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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】複合積層体および紙おむつ
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/51 20060101AFI20220920BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20220920BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20220920BHJP
   A61F 13/49 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
A61F13/51
B32B5/02 C
B32B27/40
A61F13/49 310
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018083604
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019187759
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】502179282
【氏名又は名称】東レ・オペロンテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】田中 利宏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克哉
(72)【発明者】
【氏名】谷口 耕一
(72)【発明者】
【氏名】武内 文男
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-207973(JP,A)
【文献】特開2010-269025(JP,A)
【文献】特開2010-005918(JP,A)
【文献】特開2009-072532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパンボンド層/メルトブロー層/スパンボンド層の3層積層構造を有するポリプロピレンの不織布からなる2枚の布帛の間に、一方向に複数本並列に配置された弾性繊維を有し、
前記2枚の各布帛と前記弾性繊維が、前記弾性繊維と交差する一方向に複数本並設された樹脂または/および前記弾性繊維自体から加熱により生成された樹脂により、前記弾性繊維の長手方向において間欠的に接合されている複合積層体であって、
前記弾性繊維の長手方向において隣り合う前記布帛と前記弾性繊維との接合箇所の間では前記2枚の各布帛と前記弾性繊維が離間しており、
前記布帛を構成する繊維の繊度に対する前記弾性繊維の繊度の比が104以上157以下であり、かつ、
前記弾性繊維が融点40℃~160℃の樹脂成分を6質量%以上60質量%以下含有し、前記弾性繊維自体の融点が196℃~260℃であり、
前記樹脂成分が、少なくとも、エーテル系熱可塑性ポリウレタン、アジペート系熱可塑性ポリウレタンのいずれかからなり、
複合積層体を前記弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態で複合積層体の外部から布帛の外面を前記弾性繊維と交差する方向に分光測色計で測色していった際の、L 値が最大値を示すポイントにおけるL 値、a 値、b 値(L 1、a 1、b 1)とL 値が最小値を示すポイントにおけるL 値、a 値、b 値(L 2、a 2、b 2)を用いて次式で規定される色差変動ΔE vが1.0以下であることを特徴とする複合積層体。
ΔE v=√[(L 1―L 2) +(a 1―a 2) +(b 1―b 2)
【請求項2】
前記弾性繊維の繊度が350dtex以下である、請求項に記載の複合積層体。
【請求項3】
前記布帛と前記弾性繊維との接合箇所での複合積層体の厚みが、0.1mm以上2.0mm以下である、請求項1または2に記載の複合積層体。
【請求項4】
前記弾性繊維の長手方向に隣り合う、前記布帛と前記弾性繊維との接合箇所の間での複合積層体の厚みの最大値が1mm以上20mm以下である、請求項1~のいずれかに記載の複合積層体。
【請求項5】
複合積層体を前記弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態での、前記布帛と前記弾性繊維との一接合箇所あたりの前記弾性繊維の延在方向における幅が0.2mm以上10mm以下である、請求項1~のいずれかに記載の複合積層体。
【請求項6】
複合積層体を前記弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態での、前記布帛と前記弾性繊維との接合箇所の間隔が1mm以上20mm以下である、請求項1~のいずれかに記載の複合積層体。
【請求項7】
前記樹脂が、前記布帛および/または前記弾性繊維の構成成分と同一の成分を含むものである、請求項1~のいずれかに記載の複合積層体。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の複合積層体をギャザー部に使用した紙おむつ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合積層体およびそれを用いた紙おむつに関し、さらに詳細には、肌に密着する衣類、具体的には下着、スポーツウェアあるいは、子供用および大人用紙おむつ、生理用品のような衛生材料等の用途に好適に使用され得る伸縮性を有する複合積層体であって、用いられる弾性繊維と布帛の形態の最適化によってギャザー部の美麗な外観を有するとともに、生産性が良く、しかも、よりソフトで優れた触感が得られる複合積層体と、とくにそれを用いた紙おむつに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙おむつのような衛生材料等の肌に密着する用途においては、着用感と着用安定性を向上させるため、伸縮性を有する素材が使用されてきた。例えば、紙おむつなどにおいては、足回り、腹回り、腰回りなど身体とのフィット性を向上させるため、または尿の漏れを防止するために、積層不織布間に弾性繊維が挿入された複合積層体が使用されてきた。
【0003】
