IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ レニショウ パブリック リミテッド カンパニーの特許一覧 ▶ メトロロジー ソフトウェア プロダクツ リミテッドの特許一覧

特許7143215キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法
<>
  • 特許-キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法 図1
  • 特許-キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法 図2
  • 特許-キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法 図3
  • 特許-キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法 図4
  • 特許-キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法 図5
  • 特許-キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】キャリブレーション装置およびキャリブレーション方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20220920BHJP
   G01B 5/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
G01B5/00 P
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018536420
(86)(22)【出願日】2017-01-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 GB2017050040
(87)【国際公開番号】W WO2017121990
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-09
(31)【優先権主張番号】16150852.8
(32)【優先日】2016-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391002306
【氏名又は名称】レニショウ パブリック リミテッド カンパニー
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】512229953
【氏名又は名称】メトロロジー ソフトウェア プロダクツ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ラッセル ハモンド
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/162431(WO,A1)
【文献】特開2008-119784(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02259160(EP,A1)
【文献】特開2007-111789(JP,A)
【文献】特開2011-247888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00
G01B 5/00-5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械のキャリブレーション装置であって、
工作機械に取り付け可能なベース、
既知の半径の球からなり、1つ以上の既知の寸法を有しているキャリブレーションアーチファクト、
キャリブレーションアーチファクトを前記ベースに取り付け、外力がキャリブレーションアーチファクトに加えられたとき、前記ベースに対するキャリブレーションアーチファクトの移動を許容する偏向機構であって、加えられた外力がないと、前記ベースに対して画定された休止位置にキャリブレーションアーチファクトを保持する偏向機構、および
前記ベースに対するキャリブレーションアーチファクトの移動の程度を検知するセンサ、
を備え、
前記キャリブレーションアーチファクトは、自動化された工作機械のキャリブレーションプロセスのための基準位置を画定するように構成され、
前記工作機械の測定プローブが、前記基準位置を測定するために前記キャリブレーションアーチファクトの表面上の複数の点を測定し、前記基準位置は、前記球の中心位置であることを特徴とする工作機械のキャリブレーション装置。
【請求項2】
前記キャリブレーションアーチファクトは、前記ベースから突出するロッドに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記偏向機構は、前記キャリブレーションアーチファクトを前記画定された休止位置に付勢するばねを備えていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の装置。
