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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】制御装置、および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/38 20060101AFI20220920BHJP
【FI】
H02J3/38 180
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018201255
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020068615
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雪菜
(72)【発明者】
【氏名】直井 伸也
(72)【発明者】
【氏名】河内 駿介
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 尚隆
(72)【発明者】
【氏名】石黒 崇裕
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-313540(JP,A)
【文献】特開2002-238163(JP,A)
【文献】特開2000-217258(JP,A)
【文献】特開2009-183117(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0219380(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統と直流系統とに接続された自励式電力変換器を制御する制御装置であって、
前記交流系統の電圧検出値と、前記交流系統の電流検出値とに基づく第1電圧指令値を導出する第1導出部と、
前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるように第2電圧指令値を決定し、
前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記交流系統の電圧指令値を前記第2電圧指令値として決定する第2導出部と、
前記交流系統と他の電力供給装置との電気的な接続状態に基づいて、前記第1電圧指令値と前記第2電圧指令値とのいずれかを選択的に出力する選択部と、
前記選択部により出力された前記第1電圧指令値または前記第2電圧指令値に基づいて、前記自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成する生成部と、を備え、
前記第2導出部は、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるための第1補正値を導出し、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記第1補正値を導出しない第1補正部と、
前記第1補正部の導出結果と、前記交流系統の電圧指令値とに基づいて、前記第2電圧指令値を決定する決定部とを含む、
制御装置。
【請求項2】
前記第2導出部は、
前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きいことを検出する電流検出部と、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離されたことを示す第1信号、および前記電流検出部により前記電流が基準よりも大きいことが検出されたことを示す第2信号を取得したことに応じて、前記交流系統の電圧指令値を前記第2電圧指令値として決定させる第1制御信号を生成する第1信号生成部と、
前記第1補正部は、前記第1信号生成部により生成された第1制御信号を取得した場合に、前記第1補正値を導出しない、
請求項に記載の制御装置。
【請求項3】
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離された場合に、直前に出力された前記電圧指令値に対して、出力する前記電圧指令値の変化率を所定の範囲内に制限する制限部を備え、
前記制限部の制限が前記電圧指令値に対して作用しなくなったと推定される基準時間が経過した後、前記第1補正部が動作する、
請求項またはに記載の制御装置。
【請求項4】
前記第2導出部は、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記交流系統の電圧指令値を抑制するための第2補正値を出力し、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧指令値を抑制するための第2補正値を出力しない第2補正部を更に備える、
請求項1からのうちいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第2導出部は、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記交流系統の電圧指令値を抑制するための第2補正値を出力し、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧指令値を抑制するための第2補正値を出力しない第2補正部と、
前記第1信号、および前記第2信号を取得したことに応じて、前記第2補正部を作動させる第2制御信号を生成する第2信号生成部と、を備え、
前記第2補正部は、前記第2信号生成部により生成された第2制御信号を取得した場合に、前記第2補正値を導出し、
前記決定部は、前記第1補正部の導出結果と、前記第2補正部の導出結果と、前記交流系統の電圧指令値とに基づいて、前記第2電圧指令値を決定する、
請求項に記載の制御装置。
【請求項6】
交流系統と直流系統とに接続された自励式電力変換器を制御する制御方法であって、
制御装置が、
前記交流系統の電圧検出値と、前記交流系統の電流検出値とに基づく第1電圧指令値を導出する処理と、
前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるように第2電圧指令値を決定し
前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記交流系統の電圧指令値を前記第2電圧指令値として決定する処理と、
前記交流系統と他の電力供給装置との電気的な接続状態に基づいて、前記第1電圧指令値と前記第2電圧指令値とのいずれかを選択的に出力する処理と、
前記出力された前記第1電圧指令値または前記第2電圧指令値に基づいて、前記自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成する処理と、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるための第1補正値を導出し、
