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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】金属/金属イオン電池用のPVDF
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20220920BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220920BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220920BHJP
【FI】
C08L27/16
H01M4/62 Z
H01M4/139
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019520570
(86)(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017076536
(87)【国際公開番号】W WO2018073277
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】16194835.1
(32)【優先日】2016-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ, リッカルド
(72)【発明者】
【氏名】スプレアフィコ, マルコ アルベールト
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-525124(JP,A)
【文献】特表2014-502650(JP,A)
【文献】特開2017-117784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物(C)であって、
- ポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも50モル%の量でフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、およびポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して0.5モル%~1モル%の量で式(II):
(式中:
- 互いに等しいかもしくは異なる、R、RおよびRは独立して、水素原子およびC~C炭化水素基から選択される)
の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を含む少なくとも1つの官能性含水素モノマーに由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つの半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F1)]であって、
前記ポリマー(F1)が、2.5dl/gより高い、そして5dl/gより低い25℃でのジメチルホルムアミド中で測定される固有粘度を有するポリマー(F1)と;
- ポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも50モル%の量でフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、およびポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して2.5モル%~10モル%の量でフッ化ビニリデンとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマー(FM)に由来する繰り返し単位を含む、ポリマー(F1)とは異なる、少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F2)]であって、
前記ポリマー(F2)が、1.7dl/gより低い、25℃でのジメチルホルムアミド中で測定される固有粘度を有するポリマー(F2)と
を含み、ポリマー(F1)が組成物(C)の総重量に対して少なくとも10重量%を形成し、ポリマー(F2)が組成物(C)の総重量に対して最大でも90重量%を形成する組成物(C)。
【請求項2】
式(II)の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)が、アクリル酸、(メタ)アクリル酸およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
ポリマー(F1)が、
- 少なくとも50モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.5モル%~1モル%の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)
に由来する繰り返し単位を含む、請求項1または2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
フッ素化モノマー(FM)が、
~Cパーフルオロオレフィン;
~C含水素フルオロオレフィン;
- 式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
ロロ-および/またはブロモ-および/またはヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-もしくはパーフルオロアルキルである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF=CFOX(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、Xは、C~C12アルキル基、C~C12オキシアルキル基または、1個もしくは複数個のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基である);
- 式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、または1個もしくは複数個のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル基もしくは(パー)フルオロアルキル基、C~C12オキシアルキル基、または1個もしくは複数個のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、そしてYは、その酸、酸ハライドまたは塩の形態での、カルボン酸またはスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
- フルオロジオキソール
からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項5】
フッ素化モノマー(FM)がヘキサフルオロプロピレン(HFP)である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
フッ素化モノマー(FM)がクロロトリフルオロエチレンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
ポリマー(F1)が、組成物(C)の総重量に対して少なくとも25重量%を形成し、ポリマー(F2)が、組成物(C)の総重量に対して最大でも75重量%を形成する、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
電極の製造方法であって、工程:
i.2つの表面を有する金属基材を提供する工程と;
ii.非水性溶媒を含む液体媒体(L1)との混合物中の請求項1~のいずれか一項に記載の組成物(C)を提供する工程と;
iii.
