(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】防虫シート、防虫カバー及び防虫シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A01M 29/12 20110101AFI20220920BHJP
B65D 81/28 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
A01M29/12
B65D81/28 B
(21)【出願番号】P 2018183921
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】辻 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】江口 諒
(72)【発明者】
【氏名】林 昌義
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-294668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
A47G 25/00 - 25/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状通気性基材と、前記シート状通気性基材上に繰り返し模様状に形成されてなり、少なくとも1種の防虫剤を含有する防虫剤層とを備える防虫シート
であって、前記繰り返し模様は、下記要件(i)を満たすドット柄、下記要件(ii)を満たす市松模様、下記要件(iii)を満たすうろこ模様、下記要件(iv)を満たす波柄、及び、下記要件(v)を満たすストライプ柄から選択されるいずれかである防虫シート。
(i) 繰り返し単位であって、前記シート状通気性基材の露出部である円の直径又は楕円の長径が10mm以下である。
(ii) 繰り返し単位である四角形の長辺の長さ、又は正方形もしくは菱形の一辺の長さが10mm以下である。
(iii) 繰り返し単位である三角形の長辺の長さ、又は正三角形の一辺の長さが10mm以下である。
(iv) 相隣る防虫剤層である波線の間隔が10mm以下である。
(v) 相隣る防虫剤層である直線の間隔が10mm以下である。
【請求項2】
前記防虫剤層が、繰り返し模様状にパターン印刷されてなる印刷部である、請求項1に記載の防虫シート。
【請求項3】
繰り返し模様状の前記防虫剤層の合計面積S1が、前記シート状通気性基材の前記防虫剤層が形成された面の全面積S2に占める割合(S1/S2(%))は、10~90%の範囲にある、請求項1又は2に記載の防虫シート。
【請求項4】
前記繰り返し模様が
前記ドット柄で
ある、請求項1~
3のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項5】
前記繰り返し模様が
前記市松模様で
ある、請求項1~
3のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項6】
前記繰り返し模様が
前記うろこ模様で
ある、請求項1~
3のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項7】
前記繰り返し模様が
前記波柄で
ある、請求項1~
3のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項8】
前記繰り返し模様が
前記ストライプ柄で
ある、請求項1~
3のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項9】
前記防虫剤層は、前記防虫剤として少なくとも1種の非揮散性防虫剤を含有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項10】
前記防虫剤層は、前記防虫剤として少なくとも1種の揮散性防虫剤を含有する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項11】
衣類用又は人形用である請求項1~
10のいずれか1項に記載の防虫シート。
【請求項12】
被保護物を内部に収容可能な袋状体であり、請求項1~
11のいずれか1項に記載の防虫シートを少なくとも一部に具備する防虫カバー。
【請求項13】
前記被保護物が衣類であり、正面シート及び背面シートを具備し、前記背面シートが請求項1~
10のいずれか1項に記載の防虫シートである請求項
12に記載の防虫カバー。
【請求項14】
シート状通気性基材上に、防虫剤を含有する組成物をパターン印刷することにより、防虫剤を含有する繰り返し模様状の印刷部を形成すること、および
