(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】真空バルブ
(51)【国際特許分類】
H01H 33/662 20060101AFI20220920BHJP
【FI】
H01H33/662 R
(21)【出願番号】P 2018222439
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏光
(72)【発明者】
【氏名】岡本 徹志
(72)【発明者】
【氏名】宮内 康寿
(72)【発明者】
【氏名】髭右近 陽介
(72)【発明者】
【氏名】樽井 将邦
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-182877(JP,A)
【文献】特開2007-056049(JP,A)
【文献】特開2012-253095(JP,A)
【文献】特開2005-015652(JP,A)
【文献】特開2002-152930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/60 - 33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁筒の両端が金属部材により封止された真空容器と、
前記真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、
前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、
前記金属部材の近傍に設けられるとともに、前記絶縁性樹脂に覆われ、前記絶縁性樹脂よりも誘電率が高い絶縁性の高誘電率材料と、
を有
し、
前記高誘電率材料のガラス転移温度が、前記金属部材の局部最大温度以上であることを特徴とする真空バルブ。
【請求項2】
絶縁筒の両端が金属部材により封止された真空容器と、
前記真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、
前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、
前記金属部材の近傍に設けられるとともに、前記絶縁性樹脂に覆われ、前記絶縁性樹脂よりも誘電率が高い絶縁性の高誘電率材料と、
を有し
、
前記高誘電率材料の少なくとも一部と前記絶縁性樹脂との間に、非線形抵抗材料が設けられていることを特徴とする真空バルブ。
【請求項3】
絶縁筒の両端が金属部材により封止された真空容器と、
前記真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、
前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、
前記金属部材の近傍に設けられるとともに、前記絶縁性樹脂に覆われ、前記絶縁性樹脂よりも誘電率が高い絶縁性の高誘電率材料と、
を有
し、
前記絶縁筒の少なくとも一部と前記絶縁性樹脂との間に、非線形抵抗材料が設けられていることを特徴とする真空バルブ。
【請求項4】
前記高誘電率材料の比誘電率が、2より大きく、1000未満であることを特徴とする請求項1
乃至3のいずれかに記載の真空バルブ。
【請求項5】
前記高誘電率材料の線膨張係数が、前記金属部材の局部最大温度以下において、前記金属部材の線膨張係数の0.1~10倍であることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれかに記載の真空バルブ。
【請求項6】
絶縁筒の両端が金属部材により封止された真空容器と、
前記真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、
前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、
前記金属部材を覆うとともに、前記絶縁性樹脂に覆われた非線形抵抗材料と、
を有することを特徴とする真空バルブ。
【請求項7】
前記非線形抵抗材料の抵抗率は、1kV/cm以下の低電界領域では、その表面抵抗が10
6Ω以上であることを特徴とする請求項
2、3及び6のいずれかに記載の真空バルブ。
【請求項8】
前記非線形抵抗材料の抵抗率は、1kV/cmより大きい高電界領域では、その表面抵抗が10
4Ω以上であることを特徴とする請求項
2、3、6及び7のいずれかに記載の真空バルブ。
【請求項9】
