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71433721,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンの調製のためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパンの調製のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/087 20060101AFI20220920BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20220920BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220920BHJP
【FI】
C07C17/087
C07C19/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 59
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020128642
(22)【出願日】2020-07-29
(62)【分割の表示】P 2018501308の分割
【原出願日】2016-07-14
(65)【公開番号】P2020183442
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-08-27
(31)【優先権主張番号】1512557.8
(32)【優先日】2015-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516030797
【氏名又は名称】メキシケム フロー エセ・ア・デ・セ・ヴェ
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】シェリル・ルイーズ・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・アンドリュー・フラハティ
(72)【発明者】
【氏名】クライブ・ロバート・ジディス
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-517681(JP,A)
【文献】特表2015-500327(JP,A)
【文献】特表2014-511350(JP,A)
【文献】国際公開第2014/120493(WO,A1)
【文献】特表2015-509096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(245cb)を調製するためのプロセスであって、
1,1,1-トリフルオロ-2,3-ジクロロプロパン(243db)を含む組成物の気相触媒脱塩化水素化により、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロ-プロパ-1-エン(CFCCl=CH、1233xf)、塩化水素(HCl)、及び空気を含む中間組成物を生成することと、
前記中間組成物のフッ化水素(HF)を用いた気相触媒フッ素化により、245cb、HF、HCl、及び空気を含む反応器生成組成物を生成することと、
を含み、
前記プロセスが、空気を同時供給しながら行われ、前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、0.1~500モル%である、プロセス。
【請求項2】
前記脱塩化水素化ステップが、第1の反応器で行われ、前記フッ素化ステップが、第2の反応器で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、1~200モル%である、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、2~100モル%である、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、5~100モル%である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、10~100モル%である、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、15~95モル%である、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、20~90モル%である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記プロセスに同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、25~85モル%である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記脱塩化水素化ステップが、第1の反応器で行われ、前記フッ素化ステップが、第2の反応器で行われ、空気が、第1及び第2の反応器の両方に同時供給され、前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、前記第2の反応器に同時供給される空気の量よりも、モル基準で少ない、請求項2~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、前記第2の反応器に同時供給される空気の量の2分の1未満である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、前記第2の反応器に同時供給される空気の量の4分の1未満である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、前記第2の反応器に同時供給される空気の量の10分の1未満である、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記中間組成物が、前記第1の反応器を出て、前記第2の反応器に直接供給される、請求項2~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(245cb)を調製するためのプロセスであって、
1,1,1-トリフルオロ-2,3-ジクロロプロパン(243db)を含む組成物の第1の反応器における気相触媒脱塩化水素化により、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロ-プロパ-1-エン(CFCCl=CH、1233xf)及び塩化水素(HCl)を含む中間組成物を生成することと、
前記中間組成物の第2の反応器におけるフッ化水素(HF)を用いた気相触媒フッ素化により、245cb、HF、HCl、及び空気を含む反応器生成組成物を生成することと、を含み、
前記プロセスが、前記第2の反応器へ空気を同時供給しながら行われ、前記第2の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、5~100モル%である、プロセス。
【請求項16】
