(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】ポリマーを含む水性着色顔料ペースト、およびそれから製造されるベースコート
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20220920BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20220920BHJP
C09D 125/00 20060101ALI20220920BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220920BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D133/04
C09D125/00
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2019552595
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2018057343
(87)【国際公開番号】W WO2018172476
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-19
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】アイアーホフ,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルツ,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】シュヴァルテ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】コルテン,カトリン
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-510030(JP,A)
【文献】国際公開第2016/116299(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/099639(WO,A1)
【文献】特表2018-510227(JP,A)
【文献】特開平6-179726(JP,A)
【文献】特表2016-534194(JP,A)
【文献】特開昭58-19302(JP,A)
【文献】特開2002-69365(JP,A)
【文献】特表2020-514517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D 15/00- 17/00
C09D101/00-201/10
C09C 1/00- 3/12
C08C 19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性顔料ペーストであって、
(a)少なくとも1種の着色顔料と、
(b)平均粒径が100~500nmの範囲であり、水中のオレフィン系不飽和モノマーの3種のモノマー混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合によって製造
された少なくとも1種のポリマーであり、
前記混合物(A)が、25℃での水中の溶解度が0.5g/l未満の少なくとも50質量%のモノマーを含み、前記混合物(A)から製造されたポリマーが、10~65℃のガラス転移温度を持ち、
前記混合物(B)が、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、前記混合物(B)から製造されたポリマーが、-35~15℃のガラス転移温度を持ち、
前記混合物(C)が、少なくとも1種のα-β不飽和カルボン酸を含み、
前記混合物(C)から製造されたポリマーが、-50~15℃のガラス転移温度を持ち、
i. まず、前記混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.で製造されたポリマーの存在下で前記混合物(B)が重合され、
iii. その後、ii.で製造されたポリマーの存在下で前記混合物(C)が重合される
少なくとも1種のポリマーと
を含む、水性顔料ペースト。
【請求項2】
前記着色顔料(a)を、前記顔料ペーストの総質量に対して少なくとも5質量%の量で含む、請求項1に記載の顔料ペースト。
【請求項3】
少なくとも1種の着色顔料(a)として、白色顔料を含む、請求項1または2に記載の顔料ペースト。
【請求項4】
少なくとも1種の着色顔料(a)として二酸化チタンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項5】
前記顔料ペースト中の前記少なくとも1種の着色顔料(a)と前記ポリマー(b)との相対質量比が、10:1から1:10の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項6】
前記ポリマー(b)を、前記顔料ペーストの総質量に対して1.5~20質量%の範囲の量で含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項7】
それぞれの場合において、前記混合物(A)、(B)および(C)の個々の量の合計に対して、前記ポリマー(b)を製造するために使用した前記混合物(A)の分率が0.1~10質量%であり、前記ポリマー(b)を製造するために使用した前記混合物(B)の分率が60~80質量%であり、前記ポリマー(b)を製造するために使用した前記混合物(C)の分率が10~30質量%である、請求項1から6のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項8】
前記混合物(A)が、アルキル基を有する、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸の単不飽和エステルと、ビニル基を含み、前記ビニル基上に配置された、芳香族であるか、または混合された飽和脂肪族-芳香族である基を有し、後者の場合に、前記基の脂肪族部分がアルキル基である、少なくとも1種のモノオレフィン系不飽和モノマーと、を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項9】
少なくとも1種のポリオレフィン系不飽和モノマー以外の前記混合物(B)が、アルキル基を有する、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸の単不飽和エステルと、ビニル基を含み、前記ビニル基上に配置された、芳香族であるか、または混合された飽和脂肪族-芳香族である基を有し、後者の場合に、前記基の脂肪族部分がアルキル基である、少なくとも1種のモノオレフィン系不飽和モノマーと、をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項10】
前記混合物(A)および(B)が、ヒドロキシ官能性モノマーおよび酸官能性モノマーのいずれも含有しない、請求項1から9のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項11】
前記混合物(C)が、
さらにヒドロキシル基によって置換されたアルキル基を有する、少なくとも1種のメタ(アクリル)酸の単不飽和エステルと、アルキル基を有する、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸の単不飽和エステルと、を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項12】
前記ポリマー(b)を製造するための段階iからiiiにおける、オレフィン系不飽和モノマーの計量添加が、反応液中の遊離モノマーの分率が、全反応時間にわたって、各重合段階において使用したモノマーの総量に対して6.0質量%以下になるような方法で行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の顔料ペースト。
【請求項13】
水性ベースコート材料であって、請求項1から12のいずれか一項に記載の少なくとも1種の顔料ペーストを成分(1)として、ベースコート材料の製造に
使用され、結合剤として使用できる少なくとも1種のポリマーを含む、少なくとも1種の水性成分(2)と混合することによって製造
され、結合剤として使用できるこのポリマーが、同様に前記顔料ペースト中に存在するポリマー(b)を含み、かつ/またはそれとは異なる少なくとも1種のポリマーを含む、水性ベースコート材料。
【請求項14】
前記混合物(C)は、シード、コアおよびシェルを含み、10~25の酸価を有するポリマーが得られるように選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載の水性ベースコート材料。
【請求項15】
前記混合物(C)は、少なくとも1種のα-β不飽和カルボン酸と、少なくとも1種の、ヒドロキシル基によって置換されたアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルとを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の水性ベースコート材料。
【請求項16】
(1a)水性ベースコート材料を基材に適用し、
(2a)段階(1a)で適用した塗料からポリマー膜を形成させ、
(1b)任意に、さらなる水性ベースコート材料を、こうして形成されたポリマー膜に適用し、
(2b)任意に、段階(1b)で適用した塗料からポリマー膜を形成させ、
(3)クリアコート材料を、結果として生じたベースコート膜に適用し、続いて、
(4)前記ベースコート膜を、クリアコート膜とともに共同硬化することによって、
マルチコート塗装系を製造する方法であって、
請求項13に記載のベースコート材料が、段階(1a)で使用されるか、または、前記方法が、段階(1b)および(2b)をさらに含む場合、段階(1a)および/もしくは(1b)で使用される、方法。
【請求項17】
粒径が100~500nmの範囲であり、水中のオレフィン系不飽和モノマーの3種のモノマー混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合によって製造
されたポリマ
ーであって、
前記混合物(A)が、25℃での水中の溶解度が0.5g/l未満の少なくとも50質量%のモノマーを含み、前記混合物(A)から製造されたポリマーが、10~65℃のガラス転移温度を持ち、
前記混合物(B)が、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、前記混合物(B)から製造されたポリマーが、-35~15℃のガラス転移温度を持ち、
前記混合物(C)が、少なくとも1種のα-β不飽和カルボン酸を含み、
前記混合物(C)から製造されたポリマーが、-50~15℃のガラス転移温度を持ち、
i. まず、前記混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.で製造されたポリマーの存在下で前記混合物(B)が重合され、
iii. その後、ii.で製造されたポリマーの存在下で前記混合物(C)が重合され
ることによって製造されたポリマーを、水性顔料ペースト中に着色顔料を分散させるため
に使用
する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の着色顔料(a)、ならびに水中のオレフィン系不飽和モノマーの3種のモノマー混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合によって製造可能な少なくとも1種のポリマー(b)を含む水性顔料ペーストと、顔料ペーストを、ベースコート材料の製造に好適な少なくとも1種の水性結合剤含有成分と混合することによって製造可能な水性ベースコート材料と、このベースコート材料を使用してマルチコート塗装系を製造する方法と、水性顔料ペースト中に着色顔料を分散させるためのポリマー(b)の使用方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料ペーストおよびその中に使用されるポリマーは、当該技術分野において公知である。塗装産業における顔料ペーストの使用は、例えば、塗料を配合する間の顔料の無塵処理を確保するため、顔料分散の技術的に複雑な操作を実質的に容易にする。その上、ペーストに取り入れた結果として、顔料は、最適に湿り、非常によく分散され、したがって結果として生じた塗料において改善された分散状態が達成される。これは、塗料およびそれから製造される塗装系の一部の性能特性、例えば塗装系の一部への特に均一な色または色分布に改善をもたらす。顔料ペーストは、これらの理由で、水性ベースコート材料などの塗料へ取り入れられる前に、最初に中間体として別々に製造される。
【0003】
顔料ペーストの製造では、最適に調整されたペーストを得るために、ペースト結合剤として厳密に適合されたポリマーを使用しなければならない。ポリマーの個別適応および厳密な選択なしでは、問題の顔料は通常、最適に分散されず、したがって最終的にもたらされる塗装系の技術的性能特性も最適でない。
【0004】
ここでの別の課題は、多くの場合、問題となるペースト結合剤は、常に塗料組成物の主要結合剤に対応するわけではなく、そのため、ペーストは、さらなる結合剤成分を塗料組成物中に取り入れることである。その結果、塗料組成物の製造操作は、より複雑になる。その上、塗料の製造において配合の自由度が失われる。その理由は、ペースト中の特定のポリマーの使用が、その結果として、その他の塗料成分も、このポリマーに適合される必要があることを意味し得るためである。さらに、塗料中にさらなる添加剤および/または結合剤成分を使用する策略は、あまり余裕がなく、その理由は、それらの使用が、特に最重要である主要結合剤の分率を過度に低減し得るからである。結果として得られる塗料組成物中の主要結合剤に対応するペースト中のポリマー(ペースト結合剤)を使用することによって、配合の自由度における上記欠点を補償する試みが行われた場合、一般に主要結合剤の選択の面で妥協せざるをえず、したがって、結果として得られる塗料組成物およびそれで製造されるマルチコート塗装系の品質において、このような妥協は望ましくない。
【0005】
さらに、環境的観点から、水性の顔料ペーストを使用することが望ましく、または有機溶媒の濃度を可能な限り低くすることが望ましい。
【0006】
国際公開第2015/090811(A1)号から知られるものは、水性顔料ペーストであり、これは顔料と同様に、ポリウレタンの存在下でオレフィン系不飽和モノマーの混合物を共重合することによって製造可能なポリウレタン系コポリマーを含む。しかし、水性ベースコート材料などの塗料組成物に取り入れた後、国際公開第2015/090811(A1)号で開示される顔料ペーストは、必ずしも所望のピンホール堅牢性をもたらすとは限らない。
【0007】
さらに、従来技術では、例えばポリエステルおよび/またはポリウレタンならびにさらには多くの場合に比較的多量の有機溶媒を含む、公知の顔料ペーストがある。しかし、これらの顔料ペーストの欠点は、その低い貯蔵安定性ならびにその比較的高い溶媒含有率および結合剤含有率である。その上、該顔料ペーストを取り入れた塗料組成物、特にベースコート材料、ならびに該塗料組成物から得られる塗料は、多くの場合、特に、隠ぺい力、貯蔵安定性、斑点の形成、分離傾向、ポッピングおよび/またはランニングの発生、ならびにピンホール堅牢性に関連する十分な特性に欠いている。ポリウレタン含有顔料ペーストは、例えば欧州特許第1448730(B1)号、欧州特許第0960174(B1)号、および国際公開第91/15528(A1)号から知られている。ポリエステルポリウレタンを含有する顔料ペーストは、例えば、欧州特許第0438090(B1)号から知られている。
【0008】
したがって、上で確認された欠点を持たない水性顔料ペーストが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/090811(A1)号
【文献】欧州特許第1448730(B1)号
【文献】欧州特許第0960174(B1)号
【文献】国際公開第91/15528(A1)号
