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<図1>
  • 特許-ロードボード及び電子部品試験装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】ロードボード及び電子部品試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/26 20200101AFI20220920BHJP
   G01R 31/28 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
G01R31/26 H
G01R31/28 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018140087
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020016560
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆志
(72)【発明者】
【氏名】奥 圭史
(72)【発明者】
【氏名】竹内 博昭
(72)【発明者】
【氏名】吉野 貴俊
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-256897(JP,A)
【文献】特開2010-181251(JP,A)
【文献】特表2004-503924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0168111(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/26-31/3193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソケットが装着されると共にテスタに電気的に接続されるロードボードであって、
DUTを前記ソケットに押し付ける電子部品ハンドリング装置と光無線通信によって信号を送信又は送受信する第1の光通信部を備え
前記第1の光通信部は、前記DUTのジャンクション温度を示す第1の信号を送信すると共に、前記DUTが有する温度検出回路の検出値を示す第2の信号を送信する光送信部を含み、
前記ロードボードは、
前記温度検出回路の検出値から前記ジャンクション温度を演算して前記第1の光通信部に出力する第1の演算部と、
前記温度検出回路の検出値をAD変換して前記第1の光通信部に出力する変換部と、
前記温度検出回路の接続先を前記第1の演算部又は前記変換部に切り替える第1のスイッチと、を備えたロードボード。
【請求項2】
ソケットが装着された請求項1に記載のロードボードと、
前記ロードボードが電気的に接続されていると共に、DUTを試験するテスタと、
前記DUTをハンドリングして前記ソケットに押し付ける電子部品ハンドリング装置と、を備えており、
前記電子部品ハンドリング装置は、前記第1の光通信部と光無線通信によって信号を受信又は送信する第2の光通信部を備え、
前記第2の光通信部は、前記電子部品ハンドリング装置において前記第1の光通信部に対向する位置に設けられている電子部品試験装置。
【請求項3】
ソケットが装着されたロードボードと、
前記ロードボードが電気的に接続されていると共に、DUTを試験するテスタと、
前記DUTをハンドリングして前記ソケットに押し付ける電子部品ハンドリング装置と、を備えており、
前記ロードボードは、前記電子部品ハンドリング装置と光無線通信によって信号を送信又は送受信する第1の光通信部を備え、
前記第1の光通信部は、前記DUTのジャンクション温度を示す第1の信号を送信すると共に、前記DUTが有する温度検出回路の検出値を示す第2の信号を送信する光送信部を含み、
前記電子部品ハンドリング装置は、前記第1の光通信部と光無線通信によって信号を受信又は送受信する第2の光通信部を備え、
前記第2の光通信部は、前記電子部品ハンドリング装置において前記第1の光通信部に対向する位置に設けられ、
前記第2の光通信部は、前記第1の光通信部から前記第1の信号と前記第2の信号を受信可能であり、
前記電子部品ハンドリング装置は、
前記DUTの温度を調整する温度調整装置と、
前記第1の信号と前記第2の信号を用いて前記DUTの温度を演算する第2の演算部と、
前記第2の演算部の演算結果を用いて、前記温度調整装置を制御する温度制御部と、を備えた電子部品試験装置。
【請求項4】
請求項に記載の電子部品試験装置であって、
前記電子部品ハンドリング装置は、前記DUTに接触するプッシャに設けられた温度センサを有しており、
前記第1の光通信部は、前記テスタから出力された第3の信号を送信する光送信部を含み
