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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】床用シート
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/10 20060101AFI20220920BHJP
   E04F 15/16 20060101ALI20220920BHJP
   E04F 15/00 20060101ALI20220920BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
E04F15/10 104A
E04F15/16 A
E04F15/00 E
E04F15/00 F
E04F15/10 104E
E04F15/16 C
B32B27/00 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018046554
(22)【出願日】2018-03-14
(65)【公開番号】P2019157527
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】石田 尚也
(72)【発明者】
【氏名】林 寛充
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-131774(JP,A)
【文献】特表2005-531342(JP,A)
【文献】特開平10-076623(JP,A)
【文献】特開2015-031003(JP,A)
【文献】特開平08-060878(JP,A)
【文献】特開2017-031639(JP,A)
【文献】特開平03-007340(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0044925(US,A1)
【文献】特許第3856195(JP,B2)
【文献】特開2009-138367(JP,A)
【文献】実開昭62-162235(JP,U)
【文献】特許第3957545(JP,B2)
【文献】特開2000-54449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/10
E04F 15/16
E04F 15/00
B32B 27/00
B32B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の床下地に貼付または載置される床用シートであって、
前記床下地の上に配置され、軟質発泡樹脂からなるクッション層と、
前記クッション層の上に配置され、模様が印刷されてなる印刷層と、
前記印刷層の上に配置され、樹脂材料からなるとともに、光透過性を有する表面層と、が積層されてなり、
前記表面層は、その上面に、上方に向けて突出した複数の山部と、当該複数の山部同士の間に設けられた溝部と、を有しており、
前記複数の山部のぞれぞれは、中央部分に頂部を有し、且つ、当該頂部から前記溝部に向けて突出高さが低くなるように形成された4つの平らな斜面で外面が構成されており、平面視で四角形状を有し、
前記溝部は、平面視において、前記複数の山部の各外縁辺と境を接するように格子状に形成されているとともに、前記表面層の外縁辺まで繋がる状態で形成されており、
前記印刷層における前記模様は、前記複数の山部の各外縁辺および前記格子状に形成された溝部に沿う線部を有する模様である、
床用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の床用シートにおいて、
前記印刷層は、光透過性を有する基材と、当該基材の上面に形成され、前記模様を構成するインク膜と、前記基材の下面に形成され、前記クッション層と前記表面層との間の光の透過を抑制する隠蔽膜と、を有する、
床用シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の床用シートにおいて、
前記印刷層における前記模様は、御影石調の模様、グリッドタイル調の模様、ガラスモザイク調の模様、ファブリック調の模様、グリッド調の模様の何れかの模様である、
床用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
家屋の床には、衝撃吸収性や断熱性などが求められる。例えば、浴室の床においては、高齢者、子供、障碍者などが利用する際に、転倒などの場合にも怪我をし難いように衝撃吸収性を備えることが求められる。
【0003】
また、玄関土間や浴室などの床では、冬場などにおいて足が冷え難いように断熱性を備えることも求められる。