前記印刷部が形成された前記シート状通気性基材を乾燥すること
を含む、請求項2~
11のいずれか1項に記載の防虫シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防虫シート、防虫カバー及び防虫シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類等の繊維製品をカツオブシムシ類、イガ類等の繊維害虫の食害から保護する手段として、様々な形態が存在する。例えば、ナフタレン、パラジクロロベンゼン、樟脳等の昇華性防虫剤を、衣類等と共に、タンス、衣類箱等の収納具に収納することは、従来から行われてきた。
【0003】
衣類等を繊維害虫の食害から保護する他の形態として、例えば特許文献1には、ポリエチレン等のプラスチック製フィルムや不織布に常温揮散性の防虫剤を含有するインキを印刷し、当該印刷面が内側になるように袋体を形成してなる衣類等の防虫用保存袋が開示されている。
【0004】
衣類等の防虫用保存袋に関しては、更に研究開発が進められ、例えば特許文献2には、衣類をハンガーに吊るした状態のままで出し入れができ、且つ、防虫剤として常温揮発性と非揮発性の混合物を使用することにより防虫効果の持続性を改善した衣類用防虫カバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-166075号公報
【文献】特開2002-320544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
衣類用防虫カバーは、一般に、正面シートとして透明プラスチックフィルム、背面シートとして不織布が用いられ、不織布に防虫剤が塗布されていることが多い(例えば、特許文献2の請求項2等を参照)。防虫カバーの正面シートとして透明フィルムを用いるのは、袋内の衣類を見えやすくするためであり、背面シートとして不織布を用いこれに防虫剤を塗布するのは、製造上の有利性の観点からである。
【0007】
そして、防虫カバーの背面シートとして用いられる不織布への防虫剤の塗布は、不織布の全面になされることが通常である。
【0008】
このような不織布全面への防虫剤の塗布は、防虫効果の観点からは好ましいが、防虫剤の使用量が多くなるため、製造コストが高くなるという問題がある。更に、防虫剤は通常所定の溶剤に溶解した状態で塗布されるため、不織布全面に防虫剤含有溶液を塗布した場合、その後の乾燥工程に時間を要し、生産性が悪くなるという問題も有している。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み開発されたものであり、高度な技術は不要で、所望とする防虫効果を維持しつつ防虫剤の使用量を飛躍的に低減することができ、且つ生産性にも優れる防虫シート、及びそれを用いた防虫カバーを提供することを目的とする。また、本発明は、上記防虫シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、防虫剤層をシート状通気性基材上に全面印刷により形成することに替え、例えばパターン印刷により、防虫剤層を繰り返し模様状に形成することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の一側面によると、シート状通気性基材と、上記シート状通気性基材上に繰り返し模様状に形成されてなり、少なくとも1種の防虫剤を含有する防虫剤層とを備える防虫シートが提供される。
【0012】
一形態において、上記防虫剤層は、繰り返し模様状にパターン印刷されてなる印刷部であってよい。
【0013】
他の形態において、繰り返し模様状の上記防虫剤層の合計面積S1が、上記シート状通気性基材の上記防虫剤層が形成された面の全面積S2に占める割合(S1/S2(%))は、10~90%の範囲にあってよい。
【0014】
他の形態において、上記繰り返し模様は、ドット柄、市松模様、うろこ模様、波柄、及びストライプ柄から選択されるいずれかであってよい。
【0015】
他の形態において、上記繰り返し模様はドット柄であり、繰り返し単位である円の直径又は楕円の長径は10mm以下であってよい。
【0016】
他の形態において、上記繰り返し模様は市松模様であり、繰り返し単位である四角形の長辺の長さ、又は正方形もしくは菱形の一辺の長さは10mm以下であってよい。
【0017】
他の形態において、上記繰り返し模様はうろこ模様であり、繰り返し単位である三角形の長辺の長さ、又は正三角形の一辺の長さは10mm以下であってよい。
【0018】
