(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】アレルギー性鼻炎症状改善用組成物、アレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物、及び、アレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/015 20060101AFI20220920BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20220920BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220920BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220920BHJP
A61P 27/14 20060101ALI20220920BHJP
A23L 33/155 20160101ALI20220920BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20220920BHJP
A23L 2/02 20060101ALN20220920BHJP
【FI】
A61K31/015
A61P11/02
A61P37/08
A61P27/02
A61P27/14
A23L33/155
A23L2/00 F
A23L2/02 C
A23L2/02 E
A23L2/52 101
(21)【出願番号】P 2020107857
(22)【出願日】2020-06-23
【審査請求日】2021-12-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青木 雄大
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-272368(JP,A)
【文献】特表2020-515240(JP,A)
【文献】果汁協会報,2008年,593,5-10
【文献】Int J Mol Sci,2019年,20,1764
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/015
A61P 11/02
A61P 37/08
A61P 27/02
A61P 27/14
A23L 33/155
A23L 2/52
A23L 2/02
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトのアレルギー性鼻炎症状改善用組成物であって、
前記アレルギー性鼻炎症状は、目症状及び鼻症状のうち少なくとも1つであり、
その寄与成分は、βカロテンであり、
前記組成物に含まれるβカロテンは、1日当たりの摂取量として4.0mg以上15mg以下である。
【請求項2】
ヒトのアレルギー性鼻炎症状改善用組成物であって、
前記アレルギー性鼻炎症状は、涙目、くしゃみ、鼻のかゆみ及び鼻づまりのうち少なくとも1つであり、
その寄与成分は、βカロテンであり、
前記組成物に含まれるβカロテンは、1日当たりの摂取量として4.0mg以上15mg以下である。
【請求項3】
請求項1
又は2の組成物であって、
前記アレルギー性鼻炎症状は、くしゃみである。
【請求項4】
アレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物であって、
その寄与成分は、βカロテンである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、アレルギー性鼻炎症状改善用組成物、アレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物、及び、アレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物である。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性鼻炎は鼻粘膜におけるアレルギー症状の一種であり、くしゃみや、鼻水、鼻閉といった症状に特徴づけられる。アレルギー性鼻炎は生活の質(Quality of Life:QOL、以下、「QOL」という。)の低下のみならず、学習や仕事といった社会活動へも影響を与えることから、重大な社会問題となっている。通年性アレルギー性鼻炎は、アレルギー性鼻炎の一種であり、ダニやハウスダストなどを原因とし、年間を通じて、くしゃみや鼻水、鼻閉、目のかゆみといった症状を呈する。
【0003】
アレルギー性鼻炎の症状としては、ハウスダストやダニ、花粉といった抗原の侵入による抗原特異的IgE抗体の産生に続き、マスト細胞や好酸球からのヒスタミンやロイコトリエンなどの放出により惹起されるくしゃみや鼻水、鼻粘膜の腫れ、鼻閉といったものが知られている(非特許文献1)。近年、これらのメカニズムに着目し、アレルギー性鼻炎症状を抑えるような食品成分の探索や食品の開発が進んでいる。
【0004】
特許文献1には、コラーゲン加水分解物を含む、アレルギー性鼻炎の発症予防用及び/又は症状改善用食品が記載されている。特許文献2には、セロトニン誘導体を含有してなる、マスト細胞の脱顆粒抑制組成物が記載されており、セロトニン誘導体が抗原とマスト細胞などの細胞膜上の特異的IgE抗体との反応ならびにマスト細胞の脱顆粒による化学伝達物質の遊離に関する反応を抑制することで、I型アレルギー(即時型アレルギー)に含まれるアレルギー性鼻炎の症状を改善すると考えられることが記載されている。特許文献3には、ユソウボク、バハマユソウボク、およびパロサントからなる群より選択される1種または2種以上の植物抽出物を有効成分とすることを特徴とするアレルギー性鼻炎抑制剤が記載されている。
【0005】
ニンジンをはじめとする様々な野菜に含まれているβカロテンは、疫学研究においてがんの予防効果が示唆されており、主に植物性食品に含まれる代表的な機能性成分である。βカロテンとアレルギー症状との関連性については、βカロテンの投与は血中の抗原特異的IgE濃度上昇や炎症性細胞の浸潤を抑制すること(非特許文献2)、またβカロテンがマスト細胞の脱顆粒を抑制すること(非特許文献3)が報告されている。
【0006】
アレルギー性鼻炎に対して薬物療法が広く用いられている。しかし対症療法に留まり、投与を中止すれば短期間で再発したり、副作用として眠気が誘発されたりすることで、生産性やQOLの低下が懸念されている。そのため、安全で容易に継続でき、比較的短期間で効果を得ることができる新たな組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6671671号公報
【文献】特開2011-93857号公報
【文献】特開2011-26267号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Okubo K, Kurono Y, Ichimura K, Enomoto T, Okamoto Y, Kawauchi H. et al. Japanese guidelines for allergic rhinitis 2017. Allergol Int. 2017;66(2):205-219.
