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特許7143105電力需給制御システム、電力需給制御用プログラム及び電力需給制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】電力需給制御システム、電力需給制御用プログラム及び電力需給制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/46 20060101AFI20220920BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20220920BHJP
   H02J 3/04 20060101ALI20220920BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20220920BHJP
【FI】
H02J3/46
H02J13/00 301B
H02J13/00 311R
H02J3/04
H02J13/00 311U
G06Q50/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018075756
(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公開番号】P2019187099
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
(72)【発明者】
【氏名】村上 好樹
(72)【発明者】
【氏名】市川 量一
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-202346(JP,A)
【文献】特開2011-166891(JP,A)
【文献】特開平08-137822(JP,A)
【文献】特開2001-339861(JP,A)
【文献】特開2009-219315(JP,A)
【文献】特開2017-151717(JP,A)
【文献】特開2011-114919(JP,A)
【文献】特開2013-027210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00 - 5/00
H02J 13/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における電気的な変化量を検出する検出部と、
前記変化量に基づいて地域要求電力(AR値)を算出するAR算出部と、
発電機のメリットオーダーに基づいて前記地域要求電力(AR値)を配分し前記発電機ごとにAR配分値を算出するAR配分部と、
前記発電機のメリットオーダーに基づいて前記発電機ごとにリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC算出部と、
前記AR配分値及び前記リアルタイムEDC値から前記発電機ごとに目標指令値を作成する目標指令値作成部と、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する伝送部と、を備えた電力需給制御システム。
【請求項2】
電力系統における電気的な変化量を検出する検出部と、
前記変化量に基づいて地域要求電力(AR値)を算出するAR算出部と、
発電機の出力変化速度の大きい順に前記地域要求電力(AR値)を配分して前記発電機ごとにAR配分値を算出するAR配分部と、
発電機のメリットオーダーに基づいて前記発電機ごとにリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC算出部と、
前記AR配分値及び前記リアルタイムEDC値から前記発電機ごとに目標指令値を作成する目標指令値作成部と、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する伝送部と、
を備えた電力需給制御システム。
【請求項3】
前記リアルタイムEDC算出部は、前記発電機のメリットオーダーに基づいて前記発電機ごとにリアルタイムEDC値を算出し、さらに、前記リアルタイムEDC値に関して自エリアに並列する電源、かつ需給調整市場から調達した調整力におけるインバランス量を配分し、当該インバランス量の配分結果として前記リアルタイムEDC値を含めるようにする請求項1又は2に記載の電力需給制御システム。
【請求項4】
前記リアルタイムEDC算出部は、前記発電機の運転能力に応じて前記調整力における前記インバランス量を配分する請求項3に記載の電力需給制御システム。
【請求項5】
複数エリアにおける前記地域要求電力(AR値)をエリア間で跨いで融通が可能か否かを判定するAR判定部を備え、
前記AR配分部は、前記AR判定部の判定結果を受けてエリア間の融通が可能であれば複数のエリア間で前記地域要求電力(AR値)を配分し、エリア間の融通が不可であれば個々のエリア内で前記地域要求電力(AR値)を配分する請求項1~のいずれかに記載の電力需給制御システム。
【請求項6】
複数エリアにおける前記インバランス量をエリア間で跨いで融通が可能か否かを判定するインバランス量判定部を備え、
前記リアルタイムEDC算出部は、前記インバランス量判定部の判定結果を受けてエリア間の融通が可能であれば複数のエリア間で前記インバランス量を配分し、エリア間の融通が不可であれば個々のエリア内で前記インバランス量を配分する請求項3に記載の電力需給制御システム。
【請求項7】
電力系統における電気的な変化量を検出する検出処理と、
前記変化量に基づいて地域要求電力(AR値)を算出するAR算出処理と、
発電機のメリットオーダーに基づいて前記地域要求電力(AR値)を配分して前記発電機ごとにAR配分値を算出するAR配分処理と、
前記発電機のメリットオーダーに基づいて前記発電機ごとにリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC算出処理と、
前記AR配分値及び前記リアルタイムEDC値から前記発電機ごとに目標指令値を作成する目標指令値作成処理と、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する伝送処理と、
をコンピュータに実行させる電力需給制御用プログラム。
【請求項8】
電力系統における電気的な変化量を検出する検出処理と、
前記変化量に基づいて地域要求電力(AR値)を算出するAR算出処理と、
発電機のメリットオーダーに基づいて前記地域要求電力(AR値)を配分して前記発電機ごとにAR配分値を算出するAR配分処理と、
前記発電機のメリットオーダーに基づいて前記発電機ごとにリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC算出処理と、