【文献】欧州特許第0438090(B1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明が対処する一課題は、ベースコート材料を製造するために使用することができ、従来技術で公知の顔料ペーストを上回る利点を有する、水性顔料ペーストを提供することである。本発明が対処する特定の課題は、顔料ペーストを使用して製造される対応する水性ベースコート材料中の主要結合剤と同様に使用することができるポリマーをペースト結合剤として含む水性顔料ペーストを提供することである。これに応じて製造される水性ベースコート材料は、実際に改善できなかったとしても、特に良好な外観、および隠ぺい力などの必須の技術性能特性を損なわない程度で、これらの特性の最適な実行をもたらすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、特許請求の範囲の主題およびまた、以下の本明細書中に記載するその主題の好ましい実施形態によって解決される。
【0012】
したがって、本発明の第1の主題は、水性顔料ペーストであって、
(a)少なくとも1種の着色顔料と、
(b)平均粒径が100~500nmの範囲であり、水中のオレフィン系不飽和モノマーの3種のモノマー混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合によって製造可能な、少なくとも1種のポリマーであり、
混合物(A)が、25℃での水中の溶解度が0.5g/l未満の少なくとも50質量%のモノマーを含み、混合物(A)から製造されたポリマーが、10~65℃のガラス転移温度を持ち、
混合物(B)が、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、混合物(B)から製造されたポリマーが、-35~15℃のガラス転移温度を持ち、
混合物(C)から製造されたポリマーが、-50~15℃のガラス転移温度を持ち、
i. まず、混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.で製造されたポリマーの存在下で混合物(B)が重合され、
iii. その後、ii.で製造されたポリマーの存在下で混合物(C)が重合される
少なくとも1種のポリマーと
を含む、水性顔料ペーストである。
【0013】
本発明のさらなる主題は、本発明の少なくとも1種の顔料ペーストを成分(1)として、ベースコート材料の製造に好適であり、結合剤として使用できる少なくとも1種のポリマーを含む、少なくとも1種の水性成分(2)と混合することによって製造可能である、水性ベースコート材料であって、結合剤として使用できるこのポリマーが、同様に顔料ペースト中に存在するポリマー(b)を含み、かつ/またはそれとは異なる少なくとも1種のポリマーを含む、水性ベースコート材料である。以下の実験の項のセクション5.5および表5.13に記載の実験結果から明らかなように、組成が同じであるが異なる方法で製造されたベースコート材料のこの特定の製造は、例えば、膜厚によって決まるプロファイルの決定において、長波(LW)およびDOIに関する、すなわち、その外観に関する特性の面で、本発明のベースコート材料を区別する。
【0014】
本発明のさらなる主題は、
(1a)水性ベースコート材料を基材に適用し、
(2a)段階(1a)で適用した塗料からポリマー膜を形成させ、
(1b)任意に、さらなる水性ベースコート材料を、こうして形成されたポリマー膜に適用し、
(2b)任意に、段階(1b)で適用した塗料からポリマー膜を形成させ、
(3)クリアコート材料を、結果として生じたベースコート膜に適用し、続いて、
(4)ベースコート膜を、クリアコート膜とともに共同硬化することによって、
マルチコート塗装系を製造する方法であって、
本発明のベースコート材料が、段階(1a)で使用されるか、または、この方法が、段階(1b)および(2b)をさらに含む場合、段階(1a)および/もしくは(1b)で使用される、方法である。段階(1a)で使用される基材は、好ましくは電着膜(EC)、より好ましくは電着材料の陰極析出によって適用される電着膜を有し、段階(1a)で使用されるベースコート材料は、EC塗装基材に直接適用され、基材に適用された電着膜(EC)は、好ましくは、段階(1a)の実行中に硬化される。
【0015】
本発明のさらなる主題は、第1の主題に関連して識別されるポリマー、すなわち、平均粒径が100~500nmの範囲であり、水中のオレフィン系不飽和モノマーの3種のモノマー混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合によって製造可能なポリマーの使用であって、
混合物(A)が、25℃での水中の溶解度が0.5g/l未満の少なくとも50質量%のモノマーを含み、混合物(A)から製造されたポリマーが、10~65℃のガラス転移温度を持ち、
混合物(B)が、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、混合物(B)から製造されたポリマーが、-35~15℃のガラス転移温度を持ち、
混合物(C)から製造されたポリマーが、-50~15℃のガラス転移温度を持ち、
i. まず、混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.で製造されたポリマーの存在下で混合物(B)が重合され、
iii. その後、ii.で製造されたポリマーの存在下で混合物(C)が重合される、
水性顔料ペースト中に着色顔料を分散させるための、使用である。
【0016】
驚くべきことに、本発明の水性顔料ペースト中に存在するポリマー(b)は、水性ベースコート材料中の主要結合剤として使用できるだけでなく、さらに、水性顔料ペースト中のペースト結合剤としても使用できることが見出された。その結果、ポリマー(b)を顔料ペースト中で使用できる可能性が与えられた結果として、ポリマー(b)とは異なるさらなるペースト結合剤の水準に合わせた系列にベースコート材料の他の塗料成分をあてがう必要がないため、ベースコート材料の製造において強化された配合自由度が得られる。その上、その結果として、顔料ペースト中にポリマー(b)も使用することは、これらの場合において、ベースコート材料の主要結合剤の分率が過度に低減されるわけではないため、ベースコート材料中のさらなる添加剤および/または結合剤成分の使用計画の余地が増える。特に驚くべきことに、ポリマー(b)を顔料ペースト中のペースト結合剤および結果として得られるベースコート材料の主要結合剤の両方として使用するにもかかわらず、結果として得られる塗料組成物およびそれによって製造されるマルチコート塗装系の品質は、例えば、良好な外観(ポッピングおよびランニングの発生、ならびにピンホールおよび斑点)などの技術的性能特性の面で、また、隠ぺい力の面で欠点がない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の意味において、本発明の顔料ペーストに関連して、また、本発明のベースコート材料に関連して、用語「含む」は、好ましくは、「からなる」の意味を有する。この場合、成分(a)、(b)および水以外の本発明の顔料ペースト、ならびに成分(1)、(2)および水以外の本発明のベースコート材料の両方に、以下に記載の、任意に本発明の顔料ペーストならびに/または前記ペーストおよび/もしくは前記材料中に存在する本発明のベースコート材料中に存在する1種以上のさらなる成分に可能である。これらの全成分は、それぞれ、下記の好ましい実施形態に存在し得る。
【0018】
本発明の顔料ペースト
本発明の顔料ペーストは、少なくとも1種の着色顔料(a)の存在のため、着色顔料ペーストである。顔料ペーストの概念は、当業者に知られており、例えば、Roempp Lexikon、Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、1998、第10編、452頁に定義されている。顔料ペーストは、ポリマーなどのキャリア材料中の顔料混合物の調合物であり、後続の用途より高い濃度で顔料が含まれる。顔料ペーストの後続の用途は、一般に、ベースコート材料などの塗料組成物の製造において存在する。したがって顔料ペーストは、このような塗料組成物の製造のための前駆体のみを表すという点でベースコート材料などの塗料組成物とは区別される。したがって顔料ペーストそれ自体は、ベースコート材料として使用することができない。顔料ペースト中、通常、顔料とポリマーとの相対的質量比は、製造するために最終的にペーストが使用される塗料組成物においてより大きい。ポリマー(ペースト結合剤とも呼ばれる)および顔料などのキャリア材料以外の顔料ペーストは、通常、水および/または有機溶媒も含む。湿潤剤および/または増粘剤などの様々な添加剤も、顔料ペースト中に使用してよい。本発明の顔料ペースト中に存在するポリマー(b)は、顔料ペースト結合剤(ペースト結合剤)として使用される。本発明の顔料ペーストは、成分(a)および(b)を含む水性組成物を表す。
【0019】
本発明の顔料ペーストは、水性である。これは、好ましくは、いずれの場合も本発明の顔料ペーストの総質量に対して、溶媒が主として好ましくは少なくとも25質量%の量の水を含有し、より低い分率の、好ましくは25質量%未満の有機溶媒を含有する系を含む。
【0020】
本発明の顔料ペーストは、好ましくは、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、少なくとも25質量%、より好ましくは少なくとも30質量%、非常に好ましくは少なくとも35質量%、より特定すると少なくとも40質量%、最も好ましくは少なくとも42.5質量%の含水率を占める。
【0021】
本発明の顔料ペーストは、好ましくは、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、25~75質量%の範囲、より好ましくは30~70質量%の範囲、非常に好ましくは35~65質量%または35~60質量%または35~55質量%の範囲の含水率を占める。
【0022】
本発明の顔料ペーストは、好ましくは、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、25質量%未満、より好ましくは0から25質量%未満の範囲、非常に好ましくは0.5~25質量%または0.5~15質量%または0.5~10質量%の範囲の分率の有機溶媒を含む。
【0023】
本発明の顔料ペーストの固形分は、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、好ましくは15~70質量%、より好ましくは17.5~65質量%、特に好ましくは20~60質量%、より特定すると22.5~55質量%、最も好ましくは25~50質量%または30~50質量%の範囲である。固形分、すなわち、不揮発性物質の分率は、以下に記載の本発明に従って決定される。
【0024】
本発明の顔料ペーストの固形分と本発明の顔料ペースト中の含水率とのパーセンテージ合計は、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも80質量%である。ひいては好ましくは、70から99質量%、特に75または80から97.5質量%の範囲である。例えば、本発明の顔料ペーストが、30質量%の固形分および65質量%の含水率を有する場合、上記の固形分と含水率とのパーセンテージ合計は95質量%である。
【0025】
本発明の顔料ペーストは、好ましくは、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、1.0~25質量%、より好ましくは1.5~20質量%、非常に好ましくは2.0~17.5質量%、より特定して2.5~15質量%、最も好ましくは4.0~12.5質量%の範囲の分率のポリマー(b)を含む。顔料ペースト中のポリマー(b)の分率は、ポリマー(b)を含み、顔料ペーストの製造中に使用される水性分散体の固形分(不揮発性物質の分率または固体の分率とも呼ばれる)を決定することによって決定または指定することができる。
【0026】
本発明の顔料ペーストは、特に着色顔料(a)が二酸化チタンなどの白色顔料であるとき、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、少なくとも5質量%、好ましくは少なくとも7.5または10質量%、より好ましくは少なくとも12.5または15質量%、非常に好ましくは少なくとも17.5質量%、より特定すると少なくとも20または22.5または25または27.5質量%、最も好ましくは少なくとも30質量%の分率の着色顔料(a)を含む。
【0027】
本発明の顔料ペーストは、好ましくは、特に着色顔料(a)が二酸化チタンなどの白色顔料であるとき、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、5~75質量%、より好ましくは7.5~70質量%、非常に好ましくは10~65質量%、より特定すると15~60質量%、最も好ましくは17.5~55質量%または20~50質量%の範囲の分率の着色顔料(a)を含む。
【0028】
顔料ペースト中の少なくとも1種の着色顔料(a)とポリマー(b)との相対的質量比は、好ましくはいずれの場合も少なくとも1:1または少なくとも1.2:1または少なくとも1.5:1またはそれ以上、より好ましくは少なくとも2.0:1またはそれ以上、非常に好ましくは少なくとも2.5:1またはそれ以上、より特定すると少なくとも3.0:1またはそれ以上である。
【0029】
顔料ペースト中の少なくとも1種の着色顔料(a)とポリマー(b)との相対的質量比は、好ましくは15:1~1:15の範囲、より好ましくは10:1~1:10の範囲、非常に好ましくは8:1~1:8の範囲である。特に少なくとも1種の着色顔料(a)が二酸化チタンなどの白色顔料であるとき、顔料ペースト中の少なくとも1種の着色顔料(a)とポリマー(b)との相対的質量比は、好ましくは10:1~1:1または10:1~1.2~1または10:1~1.5:1の範囲、より好ましくは8:1~1.2:1または8:1~1.5:1の範囲、最も好ましくは8:1~1.7:1または8:1~2.0:1の範囲、より特定すると8:1~2.2:1または8;1~2.5:1の範囲である。
【0030】
本発明の顔料ペースト中に存在する全成分(成分(a)、(b)および水、ならびに、追加的に任意に存在するさらなる成分)の質量%で表す分率は、顔料ペーストの質量比に対して、合計して100質量%になる。
【0031】
着色顔料(a)
本発明の顔料ペーストは、成分(a)として少なくとも1種の着色顔料を、好ましくは、顔料ペーストの総質量に対して、少なくとも5質量%の量で含む。
【0032】
当業者は、着色顔料の概念を熟知している。本発明の目的のために、用語「着色顔料(coloring pigment)」および「着色顔料(color pigment)」は区別なく用いられる。顔料の対応する定義およびそのさらなる特殊化は、DIN55943(日付:2001年10月)で管理されている。使用される着色顔料(a)は、有機および/または無機顔料であってもよい。着色顔料(a)は、好ましくは、無機着色顔料である。使用される特に好ましい着色顔料(a)は、白色顔料、有彩顔料および/または黒色顔料である。白色顔料がこの場合、最も好ましい。白色顔料の例は、二酸化チタン、亜鉛白、硫化亜鉛、およびリトポンである。黒色顔料の例は、カーボンブラック、鉄マンガン黒(iron manganese black)、およびブラックスピネルである。有彩顔料の例は、酸化クロム、酸化クロム水和物緑(chromium oxide hydrate green)、コバルトグリーン、ウルトラマリン緑、コバルトブルー、群青、マンガニーズブルー、ウルトラマリンバイオレット、コバルトバイオレットおよびマンガニーズバイオレット、赤色酸化鉄、硫セレン化カドミウム、モリブデン酸塩レッド、ウルトラマリンレッド、褐色酸化鉄、混合褐色、スピネル相およびコランダム相、ならびにクロムオレンジ、黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、硫化カドミウム、硫化亜鉛カドミウム、クロムイエロー、ならびにバナジウム酸ビスマスである。
【0033】
