(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】耐震補強壁構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220920BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E04B2/56 643A
(21)【出願番号】P 2018238422
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-08-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 スミリン ハイパーパネル工法(仮称) 技術評価資料(平成30年7月2日 住友林業ホームテック株式会社申請)
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597007282
【氏名又は名称】住友林業ホームテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】足立 亮二
(72)【発明者】
【氏名】西田 正晴
(72)【発明者】
【氏名】岸 由美子
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-075375(JP,A)
【文献】特開平08-302861(JP,A)
【文献】特開2004-263500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E04B 2/56
E04B 1/10
E04B 1/18
E04B 1/24
E04B 1/26
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する一対の柱と、これらの一対の柱に跨るようにして上端部及び下端部に架け渡された上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を、天井材及び床材を残置したまま屋内からの作業によって補強可能にする耐震補強壁構造であって、
壁躯体における天井懐内に上部を配置した状態で、両側の側縁部が一対の前記柱に各々接合固定されて取り付けられた天井懐補強部材と、天井材と床材との間の部分において、一対の前記柱に架け渡されて取り付けられた矩形形状の補強面材とを含んで構成されており、
前記天井懐補強部材は、矩形形状の天井部補強面材と、該天井部補強面材の上辺に沿った縁部に取り付けられた上部角材及び前記天井部補強面材の両側の側辺に沿った縁部に取り付けられた一対の側部角材とを有しており、
前記天井懐補強部材は、前記側部角材を介して両側の側縁部が前記柱に接合固定されて取り付けられていると共に、両側の前記側部角材に架け渡された受け桟を介して、天井材よりも下方の部分において、前記補強面材の上端部に一体として接合されている耐震補強壁構造。
【請求項2】
前記天井懐補強部材における、前記上部角材と前記側部角材との両側の角部内側部分の各々には、両端部が前記上部角材及び前記側部角材に接合されて、コーナー金物が取り付けられている請求項1記載の耐震補強壁構造。
【請求項3】
前記壁躯体の内側は、前記上段横架材と前記下段横架材との間に架け渡された間柱によって、複数の壁区画に仕切られており、各々の壁区画における天井懐内に上部を配置した状態で、複数の前記天井懐補強部材が、前記側部角材を介して両側の側縁部を前記柱又は前記間柱に接合固定して取り付けられていると共に、両側の前記側部角材に同じ高さで架け渡された前記受け桟を介して、天井材よりも下方の部分において、前記補強面材の上端部に一体として接合されている請求項1又は2に記載の耐震補強壁構造。
【請求項4】
前記補強面材は、上下方向に分割された複数枚の単位補強面材を、上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する前記単位補強面材は、これらの上端部又は下端部が、両側の一対の前記柱に架け渡されたつなぎ桟に接合されていることで、該つなぎ桟を介して複数枚の前記単位補強面材が一体となった前記補強面材が形成されている請求項1~3のいずれか1項記載の耐震補強壁構造。
【請求項5】
前記補強面材の下端部は、床材の上方に間隔をおいて一対の前記柱の間に架け渡された、下部受け桟に接合されており、床材と前記下部受け桟との間の間隔部分における、前記下部受け桟と一対の前記柱又