前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記第1補正値を導出しない補正処理と、
前記補正処理の導出結果と、前記交流系統の電圧指令値とに基づいて、前記第2電圧指令値を決定する処理と、
を実行する制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置、および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、系統事故により交流電源が喪失した系統である単独系統内の負荷に自励式電力変換器が電力を供給する場合、負荷容量が大きいと過電流となり、自励式電力変換器が停止する場合がある。自励式電力変換器が停止する要因となる過電流を抑制するために維持する電圧を下げる場合がある。しなしながら、単独系統内の負荷容量の大きさは時々によって異なるため、その交流系統にとって適切な電力を供給することができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-217258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、交流系統にとって適切な電力を供給することができる制御装置、および制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の制御装置は、交流系統と直流系統とに接続された自励式電力変換器を制御する制御装置である。制御装置は、第1導出部と、第2導出部と、選択部と、生成部とを持つ。第1導出部は、前記交流系統の電圧検出値と、前記交流系統の電流検出値とに基づく第1電圧指令値を導出する。第2導出部は、前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるように第2電圧指令値を決定し、前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記交流系統の電圧指令値を前記第2電圧指令値として決定する。選択部は、前記交流系統と他の電力供給装置との電気的な接続状態に基づいて、前記第1電圧指令値と前記第2電圧指令値とのいずれかを選択的に出力する。生成部は、前記選択部により出力された前記第1電圧指令値または前記第2電圧指令値に基づいて、前記自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成する。前記第2導出部は、前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるための第1補正値を導出し、前記交流系統と他の電力供給装置とが切り離され、且つ前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記第1補正値を導出しない第1補正部と、前記第1補正部の導出結果と、前記交流系統の電圧指令値とに基づいて、前記第2電圧指令値を決定する決定部とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態に係る電力システム1に含まれる制御装置100の使用環境の一例を示す図。
図2】制御装置100の機能構成の一例を示す図。
図3】交流電圧制御部120の機能構成の一例を示す図。
図4】制御装置100により実行される処理の流れを示すフローチャート。
図5】積分器132が補正値を出力する場合と出力しない場合について説明するための図。
図6】第2の実施形態の交流電圧制御部120Aの機能構成の一例を示す図である。
図7】第2の実施形態の交流電圧制御部120Aの処理と処理タイミングとを説明するための図。
図8】比較例の制御装置により制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図。
図9】第2の実施形態の制御装置100により制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図。
図10】第3の実施形態の交流電圧制御部120Bの機能構成の一例を示す図。
図11】比例積分器144が補正値を出力する場合と出力しない場合について説明するための図。
図12】比較例の制御装置の制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図。
図13】第4の実施形態の制御装置の制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の制御装置、および制御方法を、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電力システム1に含まれる制御装置100の使用環境の一例を示す図である。電力システム1は、例えば、交流電圧源10と、交流送電線20と、遮断部30と、交流母線60と、電力変換器70と、電流検出器80と、電圧検出器90と、制御装置100と、負荷160と、電力変換器170と、交流母線180と、交流電圧源190とを含む。後述する単独系統50は、例えば、交流母線60と、電力変換器70と、電流検出器80と、電圧検出器90と、制御装置100と、負荷160とを含む。
【0009】
遮断部30および電力変換器70は交流母線(交流系統)PL1を介して接続され、電力変換器70および電流変換器170は直流母線(直流系統)PL2を介して接続されている。電力変換器70と電力変換器170とのそれぞれは、例えば、交流と直流を相互に変換する自励式電力変換器である。
【0010】
まず、単独運転について説明する。遮断部30よりも交流電圧源10(背後系統)側で系統事故が発生し、遮断部30が開放されると、遮断部30より電力変換器70側の系統は、背後系統側から分離され単独系統50となる。単独系統50内には発電機などの電力供給源が存在しなくなるが、制御装置100が、電力変換器70を交流電力供給源として運転させることで、単独系統50に接続される負荷160に電力の供給が継続される。この電力変換器70の運転を単独運転と称する。
【0011】
自励式電力変換器が、通常時の系統に対して指定された有効電力と無効電力を出力する通常運転を行う場合と、単独系統に対して交流電力供給源として単独運転を行う場合とでは、電力変換器70は、制御モードが異なる。単独運転時の電力変換器70の制御モードは、自励式電力変換器が交流母線PL1の電圧を一定に維持する制御を行うことで、単独系統内の負荷160が必要な有効電力および無効電力を負荷160に供給するモード(以降、CVCF制御モード)である。
【0012】
交流電圧源10と、遮断部30とは、交流送電線20を介して、電気的に接続されている。遮断部30は、交流母線PL1を介して交流母線60に接続されている。遮断部30がオン状態の場合、交流電圧源10と交流母線60とは電気的に接続される。遮断部30がオフ状態の場合、交流電圧源10と交流母線60とは電気的に分離される。
【0013】
