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  • 特許-創傷治癒の測定 図1A
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  • 特許-創傷治癒の測定 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】創傷治癒の測定
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/053 20210101AFI20220920BHJP
【FI】
A61B5/053
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020516954
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018064353
(87)【国際公開番号】W WO2018220121
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】17173840.4
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519427181
【氏名又は名称】キュートセンス・オーワイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ケコネン,アッテ
(72)【発明者】
【氏名】ベルゲリン,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,ヤン-エリク
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンソン,マックス
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0081580(US,A1)
【文献】特表2012-509724(JP,A)
【文献】国際公開第2015/195720(WO,A1)
【文献】特表2006-508732(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0150994(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/053-5/0538
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷治癒の測定システムの作動方法であって、
-創傷(102)の両側(104、106)に構成した電極(C、D、E、F)からなる第1の4極構成を有して創傷インピーダンスを測定するよう構成された創傷インピーダンス測定手段が、創傷インピーダンスを測定することと、
-前記創傷の片側(104)に構成した電極(A、B、C、D)からなる第2の4極構成を有して基準インピーダンスを測定するよう構成された基準インピーダンス測定手段が、基準インピーダンスを測定することであって、前記創傷インピーダンスおよび前記基準インピーダンスは、ある周波数範囲にわたって測定されることと、
-前記創傷インピーダンスと前記基準インピーダンスとの比、および前記周波数範囲の少なくとも一部にわたる前記比の変化に基づいて、前記比の変化が所定の閾値を満たすか否かを評価することによって、前記創傷治癒の少なくとも1つのレベルを前記システムのコントローラ(108)判断することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記創傷インピーダンスおよび前記基準インピーダンスは、少なくとも部分的に共有した電極(C、D)によって時分割方式で測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記創傷治癒の少なくとも1つのレベルは、前記比の経時的な変化、前記周波数範囲の高域での前記創傷インピーダンスと前記基準インピーダンスとの比、前記周波数範囲の低域での前記創傷インピーダンスと前記基準インピーダンスとの比、および/または前記周波数範囲の高域および低域での前記創傷インピーダンスと前記基準インピーダンスとの比どうしの低下差に基づいて判断される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記創傷治癒の前記レベルは、前記周波数範囲にわたる前記創傷インピーダンスと前記基準インピーダンスとの前記比の勾配に基づいて判断される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記周波数範囲は、150Hz~40kHzの周波数を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記周波数範囲は、前記第1の4極構成および/または第2の4極構成の励起信号が電流を細胞膜の表面に沿って伝導させる場合の周波数を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の4極構成および/または前記第2の4極構成は、前記創傷(102)の周囲に並列構成で、または前記創傷の全体にわたって直列構成で構成した励起電極(C、E)および測定電極(D、F)を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
