(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物および複合成形体
(51)【国際特許分類】
C09J 129/14 20060101AFI20220920BHJP
C08L 59/02 20060101ALI20220920BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220920BHJP
C08K 5/21 20060101ALI20220920BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220920BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20220920BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20220920BHJP
C09J 123/26 20060101ALI20220920BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220920BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
C09J129/14
C08L59/02
C08K5/17
C08K5/21
C08K5/29
C08K5/3492
B29C65/02
C09J123/26
C09J11/06
C08L23/26
(21)【出願番号】P 2018077663
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017163045
(32)【優先日】2017-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】藤本 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-164083(JP,A)
【文献】特開平10-130457(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021413(WO,A1)
【文献】特開2017-080939(JP,A)
【文献】特開2006-232937(JP,A)
【文献】特開2004-026857(JP,A)
【文献】特開2012-092185(JP,A)
【文献】特開2016-222753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/26
C08L 59/02
C08K 5/17
C08K 5/21
C08K 5/29
C08K 5/3492
B29C 65/02
C09J 129/14
C09J 123/26
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂および無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を含む樹脂成分と、
1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基およびカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物を含み、
前記官能基を有する化合物の割合が、前記樹脂成分の0.1質量%以上であり、
前記無水マレイン酸基のモル量を1とした時の前記官能基のモル量比である、[(官能基のモル量/無水マレイン酸基のモル量)]が0.15~50であり、
前記ポリアセタール樹脂および前記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の質量比は、合計100質量部とした時、前記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂が50質量部超、75質量部以下であ
り、
前記官能基を有する化合物が、ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物、トリアジン化合物、ヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物、イミド化合物および尿素化合物から選択される少なくとも1種である、接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記官能基を有する化合物が、ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物、トリアジン化合物および尿素化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記官能基を有する化合物が、ヒンダードアミン化合物である、請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記官能基を有する化合物が、下記式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン化合物である、請求項1に記載の接着性樹脂組成物;
式(1)
【化1】
式(1)中、Xは、*1で特定される窒素原子と結合している原子が炭素原子である基であり、Yは、*2で特定される炭素原子と結合している原子が酸素原子または炭素原子である基である。
【請求項5】
前記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の無水マレイン酸の変性率が0.01質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアセタール樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトが60g/10分以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項7】
前記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトが10g/10分以下である、請求項1~6のいずれか1項に接着性樹脂組成物。
【請求項8】
前記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の密度が0.954g/cm
