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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】鉄道車両用衝撃エネルギー吸収構造
(51)【国際特許分類】
   B61D 15/06 20060101AFI20220920BHJP
【FI】
B61D15/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019082246
(22)【出願日】2019-04-23
(65)【公開番号】P2020179713
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】新谷 雅典
(72)【発明者】
【氏名】広沢 賢
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207345836(CN,U)
【文献】特開2013-112152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 15/00
B61D 17/06
B61F 1/10
B61F 19/04
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の前端部に配置された、衝突時の衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収構造であって、
車両幅方向に延びた第1ベースと、
前記車両幅方向に延び且つ前記第1ベースよりも車両長手方向の後方に配置された第2ベースと、
前記第1ベースと前記第2ベースとの間において、前記車両幅方向に沿って並べられ且つそれぞれが前記車両長手方向に平行である第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁とを含む複数のエネルギー吸収梁と、
前記複数のエネルギー吸収梁の少なくとも1つのエネルギー吸収梁の先端と前記第1ベースの後端面との間に配置され、且つ、前記複数のエネルギー吸収梁よりも前記車両長手方向の座屈荷重が小さいアダプターと、
を備えており、
前記第1ベースの後端面及び前記第2ベースの端面が平坦であり、
前記複数のエネルギー吸収梁の後端は、前記第2ベースの先端面に支持され、
前記第1エネルギー吸収梁は、前記第2エネルギー吸収梁よりも、前記車両長手方向に沿った長さが長く、
前記第1ベースの後端面と前記第1エネルギー吸収梁の先端との間の距離が、前記第1ベースの後端面と前記第2エネルギー吸収梁の先端との間の距離より小さく、
前記第2エネルギー吸収梁の先端は、前記第1ベースから離隔し、
前記アダプターの少なくとも1つは、前記第1ベースと前記第2エネルギー吸収梁とに支持されており
前記複数のエネルギー吸収梁および前記アダプターは、前記車両長手方向に沿った長さが同じもの同士が前記車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称に位置するように配置され、
前記中心線に近いほど、前記エネルギー吸収梁の前記車両長手方向に沿った長さが短く且つ前記アダプターの前記車両長手方向に沿った長さが長いことを特徴とする衝撃エネルギー吸収構造。
【請求項2】
前記複数のエネルギー吸収梁が、第3エネルギー吸収梁をさらに含み、
前記第3エネルギー吸収梁の後端は、前記第2ベースの先端面に支持され、
前記第3エネルギー吸収梁は、前記第2エネルギー吸収梁よりも、前記車両長手方向に沿った長さが短く、
前記第3エネルギー吸収梁の先端は、前記第1ベースから離隔し、
前記アダプターの少なくとも一つは、前記第1ベースと前記第3エネルギー吸収梁とに支持されており、
前記第1ベースと前記第3エネルギー吸収梁とに支持された前記アダプターの前記車両長手方向に沿った長さが、前記第1ベースと前記第2エネルギー吸収梁とに支持された前記アダプターの前記車両長手方向に沿った長さより長いことを特徴とする請求項1に記載の衝撃エネルギー吸収構造。
【請求項3】
鉄道車両の前端部に配置された、衝突時の衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収構造であって、
車両幅方向に延びた第1ベースと、
前記車両幅方向に延び且つ前記第1ベースよりも車両長手方向の後方に配置された第2ベースと、
前記第1ベースと前記第2ベースとの間において、前記車両幅方向に沿って並べられ且つそれぞれが前記車両長手方向に平行である複数のエネルギー吸収梁とを備えており、
前記複数のエネルギー吸収梁が、前記車両長手方向に同じ長さを有し、且つ、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁とを含んでおり、
前記複数のエネルギー吸収梁の後端が、前記第2ベースの先端面に支持され、
前記第1ベースの端面が、平坦であり、
前記第1ベースの端面が、前記車両長手方向に直交する複数の平面が形成された段差形状を有しており、
前記複数の平面が、第1平面と、前記第1平面よりも前方に位置する第2平面とを含んでおり、
前記第1エネルギー吸収梁と前記第1平面とが、前記車両長手方向に延びた同一線上に位置しており、前記第2エネルギー吸収梁と前記第2平面とが、前記車両長手方向に延びた別の同一線上に位置しており、
前記第1平面と前記第1エネルギー吸収梁の先端との間の距離が、前記第2平面と前記第2エネルギー吸収梁の先端との間の距離より小さいことを特徴とする衝撃エネルギー吸収構造。
【請求項4】
前記第1ベースの後端面は、前記車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称な形状であり、
