(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】顎支え用具
(51)【国際特許分類】
A61F 5/02 20060101AFI20220921BHJP
A61F 5/01 20060101ALI20220921BHJP
A61F 5/56 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
A61F5/02 G
A61F5/01 G
A61F5/56
(21)【出願番号】P 2018167823
(22)【出願日】2018-09-07
【審査請求日】2021-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504167920
【氏名又は名称】若松 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】若松 三喜男
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0008452(US,A1)
【文献】特開2009-160287(JP,A)
【文献】国際公開第2011/078150(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3074457(JP,U)
【文献】特開2017-159042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01-5/02,5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎部における下顎体の下側に当接可能な顎支え部と、
前記顎支え部を使用者の顎部に押し付け付勢するための装着用帯部と、が備えられ、
前記顎支え部が、下顎体の下側に相当する部位のうちで、顎部前端のオトガイ部分よりも下顎角寄りに離れた位置の下顎部分を当接対象とする左右両側に備えられ、
左右の前記顎支え部に、下顎部分に当接するクッション部が備えられ、
前記顎支え部のうち、使用者の首部前面に対向する箇所に、当該顎支え部を下顎部分に当接させた装着状態で、使用者の首部前面との間に空隙を出現させる凹入空間形成部が設けられている顎支え用具。
【請求項2】
左右の前記顎支え部同士をつなぐ位置の中間部に、前記凹入空間形成部を首部前方の外部へ開放する通気路が形成されている請求項1記載の顎支え用具。
【請求項3】
前記顎支え部は、左の前記顎支え部と、右の前記顎支え部と、に分離可能に構成されている請求項1又は2記載の顎支え用具。
【請求項4】
前記顎支え部は、前記クッション部の左右方向での両端部のうち、前記装着用帯部が備えられた側とは反対側の端部に接続片部が設けられ、
前記クッション部が、前記顎支え部の前面に位置する前布と後面に位置する後布を繋ぎ合わせて構成され、
前記接続片部が、前記クッション部における前面と後面との境界部分よりも前面側に偏倚した位置に設けられている請求項3記載の顎支え用具。
【請求項5】
前記クッション部に、下顎部分に対面して当接可能な第一クッション層部分と、前記第一クッション層部分の下顎部分に対する対面箇所よりも下顎部分から離れて位置する第二クッション層部分と、が備えられ、
前記第二クッション層部分が前記第一クッション層部分よりも大きな弾性復元力を備えたものである請求項1~4のいずれか一項記載の顎支え用具。
【請求項6】
前記第一クッション層部分は、その第一クッション層部分の内部で流動可能な流動性クッション材を内装して形状変化可能に構成された流動物層であり、前記第二クッション層部分は、体積弾性変形可能な弾性体を内装した反発層である請求項5記載の顎支え用具。
【請求項7】
前記第一クッション層部分が前記流動性クッション材を収容する外側収容袋を備え、前記第二クッション層部分が前記外側収容袋の内側で体積弾性変形可能な弾性体を収容する内側収容袋を備え、