本発明の顔料ペーストは、任意に、少なくとも1種の着色顔料(a)とは異なるさらなる顔料、より特定すると効果顔料および/または充填剤を含んでもよい。しかし、好ましくは、本発明の顔料ペーストは、このような効果顔料および充填剤などのさらなる顔料を含有しない。
【0034】
ポリマー(b)
本発明の顔料ペーストは、平均粒径が100~500nmであり、水中のオレフィン系不飽和モノマーの3種のモノマー混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合によって製造可能な、少なくとも1種のポリマー(b)であって、
混合物(A)が、25℃での水中の溶解度が0.5g/l未満の少なくとも50質量%のモノマーを含み、混合物(A)から製造されたポリマーが、10~65℃のガラス転移温度を持ち、
混合物(B)が、少なくとも1種のポリ不飽和モノマーを含み、混合物(B)から製造されたポリマーが、-35~15℃のガラス転移温度を持ち、
混合物(C)から製造されたポリマーが、-50~15℃のガラス転移温度を持ち、
i. まず、混合物(A)が重合され、
ii. 次いで、i.で製造されたポリマーの存在下で混合物(B)が重合され、
iii. その後、ii.で製造されたポリマーの存在下で混合物(C)が重合される、
少なくとも1種のポリマー(b)を含む。
【0035】
ポリマー(b)は、シードコアシェルポリマー(SCSポリマー)と呼ばれるものを表す。ポリマー(b)および該ポリマーを含む水性分散体は、例えば、国際公開第2016/116299(A1)号から知られる。ポリマー(b)は、好ましくは、(メタ)アクリルコポリマーである。
【0036】
本発明の顔料ペースト中に存在するポリマー(b)は、顔料ペースト結合剤(ペースト結合剤)として使用される。本発明の意味における用語「結合剤」は、DIN EN ISO4618(ドイツ版、日付:2007年3月)に従い、好ましくは、本発明の顔料ペーストまたは本発明のベースコート材料などの膜形成に関与する組成物の不揮発性物質の部分を指し、少なくとも1種の着色顔料(a)および他の顔料ならびに/または任意に存在する充填剤など、その中に存在する顔料とは別である。不揮発性物質の分率は、下記の方法によって決定することができる。これに応じて、結合剤構成要素は、本発明の顔料ペーストまたは本発明のベースコート材料などの組成物の結合剤の含有量に寄与する特定の成分である。例としては、ポリマー(b)、架橋剤、例えばメラミン樹脂および/または遊離もしくはブロックポリイソシアネートおよび/または高分子添加剤を含むベースコート材料が考えられる。
【0037】
ポリマー(b)は、好ましくは、本発明の顔料ペーストを製造するための水性分散体の形態で使用される。
【0038】
ポリマー(b)の製造は、いずれの場合も水中におけるオレフィン系不飽和モノマーの3種の混合物(A)、(B)および(C)の逐次ラジカル乳化重合を含む。したがって、これは、i.まず混合物(A)を重合し、次いでii.iで製造したポリマーの存在下で混合物(B)を重合し、さらに、iii.iiで製造したポリマーの存在下で混合物(C)を重合する、多段ラジカル乳化重合である。したがって3種のモノマー混合物の全ては、ラジカル乳化重合(すなわち、段階または重合段階)によって重合され、いずれの場合も別々に実施し、これらの段階は逐次的に行われる。時間の観点からいえば、各段階は、互いの直後に進めてよい。一段階が終わった後、問題となる反応液を特定の期間の間、保存すること、および/または、別の反応容器に移すことは、同じくらい可能であり、そうすることによって初めて、次の段階の実行に移ることができる。ポリマー(b)の製造は、好ましくは、モノマー混合物(A)、(B)および(C)の重合以外の重合工程を含まない。
【0039】
ラジカル乳化重合の概念は、当業者に公知であり、以下でさらに詳細に説明していく。重合中、オレフィン系不飽和モノマーは、水性媒体中で、好ましくは少なくとも1種の水溶性開始剤を使用し、少なくとも1種の乳化剤の存在下で重合する。対応する水溶性開始剤も同様に公知である。少なくとも1種の水溶性開始剤は、好ましくは、ペルオキソ二硫酸カリウム、ナトリウムまたはアンモニウム、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、2,2’-アゾビス(2-アミドイソプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、ならびに例えば過酸化水素および過硫酸ナトリウムなどの前記開始剤の混合物からなる群から選択される。規定された好ましい群の同様のメンバーは、それ自体が公知であるレドックス開始剤系である。レドックス開始剤系は、特に、少なくとも1種の過酸化物を含む化合物を、少なくとも1種のレドックス共開始剤(例としては、例えば、アルカリ金属の重亜硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、亜ジチオン酸塩またはテトラチオ酸塩などの還元的硫黄化合物およびアンモニウム化合物、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物ならびに/またはチオ尿素)と組み合わせて含む開始剤である。したがってペルオキソ二硫酸塩とアルカリ金属亜硫酸水素塩またはアンモニウム亜硫酸水素塩との組合せを使用することが可能であり、例としては、アンモニウムペルオキシ二硫酸塩およびアンモニウム二亜硫酸塩がある。過酸化物含有化合物とレドックス共開始剤との質量比は、好ましくは50:1から0.05:1である。
【0040】
開始剤と組み合わせて、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、バナジウムまたはクロム塩、例えば硫酸鉄(II)、塩化コバルト(II)、硫酸ニッケル(II)、塩化銅(I)、酢酸マンガン(II)、酢酸バナジウム(II)、塩化マンガン(II)などの遷移金属触媒を追加で使用することが可能である。重合において使用されるオレフィン系不飽和モノマーの総質量に基づいて、これらの遷移金属塩を、慣例に従って、0.1~1000ppmの量で用いる。したがって過酸化水素と鉄(II)塩、例えば、0.5~30質量%の過酸化水素と0.1~500ppmのモール塩との組合せを使用することが可能であり、分率の範囲は、いずれの場合も各重合段階において使用したモノマーの総質量に基づく。開始剤は、好ましくは、各重合段階において使用したモノマーの総質量に対して0.05~20質量%、好ましくは0.05~10、より好ましくは0.1~5質量%の量で使用される。
【0041】
乳化重合は、連続媒体としての水、および追加で好ましくは少なくとも1種の乳化剤(好ましくはミセルの形態)を含む反応媒体中で進行する。重合は、水中における水溶性開始剤の分解によって開始する。成長ポリマー鎖は、乳化剤ミセル中に取り込まれ、次いでさらなる重合がミセル内で生じる。したがって、モノマー、少なくとも1種の水溶性開始剤、および少なくとも1種の乳化剤と同様に、反応混合物は主に水からなる。規定の成分、すなわちモノマー、水溶性開始剤、乳化剤、および水は、好ましくは、少なくとも95質量%の反応混合物を構成する。反応混合物は、好ましくは、これらの成分からなる。少なくとも1種の乳化剤は、好ましくは、いずれの場合も各重合段階において使用したモノマーの総質量に対して、0.1~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%、非常に好ましくは0.1~3質量%の量で使用される。乳化剤も同様に、原則として知られている。使用した乳化剤は、非イオン性乳化剤であってもイオン性乳化剤であってもよく、両性イオン、また任意で前記乳化剤の混合物も含まれる。好ましい乳化剤は、10~40個の炭素原子を有する、任意にエトキシ化および/またはプロポキシ化されたアルカノールである。これらのエトキシ化および/またはプロポキシ化の程度は様々であってもよい(例としては、5~50個の分子単位からなるポリ(オキシ)エチレンおよび/またはポリ(オキシ)プロピレン鎖で修飾された付加物がある)。規定の生成物の硫酸化、スルホン酸化またはリン酸化誘導体も使用することができる。このような誘導体は、一般に、中和形態で用いられる。特に好ましい乳化剤は、中和されたジアルキルスルホコハク酸エステルまたはアルキルジフェニルオキシドスルホネートであり、好適に、例えばCytecからEF-800として市販されている。乳化重合は、適切な判断下で、0~160℃、好ましくは15~95℃、より好ましくは60~95℃の温度で実施される。この操作は、好ましくは酸素がない状況で、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行われる。一般に、低圧または高圧の使用も可能であるが、重合は、大気圧下で実施される。特に、大気圧下での水、使用したモノマーおよび/または有機溶媒の沸点より高い重合温度を用いた場合、高圧が一般に選択される。
【0042】
ポリマー(b)の製造における個々の重合段階は、例えば、「スターブドフィード(starved feed)」重合(「スターブフィード(starve feed)」または「スターブフェッド(starve fed)」重合としても知られる)と呼ばれるもので実施してもよい。本発明の意味におけるスターブドフィード重合は、反応液(反応混合物とも呼ばれる)中の遊離オレフィン系不飽和モノマーの量が反応時間を通して最小化される乳化重合である。これは、オレフィン系不飽和モノマーの計量添加が、全反応時間にわたって、反応液中の遊離モノマーの分率が、いずれの場合も各重合段階において使用したモノマーの総量に対して、6.0質量%、好ましくは5.0質量%、より好ましくは4.0質量%、特に有利には3.5質量%を超えないように行われることを意味する。これらの制限内でさらに好ましいのは、0.01~6.0質量%、好ましくは0.02~5.0質量%、より好ましくは0.03~4.0質量%、より特定すると0.05~3.5質量%のオレフィン系不飽和モノマーの濃度範囲である。例えば、反応中に検出できる最大質量分率は、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%、2.0質量%、2.5質量%または3.0質量%であり得、一方で、他の全ての検出値は、ここで示した値より低い。各重合段階において使用したモノマーの総量(総質量とも呼ばれる)は、明らかに、段階iではモノマー混合物(A)の総量に対応し、段階iiではモノマー混合物(B)の総量に対応し、段階iiiではモノマー混合物(C)の総量に対応する。本明細書における反応液中のモノマーの濃度は、例えば、ガスクロマトグラフィーによって決定してもよい。その場合、反応液の試料は、サンプリングの直後に液体窒素で冷却され、開始剤として4-メトキシフェノールが添加される。次の工程で、試料をテトラヒドロフラン中で溶解し、次いでn-ペンタンを添加して、サンプリングの時点で形成されたポリマーを析出させる。次いで、液相(上澄み)を、モノマーを決定するための極性カラムおよび無極性カラムを使用した、また、フレームイオン化検出器を使用した、ガスクロマトグラフィーによって分析する。ガスクロマトグラフィーによる決定のための典型的なパラメーターは、以下の通り、すなわち、5%フェニル、1%ビニルメチルポリシロキサン相を有する25mのシリカキャピラリーカラムまたは50%フェノールおよび50%メチルポリシロキサン相を有する30mのシリカキャピラリーカラム、キャリアガス水素、分割噴射機150℃、オーブン温度50~180℃、フレームイオン化検出器、検出器の温度275℃、内部標準イソブチルアクリレートである。本発明の目的のためのモノマーの濃度は、好ましくは、ガスクロマトグラフィーによって、より特定すると上記のパラメーターに応じて決定される。
【0043】
遊離モノマーの分率は、様々な方法で制御することができる。遊離モノマーの分率を低く維持させる一可能性は、オレフィン系不飽和モノマーの混合物を実際の反応液中に入れる(この反応液中で、モノマーが開始剤と接触する)ために非常に低い計量速度を選択することである。全てのモノマーが、反応液中にあると実質的にすぐ反応できるように、計量速度が非常に低い場合、遊離モノマーの分率が最小化されることを確実にできる。計量速度に加えて、反応液中に常に十分なラジカルが存在し、添加したモノマーのそれぞれを極度に迅速に反応させることが重要である。この方法では、さらなるポリマー鎖の成長が保証され、遊離モノマーの分率は低い状態を保つ。この目的のために、反応条件は、好ましくは、開始剤の供給を、オレフィン系不飽和モノマーの計量を開始する前に始めるように選択される。計量は、好ましくは、少なくとも5分前、より好ましくは少なくとも10分前に始める。好みに応じて、いずれの場合も開始剤の総量に対して、少なくとも10質量%、より好ましくは少なくとも20質量%、非常に好ましくは少なくとも30質量%の開始剤が、オレフィン系不飽和モノマーの計量を開始する前に添加される。開始剤の一定の分解を可能にする温度の選択が優先される。開始剤の量も同様に、反応液中でラジカルが十分に存在する中で重要な要因である。開始剤の量は、随時、添加されたモノマーを反応させるために十分なラジカルがあるように選択すべきである。開始剤の量が増加すれば、同時に反応できるモノマーの量も増加する。
【0044】
反応速度を決定するさらなる要因は、モノマーの反応性である。したがって遊離モノマーの分率に対する制御は、開始剤の量、開始剤の添加速度、モノマーの添加速度、およびモノマーの選択の相互作用によって誘導される。計量の減速だけではなく、開始剤の量の増加および開始剤の添加の開始を早めることも、遊離モノマーの濃度を上記の制限より下に維持する目的を助ける。反応中のいずれの時点でも、遊離モノマーの濃度は、上記のガスクロマトグラフィーによって決定することができる。この分析が、例えば、ほんのわずかな高反応性のオレフィン系不飽和モノマーの結果として、スターブドフィード重合の極限値に近づく遊離モノマーの濃度を見出した場合、反応を制御するために上記のパラメーターを利用することができる。この場合、例えば、モノマーの計量速度を減速することができる、または開始剤の量を減少させることができる。
【0045】
本発明の目的のために、少なくとも重合段階iiおよびiiiの場合、スターブドフィード条件下で実施させることが好ましい。これは、これらの2つの重合段階中で新規の粒子核の形成が効果的に最小化されるという利点を有する。代わりに、段階iの後に存在する粒子(したがって、以下ではシードとも呼ばれる)を、モノマー混合物Bの重合によって段階iiでさらに成長させることができる(したがって、以下ではコアとも呼ばれる)。同様に、段階iiの後に存在する粒子(以下では、シードおよびコアを含むポリマーとも呼ばれる)を、モノマー混合物Cの重合によって段階iiiでさらに成長させることができ(したがって、以下ではシェルとも呼ばれる)、最終的にはシード、コアおよびシェルを含有する粒子を含むポリマー(b)が得られる(SCSポリマーとも呼ばれる)。段階iも同様に、当然ながら、スターブドフィード条件下で実施することができる。
【0046】
混合物(A)、(B)および(C)は、オレフィン系不飽和モノマーの混合物である。好適なオレフィン系不飽和モノマーは、モノまたはポリオレフィン系不飽和であってもよい。まず第1に、以下に記載のものは、原則として使用でき、全混合物(A)、(B)および(C)にわたって好適なモノマーならびに任意の好ましいモノマーである。個々の混合物の特に好ましい実施形態は、以下で対処される。
【0047】
好適なモノオレフィン系不飽和モノマーの例としては、特に、(メタ)アクリレートベースのモノオレフィン系不飽和モノマー、アリル基を含むモノオレフィン系不飽和モノマー、およびビニル基を含む他のモノオレフィン系不飽和モノマー(例えば、ビニル芳香族モノマーなど)が挙げられる。本発明の目的のための用語(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリレートは、メタクリレートおよびアクリレートの両方を包含する。任意の速度での使用に好ましいのは、排他的になる必要はないが、(メタ)アクリレートベースのモノオレフィン系不飽和モノマーである。
【0048】
(メタ)アクリレートベースのモノオレフィン系不飽和モノマーは、例えば、(メタ)アクリル酸およびエステル、ニトリル、または(メタ)アクリル酸のアミドであってもよい。優先されるのは、非オレフィン系不飽和基Rを有する(メタ)アクリル酸のエステルである。