前記非線形抵抗材料の非線形性が発現する電界が2kV/cmより大きく、20kV/cm未満であることを特徴とする請求項
2、3、6、7及び8のいずれかに記載の真空バルブ。
【請求項10】
複数の部分絶縁筒が第1の金属部材を介して接続された絶縁筒の両端が、第2の金属部材により封止された真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、
前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、
を有し、
前記第1の金属部材の外周側が、非線形誘電率材料によって覆われて
おり、
前記非線形誘電率材料の低電界での比誘電率が、前記絶縁性樹脂と同等であることを特徴とする真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
真空バルブは、固定側電極と可動側電極とが収容された真空容器内を真空とすることにより、真空が有する高い絶縁性能と消弧性能を得ることができるので、他の開閉装置等と比較して、小型化が可能となる。
【0003】
このような真空バルブは、真空容器内に、固定側通電棒に固定されている固定側電極と、可動側通電棒に固定されている可動側電極とが対向配置される。そして、真空容器の全体が樹脂によりモールドされた外装を有している。
【0004】
真空バルブは、近年、ビルや工場などの施設における受電設備のうち、電路の開閉を担う固体絶縁スイッチギアの開閉装置として用いられている。固体絶縁スイッチギアは、固体絶縁部である真空容器を覆う外装樹脂の周囲を接地することによって、真空バルブを収容したケースとの絶縁距離を大幅に縮小できる。このため、固体絶縁スイッチギアを構成する盤全体の接地面積を小さくできるとともに、コストを下げることができる。また、固体絶縁スイッチギアは、温暖化係数が大きいSF6ガスで絶縁される機器と比較して、地球環境への負荷が低い。
【0005】
このような固体絶縁スイッチギアは、外装接地された固体絶縁部に高い電圧がかかるので、真空バルブに用いられる導体付近の電界を抑制することが必要となる。一般的には、金属製の電界シールドを使って電界緩和する構成を採用している。
【0006】
例えば、真空バルブは、導体部である封着金具を、セラミックス製の真空容器にろう材で接合して真空封入している。この導体部の端部は、電界が集中するため、金属製の端部電界シールドを使って、電界集中する導体部の端部から高電位部分を離すことにより、電界を緩和している。また、真空バルブの内部の真空部には、遮断時にアークによって発生する金属蒸気がセラミックスの壁面に付着して、壁面の絶縁破壊強度を低下させる。これに対処するため、固定側電極及び可動側電極を取り囲むように、金属板によるアークシールドが配置されている。
【0007】
また、真空容器は、複数の絶縁筒を接合させて製造されている場合もある。この場合、アークシールドに接続された金属部分を介在させて固定する構成となっている。このため、外部に露出した金属部分の端部が電界集中部となる。実運転中の電界は、固体絶縁部を破壊させるほど高くはない。しかし、遮断時に、アークが金属板であるアークシールドに短絡した際には、金属板が瞬間的に高電圧になり、金属部分の端部電界は固体絶縁部を破壊させる値に到達することがある。そこで、このような端部の電界を緩和するために、端部を覆うように、金属性の中間電界シールドを設置する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、固体絶縁スイッチギアは、盤の接地面積を小さくでき、コストを下げることができる地球環境への負荷が低いスイッチギアである。しかし、これを構成する真空バルブは、固体絶縁部に高い電圧が印加される。このため、固体絶縁部を形成する前に、真空容器の周囲に端部電界シールドや中間電界シールドを配置することが必要となる。そして、このように端部電界シールドや中間電界シールドが配置された真空バルブの周囲に、樹脂を注型することにより、固体絶縁部を形成する。
【0010】
ここで、端部電界シールド及び中間電界シールドと、真空容器を構成するセラミックスとの間は狭い。このため、注型時に樹脂が流れ難くなり、隙間や空洞であるボイドが形成されやすい。また、金属と樹脂の接着界面が、樹脂の硬化収縮時に剥離を起こす場合がある。このため、歩留まりの低下を招き、結果としてコスト高になる可能性があった。
【0011】
