(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】押出成形用ダイ
(51)【国際特許分類】
B29C 48/31 20190101AFI20220920BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20220920BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20220920BHJP
【FI】
B29C48/31
B29C48/08
B29C48/92
(21)【出願番号】P 2021122373
(22)【出願日】2021-07-27
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591136883
【氏名又は名称】株式会社城北精工所
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】前島 康浩
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-070235(JP,A)
【文献】特開2013-202794(JP,A)
【文献】特開平08-224769(JP,A)
【文献】中国実用新案第207156414(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置されて形成される下端のリップ部から溶融樹脂をフィルム状に吐出させる一対のブロックと、当該リップ部のリップ幅を制御して吐出する樹脂フィルムの厚さを調整するモータと、当該ブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱構造とを備えた押出成形用ダイであって、
当該断熱構造は、当該ブロックと当該モータとの間に配置されるダイ構成部材の内部に、少なくとも1つのU字状冷媒通路を備え、
当該U字状冷媒通路は、
当該ダイ構成部材を貫通する一対の直線状孔と、これら直線状孔と連通しつつ一端又は両端が当該ダイ構成部材の外表面に開口する連通穴とからなり、
当該ダイ構成部材の外表面に配置する当該一対の直線状孔の一端側開口部及び当該連通穴の開口部に栓部材を装着して、冷媒を循環させるものである
ことを特徴とする押出成形用ダイ。
【請求項2】
対向配置されて形成される下端のリップ部から溶融樹脂をフィルム状に吐出させる一対のブロックと、当該リップ部のリップ幅を制御して吐出する樹脂フィルムの厚さを調整するモータと、当該ブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱構造とを備えた押出成形用ダイであって、
当該断熱構造は、当該ブロックと当該モータとの間に配置されるダイ構成部材の内部に、少なくとも1つのU字状冷媒通路を備え、
当該U字状冷媒通路は、
当該ダイ構成部材を貫通する一対の直線状孔をパイプ部材により構成し、これらパイプ部材の一端部同士を接続するU字状の配管継手を備えて、冷媒を循環させるものである
ことを特徴とする押出成形用ダイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムを製造する際に用いられる押出成形用ダイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂フィルムを製造する際には、押出成形用ダイが用いられている。この押出成形用ダイは、供給された溶融樹脂をマニホールドを介してその幅方向に広げ、下端の対向する平面部(リップ部)の間から溶融した樹脂をフィルム状にして押し出す構成になっている。例えば、押し出された溶融樹脂は、原反ロールから巻き出されたフィルム基材と貼り合わされ、この貼り合わされた状態のものを冷却ロールで圧着して固めることでラミネートフィルムとなる。このようにして得られるラミネートフィルムは、主に包装用途や防湿用途として利用され、高い密閉性が要求される。そのため、押出成形用ダイを用いて製造される樹脂フィルムは、その厚みが均一であることが望ましい。
【0003】