- 工程ii)の液体組成物、および
- 少なくとも1つの電気活性化合物
を含む電極スラリー混合物を形成する工程と;
iv.工程iの金属基材の少なくとも1つの表面を、工程iii.の電極スラリー混合物でコーティングする工程と;
v.工程iv.において得られたコーティングされた金属基材を乾燥させる工程と
を含む方法。
【請求項9】
複合セパレーターの製造方法であって、前記方法が、次の工程:
I.少なくとも1つの表面を有する多孔質基材を提供する工程と;
II.請求項1~のいずれか一項に記載の組成物(C)を提供する工程と;
III.前記組成物(C)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上へ塗布してコーティング組成物層を提供する工程と;
IV.工程III.において得られたコーティング組成物層を、少なくとも60℃の温度で乾燥させる工程と
を含む方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物(C)を含む電極。
【請求項11】
請求項1~のいずれか一項に記載の組成物(C)を含む複合セパレーター。
【請求項12】
請求項10に記載の電極を含む電気化学デバイス。
【請求項13】
請求項11に記載の複合セパレーターを含む電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月20日出願の欧州特許出願第16194835.1号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、親水性(メタ)アクリルモノマーおよびフルオロモノマー組成物に由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデンコポリマーに、ならびに膜セパレーターおよび電極バインダーなどの、電池構成要素の製造でのそれらの使用に、前記電池構成要素におよび前記構成要素を含む電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
フルオロポリマーが電極の製造用のバインダーとして、および二次電池などの電気化学デバイスでの使用のための複合セパレーターの製造用のセパレーターコーティングとして好適であることは当技術分野において公知である。
【0004】
一般に、正極かまたは負極かのいずれかの製造技術およびまたセパレーターのコーティング技術は、フルオロポリマーを溶解させるための有機溶媒の使用を伴う。
【0005】
電極の製造の場合に、有機溶媒の役割は典型的には、有機溶媒の蒸発時に電気活性材料粒子を互いにおよび金属コレクターに結合させるためにフルオロポリマーを溶解させることである。
【0006】
フルオロポリマーバインダーは、電気活性材料粒子を、これらの粒子が充電および放電サイクル中の大量膨張および収縮に化学的に耐えることができるように互いにおよび金属コレクターに適切に結合させるべきである。
【0007】
セパレーターの製造において、前駆体溶液は典型的には、好適な溶媒中のフルオロポリマーバインダーの溶液に分散した固体粒子材料を含むインクまたはペーストとして配合される。
【0008】
そのように得られたインク溶液は通常、コーティングされていない不活性な支持体の表面上へ配置され、溶媒が次に、溶液層から除去されて不活性支持体に接着するセパレーター層を堆積させる。溶剤系は典型的には、ポリマーバインダーを分散させるために使用され、それは一般に、N-メチルピロリドン(NMP)またはN-メチルピロリドンと、アセトン、プロピルアセテート、メチルエチルケトンおよびエチルアセテートなどの希釈溶媒との混合物を含む。
【0009】
PVDFは、電極バインダーにおいて最も広く使用されるフルオロポリマーである。例えば、米国特許出願公開第2002/0197536号明細書(SAMSUNG SDI CO.LTD.)2002年12月26日は、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、またはアクリル酸およびマレイン酸のモノアルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1つの化合物の繰り返し単位をさらに含むコポリマーを含む、リチウム電池での使用のためのポリマー電解質を開示している。
【0010】
電極の良好な性能を確実にするための要件は、電流コレクターへの電極の良好な接着および結果として生じた電極の良好な可撓性である。
【0011】
同様に、不活性支持体上へのコーティングの良好な接着および良好な可撓性を有するセパレーターは、良好な性能を確実にする。
【0012】
これは、電気化学デバイス構成部品が電池動作を保証するための優れた接着を維持しながら曲げに耐えることができなければならない、可撓性電池などの、用途において特に重要である。
【0013】
電流コレクター上に堆積した良品質電極を得るためには、低粘度電極スラリーが望ましい。これは、製造プロセスをより容易にする。
【発明の概要】
【0014】
意外にも、上記の望ましい特性を持った電極およびセパレーターは、2つの独特の特性を有する少なくとも2つのフルオロポリマーの組み合わせを使用することによって好適にも提供されることが今見いだされた。
【0015】
第一に、本発明は、
- ポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも50モル%の量でフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、およびポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも0.1モル%、好ましくは少なくとも0.3モル%、さらにより好ましくは少なくとも0.5モル%、そして5モル%以下の量で式(I):
(式中:
- 互いに等しいかもしくは異なる、R、RおよびRは独立して、水素原子およびC~C炭化水素基から選択され、
- ROHは、水素原子または少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)
の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む少なくとも1つの半結晶性フルオロポリマー[ポリマー(F1)]であって、
前記ポリマー(F1)が、1.4dl/gより高く、好ましくは2dl/gより高く、さらにより好ましくは2.5dl/gより高く、そして5dl/gより低い25℃でのジメチルホルムアミド中で測定される固有粘度を有するポリマー(F1)と;
- ポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも50モル%の量でフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位、およびポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して少なくとも2.5モル%、好ましくは少なくとも4.0モル%、さらにより好ましくは少なくとも6モル%の量でフッ化ビニリデンとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマー(FM)に由来する繰り返し単位を含む、(F1)とは異なる、少なくとも1つのフルオロポリマー[ポリマー(F2)]と
を含む組成物(C)であって、
ポリマー(F1)が組成物(C)の総重量で割って少なくとも10重量%を形成し、ポリマー(F2)が組成物(C)の総重量で割って最大でも90重量%を形成する組成物(C)に関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、上で詳述されたような組成物(C)の調製方法を提供する。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、工程:
i.2つの表面を有する金属基材を提供する工程と;
ii.非水性溶媒を含む液体媒体(L1)との混合物中に少なくとも1つのポリマー(F1)および少なくとも1つのポリマー(F2)を含む組成物(C)を提供する工程と;
iii.