は間柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記下部受け桟と前記柱又は間柱とに接合されて、下部コーナー金物が取り付けられている請求項1~4のいずれか1項記載の耐震補強壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強壁構造に関し、特に、隣接する一対の柱と、上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を、天井材及び床材を残置したまま補強可能にする耐震補強壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国では、東日本大震災や阪神淡路大震災等の大規模な地震が頻発しており、今後も、例えば東海地震、東南海地震、南海地震等の大規模な地震の発生が予測されることから、特に都市部における木造建築物等の建物に対して、耐震改修を行うことが要望されている。
【0003】
また、建物を効果的に耐震改修するための方法として、隣接する一対の柱と、上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を耐震補強することが提案されており、壁躯体を耐震補強する場合に、天井材と床材とを残置したまま、屋内での作業によって、効率良く施工できるようにした耐震補強構造も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された木造住宅の耐震補強構造では、隣接する一対の柱と、上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体において、一対の柱の間に架け渡して、上段横架材の下方に間隔をおいて天井材の縁部近傍に上段の補助横架材を取り付けると共に、下段横架材の上方に間隔をおいて床材の縁部近傍に下段の補助横架材を取り付けておき、これらの一対の柱と上下の補助横架材とに周縁部を留め付けるようにして、室内側から補強面材を取り付けることによって、天井材や床材を撤去することなく、壁躯体を耐震補強できるようになっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された耐震補強構造では、特に天井材の上方の天井懐の部分において、壁躯体の上段横架材とこれの下方に配置された上段の補助横架材との間には、相当の大きさの開口部分が残ったままの状態となり、地震荷重を受けた際に、柱の中間部分の補助横架材との接合部に曲げモーメントが生じることになるため、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールの制約を受けることになると共に、高耐力の耐震補強壁を得ることが難しくなる。
【0007】
本発明は、天井材や床材を撤去することなく、屋内からの作業によって効率良く耐震補強できると共に、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることなく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計することのできる耐震補強壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、隣接する一対の柱と、これらの一対の柱に跨るようにして上端部及び下端部に架け渡された上段横架材及び下段横架材とを含む壁躯体を、天井材及び床材を残置したまま屋内からの作業によって補強可能にする耐震補強壁構造であって、壁躯体における天井懐内に上部を配置した状態で、両側の側縁部が一対の前記柱に各々接合固定されて取り付けられた天井懐補強部材と、天井材と床材との間の部分において、一対の前記柱に架け渡されて取り付けられた矩形形状の補強面材とを含んで構成されており、前記天井懐補強部材は、矩形形状の天井部補強面材と、該天井部補強面材の上辺に沿った縁部に取り付けられた上部角材及び前記天井部補強面材の両側の側辺に沿った縁部に取り付けられた一対の側部角材とを有しており、前記天井懐補強部材は、前記側部角材を介して両側の側縁部が前記柱に接合固定されて取り付けられていると共に、両側の前記側部角材に架け渡された受け桟を介して、天井材よりも下方の部分において、前記補強面材の上端部に一体として接合されている耐震補強壁構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明の耐震補強壁構造は、前記天井懐補強部材における、前記上部角材と前記側部角材との両側の角部内側部分の各々には、両端部が前記上部角材及び前記側部角材に接合されて、コーナー金物が取り付けられていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の耐震補強壁構造は、前記壁躯体の内側が、前記上段横架材と前記下段横架材との間に架け渡された間柱によって、複数の壁区画に仕切られており、各々の壁区画における天井懐内に上部を配置した状態で、複数の前記天井懐補強部材が、前記側部角材を介して両側の側縁部を前記柱又は前記間柱に接合固定して取り付けられていると共に、両側