本実施形態は、絶縁性の材料の欠陥の発生を抑制できる真空バルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、実施形態の真空バルブは、絶縁筒の両端が金属部材により封止された真空容器と、前記真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、前記金属部材の近傍に設けられるとともに、前記絶縁性樹脂に覆われ、前記絶縁性樹脂よりも誘電率が高い絶縁性の高誘電率材料と、を有する。
【0013】
また、実施形態の真空バルブは、絶縁筒の両端が金属部材により封止された真空容器と、前記真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、前記金属部材を覆うとともに、前記絶縁性樹脂に覆われた非線形抵抗材料と、を有する。
【0014】
また、実施形態の真空バルブは、複数の部分絶縁筒が第1の金属部材を介して接続された絶縁筒の両端が、第2の金属部材により封止された真空容器内に、接離可能に対向配置された一対の電極と、前記真空容器の周囲を覆う絶縁性樹脂と、を有し、前記第1の金属部材の外周側が、非線形誘電率材料によって覆われている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施形態に係る真空バルブの全体構成を示す断面図である。
【
図3】端部電界シールド及び中間電界シールドを有する真空バルブの例を示す断面図である。
【
図4】第2の実施形態に係る真空バルブの一部の拡大断面図である。
【
図5】非線形抵抗層をコーティングした絶縁性板に電圧を印加した場合の基準位置からの距離と表面電位との関係を示す説明図である。
【
図6】第3の実施形態に係る真空バルブの一部の拡大断面図である。
【
図7】実施形態の変形例の一部の拡大断面図である。
【
図8】実施形態の変形例の一部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態に係る真空バルブについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
[第1の実施形態]
(基本構成)
まず、実施形態の真空バルブの基本構成について説明する。
図1は、開路状態の真空バルブ1の全体構成を示す断面図である。
図2は、
図1の一部の拡大断面図である。真空バルブ1は、真空の中で電路の導通、遮断を行う装置である。この真空バルブ1は、
図1に示すように、真空容器2、通電棒3、電極4、ベローズ5、アークシールド6、固体絶縁部材7、接地層8を有する。
【0017】
この真空バルブ1は、真空容器2内に、一対の電極4が接離可能に対向配置されている。対向する電極4は、固定側電極4Aと可動側電極4Bであり、可動側電極4Bを軸Xに沿って移動させることで、可動側電極4Bを固定側電極4Aに接離させる。本実施形態において、軸Xは、真空容器2、固定側電極4A、可動側電極4Bに共通である。この可動側電極4Bが固定側電極4Aと接触している場合には、導通となり、電路は閉路状態となる。一方、可動側電極4Bが固定側電極4Aと離間すると、電流は遮断され、電路は開路状態となる。なお、以下の説明では、固定側電極4Aが配置された側を固定側、可動側電極4Bが配置された側を可動側とする。
【0018】
真空容器2は、絶縁筒21の両端が金属部材22により封止された容器である。真空容器2内の密閉された空間は真空である。真空とは、これに限られないが、例えば、10-2Pa以下であることが望ましい。絶縁筒21は、両端が開口した円筒形状を有する。本実施形態では、絶縁筒21は、2つの絶縁碍管211、212を有する。絶縁碍管211及び絶縁碍管212は、同軸に積み重ねられ、互いの端部が連結部213を介して、金属のろう材によりろう付けされている。連結部213は、ステンレスなどの金属製の筒状体であり、外周面が真空容器2の外部に露出している。絶縁碍管211、212は、絶縁性を有する材質、例えば、セラミックスや硝子によって形成されている。
【0019】
金属部材22は、絶縁筒21の固定側及び可動側の両端の開口を塞ぐ部材及びその周辺の金属製の部材である。金属部材22は、円盤形状であり、その外縁近傍が、絶縁筒21の両端の開口を塞ぎ、金属のろう材によりろう付けされている。これにより、絶縁筒21の両端が金属部材22によって気密に封止され、真空容器2の内部が密閉される。なお、金属部材22は、絶縁筒21を封止する封着金具のみとして捉えてもよいし、これに取り付けられた他の金属製の部材を含めて捉えてもよい。