他の形態において、上記繰り返し模様は波柄であり、相隣る印刷部である波線の間隔は10mm以下であってよい。
【0019】
他の形態において、上記繰り返し模様はストライプ柄であり、相隣る印刷部である直線の間隔は10mm以下であってよい。
【0020】
他の形態において、上記防虫剤層は、上記防虫剤として少なくとも1種の非揮散性防虫剤を含有してよい。
【0021】
他の形態において、上記防虫剤層は、上記防虫剤として少なくとも1種の揮散性防虫剤を含有してよい。
【0022】
他の形態において、上記防虫シートは衣類用又は人形用であってよい。
【0023】
また、本発明の他の側面によると、被保護物を内部に収容可能な袋状体であり、上記防虫シートを少なくとも一部に具備する防虫カバーが提供される。
【0024】
一形態において、上記防虫カバーは衣類用であり、正面シート及び背面シートを具備し、上記背面シートが上記防虫シートであってよい。
【0025】
また、本発明の他の側面によると、シート状通気性基材上に、防虫剤を含有する組成物をパターン印刷することにより、防虫剤を含有する繰り返し模様状の印刷部を形成すること、および
上記印刷部が形成された上記シート状通気性基材を乾燥すること
を含む上記防虫シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、防虫剤層が基材上にベタ印刷されてなる防虫シートと比較し、所望とする防虫効果を維持しつつ防虫剤の使用量を飛躍的に低減させること、並びに、防虫シートの生産性を改善することが可能となった。このように、防虫剤の使用量の低減並びに防虫シートの生産性向上という2面から製造コストの大幅な削減が可能となるため、本発明によりもたらされる経済的効果は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】繰り返し模様の一形態であるドット柄の一例を示す図。
【
図1B】繰り返し模様の他の形態である波柄の一例を示す図。
【
図1C】繰り返し模様の他の形態である市松模様の一例を示す図。
【
図1D】繰り返し模様の他の形態であるうろこ模様の一例を示す図。
【
図1E】繰り返し模様の他の形態であるストライプ柄の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態に係る防虫シート、その製造方法、および防虫カバーについて詳しく説明する。ここで防虫シートとは、衣類、人形、寝具など各種繊維製品を、カツオブシムシ類、イガ類、コイガ類等の繊維害虫の食害から保護するために用いられるものである。
【0029】
本発明の実施形態に係る防虫シートは、シート状通気性基材と、上記シート状通気性基材の少なくとも片面上に形成された、防虫剤を含有する防虫剤層とを備える。ここで、防虫剤層は、シート状通気性基材上に繰り返し模様状に形成されてなる層である。一形態において、繰り返し模様状の防虫剤層は、繰り返し模様状にパターン印刷されてなる印刷部である。以下では、本発明の実施形態として、繰り返し模様状の防虫剤層が印刷部である形態について説明するが、本発明を防虫剤層が印刷部である形態に限定するものではない。
【0030】
すなわち、本発明の実施形態に係る防虫シートは、防虫剤層を、シート状通気性基材表面に対する全面印刷によるべた塗り(以下、「ベタ印刷」という。)から、パターン印刷による繰り返し模様状の印刷部に変更したことを特徴の一つとする。防虫剤層を繰り返し模様状の印刷部とすることにより、ベタ印刷の場合と比較して、所望とする防虫効果を維持しつつ、防虫剤の使用量を飛躍的に低減することができる。
【0031】
更に、防虫剤の使用量が低減されるだけでなく、防虫剤層形成のために用いられる印刷用塗布液(以下において、「防虫剤含有組成物」という。)の調製において用いられる溶剤の使用量も同様に低減することができる。このため、パターン印刷後の乾燥時間が大幅に短縮され、製造工程の効率化を図ることができる結果、防虫シートの生産性も大幅に改善する。
【0032】
本発明の実施形態において、シート状通気性基材における印刷部が形成された面の全面積S2に占める、防虫剤層の合計面積S1の割合[S1/S2(%)](以下、「シート状通気性基材に対する防虫剤層の面積比」という。)は、防虫剤使用量と防虫効果とのバランスの観点から適宜設定することができる。一形態において、シート状通気性基材に対する防虫剤層の面積比[S1/S2(%)]は、10~90%であってよく、40~90%であってよい。
【0033】