【請求項4】
前記キャリブレーションアーチファクトを前記画定された休止位置に付勢する力は、前記キャリブレーションアーチファクトの表面上の点が、測定プローブを用いて測定されるプロセス中に、前記キャリブレーションアーチファクトに印加される力よりも大きいことを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記偏向機構は、前記キャリブレーションアーチファクトに取り付けられる第1の部分と、前記ベースに取り付けられる第2の部分とを備え、前記第1の部分および第2の部分は、係合状態にもたらされるとき、互いに対して反復可能な位置をとるように構成されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記キャリブレーションアーチファクトは、前記ベースに対して、単一の直線軸に沿って移動するように制約されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記センサは、直線運動を測定するトランスデューサであることを特徴とする請求項に記載の装置。
【請求項8】
前記センサによって得られた測定値を送信する無線トランスミッタが設けられていることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記ベースは、工作機械のベッドまたはテーブルに取り付けるように構成されていることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか一項に記載の装置、工作機械のスピンドルに取り付けるための基準工具、および、スピンドル取り付け型測定プローブの少なくとも1つを備えることを特徴とするキット。
【請求項11】
工作機械をキャリブレーションする方法であって、請求項1ないしのいずれか一項に記載のキャリブレーション装置を、工作機械に取り付けるステップを備えることを特徴とする工作機械のキャリブレーション方法。
【請求項12】
工作機械のスピンドルに保持された基準工具を、キャリブレーション装置の前記キャリブレーションアーチファクトに接触させるべく移動させるステップを備え、それによって、前記キャリブレーションアーチファクトを偏向させることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記キャリブレーションアーチファクトの位置を測定するステップを備えることを特徴とする請求項11または12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
記方法は、前記球の中心の位置を測定することを備えることを特徴とする請求項11ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記偏向機構は、前記ばねと連結される位置決め用の球を備えることを特徴とする請求項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に用いられるキャリブレーション装置およびそのような装置の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御工作機械は、自動車、航空機などの金属部品のような部品を切削するべく製造業で広く使用されている。高レベルの精度(例えば、数ミクロン以内)で、特徴部を切削するためには、そのような工作機械をキャリブレーションする必要がある。これは、切削加工中に、切削工具に対する部品の向きが変化する5軸工作機械を使用する場合に、特に、当てはまる。
【0003】
典型的なキャリブレーション手順の重要な部分は、特に、5軸工作機械の場合、工作機械のホーム位置に対するキャリブレーション球の中心位置を確立させることである。一旦、球中心が確立されると、その球中心はその後、すべての後続のキャリブレーション手順が基礎とされる機械の測量基準点として機能することができる。
【0004】
工作機械のスピンドルに取り付けられたダイヤルテストインジケータまたは接触プローブを使用して、工作機械のベッドに平行な平面(典型的にはXY平面と呼ばれる)の内に、球中心の位置を確立させることは知られている。工作機械のベッドに垂直な軸(通常はZ軸と呼ばれる)に沿う球中心の位置を測定することは、より複雑であり、今日まで、様々な手作業を用いてのみ可能であった。例えば、既知の長さの基準工具を、Z軸に沿ってキャリブレーション球に向かって、手動の制御下において、移動させることが知られている。基準工具は、既知の厚さのゲージブロックが基準工具と球との間にちょうど挟まれるまで、球に向けて前進される。このような手作業による手順は不正確であり、キャリブレーションの結果は、オペレータによって異なることが判明している。