前記内側収容袋は、収容空間部の一端側に前記外側収容袋の内部空間に連通可能な内側連通口が形成され、他端側に、前記外側収容袋の外側に連通可能な外側連通口が形成されている請求項6記載の顎支え用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、就寝中における口腔の開放を抑制するための顎支え用具に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠中に口腔が開放されることを抑制するための顎支え用具としては、下記[1]~[3]に記載のものがある。
[1] 頭頂部と下顎との間に掛け渡して装着される環状の下顎保持帯部と、口部の上顎に沿って左右両側にわたる上顎保持帯部とを備え、下顎が下がらず、上顎が持ち上がらないように締め付け固定するベルト状に構成されたもの(特許文献1参照)。
[2] 首回りに巻回するサポータの上縁部分が下顎に当接するようにして、下顎の下がりを抑制するようにしたもの(特許文献2参照)。
[3] 首前面側の顎下に樹脂製の装着具を載せて、就寝時の下顎の下がりを抑制するようにしたもの(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3191180号公報(段落「0021」、及び図面の「
図1」、「
図5」参照)
【文献】実用新案登録第3210961号公報(段落「0013」、「0014」、及び図面の「
図1」、「
図2」参照)
【文献】実用新案登録第3106876号公報(段落「0024」、「0025」、及び図面の「
図1」、「
図4」参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示された構造のものでは、口部周辺や、頭頂部にまでわたってベルト状の帯部を備えて、強く締め付けることによって固定するものであるため、違和感があって寝苦しいという問題がある。また、この構造のものでは頭髪がベルトで押さえられることによって癖付けられ、起床後の整髪処理等が面倒になる虞がある。
特許文献2に示された構造のものは、首部全体に帯状のサポータを巻回して首部を安定させるためのものである。このため、首部の保護を目的とする場合には有効であっても、巻き付けたままで就寝するには圧迫感があって、就寝用としては用い難いものであった。
特許文献3に示された構造のものは、首部周りの前側形状に近い形状に成形された樹脂製の基材、接着部材、外装材、等で構成される部材を、仰臥姿勢にある使用者の首部周りの前側に当接させて使用するものである。これでは樹脂の素材によるある程度の粘着性はあっても、使用者の就寝姿勢の変化等によって簡単に顎部の下側から外れたり位置ずれし易く、実用的とは言えない。
【0005】
本発明は、無意識での口腔の開放を抑制し易く、就寝中における違和感の少ない状態で装着し易い顎支え用具を、簡単な構造で提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における顎支え用具は、顎部における下顎体の下側に当接可能な顎支え部と、前記顎支え部を使用者の顎部に押し付け付勢するための装着用帯部と、が備えられ、前記顎支え部が、下顎体の下側に相当する部位のうちで、顎部前端のオトガイ部分よりも下顎角寄りに離れた位置の下顎部分を当接対象とする左右両側に備えられ、左右の前記顎支え部に、下顎部分に当接するクッション部が備えられ、前記顎支え部のうち、使用者の首部前面に対向する箇所に、当該顎支え部を下顎部分に当接させた装着状態で、使用者の首部前面との間に空隙を出現させる凹入空間形成部が設けられている点に特徴がある。
【0007】
本発明によれば、顎部の下顎部分に当接可能なクッション部材によって構成された左右一対の顎支え部が備えられ、就寝中に無意識で口腔が開きかける際の下顎部分の下側に顎支え部が当接している。その当接によって顎支え部が顎部の下がりを抑制し、就寝中における口腔の開放を抑制し易い、という効果がある。
このとき、使用者の寝返りなどの就寝姿勢の変化があっても、顎支え部が装着用帯部によって使用者の顎部に押し付け付勢されているので、下顎部分と顎支え部との当接状態に大きな変化はなく、安定して顎部の下がりを抑制し易い。
それでいて、使用者の首部前面に対向する箇所に、装着状態で使用者の首部前面と顎支え部の間に空隙を出現させる凹入空間形成部が存在するので、首部の前側を圧迫する虞の少ない状態で用いることができる。