電力変換器70は、交流母線60と電力変換器170とが電気的に接続される。電力変換器70の交流端子側には交流母線60が交流母線PL1を介して電気的に接続されて、電力変換器70の直流端子側には直流母線PL2を介して電力変換器70が電気的に接続される。
【0014】
電流検出部80は、例えば、交流母線60と電力変換器70との間であって、交流母線PL1に電気的に接続されている。電流検出部80は、電力変換器70を構成する部材(例えばアーム)に設けられてもよい。
【0015】
電圧検出部90は、例えば、交流母線60に電気的に接続される。電圧検出部90は、交流母線60の電圧を検出する。
【0016】
負荷160は、交流母線60に電気的に接続される。負荷160は、例えば、需要家などが使用する負荷である。
【0017】
制御装置100は、電流検出器80の検出結果、および電圧検出部90の検出結果を取得し、取得した情報等に基づいて、種々の制御を行う。制御装置100の機能構成および制御内容については後述する。
【0018】
電力変換器170の直流端子側には、電力変換器70が電気的に接続されて、電力変換器170の交流端子側には交流母線180が電気的に接続されている。電力変換器170は、交流母線180(交流系統)を介して、交流電圧源190に電気的に接続されている。なお、電力システム1において、負荷160に加えて、遮断器30の交流電圧源10側に負荷が接続されていてもよい。遮断部30がオン状態の場合において、この負荷には、例えば、交流電圧源10および電力変換器70により出力された電力が供給される場合がある。
【0019】
図2は、制御装置100の機能構成の一例を示す図である。制御装置100は、例えば、第1位相導出部102と、第2位相導出部104と、選択器106と、dq変換部108と、dq変換部110と、交流電流制御部112と、選択器114と、選択器116と、交流電圧制御部120と、dq逆変換部150と、パルス生成部152とを備える。これらの構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。なお、これらの構成要素のうち一部あるいは全部、又はこれらの構成要素に含まれる構成要素のうち一部あるいは全部は、回路(circuit)でもよい。交流電流制御部112は、「第1導出部」の一例である。交流電圧制御部120は、「第2導出部」の一例である。
【0020】
第1位相導出部102は、通常運転時に用いられる交流系統の位相θ1を導出する。第1位相導出部102は、例えば、電圧検出器90により検出された電圧検出値Vに基づいて、交流母線60の3相ごとの電圧の位相を導出し、導出した位相θ1を選択器106に出力する。
【0021】
第2位相導出部104は、単独運転時に用いられる出力電力に応じた位相θ2を導出する。第2位相導出部104は、例えば、電力変換器70が単独運転を行って電圧源として動作する場合の出力周波数f(例えば、東日本であれば50[Hz]、西日本であれば60[Hz])を設定する。第2位相導出部104は、設定した周波数に基づいて電力変換器70が出力すべき電圧の位相を導出し、導出した位相θ2を、選択器106に出力する。
【0022】
dq変換部108は、第1位相導出部102または第2位相導出部104により導出された位相情報を用いて、電流検出器80の検出結果である3相の電流検出値を2相の電流検出値に変換し、変換結果である有効分電流Idと無効分電流Iqとを交流電流制御部112に出力する。
【0023】
dq変換部110は、第1位相導出部102または第2位相導出部104により導出された位相情報を用いて、電圧検出器90の検出結果である3相の電圧検出値を2相の電圧検出値に変換し、変換結果である有効分電圧指令値Vsdと無効分電圧指令値Vsqとを交流電流制御部112に出力する。
【0024】
交流電流制御部112は、通常運転時に用いられる有効分電圧指令値Vcd1および無効分電圧指令値Vcq1を導出する。交流電流制御部112は、dq変換部108により出力された有効分電流Idと無効分電流Iqと、dq変換部110により出力された有効分電圧Vsdと、有効電力指令値Prefとに基づいて、有効分電圧指令値Vcd1を導出する。例えば、交流電流制御部112は、電力変換器70が有効電力指令値Prefに合致する有効電力を出力するように、有効分電圧指令値Vcd1を導出する。
【0025】
交流電流制御部112は、dq変換部108により出力された有効分電流Idと無効分電流Iqと、dq変換部110により出力された無効分電圧Vsqと、無効電力指令値Qrefとに基づいて、無効分電圧指令値Vcq1を導出する。例えば、交流電流制御部112は、電力変換器70が無効電力指令値Qrefに合致する無効電力を出力するように、無効分電圧指令値Vcq1を導出する。交流電流制御部112は、導出した有効分電圧指令値Vcd1および無効分電圧指令値Vcq1を選択器114および選択器116に出力する
【0026】
交流電圧制御部120は、単独運転時に用いられる有効分電圧指令値Vcd2および無効分電圧指令値Vcq2を導出する。導出手法については、後述する図3を用いて説明する。
【0027】
選択器106は、単独運転移行信号Sが入力されていない場合に、第1位相導出部102により導出された位相θ1をdq逆変換部150に出力する。選択器106は、単独運転移行信号Sが入力された場合に、第2位相導出部104により導出された位相θ2をdq逆変換部150に出力する。
【0028】
単独運転移行信号Sは、例えば、系統の異常などが発生した場合に遮断部30が開放状態に制御され、遮断部30より電力変換器70側の系統が単独系統となる場合に出力される信号である。単独運転移行信号Sは、例えば遮断部30が開放状態となった場合に、遮断部30を制御する装置が、制御装置100に出力する信号である。また、単独運転移行信号Sは、例えば制御装置100自身が、電圧検出部90の検出結果に基づいて、遮断部30が開放状態となったと推定した場合に生成する信号であってもよい。単独運転移行信号Sは、交流系統と電気的に接続されていた他の電力供給装置が切り離された場合に出力される信号である。他の電力供給装置とは、遮断部30が開放状態となる前に負荷160や交流系統60等と電気的に接続されていた交流電圧源10や他の供給源などである。
【0029】
選択器114は、単独運転移行信号Sが入力されていない場合に、交流電流制御部112により導出された有効分電圧指令値Vcd1と交流電圧制御部120により導出された有効分電圧指令値Vcd2とのうち、有効分電圧指令値Vcd1を選択し、選択した有効分電圧指令値Vcd1をdq逆変換部150に出力する。
【0030】
選択器114は、単独運転移行信号Sが入力された場合に、交流電流制御部112により導出された有効分電圧指令値Vcd1と交流電圧制御部120により導出された有効分電圧指令値Vcd2とのうち、有効分電圧指令値Vcd2を選択し、選択した有効分電圧指令値Vcd2をdq逆変換部150に出力する。
【0031】
