IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲーの特許一覧

<>
  • 特許-遠心離反式のウェッジクラッチ 図1
  • 特許-遠心離反式のウェッジクラッチ 図2
  • 特許-遠心離反式のウェッジクラッチ 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】遠心離反式のウェッジクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/06 20060101AFI20220920BHJP
   F16D 41/063 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
F16D41/06 B
F16D41/063
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020508538
(86)(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 US2018062051
(87)【国際公開番号】W WO2019108443
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-02-14
(31)【優先権主張番号】15/827,455
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ジェレミア ボーマン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ホッジ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ コープランド
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0341262(US,A1)
【文献】中国実用新案第202371056(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/16,23/16,41/06,41/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェッジクラッチであって、
中心軸線の周りに延在していて、溝を画成する外面を有し、前記溝はその軸方向における中間部で周方向に沿って形成されているインナーレースと、
前記軸線の周りに延在していて、前記インナーレースに対して回転可能なアウターレースであって、複数のポケットを画成する内面を有しており、各ポケットが、前記軸線に面しかつ前記インナーレースの前記外面に対して傾けられた傾斜面を有している、アウターレースと、
前記ポケットの内部に配置された複数のウェッジセグメントであって、該ウェッジセグメントと前記アウターレースとの間の周方向の相対運動を可能にするために、各ウェッジセグメントが、摺動係合した状態で前記ポケットのうちの1つのポケットの各傾斜面に接触する傾けられた外面を有しており、各ウェッジセグメントが、前記インナーレースの前記溝の内部に配置されたテーパ状の内面を有している、複数のウェッジセグメントと
を備え、
前記アウターレースの前記ポケットが、それぞれ前記傾斜面から延出する湾曲したウェッジ受止め面を画成しており、前記ウェッジセグメントが、それぞれその周方向における一方の端部に湾曲した係合面を有しており、前記湾曲した係合面は前記湾曲したウェッジ受止め面と接触するように構成され
前記ウェッジセグメントの前記係合面及び前記ウェッジ受止め面が段部を有し、両部位は共に上段部が湾曲して接触するように構成され、
前記ウェッジセグメントのうちの各1つにそれぞれ連結された複数のばねを備え、前記ばねが前記アウターレースの前記ポケットに固定され、前記ウェッジ受止め面の下段部側から前記ウェッジセグメントの前記係合面側に延び、前記ウェッジセグメントを係合面の反対側の面に押圧する、ウェッジクラッチ。
【請求項2】
前記ウェッジセグメントは、前記湾曲した係合面が、前記湾曲したウェッジ受止め面から離間したロック位置と、前記湾曲した係合面が、前記湾曲したウェッジ受止め面に接触するロック解除位置との間で、前記インナーレースの前記溝に沿って摺動するように構成されている、請求項1記載のウェッジクラッチ。
【請求項3】
前記ポケットの前記傾斜面が、該傾斜面と前記インナーレースの前記外面との間に間隙を画成しており、該間隙が周方向で狭幅になっている、請求項1記載のウェッジクラッチ。
【請求項4】
前記ウェッジセグメントが、前記周方向で狭幅になっている先端部を有していて、該先端部を前記間隙の狭幅部分の内部に楔止めするように構成されている、請求項記載のウェッジクラッチ。
