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特許7143440水性コーティング材組成物におけるレオロジー助剤としての表面改質された水酸化酸化アルミニウム粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】水性コーティング材組成物におけるレオロジー助剤としての表面改質された水酸化酸化アルミニウム粒子
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220920BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220920BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220920BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20220920BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20220920BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220920BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20220920BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220920BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D7/62
C09D175/04
C09D167/00
C09D133/00
C09D5/44
B05D1/36 B
B05D7/24 303B
B05D7/24 302T
B05D7/24 302V
B05D7/24 302P
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020560394
(86)(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060698
(87)【国際公開番号】W WO2019207085
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】18169868.9
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ポッペ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェゲナー,マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】ロイター,ラウラ
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-532426(JP,A)
【文献】米国特許第06224846(US,B1)
【文献】特開2014-227320(JP,A)
【文献】国際公開第2016/177514(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/060510(WO,A2)
【文献】M.L.Nobel、ほか2名,Waterborne nanocomposite resins for automotive coating applications,Progress in Organic Coatings,NL,2007年02月01日,Vol.58 No.2-3,Page.96-104
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性コーティング材組成物であって、少なくとも、
(A)成分(A)としての、結合剤として使用可能な少なくとも1つのポリマー、及び
(B)成分(B)としての水酸化酸化アルミニウム粒子、
を含み、
前記水性コーティング材組成物は7.5以上のpHを有し、
前記コーティング材組成物は、前記コーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、少なくとも0.1質量%の量の成分(B)を含み、成分(B)として採用された前記水酸化酸化アルミニウム粒子の表面が、少なくとも1つの有機酸で少なくとも部分的に改質されている、水性コーティング材組成物。
【請求項2】
前記コーティング材組成物中の成分(B)と成分(A)の相対質量比が1:1.1から1:20の範囲にある、請求項1に記載のコーティング材組成物。
【請求項3】
少なくとも部分的な改質が、前記水酸化酸化アルミニウム粒子を少なくとも1つの有機カルボン酸で処理することによって達成される、請求項1又は2に記載のコーティング材組成物。
【請求項4】
前記水酸化酸化アルミニウム粒子を改質するために使用される前記少なくとも1つの有機酸が、少なくとも2つのカルボン酸基を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項5】
成分(B)として採用された前記水酸化酸化アルミニウム粒子の表面が、少なくとも1つの有機酸としてのクエン酸で少なくとも部分的に改質されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項6】
成分(B)として採用された前記水酸化酸化アルミニウム粒子が、前記水性コーティング材組成物中に、750nm以下の平均粒子径(d50)を有する粒子の形態で存在し、前記平均粒子径は、平均粒子直径の算術平均値を指し、前記平均粒子径は光子相関分光法(PCS)によって決定される、請求項1~5のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項7】
成分(B)として採用された前記水酸化酸化アルミニウム粒子が、75nm以上750nm以下の範囲の平均粒子径を有する粒子の形態で前記水性コーティング材組成物中に存在する、請求項6に記載のコーティング材組成物。
【請求項8】
前記コーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、成分(B)を少なくとも0.5質量%の量で含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項9】
前記コーティング材組成物の全質量に基づいて、25質量%より大きい固形分含有量を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項10】
水性ベースコート材料である、請求項1~9のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの顔料及び/又は少なくとも1つの充填剤を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項12】
成分(A)として採用される前記少なくとも1つのポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート及び前述したポリマーのコポリマーからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング材組成物。
【請求項13】
マルチコート塗装システムを製造する方法であって、
(1a)水性ベースコート材料を任意にコーティングされた基材に塗装し、
(2a)段階(1a)で塗装されたコーティング材からポリマー膜を形成し、
(1b)任意に、このように形成されたポリマー膜に、さらに水性ベースコート材料を塗装し、
(2b)任意に、段階(1b)で塗装されたコーティング材からポリマー膜を形成し、
(3)結果として得られたベースコート膜又はベースコートの複数の膜にクリアコート材料を塗装し、及び続いて、
(4)前記ベースコート膜又はベースコートの複数の膜を、前記クリアコート膜とともに硬化させ、
請求項1~12のいずれか1項に記載の水性コーティング材組成物が、段階(1a)においてベースコート材料として使用され、又は、前記方法がさらに段階(1b)及び(2b)を含む場合には、段階(1a)及び/又は(1b)においてベースコート材料として使用される、方法。
【請求項14】
前記方法が段階(1b)及び(2b)を含み、段階(1a)で使用される基材は、段階( 1a)でコーティングする表面が少なくとも電着塗装膜を有する金属基材である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法によって得られるマルチコート塗装システムであって、
任意にコーティングされた基材上に設けられた、段階(1a)で塗装された水性ベースコート材料から形成された第1のベースコート膜と、
任意に、前記第1のベースコート膜上に設けられた、段階(1b)で任意に塗装された水性ベースコート材料から形成された第2のベースコート膜と、
前記第1ベースコート膜上、または前記第2のベースコート膜が存在する場合には当該第2のベースコート膜上に設けられたクリアコート膜と、をそれぞれ硬化膜として含み、
段階(1a)の水性ベースコート材料として、または任意の段階(1b)が行われる場合には段階(1a)および/または段階(1b)の水性ベースコート材料が、請求項1~12のいずれか1項に記載のコーティング材組成物であることを特徴とするマルチコート塗装システム。
【請求項16】
前記任意にコーティングされた基材は、表面が少なくとも電着塗装膜を有する金属基材である請求項15に記載のマルチコート塗装システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性コーティング材組成物であって、pH≧7.5であり、及び、成分(A)として少なくとも1つのポリマー及び成分(B)として水酸化酸化アルミニウム粒子を含み、該成分(B)は、コーティング材組成物の固形分の量に基づいて、少なくとも0.1質量%の量で組成物中に含まれ、成分(B)として採用される水酸化酸化アルミニウム粒子の表面が少なくとも1つの有機酸で少なくとも部分的に改質されている水性コーティング材組成物、及び該水性コーティング材組成物を用いたマルチコート塗装システムの製造方法、並びに該製造されたマルチコート塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特に、自動車の仕上げだけでなく、装飾効果が高く、同時に腐食から効果的に保護する塗料が望まれる他の分野においても、基材に複数の塗膜を重ねて配置することが知られている。ここでのマルチコート塗装システムは、好ましくは、「ベースコート/クリアコート」法と呼ばれる方法で塗装され、該方法は、少なくとも1つの着色ベースコート材料が最初に塗装され、短時間のフラッシュオフ時間の後、焼付け工程(ウェット・オン・ウェット法)なしで、クリアコート材料で再塗装されることを意味する。その後、ベースコートとクリアコートは一緒に焼付けされる。「ベースコート/クリアコート」法は、自動車の金属効果塗料の塗装において特に重要になっている。
【0003】
環境的及び経済的理由から、このようなマルチコート塗装システムが塗装される場合、より具体的にはベースコート膜が塗装される場合、VOCレベルを最小限に抑えるために、水性コーティング材組成物を使用することが求められている。
【0004】