選択器116は、単独運転移行信号Sが入力されていない場合に、交流電流制御部112により導出された無効分電圧指令値Vcq1と交流電圧制御部120により導出された無効分電圧指令値Vcq2とのうち、無効分電圧指令値Vcq1を選択し、選択した無効分電圧指令値Vcq1をdq逆変換部150に出力する。
【0032】
選択器116は、単独運転移行信号Sが入力された場合に、交流電流制御部112により導出された無効分電圧指令値Vcq1と交流電圧制御部120により導出された無効分電圧指令値Vcq2とのうち、無効分電圧指令値Vcq2を選択し、選択した無効分電圧指令値Vcq2をdq逆変換部150に出力する。
【0033】
単独運転移行信号Sが入力されると、選択器106がdq逆変換部150に入力される位相を位相θ1から位相θ2に切り替え、選択器114、および選択器116が、dq逆変換部150の入力される指令値を有効分電圧指令値Vcd1および無効分電圧指令値Vcq1から有効分電圧指令値Vcd2および無効分電圧指令値Vcq2に切り替える。有効分電圧指令値Vcd1および無効分電圧指令値Vcq1は、「第1電圧指令値」の一例である。有効分電圧指令値Vcd2および無効分電圧指令値Vcq2は、「第2電圧指令値」の一例である。
【0034】
dq逆変換部150は、電圧指令値と位相に基づいてdq逆変換を行う。dq逆変換部150は、選択器106により選択された位相θと、選択器114および選択器116により選択された有効分電圧指令値Vcdと無効分電圧指令値Vcqとに基づいて、2相の電圧指令値を三相の電圧指令値に変換し、変換した三相の電圧指令値をパルス生成部152に出力する。
【0035】
パルス生成部152は、dq逆変換部150により出力された電圧指令値に基づいて、電力変換器70のスイッチング素子に与えるゲート信号を生成し、生成したゲート信号を電力変換器70に出力する。電力変換器70は、制御装置100により出力されたゲート信号に基づいて、通常運転時または単独運転時に適した制御を実行する。
【0036】
[交流電圧制御部]
図3は、交流電圧制御部120の機能構成の一例を示す図である。交流電圧制御部120は、例えば、加算器122と、演算部124と、過電流検出器126と、NOT回路128と、AND回路130と、積分器132と、加算器134とを備える。積分器132は、「第1補正部」の一例である。加算器134は、「決定部」の他の一例である。過電流検出器126は「電流検出部」の一例であり、NOT回路128、またはAND回路130或いはこれらの組み合わせは「第1信号生成部」の一例である。また、上記第1信号生成部により出力される、後述するリセット信号などの過電流であることを示す信号は、「第1制御信号」の一例である。
【0037】
加算器122は、交流電圧指令値Vsdrefと、有効分電圧指令値Vsdとの差分を算出し、算出した差分を積分器132に出力する。交流電圧指令値Vsdrefは、単独運転時における所望の電圧値である。交流電圧指令値Vsdrefは、例えば、交流系統の定格電圧値である。あるいは、交流電圧指令値Vsdrefは、単独運転を開始する直前の交流系統の電圧値でもよい。
【0038】
演算部124は、電力変換器70により出力された有効分電流Idと無効分電流Iqとを、下記の式(1)に適用して、「I」を導出する。
【0039】
【数1】
【0040】
過電流検出器126は、演算部124の演算結果である「I」が、第1閾値以上である場合、過電流であることを示す「1」をNOT回路128に出力し、第1閾値未満である場合、過電流でないことを示す「0」をNOT回路128に出力する。
【0041】
AND回路130には、NOT回路128により出力された信号と、単独運転移行信号Sとが入力される。AND回路130は、入力された信号に基づいて、リセット信号を積分器132に出力する。
【0042】
積分器132は、交流系統の電圧が交流電圧指令値Vsdrefに合致するように補正値Vcd2bを導出する。補正値Vcd2bは、電力変換器70が出力すべき有効分電圧指令値Vcd2a(Vsdref)を補正する補正値である。補正値Vcd2bは、「第1補正値」の一例である。
【0043】
例えば、積分器132は、有効分電圧Vsdが交流電圧指令値Vsdrefよりも大きくなった場合に、負の補正値Vcd2bを導出する。負の補正値Vcd2bは、加算器134において有効分電圧指令値Vcd2aを低減させる補正値である。
【0044】
例えば、積分器132は、有効分電圧Vsdが交流電圧指令値Vsdrefよりも小さくなった場合に、正の補正値Vcd2bを導出する。正の補正値Vcd2bは、加算器134において有効分電圧指令値Vcd2aを増加させる補正値である。
【0045】
また、積分器132は、リセット機能を有する。積分器132は、AND回路130の出力が「1」のときに演算処理を実行して補正値を出力し、「0」のときには出力をゼロにリセットする。なお、積分器132は、比例積分器でもよい。
【0046】
加算器134は、入力された有効分電圧指令値Vcd2aと入力された補正値Vcd2bとを加算して、加算結果である有効分電圧指令値Vcd2を出力する。
【0047】
また、交流電圧制御部120は、入力された単独運転時に対する無効分電圧指令値Vcq2(Vsqref)を、単独運転時に用いられる無効分電圧指令値Vcq2として選択器116に出力する。
【0048】
[フローチャート]
図4は、制御装置100により実行される処理の流れを示すフローチャートである。まず、制御装置100は、電力変換器70に通常運転を開始させる(ステップS100)。次に、制御装置100は、単独運転移行信号Sが入力されたか否かを判定する(ステップS102)。
【0049】
単独運転移行信号Sが入力されていない場合、制御装置100は、通常運転を維持する制御を行う(ステップS104)。単独運転移行信号Sが入力された場合、制御装置100は、電力変換器70に単独運転を開始させる(ステップS106)。
【0050】
次に、制御装置100は、電力変換器70の出力電流が第1閾値以上であるか否かを判定する(ステップS108)。電力変換器70の出力電流が第1閾値以上でない場合(第1閾値未満である場合/電流が基準より小さい場合)、制御装置100は、補正値を出力する(ステップS110)。次に、制御装置100は、出力された補正値が加味された有効電圧指令値Vcd2を出力する(ステップS112)。すなわち、制御装置100は、交流系統の電圧検出値を交流系統の電圧指令値に近づけるように電圧指令値を決定する。
【0051】
電力変換器70の出力電流が第1閾値以上である場合(電流が基準より大きい場合)、制御装置100は、リセット信号を出力する(ステップS114)。次に、制御装置100は、補正値が加味されない有効電圧指令値Vcd2を出力する(ステップS112)。すなわち、制御装置100は、交流系統の電圧指令値を電圧指令値として決定する。これにより、本フローチャートの1ルーチンの処理は終了する。
【0052】