創傷治癒を測定する構成であって、
-創傷インピーダンスを測定するよう構成された創傷(102)の両側に構成した電極(C、D、E、F)からなる第1の4極構成と、
-基準インピーダンスを測定するよう構成された前記創傷の片側に構成した電極(A、B、C、D)からなる第2の4極構成と、
前記創傷インピーダンスおよび前記基準インピーダンスはある周波数範囲にわたって測定され、前記第1の4極構成が測定する前記創傷インピーダンスと前記第2の4極構成が測定する前記基準インピーダンスとの比、および
前記周波数範囲の少なくとも一部にわたる前記比の変化に基づいて、前記比の変化が所定の閾値を満たすか否かを評価することによって、前記創傷治癒の少なくとも1つのレベルを判断するよう構成されたコントローラ(108)と
を有する、構成。
【請求項9】
請求項2~7のいずれか一項に記載の方法を実施する手段を有する、請求項8に記載の構成。
【請求項10】
プロセッサおよび記憶装置であって、前記記憶装置は、請求項1~7に記載の方法を実施するよう作用するコンピュータプログラムを保存するように構成される、プロセッサおよび記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷治癒を評価する方法に関する。特に、本発明は、例えば創傷が閉じていて創傷床が露出していない状態で創傷治癒を評価する際に適した創傷治癒を測定する方法に関する。本発明は、このような方法を実行するための構成にも関する。
【背景技術】
【0002】
急性の手術による創傷は、縫合を用いて閉じられることが多い。特定の事例では、体の患部を静止状態に保つ必要がある。整形外科のギプスなどで長期間被覆されている創傷を適時に治癒するのを評価することは、従来の視覚的手段では困難である。
【0003】
生体インピーダンスは、生体物質の受動的な電気特性を表すものである。生体インピーダンスの測定は、例えば診断目的および監視目的などの様々な用途で使用されている。生体インピーダンスの測定は、細胞レベルのアーキテクチャおよび機能を評価するための安全かつ非侵襲的で客観的な方法を実現するものである。用途として、肺図、組織特性の描写、インピーダンストモグラフィ、皮膚がん検出およびリンパ浮腫の監視が挙げられる。
【0004】
生体インピーダンスを測定する公知の構成には、単極構成(3電極構成)、双極構成および4極構成がある。単極構成および双極構成では、より深い組織層のインピーダンスに加えて、電極直下の組織のインピーダンスを測定する。どちらの設定でも電極インピーダンスの影響を受ける。単極測定および双極測定の感度は、電極の下で最も高く、電極から離れるにつれて低下する。単極測定は、感度が負の領域でも影響を受ける。
【0005】
Kekonen A, Bergelin M,Eriksson J-E,Vaalasti A,Ylanen H, Viik J(2017)Bioimpedance measurement based evaluation of wound healing.Physiol Meas DOI:10.1088/1361-6579/aa63d6は、創傷治癒の評価に双極法を適用することを開示している。
【0006】
しかしながら、創傷が閉じていて創傷床が露出していない場合、創傷治癒の評価には双極法も単極法も用いることができない。
【0007】
4極法は、人体の流体状態を評価するのに用いられており、リンパ浮腫治療の有効性を監視するのにも使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Kekonen A,Bergelin M,Eriksson J-E,Vaalasti A,Ylanen H,Viik J(2017)Bioimpedance measurement based evaluation of wound healing.Physiol Meas DOI:10.1088/1361-6579/aa63d6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、独立請求項の特徴として記載されている。いくつかの具体的な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、創傷治癒を測定する方法であって、創傷の両側に構成した電極からなる第1の4極構成を用いて創傷インピーダンスを測定することと、創傷の片側に構成した電極からなる第2の4極構成を用いて基準インピーダンスを測定することと、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて、創傷治癒をコントローラによって判断することとを含む、方法が提供される。