押出成形用ダイは、製造する樹脂フィルムの膜厚を均一にするために、リップ部の離間距離(リップ幅)を調整する必要がある。例えば、特許文献1には、「モータと、該モータにより駆動される駆動軸と、該駆動軸上に複数設けられたウォームと、該ウォームの各々の近辺に複数設けられたリップ幅調整用ボルト駆動シャフトと、該リップ幅調整用ボルト駆動シャフトの一端に設けられたウォームホイルと、任意の位置のウォームとウォームホイルとを連結・解除するためのクラッチを具備」するTダイ用リップ幅調整装置が開示されている(特許文献1の請求項1を参照のこと)。特許文献1のTダイ用リップ幅調整装置によれば、モータの駆動力を用いてリップ幅を変更することで、樹脂フィルムの膜厚の調整作業を短時間且つ高精度で自動的に行うことが可能になった。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の技術では、Tダイ本体から発せられる高熱からモータを十分に保護することができない。特許文献1には、モータをTダイの長手方向の両脇に離間配置する旨記載がされているが(特許文献1の第3頁左下欄第1~9行目を参照のこと)、この場合モータを長時間安定して動作させるには不十分であり、また、ダイの大型化を招くことにもなる。
【0005】
この問題に対し、本発明者は、特許文献2に示すように、押出成形用ダイを構成する一対のブロックとモータとの間に断熱構造を配置することで、樹脂フィルムの膜厚を長時間安定して均一且つ高精度に制御できることを知見した。具体的に、特許文献2における断熱構造としては、断熱機能を有する部材を備えたものや、冷媒通路を備えたものがある。特に、この断熱構造は、冷媒通路を備えることで、高熱によるモータの動作不良が生じるのをより効果的に抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭63-246223号公報
【文献】特開2001-070235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に開示する押出成形用ダイのように、単に冷媒通路を備えた断熱構造を用いただけでは、この断熱構造の効率的な冷却が十分に行われずに、モータの性能が十分に発揮できないおそれのあることが判明した。さらに、単に冷媒通路を備えた断熱構造を用いただけでは、押出成形用ダイについて、構造の複雑化を招く場合のあることが判明した。
【0008】
そこで、本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、構造を複雑化させずに備わる断熱構造の冷却効率の最適化を図り、製造する樹脂フィルムの膜厚を従来よりも長時間安定して高精度に制御することのできる押出成形用ダイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、以下の押出成形用ダイを採用することで上記課題を達成するに到った。
【0010】
本発明に係る押出成形用ダイは、対向配置されて形成される下端のリップ部から溶融樹脂をフィルム状に吐出させる一対のブロックと、当該リップ部のリップ幅を制御して吐出する樹脂フィルムの厚さを調整するモータと、当該ブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱構造とを備えた押出成形用ダイであって、当該断熱構造は、当該ブロックと当該モータとの間に配置されるダイ構成部材の内部に、少なくとも1つのU字状冷媒通路を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る押出成形用ダイにおいて、前記U字状冷媒通路は、前記ダイ構成部材を貫通する一対の直線状孔と、これら直線状孔と連通しつつ一端又は両端が当該ダイ構成部材の外表面に開口する連通穴とからなり、当該ダイ構成部材の外表面に配置する当該一対の直線状孔の一端側開口部及び当該連通穴の開口部に栓部材を装着して、冷媒を循環させるものであることが好ましい。
【0012】
本発明に係る押出成形用ダイにおいて、前記U字状冷媒通路は、前記ダイ構成部材を貫通する一対の直線状孔をパイプ部材により構成し、これらパイプ部材の一端部同士を接続するU字状の配管継手を備えて、冷媒を循環させるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る押出成形用ダイは、その構造を複雑化させずに備わる断熱構造の冷却効率の最適化を図り、製造する樹脂フィルムの膜厚を従来よりも長時間安定して高精度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る押出成形用ダイの構成を例示した側面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る断熱構造を説明するために例示した図(上面図、側面図、正面図)である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に係る断熱構造を説明するために例示した図(上面図、側面図、正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明に係る押出成形用ダイの構成を例示した側面図である。