特に自動車のOEM仕上げの分野では、前述の「ウェット・オン・ウェット」法は、可能な限り短い時間で水性塗料の可能な限りの厚い膜厚の塗装を可能にし、それによって仕上げラインを経済的に運転できるようにすることが必要である。技術的な観点から、同様にここでは望ましくは、使用される水性塗料、特にベースコート材料は、非常に高い固形分含有量と顕著な構造粘度を有し、言い換えれば、そこに含まれる任意の効果顔料の最適な乾燥及び優れた配向を達成するために、良好なチキソトロピー性を示す。これを達成するために、適切なチキソトロープ剤が塗料に慣行的に組み込まれている。
【0005】
さらに、前述の「ウェット・オン・ウェット」法でベースコート膜を製造するために使用されるコーティング材組成物は、焼付け工程なしに、また、この手順が、結果として得られるコーティングが高く最適化された視覚的外観を得られるように、例えばピンホール、ポップ、ラン及び/又は(他の)フロー欠陥と呼ばれる視覚的外観の欠陥を伴うことなしに、非常に短い初期乾燥期間の後に、上塗りクリアコート膜を、与えることが可能であるべきである。少なくともそのような欠陥を最小限に抑える目的でも、適切なレオロジー助剤が、慣行的に、塗装のためのコーティング材組成物に組み込まれる。
【0006】
自動車OEM仕上げの分野における先行技術において、例えば、EP0281936A1から、上記でより詳細に解明されたような所望の特性プロファイルを得るために、例えばフィロケイ酸塩、特に市販製品のラポナイト(登録商標)RDなどのスメクタイトを、水性コーティング材組成物にレオロジー補助剤として組み込むことが知られている。慣行的に使用されるこれらのスメクタイトは、25nmの範囲の平均粒子直径及び数ナノメートルの範囲の板状体厚さを有している。このようなスメクタイトの使用は、しばしば、特に効果顔料の配向に関して有利であるかもしれない顕著な構造粘度、したがって比較的短い応答時間で顕著なチキソトロピーをもたらすことは事実である。しかし、これらのフィロケイ酸塩の粒子サイズが比較的小さいことを考慮すると、慣行的に形成されるのは、比較的狭い「ハウス・オブ・カード構造」であり、これはしばしば、塗料塗布中の合体段階で、湿膜から水や縮合物を逃がすことを困難にする原因となる。さらに、このようなフィロケイ酸塩の粒子サイズが比較的小さいことにより、粒子の適切な安定化を提供するためには、しばしば強い安定化力が必要とされる。しかし、これらの必要とされる強い安定化力は、比較的低い固形分含有量しか配合及び利用されないことを意味し、これは望ましくない。さらに、これはしばしば、水性塗料の電解質含有量、したがって水性塗料の安定性を制限する結果となる。代替の合成フィロシリケート製品、特に非常に大きな粒子径を有するスメクタイト製品が市場に出回っていないことを考えると、特に高固形分含有量の水性塗料を使用する場合、既知のラポナイト(登録商標)RDシステムを使用した配合の選択肢は限られている。
【0007】
したがって、上記で特定された欠点を示さない水性コーティング材組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】EP0281936A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
問題点
したがって、本発明によって対処される問題は、比較的高い固形分含有量で配合することができ、より具体的には、先行技術から知られているコーティング材組成物よりも高い固形分含有量で配合することができ、しかし同時に、先行技術から知られているコーティング材組成物の塗装特性、具体的には、結果として得られるコーティングの外観に関して、より具体的には、ピンホール、ポップ、及びランの発生に関して、少なくとも一致し、好ましくはそれよりもさらに優れている塗装特性によって区別され、及び、従来同様に欠点を示さず、その代わりに、逆に、好ましくはその構造的粘度及びチキソトロピー性に関して利点を示す水性コーティング材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
解決手段
この問題は、特許請求の範囲に記載された主題、及び以下の説明に記載された該主題の好ましい実施形態によっても解決される。
【0011】
したがって、本発明の第1の主題は、少なくとも
(A)成分(A)としての、結合剤として使用可能な少なくとも1つのポリマー、及び
(B)成分(B)としての水酸化酸化アルミニウム粒子、
を含む水性コーティング材組成物であって、
ここで、該水性コーティング材組成物はpH≧7.5であり、
コーティング材組成物は、コーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、少なくとも0.1質量%の量の成分(B)を含み、成分(B)として採用された水酸化酸化アルミニウム粒子の表面が、少なくとも1つの有機酸で少なくとも部分的に改質されている。
【0012】
この水性コーティング材組成物は、以下「本発明のコーティング材組成物」ともいう。本発明のコーティング材組成物の固形分含有量は、コーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは25質量%より大である。好ましくは、本発明のコーティング材組成物は、ベースコート材料である。
【0013】
本発明のさらなる主題は、マルチコート塗装システムを製造する方法であって、該方法では、
(1a)水性ベースコート材料を任意にコーティングされた基材に塗装し、
(2a)段階(1a)で塗装されたコーティング材からポリマー膜を形成し、
(1b)任意に、このように形成されたポリマー膜に、さらに水性ベースコート材料を塗装し、
(2b)任意に、段階(1b)で塗装されたコーティング材からポリマー膜を形成し、
(3)結果として得られたベースコート膜又はベースコートの複数の膜にクリアコート材料を塗装し、及び続いて、
(4)ベースコート膜又はベースコートの複数の膜を、クリアコート膜とともに硬化させ、
ここで、本発明の水性コーティング材組成物は、段階(1a)においてベースコート材料として使用されるか、又は、方法がさらに段階(1b)及び(2b)を含む場合には、段階(1a)及び/又は(1b)においてベースコート材料として使用される。
【0014】
以下、この方法を「本発明の方法」ともいう。
【0015】
驚くべきことに、本発明の水性コーティング材組成物は、成分(B)として特定の水酸化酸化アルミニウム粒子を組み込んだ結果として、比較的高い固形分含有量、より具体的には、25質量%を超える固形分含有量を配合することができることが見出された。このようにして、特に、先行技術から知られているコーティング材組成物より、より具体的には、レオロジー助剤としてラポナイト(登録商標)RDのようなフィロケイ酸塩を含むコーティング材組成物よりも高い固形分含有量を達成することが可能である。さらに驚くべきことに、同時に、本発明の水性コーティング材組成物の塗装特性は、比較的高い固形分含有量にもかかわらず、先行技術から知られているコーティング材組成物、例えばフィロケイ酸塩、特に、レオロジー助剤としてラポナイト(登録商標)RDなどを含むコーティング材組成物と少なくとも同等であり、場合によってはさらにそれよりも優れていることが見出された。これは、特に、それぞれの結果として得られるコーティングの視覚的外観、特に本発明の方法に従って塗装したときの視覚的外観との比較に関して、及び、特にピンホール、ポップ、及びランの発生に関して、との比較に関してさえも当てはまる。さらに、これは、それぞれのコーティング材組成物の構造粘度及びチキソトロピー性に関しても有効である。
【0016】
驚くべきことに、成分(B)としての特定の水酸化酸化アルミニウム粒子を組み込むと、有利に、本発明の水性コーティング材組成物の製造において、粒子に十分な安定を与えるために、強い安定化力を必要としないことが見出され、これは比較的高い固形分含有量を配合することができることを意味する。本当に驚くべきことに、採用される特定の水酸化酸化アルミニウム粒子の平均粒子径は、それらが本発明の水性コーティング材組成物を製造するために使用されるときに著しく増加するため、成分(B)として採用された水酸化酸化アルミニウム粒子は、それらが水性コーティング材組成物に組み込まれるときに、例えばラポナイト(登録商標)RDのような先行技術から知られているフィロケイ酸塩よりも著しく大きい平均粒子径を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
本発明の意味で、本発明のコーティング材組成物に関連して、「含む」という用語は、好ましくは「からなる」という意味を有する。本発明のコーティング材組成物に関して、成分(A)、(B)、及び水と同様に、以下に特定される1つ以上のさらなる成分が、本発明のコーティング材組成物に、任意に存在するものとして、実際にそこに含まれていてもよい。ここでのすべての成分は、それぞれ、以下に特定される好ましい実施形態において存在してもよい。
【0018】
本発明のコーティング材組成物中に存在する全ての成分(A)、(B)、及び水、ならびに任意で追加的に存在するさらなる成分の質量%での割合は、コーティング材組成物の全質量に基づいて、合計で100質量%になる。
【0019】
「ポップ」、「ラン」、「ピンホール」、「ビット」、「レオロジー助剤」(「レオロジー添加剤」)、並びに「フロー欠陥」及び「フロー」という用語は、それぞれ当業者に知られており、例えば、Roempp Lexikon,Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag 1998において定義されている。
【0020】
コーティング材組成物
本発明の水性コーティング材組成物は、pHが7.5以上、好ましくは7.5以上から13.0の範囲のpHを有する。より好ましくは、pHは、7.5以上から12.5の範囲、非常に好ましくは、7.6から12.0の範囲、さらに好ましくは、7.7から11.5又は7.7から11.0の範囲にある。より好ましいのは、7.8から10.5又は7.8から10.0の範囲、より具体的には8.0から9.5の範囲のpHである。
【0021】
本発明の水性コーティング材組成物は、好ましくはベースコート膜を製造するのに適している。したがって、特に好ましくは、本発明のコーティング材は、水性ベースコート材料である。ベースコート材料の概念は当業者に知られており、例えば、Roempp Lexikon,Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,1998年、第10版、57頁に定義されている。したがって、ベースコート材料は、特に、自動車の仕上げ及び一般的な工業用コーティングに使用され、色を付与し、及び/又は色と光学効果を付与する中間コーティング材である。それは一般に、サーフェーサー又はプライマーサーフェーサーで前処理された金属又はプラスチック基材に塗装され、プラスチック基材の場合にはプラスチック基材に直接、金属基材の場合には、金属基材がコーティングされた電着塗装膜に直接塗装されることもある。既存の仕上げ塗装も、それは任意で前処理を必要とするが(例えば、研磨されることによって)、基材として機能することができる。今や、さらに、複数のベースコート膜を塗装することが完全に慣行になっている。このような場合には、したがって、第1のベースコート膜が第2の膜の基材を構成する。特に環境の影響からベースコート膜を保護するために、少なくとも1つの追加のクリアコート膜がその上に塗装される。
【0022】