【0004】
このような衝撃吸収性や断熱性を備える床用のシートが、特許文献1で提案されている。特許文献1で提案されている床用シート材は、クッション層と補強層と表面層とが順に積層された構成となっている。クッション層は、軟質発泡樹脂から構成されており、表面層は、熱可塑性樹脂から構成されている。
【0005】
特許文献1で提案されている床用シートでは、軟質発泡樹脂から構成されたクッション層を備える。このため、当該床用シートを浴室などの床に貼り付けることにより、衝撃吸収性および断熱性を有する床とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-206026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1で提案されている床用シートでは、表面層に印刷や塗装を施す構造となっているので、高い意匠性を実現する上で改善の余地がある。上記特許文献1で提案の構成では、深みのある(立体感のある)意匠性を備えた床用シートを実現しようとすることは困難であると考えられる。
【0008】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、建築物の床に衝撃吸収性および断熱性を付与することができるとともに、高い意匠性を備えた床用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る床用シートは、建築物の床下地に貼付または載置される床用シートであって、前記床下地の上に配置され、軟質発泡樹脂からなるクッション層と、前記クッション層の上に配置され、模様が印刷されてなる印刷層と、前記印刷層の上に配置され、樹脂材料からなるとともに、光透過性を有する表面層と、が積層されてなり、前記表面層は、その上面に、上方に向けて突出した複数の山部と、当該複数の山部同士の間に設けられた溝部と、を有しており、前記複数の山部のぞれぞれは、前記複数の山部のぞれぞれは、中央部分に頂部を有し、且つ、当該頂部から前記溝部に向けて突出高さが低くなるように形成された4つの平らな斜面で外面が構成されており、平面視で四角形状を有し、前記溝部は、平面視において、前記複数の山部の各外縁辺と境を接するように格子状に形成されているとともに、前記表面層の外縁辺まで繋がる状態で形成されており、前記印刷層における前記模様は、前記複数の山部の各外縁辺および前記格子状に形成された溝部に沿う線部を有する模様である。
【0010】
上記態様に係る床用シートでは、軟質発泡樹脂からなるクッション層を含んでいるので、衝撃吸収性および断熱性に優れる。よって、床用シートを貼付または載置した床では、その上を歩く人が転倒したり、物を落としたりしたような場合でも床用シートで衝撃を吸収することができる。
【0011】
また、床下地に床用シートを貼付または載置した場合には、仮に床下地が冷えているような場合にも、その上に居る人が冷たく感じるのを緩和することができる。
【0012】
また、上記態様に係る床用シートでは、印刷層を表面層の下に配設しているので、上に居る人が表面層を通して印刷層で構成された模様を見た場合に、立体感のある高い意匠性を感じることができる。
また、上記態様に係る床用シートでは、表面層が複数の山部と溝部とを有する構成としているので、表面層における山部の上に水分や埃が残り難い。よって、上記態様に係る床用シートは、上に居る人が触れる山部に水分や埃が残るのを少なくすることができる。
また、上記態様に係る床用シートでは、溝部が表面層の外縁辺まで繋がる状態で形成されているので、溝部に入った水分や埃を溝部を通して床用シートから排出することができる。よって、上記態様に係る床用シートは、溝部に入った水分や埃を清掃し易い。
また、上記態様に係る床用シートでは、格子状に形成された溝部を有するので、山部の面上に水分や埃が付着しても、周囲の溝部に排除することが容易となる。
さらに、上記態様に係る床用シートでは、印刷層における模様が、格子状に形成された溝部に沿う線部を有しているので、当該床用シートの上に居る人に対して表面層に設けられた溝部を目立ちにくくすることができる。よって、上記態様に係る床用シートでは、さらに優れた意匠性を実現することができる。
【0013】
従って、上記態様に係る床用シートでは、建築物の床に衝撃吸収性および断熱性を付与することができるとともに、高い意匠性を備える。
【0014】
本発明の別態様に係る床用シートは、上記態様において、前記印刷層は、光透過性を有する基材と、当該基材の上面に形成され、前記模様を構成するインク膜と、前記基材の下面に形成され、前記クッション層と前記表面層との間の光の透過を抑制する隠蔽膜と、を有する。
