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  • 特許-焼却主灰の処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】焼却主灰の処理装置
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/30 20220101AFI20220920BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20220920BHJP
   B03C 1/22 20060101ALI20220920BHJP
   B03C 1/247 20060101ALI20220920BHJP
   B07B 9/00 20060101ALI20220920BHJP
   C04B 7/38 20060101ALI20220920BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20220920BHJP
【FI】
B09B3/30 ZAB
B03C1/00 B
B03C1/22
B03C1/247
B07B9/00 A
C04B7/38
B09B101:30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019117151
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021003661
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 洸
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】武藤 恭宗
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-120921(JP,A)
【文献】特開2008-178808(JP,A)
【文献】特開2017-137224(JP,A)
【文献】特開平09-236224(JP,A)
【文献】特開2003-236837(JP,A)
【文献】特開2016-089196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B3
B09B101
B03C1
B07B9
C04B7
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却主灰を磁着物と非磁着物とに分離する磁力選別機と、
該磁力選別機から排出される磁着物を軽産物と重産物とに分離する風力選別機とを備え、該風力選別機は、縦型のジグザグ風力選別機であることを特徴とする焼却主灰の処理装置。
【請求項2】
前記磁力選別機は、磁束密度が1500ガウス以上5000ガウス以下の磁石を有するドラム式磁力選別機であることを特徴とする請求項1に記載の焼却主灰の処理装置。
【請求項3】
前記磁力選別機と前記風力選別機の間に、前記磁力選別機で分離された磁着物を乾燥させる乾燥機を備え、
前記風力選別機は、該乾燥機で乾燥された磁着物を軽産物と重産物とに分離することを特徴とする請求項1又に記載の焼却主灰の処理装置。
【請求項4】
前記磁力選別機の前段に、1000ガウス以上2000ガウス以下の磁束密度の磁石を有する吊下げ式磁力選別機を備え、
前記磁力選別機(吊下げ式磁力選別機ではない磁力選別機)は、該吊下げ式磁力選別機で分離された非磁着物を磁着物と非磁着物とに分離することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の焼却主灰の処理装置。
【請求項5】
前記吊下げ式磁力選別機の後段に、該吊下げ式磁力選別機で分離された非磁着物を篩上物と篩下物とに分離する篩選別機を備え、
前記磁力選別機(吊下げ式磁力選別機ではない磁力選別機)は、該篩選別機で分離された篩下物を磁着物と非磁着物とに分離することを特徴とする請求項に記載の焼却主灰の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ焼却炉等で発生した焼却主灰をセメント原料及び精錬用原料として有効利用するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみなどの廃棄物は焼却処理され、焼却によって生ずる焼却灰は、従来埋立処分場で埋立処分されている。しかし、近年では、埋立処分場の枯渇のおそれに鑑み、焼却灰を有効利用する試みがなされている。特に、天然原料の代替としてセメント原料へ有効利用する試みが積極的になされている。
【0003】
一方、都市ごみ焼却灰にはクロム(Cr)などの忌避成分や銅(Cu)などのセメント製造に不要な重金属も含まれる。特に焼却主灰のクロム濃度が高い場合には、セメント原料としての使用量を低下させざるを得ない場合があるなど、焼却主灰のセメント原料としての利用が事実上制限されていた。そこで、安定して焼却主灰をセメント資源化するためには、クロムなどの忌避成分及びその他不要成分を前処理により低減することが好ましい。
【0004】