本発明のコーティング材組成物は、水性である。好ましくは、いずれの場合も本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、溶媒として主として水を好ましくは少なくとも20質量%の量で含み、有機溶媒をより少ない割合で好ましくは20質量%未満の量で、含むシステムである。
【0023】
本発明のコーティング材組成物は、好ましくは、いずれの場合も本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、少なくとも20質量%、より好ましくは少なくとも25質量%、非常に好ましくは少なくとも30質量%、より具体的には、少なくとも35質量%の水分を含む。
【0024】
本発明のコーティング材組成物は、好ましくは、いずれの場合も本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、20から65質量%の範囲、より好ましくは25から60質量%の範囲、非常に好ましくは30から55質量%の範囲の水分を含む。
【0025】
本発明のコーティング材組成物は、好ましくは、いずれの場合も本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、20質量%未満の範囲、より好ましくは0から20質量%未満の範囲、非常に好ましくは0.5から20質量%未満の範囲、又は0.5から15質量%の範囲の有機溶媒画分(fraction)を含む。
【0026】
当業者に知られているすべての慣行的な有機溶媒は、本発明のコーティング材組成物を製造するための有機溶媒として採用されてよい。「有機溶媒」という用語は、特に1999年3月11日のCouncil Directive1999/13/EC(そこでは溶媒として特定されている)から当業者に公知である。有機溶媒は、好ましくは、一価又は多価アルコール、例としてはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、エチレングリコール、エチルグリコール、プロピルグリコール、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、1,2-プロパンジオール及び/又は1,3-プロパンジオール、エーテル、例としてはジエチレングリコールジメチルエーテル、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、例としてはトルエン及び/又はキシレン、ケトン、例としてはアセトン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、メチルイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン及びメチルエチルケトン、エステル、例としては酢酸メトキシプロピル、酢酸エチル及び/又は酢酸ブチル、アミド、例としてはジメチルホルムアミド、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0027】
本発明のコーティング材組成物の固形分含有量は、好ましくは、いずれの場合もコーティング材組成物の全質量に基づいて、25質量%より大である。固形分含有量、言い換えれば不揮発性物質画分は、以下に記載される方法に従って決定される。本発明のコーティング材組成物の固形分含有量は、いずれの場合も本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは25超から50質量%、より好ましくは25超から45質量%、非常に好ましくは25超から40質量%、より具体的には25超から37.5質量%、最も好ましくは25超から35質量%の範囲にある。本明細書における「25質量%超」という表現は、いずれの場合も、特に、26、27、28、29、30、31、32、33及び34質量%の数値を下限として包含する。
【0028】
本発明のコーティング材組成物の固形分含有量と本発明のコーティング材組成物中の水分のパーセンテージ合計は、好ましくは少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも50質量%である。その中で好ましくは40から95質量%、より具体的には45又は50から90質量%の範囲である。したがって、本発明のコーティング材組成物が、例えば、30質量%の固形分含有量及び25質量%の水含有量を有する場合、固形分含有量及び水分の上記定義されたパーセンテージ合計は、55質量%である。
【0029】
本発明のコーティング材組成物は、好ましくは、結合剤として採用される少なくとも1つのポリマー(A)の画分が、いずれの場合も本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、1.0から25質量%、より好ましくは1.5から20質量%、非常に好ましくは2.0から18.0質量%、より具体的には、2.5から17.5質量%、最も好ましくは3.0から15.0質量%の範囲にある。本発明のコーティング材組成物中のポリマー(A)の画分の決定又は特定は、続いてコーティング材組成物を製造するために使用されるポリマー(A)を含む水性分散液の固形分含有量(不揮発性物質の画分、固形分又は固形画分とも呼ばれる)を決定する方法により行われてもよい。
【0030】
本発明の水性コーティング材組成物は、いずれの場合もコーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、好ましくは、成分(B)として採用される水酸化酸化アルミニウム粒子を、少なくとも0.1質量%、好ましくは少なくとも0.5質量%、より好ましくは少なくとも0.75質量%、非常に好ましくは少なくとも1.0又は少なくとも1.5質量%の量で含む。成分(B)として採用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、いずれの場合もコーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、コーティング材組成物中に、好ましくは0.1質量%から20質量%の範囲、より好ましくは0.5質量%から15質量%の範囲、非常に好ましくは1.0から12.5質量%の範囲、より具体的には1.5質量%から10質量%の範囲の量で存在する。
【0031】
本発明の水性コーティング材組成物は、好ましくは、成分(B)として採用される水酸化酸化アルミニウム粒子を、いずれの場合もコーティング材組成物の全質量に基づいて、少なくとも0.05質量%、より好ましくは少なくとも0.25質量%、非常に好ましくは少なくとも0.50質量%、又は少なくとも0.75質量%、より好ましくはさらに少なくとも1.0質量%、より具体的には少なくとも1.5質量%の量で含む。
【0032】
本発明のコーティング材組成物中の成分(A)の、コーティング材組成物の全質量に基づく質量%での画分は、好ましくは成分(B)の画分よりも高い。
【0033】
本発明のコーティング材組成物における成分(B)の、成分(A)に対する相対的な質量比は、好ましくは1:1から1:20の範囲又は1:1から1:15の範囲又は1:1.1から1:20の範囲又は1:1.1から1:15の範囲又は1:1.1から1:10の範囲、より好ましくは1:1.2から1:8の範囲、非常に好ましくは1:1.3から1:7.5の範囲、より好ましくはさらに1:1.4から1:7の範囲、より具体的には1:1.5から1:6.5の範囲、より好ましくはさらに1:1.6から1:6の範囲、最も好ましくは1:2から1:5までの範囲にある。
【0034】
本発明のコーティング材組成物は、好ましくは、メラミン樹脂を、コーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、5質量%を超える量で含まない。特に好ましくは、本発明のコーティング材組成物は、メラミン樹脂を全く含まない。
【0035】
本発明のコーティング材組成物は、好ましくは、5mg KOH/g未満の酸価を有するポリエステルを、コーティング材組成物の固形分含有量に基づいて、5質量%を超える量で含まない。特に好ましくは、本発明のコーティング材組成物は、5mg KOH/g未満の酸価を有するポリエステルを全く含まない。
【0036】
成分(A)
本発明の水性コーティング材組成物は、成分(A)として、少なくとも1つのポリマーを含む。このポリマーは、結合剤として採用される。本発明の意味での「結合剤」という用語は、DIN EN ISO 4618(ドイツ語版、日付:2007年3月)に一致して、膜形成に関与するコーティング材組成物のそれらの不揮発性画分を指す。したがって、組成物中の顔料及び/又は充填剤は、「結合剤」という用語に包含されない。好ましくは、少なくとも1つのポリマー(A)は、コーティング材組成物の主結合剤である。本発明の目的のため、結合剤成分は、好ましくは、ベースコート材料などのコーティング材組成物中に、それぞれのコーティング材組成物の全質量に基づいて、より高い画分で存在する他の結合剤成分が存在しない場合に、主結合剤と称される。
【0037】
「ポリマー」という用語は当業者に知られており、本発明の意味では、多付加体だけでなく、連鎖成長付加ポリマー及び重縮合物も包含する。ホモポリマー及びコポリマーの両方が「ポリマー」という用語に包含される。
【0038】
成分(A)として採用される少なくとも1つのポリマーは、自己架橋又は非自己架橋であってもよい。成分(A)として使用可能な好適なポリマーは、例えば、EP022803A1、DE4438504A1、EP0593454B1、DE1994804A1、EP0787159B1、DE4009858A1、DE4437535A1、WO92/15405A1、及びWO2005/021168A1から知られている。
【0039】
成分(A)として採用される少なくとも1つのポリマーは、好ましくは、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリ(メタ)アクリレート及び/又は述べられたポリマーのコポリマーからなる群から選択され、より具体的には、ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレート及び/又はポリウレタン-ポリ尿素である。特に好ましくは、成分(A)として採用される少なくとも1つのポリマーは、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート及び/又は述べられたポリマーのコポリマーからなる群から選択される。本発明の意味での「(メタ)アクリル」又は「(メタ)アクリレート」という表現は、いずれの場合も、それぞれ「メタクリル」及び/又は「アクリル」ならびに「メタクリレート」及び/又は「アクリレート」の定義を包含する。
【0040】
好ましいポリウレタンは、例えば、ドイツ特許出願DE19948004A1、4頁19行目から11頁29行目(ポリウレタンプレポリマーB1)、欧州特許出願EP0228003A1、3頁24行目から5頁40行目、欧州特許出願EP0634431A1、3頁38行目から8頁9行目、及び国際特許出願WO92/15405、2頁35行目から10頁32行目に記載されている。
【0041】
好ましいポリエステルは、例えば、DE4009858A1、6コラム53行目から7コラム61行目及び10コラム24行目から13コラム3行目、又はWO2014/033135A2、2頁24行目から7頁10行目、及びさらに28頁13行目から29頁13行目にも記載されている。同様に好ましいポリエステルは、例えばWO2008/148555A1に記載されているような樹枝状構造を有するポリエステルである。それらは、クリアコート材料だけでなく、ベースコート材料、特に水性ベースコート材料にも使用することができる。