【0015】
上記態様に係る床用シートは、印刷層が基材とインク膜と隠蔽膜とからなる構成となっている。そして、隠蔽膜がクッション層と表面層との間の光の透過を抑制する機能を有する膜であるので、クッション層の色(例えば、黄色)が表面層の上からは見えないようになっている。よって、上記態様に係る床用シートでは、より優れた意匠性を実現することができる。
【0016】
また、上記態様に係る床用シートでは、インク膜が基材の上面に形成されているので、インク膜がともに光透過性を有する基材と表面層とで上下を挟まれた構成となっている。これより、上記態様に係る床用シートでは、インク膜で構成された模様が浮いたように見え、より立体的な印象を与えることができる。よって、上記態様に係る床用シートでは、より高い意匠性を実現することができる。
【0025】
本発明の別態様に係る床用シートは、上記態様において、前記印刷層における前記模様は、御影石調の模様、グリッドタイル調の模様、ガラスモザイク調の模様、ファブリック調の模様、グリッド調の模様の何れかの模様である
【0026】
上記態様に係る床用シートでは、印刷層における模様が、溝部に沿う線部を有しているので、当該床用シートの上に居る人に対して表面層に設けられた溝部を目立ちにくくすることができる。よって、上記態様に係る床用シートでは、さらに優れた意匠性を実現するのに優位である。
【0027】
なお、本発明の上記態様に係る床用シートでは、前記基材は、前記表面層を構成する前記樹脂材料と同種の樹脂材料からなる、とすることができる。これは、印刷層で構成される模様によっては、間にインク膜を介さず、基材と表面層とが接する領域が存在する場合が生じ得る場合がある。このような場合において、基材と表面層とを同種の樹脂材料から構成することとすれば、上記のような基材と表面層とが直接接しているような領域において、光の屈折や反射を抑制することができる。よって、上記態様に係る床用シートでは、さらに高い意匠性を実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
上記の各態様に係る床用シートは、建築物の床に衝撃吸収性および断熱性を付与することができるとともに、高い意匠性を備える。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態1に係る床用シートを採用した浴室の構成を示す模式斜視図である。
図2図1のA部を拡大して示す模式平面図である。
図3図2のIII-III断面を示す模式断面図である。
図4】床用シートにおける表面層の構成を示す模式平面図である。
図5】床用シートにおける印刷層の構成を示す模式断面図である。
図6】床用シートに対して光が入射した場合の光路を示す模式図である。
図7】実施形態2に係る床用シートの構成の内、表面層の構成を示す模式断面図である。
図8】実施形態3に係る床用シートの構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一態様であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0031】
以下の説明で用いる図面においては、Z方向が鉛直上下方向であり、X方向およびY方向が水平方向である。
【0032】
[実施形態1]
1.浴室1の構成
本実施形態に係る浴室1の構成について、図1を用いて説明する。
【0033】
図1に示すように、浴室1には、浴槽2が設置されており、その外側に浴室床3が広がっている。浴室1の壁側には、カラン4およびシャワーヘッド5が設けられている。
【0034】
また、浴室床3の隅部分には、排水孔6が配設されている。そして、浴室床3には、排水孔6に繋がる排水溝6a,6bが設けられている。排水孔6は、蓋7で塞がれている。浴室1において、浴室床3の湯水は、排水溝6a,6bを通り、排水孔6から排水管へと排出される。
【0035】
2.浴室床3の構成
浴室床3の構成について、図2および図3を用いて説明する。図2は、図1のA部を拡大した模式平面図であり、図3は、図2のIII-III断面を示す模式断面図である。
【0036】
図2に示すように、浴槽床3を平面視するとき(図1における上側から平面視するとき)、浴室床3には、X方向およびY方向の各方向に複数の濃色模様部3aと複数の淡色模様部3bとが互いに重なり合う状態で設けられている。本実施形態に係る浴槽床3に描かれている模様は、全体として御影石調の模様となっている。
【0037】
図2に示すように、本実施形態では、一例として、濃色模様部3aおよび淡色模様部3bがともに矩形状をしている。そして、濃色模様部3aの外縁辺3cおよび淡色模様部3bの外縁辺3eは、ともにX方向に延びている。また、濃色模様部3aの外縁辺3dおよび淡色模様部3bの外縁辺3fは、ともにY方向に延びている。