の前記側部角材に同じ高さで架け渡された前記受け桟を介して、天井材よりも下方の部分において、前記補強面材の上端部に一体として接合されていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の耐震補強壁構造は、前記補強面材が、上下方向に分割された単位補強面材を、複数枚上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する前記単位補強面材は、これらの上端部又は下端部が、両側の一対の前記柱に架け渡されたつなぎ桟に接合されていることで、該つなぎ桟を介して複数枚の前記単位補強面材が一体となった前記補強面材が形成されていることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の耐震補強壁構造は、前記補強面材の下端部が、床材の上方に間隔をおいて一対の前記柱の間に架け渡された、下部受け桟に接合されており、床材と前記下部受け桟との間隔部分における前記下部受け桟と一対の前記柱又は前記間柱との角部内側部分の各々に、両端部が前記下部受け桟と前記柱又は間柱とに接合されて、下部コーナー金物が取り付けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐震補強壁構造によれば、天井材や床材を撤去することなく、屋内からの作業によって効率良く耐震補強できると共に、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることなく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は、本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する室内側から見た正面図、(b)は、(a)のA-Aに沿った断面図である。
【
図2】本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する、
図1(b)のB部拡大図である。
【
図3】(a)は天井懐補強部材の正面図、(b)は側面図、(c)は背面図である。
【
図4】(a)はコーナー金物の正面図、(b)は側面図である。
【
図5】本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する、補強面材を取り付ける前の状態の正面図である。
【
図6】(a)、(b)は、本発明の好ましい他の実施形態に係る耐震補強壁構造の構成を説明する、補強面材を取り付ける前の状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい一実施形態に係る耐震補強壁構造10は、建物として、例えば軸組構法による2階建ての木造の住宅建築物において、
図1に示すように、隣接する一対の柱31と、これらの一対の柱31に跨るようにして上下に架け渡された上段横架材32及び下段横架材33とを含む壁躯体30に対して、天井材34と床材35とを残置したまま、屋内での作業によって、効率良く耐震補強できるようにする補強用の壁構造として採用されたものである。本実施形態では、上段横架材32は、建物の1階部分については2階の床梁、建物の2階部分については小屋梁となっており、下段横架材33は、建物の1階部分については土台、2階部分については床梁となっている。本実施形態の耐震補強壁構造10は、特に、天井材34を撤去しないことで相当の大きさの開口部分となっている、壁躯体30における天井材34と上段横架材32との間の天井懐30aに対しても、天井材34を残置したままの状態で効果的に補強できるようにして、柱の中間部分に曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることなく、また好ましくは上段横架材32の下方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることなく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計できるようにする機能を備えている。
【0016】
そして、本実施形態の耐震補強壁構造10は、
図2にも示すように、隣接する一対の柱31と、これらの一対の柱31に跨るようにして上端部及び下端部に架け渡された上段横架材32及び下段横架材33とを含む壁躯体30を、天井材34及び床材35を残置したまま屋内からの作業によって補強可能にする壁構造であって、壁躯体30における天井懐30a内に上部を配置した状態で、両側の側縁部が一対の柱31に各々接合固定されて取り付けられた天井懐補強部材11と、天井材34と床材35との間の部分において、一対の柱31に架け渡されて取り付けられた矩形形状の補強面材17とを含んで構成されている。天井懐補強部材11は、