前記第1ベースの後端面に形成された前記複数の平面は、前記中心線に近いほど前方に位置することを特徴とする請求項3に記載の衝撃エネルギー吸収構造。
【請求項5】
前記第1ベースの後端面に形成された前記複数の平面のうち最も後方に位置する平面より前方に位置する平面を覆う被覆部材を有し、
前記被覆部材の後端面と、前記複数の平面のうち最も後方に位置する平面とが、車両幅方向に延びた同一線上に位置し、
前記複のエネルギー吸収梁の先端が、前記被覆部材の後端面または前記複数の平面のうち最も後方に位置する平面に支持されていることを特徴とする請求項3または4に記載の衝撃エネルギー吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の正面に障害物が衝突したときの衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、その運行中において、線路に侵入した自動車や他の鉄道車両などと衝突することがある。このような場合、鉄道車両は修理が困難又は不可能となるまで著しく損傷するおそれがある。そこで、鉄道の先頭車両の前部に衝突による衝撃を吸収する構造を設けることにより、鉄道車両の損傷を抑える技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、鉄道車両の前部において、長手方向が車両進行方向と一致する複数のエネルギー吸収梁が車両幅方向に沿って並べられた構造が開示されている。これら複数の衝撃エネルギー梁は、衝突の際に座屈変形することによって衝突による衝撃を吸収し、鉄道車両の損傷の低減を行っている。エネルギー吸収梁を複数設けることによって、単一の場合と比べて、衝撃エネルギーの吸収性の向上を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-301476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、エネルギー吸収梁の座屈変形時において、エネルギー吸収梁から鉄道車両の台枠及び構体に荷重が加わる。一般に、荷重には、座屈変形が始まる際の最大荷重と、規則的な座屈が進行する際の波形に変化する荷重(以下、平均荷重という)とが存在する。衝撃エネルギーの吸収には、平均荷重を伴うエネルギー吸収梁の規則的な座屈変形を利用するが、座屈変形の性質上最大荷重の発生は不可避である。
【0006】
特許文献1の構造では、複数のエネルギー吸収梁が同時に座屈変形を開始するため、最大荷重は梁の本数倍となり非常に大きくなる。鉄道車両が大きな荷重に耐えるためには車体の台枠や構体の構造を強化する必要があるが、そのような構造の車体は、例えば乗車スペースが削られるなど制約が多く、車両全体の重量も増加するため走行時の燃費が低下する。
【0007】
また、平均荷重は、最大荷重を伴う最初の座屈変形以降、規則的に繰り返される複数回の座屈変形の際に発生する。そして、平均荷重の大きさは、エネルギー吸収梁が座屈変形するタイミングに合わせて荷重のピークが来るように波形の変化をする。特許文献1の構造のように複数のエネルギー吸収梁の座屈が同一タイミングで開始される場合、座屈開始後に起こるそれぞれの梁の座屈のタイミングはほぼ一致し、平均荷重のピークが現れるタイミングも一致する。すなわち、それぞれのエネルギー吸収梁から車体に加わる平均荷重の波形の位相はほぼ一致するため、全体として、梁の本数倍の大きさの平均荷重のピークが生じることとなる。したがって、複数のエネルギー吸収梁を設けることで衝撃エネルギーの吸収を十分に行える半面、座屈開始以後においても車体にかかる荷重は大きくなる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、鉄道車両に障害物が衝突した際に、衝撃エネルギーを吸収しつつ、車体の台枠及び構体への最大荷重の低減及び平均荷重の平準化を実現する衝撃エネルギー吸収構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る衝撃エネルギー吸収構造は、鉄道車両の前端部に配置された、衝突時の衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収構造であって、車両幅方向に延びた第1ベースと、前記車両幅方向に延び且つ前記第1ベースよりも車両長手方向の後方に配置された第2ベースと、前記第1ベースと前記第2ベースとの間において、前記車両幅方向に沿って並べられ且つそれぞれが前記車両長手方向に平行である第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁とを含む複数のエネルギー吸収梁と、前記複数のエネルギー吸収梁の少なくとも1つのエネルギー吸収梁の先端と前記第1ベースの後端面との間に配置され、且つ、前記複数のエネルギー吸収梁よりも前記車両長手方向の座屈荷重が小さいアダプターと、を備えており、前記第1ベースの後面及び前記第2ベースの端面が平坦であり、前記複数のエネルギー吸収梁の後端は、前記第2ベースの先端面に支持され、前記第1エネルギー吸収梁は、前記第2エネルギー吸収梁よりも、前記車両長手方向に沿った長さが長く、前記第1ベースの後端面と前記第1エネルギー吸収梁の先端との間の距離が、前記第1ベースの後端面と前記第2エネルギー吸収梁の先端との間の距離より小さく、前記第2エネルギー吸収梁の先端は、前記第1ベースから離隔し、前記アダプターの少なくとも1つは、前記第1ベースと前記第2エネルギー吸収梁とに支持されており、前記複数のエネルギー吸収梁および前記アダプターは、前記車両長手方向に沿った長さが同じもの同士が前記車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称に位置するように配置され、前記中心線に近いほど、前記エネルギー吸収梁の前記車両長手方向に沿った長さが短く且つ前記アダプターの前記車両長手方向に沿った長さが長いことを特徴とする。