繰り返し模様は、防虫剤層からなる印刷部と、非印刷部(すなわち、シート状通気性基材が露出している部分)との規則的な配置により構成される繰り返し模様ととらえることができる。本発明の実施形態において、繰り返し模様は、規則的に配置される非印刷部の大きさを、繊維害虫の幼虫のサイズと同等、もしくはそれ以下に設定することが好ましい。例えば、ヒメカツオブシムシの幼虫は1~10mm程度、ヒメマルカツオブシムシの幼虫は4~5mm程度、イガの幼虫は5~6mm程度、コイガの幼虫は6~7mm程度と言われている。したがって、繰り返し模様状の印刷部は、規則的に配置される非印刷部の大きさがこれら繊維害虫の幼虫のサイズと同等、もしくはそれ以下となるようシート状基材表面上にパターン印刷されることが好ましい。
【0034】
繰り返し模様の基本パターンとしては、例えば、ドット柄、市松模様、うろこ模様、波柄、ストライプ柄等を挙げることができる。
【0035】
ドット柄の一例を
図1Aに示す。
図1Aでは、a2で示される円が非印刷部(シート状通気性基材)であり、a1が印刷部(防虫剤層)であり、非印刷部である複数の同一の円a2が一定間隔で配置されている。但し、ドットの形状は円に限られるものではなく、楕円その他の形状であってもよい。また、互いに異なる形状のドットが一定間隔で配置されたものであってもよい。また、印刷部と非印刷部の配置が
図1Aと反対であってもよい。
【0036】
図1Aに示されるドット柄において、非印刷部である円a2の直径(楕円の場合は長径)は、繊維害虫の幼虫のサイズと同等、もしくはそれ以下に設定されることが好ましく、例えば、10mm以下であってよく、1~8mmであってよく、4~7mmであってよい。
【0037】
波柄の一例を
図1Bに示す。ここでは、印刷部(防虫剤層)である複数の波線b1が所定の間隔を空けて平行に配列されてなり、複数の波線b1の間隙であるb2は非印刷部(シート状通気性基材)を示す。波柄は、一線ごとにピッチ、波高が異なるものが組み合わされてもよいが、基本的には同じ波形状の繰り返されたものが好ましい。波形は特に限定されるものではなく、
図1Bに示される丸みを持つU形状のものであってもよいし、波の頂点の尖ったV形状のものでもよいし(図示せず)、平面的な台形状のものであってもよい(図示せず)。
【0038】
波柄におけるピッチ、波高、相隣る印刷部である波線b1の間隔(換言すると、波線b2の線幅)は、繊維害虫の幼虫のサイズを考慮し適宜設定することができる。一形態において、相隣る印刷部である波線b1の間隔は、例えば、10mm以下であってよく、1~8mmであってよく、4~7mmであってよい。
【0039】
市松模様の一例を
図1Cに示す。ここでは、複数の同一の四角形が四隅を接触するように配置され、印刷部(防虫剤層)の正方形c1と非印刷部(シート状通気性基材)の正方形c2とが交互に配列されている。市松模様を構成する四角形は限定されるものではなく、例えば、正方形、菱形、長方形等が挙げられる。
【0040】
四角形の長辺の長さは、繊維害虫の幼虫のサイズと同等、もしくはそれ以下に設定されることが好ましく、例えば、10mm以下であってよく、1~8mmであってよく、4~7mmであってよい。ここで「四角形の長辺の長さ」は、四角形が正方形又は菱形である場合は、四角形の一辺の長さを意味する。
【0041】
うろこ模様の一例を
図1Dに示す。ここでは、複数の同一の三角形が各頂点で接触するように配置され、印刷部(防虫剤層)の三角形d1と非印刷部(シート状通気性基材)の三角形d2とが交互に配列されている。うろこ模様を構成する三角形は限定されるものではなく、例えば、正三角形、二等辺三角形等が挙げられる。
【0042】
三角形の長辺の長さは、繊維害虫の幼虫のサイズと同等、もしくはそれ以下に設定されることが好ましく、例えば、10mm以下であってよく、1~8mmであってよく、4~7mmであってよい。ここで「三角形の長辺の長さ」は、三角形が正三角形である場合は、三角形の一辺の長さを意味する。
【0043】
ストライプ柄の一例を
図1Eに示す。ここでは、印刷部(防虫剤層)である複数の直線e1が所定の間隔を空けて平行に配列されてなり、複数の直線e1の間隙であるe2は非印刷部(シート状通気性基材)を示す。
【0044】
ストライプ柄における相隣る印刷部である直線e1の間隔(換言すると、直線e2の線幅)は、繊維害虫の幼虫のサイズを考慮し適宜設定することができる。一形態において、相隣る印刷部である直線e1の間隔は、例えば、10mm以下であってよく、1~8mmであってよく、4~7mmであってよい。
【0045】
本発明の実施形態において、防虫剤層は少なくとも1種の防虫剤を含有する。使用することができる防虫剤は、非揮散性防虫剤でもよく、揮散性防虫剤でもよく、双方を併用してもよい。ここで非揮散性防虫剤と揮散性防虫剤は、25℃における蒸気圧が1.0×10-4Pa以下である防虫剤を非揮散性、1.0×10-4Pa超である防虫剤を揮散性として区別する。