【文献】Sato Y, Akiyama H, Suganuma H, Watanabe T, Nagaoka MH, Inakuma T. et al. The feeding of beta-carotene down-regulates serum IgE levels and inhibits the type I allergic response in mice. Biol Pharm Bull. 2004 ; 27(7): 978-84.
【文献】Sakai S, Sugawara T, Matsubara K, Hirata T. Inhibitory effect of carotenoids on the degranulation of mast cells via suppression of antigen-induced aggregation of high affinity IgE receptors. J Biol Chem. 2009; 284(41): 28172-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、新たなアレルギー性鼻炎症状改善用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、βカロテンがアレルギー性鼻炎症状を改善する作用を有することである。すなわち、βカロテンを寄与成分として含有する組成物を用いることにより、アレルギー性鼻炎症状を改善することができる。この観点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0011】
本発明に係るアレルギー性鼻炎症状改善用組成物の寄与成分は、βカロテンである。前記アレルギー性鼻炎症状は、目症状及び鼻症状のうち少なくとも1つであり、好ましくは、涙目、くしゃみ、鼻のかゆみ及び鼻づまりのうち少なくとも1つであり、より好ましくは、くしゃみである。
【0012】
本発明に係るアレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物の寄与成分は、βカロテンである。前記アレルギー性鼻炎症状は、目症状及び鼻症状のうち少なくとも1つであり、好ましくは、涙目、くしゃみ、鼻のかゆみ及び鼻づまりのうち少なくとも1つであり、より好ましくは、くしゃみである。また、前記QOLは、日常生活、社会生活及び睡眠のうち少なくとも1つである。
【0013】
本発明に係るアレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物の寄与成分は、βカロテンである。
【発明の効果】
【0014】
本発明が可能にするのは、新たなアレルギー性鼻炎症状改善用組成物を提供することである。また、本発明が可能にするのは、さらに、アレルギー性鼻炎に起因するQOL低下の改善用組成物及びアレルギー性鼻炎に起因するくしゃみの抑制用組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】OVA感作アレルギーモデルマウスのくしゃみ回数を示した図
【
図2】OVA特異的IgE量((a)41日目及び(b)50日目)を示した図
【
図3】実施例2の目鼻の重症度分類スコアの実測値および試験食品摂取0週からの変化量を示した図
【
図4】実施例2のJRQLQの目鼻症状の実測値および試験食品摂取0週からの変化量を示した図
【
図5】実施例2のJRQLQのQOLスコアを実測値および試験食品摂取0週からの変化量を示した図
【
図6】実施例3の重症度分類スコアの実測値および試験食品摂取0週からの変化量を示した図
【
図7】実施例3のJRQLQの目鼻症状の実測値および試験食品摂取0週からの変化量を示した図
【
図8】実施例3のJRQLQのQOLの実測値および試験食品摂取0週からの変化量を示した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
<アレルギー性鼻炎>
本発明の「アレルギー性鼻炎」は、鼻粘膜にI型のアレルギー反応、すなわちIgE依存型反応が生じる疾患である。アレルギー性鼻炎の症状は、反復性のくしゃみ、鼻漏(水様性)、鼻閉等である。アレルギー性鼻炎は、純粋にIgEに依存するアレルギーであり、アレルゲンが付着した局所(鼻及び目付近)のみに症状が現れる。アレルギー性鼻炎は、通年性アレルギー性鼻炎と季節性アレルギー性鼻炎に分けられる。季節性アレルギー性鼻炎は、花粉症を含む。