前記第2の光通信部は、前記第3の信号を前記第1の光通信部から受信可能であり、
前記温度制御部は、前記第3の信号に基づいて、前記第2の演算部の演算結果又は前記温度センサの検出値を用いて、前記温度調整装置を制御する電子部品試験装置。
【請求項5】
請求項に記載の電子部品試験装置であって、
前記温度制御部は、前記温度制御部への入力元を、前記第2の演算部、又は、前記温度センサに切り替える第2のスイッチを含む電子部品試験装置。
【請求項6】
請求項のいずれか一項に記載の電子部品試験装置であって、
前記第1の光通信部は、前記テスタから出力された第4の信号を送信する光送信部を含み
前記第2の光通信部は、前記第4の信号を前記第1の光通信部から受信可能であり、
前記温度制御部は、前記第4の信号に基づいて、前記DUTの冷却又は加熱を強制的に開始するように前記温度調整装置を制御する電子部品試験装置。
【請求項7】
請求項のいずれか一項に記載の電子部品試験装置であって、
前記第2の演算部は、前記第2の信号を用いて前記第1の信号を補正することで、前記DUTの温度を演算する電子部品試験装置。
【請求項8】
請求項のいずれか一項に記載の電子部品試験装置であって、
前記第2の演算部は、前記第1の信号を用いて前記第2の信号を補正することで、前記DUTの温度を演算する電子部品試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路素子等の被試験電子部品(以下、単に「DUT」(Device Under Test)の試験に用いられるロードボード、及び、それを備えた電子部品試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路板に設置されたソケットにDUTを取り付けて、当該DUTのチップダイに一体的に形成された温度センシングダイオードの信号を回路板上のコネクタを介してテスタが取得し、DUTの温度を示す信号をテスタが温度コントローラに供給する装置が知られている(例えば特許文献1(段落[0035]及び図5)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2004-503924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、DUTが短時間で急激に自己発熱するタイプである場合には、当該DUTの温度制御を高速且つ高精度に行うために、DUTの温度を示す信号の供給元を、テスタよりもDUTに近い回路板とすることが好ましい。しかしながら、電子部品試験装置では、DUTの品種交換等に伴って、ソケットが設置された回路板も交換される。そのため、ケーブルを介して回路板と温度コントローラを接続すると、当該ケーブルの着脱作業が煩わしく、電子部品試験装置の稼働率が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電子部品試験装置の稼働率の低下抑制を図ることが可能なロードボード、及び、それを備えた電子部品試験装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明に係るロードボードは、ソケットが装着されると共にテスタに電気的に接続されるロードボードであって、DUTを前記ソケットに押し付ける電子部品ハンドリング装置と光無線通信によって信号を送信及び/又は受信することが可能な第1の光通信部を備えたロードボードである。
【0007】
[2]上記発明において、前記第1の光通信部は、前記DUTのジャンクション温度を示す第1の信号を送信可能であると共に、前記DUTが有する温度検出回路の検出値を示す第2の信号を送信可能であってもよい。
【0008】
[3]上記発明において、前記ロードボードは、前記温度検出回路の検出値から前記ジャンクション温度を演算して前記第1の光通信部に出力する第1の演算部と、前記温度検出回路の検出値をAD変換して前記第1の光通信部に出力する変換部と、前記温度検出回路の接続先を前記第1の演算部又は前記変換部に切り替える第1のスイッチと、を備えていてもよい。
【0009】
[4]本発明に係る電子部品試験装置は、ソケットが装着された上記のロードボードと、前記ロードボードが電気的に接続されていると共に、DUTを試験するテスタと、前記DUTをハンドリングして前記ソケットに押し付ける電子部品ハンドリング装置と、を備えており、前記電子部品ハンドリング装置は、前記第1の光通信部と光無線通信によって信号を受信及び/又は送信することが可能な第2の光通信部を備え、前記第2の光通信部は、前記電子部品ハンドリング装置において前記第1の光通信部に対向する位置に設けられている電子部品試験装置である。
【0010】