3以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂成形体と、ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂成形体と、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体の間に設けられ、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体と、それぞれ接している中間層とを有し、前記中間層が請求項1~8のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物から形成される、複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着性樹脂組成物および複合成形体に関する。特に、ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂成形体と、ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂成形体を接合するための、接着性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジニアリングプラスチックであるポリアセタール樹脂は、機械的特性、電気的特性、摺動性および耐薬品性に優れているため、例えば自動車部品、電気・電子機器部品、OA部品などに広く利用されている。これらの中で、特にポリアセタール樹脂の優れた耐薬品性を生かした用途として、自動車の燃料タンクに接続されるフランジ、バルブ、チューブ等、ガソリンなどの燃料と直接接触する燃料タンク接続用部品が挙げられる。
【0003】
一方、近年、車体を軽量化して燃費を向上させる目的で、自動車の燃料タンクの材料としてポリエチレン樹脂が使用されるようになっている。
【0004】
ここで、ポリエチレン樹脂を使用した燃料タンクに上記のポリアセタール樹脂製の燃料タンク接続用部品を取り付ける方法としては、例えばポリアセタール樹脂とポリエチレン樹脂とを溶接させる方法等が知られている。しかしながら、ポリアセタール樹脂とポリエチレン樹脂との界面の溶着性は通常は低く、溶着部分が外力によって容易に剥離し、樹脂間の界面から揮発燃料が漏洩してしまうという問題があった。特に、燃料は高い揮発性を有し、大気汚染の原因となり得るため、このような燃料の漏洩は世界的に規制されつつある。そこで、ポリアセタール樹脂と、ポリエチレン樹脂とが一体化された複合成形体の開発が強く望まれていた。
【0005】
このような複合成形体の例として、下記特許文献1には、以下の構造体が記載されている。
2種以上の樹脂成分から構成される熱可塑性樹脂接合構造体において、となりあった2つの成分が下記に示す(A)成分および(B)成分である構造を、少なくとも1つ以上有することを特徴とする熱可塑性樹脂接合構造体。
(A)成分;(A)成分の総質量に対して、5~80質量%のポリアセタール樹脂(以下(A-1)成分という)と、(A)成分の総質量に対して20~95質量%のポリオレフィン樹脂、オレフィン系エラストマー、或いは、水素添加されたブタジエン系のエラストマーから選ばれる1種以上の樹脂組成物(以下(A-2)成分という)とからなる樹脂組成物。
(B)成分;熱可塑性樹脂
【0006】
また、下記特許文献2には、ポリアセタール樹脂(A1)を含むポリアセタール樹脂成形体と、ポリエチレン樹脂(B3)を含むポリエチレン樹脂成形体と、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体の間に設けられる中間層とを有する複合成形体であって、前記中間層が、ポリアセタール樹脂(A2)とポリエチレン樹脂(B2)とを含み、前記中間層のみ、前記ポリアセタール樹脂成形体のみ、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記中間層のみ、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体のみ、または、前記ポリアセタール樹脂成形体、前記ポリエチレン樹脂成形体および中間層の全てに無機充填剤(C)が含まれ、前記ポリアセタール樹脂成形体、前記中間層および前記ポリエチレン樹脂成形体のうち、前記無機充填剤(C)を含む樹脂成形体または中間層中の前記無機充填剤(C)の含有率が各々1質量%より大きく且つ40質量%未満である複合成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-138185号公報
【文献】特開2017-80939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記特許文献2に記載の中間層(接着層)は、安定剤を含む場合がある。安定剤を配合すると、通常は、ホルムアルデヒドの発生を抑制できるが、モールドデポジットが悪化したり、ホルムアルデヒドの発生を十分に抑制できない場合があることが分かった。
本発明は、上記課題を解決することを目的とするものであって、一定の接着性を確保しつつ、モールドデポジットが抑制され、かつ、ホルムアルデヒドの発生が抑制された接着性樹脂組成物、および、前記接着性樹脂組成物を用いた複合成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<9>により、上記課題は解決されることを見出した。
<1>ポリアセタール樹脂および無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を含む樹脂成分と、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基およびカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物を含み、前記官能基を有する化合物の割合が、前記樹脂成分の0.1質量%以上であり、前記無水マレイン酸基のモル量を1とした時の前記官能基のモル量比である、[(官能基のモル量/無水マレイン酸基のモル量)]が0.15~50である、接着性樹脂組成物。
<2>前記官能基を有する化合物が、ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物、トリアジン化合物および尿素化合物から選択される少なくとも1種である、<1>に記載の接着性樹脂組成物。
<3>前記官能基を有する化合物が、ヒンダードアミン化合物である、<1>に記載の接着性樹脂組成物。
<4>前記官能基を有する化合物が、下記式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン化合物である、<1>に記載の接着性樹脂組成物;
式(1)
【化1】
式(1)中、Xは、*1で特定される窒素原子と結合している原子が炭素原子である基であり、Yは、*2で特定される炭素原子と結合している原子が酸素原子または窒素原子である基である。
<5>前記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の無水マレイン酸変性率が0.01質量%以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物。
<6>前記ポリアセタール樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトが60g/10分以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物。
