(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】緻密化方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H01L 35/34 20060101AFI20220920BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220920BHJP
B22F 3/035 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
H01L35/34
B22F1/00 R
B22F3/035 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018021646
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-02-09
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハル, ジョン アール.
(72)【発明者】
【氏名】マットセン, マーク アール.
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528995(JP,A)
【文献】特開2015-098645(JP,A)
【文献】特表2016-511793(JP,A)
【文献】特表2015-518650(JP,A)
【文献】特開2012-104560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/34
B22F 1/00
B22F 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極(
34)と第2の電極(
32)との間に導電経路をもたらす導電性粒子を、前記第1の電極(
34)と前記第2の電極(
32)との間に、前記第1の電極(
34)と前記第2の電極(
32)に接触させて配置することであって、前記第1の電極(
34)は第1のゼーベック係数を呈し、前記第2の電極(
32)は前記第1のゼーベック係数よりも大きい第2のゼーベック係数を呈し、前記粒子は前記第1のゼーベック係数と前記第2のゼーベック係数との間の第3のゼーベック係数を呈する、配置すること、
前記粒子を、低温固相から高温固相への加熱相転移のための温度を上回る、より高い温度まで加熱しながら圧縮することであって、前記加熱することは、前記第2の電極(
32)から前記粒子を通って前記第1の電極(
34)に電流を印加し、したがって前記第1の電極(
34)と前記粒子との間の接合点、及び前記第2の電極(
32)と前記粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を生成することを含む、加熱しながら圧縮すること、
前記加熱の結果、前記粒子を前記低温固相から前記高温固相に相転移させること、
前記粒子の前記加熱相転移の後、前記粒子を、前記高温固相から前記低温固相への冷却相転移のための温度を下回る、より低い温度まで冷却しながら圧縮することであって、前記冷却することは、前記第1の電極(
34)から前記粒子を通って前記第2の電極(
32)に電流を印加し、したがって前記第1の電極(
34)と前記粒子との間の前記接合点、及び前記第2の電極(
32)と前記粒子との間の前記接合点でペルティエ効果により熱を取り除くことを含む、冷却しながら圧縮すること、
前記冷却の結果、前記粒子を前記高温固相から前記低温固相に相転移させること、及び
前記粒子を圧縮しながら前記加熱相転移及び前記冷却相転移させることにより、前記粒子を緻密化すること
を含む方法。
【請求項2】
前記第2のゼーベック係数は、前記加熱相転移のための前記温度及び前記冷却相転移のための前記温度において前記第1のゼーベック係数よりも5μV/K以上大きく、前記第3のゼーベック係数は、前記加熱相転移のための前記温度及び前記冷却相転移のための前記温度で前記第1のゼーベック係数及び前記第2のゼーベック係数と少なくとも20%異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子は主にチタンを含み、前記低温固相がα相であり、前記高温固相がβ相である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粒子を加熱しながら圧縮すること、及び前記粒子を冷却しながら圧縮することの両方が、前記粒子を48.3MPa(7ksi)未満で圧縮することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記加熱することは、ペルティエ効果以外の手段による前記粒子への導電性熱伝達を更に含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱相転移のための前記温度及び前記冷却相転移のための前記温度は同一であり、前記加熱することは、前記相転移温度を1~10%上回る温度まで前記粒子を加熱することを含み、前記冷却することは、前記相転移温度を1~10%下回る温度まで前記粒子を冷却することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の電極(
32)から前記粒子を通って前記第1の電極(
34)に印加される前記電流、及び前記第1の電極(
34)から前記粒子を通って前記第2の電極(
32)に印加される前記電流は、交流電流である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記交流電流は
、前記第1の電極(
34)と前記粒子との間の前記接合点、及び前記第2の電極(
32)と前記粒子との間の前記接合点において1~15アンペア/平方ミリメートルで供給される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粒子を前記低温固相から前記高温固相に前記相転移させることは
未完成部の粒子の総体積の95%より多くを相転移させることを含み、前記粒子を前記高温固相から前記低温固相に前記相転移させることは、前記総体積の95%より多くを相転移させることを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記粒子を緻密化することは、前記加熱相転移及び前記冷却相転移を繰り返しサイクル化することを含み、それによって、前記粒子を圧縮しながら前記加熱相転移及び前記冷却相転移させることにより
、前記粒子を一体型部品へと超塑性成形する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記加熱相転移及び前記冷却相転移をサイクル化することが、10回より多く繰り返される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1のゼーベック係数を呈する第1の電極(
34)、及び前記第1のゼーベック係数よりも大きい第2のゼーベック係数を呈する第2の電極(
32)、
ダイキャビティであって、
前記第1のゼーベック係数と前記第2のゼーベック係数との間の第3のゼーベック係数を呈する導電性粒子が前記ダイキャビティ内に配置されたときに前記第1の電極(
34)及び前記第2の電極(
32)に接触し、前記第1の電極
(34)と前記第2の電極
(32)との間に導電経路をもたらすように、前記第1の電極(
34)と前記第2の電極(
32)との間に位置するダイキャビティ、
前記第1の電極(
34)及び前記第2の電極(
32)に電気的に接続された交流電源(70)、及び
前記粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより前記粒子を緻密化するために交流電流が印加されたときに、前記粒子の十分な圧縮を可能にするように構成された圧密プレス機
を備える装置であって、
前記電源(70)は、選択的に電流の流れの方向を変化させて、前記第2の電極(
32)から前記粒子を通って前記第1の電極(
34)に電流を印加するか、又は前記第1の電極(
34)から前記粒子を通って前記第2の電極(
32)に前記電流を印加することができるように構成され、
前記電源(70)は、前記第1の電極(
34)と前記粒子との間の接合点、及び前記第2の電極(
32)と前記粒子との間の接合点で、前記電流の流れの方向に応じて、ペルティエ効果加熱及びペルティエ効果冷却を生じさせるのに十分な電流周波数及び十分な電流量を生成できるように構成され、前記電流周波数が十分であることは、
