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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20220920BHJP
   B66B 5/02 20060101ALI20220920BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B5/02 P
B66B3/00 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020209895
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096752
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昇平
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-200177(JP,A)
【文献】特開2003-081552(JP,A)
【文献】特開2007-254039(JP,A)
【文献】特開2016-190726(JP,A)
【文献】特開2019-218149(JP,A)
【文献】特開2008-120581(JP,A)
【文献】特開2018-083691(JP,A)
【文献】特開2015-013730(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111924678(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00-3/02;
5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータ制御装置に親機として設置された第1の通信端末と、
少なくとも乗りかごまたはカウンタウェイトに子機として設置され、上記第1の通信端末を中心に一定の限られた範囲に構築された通信ネットワークを介して上記第1の通信端末と無線通信を行う第2の通信端末と、
上記通信ネットワークを介して上記第1の通信端末に無線接続し、上記エレベータ制御装置からエレベータ設備に関する動作状態情報を取得して、保守点検作業に関する操作を無線通信で行う保守点検装置とを具備し
上記通信ネットワークは、昇降路内で上記第1の通信端末と上記第2の通信端末との間で無線通信するための専用回線網であることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
上記通信ネットワークは、サブギガヘルツの周波数帯を有するローカルエリアネットワークであることを特徴とする請求項記載のエレベータシステム。
【請求項3】
上記保守点検装置は、上記第1の通信端末に設定されたID情報の入力により、上記通信ネットワークを介して上記第1の通信端末に無線接続することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項4】
上記エレベータ設備に関する動作状態情報には、少なくとも地震発生時に地震感知器から出力された高ガルの検知信号が含まれ、
上記保守点検装置は、上記高ガルの検知信号をリセットするための信号を上記通信ネットワークを介して上記第1の通信端末に送信することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項5】
上記保守点検装置は、持ち運び可能な形態を有し、上記エレベータ制御装置に近い乗場で使用されることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項6】
マシンルームレスタイプのエレベータにおいて、
上記エレベータ制御装置は、昇降路内に設置されていることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項7】
複数台のエレベータが併設され、上記各エレベータ毎に上記エレベータ制御装置と上記第1の通信端末と上記通信ネットワークを有するエレベータシステムにおいて、
上記保守点検装置は、上記各エレベータ毎に異なるID情報を送信し、上記各エレベータの点検作業に関する処理を無線通信で行うことを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震等によって建物が揺れると、地震時管制運転装置によって、乗りかごが最寄り階に誘導され、ドアが開放された状態となり、乗客の積み下ろしを行う。このような地震時管制運転装置を備えたエレベータシステムは、S波センサやP波センサを備えている。S波センサやP波センサは、例えば、建物の上部に位置する機械室や昇降路内のピット等に設けられる。
