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特許7143402ニコチンアミドリボシドを使用する運動ニューロン疾患の治療及び予防
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】ニコチンアミドリボシドを使用する運動ニューロン疾患の治療及び予防
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/706 20060101AFI20220920BHJP
   A61K 31/09 20060101ALI20220920BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20220920BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
A61K31/706
A61K31/09
A61K47/44
A61P25/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020514138
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-16
(86)【国際出願番号】 US2018032932
(87)【国際公開番号】W WO2018213420
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】62/507,585
(32)【優先日】2017-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/614,003
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519408331
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ バレンシア-エストゥディ ヘネラル
(73)【特許権者】
【識別番号】519408342
【氏名又は名称】ファウンデーション ウニベルシダ カトリカ デ バレンシア サン ヴィセンテ マルティル
(73)【特許権者】
【識別番号】519379248
【氏名又は名称】エリシウム ヘルス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エストレラ アリグエル,ホセ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】デ ラ ルビア オルティ,ホセ,エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】デリンガー,ライアン
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/149277(WO,A1)
【文献】Amyotrophic Lateral Sclerosis,2012年,13,328-330
【文献】Journal of Biological Chemistry ,2016年,291(20),10836-10846
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/706
A61K 31/09
A61K 47/44
A61P 25/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法に使用するための、プテロスチルベン及びニコチンアミドリボシドを含む医薬組成物であって、前記方法が、前記対象に、前記組成物を投与するステップを含む、医薬組成物。
【請求項2】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を減速又は反転させる方法に使用するための、プテロスチルベン及びニコチンアミドリボシドを含む医薬組成物であって、前記方法が、前記対象に、前記組成物を投与するステップを含む、医薬組成物。
【請求項3】
方法が、対象に脂肪酸補助食品投与するステップをさらに含前記脂肪酸補助食品が、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸又はココナッツ油である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
組成物の投与が、1以上の用量の組成物を投与するステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
組成物の各用量が、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、又は少なくとも600mgのプテロスチルベンを含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
組成物の各用量が、少なくとも200mg、少なくとも400mg、少なくとも600mg、少なくとも800mg、少なくとも1000mg、少なくとも1200mg、少なくとも1400mg、少なくとも1600mg、少なくとも1800mg、少なくとも2000mg、又は少なくとも2200mgのニコチンアミドリボシドを含む、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
10以上、30以上、50以上、又は100以上の用量の組成物が投与される、請求項4から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
組成物の各用量が、1週間に1回以上、1週間に2回以上、1週間に3回以上、1日1回以上、又は1日2回以上、投与される、請求項4から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
用量が、少なくとも7日間、少なくとも30日間、少なくとも60日間、少なくとも90日間、又は少なくとも6か月間、投与される、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
組成物が、経口投与される、請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
方法が、運動機能試験、例えば改訂筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール(ALSFRS-R)を行うステップをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
方法が、認知機能試験及び行動機能試験、例えばComplutense言語学習試験(TAVEC)、符号数字モダリティ試験(SDMT)、言語流暢試験、数唱(ウエクスラー記憶検査III)、D2注意力試験、文字及び数に関するウエクスラー記憶検査III、ロンドン塔試験(London Tower Test)、ストループ試験、前頭葉性行動スケール(FrSBe)又は簡易試験(主観的行動)を行うステップをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
方法が、対象における特徴、例えば炎症に関連する特徴、例えばサイトカインのレベル、アミロイドAタンパク質のレベル、マクロファージ活性化マーカーであるネオプテリンのレベル、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベル、赤血球沈降速度のレベル、C反応性タンパク質のレベル、血漿粘度又は細胞数を測定するステップをさらに含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防するための医薬の製造における、プテロスチルベン及びニコチンアミドリボシドの使用。
【請求項15】
対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を減速又は反転させるための医薬の製造における、プテロスチルベン及びニコチンアミドリボシドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年5月17日に出願の米国仮特許出願第62/507585号、及び2018年1月5日出願の米国仮特許出願第62/614003号の利益を主張するものであり、前記出願の全内容は、それらの全体がこの参照により本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、硬直した筋肉、筋肉の痙攣、及び筋肉サイズの低下による脆弱性の段階的な悪化を特徴とする、自発的運動系の進行性変性疾患である。疾患が進行すると、大部分の罹患患者は、発話、嚥下及び呼吸が困難になり、最終的には呼吸不全及び死亡に至る。発症から死亡までの平均生存年数は、2~4年である。現在まで、ALSに対する治癒法は開発されておらず、治療法はほとんど開発されていない。したがって、ALS及び他の運動ニューロン疾患の治療のための新規組成物及び方法が非常に必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
ある種の態様によれば、対象に式I若しくは式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)及び/又は式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む組成物を投与する(例えば、対象に経口投与する)ステップによる、対象における運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症、すなわちALS)を治療することに関連する方法及び組成物が本明細書において提供される。ある種の実施形態では、運動ニューロン疾患は、ALS、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺又は脊髄性筋萎縮症である。
【0004】
ある種の態様では、本明細書において提供される方法及び組成物は、対象に式I若しくは式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)及び/又は式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む組成物を投与する(例えば、対象に経口投与する)ステップによる、対象における運動ニューロン変性の進行を減速又は反転させることに関する。一部の実施形態では、対象は、運動ニューロン疾患(例えば、ALS、HSP、PLS、PMA、PBP、仮性球麻痺又は脊髄性筋萎縮症)を有する。
【0005】
ある種の実施形態では、本組成物は、式I又は式IIの化合物(例えば、少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg、少なくとも1000mg、少なくとも1100mg、少なくとも1200mg、少なくとも1300mg、少なくとも1400mg、少なくとも1500mg、少なくとも1600mg、少なくとも1700mg、少なくとも1800mg、少なくとも1900mg、少なくとも2000mg、少なくとも2100mg、少なくとも2200mg、少なくとも2300mg又は少なくとも2400mgの式I又は式IIの化合物)を含む。一部の実施形態では、本組成物は、式IIIの化合物(例えば、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも80mg、少なくとも100mg、少なくとも120mg、少なくとも140mg、少なくとも160mg、少なくとも180mg、少なくとも200mg、少なくとも220mg、少なくとも240mg、少なくとも260mg、少なくとも280mg、少なくとも300mg、少なくとも320mg、少なくとも340mg、少なくとも360mg、少なくとも380mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg又は少なくとも600mgの式IIIの化合物)を含む。ある種の実施形態では、本組成物は式I又は式IIの化合物(例えば、少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg、少なくとも1000mg、少なくとも1100mg、少なくとも1200mg、少なくとも1300mg、少なくとも1400mg、少なくとも1500mg、少なくとも1600mg、少なくとも1700mg、少なくとも1800mg、少なくとも1900mg、少なくとも2000mg、少なくとも2100mg、少なくとも2200mg、少なくとも2300mg又は少なくとも2400mgの式I又は式IIの化合物)と式IIIの化合物(例えば、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも80mg、少なくとも100mg、少なくとも120mg、少なくとも140mg、少なくとも160mg、少なくとも180mg、少なくとも200mg、少なくとも220mg、少なくとも240mg、少なくとも260mg、少なくとも280mg、少なくとも300mg、少なくとも320mg、少なくとも340mg、少なくとも360mg、少なくとも380mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg又は少なくとも600mgの式IIIの化合物)の両方を含む。
【0006】