【0020】
なお、上記の絶縁筒21には、連結部213、金属部材22との接合部分に、メタライズ処理が施されている。メタライズ処理は、セラミックスなどの非金属の表面に金属膜を形成して金属材料と接合しやすくする処理である。なお、以下の説明では、固定側を固定側金属部材22A、可動側を可動側金属部材22Bと呼ぶ。
【0021】
通電棒3は、銅などの導電性を有する材質により構成された一対の導体であり、例えば、円柱形状を有する。一対の通電棒3は、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bである。金属部材22の中心は開口しており、通電棒3は、真空容器2外からこの開口を貫通し、その一方の端部が真空容器2内に延びている。一対の固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、軸Xと共通の軸を有する。また、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、対向に配置される。
【0022】
固定側通電棒3Aの外径は、金属部材22の開口の内径と概略同一径である。固定側通電棒3Aは、固定側金属部材22Aの開口と金属のろう材によりろう付けされることにより、固定側金属部材22Aに気密に固定されて支持されている。一方、可動側通電棒3Bの外径は、可動側金属部材22Bの開口の内径よりやや小さい。やや小さいとは、可動側通電棒3Bが、可動側金属部材22Bの開口を軸Xに沿って移動できる程度に小さければよい。即ち、可動側通電棒3Bは、可動側金属部材22Bの開口に遊貫している。
【0023】
ベローズ5は、伸縮可能な蛇腹状の伸縮管であり、金属等の材料からなる。このベローズ5は真空容器2内に設けられている。ベローズ5の内部は、可動側通電棒3Bが貫通している。ベローズ5の一方端部は、可動側金属部材22Bの開口を覆うように可動側金属部材22Bと金属のろう材によるろう付けにより固定されている。即ち、ベローズ5の外径は、可動側金属部材22Bの開口の内径より大きい。一方、ベローズ5の他方端部は、可動側通電棒3Bと金属のろう材によるろう付けにより気密に固定されている。つまり、ベローズ5は、可動側金属部材22Bと可動側通電棒3Bとに固定されることで、可動側金属部材22Bの開口から流入してくる大気をベローズ5内部に留める。これにより、真空容器2内に大気が流入することを防止でき、真空容器2内の真空が保持される。
【0024】
固定側電極4A及び可動側電極4Bは、銅などの導電性を有する材質により構成された、例えばスパイラル電極である。スパイラル電極は、円盤状の電極で外周部から延びた複数のスリットを有することで、スリットにより部分的に区画された複数の腕部を有し、渦巻き状の形状となっている電極である。なお、固定側電極4A及び可動側電極4Bはスパイラル電極に限らず、縦磁界電極、平板電極など種々のものが使用できる。
【0025】
固定側電極4Aは、真空容器2内に延びた固定側通電棒3Aの端面と接し、金属のろう材によるろう付けによって固着される。一方、可動側電極4Bは、可動側通電棒3Bの端面と接し、金属のろう材によるろう付けにより固着される。即ち、固定側電極4Aと可動側電極4Bは、対向に配置される。この固定側電極4Aと可動側電極4Bが接離することで、電流の導通又は遮断を行う。
【0026】
アークシールド6は、ステンレス鋼、銅又は銅クロム合金などの金属からなり、両端が開口した円筒形状を有する。アークシールド6は、真空容器2内に、固定側電極4A及び可動側電極4Bを取り囲むように軸X方向に設けられている。アークシールド6は、遮断時の金属粒子が絶縁筒21に付着し、絶縁性能が低下することを防止する。アークシールド6は、金属を介して、連結部213に接続されて支持されている。
【0027】
(固体絶縁部材)
固体絶縁部材7は、絶縁性樹脂71、高誘電率材料72を有する。絶縁性樹脂71は、真空容器2の周囲を覆う部材である。絶縁性樹脂71は、真空バルブ1と外部との絶縁を図っている。絶縁性樹脂71としては、エポキシ樹脂などを用いることができる。但し、本実施形態は、エポキシ樹脂には限定されない。絶縁性樹脂71は、モールド成形により形成することができる。さらに、絶縁性樹脂71の外周には、接地層8が設けられている。接地層8は、絶縁性樹脂71の外周に塗布された導電性の材料であり、接地されている。
【0028】