<7>前記ポリエチレン樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトが10g/10分以下である、<1>~<6>のいずれか1つに接着性樹脂組成物。
<8>前記ポリエチレン樹脂の密度が0.954g/cm
3以下である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物。
<9>ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂成形体と、ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂成形体と、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体の間に設けられ、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体と、それぞれ接している中間層とを有し、前記中間層が<1>~<8>のいずれか1つに記載の接着性樹脂組成物から形成される、複合成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、一定の接着性を確保しつつ、モールドデポジットが抑制され、かつ、ホルムアルデヒドの発生が抑制された接着性樹脂組成物、および、前記接着性樹脂組成物を用いた複合成形体を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の複合成形体の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂および無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を含む樹脂成分と、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基およびカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物を含み、前記官能基を有する化合物の割合が、前記樹脂成分の0.1質量%以上であり、前記無水マレイン酸基のモル量を1とした時の前記官能基のモル量比である、[(官能基のモル量/無水マレイン酸基のモル量)]が0.15~50であることを特徴とする。このような構成とすることにより、一定の接着性を確保しつつ、モールドデポジットが抑制され、かつ、ホルムアルデヒドの発生が抑制された接着性樹脂組成物を提供可能になる。この理由は推定ではあるが、ポリアセタール樹脂とポリエチレン樹脂を含む接着性樹脂組成物において、ポリエチレン樹脂として、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を用いると、前記無水マレイン酸がポリアセタール樹脂に攻撃して、モールドデポジットを引き起こしたり、ホルムアルデヒドの発生量が多くなってしまう場合があることが分かった。本発明では、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基およびカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物(以下、単に、「官能基を有する化合物」ということがある)とポリエチレン樹脂に変性された無水マレイン酸基(以下、単に、「無水マレイン酸変性基」ということがある)の量のバランスをとることにより、上記点を効果的に抑制し、モールドデポジットとホルムアルデヒド発生量を効果的に抑制することに成功したものである。
【0014】
<樹脂成分>
本発明の接着性樹脂組成物は、樹脂成分として、ポリアセタール樹脂および無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を含む。
前記ポリアセタール樹脂および前記ポリエチレン樹脂の質量比率は、3~70:97~30であることが好ましく、10~70:90~30であることがより好ましく、20~60:80~40、25~50:75~50、25~40:75~60であってもよい。
本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。また、本発明の接着性樹脂組成物は、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0015】
本発明の接着性樹脂組成物は、上記ポリアセタール樹脂およびポリエチレン樹脂の合計が、組成物を構成する樹脂成分の95質量%以上を占めることが好ましく、97質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上であってもよい。本発明の接着性樹脂組成物は、その90質量%以上が樹脂成分であることが好ましく、95質量%以上が樹脂成分であることがより好ましく、97質量%以上が樹脂成分であることがさらに好ましい。
【0016】
<<ポリアセタール樹脂>>
本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を含む。接着性樹脂組成物に含まれるポリアセタール樹脂は2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含むホモポリマーであっても、2価のオキシメチレン基と、2価のオキシエチレン基とを構成単位として含むコポリマーであってもよいが、2価のオキシメチレン基と、2価のオキシエチレン基を構成単位として含むコポリマーであることが好ましい。ポリアセタール樹脂が2価のオキシメチレン基と、2価のオキシエチレン基を構成単位として含むコポリマーであると、熱安定性に優れるため、複合成形体もより熱安定性に優れる。
【0017】
上記ポリアセタール樹脂が2価のオキシメチレン基と、2価のオキシエチレン基とを構成単位として含むコポリマーである場合、ポリアセタール樹脂において、オキシメチレン基100molに対するオキシエチレン基の割合(コモノマー量)は特に制限されるものではないが、1.0mol以上であることが好ましい。この場合、オキシメチレン基100molに対してオキシエチレン基が1.0mol未満の割合で含まれている場合と比べて、中間層が、ポリエチレン樹脂成形体に対してより優れた接着性を有することが可能となり、ポリアセタール樹脂成形体と中間層との剥離をより十分に抑制することができる。オキシメチレン基100molに対するオキシエチレン基の割合はさらに好ましくは1.2mol以上であり、特に好ましくは1.4mol以上である。また、オキシメチレン基100molに対するオキシエチレン基の割合は5.5mol以下であることが好ましく、4.0mol以下であることがより好ましく、3.0mol以下であってもよい。
【0018】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、主原料としてトリオキサンが用いられる。また、ポリアセタール樹脂中にオキシエチレン基を導入するには、例えば1,3-ジオキソランまたはエチレンオキシド等をコモノマーとして用いればよい。