- 工程ii)の液体組成物、および
- 少なくとも1つの電気活性化合物
を含む電極スラリー混合物を形成する工程と;
iv.工程(i)の金属基材の少なくとも1つの表面を、工程iii.の電極スラリー混合物でコーティングする工程と;
v.工程iv.において得られたコーティングされた金属基材を乾燥させる工程と
を含む電極の製造方法を提供する。
【0018】
さらに別の態様では、本発明は、電気化学デバイスでの使用のためにとりわけ好適な、複合セパレーターの製造方法であって、前記方法が、次の工程:
I.少なくとも1つの表面を有する多孔質基材を提供する工程と;
II.上に定義されたような、組成物(C)を提供する工程と;
III.前記組成物(C)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上へ塗布してコーティング組成物層を提供する工程と;
IV.工程III.において得られたコーティング組成物層を少なくとも60℃の温度で乾燥させる工程と
を含む方法を提供する。
【0019】
本発明は、上に定義されたような組成物(C)を含む、電気化学デバイス用の電極およびセパレーター、ならびにそれらを含む電気化学デバイスをさらに提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願人は意外にも、上に詳述されたような組成物(C)の使用によって製造された電気化学デバイス構成部品が、金属電流コレクターへのおよびセパレーターへの優れた接着性を維持しながら改善された可撓性を有することを見いだした。
【0021】
さらに、本発明の組成物を含む電極スラリー混合物は、半結晶性フルオロポリマーを専ら含む組成物の使用によって調製されたスラリーと比べるとより低い粘度で特徴付けられ、それは、電流コレクターのコーティングをより容易にする。
【0022】
特に明記しない限り、本発明との関連で、組成物中の成分の量は、100を乗じた、成分の重量と組成物の総重量との比(また:「重量%」)として示される。
【0023】
本明細書で用いるところでは、用語「半結晶性」は、DSC分析でガラス転移温度に加えて、少なくとも1つの結晶融点を有するフルオロポリマーを意味する。本発明の目的のためには、半結晶性フルオロポリマーは、ASTM D3418-08に従って測定されるように、10~90J/gの、好ましくは30~80J/gの、より好ましくは35~75J/gの融解熱を有するフルオロポリマーを意味することを本明細書では意図する。
【0024】
本明細書で用いるところでは、用語「接着する」および「接着」は、例えば、ASTM D3359、試験方法Bに従ったクロスカット試験において5B~3Bとして分類される、それらの接触表面によって2つの層が互いに永久的に結びついていることを示す。
【0025】
本明細書で用いるところでは、用語「電極」は、一般にポリマー材料から形成される、バインダーと、電気活性化合物とを含む層を示す。
【0026】
本発明の目的のためには、用語「電気活性化合物」は、電気化学デバイスの充電段階および放電段階中にアルカリもしくはアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れるまたは挿入する、およびそれから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。電気活性化合物は好ましくは、リチウムイオンを組み入れるまたは挿入する、および放出することができる。
【0027】
用語「セパレーター」とは、電気化学デバイスにおいて異極性の電極を電気的におよび物理的に分離し、そしてそれらの間に流れるイオンに対して透過性である多孔質ポリマー材料を意味することが本明細書では意図される。
【0028】
用語「電気化学デバイス」とは、正極、負極および液体電解質を含む電気化学電池であって、単層もしくは多層セパレーターが前記電極の1つの少なくとも1つの表面に接着している電気化学電池を意味することが本明細書では意図される。
【0029】
好適な電気化学デバイスの非限定的な例としては、とりわけ、二次電池、特に、リチウムイオン電池などのアルカリもしくはアルカリ土類二次電池、ならびにキャパシタ、特にリチウムイオン系キャパシタおよび電気二重層キャパシタ(「スーパーキャパシタ」)が挙げられる。
【0030】
本発明の目的のためには、「二次電池」とは、再充電可能な電池を意味することが意図される。二次電池の非限定的な例としては、とりわけ、アルカリもしくはアルカリ土類二次電池が挙げられる。
【0031】
用語「二フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位」(また、フッ化ビニリデン、1,1-ジフルオロエチレン、VDFとして一般に示される)とは、式(I):
CF=CHの繰り返し単位を意味することを意図する。
【0032】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は好ましくは、以下の式(II):
(式中、互いに等しいかもしくは異なる、R、RおよびRのそれぞれは独立して、水素原子またはC~C炭化水素基である)