【請求項5】
高速回転中に前記ウェッジセグメントの前記係合面側の端部とは反対側の端部が遠心力によってアウターレースに押し付けられる、請求項1記載のウェッジクラッチ。
【請求項6】
ウェッジクラッチであって、
軸線の周りに延在していて、外面を有するインナーレースと、
前記インナーレースと同心であり、ポケットを画成する内面を有するアウターレースであって、前記ポケットが、前記軸線に面した傾斜面を有しており、該傾斜面と前記インナーレースの前記外面との間に間隙が存在しており、該間隙が周方向に沿って狭幅になっている、アウターレースと、
前記ポケット内に配置されていて、前記インナーレースの前記外面に摺動係合する内面を有するウェッジであって、該ウェッジが、該ウェッジの前記内面に対して傾けられた外面をさらに有しており、前記ポケットに対する前記ウェッジの周方向の運動が、前記ウェッジを前記間隙の狭幅部分内に楔止めして、前記インナーレースを前記アウターレースにロックする、ウェッジと
を備え、
前記アウターレースの前記ポケットが、それぞれ前記傾斜面から延出する湾曲したウェッジ受止め面を画成しており、前記ウェッジが、それぞれその周方向における一方の端部に、湾曲した係合面を有しており、前記湾曲した係合面は前記湾曲したウェッジ受止め面と接触するように構成され
前記ウェッジの前記係合面及び前記ウェッジ受止め面が段部を有し、両部位は共に上段部が湾曲して接触するように構成され、
前記ウェッジのうちの各1つにそれぞれ連結された複数のばねを備え、前記ばねが前記アウターレースの前記ポケットに固定され、前記ウェッジ受止め面の下段部側から前記ウェッジの前記係合面側に延び、前記ウェッジを係合面の反対側の面に押圧する、ウェッジクラッチ。
【請求項7】
前記インナーレースの前記外面が、溝を画成しており、前記ウェッジの前記内面が、前記溝の内部で前記インナーレースに係合する面取り部を画成している、請求項記載のウェッジクラッチ。
【請求項8】
前記ウェッジが、他方の端部に、狭幅にされた先端部を有している、請求項記載のウェッジクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に関する相互参照
この出願は、2017年11月30日に出願された米国出願第15/827445号に基づく優先権を主張し、本開示は、参照によりその内容全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本開示は、2つまたはそれ以上の構成要素を連結するためのウェッジクラッチに関する。より詳細には、この開示のウェッジクラッチは、遠心力にさらされたときに構成要素の離反(liftoff)を許容する構造を有している。
【背景技術】
【0003】
車両パワートレーンは、入力軸を出力軸に連結するためのウェッジクラッチを有していてよい。このウェッジクラッチは、両シャフトのうちの一方に接続されたインナーレースと、両シャフトのうちの他方に接続されたアウターレースとを有している。ウェッジ要素は、インナーレースとアウターレースの間に半径方向で配置されていて、クラッチがロックされて入力軸から出力軸に力を伝達するときに、インナーレースとアウターレースとを係合するように構成されている。
【0004】
米国特許第9732808号明細書には、当技術分野において知られているウェッジクラッチの一実施形態が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一実施形態では、ウェッジクラッチが、中心軸線の周りに延在していて、溝を画成する外面を有するインナーレースを有している。アウターレースは、軸線の周りに延在していて、インナーレースに対して回転可能である。アウターレースは、複数のポケットを画成する内面を有している。各ポケットは、軸線に面しかつインナーレースの外面に対して傾けられた傾斜面を有している。ポケットの内部に複数のウェッジセグメントが配置されている。これらのウェッジセグメントとアウターレースとの間の周方向の相対運動を可能にするために、各ウェッジセグメントが、摺動係合した状態でポケットのうちの1つのポケットの各傾斜面に接触する傾けられた外面を有している。各ウェッジセグメントは、インナーレースの溝の内部に配置されたテーパ状の内面を有している。
【0006】
アウターレースのポケットは、湾曲したウェッジ受止め面を画成していてもよい。ウェッジセグメントは、それぞれ一方の端部に、ウェッジ受止め面に係合可能である湾曲した係合面を有していてよい。
【0007】