【0019】
ポリアセタール樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイト(MFR)は特に制限されるものではないが、60g/10分以下であることが好ましく、50g/10分以下であることがより好ましく、30g/10分以下であることがさらに好ましく、20g/10分以下であることが一層好ましく、10g/10分以下であることがより一層好ましく、5.0g/10分以下であることがさらに一層好ましく、3.0g/10分以下であることが特に一層好ましい。メルトフローレイトを60g/10分以下とすることにより、中間層が、ポリアセタール樹脂成形体に対してより優れた接着性を有するため、ポリアセタール樹脂成形体10と中間層20との剥離をより十分に抑制することができる。ポリアセタール樹脂のメルトフローレイトの下限値は、特に定めるものではないが、好ましくは0g/10分より大きく、より好ましくは1.0g/10分以上であり、さらに好ましくは1.5g/10分以上である。このような範囲とすることにより、接着強度がより向上する傾向にある。
ここで、メルトフローレイトは、ASTM-D1238規格に準拠した方法により測定される値をいう。
【0020】
本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を組成物の3質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、20質量%以上、25質量%以上含であってもよい。また、本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂を組成物の70質量%以下の割合で含むことが好ましく、60質量%以下の割合、50質量%以下の割合、40質量%以下の割合、35質量%以下の割合であってもよい。
【0021】
<<ポリエチレン樹脂>>
本発明の接着性樹脂組成物に含まれる無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂は、制限されるものではない。無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂あるいは超低密度ポリエチレン樹脂などを用いることができる。
無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂とは、下記式(2)で表される2種の構成単位を含むポリエチレン樹脂が例示される。本発明における無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂は、下記式(2)で表される2種の以外の構成単位を含んでいてもよいが、下記式(2)で表される2種の構成単位の合計が無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を構成する全構成単位の90モル%以上を占めることが好ましい。
式(2)
【化2】
式(2)において、mおよびnは、それぞれ、0を超える数である。本発明では、組成物中無水マレイン酸変性基のモル量と上記官能基を有する化合物に含まれる官能基のモル量が所定の範囲となるように、調整されている限り、mとnの範囲は特に定めるものではない。一例をあげると、mは0.02~5.5であり、nは830~970である。
本発明における無水マレイン酸変性基とは、ポリエチレン樹脂に結合している、無水マレイン酸で変性された基をいう。
【0022】
無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂における無水マレイン酸の変性率は特に制限されるものではないが、前記無水マレイン酸変性率が、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の総質量の0.01質量%以上であることが好ましい。無水マレイン酸変性率を0.01質量%以上とすることにより、中間層が、ポリアセタール樹脂成形体に対してより優れた接着性を有するため、ポリアセタール樹脂成形体と中間層との剥離をより十分に抑制することができる。無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の無水マレイン酸変性率はより好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.10質量%以上であり、一層好ましくは0.15質量%以上であり、より一層好ましくは、0.20質量%以上である。また、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の無水マレイン酸変性率は、2.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.50質量%以下であることがさらに好ましく、0.40質量%以下であることが一層好ましい。
【0023】
上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂は、ポリエチレン樹脂と、無水マレイン酸と、ラジカル発生剤とを均一混合しポリエチレン樹脂に対して無水マレイン酸をグラフト変性することにより製造できる。このような製造方法としては、具体的には、押出機やバンバリーミキサー、ニーダーなどを用いる溶融混練法、適当な溶媒に溶解させる溶液法、適当な溶媒中に懸濁させるスラリー法、あるいはいわゆる気相グラフト法等が挙げられる。処理温度としては、ポリエチレン樹脂の劣化、酸または酸無水物の分解、使用する過酸化物の分解温度などを考慮して適宜選択されるが、前記の溶融混練法を例に挙げると、処理温度は通常190~350℃であり、とりわけ200~300℃であることが好適である。
【0024】
上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を製造するにあたっては、加熱や洗浄などによって未反応モノマー(不飽和カルボン酸やその誘導体)や副生する諸成分などを除去する方法を採用することができる。
【0025】
グラフト変性に用いるラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α‘-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルジパーオキシイソフタレート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシアセテート、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、アセチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの中でも、半減期1分を得るための分解温度が、160~200℃のものが好ましい。分解温度が160℃以上であると、原料のポリエチレン樹脂が押出機内で十分可塑化しないうちに分解反応が始まるということを十分に抑制できるため、反応率がより高くなり、逆に分解温度が200℃以下であると、押出機内等で反応が完結しやすくなる。
