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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】電波伝搬特性測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/10 20060101AFI20220920BHJP
【FI】
G01R29/10 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021190939
(22)【出願日】2021-11-25
【審査請求日】2022-01-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】細野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】冨水 律人
(72)【発明者】
【氏名】村上 晟太郎
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-63101(JP,A)
【文献】特開2014-228337(JP,A)
【文献】特表2014-522497(JP,A)
【文献】特開平10-26645(JP,A)
【文献】特開平6-237090(JP,A)
【文献】特開平4-140671(JP,A)
【文献】特開平1-158797(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0172747(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/08-29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信する第1アンテナと、前記第1アンテナから送信される電波を受信する第2アンテナとを収容する収容部と、
前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間に配置され、前記第2アンテナから前記第1アンテナに向かう第1方向に進むにつれて先細りになる立体形状を有する複数の電波吸収体を備える電波減衰部と、
前記第1アンテナと前記電波減衰部との相対的な位置、及び、前記第2アンテナと前記電波減衰部との相対的な位置の少なくとも一方を変更可能な駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、前記第1アンテナを保持する保持部と前記第2アンテナを保持する保持部とを備えており、前記保持部及び前記電波吸収体の両方又はいずれか一方を、前記第1方向に対して直交する方向に移動させることで、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナと前記電波減衰部との相対的な位置を変更する、
電波伝搬特性測定装置。
【請求項2】
前記複数の電波吸収体は、四角錘又は四角錘台形の形状を有し、
前記複数の電波吸収体は、高さ方向が前記第1方向に平行になり、底面が前記第1方向に直交する同一の面に含まれるように配置されている、
請求項1に記載の電波伝搬特性測定装置。
【請求項3】
前記電波減衰部は、一面が前記複数の電波吸収体の底面に当接する平板状の電波吸収材を備える、請求項1又は請求項2に記載の電波伝搬特性測定装置。
【請求項4】
前記第1方向にx軸をとり、前記第1方向に直交する方向であって、前記電波吸収体の底面における直交する2辺が延びる方向にy軸及びz軸をそれぞれとり、
前記複数の電波吸収体の底面における直交する辺のうちの前記y軸の方向に延びる辺の長さをlyとし、前記z軸の方向に延びる辺の長さをlzとすると、
前記第1アンテナ及び前記第2アンテナの中心位置のyz平面における原点位置は、前記第1方向の反対方向から見て、前記中心位置に最も近接する前記電波吸収体の底面における直交する辺のうちの前記z軸の方向に延びる前記y軸の正方向側の辺と、前記y軸の方向に延びる前記z軸の負方向側の辺との交点から、前記y軸の負方向に以下の式で示されるΔyだけ移動させ、前記z軸の正方向に以下の式で示されるΔzだけ移動させた位置である、請求項2又は請求項3に記載の電波伝搬特性測定装置。
Δy/ly=0.21
Δz/lz=0.39
【請求項5】
前記x軸の方向における前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間の距離を、60GHz帯の全チャンネル周波数の中心値の波長で除した値をxsとした場合に、前記xsは以下の式を満たし、
前記第1アンテナ及び前記第2アンテナが前記原点位置から前記y軸の正方向に移動する距離をydとし、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナが前記原点位置から前記z軸の正方向に移動する距離をzdとした場合に、
前記駆動部は、以下の式を満たす範囲内で、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナを移動させる、