ある種の実施形態では、本方法は、複数の用量の本組成物を投与するステップを含む。一部の実施形態では、本組成物の少なくとも7用量が投与される。一部の実施形態では、本組成物の少なくとも30用量が投与される。一部の実施形態では、本組成物の少なくとも60以上の用量が投与される。一部の実施形態では、各用量は、少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg、少なくとも1000mg、少なくとも1100mg、少なくとも1200mg、少なくとも1300mg、少なくとも1400mg、少なくとも1500mg、少なくとも1600mg、少なくとも1700mg、少なくとも1800mg、少なくとも1900mg、少なくとも2000mg、少なくとも2100mg、少なくとも2200mg、少なくとも2300mg又は少なくとも2400mgの式I又は式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)を含む。一部の実施形態では、各用量は、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも80mg、少なくとも100mg、少なくとも120mg、少なくとも140mg、少なくとも160mg、少なくとも180mg、少なくとも200mg、少なくとも220mg、少なくとも240mg、少なくとも260mg、少なくとも280mg、少なくとも300mg、少なくとも320mg、少なくとも340mg、少なくとも360mg、少なくとも380mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg又は少なくとも600mgの式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む。
【0007】
ある種の実施形態では、各用量は、少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg、少なくとも1000mg、少なくとも1100mg、少なくとも1200mg、少なくとも1300mg、少なくとも1400mg、少なくとも1500mg、少なくとも1600mg、少なくとも1700mg、少なくとも1800mg、少なくとも1900mg、少なくとも2000mg、少なくとも2100mg、少なくとも2200mg、少なくとも2300mg又は少なくとも2400mgの式I又は式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)及び少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも80mg、少なくとも100mg、少なくとも120mg、少なくとも140mg、少なくとも160mg、少なくとも180mg、少なくとも200mg、少なくとも220mg、少なくとも240mg、少なくとも260mg、少なくとも280mg、少なくとも300mg、少なくとも320mg、少なくとも340mg、少なくとも360mg、少なくとも380mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg又は少なくとも600mgの式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む。
【0008】
ある種の実施形態では、本組成物の用量は、ある期間にわたり規則的な間隔で投与される。一部の実施形態では、本組成物の用量は、少なくとも1週間に1回、投与される。一部の実施形態では、本組成物の用量は、少なくとも1週間に2回、投与される。一部の実施形態では、本組成物の用量は、少なくとも1週間に3回、投与される。一部の実施形態では、本組成物の用量は、少なくとも1日1回、投与される。一部の実施形態では、本組成物の用量は、少なくとも1日2回、投与される。一部の実施形態では、本組成物の用量は、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、少なくとも1か月、少なくとも2か月、少なくとも3か月、少なくとも4か月、少なくとも5か月、少なくとも6か月又は少なくとも1年間、投与される。
【0009】
一部の実施形態では、対象には、運動機能試験、並びに/又は認知機能試験及び行動機能試験が行われる。運動機能試験は、改訂筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール(Revised Amyotrophic Lateral Sclerosis Functional Rating Scale)(ALSFRS-R)とすることができる。認知試験及び行動試験は、Complutense言語学習試験(Complutense Verbal Learning Test)(TAVEC)、符号数字モダリティ試験(Symbol Digit Modalities Test)(SDMT)、言語流暢試験(Verbal Fluency Test)、数唱(Digit Span)(ウエクスラー記憶検査III)、D2注意力試験(Attention Test)、文字及び数に関するウエクスラー記憶検査III、ロンドン塔試験(London Tower Test)、ストループ試験(Stroop test)、前頭葉性行動スケール(Frontal System Behavior Scale)(FrSBe)又は簡易試験(主観的行動)であってもよい。
【0010】
一部の実施形態では、本方法は、対象における、特徴(例えば、炎症に関連する特徴)を測定するステップをさらに含む。試験され得る特徴の例は、サイトカインのレベル、アミロイドAタンパク質のレベル、マクロファージ活性化マーカーであるネオプテリンのレベル、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベル、赤血球沈降速度のレベル、C反応性タンパク質のレベル、血漿粘度及び/又は白血球数である。
【0011】
一部の実施形態では、本方法は、対象に脂肪酸補助食品(例えば、ココナッツ油)を投与するステップをさらに含む。
【0012】
ある種の実施形態では、本組成物は、経口送達用に製剤化される。一部の実施形態では、本組成物は、丸剤として、錠剤として、又はカプセル剤として製剤化される。一部の実施形態では、本組成物は経口投与される。ある種の実施形態では、本組成物は自己投与される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】マウスの群間での生存時間を比較するカプラン-マイアー曲線を示す図である。WT、野生型B6SJLF1/Jマウス;SOD1、トランスジェニックSOD1 G93Aマウス;NR、ニコチンアミドリボシドにより処置したマウス;PT、プテロスチルベンにより処置したマウス;R、レスベラトロルにより処置したマウス。
図2】マウスの異なる処置群に関する、毎週における生存マウスの数を示す図である。
図3】毎週の、マウスの異なる処置群の神経学的スコアを示す図である。
図4】毎週の、マウスの異なる処置群の挙尾試験(tail elevation test)の結果を示す図である。
図5】毎週の、マウスの異なる処置群のロータロッド試験の結果を示す図である。
図6】毎週の、マウスの異なる処置群のワイヤぶら下がり試験(hanging wire test)の結果を示す図である。
図7】毎週の、マウスの異なる処置群の斜面試験(inclined plane test)の結果を示す図である。
図8】各期間における、マウスの異なる処置群の自動評価による運動活動の結果を示す図である。
図9】8週目及び18週目における、マウスの異なる処置群の電気生理学的測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般
対象(例えば、ALSを有する対象)に、式I若しくは式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)及び/又は式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む組成物を投与するステップによる、運動ニューロン疾患及び障害(例えば、ALS)を治療及び/若しくは予防すること、並びに/又は運動ニューロン変性を減速若しくは反転させることに関連する方法及び組成物が本明細書において提供される。
【0015】
定義
便宜上、本明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲において使用されたある種の用語をここでまとめる。
【0016】
冠詞「a」及び「an」は、本明細書において使用され、冠詞の文法上の目的語が1つ又は1つ超(すなわち、少なくとも1つ)であることを指す。例として「要素(an element)」は、1つの要素、又は1つ超の要素を意味する。
【0017】
本明細書で使用する場合、用語「投与すること(administering)」は、対象に医薬剤又は組成物を供給することを意味し、以下に限定されないが、医療専門家による投与及び自己投与を含む。対象への物質、化合物又は薬剤の投与は、当業者に公知の様々な方法の1つを使用して行うことができる。例えば、化合物又は薬剤は、静脈内、動脈内、皮内、筋肉内、腹腔内、皮下、眼内、舌下、経口(服用による)、経鼻(吸入による)、髄腔内、大脳内及び経皮(吸収による、例えば皮膚導管から)投与することができる。化合物又は薬剤は、充電可能なデバイス若しくは生分解ポリマー製のデバイス、又は他のデバイス、例えば、パッチ剤及びポンプ、或いは製剤により適切に導入され得、これらは、本化合物又は薬剤の徐放放出、遅延放出又は制御放出をもたらす。投与することはまた、例えば、1回、複数回、及び/又は1つ以上の長期間にわたり、行うことができる。
【0018】
対象への物質、化合物又は薬剤を投与する適切な方法はまた、例えば、対象の年齢及び/又は身体状態、並びに化合物又は薬剤の化学的特性及び生物学的特性(例えば、溶解度、消化性、生体利用率、安定性及び毒性)に依存する。一部の実施形態では、化合物又は薬剤は、例えば、服用により対象に経口投与される。一部の実施形態では、経口投与される化合物又は薬剤は、徐放製剤若しくは遅延放出製剤中に存在しているか、又はこのような遅延放出若しくは徐放のためのデバイスを使用して投与される。
【0019】
語句「薬学的に許容される担体」は、本明細書で使用する場合、液体又は固体充填剤、希釈剤、賦形剤、又は溶媒をカプセル封入する材料などの薬学的に許容される材料、組成物又はビヒクルを意味する。
【0020】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、処置又は治療のために選択されるヒト又は非ヒト動物を意味する。
【0021】
語句「治療有効量」及び「有効量」は、本明細書で使用する場合、対象における、少なくとも細胞の部分集団において、任意の医療的処置に適用可能な妥当な利益/リスク比で、所望の治療効果を生じさせるのに有効な薬剤の量を意味する。
【0022】
対象において疾患を「治療すること(treating)」又は疾患を有する対象を「治療すること」は、対象に、医薬品の処置を施すこと、例えば薬物を投与することを指し、こうして、疾患の少なくとも1つの症状が軽減する、又は悪化が防止される。
【0023】
組成物
式I若しくは式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)及び/又は式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む医薬組成物が、本明細書において提供される。
【0024】
ニコチンアミドリボシドは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)に対する前駆体として働くナイアシン(すなわち、ビタミンB3)のピリジン-ヌクレオシド形態である。本明細書で使用する場合、「ニコチンアミドリボシド」はまた、塩化ニコチンアミドリボシドなどのニコチンアミドリボシド塩を含む。ニコチンアミドリボシドの化学構造は、以下:
【0025】
【化1】
に提示されている。
【0026】
一部の実施形態では、式(I)によって表される化合物、又は薬学的に許容されるその塩:
【0027】
【化2】
(式中、独立して出現毎に:
R1、R2及びR3は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m、-R13、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R4及びR5は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R6、R8、R11及びR12は、水素、(C1~C6)アルキル、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、-C(O)((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、ヘテロアラルキル、-OR14及び-N(R14)mから選択され、
R7、R9及びR10は、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、-OR14及び-N(R14)mから選択され、
R13は、-OR14、-N(R14)m、-C(O)(R14)、-C(O)(OR14)、-C(O)N(R14)m、-S(O)2(OR14)、-S(O)OR14及び-S(O)2N(R14)mから選択され、
R14は、水素、(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
Xは、O、S又はN(R14)であり、
mは、2又は3であるが、
但し、R1、R2及びR3のうちの少なくとも1つは、R13であることを条件とする)
を含む医薬組成物が本明細書において提供される。
【0028】
一部の実施形態では、R1は、R13である。一部の実施形態では、R2は、R13である。一部の実施形態では、R3は、R13である。