【0042】
好ましいポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートコポリマー((メタ)アクリレートポリウレタン)及びそれらの調製は、例えばWO91/15528A1、3頁21行目から20頁33行目、及びDE4437535A1、2頁27行目から6頁22行目に記載されている。
【0043】
好ましいポリ(メタ)アクリレートは、水及び/又は有機溶媒中でのオレフィン性不飽和モノマーを多段ラジカル乳化重合によって調製可能なものである。特に好ましいのは、例えば、シードコアシェルポリマー(SCSポリマー)である。このようなポリマー、及びこのようなポリマーを含む水性分散体は、例えばWO2016/116299A1から知られている。特に好ましいシードコアシェルポリマーは、好ましくは100から500nmの平均粒子径を有するポリマーであって、該ポリマーは、水中のオレフィン性不飽和モノマーの3つの混合物(A)、(B)、及び(C)(好ましくは互いに異なる)の逐次ラジカル乳化重合によって調製可能であり、混合物(A)は、25℃での水中の溶解度が0.5g/l未満の少なくとも50質量%のモノマーを含み、混合物(A)から製造されたポリマーのガラス転移温度が10から65℃であり;混合物(B)は、少なくとも1つのポリ不飽和モノマーを含み、混合物(B)から調製されたポリマーのガラス転移温度が-35から15℃であり;混合物(C)から調製されたポリマーのガラス転移温度が-50から15であり、ここで、i.まず、混合物(A)が重合され、ii.続いてi.で調製されたポリマーの存在下で混合物(B)が重合され、iii.その後にii.で調製されたポリマーの存在下で混合物(C)が重合される。
【0044】
好ましいポリウレタン-ポリ尿素コポリマーは、好ましくは平均粒子径が40から2000nmのポリウレタン-ポリ尿素粒子であり、該ポリウレタン-ポリ尿素粒子は、いずれの場合も反応形態であり、イソシアネート基を含み、アニオン基及び/又はアニオン基に変換可能な基を含む少なくとも1つのポリウレタンプレポリマー、ならびに2つの第一級アミノ基及び1つもしくは2つの第二級アミノ基を含む少なくとも1つのポリアミンを含む。この種のコポリマーは、好ましくは、水性分散体の形態で使用される。このようなポリマーは、原則として、例えば、ポリイソシアネートとポリオール及びポリアミンの従来の重付加によって調製可能である。
【0045】
成分(A)として採用されるポリマーは、好ましくは、架橋反応を可能にする反応性官能基を有する。当業者に知られている任意の慣行的な架橋可能な反応性官能基がここでは適している。成分(A)として採用されるポリマーは、好ましくは、第一級アミノ基、第二級アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、カルボキシル基及びカルバメート基からなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有する。成分(A)として採用されるポリマーは、好ましくは官能性ヒドロキシル基を有する。
【0046】
成分(A)として採用されるポリマーは、好ましくはヒドロキシ官能性であり、より特に好ましくは、15かから200mgKOH/g、より好ましくは20から150mgKOH/gの範囲のOH価を有する。
【0047】
特に好ましくは、成分(A)として採用されるポリマーは、ヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリ(メタ)アクリレートコポリマー、ヒドロキシ官能性ポリエステル及び/又はヒドロキシ官能性ポリウレタン-ポリ尿素コポリマーである。
【0048】
さらに、本発明の水性コーティング材組成物は、それ自体公知の少なくとも1つの典型的な架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤は、膜形成に関与するコーティング材組成物の不揮発性画分に包含され、したがって、結合剤の一般的な定義の範囲内に含まれる。したがって、架橋剤は、成分(A)に含まれる。
【0049】
架橋剤が存在する場合、好ましくは少なくとも1つのアミノ樹脂及び/又は少なくとも1つのブロック又は遊離ポリイソシアネートであり、好ましくはアミノ樹脂である。アミノ樹脂の中でも特に好ましいのは、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂などのメラミン樹脂である。
【0050】
成分(B)
本発明の水性コーティング材組成物は、成分(B)として水酸化酸化アルミニウム粒子を含み、その表面は少なくとも一部が少なくとも1つの有機酸で改質されている。
【0051】
「水酸化酸化アルミニウム」という用語は当業者に知られている。それは、化学式AlO(OH)又はγ-AlO(OH)を有する化合物を包含する。水酸化酸化アルミニウムの具体例としては、ベーマイト及び擬ベーマイトが挙げられる。成分(B)としては、ベーマイト粒子が好ましく用いられる。
【0052】
成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子の表面は、少なくとも1つの有機酸で少なくとも部分的に改質されている。本発明の意味で、「改質」という用語は、好ましくは、例えば少なくとも1つの有機酸によるベーマイト粒子の処理などの成分(B)の処理として理解される。したがって、少なくとも部分的な改質は、好ましくは、少なくとも1つの有機酸による水酸化酸化アルミニウム粒子の処理、好ましくは、イオン性基及び/又は共有結合性基を形成することによって達成される。こうして改質されたこの成分(B)、例えばベーマイト粒子が、7.5以上のpHを有する本発明の水性コーティング材組成物などの水性塗装媒体に組み込まれた場合、少なくとも1つの有機酸で行われた表面処理は、このpH範囲での「電荷反転」が発生する可能性があることを意味し、改質されたベーマイト粒子は少なくとも部分的にアニオン性に帯電した表面を有し、したがって水性媒体に組み込むことができ、これと適合性がある。
【0053】
表面が少なくとも部分的に少なくとも1つの有機酸で改質された水酸化酸化アルミニウム粒子は、先行技術で知られており:例えば、US6,224,846B1は、そのようなベーマイト粒子が水及び極性有機溶媒中に分散されることを可能にするために、有機スルホン酸によって改質されたベーマイト粒子が記載している。US7,244,498B2は、負の表面電荷を生成するために有機酸を用いて表面改質されたベーマイトナノ粒子などのナノ粒子を開示している。最後に、少なくとも1つの有機酸で少なくとも部分的に改質された対応するベーマイト製品は市販されており、例えば、Sasol社から「Disperal(登録商標)HP14/7」、「Disperal(登録商標)HP10/7」、及び「Disperal(登録商標)HP18/7」という名称で販売されている。
【0054】
完成を期すために、ベーマイト粒子の表面のさらなる改質は先行技術で同様に知られていることに留意されたい。例えば、M.L.Nobelらは、Progress in Organic Coatings 2007,58,96-104頁に、ベーマイトを含むアクリルポリマーナノ複合材料について記載しており、ここではベーマイト粒子の表面は、チタンアルコキシドを用いて改質することができる。しかし、この種の表面改質は、ベーマイトのAl表面のアニオン安定化をもたらさない。
【0055】
対照的に、対応する未改質のベーマイト粒子は、pHが7.5以上の水性媒体中ではカチオン性表面を有しており、このような条件では使用することができない。そのため、このような未改質ベーマイト粒子は、慣行的に酸性の塗装媒体でのみ使用される。このような未改質ベーマイト粒子のそのような使用は、例えば、WO2004/031090A2及びWO2006/060510A1に開示され、US2008/009012A1にも開示されている。未改質ベーマイト粒子及びポリマー複合材における充填剤としての使用は、さらにWO03/089508A1から知られている。したがって、未改質ベーマイト粒子は、pH7.5以上では使用することができない。
【0056】
上述したように、成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子の表面は、少なくとも1つの好ましくは脂肪族有機酸で少なくとも部分的に改質されている。有機酸は、好ましくは、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つの酸性基を有する。企図される酸性基は、特に、カルボン酸基及び/又は少なくとも1つのS原子又は少なくとも1つのP原子を含む酸性基である。S原子を含む酸性基の例としては、スルホン酸基及びスルフィン酸基が挙げられる。P原子を含む酸性基の例としては、リン酸基及びホスホン酸基、ならびそれらのモノエステル及びジエステルなどの部分エステル又はフルエステルが挙げられる。ただし、カルボン酸基(カルボキシル基)が好ましい。好ましくは、したがって、有機酸は、少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つのカルボキシル基を有する。したがって、採用される少なくとも1つの有機酸は、好ましくはカルボン酸であり、より好ましくは少なくとも2つ又は少なくとも3つのカルボキシル基を有するカルボン酸である。使用することができる有機酸の例は、クエン酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパラギン酸、オキサロコハク酸、トリメリット酸、イソクエン酸及びアコニット酸、及びそれらの混合物である。同様に、対応する無水物もまた採用することができる。
【0057】
成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子の表面は、少なくとも1つの有機酸としてクエン酸で少なくとも部分的に改質されていることが好ましい。
【0058】
成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、好ましくは、水性コーティング材組成物中に、750nm以下の平均粒子径(d50)を有する粒子の形態で存在し、ここで、平均粒子径は、平均粒子直径の算術平均値を指し、平均粒子径は、光子相関分光法(PCS)によって決定される。特に好ましくは、成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、75nm以上750nm以下の範囲の平均粒子径を有する粒子の形態で水性コーティング材組成物中に存在する。平均粒子径は、好ましくは、DIN ISO 13321(日付:2004年10月)に従ってMalvern Instruments社製「Zetasizer Nano S-173」装置を用いて、0.01から0.1質量%を含む水性分散液、より好ましくは、pHが7.5より大きく11までの範囲の水性分散液中で決定される。
【0059】