【0005】
特許文献1(DE29720584)は、工具の長さおよび直径を測定する工具設定装置を記載している。特許文献2(EP2390622)は、工作機械のスピンドルに保持されたロッドに担持されたボールの位置を測定する3つの離間されたトランスデューサを含む、工作機械をキャリブレーションする装置を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開特許文献1(DE29720584)公報
【文献】欧州特許出願公開第2390622号公報
【文献】特許国際公開第2015/162431号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、工作機械のキャリブレーション装置が提供され、この装置は、工作機械に取り付け可能なベース、1つ以上の既知の寸法を有するキャリブレーションアーチファクト、キャリブレーションアーチファクトを前記ベースに取り付け、外力がキャリブレーションアーチファクトに加えられたとき、前記ベースに対するキャリブレーションアーチファクトの移動を許容する偏向機構であって、加えられた外力がないと、前記ベースに対して画定された休止位置にキャリブレーションアーチファクトを保持する偏向機構、および前記ベースに対するキャリブレーションアーチファクトの移動の程度を検知するセンサ、を備えている。
【0008】
したがって、本発明は、工作機械をキャリブレーションする際に使用されるキャリブレーション装置を提供する。この装置は、工作機械に取り付け可能なベースを備え、例えば、ベースは、工作機械のベッドに、ボルト止めされるか、または磁気的に固定されてもよい。既知の半径の球などのキャリブレーションアーチファクトが、偏向機構を介してベースに取り付けられている。外力がない場合、偏向機構は、キャリブレーションアーチファクトを、ベースに対して既知の再現可能な位置に保持する。十分に大きな外力(例えば、一定の大きさを超える力)がキャリブレーションアーチファクトに加えられると、偏向機構は、キャリブレーションアーチファクトがベースに対して移動することを可能にする。センサは、ベースに対するキャリブレーションアーチファクトの全てのそのような移動の程度を測定する。例えば、センサは、キャリブレーションアーチファクトが、その画定された休止位置からどのくらい遠くに移動したかを記述するデータの連続を出力することができる。
【0009】
本発明のキャリブレーション装置は、工作機械のキャリブレーションプロセスの一部として有利に使用される。本発明の装置は、様々な測定プローブ準拠のキャリブレーション手順において使用するための基準または基準位置(例えば、球の中心点)を画定するべく、堅く取り付けられたキャリブレーション球、すなわち、球の形態のキャリブレーションアーチファクトが使用され得るのと同じ機能を果たすことができる。しかしながら、(例えば、工作機械のスピンドルに取り付けられた既知の長さの基準工具を使用して)キャリブレーションアーチファクトを偏向させる能力、また偏向の程度を測定する(すなわち、センサを使用する)能力は、キャリブレーションアーチファクトの休止位置が正確に見出されるという有利性を与える。例えば、キャリブレーション装置が、キャリブレーション球の形態のキャリブレーションアーチファクトを備える場合、球中心のZ位置は、基準工具が駆動され、キャリブレーション球を偏向させるとき、センサによって測定される偏向量を使用する自動化された手順を用いて、見出される。これにより、既知の厚さのゲージブロックが基準工具と球との間にちょうど「挟まれる」まで、基準工具が固定された球に向かって前進される、上述の手動プロセスを使用する必要がなくなる。
【0010】
本発明のキャリブレーション装置は、したがって、改善された精度を提供するだけでなく、異なる技術者がキャリブレーションゲージブロックを使用して同じ手動のキャリブレーションプロセスを実行するときに起こり得る、変動をも除去する自動キャリブレーションを可能にする。
【0011】
本発明のキャリブレーション装置は、(上記の)特許文献1(DE29720584)に記載されている形式の工具セッターとは異なる構造を有し、そしてまた、全く異なる目的のために使用されることに注意すべきである。特許文献1(DE29720584)の工具セッターの上面および側面に設けられる偏向可能な工具セット用ディスク(すなわち、図1に示されているディスク9および19)は、キャリブレーションアーチファクトではあり得ない。何故なら、それらは既知の(すなわち、キャリブレーションされた)サイズを有していないからである。特許文献1(DE29720584)の工具セッターは、このように、工具の長さまたは直径が測定されるのを許容するが、工作機械のキャリブレーションのために使用され得る、如何なる種類の基準または基準位置が確立されるのを許容しない。
【0012】