つまり、一般に首部は真円状の断面形状ではなく、喉仏などの存在箇所が前側に張り出した先細り状の断面形状のものである。このため、単なる帯状体などを首部に巻き付けると、喉仏の存在箇所などを圧迫して息苦しさを感じる傾向がある。これに比べて本発明のものでは、首部前面の顎支え部側に凹入空間形成部が形成されているので、顎支え部によって首部の前側を圧迫する虞が少ない。
その結果、就寝中における違和感の少ない状態で、装着し易い顎支え用具を、単に左右の顎支え部同士の間に凹入空間形成部を存在させる程度の簡単な構造で得られたものである。
【0008】
上記構成においては、左右の前記顎支え部同士をつなぐ位置の中間部に、前記凹入空間形成部を首部前方の外部へ開放する通気路が形成されていると好適である。
【0009】
本構成を備えることで、通気路を介して凹入空間形成部が首部前方の外部と連通する状態となり、その凹入空間形成部に熱気がこもり難くなる。
【0010】
上記構成においては、前記顎支え部は、左の前記顎支え部と、右の前記顎支え部と、に分離可能に構成されていると好適である。
【0011】
本構成を備えることで、顎支え部を、左の顎支え部と、右の顎支え部と、に分離して巻き付け操作により簡単に脱着装着することができる。
そして、その巻き付け操作に際して、左右の顎支え部同士の脱着を、顔の横部分や後部分ではなく、顔の前部分で脱着操作することができる。したがって、目視し難い顎の下側に装着するものでありながら、顔を前に向けた状態で、目視に頼らずに手指の間隔で正確に脱着位置を把握し、楽な姿勢で脱着操作を行い易い。
【0012】
上記構成においては、前記顎支え部は、前記クッション部の左右方向での両端部のうち、前記装着用帯部が備えられた側とは反対側の端部に接続片部が設けられ、前記クッション部が、前記顎支え部の前面に位置する前布と後面に位置する後布を繋ぎ合わせて構成され、前記接続片部が、前記クッション部における前面と後面との境界部分よりも前面側に偏倚した位置に設けられていると好適である。
【0013】
本構成を備えることで、顎支え部のクッション部は、左右方向での一端側に位置する装着用帯部と、他端側に位置する接続片部と、を結ぶ直線を境にして、外方側よりも内方側、つまり首部が存在する側における体積が大きいものとなる。
したがって、使用者の装着状態でクッション部を下顎部分の横外方へ当て付けながら、その下側へ潜り込ませた状態とし易い。つまり、しっかりと下顎部分を支えた状態に維持し易くなる。
【0014】
上記構成においては、前記クッション部材に、下顎部分に対面して当接可能な第一クッション層部分と、前記第一クッション層部分の下顎部分に対する対面箇所よりも下顎部分から離れて位置する第二クッション層部分と、が備えられ、前記第二クッション層部分が前記第一クッション層部分よりも大きな弾性復元力を備えたものであると好適である。
【0015】
本構成を備えることで、クッション部材が第一クッション層部分と第二クッション層部分との多層構造に構成されていることにより、各層毎に適正な素材を選択して、下顎部に対する当接箇所での感触や、顎支え部での支持機能を適正に保ち易い。
【0016】
上記構成においては、前記第一クッション層部分は、その第一クッション層部分の内部で流動可能な流動性クッション材を内装して形状変化可能に構成された流動物層であり、前記第二クッション層部分は、体積弾性変形可能な弾性体を内装した反発層であると好適である。
【0017】
本構成を備えることで、流動性クッション材を内装して形状変化可能に構成された流動物層が下顎部の形状に沿う形状に変形し、下顎部に対して広い面で接触し、接触面の面圧を低減するので、良好な使用感を得やすい。それでいて、反発層での適度な反発作用が働くことにより、顎部の開き側への動きを抑制し易い。
【0018】
上記構成においては、前記第一クッション層部分が前記流動性クッション材を収容する外側収容袋を備え、前記第二クッション層部分が前記外側収容袋の内側で体積弾性変形可能な弾性体を収容する内側収容袋を備え、前記内側収容袋は、収容空間部の一端側に前記外側収容袋の内部空間に連通可能な内側連通口が形成され、他端側に、前記外側収容袋の外側に連通可能な外側連通口が形成されていると好適である。