【0038】
なお、複数の濃色模様部3aおよび複数の淡色模様部3bとで構成される模様は、後述する印刷層31に形成された模様であり、両模様部3a,3bが存在しない領域も、より淡色の色彩が施されている。
【0039】
次に、図3に示すように、浴室床3は、床下地9とその上に貼付された床用シート35とから構成されている。床下地9に対する床用シート35の貼付には、接着剤が用いられている。図1に示したように、床用シート35は、蓋7の上にあたる部分が切り欠かれている(切欠き部35a)。
【0040】
床用シート35は、Z方向の下側(床下地9の側)から順に、クッション層30と印刷層31と表面層32とが積層されてなる。床用シート35のZ方向の厚み寸法は、一例として、4.0mmである。
【0041】
クッション層30は、軟質発泡樹脂から形成されている。表面層32は、光透過性を有し、熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル)から構成されている。
【0042】
なお、本実施形態では、表面層32の可視光透過率を、一例として60%以上の範囲、より望ましくは65%以上の範囲としている。
【0043】
3.表面層32の構成
次に、表面層32の構成について、図3および図4を用いて説明する。図4は、表面層32の一部をZ方向上側から平面視した模式平面図である。
【0044】
図3に示すように、表面層32の上面は、上向きに突出した複数の山部32aと、複数の山部32a同士の間に設けられた溝部32bと、を有する。図4に示すように、複数の山部32aは、X方向およびY方向の双方向において、溝部32bを間に挟んで配列されており、平面視でマトリクス状に配置されている。
【0045】
溝部32bは、表面層32のZ方向上側の部分において、X方向およびY方向の双方向において、表面層32の外縁辺まで繋がった状態で形成されている。即ち、溝部32bは、図1の排水溝6a,6bに繋がるように線状に形成されている。また、本実施形態に係る溝部32bは、平面視において、全体として格子状をなすよう形成されている。
【0046】
なお、各山部32aにおけるY方向の長さ寸法LおよびX方向の長さ寸法Lは、一例として30mmである。また、溝部32bにおけるY方向の幅寸法LおよびX方向の幅寸法Lは、一例として5mmである。
【0047】
図3および図4に示すように、山部32aは、中央部分の山部頂部32dからX方向およびY方向の周辺部分に向けて形成された斜面部32cとで構成されている。
【0048】
一方、溝部32bは、X方向およびY方向の双方向に平坦な溝部底面部32eと、溝部底面部32eと山部32aの斜面部32cとの間に設けられた溝部斜面部32fとが連続するように設けられている。
【0049】
ここで、図3のB部に拡大して示すように、斜面部32cと溝部斜面部32fとの境界部分である角部32gは、曲面を以って構成されている。同じように、図3のC部に拡大して示すように、溝部底面部32eと溝部斜面部32fとの境界部分である角部32hも、曲面を以って構成されている。
【0050】
なお、本実施形態では、角部32gおよび角部32hの曲率半径を、一例としてR0.5mmとしている。
【0051】
また、図3に示すように、本実施形態では、Z方向における山部頂部32dから角部32gまでの高さ寸法Tを、一例として0.5mmとしている。同様に、Z方向における角部32gから溝部底面部32eまでの高さ寸法Tを、一例として0.5mmとしている。
【0052】
図4に示すように、山部32aの外縁辺32i(図3の角部32gに相当)は、上述のように、X方向およびY方向の長さ寸法L,Lがともに30mmの正方形の山部32aを規定している。そして、詳しい図示を省略しているが、本実施形態では、平面視における山部32aの角部32jについても、曲面を以って構成されている。角部32jの曲率半径も、一例としてR0.5mmとしている。
【0053】
なお、図4では、印刷層31の模様を表していないが、本実施形態では、濃色模様部3aの外縁辺3c,3dおよび淡色模様部3bの外縁辺3e,3fが、山部32aの外縁辺32i(溝部32bの幅方向縁辺)に沿うように形成されている。即ち、床用シート35では、平面視における模様の各模様部3a,3bの外縁辺3c,3eがX方向に延び、外縁辺3d,3fが、Y方向に延びるように模様が形成されているので、X方向およびY方向に延びる各山部32aの外縁辺32iに沿うようになっている。
【0054】
4.印刷層31の構成