本発明のキャリブレーション装置はまた、特許文献2(EP2390622)の装置に対していくつかの利点を有している。特に、特許文献2(EP2390622)の装置は、製造し、構成しおよび使用するのが複雑である。遠位端に取り付けられた球を有する、特別な基準工具もまた必要とされる。対照的に、本発明のキャリブレーション装置は、遂行されるキャリブレーション技術を使用することをより簡単で容易にすることができる。
【0013】
本発明の装置は、任意の適切なキャリブレーションアーチファクトを含むことができる。キャリブレーションアーチファクトは、既知の寸法(1つまたは複数)を有する(すなわち、キャリブレーションアーチファクトが既知の大きさを有する)任意のアーチファクトである。例えば、アーチファクトの1つ以上の寸法は、キャリブレーションされる標準に対する事前の測定によって知ることができる。例えば、アーチファクトの1つ以上の寸法は、関連する(国内または国際的な)キャリブレーション標準にキャリブレーションされている座標測定機(CMM)で、予め測定されていてもよい。キャリブレーションアーチファクトは、立方体、ディスク(例えば、既知の半径を有する)または部分球などを含むことができる。
【0014】
有利には、キャリブレーションアーチファクトは球からなる。球は、既知の半径を有することができる。既知の半径の球が、簡便さおよび精度のためには好ましい。というのも、(例えば、x、y、z座標における)球の中心位置は、球の表面上の複数の点の位置を測定することによって、測定することが可能であるからである。
【0015】
キャリブレーションアーチファクトは、偏向機構を介して、任意の適切な方法でベースに取り付けられてもよい。キャリブレーションアーチファクトは、ベースがキャリブレーションアーチファクトの測定とできるだけ干渉しないのを保証する距離だけ、ベースから離間されていてもよい。有利には、キャリブレーションアーチファクトは、ベースから突出するロッドに取り付けられる。例えば、キャリブレーション球は、ベースから延出するロッドの遠位端に取り付けられてもよい。
【0016】
偏向機構は、外力が存在しない場合に、キャリブレーションアーチファクトがベースに対して画定されている休止位置をとることを保証する。言い換えれば、キャリブレーションアーチファクトは、ベースに対して偏向され得るが、偏向力が除去されるたびに、ベースに対して同じ位置に戻る。この目的のために、能動的または受動的な任意の適切な付勢機構が使用されてもよい。有利には、偏向機構は、キャリブレーションアーチファクトを画定された休止位置に付勢するためのばねを備えている。複数のばねが使用されてもよい。ばねは、任意の適切な形式、例えば、コイルばね、板ばね等であってもよい。
【0017】
キャリブレーションアーチファクトは、キャリブレーションアーチファクトの位置が測定プローブによって測定されているとき、本体に対するキャリブレーションアーチファクトの偏向を防止するのに十分に高い力(例えば、ばね力)によって、画定された休止位置に付勢されるのが好ましい。したがって、キャリブレーションアーチファクトは、好ましくは、それが測定プローブ等によって接触されているときは、休止位置に保持されている。好都合なことに、キャリブレーションアーチファクトを画定された休止位置に付勢する力は、キャリブレーションアーチファクトの表面上の点が測定プローブを使用して測定されるプロセス中において、キャリブレーションアーチファクトに印加される力より大きい。ここで、測定中に、接触トリガープローブのような測定プローブによって加えられる力は、比較的小さい(例えば、10ニュートン程度)ことに留意すべきである。偏向機構は、デバイスの向きにかかわらず、通常のプロービング動作中に、キャリブレーションアーチファクトが画定された休止位置から逸脱しないのを保証すべく、十分な力を印加してもよい。換言すると、装置は、任意の要求される方向、例えば、垂直方向、水平方向、逆さまなどで使用(且つ、プローブによって測定)され得ることが好ましい。
【0018】
偏向機構は、係合状態にもたらされるとき、反復可能な位置を画定する相補的な係合特徴部を有するのが好ましい。例えば、ボールは、凹部を画定している複数の特徴部と係合することができる。反復可能な位置は、(例えば、相補的な特徴部の間の少なくとも5つ、または、好ましくは、6つの運動自由度が制限されるように)運動学的に画定されていてもよい。有利には、偏向機構は、キャリブレーションアーチファクトに取り付けられる第1の部分と、本体に取り付けられる第2の部分とを備えている。第1および第2の部分は、係合状態にもたらされたとき、互いに対して反復可能な位置をとるように構成されてもよい。例えば、第1の部分はボールを備え、第2の部分はボールを受けるための座を備えてもよい。あるいは、精密なリニアベアリングおよび端部ストッパが使用されてもよい。第1および第2の部分は、運動学的または擬似運動学的接続または関節を画定してもよい。
【0019】