【0026】
変性の対象となるポリエチレン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂あるいは超低密度ポリエチレン樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の密度は、0.970g/cm3以下であることが好ましく、0.954g/cm3以下であることがより好ましい。0.970g/cm3以下とすることにより、中間層が、ポリアセタール樹脂成形体に対してより優れた接着性を有することが可能となる。上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の密度は、さらに好ましくは0.940g/cm3以下である。また、上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の密度は、0.912g/cm3以上であることが好ましく、0.925g/cm3以上であることがさらに好ましい。ここで、上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の密度は、JIS K7112に準拠した方法により測定される値をいう。
【0028】
上記無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトは、10g/分以下であることが好ましく、2.5g/10分以下であることがより好ましく、1.5g/10分以下であることがさらに好ましく、1.0g/10分以下であることが一層好ましく、0.7g/10分以下であることがより一層好ましい。特に、ポリエチレン樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトが2.5g/10分以下であると、メルトフローレイトが2.5g/10分を超える場合に比べて、中間層が、ポリエチレン樹脂成形体に対して、より優れた接着性を有することが可能となり、ポリアセタール樹脂成形体と中間層との剥離をより十分に抑制することができる。ポリエチレン樹脂のフローレイトの下限値は、特に定めるものではないが、好ましくは0g/10分より大きく、より好ましくは0.1g/10分以上であり、さらに好ましくは0.2g/10分以上である。
【0029】
本発明の接着性樹脂組成物は、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を組成物の30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましく、60質量%以上含むことが一層好ましく、65質量%以上含むことがさらに一層好ましい。また、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂を組成物の97質量%以下の割合で含むことが好ましく、90質量%以下の割合で含むことがより好ましく、80質量%以下の割合、75質量%以下の割合で含んでいてもよい。
本発明の接着性樹脂組成物は、組成物1g当たりの無水マレイン酸変性基のモル数が1×10-7~4×10-5であることが好ましく、5×10-7~2×10-5であることがより好ましい。
尚、本発明の接着性樹脂組成物は、無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂以外のポリエチレン樹脂を含む態様を排除するものではない。
【0030】
<官能基を有する化合物>
本発明の接着性樹脂組成物は、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基およびカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物を含み、2級アミノ基、3級アミノ基およびカルボジイミド基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物が好ましい。
前記官能基を有する化合物は、ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物、トリアジン化合物、ヒドラジド化合物、セミカルバジド化合物、イミド化合物および尿素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物および尿素化合物から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、ヒンダードアミン化合物であることがさらに好ましく、下記式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン化合物であることが一層さらに好ましい。
ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物および尿素化合物から選択される少なくとも1種を用いることにより、得られる接着性樹脂組成物のメルトフローレイトをより高くすることが可能になる。
【0031】
式(1)
【化3】
式(1)中、Xは、*1で特定される窒素原子と結合している原子が炭素原子である基であり、Yは、*2で特定される炭素原子と結合している原子が酸素原子または窒素原子である基である。
Xはアルキル基であることが好ましく、炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、メチル基であることが一層好ましい。Yは、酸素原子または炭素原子を含む基である。式(1)で表される化合物を用いることにより、耐熱老化性をより向上させることができる。
上記の中でも、好ましいヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル及びトリデシル-1,2,3,4ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β,β-テトラメチル-3,9(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウデンカン)-ジエタノールとの縮合物、N,N’ ,N’ ’,N’ ’ ’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの縮合物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1ジメチルエチル)-4-ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、トリス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-ドデシル-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレートなどが挙げられる。