前記第1の電極(34)と前記第2の電極(32)との間の距離が短くなるとサイクル時間が短くなるように、前記粒子を通る前記第1の電極
(34)と前記第2の電極
(32)との間の距離に依存する、
装置。
【請求項13】
前記第2のゼーベック係数は、20°Cで測定したときに前記第1のゼーベック係数よりも5μV/K以上大きい、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記第1の電極(
34)は、前記第1の電極(
34)と前記粒子との間の前記接合点でモリブデン又はタングステンから本質的に構成され、且つ/又は、前記第2の電極(
32)は、前記第2の電極(
32)と前記粒子との間の前記接合点でパラジウム、黒鉛、又はコンスタンタンから本質的に構成される、請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
前記十分な電流量は、前記第1の電極(
34)と前記粒子との間の前記接合点、及び前記第2の電極(
32)と前記粒子との間の前記接合点で1~15アンペア/平方ミリメートルを含み、前記十分な圧縮は、前記第1の電極(
34)及び/又は前記第2の電極(
32)により前記粒子に印加されたときに48.3MPa(7ksi)未満を含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
超塑性成形は、精密且つ複雑な形状を金属材料から作製するための工業プロセスである。いくつかの金属及び合金などのいくつかの固体の結晶性材料は超塑性を示し、プラスチックの変形の予想限界を超えて変形しうる。その挙動は微粒子ミクロ構造に依存することが多い。このプロセスの主要な利点は、複雑且つ大きい部品を一つの工程で成形できることである。最終製品は、優れた精密性及び微細な表面仕上げを有する。また、このプロセスではスプリングバック又は残留応力が発生することもない。最大の欠点は成形速度が遅いことである。完成時間は2分から2時間までと多様であり、したがって当該プロセスは通常は少量生産に使用される。したがって、成形時間を低減する超塑性成形方法及び装置が有益であることが理解されるであろう。
【発明の概要】
【0002】
方法は、第1の電極と第2の電極との間に、第1の電極と第2の電極に接触させて導電性粒子を配置することを含む。粒子は第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらす。第1の電極は第1のゼーベック係数を呈し、第2の電極は第1のゼーベック係数よりも大きい第2のゼーベック係数を呈し、粒子は第1及び第2のゼーベック係数の間の第3のゼーベック係数を呈する。
【0003】
方法は、粒子を、低温固相から高温固相への加熱相転移のための温度を超える、より高い温度まで加熱しながら圧縮することを含む。加熱することは、第2の電極電流から粒子を通って第1の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を生成することを含む。加熱の結果、粒子は低温固相から高温固相へと相転移する。
【0004】
粒子の加熱相転移後、粒子を、高温固相から低温固相への冷却相転移のための温度を下回る、より低い温度まで冷却しながら圧縮する。冷却することは、第1の電極から粒子を通って第2の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を取り除くことを含む。冷却の結果、粒子は高温固相から低温固相へと相転移する。方法は、粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより緻密化することを含む。
【0005】
別の方法は、主にチタンを含む導電性粒子を、第1の電極と第2の電極との間に、第1の電極と第2の電極に接触させて配置することを含む。粒子は第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらす。第1の電極は第1のゼーベック係数を呈する。第2の電極は、粒子のα相とβ相との間の相転移のための温度において第1のゼーベック係数よりも5μV/K以上大きい第2のゼーベック係数を呈する。粒子は、粒子のα相とβ相との間の相転移のための温度において第1及び第2のゼーベック係数と少なくとも20%異なる第3のゼーベック係数を呈する。
【0006】
方法は、粒子を、相転移温度を1~10%上回る、より高い温度まで加熱しながら7ksi未満(キロポンド/平方インチ)で圧縮することを含む。加熱することは、第2の電極から粒子を通って第1の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を生成することを含む。加熱の結果、粒子はα相からβ相へと相転移する。
【0007】
粒子の加熱相転移後、方法は、粒子を相転移温度よりも1~10%低い温度まで冷却しながら7ksi未満の圧力で圧縮することを含む。冷却することは、第1の電極から粒子を通って第2の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との接合点、及び第2の電極と粒子との接合点でペルティエ効果により熱を取り除くことを含む。冷却の結果、粒子はβ相からα相に相転移する。方法は、加熱相転移及び冷却相転移を繰り返しサイクル化することを含み、これにより粒子を圧縮しながら加熱及び冷却相転移することで一体型部品に超塑性成形する。
【0008】
装置は、第1のゼーベック係数を呈する第1の電極、及び第1のゼーベック係数より大きい第2のゼーベック係数を呈する第2の電極を含む。第1の電極と第2の電極との間のダイキャビティにより、導電性粒子は、ダイキャビティ内に配置されたときに第1の電極及び第2の電極に接触し、第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらすことができる。第1の電極及び第2の電極に交流電源が電気的に接続される。
【0009】
電源は、電流の流れの方向を選択的に変化させて、第2の電極から粒子を通って第1の電極に電流を印加するか、又は第1の電極から粒子を通って第2の電極に電流を印加することができるように構成される。また、電源は、第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点で、電流の流れの方向に応じて、ペルティエ効果加熱及びペルティエ効果冷却を発生させるのに十分な電流周波数及び十分な電流量を生成することができるように構成される。電流周波数が十分であることは、粒子を通る第1の電極と第2の電極との間の距離に依存する。装置は、粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより粒子を緻密化するために交流電流が印加されたときに、十分に圧縮することができるように構成された圧密プレス機を含む。
【0010】
上述の特徴、機能、及び利点は、様々な実施形態において単独で実現することが可能であり、又は更に別の実施形態において組み合わせることが可能である。これらの実施形態は、以下の説明及び図面を参照することによって更に詳細に理解することができる。
【0011】
いくつかの実施形態を、以下の添付図面を参照して下記に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1の装置の一部における電流及び熱流の図である。
【
図3】
図1の装置の一部における電流及び熱流の図である。
【
図4】絶対ゼーベック係数の温度依存性を示すチャートである。(Cusack, N.; Kendall, P. (1958). “The Absolute Scale of Thermoelectric Power at High Temperature”. Proceedings of the Physical Society. 72 (5): 898. Data for Pb from Christian, J. W.; Jan, J.-P.; Pearson, W. B.; Templeton, I. M. (1958). “Thermo-Electricity at Low Temperatures. VI. A Redetermination of the Absolute Scale of Thermo-Electric Power of Lead”. Proceedings of the Royal Society A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences. 245 (1241): 213.)