印刷層31の構成について、図5を用いて説明する。図5は、印刷層31の構成を示す模式断面図である。
【0055】
図5に示すように、印刷層31は、光透過性を有し、熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル)からなる基材310と、基材310のZ方向上側に形成されたインク膜311と、基材310のZ方向下側に形成された隠蔽膜312と、からなる。
【0056】
基材310におけるZ方向の厚み寸法Tは、一例として0.1mmである。インク膜311の厚み寸法Tおよび隠蔽膜312の厚み寸法Tは、ともに10μm以下、望ましくは1μm以下である。
【0057】
ここで、本実施形態では、基材310の可視光透過率を、一例として85%以上、望ましくは88%以上としている。
【0058】
本実施形態では、一例として、基材310に対して白色塗料をベタ塗りして隠蔽膜312を形成している。このため、隠蔽膜312が形成された基材310の可視光透過率を、一例として55%以下、望ましくは50%以下となる。
【0059】
5.床用シート35に入射した可視光R,Rの光路
上記のような構成を有する床用シート35に対して、Z方向上側から入射した可視光R,Rの光路について、図6を用いて説明する。図6は、床用シート35に入射した可視光R,Rの光路を示す模式図である。
【0060】
図6に示すように、浴室1において、可視光R,Rは、Z方向上側から入射する。入射した可視光R,Rのうちの可視光Rは、表面層32を厚み方向(Z方向)に進み、インク膜311の上側面311aで反射して表面層32をZ方向上側に抜けて行く。これにより、浴室1に居る人は、印刷層31に形成された模様(本実施形態では、一例として御影石調の模様)を見ることができる。
【0061】
一方、入射した可視光R,Rのうちの可視光Rは、インク膜311をZ方向下側に透過し、隠蔽膜312の上側面312aで反射される。そして、上側面312aで反射された可視光Rは、インク膜311および表面層32を透過してZ方向上側に抜けて行く。これによっても、浴室1に居る人は、印刷層31に形成された模様を見ることができる。
【0062】
さらに、本実施形態に係る床用シート35では、基材310のZ方向下側、即ち、クッション層30の上に隠蔽膜312を形成しているので、例えばクッション層30が黄色みを帯びているような場合にも、可視光R2がクッション層30まで到達し反射してくることが抑制されるので、クッション層30の色が可視光R,Rの色度や印刷層31の模様などに影響を与え難い。
【0063】
6.各部位に用いる材料の例
床用シート35を構成する各部位に用いる材料としては、例えば、次のような材料をあげることができる。
【0064】
(1)クッション層30
塩化ビニル樹脂、可塑剤および化学発泡剤を含有する塩化ビニル発泡シートを採用することができる。
【0065】
なお、塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-エチレン共重合体樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、EVA樹脂などを採用することができる。
【0066】
また、可塑剤としては、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシルのようなニ塩基酸エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトのようなリン酸エステル系可塑剤、塩素化パラフィン、ポリエステル系可塑剤をあげることができる。これらは単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
また、化学発泡剤としては、熱分解型有機発泡剤が使用される。具体的には、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゼンスルホニルホドラジド、p-トルエンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン等を挙げることができる。
【0068】
さらに、本実施形態の塩化ビニル発泡シートには、上記以外に、カルボン酸亜鉛塩およびカルボン酸縮合物の部分エステル化合物のうち少なくとも1つが含まれていることが好ましい。好ましくは、カルボン酸亜鉛塩およびカルボン酸縮合物の部分エステル化合物の両方が含有される。
【0069】