【0029】
一部の実施形態では、R13は、-OR14、-N(R14)m、-C(O)(R14)、-C(O)(OR14)及び-C(O)N(R14)mから選択される。一部の実施形態では、R13は、-C(O)(R14)、-C(O)(OR14)及び-C(O)N(R14)mから選択される、一部の実施形態では、R13は、-C(O)N(R14)mである。
【0030】
一部の実施形態では、R7、R9及びR10は、それぞれ独立して、-OR14又は-N(R14)mである。一部の実施形態では、R7、R9及びR10は、-OR14である。
【0031】
一部の実施形態では、式(I)の化合物は、式(II)又は薬学的に許容されるその塩:
【0032】
【化3】
(式中、独立して出現毎に:
R2及びR3は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m、-R13、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R4及びR5は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R6、R8、R11及びR12は、水素、-OR14、-N(R14)m、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、-C(O)((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R13は、-OR14、-N(R14)m、-C(O)(R14)、-C(O)(OR14)、-C(O)N(R14)m、-S(O)2(OR14)、-S(O)OR14及び-S(O)2N(R14)mから選択され、
R14は、水素、(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
mは、2又は3である)
によって表される。
【0033】
式(I)又は(II)の化合物の一部の実施形態では、R1、R2及びR3は、存在する場合、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m、-R13及び置換又は無置換(C1~C6)アルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R1、R2及びR3は、存在する場合、水素、-OR14、-N(R14)m及び無置換(C1~C6)アルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R1、R2及びR3は、存在する場合、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R1、R2及びR3は、存在する場合、それぞれ独立して、水素である。
【0034】
式(I)又は(II)の化合物の一部の実施形態では、R4及びR5は、水素、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR14、-N(R14)m及び置換又は無置換(C1~C6)アルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R4及びR5は、水素、-OR14、-N(R14)m及び無置換(C1~C6)アルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R4及びR5は、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R4及びR5は、それぞれ水素である。
【0035】
式(I)又は(II)の化合物の一部の実施形態では、R6、R8、R11及びR12は、水素、-OR14、-N(R14)m、無置換(C1~C6)アルキル、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、-C(O)((C1~C6)アルキレン)N(R14)m、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。一部の実施形態では、R6、R8、R11及びR12は、水素、-OR14、-N(R14)m、無置換(C1~C6)アルキル、-((C1~C6)アルキレン)N(R14)m及び-C(O)((C1~C6)アルキレン)N(R14)mからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R6、R8、R11及びR12は、水素、-OR14及び-N(R14)mからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R6、R8、R11及びR12は、無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルからそれぞれ独立して選択される。一部の実施形態では、R6、R8、R11及びR12は、それぞれ水素である。
【0036】
一部の実施形態では、R7、R9及びR10は、それぞれ独立して、-OR14又は-N(R14)mである。一部の実施形態では、R7、R9及びR10は、それぞれ-OR14である。一部の実施形態では、R7、R9及びR10は、それぞれ-OHである。
【0037】
式(I)又は(II)の化合物の一部の実施形態では、R14は、水素又は(C1~C6)アルキルである。
【0038】
式(I)又は(II)の化合物の一部の実施形態では、Xは、O又はN(R14)である。一部の実施形態では、Xは、Oである。
【0039】
式(I)又は(II)の化合物の一部の実施形態では、本化合物は、
【0040】
【化4】
である。
【0041】
プテロスチルベンは、スチルベノイドであり、親油性及び経口吸収の向上を可能にする2つのメトキシ基の存在により良好な生体利用率を有しており、且つ酸化の低下による一層長い半減期を有するポリフェノールレセルバトロールの類似体である。プテロスチルベンの化学構造は、以下:
【0042】
【化5】
に提示されている。
【0043】
一部の実施形態では、式(III)により表される化合物、又は薬学的に許容されるその塩:
【0044】
【化6】
(式中、独立して出現毎に:
R15は、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR16、-N(R16)p、-S(O)2(OR16)、-S(O)OR16、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
R16は、水素、(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択され、
nは、0~5の整数であり、
pは、2又は3であるが、
但し、少なくとも1つのnは、1であり、少なくとも1つのR15は、-OR16であることを条件とし、
但し、式(III)の化合物は、以下:
【0045】
【化7】
ではないことを条件とする)
を含む医薬組成物が本明細書において提供される。
【0046】
式(III)の化合物の一部の実施形態では、R15は、ハロゲン、-CN、-NO2、-OR16、-N(R16)p及び置換又は無置換(C1~C6)アルキルから選択される。一部の実施形態では、R15は、-OR16、-N(R16)p及び無置換(C1~C6)アルキルから選択される。一部の実施形態では、R15は、置換又は無置換(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルから選択される。一部の実施形態では、R15は、-OR16である。一部の実施形態では、R15は、-OR16であり、R16は、水素又は(C1~C6)アルキルである。一部の実施形態では、R15は、-OR16であり、R16は、(C1~C6)アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル及びヘテロアラルキルである。一部の実施形態では、R15は、-OR16であり、R16は、(C1~C6)アルキルである。一部の実施形態では、R15は、-OR16であり、R16は、(C1~C6)アルキル、シクロアルキル又はヘテロシクロアルキルである。
【0047】
一部の実施形態では、nは、1、2又は3である。一部の実施形態では、nは、1又は2である。
【0048】
一部の実施形態では、pは、2である。一部の実施形態では、pは、3である。
【0049】
一態様では、本明細書において提供されるものは、治療有効量の1つ以上の本明細書に記載されている化合物(すなわち、ニコチンアミドリボシド及び/又はプテロスチルベン)を、1種以上の薬学的に許容される担体(添加物)及び/又は希釈剤と一緒に製剤化されて含む、薬学的に許容される組成物である。別の態様では、本明細書に記載されている薬剤は、そのまま投与され得るか、又は薬学的に許容される担体との混合物で投与され得、他の薬剤と組み合わせてやはり投与され得る。したがって、併用療法は、1つ以上の本発明の化合物の逐次、同時及び個別投与、又は共投与を含み、この場合、投与される第1の治療作用は、その後の化合物が投与されても完全には消失しない。
【0050】
以下に詳細に説明する通り、本明細書に記載されている医薬組成物は、以下:(1)経口投与、例えば、ドレンチ剤(水溶液若しくは非水溶液、又は水性懸濁液若しくは非水性懸濁液)、錠剤、例えば、口内、舌下及び全身性吸収を対象とするもの、舌に施用するためのボーラス剤、散剤、顆粒剤、ペースト剤、(2)例えば、滅菌溶液若しくは懸濁液、又は持続放出製剤としての、例えば、皮下、筋肉内、静脈内又は硬膜外注射による非経口投与、或いは(3)舌下に適合するものを含めた、固体形態又は液状形態で投与するよう特別に製剤化され得る。
【0051】
一部の実施形態では、本組成物は追加剤を含む。例えば、本組成物は、抗酸化剤などの栄養剤を含んでもよい。薬学的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤、(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロールなどの油溶性抗酸化剤、及び(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤などが挙げられる。
【0052】
本明細書に記載されている化合物の製剤は、単位剤形で提供されてもよく、調剤学分野で周知の任意の方法によって調製されてもよい。担体材料と組み合わせて、単一剤形を生成することができる活性成分の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に応じて様々になろう。担体材料と組み合わせて、単一剤形を生成することができる活性成分の量は、一般に、治療作用を生じる薬剤のそのような量になろう。
【0053】
ある種の実施形態では、本明細書に記載されている製剤は、以下に限定されないが、シクロデキストリン、リポソーム、ミセル形成剤、例えば、胆汁酸、及び担体ポリマー、例えば、ポリエステル及びポリ無水物を含めた賦形剤、並びに本発明の薬剤を含む。一部の実施形態では、前述の製剤は、本発明の薬剤を経口で生体利用可能にする。これらの製剤又は組成物を調製する方法は、本発明の化合物を、担体、及び場合により1種以上の副成分と混合するステップを含んでもよい。
【0054】
本明細書において提供される製剤の経口投与向け液状剤形としては、薬学的に許容されるエマルション剤、マイクロエマルション剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤及びエリキシル剤が挙げられる。液状剤形は、活性成分に加えて、例えば、水又は他の溶媒などの当分野において一般に使用される不活性希釈剤、可溶化剤及び乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにそれらの混合物を含有してもよい。
【0055】
不活性希釈剤の他に、経口組成物はまた、湿潤剤、エマルション化剤及び懸濁化剤、甘味剤、着香剤、着色剤、風味剤及び保存剤などの補助剤を含むことができる。
【0056】
懸濁液は、活性化合物に加え、例えば、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール及びソルビタンエステル、マイクロクリスタリンセルロース、アルミニウムメタヒドロキシド(metahydroxide)、ベントナイト、寒天及びトラガカント、並びにそれらの混合物として懸濁化剤を含有してもよい。
【0057】
経口投与に好適な本明細書において提供される製剤は、カプセル剤、カシェ剤、丸剤、錠剤、ロゼンジ剤(風味の付与された基剤、通常、スクロース及びアカシア、又はトラガカントを使用する)、散剤、顆粒剤の形態で、或いは溶液、又は水性液体若しくは非水性液体中の懸濁液として、或いは水中油型若又は油中水型液体エマルション剤として、或いはエリキシル剤又はシロップ剤として、或いはパステル剤(ゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシアなどの不活性基剤を使用する)、及び/或いは口腔用洗浄剤などとして存在してもよく、各々は、活性成分として所定量の本発明の化合物を含有する。本発明の化合物はまた、ボーラス剤、舐剤又はペースト剤として投与されてもよい。
【0058】