前記第2の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、10モル%~100モル%である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記第2の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、15~95モル%である、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記第2の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、20~90モル%である、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記第2の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、25~85モル%である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
空気が前記第1の反応器に更に同時供給され、前記中間組成物が、空気を更に含む、請求項15~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、0.1~100モル%である、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、0.2~50モル%である、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、0.3~20モル%である、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、0.4~10モル%または0.1~10モル%である、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記第1の反応器に同時供給される空気の量が、有機物の量に基づいて、0.4~5モル%または0.1~5モル%である、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記中間組成物が、前記第1の反応器を出て、前記第2の反応器に直接供給される、請求項15~25のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項27】
前記243dbの触媒脱塩化水素化が、HFの存在下で行われ、前記中間組成物が、HFを更に含有する、請求項1~26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
前記243dbを含む組成物が、HFを、0.5:1~40:1のHF:243dbのモル比で更に含有する、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記HF:243dbのモル比が、1:1~15:1である、請求項28に記載のプロセス。
【請求項30】
前記脱塩化水素化ステップが、第1の反応器で行われ、前記フッ素化ステップが、第2の反応器で行われ、前記第2の反応器におけるHF:1233xfのモル比が、1:1~45:1である、請求項2~29のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項31】
前記第2の反応器におけるHF:1233xfのモル比が、2:1~20:1である、請求項30に記載のプロセス。
【請求項32】
前記第2の反応器におけるHF:1233xfのモル比が、3:1~15:1である、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
HFの更なる供給が、前記第2の反応器に提供される、請求項30~32のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項34】
前記空気が、同時供給される前に圧縮される、請求項1~33のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項35】
前記空気が、同時供給される前に乾燥される、請求項1~34のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項36】
前記反応器生成組成物が、245cb及びHFを含む流れと、HCl及び空気を含む流れとに分離される、請求項1~35のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項37】
前記245cb及びHFを含む流れが、245cbを豊富に含む流れとHFを豊富に含む流れとに分離される、請求項36に記載のプロセス。
【請求項38】
前記245cbを豊富に含む流れが、残留HFが前記245cbを豊富に含む流れから実質的に除去され、HFを実質的に含まない245cbを豊富に含む流れを生成するスクラビングステップを受ける、請求項37に記載のプロセス。
【請求項39】
前記245cbが、存在するいずれの更なるフルオロカーボンからも分離され、実質的に純粋な245cb生成物を生成する、請求項1~38のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項40】
前記触媒脱塩化水素化が、200~450℃の温度かつ0.1~30baraの圧力で行われる、請求項1~39のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項41】
前記触媒脱塩化水素化が、250~380℃の温度かつ1~20baraの圧力で行われる、請求項40に記載のプロセス。
【請求項42】
前記触媒脱塩化水素化が、300~350℃の温度かつ5~20baraの圧力で行われる、請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
前記触媒脱塩化水素化が、活性炭、ゼロ価金属、金属酸化物、金属オキシハライド、金属ハロゲン化物、または上記の混合物を含む、バルク型または担持型触媒の存在下で行われる、請求項1~42のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項44】
前記金属が、遷移金属、アルカリ土類金属、またはアルミニウムである、請求項43に記載のプロセス。
【請求項45】
前記触媒が、クロミアに基づく、請求項43または44に記載のプロセス。
【請求項46】
前記触媒が、亜鉛/クロミア触媒である、請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
前記触媒フッ素化が、200~450℃の温度かつ0.1~30baraの圧力で行われる、請求項1~46のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項48】
前記触媒フッ素化が、250~420℃の温度かつ1~20baraの圧力で行われる、請求項47に記載のプロセス。
【請求項49】
前記触媒フッ素化が、300~380℃の温度かつ5~20baraの圧力で行われる、請求項48に記載のプロセス。
【請求項50】