かかる伸縮性を有する複合積層体は、複数の弾性繊維を所定のドラフトに伸長し、その状態を維持したまま複数枚の不織布等のシート状布帛によってラミネートされ製造されることが多く、その複合積層体の形態は不織布等のシート状布帛中の弾性繊維と並行方向に延在するホットメルト樹脂(ホットメルト接着剤)を有するものが多く、かかる形態の複合積層体が、紙おむつに多用され、ギャザー部材の主流をなしている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、ギャザー部材を構成するに際し、不織布等のシート状布帛間に複数の弾性伸縮部材(弾性繊維)を配置し、該弾性伸縮部材と交差する方向に熱融着繊維を延在させ、熱融着繊維による熱融着によって弾性伸縮部材をシート状布帛間に固定したギャザー部材(例えば、特許文献2)や、熱融着繊維に代えてホットメルト接着剤を、所定範囲に所定パターンで塗布するいわゆるデザインコートと呼ばれる塗布方法にて、弾性伸縮部材と交差する方向に縞状のパターンで配置し、該ホットメルト接着剤を介して弾性伸縮部材をその長手方向に間欠的に布帛に固定したギャザー部材(例えば、特許文献3)が知られている。さらに、ホットメルト接着剤塗布層を形成するためのデザインコートに関して、凹凸版を有するデザインローラーを用いるデザインコート塗布システムおよび塗布方法も知られている(例えば、特許文献4)。
【0005】
上記のような複合積層体を製造するに際しては、例えば現在衛生材料用途向けに通常使用されているポリウレタン弾性糸の融点は200℃以上のため、ホットメルト接着剤の使用温度領域の約150℃では融解せず、所望の接着を行うためにはホットメルト接着剤自体の性能に大きく依存することとなっている。そのため、上述したようなデザインコートと呼ばれる塗布方法にてソフトな感触を有するギャザー部を備えた複合積層体を極力少ないホットメルト接着剤量による接着を介して製造しようとしても、目標とする接着が達成できず、結局目標とする複合積層体を生産性良く製造することが難しい場合が多かった。また、現在衛生材料用途向けに使用されているポリウレタン弾性糸や加硫天然ゴム弾性糸を超音波等でホットメルト接着剤を介さずに両側のシート状布帛に溶着させようとする試みも考えられるが、弾性糸の分解温度が低く弾性糸自体の糸切れが起こるため、やはり生産性の低下は免れない。
【0006】
また、襞を備えたギャザー部を有し伸縮性を有する複合積層体においては、一般的に、複合積層体が均一な襞を備え、所望のギャザー部性能と美麗な外観を有することが求められる。このような美麗な外観の要求特性と、上述の紙おむつ等に使用したときにソフトな触感や優れたフィット性の要求特性とを、ともに満たすことも困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-320636号公報
【文献】特開2013-202056号公報
【文献】特開2017-185336号公報
【文献】特開2014-076077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、高度な紙おむつ製品や衣料品に求められるギャザー部における優れた機能性と外観審美性とを両立することができ、かつ、製造の際には、糸切れ等を生じることなく優れた生産性をもって製造することが可能な、とくにホットメルト接着剤の使用量を削減したり、溶着可能な弾性繊維を問題なく使用することで、ギャザー部についてよりソフトな触感を得ることが可能な複合積層体と、その複合積層体を使用した紙おむつを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る複合積層体は、2枚の布帛の間に、一方向に複数本並列に配置された弾性繊維を有し、前記2枚の各布帛と前記弾性繊維が、前記弾性繊維と交差する一方向に複数本並設された樹脂または/および前記弾性繊維自体から加熱により生成された樹脂により、前記弾性繊維の長手方向において間欠的に接合されている複合積層体であって、前記弾性繊維の長手方向において隣り合う前記布帛と前記弾性繊維との接合箇所の間では前記2枚の各布帛と前記弾性繊維が離間しており、前記布帛を構成する繊維の繊度に対する前記弾性繊維の繊度の比が0.5以上300以下であり、かつ、前記弾性繊維が融点40℃~160℃の樹脂成分を5質量%以上100質量%以下含有することを特徴とするものからなる。
【0010】
このような本発明に係る複合積層体においては、いわゆるデザインコート等により複合積層体の所定の領域に所定の方向に必要な量だけ精度よく付与された樹脂を介して、または/および、弾性繊維自体から超音波等による加熱によって生成された樹脂を介して、弾性繊維が両側の布帛に弾性繊維の長手方向に間欠的に所望の形態で接合され、弾性繊維の長手方向において隣り合う布帛と前記弾性繊維との接合箇所の間では2枚の各布帛と弾性繊維が離間している構造が高い規則性をもって構成されて高度な伸縮機能を有するようになり、優れた着用時のフィット性となめらかで規則性、均一性のよい襞を有するギャザー部を備えた複合積層体が実現される。そして、このようなギャザー部を備えた複合積層体の外観審美性を高めるために、とくに、弾性繊維の存在が目立たない外観を得るために、本発明では、布帛を構成する繊維の繊度に対する弾性繊維の繊度の比が0.5以上300以下である構成を採用している。さらに、本発明では特に、弾性繊維が融点40℃~160℃の樹脂成分(つまり、低融点樹脂成分)を5質量%以上100質量%以下含有する構成を採用している。この構成は、弾性繊維が低融点樹脂成分を含有することによって、弾性繊維全体としての融点を下げる構成であり、それによって従来よりも低い接合用温度であっても低融点樹脂成分を接合に寄与させ、複合積層体の製造時に接合用ホットメルト接着剤の使用量を低減したり、溶着可能な弾性繊維自体(つまり、弾性繊維自体から超音波等による加熱によって生成された樹脂)を接合に利用したりすることが可能になる。したがって、従来よりも低い温度で布帛と弾性繊維との接合が可能になって、製造の際の糸切れ等の不具合を防止して優れた生産性の達成が可能になるとともに、ホットメルト接着剤の使用量を低減したり、溶着可能な弾性繊維自体を接合用に使用することにより、接合に要する樹脂量が多くなりすぎないようにして、ギャザー部についてよりソフトな触感を得ることが可能な複合積層体を実現することが可能になる。その結果、ギャザー部における優れた機能性と外観審美性とを両立させつつ、優れた生産性をもって製造することができ、ギャザー部についてよりソフトな触感を得ることが可能な複合積層体を実現することが可能になる。
【0011】