以下、図を用いながら、本発明に係る押出成形用ダイについて説明する。なお、本発明に係る押出成形用ダイは、以下に示す実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る押出成形用ダイ1は、対向配置されて形成される下端のリップ部4から溶融樹脂(不図示)をフィルム状に吐出させる一対のブロック2,3と、リップ部4のリップ幅Wを制御して吐出する樹脂フィルム(不図示)の厚さを調整するモータ20と、ブロック2,3からモータ20への伝熱を遮蔽する断熱構造とを備えたものである。ここで、この断熱構造は、ブロック2,3とモータ20との間に配置されるダイ構成部材(
図1においては符号8,11,16で示す部材が相当する)の内部に、少なくとも1つのU字状冷媒通路(
図1の符号9,12,17を参照のこと)を備えたことを特徴とする。本発明に係る押出成形用ダイ1は、この断熱構造を備えることで、構造を複雑化させずに、製造する樹脂フィルムの膜厚を従来よりも長時間安定して高精度に制御することが可能となる。以下、本発明に係る押出成形用ダイ1について、各構成毎に説明する。まずは、本発明に係る押出成形用ダイ1の構成として重要となる、断熱構造について説明する。
【0017】
<断熱構造について>
本発明の断熱構造は、押出成形用ダイ1を構成する部材の内部に少なくとも1つのU字状の冷媒通路を形成したものである。断熱構造は、冷媒通路をU字状とすることで、冷媒の流通抵抗が増大するのを極力防ぐと共に、限られた体積の中で効率よく部材と冷媒との熱交換が行われることととなり、冷却効率の向上を図ることができる。
【0018】
さらに、本発明の断熱構造は、冷媒通路をU字状とすることで、冷媒の流入口と戻り口とが押出成形用ダイ1を構成する部材の同一側面の比較的近い位置に配置されるため、冷媒を適切な設定温度に冷却する熱交換器(不図示)及び冷媒を冷媒通路内で循環させるポンプ(不図示)の配置や、これら熱交換器やポンプを通る冷媒の循環経路が複雑化するのを防ぐことができる。ゆえに、この断熱構造を採用した場合、押出成形用ダイ1の構造が複雑化したり、押出成形用ダイ1の設置スペースが増大するのを防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の断熱構造は、後述する、ブロック2,3とモータ20との間に配置されるものである。押出成形用ダイ1のブロック2,3は、ヒータ(不図示)を保持し、且つ高温に熱せられた溶融樹脂がマニホールド5に供給されるために高温となりやすい。モータ20は、通常は
図1に示す如く、押出成形用ダイ1の長手方向の脇に離間配置されるが、熱に弱く、温度が高くなるにしたがい性能の低下が起こりやすい。そのため、モータ20は、押出成形用ダイ1の近くに配置されるほど、ブロック2,3からの伝熱を受けて所望の性能を発揮しなくなるおそれがある。しかし、本発明に係る押出成形用ダイ1は、U字状冷媒通路9,12,17を形成した断熱構造を備えることで、ブロック2、3から発せられる高熱からモータ20を保護することができ、モータ20の性能が低下するのを効果的に防ぐことができる。
【0020】
図1において、断熱構造は、ブロック3に弾性変形を起こさせてリップ幅Wの拡幅又は減幅を行うためのダイ構成部材(後述するアーム部材8、連結プレート11、リップ幅調整用ボルト接続部材16)に備えられている。
図1に示すように、ダイ構成部材8,11,16の内部に断熱構造が備わることで、これらダイ構成部材8,11,16が十分に冷却され、ブロック2,3から発せられる高熱がモータに伝わるのを効果的に抑制することができる。
【0021】
なお、上述の断熱構造に用いる冷媒は、水等の液体でも空気等の気体でも良く、特に限定されない。また、用いる冷媒の温度に関しても特に限定されず、ブロック2,3の温度に応じて適宜調整することができる。冷媒温度は、熱交換器で冷却する温度を調整したり、ポンプで冷媒の流入量を変更する等して調整することができる。そして、U字状冷媒通路9,12,17の断面形状に関しても、特に限定されず、円形状、四角形状等の形状を採用することができる。ただし、U字状冷媒通路9,12,17の断面形状は、冷媒の流れる速度を安定させて冷却効率の向上を図ることを考慮すると、冷媒流通方向の垂直断面を円形状とすることが好ましい。
【0022】