【0019】
本構成を備えることで、外側収容袋の第一クッション層部分への流動性クッション材の充填を案内する案内筒として内側収容袋を利用することができる。したがって、外側収容袋へ流動性クッション材の充填を案内するに必要な案内筒と、体積弾性変形可能な弾性体を収容するための内側収容袋及び案内筒と、を別々に設ける必要がない。
これによって、第一クッション層部分への案内筒と、第二クッション層部分への案内筒と、を個々に設ける場合に比べて、全体構造の簡素化を図り、かつクッション部の見栄えも良好に保ち易い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図9】別実施形態における顎支え用具の展開図である。
【
図10】別実施形態における顎支え用具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
尚、実施形態での説明における前後方向、左右方向、及び上下方向は、特段の説明がない限り、次のように記載している。
つまり、通常の就寝時の使用形態とは異なるが、説明の便宜上、本発明の顎支え用具1を、直立した姿勢における使用者の身体に装着する場合を基準として説明している。
この基準によれば、使用者が直立姿勢での前面側が向く方向(
図1,2における矢印F参照)が「前」、背面側が向く方向(
図1,2における矢印B参照)が「後」、その直立した前向き姿勢を基準としての右側に相当する方向(
図1,2における矢印R参照)が「右」、同様に左側に相当する方向(
図1,2における矢印L参照)が「左」、同じく直立した姿勢での上方側(
図3,4における矢印U参照)が「上」、下方側(
図3,4における矢印D参照)が「下」である。
【0022】
〔全体構成〕
図1乃至
図6に示すように、顎支え用具1は、顎部に当接する顎支え部2と、その顎支え部2を使用者の身体に装着するための装着用帯部4と、を備えている。
顎支え部2は、顎部の下側に当接して、顎部の下がりに抵抗を与えることにより、就寝中の口の開き側への動きを抑制しようとするものであり、袋状のカバー体20(外側収容袋に相当する)の内部にクッション材30(
図6参照)を内装している。
装着用帯部4は、使用者に対する顎支え部2の位置及び姿勢を安定させるためのものであり、帯ゴムなどの伸縮可能な弾性帯状部材で構成されている。
【0023】
〔顎支え部〕
顎支え部2は、
図3及び
図4に示すように、使用者の顎部における下顎体のうち、前端位置のオトガイ部分C1よりも下顎角C2寄りに離れた位置の下顎部分C0を当接対象とするものであり、左右両側に備えられている。
左右の顎支え部2のそれぞれは、
図5で上下に少し位置をずらした展開状態で示すように、正面視で円形状に形成された本体部2A(クッション部に相当する)を備えている。この本体部2Aの左右方向の端部には、首部Nの前側に近い側の端部に位置する前連結部2B(接続片部に相当する)が設けられ、首部Nの後側に近い側の端部に装着用帯部4を取り付けるための帯連結部2Cが設けられている。
【0024】
図5に示される本体部2Aのうち、左側の本体部2Aを厚み方向にVI-VI線で切断した状態の断面形状が
図6に示されている。
この
図6に示されるように、本体部2Aは、正面視では円形状に形成されているが、断面視では、外径d1である上下方向方向の寸法が、厚み方向寸法d2よりも大きいところの長円形状の外形を有している。つまり、本体部2Aの全体的な形状としては、概ね球体に近いものではあるが完全な球体ではなく、球体を一方向に少し圧縮した形状に近い球状体である。
【0025】
本体部2Aは、
図3,4及び
図6に示されるように、その上部近く位置が下顎部分C0に当接する。
このとき、使用者が仰臥姿勢で寝ている状態では、頭部が枕で少し持ち上げられて、下顎部分C0と、その下顎部分C0に対向する胸部付近の箇所との間隔が少し短くなる。これにともなって、本体部2Aの下部が、下顎部分C0に対向する箇所、例えば鎖骨近くの身体の一部等に当接して、本体部2Aが下顎部分C0を下方から支える状態となる。
【0026】