上記本発明に係る複合積層体においては、上記樹脂成分としては、熱可塑性ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。そして、少なくとも、エーテル系熱可塑性ポリウレタン、アジペート系熱可塑性ポリウレタン、エステル系熱可塑性ポリウレタン、カーボネート系熱可塑性ポリウレタンのいずれかからなることが好ましい。とくに弾性繊維がポリウレタン弾性糸の場合、弾性繊維がこのような低融点樹脂成分を含有することで、弾性繊維全体としての融点を下げることが可能になり、上述のような所望の接合が可能になる。
【0012】
また、本発明に係る複合積層体においては、上記弾性繊維の繊度が350dtex(デシテックス)以下である場合、本発明による外観審美性向上効果がより顕著に発現され、ギャザー部における襞の均一性が高められる。
【0013】
また、本発明に係る複合積層体においては、ギャザー部を備えた複合積層体の商品価値をより高めるために、目視での外観において、複合積層体中の弾性繊維が見えないか弾性繊維が存在していることが確認できない、あるいは弾性繊維が非常に見づらいかその存在が非常に確認しづらいという要求を満たすようにすることが好ましい。このような要求を満たすべく、本発明では、上述の布帛を構成する繊維の繊度に対する弾性繊維の繊度の比が0.5以上300以下である構成を採用するとともに、複合積層体を前記弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態で複合積層体の外部から布帛の外面を前記弾性繊維と交差する方向に分光測色計で測色していった際の、L値が最大値を示すポイントにおけるL値、a値、b値(L1、a1、b1)とL値が最小値を示すポイントにおけるL値、a値、b値(L2、a2、b2)を用いて次式で規定される色差変動ΔEvが1.0以下である複合積層体とすることができる。
ΔEv=√[(L1―L2)+(a1―a2)+(b1―b2)
【0014】
この色差変動ΔEvは、複合積層体を弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態で複合積層体の外部から布帛の外面を弾性繊維と交差する方向に分光測色計で測色していった際に上式で表されるもので、測色方向における色差の変動の度合を示すものである。布帛と弾性繊維が同色系の場合には、色差変動ΔEvはとくに明度を示すL値の変化度合に左右され、それによって弾性繊維の見えやすさと見えづらさ、その存在の確認のしやすさとしづらさが左右される。この色差変動ΔEvが大きいほど、弾性繊維との交差部分での色差の変化が大きいので、外観上、弾性繊維が見えやすくなったり、弾性繊維の存在が確認しやすくなる。色差変動ΔEvが1.0以下であることにより、弾性繊維が見えないか弾性繊維が存在していることが確認できない、あるいは弾性繊維が非常に見づらいかその存在が非常に確認しづらいという要求特性が満たされることになる。したがって、所望の伸縮機能、優れた着用時のフィット性となめらかな肌触りで規則性のよい襞を有し、かつ、特に外部からの目視では弾性繊維の存在が目立たない均質な外観の審美性に優れた複合積層体が実現される。
【0015】
また、本発明に係る複合積層体においては、上記布帛と上記弾性繊維との接合箇所での複合積層体の厚みが、0.1mm以上5.0mm以下であることが好ましく、0.1mm以上2.0mm以下であることがより好ましい。
【0016】
また、本発明に係る複合積層体においては、上記布帛と上記弾性繊維との接合箇所の間での複合積層体の厚みの最大値が1mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に係る複合積層体においては、複合積層体を上記弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態での、上記布帛と上記弾性繊維との一接合箇所あたりの上記弾性繊維の延在方向における幅が0.2mm以上10mm以下であることが好ましい。このような好ましい樹脂幅は、とくにデザインコートによって精度よく調整できる。
【0018】
また、本発明に係る複合積層体においては、複合積層体を上記弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態での、上記布帛と上記弾性繊維との接合箇所の間隔が1mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る複合積層体においては、上記樹脂が、上記布帛および/または上記弾性繊維の構成成分と同一の成分を含むものであることが好ましい。これによって、デザインコートされた樹脂や弾性繊維から生成された樹脂との接合が容易に行われ得る。
【0020】
本発明に係る紙おむつは、上記のような本発明に係る複合積層体をギャザー部に使用したものからなる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明に係る複合積層体によれば、高度な紙おむつ製品や衣料品に求められるギャザー部における機能性と外観審美性とを両立させることが可能になり、かつ、製造の際には、糸切れ等を生じることなく優れた生産性をもって製造することが可能な、とくにホットメルト接着剤の使用量を削減したり、溶着可能な弾性繊維を問題なく使用することで、ギャザー部についてよりソフトな触感や優れたフィット性を持たせることが可能な複合積層体を得ることができる。また、その複合積層体を使用した、外観審美性に優れ、ソフトな触感、フィット性に優れた紙おむつを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る複合積層体の試験片の一例を略平面方向から撮影した外観写真である。
図2図1の複合積層体の試験片を略断面方向から撮影した外観写真であり、Aは一方向に延在する樹脂と弾性繊維が交差する箇所での厚みを示し、Bは一方向に延在する樹脂と弾性繊維が交差する箇所間の厚みの最大値の測定箇所を示す。
図3図1の複合積層体の試験片を弾性繊維の延在方向に手で伸張する際の伸長途中の状態を示す、略平面方向から撮影した外観写真である。
図4図3の複合積層体の試験片を同じ方向に最大に伸張した状態を示す、略平面方向から撮影した外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