【0017】
<アレルギー性鼻炎症状改善用組成物>
本発明に係るアレルギー性鼻炎症状改善用組成物は、βカロテンを寄与成分として含有し、アレルギー性鼻炎症状を抑制する作用に優れる。当該アレルギー性鼻炎症状は、目症状及び鼻症状のうち少なくとも1つである。当該アレルギー性鼻炎症状は、好ましくは、涙目、くしゃみ、鼻のかゆみ及び鼻づまりのうち少なくとも1つであり、より好ましくは、くしゃみである。
【0018】
<アレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物>
本発明に係るアレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物は、βカロテンを寄与成分として含有し、アレルギー性鼻炎症状に起因するQOLの低下を改善する作用を有する。当該アレルギー性鼻炎症状は、目症状及び鼻症状のうち少なくとも1つである。当該アレルギー性鼻炎症状は、好ましくは、涙目、くしゃみ、鼻のかゆみ及び鼻づまりのうち少なくとも1つであり、より好ましくは、くしゃみである。また、前記QOLの詳細は、日常生活、社会生活及び睡眠のうち少なくとも1つである。本発明に係るアレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物は、前述のアレルギー性鼻炎症状改善用組成物の実施形態の1つである。
【0019】
<アレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物>
本発明に係るアレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物は、βカロテンを寄与成分として含有し、アレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみを抑制する作用を有する。本発明に係るアレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物は、前述のアレルギー性鼻炎症状改善用組成物の実施形態の1つである。
【0020】
<βカロテン>
βカロテンとしては、特に制限されず、天然の成分であっても、合成されたものであってもよい。βカロテンを天然の成分として添加する場合、βカロテンを含むニンジンやその搾汁液、藻類等の形態で添加してもよく、それらの原料から抽出・精製したβカロテンを添加してもよい。
【0021】
<寄与成分>
寄与成分とは、物質であって、その影響する先が身体の生理学的機能性であるものをいう。特定保健用食品及び機能性表示食品における寄与成分に相当するのは、いわゆる「関与成分」及び「機能性関与成分」である。医薬品及び医薬部外品の場合、いわゆる「有効成分」である。
【0022】
<本発明に係る組成物の投与/摂取形態>
前述のアレルギー性鼻炎症状改善用組成物、アレルギー性鼻炎症状に起因するQOL低下改善用組成物、及び、アレルギー性鼻炎症状に起因するくしゃみ抑制用組成物につて、本発明に係る組成物として説明する。本発明に係る組成物は、医薬品組成物及び食品組成物を含む。詳細は後述する。
【0023】
本発明に係る組成物において、βカロテンは、1日当たり4.0mg以上であればよく、好ましくは4.2mg以上、より好ましくは4.4mg以上、さらに好ましくは4.7mg以上投与又は摂取されることが好ましい。この1日当たりの量を一度に又は数回に分けて投与又は摂取することができ、そのタイミングとしては、食前、食後、食間のいずれでもよい。
【0024】
実施例において後述するように、1日当たりβカロテンを4.0mg以上含有する組成物を被験者に投与又は摂取させることにより、アレルギー性鼻炎症状の改善効果が認められることが確認されている。
【0025】
1日当たりのβカロテンの投与量又は摂取量の上限は特にないが、過剰摂取により健康障害が生じるおそれがある。したがって、βカロテンの投与量又は摂取量の上限は、1日当たり15mgであり、好ましくは1日当たり10mgであり、より好ましくは1日当たり6mgである。
【0026】
本実施形態の組成物の投与期間又は摂取期間は、4週間以上であればよく、好ましくは6週間以上、より好ましくは8週間以上である。実施例において後述するように、本発明に係る組成物を、4週間以上継続的に投与又は摂取することにより、アレルギー性鼻炎の改善効果がより顕著になる傾向にある。