また、上記構成において、複数の前記エネルギー吸収梁が、第3エネルギー吸収梁をさらに含み、前記第3エネルギー吸収梁の後端は、前記第2ベースの先端面に支持され、前記第3エネルギー吸収梁は、前記第2エネルギー吸収梁よりも、前記車両長手方向に沿った長さが短く、前記第3エネルギー吸収梁の先端は、前記第1ベースから離隔し、前記アダプターの少なくとも一つは、前記第1ベースと前記第3エネルギー吸収梁とに支持されており、前記第1ベースと前記第3エネルギー吸収梁とに支持された前記アダプターの前記車両長手方向に沿った長さが、前記第1ベースと前記第2エネルギー吸収梁とに支持された前記アダプターの前記車両長手方向に沿った長さがより長いことが好ましい。
【0010】
エネルギー吸収梁は、その両端と第1ベースの後端面及び第2ベースの先端面とが接触している状態となってから、さらに車両長手方向の後方側に向かって一定以上の負荷がかかったときに座屈変形を開始する。上記構成によれば、鉄道車両に障害物が衝突したとき、第1エネルギー吸収梁の両端が第2エネルギー吸収梁の両端よりも先に第1ベースの後端面及び第2ベースの先端面と接触する。よって、第1エネルギー吸収梁が第2エネルギー吸収梁より先に座屈変形を開始する。この座屈開始時期の差に伴って、それぞれの梁の間での最大荷重の発生時期をずらすことができ、車体に対して全ての梁から生じた最大荷重が同時にかかることを防ぐことができる。
【0011】
また、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁との座屈開始時期がずれることによって、その後、平均荷重を伴って規則的に繰り返される座屈変形の発生時期もずれる。平均荷重の大きさはエネルギー吸収梁の座屈時をピークとして波形に変化するが、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁との間で波形がずれるため、車体に対して全てのエネルギー吸収梁から発生する平均荷重のピークが同時にかかることを回避できる。また、波形がずれることで、ある梁から発生する平均荷重が大きいとき、別の梁から発生する平均荷重は小さい、という状況を常に作り出すことができる。これにより、複数のエネルギー吸収梁全体から発生する平均荷重の大きさを平準化することができる。
【0012】
以上から、上記構成によれば、複数のエネルギー吸収梁を配置することによって衝撃エネルギーの吸収性を向上させつつ、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁の座屈時期をずらすことにより車体へかかる最大荷重の低減及び平均荷重の平準化を実現できる。
【0014】
エネルギー吸収梁の後端が固定されていない場合、障害物の衝突によって、第1ベース及びエネルギー吸収梁が車両長手方向に沿って後方に移動したとき、エネルギー吸収梁が車両幅方向、上下方向、又はその両方にずれてしまうおそれがある。この場合、エネルギー吸収梁の座屈変形は、車両長手方向に沿った軸から傾いた状態で進行するため、車両長手方向に沿って進行する場合と比べて衝撃エネルギーを十分に吸収することができない。そこで、複数のエネルギー吸収梁の後端を第2ベースの先端面によって固定することで、衝突の際、エネルギー吸収梁が車両幅方向にずれるのを防ぐことができ、衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
【0015】
また、上記衝撃エネルギー吸収構造において、前記第1ベースの前記後端面及び前記第2ベースの前記先端面が平坦であり、前記第1エネルギー吸収梁は、前記第2エネルギー吸収梁よりも、前記車両長手方向に沿った長さが長く、前記第2エネルギー吸収梁の両端のうち少なくとも一方は、前記第1ベース又は前記第2ベースから離隔していてよい。
【0016】
それぞれの梁の元々の長さに拘わらず、エネルギー吸収梁の座屈が進行し全ての梁が第1ベース及び第2ベースに接触して以降は、梁の車両長手方向に沿った長さは2つのベース間の距離と実質的に同一となる。第1ベースの後端面及び第2ベースの先端面が平坦でない場合、2つのベース間の距離は車両幅方向において均一ではない。このため、座屈進行時のエネルギー吸収梁の実質的な長さは、梁の車両幅方向における配置位置によって異なる。
ここで、座屈によって生じる荷重の大きさはエネルギー吸収梁が長いほど小さくなる。つまり、車両幅方向におけるエネルギー吸収梁の配置位置によって、第2ベースにかかる平均荷重の大きさには偏りが生じてしまう。この場合、第2ベース及びその後方の車体において、破損しやすい部分と破損しにくい部分とが発生してしまう。
【0017】
一方で、上記構成では、2つのベース間の距離は車両幅方向に沿ったいずれの位置においても均一となる。つまり、座屈進行時において、全てのエネルギー吸収梁の実質的な長さは全て同じとなり、第2ベースにかかる平均荷重の大きさは、第2ベースの車両幅方向における位置に拘わらず同じとなる。これにより、車体全体としての荷重に対する耐久性を向上させることができる。
【0019】
エネルギー吸収梁は、その両端が固定された状態で、さらに負荷がかかったときに衝撃エネルギーの吸収を開始する。第2エネルギー吸収梁が第1ベース又は第2ベースから離隔している場合、障害物の衝突後、まず2つのベースによって両端が固定された第1エネルギー吸収梁が衝突エネルギーの吸収を開始する。その後、第1エネルギー吸収梁の座屈変形が進行して、第2エネルギー吸収梁の両端が2つのベースに固定された状態となった時点で、第2エネルギー吸収梁が衝突エネルギーの吸収を開始する。つまり、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁とで、衝撃エネルギーの吸収を開始するタイミングに差があるため、特に衝突直後において、第1エネルギー吸収梁のみで衝撃エネルギーの吸収を行わなければならず効率が悪い。