先ず、本発明によって得られる複合積層体の形態について述べる。図1に、本発明により製造された複合積層体の試験片の代表的な一例を略平面方向から撮影した外観写真を例示する。図2は、図1の複合積層体の試験片を略断面方向から撮影した外観写真を示しており、図におけるAは一方向に延在する樹脂と弾性繊維が交差する箇所での厚みを示し、Bは一方向に延在する樹脂と弾性繊維が交差する箇所間の厚みの最大値の測定箇所を示している。図3に、図1の複合積層体の試験片を弾性繊維の延在方向に手で伸張する際の伸長途中の状態を示す、略平面方向から撮影した外観写真を例示する。図4に、図3の複合積層体の試験片を同じ方向に最大に伸張した状態を示す、略平面方向から撮影した外観写真を例示する。
【0024】
本発明の複合積層体においては、2枚の布帛の間に一方向に複数本並列に配置された、例えば前述したようなポリウレタン弾性糸からなる弾性繊維を有する。弾性繊維は、直線状もしくは曲線状またはそれらの組み合わせた形態で配置され、布帛で挟み込まれている。
【0025】
本発明の複合積層体においては、弾性繊維と交差する方向に複数本配置された一方向に延在する樹脂を有する。すなわち、弾性繊維が挿入される方向に対して交差する方向に樹脂が配置される。この樹脂は、2枚の各布帛と弾性繊維を接合するための樹脂であり、いわゆるデザインコート等により所定の領域に所定の方向に必要な量だけ精度よく付与された接合用の樹脂であってもよく、超音波等による加熱により弾性繊維自体から生成された接合用の樹脂であってもよい。弾性繊維の長手方向において隣り合う樹脂と弾性繊維とが交差する箇所の間では2枚の各布帛と弾性繊維は離間している。上記において、一方向に延在するとは、樹脂が線状であり、全体として一方向に配置されていることをいう。線状の形態としては直線状もしくは曲線状またはそれらの組み合わせた形態いずれも採り得る。全体として一方向に配置されるとは、かかる線状の形態が幅10mm以内の平行な線の範囲内に収まるように配置されることをいい、一方向の方向とはかかる仮想の平行線の方向をいう。弾性繊維と一方向に延在する樹脂の交差する角度は特に限定されないが、90±20°の範囲内であることが好ましく、90±10°の範囲内であればより好ましく、90±5°の範囲内であればさらに好ましい。
【0026】
本発明における複合積層体においては、弾性繊維の長手方向に隣り合う、布帛と弾性繊維との接合箇所の間では各布帛と弾性繊維が離間している。
【0027】
布帛と弾性繊維との接合箇所での複合積層体の厚み(例えば、一方向に延在する樹脂と弾性繊維が交差する接合箇所の厚み)は、0.1mm以上2.0mm以下であることが好ましく、より好ましいのは0.2mm以上2.0mm以下である。0.1mmより小さいと、複合積層体中の弾性繊維の存在が目視で判別できる場合があり、複合積層体を伸長した場合は、弾性繊維の存在がより顕著に判別できるようになることから、複合積層体の外観および審美性が低下する場合がある。2.0mmより大きいと、形成した襞が挫屈し易くなる場合があり、着用時のフィット性となめらかで規則性のよい襞の感触が不満足となる場合がある。
【0028】
そして、弾性繊維の長手方向に隣り合う、布帛と弾性繊維との接合箇所の間での複合積層体の厚みの最大値は、1mm以上20mm以下であることが好ましく、より好ましいのは2mm以上10mm以下である。1mmより小さいと、伸長複合積層体中の弾性繊維の存在が明らかに目視で判別できる場合があり、複合積層体を伸長した場合は、弾性繊維の存在がより顕著に判別できるようになることから、複合積層体の外観および審美性が低下する場合がある。20mmより大きいと、形成した襞が挫屈し易くなる場合があり、着用時のフィット性となめらかで規則性のよい襞の感触が不満足な場合がある。
【0029】
また、複合積層体を弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態での、布帛と弾性繊維との一接合箇所あたりの弾性繊維の延在方向における幅が0.2mm以上10mm以下であることが好ましく、より好ましいのは0.4mm以上6mm以下である。0.2mmより小さいと、複合積層体中の弾性繊維が動きやすく、伸縮を繰り返した場合に、襞の均一性が低下したり、隣り合う弾性繊維が近接して、その存在が目視で判別できる場合があり、複合積層体の外観および審美性が低下する場合がある。10mmより大きいと、複合積層体を透過光で見た場合、弾性繊維の存在が筋状または縞状に目立ちやすくなる場合がある。さらに、複合積層体の伸度が低下し、置き寸が大きくなる場合や着用時のフィット性となめらかで規則性のよい襞の感触が不満足な場合がある。
【0030】
そして、複合積層体を弾性繊維の延在方向に最大に伸張した状態での、布帛と弾性繊維との接合箇所の間隔が1mm以上20mm以下であることが好ましく、より好ましいのは2mm以上15mm以下である。布帛と弾性繊維との接合箇所の間隔とは、接合箇所の中心間の距離をいう。かかる間隔が1mmより小さいと、複合積層体中の弾性繊維の存在が明らかに目視で判別できる場合が出現し、複合積層体を伸長した場合は、より顕著であり、著しく複合積層体の外観および審美性が低下する場合がある。20mmより大きいと、形成した襞が挫屈し易くなる場合があり、着用時のフィット性となめらかで規則性のよい襞の感触が不満足となる場合がある。
【0031】
本発明の複合積層体に用いられる布帛とは織物、編物、不織布などが好適で、特に好ましい布帛は不織布であり、抄紙法などの湿式不織布製造法またはレジンボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、スパンレース法、メルトブロー法およびフラッシュ紡糸法などの乾式不織布製造法により得られるもののいずれであってもよく、それらのうち単層体であっても複数の積層体であってもよい。また、不織布の目付は10~20g/m以下が好ましく、より好ましくは12~18g/mである。
【0032】
布帛を構成する繊維の素材については特に限定されないが、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、プロピレンとエチレン等各種α-オレフィンのコポリマ、ポリウレタン等の合成繊維、レーヨン、アセテート等の再生繊維、半合成繊維、ウール、綿等の天然繊維などが好ましい。
【0033】
布帛を構成する繊維の形態は、長繊維フィラメント、短繊維紡績糸のいずれであってもよく、2種以上の繊維を混紡、混繊したものや、捲縮加工を施したもの、その他、複合繊維等広く選択することができる。
【0034】
本発明における複合積層体は、少なくとも一部に弾性繊維が用いられるものである。