キャリブレーションアーチファクトは、本体に対して複数の方向に自由に偏向することができる。例えば、それは、X軸、Y軸、および、Z軸に沿って移動することができる。好ましくは、キャリブレーションアーチファクトは、本体に対して、単一の直線軸に沿って移動するように制約されている。換言すると、取り付け機構は、好ましくは、本体に対するキャリブレーションアーチファクトの直線運動のみを許容する。センサは、本体に対するキャリブレーションアーチファクトの動きの方向の一部または全部に沿った動きを検知してもよい。直線運動のみが許容される場合には、単一軸の変位センサが提供されてもよい。例えば、センサは、直線運動を測定するためのトランスデューサ(例えば、リニアトランスデューサ)を備えてもよい。
【0020】
センサによって測定された測定値は、任意の適切な方法で出力されてもよい。例えば、測定データを搬送するのにケーブルが使用されてもよい。有利には、センサによって得られた測定値を送信するための無線トランスミッタが設けられる。無線トランスミッタは、光伝送を提供することができる。好都合には、無線トランスミッタは、無線周波数トランスミッタ(例えば、Bluetoothトランスミッタ)である。装置はまた、同じ無線リンクを介して、情報を受信するように配列されてもよい。測定値は、それらが取られるとき、またはその直後に出力されてもよい。あるいは、装置によっては、一連の測定値が取得され、保存され、そして続いて、出力されてもよい。
【0021】
センサに加えて、装置は、工作機械を損傷から保護するための安全機能またはバックアップ機能を提供する、追加の検知機構を備えることができる。例えば、工作機械の動きを(例えば、無線システムが故障、またはオンされていない場合に)停止させるマイクロスイッチが設けられてもよい。このようなリミットスイッチは、任意の適切な形式のものでよい。
【0022】
装置のベースは、工作機械に取り付け可能である。例えば、ベースは、工作機械のベッドまたはテーブルに取り付けるように構成されてもよい。これは、ボルト孔、磁石などを介してもよい。好ましくは、ベースは、工作機械に移動不能かつ解放可能に固定されてもよい。装置が使用されていないときに装置を保護するカバーが設けられてもよい。
【0023】
本発明はまた、上記の装置と、工作機械のスピンドルに取り付けるための基準工具とを含むキットにも及んでいる。キットはまた、または代替的に、測定プローブを備えてもよい。測定プローブは、工作機械のスピンドルに取り付けるためのスピンドルプローブであってもよい。
【0024】
本発明の第2の態様によれば、第1の態様によるキャリブレーション装置を使用する方法が提供される。この方法は、好ましくは、キャリブレーション装置を工作機械、例えば、測定対象物が通常配置される工作機械テーブルに取り付けるステップを備えている。一旦、工作機械に取り付けられると、装置はキャリブレーション手順の一部として使用されてもよい。好都合にも、この方法は、工作機械のスピンドルによって保持された基準工具を、キャリブレーション装置のキャリブレーションアーチファクトとの接触状態に移動させるステップを備えている。この接触は、キャリブレーションアーチファクトの偏向を引き起こす可能性がある。キャリブレーションアーチファクトの位置を測定するステップもまた実行されてもよい。キャリブレーションアーチファクトの偏向は、その位置を測定するために使用されてもよい。
【0025】
好ましい実施形態では、キャリブレーション装置のキャリブレーションアーチファクトは、球からなっている。この方法は、したがって、球の中心の位置を測定することを含むことができる。例えば、1つの軸における球の中心の位置(例えば、球の中心のZ位置)が測定されることができる。上で説明したように、これは、自動測定手順を用いて行われてもよい。本方法は、測定プローブ準拠のキャリブレーション方法、例えば、特許文献3(WO2015 / 162431)に記載されているプローブ・オン・プローブのキャリブレーション方法と併せて実行されてもよい。
【0026】
また、本明細書では、アーチファクト、本体、および本体に対するアーチファクトの動きを測定するセンサを備えているキャリブレーション装置が記載されている。アーチファクトは、キャリブレーションアーチファクト(すなわち、1つ以上の既知の寸法を有するアーチファクト)であってもよい。アーチファクトは球からなってもよい。本体に対するキャリブレーションアーチファクトの動きを制約する機構が設けられてもよい。例えば、キャリブレーションアーチファクトは、本体に対して単一の直線軸に沿って移動するように制約されてもよい。本体は、工作機械に取り付けるように構成されてもよく、例えば、工作機械のテーブルまたはベッドに取り付け可能であってもよい。センサは、本体に対するアーチファクトの動きの程度を測定することができ、すなわち、本体に対するアーチファクトの位置に関連して変化する出力を生成することができる。装置は、本発明の第1および第2の態様に関連して上述されたまたは特定の実施形態について以下に記載される特徴のうちの任意の1つ以上を有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