経口投与向けの本発明の固形剤形(例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、ドラジェ剤、散剤、顆粒剤など)では、活性成分は、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウムなどの1種以上の薬学的に許容される担体、並びに/又は以下:(1)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール及び/若しくはケイ酸などの充填剤若しくは増量剤、(2)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース及び/若しくはアカシアなどの結合剤、(3)グリセロールなどの保水剤、(4)寒天、炭酸カルシウム、ポテト若しくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のシリケート及び炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、(5)パラフィンなどの溶解遅延剤(solution retarding agent)、(6)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、(7)例えば、セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロール及び非イオン性界面活性剤などの湿潤剤、(8)カオリン及びベントナイトクレイなどの吸収剤、(9)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム及びそれらの混合物などの滑沢剤、並びに(10)着色剤のいずれかと混合される。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、医薬組成物はまた、緩衝化剤を含んでもよい。同様のタイプの固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖、及び高分子量ポリエチレングリコールなどの賦形剤を使用する、軟質及び硬質シェル化ゼラチンカプセル中に充填剤として使用されてもよい。
【0059】
錠剤は、場合により、1種以上の副成分と一緒に圧縮又は成形することにより作製することもできる。圧縮錠剤は、結合剤(例えば、ゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)、滑沢剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤(例えば、デンプングリコール酸ナトリウム又は架橋化カルボキシメチルセルロースナトリウム)、表面活性剤又は分散剤を使用して調製することができる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤により湿潤させた、粉末化合物の混合物を好適な機械で成形することにより作製することができる。
【0060】
ドラジェ剤、カプセル剤、丸剤及び顆粒剤などの本明細書に記載されている医薬組成物の錠剤及び他の固形剤形は、場合により、刻み目が入れられていてもよく、又は医薬品の調剤分野において周知の腸溶コーティング剤及び他のコーティング剤などのコーティング剤及びシェルにより調製されてもよい。それらはまた、例えば、様々な割合でヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用して、その中に活性成分の遅延放出又は制御放出を実現するよう製剤化されて、所望の放出プロファイル、他のポリマーマトリックス、リポソーム及び/又はマイクロスフィアをもたらすことができる。本明細書に記載されている組成物はまた、迅速に放出するよう製剤化され得、例えば、凍結乾燥され得る。それらは、例えば、細菌保持フィルターによるろ過により、又は使用直前に滅菌水、若しくはある他の滅菌注射用媒体に溶解することができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を取り込ませることにより滅菌することができる。これらの組成物はまた、乳白剤を場合により含有していてもよく、それらが、胃腸管のある部分で、場合により遅延して、活性成分のみを、又はこれを優先的に放出する組成物であってもよい。使用され得る組成物を埋め込む例には、ポリマー物質及びワックスが含まれる。活性成分はまた、適切な場合、上記の賦形剤の1種以上とのマイクロカプセル封入形態とすることもできる。
【0061】
非経口投与に好適な本明細書において提供される医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容される滅菌等張性水溶液若しくは非水溶液、分散液、懸濁液若しくはエマルション、又は使用直前に注射用滅菌溶液若しくは分散液に再構成することができる滅菌粉末と組み合わせた1つ以上の本発明の化合物を含み、これらは、糖、アルコール、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、製剤を所期のレシピエントの血液と等張性にする溶質、又は懸濁剤若しくは増粘剤を含有してもよい。
【0062】
本発明の医薬組成物中で使用することができる好適な水性及び非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)及びそれらの好適な混合物、ココナッツ油、オリーブ油などの植物油、並びにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング材料の使用により、分散液の場合、必要な粒子サイズの維持により、及び界面活性剤の使用により維持することができる。
【0063】
治療方法
対象(例えば、それを必要とする対象)に本明細書において開示されている組成物(例えば、ニコチンアミドリボシドなどの式I若しくは式IIの化合物及び/又はプテロスチルベンなどの式IIIの化合物を含む組成物)を投与することによる、対象における運動ニューロン疾患又は障害を治療する方法が本明細書において提供される。一部の態様では、対象に本明細書において開示されている組成物(例えば、ニコチンアミドリボシドなどの式I若しくは式IIの化合物及び/又はプテロスチルベンなどの式IIIの化合物を含む組成物)を投与するステップを含む、対象における運動ニューロン変性の進行を減速又は反転させる方法が本明細書において提供される。一部の実施形態では、運動ニューロン変性は、ニューロンの死及び/又はニューロン機能の喪失を指す。
【0064】
一部の実施形態では、対象は、運動ニューロン疾患(例えば、髄質ALS又は脳幹ALSなどの筋萎縮性側索硬化症(ALS))を有する恐れがある、又は罹患しやすい恐れがある。運動ニューロン疾患又は障害は、運動ニューロンの機能又は構造に影響する、任意の疾患又は障害とすることができる。本明細書で使用する場合、運動ニューロン疾患は、脳及び脊髄における、運動ニューロン又は神経の機能喪失をもたらす進行性疾患を含む。運動ニューロン疾患の例としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、進行性球麻痺(PBP)、仮性球麻痺又は脊髄性筋萎縮症が挙げられる。運動ニューロン疾患は、上位運動ニューロン又は下位運動ニューロンに影響を及ぼし得る。
【0065】
本明細書において開示されている組成物の実際の投与量レベル及び投与レジメンは、患者への毒性なしに、特定の患者、組成物及び投与様式に対して所望の治療的応答を達成するのに有効な、式I若しくは式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)及び/又は式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)の量を得るよう様々となり得る。
【0066】
一部の実施形態では、本組成物の投与は、1以上の用量の組成物の投与を含む。一部の実施形態では、本組成物の投与は、1以上、5以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、100以上又は1000以上の用量の組成物の投与を含む。一部の実施形態では、用量は、少なくとも100mg、少なくとも200mg、少なくとも300mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg、少なくとも1000mg、少なくとも1100mg、少なくとも1200mg、少なくとも1300mg、少なくとも1400mg、少なくとも1500mg、少なくとも1600mg、少なくとも1700mg、少なくとも1800mg、少なくとも1900mg、少なくとも2000mg、少なくとも2100mg、少なくとも2200mg、少なくとも2300mg、少なくとも2400mg、少なくとも2500mg、少なくとも2600mg、少なくとも2700mg、少なくとも2800mg、少なくとも2900mg又は少なくとも3000mgの式I又は式IIの化合物(例えば、ニコチンアミドリボシド)を含む。一部の実施形態では、用量は、少なくとも5mg、少なくとも10、少なくとも20mg、少なくとも30mg、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも60mg、少なくとも80mg、少なくとも100mg、少なくとも120mg、少なくとも140mg、少なくとも160mg、少なくとも180mg、少なくとも200mg、少なくとも220mg、少なくとも240mg、少なくとも260mg、少なくとも280mg、少なくとも300mg、少なくとも320mg、少なくとも340mg、少なくとも360mg、少なくとも380mg、少なくとも400mg、少なくとも500mg、少なくとも600mg、少なくとも700mg、少なくとも800mg、少なくとも900mg又は少なくとも1000mgの式IIIの化合物(例えば、プテロスチルベン)を含む。
【0067】
本明細書において開示されている組成物は、患者への毒性なしに、特定の患者、組成物及び投与様式に対して所望の治療的応答を達成するのに有効な任意の期間にわたり投与され得る。期間は、少なくとも1日間、少なくとも10日間、少なくとも20日間、少なくとも30日間、少なくとも60日間、少なくとも3か月間、少なくとも6か月間、少なくとも1年間、少なくとも3年間、少なくとも5年間又は少なくとも10年間とすることができる。用量は、必要時に、散発的に、又は定期的な間隔で投与されてもよい。例えば、用量は、毎月、毎週、2週間毎、3週間毎、1日1回又は1日2回、投与されてもよい。
【0068】
一部の実施形態では、対象には、運動ニューロン疾患の一般的な進行又は症候性進行を測定するために試験が行われる。一部の実施形態では、対象には、運動機能試験、並びに/又は認知機能試験及び行動機能試験が行われる。運動機能試験は、改訂筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール(ALSFRS-R)とすることができる。認知試験及び行動試験は、Complutense言語学習試験(TAVEC)、符号数字モダリティ試験(SDMT)、言語流暢試験、数唱(ウエクスラー記憶検査III)、D2注意力試験、文字及び数に関するウエクスラー記憶検査III、ロンドン塔試験、ストループ試験、前頭葉性行動スケール(FrSBe)並びに/又は簡易試験(主観的行動)とすることができる。一部の実施形態では、対象には、運動機能試験と認知機能試験の両方が行われる。運動機能試験又は認知機能試験は、1回又は複数回、対象に行われ得る。
【0069】
一部の実施形態では、本方法は、対象における、特徴(例えば、炎症に関連する特徴)を測定するステップをさらに含む。一部の実施形態では、特徴は、血液検査で測定される。試験され得る特徴の例は、サイトカインのレベル、アミロイドAタンパク質のレベル、マクロファージ活性化マーカーであるネオプテリンのレベル、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベル、赤血球沈降速度のレベル、C反応性タンパク質のレベル、血漿粘度及び/又は白血球数である。一部の実施形態では、サイトカインは、炎症誘発性サイトカインである。一部の実施形態では、サイトカインは、抗炎症性サイトカインである。サイトカインの例としては、以下に限定されないが、TNFα、IFNγ、IL-1、IL-6、IL-8又はTGFβが挙げられる。
【0070】
一部の実施形態では、本方法は、対象に脂肪酸補助食品を投与するステップをさらに含む。一部の実施形態では、脂肪酸補助食品は、油である。油は、加工済み(例えば、精製、漂白又は脱臭されている)とすることができる。他の実施形態では、油は、未加工であるか、又はバージンオイルである。一部の実施形態では、脂肪酸補助食品は、供給源から誘導されるか、又は分画されて、分離脂肪酸が得られる。一部の実施形態では、油は、ココナッツ油である。ココナッツ油は、本明細書で使用する場合、ココヤシの木の核果により生成した任意の油を含むことができる。本明細書において開示されている補助食品中で見いだされる脂肪酸は、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸とすることができる。補助食品中に見いだすことができる例示的な脂肪酸としては、以下に限定されないが、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及び/又はリノレン酸が挙げられる。本明細書において開示されている脂肪酸補助食品は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、一不飽和脂肪酸及び/又は多不飽和脂肪酸を含んでもよい。一部の実施形態では、脂肪酸補助食品は、水素添加油を含んでもよい。脂肪酸補助食品は、1種以上の脂肪酸を含んでもよい。本明細書において開示されている脂肪酸補助食品の実際の投与量レベル及び投与レジメンは、患者への毒性なしに、特定の患者、組成物及び投与形式に対する所望の治療的応答を達成するのに有効な脂肪酸補助食品の量が得られるよう様々とすることができる。