本発明で使用される弾性繊維は、ポリウレタン系弾性繊維、ポリエーテル・エステル系弾性繊維、ポリアミド系弾性繊維、もしくは、天然ゴム、合成ゴム、半合成ゴムからなる糸状のいわゆるゴム糸、さらに、エラストマーフィルムを繊維状に裁断したもの、または、これらを主体とした他の有機合成樹脂体との複合もしくは混合によって得られる繊維、捲縮繊維などが採用でき、繊維自身がエンタルピー弾性を有するものがより好ましい。そして、複合積層体として伸縮性がよりよく発揮させる観点から、最も好ましいのはポリウレタン系弾性繊維(代表的には、前述したようなポリウレタン弾性糸)である。
【0035】
本発明の複合積層体に用いられる弾性繊維は裸糸であっても、他の弾性繊維または非弾性繊維によって被覆(カバリング)されたものであってもよい。複合積層体として伸縮性の観点から、最も好ましいのは裸糸である。
【0036】
なお、ポリウレタン系弾性繊維とは、ソフトセグメントとしてコポリエステルジオールなどの長鎖ジオール、ハードセグメントとしてジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(以下、MDIと略する。)などのジイソシアネートおよび鎖伸長剤として二官能性水素化合物を主構成成分とするポリエステル系弾性繊維またはソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGと略する)、ハードセグメントとしてMDI、鎖伸長剤として低分子量の二官能性水素化合物を主構成成分とするポリエーテル系弾性繊維が好ましい。
【0037】
また、ポリエーテル・エステル系弾性繊維とは、ソフトセグメントとしてPTMG、ハードセグメントとしてポリブチルテレフタレートまたはポリブチルイソフタレートを主構成成分とするものが好ましい。
【0038】
本発明においては、最終製品に所望の伸縮性を付与させる観点から、前述したようにポリウレタン系弾性繊維を用いるのが好ましい。
【0039】
本発明で使用され得るポリウレタン系弾性繊維に用いるポリウレタン重合体は、いずれも長鎖のポリエーテルセグメント、ポリエステルセグメントまたはポリエーテルエステルセグメント等を主構成成分とするソフトセグメントとイソシアネートと鎖伸長剤であるジアミンまたはジオールを主構成成分とするハードセグメントとから構成されることが好ましい。
【0040】
かかるポリウレタン重合体のソフトセグメントを構成する原料としては、1)テトラヒドロフラン(以下、THFと略する)、テトラメチレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチルテトラヒドロフラン(以下、3MeTHFと略する)等から得られる重合体または共重合体であるポリエーテルセグメント、2)エチレングリコール、テトラメチレングリコール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等のジオールとアジピン酸、コハク酸等の二塩基酸とから得られるポリエステルセグメント、3)ポリ-(ペンタン-1,5-カーボネート)ジオール、ポリ-(ヘキサン-1,6-カーボネート)ジオール等から得られるポリエーテルエステルセグメントを用いることができるが、中でもテトラメチレングリコールから得られるPTMGが好ましい。そして、さらに好ましくは2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3MeTHFから得られる共重合体であるポリエーテルセグメントである。
【0041】
本発明の複合積層体に用いられる弾性繊維においてポリウレタン重合体は、ヒドロキシル末端ソフトセグメント前駆体を有機ジイソシアネートで重付加反応させること(キャッピング反応)によって得られたプレポリマ生成物をジアミン鎖伸長剤またはジオール鎖伸長剤で鎖伸長させて得ることができる。さらには、熱軟化点を調整する目的で、プレポリマ生成物にさらに有機ジイソシアネートを反応させた後、鎖伸長剤を反応させて得ることも好適である。
【0042】
本発明においてポリウレタン重合体に供する有機ジイソシアネートとしては、MDI、トリレンジイソシアネート(TDI)、ビス-(4-イソシアナートシクロヘキシル)-メタン(PICM)、ヘキサメチレンジイソシアネート、3,3,5-トリメチル-5-メチレンシクロヘキシルジイソシアネート等を用いることができるが、中でもMDIが好ましい。
【0043】
種々のジアミン、たとえばエチレンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン等がポリウレタンウレアを形成させるためのジアミン鎖伸長剤として好ましく使用される。
【0044】
ジアミン鎖伸長剤は、1種のみのジアミンに限定されるわけでなく、複数種のジアミンからなるものであってもよい。鎖停止剤は、ポリウレタンウレアの最終的な分子量の調節を助けるために反応混合物に包有させることができる。通常、鎖停止剤として活性水素を有する一官能性化合物、たとえばジエチルアミン等を使用することができる。
【0045】
また、鎖伸長剤としては、上記ジアミンに限定されることはなく、ジオールであってもよい。特に、100℃~180℃の熱軟化点を有する弾性繊維を得るのに好適である。例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートおよびパラキシリレンジオール等を用いることができる。ジオール鎖伸長剤は、1種のみのジオールに限定されるわけでなく、複数種のジオールからなるものであってもよい。また、イソシアネート基と反応する1個の水酸基を含む化合物と併用していてもよい。この場合、このようなポリウレタンを得る方法については溶融重合法、溶液重合法など各種方法を採用することができ、限定されるものではない。重合の処方についても、特に限定されずに、たとえば、ポリオールとジイソシアネートと、ジオールからなる鎖伸長剤とを同時に反応させることにより、ポリウレタンを合成する方法等を採用することができ、いずれの方法によるものでもよい。
【0046】
さらに本発明の効果を損なわない範囲で安定剤、熱伝導性改良剤、顔料を配合することも好ましい。
【0047】