前記触媒フッ素化が、活性炭、ゼロ価金属、金属酸化物、金属オキシハライド、金属ハロゲン化物、または上記の混合物を含む、バルク型または担持型触媒の存在下で行われる、請求項1~49のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項51】
前記金属が、遷移金属、アルカリ土類金属、またはアルミニウムである、請求項50に記載のプロセス。
【請求項52】
前記触媒が、クロミアに基づく、請求項50または51に記載のプロセス。
【請求項53】
前記触媒が、亜鉛/クロミア触媒に基づく、請求項52に記載のプロセス。
【請求項54】
前記反応器生成組成物中の前記HFが、前記243db及びHFを含む組成物の前記触媒脱塩化水素化に少なくとも部分的に再利用される、請求項1~53のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項55】
前記HFを豊富に含む流れ中の前記HFが、前記243db及びHFを含む組成物の前記触媒脱塩化水素化に再利用される、請求項37に記載のプロセス。
【請求項56】
前記HFを豊富に含む流れが、HFの流れと有機物の流れとに分離され、前記HFの流れが、前記243db及びHFを含む組成物の前記触媒脱塩化水素化に再利用される、請求項55に記載のプロセス。
【請求項57】
前記反応器生成組成物が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)を更に含有する、請求項1~56のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項58】
前記245cbを脱フッ化水素化反応器に供給して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)及びHFを含む脱フッ化水素化生成物を生成することを更に含む、請求項1~57のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項59】
前記245cbが、気相において1234yfに触媒的に脱フッ化水素化される、請求項58に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン(HFC-245cb、本明細書では以降245cbと称される)を調製するためのプロセスに関する。特に、本発明は、1,1,1-トリフルオロ-2,3-ジクロロプロパン(HCFC-243db、本明細書では以降243dbと称される)から、3,3,3-トリフルオロ-2-クロロ-プロパ-1-エン(HCFO-1233xf、本明細書では以降1233xfと称される)を介して、245cbを調製するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
245cbは、とりわけ2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf、本明細書では以降1234yfと称される)の調製における中間体として有用な化合物である。245cbは、WO2009/125199では、1234yfの調製における中間体として言及されている。245cbは、因みに、WO2008/054781、WO2013/111911、及びUS2014/010750などの1234yfの調製に関係する他の文献にも言及されている。
【0003】
本明細書における先行公開された文献の列挙または論議は、この文献が最新技術の一部であるか、または一般的常識であるとの承認として、必ずしも解釈すべきではない。
【発明の概要】
【0004】
245cbの調製のための効率的かつ経済的な製造プロセスが求められている。本発明は、245cbを調製するためのプロセスの提供によって、この要望に対処し、本プロセスは、243dbを含む組成物の気相触媒脱塩化水素化により、1233xf、塩化水素(HCL)、及び任意に空気を含む中間組成物を生成することと、中間組成物のフッ化水素(HF)を用いた気相触媒フッ素化により、245cb、HF、HCl、及び空気を含む反応器生成組成物を生成することとを含み、本プロセスは、空気を同時供給しながら行われる。
【0005】
誤解を避けるために記すと、気相触媒脱塩化水素化は、243dbの脱塩化水素化による1233xfへの転化を含む。同様に、気相触媒フッ素化は、1233xfのフッ素化による245cbへの転化を含む。1233xf(CFCCl=CH)の245cb(CFCFCH)への転化は、2つのフッ素置換基及び1つの水素置換基の1233xfへの付加を伴う。別の言い方をすれば、これは、HFの付加及び塩素置換基のフッ素置換基による置き換えを伴う。したがって、本発明の文脈におけるフッ素化(HFによる)という用語は、フッ素化とフッ化水素化とを組み合わせた反応とみなすことができる。
【0006】
上記プロセスは、バッチ式または連続式で行われてもよい。好ましくは、本プロセスは連続式で行われる。本明細書で使用される場合、「連続式」という用語は、プロセスが、例えば、243dbの触媒脱塩化水素化及び/または1233xfの触媒フッ素化で使用される触媒を再生及び/または交換するために一時的に停止されるプロセスの半連続式操作を含むよう意図する。本発明のある特定の態様は、このような触媒再生及び/または交換の間のサイクル時間を延長させることを可能にすることにより、プロセスの効率性及び経済性を改善する。
【0007】
本発明のプロセスの243dbの触媒脱塩化水素化及び1233xfの触媒フッ素化は、単一の反応器内で一緒に行うことができる。
【0008】
しかしながら、好ましい態様では、243dbの触媒脱塩化水素化及び1233xfの触媒フッ素化は、それぞれ、別々の第1及び第2の反応器内で行われる。通常、これらの2つの反応に別々の反応器を使用することに関連する利点があり、各反応器における条件を変更して、243dbの触媒脱塩化水素化及び1233xfの触媒フッ素化のそれぞれを容易にすることを含む。例えば、1233xfの触媒フッ素化には、243dbの触媒脱塩化水素化よりも高い圧力が使用され得る。通常、第2の反応器においては、第1の反応器と比べていくらか高い温度が使用され得る。このような反応器の温度における差異についての1つの理由は、いかなる触媒コーキングも燃焼させるために、第2の反応器ではより高温が好ましいためである。このことは、本明細書の後の部分でより詳細に説明される。2つの反応器の使用はまた、HF及び空気の異なる濃度が触媒脱塩化水素化反応及びフッ素化反応で使用される助けとなる。
【0009】
単一の反応器が使用されようが、または2つの反応器が使用されようが、任意の好適な装置が使用されてよい。通常、この装置は、腐食に耐性がある1つ以上の材料、例えば、Hastelloy(登録商標)、Monel(登録商標)、またはInconelから作製される。
【0010】