別の実施形態では、ウェッジクラッチが、軸線の周りに延在していて、外面を有するインナーレースを有している。アウターレースは、インナーレースと同心であり、ポケットを画成する内面を有している。ポケットは、軸線に面した傾斜面を有している。この傾斜面とインナーレースの外面との間に間隙が存在している。この間隙は周方向に沿って狭幅になっている。ウェッジが、ポケット内に配置されていて、インナーレースの外面に摺動係合する内面を有している。ウェッジは、このウェッジの内面に対して傾けられた外面をさらに有している。ポケットに対するウェッジの周方向の運動が、ウェッジを間隙の狭幅部分内に楔止めして、インナーレースをアウターレースにロックする。
【0008】
別の実施形態によれば、ワンウェイクラッチが、軸線の周りに延在していて、外面を有するインナーレースを有している。アウターレースは、インナーレースと同心であり、ポケットを画成する内面を有している。ポケットは、軸線に面した傾斜面を有している。この傾斜面は、軸線を中心とした周方向に沿ってインナーレースの外面に向かって所定の角度で折り曲げられている。ポケットは、湾曲したウェッジ受止め面をさらに有している。ポケット内にウェッジセグメントが配置されている。このウェッジセグメントは、ポケットの傾斜面に摺動係合する傾けられた外面を有している。ウェッジセグメントは、湾曲した係合面と、この湾曲した係合面と反対側の端部に設けられた先端部とをさらに有している。ウェッジセグメントは、(i)係合面がウェッジ受止め面から離間していて、先端部がアウターレースの傾斜面およびインナーレースの外面の両方の間に楔止めされて、両面に接触し、これによって、アウターレースをインナーレースにロックするロック位置と、(ii)係合面がウェッジ受止め面に接触していて、先端部の楔止めがアウターレースの傾斜面とインナーレースの外面との間から外され、これによって、アウターレースとインナーレースとをロック解除するロック解除位置と、の間でアウターレースに沿って摺動可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態によるウェッジクラッチの正面図である。
図2図1の領域「A」の拡大図である。
図3図1のC-C線に沿ったウェッジクラッチの一部の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態を本明細書で説明する。しかしながら、開示された実施形態は単なる例であり、他の実施形態は様々な代替的な形態を取ることができることを理解されたい。図面は必ずしも縮尺通りではない。特定の構成要素を詳細に示すために、いくつかの特徴は誇張されて、または最小限に示されている場合がある。したがって、本明細書に開示された特定の構造的および機能的詳細は、限定的に解釈されるべきではなく、むしろ実施形態を様々に利用するために、当業者に教示するための代表的な基礎として解釈されるべきである。当業者には理解されるように、図面のいずれか1つを参照して示され説明される様々な特徴は、1つ以上の他の図面に示された特徴と組み合わせて、明示的には示されていないかまたは説明されていない実施形態を作り出すことができる。図示した特徴の組み合わせにより、典型的な用途のための代表的な実施形態が提供される。しかしながら、本開示の教示と矛盾しない特徴の様々な組み合わせおよび修正が、特定の用途または実施のために望ましい場合がある。
【0011】
本明細書において使用される方向に関する用語は、図面に示されているようなウェッジクラッチの向きに関するものであることを理解されたい。例えば、「インナー」および「アウター」またはこれに類するものについては、「インナー」および「アウター」が、インナーレースおよびアウターレースの中心を通って延びる、両レースが回転する際の基準となる中心軸線に対する図1Aの向きに言及している。外面は、周面または外周面と呼ばれることもある。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態によるウェッジクラッチ1を示し、図2は、図1のウェッジクラッチ1の領域「A」の拡大図を示し、図3は、図1のC-C線に沿ったウェッジクラッチ1の横断面図を示す。ウェッジクラッチ1は、インナーレース10(ハブとも呼ばれる)と、アウターレース20(キャリヤとも呼ばれる)と、インナーレース10とアウターレース20との間に半径方向で配置されたウェッジセグメント30(ウェッジプレートとも呼ばれる)とを有している。インナーレース10とアウターレース20とウェッジセグメント30とは全て互いに同心であってよく、共通軸線の周りに支持されてよい。ウェッジセグメント30は、クラッチが係合されるときに半径方向に移動して、インナーレース10をアウターレース20と共に少なくとも一方向で回転に関してロックするように構成され、クラッチが係合解除されるときには、インナーレース10とアウターレース20と間の独立した回転を許容するように構成されている。
【0013】