【発明を実施するための形態】
【0013】
超塑性成形技術は、結晶性の金属粉末の緻密化に使用することができる。周知の粉末冶金技術も金属粉末を緻密化できるが、種々の物理特性及びプロセス条件に依拠する。超塑性成形では、固体相変態を循環するようにサイクル化される結晶性の金属粉末が内部応力を生成し、超塑性的挙動が現れる。超塑性成形の最大の欠点は成形速度が遅いことであるため(完成時間は、2分から2時間までと多様である)、部品の十分な緻密化のために多くのサイクルを使用すると粉末緻密化は長時間を要しうる。
【0014】
粉末緻密化において加えられる圧力により、粉末は空隙を埋める。通常、金属の相図は圧力に伴って変化する相転移境界の転移温度を示す。したがって、圧力サイクル化は固相間の循環転移を得るための一方法を提供する。しかしながら、ほとんどの金属は圧力に伴い示す温度変化が小さいため、非実用的なほどに大きい圧力変化を必要とする。
【0015】
温度サイクル化は、適用する温度を部品の境界で上昇させたり低下させたりする別の使用可能な方法を提示する。温度変化が部品の境界から中心へと熱拡散する所要時間によって、サイクル時間は部分的に定められる。部品における相変化によりサイクル時間は長くなる。相変化の最中は温度が一定であり、依然として相変化が生じている厚みの部分にわたっては温度勾配が存在しない。温度勾配がないため熱の移動が発生せず、プロセスは長時間に及ぶ場合があり、部品の大きい厚みではプロセスは更に長期化する。
【0016】
加熱ステップ(α-β転移)は、電流を部品に通し、粉末にジュール熱を使用して相転移を押し進めることで短縮することができる。均一な温度においても、部品全体にわたり幾分か均一な相転移とすることができる。しかしながら、サイクルの冷却ステップのための類似の方法は存在しない。
【0017】
したがって、本明細書で開示する方法及び装置は、相転移温度において金属粉末のゼーベック係数とは顕著に異なるゼーベック係数を有する電極を使用する。例えば、チタン粉末と共に、モリブデン又はタングステン電極が使用されうる。ペルティエ効果(Peltier effect)により、このゼーベック係数の差は、電極と粉末との間の接合点に電流が流れると当該接合点で熱流束を生成する。接合点での熱流束により、接合点での材料の相転移は、既知の熱伝導によるジュール加熱又は冷却によって得られうる相転移よりも速くなる。
【0018】
チタン粉末などの導電性粒子はこのように、α―β相転移を通じたサイクル化により超塑性成形を用いてニアネットシェイプ部品へと緻密化することができる。温度及び圧力下で、電極間に収容される粉末は電極と粉末との接合点からペルティエ効果熱流束を生じさせる。ペルティエ熱流束は電流からのジュール加熱により補填されうる。ペルティエ効果は部品の境界で熱伝導損失を補う熱流束をもたらし、相転移を部品の厚みにわたってより均一にする。また、ペルティエ効果はサイクルの冷却ステップ中に境界で急激な温度勾配を生じさせ、したがって低温α相への転移を加速させる。
【0019】
放電プラズマ焼結(SPS)では、高温によって材料の速い相変化が引き起こされる。電極に最も近接した材料の部分が最初に相変化し、その後、隣接する材料へと導電的に熱が伝達される。これにより、「外側が先、次いで中央部」という材料の圧密化方法となる。また、SPSでは高熱が使用される。チタンについては、SPSは900~1400°Cの範囲で作用することが多い。
【0020】
これに対し、本明細書に記載する方法及び装置は材料のゼーベック係数(熱電力、熱電能、及び熱電感度としても知られる)に依拠する。ゼーベック係数は、ゼーベック効果により誘導される、材料にわたる温度差に応じた誘導熱電電圧(induced thermoelectric voltage)の大きさを測定したものである。一般的に、ゼーベック係数は温度依存性であるが(
図4参照)、特定の温度範囲内では温度依存性が低い場合もある。重要なことに、本明細書で開示する方法及び装置は所望のゼーベック係数が選択される温度を規定する。
【0021】
本明細書で開示する方法及び装置とSPSとの間には類似点(例えば、緻密化される材料に電流が流れること)がある一方で、相違点も存在する。SPSは粒子を焼結させることで緻密化を高めるように作用し、これは、加工される材料を、材料が一つの粒子から離れて隣接する粒子に堆積する温度にまで上昇させる必要があることを意味している。より大きい粒子はより小さい粒子を犠牲として材料をもたらしていることが多い。SPSでは一般に超塑性成形よりも高い温度が使用される。超塑性緻密化は、粒子の形状を互いに適合するように変化させることにより作用する。最終製品においてサイズが顕著に変化しない周知のサイズの粒子を用いて開始することに利点がある。
【0022】
チタンの焼結温度は900~1400°Cの範囲内であり、1260°Cであることが多い。この温度範囲の下限ではSPSにおける高い最終密度がもたらされないので、通常はより高い温度を使用する。チタンのα相とβ相との間の転移のための温度は883°Cである。本明細書で開示する方法及び装置においては、省エネルギー、及び加工上の利点がより低い温度で得られ、結果としてより低いコスト及びより良質な製品をもたらす。
【0023】
焼結に必要なより高い温度を回避することにより、粒体が凝結し平均粒径が増加する結晶粒成長が抑制され、且つツールに関する要求を軽くすることができる。また、本明細書で開示する方法及び装置では、相変化現象を通じた超塑性成形を促進することによって、より低い圧力で圧密化の速度を上昇させる。更に、相変化寸法差を通じた超塑性成形挙動を促進することによって、より複雑なコンポーネントにおいて粒子を圧密化するのに十分な一様な圧力、及び材料の流れが可能となる。これにより最終製品の寸法により近いコンポーネントを得ることもできる。