高誘電率材料72は、金属部材22の近傍に設けられた部材である。高誘電率材料72は、絶縁性樹脂71に覆われている。高誘電率材料72は、絶縁性樹脂71よりも比誘電率が高い材料である。金属部材22の近傍とは、金属部材22と絶縁性樹脂71との間に介在する位置である。高誘電率材料72は、金属部材22に直接接する位置とすることが好ましい。また、高誘電率材料72は、金属部材22の周囲の角部分を覆う位置とすることが好ましい。高誘電率材料72は、絶縁性樹脂71によるモールドの前に、あらかじめ金属部材22を周方向に切れ目なく連続して覆うように、モールドにより形成しておく。高誘電率材料72の外周面は、凹凸のない曲面とすることが好ましい。
【0029】
高誘電率材料72としては、セラミックス、有機材料等に高誘電率の充填材を複合したものを使用することができる。充填材としては、例えば、Mg2SiO4、Al2O3、MgTiO2、ZnTiO3、Zn2TiO4、TiO2、CaTiO3、SrTiO3、SrZrO3、BaTi2O5、BaTi4O9、Ba2Ti9O20、Ba2(Ti,Sn)9O20、ZrTiO4、(Zr,Sr)TiO4、BaNd2Ti5O14、BaSm2TiO14、Bi2O3BaONd2O3TiO2、(Bi2O3,PbO)BaONd2O3TiO2、La2Ti2O7、Nd2Ti2O7、(Li,Sm)TiO3、Ba(Mg1/3Ta2/3)O3、Ba(Zn1/3Ta2/3)O3、Ba(Zn1/3Nd2/3)O3、Sr(Zn1/3Nd2/3)O3などを用いることができる。そして、これらの充填材の一種又は複数種の粒子を、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などの一種又は複数種の主成分に複合したものを高誘電率材料72として用いることができる。但し、充填材、主成分は、これらの例示したものには限定されない。
【0030】
高誘電率材料72の比誘電率は、2よりも大きく、1000未満であることが好ましいい。例えば、エポキシ樹脂の比誘電率は4程度なので、その場合は高誘電率材料72の比誘電率は4以上であることが好ましい。高誘電率材料72は、ガラス転移温度が金属部材22の局部最大温度以上であることが好ましい。局部最大温度とは、金属部材22において温度が最も高くなる箇所におけるその温度である。また、高誘電率材料72としては、金属部材22等の導体との線膨張係数の差が小さいものを用いることが好ましい。具体的には、高誘電率材料72の線膨張係数を、金属部材22の局部最大温度以下において、金属部材22の0.1~10倍とすることが好ましい。例えば、有機材料を主成分とした場合に、シリカ、アルミナ、ガラスなどを混入することによって、導体の線膨張係数との差を小さくすることができる。
【0031】
なお、絶縁性樹脂71としては、エポキシ樹脂等の樹脂に各種の充填材を含有したものが用いられている。このような絶縁性樹脂71との親和性を考慮して、高誘電率材料72としては、絶縁性樹脂71と共通の樹脂に高誘電率の充填材を複合したものを用いることが好ましい。例えば、絶縁性樹脂71にエポキシ樹脂が用いられている場合には、高誘電率材料72を、主成分としてエポキシ樹脂を用いた材料とする。また、エポキシ樹脂としては、耐熱性を考慮して、多官能型のエポキシ樹脂が好ましい。
【0032】
(作用効果)
(1)本実施形態の真空バルブ1は、絶縁筒の両端が金属部材22により封止された真空容器2と、真空容器2内に、接離可能に対向配置された一対の電極4と、真空容器2の周囲を覆う絶縁性樹脂71と、金属部材22の近傍に設けられるとともに、絶縁性樹脂71に覆われ、絶縁性樹脂71よりも誘電率が高い絶縁性の高誘電率材料72と、を有する。
【0033】
このように高誘電率材料72を用いるため、真空容器2の外部に金属製の電界シールドを用いる必要がなく、絶縁性樹脂71を注型、硬化させる際のボイドが生じ難い。従って、欠陥の発生が減少し、高い歩留まりと低コストの真空バルブ1を構成できる。
【0034】
金属部材22側の高誘電率材料72よりも、絶縁性樹脂71の誘電率が低いため、高誘電率材料72よりも絶縁性樹脂71が分担する電圧が高くなる。つまり、等電位面が高誘電率材料72よりも絶縁性樹脂71側に押し出されることになるので、金属部材22の周囲の電界を緩和できる。例えば、金属部材22の角部分は電界が集中しやすいが、この部分の電界を高誘電率材料72によって緩和できる。
【0035】
例えば、