【実施例
【0071】
[実施例1]ALS患者におけるパイロット検討
ALS患者は、感覚能力の変化なしに、身体の1つ以上の領域における、機能の潜行性喪失、又は段階的な、ゆっくりとした進行性の無痛性衰弱を発症しており、他の原因は直ちに明白ではない。下位運動ニューロン(LMN、脊髄)の関与において、線維束性収縮が、特に舌及び四肢において、疾患の早い時期に起こる恐れがある。上位運動ニューロン(UMN、脳)の関与を有する患者は、一般に、反射亢進性であり、硬直している。反射は、LMN関与のために減退することがある。UMNの症状は、痙攣、及び下肢の姿勢を正す動き(straightening movement)の突然の制御不能が含まれ得る。ALSが進行するにつれて、筋萎縮が一層明白になり、痙直は、歩行及び手の器用さを損ない得る。痙直と一体になった場合、動けないことにより、疼痛を伴う関節拘縮の発症に至ることがある。筋肉痙攣が一般的である。一部の患者では、筋肉の恒久的な硬直又は痙攣が、関連する関節及び背部に圧迫を与えることがある。一部の患者は、運動困難、嚥下困難(嚥下障害)、及び発声又は言語構成の困難(構音障害)の高まりを経験する。UMN関与の症状には、固く硬直した筋肉(痙直)及び誇大な反射(反射亢進)が含まれる。
【0072】
本検討に含まれる患者は、進行レベルの異なるALSを罹患しているが、大部分は、様々な/一定した筋肉の線維束性収縮、無感覚、痙攣、硬直及び/又は関節拘縮を示す。
【0073】
ALSを有する60名の患者を5つの群に分ける。群1は、対照(処置なし)とし、群2はプラセボの投与を受け、群3は、脂肪酸補助食品(ココナッツ油)の投与を受け、群4は、BASIS(ニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベン)の投与を受け、群5は、脂肪酸補助食品と組み合わせたBasisの投与を受ける。患者には運動機能試験及び認知機能試験を行い、対象における疾患症状の進行を判定することができる。患者において、検討中、サイトカイン(例えば、TNFa、IFNg、IL-1、IL-6、IL-8又はTGFb)、アミロイドAタンパク質(炎症誘発性サイトカインに応答して肝臓によって主に産生される、低分子量の急性期タンパク質)、マクロファージ活性化マーカーであるネオプテリン、CPK、赤血球沈降速度、C反応性タンパク質、血漿粘度及び白血球数を含めた炎症関連パラメーターが測定され得る。
【0074】
16日間の本検討後に、Basisの投与を受けた患者は、軸索機能変性に関連する症候の低下を受けた。さらに、患者は、筋肉に関連する症候のために、十分な睡眠をとることができなかったと報告した。しかし、BASIS投与後、患者は、睡眠をとることができたことが増えたことを報告している。
【0075】
[実施例2]症例検討
運動機能の進行性喪失を示すALSと診断された対象は、4週間、BASISの投与を受けた。投与前に、対象は、動き回ることができず、対象の筋肉は、運動機能試験に応答しなかった。BASISによる4週間の処置後に、対象は、運動機能の改善を示した。
【0076】
[実施例3]筋萎縮性側索硬化症におけるニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベン有効性:無作為化プラセボを対照とするパイロット検討
この実施例の目的
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を有する患者における、ニコチンアミドリボシド(ビタミンB3の形態)及びプテロスチルベン(天然ポリフェノール)の組合せ(NR+Pter)の有効性及び耐容性を評価すること。
【0077】
方法
これは、単一施設での、前向きの無作為化二重盲検のプラセボを対照とするパイロット検討であった。ALSを有する患者は、NR+Pter又はプラセボのどちらか一方を服用するように無作為化され、4か月間の能動的評価を受けた。
【0078】
結果
合計で、27名の患者を無作為化した。プラセボと比較すると、NR+Pterにより処置した患者は、骨格筋/脂肪重量の比、改訂ALS機能評価スケール(ALSFRS-R)スコア、強制肺活量(FVC)及び筋力の医学研究審議会(MRC)スケールの有意な改善を示した。
【0079】
証拠の分類
この検討は、ALSを有する患者の場合、NR及びPterの連携は、プラセボよりも著しく良好であるというクラスIIの証拠を提示するものである。
【0080】
用語解説
ALS=筋萎縮性側索硬化症、NR=ニコチンアミドリボシド、Pter=プテロスチルベン、ALSFRS-R=改訂ALS機能評価スケール、FVC=強制肺活量、MRC=医学研究審議会、SARM1=滅菌アルファ及びTIRモチーフ含有1(TIR motif-constraining 1)、ULN=正常上限、BIM=肥満度指数、EMG=筋電図、mtMP=ミトコンドリア膜電位、mtPTP=ミトコンドリア膜透過性遷移孔複合体(mitochondrial permeability transition pore complex)、Nrf2=核赤血球関連因子2、GSH=グルタチオン。
【0081】
検討方法の設計の概略及び適格性
この検討は、NR+Pter処置対プラセボ処置したALS患者の、単一施設での、無作為化二重盲検のプラセボを対照とする並行群パイロット検討であった。主な目的は、標準的な臨床的診断基準に基づいた組合せの有効性を評価することであった。適格参加者は、18歳以上の女性(授乳をしていない、妊娠検査に陰性である、及び妊娠調節の有効方法を使用することに同意している)、及びEl Escorial診断基準(Brooks、2000年)によりALSの可能性があると診断されるか、又は確定診断(散発性又は家族性)されており、且つ6か月を超えて症候の発症を有する男性であった。患者はすべて、標準投与量に準拠したリルゾール処置も受けた。除外基準は、以下とした:気管開口術、侵襲的換気又は非侵襲的陽圧換気;胃瘻造設術;深刻な精神障害又は臨床的に明白な認知症の証拠;ALSに加えて、神経変性疾患の診断;リルゾールとは別に現在投薬を受けている:アルコール若しくは薬物乱用の最近の病歴(過去6か月以内)を有する、又はアルコール若しくは薬物乱用の証拠を現在有する;なんらかの系、例えば基底細胞癌以外の癌腫、なんらかの不整脈、心筋梗塞、心筋虚血の臨床的兆候若しくはECG兆候、心不全、狭心症、冠動脈疾患の症状が現在あることに関与する、同時発生不安定疾患を有する;男性の場合>450ミリ秒、及び女性の場合、>470ミリ秒のベースラインQTc(Bazett)を有する;既知のB/C型肝炎、又はHIVポジティブとなる血清学を有する患者;血中クレアチニンが>2x ULN(正常上限)と規定された腎臓障害を有する;>3x ULNとなる肝障害及び/又は肝酵素(ALAT又はASAT)を有する;ホメオスタシス障害、又は経口抗血液凝固剤による処置を現在受けている;過去3か月以内に、なんらかの他の治験薬、又は未承認薬による治療検討に参加した;医療保険をもたない患者。
【0082】
試料サイズ、無作為化及び盲検化
患者は、無作為に割り当てた。群1つあたりの評価した患者数は、以下の通りとした。プラセボ(n=14、ベースライン時及び2か月時、n=10、4か月時)、NR+Pter(n=13、ベースライン時及び2か月時、n=10、4か月時)。この検討は、監督者(J.E.R.、J.M.E.)を除いて、患者及び医療スタッフを含めて、二重盲検とした。
【0083】
食事
患者にはすべて、地中海式の食事(約2,300Kcal/日)を与えた(例えば、Davis、2015年を参照されたい)。プラセボ群の患者は、ブラウンシュガーを含有するカプセル剤を服用した。NR+Pterの組合せを、約15mgのNR及び2.5mgのt-Pter/Kg×日数となる用量で投与した。プラセボ及びNR+Pter群における食事は、55%炭水化物+30%脂肪+15%タンパク質とした。食事中の炭水化物は、遅延放出炭水化物の食物に相当した。両群の食事中のビタミン及び少数元素は、EFSA(European Food Safety Authority:欧州食品安全機関)による栄養所要量(recommended dietary allowance)に従い調整した。
【0084】
経過観察、結果及びデータ収集
経過観察のための訪問は、ベースライン(0時間)、処置の2か月及び4か月で計画した。神経学的検査は、3つの時間点で行い、以下の項目:身体検査、ALSFRS-R合計スコア、FVC、MRC等級付けスケールにより等級付けした筋力、筋電図検査を記録し、骨格筋により生じる電気活動を評価した。検討の全期間の間、患者は、医療チームと恒久的に連絡を取り合い、その進展は毎週、情報提供された。
【0085】
身体計測
脂肪及び骨格筋重量は、標準身体計測の手順に従い算出した(Wang、2000年)。脂肪及び骨格筋重量データは、ベースラインに対して2か月又は4か月を比較して観察した変化を指す。
【0086】
ALSFRS-Rスコア
ALSを有する患者における、身体的障害の進行をモニタリングするための、この検証済み評点機器(Kollewe、2008年)は、12の項目に基づいており、これらの項目はそれぞれ、0~4スケールポイントに基づいて等級付けされる。したがって、機能的障害の合計等級は、0(最大身体的障害)から48(正常)の点数の範囲となる。
【0087】
FVC
ALS患者における生存率及び疾患進行のこのような臨床的に有意な予測指標(Czaplinski、2006年)は、Sibelmed(Barcelona、スペイン)のDatospirタッチ式スパイロメーターを使用して測定し、性別、体重及び年齢パラメーターに応じて、ヒト成人に対応する標準値の%として表した(Garcia-Rio、2013年)。
【0088】
MRCスケール
筋力は、11段階の改定MRC等級付けスケール(www.medscape.com)に基づいて評価した(5は正常力;5-は不定、辛うじて検出可能な衰弱;4+は確定的であるがわずかな衰弱;4は重力といくつかの抵抗の組合せに対して関節を動かすことが可能である;4-は最小限の抵抗が可能である;3+は一過性の抵抗は可能であるが、突然に崩れる;3は重力に対して能動的に動く;3-は重力に逆らって動けるが、全範囲には至らない;2は重力がなくなると動くことができる;1は収縮がわずか;0は収縮がない)。MRCスコア付けは、8種の異なる筋肉[右(R)及び左(L)の二頭筋、三頭筋、大腿四頭筋及び脛骨]について、それぞれの患者で得た。合計のMRC指数を計算するため、0(スケールでは0)から10(スケールでは5)まで次第に増える数を、各段階及び各筋肉に付与した。患者1名あたりの合計MRC指数は、8種の筋肉すべてに対して付与した数の合計に相当する。
【0089】
筋電図検査
表面筋電図(EMG)測定デバイス(BTS FreeEMG 300、BTS S.p.A.、Milan、イタリア)を使用して、MRC指数に関して上で表示したものと同じ筋肉における筋肉活動を測定した。筋肉1種あたりのEMGシグナルは、二乗平均平方根(RMS)法によって解析し、これは、収縮中の運動単位での生理的活動力を反映するものである。RMSは、所与の期間の、EMGシグナルの平均力の平方根を表す(例えば、Boe、2008年)。
【0090】
統計学的方法
データは、異なる実験数に関して、平均値+SDとして表す。統計解析は、スチューデントt検定を使用して行った。すべての群において、*P<0.05及び**P<0.01は、2又は4か月とベースラインとを比較。+P<0.05及び++P<0.01は、NR+Pterとプラセボとを比較。
【0091】
結果
選択基準を満足する32名のALS患者を、17名の患者群(プラセボ)及び15名(NR+Pter)の患者群の2つに無作為に割り振った。この検討は、2017年2月の終わりまでに開始した。この検討に並行して、幾人かの患者が異なる原因のために離脱した。0~2か月の最初の期間の間に、プラセボ群のうちの3名の患者(1名が、尿感染のため、1名が、肺炎のため、及び1名が、呼吸麻痺が原因で死亡)、及びNR+Pter群のうちの2名の患者(1名が、胃腸炎(gastroenteritits)のため、1名が、肺炎が原因で死亡)が除外された。2~4か月間の期間の間に、プラセボ群のうちの4名のさらなる患者(2名が、外傷に関連する事象、1名が胃腸炎、及び1名が気管支炎)、及びNR+Pter群のうちの3名(1名が、外傷に関連する事象、1名が、肝炎、及び1名が、最重度の精神抑鬱)もやはり分けた。患者の人口学的及び臨床特徴を表している表1に示されている通り、両群の平均年齢は、55~56歳であった。両群及び処置の患者を本検討に沿って比較した場合、体重及びBIM(肥満度指数)値に有意な差異はなかった。しかし、NR+Pter処置は、脂肪(減少)及び骨格筋(増加)重量の有意な変化を誘発した(表1)。これらの変化は、4か月時点(ベースラインとの比較)のNR+Pter群のALSFRS-Rスコア及びFVC成績の有意な上昇と関連した(表1)。これらの改善はまた、筋力及び活動データと関連した。表2に示されている通り、MRCスケール指数の合計は、NR+Pter処置群では、ベースラインと4か月時点とを比較すると、及びNR+Pterとプラセボの値とを比較すると、向上している一方、プラセボ処置患者では、同じ指標は、同一期間の間に低下した。EMG値の変化は、NR+Pterとプラセボとを比較すると、4か月時点で1種の筋肉(三頭筋)の場合にしか有意性はないことが分かった(表2)。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
データは、異なる実験数に関して、平均値+SDとして表す。統計解析は、スチューデントt検定を使用して行った。すべての群において、*P<0.05及び**P<0.01は、2M対BLを比較する。+P<0.05及び++P<0.01は、BASIS又はBASIS+ココナッツ油対プラセボを比較する。