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、創傷治癒を測定する構成であって、創傷インピーダンスを測定するために創傷の両側に構成した電極からなる第1の4極構成と、基準インピーダンスを測定するために創傷の片側に構成した電極からなる第2の4極構成と、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて創傷治癒を判断するように作用するコントローラとを含む、構成が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A-1B】少なくともいくつかの実施形態による創傷治癒を測定する構成を示す図である。
図2】少なくともいくつかの実施形態による方法を示す図である。
図3】少なくともいくつかの実施形態に従って測定した創傷治癒の周波数応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1Aおよび図1Bは、少なくともいくつかの実施形態による創傷治癒を測定する構成を示している。この構成は、創傷インピーダンスを測定するために創傷102の両側104、106に構成した電極からなる第1の4極構成と、基準インピーダンスを測定するために創傷の片側に構成した電極からなる第2の4極構成とを有する。この構成は、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて創傷治癒を判断するように作用してよい。電極からなる4極構成は、創傷治癒を判断するために組織の表面層から来る影響および電極から来る影響を取り除けるよう実現する。
【0014】
一実施形態では、創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスは、少なくとも部分的に共有した電極によって時分割方式で測定される。このようにすると、創傷インピーダンスの測定と基準インピーダンスの測定との間の干渉を回避し得ると同時に、必要な電極が少なくなる。
【0015】
電極からなる4極構成は、4つの電極を有する。電極からなる2つの4極構成は、少なくとも一部をこの4極構成で共有している8個以下の数の電極で実現されてよい。電極の共有は、4極構成が別々の時間に1つ以上の共有電極を使用するように達成されてよく、それによって4極構成を使用する測定は、時分割方式で行われてよい。
【0016】
一実施形態では、一実施形態による構成は、電極に接続されたコントローラ108を有する。コントローラは、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて創傷治癒の判断するように作用するように構成されてよい。コントローラは、コンピュータ、プロセッサ、記憶装置、コンピュータプログラムおよび/または仮想マシンであってよい。一例では、コントローラは、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて創傷治癒を判断するコードを実行するために、コンピュータ、プロセッサおよび/または仮想マシンにアクセス可能な記憶装置に保存されたコンピュータプログラムによって実装されてよい。コントローラと電極との間の接続部は、例えば導電体を含んでいてよい。
【0017】
4極構成は、創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスを測定するために4極構成の電極を標的組織、例えば被験者の皮膚に接続するという測定原則に従ってよい。4極構成は、標的組織に電流をもたらす励起信号を印加する第1の電極対を有する。4極構成はさらに、組織に印加した励起信号から生じた電圧差に基づいてインピーダンスを測定するための第2の電極対を有する。励起信号は、既知の強度および周波数を有していてよく、それによってインピーダンスは、拡張したオームの法則を用いて計算され得る。
【0018】
したがって、4極構成は、基本的に、端子(電極)が4つある2ポートシステムである。1つのポートには電流供給電極が2つあり、1つのポートには電圧感知電極が2つある。このシステムにはポートが2つあるため、4極構成は、この2つのポートの間で伝達関数を測定し、これを伝達インピーダンスと呼ぶ。したがって、測定したインピーダンスが例えば0オームであれば、これは導電性がきわめて高いことを意味するわけではなく、2つのポートの間には信号の伝達がないことを意味する。4極構成は絶対的な電気インピーダンス(真のインピーダンス)を測定するのではないことを理解することが重要である。
【0019】
基準インピーダンスを測定するために創傷102の片側に構成した電極からなる4極構成は、健康な組織を示すインピーダンス値を取得し得るように、基準インピーダンスの測定に対する創傷の影響を避け得る、または少なくとも小さくし得ることを実現する。
【0020】