[5]上記発明において、前記第2の光通信部は、前記第1の光通信部から前記第1の信号と前記第2の信号を受信可能であり、前記電子部品ハンドリング装置は、前記DUTの温度を調整する温度調整装置と、前記第1の信号と前記第2の信号を用いて前記DUTの温度を演算する第2の演算部と、前記第2の演算部の演算結果を用いて、前記温度調整装置を制御する温度制御部と、を備えていてもよい。
【0011】
[6]上記発明において、前記電子部品ハンドリング装置は、前記DUTに接触するプッシャに設けられた温度センサを有しており、前記第1の光通信部は、前記テスタから出力された第3の信号を送信可能であり、前記第2の光通信部は、前記第3の信号を前記第1の光通信部から受信可能であり、前記温度制御部は、前記第3の信号に基づいて、前記第2の演算部の演算結果又は前記温度センサの検出値を用いて、前記温度調整装置を制御してもよい。
【0012】
[7]上記発明において、前記温度制御部は、前記温度制御部への入力元を、前記第2の演算部、又は、前記温度センサに切り替える第2のスイッチを含んでもよい。
【0013】
[8]上記発明において、前記第1の光通信部は、前記テスタから出力された第4の信号を送信可能であり、前記第2の光通信部は、前記第4の信号を前記第1の光通信部から受信可能であり、前記温度制御部は、前記第4の信号に基づいて、前記DUTの冷却又は加熱を強制的に開始するように前記温度調整装置を制御してもよい。
【0014】
[9]上記発明において、前記第2の演算部は、前記第2の信号を用いて前記第1の信号を補正することで、前記DUTの温度を演算してもよい。
【0015】
[10]上記発明において、前記第2の演算部は、前記第1の信号を用いて前記第2の信号を補正することで、前記DUTの温度を演算してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ロードボードが、電子部品ハンドリング装置と光無線通信によって信号を送信及び/又は受信することが可能な第1の光通信部を備えている。このため、本発明では、ケーブルの着脱作業がそもそも不要であるので、電子部品試験装置の稼働率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施形態における電子部品試験装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態における電子部品試験装置を示す概略側面図である。
図3図3は、本発明の実施形態におけるDUT温度T’の算出方法を示す図である。
図4図4は、本発明の実施形態におけるプレトリガ機能を説明するための図である。
図5図5は、本発明の実施形態におけるDUT温度T’の算出方法の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本実施形態における電子部品試験装置の構成を示すブロック図、図2は本実施形態における電子部品試験装置を示す概略側面図、図3は本実施形態におけるDUT温度T’の算出方法を示す図、図4は本実施形態におけるプレトリガ機能を説明するための図である。
【0020】
本実施形態における電子部品試験装置1は、半導体集積回路素子等のDUT90の電気的特性を試験する装置である。本実施形態におけるDUT90は、図1に示すように、テスタ10の試験対象である主回路91に加えて、DUT90の温度を検出する温度検出回路92を備えている。
【0021】
本実施形態における温度検出回路92は、例えば、サーマルダイオードを含む回路であり、主回路91が形成された半導体基板に形成されている。この温度検出回路92は、PN接合の温度依存性を利用することでDUT90の温度を検出する。なお、温度検出回路92の構成は、特に上記に限定されない。例えば、温度に依存した抵抗特性やバンドギャップ特性を有する素子を用いて温度検出回路92を構成してもよい。或いは、温度検出回路92として、熱電対をDUT90に埋設してもよい。
【0022】
本実施形態における電子部品試験装置1は、図1及び図2に示すように、テスタ10と、ハンドラ50と、を備えている。なお、本実施形態におけるハンドラ51が、本発明における電子部品ハンドリング装置の一例に相当する。
【0023】
テスタ10には、ロードボード(パフォーマンスボード)20が電気的に接続されており、このロードボード20にはソケット30が装着されている。ハンドラ50によってDUT90がソケット30に押し付けられることで、ソケット30及びロードボード20を介して、当該DUT90とテスタ10が電気的に接続される。そして、テスタ10は、ロードボード20及びソケット30を介して、DUT90の主回路91に試験信号を入出力することで、DUT90の試験を実行する。また、DUT90の温度検出回路92の検出電圧信号は、ソケット30を介して、ロードボード20に取り込まれる。