【0020】
一方で、上記構成によれば、第2エネルギー吸収梁はアダプターを介して第1ベース及び第2ベースに固定された状態となっている。そのため、障害物の衝突後、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁とは同時に衝突エネルギーの吸収を開始することができる。よって、衝突直後から全てのエネルギー吸収梁によって衝撃エネルギーの吸収を行えるので効率が良い。
【0021】
また、アダプターの車両長手方向の座屈荷重は、エネルギー吸収梁の車両長手方向の座屈荷重よりも小さい。なお、座屈荷重とは、部材が圧力を受けたときに座屈変型する際の限界の荷重である。そのため、アダプターの座屈が先行して行われ、アダプターが圧縮した後、時間差で第2エネルギー吸収梁の座屈が開始する。これによって、衝突直後から全てのエネルギー吸収梁に衝撃エネルギーを分散しつつ、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁との間での座屈開始時期をずらすことができる。
【0022】
また、上記衝撃エネルギー吸収構造において、前記複数のエネルギー吸収梁は、前記車両長手方向に沿った長さが同じもの同士が前記車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称に位置するように配置されていてよい。
【0023】
エネルギー吸収梁が吸収できる衝撃エネルギーは、梁の長さが長いほど増大し、短いほど減少する。例えば、上記中心線を挟んだ左右どちらか一方の領域に短いエネルギー吸収梁が複数本配置され、他方の領域に長いエネルギー吸収梁が複数本配置されている場合、他方の領域にある複数本の梁の方が一方の領域にある複数本の梁より多くの衝撃エネルギーを吸収できる。つまり、第2ベース及びその後方の車体にかかる衝撃エネルギーは車両幅方向における一方の領域に偏って大きくなり、ベース及び車体が変形しやすくなるため、鉄道車両の衝撃エネルギー吸収構造として不適切である。
【0024】
そこで、上記構成とすることで、エネルギー吸収梁が吸収できる衝撃エネルギーの大きさは、車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称となる。これにより、第2ベース及びその後方の車体にかかる衝撃エネルギーの大きさを車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称とすることができ、耐衝撃性の優れた衝撃エネルギー吸収構造を提供することができる。
【0025】
別の観点として、本発明に係る衝撃エネルギー吸収構造は、鉄道車両の前端部に配置された、衝突時の衝撃エネルギーを吸収する衝撃エネルギー吸収構造であって、車両幅方向に延びた第1ベースと、前記車両幅方向に延び且つ前記第1ベースよりも車両長手方向の後方に配置された第2ベースと、前記第1ベースと前記第2ベースとの間において、前記車両幅方向に沿って並べられ且つそれぞれが前記車両長手方向に平行である複数のエネルギー吸収梁とを備えており、前記複数のエネルギー吸収梁が、前記車両長手方向に同じ長さを有し、且つ、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁とを含んでおり、前記複数のエネルギー吸収梁の後端が、前記第2ベースの先端面に支持され、前記第1ベースの端面が、平坦であり、前記第1ベースの端面が、前記車両長手方向に直交する複数の平面が形成された段差形状を有しており、前記複数の平面が、第1平面と、前記第1平面よりも前方に位置する第2平面とを含んでおり、前記第1エネルギー吸収梁と前記第1平面とが、前記車両長手方向に延びた同一線上に位置しており、前記第2エネルギー吸収梁と前記第2平面とが、前記車両長手方向に延びた別の同一線上に位置しており、前記第1平面と前記第1エネルギー吸収梁の先端との間の距離が、前記第2平面と前記第2エネルギー吸収梁の先端との間の距離より小さいことを特徴とする。
また、上記構成において、前記第1ベースの後端面は、前記車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称な形状であり、前記第1ベースの後端面に形成された前記複数の平面は、前記中心線に近いほど前方に位置することが好ましい。
また、上記構成において、前記第1ベースの後端面に形成された前記複数の平面のうち最も後方に位置する平面より前方に位置する平面を覆う被覆部材を有し、前記被覆部材の後端面と、前記複数の平面のうち最も後方に位置する平面とが、車両幅方向に延びた同一線上に位置し、複数の前記エネルギー吸収梁の先端が、前記被覆部材の後端面または前記複数の平面のうち最も後方に位置する平面に支持されていることが好ましい。
【0026】
第1エネルギー吸収梁と第2平面とが車両長手方向に延びた同一線上に位置しており、第2エネルギー吸収梁と第1平面とが車両長手方向に延びた別の同一線上に位置している場合と比較して、第1エネルギー吸収梁と第2エネルギー吸収梁の長さの差が極端に大きくなるのを抑制しつつ、2つの梁が衝撃エネルギーの吸収を開始するタイミングをずらしやすくすることができる。
【0028】
エネルギー吸収梁が吸収できる衝撃エネルギーの大きさは梁の長さに依存する。それぞれのエネルギー吸収梁の長さが異なる場合、吸収できる衝撃エネルギーの大きさが異なる。これによって、第2ベース及びその後方の車体には、非常に大きい衝撃エネルギーを受ける部分が生じるおそれがあり、衝撃エネルギー吸収構造としては好ましくない。一方で、上記構成では、全てのエネルギー吸収梁の車両長手方向に沿った長さを同一としている。このため、衝突による衝撃エネルギーをそれぞれのエネルギー吸収梁に均等に分散することができる。これにより、第2ベース及びその後方の車体にかかる衝撃エネルギーは、車両幅方向のいずれの位置においても均一とすることができ、車体全体としての耐衝撃性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0029】