図5は、積分器132が補正値を出力する場合と出力しない場合について説明するための図である。(1)有効電圧指令値Vcd2aに補正値Vcd2bが加味される場合の処理について説明する。電力変換器70の出力電流が第1閾値未満である場合、「ゼロ」がNOT回路128に入力され、NOT回路128は、「1」を出力する。AND回路130には、NOT回路128に出力された「1」と、単独運転移行信号Sの「1」とが入力され、AND回路130は「1」を出力する。積分器132にはAND回路130に出力された「1」が入力される。この場合、積分器132は、補正値を出力する。これにより、有効電圧指令値Vcd2aに補正値Vcd2bが加味される。
【0053】
例えば、有効分電圧指令値Vcd2に交流電圧指令値Vsdrefが与えられた場合、電力変換器70は交流電圧指令値Vsdrefの交流電圧を出力するが、単独系統50内の負荷160の影響により、出力された交流電圧指令値Vsdrefと交流系統の電圧とは合致しない場合がある。これに対して、本実施形態では積分器132が、単独運転時に、交流系統の電圧が交流電圧指令値Vsdrefになるように電力変換器70が出力すべき有効分電圧指令値Vcd2aを補正する補正値Vcd2bを出力することにより、交流電圧指令値Vsdrefの交流電圧と系統電圧とが合致する。
【0054】
(2)リセット信号が出力され、有効電圧指令値Vcd2aに補正値Vcd2bが加味されない場合の処理について説明する。電力変換器70の出力電流が第1閾値以上である場合、「1」がNOT回路128に入力され、NOT回路128は「ゼロ」を出力する。AND回路130には、NOT回路128に出力された「ゼロ」と、単独運転移行信号Sの「1」とが入力され、AND回路130は、「ゼロ」を出力する。積分器132にはAND回路130に出力された「ゼロ」が入力される。この場合、積分器132は、補正値Vcd2bを出力せずに、ゼロを出力する。これにより、有効電圧指令値Vcd2aに補正値は加味されない。
【0055】
例えば、単独運転時において、単独系統50内の負荷160の容量が電力変換器70の容量よりも大きい場合、交流系統の電圧を交流電圧指令値Vsdrefに維持するように電力変換器70が動作し、電力変換器70の出力が単独系統内の負荷160の容量に比例した電流が流れる場合がある。このように単独系統内の負荷160の容量が電力変換器70の容量よりも大きい場合には、電力変換器70の出力電流が大きくなる場合がある。
【0056】
例えば、単独系統内の負荷160によって交流系統の電圧は交流電圧指令値Vsdrefよりも低くなるため、積分器132の出力である補正値Vcd2bは正の補正値となり、この補正値は交流系統の電圧を増加させる方向に作用する。この作用により、電力変換器70の出力電流が大きくなったことが検出された場合に、制御装置100が、積分器132の出力をゼロとして交流系統の電圧を増加させる作用を無効とすることで、出力電流を抑制させることができる。
【0057】
また、一般的に、過負荷でない場合に交流系統の電圧を一定に維持する制御が高速すぎると系統電圧の振動の原因となる場合がある。これに対して、上述したように、本実施形態の制御装置100は、積分器132が導出した補正値により、交流電圧指令値Vsdrefと、有効分電圧指令値Vsdとの差分が小さくなるように有効分電圧指令値Vcd2が導出される。これにより、系統電圧の振動が生じないように交流系統の電圧を一定に維持する制御が適切に行われる。
【0058】
[比較例との対比]
例えば、近年、連系強化や再生可能エネルギー導入促進などを目的として、直流送電システムや周波数変換システムの技術開発が行われている。これらのシステムにおいて使用される、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の自己消弧型の半導体素子を利用した電力変換器は、自励式電力変換器自身が交流電圧源となって電気機器へ電力を供給することができる。この特徴を生かし、自励式電力変換器は、通常時には指定した有効電力や無効電力を出力させるが、系統事故により交流電源が喪失した場合には、交流電力供給源となり、交流電圧の振幅や位相を維持し、電気機器が必要とする必要な有効電力、無効電力を供給するという用い方が可能である。
【0059】
CVCF制御モードでは、単独系統内の負荷が必要とする有効電力、無効電力を供給するため、単独系統内の負荷容量に比例した電流が自動的に自励式電力変換器から出力される。したがって、単独系統内の負荷容量が変換器容量より大きい場合(過負荷時)、より大きな電力を出力しようと自装置の電圧指令値を上昇させる。そうすると、電力変換器は運転継続ができず、単独系統は電源を喪失して停電に至る。
【0060】
この問題に対して、一般的に、自励式電力変換器が維持する交流系統の電圧を下げることにより、変換器が出力する電流を抑制することができる。これにより、単独系統内の負荷容量が変換器容量よりもある程度大きくても運転継続が可能となり、単独系統への給電を行うことができる。例えば、自励式電力変換器の出力電流が第1閾値を超過した際に、交流系統の電圧を維持する電圧制御の電圧指令値を通常時より小さな値に段階的に切り替えることで、交流系統の電圧を下げる手法が存在する。しかしながら、単独系統となったときの単独系統内の負荷容量の大きさは時々によって異なり、またその大きさを予め取得することは困難である。したがって、この電圧指令値を段階的に切り替える手法では、必要以上に交流系統の電圧を低減する課題があった。
【0061】
これに対して、本実施形態の制御装置100が、過電流が検出されていない場合、交流系統の電圧が交流電圧指令値に近づくような補正値Vcd2bを導出し、補正値Vcd2bに基づいて電力変換器70の有効分電圧指令値Vcd2を増加させ、電力変換器70の出力電流が過電流となる場合には、積分器132の出力をゼロとして交流系統の電圧を増加させる作用を無効にすることで、出力電流を抑制し、過電流により電力変換器70が停止するのを防ぐことができる。
【0062】
以上説明した第1の実施形態によれば、制御装置100が、自励式の電力変換器70が出力する電流が基準よりも小さい場合、交流系統の電圧検出値を交流系統の電圧指令値に近づけるように第2電圧指令値を決定し、自励式の電力変換器70が出力する電流が基準よりも大きい場合、交流系統の電圧指令値を前記第2電圧指令値として決定することで、出力電流を抑制させることができる。この結果、交流系統にとって適切な電力を供給することができる。
【0063】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、通常運転から単独運転に切り替わる際に、変化率制限器が作用し、更に積分器132が補正値を出力するタイミングが調整されるため、シームレスに切り替が行われる。以下、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0064】