前記AR配分値及び前記リアルタイムEDC値から前記発電機ごとに目標指令値を作成する目標指令値作成処理と、
前記発電機に前記目標指令値を伝送する伝送処理と、
をコンピュータが実行する電力需給制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力系統の需給制御を行う電力需給制御システム、電力需給制御用プログラム及び電力需給制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統の需要(負荷)は、季節的・時間的・瞬間的に時々刻々絶えず変動する。電力系統の負荷変動は、変化幅の小さい振動と周期を持った脈動成分や、不規則な変動成分が重畳したものであり、次の3つの成分に分けることができる。
数分周期までの微小変動分のサイクリック分、
数分から10数分程度までの短周期変動分のフリンジ分、
10数分以上の長周期変動分のサステンド分である。このうち、サイクリック分は、ガバナフリー運転する発電所の調速機の特性を適正にすれば、自動的に調整整可能である。
【0003】
フリンジ分については変動量が大きいのでガバナフリーでは調整しきれない。そこで、負荷周波数制御(LFC:Load Frequency Control、以下LFCと呼ぶ)によって対応する。LFCとは、電力系統における周波数偏差や電力変動量といった電気的な変化量を検出し、連系線潮流及び系統周波数を一定に維持するように発電機の出力を調整する制御である。
【0004】
LFCでは、系統の周波数や他系統との連系線潮流の変化に応じて中央給電指令所が各発電機(以下、発電設備あるいは発電ユニットとも称する)の出力調整指令を出す。ただし、LFCでは短周期変動に対応する制御なので、出力調整の指令を全ての発電ユニットに出すわけではない。具体的には、速い出力変動を行っても問題とならない石油焚き火力ユニットや水力ユニットなどに対して出力調整指令が出される。また、原子力ユニットや石炭焚き火力ユニットなどには出力調整指令は出されることはない。
【0005】
以上のようなLFCだけでは発電所の出力変化能力が不足することがあり、発電所間の経済的な負荷配分が問題となる。このため、長周期変動分であるサステンド分に対しては、発電所の経済運用が主体となって、各発電所に対して最経済となるよう負荷配分を行う制御、経済負荷配分制御(EDC;Economicload Dispatch Control、以下、EDCと呼ぶ)を行う。LFCとEDCを合わせて需給調整と呼んでいる。
【0006】
EDCでは、1日の負荷曲線に見られるゆっくりした大きな負荷変動に対して、中央給電指令所から指令を出して各発電機の出力調整を行っている。ゆっくりした負荷変動は過去の経験から、かなりの精度で予測することができる。そのため、EDCでは、予測された負荷に対して最もコスト、すなわち燃料費が少なくなるように、発電機の出力配分を計算して各発電機の出力を決定する。
【0007】
近年、電力システム改革が検討されており、2020年を目途に一般送配電事業者の法的分離が実施される。これに伴い、一般送配電事業者が調整力を調達するための需給調整市場が導入される予定である。需給調整市場の設計に当たっては、市場運営の中立性と価格の透明性の確保、市場メカニズムを活用した効率的な需給調整の実現、必要な調整力の安定的な調達、といった要件を満たす必要がある。
【0008】
そのため、需給調整市場価格の公開、メリットオーダーでの発電、従来の一般電気事業者以外の電源やデマンドレスポンスの活用、調整の柔軟性が高い電源(周波数調整用の電源)が評価される仕組み等が重要となる。特に、需給調整市場の導入を円滑に進める観点から、調整力の公募調達と調整力の運用に関して、公平性及び透明性を確保することが強く求められている。
【0009】
また、新たなライセンス制の下では、旧一般電気事業者に代わって、一般送配電事業者がアンシラリーサービスを担うことになる。そのため、一般送配電事業者は、アンシラリーサービスの実施に必要な電源等を、調整力として発電事業者等から調達する責務を負う。と同時に、一般送配電事業者は、調整力確保に必要なコストを託送料金で回収することができる。このような一般送配電事業者を巡る仕組みが正常に機能するためにも、一般送配電事業者により調整力の調達時の公平性及び透明性が確保されることが重要である。
【0010】
上記にて示したように、今後は一般送配電事業者が、系統全体の周波数維持等の高品質な需給調整力を需給調整市場から調達しなくてはならないが、その際の公平性及び透明性の確保が不可欠である。従って、一般送配電事業者は、市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場に立って需給調整を行うことが要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2001-238355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、需給調整を担う現行のLFCやEDCは、今後導入が予定される需給調整市場に対応するものではないので、既存のLFCやEDCを、そのまま需給調整市場に適用することは困難である。従って、需給調整市場の成立に求められる系統運用者としての中立性維持と、十分な需給制御性能の確保とを、両立させることは難しかった。そこで将来の電力システム改革に向けて、電力需給制御技術においては、需給調整市場からの調整力調達に際しての公平性及び透明性を確保し、かつ需給制御性能を悪化させることなく、需給制御を実施することが要求されている。
【0013】
本実施形態は上記事情に鑑みてなされたものであり、今後導入が予定される需給調整市場からの調整力調達に対応して、LFCだけではなくEDCも踏まえた上でメリットオーダーによる需給調整を可能とし、調整力調達時の公平性及び透明性を確保すると共に、優れた需給制御性能を発揮する電力需給制御システム、電力需給制御用プログラム及び電力需給制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を達成するために、本実施形態に係る電力需給制御システムは、次の構成要素(a)~(f)を備えている。
(a)電力系統における電気的な変化量を検出する検出部。
(b)前記変化量に基づいて地域要求電力(AR値)を算出するAR算出部。
(c)発電機のメリットオーダーに基づいて前記地域要求電力(AR値)を配分し前記発電機ごとにAR配分値を算出するAR配分部。
(d)発電機のメリットオーダーに基づいて前記発電機ごとにリアルタイムEDC値を算出するリアルタイムEDC算出部。