例えば、耐光剤、酸化防止剤などとして、いわゆるBHTや住友化学工業(株)製の“スミライザー(登録商標)”GA-80などをはじめとするヒンダードフェノール系薬剤、BASF社製“チヌビン(登録商標)”等のベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系薬剤、リン系薬剤、各種のヒンダードアミン系薬剤、ポリフッ化ビニリデンなどを基とするフッ素系樹脂粉体またはシリコーン系樹脂粉体、ステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸、また、銀や亜鉛やこれらの化合物などを含む殺菌剤、消臭剤、またシリコーン、鉱物油などの滑剤、硫酸バリウム、酸化セリウム、ベタインやリン酸化合物、リン酸エステル化合物などの各種の帯電防止剤などが添加されてもよいし、またポリマーと反応して存在してもよい。そして、特に光や各種の酸化窒素などへの耐久性をさらに高めるには、酸化窒素捕捉剤、例えば日本ヒドラジン(株)製のHN-150,Clariant Corporation製“Hostanox(登録商標)”SE10等、熱酸化安定剤などを含有させることが好ましい。
【0048】
そして、溶融や熱軟化を促進するために、熱伝導性改良剤として、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素等を含有させることが好ましい。
【0049】
例えば、顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、リン酸ジルコニウムなどを含有させることが好ましい。中でも弾性繊維の目剥きによるギラツキを抑え、弾性繊維が目立たない均質な外観の複合積層体を得るという観点からは酸化チタンが好ましい。酸化チタンであればルチル型、アナターゼ型のいずれでも好ましく用いられる。また、光の反射を抑え、かつポリウレタン弾性糸を安定的に製造するという観点から、平均一次粒子径が0.15μmから0.3μmの範囲のものであることが好ましい。また、ポリウレタン系弾性繊維中への含有量はギラツキの防止という観点から0.3質量%以上であることが好ましく、口金への詰まり等を防ぎ安定的にポリウレタン系弾性繊維を紡糸するという観点から3質量%以下であることが好ましい。
【0050】
そして、溶融や熱軟化を促進するために、熱伝導性改良剤として、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素等を含有させることが好ましい。
【0051】
ポリウレタン重合体を溶液とする場合に用いる溶媒としては、N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略する)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等を使用することができるが、DMAcが最も一般的に使用される溶媒である。
【0052】
ポリウレタン重合体の溶液濃度としては、30~50質量%(溶液の全質量を基準にして)の溶液濃度にてポリウレタン系弾性繊維のフィラメント糸を得る乾式紡糸法が好ましい。
【0053】
本発明においては、ポリウレタン重合体からポリウレタン系弾性繊維を紡糸する方法は特に限定されるものではないが、例えば、1)ジオールを鎖伸長剤として用いたポリウレタン系弾性繊維の紡糸法として、溶融紡糸法、乾式紡糸法または湿式紡糸法等を採用することができる。また2)ジアミンを鎖伸長剤として用いたポリウレタン系弾性繊維の紡糸法として、通常乾式紡糸法を採用することができる。
【0054】
本発明においては、前述の如く、上記のような弾性繊維が融点40℃~160℃の樹脂成分(低融点樹脂成分)を5質量%以上100質量%以下含有する。
【0055】
とくに弾性繊維がポリウレタン弾性糸である場合、上記低融点樹脂成分としては、少なくとも、エーテル系熱可塑性ポリウレタン、アジペート系熱可塑性ポリウレタン、エステル系熱可塑性ポリウレタン、カーボネート系熱可塑性ポリウレタンのいずれかからなることが好ましい。
【0056】
また、本発明においては、高度な伸縮性等の観点からは弾性繊維としてはポリウレタン系弾性繊維のフィラメント糸の使用が好適であるが、弾性繊維自体が目立ちやすくなる傾向がある。そこで、次の形態の繊維仕様や組み合わせが好ましい。
【0057】
布帛を構成する繊維および弾性繊維の繊度は、使用される用途に応じて適宜選択しうるが、0.1~5000dtexの範囲が好ましい。
【0058】
本発明における複合積層体を構成する布帛の繊度とは布帛表面に分布する繊維の最大繊度を表す。
【0059】
そして、布帛を構成する繊維の繊度は、均一性の高い襞形成の観点から0.1~500dtexがより好ましく、0.1~50dtexがより好ましく、最も好ましくは、0.3~30dtexである。そして、複合積層体中の感触の観点から、好ましくは、0.2~5dtex、最も好ましくは、0.2~2.0dtexである。
【0060】
また、弾性繊維の繊度としては、1~3000dtexが好ましく、より好ましくは、前述の如く、350dtex以下であり、とくに好ましくは、10~350dtexである。弾性繊維の単糸繊度としては、5dtex以上13dtex以下であることが好ましい。
【0061】
弾性繊維の繊度が、1dtexに満たない弾性繊維を用いると製造時、走行摩擦に弾性繊維が耐えられず糸切れが生じやすくなるという傾向があり、また、3000dtexを超える弾性繊維を用いると、製造時、走行摩擦にセンサー側が耐えきれずに破損する傾向がある。
【0062】
そして、本発明の複合積層体において、外観品位の観点から、布帛表面に分布する繊維の最大繊度に対する弾性繊維の繊度の比は0.5以上300以下であることが必要である。
【0063】
複合積層体中の弾性繊維の存在が判別困難である形態、すなわち、弾性繊維が目立たない均質な外観の複合積層体を得るには、透過光より表面反射光の影響が支配的であり、表面に分布する繊維の最大繊度と弾性繊維との繊度比が重要である。
【0064】
布帛表面に分布する繊維の最大繊度に対する弾性繊維の繊度の比が300を超えると、弾性繊維の存在が顕著に目立ち、外観品位を損ねる。
【0065】
布帛表面に分布する繊維の最大繊度に対する弾性繊維の繊度の比が0.5以上300以下であると弾性繊維の存在を目視で容易に認識できなくなり、外観品位に特に優れたものとなる。
【0066】
この効果は、布帛表面に分布する繊維の最大繊度が0.2~2.2dtexの範囲でより顕著に表れ、より顕著に表れるのは0.5~2.0dtexである。布帛表面に分布する繊維の最大繊度に対する弾性繊維の繊度の比は300より大きいと、複合積層体中の弾性繊維の存在が明らかに目視で判別できる場合があり、複合積層体を伸長した場合は、より目視で判別しやすくなり、複合積層体の外観および審美性が低下する。繊度比が0.5より小さいと、実質、弾性繊維の弾性が不足し、襞が形成され難く、伸縮性も発現しない。
【0067】