U字状冷媒通路9,12,17は、冷媒流通方向の垂直断面が円形状である場合、ダイ構成部材8,11,16の冷媒流通方向に対して垂直方向の厚みXに対するこの垂直断面直径Yの比率(Y/X)が0.5~0.9であることが好ましい。少なくとも、U字状冷媒通路9,12,17を構成する後述の直線状孔がこの条件を満たすことで、断熱構造に備わるダイ構成部材8,11,16の冷却効率がさらに高められ、ブロック2,3からモータ20に伝わる熱量をより効果的に抑制することができる。ここで、上述した比率(Y/X)が0.5未満の場合には、内部を流通させる冷媒の量を十分に確保することが困難となったり、冷媒のダイ構成部材8,11,16との接触面積を十分に確保できないおそれがある。一方、上述した比率(Y/X)が0.9を超える場合には、冷媒の流動性が悪化したり、ダイ構成部材8,11,16の耐久性が低下するおそれがある。ちなみに、冷媒とダイ構成部材8,11,16との接触面積が大きく、且つ冷媒の流量が多いほど、ダイ構成部材8,11,16の冷却効率が高められることとなる。
【0023】
次に、本発明の断熱構造における、第1の実施形態及び第2の実施形態について説明する。本発明の断熱構造は、これら実施形態を採用することで、構造が簡易でありながら効率的な冷却を実現し、モータの性能が十分に発揮されることとなる。
【0024】
第1の実施形態:
図2は、本発明の第1の実施形態に係る断熱構造を説明するために例示した図である。
図2には、
図1に示す連結プレート11に備わる断熱構造の上面図、側面図、及び正面図を例示する。
図2に示すように、本実施形態の断熱構造は、U字状冷媒通路12が、ダイ構成部材(連結プレート11)を押出成形用ダイ1の長手方向に貫通する一対の直線状孔12a,12aと、一対の直線状孔12a,12aと連通しつつ一端又は両端がダイ構成部材(連結プレート11)の外表面に開口する連通穴12bとからなり、ダイ構成部材(連結プレート11)の外表面に配置する一対の直線状孔12a,12aの一端側開口部及び連通穴12bの開口部に栓部材P1,P2を装着して、冷媒を循環させるものである。
【0025】
本実施形態の断熱構造では、上述した構造を採用することで、一方の直線状孔12aに供給された冷媒が、連通穴12bを通ってUターンし、他方の直線状孔12aに供給されることとなる(
図2中に例示した黒塗り矢印を参照のこと)。こうして、冷媒を循環させることで、ダイ構成部材(連結プレート11)とこの内部を流れる冷媒との熱交換により、ダイ構成部材(連結プレート11)が冷却されることとなる。ダイ構成部材(連結プレート11)の冷却効率をより向上させるには、冷媒通路中における冷媒の流れを妨げる要因を極力減らすことが重要であるため、連通穴12bを一対の直線状孔12a,12aに対して略垂直方向に備えることが好ましい。なお、図示していないが、冷媒の循環経路には、冷媒を適切な設定温度に冷却する熱交換器や、冷媒に循環力を付与するポンプ等を配置することができる。
【0026】
上述したように、本実施形態の断熱構造は、ダイ構成部材(連結プレート11)の所望位置を穿孔した後に、栓部材P1,P2を別途用いるだけで簡単に形成することができる。そのため、押出成形用ダイ1の形状や構造に制限されることなく冷媒の循環経路を好適な位置に配設することができ、ダイ構成部材(連結プレート11)の冷却効率の向上を十分に図ることができる。また、本実施形態の断熱構造を採用した押出成形用ダイ1は、別途冷却装置を必要としないため、設備コストの増大や大型化を招かない。
【0027】
ところで、本実施形態の断熱構造で用いる栓部材P1,P2は、冷媒がダイ構成部材(連結プレート11)の外部に漏れ出るのを防止できればよく、その形状、構造、材質等に関して特に限定されない。例えば、栓部材P1,P2とダイ構成部材(連結プレート11)とをねじ止め可能な構造とすることができ、この場合の栓部材P1,P2は、その外周にねじを形成したものとなる。また、栓部材P1,P2を金属材料で形成することもできるが、この場合には、接続先の部材である連結プレート11と同じ材料で形成することが、異種金属接触による腐食の発生を抑制する上で好ましい。
【0028】
第2の実施形態:
図3は、本発明の第2の実施形態に係る断熱構造を説明するために例示した図である。
図3には、
図1に示すアーム部材8に備わる断熱構造の上面図、側面図、及び正面図を例示する。
図3に示すように、本実施形態の断熱構造は、U字状冷媒通路9が、ダイ構成部材(アーム部材8)を押出成形用ダイ1の長手方向に貫通する一対の直線状孔9a,9aをパイプ部材13により構成し、これらパイプ部材13の一端部同士を接続するU字状の配管継手14を備えて、冷媒を循環させるものである。本実施形態の断熱構造は、