(e)前記AR配分値及び前記リアルタイムEDC値から前記発電機ごとに目標指令値を作成する目標指令値作成部。
(f)前記発電機に前記目標指令値を伝送する伝送部。
【0015】
本発明の実施形態には、上記各部の処理をコンピュータに実行させる電力需給制御用プログラムとして捉えた実施形態と、上記各部の処理をコンピュータが実行する電力需給制御方法として捉えた実施形態とが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態の構成を示すブロック図
図2】発電端総需要値及び発電計画データを示すグラフ
図3】リアルタイムEDC値を示すグラフ
図4】第1の実施形態の需給調整処理のフローチャート
図5】第1の実施形態のAR配分処理のローチャート
図6】第1の実施形態のメリットオーダーによるAR配分処理のフローチャート
図7】第1の実施形態のEDCにおけるエリアインバランス量配分処理のフローチャート
図8】第1の実施形態に係る需給調整市場による商品設計の内訳を示す図
図9】第1の実施形態のAR配分部のブロック図
図10】第1の実施形態のAR配分部のブロック図
図11】第1の実施形態のEDCによるエリアインバランス量配分を示すフローチャート
図12】第1の実施形態の変形例によるAR配分処理のフローチャート
図13】第1の実施形態の変形例によるAR配分処理のフローチャート
図14】第2の実施形態による2エリア連系を示すイメージ図
図15】第2の実施形態による複数エリア連系を示すイメージ図
図16】第2の実施形態によるLFCを行う際のフローチャート
図17】第2の実施形態によるEDCを行う際のフローチャート
図18】他の実施形態のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
[構成]
図1を参照して、第1の本実施形態に係る電力需給制御システムについて具体的に説明する。本実施形態において、同一構成の装置や部材が複数ある場合にはそれらについては同一の番号を付して説明を行う。ただし、同一構成の装置や部材を個々に説明する場合には共通する番号にアルファベットの添え字を付けて区別することとする。
【0018】
(1)全体構成
第1の本実施形態に係る電力需給制御システムは、電力系統9aに接続された複数の発電設備1、自然エネルギー発電設備2、検出装置3、制御装置4及びMMI(マンマシンインターフェース)5を有する。電力系統9aは、連系線9cを介し他の他系統9bに接続される。各発電設備1は、検出用の信号線7、制御用の信号線8及びMMI5を介して制御装置4に接続される。
【0019】
本電力需給制御システムでは、以下のデータが、入力、出力、送受信または記憶される。
a1.発電設備1ごとの発電電力値
b1.自然エネルギー発電設備2ごとの発電電力値
c1.周波数変化量:ΔF
c2.他系統9bとの連系線9cにおける潮流電力変化量:ΔPT
c3.電力系統9aの融通電力:P0
d1.目標指令値
f1.平滑前AR値
f2.平滑後AR値
f3.配分されたAR値(AR配分値)
g1.1日分の発電計画データ
g2.前日需要予測値
g3.日ごとの発電端総需要値
g4.前日自然エネルギー予測値
g5.リアルタイムEDC値(経済負荷配分の計算結果)
【0020】
(2)発電設備1
発電設備1は、発電機にて発電し電力系統9aに電力を供給する電力供給設備である。第1の実施形態には、複数種類の発電設備1a~1nが設けられている。例えば、発電設備1aは、出力変化速度の速いもの、具体的には水力機等の高速機である。発電設備1bは、出力変化速度のやや遅いもの、具体的には石油火力機等の中速機である。発電設備1nは、出力変化速度の極めて遅いもの、具体的には石炭火力機等の低速機である。
【0021】
これらの発電設備1は、検出用の信号線7を介し制御装置4に対して、a1「発電設備1ごとの発電電力値」を送信するようになっている。また、発電設備1は、制御用の信号線8を介し制御装置4からd1「目標指令値」を送られ、これに基づいて発電電力が制御される。
【0022】
(3)自然エネルギー発電設備2
自然エネルギー発電設備2は、例えば太陽光発電装置にて発電し、電力系統9aに対し電力を供給する電力供給設備である。第1の実施形態には、複数の自然エネルギー発電設備2a~2nが設けられている。自然エネルギー発電設備2は、制御装置4に対してb1「自然エネルギー発電設備2ごとの発電電力値」を送信するようになっている。
【0023】
(4)検出装置3
検出装置3は、電力系統9aにおける電気的な変化量を検出する測定装置である。検出装置3は、電力系統9aに接続されている。検出装置3は、電力系統9aに関するc1「周波数変化量ΔF」及びc2「潮流電力変化量ΔPT」を検出し、c3「融通電力P0」を設定して、これらc1~c3の各データを制御装置4に報知する。
【0024】
(5)制御装置4
制御装置4は、パーソナルコンピュータ等の計算機から構成される装置である。制御装置4は通常、電力の監視制御を行う制御室等に配置されている。制御装置4は、発電設備1から送信されるa1、自然エネルギー発電設備2から送信されるb1、検出装置3から送信される電力系統9aに関するc1~c3のデータを、それぞれ入力する。制御装置4は、需給制御に関する演算を行い、発電設備1に対してd1「目標指令値」を送信する。
【0025】
制御装置4は、構成要素として、入力部41、伝送部42、目標指令値作成部43、AR算出部44、AR平滑部45、AR配分部46、総需要算出部47、発電計画データ作成部48、リアルタイムEDC算出部49、前日需要予測計算部50、前日自然エネルギー予測計算部51を有する。
【0026】
制御装置4の構成要素のうち、入力部41及び伝送部42、は、ハードウェアで構成される。それ以外の構成要素、すなわち目標指令値作成部43、AR算出部44、AR平滑部45、AR配分部46、総需要算出部47、発電計画データ作成部48、リアルタイムEDC算出部49、前日需要予測計算部50、前日自然エネルギー予測計算部51は、機能ブロックとしてソフトウェアモジュールで構成される。
【0027】
入力部41は、例えば受信回路により構成される。入力部41は、入力側が信号線7を介し発電設備1に接続され、出力側が目標指令値作成部43に接続されている。入力部41は、発電設備1からa1「発電設備1ごとの発電電力値」を入力し、これを目標指令値作成部43に出力する。
【0028】
伝送部42は、例えば送信回路により構成される。伝送部42は、入力側が目標指令値作成部43に接続され、出力側が制御用の信号線8を介し発電設備1に接続されている。伝送部42は、目標指令値作成部43からd1「目標指令値」を入力し、これを発電設備1に出力する。
【0029】