【0032】
本発明で用いる官能基を有する化合物は、分子量が100~1000であることが好ましい。
【0033】
本発明の接着性樹脂組成物における、官能基を有する化合物の配合量は、樹脂成分の0.1質量%以上である。前記配合量の下限値は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。前記配合量の上限値は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.9質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましい。
官能基を有する化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本発明の接着性樹脂組成物は、組成物1g当たり、官能基を10-6~10-3個含むことが好ましい。
官能基を有する化合物に含まれる官能基は、1種のみでもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
本発明の接着性樹脂組成物は、無水マレイン酸基のモル量を1とした時の前記官能基のモル量比である、[(官能基のモル量/無水マレイン酸基のモル量)]が0.15~50である。前記モル量比の上限値は、40以下であることが好ましく、30以下、20以下、10以下、5.0以下、3.0以下であってもよい。また、上記モル量比の下限値は、0.2以上、1.0以上であってもよい。
【0035】
<他の成分>
本発明の接着性樹脂組成物は、上記ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂および官能基を有する化合物以外の他の成分を含んでいてもよい。具体的には、他の成分として、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、結晶核剤、帯電防止剤、顔料等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。 また、本発明の接着性樹脂組成物は、無機充填剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、本発明の接着性樹脂組成物の無機充填剤の含有量が1質量%未満であることをいう。
さらに、本発明の接着性樹脂組成物は、ジヒドラゾン化合物(特に、特開2017-025257号公報の請求項1で規定する一般式(1)で表されるジヒドラゾン化合物(B1)および一般式(2)で表されるジヒドラゾン化合物)を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、ジヒドラゾン化合物の含有量がポリアセタール樹脂100質量部に対し、0.02質量部未満であることをいい、0.01質量部以下であることが好ましい。
【0036】
本発明では、また、接着性樹脂組成物に含まれるポリアセタール樹脂と無水マレイン酸基でグラフト変性されたポリエチレン樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトの差が1.0~3.0g/10分であることが好ましく、1.5~2.5g/10分であることがより好ましい。このような構成とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。
本発明の接着性樹脂組成物の190℃、2.16kg荷重で測定したメルトレフローイト(MFR)は、0.3g/10分以上であることが好ましく、1.0g/10分以上であることがより好ましく、2.0g/10分以上であることがさらに好ましい。上記MVRの上限は特に定めるものではないが、例えば、5.0g/10分以下、さらには、4.0g/10分以下とすることもできる。
【0037】
本発明では、また、ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂成形体と、ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂成形体と、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体の間に設けられ、前記ポリアセタール樹脂成形体および前記ポリエチレン樹脂成形体と、それぞれ接している中間層とを有し、前記中間層が本発明の接着性樹脂組成物から形成される、複合成形体を開示する。
以下、本発明の複合成形体の実施形態について
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の複合成形体の一実施形態を示す断面図である。
【0038】
図1に示すように、複合成形体100は、ポリアセタール樹脂を含むポリアセタール樹脂成形体10と、ポリエチレン樹脂を含むポリエチレン樹脂成形体30と、ポリアセタール樹脂成形体10およびポリエチレン樹脂成形体30の間に設けられる中間層20とを有する。
【0039】
中間層20は、本発明の接着性樹脂組成物から形成される。
【0040】
この複合成形体100によれば、液体有機化合物と接触した後の反りおよび膨潤を十分に抑制することが可能となる。
ここで、液体有機化合物中に含まれる有機化合物は、炭化水素、アルコール類、またはこれらの混合物などが挙げられる。
炭化水素としては、例えばトルエンのような芳香族炭化水素やイソオクタンのような脂肪族炭化水素が挙げられる。
また、アルコール類としては、例えばメタノールやエタノールなどが挙げられる。
【0041】
<ポリアセタール樹脂成形体>
ポリアセタール樹脂成形体10に含まれるポリアセタール樹脂は2価のオキシメチレン基を有するポリアセタール樹脂であれば特に限定されるものではなく、2価のオキシメチレン基のみを構成単位として含むホモポリマーであっても、例えば2価のオキシメチレン基と、2価のオキシエチレン基とを構成単位として含むコポリマーであってもよい。
【0042】
上記ポリアセタール樹脂において、オキシメチレン基100molに対するオキシエチレン基の割合は特に限定されるものではなく、例えば0~5molであればよい。
【0043】
上記ポリアセタール樹脂を製造するためには通常、主原料としてトリオキサンが用いられる。また、ポリアセタール樹脂中にオキシエチレン基を導入するには、例えば1,3-ジオキソランまたはエチレンオキシド等をコモノマーとして用いればよい。
【0044】
上記ポリアセタール樹脂の190℃、2.16kg荷重の条件で測定されるメルトフローレイトは特に限定されるものではなく、メルトフローレイトの値は、例えば0.1~200g/10分であればよい。
【0045】