創傷102の両側に構成した電極からなる4極構成は、励起信号を供給する電極と電圧差を測定するのに使用する電極とで形成した電気回路に創傷が含まれてよいように実現する。このように、創傷インピーダンスは、創傷治癒を判断する情報を提供し得る。
【0021】
創傷102は、通常、創傷の2つの端部103、105の間で細長い形状をしている。創傷の周りの組織は、健康な組織とみなしてよい。創傷の端部は、創傷の端から端までの距離が最も長い場所で画定されてよい。4極構成で測定するために、端部103、105の間の線で、創傷の異なる側どうしを分離してよい。
【0022】
創傷102は、生物学的プロセスによって再建可能な、例えば治癒可能な生体材料に対して外科手術または損傷により生じ得るものである。創傷は、生体材料の内部にあることがある。内部創傷は、皮膚下にあることがある。内部創傷の例として、被包性の創傷または体内の外傷が挙げられる。生体材料の例として、生物組織、例えばヒト組織または動物組織が挙げられる。組織は、皮膚および/または皮膚の下にある筋膜であってよい。一例では、手術による創傷は通常、手術後に縫合によって閉じられる。手術による創傷は深いことがあり、皮膚が治癒していても深い筋膜は依然として治癒途上にあることがある。
【0023】
次に、少なくとも一部を共有した電極を使用する4極構成によって創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスを測定する様子を、図1Aおよび図1Bを参照して説明する。このように、創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスを測定するのに使用する電極は、創傷インピーダンスを測定するための4極構成と基準インピーダンスを測定するための4極構成とを用いて時分割方式で使用するため、少なくとも部分的に同じであってよい。
【0024】
図1Aでは、この構成は、創傷102の片側106に電極EおよびFを有し、創傷の別の片側104に電極A、B、DおよびDを有する。創傷インピーダンスは、創傷102の両側に構成した電極C、D、EおよびFを有する4極構成を用いて測定されてよい。1つの例では、創傷インピーダンスは、励起信号を電極CおよびEを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極DおよびFを介して測定し得るように、電極C、D、EおよびFの4極構成を用いて測定されてよい。別の例では、創傷インピーダンスは、励起信号を電極CおよびDを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極EおよびFを介して測定し得るように、電極C、D、EおよびFの4極構成を用いて測定されてよい。別の例では、創傷インピーダンスは、励起信号を電極CおよびFを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極EおよびDを介して測定し得るように、電極C、D、EおよびFの4極構成を用いて測定されてよい。
【0025】
図1Aを参照すると、基準インピーダンスは、創傷の片側にある電極A、B、CおよびDを含む4極構成を用いて測定されてよい。1つの例では、基準インピーダンスは、励起信号を電極AおよびCを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極BおよびDを介して測定し得るように、電極A、C、BおよびDの4極構成を用いて測定されてよい。
【0026】
別の例では、基準インピーダンスは、励起信号を電極AおよびDを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極CおよびBを介して測定し得るように、電極A、C、BおよびDの4極構成を用いて測定されてよい。別の例では、創傷インピーダンスは、励起信号を電極AおよびBを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極CおよびDを介して測定し得るように、電極A、C、BおよびDの4極構成を用いて測定されてよい。
【0027】
図1Bでは、この構成は、創傷102の片側106に電極KおよびLを有し、創傷の別の片側104に電極A、B、DおよびDを有する。創傷インピーダンスは、創傷102の両側に構成した電極I、L、JおよびKを含む4極構成を用いて測定されてよい。1つの例では、創傷インピーダンスは、励起信号を電極IおよびLを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極JおよびKを介して測定し得るように、電極I、L、JおよびKの4極構成を用いて測定されてよい。
【0028】
図1Bを参照すると、基準インピーダンスは、創傷の片側に104ある電極G、H、IおよびJを含む4極構成を用いて測定されてよい。1つの例では、基準インピーダンスは、励起信号を電極GおよびJを介して供給し得るように、かつ励起信号によって生じた電圧差を電極HおよびIを介して測定し得るように、電極G、H、IおよびJの4極構成を用いて測定されてよい。
【0029】