目標指令値作成部43は、入力側がAR配分部46及びリアルタイムEDC算出部49に接続され、出力側が伝送部42に接続されている。目標指令値作成部43は、AR配分部46からf3「配分されたAR値(AR配分値)」を、リアルタイムEDC算出部49からg5「EDC値(経済負荷配分の計算結果)」を、それぞれ入力する。目標指令値作成部43は、上記f3,g5から発電設備1ごとにd1「目標指令値」を作成し、これを伝送部42に出力する。
【0030】
AR算出部44は、入力側が自然エネルギー発電設備2及び検出装置3に接続され、出力側がAR平滑部45に接続されている。AR算出部44は、自然エネルギー発電設備2からb1「自然エネルギー発電設備2ごとの発電電力値」を、検出装置3からc1「周波数変化量ΔF」、c2「潮流電力変化量ΔPT」及びc3「融通電力P0」を入力する。AR算出部44は、上記b1,c1~c3のデータに基づいて、f1「平滑前AR値」を算出し、これをAR平滑部45に出力する。
【0031】
AR平滑部45は、入力側がAR算出部44に接続され、出力側がAR配分部46及びリアルタイムEDC算出部49に接続されている。AR平滑部45は、AR算出部44からf1「平滑前AR値」を入力する。AR平滑部45は、f1「平滑前AR値」に基づいて周波数分解を行い、f2「平滑後AR値」を求めて、これをAR配分部46及びリアルタイムEDC算出部49に出力する。
【0032】
AR配分部46は、入力側がAR平滑部45に接続され、出力側が目標指令値作成部43に接続されている。AR配分部46は、AR平滑部45からf2「平滑後AR値」を入力し、このf2のデータに基づいて、発電設備1ごとに配分したf3「配分されたAR値(AR配分値)」を算出する。f3「配分されたAR値」は、各発電設備1への配分量であって、AR配分部46では発電設備1のメリットオーダーに基づいて算出される。
【0033】
また、AR配分部46は、f3「配分されたAR値」を発電設備1の運転能力に応じて、例えば、発電設備1の発動までの応動時間に応じて、配分するようになっている。AR配分部46は、各目標指令値作成部43に対してf3のデータを出力する。なお、AR配分部46による発電設備1ごとのAR配分処理については、図3図4のフローチャートを説明する際に詳述する。
【0034】
総需要算出部47は、入力側が入力部41に接続され、出力側がリアルタイムEDC算出部49に接続されている。総需要算出部47は、各発電設備1からから送信されたa1のデータ、各自然エネルギー発電設備2から送信されたb1のデータを、それぞれ入力部41から入力する。総需要算出部47は、上記a1及びb1のデータを累積加算してg3「日ごとの発電端総需要値」を算出し、これをリアルタイムEDC算出部49に出力する。
【0035】
前日需要予測計算部50は、運用データとしてg2「前日需要予測値」を作成し、これを発電計画データ作成部48に出力する。前日自然エネルギー予測計算部51は、運用データとしてg4「前日自然エネルギー予測値」を作成し、これを発電計画データ作成部48に出力する。なお、予測データであるg2、g4は、予め定められた一定時間ごとに算出され、新たな予測値に更新されるようにしてもよい。
【0036】
発電計画データ作成部48は、前日需要予測計算部50から得たg2「前日需要予測値」、前日自然エネルギー予測計算部51から得たg4「前日自然エネルギー予測値」に基づいて、g1「1日分の発電計画データ」のデータを作成し、これをリアルタイムEDC算出部49に出力する。
【0037】
リアルタイムEDC算出部49は、入力側が総需要算出部47、発電計画データ作成部48及びAR平滑部45に接続され、出力側が各目標指令値作成部43に接続されている。リアルタイムEDC算出部49は、発電計画データ作成部48からg1「1日分の発電計画データ」を、総需要算出部47からg3「日ごとの発電端総需要値」を、AR平滑部45からf2「平滑後AR値」をそれぞれ入力する。
【0038】
リアルタイムEDC算出部49は、これらのデータg1、g3、f2に基づいて経済負荷配分を行い、発電設備1のメリットオーダーによって、経済負荷配分の計算結果としてg5「リアルタイムEDC値」を発電設備1ごとに算出する。g5「リアルタイムEDC値」とは、電力需給制御システム全体として経済的になるよう発電設備1ごとにスケジュール配分された発電電力値である。
【0039】
具体的には、g5「リアルタイムEDC値」は、g3「日ごとの発電端総需要値」からg1「1日分の発電計画データ」を減算し、f2「平滑後AR値」を加算して算出する(g5=g3-g1+f2)。例えば、図2に示したデータがg3「日ごとの発電端総需要値」とg1「1日分の発電計画データ」であり、図3に示したデータがg5「リアルタイムEDC値」である。ここでは平滑後AR値=0とする。リアルタイムEDC算出部49は算出したg5「リアルタイムEDC値」を各目標指令値作成部43に出力する。
【0040】
また、リアルタイムEDC算出部49は、発電設備1のメリットオーダーによって自エリアにおけるEDC対象のエリアインバランス量を配分する。インバランス量を配分するとき、リアルタイムEDC算出部49は、EDC周期に合わせてエリアインバランス量を均等配分するようになっている。さらにリアルタイムEDC算出部49は、発電設備1の運転能力に応じてエリアインバランス量を配分するようになっている。なお、リアルタイムEDC算出部49によるエリアインバランス量の配分処理については、図5及び図9のフローチャートを説明する際に詳述する。
【0041】
エリアインバランス量とは、あるエリアの未来の時間帯において、手当されている電力量と、要求された電力量との差分である。要求された電力量の方が手当されている電力量よりも大(つまりAR値が正)であれば、エリアインバランス量の不足=調達すべき電力量の不足を意味する。反対に、要求された電力量の方が手当されている電力量よりも小(つまりAR値が負)であれば、エリアインバランス量の過多=調達すべき電力量の過多を意味する。
【0042】
[作用]
図4は制御装置4に内蔵された電力需給制御用プログラムのフロー図である。制御装置4は図4に示した手順にて動作及び演算を行う。ステップS20では、AR算出部44が、通信部(図中不示)を介して、自然エネルギー発電設備2からb1「自然エネルギー発電設備2ごとの発電電力値」と、検出装置3からc1「周波数変化量ΔF」と、c2「潮流電力変化量ΔPT」と、c3「融通電力P0」とを入力する。
【0043】
AR算出部44は、入力した上記b1,c1~c3に基づいてf1「平滑前AR値」を以下の演算式(1)により算出する。
平滑前AR値=-K・ΔF+ΔPT ・・・(1)
AR値:地域要求電力[MW]
K:系統定数[MW/Hz]
ΔF:周波数偏差[Hz]
ΔPT:連系線における潮流電力の変化量