1つの反応器または2つの反応器が使用されるかにかかわらず、本発明の重要な特徴は、これが空気を同時供給しながら行われることである。本発明は、驚くべきことに、このことが、転化及び/または選択性を著しく損なうことなく、243dbの気相触媒脱塩化水素化及び/または1233xfの気相触媒フッ素化(特に、後者の反応)で使用される触媒または触媒(複数可)のコーキングを防止及び/または遅延させることを見出した。別の言い方をすれば、空気の使用が、本発明の気相変態における触媒失活速度を著しく低減することを見出した。これは、サイクル時間を長くする効果を有し、今度はそれがプロセス効率性及び経済性の利点を有することにつながる。空気の同時供給の使用はまた、本発明のプロセスが所与の触媒を用いてより高温で行われることも可能にする。理論に束縛されるものではないが、空気の同時供給は、コークスを、それらが生成されるのとほぼ同じ速度で燃焼させる助けとなり、その結果サイクル時間を延長させると考えられる。このことは、1233xf(この化合物は、気相フッ素化触媒に付着しており、通常、より容易な243dbの気相触媒脱塩化水素化と比べて、245cbへの転化が比較的困難である)の気相触媒フッ素化に特に有利であると考えられる。
【0011】
前項で記載された予期せぬ効果を主として担っているのは、空気中の酸素であると考えられる。しかしながら、本発明のプロセスでは、酸素または酸素富化空気を使用するよりはむしろ、空気を使用することに利点がある。空気(例えば、大気)の使用は、酸素または酸素富化空気を使用するどちらよりも安価である。空気を取り扱うことは、酸素富化空気、または特に酸素と比べて、可燃性の問題のためにより安全でもある。空気中の酸素の濃度(約21モル%)は、触媒のコーキングを防止及び/または遅延させるためのその有効性と、その取り扱いの容易さとの組み合わせの点から、本発明のプロセスで使用するために特に好適であると考えられる。例えば、一実施形態では、本発明のプロセスに供給する前に、空気は圧縮され、任意に乾燥される。この取り扱い/処理は、酸素富化空気、特に酸素とは対照的に、空気ではかなり安全かつ簡単である。
【0012】
好ましい実施形態では、空気は大気から供給され、いずれかの反応器に入る前に乾燥される。空気は当該技術分野において既知の任意の乾燥方法によって乾燥されてもよいが、好ましくは圧縮され、その後、乾燥剤を含む乾燥システム中に供給される。好適な乾燥剤には、空気を約-40℃未満の露点まで乾燥させることができるシリカゲルが含まれる。一態様では、一方が再生され得ると同時に他方が空気を乾燥しているように、2つ以上の乾燥剤チャンバがある。代替的に/付加的に、空気は冷却されて、水を凝縮することができる。
【0013】
通常、本発明のプロセスに同時供給される空気の量は、反応器(複数可)に供給及び/または存在する有機物の量に基づいて、約0.1~約500モル%である。有機物とは、本発明のプロセスに存在する炭素系化合物、特に、243db、1233xf、及び245cbを意味する。一態様では、本明細書に記載される本発明のプロセスに同時供給される空気のモル%での量は、(i)243dbの量、(ii)1233xfの量、または(iii)243dbと1233xfとを合わせた量に基づく。例えば、本発明のプロセスが第1及び第2の反応器内で行われ、空気が第2の反応器だけに同時供給される、好ましい態様では、空気の量(モル%)は、第2の反応器に供給される1233xfの量に基づく。
【0014】
好ましくは、本発明のプロセスに同時供給される空気の量は、有機物の量に基づいて、約1~約200モル%、約2~約100モル%、約5~約100モル%、または約10~約100モル%である。本発明のプロセスに同時供給される空気の好ましい量は、以下のように制限されると考えられる。使用される空気が少なすぎる場合、触媒または触媒(複数可)のコーキングの不十分な防止及び/または遅延が達成される。使用される空気が多すぎる場合、所望の生成物に対する選択性が悪影響を受け、及び/または多量の空気がますます困難になり、したがって、取り扱うために費用がかかる。プロセスに同時供給される空気の量は、有機物の量に基づいて、約15~約85モル%、好ましくは、約20~約90モル%、例えば、約25~約85モル%であることが特に有利である。これらの範囲は、取り扱いの容易さ(例えば、取り扱われる空気の体積及びプロセス設計に及ぼすその効果)と、プロセス化学物質に有害な影響を及ぼすことなく、触媒のコーキングを防止及び/または遅延させるための能力との組み合わせの観点からすれば、最適であると現在考えられている。
【0015】
243dbの触媒脱塩化水素化及び1233xfの触媒フッ素化は、それぞれ、別々の第1及び第2の反応器で行われ、空気は、第1の反応器及び/または第2の反応器に同時供給されてもよい。一実施形態では、空気は、第1の反応器及び第2の反応器に、より好ましくは第2の反応器だけに同時供給される。
【0016】
したがって、本発明は、245cbを調製するためのプロセスを提供するものであり、本プロセスは、第1の反応器内での243dbを含む組成物の気相触媒脱塩化水素化により、1233xf、HF、HCLを含む中間組成物を生成することと、第2の反応器内での中間組成物のHFによる気相触媒フッ素化により、245cb、HF、HCl、及び空気を含む反応器生成組成物を生成することとを含み、本プロセスは、第2の反応器へ空気を同時供給しながら行われる。
【0017】
空気が第1及び第2の反応器に同時供給されようが、または第2の反応器だけに同時供給されようが、反応器(複数可)に同時供給される空気の量は、広くは、本明細書で前述された範囲に従う。
【0018】
しかしながら、空気が第1及び第2の反応器の両方に同時供給されるとき、第1の反応器に同時供給される空気の量は、好ましくは、モル基準で、第2の反応器に同時供給される空気の量よりも少ない。これは1233xfが、通常、第2の反応器内の気相フッ素化触媒に付着し、第1の反応器と比べて第2の反応器内では、より高濃度の空気が触媒安定性及び活性化を維持するのに(例えば、触媒コーキングを防止及び/または遅延させることによって)必要とされるためであると考えられる。更に、1233xfの245cbへのフッ素化転化及び選択性の所望のレベルを得るために、第1の反応器と比べて第2の反応器内においてより強制的な条件が使用されてもよい。第1の反応器と比べて第2の反応器における空気のより高い濃度は、このような強制的な条件下で触媒の安定性及び活性化を維持する助けとなり得る。
【0019】
通常、第1の反応器に同時供給される空気の量は、第2の反応器に同時供給される空気の量の2分の1未満であり、好ましくは第2の反応器に同時供給される空気の量の4分の1未満であり、例えば、第2の反応器に同時供給される空気の量の10分の1未満である。例として、空気が第1及び第2の反応器の両方に同時供給されるとき、第1の反応器に同時供給される空気の量は、通常、有機物の量に基づいて(例えば、243dbに基づいて)、約0.1~約100モル%、好ましくは約0.2~約50モル%、例えば約0.3~約20モル%、例えば、約0.4~約10モル%であるが、一方、第2の反応器に同時供給される空気の量は、通常、有機物の量に基づいて(例えば、1233xfに基づいて)、約1~約200モル%、好ましくは約5~約100モル%、例えば約10~約90モル%、例えば、約15~約85モル%である。
【0020】