【0046】
半年以上の長期にわたる防虫効果を維持する観点からは、防虫剤として少なくとも1種の非揮散性防虫剤を使用することが好ましい。
【0047】
また、本発明の実施形態に係る防虫シートにおいて、防虫剤として揮散性防虫剤を使用する場合には、長期にわたる防虫効果の維持が可能となる。すなわち、防虫剤層をベタ印刷から繰り返し模様状の印刷部とすることにより、シート状通気性基材に対する防虫剤層の面積比[S1/S2(%)]を低くすることができるため、防虫剤層をベタ印刷した場合に比べ、防虫剤の全体としての使用量を増加させることなく、印刷部の単位面積あたりの防虫剤の塗布量を多くすることができる。このため、防虫剤として揮散性防虫剤を使用した場合には、長期にわたる防虫効果の維持が可能となる。
【0048】
非揮散性防虫剤の具体例としては、フェノトリン(蒸気圧:2.0×10-5Pa/25℃)、シフェノトリン(蒸気圧:1.33×10-5Pa/25℃)、エトフェンプロックス(蒸気圧:8.0×10-7Pa/25℃)、シラフルオフェン(蒸気圧:2.5×10-6Pa/25℃)等のピレスロイド系化合物等を挙げることができる。
【0049】
揮散性防虫剤の具体例としては、エンペントリン(蒸気圧:1.4×10-2Pa/25℃)、プロフルトリン(蒸気圧:1.03×10-2Pa/25℃)、トランスフルトリン(蒸気圧:9.0×10-3Pa/25℃)、アレスリン、メトフルトリン、フタルスリン、ペルメトリン等のピレスロイド系化合物;デカメチルテトラシロキサン、モチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等のシリコーン化合物;2-フェノキシエタノール等を挙げることができる。
【0050】
本発明の実施形態において、防虫剤層は、防虫剤以外に必要に応じて任意の成分を含有することができる。含有してもよい任意成分としては、例えば、香料、消臭剤、脱臭剤、抗菌成分、防カビ成分等が挙げられる。
【0051】
本発明の実施形態において、シート状通気性基材としては、不織布、紙、織布等を用いることができる。
【0052】
本発明の実施形態に係る防虫シートの製造においては、印刷用塗布液として、防虫剤含有組成物が用いられる。この防虫剤含有組成物は、通常、防虫剤と、必要に応じて添加される任意成分を所定の溶剤(例えば、トルエン等)に溶解して調製される組成物である。なお、印刷用塗布液は、顔料等の着色剤を含有するインクである必要はない。印刷部としての繰り返し模様は視覚により識別できるものであってもよいし、視覚により識別できないものであってもよい。
【0053】
この防虫剤含有組成物を用いてシート状通気性基材上に防虫剤層がパターン状に印刷される。パターン印刷は、何ら特別な印刷設備、加工設備などを必要とせず、スクリーン印刷、グラビア印刷、平版印刷、インクジェット方式等、既存の印刷機をそのまま使用することができる。上述した印刷部の単位面積あたりの防虫剤の塗布量の調節は、印刷用塗布液における防虫剤の濃度や防虫剤含有組成物を塗布する際に用いられる版の深さを変更することにより調整することができる。
【0054】
防虫剤含有組成物がパターン印刷されたシート状通気性基材は、次いで乾燥される。乾燥温度及び時間は、適宜設定することができる。上述したとおり、防虫剤層を繰り返し模様状の印刷部とすることにより、防虫剤含有組成物の塗布量を飛躍的に低減することができるため、乾燥時間が大幅に短縮され、製造工程の効率化を図ることができる結果、防虫シートの生産性も大幅に向上する。
【0055】
本発明の実施形態に係る防虫シートは、一形態において、衣類、人形、寝具等の繊維製品の防虫カバーに用いられる。防虫カバーの形態は、特に限定されるものではなく、被保護物を内部に収容することが可能な袋体状であって、少なくとも一部に本発明の実施形態に係る防虫シートが用いられていればよい。防虫シートが片面のみに防虫剤層を有する場合、防虫剤層を有する面は袋状体の外側でも内側でもよいが、一形態において外側であることが好ましい。
【0056】
本発明の実施形態に係る防虫カバーは、一形態において、四辺形の不織布等のシート状通気性基材2枚を重ね、隣り合う二辺をシールしてなる袋状体であり、2枚のシート状通気性基材の少なくとも一方に本発明の実施形態に係る防虫シートが用いられる。被保護物としての人形等の繊維製品に、防虫剤層を有する面が外側になるように袋状体をかぶせ、被保護物を包み込む。
【0057】