【0049】
【0050】
基Rは、飽和脂肪族、芳香族、または混合飽和脂肪族-芳香族であってもよい。本発明の目的のための脂肪族基は、芳香族ではない全ての有機基である。好ましくは、基Rは、脂肪族である。飽和脂肪族基は、純粋な炭化水素基であってもよく、または架橋基由来のヘテロ原子(例えば、エーテル基またはエステル基由来の酸素)を含んでもよく、かつ/またはヘテロ原子を含む官能基(例えば、アルコール基)によって置換されていてもよい。したがって、本発明の目的のために、ヘテロ原子を含む架橋基とヘテロ原子を含む官能基(すなわち、ヘテロ原子を含む末端官能基)との間で明確な区別がされる。
【0051】
いずれの速度においても、必ずしも排他的である必要はないが、飽和脂肪族基Rが純粋な炭化水素基(アルキル基)であるモノマー、言い換えれば架橋基由来のヘテロ原子(例えば、エーテル基由来の酸素)を一切含まず、官能基(例えば、アルコール基)による置換もされないモノマーを使用することが優先される。Rがアルキル基である場合、例えば、直鎖、分枝、または環状アルキル基であり得る。このようなアルキル基は、当然ながら、直鎖および環状または分枝および環状構造成分も有し得る。アルキル基は、好ましくは、1~20個、より好ましくは1~10個の炭素原子を有する。
【0052】
特に好ましい、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸3,3,5-トリメチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロアルキル((メタ)アクリル酸シクロペンチルなど)、(メタ)アクリル酸イソボルニル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルであり、非常に特定的に優先されるのは、(メタ)アクリル酸n-およびtert-ブチルならびにメタクリル酸メチルである。
【0053】
その他の好適な基Rの例は、ヘテロ原子を含む官能基(例えば、アルコール基またはリン酸エステル基)を含む飽和脂肪族基である。好適な、1つを超えるヒドロキシル基で置換される飽和脂肪族基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、および(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルであり、非常に特定的に優先されるのは、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルである。好適な、リン酸エステル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルは、例えば、モノメタクリル酸ポリプロピレングリコールのリン酸エステル、例えばRhodiaから市販されているSipomer PAM200である。さらに可能なビニル基を含むモノオレフィン系不飽和モノマーは、上記のアクリレートベースのモノマーとは異なり、オレフィン系不飽和ではないビニル基上にR’基を有するモノマーである。
【0054】
【0055】
基R’は、飽和脂肪族、芳香族、または混合飽和脂肪族-芳香族であってもよく、芳香族および混合飽和脂肪族-芳香族基が優先され、脂肪族成分は、アルキル基を表す。
【0056】
特に好ましいさらなる、ビニル基を含むモノオレフィン系不飽和モノマーは、具体的には、ビニルトルエン、アルファ-メチルスチレン、とりわけスチレンである。
【0057】
また、R’基が以下の構造:
【化3】
を有する、ビニル基を含むモノ不飽和モノマーも可能であり、式中、基R1およびR2は、それぞれ、または共に合計7個の炭素原子を含むアルキル基である。この種のモノマーは、Momentiveから名称VeoVa(登録商標)10で市販されている。
【0058】
原則として好適なさらなるモノマーは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルイミダゾール、N-ビニル-2-メチルイミダゾリン、およびさらには不飽和α-β-カルボン酸などのオレフィン系不飽和モノマーである。
【0059】
好適なポリオレフィン系不飽和モノマーの例としては、オレフィン系不飽和基R”を有する(メタ)アクリル酸のエステルが挙げられる。基R”は、例えば、アリル基または(メタ)アクリロイル基であってもよい。
【0060】
【0061】
好ましいポリオレフィン系不飽和モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2-プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタン-1,4-ジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、およびアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
さらに、好ましいポリオレフィン系不飽和化合物は、2つを超えるOH基を有するアルコールのアクリルおよびメタクリル酸エステル、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートまたはグリセロールトリ(メタ)アクリレートなどを包含するが、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレートモノアリルエーテル、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレートジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートジアリルエーテル、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレートトリアリルエーテル、トリアリルスクロース、およびペンタアリルスクロースも包含する。また、例えば、トリメチロールプロパンモノアリルエーテルなどの一価または多価アルコールのアリルエーテルも可能である。使用する場合、好ましいポリオレフィン系不飽和モノマーは、ヘキサンジオールジアクリレートおよび/またはアリル(メタ)アクリレートである。
【0063】
個々の重合段階において使用されるモノマー混合物(A)、(B)および(C)に関しては、好ましくは、以下に説明する、観察される特定の条件がある。まず第一に、混合物(A)、(B)および(C)は、いずれにしても、互いに異なっている。したがって、これらは、それぞれ、異なるモノマーおよび/または異なる比率の少なくとも1種の所定のモノマーを含む。
【0064】
混合物(A)
混合物(A)は、25℃での水溶性が0.5g/l未満である、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも55質量%のオレフィン系不飽和モノマーを含む。このような好ましいモノマーのひとつはスチレンである。水中のモノマーの溶解度は、以下に記載の方法によって決定される。
【0065】
モノマー混合物(A)は、好ましくは、ヒドロキシ官能性モノマーを含有しない。同様に、好ましくは、モノマー混合物(A)は、酸官能性モノマーを含有しない。非常に好ましくは、モノマー混合物(A)は、ヘテロ原子を含む官能基を有するモノマーを一切含有しない。これは、存在する場合、ヘテロ原子が、架橋基の形態でのみ存在することを意味する。これは、例えば、(メタ)アクリレートベースであり、基Rとしてアルキル基を持つ、上記のモノオレフィン系不飽和モノマーにおける場合である。
【0066】
モノマー混合物(A)は、好ましくは、独占的にモノオレフィン系不飽和モノマーを含む。
【0067】
モノマー混合物(A)は、好ましくは、少なくとも1種の、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルと、少なくとも1種の、ビニル基を含むモノオレフィン系不飽和モノマーとを含み、ビニル基上に配置されたラジカルは、芳香族であるか、または混合飽和脂肪族-芳香族であり、この場合、ラジカルの脂肪族部分はアルキル基である。
【0068】
混合物(A)中に存在するモノマーは、それらから製造されたポリマーが、10~65℃、好ましくは30~50℃のガラス転移温度を持つように選択される。ここでのガラス転移温度は、以下に記載の方法によって決定することができる。
【0069】
モノマー混合物(A)の乳化重合によって段階iで製造されるポリマーは、シードとも呼ばれる。シードは、好ましくは、20~125nmの平均粒径を持つ(以下に記載の動的光散乱によって測定、判定法4を参照)。
【0070】
混合物(B)
混合物(B)は、少なくとも1種のポリオレフィン系不飽和モノマー、より好ましくは少なくとも1種のジオレフィン系不飽和モノマーを含む。このような好ましい一モノマーは、ヘキサンジオールジアクリレートである。モノマー混合物(B)は、好ましくは、ヒドロキシ官能性モノマーを含有しない。同様に好ましくは、モノマー混合物(B)は、酸官能性モノマーを含有しない。非常に好ましくは、モノマー混合物(B)は、ヘテロ原子を含む官能基を有するモノマーを一切含有しない。これは、ヘテロ原子が、存在する場合、架橋基の形態でのみ存在することを意味する。これは、例えば、(メタ)アクリレートベースであり、基Rとしてアルキル基を持つ上記のモノオレフィン系不飽和モノマーにおける場合である。
【0071】
好ましくは、モノマー混合物(B)ならびに少なくとも1種のポリオレフィン系不飽和モノマーは、いずれにしても、以下のさらなるモノマー、まず第一には、少なくとも1種の、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル、および第二には、少なくとも1種の、ビニル基を含み、ビニル基上に位置する基が芳香族または混合飽和脂肪族-芳香族基であり、その場合、ラジカルの脂肪族部分がアルキル基である、モノオレフィン系不飽和モノマーを含む。
【0072】
ポリ不飽和モノマーの分率は、好ましくは、モノマー混合物(B)中のモノマーの総モル量に対して0.05~3モル%である。
【0073】
混合物(B)中に存在するモノマーは、それらから製造されたポリマーが、-35から15℃、好ましくは-25から+7℃のガラス転移温度を持つように選択される。ここでのガラス転移温度は、以下に記載の方法によって決定することができる。
【0074】
モノマー混合物(B)の乳化重合により段階iiにおいてシードの存在下で製造されるポリマーは、コアとも呼ばれる。次いで、段階iiの後、結果としてシードおよびコアを含むポリマーが得られる。段階iiの後に得られるポリマーは、好ましくは、80~280nm、好ましくは120~250nmの平均粒径を持つ(以下に記載の動的光散乱によって測定、判定法4を参照)。
【0075】
混合物(C)
混合物(C)中に存在するモノマーは、それらから製造されるポリマーが、-50から15℃、好ましくは-20から+12℃のガラス転移温度を持つように選択される。ここでのガラス転移温度は、以下に記載の方法によって決定することができる。
【0076】
この混合物(C)のオレフィン系不飽和モノマーは、好ましくは、シード、コアおよびシェルを含む、結果として得られるポリマーが、10~25の酸価を有するように選択される。これに応じて、混合物(C)は、好ましくは、少なくとも1種のα-β不飽和カルボン酸、特に好ましくは(メタ)アクリル酸を含む。混合物(C)のオレフィン系不飽和モノマーは、さらに、またはあるいは、好ましくは、シード、コアおよびシェルを含む、結果として得られるポリマーが、0~30、好ましくは10~25のOH数を有するように選択される。前記酸価およびOH数は全て、全体的に用いられたモノマー混合物に基づいて計算された値である。
【0077】
モノマー混合物(C)は、好ましくは、少なくとも1種のα-β不飽和カルボン酸と、少なくとも1種の、ヒドロキシル基によって置換されたアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルとを含む。より好ましくは、モノマー混合物(C)は、少なくとも1種のα-β不飽和カルボン酸、少なくとも1種の、ヒドロキシル基によって置換されたアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステル、および少なくとも1種の、アルキル基を有する(メタ)アクリル酸のモノ不飽和エステルを含む。本発明との関連において、さらに特定せずにアルキル基について言及される場合、これは常に、官能基およびヘテロ原子を有さない純粋なアルキル基を意味する。
【0078】
段階iiiにおいて、モノマー混合物(C)の乳化重合によってシードおよびコアの存在下で製造されたポリマーは、シェルとも呼ばれる。次いで段階iii後の結果として、シード、コアおよびシェルを含むポリマー、すなわちポリマー(b)が得られる。その製造後、ポリマー(b)は、100~500nm、好ましくは125~400nm、非常に好ましくは130~300nmの平均粒径を持つ(下記のような動的光散乱によって測定、判定法4を参照)。
【0079】
モノマー混合物の分率は、好ましくは、以下のように互いにつり合いを取る。いずれの場合にも混合物(A)、(B)および(C)の個々の量の合計に対して、混合物(A)の分率は0.1~10質量%であり、混合物(B)の分率は60~80質量%であり、混合物(C)の分率は10~30質量%である。
【0080】
既に上で指摘したように、ポリマー(b)は、好ましくは、本発明の顔料ペーストを製造するために水性分散体の形態で使用される。この水性分散体は、好ましくは、5.0~9.0、より好ましくは7.0~8.5、非常に好ましくは7.5~8.5のpHを持つ。pHは、それ自体の製造中、例えばさらに低いことが確認されている塩基を使用することによって、一定に維持することができる、またはポリマーが製造された後に意図的に設定してもよい。特に好ましい実施形態において、この水性分散体が、5.0~9.0のpHを有し、その中に存在する少なくとも1種のポリマー(b)が、100~500nmの粒径を有するということである。さらにより好ましい範囲の組合せは、以下:7.0~8.5のpHおよび125~400nmの粒径、より好ましくは7.5~8.5のpHおよび130~300nmの粒径である。
【0081】
記載される段階iからiiiは、好ましくは、pHの調整のために知られている酸または塩基を添加せずに実施される。例えば、ポリマー(b)の製造において、段階iiiとの関連において好ましいことから、カルボキシ官能性モノマーを次いで使用する場合、段階iiiが終了した後、分散体のpHは7未満であってもよい。これに応じて、pHをより高い値に、例えば好ましい範囲内の値に調整するために、塩基を添加する必要があり得る。上記から、段階iii後のこの場合のpHは、好ましくは特に有機窒素含有塩基、例えばアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルアニリン、トリフェニルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、もしくはトリエタノールアミンなどのアミン、また炭酸水素ナトリウムまたはホウ酸塩などの塩基、また前記物質の混合物の添加によって、それに対応して調整されるか、または調整される必要がある。しかし、これは、乳化重合の前、間もしくは後、または個別の乳化重合間にpHを調整するといった可能性を排除しない。同様に、モノマーの選択の結果により、pHを所望の値に調整する必要が全くない可能性もある。ここでのpHの測定は、好ましくは、pH複合電極(例えば、Mettler-Toledo InLab(登録商標)Routine)を有するpHメーター(例えば、Mettler-Toledo S20 SevenEasy pHメーター)を使用して実施される。
【0082】