【0027】
<医薬品組成物>
本発明に係る組成物は、βカロテン及び薬学的に許容される担体を含む医薬品組成物であってもよい。上記の医薬品組成物は、経口投与されることが好ましく、経口的に使用される剤型に製剤化されていることが好ましい。経口的に使用される剤型としては、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等が挙げられる。薬学的に許容される担体としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤;デンプン、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0028】
本実施形態の医薬品組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン、マルチトール等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の医薬品組成物は、上記の担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。本実施形態の医薬品組成物は、例えば、1日当たり1回経口投与するように製剤化されていてもよい。
【0030】
<食品組成物>
本発明に係る組成物は、βカロテンを寄与成分として含有する、食品組成物を提供する。実施例において後述するように、本実施形態の食品組成物を摂取することにより、ヒト又は動物においてアレルギー性鼻炎症状を改善することができる。
【0031】
本実施形態の食品組成物を含有する飲食品、飼料等の形状や性状は、特に限定されるものではなく、例えば、固体状、半固体状、ゲル状、液体状、粉末状などが挙げられる。
【0032】
本実施形態の食品組成物は、例えば、サプリメントの形態であってもよいし、飲料の形態であってもよいし、ゲル状食品の形態であってもよいし、任意の調理済み食品の形態等であってもよい。サプリメントの形状は、不問であるが、例えば、カプセル等の形状が挙げられる。飲料とする場合は、野菜飲料及び野菜果実飲料を好適に選択することができる。
【0033】
<機能性表示食品>
本実施形態の食品組成物は、機能性表示食品であってもよい。「機能性表示食品」とは、科学的根拠を基に商品パッケージに機能性を表示するものとして、消費者庁に届け出られた食品を意味する。当該表示として、例えば、「花粉、ホコリ、ハウスダストなどによる鼻の不快感を軽減する」、「ハウスダストやほこりなどによる目や鼻の不快感を軽減する」、「鼻目のアレルギー反応を有する人に」等があげられるが、これらに限定されるわけではない。また、機能性表示のない食品であっても、これら機能性をチラシ、メール、口頭でうたって製造、販売することも考えらえる。実施例において後述するように、本実施形態の食品組成物を摂取することにより、アレルギー性鼻炎症状が改善することが確認されている。
【0034】
<特別用途食品>
本実施形態の食品組成物は、特別用途食品であってもよい。特別用途食品とは、国の許可を受けて、乳児、幼児、妊産婦、病者等の発育、健康の保持・回復等に適するという特別の用途について表示する食品を意味する。
【0035】
本実施形態の食品組成物は、特別用途食品のうちの病者用食品であってもよい。実施例において後述するように、本実施形態の食品組成物は、アレルギー性鼻炎の改善効果を有することが確認されている。
【0036】
本実施形態の食品組成物は、特別用途食品のうちの特定保健用食品であってもよい。特定保健用食品とは、健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、その効果の表示が許可されている食品を意味する。表示されている効果や安全性については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官により許可される。実施例において後述するように、本実施形態の食品組成物は、アレルギー性鼻炎症状の改善効果を有することが確認されている。
【実施例】
【0037】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
花粉症モデルマウスを用いて、アレルギー性鼻炎症状の評価を行った。
【0039】
<試験食品>