ウェッジクラッチ1は、クラッチが係合されるときにインナーレースをアウターレースに対して選択的に一方向でロックし、少なくとも他方向でインナーレースに対するアウターレースの回転を許容するワンウェイクラッチであってよい。図示の実施形態では、ウェッジクラッチ1は、クラッチ1が係合(ロックとしても知られている)されるときにアウターレース20を第1の回転方向(例えば図1Aで見て反時計回り)の回転に対してロックし、クラッチ1が係合解除(ロック解除としても知られている)されるときに第2の方向(例えば図1Aで見て時計回り)にアウターレース20の自由な回転を許容するワンウェイクラッチである。
【0014】
インナーレース10は、中心軸(図示せず)に形成された溝に収容されるスプライン14または表面特徴部を画成する内面12を有していてよく、これにより、インナーレース10が中心軸にロックされる。一実施形態では、中心軸は、インナーレース10が回転しないように、回転に関して固定されたハウジングである。アウターレース20は、固定されたインナーレース10の周りに回転する。ハウジングは図示されていないが、トランスミッションハウジング、ディファレンシャルハウジング、パワートランスファユニット(PTU)ハウジングまたは車両パワートレーンに見られる他のあらゆるハウジングであってよい。
【0015】
インナーレース10は、外面16から半径方向内向きに延びる溝18を画成する外面16を有していてよい。溝18は、後述するように、ウェッジセグメントの対応するテーパ状の内縁部または面取り部を収容するように寸法設定され、構成されている。
【0016】
複数のウェッジセグメント30が、インナーレース10の外面16の周りに設けられている。図示の実施形態では、12個のウェッジセグメント30が設けられているが、特定の設計用途に対して、12個よりも多いウェッジセグメントまたは12個よりも少ないウェッジセグメントを設けることができる。各ウェッジセグメント30は、互いに別個であるとともに離れている。つまり、ウェッジセグメントは互い接続されておらず、別個の構成要素である。しかしながら、図示されていない別の実施形態では、ウェッジセグメントは、例えばケージを介して互いに接続されている。本開示は、各構成要素をウェッジセグメントと呼んでいるのに対して、「ウェッジプレート」という用語は、これらのウェッジセグメントの1つまたはインナーレースを取り囲むウェッジセグメントのアレイを集合的に指すこともできる。
【0017】
各ウェッジセグメント30は、テーパ状のまたは面取りされた内面32を有している。図3に示すように、インナーレース10の外面16の溝18は、ウェッジセグメント30の面取りされた内面32を収容するように構成され、寸法設定されている。面取りされた内面32は、溝18に沿って内輪の周りで周方向に摺動可能である。これにより、動作中、ウェッジセグメント30とアウターレース20とがインナーレース10の周りを回転している間、インナーレース10が静止したままとなる。
【0018】
各ウェッジセグメント30は、周方向で傾けられた外面34を有している。言い換えると、外面34に沿って、中心軸線からの外面34の半径方向の距離が変化している。アウターレース20は、外面34のプロファイルに合致するように傾けられた対応する内面22を有している。別の言い方をすると、アウターレース20は、ウェッジセグメント30のプロファイルに適合するように傾けられた内側表面を有するポケットを備えることができる。これにより、ウェッジセグメント30がアウターレース20に対して周方向に回転するときに、ウェッジセグメント30の外面34がアウターレース20の内面に沿って摺動することが可能となる。内面22は、ウェッジセグメント30がインナーレースとアウターレースとによって半径方向および周方向の両方で拘束されるように付形されている。インナーレースとアウターレースとの間の距離は内面22に沿って減少するため、ウェッジセグメント30は、一方の周方向(例えば図1~2の時計回り)に押圧されると、インナーレースとアウターレースとの間に楔止めされる。
【0019】
要するに、ウェッジセグメント30は、面取りされた内面および傾けられたプロファイルを有する外面の両方を有している。これにより、実施形態に従って本明細書で説明されるようなウェッジクラッチの特定の動作が可能になる。
【0020】
一実施形態によれば、動作中、アウターレース20およびウェッジセグメント30がインナーレース10の周りを回転している間、インナーレース10は静止したままである。ウェッジクラッチ1が静止しているとき、ばね40がウェッジセグメント30を付勢して、インナーレースとアウターレースとの間に楔止め係合を形成する(例えば図1~2の時計回り)。ばね40は、アウターレースの内部の対応するポケット内に取り付けられてよい。インナーレースの溝とアウターレースの傾角との摩擦接触により、クラッチのロック機能が提供される。この楔止め係合は、クラッチをそのロックされた位置または係合された位置に保ち、ロックされたウェッジクラッチは、アウターレース20がウェッジセグメントに対して他方向(例えば図1~2の反時計回り)に移動することを阻止する。ばね40は係合中にゼロラッシュを提供する。
