(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】超電導コイルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20220920BHJP
【FI】
H01F6/06 120
H01F6/06 140
H01F6/06 150
(21)【出願番号】P 2018155529
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮 玄
(72)【発明者】
【氏名】中野 俊之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 寿朗
(72)【発明者】
【氏名】折笠 朝文
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-199806(JP,A)
【文献】特開昭61-139008(JP,A)
【文献】特開昭54-088095(JP,A)
【文献】特開平06-084662(JP,A)
【文献】特開2016-119142(JP,A)
【文献】特開2016-072301(JP,A)
【文献】特開2017-066337(JP,A)
【文献】特開平11-071503(JP,A)
【文献】特開2004-349115(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0265019(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/06、6/00-6/06、27/32、41/12
H02K 3/00-3/52、55/00-55/06
H01B 3/00-3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材と、
前記超電導線材の外周を被覆する繊維編組と、
前記繊維編組の少なくとも一部に含浸される樹脂硬化物と、を具備し、
前記樹脂硬化物は、
樹脂主剤と、
硬化剤と、
前記繊維編組の隙間よりも大きな粒径を有する、無機材料の第1の粒子と、
前記隙間よりも小さな粒径を有する、無機材料の第2の粒子と、を有する、
超電導コイル。
【請求項2】
前記第1の粒子の粒径が、2μm~15μmである
請求項1に記載の超電導コイル。
【請求項3】
前記第2の粒子の平均粒径が、1nm~500nmである
請求項1または2に記載の超電導コイル。
【請求項4】
前記樹脂硬化物が、100質量部の前記樹脂主剤と、
100質量部~300質量
部の前記第1の粒子と、を含む
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記樹脂硬化物が、100質量部の前記樹脂主剤と、0.75質量部以上の第2の粒子と、を含む
請求項4に記載の超電導コイル。
【請求項6】
前記第1の粒子のアスペクト比が、1.0~1.5である
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記第1の粒子が、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、酸化マグネシウムのいずれか1種類以上を含む
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項8】
前記第2の粒子が、フュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、ベントナイト類のいずれか1種類以上を含む
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項9】
前記樹脂主剤が、エポキシ樹脂であり、
前記硬化剤が、ポリエーテルアミン、脂肪族アミン、脂環式アミンの少なくとも1種類以上を含む
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の超電導コイル。
【請求項10】
繊維編組で被覆された超電導線材をボビンに巻く工程と、
前記巻かれた超電導線材に樹脂混合物を塗布する工程と、
前記樹脂混合物を硬化させる工程と、を具備し、
前記樹脂混合物が、樹脂主剤と、硬化剤と、前記繊維編組の隙間よりも大きな粒径を有する、無機材料の第1の粒子と、前記隙間よりも小さな粒径を有する、無機材料の第2の粒子と、を含む
超電導コイルの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は,超電導コイルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、超伝導体を用いた電磁石であり、発熱せずに、大電流を流すことが可能であり、大きな磁力を必要とする種々の用途に用いられる。