【0024】
本明細書で開示する方法及び装置では、ペルティエ効果に依拠する意図を伴って設計することにより、ペルティエ効果の有利な使用が可能となる。他の方法において偶発的に発生したペルティエ効果がもたらす実際の有益性はわずかであるか、又は存在しない。例えば、本明細書では交流電流を使用することで温度変化を部品全体に波及させ、且つ、相変化温度付近で完了したときに相変化を生じさせて超塑性成形特性をもたらすことができる。対称的に、SPSは直流パルスを使用しており、熱波動の波及は発生せず、したがって超塑性成形特性をもたらすことはない。むしろ、直流パルスは部品の一方側から他方の側への温度の静的な差を生じさせる。
【0025】
したがって、一方法は、第1の電極と第2の電極の間に、第1の電極と第2の電極に接触させて導電性粒子を配置することを含む。粒子は第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらす。第1の電極は第1のゼーベック係数を呈し、第2の電極は第1のゼーベック係数よりも大きい第2のゼーベック係数を呈し、粒子は第1のゼーベック係数と第2のゼーベック係数との間の第3のゼーベック係数を呈する。
【0026】
方法は、粒子を、低温固相から高温固相への加熱相転移のための温度を上回る、より高い温度まで加熱しながら圧縮することを含む。加熱することは、第2の電極から粒子を通って第1の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を生成することを含む。加熱の結果、粒子は低温固相から高温固相へと相転移する。
【0027】
粒子の加熱相転移後、粒子を、高温固相から低温固相への冷却相転移のための温度を下回る、より低い温度まで冷却しながら圧縮する。冷却することは、第1の電極から粒子を通って第2の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を取り除くことを含む。冷却の結果、粒子は高温固相から低温固相へと相転移する。方法は、粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより緻密化することを含む。
【0028】
例として、第2のゼーベック係数は第1のゼーベック係数よりも、加熱相転移及び冷却相転移のための温度において5マイクロボルト/ケルビン(μV/K)以上大きくなりうる。第3のゼーベック係数は、加熱及び冷却相転移のための温度において第1及び第2のゼーベック係数とは少なくとも20%異なりうる。ペルティエ効果により発生する熱はゼーベック係数間の差の拡大に伴って増大する。第2の電極は、第2の電極と粒子との接合点において、モリブデン又はタングステンから構成されうるか、又は本質的に構成されうる。第1の電極は、第1の電極と粒子との接合点において、パラジウム、黒鉛、又はコンスタンタン(55%の銅と45%のニッケルとの合金)から構成されうるか、又は本質的に構成されうる。
【0029】
図4は、パラジウムのゼーベック係数と比較して、モリブデン及びタングステンのゼーベック係数が温度に伴いどのように変化するかを示す。883°C(1156K)でのチタンのα相とβ相との間の転移のための温度を含む広範囲の温度にわたり、大きな差がある。
図4には黒鉛又はコンスタンタンのゼーベック係数を示していないが、文献によると、黒鉛は
図4に示されている白金と同様の係数を呈し、コンスタンタンは白金に対し-35μV/Kの係数を呈することが報告されている。
【0030】
粒子は、結晶性であってよく、一又は複数の結晶粒を含むミクロ構造を含みうる。本明細書で開示する方法及び装置は複数の相転移を使用して粒子に超塑性を与えているため、粒径は顕著にはプロセスに影響しない。他の方法と比較すると、実質的に粒径に対して非依存性であることは有益である。放電プラズマ焼結を含む焼結などの等温アプローチでは複数の相転移を使用しないため粒径が超塑性に影響し、粒が小さいほど超塑性が高まる。
【0031】
粒子は主として、すなわち、50重量%(w%)より多いチタンを含みうる。したがって、工業用純チタン又はTi-6Al-4V(6重量%のアルミニウム及び4重量%のバナジウムを含むチタン合金)などのチタン合金、並びに、本明細書の開示と一致する特性を呈する他の金属及び金属合金を使用することができる。工業用純チタンは99.67重量%以上のチタン含有率を有する。文献によると、チタンは、0~1000°Cの温度範囲にわたり、白金に対して約15μV/K又は約12~22μV/Kのゼーベック係数を呈することが報告されている(H.W. Worner, Thermoelectric Properties of Titanium with Special Reference to the Allotropic Transformation, Austral. J. Sci. Res., Vol. 4(1), pp. 62-83 (1951).)。文献では、Ti-6Al-4Vは、2°Cで-5μV/Kのゼーベック係数を呈することが報告されている(H. Carreon, Detection of Fretting Damage in Aerospace Materials by Thermoelectric Means, Proc.SPIE 8694, 6 pp. (2013))。
【0032】