伝達インピーダンスの値は、測定の感度分布で表示されることを理解されたい。感度分布は、組織の各領域がインピーダンス信号にどれくらい、どのように寄与するのかを判断するものである。感度は、正、負または中立のいずれかとなり得る。感度が正の領域で抵抗が増すと、測定したインピーダンスが増す。感度が負の領域では、この影響は逆である。電極の場所は、感度分布に影響を及ぼす。したがって、関心領域でできる限り高い正の感度を得るとともに、感度が負の領域はできる限り少ないことが望ましい。
【0030】
図2は、少なくともいくつかの実施形態による方法を示している。本方法は、図1Aまたは図1Bに記載した構成で実施されてよい。段階202は、創傷の両側に構成した電極からなる第1の4極構成を用いて創傷インピーダンスを測定することを含む。段階204は、創傷の片側に構成した電極からなる第2の4極構成を用いて基準インピーダンスを測定することを含む。段階206は、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて、創傷治癒をコントローラによって判断することを含む。
【0031】
段階202および204での4極構成を用いる測定には、創傷治癒を判断するのに適した強度および周波数を有する励起信号を使用してよい。一例では、励起信号は、強度が0.4VRMSで周波数が150Hz~40kHzである正弦波の励起信号である。強度および周波数は、測定している創傷に応じて変化する可能性があることを理解されたい。また、150Hz未満の周波数では、余分な細胞液の量を示す測定結果を生むことがあり、電流は、容量性の細胞膜を通過できない。一方、40kHzを超える周波数では、測定したインピーダンスが細胞外液と細胞内液とを合わせた容量を反映するという測定結果を生み出すことがある。細胞膜のリアクタンスは周波数が上がるにつれて小さくなるからである。このように高周波数では、インピーダンス値または創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの対応は、誤って創傷が治癒したと示すことがある。
【0032】
一実施形態では、周波数範囲は、第1の4極構成および/または第2の4極構成の励起信号が電流を細胞膜の表面に沿って伝導させるという周波数を含む。周波数範囲は、創傷インピーダンスを測定するのに使用する4極構成が電流を細胞膜の表面に沿って伝導させる場合に、創傷の治癒を判断し得るようになることが好ましいことを理解されたい。したがって、励起信号は、組織内の細胞膜に沿った伝導性が、細胞どうしの接触にみられる変化と測定したインピーダンスの応答とを区別するのに十分高くなるように実現する。少なくとも、細胞の表面、または細胞の表面にある電解質の量がバルク細胞外液よりも良好に伝導し始め、電流が細胞膜を介して細胞間の細胞外液を通って流れる場合、伝導性は十分である。一例では、細胞膜の表面に沿った電流の伝導は、イオンを細胞膜の表面で強化するのに十分高い周波数を用いて実現され得る。細胞膜の表面は、脂肪組織細胞、結合組織細胞、筋肉組織細胞および上皮細胞の表面であってよいことを理解されたい。
【0033】
励起信号は、創傷の治癒が進行するにつれて細胞膜の表面に沿った電流の伝導が改善するのを観察できる周波数を有していてよいことを理解されたい。実際、創傷インピーダンスは、細胞膜が電気を伝導する能力に著しく影響される。細胞膜が電気を伝導する能力は、創傷部で細胞膜が欠損し、かつ/または損傷することによって負の影響を受け、それによって治癒開始時は創傷インピーダンスが高い。創傷の治癒が進行するとき、細胞が生成され、細胞膜が再建され、それによって創傷部が電気を伝導する能力は改善され、創傷インピーダンスは低下する。
【0034】
その一方で、周波数範囲の高域の周波数は、電流が細胞膜を通過するのを妨げるのに十分低くなければならないことを理解されたい。
【0035】
図3は、少なくともいくつかの実施形態に従って測定した創傷治癒を示している。創傷治癒は、例えば図2の方法に従って創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスを測定することで得た周波数応答302で示されている。図3に示した周波数応答は、強度が0.4VRMSで周波数が150Hz~40kHzである正弦波の励起信号を用いて得たものである。ただし、本明細書に記載した様々な実施形態は、強度および/または周波数がこれとは異なる励起信号を用いて実施され得ることを理解されたい。周波数応答は、創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの対応を、術後1日目311、術後3日目313、および術後9日目319の対数周波数スケールで示している。図3では、周波数応答は対数スケールで示されている。
【0036】
一実施形態では、創傷治癒の少なくとも1つのレベルは、a)創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの対応、およびb)周波数範囲の少なくとも一部にわたる対応の変化の少なくとも一方に基づいて判断されてよい。