図3に示すように、金属部材22、連結部213の周囲を覆うように、金属製の端部電界シールドS1、中間電界シールドS2を設けた例を示す。この場合には、絶縁性樹脂71をモールドする際に、端部電界シールドS1、中間電界シールドS2と真空容器2との間に未充填によるボイドが発生し易い。しかし、本実施形態では、高誘電率材料72により電界緩和を図ることができるので、金属製の端部電界シールドS1、中間電界シールドS2を設ける必要がない。このため、未充填によるボイドの発生を防止できる。また、金属部材22の端部に角や凹凸がある場合にも、ボイドが発生し易い。本実施形態の高誘電率材料72は、形状の自由度が高いので、例えば、金属部材22の周囲を高誘電率材料72によって覆い、その外周の凹凸を抑制することができる。このため、より一層ボイドの発生を防止できる。
【0036】
(2)比誘電率が1000以上となると、高誘電率材料72の外側の電界が高くなり過ぎる。本実施形態では、高誘電率材料72の比誘電率が2より大きく、1000未満である。このため、絶縁性樹脂71よりも大きい誘電率としつつ、外側の電界が高くなり過ぎることを防止できる。
【0037】
(3)可動側及び固定側の導体は、通電時の損失によって発熱する。すると、この熱によって樹脂の変形が生じる可能性が生じる。本実施形態では、高誘電率材料72のガラス転移温度が、金属部材22の局部最大温度以上である。このため、導体からの発熱により、高誘電率材料72が変形することが防止される。つまり、金属部材22の熱により、ガラス転移温度に達することが防止され、機械的強度の低下を抑制して、信頼性、耐久性を高めることができる。
【0038】
(4)温度が高くなると、導体と高誘電率材料72との界面に、線膨張係数の差による応力が発生する。より具体的には、高誘電率材料72の線膨張係数が、導体の0.1未満、あるいは、10倍より大きくなると、剥離が発生する可能性が高い。本実施形態では、高誘電率材料72の線膨張係数が、金属部材22の局部最大温度以下において、金属部材22の線膨張係数の0.1~10倍である。このため、導体と高誘電率材料72との界面に発生する応力により変形することが防止され、信頼性、耐久性を高めることができる。
【0039】
[第2の実施形態]
(構成)
第2の実施形態は、基本構成は、上記の
図1で示した第1の実施形態と同様である。このため、
図1と同様の部材は同様の符号を付して、説明を省略する。但し、本実施形態は、
図4に示すように、高誘電率材料72の少なくとも一部と絶縁性樹脂71との間に非線形抵抗材料73が設けられている。また、本実施形態は、絶縁筒21の少なくとも一部と絶縁性樹脂71との間に非線形抵抗材料73が設けられている。
【0040】
本実施形態では、高誘電率材料72の金属部材22に対応する側面が、非線形抵抗材料73によりコーティングされている。そして、非線形抵抗材料73のコーティングは、絶縁筒21の外周にまで延出している。非線形抵抗材料73のコーティングは、塗布により行うことができる。非線形抵抗材料73は、高誘電率材料72、絶縁筒21の周方向に連続して切れ目なく設けることが好ましい。そして、非線形抵抗材料73の周囲は、上記のようにモールドにより絶縁性樹脂71によって覆われている。本実施形態では、絶縁性樹脂71、高誘電率材料72、非線形抵抗材料73により固体絶縁部材7が構成されている。
【0041】
非線形抵抗材料73は、電流値に対する抵抗値が比例しない非線形の特性を示す場合がある材料である。本実施形態では、非線形抵抗材料73として、ある一定以上の電界領域においては、電界に依存してその抵抗値が非線形に変化する材料を用いる。非線形抵抗材料73としては、例えば、酸化亜鉛、炭化ケイ素、カーボン、四酸化三鉄等を用いることができる。カーボン、四酸化三鉄は、低電界での制御に適している。但し、本実施形態は、これらの材料に限定されるものではない。
【0042】
非線形抵抗材料73の抵抗率は、1kV/cm以下の低電界領域では、その表面抵抗が106Ω以上であることが好ましい。また、非線形抵抗材料73の抵抗率は、1kV/cmより大きい高電界領域では、その表面抵抗が104Ω以上であることが好ましい。また、非線形抵抗材料73の非線形性が発現する電界が、2kV/cm以上、20kV/cm以下であることが好ましい。
【0043】
(作用効果)