【0095】
結論
1.BASISの投与を受けた患者は、プラセボ処置と比べて、脂肪重量が有意に減少し、骨格筋重量が増加した。
2.BASISの投与を受けた患者は、プラセボ処置と比べて、ALSFRS-Rスコア及び肺活量が向上した。
3.BASISの投与を受けた患者は、プラセボ処置と比べて、MRCスケール指標が有意に上昇した。4M対BLのEMGを比較すると、BASISの投与を受けた患者は、筋肉の活動が維持又は向上した一方、プラセボ対照の投与を受けた患者は筋肉活動の低下を示した。
【0096】
[実施例4]筋萎縮性側索硬化症のげっ歯類モデルにおける運動協調及びバランスのアセスメント
方法:マウス
野生型及びトランスジェニックFUS R521C。系統名:B6;SJL-Tg(Prnp-FUS*R521C)3313Ejh/J。遺伝的背景:B6SJL卵母細胞に注入した導入遺伝子。C57BL/6に維持しており、したがって後の世代は、C57BL/6を一層高い割合で有する。Jackson Lab:保存番号026406。若年時では、このトランスジェニックマウスは、重症な運動障害及び他のALS関連表現型を発症している。留意すべきことに、それは、脊髄における頑強なニューロンの喪失、神経筋接合部の脱神経及び筋萎縮を発症する。表現型の発症は、生まれて数週間以内に迅速に検出可能となり、マウスは急速に衰える。元のN1F1世代における大部分のマウスは、3か月以内に終末期に到達した(Qiuら、2014年)。1か月齢の時点では、マウスは、脳及び脊髄において、内因性FUSレベルにほぼ等しいレベルで変異体FUSを発現する。これらのマウスにおける大多数のトランスジェニックFUS-R521Cタンパク質は、核にある。細胞質タンパク質が時として検知される。しかし、脊髄運動ニューロンの10%未満しか、細胞質FUS封入体を含有していない。トランスジェニックタンパク質ではなく、内因性FUSタンパク質が、点状パターンとして樹状突起に現れる。内因性FUSに類似して、FUS-R521Cタンパク質も、ミクログリアではなく星状細胞及び希突起神経膠細胞で検出される。
【0097】
マウスは、脊髄に大きなニューロンの喪失を発症する。誕生時には、脊髄運動ニューロンの数は正常である。しかし、16日目までに、脊髄の前角のChAT-ポジティブニューロンの数は、20パーセント分、低下する。変性は続き、終末期までにニューロンの約半分しか残らない。残存運動ニューロンは、樹状細胞の複雑さ、シナプスの欠損及びDNA損傷が低減している。皮質ニューロンの検出可能な喪失はない。しかし、感覚運動皮質におけるニューロンは、樹状細胞の複雑さが低下し、シナプス密度が低下している。
【0098】
適度な導入遺伝子発現があるにもかかわらず、FUS-R521Cマウスは、若年齢から、痙性対麻痺及び尾部によって持ち上げた際の後肢の把持の異常を含めた、様々な運動障害を示す。それらのマウスは、歩行中の後脚の間の距離が短いなどの、歩行の異常も有する。ロータロッド上の成績は不良である。
【0099】
元々のN1F1世代におけるマウスの大部分は、出生後100日目までに、終末期に到達した。より大きくC57BL/6が寄与する、その後の世代(例えば、N2F2、N2F3)のマウスは、より長く生きる。約40パーセントが、出生後200日目までに終末期に到達した。雄及び雌のマウスのどちらも、類似した疾患表現型を示す。半接合性の雄は、無精子となり得るか、又は少なくとも、繁殖能力がかなり低下し得る(Eric Huang、私信、2016年3月)。
【0100】
特異的表現型特徴付け
皮質ニューロンの喪失。皮質ニューロンの検出可能な喪失はない。しかし、感覚運動皮質におけるニューロンは、樹状細胞の複雑さの低下を示し、シナプス密度が低下することを示す。
【0101】
下位運動ニューロンの喪失。P0において、脊髄運動ニューロンの検出可能な差異はない。P16では、頚部脊髄の前角におけるChATポジティブニューロンは約20%の喪失である。P30~P60では、前角ニューロンは約50%の喪失である。残る運動ニューロンは、樹状細胞の複雑さ及びシナプス密度の低下を示す。
【0102】
グリオーシス
終末期までに、脊髄の前角におけるミクログリオーシス及びアストログリオーシスの顕著な増加。
【0103】
筋萎縮
大多数のマウスは、終末期までに、後肢に重症な骨格筋萎縮を有する。
【0104】
運動障害
尾部によって持ち上げた際の後肢の把持の異常、歩行の異常、及びロータロッド成績の低下を含めた早期出生後運動障害。
【0105】
体重
早期出生後の成長が抑制され、マウスには、体重の進行性喪失がある。
【0106】
早期死亡
N1F1世代のマウスの大部分は、出生後100日目までに、終末期に到達して、犠牲にされた。後の世代のマウスは、より長く生きる:約40%が、出生後200日目までに終末期に到達する。
【0107】
処置
ニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベンは、経口投与される。185mgのニコチンアミドリボシド及び30mgのプテロスチルベン/Kg×日数
【0108】
神経学的スコア
マウスで、神経学的スコアを目視検査によって、出生後20日目(P20)に開始して、毎週、行った。神経学的スコアは、Weydtら(2003年)のスケールに基づく。「0」から「5」までのスコアを以下の通り、定義する。「0」は、ALSの従来的な兆候のない健常なマウスであることを示す。「1」は、後脚において、疾患の早期に発生する振戦があることを示す。「2」は、マウスは、その尾部によって吊り下げられると、後脚を離すのが困難となることを示し、これは、筋力の衰弱を示すものである。「3」は、マウスが、よろめく又はぐらつくかのどちらかで歩行が困難であることを示す場合に付与する。「4」は、マウスが、4つの脚すべてで歩くことができず、後脚を引きずっている場合に付与する。「5」は、マウスが、30秒後に自分自身で直立できない場合に付与する。動物が「4」のスコアに到達すると、食物及び水の摂取は、すべてのトランスジェニックマウスへのケージの床に食物ペレットを置くことにより容易になる。「5」のスコアに到達すると、動物は、倫理的理由のため安楽死させられる。発症は、マウスが≧2週間連続して、症状(スコア<4)を示した場合の最短時間として定義する。
【0109】
ロータロッド、ワイヤぶら下がり及び斜面
P20に開始し、ロータロッド装置を使用する運動機能を解析する(タッチスクリーン式ロータロッド、Panlab)。各動物に3回の試験を行い、落下しないで、回転している軸上(直径3.5cm、回転速度:15rpm)に留まることができた最大期間(秒)を測定する。この試験は、180秒間の任意限界の後に停止する。最初の2週間で、3回の試験の順応期間を記録の開始前に行う。
【0110】
ワイヤぶら下がり試験は、P20に開始し、ロータロッド試験の24時間前に、毎週行う。動物は、従来の収容ケージのワイヤの蓋の上に置く。柔らかい表面から50cm上のところに、蓋を穏やかに上下逆さまにして、怪我を回避する。落下までの待ち時間を計測する。各マウスに最大180秒間、最大で3回の試みを行い、最長時間を記録する。
【0111】
斜面装置は、0°の角度に設定した、ヒンジ付きの木製ボードからなる。P20の動物は、ボード上に頭を上にして置かれ、マウスがボードから滑り落ちるまで、一定速度で高くする。滑らないで到達した最大角度を記録する。
【0112】
挙尾
挙尾は、神経学的スコアのアセスメント中に、尾部スコアを使用する目視検査によって、P20から開始して毎週、判定する。尾部スコアは、MRC(英国)における、Rogersらによって開発された手順である、SHIRPA尾部スケールに基づく(Niimi及びTakahashi、2009年;Rogersら、1997年)。「0」から「3」までのスコアを以下の通り、定義する。「0」は、尾部が垂直位置(最高高度)にあることを示す。「1」は、水平方向に尾部が伸びたことを示す。「2」は、20秒を超えて尾部を引きずったことを示す。「3」は、尾部が、近位拘縮及び遠位弛緩を示した場合に、付与する(このスコアを有するマウスは、疾患の終末期にある)。
【0113】
赤外運動センサー活動システムによる自動評価
運動挙動は、既に記載した通り(Andradeら、2010年)、赤外運動センサーモニター(Coulbourn Instruments、米国)を使用して、治験責任医師による干渉なしに、運動時間に基づく運動活動の自動記録によってオープンフィールドで評価する。実験室を拡散照明し、一定の温度及び湿度に維持する。マウスは、ポリエチレン(polyetilene)製ケージ(37×17×30cm)に1匹ずつ収容し、このケージは、壁の上部に赤外運動センサーを有しており、登録は、30分間の間の2分間の観察時間の区分で行う。得られたデータから、以下の依存測定パラメーターを算出する:観察時間の間、動物が動かなかった、又は0.01秒未満の時間しか動かなかった間の時間(秒)の平均値として定義する非運動時間;非運動事象は、観察時間の間に、非運動時間毎に登録された事象の平均数である;観察時間の間に、0.01秒を超えるが0.1秒未満の時間間隔の間に動物が動く間の時間(秒)の平均値として定義される、小運動時間;小運動事象は、観察時間の間に、小運動時間毎に登録される事象の平均数である;1.0秒を超える時間間隔で動物が動く間の時間(秒)の平均値として定義される、大運動時間;大運動事象は、観察時間の間に、大運動時間毎に登録される事象の平均数である。データをコンピューターに転送し、特定のソフトウェアによって解析する。非運動、小運動及び大運動の事象の数のみを評価に使用する。第1の期間(P40~60)、第2の期間(P70~80)、第3の期間(P90~100)及び第4の期間又は疾患の終末期(P110~120)に対応する期間毎にグラフにプロットする。
【0114】
神経伝達の待ち時間、速度及び振幅を、坐骨神経に入力する(Alvesら、2011年)。ケタミンクロルヒドレート(ケタラール)及びジアゼパム(バリウム)(ケタラール11.25mg及びバリウム0.375mgを含有する1ml/kgの溶液;IP)で麻酔をかけたマウスにおいて、P20、P40、P60、P80、P100及びP120に電気生理学的測定値を記録する。
【0115】
正常な体温は、ヒーターを使用して維持する。坐骨神経を露出し、複合筋活動電位(CMAP)の測定からなる、電気生理学的評価に動物を供する。このような評価は、神経電気生理学的完全性の確認、並びに振幅間の平均値、待ち時間の間の平均値、及び各電位の伝達速度間の平均値を算出する際に使用されるパラメーターの測定を目的とする。考えられる干渉を減じるため、2本の設置電極を外科的神経露出後に装着し、このうちの1本は、神経に隣接する筋肉内に置かれる単極性の直針電極(26G)であり、もう一方の設置電極は、316Lステンレス鋼製ワイヤから製造され、神経を取り囲んで接触領域を増加させるよう、その先端はらせん構造をしている。CMAP刺激用の双極電極は、アノード-カソードを1mm分離して、直径0.5mmの316Lステンレス鋼製ワイヤから製造する。記録は、5kHzに設定した高周波フィルター及び2Hzに設定した低周波フィルターを備えた、2チャンネルの筋電図検査システム(Keypoint portable;Medtronic、Skovlunde、デンマーク)で行う。電気刺激は人為的作用(artifact)を発生させる。この作用を低減するため、0.04msのパルス幅を有する長方形の単相電気パルスを使用する。CMAP測定の場合、刺激電極は、外科手術に対して同側の、足の第3遠位部に、同心針を用いる経皮的穿刺部を介して、腓腹筋の上に設置した記録用電極から1cmの距離にある神経上に設置する。最初の陰性波(negative deflection)及び二相波形は、運動点における記録を示す。誘発電位の待ち時間は、ミリ秒で測定する。このような記録した電位から、伝達速度は、1cmの距離を待ち時間で除算することを使用して算出する。
【0116】
病理
CNSの単離、調製及び分析の方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Jordan WH、Young JK、Hyten MJ、Hall DG.、Preparation and analysis of the central nervous system.、Toxicol Pathol.、2011年1月;39巻(1号):58~65頁により詳細に記載されている手順に従う。
【0117】
[実施例5]筋萎縮性側索硬化症のげっ歯類モデルにおける、運動協調及びバランスに及ぼすニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベンの作用のアセスメント
この実施例の目的:
ALSのマウスモデルにおける、特にニコチンアミドリボシド及びレスベラトロルの作用と比較する、運動機能の改善に及ぼすニコチンアミドリボシド及びプテロスチルベンの連携作用を評価すること。
【0118】
方法
マウス
1. B6.Cg-Tg(SOD1*G93A)1Gur/J(https://www.jax.org/strain/004435)