成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、好ましくは、水性コーティング材組成物中に、75nm以上から300nm以下の範囲の平均粒子径を有する粒子の形態で存在し、ここで、平均粒子径は、平均粒子直径の算術平均値を指し、平均粒子径は、DIN ISO 13321(日付:2004年10月)に従ってMalvern Instruments社製「Zetasizer Nano S-173」装置を用いて、光子相関分光法(PCS)により、9.3のpHで粒子(B)を0.1質量%含む水性分散液中で決定される。特に好ましくは、水酸化酸化アルミニウム粒子は、ここでは100nm以上から250nm以下まで、非常に好ましくは100nm以上から200nm以下までの範囲の平均粒子径を有する粒子の形態をとる。
【0060】
成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、好ましくは、水性コーティング材組成物中に、50nm以上から600nm以下までの範囲の平均粒子径を有する粒子の形態で存在し、ここで、平均粒子径は、平均粒子直径の算術平均値を指し、平均粒子径は、DIN ISO 13321(日付:2004年10月)に従ってMalvern Instruments社製「Zetasizer Nano S-173」装置を用いて、光子相関分光法(PCS)により、粒子(B)の水性分散液中で決定される。特に好ましくは、水酸化酸化アルミニウム粒子は、ここでは100nm以上から550nm以下まで、非常に好ましくは120nm以上から500nm以下までの範囲の平均粒子径を有する粒子の形態をとる。
【0061】
組成物に組み込まれる前に、言い換えれば、固体粉末の形態で存在するとき、本発明の水性コーティング材組成物を製造するために使用される粒子(B)は、好ましくは5から50μmの範囲、より好ましくは15から45μmの範囲、非常に好ましくは20から40μmの範囲の平均粒子径をする。平均粒子径は、ここでは、Malvern Instruments社製「Mastersizer3000」装置を用いて、アロユニット中で25±1℃で決定される。これに関連する平均粒子径は、測定された平均粒子直径の体積平均(Vアベレージ平均)を指す。
【0062】
組成物に組み込まれる前に、言い換えれば、固体粉末の形態で存在する場合、本発明の水性コーティング材組成物を製造するのに使用される粒子(B)は、好ましくは5から80nmの範囲、より好ましくは7.5から50nmの範囲の結晶粒子径を有する。ここで、結晶粒子径は、シーメンス社製又はフィリップス社製の従来のX線回折計を用いたX線回折法により決定される。
【0063】
特に、いずれの場合もそのような分散液の全質量に基づいて、これらの粒子(B)がこれらの粒子を15から25質量%の量で含む水性分散液に組み込まれる場合、最も好ましくは、これらの粒子(B)がこれらの粒子を20質量%の量で含む水性分散液に組み込まれる場合、成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、好ましくは750μS/cmより大きく、より好ましくは750μS/cmより大きく2500μS/cmまでの範囲の導電率を有している。非常に好ましくは、ここで成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、800μS/cmから2000μS/cmまでの範囲の導電率を有する。これは、より大きな安定性を伴うために、例えば本発明のベースコート材料としてなどのように、本発明のコーティング材組成物の一部の導電率を可能な限り低くしたいという要望の観点から有利である。
【0064】
成分(B)として使用される水酸化酸化アルミニウム粒子は、好ましくはpH10未満、より好ましくはpH9未満、いずれの場合も、好ましくは7.5以上の等電点を有する。
【0065】
さらなる、任意の成分
本発明の水性コーティング材組成物は、成分(A)、(B)及び水とは異なる、少なくとも1つのさらなる任意の成分を含んでいてもよい。
【0066】
さらなる、任意成分としての顔料及び充填剤
本発明の水性コーティング材組成物は、少なくとも1つの顔料及び/又は少なくとも1つの充填剤を含んでいてもよい。ここでいう「顔料」という用語は、色顔料及び効果顔料を含む。
【0067】
当業者は、効果顔料の概念を熟知している。対応する定義は、例えば、Roempp Lexikon,Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,1998年第10版 176頁及び471頁に記載されている。一般的な顔料の定義及びそのさらなる仕様は、DIN 55943(日付:2001年10月)に記載されている。効果顔料は、好ましくは、光学効果を付与するか、又は色及び光学効果を付与する顔料であり、より具体的には光学効果を付与する顔料である。したがって、好ましくは、「光学効果及び色顔料」、「光学効果顔料」、及び「効果顔料」という用語は互換可能である。
【0068】
好ましい効果顔料は、例えば、葉片状アルミニウム顔料、ゴールドブロンズ、酸化ブロンズ及び/又は酸化鉄-アルミニウム顔料などの層状金属効果顔料、パールエッセンス、塩基性炭酸鉛、オキシ塩化ビスマス及び/又は金属酸化物-マイカ顔料などの真珠光沢顔料、及び/又は、葉片状黒鉛、葉片状酸化鉄、PVD膜を含む多層効果顔料、及び/又は液晶ポリマー顔料など他の効果顔料である。特に好ましいのは、葉片状の効果顔料であり、より具体的には、葉片状アルミニウム顔料、及び金属酸化物-マイカ顔料である。したがって、本発明のコーティング材組成物を製造するための少なくとも1つの効果顔料としては、少なくとも1つの好ましくは葉片状アルミニウム効果顔料及び/又は少なくとも1つの金属酸化物-マイカ顔料などの少なくとも1つの金属効果顔料の少なくとも1つの効果顔料が使用される。
【0069】
コーティング材組成物中の効果顔料の画分は、いずれの場合も水性コーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは1.0から25.0質量%の範囲、より好ましくは1.5から20.0質量%の範囲、非常に好ましくは2.0から15.0質量%の範囲にある。
【0070】
当業者は、色顔料の概念を熟知している。「着色顔料」及び「色顔料」という用語は互換可能である。色顔料としては、有機及び/又は無機顔料を使用することが可能である。色顔料は、好ましくは無機色顔料である。使用される特に好ましい色顔料は、白色顔料、有彩顔料及び/又は黒色顔料である。白色顔料の例としては、酸化チタン、亜鉛白、硫化亜鉛、リトポンがある。黒色顔料の例は、カーボンブラック、鉄マンガンブラック、スピネルブラックなどである。有彩顔料の例としては、酸化クロム、酸化クロム水和物グリーン、コバルトグリーン、ウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー、マンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット、コバルトバイオレット及びマンガンバイオレット、赤色酸化鉄、スルホセレン化カドミウム、モリブデートレッド、及びウルトラマリンレッド、褐色酸化鉄、ミックスブラウン、スピネル相及びコランダム相、及びクロムオレンジ、黄色酸化鉄、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、硫化カドミウム、硫化カドミウム亜鉛、クロムイエロー、及びバナジン酸ビスマスである。
【0071】
コーティング材組成物中の色顔料の画分は、いずれの場合も水性コーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは1.0から40.0質量%、より好ましくは2.0から35.0質量%、非常に好ましくは5.0から30.0質量%の範囲にある。
【0072】
1つ又は複数の顔料として、本発明の水性コーティング材組成物は、好ましくは、排他的に1つ以上の色顔料からなる。言い換えれば、本発明の水性コーティング材組成物は、好ましくは効果顔料(複数も)を含まない。
【0073】
「充填剤」という用語は、例えば、DIN55943(日付:2001年10月)から当業者に知られている。本発明の意味での「充填剤」は、例えば本発明のコーティング材組成物中など塗装媒体中に実質的に不溶性であり、特に体積を増加させるために使用される物質を意味する。本発明の意味で、「充填剤」は、好ましくは、「顔料」とはその屈折率が異なり、充填剤の場合、屈折率は1.7未満である一方、顔料の場合は1.7以上である。適当な充填剤の例としては、カオリン、ドロマイト、カルサイト、チョーク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、シリカ、特にフュームドシリカ、水酸化アルミニウム又は水酸化マグネシウムなどの水酸化物、又は織物繊維、セルロース繊維及び/又はポリエチレン繊維などの有機充填剤が挙げられ;さらなる詳細については、Roempp Lexikon,Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,1998年,250頁以下、「Fillers」を参照されたい。
【0074】
コーティング材組成物中の充填剤の画分は、いずれの場合も水性コーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは1.0から40.0質量%の範囲、より好ましくは2.0から35.0質量%の範囲、非常に好ましくは5.0から30.0質量%の範囲にある。
【0075】
さらなる任意成分としての増粘剤
本発明の水性コーティング材組成物は、任意に、少なくとも1つの増粘剤(thickener)(濃厚剤(thickening agent)とも呼ばれる)をさらに含んでいてもよい。既に上述したように、この増粘剤は、したがって、成分(A)及び(B)とは異なる。
【0076】
このような増粘剤の例は、例としてフィロケイ酸塩などの金属ケイ酸塩である無機増粘剤、及び、例としてポリ(メタ)アクリル酸増粘剤及び/又は(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレート共重合体増粘剤、ポリウレタン増粘剤、さらにはポリマーワックスである有機増粘剤である。金属ケイ酸塩は、好ましくは、スメクタイトの群から選択される。特に好ましく選択されるのは、モンモリロナイト及びヘクトライトの群から選択されるスメクタイトである。より具体的に選択されるのは、ケイ酸マグネシウムアルミニウム及びフィロケイ酸マグネシウムナトリウム及びフィロケイ酸リチウムフッ素マグネシウムナトリウムからなる群からのモンモリロナイト及びヘクトライトである。これらの無機フィロケイ酸塩は、例えば、Laponite(登録商標)というブランド名で販売されている。しかし、好ましくは、本発明のコーティング材組成物は、このような無機フィロケイ酸塩を含まず、より具体的には、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、フィロケイ酸マグネシウムナトリウム、及び/又はフィロケイ酸リチウムフッ素マグネシウムナトリウムを含まない。ポリ(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤に基づく増粘剤は、任意に適当な塩基で架橋及び/又は中和される。そのような増粘剤の例としては、「アルカリ膨潤性エマルジョン」(ASE)、及びその疎水的に改質された変異体、「疎水的に改質されたアルカリ膨潤性エマルジョン」(HASE)が挙げられる。これらの増粘剤は、好ましくはアニオン性である。Rheovis(登録商標)AS1130などの対応する製品が市販されている。ポリウレタンに基づく増粘剤(例えば、ポリウレタン会合性増粘剤)は、任意で、適切な塩基で架橋及び/又は中和されている。Rheovis(登録商標)PU1250などの対応する製品が市販されている。適切なポリマーワックスの例としては、エチレン-酢酸ビニルポリマーに基づく任意に変性されたポリマーワックスが挙げられる。対応する製品は、例えばAquatix(登録商標)8421の名称で市販されている。