【0003】
上記エレベータシステムでは、必要に応じて自動診断運転が行われ、各種機器に損傷や不具合がないかが診断される。自動診断運転は、安全上の観点から、地震が発生した時のS波センサやP波センサからの出力(ガル値)が所定の基準値未満であった時にのみ行われる。S波センサやP波センサからの出力が一度でも基準値を超えた場合には、保守員による点検が必要となる。
【0004】
ここで、さらなる安全性の担保のために、S波センサやP波センサに加えて、例えば乗りかごやカウンタウェイトに加速度センサを設けておき、個々のエレベータ耐震能力に応じた揺れを検知し、自動診断運転の稼働率向上を目的とするシステムが考えられている。上記加速度センサはバッテリ駆動され、通信端末を介してエレベータ制御装置に無線接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開第5135867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
S波センサまたはP波センサによって高ガルの大きな揺れが検知されると、エレベータの運転が停止する。その後、運転を再開するためには、保守員が各箇所を点検した後、エレベータ制御装置に保持されている高ガルの検知信号をリセットする必要がある。
【0007】
しかしながら、余震などが発生する可能性があり、保守員がエレベータ制御装置の設置場所まで行ってリセット操作することは危険を伴う。これは、リセット操作に限らず、何らかの点検作業を行う場合も同様である。特に、マシンルームレスタイプのエレベータでは、乗りかごの上に乗って、昇降路内に設置されたエレベータ制御装置の近くにまで行く必要があるため、非常に危険である。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、エレベータ制御装置から離れた場所であっても、点検作業を安全に行うことのできるエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態に係るエレベータシステムは、第1の通信端末と、第2の通信端末と、保守点検装置とを備える。上記第1の通信端末は、エレベータ制御装置に親機として設置される。上記第2の通信端末は、少なくとも乗りかごまたはカウンタウェイトに子機として設置され、上記第1の通信端末を中心に一定の限られた範囲に構築された通信ネットワークを介して上記第1の通信端末と無線通信を行う。上記保守点検装置は、上記通信ネットワークを介して上記第1の通信端末に無線接続し、上記エレベータ制御装置からエレベータ設備に関する動作状態情報を取得して、保守点検作業に関する操作を無線通信で行う。
上記構成のエレベータシステムにおいて、上記通信ネットワークは、昇降路内で上記第1の通信端末と上記第2の通信端末との間で無線通信するための専用回線網であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は一実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。
図2図2は上記エレベータシステムにスレーブ(子機)として用いられる通信端末の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は上記エレベータシステムにマスター(親機)として用いられる通信端末の機能構成を示すブロック図である。
図4図4は上記エレベータシステムに用いられる保守点検装置の機能構成を示すブロック図である。
図5図5は保守点検装置の使用例を説明するための図である。
図6図6は上記エレベータシステムの動作を示すフローチャートである。
図7図7は変形例として複数台のエレベータが併設された場合の保守点検装置の使用例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0012】
図1は一実施形態に係るエレベータシステムの概略構成例を示す図である。図1の例では、エレベータ全体の制御を行うエレベータ制御装置10と巻上機17が上部機械室1に設けられている。なお、機械室を持たないマシンルームタイプのエレベータでは、エレベータ制御装置10と巻上機17が昇降路2内の上部に配置される。
【0013】
エレベータ制御装置10には、エレベータ全体の制御を行うための制御基板11と、マスター(親機)として機能する通信端末CMとが含まれる。昇降路2内には、図1に示すように、乗りかご12及びカウンタウェイト13が設けられており、それぞれガイドレール14a~14dに昇降動作可能に支持されている。