上記(1)式では、自系統に流入する電力の潮流方向を正の値としている。
【0044】
ステップS21では、AR平滑部45がf1「平滑前AR値」をフーリエ展開により周波数分解することでf2「平滑後AR値」を算出する。ステップS22では、f2「平滑後AR値」に基づいて、AR配分部46がf3「配分されたAR値」を算出する。上記のステップS20~22に並行して、ステップS201~204が実施される。
【0045】
ステップS201では、前日需要予測計算部50がg2「前日需要予測値」を求め、前日自然エネルギー予測計算部51がg4「前日自然エネルギー予測値」を求めて、これらの運用データを発電計画データ作成部48に出力する。ステップS202では、発電計画データ作成部48がg2「前日需要予測値」、g4「前日自然エネルギー予測値」に基づいてg1「1日分の発電計画データ」を作成し、このデータをリアルタイムEDC算出部49に出力する。
【0046】
ステップS203では、総需要算出部47が、a1「発電設備1ごとの発電電力値」と、b1「自然エネルギー発電設備2ごとの発電電力値」とを累積加算し、g3「日ごとの発電端総需要値」の算出を行い、このデータをリアルタイムEDC算出部49に出力する。
【0047】
ステップS204では、g1「1日分の発電計画データ」、g3「日ごとの発電端総需要値」及びステップS21でAR平滑部45により周波数分解されたf2「平滑後AR値」に基づいて、リアルタイムEDC算出部49が、各発電設備1に対する経済負荷配分を行い、発電設備1ごとにg5「リアルタイムEDC値」を算出する。リアルタイムEDC算出部49は、g5「リアルタイムEDC値」を各目標指令値作成部43に出力する。
【0048】
ステップS23では、各目標指令値作成部43が、AR配分部46からf3「配分されたAR値」を、リアルタイムEDC算出部49からg5「リアルタイムEDC値」を、それぞれ入力し、これらのデータに基づいて各発電設備1に対するd1「目標指令値」を算出する。ステップS24では、目標指令値作成部43がd1「目標指令値」を伝送部42に出力する。伝送部42がd1「目標指令値」を各発電設備1に伝送する。ステップS25では、各発電設備1が伝送部42からd1「目標指令値」を受ける。
【0049】
次に、AR配分部46の発電設備1ごとのAR配分値の算出について、図5を用いて説明する。図5に示すAR配分部46のコンピュータプログラムのフロー図は、図4におけるステップS22の詳細である。
【0050】
図5に示すように、ステップS41では、AR配分部46は、AR平滑部45がf1「平滑前AR値」をフーリエ展開により周波数分解したf2「平滑後AR値」を取得する。ステップS42では、AR配分部46は、f2「平滑後AR値」つまり周波数分解された地域要求電力(AR値)が、数10秒~1、2分周期であるか否かを判断する。
【0051】
f2「平滑後AR値」のうち、数10秒~1、2分周期である地域要求電力(AR値)(S42の「YES」)については、ステップS43に移行する。ステップS43において、AR配分部46は、数10秒~1、2分周期であると判断された地域要求電力(AR値)分を、高速発電機(例えば水力機)にて分担するように配分する。
【0052】
f2「平滑後AR値」のうち、数10秒~1、2分周期に該当しない地域要求電力(AR値)(S42の「NO」)については、ステップS44に移行する。ステップS44では、AR配分部46は、f2「平滑後AR値」のうち数10秒~1、2分周期に該当しないと判断された地域要求電力(AR値)について、1、2分~数分周期であるか否かを判断する。
【0053】
f2「平滑後AR値」のうち、1、2分~数分周期である地域要求電力(AR値)(S44の「YES」)については、ステップS45に移行する。ステップS45において、AR配分部46は、1、2分~数分周期であると判断された地域要求電力(AR値)分を、低速発電機(例えば石炭火力機)にて分担するように配分する。
【0054】
一方、f2「平滑後AR値」のうち、1、2分~数分周期に該当しない地域要求電力(AR値)分(S44の「NO」)については、ステップS46に移行する。ステップS45において、AR配分部46は、1、2分~数分周期に該当しないと判断された地域要求電力(AR値)分を、EDCの対象となる発電機にて分担するように配分する。
【0055】
以上のように、AR配分部46では、変動周期成分の短い(数10秒~1,2分周期)ものは高速機(例えば水力機)が分担し、変動周期成分の長い(1,2分~数分周期)のものは低速機(例えば、火力機)が分担し、それよりも長い変動周期成分(数分周期以上)はEDC発電機が分担するように地域要求電力(AR値)を配分する。つまり、第1の実施形態では、地域要求電力(AR値)の変動周期成分に応じてAR分担量を分ける処理を行っている。
【0056】
<LFC>
第1の実施形態におけるLFCについて説明する。LFCにより地域要求電力(AR値)の配分を行う場合、図1図4図5に示したように、周波数変化量(ΔF)と連系線潮流変化量(ΔPT)により地域要求電力(AR値)を算出して、地域要求電力(AR値)を平滑化する。その後、LFCの対象となる発電設備1に対して、地域要求電力(AR値)を配分する。
【0057】
本実施形態のLFCの制御方式としては、周波数バイアス連系線電力制御方式(以下、TBCと呼ぶ)を採用する。TBCとは、周波数変化量(ΔF)と連系線における潮流電力の変化量(ΔPT)とを検出し、地域要求電力(AR)を算出して、地域要求電力(AR値)に応じて発電設備1の出力を制御する制御方式である。
【0058】
なお、LFCの制御方式としては、次のような方式も知られている。
(a)定周波数制御(FFC):周波数変化量(ΔF)を検出して、ΔFを少なくするように発電設備1の出力を調整し、系統の周波数のみを規定値に保つように制御する制御方式。
【0059】
(b)定連系電力制御(FTC):連系線における潮流電力の変化量(ΔPT)を検出して、ΔPTを少なくするように発電設備1の出力を調整し、連系線における潮流電力のみを規定値に保つように制御する制御方式。
【0060】
また、LFCにて、AR配分部46が地域要求電力(AR値)を配分する際、これまでは発電設備1の出力変化速度比あるいは出力余裕比等にて配分していた。しかし今後は、一般送配電業者が需給調整市場により需給調整力を確保することから、市場参加者に対する系統運用者の中立性の立場により、メリットオーダーによる需給調整を行うことが要請される。
【0061】
そこで第1の実施形態では、LFCを行う場合に、まず自エリアにおけるLFC相当のエリアインバランス量の決定を行い、その後、AR配分部46は、発電設備1のメリットオーダーにより地域要求電力(AR値)を配分する。図6は、LFCにおいて発電設備1のメリットオーダーによる配分方式を示すフローチャートである。