【0003】
超電導体は、外乱の印加によって、超電導状態から常伝導状態に変移することがある(超電導破壊、以下、クエンチという)。超電導コイルでは、例えば、超電導体間を電気的に絶縁する絶縁体(例えば、樹脂)にクラックが生じると、クラック近傍で発熱して、クエンチを引き起こす可能性がある。大電流が流れる超電導コイルにクエンチが発生すると、超電導コイルが破壊されるおそれがある。
このため、超電導コイルにおいて、クエンチを防止するために、種々の技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超電導コイルのクエンチをより確実に抑制することが望まれている。
本発明は、クエンチのより確実な抑制を図った超電導コイルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様に係る超電導コイルは、超電導線材、繊維編組、および樹脂硬化物を有する。繊維編組は、超電導線材の外周を被覆する。樹脂硬化物は、繊維編組の少なくとも一部に含浸される。樹脂硬化物は、樹脂主剤、硬化剤、および第1、第2の粒子を含む。第1、第2の粒子は、無機材料の粒子である。第1の粒子は、繊維編組の隙間よりも大きな粒径を有する。第2の粒子は、この隙間よりも小さな粒径を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る超電導コイルの一部断面図である。
【
図2】
図1の一部を拡大して表す拡大断面図である。
【
図3】実施形態に係る超電導コイルの超電導線材近傍の拡大断面図である。
【
図4】比較例1に係る超電導コイルの超電導線材近傍の拡大断面図である。
【
図5】比較例2に係る超電導コイルの超電導線材近傍の拡大断面図である。
【
図6】超電導コイルの製造工程の一例を表すフロー図である。
【
図7】第2の粒子の添加量Rpとボイドの含有率の関係の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下,図面を参照して,超電導コイルの実施形態を詳細に説明する。
【0009】
図1は、実施形態に係る超電導コイル10を表す一部断面図である。
図2は、
図1の部位R(超電導線材12近傍)を拡大して表す拡大断面図である。
図3は、繊維編組13を拡大して表す拡大図である。
【0010】
超電導コイル10は、ボビン11,超電導線材12,繊維編組13,樹脂硬化物14を有する。
ボビン11は、中心軸11Aと側板11Bに区分される。中心軸11Aに、繊維編組13で被覆された超電導線材12が巻かれる。一対の側板11Bは、中心軸11Aに巻かれた超電導線材12を左右から保持する。
【0011】
超電導線材12は、少なくとも一部に、超電導体を有する。超電導線材12は、長尺(線状、棒状)であれば良く、その断面形状は、丸、平角など適宜に選択できる。なお、
図1では、超電導線材12を四角線(断面が四角の線材)として表している。
ここでは、1本の超電導線材12を並列に4回、上下に3段(3層)に亘って巻かれている。これは一例であり、超電導線材12の層数、1層内の巻き数は、適宜に設定できる。
【0012】
超電導線材12は、安定化材(例えば、CuまたはCu合金(ブロンズ))中に超電導体のフィラメント(極細線)を埋め込んだ複合構造とすることができる(図示せず)。超電導体のフィラメントとして、例えば、NbTi、Nb3Sn等の金属系超電導体の極細線を用いることができる。
【0013】
繊維編組13は、2つ以上の方向に配置された繊維131の組み合わせである。繊維編組13は、筒形状を有し、超電導線材12の外周を被覆する。
繊維131は、超電導線材12間の短絡を防止するため、一般に絶縁性材料から構成される。繊維131として、例えば、ガラス、カーボン、または有機高分子のファイバを用いることができる。
【0014】
図3に示すように、繊維編組13は、繊維131の網目内に間隙132を有する。ここでは、繊維131が縦横2方向に配置されているため、間隙132の大きさは、2方向の幅Wx,Wyによって規定される。
幅Wx,Wyの内の小さい方を間隙132の幅Wsとする。このようにするのは、幅Wx,Wyの大きさが異なる場合、後述の第1、第2の粒子22,23がこの間隙132を通過できるか否かは、幅Wx,Wyの内の小さい方によって決まると考えられるためである。
間隙132の幅Wsは、例えば、1~2μm程度である。
この幅Wsは、電子顕微鏡(SEM)を用いて観察することで測定できる。
【0015】
樹脂硬化物14は、樹脂マトリクス21(樹脂成分),第1の粒子22,第2の粒子23を有する。
樹脂硬化物14は、繊維編組13に樹脂マトリクス21を含浸し硬化させたものである。樹脂硬化物14(樹脂マトリクス21)は、絶縁性を有し、超電導線材12間での短絡を防止する。