βカロテン(シグマアルドリッチ社:C9750)を0.48mg/mL及び4.8mg/mLとなるようにコーン油(和光純薬工業社:WDL0579)を媒体として調製したもの、並びに、βカロテン0.48mg/mLを含むニンジン濃縮液(RD2 International社)を用いた。
【0040】
<試験方法>
6週齢のBALB/c(雌)(日本エスエルシー社)を40匹用いて、OVA抗原に由来するアレルギー性鼻炎モデルマウスを作成し、βカロテンの薬効評価を行った。1週間の馴化後、表1のとおり、40匹のマウスを無作為に8匹ずつ5群(未感作群、感作群、βカロテン高用量群、βカロテン低用量群、ニンジンジュース群)に分けた。区分は順に対照1、対照2及び区分1~3とする。
【0041】
試験食品以外の摂取物は、市販の固形飼料(フナバシファーム社:FR-2)及び上水道水であり、いずれも自由摂取させた。
【0042】
【0043】
群分け日を0日とした。上記表1の感作有の対照2及び区分1~3について、一次感作及び二次感作を行った。一次感作は、OVA抗原懸濁液を用いて行った。OVA抗原懸濁液は、PBS(和光純薬工業社:DSH7009)中にオボアルブミン(シグマアルドリッチ社:SLBD2313V)を100μg/mL及びImject Alum(サーモフィッシャーサイエンティフィック社:SLBD2313V)を20mg/mLとなるよう混合して調製した。OVA抗原懸濁液を15、22、29日後に麻酔下にて尾根部付近にマウス1匹あたり200μL皮下投与した。対照1の未感作群には、PBSのみを同量皮下投与した。
【0044】
二次感作は、一次感作後の4区分について、NAC溶液及びOVA抗原溶液を用いて行った。NAC溶液は、蒸留水にN-アセチル-L-システイン(WEF3303、和光純薬工業社)を15mg/mLとなるように溶解させて調製した。OVA抗原溶液は、PBS中にオボアルブミンを2mg/mLとなるように溶解させて調製した。31、33、35、38、41、44、48日後にNAC溶液を鼻の両穴に10μLずつ点鼻し、その約5分後に片穴あたりPBS(10μL)で洗浄を2回行い、OVA抗原溶液を両穴に10μLずつ点鼻した。対照1の未感作群には、PBSのみを両穴に10μLずつ点鼻投与した。
【0045】
βカロテンの経口投与は、ディスポーザブル経口ゾンデ及びシリンジを用いて、群分け後から49日目まで、採血日及び一次感作日を除いて毎日午前8時から午前11時の間に行った。対照1及び対照2には、コーン油のみを経口投与した。
【0046】
<くしゃみの回数>
くしゃみの回数は、35、41、48日後の二次感作実施後に5分間ビデオ撮影して回数を測定した。βカロテン及びニンジンジュースを49日間投与したOVA感作アレルギーモデルマウスのくしゃみ回数(35、41、48日目)の平均値±標準誤差の値をプロットした結果を
図1に示す。対照1を除く4群間の比較にはOne-way ANOVAを行った後、事後検定としてTukey-Kramer検定を用いた(*:P<0.05、**:P<0.01)。また、対照1と対照2との比較には、Aspin Welch t検定を用いた($$:P<0.01)。
【0047】
<結果>
全測定日において、感作有の対照2は未感作の対照1と比較して、くしゃみの回数が有意に増加した。35日目の測定日において、対照2と区分1~3との間に顕著な差は認められなかったが、区分1は区分3と比較して有意にくしゃみの回数が少なかった。41日目の測定日において、区分1~3は、対照2と比較してくしゃみの回数が有意に少なかった。また、48日目の測定日においても、区分1、区分2はいずれも対照2と比較してくしゃみの回数が有意に少なかった。区分3は、対照2と比較して少ない傾向(P=0.087)であった。
【0048】
<血中OVA抗原特異的IgE量>
血漿中OVA抗原特異的IgE量の測定は、0日目、41日目、50日目に行った。βカロテン及びニンジンジュースを49日間投与したOVA感作アレルギーモデルマウスの血漿中OVA抗原特異的IgE量を(a)41日目及び(b)50日目に測定した平均値+標準誤差を
図2に示す。対照1を除く4群間の比較には、One-way ANOVA を行った後、事後検定としてTukey-Kramer検定(*:P<0.05)を用いた。対照1と対照2との比較には、Aspin Welch t 検定を用いた($$:P<0.01)。
【0049】
<結果>