請求項4に記載の電波伝搬特性測定装置。
24.5≦xs≦41.6
0≦(yd/ly)≦0.45
0≦(zd/lz)≦0.16
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波伝搬特性測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波を送信する第1アンテナと、電波を受信する第2アンテナとの間に電波減衰部を設けることで伝搬距離に応じた電磁波の減衰量を電波減衰部で模擬して電波の伝搬特性を測定する電波伝搬特性測定装置がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-72518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電波伝搬特性測定装置で用いられている電波減衰部は、誘電体シートを積層した積層体である。電波減衰部による電波の減衰量を変更するには、利用者が手動で誘電体シートの枚数を増やしたり減らしたりするなどして積層体の厚さを調整する必要があり、電波吸収体の減衰量を容易に変更できない場合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、従来よりも容易に電波の減衰量を変更することができる電波伝搬特性測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、電波を送信する第1アンテナと、前記第1アンテナから送信される電波を受信する第2アンテナとを収容する収容部と、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間に配置され、前記第2アンテナから前記第1アンテナに向かう第1方向に進むにつれて先細りになる立体形状を有する複数の電波吸収体を備える電波減衰部と、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナと前記電波減衰部との相対的な位置を変更可能な駆動部と、を備える電波伝搬特性測定装置である。
【0007】
上記構成により、大気減衰を模擬する電波吸収体を用いて電波の伝搬特性を測定するにあたって、従来よりも容易に電波の減衰量を変更することができる。
【0008】
また、本発明の一態様による電波伝搬特性測定装置は、前記駆動部が、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナを保持する保持部を備えており、前記保持部及び前記電波吸収体の両方又はいずれか一方を、前記第1方向に対して直交する方向に移動させることで、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナと前記電波減衰部との相対的な位置を変更してもよい。
【0009】
また、本発明の一態様による電波伝搬特性測定装置は、前記複数の電波吸収体が、四角錘又は四角錘台形の形状を有し、前記複数の電波吸収体が、高さ方向が前記第1方向に平行になり、底面が前記第1方向に直交する同一の面に含まれるように配置されてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様による電波伝搬特性測定装置は、前記電波減衰部が、一面が前記複数の電波吸収体の底面に当接する平板状の電波吸収材を備えてもよい。
【0011】
また、本発明の一態様による電波伝搬特性測定装置は、前記第1方向にx軸をとり、前記第1方向に直交する方向であって、前記電波吸収体の底面における直交する2辺が延びる方向にy軸及びz軸をそれぞれとり、前記複数の電波吸収体の底面における直交する辺のうちの前記y軸の方向に延びる辺の長さをlyとし、前記z軸の方向に延びる辺の長さをlzとすると、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナの中心位置の原点位置は、前記第1方向の反対方向から見て、前記中心位置に最も近接する前記電波吸収体の右下端から、前記y軸の負方向にΔy/ly=0.21で示されるΔyだけ移動させ、前記z軸の正方向にΔz/lz=0.39で示されるΔzだけ移動させた位置であってもよい。
【0012】
また、本発明の一態様による電波伝搬特性測定装置は、前記x軸の方向における前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間の距離を、所定の波長で除した値をxsとした場合に、前記xsは24.5≦xs≦41.6を満たし、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナが前記原点位置から前記y軸の正方向に移動する距離をydとし、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナが前記原点位置から前記z軸の正方向に移動する距離をzdとした場合に、前記駆動部は、0≦(yd/ly)≦0.45及び0≦(zd/lz)≦0.16を満たす範囲内で、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナを移動させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、従来よりも容易に電波の減衰量を変更することができる電波伝搬特性測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る電波伝搬特性測定装置の斜視図である。