に従う。
【0033】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例としては、とりわけ:
- アクリル酸(AA)、
- (メタ)アクリル酸、
- 式:
のヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEA)、
- 式:
の2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレート、
およびそれらの混合物
が挙げられる。
【0034】
さらにより好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、アクリル酸(AA)である。
【0035】
用語「フッ素化モノマー(FM)」とは、少なくとも1個のフッ素原子を含むエチレン性不飽和モノマーを意味することが本明細書では意図される。
【0036】
本文の残りにおいて、表現「フッ素化モノマー」は、本発明の目的のためには、複数形および単数形の両方で、すなわち、それらは、上に定義されたような1つまたは2つ以上のフッ素化モノマーの両方を意味すると理解される。
【0037】
フッ素化モノマー(FM)が少なくとも1個の水素原子を含む場合、それは、水素含有フッ素化モノマーと称される。
【0038】
フッ素化モノマー(FM)が水素原子を含まない場合、それは、パー(ハロ)フッ素化モノマーと称される。
【0039】
フッ素化モノマー(FM)は、1個もしくは複数個の他のハロゲン原子(Cl、Br、I)をさらに含んでもよい。
【0040】
好適なフッ素化モノマー(FM)の非限定的な例としては、とりわけ、下記:
- テトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC~Cパーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレンおよびトリフルオロエチレンなどのC~C含水素フルオロオレフィン;
- 式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
- クロロトリフルオロエチレンなどのクロロ-および/またはブロモ-および/またはヨード-C~Cフルオロオレフィン;
- 式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル、例えば、CF、C、Cである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF=CFOX(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、Xは、C~C12アルキル基、C~C12オキシアルキル基または、パーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基など、1個もしくは複数個のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基である);
- 式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~Cフルオロ-もしくはパーフルオロアルキル基、例えばCF、C、C、または-C-O-CFなどの1個もしくは複数個のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル基もしくは(パー)フルオロアルキル基、C~C12オキシアルキル基、または1個もしくは複数個のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、そしてYは、その酸、酸ハライドまたは塩の形態での、カルボン酸またはスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
- フルオロジオキソール、好ましくはパーフルオロジオキソール
が挙げられる。
【0041】
フッ素化モノマー(FM)は好ましくは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)である。
【0042】
本発明者らは、ポリマー(F1)が線状の半結晶性コポリマーである場合に最良の結果が得られることを見いだした。
【0043】
用語「線状」は、(VDF)モノマーおよび(MA)モノマーからの繰り返し単位の実質的に線状の配列でできたコポリマーを意味することを意図し;ポリマー(F1)はしたがって、グラフト化および櫛様ポリマーとは区別できる。
【0044】
ポリマー(F1)中の少なくとも1つの官能性含水素モノマーに由来する繰り返し単位のモル百分率の測定は、任意の好適な方法によって行うことができる。とりわけ、酸-塩基滴定方法またはNMR方法に言及することができる。
【0045】
ポリマー(F1)はより好ましくは、
- 少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは少なくとも85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)、