本発明の顔料ペーストを製造するためにポリマー(b)を水性分散体の形態で使用した場合、不発性物質の分率は、いずれの場合も水性分散体の総質量に対して、好ましくは15~40質量%の範囲、より好ましくは20~30質量%の範囲である。ここでの不揮発性物質の分率は、以下に記載の方法によって決定される。使用される水性分散体は、好ましくは、いずれの場合も分散体の総質量に対して、55~75質量%、特に好ましくは60~70質量%の含水率を占める。分散体の固形分と分散体の含水率との合計パーセンテージは、好ましくは少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%である。次に好ましいのは、80~99質量%、より特定すると90~97.5質量%の範囲である。これに応じて、使用される水性分散体は、大部分が水およびポリマー(b)からなり、特に有機溶媒などの環境に負担になる成分はごく少量のみ含むか、または全く含まない。
【0083】
本発明の顔料ペーストのさらなる任意の成分
本発明の顔料ペーストは、さらに、任意の構成要素および任意の成分を含んでもよい。
【0084】
少なくとも1種の着色顔料(a)以外に、顔料ペーストは、着色顔料(a)とは異なる少なくとも1種の効果顔料をさらに含んでもよい。
【0085】
当業者は、効果顔料の概念を熟知している。対応する定義が、例えば、Roempp Lexikon、Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、1998、第10編、176頁および471頁に見られる。効果顔料は、好ましくは、光学的効果または色彩および光学的効果の両方、特に光学的効果を付与する顔料である。したがって用語「光学的効果および着色顔料」、「光学的効果顔料」および「効果顔料」は、好ましくは区別なく使用可能である。
【0086】
好ましい効果顔料は、例えば、層状アルミニウム顔料、金青銅、酸化青銅および/もしくは酸化鉄-アルミニウム顔料、真珠伯などの真珠光沢顔料、塩基性炭酸鉛、オキシ塩化ビスマスおよび/もしくはマイカ担持金属酸化物顔料、ならびに/またはその他の効果顔料、例えば層状黒鉛、層状酸化鉄、PVD膜で構成される多層効果顔料、および/もしくは液晶ポリマー顔料などのプレートレット形状の金属効果顔料である。顔料ペースト中、特に好ましいのは、層状効果顔料、特に層状アルミニウム顔料およびマイカ担持金属酸化物顔料である。
【0087】
効果顔料の分率は、好ましくは、いずれの場合も水性顔料ペーストの総質量に対して、1.0~50.0質量%、好ましくは2.0~45.0質量%、より好ましくは5.0~40.0質量%の範囲の状態にある。しかし、好ましくは、本発明の顔料ペーストは、単独の顔料として少なくとも1種の着色顔料(a)を含み、好ましくは効果顔料などの追加の顔料を含有しないことを意味する。好ましくは、さらに、本発明の顔料ペーストは、充填剤を含有しない。
【0088】
顔料ペーストは、任意でさらに、少なくとも1種の増粘剤(thickener)(濃厚剤(thickening agent)とも呼ばれる)を含んでもよい。このような増粘剤の例として、無機増粘剤(例としては、フィロケイ酸塩などの金属ケイ酸塩)および有機増粘剤(例としては、ポリ(メタ)アクリル酸増粘剤および/または(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤、ポリウレタン増粘剤、ならびに高分子ワックスがある)がある。金属ケイ酸塩は、好ましくは、スメクタイトの群から選択される。特に優先的には、スメクタイトは、モンモリロナイトおよびヘクトライトの群から選択される。より特定すると、モンモリロナイトおよびヘクトライトは、ケイ酸マグネシウムアルミニウムならびにフィロケイ酸マグネシウムナトリウムおよびフィロケイ酸リチウムフッ素マグネシウムナトリウムからなる群から選択される。これらの無機フィロケイ酸塩は、例えば、Laponite(登録商標)の商標名で販売されている。ポリ(メタ)アクリル酸をベースとした増粘剤、ならびに(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤は、好適な塩基で任意に架橋および/または中和されている。このような濃厚剤の例として、アルカリ膨潤性エマルション(ASE)、およびその疎水的に改質された変異体、「親水的に改質されたアルカリ膨潤性エマルション」(HASE)がある。これらの濃厚剤は、好ましくは、アニオン性である。Rheovis(登録商標)AS1130などの対応する製品が市販されている。ポリウレタンをベースとした濃厚剤(例えば、ポリウレタン会合性濃厚剤)は、好適な塩基で任意に架橋および/または中和されている。Rheovis(登録商標)PU1250などの対応する製品が市販されている。好適な高分子ワックスの例としては、エチレン酢酸ビニルコポリマーをベースとした、任意に改質された高分子ワックスが挙げられる。対応する製品は、例えば、Aquatix(登録商標)の商標名で市販されている。少なくとも1種の増粘剤が、好ましくは、本発明の顔料ペースト中に、いずれの場合も顔料ペーストの総質量に対して、最大10質量%、より好ましくは最大7.5質量%、非常に好ましくは最大5質量%、より特定すると最大3質量%、最も好ましくは最大2質量%の量で存在する。
【0089】
所望の用途に応じて、本発明の顔料ペーストは、(a)さらなる成分として1種以上の通常用いられる添加剤を含んでもよい。例えば、既に上で指摘したように、顔料ペーストは、特定の分率の少なくとも1種の有機溶媒を含んでもよい。さらに、顔料ペーストは、反応性希釈剤、充填剤、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、滑剤、重合阻害剤、ラジカル重合の開始剤、付着促進剤、流量調整剤、膜形成補助剤、垂れ制御剤(SCA)、難燃剤、腐食防止剤、乾燥剤、殺生物剤、および艶消し剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含んでもよい。これらは、公知の通常の分率で使用され得る。これらの量は、本発明の顔料ペーストの総質量に対して、好ましくは0.01~20.0質量%、より好ましくは0.05~15.0質量%、非常に好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~7.5質量%、より特定すると0.1~5.0質量%、最も好ましくは0.1~2.5質量%である。
【0090】
本発明の顔料ペーストは、顔料ペーストの製造に慣例的かつ公知の混合アセンブリおよび混合方法を用いて製造することができる。
【0091】
本発明のベースコート材料
本発明の顔料ペーストは、水性ベースコート材料の製造に適している。したがって本発明のさらなる主題は、水性ベースコート材料であり、このベースコート材料は、成分(1)として本発明の少なくとも1種の顔料ペーストを、ベースコート材料の製造に適した、結合剤として使用できる少なくとも1種のポリマーを含む少なくとも1種の水性成分(2)と混合させることによって製造可能であり、該ポリマーは、同様に顔料ペースト中に存在するポリマー(b)を含む、かつ/またはそれとは異なる少なくとも1種のポリマーを含む結合剤として使用できる。
【0092】
本発明のベースコート材料中に存在する全ての成分(1)、(2)および水ならびに追加で存在するさらなる任意の成分の質量%で表す分率は、ベースコート材料の総質量に対して、合計して100質量%になる。
【0093】
本発明の顔料ペーストと関連する上記の全ての好ましい実施形態は、顔料ペーストの成分(a)および(b)に関連した本発明のベースコート材料を製造するための顔料ペーストの使用に関する好ましい実施形態でもある。
【0094】
ベースコート材料の概念は、当業者に公知であり、例えば、Roempp Lexikon、Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、1998、第10編、57頁で定義されている。これに応じて、ベースコートは、より具体的には、自動車仕上げおよび一般産業塗料に使用される、より特定すると色を付与する、かつ/または色を付与し、光学的効果を付与する中塗り塗料である。これは一般に、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーで前処理しておいた金属またはプラスチック基材に適用され、場合によってはプラスチック基材への直接の適用もされる。さらに(例えば、サンダー仕上げによる)前処理する必要があり得る古い塗装も同様に、基材としての機能を果たす。ここでは複数のベースコート膜に適用することは完全に恒例化している。これに応じて、このような場合、第1のベースコート膜は、第2のための基材を表す。特に環境影響からベースコート膜を保護するために、少なくとも1つの追加のクリアコート膜が適用される。
【0095】
本発明のベースコート材料の製造のために使用される成分(2)は、結合剤として用いることができる少なくとも1種のポリマーを含み、結合剤として用いることができるこのポリマーは、顔料ペースト中に存在するポリマー(b)および/またはそれとは異なる少なくとも1種のポリマーを含む。好ましくは、結合剤として用いることができ、成分(2)中に存在するポリマーは、同様に顔料ペースト中にも存在するポリマー(b)を含む。
【0096】
本発明の顔料ペーストをその製造中で使用した結果、ベースコート材料は、少なくとも1種のポリマー(b)を含む。少なくとも1種のポリマー(b)は、好ましくは、ベースコート材料の主要結合剤である。主要結合剤は、好ましくは、各塗料組成物の総質量に対してより多くの分率で存在するベースコート材料などの他の結合剤成分が塗料組成物中に含まれない場合、本発明との関連において結合剤成分に使用される用語である。結合剤の概念は、DIN EN ISO4618(ドイツ版、日付:2007年3月)を基準として既に上で定義したものである。
【0097】
本発明のベースコート材料は、水性である。これは、好ましくは、その主要の溶媒が、いずれの場合も本発明のベースコート材料の総質量に対して、好ましくは少なくとも20質量%の量の水である系を含み、好ましくは20質量%未満の量の低分率の有機溶媒を含む。
【0098】
本発明のベースコート材料は、好ましくは、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも30質量%、より特定すると少なくとも35質量%の含水率を占める。
【0099】
本発明のベースコート材料は、好ましくは、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、20~60質量%の範囲、より好ましくは25~55質量%の範囲、非常に好ましくは30~50質量%の範囲の含水率を占める。
【0100】
本発明のベースコート材料は、好ましくは、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、20質量%未満の範囲、より好ましくは0から20質量%未満の範囲、非常に好ましくは0.5から20質量%未満または15質量%までの範囲の分率の有機溶媒を含む。
【0101】
本発明のベースコート材料の固形分は、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは11~45質量%、非常に好ましくは12~40質量%、より特定すると13~37.5質量%の範囲である。固形分、すなわち、不揮発性物質の分率は、以下に記載の方法に従って決定される。
【0102】
本発明のベースコート材料の固形分と本発明のベースコート材料中の含水率との合計パーセンテージは、好ましくは少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも50質量%である。次に好ましいのは、40~95質量%、より特定すると45または50~90質量%の範囲である。例えば、本発明のベースコート材料が、18質量%の固形分および25質量%の含水率を有する場合、上記の固形分と含水率との合計パーセンテージは43質量%である。
【0103】
本発明のベースコートは、好ましくは、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、1.0~20質量%、より好ましくは1.5~19質量%、非常に好ましくは2.0~18.0質量%、より特定すると2.5~17.5質量%、最も好ましくは3.0~15.0質量%の範囲の分率のポリマー(b)を含む。ベースコート材料中のポリマー(b)の分率は、ポリマー(b)を含む水性分散体の固形分(不揮発性物質の分率または固体の分率とも呼ばれる)を決定することによって決定または指定され、顔料ペースト(成分1)のみを製造するだけでなく、任意に成分(2)を製造するためにも使用することができる。
【0104】
本発明のベースコートは、好ましくは、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、1~25質量%、より好ましくは1.5~22.5質量%、非常に好ましくは2~20質量%、より特定すると2.5~18質量%、最も好ましくは3~16質量%または3~15質量%の範囲の分率の着色顔料(a)を含む。
【0105】
ベースコート材料中の少なくとも1種の着色顔料(a)とポリマー(b)との相対的質量比は、好ましくは、8:1~1:2の範囲、より好ましくは6:1~1:1の範囲、非常に特定すると5:1~1:1の範囲、より特定すると4:1~1:1の範囲である。
【0106】
本発明の顔料ペーストを使用して製造される本発明の水性ベースコート材料は、好ましくは、少なくとも顔料ペーストを混合することによってベースコート材料中に取り入れられるポリマー(b)の水性分散体を含む。ポリマー(b)は、既に上に記載したものである。本発明の水性ベースコート材料は、少なくとも本発明の顔料ペーストをその製造中に使用することによって、少なくとも1種の着色顔料、すなわち少なくとも1種の着色顔料(a)を少なくとも含む。対応する着色顔料(a)は、既に上に記載したものである。これに加えて、本発明の水性ベースコート材料は、着色顔料(a)、より特定すると効果顔料とは異なるさらなる顔料を含んでもよい。対応する顔料は、同様に、既に上に記載したものである。これらの顔料は、好ましくは、ベースコート材料の製造に使用される成分(2)中に存在する。ベースコート材料中の全ての顔料の総分率は、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、好ましくは0.5~40.0質量%、より好ましくは2.0~20.0質量%、非常に好ましくは3.0~15.0質量%の範囲である。
【0107】
本発明の水性ベースコート材料は、好ましくは、結合剤として、ポリマー(b)とは異なる少なくとも1種のポリマー、より特定するとポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレートおよび/または規定のポリマーのコポリマー、より特定するとポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートおよび/またはポリウレタン-ポリ尿素からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーをさらに含む。ポリマー(b)とは異なるこのポリマーは、好ましくは、ベースコート材料の製造に使用される成分(2)中に存在する。ここでは、成分(2)がポリマー(b)を含有する可能性はないが、代わりに、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレートおよび/または規定のポリマーのコポリマー、より特定するとポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートおよび/またはポリウレタン-ポリ尿素からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーを含む。
【0108】
好ましいポリウレタンは、例えば、独国特許出願公開第19948004(A1)号明細書の4頁19行目から11頁29行目(Polyurethane prepolymer B1)、欧州特許出願第0228003(A1)号の3頁24行から5頁40行、欧州特許出願第0634431(A1)号の3頁38行から8頁9行、および国際特許出願第92/15405号の2頁35行から10頁32行に記載されている。
【0109】
好ましいポリエステルは、例えば、独国特許出願公開第4009858(A1)号明細書の6列53行から7列61行および10列24行から13列3行、または国際公開第第2014/033135(A2)号の2頁24行から7頁10行および28頁13行から29頁13行に記載されている。
【0110】