感作前(0日目)のOVA抗原特異的IgE量は、対照1、対照2、区分1、区分2、区分3で各々0.00±0.00、0.00±0.00、0.37±0.37、0.20±0.19、0.04±0.04(a.u.)であった。a.u.とは、Arbitrary Unitの略称で、任意単位である。両測定日ともに、対照2は対照1と比較して、OVA抗原特異的IgE量が有意に増加した。また、両測定日ともに、対照2と区分1~3との間に顕著な差は認められなかったが、区分1は区分3と比較してOVA抗原特異的IgE量が有意な低値を示した。
【実施例2】
【0050】
ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を以下のとおり行った。
【0051】
<研究対象者の選定>
自由意思に基づき、インフォームドコンセントを書面で得られた者のみを研究対象者候補とした。1群20名の計40名の研究対象者を募集した。次の選定基準に合致し、かつ、試験責任医師又は試験分担医師が研究対象者として不適格と判断した者等、試験に適さない者を除いて選定された40名を研究対象者とした。
【0052】
<選定基準>
選定基準は、(1)治療や投薬を受けていない健康な日本人男女、(2)同意取得時の年齢が20歳以上59歳以下の者、(3)軽症・中等症に分類される通年性アレルギー性鼻炎の自覚症状がある者、(4)血液のアレルギー検査で特異的IgE(ダニまたはハウスダスト)陽性の者、(5)試験責任医師又は試験分担医師が適格であると判定した者、とした。
【0053】
<研究対象者の群分け>
研究対象者を年齢、性別及び鼻症状で層別した。鼻症状については、「鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-」(ライフサイエンス社:2020年版(改訂第9版))に基づく重症度分類スコア及び日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票(以下、「JRQLQ」という。)のスコアで層別した。その後、1群あたり20名となるように、乱数発生法を用いてランダムにプラセボ食品摂取群(プラセボ群)と被験食品摂取群(βカロテン群)の2群に分けた。なお、盲検化の対象は、試験に関与する者全てであり、解析対象者が固定されるまで割付表は開鍵しなかった。
【0054】
<試験食品>
βカロテンを含む野菜・果実ミックスジュース(原材料:ニンジン、リンゴ、クエン酸、香料、200mL/本)を被験食品として,βカロテンを含まない野菜・果実ミックスジュース(原材料:ニンジン、リンゴ、レモン、クエン酸、香料、200mL/本)をプラセボ食品として使用した。被験食品及びプラセボ食品1本あたりの栄養成分を表2に示した。なお、被験食品とプラセボ食品は、無地の白色容器にて製造することで、試験実施者と研究対象者が外見上の見分けがつかないようにした。
【0055】
【0056】
<試験方法>
全ての研究対象者には、試験食品摂取期間中、試験食品を1日1本、毎日摂取させた。試験前観察開始日から試験食品摂取完了まで毎日、重症度分類スコアを記録させた。JRQLQアンケートは試験食品摂取-3、0、2、4、6、8週の計6回記入させた。また、試験期間中は以下の制限事項を遵守させた。
【0057】
<制限事項>
制限事項は、(1)試験期間中は毎日、日誌に必要事項を記載する、(2)試験以前と同様の生活(食事、運動、睡眠)を維持し、不規則な生活(暴飲・暴食、極度のダイエット、徹夜など)は避ける、(3)新たな医薬品、内服の医薬部外品、漢方、健康食品(サプリメントも含む)の使用は控える。但し、やむを得ず使用した場合は、生活日誌にその内容を記載する、(4)現在使用している医薬部外品や漢方、健康食品(サプリメントも含む)は、用量用法を変えずに継続する。変更があった場合は、生活日誌にその旨記載する、(5)抗アレルギー作用を訴求する健康食品の摂取、カロテノイドを高含有する健康食品(サプリメントも含む)の使用や野菜ジュース、野菜・果実ミックスジュースの摂取を禁止する、(6)βカロテンを多く含む食品の摂取を控える、(7)採血前日のアルコール摂取と激しい運動を禁止する、(8)採血を行う前日の夜9時から翌朝採血を行うまでの間は、水又は白湯を除き、飲食を禁止する、(9)他の試験食品や医薬品・医薬部外品、化粧品等を使用する臨床試験に参加することは禁止する、(10)試験期間中は、200mL以上の採血行為(献血等)を禁止する、(11)試験に関する話を関係者以外の第三者に漏洩すること、及びSNSなどWEB上に投稿・掲載することを禁止する、(12)その他、試験責任医師及び試験分担医師の指示には従う、とした。