- 0.1モル%~5モル%、好ましくは0.3モル%~1.5モル%、より好ましくは0.5モル%~1モル%の少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)
に由来する繰り返し単位を含む。
【0046】
ポリマー(F1)は典型的には、少なくとも1つの二フッ化ビニリデンモノマーと、少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマーとの乳化重合または懸濁重合によって得られる。
【0047】
ポリマー(F2)は典型的には、少なくとも1つの二フッ化ビニリデンモノマーと、少なくとも1つのフッ素化モノマー(FM)との乳化重合または懸濁重合によって得られる。
【0048】
この場合にはポリマー(F2)は、少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含有し、前記繰り返し単位(MA)は好ましくは、ポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して、少なくとも0.05モル%、より好ましくは少なくとも0.1モル%、さらにより好ましくは、少なくとも0.2モル%、そして最大でも10モル%、より好ましくは最大でも7.5モル%、さらにより好ましくは最大でも3モル%の量で含まれる。
【0049】
本発明者らは、ポリマー(F1)のポリフッ化ビニリデン骨格内のモノマー(MA)の実質的にランダムな分布が、フッ化ビニリデンポリマー他の傑出した特性、例えば熱安定性および機械的特性を損なうことなく、組成物中のモノマー(MA)のレベルが低くても、結果として生じるコポリマーの接着性および/または親水性挙動の両方へのモノマー(MA)の影響を有利にも最大にすることを見いだした。
【0050】
(FM)およびVDFのとは異なる少なくとも別のフッ素化モノマー(FM2)が、ポリマー(F1)および(F2)中に含められてもよい。
【0051】
そのようなモノマー(FM2)は、それらに限定されないが、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、およびフルオロアルキルビニルエーテル、ならびにそれらの混合物などの、フッ化ビニリデンと共重合可能な少なくとも1つの従来使用されているモノマーを含むことができる。
【0052】
ポリマー(F1)中のおよびポリマー(F2)中のモノマー(FM2)の量は、それぞれ、ポリマー(F1)またはポリマー(F2)中の繰り返し単位の総モル数で割って好ましくは10モル%未満、より好ましくは5モル%未満、または2モル%未満である。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、(F1)は、式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマーの含有量が、その中のポリマー(F1)の繰り返し単位の総モルに対して0.3~1.5モル%の量に含まれるVDF-MAのコポリマーである。
【0054】
より好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、式(II)の親水性(メタ)アクリルモノマーであり、さらにより好ましくはそれはアクリル酸(AA)であり、(F1)はVDF-AAコポリマーである。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、(F2)は、VDFとフッ素化モノマーとのコポリマーであり、ここで、フッ素化モノマーは、ポリマー(F2)の繰り返し単位の総モルに対して2.5モル%~10モル%の量で含まれる。
【0056】
より好ましくは、フッ素化モノマー(FM)はヘキサフルオロプロピレン(HFP)であり、(F2)はVDF-HFPコポリマーである。
【0057】
組成物(C)中でポリマー(F1)は好ましくは、組成物(C)の総重量で割って少なくとも25重量%を形成し、ポリマー(F2)は、組成物(C)の総重量で割って最大でも75重量%を形成する。
【0058】
組成物(C)は典型的には、粉末の形態で提供される。
【0059】
別の態様では、本発明は、上に詳述されたような組成物(C)の調製方法であって、前記方法が、少なくとも1つのポリマー(F1)を少なくとも1つのポリマー(F2)を混合する工程を含む方法を提供する。
【0060】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー(F2)は、ポリマー(F1)の固有粘度より低く、好ましくは2dl/gより低く、より好ましくは1.7dl/gより低い25℃でのジメチルホルムアミド中で測定される固有粘度を有する。
【0061】
さらなる態様では、本発明は、工程:
i.2つの表面を有する金属基材を提供する工程と;
ii.非水性溶媒を含む液体媒体(L1)との混合物中に少なくとも1つのポリマー(F1)および少なくとも1つのポリマー(F2)を含む組成物(C)を提供する工程と;
iii.