このための樹脂マトリクス21は、種々の材料(樹脂主剤)、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0016】
以下、熱硬化性樹脂として、硬化剤、希釈材を適宜添加したエポキシ樹脂を例に挙げて説明する。すなわち、樹脂マトリクス21は、樹脂硬化物14の樹脂成分であり、エポキシ樹脂(樹脂主剤)と適量の硬化剤を含む。
樹脂主剤は、炭素原子2個と酸素原子1個とからなる三員環を1分子中に2個以上持ち、硬化可能な化合物であればよい。樹脂主剤の種類は特に限定されない。
硬化剤は、室温、あるいは低温で低粘度の液状材料である。硬化剤は、好ましくは、アミン類、より好ましくは、ポリエーテルアミン、脂肪族アミン、または脂環式アミンである。なお、希釈材は適宜添加される。場合によっては、希釈材を添加せずに樹脂マトリクス21(超電導コイル10)を作成する。
【0017】
第1、第2の粒子22,23は、無機材料の粒子であり、樹脂マトリクス21に充填され(無機充填材)、樹脂硬化物14の強度、絶縁性の向上が図られる。
ここで、第1の粒子22は繊維編組13の間隙132の幅Wsよりも大きな粒径を有し、第2の粒子23は幅Wsよりも小さな粒径を有する。
第1、第2の粒子22,23が、繊維編組13の間隙132の幅Wsと異なる粒径を有することから、繊維編組13の網目に引っかかって、繊維編組13が目詰まりすることが起き難くなる。また、粒径の異なる第1、第2の粒子22、23が混じり合っていることから、繊維編組13上に、第1の粒子22または第2の粒子23の堆積層(後述の層L)を形成することも防止できる。このため、樹脂マトリクス21が繊維編組13の間隙131を通過して超電導線材12と繊維編組13を欠陥なく含浸することが可能である。
【0018】
比較的大粒径の第1の粒子22には、溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、酸化マグネシウムの少なくともいずれかを選択できる。
比較的小粒径の第2の粒子23には、フュームドシリカ(Fumed Silica)、ヒュームドアルミナ(Fumed Alumina)、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、ベントナイト類の少なくともいずれかを選択できる。
この内、フュームドシリカは、一般に、4塩化珪素ガスを酸素と水素の混合ガスと反応させることで生成され、例えば、「AEROSIL(商品名)」として入手できる。
ベントナイト類は、ベントナイトなどの微少層状鉱物を精製あるいは変性させたものであり、一例として、ベントナイトを精製した「クニピアF(商品名)」、モンモリナイトを変性して有機ベントナイトとした「S-BEN(商品名)」、「ORGANITE(商品名)」などが挙げられる。
【0019】
繊維編組13の間隙132の幅Wsが、1~2μm程度の場合、好ましくは、第1の粒子22の粒径(直径)が2μm~15μm程度、第2の粒子23の平均粒径(直径)が1nm~500nmであり、より好ましくは、第1の粒子22の粒径(直径)が3μm~5μm程度、第2の粒子23の平均粒径(直径)が10nm~100nmである。
【0020】
第1の粒子22の粒径は、レーザ回折・散乱法、あるいは電子顕微鏡によって測定できる。レーザ回折・散乱法では、粒子群にレーザ光を照射し、そこから発せられる回折・散乱光の強度分布パターンから計算によって粒度分布を求める。
本実施形態では、この内、レーザ回折・散乱法を用いるものとする(例えば、HORIBA社製のLA-700によって測定できる)。
【0021】
一方、第2の粒子23の粒径は、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法、あるいは電子顕微鏡によって測定できる。
BET法では、第2の粒子23の集団(粉体)の吸着等温線を測定し、この等温線から粉体の比表面積、さらに平均粒径を求める。
まず、粉体への気体分子(吸着質)の吸着量VとP/P0(相対圧、P0は飽和蒸気圧)との関係(吸着等温線)を測定する。この等温線にBETの式を適用して、比表面積を求める。さらに比表面積から第2の粒子23の平均粒径を算出する。例えば、全ての第2の粒子23を径が同一の真球と仮定することで、この算出が可能となる。
本実施形態では、この内、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いるものとする(例えば、日立ハイテック社製のH-F7100FAによって測定できる)。
【0022】