243dbの触媒脱塩化水素化及び1233xfの触媒フッ素化が、別々の第1及び第2の反応器で行われる場合の好ましい実施形態では、第1の反応器を出る中間組成物は、第2の反応器に直接供給される。これは、プロセス経済性の利点を有する。例えば、空気が第1の反応器に同時供給されるとき、中間組成物は空気を含有する。空気が第1の反応器に同時供給されるとき、空気が第2の反応器にも供給されることが好ましい。これは、第1の反応器を出る中間組成物を、中間精製ステップ(例えば、空気及び/またはHClを除去するための)を行うことなく、第2の反応器に直接供給することによって簡単に達成することができる。HClの存在が、1233xFのフッ素化を著しく不利にすることはないことが判明している。この予期せぬ利益は、第1の反応器を出る中間組成物が、その除去が組成物を冷却し、HClを除去し、かつ組成物を再加熱するためのエネルギーを必要とするHClを除去することなく、第2の反応器に直接供給され得ることである。当然のことながら、第1の反応器を出る中間組成物を中間精製ステップなしに第2の反応器に直接供給するときでも、例えば、第2の反応器におけるフッ素化反応が、第1の反応器における脱塩化水素反応よりも高温で行われている場合、中間組成物を加熱または冷却することが望ましいことがある。中間組成物が第2の反応器に直接供給される実施形態では、上述したように、第1の反応器と比べて第2の反応器内のより高濃度の空気が、触媒のコーキングを防止及び/または遅延させるために、第2の反応器に追加の空気の同時供給をさせることが好ましい。
【0021】
触媒脱塩化水素化ステップで使用される触媒は、243dbを脱塩化水素化するのに効果的である任意の好適な触媒であり得る。好ましい触媒は、活性炭、ゼロ価金属、金属酸化物、金属オキシハライド、金属ハロゲン化物、または上記の混合物を含むバルク形態もしくは担持型触媒である。
【0022】
誤解を避けるために記すと、バルク形態もしくは担持型触媒、活性炭、ゼロ価金属、金属酸化物、金属オキシハライド、金属ハロゲン化物、または上記の混合物を含む触媒とは、本質的にバルク形態もしくは担持型触媒だけである触媒、活性炭、ゼロ価金属、金属酸化物、金属オキシハライド、金属ハロゲン化物、またはこれらの混合物を含む触媒、ならびに、例えば、1つ以上の増進剤もしくは賦形剤の付加によって改質されているような触媒を包含する。好適な増進剤には、金属(例えば、遷移金属)及び/またはその化合物が含まれ、好適な賦形剤には、結合剤及び/または潤滑剤が含まれる。
【0023】
「活性炭」とは、約50~約3000m、または約100~約2000m(例えば、約200~約1500mまたは約300~約1000m)などの比較的高い表面積を有する任意の炭素を包含する。活性炭は、炭(例えば、木炭)、木の実の殻(例えば、ココナッツ)、及び木材などの任意の炭素質材料に由来してもよい。粉末状、顆粒状、及びペレット状活性炭などの任意の形態の活性炭が使用されてもよい。Cr、Mn、Au、Fe、Sn、Ta、Ti、Sb、Al、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd及び/またはPtならびに/もしくはこれらの金属の化合物(例えば、ハロゲン化物)の付加により改質された(例えば、含侵された)活性炭が使用されてもよい。
【0024】
ゼロ価金属を含む好適な触媒は、担持された(例えば、炭素により)Pd、Fe、Ni、及びCoなどの遷移金属を含む。
【0025】
金属酸化物、金属オキシハライド、または金属ハロゲン化物を含む触媒に好適な金属には、遷移金属、アルカリ土類金属(例えば、Mg)、及びAl、SnまたはSbなどの主族金属が挙げられる。
【0026】
Cr、Cu、Zn、Mn、Au、Fe、Sn、Ta、Ti、Sb、In、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd及び/またはPt、ならびに/もしくはこれらの金属のうちの1つ以上の化合物(例えば、ハロゲン化物)の付加によって改質されたアルミナが使用されてもよい。
【0027】
好ましい触媒の更なる群は、担持型(例えば、炭素上に)ルイス酸金属ハロゲン化物であり、これらにはTaX、SbX、SnX、TiX、FeCl、NbX、VX、AlX(式中、X=FまたはCl)が挙げられる。
【0028】
Cr、Mn、Au、Fe、Sn、Ta、Ti、Sb、In、Al、Co、Ni、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd及び/またはPt、ならびに/もしくはこれらの金属のうちの1つ以上の化合物(例えば、ハロゲン化物)の付加により改質された遷移金属の酸化物が使用されてもよい。
【0029】
遷移金属の好ましい酸化物は、Cr、Ti、V、Zr、またはFeの酸化物である。例えば、クロミア(Cr)単独またはZn、Mn、Mo、Nb、Zr、In、Ni、Al及び/もしくはMg、ならびに/またはこれらの金属のうちの1つ以上の化合物の付加によって改質されたクロミアが使用されてもよい。クロミア系触媒が現在のところ、特に好ましい。好ましいクロミア系触媒は、亜鉛/クロミア触媒である。
【0030】
「亜鉛/クロミア触媒」という用語は、いわば、クロムまたはクロム及び亜鉛の化合物または亜鉛の化合物を含む任意の触媒を意味する。このような触媒は当該技術分野において既知であり、例えば、EP-A-0502605、EP-A-0773061、EP-A-0957074、WO98/10862、WO2010/116150を参照されたく、これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
通常、本発明の亜鉛/クロミア触媒中に存在するクロムまたはクロムの化合物は、クロムの酸化物、オキシフッ化物またはフッ化物(好ましくは、酸化物またはオキシフッ化物)である。
【0032】
本発明の亜鉛/クロミア触媒中に存在する亜鉛または亜鉛の化合物の総量は、約0.01%~約25%、好ましくは0.1%~約25%、好都合には0.01%~6%の亜鉛であり、いくつかの実施形態では、好ましくは触媒の0.5重量%~約25重量%、好ましくは触媒の約1~10重量%、より好ましくは触媒の約2~8重量%、例えば、触媒の約4~6重量%である。他の実施形態では、この触媒は、好都合には0.01%~1%、より好ましくは0.05%~0.5%の亜鉛を含む。本明細書に引用される亜鉛または亜鉛の化合物の量は、元素亜鉛として存在しようが、または亜鉛の化合物として存在しようが、元素亜鉛の量を指す。
【0033】
本発明で使用される亜鉛/クロミア触媒は、非晶質であってもよい。これはいわば、触媒が、例えばX線回折によって分析されるとき、実質的に結晶特性を示さないことを意味する。あるいは、この触媒は、部分結晶性であってもよい。これはいわば、触媒の0.1~50重量%が、1つ以上のクロムの結晶性化合物及び/または1つ以上の亜鉛の結晶性化合物の形態であることを意味する。部分結晶性触媒が使用される場合、これは、好ましくは、0.2~25重量%、より好ましくは0.3~10重量%、更により好ましくは0.4~5重量%の1つ以上のクロムの結晶性化合物及び/または1つ以上の亜鉛の結晶性化合物の形態の触媒を含有する。
【0034】
本発明の触媒中の結晶性材料の割合は、当該技術分野において既知の任意の好適な方法によって決定することができる。好適な方法には、X線回折(XRD)技術が含まれる。X線回折が使用されるとき、結晶性酸化クロムの量などの結晶性材料の量は、触媒中に存在するグラファイトの既知の量を参照して(例えば、グラファイトは、触媒ペレットの生成において使用される)、またはより好ましくは、試料のXRDパターンの強度の国際的に認識された標準から調製された標準物質、例えば、NIST(国立標準技術研究所)標準物質との比較によって決定することができる。