さらに、本発明に係る複合積層体においては、弾性繊維が見えないあるいは目立たない均質な外観の複合積層体10を得るために、以下のように規定される色差変動ΔEvを特定の値以下(1.0以下)とすることが好ましい。色差変動ΔEvは、後述する非接触式の分光測色計によるLab表色系におけるL値、a値、b値の値から後述する式により算出される値である。なお、Lab表色系におけるL値とは、明度を表す指標であり、a値は赤~緑の間の位置、b値は黄~青の間の位置を表す指標である。この色差変動ΔEvが大きいほど、弾性繊維との交差部分での色差の変化が大きいので、外観上、弾性繊維が見えやすくなったり、弾性繊維の存在が確認しやすくなる。色差変動ΔEvが1.0以下であることにより、弾性繊維が見えないか弾性繊維が存在していることが確認できない、あるいは弾性繊維が非常に見づらいかその存在が非常に確認しづらいという要求特性が満たされることになる。
【0068】
なお、本発明においては弾性繊維が原着糸であってもよく、布帛やそれを構成する繊維は予め着色されたものを使用することも好ましい。布帛やそれを構成する繊維の着色方法については特に限定されるものではないが、弾性繊維と同色に着色するという観点から、色の調整が可能なチーズ染色等によって着色することも好ましい。
【0069】
本発明で使用される弾性繊維の融点以外の特性として、熱軟化点が考えられるが、工程通過性も含め、実用上の問題がなく、かつ、布帛と弾性繊維との接合箇所での形態に優れたものを得る観点から、弾性繊維の熱軟化点が100℃以上240℃以下の範囲となるものが好ましい。熱軟化点が100℃より低いと、染色など加工工程や実用上、タンブラー乾燥や複合積層体製造時の一方向に延在する樹脂からの受熱などで形態が破壊される場合があり、240℃より高いと、一方向に延在する樹脂と弾性繊維との相溶性が低く、襞の形成に悪影響を与える場合がある。熱軟化点の範囲はより好ましくは、110℃以上200℃以下、さらに、最も好ましいのは120℃以上160℃の範囲である。この範囲であれば、公知の手法である熱ロールや超音波ウエルダー、高周波ウエルダー、電磁誘導ウエルダー、これらの複合ウエルダーを使用して、弾性繊維と交差する方向に複数本配置された一方向に延在する樹脂を弾性繊維および/または弾性繊維自体せしめるのに好適である。
【0070】
さらに、本発明における接合用樹脂として好ましい樹脂は、その効果を高めるために、布帛や弾性繊維と同種の素材を含む樹脂であり、布帛や弾性繊維の成分を含むものであることがより好ましい。そして、接合用樹脂として、かかる布帛や弾性繊維の成分を含む樹脂を用いる場合、布帛または弾性繊維を熱軟化または溶融させて樹脂を形成することも好ましく、最も好ましいのは、布帛と弾性繊維が共に熱軟化または溶融して形成された場合である。
【0071】
本発明の複合積層体は、伸縮性を有する複合積層体であって、肌に密着する衣類、具体的には下着、スポーツウェアあるいは、子供用および大人用紙おむつ、生理用品、マスク、医療用ウエア、手術着、包帯、サポーターのような衛生材料、医療材料等の用途に好適に使用され、更には、審美性に優れることからカーテン、家具などのインテリア用品、寝具、裏地、ガードル、ブラジャー、インティメイト商品、衣料用ウエストバンド、ストレッチスポーツウエア、ストレッチアウター等の用途が挙げられる。本発明の複合積層体は、とくに紙おむつに使用して好適なものである。
【実施例
【0072】
以下、本発明における複合積層体の評価について、実施例を用いて説明する。まず、本発明の説明において使用した各特性の測定、評価方法について説明する。
【0073】
[融点]
熱可塑性ポリウレタンまたは弾性繊維(ポリウレタン弾性糸)の耐熱性の指標の一つとして、そのハードセグメント結晶の融点を測定した。ティー・イー・インスツルメント社製2920モジュレーティドDSCを用い、昇温速度10℃/分で、不可逆熱流を測定し、そのピークトップを融点とした。
【0074】
[熱軟化点]
弾性繊維(ポリウレタン弾性糸)の耐熱性の指標の一つとして熱軟化点を測定した。弾性繊維について、レオメトリック社製動的弾性率測定機RSAIIを用い、昇温速度10℃/分で、動的貯蔵弾性率E’の温度分散を測定した。熱軟化点は、E’曲線のプラト領域での接線と、E’が熱軟化により降下するE’曲線の接線との交点から求めた。なお、E’は対数軸、温度は線形軸を用いた。
【0075】
[布帛の繊度]
走査型電子顕微鏡を用いて布帛の表面の繊維を観察し、ランダムに選んだ10本の表面繊維の直径の最大値(α)を測定し、布帛を構成する物質の密度(ρ)g/m3を用いて、以下の算式より求めた。
繊度(dtex)=ρ×π×(α/2)×10000
【0076】
[弾性繊維の繊度]
本発明において弾性繊維の繊度はISO2060に準じて測定した見掛繊度であり、測定方法は次の通りである。見掛繊度の測定に供する弾性繊維のサンプルは20℃、65%相対湿度環境下に24時間静置したものを使用する。弾性繊維を無荷重下で長さd(単位:m)に切断し、見掛繊度(dtex)=長さd(m)の糸質量(g)×10000÷dを小数点以下1桁まで求める。ここで、長さdとしては、通常0.1mあれば足りるが、連続した1本の繊維である必要はなく、複数本の合計の長さd’が0.1mあればよい。この場合、弾性繊維のサンプルを複合積層体から取り出す場合には2枚の布帛の間に配置された弾性繊維が各布帛と離間した箇所からサンプリングすればよい。例えば、複合積層体を、弾性繊維と交差する方向に複数本配置された一方向に延在する樹脂に沿って、ハサミを用いて切断し、直線形状のよい弾性繊維片を長さの合計が0.1±0.01mになるまで光学顕微鏡にて寸法を測定して複数本の弾性繊維片を選び、合計した長さd’を求める。次に精密天秤にて選んだ複数本の弾性繊維片の合計質量を測定し、弾性繊維片の合計質量(g)×10000÷d’を算出して弾性繊維の繊度を求める方法が挙げられる。
【0077】
[複合積層体の特性評価]
次に複合積層体の各種特性の評価(色差変動と襞の評価)について説明する。
【0078】
<色差変動測定>
まず、複合積層体の色差変動を測定した。測定対象の複合積層体を伸張方向に最大に伸張して固定し、裏地に黒色(L=20±1、a=0.2±0.2、b=0.3±0.2)の板を配置した。非接触式の分光測色計としてカラーマスター(D25 DP-9000型 シグナルプロセッサー)、測色径φ=1mmを使用してL*a*b*表色系におけるL値、a値、b値の各値を複合積層体の幅方向に0.5mm間隔で40点測定した。測定結果から、L*が最大値のポイントをL1、a1、b1とし、最小値のポイントをL2、a2、b2として色差変動“△Ev”を以下の算式より求めた。
ΔEv=√[(L1―L2)+(a1―a2)+(b1―b2)