【0024】
ハンドラ50は、DUT90をハンドリングする装置であり、試験前のDUT90をソケット30に供給して当該ソケット30に押し付けたり、試験後のDUT90を試験結果に応じて分類するように構成されている。テスタ10とハンドラ50は、特に図示しないケーブルを介して接続されており、テスタ10とハンドラ20との間で信号の授受が可能となっている。
【0025】
本実施形態におけるロードボード20は、図2に示すように、テスタ10の上に設けられて、特に図示しないコネクタ等を介して当該テスタ10に電気的に接続されている。このテスタ10は、例えばワークステーション等を制御部として備えている。
【0026】
また、このロードボード20には、ソケット30が実装されている。このソケット30は、DUT90の入出力端子93に対応するように配置された接触子31を有している。ハンドラ50によりDUT90がソケット30に押し付けられると、DUT90の入出力端子93がソケット30の接触子31と接触することで、当該DUT90とソケット30とが電気的に接続される。
【0027】
ロードボード20は、図1に示すように、第1のスイッチ21と、第1の演算部22と、変換部23と、光送信部24と、を備えている。なお、本実施形態における光送信部24が、本発明における第1の光通信部の一例に相当する。
【0028】
第1のスイッチ21の入力端21aは、ソケット30に電気的に接続されている。また、この第1のスイッチ21の一方の出力端21bは、第1の演算部22に電気的に接続されている。一方、この第1のスイッチ21の他方の出力端21cは、変換部23に電気的に接続されている。この第1のスイッチ21は、テスタ10からの制御信号に従って、出力先を第1の演算部22と変換部23に選択的に切り替えるように構成されている。
【0029】
第1の演算部22及び変換部23のそれぞれには、ソケット30及び第1のスイッチ21を介して、温度検出回路92の検出電圧信号が入力される。この温度検出回路92の検出電圧信号は、アナログ信号である。
【0030】
第1の演算部22は、この検出電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換機能を有していると共に、検出電圧信号に対して所定の補正処理を行うことでジャンクション温度Tを求める演算機能を有している。この第1の演算部22は、ジャンクション温度Tを示す第1の信号Sを生成して、当該第1の信号Sをテスタ10に出力すると共に、光送信部24に出力する。このジャンクション温度Tは、DUT90内の半導体基板の温度である。
【0031】
変換部23は、温度検出回路92の検出電圧信号をデジタル変換するAD変換機能を有している。この変換部23は、温度検出回路92の検出電圧信号をデジタル変換することで第2の信号Sを生成して、当該第2の信号Sを光送信部24に出力する。なお、上述の第1の演算部22がAD変換機能に加えて演算機能を有しているのに対し、この変換部23は、温度検出回路92の検出電圧信号をデジタル変換する機能しか備えていない。
【0032】
ここで、第1の信号Sが示すジャンクション温度Tは、第1の演算部22によって高い精度で算出されたDUT90の温度である。これに対し、第2の信号Sが示す検出温度(T+c)は、補正等の演算がなされておらず、温度検出回路92の出力そのものである。このような補正処理の有無が異なったり信号経路の距離に差があるため、第2の信号Sが示す検出温度(T+c)は、ジャンクション温度Tに対して誤差cを含んでいる(図3参照)。
【0033】
また、本実施形態では、テスタ10が、ロードボード20の光送信部24に対して、第3の信号Sと第4の信号Sを出力することが可能となっている。第3の信号Sは、ハンドラ50の温度制御部83の第2のスイッチ84を切り替えるための切替信号である。一方、第4の信号Sは、ハンドラ50の温度調整装置70によるDUT90の冷却又は加熱を強制的に開始させるための制御信号(プレトリガ信号)である。この第3及び第4の信号S,Sに関しては後に詳述する。
【0034】
本実施形態における光送信部24とハンドラ50側の光受信部81(後述)は、例えば、赤外線を用いて無線通信が可能な赤外線送受信モジュールから構成されている。特に限定されないが、一例を挙げれば、光送信部24は、赤外線を発光する赤外線LEDを備えた赤外線送信モジュールから構成されており、光受信部81は、光送信部24が発光した赤外線を受光可能なフォトトランジスタを備えた赤外線受信モジュールから構成されている。なお、光送信部24と光受信部81の間の無線通信に使用される電磁波(光線)の波長は、赤外線に特に限定されず、例えば、可視光線を用いてもよい。