図3(a)~(c)にも示すように、矩形形状の天井部補強面材12と、天井部補強面材12の上辺に沿った縁部に取り付けられた上部角材13及び天井部補強面材12の両側の側辺に沿った縁部に取り付けられた一対の側部角材14とを有している。天井懐補強部材11は、
図1(a)及び
図5に示すように、側部角材14を介して両側の側縁部が柱31に接合固定されて取り付けられていると共に、両側の側部角材14に架け渡された受け桟15を介して、天井材34よりも下方の部分において、補強面材17の上端部に一体として接合されている。
【0017】
また、本実施形態では、天井懐補強部材11における、上部角材13と側部角材14との両側の角部内側部分の各々には、両端部が上部角材13及び側部角材14に接合されて、コーナー金物16が取り付けられている。
【0018】
さらに、本実施形態では、壁躯体30の内側は、上段横架材32と下段横架材33との間に架け渡された間柱36によって、複数の壁区画37に仕切られており、各々の壁区画37における天井懐30a内に上部を配置した状態で、複数の天井懐補強部材11が、側部角材14を介して両側の側縁部を柱31又は間柱36に接合固定して取り付けられていると共に、両側の側部角材14に同じ高さで架け渡された受け桟15を介して、天井材34よりも下方の部分において、補強面材17の上端部に一体として接合されている。
【0019】
さらにまた、本実施形態では、補強面材17の下端部は、床材35の上方に間隔をおいて一対の柱31の間に架け渡された、下部受け桟20に接合されており、床材35と下部受け桟20との間の間隔部分における、下部受け桟20と一対の柱31又は間柱36との角部内側部分の各々に、両端部が下部受け桟20と柱31又は間柱36とに接合されて、下部コーナー金物22が取り付けられている。
【0020】
本実施形態では、耐震補強される壁躯体30は、例えば建物の1階部分を構成する壁躯体となっており、上段横架材32は、例えば横幅が105mm程度、縦幅が180mm程度の大きさの角形断面を有する木製の角材からなる2階部分の床梁となっている。下段横架材33は、例えば縦横105mm程度の大きさの角形断面を有する木製の角材からなる土台となっており、一対の柱31は、例えば縦横105mm程度の大きさの角形断面を有する木製の角材からなり、上段横架材32を下方から支持するようにして下段横架材33から立設して設けられている。上段横架材32と下段横架材33とは、縦方句に2730mm程度の中心間間隔をおいて、横方向に平行に延設して配置されていると共に、一対の柱31は、横方向に1820mm程度の中心間間隔をおいて、縦方向に平行に延設して配置されることによって、壁躯体30の骨組み構造が形成されている。
【0021】
また、本実施形態では、天井材34は、上段横架材32の下端部から例えば285mm程度下がった位置に配置されており、これによって壁躯体30における天井材34の上方には、上段横架材32との間に相当の大きさの開口部分となっている天井懐30aが形成さている。床材35は、下段横架材33の上端部から例えば85mm程度上がった位置に配置されており、これによって壁躯体30における床材35の下方には、下段横架材32との間に、開口部分が残ったままの状態となっている。
【0022】
さらに、本実施形態では、上述のように、壁躯体30の内側は、上段横架材32と下段横架材33との間に架け渡された複数本(本実施形態では3本)の間柱36によって、複数(本実施形態では4箇所)の壁区画37に仕切られている。間柱36は、例えば30mm×60mmの木製の角材からなり、上端部を上段横架材32の下面に、下端部を下段横架材33の上面に各々接合することで、一対の柱31の間に、これらと平行に立設して、例えば450~460mm程度の中心間ピッチとなるように取り付けられている。これによって、壁躯体30の内側は、4箇所の壁区画37に仕切られると共に、各々の壁区画37に、天井懐30a内に上部を配置した状態で、天井懐補強部材11が、嵌め込むようにして取り付けられる。
【0023】
天井懐補強部材11は、本実施形態では、
図3(a)~(c)に示すように、矩形形状の天井部補強面材12と、天井部補強面材12の上辺に沿った縁部に取り付けられた上部角材13と、天井部補強面材の両側の側辺に沿った縁部に取り付けられた一対の側部角材14とを含んで構成されている。天井部補強面材12は、例えば12.5mm程度の厚さの構造用合板からなり、各々の壁区画37における、両側の柱31や間柱36の間の間隔部分の横幅と同様の、例えば380~420mm程度の横幅を有すると共に、例えば270mm程度の縦幅を有する矩形形状となるように形成されている。
【0024】