図3に示す如く、ダイ構成部材(アーム部材8)が押出成形用ダイ1の長手方向に複数離間配置される場合に好適である。
【0029】
本実施形態の断熱構造では、上述した構造を採用することで、一方の直線状孔9aに供給された冷媒が、U字状の配管継手14を通ってUターンし、他方の直線状孔9aに供給されることとなる(
図3中に例示した黒塗り矢印を参照のこと)。こうして、冷媒を循環させることで、ダイ構成部材(アーム部材8)とこの内部を流れる冷媒との熱交換により、ダイ構成部材(アーム部材8)が冷却されることとなる。なお、図示していないが、冷媒の循環経路には、上述した第1の実施形態と同様に、冷媒を適切な設定温度に冷却する熱交換器や、冷媒に循環力を付与するポンプ等を配置することができる。
【0030】
本実施形態の断熱構造は、パイプ部材13やU字状の配管継手14を用いる点で、上述した第1の実施形態の断熱構造と異なる。しかし、本実施形態の断熱構造によれば、第1の実施形態の断熱構造を用いた場合と同様に、押出成形用ダイ1の形状や構造に制限されることなく冷媒の循環経路を好適な位置に配設することが可能となる。また、U字状冷媒通路9の断面積を連続的に略一定とすることができ、冷媒通路中における冷媒の流れを妨げる要因を極力減らすことができるため、ダイ構成部材(アーム部材8)の冷却効率の向上をより十分に図ることが可能となる。本実施形態の断熱構造を採用した押出成形用ダイ1は、第1の実施形態と同様に別途冷却装置を必要としないため、設備コストの増大や大型化を招かない。
【0031】
パイプ部材13及びU字状の配管継手14は、冷媒がダイ構成部材(アーム部材8)の外部に漏れ出るのを防止できればよく、その形状、構造、材質に関して特に限定されない。例えば、パイプ部材13とU字状の配管継手14とを接続するに際し管用ねじ(不図示)を用いることができ、この場合のパイプ部材13及びU字状の配管継手14は、その内周又は外周にねじを形成したものとなる。さらに、U字状の配管継手14については、その製造の容易化を図るべく、
図3に示すように、第1の実施形態と同様に栓部材を用いた構造とすることもできる。また、パイプ部材13やU字状の配管継手14を金属材料で形成することもできるが、この場合には、接続先の部材と同じ材料で形成することが、異種金属接触による腐食の発生を抑制する上で好ましい。
【0032】
次に、本発明に係る押出成形用ダイ1において、断熱構造の配置位置を定義するのに必要な構成(一対のブロック2,3、モータ20)について簡単に説明する。
【0033】
<一対のブロックについて>
本発明の一対のブロック2,3は、樹脂フィルムを製造するにあたって、対向配置して形成された下端のリップ部4から溶融樹脂をフィルム状に吐出させるものである。リップ部4から吐出して得られる樹脂フィルムの厚さは、一対のブロック2,3のリップ部4を弾性変形させてそのリップ幅Wを変化させることにより調整することができる。一対のブロック2,3は、下部に位置するリップ部4に近づくに従い肉薄となる形状を呈することで、リップ部4の弾性変形を容易にすることができ、リップ幅Wの微調整を行うことが容易となる。
【0034】
図1に示すブロック3は、その下部に減厚スリット6が設けられている。ブロック3に減厚スリット6を設けることで、後述するアーム部材8を用いてブロック3側のリップ部4を弾性変形させて、リップ幅Wの調整を行うことが容易となる。また、
図1に示すように、リップ幅Wの調整を行う手段としてリップ幅調整補助用ボルト30を併用することもできる。リップ幅調整補助用ボルト30は、手動回転させることでブロック
2側のリップ部4をより細かく弾性変形させることができる。
【0035】
ちなみに、本発明において、ブロック2、3の形状は、
図1に示すものに限定されない。また、ブロック2、3の材質に関しても特に限定されない。ブロック2、3の材質は、リップ幅Wを調整可能であると共に、マニホールド5に供給される溶融樹脂の最高温度に耐え得る材質であればよい。
【0036】
<モータについて>
本発明のモータ20は、リップ部4のリップ幅Wを制御して吐出する樹脂フィルムの厚さを調整するために用いるものである。モータ20を用いることで、リップ幅Wの制御を自動的に行い、製造する樹脂フィルムの膜厚の均一化を図ることも可能となる。リップ幅Wの制御をモータ20を用いて自動的に行うことができるようになれば、製造された樹脂フィルムの厚みが予め設定した値から外れた場合でもその都度素早く対応することができ、この樹脂フィルムの膜厚をリップ部4の長手方向に亘って高精度で均一にすることができる。