塩化ビニル発泡シートに用いることができるカルボン酸亜鉛塩としては、例えば、カルボン酸亜鉛正塩、塩基性カルボン酸亜鉛塩、並びにカルボン酸亜鉛正塩及び過塩基性カルボン酸亜鉛塩の混合物挙げることができる。なかでも好ましいカルボン酸亜鉛塩は、カルボン酸2モルに対し酸化亜鉛1モルを反応して得られるカルボン酸正塩と、カルボン酸に対し過剰の酸化亜鉛を反応させることで得られる塩基性カルボン酸亜塩の混合物からなるものである。
【0070】
(2)表面層32
表面層32は、上述のように、床用シート35における化粧層として機能する層であり、熱可塑性樹脂で構成される。
【0071】
熱可塑性樹脂としては、特に限定はされないが、例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、EVA樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル系樹脂等を使用することができる。なかでも、塩化ビニル樹脂は、加工性、作業性という観点から好ましく用いられる。
【0072】
塩化ビニル樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-エチレン共重合体樹脂等が挙げられる。
【0073】
また、前記熱可塑性樹脂には可塑剤や充填剤等の添加剤を加えてもよい。
【0074】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸イソヘプチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシルのようなフタル酸エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルトリメリット酸のようなトリメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシルのようなニ塩基酸エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトのようなリン酸エステル系可塑剤、塩素化パラフィン、ポリエステル系可塑剤をあげることができる。これらは単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0075】
充填剤は強度を付与するために光透過性を阻害しない範囲で必要に応じて添加されるが、その具体例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミ、クレー、シリカ等挙げることができる。
【0076】
(3)基材310
基材310には、表面層32を構成する材料と同種の材料(樹脂材料)を用いることができる。ただし、必ずしも同種の樹脂材料を用いなくてもよい。
【0077】
7.効果
本実施形態に係る床用シート35では、軟質発泡樹脂からなるクッション層30を含んでいるので、衝撃吸収性および断熱性に優れる。よって、床下地9に床用シート35を貼付した床3では、その上を歩く人が転倒したり、物を落としたりしたような場合でも床用シート35で衝撃を吸収することができる。また、床下地9に床用シート35を貼付した場合には、仮に床下地9が冷えているような場合にも、その上に居る人が冷たく感じるのを緩和することができる。
【0078】
また、本実施形態に係る床用シート35では、印刷層31を表面層32の下層(Z方向下側)に配設しているので、当該床用シート35の上に居る人は、表面層32を通して印刷層31で構成された模様(本実施形態では、一例として御影石調の模様)を見た場合に、立体感のある高い意匠性を感じることができる。
【0079】
また、本実施形態に係る床用シート35は、印刷層31が基材310とインク膜311と隠蔽膜312とからなる構成となっている。そして、隠蔽膜312が白色のベタ塗りにより構成され、クッション層30と表面層32との間の可視光Rの透過を抑制する機能を有する膜であるので、クッション層30が黄色みを帯びていた場合にも、当該クッション層30の色が表面層32の上からは見えないようになっている。よって、本実施形態に係る床用シート35では、より優れた意匠性を実現することができる。
【0080】
また、本実施形態に係る床用シート35では、インク膜311が基材310の上面に形成されているので、インク膜311がともに光透過性を有する基材310と表面層32とで上下を挟まれた構成となっている。これより、床用シート35では、インク膜311で形成された模様が浮いたように見え、より立体的な印象を与えることができる。よって、本実施形態に係る床用シート35では、より高い意匠性を実現することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る床用シート35では、隠蔽膜312を白色のベタ塗り膜(基材310の下面全体に形成した膜)としているので、クッション層30の色み(例えば、黄色み)が上側から見えるのを確実に抑制することができ、基材310における表面層32側に形成されたインク膜311の模様がより高い意匠性を以って表面層の上に居る人に見せることが可能である。