- 工程ii)の液体組成物、および
- 少なくとも1つの電気活性化合物
を含む電極スラリー混合物を形成する工程と;
iv.工程(ii)の金属基材の少なくとも1つの表面を、工程iii.の電極スラリー混合物でコーティングする工程と;
v.工程iv.において得られたコーティングされた金属基材を乾燥させる工程と
を含む電極の製造方法を提供する。
【0062】
金属基材は一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたは銀などの金属でできた箔、メッシュまたはネットである。
【0063】
一般に、電極の製造技術は、VDFポリマーバインダーを溶解させ、それらを粉末状電極材料およびすべての他の好適な成分と均質化して金属コレクター(例えばアルミニウムコレククター)に塗布されるペーストを製造するための、溶媒、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの、有機溶媒の使用を伴う。電極の非限定的な例およびそれらの製造方法は、国際公開第2013/010936 A号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY)2013年1月24日、およびその中に引用された参考文献に記載されている。
【0064】
本発明の方法の工程ii.の下で、好適な非水性溶媒には、とりわけ、下記:N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェートおよびそれらの混合物が含まれる。
【0065】
本発明の方法の工程iii.の下で、電極スラリー混合物は、
- 少なくとも1つの導電剤と、
- 少なくとも1つの添加剤と、
- 少なくとも1つの粘度調整剤と
をさらに含んでもよい。
【0066】
好適な添加剤の非限定的な例としては、とりわけ、導電性付与添加剤および/または増粘剤が挙げられる。
【0067】
本発明の方法の工程iv.において、工程iii.によって提供された電極スラリー混合物は、キャスティング、ブラシ、ローラー、インクジェット、スキージー、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティング、吹き付けによってなどの、当技術分野で一般に知られている技術によって金属基材の少なくとも1つの表面上へ塗布される。
【0068】
さらに別の態様では、本発明は、電気化学デバイスでの使用のためにとりわけ好適な複合セパレーターの製造方法であって、前記方法が、次の工程:
I.少なくとも1つの表面を有する多孔質基材を提供する工程と;
II.上に定義されたような、組成物(C)を提供する工程と;
III.前記組成物(C)を前記多孔質基材の少なくとも1つの表面上へ塗布してコーティング組成物層を提供する工程と;
IV.前記コーティング組成物層を、少なくとも60℃の温度で乾燥させて、前記複合セパレーターを提供する工程と
を含む方法を提供する。
【0069】
本発明の方法の工程IIIにおいて、組成物(C)は典型的には、キャスティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレーディング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティングおよびスクリーン印刷、ブラシ、スキージー、フォームアプリケーター、カーテンコーティング、真空コーティングから選択される技術によって多孔質基材の少なくとも1つの表面上へ塗布される。
【0070】
好適な多孔質基材の非限定的例としては、とりわけ、無機材料、有機材料および天然由来材料から製造された、および特に不織繊維(綿、ポリアミド,ポリエステル、ガラス)から、ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(塩化ビニル)から、およびある種の繊維状天然由来物質(例えば、アスベスト)から製造された多孔質膜が挙げられる。
【0071】
有利な結果は、多孔質支持体がポリオレフィン多孔質支持体、例えば、ポリエチレンもしくはプロピレン多孔質支持体であった場合に得られている。
【0072】
本発明の方法の工程V.において、コーティング組成物層は乾燥させられる。
【0073】
乾燥温度は、典型的には60℃~200℃、好ましくは70℃~180℃に含まれる。
【0074】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、および刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0075】