【0037】
図1には、アーム部材8の一端部がブロック3のリップ部4付近に形成した取付溝7に嵌合させて固定された状態と、アーム部材8の他端部側にモータ20を連結固定した状態が示されている。また、連結プレート11の一端部側がブロック3に連結固定された状態と、連結プレート11の他端部にリップ幅調整用ボルト接続部材16が連結固定した状態が示されている。そして、リップ幅調整用ボルト接続部材16には、モータ20の駆動力により回動可能なリップ幅調整用ボルト22を蝶合した状態が示されている。この状態で、モータ20の駆動力によりリップ幅調整用ボルト22を回転させることで、アーム部材8を回動させることができる。ここで、アーム部材8は、その一端部がブロック3に支持されているため、ブロック3の減厚スリット6が形成された部分を支点として回動する。その結果、アーム部材8は、
図1中のA方向に回動した場合にリップ幅Wが拡幅し、
図1中のB方向に回動した場合にリップ幅Wが減幅する(
図1中の白抜き矢印を参照のこと)。
【0038】
以上に本発明の断熱構造を備えた押出成形用ダイ1について説明したが、押出成形用ダイ1は、モータの性能がより十分に発揮されるよう、以下に示す構成を別途備えてもよい。
【0039】
本発明に係る押出成形用ダイ1は、
図1に示すように、モータ20の周囲をカバー21で囲うと共に、冷風機40から吹き出される冷気をカバー21内に送風(
図1中の黒塗り矢印を参照のこと)する構成とすることもできる。このように、冷風機40を本発明の断熱構造と併存させることで、モータ20が加熱されてその性能が低下するのをより効果的に抑制することができる。また、本発明に係る押出成形用ダイ1は、
図1に示すように、連結プレート11とリップ幅調整用ボルト接続部材16との間に介在させた断熱部材15や、アーム部材8とモータ20との間に介在させた断熱部材10を本発明の断熱構造と併存させることが、モータの性能を十分に発揮させる上でより好ましい。これら断熱部材10,15を構成する材料は特に限定されず、難燃性の無機繊維材料(グラスウール等)等を採用することができる。
【0040】
さらに、本発明に係る押出成形用ダイ1は、
図1に示すように、アダプター50やコネクター51から発せられる高熱がモータ20に伝わるのを遮断する断熱板52を本発明の断熱構造と併存させることもできる。このアダプター50は、高温に熱せられた溶融樹脂をコネクター51を介して押出成形用ダイ1に供給するためのものである。そのため、アダプター50及びコネクター51とモータ20との間に断熱板52を介在させることもモータの性能を十分に発揮させる上でより好ましい。断熱板52の材質は特に限定されず、ステンレス鋼(SUS304等)等を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る押出成形用ダイは、従来よりも長時間に亘り高品質な樹脂フィルムを製造できるため、包装用途や防湿用途等の様々な用途の樹脂フィルムを安定して製造するに際して好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・押出成形用ダイ
2、3・・・ブロック
4・・・リップ部
5・・・マニホールド
6・・・減厚スリット
7・・・取付溝
8・・・アーム部材
9、12、17・・・U字状冷媒通路
10、15・・・断熱部材
11・・・連結プレート
9a、12a・・・直線状孔
12b・・・連通穴
13・・・パイプ部材
14・・・U字状の配管継手
16・・・リップ幅調整用ボルト接続部材
20・・・モータ
21・・・カバー(モータ用)
22・・・リップ幅調整用ボルト
30・・・リップ幅調整補助用ボルト
40・・・冷風機
50・・・アダプター
51・・・コネクター
52・・・断熱板
P1・・・栓部材(直線状孔用)
P2・・・栓部材(連通穴用)
W・・・リップ幅
【要約】
【課題】構造を複雑化させずに備わる断熱構造の冷却効率の最適化を図り、製造する樹脂フィルムの膜厚を従来よりも長時間安定して高精度に制御することのできる押出成形用ダイを提供する。
【解決手段】対向配置されて形成される下端のリップ部から溶融樹脂をフィルム状に吐出させる一対のブロックと、当該リップ部のリップ幅を制御して吐出する樹脂フィルムの厚さを調整するモータと、当該ブロックから当該モータへの伝熱を遮蔽する断熱構造とを備えた押出成形用ダイであって、当該断熱構造は、当該ブロックと当該モータとの間に配置されるダイ構成部材の内部に、少なくとも1つのU字状冷媒通路を備えたことを特徴とする押出成形用ダイを採用する。
【選択図】
図1