(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-16
(45)【発行日】2022-09-28
(54)【発明の名称】テールコードレスエレベータ装置及びテールコードレスエレベータ装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 1/34 20060101AFI20220920BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
B66B1/34 A
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2021523141
(86)(22)【出願日】2019-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2019020651
(87)【国際公開番号】W WO2020240613
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和道
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-264855(JP,A)
【文献】特開2017-057054(JP,A)
【文献】特開2002-154756(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109264555(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと、前記乗りかごに備えられた受電部と、前記乗りかごに備えられ、前記受電部と接続されて充電するバッテリと、前記乗りかごが停止する複数の停止階のうち任意の停止階に設置され、前記受電部に送電する送電部と、エレベータの機器を制御するエレベータ制御装置を備えたテールコードレスエレベータ装置において、
前記エレベータ制御装置は、
前記バッテリの状態を診断するバッテリ状態診断部と、
前記バッテリ状態診断部の診断に応じて前記乗りかごを前記送電部が設置された停止階へ移動させる給電可能階決定部と、
前記送電部が設置された停止階で前記乗りかごが停止した状態において、前記バッテリの充電状態を判定し、
前記バッテリの充電状態の判定結果に基づいて平常運転モードから保守運転モードへの切り替え判定を行う充電状態判定部を備えたことを特徴とするテールコードレスエレベータ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記バッテリ状態診断部は、保守信号を検出したときに前記バッテリ
の状態が前記保守運転モードに切り替え可能
なバッテリ状態か否かを判定することを特徴とするテールコードレスエレベータ装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記給電可能階決定部は、前記バッテリ状態診断部によって前記バッテリ
の状態が前記保守運転モードに切り替え可能な
バッテリ状態でないと判定されたとき、前記送電部が設置された停止階へ前記乗りかごを移動させることを特徴とするテールコードレスエレベータ装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記乗りかごを前記送電部が設置された停止階へ移動させる際、前記乗りかごの戸の開閉状態を検出する戸閉完了検出部を備えたことを特徴とするテールコードレスエレベータ装置。
【請求項5】
請求項2において、
前記バッテリ状態診断部によって前記バッテリ
の状態が前記保守運転モードに切り替え可能な
バッテリ状態でないと判定された場合、前記エレベータが平常運転モードによる運転が可能か否かを判定する平常運転モード判定部を備えたことを特徴とするテールコードレスエレベータ装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記平常運転モード判定部によって前記エレベータが平常運転モードによる運転が可能と判定された場合、前記乗りかごからの降車を促す戸開閉/放送制御部を備えたことをテールコードレスエレベータ装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記送電部が設置された停止階へ前記乗りかごを移動させて前記バッテリの充電が開始された後、前記バッテリの充電状態を監視する充電制御部を備えたことを特徴とするテールコードレスエレベータ装置。
【請求項8】
乗りかごと、前記乗りかごに備えられた受電部と、前記乗りかごに備えられ、前記受電部と接続されて充電するバッテリと、前記乗りかごが停止する複数の停止階のうち任意の停止階に設置され、前記受電部に送電する送電部と、エレベータの機器を制御するエレベータ制御装置を備えたテールコードレスエレベータ装置の制御方法において、