【0058】
<評価方法>
主評価項目として、重症度分類の鼻4項目(くしゃみ、鼻汁、鼻閉、鼻症状)及び、JRQLQの鼻6項目(水っぱな、くしゃみ、鼻づまり、鼻のかゆみ、鼻症状、目鼻症状)を評価した。重症度分類スコアは、その日の状態を0点(症状なし)、1点(軽症)、2点(中等症)、3点(重症)、4点(最重症)の5段階で毎日記録させ、記録した毎日の値を、前観察期間は3週間、試験食品摂取期間は2週間毎に平均し、解析に用いた。JRQLQは、2週間毎に記録日の2週間前までを振り返り、最も症状がひどかったときの状態を0点(症状なし)、1点(軽い)、2点(やや軽い)、3点(重い)、4点(非常に重い)の5段階で記録させ、その値を解析に用いた。
【0059】
副次評価項目として、重症度分類の目3項目(目のかゆみ、流涙、目症状)、JRQLQの目3項目(目のかゆみ、涙目、目症状)、JRQLQのQOL8項目(日常生活、戸外生活、社会生活、睡眠、身体機能、精神生活、総合、統括的状態)を評価した。
【0060】
<統計解析>
各週での実測値や変化量の群間比較にMann-WhitneyのU検定を、0週との群内比較にはBonferroni補正により多重性を考慮したWilcoxonの符号順位検定を用いた。いずれも有意水準5%で検定を行った。統計解析ソフトにはEZR(EZR Version 1.40、Rコマンダー Version 2.5-1)及びSPSS(Ver.15.0J)を用いた。なお、各評価項目は、平均値±標準偏差で表記した。
図3から
図5において、βカロテン群とプラセボ群との比較で有意差が示された値に*:p<0.05を、試験食品摂取0週との比較で有意差が示された値には、†:p<0.05、††:p<0.01を付した。
【0061】
<結果>
目鼻の重症度分類スコアの実測値および試験食品摂取0週からの変化量(Δ値)を
図3に示した。鼻の重症度分類スコアにおいて、実測値、変化量共に、βカロテン群とプラセボ群との間に有意な差は確認されなかった。一方、試験食品摂取0週との比較では、βカロテン群のみ、くしゃみ(摂取6、8週)と鼻閉(摂取8週)で有意な低値を示した。目の重症度分類スコアにおいても、実測値、変化量共に、βカロテン群とプラセボ群との間に有意な差は確認されなかった。一方、試験食品摂取0週との比較では、βカロテン群のみ、目のかゆみと目症状(いずれも摂取8週)で有意な低値を示した。
【0062】
JRQLQの目鼻症状の実測値および試験食品摂取0週からの変化量(Δ値)を
図4に示した。鼻のスコアにおいて、βカロテン群はプラセボ群と比較して、目鼻症状(摂取6週)で有意な低値を示した。また、摂取0週との比較では、βカロテン群のみ、くしゃみ(摂取6、8週)と鼻のかゆみ(摂取8週)、鼻症状(摂取8週)、目鼻症状(摂取2、6、8週)で有意な低値を示した。目のスコアにおいて、βカロテン群はプラセボ群と比較して、涙目(摂取8週)と目症状(摂取6、8週)で有意な低値を示した。
【0063】
JRQLQのQOLスコアを実測値および試験食品摂取0週からの変化量(Δ値)を
図5に示した。βカロテン群はプラセボ群と比較して、日常生活(摂取8週)で有意な低値を示した。また、摂取0週との比較では、βカロテン群のみ、精神生活(摂取4、6、8週)と総合(摂取6、8週)で有意に低値を示した。
【実施例3】
【0064】
ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を以下のとおり行った。
【0065】
<研究対象者の選定>
1群48名の計96研究対象者を募集した。次の選定基準に合致し、かつ、試験責任医師又は試験分担医師が研究対象者として不適格と判断した者等、試験に適さない者を除いて選定された96名を研究対象者とした。
【0066】
<選定基準>
選定基準は、(1)治療や投薬を受けていない健康な日本人男女、(2)同意取得時の年齢が20歳以上59歳以下の者、(3)軽症・中等症に分類される通年性アレルギー性鼻炎の自覚症状がある者、(4)事前検査時のアレルギー検査で血清中特異的IgE(ダニまたはハウスダストのいずれか)が陽性または疑陽性の者、(5)試験責任医師又は試験分担医師が適格であると判定した者、とした。
【0067】
<研究対象者の群分け>
研究対象者として選定された96名を年齢、性別及び鼻症状(重症度分類スコア)で層別した。その後、1群あたり48名となるように、乱数発生法を用いてランダムにプラセボ食品摂取群(プラセボ群)と被験食品摂取群(βカロテン群)の2群に分けた。なお、盲検化の対象は、試験に関与する者全てであり、解析対象者が固定されるまで割付表は開鍵しなかった。