さて、本発明が、添付の図面を参照して、単なる例として以下に説明される。
図1図1は、多軸工作機械を示している。
図2図2は、先行技術のキャリブレーション球準拠の技術を示している。
図3図3は、本発明のキャリブレーション装置を示している。
図4図4は、球のZ高さが外挿によってどのように測定されるかを示している。
図5図5は、トランスデューサによって、時間の経過とともに検出される球の移動のプロットの例を示している。
図6図6は、既知の「休止での」基準高さへの逆行する外挿によって,どのようにして球のZ高さが測定され得るかを示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、多軸工作機械を示している。工作機械は、典型的には、C軸と呼ばれるものの回りに高速で回転され得るスピンドル2を備えている。スピンドル2は、切削工具4または測定プローブなどの他のアクセサリのテーパー付きシャンクを受け入れるテーパーマウント6を備え、これにより、必要なときにツールおよびアクセサリがスピンドル2に装填されることを許容している。スピンドル2は、工作機械によって、3つの直線軸に沿って空間内を移動されることができ、機械のこれらの軸は、典型的には、X軸、Y軸およびZ軸と呼ばれている。テーブル10が設けられており、これにワークピース12が取り付けられる。テーブル10は、A軸の回りに傾けられ、そしてB軸の回りに回転されることもできる。
【0029】
切削中、切削工具4はC軸の回りに高速で回転され、そして、工作機械の制御装置が、切削プログラムに規定された命令のリストに従って、工具4をワークピース12に対する所望の切削経路に沿って移動させる。切削経路は、X軸、Y軸およびZ軸に沿うスピンドルの並進運動、並びにAおよびB軸の回りの回転運動を含むことができる。ワークピースから必要な材料を除去するためには、ワークピースに対する工具先端の位置が、A軸およびB軸の回りの回転運動が生ずるときでさえも、極めて正確に知られる必要があることが分かる。したがって、様々な技術および装置が、このようなキャリブレーションを行うために、長年にわたって開発されてきた。
【0030】
当業者には周知のように、多くの自動化された工作機械のキャリブレーション技術は、工作機械のベッドに取り付けられたキャリブレーション球(すなわち、既知の半径の球)の様々な測定を行わせるべく、スピンドルに取り付けられた測定プローブを使用することを含んでいる。これらの測定は、典型的には、工作機械のホーム位置(例えば、x、y、z工作機械座標系の原点)に対するキャリブレーション球の中心位置を、高い精度で知ることに依存している。様々な技術が、このように、球の中心位置を正確に測定するべく、長年にわたって開発されてきた。
【0031】
図2を参照して、工作機械のベッドに取り付けられたキャリブレーション球20の中心位置が測定されることを許容する、先行技術が説明される。球は、ワークピースが通常配置される、工作機械内のベースまたは他の構造物に固定されてもよい。したがって、球は、工作機械の1つ以上の回転軸を備え得る工作機械の作業表面に取り付けられてもよい。
【0032】
まず第1に、キャリブレーション球のXY位置が高い精度でもって確立されるのを許容する多くの技術が知られていることが注目されるべきである。例えば、ダイヤルテストインジケータ(DTI)は、工作機械のスピンドルに取り付けられ、そして、球の赤道付近でキャリブレーション球20の直径を「クロックする」べく、使用されてもよい。これは、典型的には、スピンドルが回転されたときにダイヤルインジケータが偏向しなくなるまで、X位置およびY位置をジョギング(すなわち、手動制御下で移動)させることによって行われる。これが達成されると、スピンドルのXY位置が球の中心位置となる。
【0033】
また、工作機械のスピンドルに取り付けられた接触トリガープローブを使用して、XY球の中心位置を測定することも知られている。スピンドルの回転位置(すなわち、C軸回りの回転角度)は0度に向けられ、そして球中心が測定され、そして球中心のXY位置が記録される。スピンドルがその後、180°回転され、そして球中心のXY位置が再測定される。2つの測定された球のXY中心位置の平均が、中心位置として使用され、すなわち、スピンドルの回転中心に対しての接触プローブの球形スタイラスの偏心取り付けによる、如何なる誤差も排除される。
【0034】
上述の技術は、球のXY中心位置が見いだされることを許容するが、それらは典型的には、4軸または5軸の工作機械に対しては、球のZ位置を十分な精度で確立させることはできない。したがって、球のZ位置を測定するための多くの別個の技術が知られている。