【0062】
図6に示すように、AR配分部46は、LFC周期(例えば、10秒周期)分のエリアインバランス量を決定した後(ステップS51)、メリットオーダーリストの作成を行う(ステップS52)。その後、全ての地域要求電力(AR値)を配分するまで、各発電設備1におけるLFC周期の出力変化速度制約と上下限制約を考慮した上で、メリットオーダーリストに従って地域要求電力(AR値)を配分する(ステップS53~56)。AR配分部46が全ての地域要求電力(AR値)の配分を完了すると(ステップS53のYes)、目標指令値作成部43は、地域要求電力(AR値)の配分結果であるf3「AR配分値」を含むd1「目標指令値」を、各発電設備1へ送出する(ステップS57)。
【0063】
<EDC>
第1の実施形態においてEDCを行う場合に、図1図4に示したように、発電計画データ作成部48からのg1「1日分の発電計画データ」と、総需要算出部47からのg3「日ごとの発電端総需要値」と、AR平滑部45からのf2「平滑後AR値」とを、リアルタイムEDC算出部49が取り込む。リアルタイムEDC算出部49は、発電設備1ごとにg5「リアルタイムEDC値」を算出する。
【0064】
リアルタイムEDC算出部49がEDCにおけるエリアインバランス量を各発電設備1に配分する場合、従来では最もコストとなるように、すなわち燃料費が少なくなるように、発電設備1の出力を決定していた。しかし今後は、先のLFCによるAR配分と同様、EDCにおいても需給調整市場から需給調整力を確保することが求められる。
【0065】
そこで、本実施形態では、リアルタイムEDC算出部49が発電設備1のメリットオーダーにより、自エリアにおけるEDC対象のエリアインバランス量を配分する。EDCにおけるエリアインバランス量の配分処理について、図7のフローチャートに従って、説明する。
【0066】
将来の需給調整市場では、一般的なEDC周期である「5分」ではなく、30分単位での取引が想定されている。従って、本実施形態では、30分間のエリアインバランス量を、例えば5分周期におけるエリアインバランス量に均等分割する。すなわち、本実施形態では、30分のエリアインバランス量を6回に分けて、「5分」分のエリアインバランス量を配分する。
【0067】
図7に示すように、リアルタイムEDC算出部49は、EDC周期(例えば5分周期)のエリアインバランス量を決定する(ステップS61)。続いて、メリットオーダーリストの作成を行う(ステップS62)。その後、全てのエリアインバランス量を配分するまで、各発電設備1におけるEDC周期の出力変化速度制約と上下限制約を考慮した上で、メリットオーダーリストに従ってエリアインバランス量を配分する(ステップS63~66)。
【0068】
リアルタイムEDC算出部49が全てのエリアインバランス量の配分を完了すると(ステップS63のYes)、目標指令値作成部43は、d1「目標指令値」を各発電設備1へ送出する(ステッ67)。d1「目標指令値」は、エリアインバランス量の配分結果としてg5「リアルタイムEDC値」を含む。
【0069】
本実施形態では、以上のようにしてLFCによる地域要求電力(AR値)の配分、ならびに、EDCによるエリアインバランス量の配分を、発電設備1のメリットオーダーにより行う。つまり、本実施形態では、LFCだけではなくEDCも踏まえた上でメリットオーダーによる需給調整を行う。
【0070】
<調整力の細分化>
さらに今後の需給調整市場では、制御区分毎に、商品区分となる「調整力」が、より細分化されると考えられる。例えば、今後の需給調整市場として、図8に示すように、制御区分毎に、「一次調整力」「二次調整力」「三次調整力」(上げ・下げ別)が、合計10区分の商品区分となることが想定されている。そのため、LFC及びEDCの内部でも更に調整力を配分することが求められる。以下、本実施形態のLFC及びEDCにおける調整力の細分化への対応について説明する。
【0071】
<LFCにおける調整力の細分化>
図8に示したように、LFCには、一次調整力(GF相当枠)と、一・二次調整力(GF/LFC)という2つの調整力と、それぞれの調整力の上げ・下げで考えて、4つの商品区分が存在する。先に記したように、LFCでは、地域要求電力(AR値)を各発電設備1に配分することで調整力を分担している。
【0072】
第1の実施形態のAR配分部46では、地域要求電力(AR値)の周波数分解を行い、発電設備1の運転能力に応じて地域要求電力(AR値)を配分することで、細分化した調整力に対応する。図9及び図10に、地域要求電力(AR値)を配分するAR配分部46のブロック図を示す。
【0073】
図9に示すAR配分部46では、地域要求電力(AR値)の変動周期が長いものから順に、つまり発動までの応動時間が遅い発電設備1から順に、自エリアにおける地域要求電力(AR値)を配分する。図10に示すAR配分部46では、図9で示した場合とは逆に、地域要求電力(AR値)の変動周期が短いものから順に、つまり発動までの応答時間が速い発電設備1から順に、自エリアにおける地域要求電力(AR値)を配分する。
【0074】
図9及び図10に示したローパスフィルタ又はハイパスフィルタは、図8で示したす商品区分毎の「発動までの応動時間」に応じて設定されており、一次調整力、二次調整力、二次調整力(2)の各調整力を配分するように構成されている。図9及び図10内の吹き出しで示したように、AR0は「二次調整力(2)」、AR1は「二次調整力」、AR3は「一次調整力」となる。
【0075】
なお、「二次調整力(2)」に関しては、本来は図6でのEDC機能による分担と考えられる。図9及び図10において「EDCで分担」の部分がf2「平滑後AR値」である。時々刻々変動する地域要求電力(AR値)において、図8で示す「二次調整力(2)」は、「発動までの応動時間」が5分以内と定められている。
【0076】
そのため、図9による長周期成分から順に地域要求電力(AR値)を配分する場合に、地域要求電力(AR値)において長周期成分が現れるのであれば、「二次調整力(2)」にて分担する。従って、図9に示したAR配分部46によれば、地域要求電力(AR値)を余らせること無く、発電設備1にて地域要求電力(AR値)を全て分担することができ、十分な需給制御性能を保つことが可能となる。
【0077】
また、図10による短周期成分から順に配分する場合も同様であり、最終的に残った周期成分(AR0)を「二次調整力(2)」で分担する。これにより、図10に示したAR配分部46でも、に地域要求電力(AR値)を余らせること無く、発電設備1にて地域要求電力(AR値)を全て分担することができ、十分な需給制御性能を保つことが可能となる。