上部角材13は、例えば30mm×40mmの木製の角材からなり、天井部補強面材12の横幅と同様の、例えば380~420mm程度の長さを有するように形成される。上部角材13は、天井部補強面材12の一方の面の上辺に沿った縁部に配置されると共に、例えば天井部補強面材12に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって、天井部補強面材12に一体として接合固定されている。一対の側部角材14は、各々、上部角材13と同様の例えば30mm×40mmの木製の角材からなり、天井部補強面材12の縦幅よりも長い、例えば370mm程度の長さを有するように形成される。側部角材14は、天井部補強面材12の両側の側辺に沿った縁部に各々配置されると共に、上端面を上部角材13の下面に当接させた状態で、例えば天井部補強面材12に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって、天井部補強面材12に一体として接合固定されている。側部角材14は、下端部分を天井部補強面材12の下辺に沿った縁部よりも、100mm程度下方に突出させた状態で、天井部補強面材12に取り付けられている。
【0025】
また、本実施形態では、好ましくは、天井懐補強部材11における上部角材13と側部角材14との両側の角部内側部分の各々に、上述のように、コーナー金物16が取り付けられている。コーナー金物16は、
図4(a)、(b)に示すように、例えば2mm程度の厚さの金属プレートを用いて形成されており、等脚台形形状の連結プレート部16aと、連結プレート部16aの両側の斜辺部から当該連結プレート部16aに対して折り曲げられた、一対の接合プレート部16bとを備えている。一対の接合プレート部16bは、各々、くの字の断面形状を備えるように折り曲げられており、連結プレート部16aに対して斜めに傾斜する基端部側の部分に、金物止め用ビスを締着させるための締着孔16cが複数貫通形成されている。
【0026】
コーナー金物16は、天井懐補強部材11における上部角材13と側部角材14との両側の角部内側部分の各々に、両端部の接合プレート部16bを沿わせると共に、上部角材13及び側部角材14に向けて、締着孔16cを介して金物止め用ビスを打ち込んで締着固定することにより、天井懐補強部材11に一体として取り付けられる。天井懐補強部材11における上部角材13と側部角材14との両側の角部内側部分に、コーナー金物16が取り付けられていることにより、天井懐補強部材11の剛性を高めることが可能になる。また、金物止め用ビスを締着させるための締着孔16cが、接合プレート部16bの斜めに傾斜する基端部側の部分に形成されていることにより、金物止め用ビスを、上部角材13や側部角材14に対して斜め方向に打ち込ませることが可能になるので、金物止め用ビスを打ち込む際に、上部角材13や側部角材14に割れが生じることになるのを、効果的に回避することが可能になる。
【0027】
本実施形態では、天井懐補強部材11と共に耐震補強壁構造10を構成する補強面材17は、
図1(a)、(b)に示すように、建築用の耐力面材として知られる公知の各種の板状部材を用いることができる。本実施形態では、補強面材17として、好ましくは石膏ボードを用いることができ、より具体的には、例えば12.5mm程度の厚さの硬質石膏ボードを用いることができる。補強面材17は、床材35から天井材34までの高さと同様の、例えば2200mm程度の縦幅を有すると共に、両側の一対の柱31の中心間の間隔と同様の、例えば1820mm程度の横幅を有する、矩形形状に形成されている。
【0028】
補強面材17は、各々の天井懐補強部材11の両側の側部角材14に架け渡された後述する受け桟15を介して、天井材34よりも下方の部分において、上端部が天井懐補強部材11に一体として接合されると共に、両側の一対の柱31の間に架け渡された、後述する下部受け桟20に、床材35よりも上方の部分において一体として接合される。
【0029】
また、本実施形態では、補強面材17は、好ましくは上下方向に分割された複数枚(本実施形態では3枚)の単位補強面材17aを、上下方向に連設配置して形成されている。上下に隣接する単位補強面材17aは、これらの上端部又は下端部が、両側の一対の柱31の間に架け渡された、後述するつなぎ桟21に各々接合されていることで、これらのつなぎ桟21を介して、3枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が形成されるようになっている。
【0030】
本実施形態の耐震補強壁構造10により、屋内からの作業によって既存の壁躯体30を耐震補強するには、先ず天井材34及び床材35を残置したまま、天井材34と床材35との間の部分の壁仕上げ材や壁下地材等を撤去して、両側の一対の柱31を、これらの内側に配置された、壁躯体30の内側を4箇所の壁区画37に仕切る3本の間柱36と共に露出させる。しかる後に、