【0014】
ガイドレール14a,14bは乗りかご12用のガイドレールであり、ガイドレール14c,14dはカウンタウェイト13用のガイドレールである。乗りかご12は、ガイドシュー15a,15bを介してガイドレール14a,14bに摺動可能に取り付けられている。カウンタウェイト13は、ガイドシュー15c,15dを介してガイドレール14c,14dに摺動可能に設けられている。
【0015】
乗りかご12には、乗りかご12の揺れを検出(計測)するための加速度センサS1と、スレーブ(子機)として機能する通信端末CS1とが設けられている。加速度センサS1と通信端末CS1とは有線にて接続されており、通信機能を備えたセンサ装置(センサ端末とも呼ぶ)として用いられる。
【0016】
同様に、カウンタウェイト13には、カウンタウェイト13の揺れを検出(計測)するための加速度センサS2と、スレーブ(子機)として機能する通信端末CS2とが設けられている。加速度センサS2と通信端末CS2とは有線にて接続されており、通信機能を備えたセンサ装置として用いられる。通信端末CS1,CS2は、マスター(親機)である通信端末CMと通信可能に接続される。通信端末CS1と加速度センサS1とは同一筐体に格納されていてもよい。通信端末CS2と加速度センサS2とは同一筐体に格納されていてもよい。
【0017】
ここで、マスター(親機)である通信端末CMと、スレーブ(子機)である通信端末CS1,CS2は、通信ネットワークNを介して無線通信を行う。通信ネットワークNは、親機の通信端末CMを中心に一定の限られた範囲に構築された専用回線網である。具体例として、通信ネットワークNは、サブギガヘルツの周波数帯(920MHz)を有するローカルエリアネットワーク(LAN)であり、公衆回線網に接続されていない局地的なネットワークである。
【0018】
通信端末CS1は、乗りかご12に設置された加速度センサS1の計測データを入力し、通信ネットワークNを介して通信端末CMに送信する。通信端末CS2は、カウンタウェイト13に設置された加速度センサS2の計測データを入力し、通信ネットワークNを介して通信端末CMに送信する。
【0019】
また、地震発生時の揺れを検出(計測)するために、上部機械室1にはS波センサSSが設けられ、ピット3にはP波センサPSが設けられている。S波センサSS及びP波センサPSは、エレベータ制御装置10と有線にて接続されている。
【0020】
メインロープ16の一端に乗りかご12が連結され、メインロープ16の他端にカウンタウェイト13が連結されている。メインロープ16は、巻上機17の回転軸に取り付けられたメインシーブ18aに巻回されている。18bはそらせシーブである。
【0021】
巻上機17は、メインシーブ18aを回転させるためのモータ19を含んでいる。エレベータ制御装置10からの駆動指示により巻上機17のモータ19が駆動されると、メインシーブ18aが所定方向に回転し、メインロープ16を介して乗りかご12がカウンタウェイト13と共につるべ式に昇降動作する。メインシーブ18aには位置検出器(パルスジェネレータ)20が設置されている。位置検出器20は、メインシーブ18aがどの方向にどれだけ回転したかを検出することで、昇降動作に伴う乗りかご12の移動量を検出する。
【0022】
乗りかご12には、かご制御装置21とドア制御装置22とが設けられている。かご制御装置21及びドア制御装置22は、エレベータ制御装置10(制御基板11)に接続されている。
【0023】
かご制御装置21は、エレベータ制御装置10からの指示にしたがって、乗りかご12内の照明機器の駆動制御や空調制御を行う。また、かご制御装置21は、かご内に設けられた操作パネル4に関する情報、具体的には、乗客によって押下された行先階ボタンやドア開閉ボタン等に関する情報をエレベータ制御装置10やドア制御装置22に出力する。
【0024】
ドア制御装置22は、エレベータ制御装置10やかご制御装置21からの指示にしたがって乗りかご12のドアの開閉制御を行う。ドア制御装置22は、乗りかご12のドアを開閉するためのモータ23と接続し、このモータ23を駆動することでドアの開閉制御を行う。
【0025】
乗りかご12が着床する各階の乗場5には、乗場呼びボタン6と乗場制御装置30とが設けられている。乗場呼びボタン6は、乗客が乗りかご12に乗車する乗場の位置(階床)と行先方向(上方向/下方向)を登録するためのボタンである。乗場制御装置30は、エレベータ制御装置10(制御基板11)に接続され、乗場呼びボタン6によって登録された情報をエレベータ制御装置10に出力する。