このSOD1-G93A(G93A-SOD1とも呼ばれる)導入遺伝子に対して半接合性のマウスは生存可能であり、繁殖能力があり、ヒトSOD1のG93A変異体のトランスジェニック発現を伴う。この創始系(多くの場合、G1Hと呼ばれる)は、高い導入遺伝子コピー数を有することが報告された。ヘミ接合体は、ヒトにおける筋萎縮性側索硬化症(ALS)に類似した表現型を示し、脊髄から運動ニューロンが喪失するために麻痺を伴って、1本以上の四肢が麻痺した状態になる。運動ニューロン変性は、神経系の主要なグリア細胞タイプである星状細胞の機能及び/又は変性を伴う。トランスジェニックマウスは、寿命が短かった。50%が、157.1+/-9.3日で生存する(混合B6SJLバックグラウンドとの対比であり、この場合、50%の生存は、128.9+/-9.1日で観察された)。雌のヘミ接合体は、繁殖に乏しく、疾患の発症前に1匹を超えて子を産むことはほとんどなかった。LPS誘発性ミクログリア及び活性化M1/M2マクロファージとは対照的に、疾患進行により活性化される脊髄ミクログリアは、M1(神経毒性)表現型又はM2(保護性)表現型のどちらか一方への偏向を示す遺伝子を上方調節しなかった。SOD1G93A活性化されたミクログリア中の遺伝子発現のパターンは、特有のALS特有的シグネチャを呈した。これらのSOD1-G93A(G93A-SOD1とも呼ばれる)トランスジェニックマウスは、筋萎縮性側索硬化症を含めた、神経筋障害の検討に有用であった。
【0119】
SOD1-G93A導入遺伝子は、その内因性ヒトSOD1プロモータにより推進される、変異体ヒトSOD1遺伝子(コドン93におけるグリシンのアラニンへの単一アミノ酸置換を内包する)を用いて設計した。この導入遺伝子を、受精済みB6SJLF1マウス卵子に注入し、創始動物を得た。混合B6SJL遺伝的背景にあるトランスジェニックマウスは、Jackson Laboratory(保管番号002726として)に送付した。到着すると、一部のマウスは、少なくとも10世代に対して、C57BL/6Jに戻し交配し、このコンジェニック系統(保管番号004435)を生成した。
【0120】
2.対照/非担体
B6SJLF1/J(https://www.jax.org/strain/100012)マウスは、C57BL/6J(B6)雌マウスとSJL/J(SJL)雄マウスとの交配により生成した。B6SJLF1/Jマウスは、そのゲノムにおけるすべての遺伝子座のB6及びSJLアレルに対してヘテロ接合性であった。この系統は、トランスジェニックマウスの生成に使用されることが多かった。
【0121】
神経病理学
SOD1 G93A導入遺伝子は、広範にわたり発現されるが、このモデルにおける病理は、脊髄(とりわけ、腰髄)、脳幹、下行脊髄路及び神経筋接合部に大きく制限された。ミトコンドリアの空洞化(Dal Canto及びGurney、Brain Res.、1995年;676巻(1号):25~40頁)、ゴルジ断片化(Mourelatosら、Proc Natl Acad Sci USA.、1996年;93巻(11号):5472~7頁)、神経細糸陽性封入体(Tuら、Proc Natl Acad Sci USA.、1996年;93巻(7号):3155~60頁)、レヴィ小体様封入体(Dal Canto及びGurney、Brain Res.、1995年;676巻(1号):25~40頁)、及び細胞質SOD1凝集体(Johnstonら、Proc Natl Acad Sci USA、2000年;97巻(23号):12571~6頁)を含めた、臨床的症状の発症前の脊髄に病理的な様々な特徴が表れた。神経筋接合部は、約47日齢で変性した。速い易疲労性運動ニューロンが最初に影響を受けた(Freyら、J Cell Biol.、2000年;149巻(7号):1443~54頁;Punら、Nat Neurosci.、2006年;9巻(3号):408~19頁)。次に、終末期までに、頚部及び腰部において約50パーセントの低下を伴って、脊髄運動ニューロンが次々と死滅した(Chiuら、Mol Cell Neurosci.、1995年;6巻(4号):349~62頁)。
【0122】
神経病理学は、下位運動ニューロンに制限されなかった。上位運動ニューロンでは、変性の兆候は、神経突起の肥大、ガリアス銀陽性凝集物、液胞及び神経突起スフェロイドを含んだ。これらの変化は、脊髄の変性が進行後の、約5か月齢で起こり、一般に、完全なニューロン喪失にまで進行しなかった(Leichsenringら、Brain Res.、2006年;1096巻(1号):180~95頁)。三叉神経、顔面神経及び舌下神経などの頭蓋核の変性が観察され(Angensteinら、Neuroreport.、2004年;15巻(14号):2271~4頁;Zangら、Eur J Neurosci.、2004年;20巻(7号):1745~51頁)、下行皮質脊髄路、延髄脊髄路及び赤核脊髄路の年齢依存的後退があった(Zang及びCheema、Neurosci Lett.、2002年;332巻(2号):99~102頁)。
【0123】
反応性ミクログリア及び星状細胞の増殖を含めたグリオーシスは、脊髄における運動ニューロン変性と並行して発症した。GFAP及びMAC1免疫反応性は、117日齢までに、反応性グリアの増加を示した(Hallら、Glia.、1998年;23巻(3号):249~56頁)。
【0124】
使用
これらのマウスは、長年にわたり、広範囲に検討されており、この研究は、ALSにおける前臨床研究に関する更新済みガイドラインの基礎に基づいたものであった(Ludolphら、Amyotroph Lateral Scler.、2010年;11巻(1~2号):38~45頁)。実験設計に関して推奨されることは、性別及び同腹子に関してバランスのとれた実験コホートを使用して、十分に実験を促進するために十分量のマウスを使用すること、並びにすべての原稿にこの情報を報告することを含んだ。コピー数の重要性を考慮すると、定量的遺伝子型判定を使用して、すべての実験動物が、予期されるコピー数を有することを確実にすべきである(Alexanderら、Brain Res Mol Brain Res.、2004年;130巻(1~2号):7~15頁)。
【0125】
修正の詳細
これらのトランスジェニックマウスは、マウスの染色体12への無作為に統合されたミスセンス変異G93Aを有するヒトSOD1の複数コピーを発現した。
【0126】
表現型のまとめ
皮質ニューロンの喪失:運動皮質において、変性の証拠(例えば、神経突起の肥大、ガリアス陽性凝集物、液胞及び神経突起スフェロイド)が示された。完全な上位運動ニューロン喪失は稀であった。
【0127】
下位運動ニューロン喪失:終末期における脊髄の頚部及び腰部で、運動ニューロンが最大で50%喪失することが観察された。
【0128】
細胞質封入体:封入体は、82日齢から脊髄運動ニューロン中で蓄積した。この封入体は、スフェロイド又はレヴィ小体様封入体の形態をとり、一般に、様々なニューロン中間フィラメントタンパク質を含んでいた。TDP-43陽性封入体は稀であった。
【0129】
グリオーシス:グリオーシスは、脊髄における運動ニューロン変性と並行して発症した。
【0130】
神経筋接合部異常:NM接合部は、約47日齢で変性した。速い易疲労性運動ニューロンが、最初に影響を受けた。
【0131】
筋萎縮:縦方向のMRIは、8週齢から筋肉量が低下したことを示した。萎縮は進行性であった。四肢及び横隔膜を含めた骨格筋が影響を受けた。
【0132】
運動障害:運動障害の兆候は、麻痺に至った振戦を伴って、3か月時点に始まった。
【0133】
体重:体重異常は、疾病の最初の兆候の1つであった。成長の遅延及び体重が横這いとなることが観察された。
【0134】
早期死亡:マウスは、5か月齢までに終末期に到達した。雌が、通常、より長く生存した(4~7日間、長い)。
【0135】
処置
ニコチンアミドリボシド、プテロスチルベン及びレスベラトロルを経口投与した:1日あたり、1Kgあたり、185mgのニコチンアミドリボシド及び/又は30mgのプテロスチルベン又はレスベラトロルをマウスに投与した。
【0136】
結果
生存時間
マウスの群間の生存時間を比較するカプラン-マイアー曲線を図1に示した。毎週、異なる処置群の生存マウス数を図2に示した。
【0137】
神経学的スコア
このスコアは、Weydtらのスケールに基づいた(Neuroreport、14巻: 1051~1054頁、2003年)。「0」から「5」までのスコアを以下の通り、定義した。「0」は、ALSの従来的な兆候のない健常なマウスであることを示した。「1」は、後脚において、疾患の早期に発生する振戦があることを示した。「2」は、マウスは、その尾部によって吊り下げると、後脚を離すのが困難となることを示し、これは、筋力の衰弱を示した。「3」は、マウスが、よろめく又はぐらつくかのどちらかで歩行が困難であることを示す場合に付与した。「4」は、マウスが、4つの脚すべてで歩くことができず、後脚を引きずっている場合に付与した。「5」は、マウスが、30秒後に自分自身で直立できない場合に付与した。動物が「4」のスコアに到達すると、食物及び水の摂取は、すべてのトランスジェニックマウスへのケージの床に食物ペレットを置くことにより容易になった。「5」のスコアに到達すると、動物は、倫理的理由のため安楽死させた。発症は、マウスが症状(スコア<4)を示した場合の最短時間として定義した。異なる群における経時的な変化は、8週目(P50)から20週目(P140)に毎週、モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について、図1に示した数と同一とした。異なる群の神経学的スコアを図3に示した。
【0138】
挙尾スコア
このスコアは、MRC(英国)のRogersら(Mamm. Genome、8巻: 711~713頁、1997年)によって開発された手順である、SHIRPA尾部スケールに基づいた。「0」から「3」までのスコアを以下の通り、定義した。「0」は、尾部が垂直位置(最高高度)にあることを示した。「1」は、水平方向に尾部が伸びたことを示した。「2」は、20秒を超えて尾部を引きずったことを示した。「3」は、尾部が、近位拘縮及び遠位弛緩を示した場合に、付与した(このスコアを有するマウスは、疾患の終末期にあった)。異なる群における経時的な変化を、毎週、モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について、図1に示した数と同一とした。異なる群の挙尾スコアを図4に示した。
【0139】
ロータロッド試験
試験機能は、とりわけ、実験薬物の効果の試験において、対象のバランス、把持強度及び運動協調の評価を含んだ。この試験(ロータロッド、Harvard Apparatus、Holliston、MA)の場合、各動物に3回の試験を行い、落下しないで、回転している軸上(直径3.5cm、回転速度:15rpm)に留まることができた最大期間(秒)を測定した。各マウスに1200秒の任意限界に対して最大で3回の試みを行い、最長期間を記録した。異なる群における経時的な変化は、毎週、モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について、図1に示した数と同一とした。異なる群に対するロータロッド試験結果を図5に示した。
【0140】
ワイヤぶら下がり試験
CNS障害のげっ歯類モデルにおける運動機能及び欠損を評価した。この試験の場合、動物は、従来の収容ケージのワイヤ蓋の上に置いた。柔らかい表面から50cm上のところに、蓋を穏やかに上下逆さまにして、怪我を回避した。落下までの待ち時間を計測した。各マウスに最大で180秒間に最大で3回の試みを行い、最長期間を記録した。異なる群における経時的な変化を、毎週、モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について、図1に示した数と同一とした。異なる群に対するワイヤぶら下がり試験結果を図6に示した。
【0141】
斜面テスト
この運動等級付け試験の場合、平坦回転バンド(トレッドミル、Harvard Apparatus)を使用し、5°の角度に設定した。動物を一定速度(15cm/s)でボード上に頭を上にして置いた。このシステムは、トレッドミルの背面に衝撃グリッドを組み込んでおり、マウスがボードから滑り落ちた場合に、軽度の電気ショック(最大で3秒間、0.2mA)が送られる。各マウスに、2回の試験が行われ、最大走行距離、及び試験中に受けた電気刺激数(3秒を超えない)を記録した。この試験を、600秒の任意限界後に、又は動物が電気刺激>3秒を受けた場合に停止した。異なる群における成績の経時的な変化を、毎週、モニタリングした。成績は、走行距離(m)と受けた電気刺激数(3秒を超えない)との間の比として表した。異なる群における経時的な変化を、毎週、モニタリングした。1週間あたりに試験した動物数は、各群について、図1に示した数と同一とした。異なる群に対する斜面試験結果を図7に示した。
【0142】
自動評価による運動活動
自発的活動(運動)の経時的な変化を、図1に表示されている異なる群において、赤外運動センサー活動モニター(IRアクチメーター、Harvard Apparatus)によって測定した。IRアクチメーターは、2次元(X軸及びY軸)の正方形フレーム、フレーム支持体及びコントロールユニットによって構成された。各フレームは、最適対象検出のための16×16赤外ビームからなった。活動は、ゆっくりとした動きの時間(秒)(MS、対象の速度が、静止閾値と高速閾値との間、すなわち2~5cm/sである間の時間)として、又は素早い動きの時間(MF、対象の速度が、高速閾値を超える、すなわち>5cm/sである間の時間)として表した。静止期間は、対象の速度が静止閾値未満(<2cm/s)となった期間と見なした。登録は、観察時間(30分間)の間に、2分の区分で行った。異なる群における経時的な変化を、毎週、モニタリングした。データは、4つの異なる期間(8~11週目、12~15週目、16~18週目、19~20週目)にプールし、図8で示した。平均値は、示された期間に各マウスによって行われた遅い動作及び速い動作の最大数を使用して算出した。1週間あたりに試験した動物数は、各群について、図1に示した数と同一とした。
【0143】
電気生理学的測定