前記エレベータ制御装置は、
前記バッテリの状態を診断するステップと、
前記バッテリの状態を診断するステップに応じて前記乗りかごを前記送電部が設置された停止階へ移動させるステップと、
前記送電部が設置された停止階で前記乗りかごが停止した状態において、前記バッテリの充電状態を判定し、
前記バッテリの充電状態の判定結果に基づいて通常運転モードから保守運転モードへの切り替え判定を行うステップと、を備えたことを特徴とするテールコードレスエレベータ装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗りかごにバッテリを搭載して構成されたテールコードレスエレベータ装置及びテールコードレスエレベータ装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ装置の乗りかごには、乗りかご内に設置された照明機器や扉駆動装置に電源を供給するためにテールコードが接続されている。テールコードは、乗りかごの上下方向の移動に合わせ移動するので、テールコードが昇降路の壁面に衝突する恐れがあり、また乗りかごにかかる重量が増加する恐れがあった。これを解決するために、特許文献1及び特許文献2に記載のようなテールコードレス方式のエレベータ装置がある。
【0003】
特許文献1では、昇降路側に設置した複数台の送電部と乗りかご側に設置した受電部からなる電力供給装置を用い、昇降路側から乗りかご側に対する電力の給電を非接触で行なう方式のエレベータ乗りかごの電力供給装置において、前記複数台の送電部をオン、オフする給電制御手段を設けている。そして、乗りかごへの電力供給にあたっては、乗りかごの停止階床に対応した送電部だけをオンし、それ以外の送電部はオフするようにして損失の増加を抑えた技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、乗りかごに搭載されると共に、乗りかごに設けられる機器に電力を供給する蓄電装置(バッテリ)と、昇降路に設けられると共に蓄電装置を充電する主充電装置とを備えるエレベータ装置において、乗りかごの室内に、蓄電装置を充電する補助充電装置を設けた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-3096号公報
【文献】特開2018-104144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
テールコードレス方式のエレベータ装置では、乗りかご内に設置された照明機器や扉駆動装置に電源を供給するためにバッテリが搭載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されたエレベータ装置は、保守運転時のバッテリ充電状態については特に考慮されていなかった。
【0008】
テールコードレス方式のエレベータ装置では、送電部が設置された停止階に乗りかごが停止した際、送電部と受電部が対向して乗りかごに給電されバッテリが充電されるが、保守運転時には乗りかごが必ずしも送電部が設置された停止階に停止するとは限らず、また、送電部が設置された停止階であっても停止階の位置からずれて停止することがある。これらの場合、乗りかごは電源の供給を受けることができないため、乗りかご内の機器は、乗りかご内の設置されたバッテリから電源供給を受けることになる。バッテリの充電量が不足していると、乗りかご内に設置されている照明機器や制御装置は動作することができず、あるいは照明機器や制御装置の動作を考慮して短時間で保守作業を行わなければならず、保守にあたっての作業性が悪かった。
【0009】
本発明の目的は、保守の作業性を向上させたテールコードレスエレベータ装置及びテールコードレスエレベータ装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、乗りかごと、前記乗りかごに備えられた受電部と、前記乗りかごに備えられ、前記受電部と接続されて充電するバッテリと、前記乗りかごが停止する複数の停止階のうち任意の停止階に設置され、前記受電部に送電する送電部と、エレベータの機器を制御するエレベータ制御装置を備えたテールコードレスエレベータ装置において、前記エレベータ制御装置は、前記バッテリの状態を診断するバッテリ状態診断部と、前記バッテリ状態診断部の診断に応じて前記乗りかごを前記送電部が設置された停止階へ移動させる給電可能階決定部と、前記送電部が設置された停止階で前記乗りかごが停止した状態において、前記バッテリの充電状態を判定し、前記バッテリの充電状態の判定結果に基づいて平常運転モードから保守運転モードへの切り替え判定を行う充電状態判定部を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、乗りかごと、前記乗りかごに備えられた受電部と、前記乗りかごに備えられ、前記受電部と接続されて充電するバッテリと、前記乗りかごが停止する複数の停止階のうち任意の停止階に設置され、前記受電部に送電する送電部と、エレベータの機器を制御するエレベータ制御装置を備えたテールコードレスエレベータ装置の制御方法において、前記エレベータ制御装置は、前記バッテリの状態を診断するステップと、前記バッテリの状態を診断するステップに応じて前記乗りかごを前記送電部が設置された停止階へ移動させるステップと、前記送電部が設置された停止階で前記乗りかごが停止した状態において、前記バッテリの充電状態を判定し、前記バッテリの充電状態の判定結果に基づいて通常運転モードから保守運転モードへの切り替え判定を行うステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保守の作業性を向上させたテールコードレスエレベータ装置及びテールコードレスエレベータ装置の制御方法を提供することができる。なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に係るエレベータ装置の全体概略図である。
【
図2】本発明の実施例に係るエレベータ制御装置のブロック構成図である。
【
図3】本発明の実施例に係るエレベータ装置の処理動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は本発明の実施例に係るエレベータ装置の全体概略図である。エレベータ装置100の昇降路101内には、昇降路101内を上下方向に移動する乗りかご102と、乗りかご102と相対的に昇降路101内を上下方向に移動する釣合い錘103と、乗りかご102と釣合い錘103を接続するワイヤーロープ104が備えられている。
【0016】
エレベータ装置100の上部には、ワイヤーロープ104を巻き上げて乗りかご102を上下方向に移動させる巻上機105と、ワイヤーロープ104の方向を転換するシーブ106と、エレベータの機器を制御するエレベータ制御装置107が備えられている。
【0017】
エレベータ装置100が設置される建屋には、乗りかご102が停止する停止階108(108a,108b,108c)が備えられている。
【0018】
エレベータ装置100には、乗りかご102が所定の停止階108a,108cの位置で停止した際、電力線109を介して乗りかご102に給電するための送電部110(110a,110b)が備えられている。送電部110a,110bが設置された停止階108a,108cは、給電可能階と称する。送電部110が設置される給電可能階(停止階108a,108c)は、例えば、建屋の1階、10階、20階といった任意の位置とする。給電可能階の設置にあたっては、乗りかごの停止回数が多い階とすることが好ましい。
【0019】
乗りかご102の上部には、乗りかご102が停止階108a,108cの位置で停止した際、送電部110(110a,110b)から電力を受ける受電部111が備えられている。受電部111は、送電部110(110a,110b)と対向することで電力を受電する。送電部110と受電部111では、例えば電磁誘導作用を利用して送電部110から受電部111へ電力を送電する。また、乗りかご102の上部には、受電部111で受電した電力の一部を充電するバッテリ112が備えられている。エレベータ装置100には、送電部110(110a,110b)の状態を把握するための信号線113が備えられている。
【0020】
エレベータ装置100の通常運転時においては、乗りかご102は各停止階108a,108b,108cの位置で停止する。乗りかご102が停止階108a,108cで停止した際、送電部110(110a,110b)と受電部111が対向し、送電部110(110a,110b)からの電力を受電部111で受電する。受電部111で受電した電力はバッテリ112に充電される。
【0021】
エレベータ装置100においては、点検、部品交換といった保守が行われる。保守を行うにあたっては、通常運転モードから保守運転モードに切り替えて実行される。保守運転モードにおいては、
図1に破線で示すように乗りかご102’が停止階108cからずれた位置で停止する場合がある。この状態では、送電部110bと受電部111は対向しないので、受電部111は電力を受電できず、専らバッテリ112に充電された電力を頼りに保守作業を行う。バッテリ112の充電量が不足している場合、保守作業中の機器の動作ができなくなり、保守作業を中断せざるを得なかった。これを防止するための手段について以下説明する。