都市ごみ主灰からの重金属の分離技術として、例えば特許文献1には、焼却主灰を磁力選別により磁着物と非磁着物とに分離し、分離して得られた非磁着物をセメント焼成装置においてクロム分を低減させたセメント原料として用いることが記載されている。
【0005】
上記発明は有効であるが、焼却主灰を磁力選別して得られた磁着物、特にドラム式や、ロール式磁選機で回収される細粒物には灰が付着しているため、この灰によって磁着物の品位が低下し、磁着物を精錬用原料として利用し難いという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2には、不純物の含有量が少なく、鉄の含有量が多く、再資源化が可能な鉄資源を効率的に回収するため、焼却残渣から鉄くずを磁力選別し、磁力選別した鉄くずに高圧の水を噴射し、鉄くずに付着している不純物を除去する技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、高速旋回する多段方式の鎖の打撃によって被破砕物を破砕処理する縦型円筒状の破砕室を有し、この破砕室の下部に熱風又は空気を旋回流として供給する鎖打撃式破砕乾燥機を用い、磁選機で回収した磁着物を乾式洗浄する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-137224号公報
【文献】特開2008-1931号公報
【文献】特開2008-178808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献2に記載の発明は、高圧の水を用いて湿式洗浄を行うため、水処理設備が必要になり、特許文献3に記載の発明は、磁着物の破砕による破砕乾燥機の磨耗が激しく、定期的なメンテナンスが必要になるため、いずれも処理コストが高くなるという問題があった。
【0010】
本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、処理コストを低く抑えながら、焼却主灰をセメント原料及び精錬用原料として有効利用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、焼却主灰の処理装置であって、焼却主灰を磁着物と非磁着物とに分離する磁力選別機と、該磁力選別機から排出される磁着物を軽産物と重産物とに分離する風力選別機とを備え、該風力選別機は、縦型のジグザグ風力選別機であることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、磁力選別機の後段の風力選別機により磁着物を軽産物と重産物とに分離するため、湿式洗浄機や破砕乾燥機を用いずに、処理コストを低く抑えながら、焼却主灰をセメント原料及び精錬用原料として有効利用することができる。
【0013】
上記焼却主灰の処理装置において、前記磁力選別機として、磁束密度が1500ガウス以上5000ガウス以下の磁石を有するドラム式磁力選別機を用いることができる
【0014】
上記焼却主灰の処理装置において、前記磁力選別機と前記風力選別機の間に、前記磁力選別機で分離された磁着物を乾燥させる乾燥機を設け、前記風力選別機は、該乾燥機で乾燥された磁着物を軽産物と重産物とに分離することで、風力選別機の分離効率を高めることができる。
【0015】
上記焼却主灰の処理装置において、前記磁力選別機の前段に、1000ガウス以上2000ガウス以下の磁束密度の磁石を有する吊下げ式磁力選別機を設け、前記磁力選別機(吊下げ式磁力選別機ではない磁力選別機)は、該吊下げ式磁力選別機で分離された非磁着物を磁着物と非磁着物とに分離するように構成することで、比較的大きな磁着物を予め除去し、比較的大きな磁着物が存在することでその他の非磁着物が後段の磁力選別機で比較的大きな磁着物に巻き込まれる形で磁着物側に回収され難くなるおそれを回避し、磁着物の品位やクロムの分離効率を高めることができる。
【0016】
上記焼却主灰の処理装置において、前記吊下げ式磁力選別機の後段に、該吊下げ式磁力選別機で分離された非磁着物を篩上物と篩下物とに分離する篩選別機を設け、前記磁力選別機(吊下げ式磁力選別機ではない磁力選別機)は、該篩選別機で分離された篩下物を磁着物と非磁着物とに分離することで、磁力選別機の前段で比較的大きな物を予め回収し、磁着物の品位やクロムの分離効率をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、処理コストを低く抑えながら、焼却主灰をセメント原料及び精錬用原料として有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る焼却主灰の処理装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る焼却主灰の処理装置の一実施の形態を示し、この処理装置1は、焼却主灰を磁力選別する磁力選別機(以下「磁選機」という。)2と、磁選機2によって分離された非磁着物Aを篩選別する篩選別機3と、篩選別機3によって分離された篩下物を磁力選別する磁選機4と、磁選機4によって分離された磁着物Bを乾燥させる乾燥機5と、乾燥機5から排出される乾燥物を軽産物と重産物とに分離する風力選別機6とを備える。