【0078】
<EDCにおける調整力の細分化>
図8に示すように、EDCには、二次調整力(2)「EDC-H」と、三次調整力(1)「EDC-L」という2つの調整力と、それぞれの調整力の上げ・下げで考えて、4つの商品区分が存在する。つまり、EDCでは、二次調整力(2)と三次調整力(1)という2種類の調整力が存在することになる。そのため、EDC相当のエリアインバランス量は2種類のエリアインバランス量に配分する必要がある。
【0079】
本実施形態では、図11のフローチャートに示すように、リアルタイムEDC算出部49は、EDC周期(例えば5分周期)のエリアインバランス量を決定し(ステップS71)、発電設備の運転能力、例えば出力変化速度や予備力などに応じて、二次調整力(2)と三次調整力(1)とにエリアインバランス量を分配する(ステップS72)。
【0080】
続いて、二次調整力(2)のメリットオーダーリストと、三次調整力(1)のメリットオーダーリストとをそれぞれ作成して(ステップS73、74)、各メリットオーダーに基づいて二次調整力(2)及び三次調整力(1)を配分する(ステップS75、76)。ステップS97では、目標指令値作成部43が、d1「目標指令値」を各発電設備1へ送出する(ステップS77)。
【0081】
[効果]
(1)第1の実施形態によれば、AR配分部46が自エリアにおける地域要求電力(AR値)を発電設備1のメリットオーダーによって配分し、リアルタイムEDC算出部49も発電設備1のメリットオーダーに基づいて自エリアにおけるEDC対象のインバランス量を配分する。
【0082】
このような本実施形態では、将来の需給調整市場により需給調整力を確保する場合に、LFCだけではなく、EDCも踏まえた上で、メリットオーダーによる需給調整を行うことができる。従って、本実施形態では、系統運用者の中立性の立場を堅持しつつ、需給調整市場から調整力を調達することが可能となる。これにより、調整力調達時の公平性及び透明性を確保することができる。
【0083】
(2)第1の実施形態のAR配分部46では、発動までの応動時間が遅い発電設備1から順に、あるいは発動までの応動時間が速い発電設備1から順に、自エリアにおける地域要求電力(AR値)を配分する。すなわち、発電設備1の運転能力に応じて地域要求電力(AR値)を配分することにより、LFCにおける調整力が細分化した場合に、確実に対応することができる。
【0084】
(3)リアルタイムEDC算出部49もまた、発電設備1の運転能力に応じてエリアインバランス量を配分する。そのため、EDCにおける調整力が細分化しても、これに確実に対応することができる。従って、第1の実施形態によれば、調整力が細分化された需給調整市場から調整力を調達する場合であっても、需給制御性能を悪化させることなく、需給運用を行うことができる。
【0085】
(第1の実施形態の変形例)
ところで、LFCでは制御周期が短く、数分以下、例えば10秒周期である。そのため、制御周期が数分以上となるEDCと比べて、コスト見合いの調整が困難となるおそれがある。従って、LFCでは、メリットオーダーによる需給調整に際して十分な需給制御性能を確保できない可能性がある。
【0086】
そこで第1の実施形態の変形例では、自エリアにおけるLFC相当の地域要求電力(AR値)の決定後、メリットオーダーによる配分方式とは別に、以下の2つのパターンの配分方式によって地域要求電力(AR値)を配分するようにしてもよい。
【0087】
(出力変化速度の大きい順にAR配分)
1つは発電設備1の出力変化速度の大きい順に、AR配分部46が地域要求電力(AR値)を配分する方式である。図12に示すように、AR配分部46は、LFCの制御周期(LFC周期とも呼ぶ。例えば、10秒周期)分の地域要求電力(AR値)を決定した後(ステップS81)、出力変化速度リストの作成を行う(ステップS82)。
【0088】
その後、全ての地域要求電力(AR値)を配分するまで、各発電設備1におけるLFC周期の出力変化速度制約と上下限制約を考慮した上で、AR配分部46は出力変化速度リストに従って地域要求電力(AR値)を配分する(ステップS83~86)。AR配分部46が全ての地域要求電力(AR値)の配分を完了すると(ステップS83のYes)、目標指令値作成部43は、地域要求電力(AR値)の配分結果としてf3「AR配分値」を含むd1「目標指令値」を、各発電設備1へ送出する(ステップS87)。
【0089】
(出力変化速度比に応じてAR配分)
もう1つは、発電設備1の出力変化速度比に応じて、AR配分部46が地域要求電力(AR値)を配分する方式である。図13に示すように、AR配分部46は、LFC周期(例えば、10秒周期)分の地域要求電力(AR値)を決定した後(ステップS91)、地域要求電力(AR値)の配分を行う全ての発電設備1の出力変化速度の合計値を算出する(ステップS92)。
【0090】
そして、AR配分部46は、出力変化速度比に応じて地域要求電力(AR値)を配分する(ステップS93)。その際、AR配分部46は、各発電設備1にLFC周期の出力変化速度制約と上下限制約を考慮しつつ、全ての地域要求電力(AR値)を配分する(ステップS94~96)。AR配分部46が全ての地域要求電力(AR値)の配分を完了すると、目標指令値作成部43は、地域要求電力(AR値)量の配分結果としてf3「AR配分値」を含むd1「目標指令値」を、各発電設備1へ送出する(ステップS97)。
【0091】
地域要求電力(AR値)配分に関しては基本的には、前記図9図10でも同様)にて地域要求電力(AR値)を周波数分解し、AR1で得られたものと、AR2で得られたものとを、上記の図6図12図13のフローに従って配分する。なお、図6のS51、図12のS81及び図13のS91では、「LFC周期(10秒)分の地域要求電力(AR値)の決定」と記載しているが、図9図10でも同様)では図8に示した「LFC機能」の一次調整力と、二次調整力に分解する処理のことである。
【0092】
以上のような実施形態によれば、発電機の出力変化速度の大きい順に、あるいは発電機の出力変化速度比に応じて、周波数分解した地域要求電力(AR値)を、スムーズに配分することができる。これらの実施形態では、EDCにてメリットオーダーにより需給調整を行い調整力調達時の公平性及び透明性を確保し、且つ、より優れた需給制御性能を確保することが可能である。
【0093】
(第2の実施形態)
以下、本発明に係る第2の実施形態について、図14図15を参照して具体的に説明する。上記第1の実施形態では、旧一般電気事業者が自社の発電設備を用いて行ってきたアンシラリーサービスを一般送配電事業者が運用することを想定している。これは、現在の電力会社が自社のエリア内に対して電力供給を行うものである。