図2は、本発明の実施例に係るエレベータ制御装置のブロック構成図である。
図2において、エレベータ制御装置107は、保守員の操作によって保守信号を送信する保守信号送信部201と、保守信号送信部201からの保守信号を受信する保守信号受信部202と、エレベータの各種状態を監視するエレベータ状態監視部203と、乗りかご102に搭載されたバッテリ112の状態を診断するバッテリ状態診断部204と、バッテリ状態診断部204の診断に応じて乗りかご102を送電部110(110a,110b)が設置された停止階108a,108cへ移動させる給電可能階決定部205と、乗りかご102の戸開閉に関する制御と案内放送を制御する戸開閉/放送制御部206と、給電可能階で乗りかご102に搭載されたバッテリ112の充電を制御する充電制御部207と、送電部110(110a,110b)が設置された停止階108a,108cで乗りかご102が停止した状態において、バッテリ112の充電状態を判定し、通常運転モードから保守運転モードへの切り替え判定を行う充電状態判定部208と、保守運転モード切替プログラムなどを格納した記憶部209と、この保守運転モード切替プログラムに基づいて各部を制御する制御部210などを備えている。
【0022】
バッテリ状態診断部204は、保守信号を検出したときにバッテリ112が保守運転モードに切り替え可能かどうかを判定する。給電可能階決定部205は、バッテリ状態診断部204によってバッテリ112が保守運転モードに切り替え可能な状態でないと判定されたとき、乗りかご102を送電部110(110a,110b)が設置された停止階108a,108cへ移動させる。
【0023】
図3は、本発明の実施例に係るエレベータ装置の処理動作を示すフローチャートである。
【0024】
ステップS301において、保守員が通常運転モードから保守運転モードに切り替えるために機械式スイッチの切替操作による機械的な保守信号、または保守ツールを通して切り替えのためのソフト的な保守信号を送信する操作を行うと、保守信号送信部201から保守信号受信部202へ信号が送信される。この信号を受信した保守信号受信部202は、エレベータ状態監視部203が所持している各種信号を使用しながらバッテリ状態診断部204に動作信号を与える。
【0025】
ステップS302において、バッテリ状態診断部204は、乗りかご102に搭載されているバッテリ112が保守運転モードに切替可能なバッテリ状態か否かを判定する。その結果、保守運転モードに切替可能なバッテリ状態(ステップS302のYES)であれば、ステップS309に移行し、直ちに保守運転モードに切り替えを行う。
【0026】
ステップS302において、バッテリ状態診断部204が保守運転モードに切替可能なバッテリ状態でないと判断した場合(ステップS302のNO)、バッテリ充電のために乗りかご102を給電可能階(停止階108a,108c)へ移動する準備を始める。この際、乗りかご102に乗客が乗りこんで閉じ込めが発生することがないよう、エレベータ制御装置107には乗りかご102の戸閉完了検出部(図示せず)を備え、戸の開閉状態を検出する。
【0027】
ステップS303において、戸閉完了検出部がエレベータの乗りかご102が停止している状態で、かつ戸閉が完了していることを検出する(ステップS303のYES)と、ステップS304において、給電可能階決定部205はエレベータ状態監視部203からの情報に基づいて現在位置データや給電可能階データを用いて最寄の給電可能階(停止階108aまたは停止階108c)を決定する。
【0028】
乗りかご102を給電可能階(停止階108aまたは停止階108c)へ移動させる際、ステップS305において、平常運転モード判定部(図示せず)によって、平常運転モードによる運転が可能か否かを判定する。平常運転モードとはエレベータに故障が発生していない状態で運転されているモードである。
【0029】
ステップS306において、エレベータが平常運転モードによる移動が可能であれば、戸開閉/放送制御部206は乗りかご102からの降車を促す案内を行う。戸開閉/放送制御部206は、乗りかご102内に乗客が取り残されるのを回避するために、乗りかご102から直ちに降りるよう音声等を利用して乗客にアナウンスする。
【0030】
戸開閉/放送制御部206にてかご移動案内を行った後、ステップS307において、乗りかご102を決定した給電可能階へ高速運転で移動する。
【0031】