本発明の実施形態に係る防虫カバーは、他の形態において、被保護物として衣類を内部に収容することが可能な袋体状であり、正面シートと背面シートを備え、正面シートと背面シートの少なくとも一方に本発明の実施形態に係る防虫シートが用いられる。例えば、実施形態に係る防虫カバーは、正面シートとして透明プラスチックが用いられ、背面シートとして実施形態に係る防虫シートが用いられた袋体状であってよい。正面シートは、例えば特許文献2に記載の防虫カバーのように、重なり部を有する第一の正面シート及び第二の正面シートから構成されていてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例及び比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明は当該実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0059】
<<試験例1>>
<防虫剤含有組成物の調製>
非揮散性防虫剤としてフェノトリン(蒸気圧:2.0×10-5Pa/25℃)2.5質量部を、トルエン100質量部に加え、攪拌することにより、防虫剤含有組成物を調製した。
【0060】
<実施例1~3、比較例1、2>
厚さ0.1mmの不織布(旭化成社製)上に、上記で得た防虫剤含有組成物をグラビア印刷を用いてパターン印刷することにより、繰り返し模様状の塗膜を設けた。次いで塗膜を乾燥することにより、
図1A、
図1B又は
図1Cの繰り返し模様状の印刷部を有する防虫シートを得た(表1の実施例1~3)。
【0061】
対照用として、上記不織布の全面に上記防虫剤含有組成物をベタ印刷し、乾燥することにより、防虫剤含有組成物の塗布量が互いに異なる2つの防虫シートを得た(表1の比較例1、2)。比較例1は、印刷部の単位面積当たりの塗布量(g/m2)が実施例1~3と同じで、且つ、全体の使用量が2倍であり、比較例2は、印刷部の単位面積当たりの塗布量(g/m2)が実施例1~3の半分で、且つ、全体の使用量が同じである。
【0062】
<食害試験>
上記で得た防虫シート各々を、60mm×60mmのサイズで2枚ずつ用意し、3辺を5mm幅でシールし袋状にした。この袋の中にイガ幼虫(体長約4~5mm)10頭を入れ、袋の残りの1辺をシール(5mm幅)した。
【0063】
上記サンプルを25℃で静置し、1週間後の不織布の食害の有無を目視にて確認した。その結果、食害による穴が1つも確認されなかったものをA、食害による穴が1つでも確認されたものをBと評価した。結果を表1に示す。
【0064】
なお、ブランクとして、防虫剤層を形成していない不織布について同様の試験を行った(比較例3)。
【0065】
【0066】
表1に示される結果から、防虫剤層を繰り返し模様状の印刷部とすることにより、防虫剤層をベタ印刷した場合と比較し、防虫効果を低下させることなく、防虫剤の使用量を半減できることがわかった。
【0067】
<<試験例2>>
<実施例4、比較例4>
厚さ0.1mm、10×10cmの不織布(旭化成社製)に、揮散性防虫剤としてエンペントリン(蒸気圧:1.4×10
-2Pa/25℃)400mgをスクリーン印刷を用いてパターン印刷することにより、実施例3と同じ
図1Cに示す市松模様状の塗膜を得た。次いで塗膜を3時間常温で風乾させて、不織布全体の50%の面積に揮散性防虫剤がパターン印刷された防虫シートを得た(実施例4)。
【0068】
対照用として、上記不織布の全面に同量のエンペントリンをベタ印刷し、乾燥することにより、揮散性防虫剤の印刷部の単位面積当たりの塗布量(g/m2)が実施例4の半分で、かつ、全体の使用量が同じである防虫シートを得た(比較例4)。
【0069】
<一定期間経過後の防虫剤残存量の評価>
上記で得た防虫シート各々を40℃で静置し、2週間後に不織布上に残存したエンペントリン量をガスクロマトグラフィーによって分析した。防虫シート作成時に含有させたエンペントリン量から2週間後に残存するエンペントリン量を差し引き、エンペントリンの揮散量を算出した。その結果、実施例4におけるエンペントリンの揮散量は46.7mg、比較例4におけるエンペントリンの揮散量は87.7mgであった。この結果から、防虫剤層を繰り返し模様状の印刷部とすることにより、同量の揮散性防虫剤を全面にベタ印刷した場合と比較し、長期にわたる防虫効果の維持が可能なシートが得られることがわかった。
【0070】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0071】
a1、b1、c1、d1、e1・・・印刷部(防虫剤層)
a2、b2、c2、d2、e2・・・非印刷部(シート状通気性基材)