【0094】
しかし将来は、自社のエリア内に対して電力供給を行うだけではなく、調整力の広域的な確保としてエリア間と連系した電力供給も考えられる。そこで、第2の実施形態は、広域需給による需給調整市場に対応したLFC及びEDCによる電力需給制御システムとする。
【0095】
図14及び図15に示すように、2エリアや2エリア以上での連系による電力供給を考える場合、各エリアの調整量を合計した調整力(他社エリアと調整力を共有)による電力供給が可能となり、必要量の低減効果が見込まれる。基本的には複数エリアであっても、第1の実施形態の電力供給を行うことができる。
【0096】
ただし、広域需給による需給調整市場に対応しようとすると、他社エリアから調達した調整力や、共有した調整力を利用可能とするため、必要な連系線の確保が不可欠となる。そのため、状況によっては、複数のエリア間を跨いだ融通ができないことも想定される。
【0097】
そのような状況を鑑みて、仮に、図14及び図15に示したような、複数エリアにおけるLFCにて地域要求電力(AR値)を考える場合には、先に示したTBC方式に基づいた連系線潮流を考えることは無く、FFC方式にて行うこととなる。その場合、地域要求電力(AR値)は(2)式にて算出する。
【0098】
AR値=-K・ΔF ・・・(2)
AR値:地域要求電力[MW]
K:系統定数[MW/Hz](エリア全体)
ΔF:周波数偏差[Hz]
このように、(2)式にてエリア全体の地域要求電力(AR値)を算出し、エリア全体で地域要求電力(AR値)を配分することとなる。
【0099】
[構成と作用]
そこで、第2の実施形態は、図14及び図15に示した広域ISOにおいて、複数エリアにおける地域要求電力(AR値)を、エリア間で跨いで融通が可能か否かを判定する判定部52が配置されている。また、AR配分部46では、判定部52の判定結果を受けて地域要求電力(AR値)を配分するようになっている。
【0100】
図16は、第2の実施形態におけるAR配分処理を示すフローチャートである。図16に示すように、エリア全体に地域要求電力(AR値)を配分する場合(ステップS101)、エリア間を跨いだ融通が可能であるかをチェックし(ステップS102)、可能であれば(ステップS102のYes)、通常の地域要求電力(AR値)の配分を行う(ステップS103)。一方、エリア間を跨いだ融通が不可であれば(ステップS102のNo)、個々のエリアA~Dに区分けして地域要求電力(AR値)を算出し(ステップS104)、個々のエリアA~D内で地域要求電力(AR値)を配分する(ステップS105)。
【0101】
また、EDCにおけるエリアインバランス量の配分も同様に考えることができる。第2の実施形態では、全てのエリアを対象としたEDCのインバランス量を各発電設備1に配分するようになっている。また、第2の実施形態は、判定部52において、複数エリアにおけるEDCのインバランス量を、エリア間で跨いで融通が可能か否かを判定するようになっている。リアルタイムEDC算出部49では、判定部52の判定結果を受けてEDCのインバランス量を配分する。
【0102】
図17は、第2の実施形態におけるインバランス量処理を示すフローチャートである。図17に示すように、全エリアにて全てのインバランス量を配分する場合(ステップS111)、エリア間の電力融通が可能であるかをチェックし(ステップS112)、可能であれば(ステップS112のYes)、通常のインバランス量の配分方式を採用し(ステップS113)、全エリアのインバランス量を配分する。また、エリア間の電力融通が不可であれば(ステップS112のNo)、個々のエリアA~Dに区分けしてエリアインバランス量を算出し(ステップS114)、個々のエリアA~D内でエリアインバランス量を配分する(ステップS115)。
【0103】
[効果]
第2の実施形態によれば、エリア間を跨いだ融通を行う際に、実際に融通量をチェックしながら地域要求電力(AR値)の配分、全エリアのインバランス量の配分が可能となり、LFC及びEDCとしての制御性能がより向上する。
【0104】
(他の実施形態)
以上、変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0105】
例えば、自然エネルギー発電設備2は、太陽光発電装置としたがこれに限られない。自然エネルギー発電設備2は、風力発電、海流発電、地熱発電でもよい。入力部41は、受信回路としたがこれに限られない。入力部41は、メモリポートやキーボードによる入力装置でもよい。上記実施形態では、発電設備1aは水力機等の高速機、発電設備1bは石油火力機としたが、発電設備1a~1nの種類はこれに限られない。また、発電設備1a~1nは任意の数量であってよい。
【0106】
上記実施形態では、図5に示したステップS42において、一例としてf2「平滑後AR値」のうち、数10秒~1、2分周期である地域要求電力(AR)値が判断されるものとしたが、判断される地域要求電力(AR)値の周期は数10秒~1、2分に限られない。また、ステップS44において、一例としてf2「平滑後AR値」のうち、1、2分~数分周期である地域要求電力(AR)値が判断されるものとしたが、判断される地域要求電力(AR)値の周期は1、2分~数分に限られない。
【0107】
図8に示した需給調整市場の運開後の電力需給制御システムとしては、図18に示すように、EDC、LFC、GFのそれぞれに対してメリットオーダーリストが存在させて、メリットオーダーに基づくエリアインバランス量の配分を行うようにしてもよい。なお、GFは、発電機に備えられた周波数の自動調整機能なので、意図的に指令を与えることはない。そのため、メリットオーダーに基づくGFでは、系統周波数が下がればメリットオーダーに基づいて自動的に発電機の出力を上げ、系統周波数が上がればメリットオーダーに基づいて自動的に発電機の出力を下げることになる。
【符号の説明】
【0108】
1,1a~1n・・・発電設備
2,2a~2n・・・自然エネルギー発電設備
3・・・検出装置
4・・・制御装置
5・・・MMI(マンマシンインターフェース)
7,7a~7n・・・検出用の信号線
8,8a~8n・・・制御用の信号線
9,9a・・・電力系統
9b・・・他の電力系統
9c・・・連系線
41,41a~41n・・・入力部
42,42a~42n・・・伝送部
43・・・目標指令値作成部
44・・・AR算出部
45・・・AR平滑部
46・・・AR配分部
47・・・総需要算出部
48・・・発電計画データ作成部
49・・・リアルタイムEDC算出部
50・・・前日需要予測計算部
51・・・前日自然エネ予測計算部
52…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18