【0035】
本実施形態における光送信部24は、4つの送信部241~244を機能的に有している。第1の送信部241は、第1の演算部22から入力された第1の信号Sをハンドラ50側の光受信部81に送信する機能を有する。第2の送信部242は、変換部23から入力された第2の信号Sを光受信部81に送信する機能を有する。第3及び第4の送信部243,244は、テスタ10から入力された第3及び第4の信号S,Sを光受信部81に送信する機能をそれぞれ有する。
【0036】
本実施形態におけるハンドラ50は、図1に示すように、プッシャ60と、温度調整装置70と、制御装置80と、を備えている。プッシャ60は、DUT90の試験を実行するためにDUT90をソケット30に押し付けて、DUT90とソケット30を電気的に接続させる。温度調整装置70は、プッシャ60がDUT90と接触している状態で、冷媒と温媒を用いてDUT90の温度を調整する。制御装置80は、ロードボード20から送信される第1及び第2の信号S,Sを用いてDUT90の温度T’を算出し、当該算出結果T’に基づいて温度調整装置70を制御する。
【0037】
プッシャ60は、ハンドラ50がDUT90をソケット30に押し付ける際に、DUT90に接触する部材である。このため、プッシャ60は、温度調整装置70から冷媒及び温媒が供給される内部空間61を有している。また、このプッシャ60には、温度センサ62が埋設されている。この温度センサ62の検出信号は、温度制御部83に出力される。
【0038】
温度調整装置70は、流量調整部71と、冷媒供給部72と、温媒供給部73と、を備えている。プッシャ60の内部空間61は、流量調整部71を介して、冷媒供給部72と温媒供給部73に連通している。冷媒供給部72は、特に図示しないが、例えば、液体の冷媒をプッシャ60の内部空間61に供給すると共に当該冷媒を内部空間61から回収するための循環路を有していると共に、当該循環路上に設けられたポンプ及びチラー等を有している。同様に、温媒供給部73も、特に図示しないが、例えば、液体の温媒をプッシャ60の内部空間61に供給すると共に当該温媒を内部空間61から回収するための循環路を有していると共に、当該循環路上に設けられたポンプ及びボイラー等を有している。
【0039】
流量調整部71は、バルブ711を開閉することで、冷媒供給部72からプッシャ60の内部空間61に供給される冷媒の流量と、温媒供給部73からプッシャ60の内部空間61に供給される温媒の流量と、を任意に調整することが可能となっている。このバルブ711は、モータ等のアクチュエータ712に連結されており、アクチュエータ712によってバルブ711を回転させることで、当該バルブ711の開閉動作が行われる。そして、プッシャ60がDUT90に接触している状態で、制御装置80が当該アクチュエータ712を駆動させて冷媒と温媒のそれぞれの流量を調整することで、DUT90の温度を調整することが可能となっている。
【0040】
こうした温度調整装置70の具体例としては、例えば、米国特許出願第12/742,178(米国特許出願公開第2011/0126931号明細書)に記載された装置を例示することができる。なお、温度調整装置の構成は、上記に特に限定されない。例えば、上記のバルブ711及びアクチュエータ712に代えて、ソレノイドバルブを用いて冷媒及び温媒の流量をそれぞれ調整してもよい。こうした構成を有する温度調整装置の具体例としては、例えば、米国特許出願第14/472,398(米国特許出願公開第2015/0268295号明細書)に記載の装置を例示することができる。或いは、冷媒及び温媒として気体を用いたサーモストリーマやヒータ等を温度調整装置としても用いてもよい。
【0041】
制御装置80は、図1に示すように、光受信部81と、第2の演算部82と、温度制御部83と、を備えている。なお、本実施形態における光受信部81が、本発明における第2の光通信部の一例に相当する。
【0042】
本実施形態における光受信部81は、図2に示すように、ロードボード20側の光送信部24と光無線通信が可能なように、ハンドラ50において当該光送信部24に対向する位置に設けられている。また、図1に示すように、この光受信部81は、4つの受信部811~814を機能的に有している。
【0043】
具体的には、第1の受信部811は、第1の信号Sをロードボード20側の光送信部24の第1の送信部241から受信する。第2の受信部812は、第2の信号Sを光受信部24の第2の送信部242から受信する。そして、第1及び第2の受信部811,812は、第1及び第2の信号S,Sを第2の演算部82にそれぞれ出力する。
【0044】