図2】本実施形態に係る電波減衰部の第1の例を示す模式図である。
図3】本実施形態に係る電波減衰部の第2の例を示す模式図である。
図4】本実施形態に係るアンテナ及び複数の電波吸収体を第1方向の反対方向から見た図である。
図5】本実施形態に係るアンテナの原点位置を説明する図である。
図6】本実施形態に係る電波減衰部の大気減衰を模擬する方法を説明する図である。
図7】本実施形態に係る対向距離を変化させたときの60[GHz]帯の電波の主ビーム角度を示す図である。
図8】本実施形態に係る第1アンテナ及び第2アンテナをy軸及びz軸方向に変位させた場合の受信MCSの変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態に係る電波伝搬特性測定装置を、図面を用いて説明する。尚、図面における要素の形状及び大きさなどはより明確な説明のために誇張されることがある。
【0016】
図1は、本実施形態に係る電波伝搬特性測定装置の斜視図である。図1に示す通り、本実施形態の電波伝搬特性測定装置1は、収容部10、電波減衰部20及び駆動部30を備える。電波伝搬特性測定装置1は、大気減衰を模擬する電波減衰部20を用いて電波の伝搬特性を測定する装置である。
【0017】
収容部10は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を収容する。第1アンテナ100-1は、モジュール200-1内に設けられている。第2アンテナ100-2は、モジュール200-2内に設けられている。例えば、収容部10は、電波暗箱又は電波暗室である。図1では、収容部10が電波暗箱である場合を例示している。モジュール200-1及びモジュール200-2のそれぞれは、例えば、ミリ波モジュールである。
【0018】
第1アンテナ100-1は、第2アンテナ100-2に向けて電波を送信する。第2アンテナ100-2は、第1アンテナ100-1から送信される電波を受信する。第1アンテナ100-1が送信する電波は、マイクロ波であってもよいし、ミリ波であってもよい。一例として、第1アンテナ100-1は、60[GHz]帯又は20[GHz]帯の電波を送信するアンテナである。例えば、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2は、同一のマイクロストリップアレーアンテナである。
【0019】
収容部10は、外部から収容部10の内部へ侵入する電波を抑制したり、収容部10の内部での不要な電波を抑制したりする。図1に示す収容部10の内部には、4つの側面、底面及び上面から形成される空間を有する。この空間において第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2が対向して配置される。4つの側面、底面及び上面の各面には、複数の電波吸収体14が設置されている。
【0020】
図1では、説明の便宜上、収容部10の扉15が開いている状態を示している。扉15には電波吸収体14が設置されている。尚、図1では、扉15が両開きの扉として図示されているが、これに限定されない。扉15は、片開きの1つの扉であってもよいし、上下に開閉する扉であってもよく、その形態には特に限定されない。
【0021】
電波減衰部20は、第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2との間に配置されている。電波減衰部20は、複数の電波吸収体21を備える。電波減衰部20は、複数の電波吸収体21を固定する固定治具を備えてもよい。複数の電波吸収体21は、第2アンテナ100-2から第1アンテナ100-1に向かう第1方向に進むにつれて先細りになる立体形状を有する。
【0022】
電波減衰部20は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2の間に設置され、例えば複数の電波吸収体21が取り付けられた衝立として構成されてもよい。尚、第1方向にx軸をとり、第1方向に直交する方向であって、電波吸収体21の底面における直交する2辺が延びる方向にy軸及びz軸をそれぞれとる直交座標系を用いて、電波伝搬特性測定装置1の各構成を説明する場合がある。
【0023】
図2は、本実施形態に係る電波減衰部20の第1の例を示す模式図である。図2に示す例では、電波吸収体21は、四角錘の形状を有している。ただし、電波吸収体21は、四角錘の形状に限定されず、四角錘台形であってもよい。電波吸収体21は、第2アンテナ100-2から第1アンテナ100-1に向かう第1方向に進むにつれて先細りになる立体形状を有していれば、どのような形状であってもよい。