鉄道車両に障害物が衝突した際に、衝撃エネルギーを吸収しつつ、車体の台枠及び構体への最大荷重の低減及び平均荷重の平準化を実現する衝撃エネルギー吸収構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造の、鉄道車両における配置場所を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造を示す図である。
図3】(a)は本発明の第2実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造を示す図、(b)は第2実施形態における第1ベースとエネルギー吸収梁との接続部分を示す図である。
図4】変形例1に係る衝撃エネルギー吸収構造を示す図である。
図5】変形例2に係る衝撃エネルギー吸収構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1(a)及び図1(b)に示すように、衝撃エネルギー吸収構造1は、車両幅方向に沿って鉄道車両100の下側前部に配置される。
【0032】
<第1実施形態>
ここでは、本発明に係る衝撃エネルギー吸収構造の第1実施形態を説明する。図2に示すように、衝撃エネルギー吸収構造1は、第1ベース11と、第2ベース12と、6本のエネルギー吸収梁13と、第1ベース11とエネルギー吸収梁13との間に配置されたアダプター14とを含んでいる。
【0033】
第1ベース11は、車両幅方向に延びて配置されている。第1ベース11の材質は、第1ベース11の車両長手方向の座屈荷重が6本のエネルギー吸収梁13の車両長手方向の座屈荷重の最大値よりも大きく、且つ、第1ベース11が障害物の衝突によって破壊されない座屈荷重を有する範囲内であれば特に限定されない。一例として、第1ベース11は、鉄製(SS400)である。
【0034】
第2ベース12は、車両幅方向に延び且つ第1ベース11より車両長手方向の後方に配置されている。第2ベース12の材質は、第2ベース12の車両長手方向の座屈荷重が6本のエネルギー吸収梁13の車両長手方向の座屈荷重の最大値よりも大きく、且つ、第2ベース12がエネルギー吸収梁13から受ける最大荷重及び平均荷重に耐え得る座屈荷重を有する範囲内であれば特に限定されない。一例として、第2ベース12は、鉄製(SS400)である。例えば、第1ベース11と第2ベース12とは同じ材質であってもよい。
なお、第2ベース12の車両幅方向の長さは、第1ベース11の車両幅方向の長さより長くてもよく、短くてもよく、又は同じでもよい。
【0035】
6本のエネルギー吸収梁13は、第1ベース11と第2ベース12との間において、車両幅方向に沿って並べられ且つそれぞれが車両長手方向に平行になるように配置されている。エネルギー吸収梁13には、図2に示すように、車両長手方向に沿った長さが互いに異なる外側エネルギー吸収梁13a、中間エネルギー吸収梁13b及び内側エネルギー吸収梁13cの三種類があり、それぞれ2本ずつ配置されている。また、エネルギー吸収梁の車両長手方向に沿った長さの長い順に外側エネルギー吸収梁13a、中間エネルギー吸収梁13b、内側エネルギー吸収梁13cとしている。そして、これらのエネルギー吸収梁は、その車両長手方向に沿った長さが車両幅方向における中心線側が最も短く外側が最も長くなるように、且つ、長さが同じもの同士が車両長手方向に延びる中心線に対して対称に位置するように間隔を空けて配置されている。すなわち、図2に示すように、中央に2本の内側エネルギー吸収梁13c、その両外側に2本の中間エネルギー吸収梁13b、及び、その更に両外側に2本の外側エネルギー吸収梁13aがそれぞれ配置されている。なお、三種類のエネルギー吸収梁13a、13b、13cは、車両長手方向に沿った長さのみが互いに異なり、車両幅方向に切断した断面形状及び材質はすべて同じである。
【0036】
図2に示すように、6本のエネルギー吸収梁13の後端は、それぞれ第2ベース12の先端面22に支持されている。また、外側エネルギー吸収梁13aの先端は、第1ベース11の後端面21に支持されている。そして、中間エネルギー吸収梁13b及び内側エネルギー吸収梁13cの先端は、後述するアダプター14を介して第1ベース11の後端面21に支持されている。
【0037】
また、エネルギー吸収梁13は、第1ベース11及び第2ベース12よりも車両長手方向の座屈荷重が小さく、車両長手方向に圧縮された場合にオイラー座屈せず、壁面が蛇腹状に変形される壁面座屈を行うものが使用される。これらの特性は、エネルギー吸収梁13の材質、長さ及び径の大きさ、梁内部の構造等を適宜調整することで得られる。材質としては、例えばアルミニウム合金(A7003-T5)などが挙げられるが、上記特性を得られるものであれば特に限定されない。
なお、エネルギー吸収梁13の車両長手方向に沿った長さは、例えば、鉄道車両100における車両前部のスペースの大きさに応じて決定される。
【0038】
アダプター14には、第1アダプター14aと、第1アダプター14aより車両長手方向に沿った長さが長い第2アダプター14bとの二種類があり、第1ベース11とエネルギー吸収梁13との間に配置されている(図2の斜線部分)。図2に示すように、第1アダプター14aの両端は、それぞれ中間エネルギー吸収梁13bの先端と第1ベース11の後端面21とに支持されており、第2アダプター14bの両端は、それぞれ内側エネルギー吸収梁13cの先端と第1ベース11の後端面21とに支持されている。
【0039】