本発明は、以下の実施例に関連してこれから説明されるが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例
【0076】
原材料
ポリマー(F1):25℃でのDMF中で3.0dl/gの固有粘度を有するVDF-AA(0.9モル%)ポリマー(本明細書では以下ポリマー(F1)-A)。
ポリマー(F1):25℃でのDMF中で3.8dl/gの固有粘度を有するVDF-AA(0.6モル%)ポリマー(本明細書では以下ポリマー(F1)-B)。
ポリマー(F2):25℃でのDMF中で1.4dl/gの固有粘度を有するVDF-HFP(7モル%)ポリマー。
【0077】
ポリマーの固有粘度の測定(25℃でDMF中)
固有粘度[η]は、Ubbelhode粘度計において、ポリマー(F1)またはポリマー(F2)を約0.2g/dlの濃度でジメチルホルムアミドに溶解させることによって得られた溶液の、25℃での、滴下時間に基づいて、以下の方程式:
(式中、cは、g/dl単位でのポリマー濃度であり;
ηrは、相対粘度、すなわち、サンプル溶液の滴下時間と溶媒の滴下時間との比であり;
ηspは、比粘度、すなわちηr-1であり;
Γは、3に相当する、実験因子である)
を用いて求めた。
【0078】
実施例1:本発明による組成物(C)の調製
異なる量のポリマー(F1)-Aまたはポリマー(F1)-Bおよびポリマー(F2)を含む4つの組成物を、1500rpmで5分間、MINICON S210のコマンド付きHenschelミキサー、モデルFML 40において調製した。粉末はすべて室温で装入した。
組成物(a)は、組成物の総重量に対して55重量%のポリマー(F1)-Aと45重量%のポリマー(F2)とを含む。
組成物(b)は、組成物の総重量に対して70重量%のポリマー(F1)-Aと30重量%のポリマー(F2)とを含む。
組成物(c)は、組成物の総重量に対して85重量%のポリマー(F1)-A)と15重量%のポリマー(F2)とを含む。
組成物(d)は、組成物の総重量に対して30重量%のポリマー(F1)-Bと70重量%のポリマー(F2)とを含む。
【0079】
電極スラリー混合物の調製
電極スラリー混合物は、それぞれ、組成物(a)の、組成物(b)の、組成物(c)の、組成物(d)の、ポリマー(F1)-Aの、ポリマー(F1)-Bのおよびポリマー(F2)の1グラムの粉末を、室温で攪拌下に25グラムのNMPに溶解させ、透明溶液を得ることによって調製した。Dispermat混合装置を用いる、穏やかな攪拌下に、1グラムのカーボンブラック(Imerys製のC-NERGY Super C65)および18グラムのLiCoO(Umicore製のCellcore(登録商標)LCO D10)を添加し、スラリーを十分に混合して良好な均質性を確実にした。電極スラリー中の固体の百分率は40重量%のものであり、組成物(C)が総固体成分の5重量%を表し、カーボンブラックが5重量%であり、LiCoOが90重量%であった。
【0080】
スラリー粘度
これは、Anton Paar製の回転レオメーターModel Rheolab(登録商標)QCを用いて測定した。測定は25℃で行った。粘度値は、46,1s-1の剪断速度で報告する。
【0081】
電極の製造
電極は、前もって調製されたスラリーをAl金属箔上にキャストすることによって製造した。コーティングは、溶媒除去を確実にするのに十分な時間、130℃での真空オーブン中で最後に乾燥させた。コーティング厚さは、約65μmの最終電極厚さを得るために設定した。
【0082】
電極上の接着性測定
剥離試験を、標準ASTM D903に従うことによって行い、金属箔上の電極混合物コーティングの接着性を評価した。
【0083】
可撓性方法および測定
電極可撓性を、ASTM D 3111-99から誘導された、Mandrel Bend Test Method(Mandrel曲げ試験方法)によって評価した。適当な大きさに切り、順化させた電極の試験ストリップを、電極に亀裂が見えるようになるまで数回2mm径マンドレル(棒)上で180°曲げた。曲げ回数が高ければ高いほど、電極の可能性はより高い。
【0084】
【0085】
結果は、本発明による組成物(組成物(a)~(d))が、ポリマー(F1)単独のそれに匹敵する、良好な電極への接着性の値を有することを示す。
【0086】
さらに、本発明の組成物は、前記組成物で金属箔をコーティングすることによって製造される電極に高い可撓性を付与する。