【0026】
また、本実施形態におけるエレベータシステムは、保守点検装置40を備える。保守点検装置40は、保守員の点検作業に必要な機能と、通信ネットワークNを介して親機の通信端末CMに無線接続可能な機能を備える。保守点検装置40は、持ち運び可能な形態を有し、保守員によって操作される。なお、この保守点検装置40の使い方については後に詳しく説明する。
【0027】
次に、図2の機能ブロック図を参照して、スレーブ(子機)として用いられる通信端末CSの構成について説明する。乗りかご12に設置された通信端末CS1、カウンタウェイト13に設置された通信端末CS2とは同様な機能部を有している。ここでは、カウンタウェイト13に設置された通信端末CS2を代表例にとって説明し、通信端末CS1の説明は省略するものとする。
【0028】
通信端末CS2は、カウンタウェイト13に設けられた加速度センサS2に接続される。通信端末CS2は、加速度センサS2によって検出された揺れの強さを示す計測データ(加速度データ)を入力すると共に、所定のタイミングでマスター(親機)である通信端末CMに通信ネットワークNを介して無線接続し、通信端末CMに上記計測データを送信する機能を備えている。
【0029】
なお、加速度センサS2は、少なくとも横揺れ(水平方向の揺れ)を検出可能な2軸加速度センサであれば良いが、横揺れに加えて縦揺れ(鉛直方向の揺れ)も検出可能な3軸加速度センサであっても良い。水平方向の軸をx軸,y軸、鉛直方向の軸をz軸と呼ぶ。
【0030】
図2に示すように、通信端末CS2は、バッテリ100、電力供給制御部101、入力部103、保存部104、検出周期制御部105、通信制御部106を備える。
【0031】
バッテリ100は、充電式あるいは交換可能であり、通信端末CS2および加速度センサS2の電源として用いられる。電力供給制御部101は、バッテリ100の電力を通信端末CS2内の通信制御部106を含む各機能部に供給すると共に加速度センサS2に供給する。
【0032】
入力部103は、予めカウンタウェイト13の揺れを検出するための時間間隔を定めた検出周期Tで、加速度センサS2からの計測データの入力を受け付ける。保存部104は、入力部103を通じて入力された計測データを時系列順に保存する。
【0033】
検出周期制御部105は、保存部104に保存された最新の計測データが示す揺れの強さに基づいて検出周期Tを制御する。省電力の観点から平常運転モード時には、検出周期Tは、通常測定用の長周期T1に設定されている。一方、ある一定の揺れ(第1の閾値TH1以上の揺れ)が検知された場合には、計測データをサンプリングする数を増やすため、検出周期Tは、長周期T1よりも時間間隔が短く設定された詳細測定用の短周期T2に切り替えられる。
【0034】
詳しくは、検出周期制御部105は、第1の閾値TH1を検出周期Tの変更基準として持ち、計測データが示す揺れの強さが第1の閾値TH1未満のときに検出周期Tを長周期T1に切り替え、第1の閾値TH1以上のときに検出周期Tを短周期T2に切り替える。
【0035】
通信制御部106は、通信端末CS2と通信端末CMとの間の通信制御を行う。この通信制御部106には、監視部106aが備えられている。監視部106aは、所定のタイミングで通信端末CS2および加速度センサS2の動作状態をエレベータ制御装置10に確認させるための死活監視を行う。詳しくは、監視部106aは、予め設定された監視周期Wで死活監視信号を要求するためのトリガ信号をエレベータ制御装置10に設けられた通信端末CMに送信し、そのトリガ信号の応答で通信端末CMから送られてくる死活監視信号を受信する。
【0036】
上記監視周期Wは、例えば10分に設定される。通信端末CS2から通信端末CMを介してエレベータ制御装置10にトリガ信号を送信したときに、所定時間内に監視対象として設定されたデータ(バッテリ残量、通信強度、機器の異常信号等)がエレベータ制御装置10に送られてくれば、エレベータ制御装置10は通信端末CS2および加速度センサS2が正常に動作しているものと判定する。また、通信端末CS2は、上記各データが設定された基準値よりも低い場合は、機器が故障または異常があるとしてエレベータ制御装置10へ出力する。
【0037】
続いて、図3の機能ブロック図を参照して、マスターとして機能する通信端末CMの構成について説明する。
【0038】
通信端末CMは、スレーブとして機能する通信端末CS1,CS2と通信ネットワークNを介して接続される。また、通信端末CMは、有線にて制御基板11と接続される。通信端末CMは、図3に示すように、電力供給制御部201、通信制御部202、返信制御部203及び出力部204等を備えている。