【0079】
次いで、以下のような襞の評価を行った。
(1)<繰り返し伸縮後の襞の外観形状>
複合積層体をMD方向(マシン方向で弾性繊維の延在方向)にデマッチャ試験機にて100%繰り返し50回/分伸縮させた。次いで、複合積層体を30cmの長さで両端を固定し、温度20℃、相対湿度(RH)65%で24時間放置した。その後、目視にて襞の形状を観察し、以下の区分で判定を行った。
◎:襞の乱れが0カ所。
○:襞の乱れが1~3カ所。
△:襞の乱れが4~10カ所。
×:襞の乱れが10カ所以上
【0080】
(2)<繰り返し伸縮後の襞の外観形状保持性>
上記(1)と同様のデマッチャ試験機による処理後、複合積層体を100%伸長状態で35℃×85%RH下に保ち、12時間保管したのちに上記(1)と同じ襞の評価を行った。
【0081】
(3)<伸長巻き上げ後の襞形状発現性>
複合積層体を巻き上げた状態で、23℃×65%RH下で24時間保管し、解舒したのちに上記(1)と同じ襞の評価を行った。
【0082】
次いで、以下のような複合積層体表面の触感の評価を行った。
[なめらか度合い]
複合積層体を100%伸長状態で45℃×85%RH下に保ち、2時間保管したのちに、10人の判定者が素手でにぎり官能評価を行った。また、その判定結果は以下のべたつき感と柔らか感の区分で表示した。
【0083】
<べたつき感>
◎:8人以上がべたつきなくなめらかな感触であった。
○:8人未満6人以上がべたつきなくなめらかな感触であった。
△:6人未満2人以上がべたつきなくなめらかな感触であった。
×:2人未満がべたつきなくなめらかな感触であった。
【0084】
<柔らか感>
◎:8人以上が柔らかくなめらかな感触であった。
○:8人未満6人以上が柔らかくなめらかな感触であった。
△:6人未満2人以上が柔らかくなめらかな感触であった。
×:2人未満が柔らかくなめらかな感触であった。
【0085】
次に、複合積層体を紙おむつのギャザー部に使用して、紙おむつのフィット性:紙おむつの締め付け力の分散度合いについて評価した。
【0086】
[紙おむつのフィット性]
紙おむつのギャザー部に使用された複合積層体が、人間の肌にくい込み難いと感じるかを、10人の判定者が肌に押し当てて観察する官能評価を行った。また、その判定結果は以下の区分で表示した。
◎:8人以上がくい込みにくいと感じた。
○:8人未満6人以上がくい込みにくいと感じた。
△:6人未満4人以上がくい込みにくいと感じた。
×:4人未満がくい込みにくいと感じた。
【0087】
[実施例1]
表1に示すように、弾性繊維として、低融点樹脂成分としてエーテル系TPU(融点:110℃、TPU:熱可塑性ポリウレタン)を6質量%含有した、156dtexのポリウレタン弾性糸(ポリウレタン弾性糸としての融点:260℃、ポリウレタン弾性糸としての熱軟化点:210℃)を18本(秤量:6g/m)、布帛間への挿入時ドラフト3.5倍にて挿入した。複合積層体の布帛として、スパンボンド層/メルトブロー層/スパンボンド層の3層積層構造(表1では「SMS」と表記)を有するPP(ポリプロピレン)の不織布を、目付17g/m、表面繊維繊度1.5dtexで使用し、2枚の布帛間に上記弾性繊維を挿入し、接合用樹脂をデザインロール(デザインコート法における塗布ロール)で付与して、各布帛と弾性繊維を間欠的に接合した。本発明における布帛を構成する繊維の繊度に対する弾性繊維の繊度の比としては104であった。ポリウレタン弾性糸と布帛としての不織布との接合用樹脂には、ゴム系ホットメルト接着剤を使用し、該樹脂として、市販の凝集力高めの標準品(製造元:ボスティック・ニッタ株式会社、品番:AFX-162)を、接着剤量4g/mで使用した。結果、表1の評価結果に示すように、4g/mと少ない接着剤量でも所望のデザインコートで目標とする接合を行うことができ、複合積層体の特性評価では、色差変動△Evが0.4と1.0以下であり、繰り返し伸縮後の襞の外観形状が◎、繰り返し伸縮後の襞の外観形状保持性が◎、伸長巻き上げ後の襞形状発現性が◎であり、均一で外観審美性に優れた襞形状が得られた。また、複合積層体表面の触感の評価では、べたつき感が○、柔らか感が◎であり、良好な結果が得られた。さらに、紙おむつの評価におけるフィット性:紙おむつの締め付け力の分散度合いが◎であった。このように、目標とする規則性、均一性の高い美しい襞を有し、外観の審美性に優れるとともに、紙おむつとして使用した場合のフィット性にも優れた複合積層体が得られた。
【0088】
[実施例2~5、比較例1~5]
表1に示すように、実施例1に比べていずれかの条件を変更した。なお、表1における「超音波」とは、超音波による加熱により、弾性繊維を加熱して布帛との接合に供したことを表しており、「コームガン」とは、一般的なコームガンで弾性繊維に連続的に直接ホットメルト樹脂を塗布してそのホットメルト樹脂により布帛と弾性繊維とを貼り合わせて複合積層体を形成する方式を表している。
【0089】
表1に示すように、実施例1~5では、本発明で規定した条件を満たしているので、乱れの少ない高い規則性、均一性を有する襞を有し、かつ、弾性繊維の存在が目立たない審美性に優れた外観を有するとともに、少ないホットメルト接着剤量にて、あるいはホットメルト接着剤を使用せずに弾性繊維自体から生成された接着用樹脂にて、目標とする布帛と弾性繊維との接合を行うことができ、機能性、外観審美性を両立させ、触感、紙おむつとしてのフィット性にも優れた複合積層体が得られた。一方、比較例1~5では、本発明で規定した条件のいずれかを満たしていないので、とくに、弾性繊維が低融点樹脂成分を含有していないので、弾性繊維の存在が目立たない審美性、襞の目標性能をともに満たすとともにフィット性にも優れた複合積層体は得られなかった。すなわち、とくに、比較例1~4では、襞の形状、表面の触感、紙おむつとしてのフィット性のすべてに優れた複合積層体は得られず、加えて比較例5では、布帛を構成する繊維の繊度に対する弾性繊維の繊度の比が大きすぎたので、色差変動△Evが1.0を超え、弾性繊維が目立つ点で優れた外観の審美性が得られなかった。
【0090】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係る複合積層体は、伸縮性を有するとともに優れたフィット性を有するギャザー部を備えることが求められるあらゆる複合積層体に適用可能であり、下着、スポーツウェアあるいは、子供用および大人用紙おむつ、生理用品のような衛生材料等の用途に好適なものであり、とくに紙おむつに好適なものである。
図1
図2
図3
図4