図6は、第2の実施形態の交流電圧制御部120Aの機能構成の一例を示す図である。交流電圧制御部120Aは、例えば、第1の実施形態の交流電圧制御部120の機能構成に加え、更に選択器135、変化率制限器136、選択器137、変化率制限器138、オンディレイ回路139を備える。
【0065】
選択器135は、有効分電圧指令値Vcd1と、交流電圧指令値Vsdrefとが入力される。選択器135は、単独運転移行信号Sが入力される前は有効分電圧指令値Vcd1を選択し、単独運転移行信号Sが入力された後は交流電圧指令値Vsdrefを選択し、選択した電圧指令値を変化率制限器136に出力する。
【0066】
変化率制限器136は、直前に出力した電圧指令値に対して、今回出力する電圧指令値の変化率が所定値を上回ったり、下回ったりすることを制限する。変化率制限器136は、制限した有効分電圧指令値Vcd2aを加算器134に出力する。
【0067】
これにより、有効分電圧指令値Vcd2aは、変化率が所定の範囲内で変化するように制御される。この結果、dq逆変換部150に入力される有効分電圧指令値Vcd2はシームレスになる。すなわち、dq逆変換部150に入力される有効分電圧指令値Vcd2のギャップは抑制され、有効分電圧指令値Vcd2の変動が滑らかになる。
【0068】
選択器137には、無効分電圧指令値Vcq1と、交流電圧指令値Vsqrefとが入力される。選択器137は、単独運転移行信号Sが入力される前は無効分電圧指令値Vcq1を選択し、単独運転移行信号Sが入力された後は交流電圧指令値Vsqrefを選択し、選択した電圧指令値を変化率制限器138に出力する。
【0069】
変化率制限器138は、直前に出力された電圧指令値に対して、出力する電圧指令値の変化率を所定の範囲内に制限する。変化率制限器138は、直前に出力した電圧指令値と、今回出力する電圧指令値の変化率が所定値を上回ったり、下回ったりすることを制限する。変化率制限器138は、制限した無効分電圧指令値Vcq2aをdq逆変換部150に出力する。
【0070】
これにより、無効分電圧指令値Vcq2は、変化率が所定の範囲内で変化するように制御される。この結果、dq逆変換部150に入力される無効分電圧指令値Vcq2はシームレスになる。すなわち、dq逆変換部150に入力される有効分電圧指令値Vcd2のギャップは抑制され、有効分電圧指令値Vcd2の変動が滑らかになる。
【0071】
第1の実施形態では、単独運転移行信号Sが直接AND回路130に入力された。第2の実施形態では、単独運転移行信号Sは、オンディレイ回路139に入力される。オンディレイ回路139は、単独運転移行信号Sが入力されたとき、オンディレイ時間の計時を開始し、オンディレイ時間経過後に単独運転移行信号SをAND回路130に出力する。
【0072】
オンディレイ時間(基準時間)は、変化率制限器136と協調し、例えば、選択器135が動作して、有効分電圧指令値Vcd2aが、有効分電圧指令値Vcd1から交流電圧指令値Vsdrefに移行完了するまでの時間である。移行が完了とは、変化率制限器136による制限が、出力される電圧指令値に対して作用しなくなったことである。上記のオンディレイ時間は、変化率制限器136による制限が、出力される電圧指令値に対して作用しなくなったと推定される時間、または変化率制限器136が直前に出力した電圧指令値に対して、変化率制限器136が出力する電圧指令値が合致するまでの時間である。これにより、単独運転モードへの切り替えが完了した後に、積分器132が有効分電圧指令値Vcd2の補正を開始する。
【0073】
このように、変化率制限器136の作用、および積分器132が、単独運転移行信号Sが出力され、且つ基準時間経過した後に補正値Vcd2bを出力することにより、単独運転にモード切り替えが行われる際に、電力変換器70が出力すべき有効電圧指令値Vcd、無効電圧指令値Vcqがシームレスに切り替わり、安定して単独運転にモード切り替えすることができる。
【0074】
図7は、第2の実施形態の交流電圧制御部120Aの処理と処理タイミングとを説明するための図である。時刻tにおいて、単独運転移行信号Sが選択部135に入力されると(ステップS200)、時刻t+1において、選択器135が有効分電圧指令値Vsdrefを選択し、変化率制限器136が直前に出力した有効電圧指令値Vcd2aに対する、出力する有効電圧指令値Vcd2aの変化率を所定の範囲内に制限して、有効電圧指令値Vcd2aを加算器134に出力する(ステップS202)。時刻t+3において、出力する有効電圧指令値Vcd2aが、出力する有効電圧指令値Vsdrefに合致する。すなわち、電圧指令値に関して有効分電圧指令値Vsdrefに移行が完了する(ステップS204)。
【0075】
また、時刻tにおいて、単独運転移行信号Sがオンディレイ回路139に入力されると(ステップS206)、時刻t+1において、オンディレイ回路139が、計時を開始する(ステップS208)。時刻t+2において、オンディレイ回路139が、オンディレイ時間に到達して計時を終了すると、単独運転移行信号SをAND回路130に出力する(ステップS210)。時刻t+3において、積分器132は、AND回路130に出力された信号に基づいて、加算器134に、ゼロを出力するか、補正値を出力するかを決定し、決定結果に基づく信号を出力する動作を行う(ステップS212)。
【0076】
時刻t+4において、加算器134が、変化率制限器136の出力結果およびAND回路130の出力結果に基づく有効分電圧指令値Vcd2を出力する(ステップS214)。
【0077】
上述したように、変化率制限器136の出力により、シームレスに有効分電圧指令値Vcdの値が切り替わり、変化率制限器138の出力により、dq逆変換器150の無効分電圧指令値Vcqの値の切り替えがシームレスに行われる。また、電圧指令値Vsdrefに移行が完了したときに積分器132が動作するため、加算器134に入力される電圧値に関する制御が干渉することが抑制される。
【0078】
[比較例との対比]
図8は、比較例の制御装置により制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図である。図8の上図の縦軸は交流系統の電圧の変化を示し、横軸は時間を示している。図8の下図の縦軸は出力電流の変化を示し、横軸は時間を示している。
【0079】
図8は、交流送電線20で系統事故が発生した後に、遮断部30が開放され単独系統となり、電力変換器70が単独運転により単独系統50に電力を供給した場合のシミュレーション結果である。図8のシミュレーション結果は、過電流が検出されても積分器がリセットされない場合の波形である。比較例では、上記のように過電流が検出されても積分器がリセットされず、電力変換器の出力電流が抑制されないため、電力変換器が停止する。なお、過電流検出器126の閾値は、通常運転時の最大電流レベル程度に設定されている。過電流により電力変換器70が停止するレベルは、通常運転時の最大電流レベルよりも高めに設定されている。これは、過電流耐量設計の裕度が反映されたものである。また、図8の時間T1、T2は、後述する図9の時間T1、T2に対応する時間である。