給電可能階(停止階108aまたは停止階108c)では充電制御部207によってバッテリの充電が開始され、また充電状態が監視される。その後、ステップS308において、充電制御部207は、例えば予め設定された所定時間内にバッテリが規定値以上の充電状態になり、保守運転モードに切り替えられる状態になったかどうかを判定する。その結果、バッテリの蓄電状態が良好(ステップS308のYES)であれば、ステップS309において保守運転モードに切り替えが行われる。
【0032】
上述したように本実施例では、エレベータ制御装置107が保守運転モードへの切替信号を受けたとき、直ちに切替を行うのではなく、一旦、バッテリ状態診断部204により乗りかご102に搭載されているバッテリ112が保守運転モードに切替可能なバッテリ状態か否かを判定するようにしている。そして、本実施例では、バッテリの充電量が少なく、バッテリ状態が望ましくない状態でも、直ちに保守運転モードに切り替えるのではなく、バッテリ状態診断部204によって判定した結果、バッテリ状態が望ましくない状態であれば給電可能階(停止階108aまたは停止階108c)へと乗りかご108を移動させ、バッテリ112の充電を行ってから保守運転モードに切り替えることができる。
【0033】
本実施例によれば、効率的な保守運転方法を実現でき、保守作業性を向上することができる。また、このバッテリ状態診断部204による判定をできるだけ早い段階で実施するようにしているため、バッテリ状態が良好であればそのまま保守運転モードに移行することができる。
【0034】
一方、ステップS303において、戸閉完了検出部によって戸閉が完了していないと判定された場合、ステップS310において、ソフト的な保守信号による保守運転モードへの切り替えが可能かどうかの判定が行われる。これは、ソフト信号による保守の場合、乗りかご102内の状況確認ができていないので、乗客が乗っていた場合、乗りかご102内に閉じ込められてしまうのを防止するために行う処理であり、戸開中の状態においてはソフト信号による保守を受け付けないようにしている。ステップS310においてソフト信号による保守運転モードの切り替えを受け付けた時(ステップS310のYES)、ステップS312にてソフト信号をリセットし、終了とする。
【0035】
これに対し、ステップS310において戸閉完了検出部がソフト信号による保守ではなく、他の要因による戸開を検出したと判断した場合、戸開閉/放送制御部206はステップS311において乗りかご102内の閉じ込め発生を防止するために戸閉案内を行った後に戸閉動作を行う。その後、ステップS303に戻り、上述した戸閉完了検出部によって戸閉完了が監視される。
【0036】
また、上述したステップS305において、平常運転モードでないと判定された場合(ステップS305のNO)、平常運転モード判定部はステップS313において、エレベータは起動可能かを判定する。その結果、エレベータは起動可能である場合(ステップS313のYES)、戸開閉/放送制御部206はステップS314において、乗りかご102の移動案内を行った後、ステップS315で乗りかご102を給電可能階へ低速運転によって移動する。つまり、平常運転モード判定部はステップS313において、その状態は平常運転モードではないものの何等かのトラブルにより止まっている状態で、かつ、重要部分の故障ではないと判断し、乗りかご102を低速運転によって給電可能階へと移動させる。
【0037】
しかし、平常運転モード判定部がステップS313において、例えば重要部分の故障であり、エレベータの起動が不可能と判定した場合(ステップS313のNO)、ステップS309において保守運転モードに切り替える。
【0038】
こうしてステップS305において平常運転モード判定部による判定を行うため、乗りかご102を給電可能階へ高速運転で移動、または乗りかご102を給電可能階へ低速運転で移動、もしくは給電可能階へ移動せずに保守運転モードに切り替えることができ、状況に応じた効果的な選択が実行できる。
【0039】
さらに、ステップS308において、予め設定された所定時間内に規定値以上の蓄電状態にならなかった場合(ステップS308のNO)は、保守員による乗りかご102の移動はできないが、通常の呼びにも応答しないモードであるから、ステップS316において保守待機モードで充電を継続する。
【0040】
上述したように、従来のテールコードレスエレベータ装置では、保守運転モードに切り替えるとき、バッテリ充電状態の監視または充電については特に考慮されていなかったが、本実施例ではステップS302においてバッテリ112の状態を診断するバッテリ状態診断部204を追加している。このため、バッテリ状態が望ましくない状態で直ちに保守運転モードに切り替えるのではなく、バッテリ状態診断部204によって良否を判定し、バッテリ状態が望ましくない状態では給電可能階へと移動させてバッテリ112の充電を行ってから保守運転モードに切り替えることができるようになる。