【0077】
本発明のコーティング材組成物において、少なくとも1つの増粘剤は、いずれの場合もコーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは、最大10質量%、より好ましくは最大7.5質量%、非常に好ましくは最大5質量%、より具体的には最大3質量%、最も好ましくは最大2質量%の量で存在する。ここでの増粘剤の最小量は、コーティング材組成物の全質量に基づいて、いずれの場合も好ましくは0.1質量%である。
【0078】
さらなる任意成分としての従来の添加剤
所望の塗装に応じて、本発明のコーティング材組成物は、さらなる任意成分として、1つ以上の典型的に採用される添加剤を含んでもよい。例えば、上記で既に観察されたように、コーティング材組成物は、少なくとも1つの有機溶媒の所定の画分を含んでもよい。さらに、コーティング材組成物は、反応性希釈剤、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ添加剤、重合阻害剤、ラジカル重合開始剤、接着促進剤、流量調整剤、膜形成補助剤、垂れ制御剤(SCA)、難燃剤、腐食防止剤、乾燥剤、殺生物剤、及びつや消し剤からなる群から選択される少なくとも1つの添加剤を含んでいてもよい。これらは公知の慣行的な割合で使用することができる。その量は、本発明のコーティング材組成物の全質量に基づいて、好ましくは0.01から20.0質量%、より好ましくは0.05から15.0質量%、非常に好ましくは0.1から10.0質量%、特に好ましくは0.1から7.5質量%、より具体的には0.1から5.0質量%、最も好ましくは0.1から2.5質量%である。
【0079】
製造方法
コーティング材組成物は、コーティング材組成物の製造のために慣行的かつ公知の混合方法及び混合アセンブリを使用して、及び/又は慣行的な溶解器及び/又は撹拌器を使用して製造されてもよい。
【0080】
マルチコート塗装システム及びマルチコート塗装システムの製造方法
本発明のさらなる主題は、マルチコート塗装システムを製造する方法であって、該方法では、
(1a)水性ベースコート材料を任意にコーティングされた基材に塗装し、
(2a)段階(1a)で塗装されたコーティング材からポリマー膜を形成し、
(1b)任意に、このように形成されたポリマー膜に、さらに水性ベースコート材料を塗装し、
(2b)任意に、段階(1b)で塗装されたコーティング材からポリマー膜を形成し、
(3)結果として得られたベースコート膜又はベースコートの複数の膜にクリアコート材料を塗装し、及び続いて、
(4)ベースコート膜又はベースコートの複数の膜を、クリアコート膜とともに硬化させ、
ここで、本発明のコーティング材組成物は、段階(1a)においてベースコート材料として使用され、又は、方法がさらに段階(1b)及び(2b)を含む場合には、段階(1a)及び/又は(1b)においてベースコート材料として使用され、好ましくは段階(1b)のみにおいてベースコート材料として使用される。
【0081】
本発明の方法は、好ましくは、段階(1b)及び(2b)を含み、段階(1a)で使用 される基材は、段階(1a)でコーティングする表面が、少なくとも好ましくは硬化した 電着塗装膜を有する金属基材である。
【0082】
本発明のコーティング材組成物に関連する上記の(好ましい)観察のすべては、本発明の方法においても有効である。該方法は、好ましくは、効果又は色、又は色及び効果のマルチコート塗装システムを製造するために採用される。
【0083】
段階(1a)のベースコート材料の塗装は、少なくともサーフェーサー又はプライマーサーフェーサーで前処理された金属又はプラスチック基材に行われてよい。その場合、本発明の方法は、好ましくは、段階(1b)及び(2b)を含まない。
【0084】
代替的に、段階(1a)のベースコート材料は、サーフェーサー又はプライマーサーフェーサーを使用せずに基材に塗装されてもよく、その場合、特に、そのように使用される金属基材は、好ましくは電着塗装膜を有する。
【0085】
金属基材がコーティングされる場合、サーフェーサー又はプライマーサーフェーサーの塗装前、又は、段階(1a)に従ったベースコート材料の塗装前に、電着塗装システムでさらにコーティングされることが好ましい。プラスチック基材がコーティングされる場合、サーフェーサー又はプライマーサーフェーサーの塗装前、又は、段階(1a)に従ったベースコート材料の塗装前に、さらに前処理されることが好ましい。このような前処理のために最も一般的に採用される方法は、フレーミング、プラズマ処理、及びコロナ放電である。フレーミングが好ましくは採用される。
【0086】
段階(1a)で使用される基材は、好ましくは、(予)コーティングとしての電着塗装(EC)膜を有し、より好ましくは、電着塗装材料の陰極析出によって塗装された電着塗装膜を有し、段階(1a)で採用されるベースコート材料は、ECコーティングされた、好ましくは金属基材に直接塗装され、ここで基材に塗装された電着塗装(EC)膜は、段階(1a)が実施されるときには、既に硬化されているのが好ましい。段階(4)では、好ましくは、段階(1a)及び(2a)に従って好ましくは陰極硬化電着塗装膜でコーティングされた好ましくは金属基材に塗装されるベースコート膜、段階(1b)及び(2b)に従って任意にそれに塗装された更なるベースコート膜、及び、段階(3)に従ってそれに順に塗装されたクリアコート膜は、一緒に硬化される。この場合、特に、本発明の方法は、好ましくは、段階(1b)及び(2b)を含む、すなわち、少なくとも2つのベースコート膜が塗装され、そこでは本発明のコーティング材組成物が段階(1a)及び/又は(1b)で、より好ましくは段階(1b)でのみベースコート材料として使用される。
【0087】
ベースコート材料としての本発明の水性コーティング材組成物の塗装は、自動車産業の関連で慣行的な膜厚、例えば5から100マイクロメートル、好ましくは5から60マイクロメートル、特に好ましくは5から30マイクロメートルの範囲で行われてもよい。これは、例えば圧縮エアスプレー、エアレススプレー、高速回転、静電スプレー塗装(ESTA)などのスプレー塗装技術を用いて、任意に、例えば熱風スプレーなどのホットスプレー塗装と組み合わせて行われる。
【0088】
本発明の水性コーティング材組成物をベースコート材料(複数可)として塗装した後、それ又はそれらを公知の技術によって乾燥させることができる。例えば、好ましい(1成分)ベースコート材料は、室温(20~23℃)で1から60分間フラッシュオフし、その後、好ましくは25℃又は30℃から90℃までのやや高めの温度で乾燥させることができる。本発明の関連におけるフラッシュオフ及び乾燥とは、有機溶剤及び/又は水の蒸発を指し、その結果として塗料がより乾燥しているようになるが、依然として硬化されていない、又はまだ完全に架橋されたコーティング膜が形成されていないことを意味する。
【0089】
本発明の方法が段階(1b)及び(2b)を含む場合には、室温(20~23℃)又はそれ以上の温度で、90℃までの温度で、1から60分間、フラッシュオフ及び/又は乾燥が、好ましくは、段階(2a)におけるポリマー膜の形成後、段階(1b)の実施前に行われ、又は、段階(2a)におけるポリマー膜の形成後、段階(1b)の実施前でフラッシングオフ及び乾燥は行われない。
【0090】
次いで、市販の慣行的なクリアコート材料が、同様に慣行的な技術で段階(3)に従って塗装され、また、コート厚さは、例えば5から100マイクロメートルのような通常の範囲にある。
【0091】
クリアコート材料の塗装に続いて、それは例えば室温(20から23℃)で1から60分間フラッシュオフされ、任意で乾燥させることができる。クリアコート材料は、その後、塗装されたベースコート材料とともに硬化される。このような硬化の過程で、例えば、架橋反応が起こり、基材上に、本発明の効果、色及び/又は色と効果の多層膜仕上げを製造する。硬化は、好ましくは60から200℃の温度で熱的に達成される。プラスチック基材のコーティングは、金属基材のコーティングと同様である。しかし、ここでは、硬化は一般的に30から90℃の非常に低い温度で行われる。したがって、2成分クリアコート材料を採用することが好ましい。
【0092】
本発明の方法により、金属及び非金属基材、特にプラスチック基材、好ましくは自動車のボディ又はその部品をコーティングすることが可能である。本発明の方法は、さらに、OEM仕上げにおける二重コーティングに使用することができる。これは、本発明の方法によって仕上げられた基材が、2回目も同様に本発明の方法によって仕上げられることを意味する。
【0093】
段階(1a)からの前述の基材はまた、欠陥を有するマルチコート塗装システムであってもよい。この欠陥を有する基材/マルチコート塗装システムは、したがって、修理され、又は完全に再仕上げされるべき元の仕上げとなる。本発明の方法は、したがって、マルチコート塗装システムの欠陥を修復するのに好適である。欠陥又は膜欠陥は、一般に、コーティング上及びコーティング内の欠陥であり、通常、その形状又は外観に応じて名付けられている。当業者は、このような膜欠陥の可能なタイプを数多く知っている。これらは、例えば、Roempp-Lexikon Lacke und Druckfarben,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,New York,1998年235頁「膜欠陥」に記載されている。
【0094】
本発明のさらなる主題は、マルチコート塗装システムを製造する本発明の方法に従って得られるマルチコート塗装システムである。
【0095】
本発明のコーティング材組成物及び本発明の方法に関して上述した(好ましい)観察事項のすべては、本発明のマルチコート塗装システムに関しても有効である。
【0096】
決定方法
1.不揮発性画分の決定
不揮発性画分(固形分、すなわち固形分含有量)は、DIN EN ISO 3251(日付:2008年6月)に従って決定される。この場合、試料1gを予め乾燥させたアルミ皿に計量して分け、試料を125℃の乾燥オーブンで60分間乾燥させ、デシケーターで冷却した後、次いで再度計量する。導入した試料の総量に対する残留分が不揮発性画分に相当する。
【0097】
2.コーティング材組成物中に存在する粒子(B)の平均粒子径の決定
コーティング材組成物中に存在し、本発明に従って使用される水酸化酸化アルミニウム粒子の平均粒子径は、DIN ISO 13321(日付:2004年10月)に従って動的光散乱(光子相関分光法)(PCS)によって決定される。測定は、Malvern Instruments社の「Zetasizer Nano S-173」を用いて、25±1℃で行われる。分析用粒子のそれぞれの試料は、粒子を含まない脱イオン水を分散媒体(ミリポア水)として使用して、0.01%から0.1%の範囲の測定濃度に希釈した後、600rpmのマグネチックスターラーを使用して少なくとも30分間均質化する。分散前に任意でNaOH水溶液を添加してpHを上げることができる。測定は7回行われる。ここでの平均粒子径は、測定した平均粒子直径の算術平均値(zアベレージ平均値)と理解される。
【0098】
3.膜厚の決定