図5に示すように、各々の壁区画37に、上述の天井懐補強部材11を、天井部補強面材12を裏面側に配置すると共に上部角材13を上方に配置した状態で、嵌め込むようにして装着すると共に、上部角材13及び側部角材14の表面が柱31の表面と面一になるように正面側に寄せて配置した状態で(
図2参照)、天井懐30aに向けて上方にスライド移動させる。天井懐補強部材11を、各々の壁区画37において上方にスライドさせて、上部の例えば165mm程度の高さ部分が天井材34の上方の天井懐30aに挿入されるまで移動させたら、その位置を天井懐補強部材11の所定の高さの取付け位置として、当該天井懐補強部材11を各々固定する。所定の高さの取付け位置に天井懐補強部材11を固定するには、例えば天井材34よりも下方に延設する部分の両側の側部角材14に、柱31や間柱36に向けて、天井材34を残置したまま、室内での作業によって、固定部材として例えばコーススレッドを複数本打ち込むことによって、容易に行うことができる。
【0031】
各々の壁区画37における所定の高さ位置に、天井懐補強部材11を取り付けて固定したら、各々の天井懐補強部材11の天井材34よりも下方に延設する部分に、両側の側部角材14に架け渡すようにして、受け桟15を取り付ける。受け桟15は、例えば30mm×105mmの木製の板材からなり、各々の天井懐補強部材11の両側の側部角材14の間の間隔と、同様の長さを備えている。各々の受け桟15は、例えば天井材34に上辺部を沿わせるように配置して、天井懐補強部材11の両側の側部角材14の間に、表面が側部角材14の表面と面一になるように嵌め込ようにして装着すると共に、天井懐補強部材11の内側から受け桟15の端部及び側部角材14を貫通させて、柱31や間柱36の側面に向けて、固定部材として例えばコーススレッドを、複数本斜めに打ち込むことによって、側部角材14及び柱31や間柱36に一体として固定することができる。また、受け桟15は、各々の天井懐補強部材11の両側の側部角材14の間に同じ高さで架け渡されていることにより、一対の柱31の間に、間柱36や側部角材14を介在させつつ連続して架け渡されることになる。
【0032】
また、本実施形態では、壁躯体30の下端部分に、床材35の上方に間隔をおいて、下部受け桟20を、一対の柱31の間に架け渡すようにして取り付ける。下部受け桟20は、受け桟15と同様に、例えば30mm×105mmの木製の板材からなり、壁躯体30における隣接する2箇所の壁区画37にまたがる長さを有している。下部受け桟20は、左右両側の各隣接する2箇所の壁区画37において、例えば床材の上方に例えば65~115mm程度の間隔をおいて、柱31と中央部の間柱36との間に、表面が柱31や間柱36の表面と面一になるよう嵌め込むようにして装着すると共に(
図1(b)参照)、壁区画37の内側から、下部受け桟20の端部を貫通させて、柱31や間柱36の側面に向けて、固定部材として例えばコーススレッドを、複数本斜めに打ち込むことによって、柱31や間柱36に一体として固定することができる(
図5参照)。
【0033】
ここで、柱31と中央部の間柱36と間に配置される一対の中間部の間柱36には、下部受け桟20の取り付け位置と対応する高さ位置の表面側に、下部受け桟20の厚さに相当する深さの切欠きを適宜設けておくことにより、下部受け桟20との干渉を回避することが可能になる。柱31と中央部の間柱36と間に配置される中間部の間柱36と交差する部分において、下部受け桟20の表面側から当該中間部の間柱36に向けて固定ビスを打ち込むことによって、より強固に、下部受け桟20を固定することが可能になる。一対の下部受け桟20は、同じ高さで架け渡されていることにより、一対の柱31の間に、中央部の間柱36を介在させつつ連続した状態で架け渡されることになる。
【0034】
さらに、本実施形態では、壁躯体30を上下方向に3分割する位置に、好ましくは受け桟15や下部受け桟20と平行に配置して、2本のつなぎ桟21を、一対の柱31の間に架け渡すようにして取り付ける。つなぎ桟21は、下部受け桟20と同様に、例えば30mm×105mmの木製の板材からなり、壁躯体30における隣接する2箇所の壁区画37にまたがる長さを有している。つなぎ桟21は、左右両側の各隣接する2箇所の壁区画37において、受け桟15と下部受け桟20との間隔部分を上下方向に3等分割する高さ位置に配置されて、柱31と中央部の間柱36と間に、表面が柱31や間柱36の表面と面一になるように嵌め込むようにして装着されると共に(
図1(b)参照)、壁区画37の内側から、つなぎ桟21の端部を貫通させて、柱31や間柱36の側面に向けて、固定部材として例えばコーススレッドを、複数本斜めに打ち込むことによって、柱31や間柱36に一体として固定することができる(
図5参照)。
【0035】