【0041】
またステップS303において戸閉完了検出部によって戸閉が監視されるため、保守員の閉じ込めを防止しながら効率的な保守運転方法を実現することができる。
【0042】
長行程エレベータ装置におけるテールコードは、質量が増大することによりマシン軸重の増加やケーブルの暴れへの対応など、システムへの負担が大きくなる。そこでエレベータ制御装置107と乗りかご102間の信号授受は無線通信化によって行い、また乗りかご102の機器への電源供給については、乗りかご102にバッテリと充電手段を備え、給電可能階に設置された給電装置によって停止中に充電を非接触で行いながら、エレベータ装置を運行させることによって、テールコード自体を削減することができる。
【0043】
しかし、バッテリ状態によって保守運転モードでの制約が生じてしまうが、上述したようにこの問題を解決することができる。
【0044】
さらに、乗りかごの給電可能階への移動に先立って戸開閉/放送制御部206によって行うようにしているため、不本意な閉じ込めを既存の案内放送を活用して簡単に防止することができる。
【0045】
また、本実施例においては、乗りかごに搭載したバッテリの状態を診断するバッテリ状態診断部204を備え、保守運転モードへの切り替え時にバッテリ状態診断部204でバッテリ状態を確認するものとして説明したが、適当な間隔でバッテリ容量をエレベータ状態監視部203側に送信して監視し、保守運転モードへの切り替え時のタイミングで監視結果を取り出して判定することもできる。
【0046】
いずれにしても、上述したテールコードレスエレベータ装置によれば、バッテリ状態診断部204により、保守運転モードへの切り替えを許可したり制限したりして、保守員の閉じ込めや効率低下を防止することができる。
【0047】
また、ステップS302でバッテリ状態診断部204による判定を行っているため、バッテリ112の充電状態が不十分な場合でも、規定条件以内つまり給電可能階からの運転1回のみで、経過時間10分以下等であれば、操作階で保守運転モードへの切替えを許可することも可能であり、利便性を維持することができる。さらに、保守運転モードに操作した階が給電可能階以外の場合、給電可能階まで移動後に保守運転モードへ切り替え可能とすることで、保守効率低下を防止することもできる。ただし、バッテリ充電状態が不適切な場合は、状態によっては起動できない故障の可能性があるため、起動不可の故障であれば操作階で保守運転モードへ切り替える。
【0048】
以上説明したように本発明は、保守信号を検出したとき保守運転モードに切り替え可能なバッテリ状態かどうかを判定して保守運転モードに切り替えるバッテリ状態診断部204と、バッテリ状態診断部204によって保守運転モードに切り替え可能なバッテリ状態でないと判定されたとき乗りかごを給電可能階へと移動する給電可能階決定部205と、給電可能階決定部205による給電可能階での蓄電状態を判定して保守運転モードに切り替えを判定する充電状態判定部208とを備えたことを特徴とする。
【0049】
このような構成によれば、バッテリ状態が望ましくない状態で直ちに保守運転モードに切り替えるのではなく、バッテリ状態診断部204によって状態を判定し、バッテリ状態が望ましくない状態では給電可能階へと移動させて給電を行ってから保守運転モードに切り替えることができるようになる。
【0050】
また上述の構成に加えて、バッテリ状態診断部204によって保守運転モードに切り替え可能なバッテリ状態でないと判定されたとき、平常運転モードか否かを判定する平常運転モード判定部を備えた。
【0051】
このような構成によれば、乗りかごを給電可能階へ高速運転で移動、または乗りかごを給電可能階へ低速運転で移動させるかを判別することができるので、状況に応じた効果的な選択が実行できる。
【0052】
尚、本発明は、上述した実施例に限定するものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定するものではない。またある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
100…エレベータ装置、101…昇降路、102…乗りかご、103…釣合い錘、104…ワイヤーロープ、105…巻上機、106…シーブ、107…エレベータ制御装置、108,108a,108b,108c…停止階、109…電力線、110,110a,110b…送電部、111…受電部、112…バッテリ、113…信号線、201…保守信号送信部、202…保守信号受信部、203…エレベータ状態監視部、204…バッテリ状態診断部、205…給電可能階決定部、206…扉開閉/放送制御部、207…充電制御部、208…充電状態判定部、209…記憶部、210…制御部