樹脂マトリクス21(樹脂成分)は、100質量部のエポキシ主剤(樹脂主剤)と、例えば、40質量部の硬化剤を含む。なお、硬化剤の量は、エポキシ主剤の状態に応じて、適宜変更される。
【0023】
樹脂マトリクス21における100質量部のエポキシ主剤に対する、第1の粒子22の充填量は、好ましくは、100~300質量部、より好ましくは、120~200質量部である。充填量が少なすぎると、樹脂硬化物14の強度、絶縁性の向上が不十分となるおそれがある。充填量が多すぎると、硬化前の樹脂混合物(樹脂マトリクス21、第1、第2の粒子22,23の混合体)の粘度が大きくなり、繊維編組13の隙間を通り難くなる(不十分な含浸)。
【0024】
第1の粒子22の形状は、球状に近いことが好ましい。樹脂混合物の含浸性を向上させることができる。第1の粒子22のアスペクト比は、例えば、1.0~1.5が好ましい。
【0025】
樹脂マトリクス21における100質量部のエポキシ主剤に対する、第2の粒子23の充填量は、好ましくは、0.75~2.0質量部、より好ましくは、1.0~1.5質量部である。
充填量が少なすぎると、樹脂混合物の含浸性の向上(繊維編組13の目詰まりや、第1の粒子22または第2の粒子23の堆積層の形成防止)が不十分となるおそれがある。充填量が多すぎると、樹脂混合物の粘度が大きくなり、繊維編組13の隙間を通り難くなる(不十分な含浸)。
後述のように、第2の粒子23を適量充填することで、樹脂混合物の含浸性が向上し、ボイドの発生を低減できる。
【0026】
後述する比較例2に示すように、樹脂硬化物14は、繊維編組13の間隙132の幅Wsに近接する粒径の粒子(第1、第2の粒子22,23の中間の粒径の粒子、すなわち、後述の第3の粒子25)を実質的に含まないことが望ましい。
この観点からすると、100質量部のエポキシ主剤に対して、500nmを超え、2μm未満の粒径の粒子の含有量が、好ましくは、2.0質量部以下、より好ましくは、1.5質量部以下である。
【0027】
第1の粒子22と第2の粒子23の量(質量)の比(第1の粒子の質量:第2の粒子の質量)は、好ましくは、100:1~150:1であり、より好ましくは120:1~130:1である。第1の粒子22に対する第2の粒子23の量が少なすぎると、第1の粒子22に起因する繊維編組13の目詰まりが生じるおそれがある。第1の粒子22に対する第2の粒子23の量が多すぎると、第2の粒子23に起因する繊維編組13の目詰まりが生じるおそれがある。
基本的に、第2の粒子23は、第1の粒子22の凝集を防ぐためのいわば潤滑材として機能する。このため、第2の粒子23が第1の粒子22に対して、少なすぎても多すぎても、この潤滑作用が阻害されることになる。
【0028】
(比較例1)
図4を参照して、比較例1に係る超電導コイルを説明する。符号について
図1~3と重複するものは同様の符号を用いる。
図4は、比較例1に係る超電導コイルの超電導線材12近傍を拡大して表す拡大断面図である。
【0029】
比較例1の樹脂硬化物14xは、樹脂マトリクス21,第1の粒子22を含み、第2の粒子23を含まない。
第1の粒子22の粒径は、繊維編組13の間隙131の幅Wsより大きいため、繊維編組13が目詰まりすることはない。しかし、樹脂硬化物14xは、第2の粒子23(微粒子)を含まないため、第1の粒子22は樹脂マトリクス21から分離して堆積し、層(堆積層)Lを形成し易くなる。
【0030】
この層Lは、樹脂マトリクス21が繊維編組13を通過することを阻害する。このため、超電導線材12と繊維編組13への樹脂マトリクス21の含浸が阻害され、例えば、超電導線材12の近傍や繊維編組13の網目にボイドB(樹脂マトリクス21の未含浸部)が生じ易い。
【0031】
超電導線材12および繊維-樹脂の複合構造(繊維編組13と樹脂硬化物14xの複合構造)は、励磁電流による電磁力を受ける。このため、超電導線材12の近傍や繊維編組13の網目の未含浸部に応力が集中し、クラックの起点となるおそれがある。超電導線材12周辺にクラックが発生すると、発熱してクエンチを誘発する可能性がある。
【0032】
(比較例2)
図5を参照して、比較例2に係る超電導コイルを説明する。符号について
図1~4と重複するものは同様の符号を用いる。
図5は、比較例2に係る超電導コイルの超電導線材12近傍を拡大して表す拡大断面図である。
【0033】
比較例2の樹脂硬化物14yは、樹脂マトリクス21,第3の粒子25を含み、第1、第2の粒子22,23を含まない。
第3の粒子25は、500nmを超え、2μm未満の粒径を有する無機材料の粒子である。すなわち、例えば、粒径が2μm~15μm程度の第1の粒子22と、例えば、粒径が1nm~500nm程度の第2の粒子23の中間の粒径を有する。言い換えれば、第3の粒子25の粒径は、繊維編組13の間隙132の幅Ws(例えば、1~2μm程度)と比較的近接している。