ポリアセタール樹脂成形体10は、ポリアセタール樹脂を含んでいればよい。このため、ポリアセタール樹脂成形体10はポリアセタール樹脂のみで構成されていてもよいし、ポリアセタール樹脂のほか、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、結晶核剤、帯電防止剤、顔料等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。 また、本発明では、ポリアセタール樹脂成形体は、無機充填剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、ポリアセタール樹脂成形体中の無機充填剤の含有量が1質量%未満であることをいう。
本発明では、ポリアセタール樹脂成形体に含まれるポリアセタール樹脂と接着性樹脂組成物に含まれるポリアセタール樹脂の一部または全部が共通していてもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
<ポリエチレン樹脂成形体> ポリエチレン樹脂成形体30に含まれるポリエチレン樹脂はポリエチレン樹脂であれば特に限定されるものではない。このようなポリエチレン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン樹脂、中密度ポリエチレン樹脂、高圧法低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂あるいは超低密度ポリエチレン樹脂などを用いることができる。ポリエチレン樹脂成形体に含まれるポリエチレン樹脂は、酸変性されていないか、酸変性率がポリエチレン樹脂の総質量の0.01質量%未満であることが好ましい。
ポリエチレン樹脂成形体30はポリエチレン樹脂を含んでいればよい。このため、ポリエチレン樹脂成形体30は、ポリエチレン樹脂のみで構成されていてもよいし、ポリエチレン樹脂のほか、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、無機充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、結晶核剤、帯電防止剤、顔料等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合せて用いることができる。
また、本発明では、ポリエチレン樹脂成形体は、無機充填剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、ポリエチレン樹脂成形体中の無機充填剤の含有量が1質量%未満であることをいう。
本発明では、ポリエチレン樹脂成形体に含まれるポリエチレン樹脂と接着性樹脂組成物に含まれるポリエチレン樹脂の一部または全部が共通していてもよいし、異なっていてもよい。
【0047】
複合成形体の製造方法については、特開2017-080939号公報の段落0077~0090の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0048】
本発明の複合成形体は、例えばバルブ装置、リサーキュレーションライン、ベントライン、フューエルセンダーモジュール用フランジ、および、燃料タンクの内壁面に接着される旋回槽等の燃料タンク接続用部品などに適用することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0050】
<ポリアセタール樹脂(POM)>
POM-1:オキシエチレン基がオキシメチレン基100molに対して1.6molの割合で含まれており、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が2.5g/10分であるアセタールコポリマー
POM-2:オキシエチレン基がオキシメチレン基100molに対して1.6molの割合で含まれており、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が9.0g/10分であるアセタールコポリマー
POM-3:オキシエチレン基がオキシメチレン基100molに対して1.6molの割合で含まれており、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が27g/10分であるアセタールコポリマー
POM-4:オキシエチレン基がオキシメチレン基100molに対して1.6molの割合で含まれており、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が57g/10分であるアセタールコポリマー
【0051】
<ポリエチレン樹脂(PE)>
PE-1:密度が0.933g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が0.5g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.21質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
PE-2:密度が0.933g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が0.5g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.5質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
PE-3:密度が0.933g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が0.5g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.01質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
PE-4:密度が0.933g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が1.8g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.21質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
PE-5:密度が0.933g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が9.7g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.21質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
PE-6:密度が0.922g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が0.5g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.21質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
PE-7:密度が0.954g/cm3(JIS K7112準拠)、メルトフローレイト(ASTM-D1238規格:190℃、2.16kg)が0.5g/10分であり、無水マレイン酸変性率が0.21質量%である酸変性ポリエチレン樹脂