【0035】
最も一般的に使用される技術は、図2に示されており、いわゆるフィーラーゲージブロック24の使用を含んでいる。キャリブレーションされた既知の長さの基準工具22が、工作機械のスピンドルに装填されている。スピンドルは、基準工具22が球20の上死点の上方に位置されるように、移動される。フィーラゲージまたはゲージブロック24は、基準工具22の端部と球20との間に位置される。工作機械の手動の「ジョグ」機能を使用して、ゲージブロック24がちょうど基準工具22と球20との間に挟み込まれるまで、工具が手動で下降される。この手動プロセスは、ゲージが自由に動くことはできるが、遊びやクリアランスのギャップがないときを、エンジニアが「感じる」ことを要求する。これが達成されると、現在の機械の位置、工具の長さ、およびキャリブレーションされた球の半径が、球の中心のZ位置を計算するために使用される。
【0036】
特注の長さ設定装置を使用してZ位置を設定することもまた知られている。
反復可能な一方向インジケータを備えている、Base-Masterと呼ばれる装置が、Metrology Software Products Limited(Alnwick、UK)によって供給されている。インジケータは、工作機械のスピンドルに取り付けられ、球のXY中心の上方に位置される。工作機械のジョグ制御は、Base-Masterが球の頂部にちょうど接触するまで、スピンドルを下降させるために使用され、そのような接触は、Base-Master装置に取り付けられているLEDによって示される。Base-Masterの(既知の)長さ、現在のZ位置および球の半径は、その後、Z軸においての球の中心を計算するために使用される。
【0037】
球のZ位置を測定する上述の技術は、全て、さもなければ自動化されるキャリブレーション手順である手動の介入を必要としている。これは、手順を実行するのに、(工作機械のオペレータではなく)熟練したキャリブレーションエンジニアを必要とし、そして、同じ手順を異なるエンジニアが実行するときに、キャリブレーション誤差の大きな変動が発生する可能性があることが判明している。
【0038】
図3を参照して、キャリブレーション球32の中心が正確に測定されるのを許容する、本発明のキャリブレーション装置30および関連する方法が説明される。
【0039】
キャリブレーション装置30は、シャフト34の遠位端に取り付けられたキャリブレーション球32を備えている。キャリブレーション球32およびシャフト34の一部は、工作機械のテーブルまたはベッド38へ取り付けるように構成されている装置本体、すなわち、ベース36から突出している。位置決め用の球40が、シャフト34の近位端に取り付けられ、ベース36でもって包含されている。位置決め用球40は、ばね42によって座44に接触するように付勢されている。位置決め用球40および座44は、互いに接触するように押されたときに、互いに対して正確で反復可能な位置をとるように配置されている。この例では、座44および位置決め用球40が、1つの反復可能な継ぎ手を提供しているが、代替的な反復可能な(複数の)継ぎ手を使用することもできる。位置決め用球40、座44およびばね42のこの配列は、キャリブレーション球32をベース36に取り付ける偏向機構を提供している。
【0040】
シャフト34は、シャフト34の横方向への運動を制約する側壁45を有しているベース36内に画定された細長い開口を通って延在している。したがって、Z軸に沿ってキャリブレーション球32に加えられる力が、位置決め用球40がばね42に抗って押し付けるのを生じさせることが分かる。十分な力が加えられると、ばね力は克服され、位置決め用球40が座44から外れ、それによって、キャリブレーション球32、シャフト34および位置決め用球40の(Z軸に沿った)直線移動を生じさせる。ばね42によって印加される力は、球の位置の測定を接触トリガー測定プローブを使用して行うのに、典型的に、必要とされる力が印加されるときに、キャリブレーション球32の並進がないように、十分に高く設定されている。このような線形の並進の量を測定するために、ベース36内に線形トランスデューサ46が設けられ、そしてトランスデューサからの測定値は、無線のBluetooth(ブルートゥース)トランスミッタ48を介して出力されるが、データを送信する別の方法も可能である。
【0041】
使用時には、装置30は、シャフト34の細長い軸線が工作機械のZ軸に整列された状態で、工作機械のベッド38に(例えば、ボルトまたは磁気クランプ力を使用して)固定される。キャリブレーション球32の中心位置は、その後、場合によっては、スピンドル取り付け式接触トリガー測定プローブを使用して、「おおまかに」配置される。既知の長さの基準工具50が、工作機械のスピンドルに装填される。
【0042】