一方、第3の受信部813は、第3の信号Sを光受信部24の第3の送信部243から受信する。第4の受信部814は、第4の信号Sを光受信部24の第4の送信部244から受信する。そして、第3及び第4の受信部813,814は、第3及び第4の信号S,Sを温度制御部83にそれぞれ出力する。
【0045】
第2の演算部82は、第1の受信部811から入力された第1の信号S(ジャンクション温度T)と、第2の受信部812から入力された第2の信号S(検出温度T+c)を用いて、下記の(1)式に従って、現在のDTU90の温度T’(以下単に「DUT温度T’」とも称する)を算出する。図3は、下記の(1)式に従ったDUT温度T’の算出方法を説明する図である。
【0046】
【数1】
【0047】
但し、上記の(1)式において、Tは、第1のスイッチ21をオンする直前のジャンクション温度を示し、(T+c)は、直近にサンプリングされる検出温度を示し、z-1(T+c)は、その一回前にサンプリングされた検出温度を示し、ΣΔTは、初回から直近までにサンプリングされた検出温度から算出されたΔTの総和を示す。
【0048】
温度制御部83は、図1に示すように、第2のスイッチ84と、第3の演算部85と、を備えている。
【0049】
第2のスイッチ84の一方の入力端84aは、第2の演算部82に電気的に接続されている。なお、図1に示すように、第2の演算部82により算出されたDUT温度T’に対して、任意のオフセット値Tj_offsetを加算できる機能を温度制御部83が有してもよい。一方、この第2のスイッチ84の他方の入力端84bは、プッシャ60に設けられた温度センサ62に電気的に接続されている。そして、この第2のスイッチ84の出力端84cは、第3の演算部85に電気的に接続されている。
【0050】
また、この第2のスイッチ84は、光受信部81の第3の受信部813と接続されており、テスタ10からの第3の信号Sに従って、第3の演算部85への入力元を、第2の演算部82、又は、温度センサ62に選択的に切り替えるように構成されている。すなわち、テスタ10は、この第2のスイッチ84を切り替えることで、温度調整装置70の温度制御に用いる温度(後述するセットポイントTSPとの比較対象)を、第2の演算部82により算出されたDUT温度T’、又は、温度センサ62により検出された検出結果Tに切り替えることが可能となっている。
【0051】
通常時は、第2の演算部82で算出されたDUT温度Tj’を用いてDUT90の温度制御を行うため、第2のスイッチ84は、第3の演算部85に第2の演算部82を接続している。
【0052】
これに対し、温度検出回路92を診断する場合や、DUT90とソケット30との接触診断をする場合には、温度検出回路92から検出電圧信号を取得することができない。そのため、温度検出回路91の診断やDUT90とソケット30との接触診断を実行する場合に、テスタ10は、光送信部24及び光受信部81を介して、温度制御部83に対して第3の信号Sを出力する。第2のスイッチ84は、この第3の信号Sに基づいて、温度制御部83の入力元を温度センサ62に切り替える。
【0053】
また、ジャンクション温度Tが異常値を示す場合にも、第2の演算部82がDUT温度T’を正確に算出することができない。そのため、テスタ10は、ロードボード20から入力されるジャンクション温度Tが所定の閾値を超えている場合に、温度制御部83に第3の信号Sを出力し、第2のスイッチ84が温度制御部83の入力元を温度センサ62に切り替える。
【0054】
或いは、DUT90が急激に自己発熱しないタイプである場合に、テスタ10が温度制御部83に第3の信号Sを出力し、第2のスイッチ84が温度制御部83の入力元を温度センサ62に切り替えてもよい。
【0055】
第3の演算部85は、第2の演算部82により算出されたDUT温度T’と、目標温度であるセットポイントTSPとの差が最小となるように、温度制御装置79の流量調整部71のアクチュエータ712を制御する。この第3の演算部85が実行する具体的な制御方式としては、例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御を例示することができる。なお、第2のスイッチ84によって温度制御部83の入力元が温度センサ62に切り替えられている場合には、第3の演算部55は、当該温度センサ62の検出結果TとセットポイントTSPとの差が最小となるように温度制御装置79を制御する。
【0056】
さらに、本実施形態では、この第3の演算部85は、光受信部81の第4の受信部814と接続されており、テスタ10からの第4の信号Sを受信することが可能となっている。第3の演算部85は、この第4の信号Sに基づいて、現在のDUT90の温度T’に関わらず、DUT90の冷却を強制的に開始するように、温度調整装置70を制御する。