好ましいポリウレタンポリ(メタ)アクリレートコポリマー((メタ)アクリレートポリウレタン)およびそれらの製造は、例えば、国際公開第91/15528(A1)号の3頁21行から20頁33行、および独国特許出願公開第4437535(A1)号明細書の2頁27行から6頁22行に記載されている。
【0111】
好ましいポリウレタン-ポリ尿素コポリマーは、好ましくは平均粒径が40~2000nmのポリウレタン-ポリ尿素粒子であり、このポリウレタン-ポリ尿素粒子は、いずれの場合も反応形態であり、アニオン基および/またはアニオン基に変換可能な基を含む少なくとも1種のイソシアネート基含有ポリウレタンプレポリマーならびに2つの一級アミノ基および1つもしくは2つの二級アミノ基を含む少なくとも1種のポリアミンを含む。このようなコポリマーは、好ましくは、水性分散体の形態で使用される。この種のポリマーは、原則として、例えば、ポリイソシアネートとポリオールおよびポリアミンの通常の重付加によって製造可能である。このようなポリウレタン-ポリ尿素粒子の平均粒径は、以下に記載の通りに決定される(以下に記載の動的光散乱によって測定、判定法4を参照)。
【0112】
ベースコート材料中のポリマー(b)とは異なる該ポリマーの分率は、好ましくは、ベースコート材料中のポリマー(b)の分率より少ない。記載のポリマーは、好ましくは、ヒドロキシ官能性であり、特に好ましくは、15~200mg KOH/g、より好ましくは20~150mg KOH/gの範囲のOH数を持つ。
【0113】
特に優先的には、ベースコート材料は、少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートコポリマー、より好ましくは少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートコポリマーおよび少なくとも1種のヒドロキシ官能性ポリエステル、ならびに任意の、好ましくはヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリ尿素コポリマーを含む。
【0114】
結合剤としてのさらなるポリマーの分率は、広範に変動し得、好ましくは、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、1.0~25.0質量%、より好ましくは3.0~20.0質量%、非常に好ましくは5.0~15.0質量%の範囲の状態にある。
【0115】
本発明のベースコート材料は、それ自体が公知の少なくとも1種の典型的な架橋剤をさらに含んでもよい。架橋剤を含む場合、その架橋剤は、好ましくは少なくとも1種のアミノ樹脂および/または少なくとも1種のブロックまたは遊離ポリイソシアネート、好ましくはアミノ樹脂である。アミノ樹脂の中でも、メラミン樹脂が特に好ましい。ベースコート材料が架橋剤を含む場合、これらの架橋剤、特にアミノ樹脂および/またはブロックもしくは遊離ポリイソシアネート、非常に好ましくはアミノ樹脂、次に好ましくはメラミン樹脂の分率は、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、好ましくは0.5~20.0質量%、より好ましくは1.0~15.0質量%、非常に好ましくは1.5~10.0質量%の範囲の状態にある。架橋剤の分率は、好ましくは、ベースコート材料中のポリマー(b)の分率より少ない。
【0116】
本発明のベースコート材料のさらなる任意の成分
本発明のベースコート材料は、さらなる任意の構成要素または任意の成分を含んでもよい。これらは、効果顔料、増粘剤、有機溶媒、および上記のさらなる添加剤などの、本発明の顔料ペーストに関連する、上で確認されたものと同じさらなる構成要素である。
【0117】
効果顔料の分率は、いずれの場合も水性ベースコート材料の総質量に対して、好ましくは0.5~30.0質量%、より好ましくは1.0~25.0質量%、非常に好ましくは1.5~15.0質量%の範囲である。少なくとも1種の増粘剤は、本発明のベースコート材料中に、いずれの場合もベースコート材料の総質量に対して、好ましくは最大10質量%、より好ましくは最大7.5質量%、非常に好ましくは最大5質量%、より特定すると最大3質量%、最も好ましくは最大2質量%の量で存在する。少なくとも1種のさらなる添加剤の量は、本発明のベースコート材料の総質量に対して、好ましくは0.01~20.0質量%、より好ましくは0.05~15.0質量%、非常に好ましくは0.1~10.0質量%、特に好ましくは0.1~7.5質量%、より特定すると0.1~5.0質量%、最も好ましくは0.1~2.5質量%である。
【0118】
本発明のベースコート材料は、ベースコート材料の製造に一般的かつ公知の混合アセンブリおよび混合方法を用いて製造できるが、混合成分(成分(1))として本発明の顔料ペーストを使用する。
【0119】
水性着色顔料ペースト中に着色顔料を分散するためのポリマー(b)の使用
ポリマー(b)は、水性着色顔料ペースト中に着色顔料を分散させるのに適している。したがって本発明のさらなる主題は、水性着色顔料ペースト中に、着色顔料を分散させるための、本発明の第1の主題と関連して識別されるポリマー(b)の使用である。
【0120】
本発明の顔料ペーストおよび本発明のベースコート材料に関連した上記の全ての好ましい実施形態は、水性着色顔料ペースト中に着色顔料を分散させるためのポリマー(b)の使用に関する好ましい実施形態でもある。
【0121】
マルチコート塗装系
本発明のさらなる主題は、
(1a)水性ベースコート材料を基材に適用し、
(2a)段階(1a)で適用した塗料からポリマー膜を形成させ、
(1b)任意に、さらなる水性ベースコート材料を、こうして形成されたポリマー膜に適用し、
(2b)任意に、段階(1b)で適用した塗料からポリマー膜を形成させ、
(3)クリアコート材料を、結果として生じたベースコート膜に適用し、続いて、
(4)ベースコート膜を、クリアコート膜とともに共同硬化することによって、
マルチコート塗装系を製造する方法であって、
本発明のベースコート材料が、段階(1a)で使用されるか、または、本方法が、段階(1b)および(2b)をさらに含む場合、段階(1a)および/もしくは(1b)で、好ましくは段階(1b)で使用される、方法である。本発明の顔料ペーストおよび本発明の水性ベースコート材料の上記全ての(好ましい)型も、本発明の方法に適用可能である。この方法は、色付与ならびに色および効果付与のマルチコート塗装系の製造に用いられる。
【0122】
段階(1a)で使用される基材は、好ましくは、電着膜(EC)、より好ましくは電着塗料の陰極析出によって適用された電着膜を有し、段階(1a)で使用されるベースコート材料は、EC塗装された、好ましくは金属基材に直接適用され、基材に適用された電着膜(EC)は、好ましくは、段階(1a)の実行中に硬化される。次いで、段階(4)において、好ましくは、段階(1a)および(2a)に従って、好ましくは陰極硬化電着膜で塗装された好ましくは金属基材に適用されたベースコート膜は、さらなるベースコート膜と共同で硬化され、段階(1b)および(2b)に従って第1のベースコート膜に適用され、次に、段階(3)に従って、クリアコート膜を用いて、さらなるベースコート膜に適用される。
【0123】
本発明の水性ベースコート材料の適用は、通常、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーを用いて前処理しておいた金属またはプラスチック基材に対して行われる。前記ベースコート材料はまた、任意に、プラスチック基材に直接適用され得る。あるいは、本発明の水性ベースコート材料は、好ましくは、基材、特に金属基材のサーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーを用いた前処理もせずに適用してもよく、この場合、本発明の方法は、好ましくは、段階(1b)および(2b)を含み、少なくとも2つのベースコート膜が適用され、本発明のベースコート材料は、段階(1a)および/または(1b)中、より好ましくは段階(1b)中のみで用いられることを意味する。この場合、使用される金属基材は、好ましくは、硬化電着膜で塗装されている。
【0124】
金属基材が塗装される場合、サーフェーサーもしくはプライマーサーフェーサーの適用または本発明の水性ベースコート材料の適用に先立って、電着系で塗装されることも好ましい。プラスチック基材が塗装される場合、サーフェーサーもしくはプライマーサーフェーサーの適用または本発明の水性ベースコート材料の適用に先立って、前処理されることも好ましい。このような前処理に最もよく用いられる方法は、火炎処理、プラズマ処理、およびコロナ放電である。優先的には、火炎処理が用いられる。本発明の水性ベースコート材料(複数可)の金属基材への適用は、自動車産業との関係において一般的な膜厚、例えば、5~100マイクロメートル、好ましくは5~60マイクロメートル、特に好ましくは5~30マイクロメートルの範囲で行われ得る。これは、例えば、圧縮エアスプレー、エアレススプレー、高速回転、静電スプレーの適用(ESTA)などのスプレー適用法を、単独でまたは例えば熱風スプレーなどのホットスプレーの適用と共同で用いて行われる。
【0125】
水性ベースコート材料(複数可)は適用後、公知の方法によって乾燥してよい。例えば、好ましい(一成分)ベースコート材料を室温(23℃)で1~60分間フラッシュオフし、続いて、好ましくは任意のやや高温30~90℃で乾燥させる。本発明との関係におけるフラッシュオフおよび乾燥は、有機溶媒および/または水の蒸発を意味し、その結果、塗料は乾燥してくるが、依然として硬化されておらず、または今のところ完全に架橋された塗膜は形成されていない。
【0126】
次いで、ここでも通常の方法によって市販の一般的なクリアコート材料が適用され、ここでも膜厚は通常の範囲内の、例えば5~100マイクロメートルである。
【0127】
クリアコート材料の適用後、例えば、室温(23℃)で1~60分間フラッシュオフし、任意で乾燥することができる。次いでクリアコートを、適用したベースコートとともに硬化する。この段階で、例えば、架橋反応が生じ、それによってマルチコートの効果付与ならびに/または色および効果付与の塗装系が基材上に製造される。硬化は、好ましくは、60~200℃の温度の熱によって達成される。プラスチック基材の塗装は、基本的に、金属基材と同様の方法で行われる。しかし、ここでは、硬化は、一般に非常に低温の30~90℃で行われる。したがって、優先的には、二成分クリアコート材料が使用される。
【0128】
本発明の方法を用いて、金属および非金属基材、より特定するとプラスチック基材、好ましくは自動車本体またはその部品を塗装することができる。本発明の方法は、OEM仕上げの一部としての二重仕上げにも用いることができる。これは、本発明の方法の手段によって塗装された基材が、2回目も同様に本発明の方法の手段によって塗装されることを意味する。
【0129】
段階(1a)の前記基材は、欠点を持つマルチコート塗装系でもあり得る。この欠点を持つマルチコート塗装系の基材の場合、基材は、良好または完全に塗り直しされる最初の仕上げのものである。本発明の方法はこのように、マルチコート塗装系の欠点の修復に好適である。欠点または塗膜欠陥は、通常、その形状またはその外観に応じて示される、塗装上のまたは塗装における欠陥に対して一般に用いられる用語である。当業者は、このような塗膜欠陥の想定される種類を数多く承知している。これらは、例えば、Roempp Lexikon、Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、1998、235頁、「Film defects」に記載されている。
【0130】
判定法
1.不揮発性物質の分率の決定
不揮発性物質の分率(固形分)は、DIN EN ISO 3251(日付:2008年6月)に従って決定される。1gの試料を量り分け、あらかじめ乾燥しておいたアルミニウム皿に移し、試料を載せた皿を125℃の乾燥キャビネット中で60分間乾燥させ、デシケーター中で冷却し、次いで重さを再び量る。使用した試料の総量に対する残留分は、不揮発性物質の分率に対応する。
【0131】
2.ポリマー(b)の製造に使用される水中の混合物(A)のモノマーの溶解度の決定
水中のモノマーの溶解度は、水性相の上のガス空間との平衡を確立することによって決定される(参考文献X.-S.Chai、Q.X.Hou、F.J.Schork、Journal of Applied Polymer Science 99巻、1296~1301頁(2006年)と同様)。この目的のために、20mlのガス空間を有する試料管中、2mlなどの所定の容量の水を、溶解できないほど多めの質量の各モノマーと混合する、またはいずれにしても選択した水量の中で完全に溶解させる。さらに乳化剤(試料混合物の総質量に対して10ppm)を添加する。平衡濃度を得るために、混合物を連続的に振る。上澄み気相を不活性ガスで置き換えて、平衡を再確立させる。除去した気相中、検出される物質の分率をそれぞれ(例えば、ガスクロマトグラフィーによって)測定する。水中の平衡濃度は、気相中のモノマーの分率をグラフとしてプロットすることによって決定することができる。曲線の傾きは、過度のモノマー分率が混合物から除去されるとすぐに、実質的に一定の値(S1)から大きな負の傾き(S2)に変化する。ここでの平衡濃度は、傾きS1の直線と傾きS2の直線の交点で達成する。記載される判定は、25℃で行われる。
【0132】
3.混合物(A)、(B)および(C)それぞれのモノマーからいずれの場合において得られるポリマーのガラス転移温度の決定
ガラス転移温度Tgは、DIN 51005(日付:2005年8月)「Thermal Analysis(TA)-terms」およびDIN 53765(日付:1994年3月)「Thermal Analysis-Dynamic Scanning Calorimetry(DSC)」に基づく方法で実験により決定される。これは、15mgの試料を試料ボートに量り分け、ボートをDSC機器に導入することを要する。開始温度まで冷却した後、50ml/分の不活性ガス(N2)のパージング下、10K/分の加熱速度で1回目と2回目の測定を行い、各測定の間で冷却して開始温度に戻す。測定は、推定されるガラス転移温度より約50℃低い温度から推定されるガラス転移温度より約50℃高い温度までの温度範囲で行われる。DIN53765のセクション8.1に従って記録されたガラス転移温度は、比熱容量における変化の半分(0.5デルタcp)に到達する第2の測定の温度である。これは、DSC線図(温度に対する熱流のプロット)から決定される。これは、ガラス転移の前後の外挿基線間の中心線と、測定プロットとの交点に対応する温度である。測定において推定されるガラス転移温度の有用な判定のために、公知のFox式を用いてもよい。Fox式は、分子量を含まずに、ホモポリマーのガラス転移温度およびその質量分率に基づき、優れた近似を示すため、合成段階において当業者にとって有用なツールとして使用することができ、目標に向かう試験を介して所望のガラス転移温度を設計することを可能にする。
【0133】
4.ポリマー(b)および任意で用いることができるポリウレタン-ポリ尿素粒子の平均粒径の決定
平均粒径は、DIN ISO13321(日付:2004年10月)に基づく方法における動的光散乱(光子相関分光法:PCS)によって決定される。用語「平均粒径」は、本明細書において、測定した平均粒径(Z平均)を意味すると理解される。測定は、25±1℃でMalvern Nano S90(Malvern Instruments製)を使用して行われる。この機器は、3~3000nmのサイズ範囲に対応し、633nmで4mWのHe-Neレーザーを備えている。各試料を、分散媒体とした粒子を含まない脱イオン水で希釈し、次いで1mlのポリスチレンキュベット中で好適な散乱強度にて測定する。デジタル相関器を使用し、Zetasizer ソフトウェア、バージョン7.11、(Malvern Instruments製)を補助として用いて評価を行った。測定を5回実施し、第2の新しく製造した試料に対して測定を繰り返す。ポリマー(b)に関し、平均粒径は、測定した平均粒径の算術数値平均(Z平均、数値平均)を指す。この場合の5回判定の標準偏差は、4%以下である。任意に用いることができるポリウレタン-ポリ尿素粒子に関しては、平均粒径は、個々の調合物の平均粒径の算術体積平均(V平均、体積平均)を指す。5つの個々の測定値の体積平均の最大偏差は、±15%である。50~3000nmの認定された粒径を有するポリスチレン標準で検証を行う。
