供する(これらの膜は、例えばムレインで作られる内部又は外部の機械的支持構造を含むことができる;この選択は所望の結果に基づいて行われる)。
【0009】
次に、我々が「コア」と呼ぶこの内部構造は(例えば製造を最も効果的にするか、又は安定性を増すため、その形態を変えることができる;我々は便宜上「コア」という用語を使用し続けるが、これは暗黙的であると見なされる)、膜から構成される1つの活性/機能表面のみを提供する容器に収容される。残りの表面はすべて、不活性物質(図2のF)により構成される。
【0010】
この容器の1つの活性/機能表面は、(図1及び2のD、多数の分子を含有するコアの膜と対照的に)ただ1つの分子であるATP-ADPトランスロカーゼを含有する。
【0011】
つまり、この装置のコア及び容器は、エネルギー電池の基本構造である(図2の立方体、図1のA)。
【0012】
コアは正常な生細胞が行うように分極、脱分極する。しかし、活性化する必要がある生細胞とは異なり、コアは周期的に分極するため、電気インパルスの生成は、ファニーチャネルの存在により定期的であり、リズミカルである(従って、アキュムレータ内の溶液は、環状アデノシン一リン酸[cAMP]を含有しなければならず、これらのチャネルの作用を効率化する)。
【0013】
アキュムレータは(所望の特性により)変動する数のエネルギー電池を含有し、これらは直列に配置され、「階層」を構成する。アキュムレータは多くの「階層」を含有する。
【0014】
階層は、(いくつかは「休止」、その他は「運転」となるように)電気的に互いに単離される「ブロック」に分割される。
【0015】
発電機/アキュムレータに存在するブロックの数は、個別のエネルギー電池/ブロックの不応期、さらに容量又は電圧など、追加の所望の特性により必要とされるものに影響される。従って、システム全体の機能は、ATPを消費し、ADPを生成するナトリウム・カリウムポンプに依存する。これが、この発電機/アキュムレータが「ATP依存性」言われる理由である。様々な区画の様々な膜界面に存在するATP-ADPトランスロカーゼの活性により、発電機/アキュムレータが機能する間に生成されるADPは、特定の区画(廃液/供給タンク、図1のC)に集められる。
【0016】
その後、極めて容易、安全に、ADPを多量に含む使い尽くされた溶媒が除去され、ATPを多量に含む溶媒で置き換えられる。
【0017】
この装置が(ATP状エネルギーの)アキュムレータと見なされる場合、最大の利点はATP溶媒を利用し、電気供給網を利用しないことである。
【0018】
上記のエネルギー電池(コア+容器)は他の容器内部に配置される。同様に、これらの容器は、再度単一の分子であるATP-ADPトランスロカーゼを提供する1つの活性表面又は膜を有する。
【0019】
この第2のATP-ADPトランスロカーゼ含有膜の目的は、第2のATPを多量に含む微小環境を提供すること(第1はコアを含有し、最初のエネルギー電池を含む活性膜により提供される)、ADPを多量に含む使い尽くされた溶媒を排他的に含有する廃液タンクに向け、ADPを運ぶ第2のシステムを構成することである。
【0020】
アキュムレータ内のATP及びADPのどちらについても正確な移動フローを作るこの膜の機能として、ATPをエネルギー電池へ、ADPをエネルギー電池から運ぶように、分子を移動させる際にかなりの精密さを備えることが必要である。
【0021】
次に、この膜は様々なエネルギー電池を含む区画を中間チャンバ(図1のB)と呼ばれる隠れた区画と連通させる。
【0022】
中間チャンバも、ADP及びATPを交換する(廃液/補充区画である)連続する区画に露出した他の1つの活性表面を提供する。
【0023】
この場合も、この層の機能は、中間チャンバにATPを運び、廃液区画にADPを移動させることであり、この廃液区画では、完全に使い尽くして新しい溶媒が補充される前にADPが廃棄される(図1を参照のこと)。
【0024】
膜(図1のG、1つの活性分子としてATP-ADPトランスロカーゼを有する)、及びそのそれぞれの区画は、エネルギー電池の方向にATPが増加し、廃液/補充区画の方向にADPが増加する濃度勾配を形成する。その後、廃液/補充区画から高濃度のADPを有する使い尽くされた溶媒が除去され、(すべての他の必要なイオンに加えて、ファニーチャネルが正しく機能するのに必須である)ATP及びcAMPを多量に含む溶媒で置き換えることができる。
【0025】
これまで単一のリン脂質二重層として記載されてきた膜は、機能性を最も効果的にする特性、及び構造耐久性を提供する特性のどちらも得るため、(質及び型の意味で)同じ活性分子を含有する複数の積層されたリン脂質二重層からなることもできる。電気エネルギーの生成を停止することが所望される場合に(オン/オフ機能)、電池及びチャンバを再提供しないように、廃液/補充区画を機械的に単離することができる。
【0026】
相当する発電機は電気発電機及びアキュムレータの両方の概念を変える。
【発明の効果】
【0027】
実際、(活性膜に基づく)ATP依存性発電機/アキュムレータは、成分処理の問題を除いて、いずれの物的リスクも排除し、最大限に環境を持続させる。
【0028】