【0024】
複数の電波吸収体21は、高さhの方向が第1方向に平行になり、底面S1が第1方向に直交する同一の面に含まれるように配置されている。図2に示す例では、複数の電波吸収体21は、底面S1がy軸及びz軸から成る平面(yz平面)に含まれるように設置されている。本実施形態の電波吸収体21は、高さhが85[mm]に設定され、底面の各辺が25.4[mm]に設定されている。
【0025】
図3は、本実施形態に係る電波減衰部20の第2の例を示す模式図である。本実施形態の電波減衰部20は、先細りになる立体形状を有する電波吸収体21を有していればよく、その他の立体形状の電波吸収材を更に有してもよい。例えば、図3に例示するように、電波減衰部20は、四角錘又は四角錘台形の形状の複数の電波吸収体21と、平板状の電波吸収材22とを有してもよい。平面状の電波吸収材22の一面S2は、複数の電波吸収体の底面S1に当接している。電波吸収体21及び電波吸収材22は、別体で構成されてもよいし、一体で構成されてもよい。尚、本実施形態の電波吸収材22の厚さは、15[mm]に設定されている。
【0026】
駆動部30は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と、電波減衰部20との相対的な位置を変更可能である。相対的な位置とは、第1方向に対して直交する方向の位置、すなわちy軸及びz軸の両方の位置又はいずれか一方の位置である。駆動部30は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と、電波減衰部20との相対的な位置を変更することで、電波吸収体21の減衰量を容易に変更することができる。
【0027】
例えば、駆動部30は、保持部31及び駆動機構32を備える。保持部31は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を保持する。保持部31は、第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2との間のx軸方向の距離(以下、「対向距離」という。)Dを所定の距離に維持したまま保持する。保持部31は、例えば第1保持部31-1及び第2保持部31-2を備える。
【0028】
第1保持部31-1は、収容部10の内部において第1アンテナ100-1を保持する。図1に示す例では、第1保持部31-1は、第1方向に対して直交する方向に移動可能な状態で保持している。第2保持部31-2は、収容部10の内部において第2アンテナ100-2を保持する。図1に示す例では、第2保持部31-2は、第1方向に対して直交する方向に移動可能な状態で保持している。
【0029】
第1保持部31-1及び第2保持部31-2は、対向距離Dを所定の距離に保ったまま駆動部30によって互いに同じ方向に同じ距離だけ移動する。換言すれば、第1保持部31-1の動き及び第2保持部31-2の動きは同期するように制御される。尚、第1保持部31-1及び第2保持部31-2は、別体で構成されてもよいし、一体で構成されてもよい。
【0030】
駆動機構32は、保持部31及び電波減衰部20の両方又はいずれか一方を、第1方向に対して直交する方向に移動させることで、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と、電波減衰部20との相対的な位置を変更する。駆動機構32は、例えば電動ステージである。本実施形態では、一例として電波減衰部20が収容部10内の所定の位置に固定されている。この場合には、駆動機構32は、第1保持部31-1及び第2保持部31-2を第1方向に対して直交する方向に移動させることで、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と、電波減衰部20との相対的な位置を変更する。
【0031】
図1に示す例では、駆動機構32は、第1保持部31-1を移動させる第1駆動機構32-1と、第2保持部31-2を移動させる第2駆動機構32-2とを備えている。ただし、これに限定されず、第1駆動機構32-1及び第2駆動機構32-2は、一体で構成されてもよい。
【0032】
以下に、本実施形態に係る第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2の中心位置Cの原点位置Oについて、図4及び図5を用いて説明する。図4は、本実施形態に係るアンテナ100及び複数の電波吸収体21を第1方向の反対方向から見た図である。図5は、本実施形態に係るアンテナ100の原点位置Oを説明する図である。ここで、複数の電波吸収体21の底面における直交する辺のうちのy軸の方向に延びる辺の長さをlyとし、z軸の方向に延びる辺の長さをlzと定義する。アンテナ100の大きさは、一例としてy軸方向の長さが58[mm]であり、z軸方向の長さが33.5[mm]である。
【0033】