坐骨神経の刺激の後の腓腹筋に誘発した複合筋活動電位(CMAP)の経時的な変化を、P50(8週目)及びP126(18週目)でモニタリングした。記録は、5kHzに設定した高周波フィルター及び2Hzに設定した低周波フィルターを備えた、2チャンネルの筋電図検査システム(Keypoint portable;Medtronic、Skovlunde、デンマーク)で行った。電気刺激は人為的作用を発生させる。この作用を低減するため、0.04msのパルス幅を有する長方形の単相電気パルスを使用した。CMAP測定の場合、刺激電極は、外科手術に対して同側の、足の第3遠位部に、同心針を用いる経皮的穿刺部を介して、腓腹筋の上に設置した記録用電極から1cmの距離にある神経上に設置した。電気生理学的測定値を図9に示した。CMAP振幅のデータは、ミリボルトで表し、待ち時間のデータはミリ秒で表し、神経伝達速度のデータは、1秒あたりのメートル数(m/s)で表した。時間点1つ及び群1つあたりに試験した動物数は、n=4であった。
【0144】
病理
CNSの単離、調製及び分析の方法は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Jordan WH、Young JK、Hyten MJ、Hall DG.、Preparation and analysis of the central nervous system.、Toxicol Pathol.、(2011年)1月;39巻(1号):58~65頁により詳細に記載されている手順に従った。
【0145】
統計学
データは、異なる実験数に関して、平均値±SDとして表した。統計解析は、スチューデントt検定を使用して行った。
*P<0.05及び**P<0.01は、すべてのSOD1群とWTとを比較。
+P<0.05及び++P<0.01は、NR、PT、R又はそれらの組合せにより処置したすべてのSOD1群とSOD1未処置対照とを比較。
aP<0.05及びaaP<0.01は、SOD1+NR+PT群とSOD1+NRとを比較。
【0146】
SOD1群とSOD1+R群との間、又はSOD1+NR群とSOD1+NR+R群との間の比較は、有意な差異を示さなかった。
【0147】
結論
1.EH301(NR+PT)により、SOD1マウス生存率が向上した(図1及び図2)。組合せ効果は、NRより優れていた(図1及び図2)。PT単独は、生存率を改善しなかった(図1及び図2)。
2.早期の運動系の機能不全の細胞上の及び生化学的証拠があるにもかかわらず、従来の挙動試験は、SOD1マウスモデルにおける早期運動障害を検出しなかった。ALSマウスの運動挙動及び成績の変化は、以下の標準試験:神経学的スコア(図3)、挙尾(図4)、ロータロッド(図5)、ワイヤぶら下がり(図6)、斜面/トレッドミル(図7)、赤外運動センサー活動システムによる運動活動の自動記録(図8)及び電気生理学的測定(坐骨神経の刺激後の、腓腹筋における運動活動電位に関連する、振幅、待ち時間及び神経伝達速度;図9)を使用して評価した。結論は、PT単独ではなく、NR及びEH301(NR+PT)が、運動機能を改善した(図3図9)ということであった。この点では、EH301(NR+PT)は、NR単独よりも優れていた(図3図5図6図7及び図8を参照されたい)。しかし、利点は、この実験の最後の週にしか観察されなかった。したがって、早期運動系の機能不全の潜在的な生化学的な及び分子の証拠があるにもかかわらず、運動成績及び協調の変化が、後の時間になって発症した。この事実により、生理的順応の活性化が、運動ニューロン依存性機能を保存することが示された。実際に、明白なことは、そのような機能の進行性退行(突然の喪失ではない)であることであった。
3.運動活動電位の保存におけるNRの効果(図9)を観察した。
4.レスベラトロルは、利点を示さなかった(図1及び図2図9)。
5.NR及びPTの組合せは、NRとRの組合せと比べて、効果の改善を示した。例えば、図2で分かる通り、NR+PT群における生存率は、NR+R群の生存率よりもかなり高い。図4で分かる通り、NR+PT群の神経学的スコアは、対照群(SOD1)及びNR+R群(これは、NR群と実質的に同じである)よりもかなり優れている。図5で分かる通り、ロータロッド実験では、NR+PT群は、対照群(SOD1)及びNR+R群よりもかなり優れている。留意すべきことに、この実験では、NR+R群の結果は、NR群の場合に示されたものよりも一層、悪化している。同様の結論を、図6、7及び8から導き出すことができる。
【0148】
参照による組み込み
本明細書において明記されているすべての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許又は特許出願が、参照により組み込まれているよう具体的且つ個々に示されているかのごとく、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。矛盾する場合、本明細書における任意の定義を含めた本出願が優先する。
【0149】
等価物
当業者であれば、日常実験以上のものを使用することなく、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態に対する多くの等価物を理解するか、又は解明することができる。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
本発明の実施形態として例えば以下を挙げることができる。
[実施形態1]
対象にプテロスチルベン及び式Iの化合物を含む組成物を投与するステップを含む、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法。
[実施形態2]
式Iの化合物がニコチンアミドリボシドである、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
対象にプテロスチルベン及び式Iの化合物を含む組成物を投与するステップを含む、対象における筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を減速又は反転させる方法。
[実施形態4]
式Iの化合物がニコチンアミドリボシドである、実施形態3に記載の方法。
[実施形態5]
対象に脂肪酸補助食品を投与するステップをさらに含む、実施形態1から4のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]
脂肪酸補助食品がココナッツ油である、実施形態5に記載の方法。
[実施形態7]
組成物の投与が、1以上の用量の組成物を投与するステップを含む、実施形態1から6のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]
組成物の各用量が、少なくとも40mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態9]
組成物の各用量が、少なくとも50mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態10]
組成物の各用量が、少なくとも60mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態11]
組成物の各用量が、少なくとも100mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態12]
組成物の各用量が、少なくとも200mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態13]
組成物の各用量が、少なくとも300mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態14]
組成物の各用量が、少なくとも400mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態15]
組成物の各用量が、少なくとも500mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態16]
組成物の各用量が、少なくとも600mgのプテロスチルベンを含む、実施形態7に記載の方法。
[実施形態17]
組成物の各用量が、少なくとも200mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態18]
組成物の各用量が、少なくとも400mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態19]
組成物の各用量が、少なくとも600mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態20]
組成物の各用量が、少なくとも800mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態21]
組成物の各用量が、少なくとも1000mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態22]
組成物の各用量が、少なくとも1200mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態23]
組成物の各用量が、少なくとも1400mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態24]
組成物の各用量が、少なくとも1600mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態25]
組成物の各用量が、少なくとも1800mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態26]
組成物の各用量が、少なくとも2000mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態27]
組成物の各用量が、少なくとも2200mgのニコチンアミドリボシドを含む、実施形態7から16のいずれかに記載の方法。
[実施形態28]
10以上の用量の組成物が投与される、実施形態7から27のいずれかに記載の方法。
[実施形態29]
30以上の用量の組成物が投与される、実施形態7から28のいずれかに記載の方法。
[実施形態30]
50以上の用量の組成物が投与される、実施形態7から29のいずれかに記載の方法。
[実施形態31]
100以上の用量の組成物が投与される、実施形態7から30のいずれかに記載の方法。
[実施形態32]
組成物の各用量が、1週間に1回以上、投与される、実施形態7から31のいずれかに記載の方法。
[実施形態33]
組成物の各用量が、1週間に2回以上、投与される、実施形態7から31のいずれかに記載の方法。
[実施形態34]
組成物の各用量が、1週間に3回以上、投与される、実施形態7から31のいずれかに記載の方法。
[実施形態35]
組成物の各用量が、1日1回以上、投与される、実施形態7から31のいずれかに記載の方法。
[実施形態36]
組成物の各用量が、1日2回以上、投与される、実施形態7から31のいずれかに記載の方法。
[実施形態37]
用量が、少なくとも7日間、投与される、実施形態27から36のいずれかに記載の方法。
[実施形態38]
用量が、少なくとも30日間、投与される、実施形態27から36のいずれかに記載の方法。
[実施形態39]
用量が、少なくとも60日間、投与される、実施形態27から36のいずれかに記載の方法。
[実施形態40]
用量が、少なくとも90日間、投与される、実施形態27から36のいずれかに記載の方法。
[実施形態41]
用量が、少なくとも6か月間、投与される、実施形態27から36のいずれかに記載の方法。
[実施形態42]
組成物が、丸剤として、錠剤として、又はカプセル剤として製剤化される、実施形態1から41のいずれかに記載の方法。
[実施形態43]
組成物が、経口投与される、実施形態1から42のいずれかに記載の方法。
[実施形態44]
組成物が、自己投与される、実施形態1から43のいずれかに記載の方法。
[実施形態45]
運動機能試験を行うステップをさらに含む、実施形態1から44のいずれかに記載の方法。
[実施形態46]
運動機能試験が、改訂筋萎縮性側索硬化症機能評価スケール(ALSFRS-R)である、実施形態45に記載の方法。
[実施形態47]
認知機能試験及び行動機能試験を行うステップをさらに含む、実施形態1から44のいずれかに記載の方法。
[実施形態48]
認知機能試験及び行動機能試験が、Complutense言語学習試験(TAVEC)、符号数字モダリティ試験(SDMT)、言語流暢試験、数唱(ウエクスラー記憶検査III)、D2注意力試験、文字及び数に関するウエクスラー記憶検査III、ロンドン塔試験(London Tower Test)、ストループ試験、前頭葉性行動スケール(FrSBe)又は簡易試験(主観的行動)である、実施形態47に記載の方法。
[実施形態49]
対象における特徴を測定するステップをさらに含む、実施形態1から48のいずれかに記載の方法。
[実施形態50]
特徴が、炎症に関連する、実施形態49に記載の方法。
[実施形態51]
特徴が、サイトカインのレベル、アミロイドAタンパク質のレベル、マクロファージ活性化マーカーであるネオプテリンのレベル、クレアチンホスホキナーゼ(CPK)のレベル、赤血球沈降速度のレベル、C反応性タンパク質のレベル、血漿粘度又は細胞数である、実施形態50に記載の方法。
[実施形態52]
サイトカインが、TNFα、IFNγ、IL-1、IL-6、IL-8又はTGFβである、実施形態51に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9