【0052】
無水マレイン酸変性率の測定は、無水マレイン酸変性ポリエチレンを180℃で熱プレスして、100μmのフィルムを作製し、赤外吸収スペクトルを測定する方法により得た。具体的には赤外吸収スペクトルの1790cm-1のピークの吸光度と4250cm-1のピークの吸光度との比を求め、予め準備しておいた赤外スペクトルによる吸光度比の値と1H-NMRによる無水マレイン酸変性率測定値との相関による検量線から得た。組成物中の無水マレイン酸基の数は、無水マレイン酸変性率から算出した。
【0053】
<安定剤>
HALS-1:Tinuvin765、BASF社製、下記化合物
ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート
HALS-2:Tinuvin770、BASF社製、下記化合物
ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート
HALS-3:Tinuvin622、BASF社製
コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの縮合物
トリアジン:メラミン、Chimassorb944、BASF社製
尿素:エチレン尿素(2-イミダゾリジノン)、関東化学社製
カルボジイミド:カルボジライトLA-1、日清紡社製、
ポリ(4,4’-ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)
ナイロン6:UBEナイロン 1013B、宇部興産社製
【0054】
<実施例1~25および比較例1~3>
ポリアセタール樹脂、ポリエチレン樹脂および安定剤を、表1~3に示す配合量にて川田製作所社製、スーパーミキサーで混合して混合物を得た後に、この混合物を2軸押出機(池貝鉄工社製「PCM-30」、スクリュー径30mm)で溶融混練して押出を行い、押出機から吐出されるストランドを水槽で冷却しペレタイザーでカットして、実施例1~25および比較例1~3のペレットをそれぞれ得た。
【0055】
<<接着性の評価>>
特開2017-080939号公報の段落0110~0112の記載に従って、接着強度を測定した。すなわち、特開2017-080939号公報の実施例1において、中間層形成用原料のペレットとして、上記で得られたペレットを用い、他は同様に行って、ポリアセタール樹脂成形体に対する中間層の接着性試験(対POM接着強度)およびポリエチレン樹脂成形体に対する中間層の接着性試験(対PE接着強度)を測定した。単位は、Nで示した。
【0056】
<<モールドデポジット(MD)>>
住友重機械工業社製ミニマットM8/7A成形機を用い、特開2012-233129号公報の
図1に示すようなしずく型金型を用いて、シリンダー温度220℃、金型温度40℃で1,000ショット連続成形し、終了後金型付着物の状態を肉眼で観察し、下記のA~Dの4段階の基準で評価した。
A:金型付着物が殆どなく、金型汚染性は極めて良好
B:金型付着物が少しあるものの、金型汚染性は良好
C:金型付着物が多く、金型汚染性が不良
D:金型付着物が全体におよび、金型汚染性が極めて不良
【0057】
<<ホルムアルデヒド発生量>>
上記で得られたペレットを、温度80℃の熱風乾燥機を用いて4時間乾燥させ、日精樹脂工業社製、射出成形機PS-40を用い、シリンダー温度215℃、金型温度80℃にて100mm×40mm×2mmの平板試験片を成形した。得られた平板試験片を、その成形翌日に、ドイツ自動車工業組合規格VDA275(自動車室内部品-改訂フラスコ法によるホルムアルデヒド放出量の定量)に記載された方法に準拠して、下記の方法によりホルムアルデヒド発生量(HCHO発生量)を測定した。
具体的には、ポリエチレン容器中に蒸留水50mLを入れ、試験片を空中に吊るした状態で蓋を閉め、密閉状態で60℃にて、3時間加熱し、ついで、室温で60分間放置後、試験片を取り出し、ポリエチレン容器内の蒸留水中に吸収されたホルムアルデヒド量を、紫外線(UV)スペクトロメーターにより、アセチルアセトン比色法で測定した。
なお、ホルムアルデヒド発生量は、比較例1のホルムアルデヒド発生量を100としたときの、各実施例、比較例のホルムアルデヒド発生量の割合(質量比)として示した。
【0058】
<<メルトフローレイト(MFR)>>
ISO1133に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件でMFRを測定した。
【0059】
<<耐熱老化性>>
上記で得られたペレットをシリンダー温度195℃、金型温度90℃にてISO3167-1A型の試験片を成形した。その成形片を23℃50%RH(相対湿度)環境下に24時間放置後、日本電色工業社製、分光色差計SE6000を用いC光源視野角2°の条件により測色した後、120℃で500時間熱風循環式オーブンにてエージング処理した。処理後の試験片を同様に測色し、処理前後の色差(ΔE)を求めた。
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
表1~3における無水マレイン酸基数とは、ポリエチレン樹脂にグラフト変性されている無水マレイン酸基の数のことをいう。 上記結果から明らかなとおり、本発明の接着性樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂成形体およびポリエチレン樹脂成形体に対し、一定の接着性を確保しつつ、モールドデポジットが抑制され、かつ、ホルムアルデヒドの発生が抑制されたものであることが分かった(実施例1~25)。
これに対し、安定剤を配合しない場合(比較例1)、安定剤の配合量が少ない場合(比較例2)、いずれもモールドデポジットが悪化してしまった。また、ホルムアルデヒドの発生量も多かった。
また、安定剤の中でも、ヒンダードアミン化合物、カルボジイミド化合物および尿素化合物のいずれかを用いることにより、MFRがより高い接着性樹脂組成物が得られた(実施例1~6)。
さらに、ヒンダードフェノール化合物の中でも、特定の構造を有するものを用いることにより、耐熱老化性により優れた接着性樹脂組成物が得られることが分かった(実施例1および3と、実施例2の比較)。
【0064】
複合成形体の製造
上記実施例1で得られたペレット、ポリアセタール樹脂成形体形成用原料のペレットおよびポリエチレン樹脂成形体形成用原料のペレットを用い、インサート2色成形によって複合成形体を形成した。
ポリアセタール樹脂成形体形成用原料のペレットは、三菱エンジニアリングプラスチックス製 ユピタールF20-01を用いた。ポリエチレン樹脂成形体用原料ペレットは、日本ポリエチレン製 ノバテックHJ221を用いた。ポリエチレン樹脂成形体用原料ペレットに用いられているポリエチレン樹脂は、酸変性されていないものである。
【符号の説明】
【0065】
10 ポリアセタール樹脂成形体
20 中間層
30 ポリエチレン樹脂成形体
100 複合成形体