原点位置Oは、yz平面におけるアンテナ100の中心位置Cの原点であり、例えば第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を第1方向に対して直交する方向に移動させる際の基準となる位置である。尚、第1アンテナ100-1の中心位置C及び第2アンテナ100-2の中心位置Cの原点位置は、同一の原点位置Oである。第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2のそれぞれを区別しない場合には、「アンテナ100」と称する場合がある。
【0034】
原点位置Oは、第1方向の反対方向から見て、中心位置Cに最も近接する電波吸収体21の右下端Eから、y軸の負方向に下記に示す式(1)で示されるΔyだけ移動させ、z軸の正方向に下記に示す式(2)で示されるΔzだけ移動させた位置である。中心位置Cに最も近接する電波吸収体21を、他の電波吸収体21と区別する目的として、「電波吸収体21N」と称する場合がある。
【0035】
Δy/ly=0.21 …(1)
Δz/lz=0.39 …(2)
【0036】
例えば、ly=lz=25.4[mm]である場合には、原点位置Oは、図5に示すように、電波吸収体21Nの右下端Eから、y軸負方向に対して5.4mm、z軸正方向に対して10mmだけ移動した位置に設定される。駆動部30は、例えば原点位置Oの情報を予め有しており、原点位置Oを基準として、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を移動させてもよい。
【0037】
次に、本実施形態に係る電波減衰部20による大気減衰を模擬する方法について、図6を用いて説明する。図6は、本実施形態に係る電波減衰部20の大気減衰を模擬する方法を説明する図である。複数の電波吸収体21は、第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2との間に設置され、第1アンテナ100-1から第2アンテナ100-2に送信される電波を減衰させる。複数の電波吸収体21が減衰させる電波の減衰量は、駆動部30によって変更可能である。すなわち、電波伝搬特性測定装置1は、伝搬距離に応じた電磁波の大気減衰の減衰量を、複数の電波吸収体21による電波の減衰量で模擬することで、電波の伝搬特性の測定を可能とする。
【0038】
電波吸収体21に対する電波の入射位置が変化すると、電波吸収体21によって減衰する電波の減衰量は変化する。例えば、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と、複数の電波吸収体との位置関係が、図6に示す第1の状態である場合と、図6に示す第2の状態である場合とでは電波の減衰量が異なる。具体的には、第1の状態での電波の減衰量は、第2の状態での電波の減衰量よりも小さくなる。
【0039】
電波伝搬特性測定装置1は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と複数の電波吸収体21との相対的な位置を変更することにより電波吸収体21に対する電波の入射位置を変更することができる。換言すれば、電波伝搬特性測定装置1は、第1方向に対して直交する方向における上記相対的な位置を変更するだけで電波の減衰量を可変することができる。したがって、本実施形態の電波伝搬特性測定装置1では、利用者が手動で誘電体シートの枚数を増やしたり減らしたりするなどして電波吸収体の厚さを調整することなく、より容易に電波の減衰量を可変することができる。
【0040】
電波伝搬特性測定装置1は、所定の伝搬距離での電波の伝搬特性を測定する場合には、第1方向に対して直交する方向における上記相対的な位置を調整することで、その所定の伝搬距離による大気減衰の減衰量と同じ減衰量を電波吸収体21で模擬することができる。これにより、電波伝搬特性測定装置1は、対向距離Dを変化させることができない場合や十分な対向距離Dを確保できない場合などでも、電磁波の伝搬距離に応じた伝搬特性の評価を行うことができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る対向距離Dについて、図7を用いて説明する。図7は、対向距離Dを変化させた場合における送信及び受信する60[GHz]帯の電波の主ビームの角度を示す図である。図7に示す縦軸が主ビームの角度(以下、「主ビーム角度」という。)を示し、横軸が規格化対向距離xsを示す。規格対向距離xsは、対向距離Dを規格化した値である。ここでいう規格化とは、対向距離Dを、60[GHz]帯の全チャンネル周波数(例えば、57-71[GHz])の中心値64[GHz]の波長で除することである。
【0042】
ここで、IEEE802.11adでは、自動ビームフォーミング機能の実装が規定されている。本実施形態で用いる第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を有する無線通信装置は、IEEE802.11ad規格に準拠しており、自動ビームフォーミング機能が実装されている。自動ビームフォーミング機能は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2の間の電波の伝搬経路において最も受信強度が高い方向に主ビームが調整される動作を行う。そのため、本実施形態の収容部10の内部においても最も受信強度が高い伝搬経路に主ビームが調整される。