【0134】
5.数平均分子量の決定
数平均分子量(Mn)は、別段の指定がない限り、E.Schroeder、G.Mueller、K.-F.Arndt、「Leitfaden der Polymercharakterisierung」[Principles of polymer characterization]、Akademie-Verlag、Berlin、47~54頁、1982年に従って、50℃でトルエン中の濃度系列に対し、使用する機器の実験較正定数を決定するために較正物質としてベンゾフェノンを用いた、モデル10.00の蒸気圧浸透圧計(Knauer製)を使用して決定される。
【0135】
6.膜厚の決定
膜厚は、DIN EN ISO 2808(日付:2007年5月)、方法12Aに従い、ElektroPhysik製のMiniTest(登録商標)3100-4100機器を使用して決定する。
【0136】
7.貯蔵安定性の判定
貯蔵安定性の判定のために、検討中の試料を、貯蔵する前および40℃で数週間貯蔵した後、DIN53019-1(日付:2008年9月)に従って回転式粘度計を使用して分析し、標準条件(23.0℃±0.2℃)下でDIN53019-2(日付:2001年2月)に従って較正する。これらの試料をまず1000s-1の剪断速度で5分間剪断加工し(力印加段階)、次いで1s-1の剪断速度で8分間剪断加工する(力遮断段階)。力印加段階中の平均粘度レベル(高剪断粘度)および8分間の力遮断段階後のレベル(低剪断粘度)を測定データから決定し、各パーセンテージの変化を計算することによって貯蔵前後の値を互いに比較する。
【0137】
8.ピンホールの発生および膜厚によって決まるレベリングの評価
8.1 ピンホールの発生および膜厚によって決まるレベリングを評価するために、以下の一般的なプロトコルに従ってウェッジ型マルチコート塗装系を製造する(変形形態A~C)。
【0138】
変形形態A: ウェッジとしての水性ベースコート材料
標準陰極電着塗装した(BASF Coatings GmbH製のCathoGuard(登録商標)800)寸法30×50cmの鋼製パネルを、接着ストリップ(Tesaband、19mm)を有する一長手方向端縁に設け、塗装後の膜厚の差の決定を可能にする。水性ベースコート材料に、0~40μmを目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)とし、ウェッジとして静電塗装を施す。室温(23℃)における4~5分のフラッシュオフ時間の後、系を60℃の強制空気オーブン中で10分間乾燥させる。接着ストリップを除去した後、市販の二成分クリアコート材料(BASF Coatings GmbH製のProGloss(登録商標))を重力送り式スプレーガンによって手動で、40~45μmを目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)として、乾燥した水性ベースコート膜に適用する。結果として得られるクリアコート膜を室温(23℃)で10分間ブラッシュオフする。この後、140℃の強制空気オーブン中でさらに20分間硬化させる。
【0139】
変形形態B: ウェッジとしての第1の水性ベースコート材料、一定の塗料としての第2の水性ベースコート材料
標準陰極電着塗装した(BASF Coatings製のCathoGuard(登録商標)800)寸法30×50cmの鋼製パネルを、2つの接着ストリップ(Tesaband、19mm)を有する一長手方向端縁に設け、塗装後の膜厚の差の決定を可能にする。第1の水性ベースコート材料に、0~30μmを目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)とし、ウェッジとして静電塗装を施す。この後、室温(23℃)で3分間フラッシュオフし、2つの接着ストリップのうちの片方を除去する前および後に、第2の水性ベースコート材料を、同様に、単回で静電塗装を施す。目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)は、13~16μmである。室温(23℃)における4分のさらなるフラッシュオフ時間の後、系を60℃の強制空気オーブン中で10分間乾燥させる。第2の接着ストリップを除去した後、市販の二成分クリアコート材料(BASF Coatings GmbH製のProGloss(登録商標))を重力送り式スプレーガンによって手動で、40~45μmを目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)として、乾燥した水性ベースコート膜に適用する。結果として得られるクリアコート膜を室温(23℃)で10分間フラッシュオフする。この後、140℃の強制空気オーブン中でさらに20分間硬化させる。
【0140】
変形形態C: 一定の塗料としての第1の水性ベースコート材料、ウェッジとしての第2の水性ベースコート材料
標準陰極電着塗装した(BASF Coatings製のCathoGuard(登録商標)800)寸法30×50cmの鋼製パネルを、2つの接着ストリップ(Tesaband、19mm)を有する一長手方向端縁に設け、塗装後の膜厚の差の決定を可能にする。第1の水性ベースコート材料に、18~22μmを目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)として静電塗装を施す。この後、室温(23℃)で3分間フラッシュオフし、2つの接着ストリップのうちの片方を除去する前および後に、第2の水性ベースコート材料をウェッジとして、同様に、単回で静電塗装を施す。目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)は、0~30μmである。室温(23℃)における4分のさらなるフラッシュオフ時間の後、系を60℃の強制空気オーブン中で10分間乾燥させる。第2の接着ストリップを除去した後、市販の二成分クリアコート材料(BASF Coatings GmbH製のProGloss(登録商標))を重力送り式スプレーガンによって手動で、40~45μmを目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)として、乾燥した水性ベースコート膜に適用する。結果として得られるクリアコート膜を室温(23℃)で10分間フラッシュオフする。この後、140℃の強制空気オーブン中でさらに20分間硬化させる。
【0141】
8.2 ピンホールの発生の評価
ピンホールの発生を評価するために、マルチコート塗装系を、水性ベースコートウェッジ系(それぞれ変形形態BおよびC)の塗料のためのセクション8.1の方法に従って製造し、次いで以下の一般的なプロトコルに従って目視評価する。
【0142】
第1および第2の水性ベースコート材料からなる、水性ベースコート系全体の乾燥膜厚を確認し、ベースコート膜厚のウェッジについては、鋼製パネル上の0~20μmの領域および20μmからウェッジの端部までの領域に印を付ける。水性ベースコートウェッジの2つの別々の領域中のピンホールを目視評価する。一領域当たりのピンホールの数を計数する。全ての結果を200cm2の面積に標準化する。これに加えて、任意に、ピンホールが生じなくなる水性ベースコートウェッジの乾燥膜厚の記録を付ける。
【0143】
8.3 膜厚によって決まるレベリングの評価
膜厚によって決まるレベリングを評価するために、マルチコート塗装系を、水性ベースコートウェッジ系(それぞれ変形形態A、BおよびC)の塗料のための方法に従って製造し、次いで以下の一般的なプロトコルに従って評価する。
【0144】
第1および第2の水性ベースコート材料からなる、水性ベースコート系全体の乾燥膜厚を確認し、ベースコート膜厚のウェッジについては、鋼製パネル上の15~20μm、さらには20~25μmおよび/または10~15μm、15~20μm、20~25μm、25~30μm、ならびに任意の30~35μmの領域のうちの少なくとも1つに印を付ける。膜厚によって決まるレベリングを決定し、Byk/Gardner製のWave scan機器によって、先に決定した4つのベースコート膜厚の範囲内で評価する。この目的のために、レーザー光線を60°の角度で分析中の表面上に向け、10cmの距離における機器によって短波範囲(0.3~1.2mm)および長波範囲(1.2~12mm)の反射光における変動を記録する(長波=LW、短波=SW、値が小さいほど、外観が良好である)。さらに、マルチコート系の表面中の反射した像の鮮明さの指標として、機器は、特徴変数「像鮮明性(distinctness of image: DOI)」(値が大きいほど、外観が良好である)を決定する。
【0145】
9.ポッピングおよびランニングの発生の評価
試料のポッピングおよびランニングの傾向を判定するために、以下の一般的な手順に従い、DIN EN ISO 28199-1(日付:2010年1月)およびDIN EN ISO 28199-3(日付:2010年1月)に基づく方法においてマルチコート塗装系を製造する。
【0146】
標準電着材料(BASF Coatings GmbH製のCathoGuard(登録商標)800)で塗装された、寸法57cm×20cmの多孔鋼板(DIN EN ISO 28199-1、セクション8.1、バージョンA)を、DIN EN ISO 28199-1、セクション8.2(バージョンA)と同様に製造する。この後、DIN EN ISO 28199-2、セクション8.3に基づく方法において、ベースコート組成物に、0μm~40μmの範囲を目標膜厚(乾燥した材料の膜厚)とし、ウェッジ形態の単回塗りで、静電塗装を施す。18~23℃における10分のフラッシュオフ時間(ランニング試験)の後、または先立ってのフラッシュオフ時間なしで、結果として得られる水性ベースコート膜を80℃の強制空気オーブン中で5分間乾燥させる。ランニングについて試験する場合、鋼板をフラッシュオフし、長手方向に乾燥させる。ポッピング限界、すなわち、ポッピングが生じるベースコート膜厚の決定を、DIN EN ISO 28199-3、セクション5に従って行う。ランニング傾向の判定は、DIN EN ISO 28199-3、セクション4に従って実施される。ランニングがパーフォレーションの底縁から10mmの長さを超える膜厚と同様、ランニングの初期傾向がパーフォレーションで目視観察され得る膜厚より厚い膜厚が決定される。
【0147】
10.顔料の凝集化発生の評価
使用されるペースト中の顔料の不十分な安定性の結果としての顔料の凝集化発生を評価するために、水性ベースコート材料などの好適な試料を、以下の一般的なプロトコルに従って検討する。
【0148】
a)ガラスパネルの塗装
問題とする水性ベースコート材料を、150μmのバーコーターを使用して、寸法9×15cmのガラスパネルに適用する。湿潤状態で、室温(23℃)における60分のフラッシュオフ時間の後、任意の空気含有物を斑点と見間違えないように光源に対して膜を保持することによって膜の斑点を検査する。1~5の格付けを取得する(1=斑点なし/5=非常に多くの斑点)または対照に対して評価を行う(対照=0、++=非常に良好、+=良好、-=不良、--=非常に不良)。
【0149】
b)鋼製パネルの塗装
検討中の水性ベースコート材料を、既にサーフェイサー系で塗装しておいた32×60cmの寸法の鋼製パネルに二重塗装することによって適用し、第1の工程の塗装は、目標膜厚を8~9μmとして静電的に行い、第2の工程において、室温(23℃)における2分のフラッシュオフ時間の後、目標膜厚を4~5μmとして圧搾空気により適用する。室温(23℃)における5分のさらなるフラッシュオフ時間の後、続いて、結果として得られた水性ベースコート膜を80℃の強制空気オーブン中で5分間乾燥させる。乾燥した水性ベースコート膜上に、市販の二成分クリアコート材料(BASF Coatings GmbH製のProGloss(登録商標))を、目標膜厚を40~45μmとして適用する。結果として得られたクリアコート膜を室温(23℃)で10分間フラッシュオフする。この後、140℃の強制空気オーブン中でさらに20分間硬化させる。斑点を目視評価し、1~5の格付けを与える(1=斑点なし/5=非常に多くの斑点)。
【0150】
11.分離の目視評価
顔料ペーストまたは水性ベースコート材料などの分析中の試料の安定性を、密封されたガラス容器中の混合物を、室温(23℃)および/または40℃で、少なくとも4週間の期間にわたって貯蔵することによって目視評価する。次いで分離が起きたか、または材料の均一性が変化したかを検証するための検査を行う。1~5の格付けを与える(1=非常に安定しており、分離または多重位相の形成がなかった/5=非常に不安定で、激しい分離または非常に明確な多重位相の形成があった)。
【0151】
12.隠ぺい力の決定
隠ぺい力は、DIN EN ISO 28199-3(2010年1月、セクション7)に従って決定される。
【0152】
13.OH数および酸価の決定
OH数および酸価は、それぞれ、計算によって決定される。
【0153】
実施例および比較例
以下の実施例および比較例は、本発明を例示するために役立つが、限定するものと解釈すべきではない。
【0154】
別段の指定がない限り、いずれの場合も、部で表す数値は、質量による部であり、パーセントで表す数値は、質量によるパーセンテージである。
【0155】
1.水性分散体AD1の製造
1.1 以下に指定した、水性分散体AD1の製造に使用される成分の意味は、以下の通りである。
【0156】
DMEA ジメチルエタノールアミン
DI水 脱イオン水
EF800 Aerosol(登録商標)EF-800、Cytecから市販されている乳化剤
APS ペルオキソ二硫酸アンモニウム
1,6-HDDA 1,6-ヘキサンジオールジアクリレート
2-HEA 2-ヒドロキシエチルアクリレート
MMA メタクリル酸メチル
【0157】
1.2 多段SCSポリアクリレートを含む水性分散体AD1の製造
モノマー混合物(A)、段階i
以下の表1.1による項目1および2の80質量%を、還流冷却器を備えた鋼製反応容器(5L容量)中に入れ、80℃に加熱する。表1.1の「初期投入」で列挙した残りの分率の成分を別の容器中で予混合する。この混合物と、これとは別の「開始剤溶液」(表1.1、項目5および6)を20分にわたって同時に反応容器に滴下で加え、反応液中のモノマーの分率を、反応時間全体を通して、段階iで使用したモノマーの総量に対して6.0質量%を超えないようにする。続けて30分間、攪拌する。
【0158】
モノマー混合物(B)、段階ii
表1.1の「Mono 1」で示す成分を、別の容器中で予混合する。この混合物を、2時間にわたって反応容器に滴下で加え、反応液中のモノマーの分率を、反応時間全体を通して、段階iiで使用したモノマーの総量に対して6.0質量%を超えないようにする。続けて1時間、攪拌する。
【0159】
モノマー混合物(C)、段階iii
表1.1の「Mono 2」で示す成分を、別の容器中で予混合する。この混合物を、1時間にわたって反応容器に滴下で加え、反応液中のモノマーの分率を、反応時間全体を通して、段階iiiで使用したモノマーの総量に対して6.0質量%を超えないようにする。続けて2時間、攪拌する。
【0160】
その後、反応混合物を60℃に冷却し、中和混合物(表1.1、項目20、21および22)を別の容器中で予混合する。中和混合物を、40分にわたって反応容器に滴下で加え、反応液のpHを7.5~8.5のpHに調整する。続いて、反応生成物をさらに30分間攪拌し、25℃に冷却し、濾過する。
【0161】
結果として得られた水性分散体AD1の固形分を、反応モニタリングのために決定した。結果を、決定されたpHおよび粒径とともに、表1.2に記録する。
【0162】
【0163】
【0164】
2.増粘剤の製造
2.1 ポリアミド増粘剤V1