【0035】
亜鉛/クロミア触媒は、通常、これがフッ化水素またはフッ素化炭化水素などのフッ化物含有種による前処理を受ける前に、少なくとも50m/g、好ましくは70~250m/g、最も好ましくは100~200m/gの表面積を有する。以降より詳細に記載されるこの前処理の間に、触媒中の酸素原子の少なくともいくつかは、フッ素原子に取って代わられる。
【0036】
本発明で使用され得る非晶質亜鉛/クロミア触媒は、非晶質クロミア系触媒を生成するための当該技術分野において既知の任意の方法によって得ることができる。好適な方法には、水酸化アンモニウムの添加の際の亜鉛及び硝酸クロムの溶液からの共沈が含まれる。あるいは、亜鉛またはその化合物の非晶質クロミア触媒上への表面含侵を使用することができる。
【0037】
非晶質亜鉛/クロミア触媒を調製するための更なる方法には、例えば、亜鉛金属によるクロム(VI)化合物、例えばクロム酸塩、重クロム酸塩、特に重クロム酸アンモニウムのクロム(III)への還元、その後の共沈及び洗浄;またはクロム(VI)化合物と、亜鉛の化合物、例えば、酢酸亜鉛もしくはシュウ酸亜鉛を固体として混合し、クロム(VI)化合物の酸化クロム(III)への還元をもたらし、かつ亜鉛の化合物を酸化亜鉛に酸化するために、この混合物を高温で加熱することが含まれる。
【0038】
亜鉛は、使用される触媒調製技術に少なくともある程度まで応じて、化合物の形態で、例えばハロゲン化物、オキシハライド、酸化物、または水酸化物で非晶質クロミア触媒中に及び/または非晶質クロミア触媒上に導入されてもよい。非晶質触媒の調製が、クロミア、ハロゲン化クロミア、またはクロムオキシハライドの含侵による場合は、この化合物は、好ましくは水溶性塩、例えば、ハロゲン化物、硝酸塩、またはカルボン酸塩であり、水溶液またはスラリーとして使用される。あるいは、亜鉛及びクロムの水酸化物が共沈され(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化アンモニウムなどの塩基の使用によって)、その後酸化物に転化されて、非晶質触媒を調製してもよい。不溶性亜鉛化合物の塩基性クロミア触媒との混合及び粉砕は、非晶質触媒前駆体を調製する更なる方法を提供する。クロムオキシハライドに基づく非晶質触媒の作製方法は、亜鉛の化合物を水和ハロゲン化クロムに添加することを含む。
【0039】
非晶質触媒前駆体に導入される亜鉛または亜鉛の化合物の量は、使用される調製法に応じる。ワーキング触媒は、クロム含有格子、例えば、クロムの酸化物、オキシハライド、またはハロゲン化物格子中に位置する亜鉛のカチオンを封じ込める表面を有すると考えられる。したがって、必要とされる亜鉛または亜鉛の化合物の量は、一般的には、亜鉛または亜鉛の化合物を非表面位置にも封じ込める共沈などの他の方法によって作製された触媒と比べて、含侵によって作製された触媒でより低い。
【0040】
本明細書に記載される触媒(例えば、亜鉛/クロミア触媒などのクロミア系触媒)は、通常、これらが使用時に曝される環境条件下で、これらが安定であるように、使用前に熱処理によって安定化される。この安定化は、二段階プロセスであることが多い。第1の段階では、触媒は、窒素または窒素/空気環境下での熱処理によってか焼される。次いで、触媒は、通常、フッ化水素中での熱処理によってフッ化水素に安定化される。この段階は、しばしば「前フッ素化」と称される。
【0041】
これらの2つの熱処理段階がその下で行われる条件の注意深い制御によって、結晶性を制御された程度まで触媒中に誘導することができる。
【0042】
使用時に、本明細書に記載される触媒(例えば、亜鉛/クロミア触媒などのクロミア系触媒)は、約300℃~約500℃の温度で、空気中で加熱することによって、定期的に再生または再活性化されてもよい。空気は、窒素などの不活性気体との、またはフッ化水素との混合物として使用されてもよく、この空気は触媒処理プロセスから熱い状態になり、再活性化触媒を使用する任意のフッ素化プロセスで直接使用されてもよい。
【0043】
(蒸)気相触媒脱塩化水素化は、約200~約450℃の温度で、また大気圧で、大気圧未満で、または大気圧を超える圧力で、好ましくは約0.1~約30baraで行ってもよい。好ましくは、触媒脱塩化水素化は、約250~約400℃の温度で、例えば、約280~約380℃、または約300~約350℃で行われる。
【0044】
(蒸)気相触媒脱塩化水素化は、好ましくは、約0.5~約25bara、または約1~約20bara、例えば、約2~約18bara(例えば、約5~約20baraまたは約8~約18bara、または約10~約15bara)の圧力で行われる。
【0045】
HFは、本発明のプロセスにおいて、1233xfのフッ素化のために必要とされる。触媒フッ素化ステップにおけるHF:1233xfのモル比は、通常、約1:1~約45:1、例えば約1:1~約30:1、好ましくは約1.5:1~約30:1、例えば約2:1~約20:1、または約3:1~約15:1である。本発明者は、これらの範囲が、触媒コーキングを防止及び/または遅延させるための好ましさと滞留時間との間の均衡をうまくとることを予期せずに見出した。使用されるHFが少なすぎる場合、コーキングが増加する。使用されるHFが多すぎる場合、所与の反応器容積についての滞留時間は所望のものよりも短くなる。
【0046】
触媒脱塩化水素化及びフッ素化反応が同じ反応器内で行われるならば、両方の反応が、HFの存在下で行われる。第1及び第2の反応器が、触媒脱塩化水素化及びフッ素化反応に使用される場合、触媒脱塩化水素化反応のための第1の反応器内にいかなるHFも存在する必要はない。しかしながら、いくつかの実施形態では、触媒脱塩化水素化のためにHFを存在させることが好ましいと考えられる。理論によって束縛されるものではないが、これが触媒のコーキングを防止及び/または遅延させると考えられる。
【0047】
HFが触媒脱塩化水素化ステップにおいて存在する場合、HF:243dbのモル比は、1233xfの触媒フッ素化におけるHF:1233xfのモル比について上記で定義された範囲内に入ることができる。しかしながら、一態様では、触媒フッ素化ステップと比べて、触媒脱塩化水素化ステップにおいてより少ないHFが使用される。したがって、243dbを含む組成物は、通常、約0.5:1~約40:1、例えば、約0.5:1~約20:1、好ましくは約1:1~約15:1、例えば、約1.5:1~約10:1、または約2:1~約8:1のHF:243dbのモル比で、HFを更に含むことができる。
【0048】
触媒脱塩化水素化ステップにおける243db及びHFを含む組成物の触媒との接触時間は、通常、約0.5~約200秒、例えば、約1~約150秒である。好ましくは、この接触時間は、約1~約100秒、例えば、約2~約80秒、または約8~約60秒である。
【0049】