(1)本実施形態の真空バルブ1は、高誘電率材料72の少なくとも一部と絶縁性樹脂71との間に、非線形抵抗材料73が設けられている。このため、高電圧となる導体である金属部材22のの近傍の高誘電率材料72から離れるに従って、電位が接地電位に近づくように変化するので、電界緩和効果が高まる。真空バルブ1内部の電界を下げる効果は、絶縁筒21の表面を導電性とすることによって得られるが、金属などを付着させた場合には、金属の端部の電界が高くなってしまう。本実施形態では、非線形抵抗材料73を用いることにより、電界の上昇を抑えることができる。
【0044】
(2)絶縁筒21の少なくとも一部と絶縁性樹脂71との間に、非線形抵抗材料73が設けられている。このため、非線形抵抗材料73を、金属部材22の部分からより離れた位置まで延ばすことができるので、より接地電位に近づけて、電界を緩和できる。
【0045】
(3)1kV/cm以下の低電界領域では、非線形抵抗材料73の抵抗が106Ω未満になると電界抑制効果が小さくなり、電位上昇が遅く、先端の電界が高くなる。1kV/cm以上の高電界領域においても、非線形抵抗材料73の抵抗が104Ω未満になると、非線形抵抗材料73に流れる電流が大きくなり、発熱により応力が発生したり、電流により焼損してしまう。本実施形態では、1kV/cm以下の低電界領域では、非線形抵抗材料73の表面抵抗が、106Ω以上である。このため、電界抑制効果が大きくなり、電位上昇が速く、先端の電界を抑えることができる。また、1kV/cmより大きい高電界領域では、非線形抵抗材料73の表面抵抗が104Ω以上である。このため、非線形抵抗材料73に流れる電流を抑えて、発熱による応力の発生や、電流による焼損を防止できる。
【0046】
(4)非線形抵抗材料73は、上記のように、ある一定以上の電界領域においては、電界に依存してその抵抗値が非線形に変化する。
図5は、このような非線形抵抗材料73を絶縁性板IN1の表面にコーティングし、電圧を印加した際に、基準位置となる距離0からLまでの間の表面電位の変化を示したグラフである。非線形抵抗材料73の絶縁性板IN1の反対側の面には、絶縁性樹脂IN2を挟んで導電性の高圧電極E1及び接地電極Gが配設されている。絶縁性板IN1の非線形抵抗材料73と反対側の面には、背後電極E2及び接地電極Gが接している。
【0047】
図5の一点鎖線C1に示すように、非線形抵抗材料73のコーティングがない場合、高圧を印加する高圧電極E1の近傍で電位が急激に低下する。
図5の実線C2に示すように、非線形抵抗材料73をコーティングした場合、その電位の変化が緩やかになる。理想的な電位の変化は、
図5の点線C3に示すように、高圧から接地まで直線的に電位が低下する態様である。高圧電極E1の距離0の位置近傍における電位傾斜の傾きが、非線形抵抗材料73の非線形性が発現する電界である。この電界を動作電界と呼ぶ。固体絶縁真空バルブでは、この動作電界が2kV/cm以下だと、運転時の電界で抵抗値が低下しすぎてしまい、電流による焼損が懸念される。また、動作電界が20kV/cm以上では、動作電界に達する前に非線形抵抗材料73の内部又はその外周にある絶縁性樹脂71との界面において、絶縁破壊してしまう恐れがあり好ましくない。
【0048】
本実施形態では、動作電界が2kV/cmより大きく、20kV/cmより小さい。このため、運転時の電界での抵抗値の低下を抑えて、電流による焼損が発生することを防止できる。また、動作電界に達する前に、絶縁性樹脂71との界面における絶縁破壊が発生することを防止できる。
【0049】
[第3の実施形態]
(構成)
第3の実施形態は、基本構成は、上記の
図1で示した第1の実施形態と同様である。このため、
図1と同様の部材は同様の符号を付して、説明を省略する。本実施形態でも、上記のように、複数の部分絶縁筒である絶縁碍管211、212が、第1の金属材料である連結部213を介して接続された絶縁筒21の両端が、第2の金属部材である金属部材22により封止されている。そして、本実施形態では、
図6に示すように、連結部213の外周側が、非線形誘電率材料74によって覆われている。非線形誘電率材料74は、電界に対する誘電率が比例しない非線形の特性を示す場合がある材料である。
【0050】