【0080】
図9は、第2の実施形態の制御装置100により制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図である。図9の上図の縦軸は交流系統の電圧の変化を示し、横軸は時間を示している。図9の下図の縦軸は出力電流の変化を示し、横軸は時間を示している。
【0081】
図9のシミュレーション結果は、オンディレイ時間が経過し、積分器132が動作を開始した後に、電力変換器70により出力された電流が過電流であると検出されて、積分器132がリセットされた場合の交流系統の電圧と電力変換器70の出力電流との推移である。本実施形態の制御装置100は、過電流が検出されると、積分器132をリセットし、交流系統の電圧を増加させる作用を無効にするため、出力電流を抑制でき、電力変換器70の運転を継続させることができる。
【0082】
また、単独運転移行信号Sが入力され、選択器114、116によってdq逆変換器150の入力である有効分電圧指令値Vcd、無効分電圧指令値Vcqの値が切り替えられるとき、有効分電圧指令値Vcd1、無効分電圧指令値Vcq1は単独運転前の運転状態によって変化しているため、単独運転時の有効分電圧指令値Vcd2、無効分電圧指令値Vcq2と乖離している場合があり、安定して単独運転にモード切り替えができない場合がある。
【0083】
これに対して、本実施形態の制御装置100が、変化率制限器136の出力により、シームレスに有効分電圧指令値Vcdの値を切り替え、変化率制限器138の出力により、dq逆変換器150の無効分電圧指令値Vcqの値の切り替えをシームレスに行うことができる。
【0084】
以上説明した第2の実施形態によれば、制御装置100が、積分器132を動作させるタイミングを、変化率制限器136の制御により電圧指令値に関して電圧指令値Vsdrefに移行が完了するタイミングに同期させることにより、加算器134に入力される電圧値に関する制御が干渉することが抑制される。この結果、交流系統にとって適切な電力を供給することができる。
【0085】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について説明する。第1の実施形態および第2の実施形態の制御は、単独系統内の負荷容量が電力変換器70の容量よりも大きい場合に、積分器132がリセットされ交流系統の電圧を増加させる作用が無効にされることで、出力電流が抑制される制御であった。
【0086】
これに対して、第3の実施形態では、更に比例積分器144を用いて、より出力電流の抑制の効果を高める制御が行われる。例えば、負荷容量が大きい場合など、積分器132がリセットされるだけでは出力電流の抑制効果が不足する場合に、電力変換器70が停止してしまうような場合に効果的な制御である。
【0087】
図10は、第3の実施形態の交流電圧制御部120Bの機能構成の一例を示す図である。交流電圧制御部120Bは、例えば、第2の実施形態の交流電圧制御部120Aの機能構成に加え、更に加算器140と、AND回路142と、比例積分器144とを備える。AND回路142は、「第2信号生成部」の一例であり、AND回路142により出力される信号は「第2制御信号」の一例である。比例積分器144は、「第2補正部」の一例である。
【0088】
加算器140には、演算部124の演算結果と、電流制限値Ilimとが入力される。電流制限値Ilimは、電力変換器70が運転継続可能な電流値である。そして、加算器140は、演算部124の演算結果と、電流制限値Ilimとの差分の値を比例積分器144に出力する。
【0089】
AND回路142には、過電流検出器126の検出結果と、単独運転移行信号S(「1」)とが入力される。例えば、過電流が生じている場合は、過電流検出器126は「1」を出力し、過電流が生じていない場合は、過電流検出器126は「ゼロ」を出力する。例えば、AND回路142は、過電流が生じていることを示す信号、および単独運転移行信号Sが入力された場合、「1」を比例積分器144に出力する。
【0090】
比例積分器144は、AND回路142により「1」が入力された場合、以下のように演算を行い、AND回路142により「ゼロ」が入力された場合、出力をゼロにリセットしてゼロを出力する。比例積分器144は、電力変換器70の出力する電流が過電流となった場合(「1」が入力された場合)、電流制限値Ilimに基づいて、補正値Vcd2cを生成する。補正値Vcd2cは、交流系統の電圧を低減するように電力変換器70が出力すべき有効分電圧指令値Vcd2aを補正する補正値である。
【0091】
比例積分器144は、リミッタ機能を有し、ゼロより大きい値を出力しないように上限リミッタがゼロに設定されている。比例積分器144は、演算部124が出力した電流値Iが電流制限値Ilimよりも大きくなると負の補正値Vcd2cを生成する。負の補正値Vcd2cは、加算器134に入力されることにより、電力変換器70が出力する有効分電圧指令値Vcd2を低減させる補正値である。電流値Iが電流制限値Ilimよりも大きいほど、有効分電圧指令値Vcd2をより低減させる負の補正値Vcd2cが生成される。
【0092】
比例積分器144は、演算部124が出力した電流値Iが電流制限値Ilimよりも小さくなると、上限リミッタの機能により出力はゼロよりも大きい補正値Vcd2cを出力しない。これにより、演算部124が出力した電流値Iが電流制限値Ilimよりも小さい場合であっても、電力変換器70の有効分電圧指令値Vcd2が増加するような補正は行われない。
【0093】
図11は、比例積分器144が補正値を出力する場合と出力しない場合について説明するための図である。図5と重複する説明については省略する。ここでは、図11の下図の比例積分器144の処理を中心について説明する。
【0094】
例えば、電力変換器70の出力電流が所定値未満である場合、AND回路142には、過電流検出器126により出力された「ゼロ」と、単独運転移行信号Sの「1」とが入力され、AND回路142は「ゼロ」を出力する。比例積分器144にはAND回路142に出力された「ゼロ」が入力される。この場合、比例積分器144は、補正値を出力しない。これにより、有効電圧指令値Vcd2aに補正値Vcd2cが加味されない。
【0095】
例えば、電力変換器70の出力電流が所定値以上である場合、AND回路142には、過電流検出器126により出力された「1」と、単独運転移行信号Sの「1」とが入力され、AND回路142は「1」を出力する。比例積分器144にはAND回路142に出力された「1」が入力される。この場合、比例積分器144は、補正値を出力する。これにより、有効電圧指令値Vcd2aに補正値Vcd2cが加味される。
【0096】