ここで、本発明のプロセスの中間組成物の気相触媒フッ素化に目を向けると、中間組成物中のHFは、通常、1233xfをフッ素化して245cbにするために使用される。好ましくは、中間組成物中のHFは、1233xfを245cbに転化するための単にフッ素化剤であるが、追加のHFは、これを容易にするために、特に、第2の反応器が1233xfの触媒フッ素化に使用される場合、本発明のプロセスに添加され得る。
【0050】
触媒フッ素化ステップで使用される触媒は、1233xfをフッ素化して245cbにするのに効果的である任意の好適な触媒であってもよい。好ましい触媒は、活性炭、ゼロ価金属、金属酸化物、金属オキシハライド、金属ハロゲン化物、または触媒脱塩化水素化ステップについての触媒に関して上述された上記の混合物を含むバルク形態もしくは担持型触媒である。
【0051】
1233xfの245cbへの触媒フッ素化に好ましい触媒は、クロミア単独、またはZn、Mn、Mo、Nb、Zr、In、Ni、Al、及び/もしくはMgならびに/またはこれらの金属のうちの1つ以上の化合物の付加により改質されたクロミアを含むものである。1233xfの245cbへの触媒フッ素化で使用するために好ましいクロミア系触媒は、亜鉛/クロミア触媒である。同じ触媒(例えば、クロミア系触媒)が、触媒脱塩化水素化及びフッ素化ステップに使用されてもよい。
【0052】
(蒸)気相触媒フッ素化ステップは、約200~約450℃の温度で、また大気圧で、大気圧未満で、または大気圧を超える圧力で、好ましくは約0.1~約30baraで行ってもよい。好ましくは、気相触媒フッ素化は、約250~約420℃の温度で、例えば約280~約400℃、または約300~約380℃(例えば、約330~約380℃)で行われる。
【0053】
(蒸)気相触媒フッ素化は、好ましくは、約0.5~約25bara、または約1~約20bara、例えば、約2~約20bara(例えば、約5~約20baraまたは約10~約15bara)の圧力で行われる。
【0054】
触媒フッ素化ステップにおける1233xf、HCl、及びHFを含む組成物の触媒との接触時間は、通常、約0.5~約200秒、例えば約1~約150秒である。好ましくは、この接触時間は、約1~約100秒、例えば約2~約80秒、または約5~約50秒である。
【0055】
245cbは、1234yfの製造のための有用な出発物質である。したがって、本発明のプロセスは、245cbを脱フッ化水素化反応器に供給して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)及びHFを含む脱フッ化水素化産物を生成することを更に含む。
【0056】
245cbの脱フッ化水素化は、(蒸)気相及び/または液相で行われてもよく、通常、約-70~約1000℃(例えば、0~450℃)の温度で行われる。脱フッ化水素化は、大気圧で、大気圧未満で、または大気圧を超える圧力で、好ましくは約0.1~約30baraで行われてもよい。
【0057】
脱フッ化水素化は、熱的に誘導されてもよく、塩基仲介されてもよく、及び/または任意の好適な触媒により触媒化されてもよい。好適な触媒には、金属及び炭素系触媒、例えば活性炭を含むもの、主族(例えば、アルミナ系触媒)及び遷移金属、例えば、クロミア系触媒(例えば、亜鉛/クロミア)、ルイス及び金属ハロゲン化物またはゼロ価金属触媒が挙げられる。245cbの化合物の脱フッ化水素化をもたらし、1234yfを生成する1つの好ましい方法は、クロミア系(例えば、亜鉛/クロミア)触媒などの金属系触媒と接触させることによる。
【0058】
好ましくは、245cbは、気相中で1234yfに触媒的に脱フッ化水素化される。
【0059】
243dbは、市販されている(例えば、Apollo Scientific Ltd,UKから)。あるいは、243dbは、安価な原料の四塩化炭素(CCl)及びエチレンから出発する合成経路を介して調製されてもよい(以下に記載された反応スキームを参照されたい)。これらの2つの出発物質は、テロメリ化されて、1,1,1,3-テトラクロロプロパンを生成する(例えば、参照により本明細書に組み込まれるJ.Am.Chem.Soc.Vol.70,p2529,1948を参照されたい)(HCC-250fb、または簡単に250fbとしても知られる)。
【0060】
250fbは、次いでフッ素化されて、3,3,3-トリフルオロプロペン(1243zf)及び/または1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロパン(253fb)を生成する(例えば、任意にクロミア含有触媒、好ましくは、本明細書に記載される亜鉛/クロミア触媒の存在下で、HFを使用して)。1,1,1-トリフルオロ-3-クロロプロパンの脱ハロゲン化水素化(例えば、NaOHもしくはKOHを使用して、または気相内で)は、3,3,3-トリフルオロプロペン(1243zf)を生成する。
【0061】
次いで、1243zfは、塩素化(例えば、塩素により)など、容易にハロゲン化され、1,1,1-トリフルオロ-2,3-ジクロロプロパン(243db)を生成することができる。この反応スキームを、以下にまとめる。
【化1】
【0062】
上記で概説された243dbの調製は、参照により本明細書に組み込まれる、WO2010/116150及びWO2009/125199により詳細に記載されている。
【0063】
本発明の実施形態を、以下の非限定的な実施例及び図面を参照して、これから説明する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】本発明による、概略的プロセスフローシートを示す。
図2】本発明による、転化が1233xfのフッ素化に対して経時的にプロットされているコーキング試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1は、本発明によるプロセス設計を示す。243db及びHFを含む組成物(1)を、第1の反応器(A)に導入し、ここでは、気相触媒脱塩化水素化が生じて、1233xf、HF、及びHClを含む中間組成物(2)を生成する。中間組成物は、未反応の243dbを更に含有してもよく、ある特定の実施形態では、245cb及び1234yfなどの副産物を含有してもよい。
【0066】
中間組成物(2)は、空気の同時供給(3)により、第2の反応器に直接供給され、中間組成物(2)の気相触媒フッ素化が第2の反応器(B)で生じて、245cb、HF、HCl、及び空気を含む反応器生成組成物(4)を生成する。反応器生成組成物は、未反応の1233xfを更に含有してもよく、ある特定の実施形態では、未反応の243db及び1234yfなどの副産物を含有してもよい。
【0067】
好ましい実施形態では、反応器生成組成物(4)は、分離ステップ(C)で、HCl及び空気を含む流れ(5)と、245cb及びHFを含む流れ(6)とに分離される。本発明のプロセスにおける空気の同時供給の利点は、これがHClと一緒に反応器生成組成物から容易に分離され得ることである。好ましくは、これは、HCl及び空気を含む流れ(5)が、蒸留塔(C)の上部で取り出され、245cb及びHFを含む流れ(6)が蒸留塔(C)の底部から取り出される状態で、蒸留によって達成される。流れ(6)は、通常、未反応の243db、1233xf、及び/または1234yfなどの任意の他の成分を含有する。
【0068】