【0039】
電力供給制御部201は、制御基板11から供給される電力を各機能部に供給する。なお、電力供給制御部201は、制御基板11から電力供給を受けているため、通信端末CS1,CS2内の電力供給制御部101とは異なり、通信端末CMに含まれる全ての機能部に対して所要の電力を常時供給する。
【0040】
通信制御部202は、スレーブとして機能する通信端末CS1,CS2によって送信された各種信号を受信する。具体的には、通信制御部202は、通信端末CS1,CS2から定期的に送信される計測データや、バッテリ不足のときに送信されるバッテリ交換要求等を受信し、これらの信号に付随していた識別コードと共に返信制御部203及び出力部204に出力する。返信制御部203は、信号を正常に受信したことを通知するためのアクノレッジ(肯定応答)を通信制御部202を介して通信端末CS1,CS2に送信する。出力部204は、通信制御部202を介して各種信号と識別コードとともに受け付けると、制御基板11に出力する。
【0041】
制御基板11には、エレベータの運転制御に関わる各種機能が備えられている。以下では説明を簡単にするため、エレベータ制御装置10が各種機能を実行するものとして説明する。
【0042】
エレベータ制御装置10は、例えば地震感知器(S波センサSSやP波センサPS)によって高ガルの地震が検知された場合に、その高ガルの検知信号を保持(ラッチ)し、外部からの解除操作があるまで、エレベータの運転を停止しておく機能を備える。また、エレベータ制御装置10は、例えば乗りかご12の運転状態やドアの開閉状態など、エレベータ設備に関する動作状態情報を保持している。
【0043】
続いて、図4の機能ブロック図を参照して、保守点検装置40の構成について説明する。
保守点検装置40は、無線通信機能を備えた端末装置からなる。保守点検装置40には、コンピュータの一般的な機能構成として、制御部41、操作部42、表示部43、通信部44、記憶部45などが備えられる。
【0044】
制御部41は、CPUからなり、記憶部45に記憶されたプログラム45aを読み込むことで、保守点検に関連した各種処理を実行する。プログラム45aには、本システムの通信ネットワークNにアクセスして、通信端末CMに接続するために必要な手順が記述されている。保守点検装置40が点検作業のための専用機器として存在する場合には、プログラム45aが予めインストールされている。また、例えばスマートフォンやタブレットコンピュータなどの一般的なコンピュータ機器に上記プログラム45aをダウンロードすることにより、保守点検装置40として利用することも可能である。
【0045】
操作部42は、各種データやコマンドの入力操作を行うための入力デバイスからなる。表示部43は、保守点検時に各種データや設定画面等を表示するための表示デバイスである。通信部44は、無線通信デバイスからなり、サブギガヘルツの周波数帯(920MHz帯)を有する通信ネットワークNにアクセスして、通信端末CMに無線接続するための機能を備える。記憶部45は、ROM,RAMなどのメモリデバイスからなり、上述したプログラム45aを含め、保守点検に必要な各種データを記憶する。
【0046】
ここで、サブギガヘルツの通信距離(約25km程度)を考慮すると、論理的には建物内のどこからでも通信ネットワークNにアクセスして、通信端末CMに無線接続できる。しかし、昇降路2内は障害物が多く、電波環境が悪いため、エレベータ制御装置10に近い場所から通信端末CMに無線接続することが良い。
【0047】
具体的には、図5に示すように、例えば最上階の乗場5で保守点検装置40を操作することが好ましい。これは、エレベータ制御装置10が建物最上部の機械室1内に設置されているからである(図1参照)。なお、マシンルームレスタイプのエレベータでも、通常、昇降路2内の最上部にエレベータ制御装置10が設置されるので、最上階の乗場5で保守点検装置40を操作することが好ましい。
【0048】
次に、本実施形態におけるエレベータシステムの動作について説明する。
図6はエレベータシステムの動作を示すフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、保守点検装置40に備えられた制御部41がプログラム45aを読み込むことにより実行される。
【0049】