【0057】
ここで、図4において破線で示すように、DUT90の品種によっては、DUT90が短時間で急激に自己発熱した場合に、上述のDUT温度T’に基づく制御ではDUT90の温度調整が遅れてしまう場合がある。一方で、テスタ10は、実際のテストを通じて取得したDUT90の温度の挙動を示す温度プロファイルPtempに基づいて、同じ品種のDUT90に関しては、試験中にDUT90の温度が高くなる温度ピークTpeakを予測することができる。なお、テスタ10が、DUT90の温度プロファイルPtempを、DUT90の設計値に基づくシミュレーション等で取得してもよい。
【0058】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、この温度ピークTpeakの所定時間Δt秒前からDUT90の冷却を強制的に開始するように、テスタ10が第3の演算部85に第4の信号Sを出力する。そして、第3の演算部85は、現在のDUT90の温度T’に関わらず、この第4の信号Sに基づいて、DUT温度T’に基づく制御よりも早いタイミングで、DUT90の冷却を強制的に開始するように、温度調整装置70を制御する。こうしたプレトリガ機能(pre-trigger function)によって、DUT90が短時間で急激に自己発熱するタイプであっても、図4において実線で示すように、DUT90の温度ピークTpeak’を下げることができ(すなわち、DUT90の温度プロファイルがPtemp’に変わり)、DUT90の温度調整を適切に実行することができる。
【0059】
なお、DUT90の温度プロファイルPtempに応じて、第3の演算部85が、第4の信号Sに基づいて、DUT温度T’に基づく制御よりも早いタイミングで、DUT90の加熱を強制的に開始するように、温度調整装置70を制御してもよい。
【0060】
以下に、本実施形態における電子部品試験装置1の動作について説明する。
【0061】
ハンドラ50によってDUT90がソケット30に載置されると、プッシャ60によってDUT90がソケット30に押し付けられて、DUT90とソケット30が電気的に接続される。そして、テスタ10がDUT90の試験を実行する。
【0062】
テスタ10は、DUT90のテストが実行されていない間(すなわち、テストの合間)は、ソケット30が第1の演算部22に接続されるように第1のスイッチ21を切り替える。これにより、温度検出回路92の検出電圧信号が第1の演算部22に入力される。
【0063】
これに対し、DUT90のテストが実行されている間は、テスタ10は、ソケット30が変換部23に接続されるように第1のスイッチ21を切り替える。これにより、温度検出回路92の検出電圧信号が変換部23に入力される。
【0064】
DUT90のテスト時間は、当該テストの合間の時間よりも長い。そのため、図3に示すように、第1のスイッチ21をオンしている時間ton(すなわち第2の信号Sがロードボード20から送信される時間)は、第1のスイッチ21をオフしている時間toff(すなわち第1の信号Sがロードボード20から送信される時間)よりも長くなっている。
【0065】
図1に戻り、第1の演算部22は、ソケット30及び第1のスイッチ21を介して入力された検出電圧信号をデジタル信号にAD変換すると共に、当該検出電圧信号に対して所定の補正処理を行うことで第1の信号S(ジャンクション温度T)を生成する。この第1の信号Sは、光送信部24及び光受信部81を介して、ハンドラ50側の第2の演算部82に入力される。
【0066】
一方、変換部23は、ソケット30及び第1のスイッチ21を介して入力された検出電圧信号をデジタル信号にAD変換して第2の信号S(検出温度T+c)を生成する。この第2の信号Sも、光送信部24及び光受信部81を介して、ハンドラ50側の第2の演算部82に入力される。
【0067】
第2の演算部82は、変換部23から第2の信号Sが入力される度に、上記の(1)式に従って、現在のDUT温度T’を演算する。本実施形態では、上記の(1)式に従うことで、第2の信号S(検出温度T+c)を用いて第1の信号S(ジャンクション温度T)を逐次補正する。
【0068】
ここで、上述のようにDUTのテスト時間はテストの合間の時間よりも長いため、DUTが、例えばGPU(Graphics Processing Unit)等の急激に自己発熱するタイプである場合、試験中にDUTの温度が大きく変化しているにも関わらずその温度を把握することができない場合がある。
【0069】