低温固相はα相であってよく、高温固相はβ相であってよい。Ti-6AI-4Vについては、温度が860°Cと1020°Cとの間で変動しうる。工業用純チタンについては、温度が863°Cと903°Cとの間で変動しうる。粒子は急速に粒子間の隙間へと形成するため、粒子径は顕著にはプロセスに影響しない。これに対し、焼結では金属を移動させる非常に遅いプロセスを使用するため、粒子径が非常に重要となる。
【0033】
粒子を圧縮下において記載した手法で緻密化することにより、有利なことに、元の粒子の粒径を実質的に維持することが可能となる。したがって、粒子を、最終製品において所望の粒径を呈するように既知の技術の下で準備し、その後、本明細書で記載する方法を使用して圧密化することができる。その後、ネットシェイプ部品又はニアネットシェイプ部品を得ることができ、最初の粒径が緻密化を経ても維持されるため、所望の粒径をもたらすための緻密化後の加工について考慮する必要はわずかであるか、又は全くない。
【0034】
約1から10ksi(キロポンド/平方インチ)の圧力が、本明細書で開示する方法及び装置に関連する。適切な圧力は、粒子が呈する粒径、加熱/冷却サイクルの回数、加熱/冷却サイクルの持続時間、及び所望の緻密化の程度を含む、様々な要因に依存する。同等の緻密化を達成するために、粒径が大きくなるほど高い圧力を使用する。また、同等の緻密化を達成するために、サイクルが少ないほど、及び/又はサイクルが短いほど高い圧力が使用される。一般的に、所与の粒径については高い緻密化ほど高い圧力を使用する。しかし、本明細書で開示する方法及び装置により、SPSと比較して少ない圧力で高い緻密化が達成される。したがって、粒子を加熱しながら圧縮すること、及び粒子を冷却しながら圧縮することはいずれも、7ksi未満、例えば1~3ksi又は2~3ksiを含む3ksi以下で粒子を圧縮する一方で、95%以上の緻密化に到達することを含みうる。
【0035】
粒子を加熱することは、ペルティエ効果以外の手段を用いた粒子への導電性熱伝達を更に含みうる。効果は低減するが、粒子を冷却することは、ペルティエ効果以外の手段を用いた粒子からの導電性熱伝達を更に含みうる。既知の熱伝達技術を使用してもよい。
図1の説明においては、他の加熱手段及び冷却手段の実施例が提供される。
【0036】
加熱相転移のための温度及び冷却相転移のための温度は通常同一であるが、粒子により構成される特定の材料の相転移特性に応じて異なることもある。粒子を加熱することは、相転移温度を1~10%上回る温度まで粒子を加熱することを含みうる。粒子を冷却することは、相転移温度を1~10%下回る温度まで粒子を冷却することを含みうる。温度範囲は、加熱/冷却の各半サイクルにおいて、粒子の総体積の95%より多くの、例えば100%の相転移に十分であることが期待される。
【0037】
第2の電極から粒子を通って第1の電極へと印加される電流、及び、第1の電極から粒子を通って第2の電極へと印加される電流は、交流電流でありうる。交流電流は、電極間の距離と一致する周波数で供給されうる。電流は、第1の電極と粒子との接合点、及び第2の電極と粒子との接合点において1~15アンペア/平方ミリメートルでありうる。
【0038】
粒子は、未完成部品の総体積分含まれうる。粒子を低温固相から高温固相へと相転移させることは、総体積の95%より多く、例えば100%を相転移させることを含みうる。粒子を高温固相から低温固相へと相転移させることは、総体積の95%より多くを相転移させることを含みうる。相転移した粒子の体積が大きいほど、緻密化の速度は上昇する傾向にある。粒子を緻密化することは、加熱相転移及び冷却相転移を繰り返しサイクル化することを含むことができ、これによって、粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより一体型部品に超塑性成形する。
【0039】
加熱相転移と冷却相転移とのサイクル化は、10回より多く、例えば15から30回繰り返されうる。本明細書で記載される他のプロセスパラメーターにより、サイクルの回数について記載した範囲で95%以上の緻密化がもたらされることが期待される。例えば、3ksi以下、15~30回のサイクルで加工を行い、95%以上の緻密化をもたらすことは、チタン部品生産のプロセス効率が著しく増加していることを示している。
【0040】
更に詳細な別の方法は、主にチタンを含む導電性粒子を、第1の電極及び第2の電極の間に、且つ第1の電極と第2の電極に接触させて配置することを含む。粒子は、第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらす。第1の電極は、第1のゼーベック係数を呈する。第2の電極は、粒子のα相とβ相との間の相転移のための温度において第1のゼーベック係数よりも5μV/K以上大きくなりうる第2のゼーベック係数を呈する。粒子は、粒子のα相とβ相の間の相転移のための温度において第1及び第2のゼーベック係数と少なくとも20%異なる第3のゼーベック係数を呈する。
【0041】
方法は、粒子を相転移温度を1~10%上回る、より高い温度まで加熱しながら7ksi未満の圧力で圧縮することを含む。加熱することは、第2の電極から粒子を通って第1の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を生成することを含む。加熱の結果、粒子はα相からβ相へと相転移する。
【0042】
粒子の加熱相転移後、方法は、粒子を、相転移温度を1~10%下回る、より低い温度まで冷却しながら7ksi未満の圧力で圧縮することを含む。冷却することは、第1の電極から粒子を通って第2の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との接合点、及び第2の電極と粒子との接合点でペルティエ効果により熱を取り除くことを含む。冷却の結果、粒子はβ相からα相に相転移する。方法は、加熱相転移及び冷却相転移を繰り返しサイクル化することを含み、これにより粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移することで一体型部品に超塑性成形する。