【0082】
なお、隠蔽膜312については、白色のベタ塗り膜以外にも、銀色のベタ塗り膜などの光反射膜とすることもできる。
【0083】
また、本実施形態に係る床用シート35では、表面層32が複数の山部32aと溝部32bとを有する構成としているので、表面層32における山部32aの上(斜面部32c)に水分や埃が残り難い。そして、床用シート35では、溝部32bが表面層32の外縁辺まで繋がる状態で形成されているので、溝部32bに入った水分や埃を溝部32bを通して床用シート35から排出することができる。よって、床用シート35は、上に居る人が触れる山部32aに水分や埃が残るのを少なくすることができるとともに、溝部32bに入った水分や埃を清掃し易い。
【0084】
また、本実施形態に係る床用シート35では、表面層32の角部32g,32h,32jが曲面を以って構成されているので、上を歩いたり立ったりしている人が足裏に刺激を受け難く、また、水分や埃を溝部に落ちやすくすることができる。
【0085】
また、本実施形態に係る床用シート35では、表面層32が、平面視で格子状に形成された溝部32bを有するので、山部32aの斜面部32c上に水分や埃が付着しても、周囲の溝部32bに排除することが容易となる。
【0086】
また、本実施形態に係る床用シート35では、印刷層31で形成された模様部3a,3bの外縁辺(線部)が、山部32aの外縁辺32i(溝部32bの幅方向縁辺)に合致または沿うように構成されているので、当該床用シート35の上に居る人に対して表面層32の山部32aおよび溝部32bを目立ちにくくすることができる。よって、床用シート35では、さらに優れた意匠性を実現するのに優位である。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る床用シート35は、建築物の床3に衝撃吸収性および断熱性を付与することができるとともに、高い意匠性を備える。
【0088】
なお、本実施形態に係る床用シート35では、基材310と表面層33とを同種の樹脂材料である熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル)を用いて形成することとしている。このため、本実施形態では、印刷層31で構成される模様によっては、間にインク膜311を介さず、基材310と表面層33とが接する領域が存在する場合が生じ得る場合であっても、当該領域において、光の屈折や反射を抑制することができ、さらに高い意匠性を実現することができる。
【0089】
[実施形態2]
実施形態2に係る床用シートの構成について、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態に係る床用シートの構成の内、表面層33の構成を示す模式断面図である。
【0090】
なお、本実施形態に係る床用シートは、以下で説明する表面層33の構成を除き、上記実施形態1に係る床用シート35と同じ構成を有する。
【0091】
図7に示すように、本実施形態に係る床用シートの表面層33も複数の山部33aと溝部33bとをZ方向上側部分に有する。そして、本実施形態に係る表面層33が上記実施形態1に係る表面層32と異なる点は、山部33aの形状にある。
【0092】
具体的には、本実施形態に係る表面層33では、山部33aが扁平直方体形状のブロック部33c,33d,33eの積層構造を有している。ブロック部33dはブロック部33cよりもX方向およびY方向にサイズが大きく、ブロック部33eはブロック部33dよりもX方向およびY方向にサイズが大きい。
【0093】
表面層33の山部33aは、上記のような積層構造を採用することにより、中央部分からX方向およびY方向の周辺部分に向けて高さが段階的に低くなってゆくようになっている。
【0094】
上記構成を有する表面層33を備える床用シートにおいても、上記実施形態1に係る床用シート35と同じ効果を得ることができる。
【0095】
[実施形態3]
実施形態3に係る床用シート85の構成について、図8を用いて説明する。図8は、本実施形態に係る床用シート85の構成を示す模式断面図である。
【0096】
なお、本実施形態に係る床用シート85は、以下で説明する補強層83を有する点を除き、上記実施形態1に係る床用シート35と同じ構成を有する。
【0097】