これに対し、本実施形態では、図3に示すように、第2の信号S(検出温度T+c)の時系列から得られる累積的な誤差(ΣΔT)を、第1の信号S(ジャンクション温度T)に対して加えることで、第1の信号Sを基準としてDUT温度T’を演算する。これにより、図3中の実線で示すように、ほぼリアルタイムにDUT90の温度T’を高い精度で把握することができる。
【0070】
なお、第2の演算部82は、第1の演算部22から第1の信号Sが入力される度(すなわち、第1の演算部22によってジャンクション温度Tが算出される度)に、上記の(1)式中のジャンクション温度Tを再設定すると共に累積誤差(ΣΔT)を初期化してから、上記(1)式を演算する。
【0071】
上記の(1)式に代えて、下記の(2)式に従って、第2の演算部82がDUT温度T’を算出してもよい。この変形例では、下記の(2)式に従うことで、第1の信号S(ジャンクション温度T)を用いて第2の信号S(検出温度T+c)を逐次補正する。なお、図5は、下記の(2)式に従ったDUT温度T’の算出方法を説明する図である。
【0072】
【数2】
【0073】
但し、上記の(2)式において、(T+c)は、直近にサンプリングされる検出温度を示し、Tは、第1のスイッチ21がオンする直前のジャンクション温度を示し、z-k(T+c)は、第1のスイッチ21がオンした直後にサンプリングされた検出温度を示す。
【0074】
本例の場合、図5に示すように、第1のスイッチ21をオンする直前の第1の信号S(ジャンクション温度T)と、第1のスイッチ21をオンした直後の第2の信号S(z-k(T+c))との差分を算出し、その差分を直近の第2の信号S(検出温度T+c)に加えることで、第2の信号Sを基準としてDUT温度T’を演算する。これにより、図5中の実線で示すように、ほぼリアルタイムにDUT90の温度T’を高い精度で把握することができる。
【0075】
以上のように、本実施形態では、ロードボード20が、ハンドラ50の光受信部81に光無線通信によって信号を送信可能な光送信部24を備えている。このため、ケーブルの着脱作業がそもそも不要であるので、電子部品試験装置1の稼働率の低下を抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態では、テスタ10よりもDUT90に近いロードボード20から、DUT90のジャンクション温度Tを示す第1の信号Sと、温度検出回路の検出値(T+c)を示す第2の信号Sとをハンドラ50側に送信するので、DUT90の温度制御を高速且つ高精度に行うことが可能となる。
【0077】
さらに、本実施形態では、DUT90のジャンクション温度Tを示す第1の信号Sと、温度検出回路の検出値(T+c)を示す第2の信号Sとを用いて、現在のDUT90の温度T’を算出する。このため、DUT90が短時間で急激に自己発熱するタイプであっても、DUT90の温度を把握することができ、試験品質の向上を図ることができる。
【0078】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0079】
例えば、上述の実施形態では、ロードボード20の光送信部24からハンドラ50の光受信部81の一方向に信号が送信されるように説明したが、特にこれに限定されない。例えば、ロードボード20側の光通信部が信号を受信可能であり、ハンドラ50側の光通信部が信号を送信可能であってもよい。或いは、ロードボード20及びハンドラ50の両方が、信号を送受信可能な光通信部を備えてもよい。
【0080】
また、ロードボード20の光送信部24からハンドラ50の光受信部81に送信される信号は、上述の第1~第4の信号S~Sに限定されない。特に限定されないが、例えば、テスタ10からハンドラ50に送信される信号を、この光送信部24と光受信部81を介して、ハンドラ50に送信してもよい。或いは、ハンドラ50からテスタ10に送信される信号を、ハンドラ50側の光通信部からロードボード20側の光通信部に送信してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…電子部品試験装置
10…テスタ
20…ロードボード
21…第1のスイッチ
21a…入力端
21b,21c…出力端
22…第1の演算部
23…変換部
24…光送信部
241~244…第1~第4の送信部
30…ソケット
31…接触子
50…ハンドラ
60…プッシャ
61…内部空間
62…温度センサ
70…温度調整装置
71…流量調整部
711…バルブ
712…アクチュエータ
72…冷媒供給部
73…温媒供給部
80…制御装置
81…光受信部
811~814…第1~第4の受信部
82…第2の演算部
83…温度制御部
84…第2のスイッチ
84a,84b…入力端
84c…出力端
85…第3の演算部
90…DUT
91…主回路
92…温度検出回路
93…入出力端子
図1
図2
図3
図4
図5