【0043】
例として、加熱することは、ペルティエ効果以外の手段を用いた粒子への導電的熱伝達を更に含みうる。電流は、電極間の距離に一致する周波数で、且つ第1の電極と粒子との接合点、及び第2の電極と粒子との接合点において1~15アンペア/平方ミリメートルで供給される交流電流でありうる。粒子が未完成部品の総体積分含まれているとき、α相からβ相に粒子を相転移させることは、総体積の95%より多くを相転移させることを含みうる。β相からα相に粒子を相転移させることも、総体積の95%より多くを相転移させることを含みうる。加熱相転移と冷却相転移とをサイクル化することは、15~30回繰り返されうる。
【0044】
図1は、本明細書で記載する方法を実行することにより結晶性の金属粉末などの導電性粒子を緻密化するための装置の一実施例を示す。当該装置の特徴、及びその操作方法は、本明細書で開示する他の方法及び装置に組み込んでもよい。装置100は金属粉末10を緻密化するように構成される。粉末10は、側壁20、上部電極32、及び下部電極34の間に収容される。装置はベースプレート22の上に載置される。下部電極34は、ベースプレート22の上に位置する熱ブロック50の頂部の真上に位置している。上部電極32の真上には熱ブロック40が配置される。熱ブロック40はプッシュピストンとしても機能し、その上面で圧力65を受ける。熱ブロック40及び50は、抵抗加熱器であるか、又は高温流動気体若しくは液体を収容する通路でありうる熱素子60によって加熱される。効果は低減するが、通路において低温流動気体又は液体を使用して、熱ブロック40及び50を冷却することも考えられうる。
【0045】
接続線45及び55により、交流電流が電源70から電極32、34に供給される。電源70は、電極32、34間の距離に一致する周波数を有する交流電源でありうる。電源70は、電極間の距離に一致するために十分な範囲の可変周波数を有しうるか、又は設定された所望の周波数を呈するように設計されうる。電源70は、代替的に、バイポーラ増幅器などの極性スイッチに結合された直流電源を含むことができ、これにより電流の方向を選択的に反転させて交流電流を生成しうる。電流をより均一に電極32、34へと分配するために、接続線45、55は平行ストランド47、57に分割されうる。ピストン40の垂直方向の動きに適合するように、接続線45は、側壁20のうちの一つのスロット80を通って給電する可撓性部分90を有しうる。側壁20は素子25により加熱される。プッシュピストン40内の熱素子60もまた、加熱源、冷却源、又は電力源への可撓性接続を有しうる。
【0046】
電極の材料は、金属粉末よりも著しく熱を帯びることなくプロセスのための十分な電流を流すのに十分な導電性を有する。同時に、電極の材料は、機械的な損傷を受けることなく、十分な緻密化圧力を金属粉末へと伝達できる程の機械的強度を有する。電極32、34は平行に示されており、これによって加熱及び冷却中における温度分布の均一性が高くなるが、電極32、34は非平行であってもよい。
【0047】
図1は、粉末10の上面全てと接触している上部電極32、及び粉末10の下面全てと接触している下部電極34を示す。電極32、34が粉末10の上面及び下面の全てに接触していることにより、ペルティエ加熱又はペルティエ冷却中における熱分布の均一性が増す。しかしながら、代替的に電極は粉末10の上面及び/下面にわたり区分的に分布しうることも考えられる。そうすることで、加工する部品が大きい場合などに、電極に使用する材料の量を低減することができる。熱分布の均一性が低下して、加工時間が確実に増大する可能性があるが、電極のコスト節減と比較した加工時間増大のコストでは釣り合いが取れうる。
【0048】
本文書においては、粉末10を、圧力負荷に供しつつ相転移温度を上回る温度及び下回る温度でサイクル化することによって超塑性成形が生じる。工業用純チタンの実施例では、相転移はα相とβ相との間の転移であり、約883°Cで生じる。相転移温度は、圧力の弱関数(weak function)である場合が多い。相転移を行うことの目的は個々の粒の形状を変化させることであり、それによって個々の粒はより緻密な構成(formation)への相変化の最中に圧力下で互いにずれ合う可能性がある。
【0049】
装置100のためのプロセスは、熱素子25及び60によりシステムが相転移温度をわずかに下回る温度、例えば1~10%下回る温度まで達することで開始する。圧力65が加えられる。次いで、回路内、及び金属粉末10を通って電極32と34との間に電流を流すために電源70がオンにされる。電流の流れは、ジュール加熱によって金属粉末10の大部分を加熱し、ここで、容積加熱は電流密度の2乗に比例する。
【0050】
装置100は、電極32、34と金属粉末10との間の接合点でゼーベック係数が顕著に変化するように構成される。
図2及び3に示すように、金属粉末10は電極34(S34)よりも大きいゼーベック係数(S10)を呈し、電極32は、金属粉末10(S10)よりも大きいゼーベック係数(S32)を呈する。ペルティエ効果によって、当該係数の差は電極32、34と金属粉末10との間の接合点で熱流束を生成する。下方向の電流“i”について、
図2は接合点で熱“H”が発生していることを示している。上方向の電流“i”について、
図3は接合点で熱“H”が取り除かれていることを示している。
【0051】