非線形誘電率材料74は、連結部213及び連結部213の近傍の絶縁碍管211、212の端部を、周方向に切れ目なく連続して覆うように形成することが好ましい。非線形誘電率材料74は、絶縁筒21を回転させながら塗布することにより形成できる。高電圧となる連結部213に対応する部分が隆起して厚くなるように塗布することが好ましい。そして、非線形誘電率材料74の周囲は、上記のようにモールドにより絶縁性樹脂71によって覆われている。低電界での非線形誘電率材料74の比誘電率は、周囲の絶縁性樹脂71の比誘電率と同等とすることが、電界緩和の観点からは好ましい。低電界とは、たとえば、1kV/cm以下である。比誘電率が同等とは、比誘電率が一致又は近似していることをいう。近似とは、比誘電率の相違が±1程度の範囲に収まっていることが考えられるが、これには限定されない。電界緩和が得られる程度に近似していればよい。また、たとえば、絶縁性樹脂71、非線形誘電率材料74に共通の材料を用いることにより得られる程度に、比誘電率が一致又は近似していればよい。本実施形態では、絶縁性樹脂71、高誘電率材料72、非線形抵抗材料73、非線形誘電率材料74により固体絶縁部材7が構成されている。
【0051】
非線形誘電率材料74としては、たとえば、エポキシ樹脂を主成分とし、充填材として、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム等のいずれか1つ又は複数を、全体に対して20%ないし30%程度含有する複合材料である。なお、主成分、充填材のそれぞれは、これには限定されず、これ以外の組成であってもよい。たとえば、絶縁性樹脂71の主成分をエポキシ樹脂とした場合、比誘電率が4程度となる。この場合、非線形誘電率材料74の低電界での比誘電率は、4以上であることが好ましい。これにより、非線形誘電率材料74への電界の集中防止効果が高まる。
【0052】
(作用効果)
本実施形態は、複数の絶縁碍管211、212が連結部213を介して接続された絶縁筒21の両端が、金属部材22により封止された真空容器2内に、接離可能に対向配置された一対の電極4と、真空容器2の周囲を覆う絶縁性樹脂71と、連結部213の外周側が、非線形誘電率材料74によって覆われている。
【0053】
通常運転時は電圧が低いので、連結部213の端部に発生する電界は高くない。但し、出荷時の耐圧試験時には、アークがアークシールド6を介して連結部213に短絡する可能性があり、このときのみ電界が高くなる。通常運転時に高誘電率材料を用いると、周囲の高誘電率材料以外の樹脂内の電界が高くなり、長期的に高い電界ストレスを受けることになる。一方、非線形誘電率材料74を使用した場合には、通常運転時の電界では誘電率が低いので、樹脂内にかかる電界を低くすることができる。これにより、高電圧時の電界緩和を図りつつ、通常運転時の樹脂内の電界ストレスを抑えることができる。
【0054】
(変形例)
次に、真空バルブ1の実施形態の変形例について、図面を参照しつつ説明する。
(1)非線形抵抗材料73を設ける位置は、上記の態様には限定されない。例えば、
図7に示すように、高誘電率材料72の端部から絶縁筒21の外周に沿って延びる方向に設けてもよい。また、
図8に示すように、高誘電率材料72を設けずに、非線形抵抗材料73のみを金属部材22の外周から絶縁筒21の外周に沿って延びる方向に設けてもよい。これらによって、高電界となる金属部材22の部分から離れるに従って、電位が接地電位に近づくように変化するので、電界緩和効果が高まる。
【0055】
(2)高誘電率材料72、非線形抵抗材料73、非線形誘電率材料74は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、いずれか2種又は3種を使用してもよい。さらに、上記の態様では、高誘電率材料72及び非線形抵抗材料73の少なくとも一方を、固定側と可動側の双方に同様に設けて、電界を緩和していたが、固定側と可動側の組み合わせを変えてもよく、いずれか一方のみに設けて、他方については、他の電界緩和構造を施してもよい。
【0056】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 真空バルブ
2 真空容器
3 通電棒
3A 固定側通電棒
3B 可動側通電棒
4 電極
4A 固定側電極
4B 可動側電極
5 ベローズ
6 アークシールド
7 固体絶縁部材
8 接地層
21 絶縁筒
22 金属部材
22A 固定側金属部材
22B 可動側金属部材
71 絶縁性樹脂
72 高誘電率材料
73 非線形抵抗材料
74 非線形誘電率材料
211 絶縁碍管
212 絶縁碍管
213 連結部
C1 一点鎖線
C2 実線
C3 点線
E1 高圧電極
E2 背後電極
G 接地電極
IN1 絶縁性板
IN2 絶縁性樹脂
S1 端部電界シールド
S2 中間電界シールド
X 軸