ここで、柱31と中央部の間柱36と間に配置される中間部の間柱36には、つなぎ部21の取り付け位置と対応する高さ位置の表面側に、つなぎ桟21の厚さに相当する深さの切欠きを適宜設けておくことにより、つなぎ桟21との干渉を回避することが可能になる。柱31と中央部の間柱36と間に配置される中間部の間柱36と交差する部分において、つなぎ桟21の表面側から当該中間部の間柱36に向けて固定ビスを打ち込むことによって、より強固に、つなぎ桟21を固定することが可能になる。一対のつなぎ桟21は、同じ高さで架け渡されていることにより、一対の柱31の間に、中央部の間柱36を介在させつつ連続した状態で架け渡されることになる。
【0036】
さらにまた、本実施形態では、壁躯体30の下端部分における、床材35と、床材35の上方に取り付けられた下部受け桟20との間の間隔部分を利用して、屋内からの作業によって、各々の壁区画37における、下部受け桟20と一対の柱31又は間柱36との両側の角部内側部分に、下部コーナー金物22を取り付ける。下部コーナー金物22は、天井懐補強部材11に用いた上述のコーナー金物16と同様の構成を備えており、
図4に示すように、等脚台形形状の連結プレート部22aと、連結プレート部22aの両側の斜辺部から当該連結プレート部22aに対して折り曲げられた、一対の接合プレート部22bとを有しており、一対の接合プレート部22bの斜めに傾斜する基端部側の部分に、金物止め用ビスを締着させるための締着孔22cが複数貫通形成されている。
【0037】
下部コーナー金物22は、各々の壁区画37の下端部分における、下部受け桟20と一対の柱31又は間柱36との両側の角部内側部分の各々に、両端部の接合プレート部22bを沿わせると共に、下部受け桟20と柱31又は間柱36とに向けて、締着孔22cを介して金物止め用ビスを打ち込んで締着固定することにより、これらの角部内側部分に強固に取り付けることが可能になる。下部受け桟20と柱31又は間柱36との角部内側部分の各々に、下部コーナー金物22が取り付けられていることにより、下部受け桟20と柱31との接合部分にモーメントが生じないように効果的に補強することが可能になる。これによって、壁躯体30の下段横架材33と、これの上方に配置された、補強面材17の下端部が接合される下部受け桟20との間に、開口部分が残ったままの状態となっていることで、例えば地震荷重を受けた際に、柱31の中間部分の下部受け桟20との接合部に、曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールの制約を受けることになるのを解消させて、また好ましくは下段横架材33の上方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることになるのを解消させて、高耐力の耐震補強壁を容易に設計させることが可能になる。
【0038】
これらの受け桟15、下部受け桟20、つなぎ桟21、及び下部コーナー金物22を、室内からの作業によって天井材34と床材35とを残置したまま取り付けたら、同様に室内からの作業によって、
図1(a)、(b)に示すように、天井材34と床材35との間の部分において、補強面材17を、一対の柱31に架け渡たすと共に、上端部を受け桟15に、下端部を下部受け桟20に接合することによって取り付ける。また、本実施形態では、補強面材17は、上述のように、上下方向に3分割された3枚の単位補強面材17aを上下方向に連設配置して形成されており、上下に隣接する単位補強面材17aは、これらの上端部又は下端部がつなぎ桟21に各々接合されていることで、3枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が形成されるようになっている。
【0039】
すなわち、上段の単位補強面材17aは、上端部の裏面側を受け桟15の表面側に当接させ、両側の側端部の裏面側を一対の柱31の表面側に各々当接させ、下端部の裏面側を上段のつなぎ桟21の表面側に当接させた状態で、例えば表面側からこれらの受け桟15や柱31やつなぎ桟21に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって強固に固定して、壁躯体30に取り付けることができる。中段の単位補強面材17aは、上端部の裏面側を上段のつなぎ桟21の表面側に当接させ、両側の側端部の裏面側を一対の柱31の表面側に各々当接させ、下端部の裏面側を下段のつなぎ桟21の表面側に当接させた状態で、例えば表面側からこれらのつなぎ桟21や柱31に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって強固に固定して、壁躯体30に取り付けることができる。下段の単位補強面材17aは、上端部の裏面側を下段のつなぎ桟21の表面側に当接させ、両側の側端部の裏面側を一対の柱31の表面側に各々当接させ、下端部の裏面側を下部受け桟20の表面側に当接させた状態で、例えば表面側からこれらのつなぎ桟21や柱31や下部受け桟20に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって強固に固定して、壁躯体30に取り付けることができる。これらによって、3枚の単位補強面材17aが一体となった補強面材17が、天井材34と床材35との間の部分において、一対の柱31に架け渡されて取り付けられることになる。