アダプター14の材質は、エネルギー吸収梁13と比べてアダプター14の車両長手方向の座屈荷重を極端に小さくする範囲内であれば特に限定されない。また、アダプター14に対して、車両長手方向に沿って長孔を形成することで車両長手方向の座屈荷重を小さくしてもよい。
【0040】
続いて、障害物が鉄道車両100に衝突したときの、第1実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造1の動作について説明する。鉄道車両100の通常走行時、第1実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造1は図2の状態となっている。
【0041】
鉄道車両100の正面に障害物が衝突すると、まず衝撃エネルギーが車両長手方向に沿って第1ベース11へ伝わる。続いて、衝突エネルギーは第1ベース11の後端面21から外側エネルギー吸収梁13a、第1アダプター14a及び第2アダプター14bの先端に伝わる。そして、外側エネルギー吸収梁13a、第1アダプター14a及び第2アダプター14bは、それぞれ車両長手方向に沿って座屈変形を開始する。
なお、第1アダプター14a及び第2アダプター14bは、エネルギー吸収梁13と比べて極端に小さい最大荷重及び平均荷重を発生させながら座屈をする。
【0042】
外側エネルギー吸収梁13a、第1アダプター14a及び第2アダプター14bの座屈が進行するのに伴って、第1ベース11は車両長手方向に沿って後方に移動する。第1アダプター14aが座屈によって圧縮すると、中間エネルギー吸収梁13bの先端が第1ベース11の後端面21に接触し、中間エネルギー吸収梁13bが座屈を開始する。
【0043】
その後、外側エネルギー吸収梁13a、中間エネルギー吸収梁13b及び第2アダプター14bの座屈が進行するのに伴って、第1ベース11は車両長手方向に沿ってさらに後方に移動する。そして、第2アダプター14bが座屈によって圧縮すると、内側エネルギー吸収梁13cの先端が第1ベース11の後端面に接触し、内側エネルギー吸収梁13cが座屈を開始する。
【0044】
すなわち、衝撃エネルギー吸収構造1において三種類のエネルギー吸収梁の座屈の開始時期は異なっており、外側エネルギー吸収梁13a、中間エネルギー吸収梁13b、内側エネルギー吸収梁13cの順に座屈を開始する。座屈開始時に発生する最大荷重は第2ベース12に伝達されるが、三種類の梁の座屈開始時期をずらすことによって、全てのエネルギー吸収梁からの最大荷重が第2ベース12に同時に伝わることを回避できる。
【0045】
また、それぞれのエネルギー吸収梁は、座屈開始以後、壁面が蛇腹状に変形する壁面座屈を規則的に繰り返す。壁面座屈に伴って発生する平均荷重は、壁面座屈が起こるタイミングがピークとなるように波形に変化する。三種類のエネルギー吸収梁の座屈開始時期がずれていることで、壁面座屈の起こるタイミングがずれ、平均荷重の波形もそれぞれのエネルギー吸収梁の間でずれる。これにより、全てのエネルギー吸収梁からの平均荷重のピークが第2ベース12に同時に伝わることを回避できる。また、波形のずれによって、ある梁から発生する平均荷重が大きいとき、別の梁から発生する平均荷重は小さい、という状況を常に作り出すことができるため複数のエネルギー吸収梁全体から発生する平均荷重の大きさを平準化することができる。
【0046】
以上のように、第1実施形態の衝撃エネルギー吸収構造1によると、三種類のエネルギー吸収梁13は長さが異なることで座屈開始時期がずれ、車体の台枠や構体にかかる最大荷重の低減及び平均荷重の平準化を行うことができる。このような構造を備えた鉄道車両100では、車体の荷重に対する耐久性を過剰に高める必要がなくなり、乗車スペースの確保や軽量化による燃費向上に寄与できる。
【0047】
また、全てのエネルギー吸収梁13の後端が第2ベース12の先端面22に支持されていることによって、座屈が進行して第1ベース11が車両長手方向に沿って後方に移動したときに、エネルギー吸収梁13が車両幅方向、上下方向、又はその両方にずれるのを防ぐことができる。これにより、エネルギー吸収梁13の座屈変形は車両長手方向に沿って進行するため、衝撃エネルギーを十分に吸収することができる。
【0048】
また、第1ベース11の後端面21及び第2ベース12の先端面22が平坦であることによって、2つのベース間の距離は車両幅方向において均一となる。そして、内側エネルギー吸収梁13cの先端と第1ベース11の後端面21とが接触して以降、全てのエネルギー吸収梁13の車両長手方向に沿った長さは2つのベース間の距離と実質的に同一となる。したがって、平均荷重を伴う壁面座屈が生じている場合において、全てのエネルギー吸収梁13の車両長手方向に沿った実質的な長さは同一となる。
【0049】
平均荷重の大きさはエネルギー吸収梁13の長さに依存するが、全ての梁の実質的な長さが同一であるため、全てのエネルギー吸収梁13から生じる平均荷重の最大値及び最小値、すなわち波形の振幅は等しくなる。つまり、第2ベース12にかかる平均荷重の大きさも、車両幅方向における位置に拘わらず同じになる。これにより、第2ベース12全体、ひいては車体全体としての荷重に対する耐久性を向上させることができる。
【0050】
また、アダプター14を、第1ベース11の後端面21と中間エネルギー吸収梁13b及び内側エネルギー吸収梁13cとの間に配置することで、障害物の衝突直後から衝撃エネルギーをアダプター14を介してそれぞれの梁に伝達することができる。すなわち、三種類のエネルギー吸収梁13の間で座屈開始時期をずらしつつ、衝撃エネルギー吸収の開始時期を揃えることができ、効率良く衝撃エネルギーを吸収できる衝撃エネルギー吸収構造1を提供することができる。
【0051】