例えば、地震発生時に運転停止したエレベータの運転を復旧させるための作業を含め、保守員が何らかの点検作業を行う場合を想定する。上記「エレベータの運転を復旧させるための作業」とは、具体的には、地震発生時にエレベータ制御装置10にラッチされた高ガルの検知信号をリセットする作業等がある。保守員は、例えば最上階の乗場5に行き、そこで保守点検装置40を操作して点検作業を行う。
【0050】
まず、保守点検装置40の操作部42を通じて、親機の通信端末CMのID情報を入力する(ステップS11)。このID情報は、通信端末CMを特定するための情報であり、後述するように各エレベータに親機として設置された通信端末毎に設定されている。
【0051】
ID情報を入力すると、保守点検装置40は、通信ネットワークNを介して通信端末CMに対する無線接続処理を実行する(ステップS12)。詳しくは、保守点検装置40は、本システムで規定された所定の通信手順に従って、ID情報を通信端末CMに送り、通信端末CMからの応答を待って両者間の無線接続を確立するなどの処理を行う。
【0052】
ここで、例えば、ID情報が適合しない場合や、電波状況が悪い場合などで接続不可の場合には(ステップS13のNo)、上記通信接続処理が繰り返される。所定回数に達しても通信端末CMに接続できない場合には(ステップS14のYes)、所定のエラー処理が実行される(ステップS15)。一方、上記通信接続処理によって保守点検装置40が通信端末CMに接続されると(ステップS13のYes)、保守点検装置40は、通信端末CMを通じてエレベータ制御装置10に保持されている動作状態情報を取得する(ステップS16)。
【0053】
動作状態情報には、例えば乗りかご12の運転状態やドアの開閉状態など、エレベータ設備に関する情報の他に、下記のような通信端末に関する情報が含まれる。
・加速度センサS1,S2の計測データに対する閾値の設定情報
・子機の通信端末CS1,CS2のバッテリ情報
・親機と子機との間の通信状態
・エラー情報
【0054】
実際には、保守点検装置40の表示部43に図示せぬ点検項目画面が表示され、項目別に各種情報を選択的に取得することができる。また、保守点検装置40からエレベータ制御装置10に対し、無線通信のキャリブレーション動作を指示することもできる。このキャリブレーション動作は、乗りかご12を最下階から最上階まで低速で移動させて、電波強度をチェックして、通信端末CS1,CS2に設置された図示せぬアンテナの向きなどを調整するための動作である。
【0055】
ここで、例えば地震発生により、S波センサまたはP波センサによって高ガルの大きな揺れが検知され、その検知信号がエレベータ制御装置10に保持(ラッチ)されていたとする。この高ガルの検知信号は、所定の操作によってリセットされるまでの間、エレベータの運転は停止状態にある。
【0056】
エレベータ制御装置10から取得した動作状態情報に、S波センサまたはP波センサの動作状態信号として高ガルの検知信号が含まれていた場合(ステップS17のYes)、保守員の操作により、保守点検装置40から無線によりリセット信号をエレベータ制御装置10に送信して、高ガルの検知信号を解除することができる(ステップS18)。
【0057】
詳しくは、保守点検装置40から無線によりリセット信号を送信すると、そのリセット信号は通信ネットワークNを介して親機の通信端末CMで受信される。エレベータ制御装置10は、通信端末CMで受信したリセット信号に従って、制御基板11上の図示せぬメモリに記憶されている高ガルの検知信号をリセットする。これにより、自動復旧が可能な状態になり、自動復旧のオペレーションによって安全が確認された後、通常運転が再開される。
【0058】
また、エレベータ制御装置10から取得した動作状態情報に高ガルの検知信号以外の何らかの機器の動作状態信号(エラー信号など)が含まれていた場合には(ステップS17のNo)、保守員による操作によって、保守点検装置40から無線により当該動作状態信号に対する対処信号をエレベータ制御装置10に送信して対処することができる(ステップS19)。
【0059】
このように本実施形態によれば、親機の通信端末CMと子機の通信端末CS1,CS2との間の無線通信で使われる通信ネットワークNに接続可能な保守点検装置40を用いることで、エレベータ制御装置10から離れた場所で遠隔操作して、様々な点検作業を行うことができる。したがって、地震が発生した場合などに、エレベータ制御装置10の設置場所に行かなくとも、現状に対応した点検作業を直ぐに行うことができ、保守員の安全確保と迅速な対処を実現できる。
【0060】