【0043】
図7に示す主ビーム角度の情報を得るために用いられた第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2は、電子走査型フェーズドアレーアンテナであり、主ビームが各アンテナ素子の振幅と位相がRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)により制御されている。
【0044】
図7に示すように、規格化対向距離xsが24.5から41.6の範囲の場合に、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2は、主ビーム角度が0度、すなわち正面同士の主ビームで通信していることがわかる。また、規格化対向距離xsが41.6を超える場合に、主ビーム角度が30度以上の主ビームで第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2が通信していることがわかる。
【0045】
図7に示す結果は、四角錘の立体形状を有する電波吸収体21の入射角依存性に起因している。四角錘の立体形状を有する電波吸収体による電波の減衰量は、その電波吸収体に対する電磁波の入射角が増大するにつれて低下することが知られている(例えば、D.Micheli,et.al.,IEEEtrans.,MTT,vol.59,no.10,pp.2633-2646,2011)。本実施形態において、第1アンテナ100-1から第2アンテナ100-2に向けて送信された電波が電波吸収体21に入射する際の入射角度が増大するにつれて、電波吸収体21による電波の減衰量が低下する。その結果、第2アンテナ100-2による電波の受信強度が増大することになる。
【0046】
図7に示す通り、規格化対向距離xsが41.6を超える場合には、電波吸収体21に対する電波の入射角度が増大するため、主ビームがアンテナ100の正面を向いていないことがわかる。この場合に、例えば主ビーム角度をアンテナ100の正面に固定してしまうと、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2は、入射角度の高いサイドローブで通信してしまい、伝搬特性の誤った評価につながる可能性がある。
【0047】
したがって、本実施形態の規格化対向距離xsの上限は、41.6に設定されている。規格化対向距離xsの下限は、例えば、第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2とを近づけることができる限界の距離に設定される。本実施形態では、規格化対向距離xsの下限は、電波減衰部20のx軸方向の長さであって、例えば24.5である。本実施形態の規格化対向距離xsは、例えば以下の式(3)を満たすように設定される。
【0048】
24.5≦xs≦41.6 …(3)
【0049】
次に、電波伝搬特性測定装置1が第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と電波減衰部20との相対的な位置を変化させる範囲について、図8を用いて説明する。図8は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2をy軸及びz軸方向に変位させた場合の受信MCS(Modulation and Coding Scheme)の変化を示す図である。以下において、一例として第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を第1方向に対して直交する方向に移動させる場合について説明する。尚、図8に示す結果では、図3に示す電波減衰部20を用いて得られた結果である。
【0050】
図8では、縦軸がz軸方向の規格化変位(zd/lz)を示し、横軸がy軸方向の規格化変位(yd/ly)を示す。規格化変位(zd/lz)とは、z軸正方向に移動する距離であるzdを、lzで除することで規格化した値である。規格化変位(yd/ly)とは、y軸正方向に移動する距離であるydを、lyで除することで規格化した値である。
【0051】
図8に示す通り、規格化変位(yd/ly)が0から+0.45の範囲内であり、規格化変位(zd/lz)が0から+0.16の範囲内である場合に、受信MCSが3~11まで得られることがわかる。この結果は、60[GHz]帯における250[m]~1000[m]の伝搬距離での結果に相当する。そのため、駆動部30は、以下の式(4)及び式(5)を満たす範囲内で、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を移動させることで、60[GHz]帯における所定の範囲の伝搬距離を擬似することができる。
【0052】
0≦(yd/ly)≦0.45 …(4)
0≦(zd/lz)≦0.16 …(5)
【0053】