また、2本の外側エネルギー吸収梁13a、2本の中間エネルギー吸収梁13b及び2本の内側エネルギー吸収梁13cは、それぞれが車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称に位置するように配置されている。これによって、エネルギー吸収梁13に吸収される衝撃エネルギーの大きさは、車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称となる。すなわち、第2ベース12及びその後方の車体にかかる衝撃エネルギーの大きさを、車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称とすることができ、耐衝撃性の優れた衝撃エネルギー吸収構造1を提供することができる。
【0052】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る衝撃エネルギー吸収構造の第2実施形態を説明する。なお、第1実施形態と同様のものに関しては、同符号で示し説明を省略する。図3に示すように、第2実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造101は、第1ベース31と、第2ベース12と、6本のエネルギー吸収梁33とを含んでいる。本実施形態において、第1ベース31及び第2ベース12の車両長手方向の座屈荷重と6本のエネルギー吸収梁33の車両長手方向の座屈荷重との関係は、第1実施形態と同じである。
【0053】
6本のエネルギー吸収梁33は、図3(a)に示すように、第1ベース31と第2ベース12との間において、車両幅方向に沿って並べられ且つそれぞれが車両長手方向に平行になるように配置されている。また、エネルギー吸収梁33には、外側エネルギー吸収梁33a、中間エネルギー吸収梁33b及び内側エネルギー吸収梁33cの三種類があり、それぞれ2本ずつ配置されている。6本のエネルギー吸収梁は、車両長手方向に沿った長さがすべて同じであり、中心線からの距離によって種類が分けられている。
【0054】
第1ベース31は、図3(b)に示すように、車両幅方向に延びて配置されており、その後端面121は、後端面121と同一平面上にある第1平面121aと、車両長手方向に直交する第2平面121b及び第3平面121cが形成された段差形状とを有している。第2平面121bは第1平面121aよりも車両長手方向の前方側に位置しており、さらに、第3平面121cは第2平面121bよりも車両長手方向の前方側に位置している。第2平面121bと中間エネルギー吸収梁33bとは、車両長手方向に延びた同一線上に位置しており、第3平面121cと内側エネルギー吸収梁33cとは、車両長手方向に延びた別の同一線上に位置している。
【0055】
外側エネルギー吸収梁33aの先端は、第1ベース31の第1平面121aに支持されている。また、図3(b)に示すように、第1ベース31の段差形状の部分を覆うように板40が配置されており、板40と第1平面121aとは、車両幅方向に延びた同一線上に位置している。そして、中間エネルギー吸収梁33b及び内側エネルギー吸収梁33cの先端は、板40に支持されている。
【0056】
板40の材質は、鉄道車両100の走行時において、エネルギー吸収梁33を支持することができ、且つ、車両長手方向に沿って力が加わると容易に破壊される強度を備えるものであれば特に限定されない。
なお、板40は配置されていなくてもよいが、この場合、中間エネルギー吸収梁33b及び内側エネルギー吸収梁33cは、後端のみが支持されている片持ち梁となる。
【0057】
続いて、障害物が鉄道車両100に衝突したときの、第2実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造101の動作について説明する。鉄道車両100の通常走行時、第2実施形態に係る衝撃エネルギー吸収構造101は図3(a)の状態となっている。
【0058】
鉄道車両100の正面に障害物が衝突すると、まず衝撃エネルギーが車両長手方向に沿って第1ベース31へ伝わる。続いて、衝突エネルギーは第1ベース31の後端面121aから外側エネルギー吸収梁33aの先端に伝わり、外側エネルギー吸収梁33aは車両長手方向に沿って座屈変形を開始する。このとき、中間エネルギー吸収梁33b及び内側エネルギー吸収梁33cの先端は板40に接触している。板40は、車両長手方向に沿って力が加わると容易に破壊される材質からなり、外側エネルギー吸収梁33aの座屈開始直後、速やかに破壊される。
【0059】
外側エネルギー吸収梁33aの座屈が進行するのに伴って、第1ベース31は車両長手方向に沿って後方に移動する。そして、中間エネルギー吸33bの先端が第1べース31の第2平面121bに接触すると、中間エネルギー吸収梁33bが座屈を開始する。
【0060】
その後、外側エネルギー吸収梁33a及び中間エネルギー吸収梁33bの座屈が進行するのに伴って、第1ベース31は車両長手方向に沿ってさらに後方に移動する。そして、内側エネルギー吸収梁33cの先端が第2ベース31の第3平面121cに接触すると、内側エネルギー吸収梁33cが座屈を開始する。
【0061】
以上のように、第2実施形態の衝撃エネルギー吸収構造101においても、第1実施形態と同様、三種類のエネルギー吸収梁33の座屈のタイミングをずらすことができ、車体の台枠や構体にかかる最大荷重の低減及び平均荷重の平準化を行うことができる。
【0062】
また、第1ベース31が段差形状を有しているため、全てのエネルギー吸収梁33の長さを同じにしつつ、三種類の間で座屈のタイミングをずらすことができる。そして、全てのエネルギー吸収梁33の車両長手方向に沿った長さを同一とすることで、衝突による衝撃エネルギーをエネルギー吸収梁33に均等に分散することができる。これによって、第2ベース12及びその後方の車体にかかる衝撃エネルギーは、車両幅方向のいずれの位置においても均一とすることができ、車体全体としての耐衝撃性を向上させることができる。