図8に示すように、床用シート8は、Z方向下側から順に、クッション層30、補強層83、印刷層31、および表面層32が積層されてなる。この内、クッション層30、印刷層31、および表面層32については、上記実施形態1に係る床用シート35の各部位と同じ構成を有する。
【0098】
補強層83は、一例として、ガラス繊維を含む不織布から形成されてなる層である。Z方向における補強層83の厚み寸法は、例えば、0.3mm~1.0mmの範囲である。なお、補強層83の厚み寸法を0.3mm未満とした場合には、必要な剛性を確保することができなくなるとともに、寸法の安定性も低下してしまう。
【0099】
一方、補強層83の厚み寸法を1.0mmよりも厚くした場合には、印刷層31との接着性が低下し、耐久性を得られなくなる。
【0100】
ここで、補強層83に用いられる不織布としては、上述したようなガラス繊維を含む不織布が用いられるが、ガラス繊維だけでは引張り強度が十分でない場合があるため、ガラス繊維にポリエチレンテレフタレート(PET)繊維またはパルプ等を混合させた不織布を用いることが好ましい。
【0101】
なお、ガラス繊維・PET繊維混合不織布を用いる場合、ガラス繊維に対するPET繊維の混合割合が40~70%程度のものを用いることが好ましい。一方、ガラス繊維・パルプ混合不織布を用いる場合、ガラス繊維に対するパルプの混合割合が40~70%程度のものを用いることが好ましい。
【0102】
さらに、補強層83におけるZ方向下側(クッション層30の側)に、塩化ビニル樹脂またはアクリル樹脂を含浸させてもよい。
【0103】
塩化ビニル樹脂またはアクリル樹脂は、補強層83の厚み全体に対し、30~70%程度の厚みまで、前記熱可塑性樹脂を含浸させることが好ましい。30%未満となると、充分な接着性が得られず、層間剥離が起こる可能性があり、70%を超えると、補強層83としての剛性が低く寸法安定性が得られなくなるため、好ましくない。
【0104】
塩化ビニル樹脂またはアクリル樹脂の含浸量は、塩化ビニル樹脂またはアクリル樹脂の塗工量によって調節することができる。
【0105】
上記構成を有する補強層83を備える床用シート85においても、上記実施形態1に係る床用シート35と同じ効果を得ることができる。
【0106】
[変形例]
上記実施形態1~3では、浴室1の浴室床3に用いる床用シート35,85を一例に構成の説明をしたが、床用シートの用途はこれに限定を受けるものものではない。例えば、玄関土間に対して床用シートを用いることとしてもよい。なお、玄関土間に床用シートを用いる場合には、清掃時などに床用シートを外すことができるように、粘着剤などで床用シートを貼付するようにしてもよい。また、床用シートを単に載置だけにすることともできる。
【0107】
また、上記実施形態1~3では、インク膜311の形成方法については、特に言及しなかったが、種々の印刷方法を採用することができる。例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、転写シートを用いた転写印刷、あるいはインクジェット装置を用いた印刷などを採用することができる。
【0108】
また、上記実施形態1~3では、表面層32の表面側(Z方向上側)に複数の山部32aと溝部32bとを設けることとしたが、本発明では、必ずしも山部および溝部を設けなくてもよい。
【0109】
また、上記実施形態1では、表面層32の複数の山部32aのそれぞれを、山部頂部32dを頂点とした三角形の断面形状を有する構成としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、ドーム形(球面の一部を切り取ったような形状)の山部を設けることとしてもよい。
【0110】
また、上記実施形態1では、印刷層31で形成される模様の一例として、御影石調の模様を採用することとしたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、グリッドタイル調、ガラスモザイク調の模様、ファブリック調の模様、グリッド調の模様、御影石調の模様などを採用することも可能である。
【0111】
ここで、印刷層31で形成する模様については、上記実施形態1のように、表面層32の山部32aの外縁辺32iに沿う外縁辺を有する模様とすることが、表面層32の溝部32bを目立ち難くするとの観点から望ましい。
【符号の説明】
【0112】
1 浴室
3 浴室床(床)
9 床下地
30 クッション層
31 印刷層
32,33 表面層
32a,33a 山部
32b,33b 溝部
32g,32h 角部
35,85 床用シート
81 補強層
310 基材
311 インク膜
312 隠蔽膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8