図1により例示される実施形態では、245cb及びHFを含む流れ(6)は、分離ステップ(D)で、245cbを豊富に含む流れ(7)とHFを豊富に含む流れ(8)とに分離される。好ましくは、これは、245cbを豊富に含む流れ(7)が、蒸留塔(D)の上部で取り出され、HFを豊富に含む流れ(8)が蒸留塔(D)の底部から取り出される状態で、蒸留によって達成される。245cbを豊富に含む流れ(7)は、通常、1234yfなどの、存在する任意の比較的軽い有機成分も含有する。HFを豊富に含む流れ(8)は、通常、1233xfなどの、存在する任意の比較的重い有機成分も含有する。
【0069】
好ましくは、245cbを豊富に含む流れ(7)は、スクラビングステップ(E)を受け、ここでは、任意の残留HF(及び/または任意の残留HCl)が、245cbを豊富に含む流れから実質的に除去され、実質的にHFを含まない(及び/または実質的にHClを含まない)245cbを豊富に含む流れ(11)を生成する。通常、このステップ(E)は、245cbを豊富に含む流れ(7)を、図1では流れ(9)として一般的に表されている、水、及び/または水性酸源ならびに/もしくは水性アルカリ源と接触させて、HFを実質的に含まない245cbを豊富に含む流れ(11)と1つ以上の使用済みスクラビング流(10)とを生成することを伴う。実質的にHFを含まないとは、100ppm未満、好ましくは50ppm、40ppm、30ppm、20ppm、10ppm、5ppm、4ppm、3ppm、3ppm未満、または1ppm未満の意味を含む。
【0070】
好ましい実施形態では、245cbを豊富に含む流れ(11)は、分離ステップ(F)にかけられ、ここでは245cbが、存在する任意の更なる有機成分(例えば、1234yfなどのフルオロカーボン)から更に分離されて、実質的に純粋な245cb生成物(13)を生成する。好ましくは、この分離ステップ(F)は、1つ以上の蒸留ステップを含む。実質的に純粋な245cb生成物(13)とは、モル基準で、95%超、98%超、99%超で純粋、好ましくは、99.5%超、99.8%超、または99.9%超で純粋である意味を含む。
【0071】
好ましい実施形態では、HFを豊富に含む流れ(8)中のHFは、243db及びHFを含む組成物の触媒脱塩化水素化に再利用される。図1に示すように、HFを豊富に含む流れは分離ステップ(G)にかけられ、ここでは、HFを豊富に含む流れ(8)が、HF流(14)と有機物流(15)とに分離される。このHF流は、気相触媒脱塩化水素化がその中で生じる第1の反応器(A)に入る243db及びHFを含む組成物(1)に再利用される。好ましい態様では、分離ステップ(G)は、相分離器を含む。
【0072】
実施例1
一連の触媒(以下の表1を参照)を、243db脱塩化水素化についてスクリーニングした。試験触媒を、0.5~1.4mmに粉砕し、2mLをInconel 625反応器(0.5インチOD×32cm)に充填した。触媒を、N流(60ml/分)下で200℃にて少なくとも2時間予備乾燥した。活性炭を除いて、図示した全ての触媒を、以下の通りに前フッ素化した。HFを30ml/分で触媒上を通過させるとともに、窒素を300℃で60ml/分で1時間通過させた。窒素を、触媒上を通過するニートHFを放出する反応器出口に向かわせた。温度を360℃までゆっくりと上昇させて、この温度で10時間保持し、その後250℃に下げた。全ての実験は、大気圧及び指示された温度で行った。243dbの流量は、活性炭触媒では2ml/分であって、残りの触媒では、0.5~約1ml/分であった。全ての実験は、HFが使用されない活性炭を除いて、243dbの流量を超過するHFの流量で行った。反応器のオフガスを採取し、脱イオン水を通してスクラビングし、ガスクロマトグラフィーにより分析した。243dbの1233xfへの転化及び選択性を表1に示す。
【表1A】
【表1B】
試験した触媒の全ては、特に活性炭が、243dbの1233xfへの転化において効果的であることが判明した。
【0073】
実施例2
6.07gのインジウムドープクロミア触媒を、250℃及び3bargで、窒素(80ml/分)下において72時間にわたって乾燥した。この後に、触媒の2段階の前フッ素化が続いた。第1の段階では、触媒を窒素(80ml/分)及びHF(4ml/分)に250℃及び3bargでHFの通り抜けから最長4時間まで曝し、この時点で温度を25℃/分で300℃まで上昇させて、これを16時間保持した。第2段階では、窒素流量を、それが絶たれるまで段階的に減少させて、温度を25℃/分で380℃まで上昇させて、これを10時間保持した。HF流を停止させて、窒素(40ml/分)で置き換えて、温度を使用できる状態の250℃まで下げた。
【0074】
空気の同時供給なしに(サイクル1)、また空気を同時供給して(サイクル2)、350℃及び15bargで約100時間、1233xfをHFと共に触媒上に同時供給した。反応器のオフガスをGCによって分析した。監視した触媒再生を用いて、使用後の触媒中の平均コークスレベルを測定した。これらの結果を以下の表2に示し、図2に図示する。
【表2】
両サイクルは、同じ温度及び圧力で行ったが、HFの流量は、接触時間を維持するためにサイクル2で減少させた。サイクル1及び2についての接触時間は、それぞれ、57秒及び65秒であった。サイクル2での低減させたHF流量及び目標の1233xf流量よりも低い(制御が難しく、目標よりも低かった)ことの結果として、HF:1233xf比は、2つのサイクルでわずかに異なった(サイクル1では平均で20:1及びサイクル2では15:1)。サイクル1についての平均1233xf流量は、3.2ml/分であって、サイクル2については3.5ml/分であった。
【0075】
空気なしでは、触媒活性の大部分は、約80時間後に失われた。空気の導入は、触媒失活の速度を著しく低減した(100時間後の活性消失は、空気なしの20時間に丁度匹敵した)。この転化損失率に基づけば、サイクル2は、サイクル1と同様な転化損失に達するのに410時間を要することが予想されるであろう。空気同時供給による触媒失活の低減した速度は、測定された触媒コークスレベルによるものである。
【0076】
反応選択性も影響を受け、総不純物レベルは、空気がない状態と比べて空気の同時供給でほぼ倍増した。空気を同時供給することは、245cb:1234yf比に及ぼす影響をほとんど有さないように見えた。
【0077】
存在する空気の濃度は、1233xfの流速が、平均して、目標の5ml/分よりも低かったために、所望のものよりも高かった。これは、少なくとも一部には、選択性の減少に原因があると考えられる。このような理由で、またサイクル1で生成されたコークスに基づいて、空気のより低い濃度が、転化及び245cbへの選択性を低減することなく、触媒失活の同程度の減少率を達成するために望ましいと考えられる。より低い空気流量、例えば約0.5ml/分~約4.5ml/分、好ましくは約1~約4ml/分、例えば約1.5~3.5ml/分(全て、実際の5ml/分の1233流量に基づく)が、所望の245cb生成物への転化選択性と組み合わされた触媒失活の速度の減少の驚くべきバランスを実現すると推定された。
【0078】
本発明は、以下の特許請求の範囲により定義される。

図1
図2