【0068】
<試験食品>
βカロテンを含む野菜・果実ミックスジュース(原材料:ニンジン、リンゴ、クエン酸、香料、195mL/本)を被験食品として、βカロテンを含まない野菜・果実ミックスジュース(原材料:ニンジン、リンゴ、レモン、クエン酸、香料、195mL/本)をプラセボ食品として使用した。被験食品及びプラセボ食品1本あたりの栄養成分を表3に示した。製造方法及び管理方法は実施例2と同様に行った。
【0069】
【0070】
<試験方法>
全ての研究対象者には、試験食品摂取期間中、試験食品を1日1本、毎日摂取させた。試験前観察開始日から試験食品摂取完了まで毎日、重症度分類スコアを記録させた。JRQLQアンケートは試験食品摂取-6、0、2、4、6、8週の計6回記入させた。また、試験期間中は、実施例2と同様の制限事項を遵守させた。
【0071】
<評価方法>
主評価項目として、重症度分類の鼻4項目(くしゃみ、鼻汁、鼻閉、鼻症状)を評価した。重症度分類スコアは生活日誌に記録した値を前観察期間の2週間,試験食品摂取期間は2週間毎に平均した値を用いた。
【0072】
副次評価項目として、JRQLQの鼻6項目(水っぱな、くしゃみ、鼻づまり、鼻のかゆみ、鼻症状、目鼻症状)、重症度分類の目3項目(目のかゆみ、流涙、目症状)、JRQLQの目3項目(目のかゆみ、涙目、目症状)、JRQLQのQOL8項目(日常生活、戸外生活、社会生活、睡眠、身体機能、精神生活、総合、統括的状態)を評価した。
【0073】
<統計解析>
各週での実測値や変化量の群間比較にMann-WhitneyのU検定を、0週との群内比較にはBonferroni補正により多重性を考慮したWilcoxonの符号順位検定を用いた。いずれも有意水準5%で検定を行った。統計解析ソフトにはEZR(EZR Version 1.40、Rコマンダー Version 2.5-1)及びSPSS(Ver.15.0J)を用いた。なお、各評価項目は、平均値±標準偏差で表記した。
図6から
図8において、βカロテン群とプラセボ群との比較で有意差が示された値に*:p<0.05を、試験食品摂取0週との比較で有意差が示された値には、†:p<0.05、††:p<0.01及び†††:p<0.001を付した。
【0074】
<結果>
重症度分類スコアの実測値および試験食品摂取0週からの変化量(Δ値)を
図6に示した。鼻の重症度分類スコアにおいて、βカロテン群はプラセボ群と比較して、鼻汁と鼻症状の変化量(ともに摂取2週)で有意な低下が確認された。目の重症度分類スコアにおいて、実測値、変化量共に、βカロテン群とプラセボ群との間に有意な差は確認されなかった。一方、摂取0週との比較では、βカロテン群、プラセボ群ともに、目のかゆみ、流涙、目症状の3項目すべてで有意な改善が確認された。
【0075】
JRQLQの目鼻症状の実測値および試験食品摂取0週からの変化量(Δ値)を
図7に示した。鼻のスコアにおいて、βカロテン群はプラセボ群と比較して、くしゃみの変化量(摂取8週)で有意な低値を示した。また、摂取0週との比較では、βカロテン群のみ、くしゃみ(摂取4、6、8週)、鼻づまり(摂取8週)、鼻のかゆみ(摂取6週、摂取8週)で有意な低値を示した。また、プラセボ群も有意な低値を示したものの、βカロテン群でも鼻症状と目鼻症状(いずれも摂取4、6、8週)において、有意な低値を示した。目のスコアにおいて、実測値、変化量共に、βカロテン群とプラセボ群との間に有意な差は確認されなかった。一方、プラセボ群も有意な低値を示したものの、βカロテン群でも涙目(摂取4、6、8週)と目症状(摂取6、8週)で有意な低値を示した。
【0076】
JRQLQのQOLの実測値および試験食品摂取0週からの変化量(Δ値)を
図8に示した。βカロテン群はプラセボ群と比較して、社会生活と睡眠(いずれも摂取8週)で有意な低値を示した。また、摂取0週との比較では、βカロテン群のみ、戸外生活、社会生活、睡眠、精神生活(いずれも摂取8週)と総合(摂取8週)で有意な低値を示した。一方、プラセボ群も有意な低値を示したものの、βカロテン群でも日常生活(摂取6、8週)と統括的状態(摂取6、8週)で有意な低値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明が有用な分野は、健康食品分野である。