【0063】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0064】
例えば、第1実施形態において、複数のエネルギー吸収梁13の車両長手方向に沿った長さは、中心線側のエネルギー吸収梁13の長さが最も長く外側が最も短くなるように配置されていてもよい。この場合、障害物の衝突時、中心線側に配置されたエネルギー吸収梁13が先に座屈を開始する。
【0065】
また、第1実施形態において、アダプターは、エネルギー吸収梁の後端にのみ取り付けられてもよく、両端に取り付けられていてもよい。例えば、図4に示すように、変形例1に係る衝撃エネルギー吸収構造201は、中間エネルギー吸収梁53bの両端と第1ベース11及び第2ベース12との間にそれぞれ配置された第1アダプター54a及び第2アダプター54bと、内側エネルギー吸収梁53cの両端と第1ベース11及び第2ベースとの間にそれぞれ配置された第3アダプター54c及び第4アダプター54dとを含む。但し、アダプター54を内側エネルギー吸収梁53の両側に配置させる場合、製造に手間がかかるため、片側のみ配置することが好ましい。
【0066】
また、アダプター14は全てのエネルギー吸収梁13の先端又は後端に取り付けられていてもよいが、変形例1の場合と同様、製造に手間がかかり、衝撃エネルギー吸収構造としての耐衝撃性を低下させるため、少なくとも1つのエネルギー吸収梁13の両端は第1ベース11及び第2ベース12に直接支持されていることが好ましい。
【0067】
また、第1実施形態において、アダプター14は配置されていなくてもよい。但し、アダプター14が配置されていない場合、衝突時の衝撃エネルギーを同時に全てのエネルギー吸収梁13に伝達することができない。これにより、特に衝突直後において、第1エネルギー吸収梁13aのみで衝撃エネルギーの吸収を行わなければならないため、衝撃エネルギーの吸収効率が悪い。よって、アダプター14は配置されていることが好ましい。
【0068】
また、アダプター14が配置されていない場合において、エネルギー吸収梁13の後端が第2ベース12から離隔していてもよい。但し、この場合、座屈が進行して第1ベース11が車両長手方向に沿って後方に移動すると、後端が固定されていないエネルギー吸収梁は車両幅方向、上下方向、又はその両方にずれてしまうおそれがある。そして、エネルギー吸収梁が車両長手方向に沿った軸から傾いた状態で座屈変形が進行する場合、衝撃エネルギーを十分に吸収することができない。したがって、複数のエネルギー吸収梁13の後端は全て第2ベース12に支持されていることが好ましい。
【0069】
また、第1ベースの後端面は第2実施形態とは異なる段差形状を有していてもよい。例えば、図5に示すように、変形例2に係る衝撃エネルギー吸収構造301において、第1ベース61の後端面221は、車両長手方向に直交する第1平面221a及び第2平面221bと、後端面221と同一平面上にある第3平面221cとを有している。第2平面221bは第3平面221cよりも車両長手方向の前方側に位置しており、さらに、第1平面221aは第2平面221bよりも車両長手方向の前方側に位置している。第1平面221aと外側エネルギー吸収梁63aとは、車両長手方向に延びた同一線上に位置しており、第2平面221bと中間エネルギー吸収梁63bとは、車両長手方向に延びた別の同一線上に位置している。内側エネルギー吸収梁63cの先端は第3平面221cに支持されている。そして、全てのエネルギー吸収梁221の長さは同じである。また、第2実施形態と同様、第1ベース61の段差形状の部分を覆うように板240が配置されている。
なお、第2実施形態及び変形例2の段差形状は、第2ベース12が有していてもよい。
【0070】
また、実施形態及び変形例において、6本のエネルギー吸収梁が配置されているが、7本以上でもよく、5本以下でもよい。一般に、エネルギー吸収梁の配置本数が多いほど衝撃エネルギーの吸収性は向上するが、第2ベースにかかる車両長手方向の座屈荷重の総量は大きくなる。よって、優先させたい性能に応じて最適な本数が選択される。また、図2及び図4に示した例において、複数のエネルギー吸収梁には長さのみが互いに異なる三種類のエネルギー吸収梁が含まれているが、複数のエネルギー吸収梁には長さのみが互いに異なる二種類又は四種類以上のエネルギー吸収梁が含まれていてもよい。また、複数のエネルギー吸収梁には、長さのみが互いに異なるのではなく、長さと車両幅方向に切断した断面形状とが互いに異なる二種類以上のエネルギー吸収梁が含まれていてもよい。さらに、複数のエネルギー吸収梁には、材質が互いに異なる二種類以上のエネルギー吸収梁が含まれていてもよい。
【0071】
また、複数のエネルギー吸収梁13は、車両長手方向に沿った長さが同じもの同士が、車両長手方向に沿って延びる中心線に対して非対称に位置するように配置されていてもよい。但し、この場合、エネルギー吸収梁13が吸収する衝撃エネルギーの大きさは中心線に対して非対象となる。そして、第2ベース及びその後方の車体にかかる衝撃エネルギーは車両幅方向の一方の側に偏って大きくなるため、車体が変形しやすくなり、衝撃エネルギー吸収構造として好ましくない。したがって、複数のエネルギー吸収梁13は、車両長手方向に沿った長さが同じもの同士が、車両長手方向に沿って延びる中心線に対して対称に位置するように配置されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0072】
1,101,201,301 衝撃エネルギー吸収構造
11,31,61 第1ベース
12 第2ベース
13,33,53,63 エネルギー吸収梁
14,54 アダプター
40,240 板
100 鉄道車両
図1
図2
図3
図4
図5