【0037】
創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの対応は、以下の式に従い、創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの比であってよい。
【0038】
【数1】
【0039】
式中、Z(fは、周波数nでの創傷インピーダンスの絶対値であり、Z(fは、周波数nでの基準インピーダンスの絶対値であり、Z(fratioは、周波数nでのZ(fとZ(fとの比をパーセンテージで表したものである。周波数範囲の少なくとも一部にわたる対応の変化は、Z(fratioの導関数として得られてよい。特定の周波数での変化の値は、創傷治癒のレベルを判断するために特定の周波数でのZ(fratioの勾配に基づいて得られてよい。
【0040】
図3の周波数応答は、創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの対応が創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの比である場合、周波数比応答と呼ぶことがあることに注意されたい。
【0041】
創傷治癒を判断する周波数範囲全体または周波数範囲の少なくとも一部に対して、Z(fratioの1つ以上の閾値を定めてよい。Z(fratioが所定の閾値を満たしている場合、その閾値に対応する創傷治癒のレベルが判断されてよい。創傷治癒のレベルとして、例えば「治癒完了」および「未治癒」があってよい。
【0042】
この代わりに、またはこれに加えて、創傷治癒を判断する周波数範囲全体または周波数範囲の少なくとも一部に対して、Z(fratioの変化に対する1つ以上の閾値を定めてよい。Z(fratioの変化が所定の閾値を満たしている場合、その閾値に対応する創傷治癒のレベルが判断されてよい。
【0043】
Z(fratioの閾値の例として、例えば図3の130%、160%および180%などのパーセンテージを挙げ得る。Z(fratioの変化の閾値は、対数周波数スケールでZ(fratioの導関数の異なる値に対して決定されてよい。
【0044】
創傷治癒は、Z(fratioの経時的な変化、周波数範囲の高域304でのZ(fratio、周波数範囲の低域306でのZ(fratio、および/または周波数範囲の高域304でのZ(fratioと低域306でのZ(fratioとの低下差に基づいて判断されてよい。したがって、Z(fratioは、創傷が治癒するにつれて変化し、それによって周波数応答は周波数範囲にわたって均一になる。
【0045】
創傷治癒は、図3に示した周波数範囲で、周波数範囲の高域304で経時的に低下するZ(fratioに基づいて判断されてよい。周波数範囲の高域では、測定するインピーダンスは、細胞膜が電気を伝導する能力に著しく影響される。細胞膜が電気を伝導する能力は、創傷部で細胞膜が欠損し、かつ/または損傷することによって負の影響を受け、それによって治癒開始時は創傷インピーダンスZ(fが高い。創傷の治癒が進行すると、細胞が生成され、細胞膜が再建され、それによって創傷部が電気を伝導する能力は改善され、創傷インピーダンスは低下する。創傷の治癒は、周波数範囲の高域の周波数応答から観察されてよく、周波数範囲の高域では、創傷のインピーダンスは、初めは基準インピーダンスよりも高く、周波数応答は、治癒が進行するにつれて1日目から9日目まで低下する。周波数の高域では、細胞膜が電気を伝導する能力は、バルク細胞外液よりも良好で、電流は、細胞膜を介して細胞間の細胞外液を通って流れる。Z(fratioに対して1つ以上の閾値を定めて、特定の閾値を満たしているZ(fratioから創傷治癒の対応レベルを判断してよい。
【0046】
周波数の低域306では、創傷治癒は、経時的に上昇するZ(fratioに基づいて判断されてよい。周波数の低域では、創傷のインピーダンスは、初めは基準インピーダンスよりも低く、周波数応答は、治癒が進行して腫れが小さくなるにつれて1日目から9日目まで上昇する。したがって、周波数の低域での周波数応答は、特に、例えばリンパ浮腫での細胞外液の量を示し得る。
【0047】
中間の周波数308では、周波数応答Z(fratioの変化は、治癒が進行して腫れが小さくなるにつれて1日目から9日目まで小さくなる。中間の周波数では、創傷治癒のレベルは、創傷インピーダンスと基準インピーダンスとの対応の変化に基づいて判断されてよい。この変化は、Z(fratioの導関数に基づいて判断されてよい。特定の周波数での変化の値は、創傷治癒のレベルを判断するために、特定の周波数でのZ(fratioの勾配に基づいて得られてよい。したがって、創傷の治癒のレベルは、Z(fratioの勾配に基づいて判断されてよい。創傷は、勾配が十分小さい場合に治癒すると判断してよい。
【0048】