【0022】
磁選機2は、焼却主灰に含まれる比較的大きな磁着物Aを予め除去し、後段での磁力選別等を効果的に行うために設けられ、1000ガウス以上2000ガウス以下の磁束密度を有する磁石を備える吊下げ式磁力選別機等を用いることができる。
【0023】
篩選別機3も、磁選機2と同様に、焼却主灰に含まれる比較的大きな物を予め除去し、後段での磁力選別等を効果的に行うために設けられ、篩目が25mm以上のものを用いることができる。
【0024】
磁選機4は、篩選別機3の篩下物から磁着物Bを回収するために設けられ、1500ガウス以上5000ガウス以下の磁束密度の磁石を有するドラム式磁力選別機を用いることができる。
【0025】
乾燥機5は、磁選機4によって分離された磁着物Bを乾燥させて風力選別機6の分離効率を高めるために設けられ、ロータリードライヤ等を用いることができる。
【0026】
風力選別機6は、乾燥機5による乾燥物を軽産物と重産物とに分離するために設けられ、選別精度の高い縦型のジグザグ風力選別機を用いることができる。
【0027】
次に、上記構成を有する処理装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。
【0028】
受け入れた焼却主灰に含まれる比較的大きな磁着物Aを磁選機2で除去し、磁選機2によって選別された非磁着物Aを篩選別機3で篩い、比較的大きな物を篩上物として除去する。篩上物は、スクラップとして再資源化することができる。篩選別機3の篩下物を磁選機4に供給して磁着物Bと非磁着物Bとに分離し、非磁着物Bをセメント原料として利用する。
【0029】
さらに、磁着物Bを乾燥機5に供給し、水分が15%以下程度になるまで乾燥させ、乾燥機による乾燥物を風力選別機6に供給し、軽産物及び重産物に分離し、重産物を精錬用原料として利用する。
【0030】
上述のように、本実施の形態によれば、湿式洗浄機や破砕機を用いずに、磁着物Bをセメント原料と精錬用原料に効率よく分離して有効利用することができる。
【0031】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0032】
都市ごみ焼却主灰(原灰)204kgを上記処理装置1で処理した。本実施例では磁選機2は1000ガウスの磁石密度を有する磁石を備える吊下げ式磁力選別機等を用いた。篩選別機3は、篩目を35mmに設定した。磁選機4は1500ガウスの磁石密度を有する磁石を備えるドラム式磁力選別機等を用いた。風力選別機6はジグザグ式風力選別機を用いた。焼却主灰及び各工程での分離物の重量割合、水分、クロム濃度(化学組成)、クロム含有量及び分配率を表1に示す。重量割合は原灰の重量を100としたときの各分離物の重量割合を示した。水分は105℃にて重量が恒量となるまで加熱した際の減少量から算出した。クロム濃度はマット融解処理を行った後100μm以下まで微粉砕した試料に対し、吸光光度法又はICP発光分光法によって定量した。クロム分配率は各分離物の重量割合とクロム濃度分析結果から推定した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1より、セメント原料として利用する非磁着物Bのクロム分配率は、57.7%であり、焼却主灰に含まれるクロムの1/2程度を除去でき、焼却主灰から効率的にクロムを除去できることが判る。
【0035】
また、磁着物Bを風力選別機6の風速を変えて風力選別した。風力選別機6の風力選別による重産物中の磁着物と灰(軽産物)の重量割合を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2より、風速2m/s以上の条件で風力選別を行うことにより、磁着物中に10%程度付着していた灰を5%以下まで低減できることが分かる。また、風速が高い程、灰の除去率が高まることが分かる。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、クロム含有率の低い非磁着物Bをセメント原料として有効利用することができ、クリンカのクロム含有率を低く維持することができる。また、磁着物含有率の高い重産物を精錬用原料として有効利用することができる。
【0039】
尚、上記実施の形態では、焼却主灰に含まれる比較的大きな磁着物等を除去するため、磁選機2及び篩選別機3を設けたが、受け入れた焼却主灰の性状等によっては、これらを省略したり、いずれか一方のみを用いることができる。 また、磁選機2及び篩選別機3の種類、磁石の磁束密度、篩目の大きさについても、上記のものに限定されない。
【0040】
さらに、磁選機4の種類、磁石の磁束密度についても上記のものに限定されない。また、乾燥機5を設けることで後段の風力選別機6の分離効率を高めることができて好ましいが、磁着物Bの水分が既に15%以下程度の場合には、これを省略することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 焼却主灰の処理装置
2 磁選機
3 篩選別機
4 磁選機
5 乾燥機
6 風力選別機
図1