このように、電力変換器70の出力電流が所定値以上である場合、図11の上図に示すように積分器132は補正値Vcd2bを出力せずに出力電流を抑制し、図11の下図に示すように、更に比例積分器144が出力電流を減らすための補正値Vcd2cを出力する。
【0097】
上述した処理により、単独運転中に過電流が検出された場合、例えば、以下(A)~(C)の作用効果を奏する。(A)積分器132がリセットされるとともに、比例積分器144が作用して有効分電圧指令値Vcd2が低減することにより、出力電流を抑制され、過電流により電力変換器70が停止するのを防ぐことができる。
【0098】
(B)比例積分器144が、有効分電流Id、無効分電流Iqの大きさに基づいて、有効分電圧指令値Vcd2の低減量を連続的に調整する。すなわち、制御装置100は、電力変換器70が運転継続可能な出力電流の出力を維持するように電力変換器70を制御しつつ、交流系統の電圧の低減量を必要最低限とするように電力変換器70を制御することができる。
【0099】
(C)積分器132は、オンディレイ回路139により出力される信号に基づいて動作するので、比例積分器144は、積分器132よりも高速に信号を出力する。この結果、積分器132が、交流電圧指令値Vsdref自体を低減させるよりも、比例積分器144により高速に出力電流が抑制される。
【0100】
以上説明した第3の実施形態によれば、比例積分器144が作用することにより、より有効分電圧指令値Vcd2が低減される。この結果、制御装置100は、電力変換器70を停止させることなく、交流系統にとって適切な電力を供給することができる。
【0101】
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態の制御装置100は、過電流検出器126の機能が、第3の実施形態の過電流検出器126の機能と異なる。以下、第3の実施形態との相違点を中心に説明する。なお、第4の実施形態の説明は、前述した図10を援用する。
【0102】
過電流検出器126は、過電流の判定を「1」とする電流レベルと、「ゼロ」とする電流レベルとを別に設定できるヒステリシス特性を有する。例えば、過電流検出器126は、演算部124の演算結果である電流値Iが所定値Iоnよりも小さい状態から所定値Iоn以上となったときに、過電流であることを意味する「1」を出力する。過電流検出器126は、電流値Iが所定値Iоn以上である場合、「1」の出力を継続する。
【0103】
例えば、過電流検出器126は、演算部124の演算結果である電流値Iが所定値Iоffよりも大きい状態から所定値Iоff以下となったときに、過電流でないことを意味する「ゼロ」を出力する。過電流検出器126は、電流値Iが所定値Iоff以下である場合、「ゼロ」の出力を継続する。
【0104】
このように、過電流検出器126が、ヒステリシス特性を有することにより、電力変換器70の出力電流が過電流の検出値付近となる場合に、積分器132と比例積分器144との切り替えのハンチングが防止される。
【0105】
[比較例との対比]
図12および図13は、図8または図9より単独系統内の負荷容量がさらに大きい場合のシミュレーション結果である。図8または図9と重複する説明については省略する。図12は、比較例の制御装置の制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図である。図12のシミュレーション結果は、過電流が検出されても比例積分器144が動作しない場合の波形である。比較例では、上記のように過電流が検出されても比例積分器が動作せず、電力変換器の出力電流が抑制されないため、電力変換器が停止する。なお、図12の時間T3は、後述する図13の時間T3に対応する時間である。
【0106】
図13は、第4の実施形態の制御装置の制御が行われた場合のシミュレーション結果の波形を示す図である。図13のシミュレーション結果は、過電流が検出されば場合に積分器132がリセットされ、且つ比例積分器144の作用により系統電圧が低減された場合の交流系統の電圧と電力変換器70の出力電流を示したものである。
【0107】
このように、比例積分器144が作用することにより系統電圧が低減され、出力電流が抑制される。また、単独系統となってから一定時間後に、系統安定化装置などの系統側システムにより負荷制御が行われ、負荷が切り離されて過負荷状態が解消されると、比例積分器144がリセットされ、再び積分器132による制御に自動的に切り替わる。この結果、交流系統の電圧が一定に維持される。
【0108】
以上説明した第4の実施形態によれば、過電流検出器126がヒステリシス特性を有することにより、積分器132および比例積分器144のオンまたはオフにより生じるハンチングが防止される。この結果、制御装置100は、交流系統にとって適切な電力を供給することができる。
【0109】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、交流系統と直流系統とに接続された自励式電力変換器を制御する制御装置であって、前記交流系統の電圧検出値と、前記交流系統の電流検出値とに基づく第1電圧指令値を導出する第1導出部と、前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも小さい場合、前記交流系統の電圧検出値を前記交流系統の電圧指令値に近づけるように第2電圧指令値を決定し、前記自励式電力変換器が出力する電流が基準よりも大きい場合、前記交流系統の電圧指令値を前記第2電圧指令値として決定する第2導出部と、前記交流系統と他の電力供給装置との電気的な接続状態に基づいて、前記第1電圧指令値と前記第2電圧指令値とのいずれかを選択的に出力する選択部と、前記選択部により出力された前記第1電圧指令値または前記第2電圧指令値に基づいて、前記自励式電力変換器に出力するゲート信号を生成する生成部とを持つことにより、交流系統にとって適切な電力を供給することができる。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0111】
10‥交流電圧源、20‥交流送電線、30‥遮断部、60‥交流母線、70‥電力変換器、80‥電流検出器、90‥電圧検出器、100‥制御装置、106‥選択器、108‥dq変換部、110‥dq変換部、112‥交流電流制御部、114‥選択器、116‥選択器、120‥交流電圧制御部、122‥加算器、124‥演算部、126‥過電流検出器、128‥NOT回路、130‥AND回路、132‥積分器、134‥加算器、135‥選択器、136‥変化率制限器、137‥選択器、138‥変化率制限器、139‥オンディレイ回路、140‥加算器、142‥AND回路、144‥比例積分器、150‥dq逆変換部、152‥パルス生成部、160‥負荷、170‥電力変換器、180‥交流母線、190‥交流電圧源
図1
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図13