電流は、両方の極性について周期的に、すなわち規則的な間隔で方向を変更することにより交流としてもよい。正弦波においては、周期の1/4及び3/4で信号が徐々に正のピーク及び負のピークに到達することが観察されるであろう。本明細書で開示する方法及び装置では、矩形波のように、周期の前半及び後半にわたってより均一に電流が印加される異なる波形を使用することに有益性がある。そのようにして、選択された電流の全て又は実質的に全てを各半周期の間使用することで、サイクルの加熱部分及び冷却部分の持続時間が短縮されうる。
【0052】
交流電流の周波数の選択は電極間の距離の関数であり、換言すると、成形されている部品の厚みである。電極間の距離がより大きい場合(より厚みのある部品の場合)、体積及び質量がより多くなるため、同程度の相転移を得るためには周期はより長くなることが確実である。したがって、部品の最も薄い寸法を通って電極間に電流を流してサイクル時間を短縮することに有益性がある。
【0053】
(周波数を決定する)サイクル時間は、加熱時、総体積の95%より多く、例えば100%を低温固相から高温固相へと相転移させるのに十分となるように、また、冷却時、総体積の95%より多く、例えば100%を高温固相から低温固相へと相転移させるのに十分となるように、選択されうる。適切なサイクル時間は、部品のサイズ及び組成に依存する。本明細書で開示する方法及び装置の予想される用途について、約30秒(たとえば、工業用純チタンの小さい部品)から120秒(例えば、64チタン(Ti-6Al-4V)の複雑で大きい部品)までというサイクル時間は、既知の方法と比較して顕著なサイクル時間の減少をもたらすであろう。その結果、同程度に緻密化された同一のサイズ及び組成の部品について、本明細書で開示する方法及び装置は、粒子そのものを用いたペルティエ効果による熱の生成及び除去を含まないプロセスと比較して、緻密化の総時間を短縮することができる。
【0054】
本明細書における開示に基づくと、交流サイクル時間が周期的となるようにパラメーターが選択されうることが明らかである。しかしながら、加熱時間及び冷却時間が異なるように選択される状況においては、交流電流は非周期的でありうる。例えば、転移温度を上回る上昇の温度数が転移温度を下回る低下の温度数と異なる場合、時間は確実に異なりうる。また、選択する加熱技術及び冷却技術によっては、温度の上昇と低下とが等しい場合であっても冷却ステップの所要時間が加熱ステップより長くなることがある(逆もまた同様である)。より詳細に後述する可能な一実施例は、冷却ペルティエ効果を生成するための電流を印加しながらジュール加熱を断ち切ることを含む。
【0055】
ジュール加熱及びペルティエ効果によってどのように相転移サイクル化が加速されるのかを理解するために、熱ブロックからの加熱及び冷却のみに依拠するシステムがどのように作用するのかを最初に検討する。全てが相転移温度であり、金属粉末が低温相である状態で開始する。プロセスが継続し、熱ブロックは相転移温度を上回るある温度まで加熱される。熱ブロックの顕熱容量により、加熱には時間がかかる。熱ブロックの温度が金属粉末の温度を上回ると、熱伝導によって熱が金属粉末に流れ込む。
【0056】
初めのうちは、熱は全て当該粉末と熱ブロックとの接合点での金属粉末の相変化に使用され、金属粉末の温度は変化しない。当該粉末の厚みにわたる温度勾配は存在せず、したがって粉末の内部に熱は流れない。実際には、ひとたび接合点で相変化が発生すると、温度は相変化温度を顕著に上回って上昇し、接合点から次の副層へと熱が流れ込む。したがって、粉末層全体にわたる相変化を行うために、相転移温度を顕著に上回る温度まで金属粉末全体の温度を上昇させることが効果的である。サイクル化により相を低温相に戻すため、熱ブロックの温度を低下させる。その後、逆方向に同一の現象が生じる。
【0057】
金属粉末をジュール加熱することにより、当該粉末は均一に熱を帯び、粉末層全体にわたり効果的に且つ同時に相変化が生じる。更に、金属粉末の温度は、転移温度よりも顕著に高い温度にまで到達する必要はない。金属粉末を電流が流れる状態では加熱の傾向が強いため、低温相への転移のために冷却するときの利点はわかりづらい。しかしながら、境界のうちの一つでのペルティエ効果により、熱ブロックの温度を下げる必要なく直ちに熱が取り除かれ始める。
【0058】
熱ブロックの温度は転移温度を下回るある値に維持し、ジュール加熱、並びにペルティエ冷却及びペルティエ加熱を用いてサイクル化速度を上昇させてもよい。そのような場合、両接合点でのペルティエ加熱は、金属粉末がこれら接合点で低温を断ち切るのに役立つ。両方の接合点でのペルティエ冷却は、金属粉末をこれら接合点で低温に戻すのに役立つ。熱ブロックの温度は、プロセス促進のため上昇及び低下するようにサイクル化されうる。しかしながら、一般的には、熱ブロックの温度をサイクル化する時間は、ジュール加熱及びペルティエ効果のサイクル温度よりも長くなりやすい。
【0059】
したがって、一装置は、第1のゼーベック係数を呈する第1の電極、及び第1のゼーベック係数より大きい第2のゼーベック係数を呈する第2の電極を含む。第1の電極と第2の電極との間のダイキャビティにより、導電性粒子は、ダイキャビティ内に配置されたときに第1の電極及び第2の電極に接触し、第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらすことができる。交流電源が、第1の電極及び第2の電極に電気的に接続される。
【0060】