【0034】
このため、第3の粒子25は、繊維編組13の間隙(網目)131に詰まり易い。この目詰まりは、樹脂マトリクス21が繊維編組13を通過することを阻害し、超電導線材12近傍にボイドBが生じ易くなる。既述のように、このボイドBは、クラック、ひいてはクエンチの発生の原因となり得る。
【0035】
以上から判るように、本実施形態では、繊維編組13の間隙131の幅Wsに近い粒径の第3の粒子25を用いず、幅Wsより十分大きな粒径の第1の粒子22,幅Wsより十分小さな粒径の第2の粒子23を用いている。小さな粒界の第2の粒子23が第1の粒子22の潤滑材として機能することで、第1の粒子22の凝集(既述の層Lの発生)を防止し、樹脂マトリクス21の含浸性の向上(ボイドBの発生の低減)を図っている。
【0036】
(超電導コイル10の作成)
以下、超電導コイル10の作成につき説明する。
図6は、超電導コイル10の製造工程の一例を表すフロー図である。超電導コイル10は、次に示すように、塗り込み含浸法によって作成できる。
【0037】
(1a)1層目の超電導線材12の巻き付け(ステップS1(1))
ボビン11に1層目の超電導線材12を巻く。このとき、超電導線材12は、筒状の繊維編組13で被覆されている。以下も同様とする。
(1b)1層目の含浸(ステップS2(1))
1層目の超電導線材12(繊維編組13で被覆)に樹脂マトリクス21,第1の粒子22,および第2の粒子23を含む樹脂組成物を塗布する。この樹脂組成物は、繊維編組13の網間を通って、超電導線材12に到達する。すなわち、繊維編組13の網間内、繊維編組13と超電導線材12の間に樹脂組成物が充填される。
【0038】
(2a)2層目の超電導線材12の巻き付け(ステップS1(n))
1層目の超電導線材12上に2層目の超電導線材12を巻く。
(2b)2層目の含浸(ステップS2(n))
2層目の超電導線材12(繊維編組13で被覆)に樹脂組成物を塗布する。第2層目の繊維編組13の網間内、繊維編組13と超電導線材12の間に樹脂組成物が充填される。
また、ステップS2(1)で塗布された樹脂マトリクス21は、1層目と2層目の間に配置され、2層目下方の繊維編組13の間隙131を通過して超電導線材12と繊維編組13を欠陥なく含浸される。
【0039】
以下同様に、3層目の超電導線材12の巻き付け、樹脂組成物の塗布を行う。層数nが4以上であれば、この巻き付け、塗布が繰り返される。
【0040】
以上のように、巻き付け塗布が完了したら、ボビン11(樹脂組成物)を加熱し、樹脂組成物を硬化させ、樹脂硬化物14とする。この結果、超電導コイル10が作成される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を説明する。
ここでは、100質量部のエポキシ主剤に対して、第1の粒子22の含有量を一定とし、第2の粒子23の含有量(添加量Rp)を0~2.0質量部の間で変化させて、超電導コイルを作製した。
なお、添加量Rpは、phr(per handred resin)を単位として、すなわち、エポキシ主剤100質量部に対する第2の粒子23の質量部の大きさとして表される。
【0042】
樹脂マトリクス21は、硬化剤を適宜添加したエポキシ樹脂を用いた。
100質量部のエポキシ主剤に対する第1の粒子22の含有量を180質量部とした。
繊維編組13の隙間の幅Wsは、1μmであった。
第1の粒子22の材料は、球状シリカ(アドマテックス社製 MSS-6)粒径は6μmとした。
第2の粒子23の材料は、アエロジル(EVONIK社製 AEROSIL RY200S) 平均粒径は12nmとした。
【0043】
作成した超電導コイル10の断面を電子顕微鏡(SEM)で観察し、超電導線材12近傍のボイドの発生量(ボイド含有率Rb[%])を測定した。
次の表および
図7は、この結果を纏めたものである。
【表1】
【0044】
ここでは、第2の粒子23の含有量Rpが0の場合を比較例(前述の比較例1に対応)とし、その他を実施例としている。
図7に示されるように、第2の粒子23の添加量Rp[phr]に応じて、ボイド含有率Rb[%]が変化している。
第2の粒子23の添加量Rpが0.75質量部の付近で、ボイド含有率Rbが大きく低減している。すなわち、超電導コイル10の信頼性向上の観点から、第2の粒子23の添加量は0.75質量部以上が好ましい。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
10: 超電導コイル、11: ボビン、11A: 中心軸、11B: 側板、12: 超電導線材、13: 繊維編組、14: 樹脂硬化物、21: 樹脂マトリクス、22: 第1の粒子、23: 第2の粒子、131: 繊維、132: 間隙