膜厚は、DIN EN ISO 2808(日付:2007年5月)、方法12Aに従ってElektroPhysik社製のMiniTest(登録商標)3100-4100装置を使用して決定される。
【0099】
4.外観の決定
外観の評価は、分析中のコーティングされた基材の対応する評価によって行われ、評価はByk/Gardner社製のWave scan装置を使用して行われる。マルチコート塗装システムで塗装された分析対象の基材は、次のようにして製造される:(DIN EN ISO 28199-1,セクション8.1,バージョンAに従って、)標準陰極電着塗装材(BASF Coatings GmbH社製のCathoGuard(登録商標)800)でコーティングされた寸法57cm×20cmの孔あき鋼板を、DIN EN ISO 28199-1,セクション8.2(バージョンA)と同様に調製する。これに続いて、本発明のベースコート材料などの分析中の試料を、目標膜厚(乾燥材料の膜厚)が25μmとなるように静電塗装する。フラッシュオフ時間を前に設けずに、得られた膜を、70℃の強制空気オーブン中で、10分間乾燥し、その後、商標ブランドFF99-0374(BASF Coatings GmbHから入手可能)の市販の2成分クリアコート材料で再コーティングする。得られたクリアコートの膜厚は40μmであった。クリアコートを140℃で20分かけて硬化させた。外観を評価するために、レーザー光線を60°の角度で、測定距離10cmで分析中の表面上に向け、短波領域(0.3から1.2mm)及び長波領域(1.2から12mm)の反射光における変動を測定器(長波=LW、短波=SW;数値が小さいほど外観が良い)で記録した。
【0100】
さらに、マルチコートシステムの表面で反射された画像の鮮明さを指標として、装置によって「画像鮮明度」(DOI)パラメータ(値が高いほど、外観が良好である)を決定する。
【0101】
5.ポップ、ラン、ピンホールの発生の評価
ランの発生の評価-変形a)
この評価は、分析中のコーティングされた基材の対応する評価によって行われる。この目的のために、まず、マルチコート塗装システムは次のようにして製造される:(DIN EN ISO 28199-1,日付:2010年1月,セクション8.1,バージョンAに従って、)標準陰極電着材(BASF Coatings GmbH社製のCathoGuard(登録商標)800)でコーティングされた寸法57cm×20cmの斜めに打ち抜かれた孔あき鋼板をDIN EN ISO 28199-1,セクション8.2(バージョンA)と同様に調製する。その後、DIN EN ISO 28199-1,セクション8.3に基づく手順で、本発明のベースコート材料のような分析中の試料を、静電アシストベル塗装(1ヒット ESTA)により、5μmから35μmの範囲の目標膜厚(乾燥材料の膜厚)を有するウェッジとして、単回で静電塗装する。フラッシュオフ時間を前に設けずに、得られた膜を、強制空気オーブン中で、室温で4分間、その後70℃で10分間乾燥させ、その後、室温で10分間のフラッシュオフ時間を設けた後、140℃で20分間かけて硬化させる。変形a)は、少なくとも1つの黒色顔料を含むベースコート材料に採用される。
【0102】
ランの発生の評価-変形b)
変形b)による評価は変形a)で説明したように行われるが、ベースコート材料を塗装する前に、目標膜厚14μmのウェット・オン・ウェットプライマー(Color Pro 1,FA107170,BASF Coatings GmbHから入手可能)を静電塗装するという相違があり、得られたパネルはベースコート材料を塗装する前に室温で4分間フラッシュオフされる。変形b)は、少なくとも1つの赤色顔料を含むベースコート材料に使用される。
【0103】
ポップとピンホールの発生の評価-変形a)
この評価は、分析中のコーティングされた基材の対応する評価によって行われる。この目的のために、まず、マルチコート塗装システムが次のようにして製造される:(DIN EN ISO 28199-1,日付:2010年1月,セクション8.1,バージョンAに従って、)標準電着塗装材(BASF Coatings GmbH社製のCathoGuard(登録商標)800)でコーティングされた寸法57cm×20cmの斜めに打ち抜かれた孔あき鋼板をDIN EN ISO 28199-1,セクション8.2(バージョンA)と同様に調製する。その後、DIN EN ISO 28199-1,セクション8.3に基づく手順で、本発明のベースコート材料などの分析中の試料を、静電アシストベル塗装(1ヒット ESTA)により、5μmから35μmの範囲の目標膜厚(乾燥材料の膜厚)を有するウェッジとして、単回で静電塗装する。フラッシュオフ時間を前に設けずに、得られた膜を、強制空気オーブン中で、室温で4分間、その後70℃で10分間乾燥させ、その後、商標ブランドFF99-0374(BASF Coatings GmbHから入手可能)の市販の2成分クリアコート材料で再コーティングする。得られたベースコートの膜厚は5μmから35μmの間であり;得られたクリアコートの平均膜厚は40μmである。ここでクリアコートは、140℃で20分かけて硬化させた。変形a)は、少なくとも1つの黒色顔料を含むベースコート材料に採用される。
【0104】
ポップとピンホールの発生の評価-変形b)
変形b)による評価は変形a)で説明したように行われるが、ベースコート材料を塗装する前に、目標膜厚14μmのウェット・オン・ウェットプライマー(Color Pro 1,FA107170,BASF Coatings GmbHから入手可能)を静電塗装するという相違があり、得られたパネルはベースコート材料を塗装する前に室温で4分間フラッシュオフされる。変形b)は、少なくとも1つの赤色顔料を含むベースコート材料に使用される。
【0105】
ポッピング限界、すなわち、ポップがそれ以上で発生する膜厚は、DIN EN ISO 28199-3,日付:2010年1月、セクション5に従って決定される。この決定は水平方向と垂直方向の両方で行われる。ピンホール限界、すなわちピンホールの発生がそれ以上で観察される膜厚を視覚的に決定する。この決定は水平方向と垂直方向の両方で行われる。それ以上でランが発生する膜厚の決定は、DIN EN ISO 28199-3,日付:2010年1月、セクション4に従って決定される。この決定は垂直方向に行われる。
【0106】
6.導電率の決定
導電率は、DIN EN ISO 15091(2013年4月)に従って、「SevenCompact Mettler Toledo」装置を使用して、25±1℃、セル定数0.549233/cmで測定される。
【0107】
7.ヒドロキシル価(OH価)の決定
OH価はDIN 53240-2(日付:2007年11月)に従って決定される。OH基は、過剰の無水酢酸とアセチル化することで反応する。過剰の無水酢酸は、その後、水の添加により酢酸に分解され、全酢酸はエタノール性KOHで逆滴定される。OH価は、試料1gのアセチル化で結合した酢酸の量に相当するKOHの量(mg)を示す。
【実施例
【0108】
実施例及び比較例
以下の実施例及び比較例は、本発明を説明するのに役立つが、制限的に解釈されるべきではない。
【0109】
別段の明記がない限り、いずれの場合も、部(parts)で表す量は質量部であり、パーセントで表す量は、質量によるパーセンテージである。
【0110】
I.調製された水性分散液中の使用されている表面改質ベーマイト生成物の平均粒子径の決定
平均粒子径は、市販されている様々な表面改質ベーマイト製品、すなわち、Sasol社製の「Disperal(登録商標)HP14/7」、「Disperal(登録商標)HP10/7」、及び「Disperal(登録商標)HP18/7」製品について決定した。これらの製品はすべて、表面がクエン酸で改質されたベーマイト粒子である。平均粒子径は、いずれの場合も、0.01%の設定された測定濃度で、600rpmでマグネチックスターラーを用いて30分間均質化し、NaOH水溶液を使用せずに、上記の方法で決定した。得られた分散液のpHは8.1である。平均粒子径(d50、zアベレージ平均値)は、調製されたそれぞれの水性分散液において得られた:
Disperal(登録商標)HP10/7:478nm±6nm
Disperal(登録商標)HP14/7:357nm±4nm
Disperal(登録商標)HP18/7:357nm±4nm
【0111】
II.調製された水性分散液中の使用されている表面改質ベーマイト生成物の導電率の決定
Sasol社から市販されている様々な表面改質ベーマイト製品「Disperal(登録商標)HP14/7」、「Disperal(登録商標)HP10/7」、及び「Disperal(登録商標)HP18/7」のそれぞれの水性分散液を調製し(いずれの場合も、20質量%水溶液)、それらの導電率を確認した。決定は上記の方法に従って行われた。検出された導電率は以下の通りであった:
Disperal(登録商標)HP10/7(20質量%水溶液):963μS/cm
Disperal(登録商標)HP14/7(20質量%水溶液):1370μS/cm
Disperal(登録商標)HP18/7(20質量%水溶液):1570μS/cm
【0112】
III.各種アミンを用いた表面改質ベーマイト生成物の安定性の検討
Sasol社から市販されている様々な表面改質ベーマイト製品「Disperal(登録商標)HP14/7」、「Disperal(登録商標)HP10/7」、及び「Disperal(登録商標)HP18/7」のそれぞれの水性分散液を調製した(いずれの場合も、15質量%水溶液)。これらの分散液のそれぞれにジメチルエタノールアミン(DMEA)の水溶液を添加し、アミンに対する分散液の安定性を31日間にわたって検討した。使用される安定性の指標は、分散液のpHの変化である。元のpHに基づいて最大8%までの変化は、安定であると考えられる。結果を表IIIにまとめる。
【0113】
【表1】
【0114】
観察されたpHの変化は、6.1%(Disperal(登録商標)HP10/7)、7.4%(Disperal(登録商標)HP14/7)、及び7.2%(Disperal(登録商標)HP18/7)であった。したがって、使用されたすべての表面改質ベーマイト製品は、アミンに対して十分な安定性を示す。
【0115】
IV.水性ベースコート材料の調製
IV.1 実施例B1、B2、及びB3並びに比較例C1
下記の表IVaに記載の成分を、記載されている順序で撹拌しながら組み合わせ、得られた混合物を30分間撹拌する。回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した剪断荷重1291s-1の下で脱イオン水を107~111mPa・s(B1:110mPa・s;B2:107mPa・s;B3:111mPa・s;C1:108mPa・s)の値まで添加することにより、いずれの場合も粘度を調整する。さらに、以下のpH値を確認した:pH8.59(B1);pH8.50(B2);8.45(B3);pH8.53(C1)。固形分含有量(上記の方法に従って決定される)は、28.40質量%(B1)、28.20質量%(B2)、28.40質量%(B3)、27.50質量%(C1)である。
【0116】
3質量%のフィロケイ酸Na Mg(Laponite(登録商標)RD)を含有する水溶液は、以下の成分をこの順序で一緒に混合することによって得ることができる:3質量部のLaponite(登録商標)RD、0.009質量部の2-メチルイソチアゾリノン、0.005質量部の1,2-ベンズ-イソチアゾール-3(2H)-オン、3質量部のプロピレングリコール、及び93.986質量部の脱イオン水。