以下の測定プロセスが、その後、工作機械の数値コントローラにプログラムされている標準のマクロプログラム準拠のコマンドを使用して、実行される。最初に、基準工具50が、球32の上死点の上方に位置される。次に、「球の探索スタート」プロセスをトリガーするべく、数値制御‐マクロプログラムが呼び出される。このプログラムは、基準工具50の使用の準備ができていることを外部のコントローラに示す。コントローラは、その後、キャリブレーション装置30が「ターンオン」することを命じ、そして、ハンドシェイク(手ぶれ)手順が、これが起こったことを確認するべく実行される。
【0043】
基準工具50は、次いで、予め定められた小さな距離だけ、球32に向けて(すなわち、Z軸に沿って下方に)移動され、そして、コントローラが現在の機械のZ位置およびキャリブレーション装置30のトランスデューサ46からの測定値を読み取る「球位置の読み取り」をトリガーするべく、数値制御‐マクロプログラムの呼び出しが行われる。これらの前進および読み取りステップは、複数回繰り返される。これは、一連のZ位置および対応するトランスデューサの値を生成する。
【0044】
図4に示されるように、記録されたZ位置は、トランスデューサの読み取り値Tに対してプロットされる。次に、トランスデューサの偏向ゼロ(すなわち、Tが、球はそのホーム位置にあると指しているときのZの値)においての球の上死点の位置を計算するために、線形外挿が使用されてもよい。
【0045】
上記の方法は、双方向通信を必要とするであろう。これに代わる方法として、最初のパワーオンが実行された直後の段階から始まる、装置からの単方向出力のみを使用することもできる。基準工具50は、次に、機械が完全に休止して且つトランスデューサの測定値が一定値に達するのを許容するべく、各移動の間に小さな遅延を伴って、所定の距離の小さな増分だけ、球32に向かって(すなわち、Z軸に沿って)移動される。この形式のいくつかの動作が球を首尾よく移動させた後に、基準工具50は、球32が反復可能な「休止した」位置に戻って再着座するのを許容するべく、撤退される。
【0046】
このプロセス全体を通じて、任意の適切なシステム(PC準拠のソフトウェア、キャリブレーション装置内に内蔵された専用の装置、別個の埋め込みシステム、または工作機械のコントローラ自体)が、トランスデューサの読み取り値Tを保存してもよい。移動の連続の最後においての後の処理のために、トランスデューサの測定値のこの連続を記録することによって、このプロセスは、全ての工作機械に特有の同期機構が全く無用で、特定の型式の工作機械に使用するための特注仕様を必要としない。
【0047】
図5は、1.0単位の全移動が達成されるまで、Z方向において、0.1単位の増分で球に向けて移動させることによって生成され得る、例示的なデータストリームを示している。球の「休止した」位置は、グラフ上の平坦な読み取り値の開始および終了(方向反転後)であると測定されてもよい。開始における長い平坦部分は、球に接触する前の機械の動きによるものであり、そして、グラフの各平坦な部分の間の継続時間の変化は、工作機械のオペレータが工作機械の送り速度をオーバーライドさせるか、または通信中の可変時間の遅延によるものである可能性がある。この技術のこの実施の重要な利点は、この方法が、時間の読み取り、通信または動きを同期させる必要がないことである。
【0048】
図6は、トランスデューサ測定値の各平坦な区分の中心点を、既知のZ位置(接触したときの最後の既知の位置から後方に作用する)に対してプロットすることによって、トランスデューサのゼロ偏向(すなわち、Tが、球はそのホーム位置にあることを示すときのZの値)においての球の上死点の位置を計算するために、線形外挿が使用され得ることを示している。上死点の球中心位置、(既知の)基準工具50の長さ、および(既知の)キャリブレーション球の半径は、このように、球の中心のZ位置が計算されることを可能にしている。上述した先行技術の1つ、例えば、接触トリガー測定プローブに準拠する技術は、球32の中心のXY位置を測定するために使用されてもよい。
【0049】
したがって、上述の装置および方法は、球のZ位置を測定するための自動化された技術を提供する。もちろん、様々な軸および座標系の定義は任意であることに留意すべきである。当業者によって使用されている命名法が本明細書では使用されているが、これは決して本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではない。また、多くの型式の工作機械が存在し、本発明は、本明細書に記載されている工作機械以外の工作機械にも実施できることを覚えておく必要がある。特に、ワークピースと切削工具との間の相対運動は、多くの異なる方法(例えば、固定された位置の切削工具に対するテーブルの移動、1つ以上の軸の回りのスピンドルの傾斜など)で実施することができ、本発明に関連する利益に影響を及ぼさない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6