一実施形態では、創傷の両側に構成した電極からなる第1の4極構成を用いて創傷インピーダンスを測定する手段と、創傷の片側に構成した電極からなる第2の4極構成を用いて基準インピーダンスを測定する手段と、ある周波数範囲にわたって測定した創傷インピーダンスおよび基準インピーダンスに基づいて創傷治癒を判断する手段とを含む構成が提供される。
【0049】
本明細書に記載した様々な実施形態は、実施形態に記載した1つ以上の機能を実施するように作用する手段によって実装されてよいことを理解されたい。適切な手段として、当業者に公知の手段、例えばコントローラ、コンピュータ、プロセッサ、記憶装置、コンピュータプログラムおよび/または仮想マシンを挙げてよく、これらの手段は、実施形態に記載した1つ以上の機能を作用させるために様々な方法で組み合わされてよい。例えば、コンピュータプログラムは、コードを実行するためにコンピュータ、プロセッサおよび/または仮想マシンにアクセス可能な記憶装置に保存されてよい。
【0050】
開示した本発明の実施形態は、本明細書に開示した特定の構造、処理工程、または材料に限定されるものではなく、当業者が認識するであろう本明細書の等価物にまで拡大されることを理解されたい。本明細書で用いた用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的として使用しており、限定を意図するものではないことも理解されたい。
【0051】
本明細書を通して、「1つの実施形態」または「一実施形態」という言い方は、その実施形態と関連付けて記載した特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する。そのため、本明細書全体を通して様々な箇所に「1つの実施形態では」または「一実施形態では」という句が散見されるが、必ずしもそのすべてが同じ実施形態を指すわけではない。
【0052】
本明細書で使用したように、複数の項目、構造要素、組立要素、および/または材料は、便宜上、一共通リストに列挙されていることがある。ただし、このようなリストは、そのリストの各項目を別々の唯一の項目として個々に識別するものと解釈すべきである。そのため、そのようなリストの個々の項目は、別途記載のない限り、共通グループに列挙されていることのみを根拠として同じリストの他の任意の項目の事実上の等価物であると解釈すべきではない。このほか、本明細書では、本発明の様々な実施形態および例を、その様々な構成要素の代替物を用いて記載していることがある。そのような実施形態、例および代替物を、事実上互いに等価物であると解釈すべきではなく、本発明の別々の自律的な表現であると解釈すべきであることが理解される。
【0053】
さらに、記載した特徴、構造、または特性は、任意の適切な方法で1つ以上の実施形態内で組み合わされてよい。以下の説明では、本発明の実施形態を完全に理解してもらうために、長さ、幅、形状などの数々の具体的な詳細が述べられている。ただし当業者は、本発明が具体的な詳細の1つ以上がなくとも実施でき、あるいは他の方法、構成要素、材料などを用いても実施できるものであることがわかるであろう。また、公知の構造、材料または動作については、本発明の態様を不明瞭にしないように、詳細に示することも説明することもしていない。
【0054】
上記の例は、1つ以上の特定の用途での本発明の原理を例示するものであるが、発明性のある能力を行使しない限り、また本発明の原理および概念を逸脱しない限り、実施する形態、使用法および詳細に多くの修正を加え得ることは、当業者には自明であろう。したがって、以下に記載の請求項による場合を除き、本発明を限定する意図はない。
【0055】
「有する(to comprise)」および「含む(to include)」という動詞は、本明細書では、記載していない特徴の存在を排除することも必要とすることもないという開かれた限定として使用している。従属請求項に記載した特徴は、別途記載のない限り、相互に自由に組み合わせることが可能である。さらに、本明細書全体を通して「a」または「an」すなわち単数形を使用していても、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば、手術による創傷など、創傷が皮膚の表面部分を突き抜けている状態で創傷治癒を判断するのに使用できる。また本発明は、被包性の創傷または体内の外傷などの内部創傷の創傷治癒を判断するのにも使用できる。そのため、本発明は、創傷治癒の術後監視に用途が見い出される。また本発明は、視覚で評価するのが困難または不可能な創傷、例えば整形外科のギプスで被覆されている創傷が適時に治癒するのを評価するのにも使用できる。当然ながら、本発明は、組織の表面層のみが創傷を治癒している創傷治癒を監視するのにも使用できる。
【符号の説明】
【0057】
102創傷
103、105 創傷の端部
104、106 創傷の片側
108 コントローラ
A、B、C、D、E、F、G 電極
H、I、J、K、L 電極
202、204、206 図2の方法の段階
302 周波数応答
306 周波数の低域
304 周波数の高域
308 中間の周波数
311、313、319 術後経過日
図1A
図1B
図2
図3