さらなる利点は、同じ(活性膜に基づく)ATP依存性発電機/アキュムレータがアキュムレータと見なされる場合、再充電時間が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】エネルギー電池の図面である。
図2】エネルギー電池の図面である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
製造プロセスは、経時的ではない4つの異なる大きな段階に分けることができる。第1段階はリン脂質二重層の製造からなる。
【0031】
リン脂質は、細胞膜の主成分であり、リンを含有する脂質の一種である。この種類の有機化合物に属する分子は、(水に可溶性で非極性溶媒に不溶性である)親水性の極性「頭部」及び(水に不溶性で非極性溶媒に可溶性である)2つの疎水性の非極性脂肪酸「尾部」からなる構造を有し、これらの分子を両親媒性にする。これらの分子の両親媒性特性に加えて、すべての特定のリン脂質分子が固相から液相に変化する臨界温度、つまり「融点」を有するという事実を明白にすることが重要である。
【0032】
我々が実現しているエネルギー電池モデルは、細胞膜に生理的に存在する流体を必要とせず、従って流動モザイクモデルを裏付ける分子は含まれない。しかし、この選択される分子の型は、所望の特性に基づいて変動することがある。
【0033】
我々の発電機/アキュムレータにおいて、我々は同じ理由でコレステロールなどの分子も除外し、代わりにLβ及びLβ’相としてLuttazziにより特定された液晶相を支持するリン脂質分子を選択する。我々が望むゲル・結晶相は、炭化水素鎖が膜に垂直、又は膜側に傾斜した同じ方向に配向するものである。
【0034】
これらの二重層を実現するため、我々は可能な限り飽和した炭素数が16個以上の脂肪酸を有するリン脂質を広く用い、ゲル又は結晶状態に変形させる。
【0035】
この目的を達成するため、以下の技術又は方法を
1)小胞融合;
2)ラングミュア・ブロジェット技術と小胞融合技術の組合せ;
(リン脂質表面当たり最大活性分子密度を保証するため、2つのうちの1つを選択、実施して)使用することができる。
【0036】
基質は以下の、
1)石英ガラス
2)ホウケイ酸ガラス
3)マイカ
4)酸化シリカ
5)二酸化チタン薄膜
6)インジウムスズ酸化物
7)金
8)銀
9)白金
から選択することができる。
【0037】
いずれの場合でも、目的は親水性で、滑らかで、きれいな表面を有する高質膜(つまり、あるとしてもごくわずかな欠陥、及び高い脂質流動性を有する)を得ることである。
【0038】
第2の大きな段階は、第1の大きな段階に記載されたものと同じ工程後、記載された膜の残りを構成することである。ただし、これらの膜はATP-ADPトランスロカーゼを含むことが必須である(様々なチャンバ間に界面膜を実現するのに必要とされる)。しかし、これらの膜の実現は、(ディップペンナノリソグラフィー[DPN]の使用など)以前に記述されたものに加えて、他の方法を使用することで達成することもできる。
【0039】
第I及びIIの大きな段階の膜は、ムレインなど支持物質を備えることにより安定化させることができる。この場合、これを可能とする隠れた分子の挿入を検討することが必要となる(例えば、ムレインを使用する場合、リポタイコ酸)。
【0040】
第3の大きな段階は様々な活性分子の合成であり、そのいくつかは、
1)ファニーチャネル;
2)電位開口型ナトリウムチャネル(すべてが同じではなく、1つ又は複数のアミノ酸で異なり、わずかに異なる膜電位値で開く);
3)電位開口型カリウムチャネル;
4)ATP-ADPトランスロカーゼ;
ナトリウム・カリウムポンプ、を含む。
【0041】
ナトリウム・カリウムポンプは、組み換えDNA(rDNA)技術を使用することにより合成される。ナトリウム・カリウムポンプは、初期費用は高くなるが、一旦生産が始まると、かなり相殺される。
【0042】
使用される電位開口型ナトリウムチャネルの型は、発電機/アキュムレータの所望の特性により決定される。
【0043】
第4の大きな段階はATP溶媒を得ることであり、我々のシステムにエネルギーを生成させる。この目的を実現するため、バイオリアクターが用いられ、我々の溶液がこれを通過する(最初はグルコース溶液)。これらのバイオリアクターは、グルコース分子をATP分子に変換する解糖系の酵素(組み換えDNA[rDNA]技術によっても得られる)を含有する。このプロセスは、酸化的リン酸化を使用することによりさらに効率化することができ、正味の収率で各グルコース分子に対して多くのATP分子を産生する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発電機/アキュムレータの実装分野は広く異なるが、主に大きく低減した再充電時間を有する電気自動車の実現である(この場合、発電機及びアキュムレータの両方として、又は従来のバッテリと組み合わせた発電機のみとして機能する選択肢がある)。
【0045】
また、他の技術が認めていない寸法又は形状を有するアキュムレータを必要とする装置に利用することが期待される。特に、この技術は寸法を顕著に低減する。
図1
図2