電源は、電流の流れの方向を選択的に変化させて、第2の電極から粒子を通って第1の電極に電流を印加するか、又は第1の電極から粒子を通って第2の電極に電流を印加することができるように構成される。また、電源は、第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点で、電流の流れの方向に応じて、ペルティエ効果加熱及びペルティエ効果冷却を発生させるのに十分な電流周波数及び十分な電流量を生成することができるように構成される。電流周波数が十分であることは、粒子を通る第1の電極と第2の電極との間の距離に依存する。装置は、粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより粒子を緻密化するために交流電流が印加されたときに、十分に圧縮することができるように構成された圧密プレス機を含む。
【0061】
例として、第2のゼーベック係数は20°Cで測定したときに第1のゼーベック係数よりも5μV/K以上大きくなりうる。第1の電極は、第1の電極と粒子との間の接合点で、モリブデン又はタングステンから構成されうるか、本質的に構成されうる。第2の電極は、第2の電極と粒子との間の接合点で、パラジウム、黒鉛、又はコンスタンタンから構成されうるか、本質的に構成されうる。第1の電極全体がモリブデン又はタングステンから構成されてもよく、及び/又は第2の電極全体がパラジウム、黒鉛、又はコンスタンタンから構成されてもよい。十分な電流周波数は、電極間の距離に適合されうる。十分な電流は、第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点において1~15アンペア/平方ミリメートルでありうる。十分な圧縮は、第1の電極及び/又は第2の電極により粒子に加えられたときに7ksi未満でありうる。
【0062】
更に、本開示は下記の条項による実施形態を含む。
【0063】
条項1.主にチタンを含み、第1の電極と第2の電極との間に導電経路をもたらす導電性粒子を、第1の電極と第2の電極との間に、第1の電極と第2の電極に接触させて配置することであって、第1の電極は第1のゼーベック係数を呈し、第2の電極は、粒子のα相とβ相との間の相転移のための温度において第1のゼーベック係数よりも5μV/K以上大きい第2のゼーベック係数を呈し、粒子は、粒子のα相とβ相との間の相転移のための温度において第1のゼーベック係数及び第2のゼーベック係数と少なくとも20%異なる第3のゼーベック係数を呈する、配置すること、
粒子を、相転移温度を1~10%上回る、より高い温度まで加熱しながら7ksi未満で圧縮することであって、加熱することは、第2の電極から粒子を通って第1の電極に電流を印加し、したがって第1の電極と粒子の間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を生成することを含む、加熱しながら圧縮すること、
加熱の結果、粒子をα相からβ相に相転移させること、
粒子の加熱相転移の後、粒子を、相転移温度を1~10%下回る、より低い温度まで冷却しながら7ksi未満で圧縮することであって、冷却することは、第1の電極から粒子を通って第2の電極へと電流を印加し、したがって第1の電極と粒子との間の接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点でペルティエ効果により熱を取り除くことを含む、冷却しながら圧縮すること、
冷却の結果、粒子をβ相からα相に相転移させること、及び
加熱相転移と冷却相転移を繰り返しサイクル化することによって、粒子を圧縮しながら加熱相転移及び冷却相転移させることにより一体型部品へと超塑性成形すること
を含む方法。
【0064】
条項2.加熱することは、ペルティエ効果以外の手段による粒子への導電性熱伝達を更に含む、条項1に記載の方法。
【0065】
条項3.電流は、電極間の距離に一致する周波数で、且つ、第1の電極と粒子との接合点、及び第2の電極と粒子との間の接合点において1~15アンペア/平方ミリメートルで供給される交流電流である、条項1に記載の方法。
【0066】
条項4.粒子は未完成部品の総体積分含まれ、粒子をα相からβ相に相転移させることは、総体積の95%より多くを相転移させることを含み、粒子をβ相からα相に相転移させることは、総体積の95%より多くを相転移させることを含む、条項1に記載の方法。
【0067】
条項5.加熱相転移及び冷却相転移をサイクル化することは15~30回繰り返される、条項1に記載の方法。
【0068】
個々の方法及びデバイスについて本明細書に記載された様々な選択肢が、矛盾が生じる場合を除いて、そのように限定されると意図していないことを本発明者らは明示的に企図する。本明細書中の個々の方法の特徴及び有益性は、他の箇所に具体的には示していないが、本明細書で論じるデバイス及び他の方法と組み合わせて使用することができる。同様に、本明細書における個々のデバイスの特徴及び有益性は、他の箇所に具体的には示していないが、本明細書で論じる方法及び他のデバイスと組み合わせて使用することができる。
【0069】
法令に従い、実施形態は、構造的特徴及び方法的特徴に関して概ね特定の言葉で記載されている。しかしながら、実施形態は、図示され記載された特定の特徴に限定されないことを理解すべきである。したがって、実施形態は、添付の適正な特許請求の範囲が適切に解釈される範囲内において、その形態又は変形例のいずれかで特許請求される。
【符号の説明】
【0070】
10 粉末
20 側壁
22 ベースプレート
25 熱素子
32 上部電極
34 下部電極
40 熱ブロック
45 接続線
47 ストランド
50 熱ブロック
55 接続線
57 ストランド
60 熱素子
65 圧力
70 電源
80 スロット
90 可撓性部分
100 装置
“I” 電流
“H” 熱