また、電波伝搬特性測定装置1は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を数[mm]から十数[mm]程度だけ動かすだけで、250[m]~1000[m]の伝搬距離に応じた大気減衰の減衰量を模擬することができる。
【0054】
以上の通り、本実施形態の電波伝搬特性測定装置1は、収容部10、電波減衰部20及び駆動部30を備える。収容部10は、第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2を収容する。電波減衰部20は、第1アンテナ100-1と第2アンテナ100-2との間に配置され、第2アンテナ100-2から第1アンテナ100-1に向かう第1方向に進むにつれて先細りになる立体形状を有する複数の電波吸収体21を備える。駆動部30は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と電波減衰部20との相対的な位置を変更可能である。
【0055】
このような構成により、電波伝搬特性測定装置1では、手動で積層体の厚さを調整せずに、電波吸収体21による電波の減衰量を容易に変更することができる。
【0056】
駆動部30は、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を保持する保持部31を備えてもよい。駆動部30は、保持部31及び電波吸収体21の両方又はいずれか一方を、第1方向に対して直交する方向に移動させることで、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2と電波減衰部20との相対的な位置を変更することができる。
【0057】
本実施形態に係る複数の電波吸収体21は、四角錘又は四角錘台形の形状を有してもよい。複数の電波吸収体21は、高さ方向が第1方向に平行になり、底面が第1方向に直交する同一の面に含まれるように配置されてもよい。
【0058】
このような構成により、既存の電波吸収体を電波吸収体21として用いて、電波吸収体21による電波の減衰量を容易に変更することができる。
【0059】
電波減衰部20は、一面S2が複数の電波吸収体21の底面S1に当接する平板状の電波吸収材22を備えてもよい。このような構成により、電波伝搬特性測定装置1は、より長い伝搬距離を擬似することができる。尚、平面状の電波吸収材22の厚さは、擬似する伝搬距離の範囲に応じて設定されてもよい。
【0060】
第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2の中心位置Cの原点位置Oは、電波吸収体21Nの右下端から、y軸の負方向に式(1)で示されるΔyだけ移動させ、z軸の正方向に式(2)で示されるΔzだけ移動させた位置であってもよい。
【0061】
このような構成により、原点位置Oを基準として、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を移動させることができ、減衰量の調整が容易になる。
【0062】
また、規格対向距離xsが式(3)を満たすように設定され、駆動部30は、式(4)及び式(5)を満たす範囲内で、第1アンテナ100-1及び第2アンテナ100-2を移動させてもよい。
【0063】
このような構成により、入射角度の高いサイドローブでの通信を抑制し、60[GHz]帯における所定の範囲での伝搬距離を擬似することができる。
【0064】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、電波吸収体14の形状としては、一例として四角錘の立体形状のものが考えられるが、これに限定されず、入射電波を吸収して反射を抑えるものであれば、形状には特に限定されない。
【0065】
例えば、電波吸収体21は、第2アンテナ100-2から第1アンテナ100-1に向かう第1方向に進むにつれて先細りになるテーパ又は勾配を有してもよい。電波吸収体21の立体形状は、円錐であってもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…電波伝搬特性測定装置、10…収容部、20…電波減衰部、21…電波吸収体、30…駆動部、31…保持部、100-1…第1アンテナ、100-2…第2アンテナ
【要約】
【課題】大気減衰を模擬する電波吸収体を用いて電波の伝搬特性を測定する装置であって、従来よりも容易に電波の減衰量を変更することができる電波伝搬特性測定装置を提供する。
【解決手段】電波を送信する第1アンテナと、前記第1アンテナから送信される電波を受信する第2アンテナとを収容する収容部と、前記第1アンテナと前記第2アンテナとの間に配置され、前記第2アンテナから前記第1アンテナに向かう第1方向に進むにつれて先細りになる立体形状を有する複数の電波吸収体を備える電波減衰部と、前記第1アンテナ及び前記第2アンテナと前記電波減衰部との相対的な位置を変更可能な駆動部と、を備える電波伝搬特性測定装置である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8