22.5部の独国特許出願公開第4009858(A1)号明細書の実施例D、16段37~59行に従って製造されたポリエステルの水性分散体、0.45部のジメチルエタノールアミン、3部の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(ブチルグリコール中52%)(BASF SE製)、3部のLipotin(登録商標)A(Evonik Industries AG製)、56.05部の脱イオン水、および15部のDisparlon(登録商標)A670-20M(Kusomoto Chemicals,Ltd.製)を共に攪拌して、15~25℃の温度で混合物を形成させる。続いて、この混合物を使用するスターラーディスクの周速を15~20m/sとして攪拌させたVWA-Getzmann(ドイツ)製のDispermat(登録商標)LC30装置によって、10分の時間にわたって上記の温度で攪拌しながら均一化させる。
【0165】
2.2 ポリアミド増粘剤V2
17.63部の独国特許出願公開第4009858(A1)号明細書の実施例D、16段37~59行に従って製造されたポリエステルの水性分散体、24.52部のメラミン-ホルムアルデヒド樹脂(Allnex製のCymel(登録商標)303)、0.33部のジメチルエタノールアミン、12.79部の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(ブチルグリコール中52%)(BASF SE製)、29.82部のブチルグリコール、および14.91部のDisparlon(登録商標)A670-20M(Kusomoto Chemicals,Ltd.製)を共に攪拌して、15~25℃の温度で混合物を形成させる。続いて、この混合物を使用するスターラーディスクの周速を15~20m/sとして攪拌させたVWA-Getzmann(ドイツ)製のDispermat(登録商標)LC30装置によって、10分の時間にわたって上記の温度で攪拌しながら均一化させる。
【0166】
3.顔料ペーストおよびサーフェイサーペーストの製造
3.1 非発明の白色ペーストwP1の製造
白色ペーストは、50質量部のチタンルチル2310、6質量部の独国特許出願公開第4009858(A1)号明細書の実施例D、16段37~59行に従って製造されたポリエステル、24.7質量部の特許欧州特許第0228003(B2)号の8頁6~18行に従って製造されたポリウレタン分散体、10.5質量部の脱イオン水、4質量部の2,4,7,9-テトラメチル-5-デシンジオール(ブチルグリコール中52%)(BASF SE製)、4.1質量部のブチルグリコール、0.4質量部の水中10%ジメチルエタノールアミン、および0.3質量部のAcrysol(登録商標)RM-8(The Dow Chemical Company製)から製造される。
【0167】
3.2 本発明の白色ペーストwP2の製造
白色ペーストは、34質量部のチタンルチル2310、43.3質量部のセクション1に記載の水性分散体AD1、16.7質量部の脱イオン水、2.1質量部のDisperbyk(登録商標)184(BYK-Chemie GmbH製)、および3.9質量部のブチルグリコールから製造される。
【0168】
3.3 非発明の白色ペーストwP3の製造
白色ペーストは、44.26質量部のチタンルチル2310、9.93質量部のメラミン-ホルムアルデヒド樹脂(Allnex製のCymel(登録商標)203)、10.95質量部の独国特許出願公開第4009858(A1)号明細書の実施例D、16段37~59行に従って製造されたポリエステル、5.32質量部の独国特許出願公開第4437535(A1)号明細書の7頁55行~8頁23行に従って製造したポリウレタン改質ポリアクリレート、21.73質量部の脱イオン水、2.73質量部のDisperbyk(登録商標)184(BYK-Chemie GmbH製)、および5.08質量部のブチルグリコールから製造される。
【0169】
3.4 黒色ペーストsP1の製造
黒色ペーストは、57質量部の国際公開第92/15405(A1)号の14頁13行から15頁13行に従って製造したポリウレタン分散体、10質量部のカーボンブラック(Cabot Corporation製のMonarch(登録商標)1400)、5質量部の独国特許出願公開第4009858(A1)号明細書の実施例D、16段37~59行に従って製造されたポリエステル、6.5質量部の10%強度のジメチルエタノールアミン水溶液、2.5質量部の市販のポリエーテル(BASF SE製のPluriol(登録商標)P900)、7質量部のブチルグリコール、および12質量部の脱イオン水から製造される。
【0170】
3.5 黄色ペーストgP1の製造
黄色ペーストは、37質量部のBayferrox(登録商標)3910(Lanxess製)、49.5質量部の国際公開第91/15528(A1)号の23頁26行から24頁24行に従って製造された水性結合剤分散体、7.5質量部のDisperbyk(登録商標)-184(BYK-Chemie GmbH製)、および6質量部の脱イオン水から製造される。
【0171】
3.6 黄色ペーストgP2の製造
黄色ペーストは、47質量部のSicotan Yellow L 1912、45質量部の国際公開第91/15528(A1)号の23頁26行から24頁24行に従って製造された水性結合剤分散体、2.7質量部の1-プロポキシ-2-プロパノール、2.8質量部の脱イオン水、1.5質量部のDisperbyk(登録商標)-184(BYK-Chemie GmbH製)、および1質量部のAerosil(登録商標)R972(Evonik Industries製)から製造される。
【0172】
3.7 硫酸バリウムペーストBSP1の製造
硫酸バリウムペーストは、39質量部の欧州特許第0228003(B2)号の8頁6~18行に従って製造されたポリウレタン分散体、54質量部の硫酸バリウム(Sachtleben Chemie GmbH製のBlanc fixe)、3.7質量部のブチルグリコール、および0.3質量部のAgitan(登録商標)282(Muenzing Chemie GmbH製)、および3質量部の脱イオン水から製造される。
【0173】
3.8 タルクペーストTP1の製造
タルクペーストは、49.7質量部の国際公開第91/15528号の23頁26行から24頁24行に従って製造された水性結合剤分散体、28.9質量部のステアタイト(Mondo Minerals B.V.製のMicrotalc IT extra)、0.4質量部のAgitan(登録商標)282(Muenzing Chemie GmbH製)、1.45質量部のDisperbyk(登録商標)-184(BYK-Chemie GmbH製)、3.1質量部の市販のポリエーテル(BASF SE製のPluriol(登録商標)P900)、および16.45質量部の脱イオン水から製造される。
【0174】
4.水性ベースコート材料の製造
4.1 非発明の水性ベースコート材料WBL A1および本発明の水性ベースコート材料WBL A2の製造
表4.1の「水性相」に列挙した成分を指定の順序で共に攪拌して水性混合物を形成する。次いで10分間攪拌し、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを使用して、pH8.1±0.2および回転式粘度計(Anton Paar製のC-LTD80/QC加熱システムを有するRheolab QC)を使用して23℃で測定した剪断荷重1000s-1下のスプレー粘度95±5mPa・sを設定する。
【0175】
【0176】
4.2 非発明の水性ベースコート材料WBL A3および本発明の水性ベースコート材料WBL A4の製造
表4.2の「水性相」に列挙した成分を指定の順序で共に攪拌して水性混合物を形成する。次いで10分間攪拌し、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを使用して、pH8.1±0.2および回転式粘度計(Anton Paar製のC-LTD80/QC加熱システムを有するRheolab QC)を使用して23℃で測定した剪断荷重1000s-1下のスプレー粘度90~110mPa・sを設定する。
【0177】
【0178】
4.3 非発明の水性ベースコート材料WBL B1および本発明の水性ベースコート材料WBL B2の製造
表4.3の「水性相」に列挙した成分を、指定の順序で共に攪拌して水性混合物を形成する。次いで10分間攪拌し、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを使用して、pH8および回転式粘度計(Anton Paar製のC-LTD80/QC加熱システムを有するRheolab QC)を使用して23℃で測定した剪断荷重1000s-1下のスプレー粘度90~100mPa・sを設定する。
【0179】
【0180】
4.4 非発明の水性ベースコート材料WBL B3の製造
表4.4の「水性相」に列挙した成分を指定の順序で共に攪拌して水性混合物を形成する。次いで10分間攪拌し、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを使用して、pH8および回転式粘度計(Anton Paar製のC-LTD80/QC加熱システムを有するRheolab QC)を使用して23℃で測定した剪断荷重1000s-1下のスプレー粘度90±5mPa・sを設定する。
【0181】
【0182】
4.5 非発明の水性ベースコート材料WBL B4の製造
表4.5の「水性相」に列挙した成分を指定の順序で共に攪拌して水性混合物を形成する。次の工程において、有機混合物を、「有機相」に列挙した成分から製造する。有機混合物を水性混合物に添加する。次いで10分間攪拌し、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを使用して、pH8および回転式粘度計(Anton Paar製のC-LTD80/QC加熱システムを有するRheolab QC)を使用して23℃で測定した剪断荷重1000s-1下のスプレー粘度85~90mPa・sを設定する。
【0183】
【0184】
4.6 本発明の水性ベースコート材料WBL A2と同じ全体組成を有する非発明の水性ベースコート材料WBL A2aの製造
本発明の水性ベースコート材料WBL A2(製造は4.1を参照)との直接の比較として、WBL A2と同じ全体組成を有するが、製造様式、すなわち白色ペーストの使用に違いがある非発明の水性ベースコート材料WBL A2aを製造した。表4.6では、WBL A2およびWBL A2aの配合は互いに対比している。
【0185】
WBL A2の製造に、本発明の白色ペーストwP2を使用したが、このペーストは、分散体AD1の使用の結果として、本発明で用いられるポリマー(b)を含有していた。WBL A2aの製造の場合は対照的に、前記ポリマー(b)を含まない非発明の白色ペーストwP3を使用した。wP2と比較して、wP3中では、wP2中に存在していたポリマー(b)部分が、WBL A2に含まれていた結合剤成分(メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、ポリエステル、およびポリウレタン改質ポリアクリレート)に置き換えられた。これに応じて、別々に使用されたポリマー(b)の量は、WBL A2aの製造において増加したが、残りの結合剤成分の分率は減少し、両方の処方は、正確に同一の全体組成を有していた。
【0186】
WBL A2aの製造は、WBL A2と同じ方法(4.1参照)で行われ、脱イオン水およびジメチルエタノールアミンを使用してpH8および回転式粘度計(Anton Paar製のC-LTD80/QC加熱システムを有するRheolab QC)を使用して23℃で測定した剪断荷重1000s-1下のスプレー粘度95±5mPa・sを設定する。
【0187】
【0188】
5. 水性ベースコート材料およびそれから得られる塗料の特性の研究および比較
5.1 WBL A1とWBL A2との間の比較
非発明の水性ベースコート材料WBL A1および本発明の水性ベースコート材料WBL A2(ポリマー(b)をベースとした本発明の顔料ペーストを含む)の貯蔵安定性、ポッピング、ランニング、ピンホール、斑点の発生、分離傾向、および膜厚によって決まるレベリングについての検討を、上記の方法に従って行った。表5.1~5.5は、結果をまとめたものである。
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
WBL A1およびWBL A2は、それぞれ、非常に良好なピンホール堅牢性を有し、ポッピングおよびランニングの面では同様の品質をもたらす。水性ベースコート材料WBL A2中での本発明の白色ペーストwP2の使用は、非発明の白色ペーストwP1を含有するWBL A1と比較して貯蔵安定性の改善をもたらし、WBL A2の場合、低剪断範囲内の粘度レベルは、オーブン貯蔵の結果、さほどの変化は示されないが、WBL A1では、顕著に低下した低剪断粘度が測定される。これに関連して、WBL A2では、オーブン貯蔵に際して、際立って低い相分離への傾向が判明している。さらに、WBL A1に対して、WBL A2は、より良好な膜厚によって決まるレベリングが顕著である。
【0195】
5.2 WBL B1とWBL B2との間の比較、およびWBL A3/WBL B1とWBL A4/WBL B2との間の比較
水性ベースコート材料WBL A3およびWBL B1(いずれも本発明のものではない)ならびにWBL A4およびWBL B2(いずれも本発明のものである)を使用して、水性ベースコート材料WBL B1およびWBL B2ならびにマルチコート系に対する、隠ぺい力、ランニング、ピンホール、および膜厚によって決まるレベリングの検討を、上記の方法に従って行った。結果を、表5.6~5.9にまとめる。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
結果は、本発明の白色ペーストwP2を使用することによって、レベリングに大きなプラスの影響を与えることができることを実証している。さらに、非発明のマルチコート系(WBL A3およびWBL B1を使用)と比較して、ピンホール堅牢性が若干より良好であることが見出されている。多段ポリアクリレートをベースとした本発明の白色ペーストwP2を含有する水性ベースコート材料WBL B2は、対照のWBL B1と比較して、より良好なランニング耐性を有するだけでなく、より良好な隠ぺい力も留意すべきである。
【0201】
5.3 WBL A3/WBL B3とWBL A4/WBL B3との間の比較
水性ベースコート材料WBL A3およびWBL B3(非発明)ならびにWBL A4およびWBL B3(本発明)それぞれを使用して、マルチコート系に対する、膜厚によって決まるレベリングの検討を、上記の方法に従って行った。結果を、表5.10~5.11にまとめる。
【0202】
【0203】
【0204】
結果は、多段ポリアクリレートAD1を含む本発明の白色ペーストwP2の使用が、使用した対照のペーストに対して、レベリングに利益をもたらすことを示す。これは、特に高膜厚での短波(SW)との関連において、また、全ての膜厚範囲に及ぶ像鮮明性(DOI)において特に明らかである。
【0205】
5.4 WBL A3/WBL B4とWBL A4/WBL B4との間の比較
水性ベースコート材料WBL A3およびWBL B4(非発明)ならびにWBL A4およびWBL B4(本発明)それぞれに対する、ピンホールの発生の検討を、上記の方法に従って行った。結果を、表5.12にまとめる。
【0206】
【0207】
水性ベースコート材料WBL A4およびWBL B4を用いたマルチコート系中の本発明の白色ペーストwP2の使用は、対照と比較して、有意に良好なピンホール堅牢性をもたらす。
【0208】
5.5 膜厚によって決まるレベリングに関連した、非発明の水性ベースコート材料WBL A2aと本発明の水性ベースコート材料WBL A2との間の比較
上記の方法に従って行われた、水性ベースコート材料WBL A2a(非発明)およびWBL A2(本発明)に対するこれらの検討の結果を、以下の表5.13にまとめる。
【0209】
【0210】
結果は、本発明の着色顔料ペースト(wP2)を使用して製造された水性ベースコート材料WBL A2が、非発明の着色顔料ペースト(wP3)を使用して製造された同じ組成の水性ベースコート材料(WBL A2a)と比較して、特に、長波(LW)およびDOIに関連する、したがって外観に関連する有利な特性が種々であることを示す。これらの結果は、製造手順のみの結果として、WBL A2が、WBL A2aとは異なる特性を有することを示す。