【0040】
なお、壁躯体30に補強面材17を取り付けるのに先立って、壁躯体30の内側に、断熱材や遮音材等を適宜配置しておくこともできる。また、補強面材17における間柱36と重なる部分において、例えば表面側からこれらの間柱36に向けて複数の固定ビスを打ち込むことによって、補強面材17を、壁躯体30にさらに強固に固定することが可能になる。
【0041】
上述のようにして、壁躯体30に補強面材17を取り付けたら、天井材34と床材35との間の部分の補強面材17を覆って、壁下地材や壁仕上げ材を取り付けることによって、本実施形態の耐震補強壁構造10の施工が終了する。
【0042】
そして、上述の構成を備える本実施形態の耐震補強壁構造10によれば、上述のように、天井材34や床材35を撤去することなく、屋内からの作業によって効率良く耐震補強することが可能になると共に、柱31の中間部分として、柱31における特に補強面材17の上端部が接合される受け桟15の高さ位置において、曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールによる制約を受けることなく、また好ましくは上段横架材32の下方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることなく、高耐力の耐震補強壁を容易に設計することが可能になる。
【0043】
すなわち、本実施形態によれば、壁躯体30の各々の壁区画37における天井懐30a内に上部を配置した状態で、天井部補強面材12と上部角材13と一対の側部角材14とを有する天井懐補強部材11が、側部角材14を介して両側の側縁部が柱31又は間柱26に各々接合固定された状態で取り付けられており、補強面材17の上端部が一体として接合される受け桟15は、両側の側部角材14に、同じ高さで架け渡されて、側部角材14を介在させた状態で柱31又は間柱26に接合固定されて取り付けられているので、受け桟15と柱31との接合部分にモーメントが生じないように、天井懐補強部材11によって効果的に補強することが可能になる。またこれによって、壁躯体30の上段横架材32と、これの下方に配置された受け桟15や天井材34との間に、相当の大きさの開口部分となっている天井懐30aが形成されたままの状態となっていることで、例えば地震荷重を受けた際に、柱31の中間部分の受け桟15との接合部に、曲げモーメントが生じることを前提とする設計を行う必要があるといった設計上の運用ルールの制約を受けることになるのを解消させて、また好ましくは上段横架材32の下方に既存の金物や配管、配線等の施工上の障害物がある場合にこれらの障害物による制約を受けることになるのを解消させて、高耐力の耐震補強壁を容易に設計させることが可能になる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、天井懐補強部材における上部角材と側部角材との角部内側部分に、コーナー金物が取り付けられている必要は必ずしも無い。壁躯体の内側は、間柱によって4箇所の壁区画に仕切られている必要は必ずしも無く、
図6(a)に示すように、2箇所の壁区画に仕切られていても良い。壁躯体の内側は、
図6(b)に示すように、間柱によって仕切られていなくても良く、天井懐補強部材は、両側の側縁部を一対の柱に各々接合固定して、単一の天井懐補強部材のみが取り付けられていても良い。補強面材は、複数枚の単位補強面材がつなぎ桟を介して一体となったものである必要は必ずしも無く、単一の面材からなるものであっても良い。本発明の耐震補強壁構造によって壁躯体が補強される建物は、2階建ての木造の住宅建築物以外の、平屋建てや3階建て以上の建物であっても良く、木造の壁躯体を含む、木造以外の建物であっても良い。
【符号の説明】
【0045】
10 耐震補強壁構造
11 天井懐補強部材
12 天井部補強面材
13 上部角材
14 側部角材
15 受け桟
16 コーナー金物
16a 連結プレート部
16b 接合プレート部
16c 締着孔
17 補強面材
17a 単位補強面材
20 下部受け桟
21 つなぎ桟
22 下部コーナー金物
22a 連結プレート部
22b 接合プレート部
22c 締着孔
30 壁躯体
30a 天井懐
31 柱
32 上段横架材
33 下段横架材
34 天井材
35 床材
36 間柱
37 壁区画