【0117】
「顔料ペーストP1」として採用したものは、以下の成分をこの順序で一緒に混合することによって得ることができる顔料ペーストであった:9質量部のカーボンブラック(Cabot社製「Emperor 200」)、2.5質量部のポリプロピレングリコール、7質量部のブチルジグリコール、21.5質量部の脱イオン水、4.5質量部のDE A 4009858の16コラム37~59行目の実施例Dに従って調製されたポリエステル、53質量部のポリウレタン、及び2質量部のジメチルエタノールアミン水溶液(水中に10質量%)。
【0118】
使用する「AMP-PTSA溶液」は、以下の成分をこの順序で一緒に混合することによって得ることができる溶液である:30.3質量部のイソプロパノール、13.6質量部の1-プロパノール、10質量部の脱イオン水、30.3質量部の4-メチルベンゼンスルホン酸、及び15.8質量部の2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール。
【0119】
【表2】
【0120】
数値はいずれも質量部に対応している。
【0121】
IV.2 実施例B4と比較例C2及びC3
表IVbに記載されている成分を記載された順序で一緒に撹拌し、得られた混合物を30分間撹拌する。回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した剪断荷重1291s-1の下で脱イオン水を100~110mPa・sのレベルまで添加することにより、粘度を調整する。こうして得られた水性ベースコート材料のpH値は、pH8.48(B4)及び8.70(C2)である。固形分含有量(上記の方法に従って決定)は、30.0質量%(B4)及び29.3質量%(C2)である。
【0122】
充填剤ペーストF1として採用したのは、十分に擦り潰した後に以下の成分をこの順序で均質化することによって得られる硫酸バリウム含有ペーストであった:54.00質量部の硫酸バリウム、Sachtleben Chemieから入手可能なBlanc Fixe Micro、Muenzing Chemieから入手可能な0.3質量部のAgitan282消泡剤、4.6質量部の2-ブトキシエタノール、5.7質量部の脱イオン水、3質量部のDE A 4009858の16コラム37~59行目の実施例Dに従って調製したポリエステル、及び32.4質量部のポリウレタン。
【0123】
充填剤ペーストF2として採用されたのは、十分に擦り潰した後に以下の成分をこの順序で均質化することによって得られるタルク含有ペーストであった:28質量部のMondo Minerals社から入手可能なブランドMicro Talc IT Extraのタルク、0.4質量部のMuenzing Chemie社から入手可能なAgitan 282消泡剤、1.4質量部のBYK-Chemie,Wesel社から入手可能なDisperbyk(登録商標)184、0.6質量部のBASF SEから入手可能なRheovis AS130 アクリレート増粘剤、1質量部の2-ブトキシエタノール、3質量部のBASF SEから入手可能なPluriol P 900、18.4質量部の脱イオン水、47質量部のアクリレートポリマー(特許出願WO91/15528A1からの結合剤分散液A)、及び0.2質量部のジメチルエタノールアミン水溶液(水中10質量%)。
【0124】
【表3】
【0125】
数値はいずれも質量部に対応している。
【0126】
IV.3 実施例B5と比較例C4及びC5
表IVcに記載された成分を記載された順序で一緒に撹拌し、得られた混合物を30分間撹拌する。回転式粘度計(Anton Paar社製のC-LTD80/QC加熱システムを備えたRheolab QC装置)を使用して23℃で測定した剪断荷重1291s-1の下で脱イオン水を110~120mPa・sのレベルまで添加することにより、いずれの場合も粘度を調整する。こうして得られた水性ベースコート材料のpH値は、pH8.17(B5)及び8.80(C4)である。固形分含有量(上記の方法に従って決定)は、30.4質量%(B5)及び29.0質量%(C4)である。
【0127】
【表4】
【0128】
数値はいずれも質量部に対応している。
【0129】
WBMペースト4として採用したのは、十分に擦り潰した後に以下の成分をこの順序で均質化することによって得られるDPP赤色ペーストであった:34.50質量部のBASF SE Ludwigshafenから入手可能なIrgazine Red L 3663 HD、8.5質量部のBYK-Chemie,Wesel社から入手可能なDisperbyk184、2質量部の1プロポキシ-2-プロパノール、2質量部のBASF SEから入手可能なPluriol P 900、18質量部の脱イオン水、及び35質量部のアクリレートポリマー(特許出願WO91/15528A1からの結合剤分散液A)。
【0130】
WBMペースト5として採用したのは、以下の成分をこの順序で十分に擦り潰した後に均質化することによって得られる赤色ペーストであった:30質量部の中国のCinicから入手可能なCinilex Red SR3C、6.0質量部のBYK-Chemie、Wesel社から入手可能なDisperbyk 184、25.5質量部の脱イオン水、及び38.5質量部のアクリレートポリマー(特許出願WO91/15528A1からの結合剤分散液A)。
【0131】
WBMペースト6として採用したのは、以下の成分をこの順序で十分に擦り潰した後に均質化することによって得られる二酸化チタンベースの白色ペーストであった:50質量部のChemoursから入手可能なTitan Rutile R 960、3質量部のブチルグリコール、1.5質量部のBASF SEから入手可能なPluriol P900、11質量部のポリエステル、16質量部のWO92/15405の15頁23~28行目に従って調製されたポリウレタン分散液、及び1.5質量部のジメチルエタノールアミン水溶液(水溶10質量%)。
【0132】
採用された架橋剤は、以下のように調製されたブロック化イソシアネートであった:230質量部のCovestro社から入手可能な親水性イソシアネートBayhydur 304、及び40.76質量部のブチルグリコールを、窒素でブランケットしたステンレス鋼製の反応器に充填した。その後、反応器を閉じて、96.13質量部の3,5-ジメチルピラゾール(DMP)を、温度が60℃を超えないよう速度で部分で添加した。40.76質量部のブチルグリコールとともにDMPの全量を添加した後、バッチを80℃に加熱し、温度を80℃で2時間保持し、その間に撹拌し、さらに窒素ブランケットを行った。パーセントNCOの含有量の決定が0%になったとき、反応混合物を排出した。得られた架橋剤は、固形分含有量79.8%(125℃、1時間)であった。
【0133】
V.水性ベースコート材料及びそれによって得られたコーティングの特性の検討及び比較
V.1 B1、B2及びB3(すべて本発明)とC1との外観及びピンホール、ポップ及びランの発生に関する比較
各検討は、上述した決定方法に従って実施した。その結果を表Vaにまとめた。
【0134】
【表5】
【0135】
これらの検討は、B1~B3がC1よりも非常に良好なLW値を得られたことを示す。
【0136】
V.2 B4(本発明)とC2の外観に関する比較
B4との比較のためにC3についても検討を試みたが、配合のランが不安定であり、その結果、得られたパネルを評価することができなかったため、C3は上述の決定方法に従って適用することができなかった。
【0137】
上述の決定方法に従って、それぞれ検討を行った。結果を表Vb及びVcにまとめた。
【0138】
【表6】
【0139】
【表7】
【0140】
これらの検討は、特にB4がC2よりも非常に良好なLW値が得られたことを示す。
【0141】
V.3 ピンホール及び流れ限界に関するB5(本発明)とC4の比較
B5との比較のためにC5についても検討を試みたが、配合のランが不安定であり、その結果、得られたパネルを評価することができなかったため、C5は上述の決定方法に従って適用することができなかった。上述の決定方法に従って、それぞれ検討を行った。結果を表Vdにまとめた。
【0142】
【表8】
【0143】
これらの検討は、特にB5がC4に比べて非常に良好なピンホール堅牢性が観察されたことを示す。
【0144】
VI.互換性実験(安定性実験)
以下の成分から混合物を調製する:15質量部のDisperal(登録商標)HP14/7、85質量部の脱イオン水、及び30質量%ジアザビシクロノネン及び70質量%n-ブタノールを含む2.5質量部のアルコール溶液。混合物を30分間撹拌して、混合物M1を得た。
【0145】
次いで、混合物M1を下記の材料P1からP6とそれぞれ1:1の質量比で組み合わせ、得られた混合物を均質化し、23℃で3日間保存した後、それらの安定性を視覚的に調べた(評価1:安定、ビットなし、評価2:数ビットが形成された、評価3:ビットが形成された)。
P1:DE19914055A1による式H(固形分含有量:27質量%)
P2:WO2018/011311A1による分散液PD1(固形分含有量:40.2質量%)
P3:Daotan(登録商標)TW6464/36WA(Allnex社から市販されているアクリル化ポリウレタン;固形分含有量:36質量%)
P4:WO2015/007427A1の実施例D-C1(固形分含有量:32.8質量%)
P5:DE4437535A1の7頁55行目から8頁23行目までによるポリウレタン修飾ポリアクリレートの分散液(固形分含有量:36質量%)
P6:DE A4009858A1の16コラム37~59行目の実施例Dに従って調製したポリエステル(固形分含有量:60質量%)
【0146】
すべて場合において、「評価1」を与えることが可能だった;言い換えれば、安定性の問題及び/又は互換性の問題は観察することができなかった。
【0147】
VII.チキソトロピー性挙動の検討
以下の成分から混合物を調製する:15質量部のDisperal(登録商標)HP10/7又はDisperal(登録商標)HP14/7又はDisperal(登録商標)HP18/7及び85質量部の脱イオン水。ジメチルエタノールアミン(水中10質量%)を用いて、pHを8.0から8.3に設定する。混合物を30分間撹拌して、混合物M2(Disperal(登録商標)HP10/7を使用)、M3(Disperal(登録商標)HP14/7を使用)及びM4(Disperal(登録商標)HP18/7を使用)を得た。
【0148】
次いで、これらの混合物を、互いに異なる質量比で異なる材料K1からK5と混合し均質化した。当該材料は以下の通りである:
K1:Daotan(登録商標)TW6464/36WA(Allnex社から市販されているアクリル化ポリウレタン;固形分含有量:36質量%)
K2:DE19914055A1による式H(固形分:27質量%)
K3:WO2015/007427A1の実施例D-C1(固形分含有量:32.8質量%)
K4:WO2018/011311A1による分散液PD1(固形分含有量:40.2質量%)
K5:WO2018/0113111A1の実施例の表AのwDのBM2(固形分含有量:25.5質量%)
【0149】
表VIIaは結果をまとめたものである。
【0150】
【表9】
【0151】
混合物M2からM4のうちの1つが材料K1からK5のうちの1つと特定の質量比で混合された全ての場合において、非互換性の例は全く観察されず、全ての混合物は構造的に粘性のある挙動を示した。