【0021】
アウターレース20およびウェッジセグメント30が回転を開始しかつ/または(例えば図1~2の時計回りに)両者の回転速度を増加させると、ウェッジセグメント30が、アウターレース20の内面22の傾斜プロファイルに対して接線方向に離反する。言い換えると、ウェッジセグメント30およびアウターレース20の回転による遠心力が、ばね40からの付勢力を上回り、ウェッジセグメント30を半径方向外向きに押圧する。この結果、ウェッジセグメント30を、回転と反対の相対方向で内面22に沿って摺動させ、ばね40を圧縮する。このことは、クラッチが高速で空転しているとき、クラッチから付加的なドラグトルクを提供しない。
【0022】
アウターレース20は、ウェッジセグメント30が高速回転中に離反した後、ウェッジセグメントを所定の位置に固定するピボット機構も備えている。一実施形態では、ピボット機構が、湾曲したウェッジ受止め面24を備えている。このウェッジ受止め面24は、ウェッジセグメントの、湾曲した対応する係合面36を受け止めるかまたは係合面36に係合する。図2に示されるように、受止め面24は、ウェッジセグメント30が、アウターレース20に対して周方向(例えば図1~2の反時計回り)に延びるように移動したときに、対応するウェッジセグメント30の対応する係合面36を受け止めかつ係合面36に合致するように寸法設定され、付形されている。
【0023】
図示の実施形態では、受止め面24および係合面36が、それぞれS字形である。各面は、半径方向に延びた後に曲がりが続く部分と、周方向に延びた後に別の曲がりが続く部分と、半径方向に延びる別の部分とを有している。ウェッジセグメント30が付勢ばねに抗して押圧されるときには、ウェッジセグメント30が幾分ロック解除され、自由に揺れ動いてしまう恐れがある。しかしながら、面24,36同士の係合がそのような運動を安定させる。面24,36同士の係合はピボット点37を提供し、高速時にウェッジセグメントの重心がピボット点37と連動して、ウェッジセグメント30の先端部38をアウターレース20に押し付ける。言い換えると、アウターレース20の受止め面24がウェッジセグメント30の係合面36に接触するピボット点37を中心としてウェッジセグメント30が旋回し、高速時に先端部38が遠心力によってアウターレース20に押し付けられるように、ウェッジセグメント30が揺動または旋回することができる。これにより、生じる恐れがある騒音・振動・ハーシュネス(NVH)の問題を阻止または低減することができる。
【0024】
本開示は、インナーレースの外面を、溝を有するものとして、また、ウェッジの内面を、テーパ状の面を有するものとして記載しているが、これらの構成要素は入れ替えることができること、つまり、インナーレースが、面取りされた突起を有していてもよく、ウェッジが、インナーレースの突起を収容するように構成された溝を内面に有していてもよいことを理解すべきである。
【0025】
例示的な実施形態を上述したが、これらの実施形態は、特許請求の範囲によって包含される全ての可能な形態を説明することを意図するものではない。本明細書で使用されている用語は、限定ではなく説明の用語であり、本開示の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更が可能であることが理解される。前述したように、様々な実施形態の特徴を組み合わせて、明示的には説明または図示されていない場合がある本発明のさらなる実施形態を形成することができる。様々な実施形態を、1つ以上の所望の特徴に関して、他の実施形態または従来技術の実行を凌ぐ利点を提供するか、またはより好ましいものとして説明することができたが、当業者には、特定の用途および実施に応じて、全体として望ましいシステム属性を得るために、1つ以上の特徴または特性を妥協してもよいことが認識される。これらの属性は、コスト、強度、耐久性、ライフサイクルコスト、市場性、外観、包装、サイズ、保守性、重量、製造性、組立ての容易さ等を含んでいてよいが、これらに限定されるものではない。したがって、任意の実施形態が、その他の実施形態または従来技術の実施よりも、1つ以上の特徴に関しては望ましくないと説明される範囲に対して、これらの実施形態が本開示の範囲外にあるというわけではなく、特定の用途にとっては望ましい場合もある。
図1
図2
図3