特に、マシンルームレスタイプのエレベータでは、エレベータ制御装置10が昇降路2内に設置されているため、通常は、保守員は乗りかご12の上に乗ってエレベータ制御装置10の近くまで行って点検作業をしなければならない。これに対し、本システムであれば、保守員は乗場5から保守点検装置40を用いて点検作業を行うことができるので、余震などがあった場合に直ぐに待避することができて安全である。
【0061】
また、上記通信ネットワークNは、誰でも利用できる公衆回線網ではなく、専用回線網である。したがって、他者が勝手に無線接続することは困難であり、親機のID情報を知っている保守員だけが保守点検装置40を用いて無線接続でき、セキュリティ的にも安全である。
【0062】
(変形例)
上記実施形態では、1台のエレベータを想定して説明したが、図7に示すように複数台のエレベータが併設されている場合に、保守員は1台の保守点検装置40を用いて各エレベータに対する点検作業を行うことができる。
【0063】
図7の例では、A号機,B号機,C号機の3台のエレベータが併設されている。図中の2a,2b,2cは各号機の昇降路であり、バンク分けされている。各エレベータは、それぞれにエレベータ制御装置10a,10b,10cを備える。A号機のエレベータ制御装置10aには、親機である通信端末CMaが設置されており、通信ネットワークNaを介して子機の通信端末CSaと無線接続されている。子機の通信端末CSaは、図示せぬ乗りかごやカウンタウェイトに設置され、図示せぬ加速度センサの計測データを定期的に親機の通信端末CMaに送っている。
【0064】
B号機,C号機のエレベータについても同様の構成である。B号機のエレベータ制御装置10bには、親機である通信端末CMbが設置されており、通信ネットワークNbを介して子機の通信端末CMbと無線接続されている。C号機のエレベータ制御装置10cには、親機である通信端末CMcが設置されており、通信ネットワークNcを介して子機の通信端末CMcと無線接続されている。通信ネットワークNa,Nb,Ncは、本システム専用の通信網であり、サブギガヘルツの周波数帯(920MHz)を有する。
【0065】
ここで、通信端末CMa,CMb,CMbには、それぞれに各号機固有のID情報が設定されている。保守員は、例えば最上階の乗場5で保守点検装置40を操作し、上記ID情報を入力することで、各号機毎に点検作業を行うことができる。
【0066】
例えば、A号機の通信端末CMa:ID1,B号機の通信端末CMb:ID2,C号機の通信端末CMa:ID3といったID情報が設定されていたとする。A号機のエレベータの点検作業を行う場合には、保守点検装置40からID1を送信する。これにより、保守点検装置40は、通信ネットワークNaを介して通信端末CMaと無線接続される。したがって、上記実施形態で説明したように、エレベータ制御装置10aから動作状態情報を取得して、その動作状態情報に応じて点検作業をリモート操作で行うことができる。B号機のエレベータや、C号機のエレベータについても同様であり、それぞれの親機に設定されたID情報(ID2,ID3)を送ることで、保守員は同じ場所から点検作業を行うことができる。
【0067】
このように、複数台のエレベータが併設されている場合に、保守点検装置40を用いれば、同じ場所から各号機のエレベータ制御装置10a,10b,10cにアクセスし、点検作業に関する処理(高ガル検知信号のリセットなど)を行うことができる。したがって、点検作業の効率化と短縮化を図ることができ、さらに、地震発生時の安全性も確保できる。
【0068】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、エレベータ制御装置から離れた場所であっても、点検作業を安全に行うことのできるエレベータシステムを提供することができる。
【0069】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1…上部機械室、2…昇降路、3…ピット、4…操作パネル、5…乗場、6…乗場呼びボタン、10…エレベータ制御装置、11…制御基板、12…乗りかご、13…カウンタウェイト、14a~14d…ガイドレール、15a~15d…ガイドシュー、16…メインロープ、17…巻上機、18a…メインシーブ、18b…そらせシーブ、19…モータ、20…位置検出器、21…かご制御装置、22…ドア制御装置、23…モータ、30…乗場制御装置、40…保守点検装置、41…制御部、42…操作部、43…表示部、44…通信部、45…記憶部、45a…プログラム、CM,CS1,CS2…通信端末、PS…P波センサ、SS…S波センサ、S1,S2…加速度センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7