使用者が横臥姿勢で寝ている状態では、下顎部分C0と、その下顎部分C0に対向する箇所の身体の一部との間隔が必ずしも短くなるとは限らないが、本体部2Aは装着用帯部4で首回りに装着されるので、下顎部分C0に対する当接位置から離れてしまうことは避けられる。
そして、横臥姿勢になると、本体部2Aの一部が頭部と枕との間に挟まれて位置固定された状態となったり、本体部2Aの一部が頭部と布団あるいは左右何れかの肩部との間に挟まれて位置固定された状態となったりして、下顎部分C0に当接する本体部2Aが下顎部分C0の下がりを抑制する状態となる。
【0027】
左右の本体部2Aは、首部Nの前側に近い側の端部に前連結部2Bが設けられ、首部Nの後側に近い側の端部に装着用帯部4を取り付けるための帯連結部2Cが設けられている。
前連結部2B及び帯連結部2Cの上下方向幅h1は、本体部2Aの外径d1よりも小さい幅に設定されている。したがって、前連結部2Bの下縁と、これに対向する箇所の身体の一部との間に、通気路5の上下方向高さとなる間隔h2が形成される。通気路5の左右方向幅w1は、左右の本体部2A同士の間隔によって決定される。
【0028】
顎支え部2を平面視でみると、
図2に示されるように、左右の本体部2Aが、使用者の首部Nの左右両側で、少し前側寄りの位置に装着される。このとき、左右の本体部2Aは、その前部が前連結部2Bで連結され、左右の本体部2Aの後部に備えた帯連結部2Cが装着用帯部4を介して連結される。
このように顎支え用具1を装着した状態で、首部Nの前側で喉仏などが存在する首前端部Nfと、前連結部2B、及び左右の本体部2A同士の間に、凹入空間形成部Sが形成される。この凹入空間形成部Sが存在することにより、首部Nの前側に空隙が生じ、首前端部Nfが顎支え部2によって前方側から押圧されることを回避でき、圧迫感の少ない状態で顎支え部2を装着することができる。
【0029】
凹入空間形成部Sによって空隙が形成された状態を維持するために、左右の本体部2Aは、
図2乃至
図4に示すように装着される。
つまり、左右の本体部2Aの上部が下顎部分C0と当接した状態で、首部Nと対向する位置にある本体部2Aの前部は、左右の前連結部2Bを介して互いに連結される。左右の本体部2Aの後部は装着用帯部4を介して連結される。このとき、前連結部2Bが首部Nの首前端部Nf付近を圧迫しないように、前連結部2Bの左右方向長さを設定し、装着用帯部4の左右方向長さを調節するなどして、前連結部2Bと首前端部Nfとの間に凹入空間形成部Sが形成されるようにしてある。
凹入空間形成部Sの存在によって形成された空隙は、前連結部2Bの下側に存在する前記通気路5を介して顎支え用具1の外側空間と連通している。つまり、通気路5が空隙にこもった熱気を排出したり、空隙に外気を導入したりすることが可能な給排気経路となる。
【0030】
左右の本体部2Aの前部を連結する前連結部2Bには、一方の前連結部2Bの後ろ向き面と他方の前連結部2Bの前向き面との夫々に、雌雄の面ファスナー24を設けてある。したがって、左右の前連結部2Bを左右それぞれの手で持って、雌雄の面ファスナー24同士を係脱させることにより、首部Nに対する顎支え用具1の装着及び装着解除を簡単に行うことができる。
つまり、下顎部分C0の下側は、自分で直接目視することは困難であり、下顎部分C0の下側に位置する前連結部2Bの装着操作は、鏡を見ながら、あるいは、目視によらず手探りで行うことになる。このため、前連結部2B同士を係脱させるための連結手段の構造が複雑なものであると、左右が逆になる鏡での目視や、手探りでの操作が困難になりやすいが、本発明のものでは、前連結部2B同士を係脱させるための連結手段として面ファスナー24を採用しているので、面ファスナー24の面同士の遠近操作を行うだけで簡単に操作し易い。しかも、首部Nの前面側で係脱操作を行うので、左右での感覚的なズレも少なく、仰臥姿勢のままで目視の必要がない状態で比較的楽に操作し易い。
【0031】
装着用帯部4は、本体部2Aの左右の端部のうち、前連結部2Bが設けられた側とは反対側の端部において、首部Nの後側に近い側の端部に設けた帯連結部2Cに連結されている。
左右の本体部2Aに設けられた帯連結部2Cのうち、一方の本体部2Aの帯連結部2Cに対して装着用帯部4の一端側が縫着されている。
装着用帯部4の他端側は、他方の本体部2Aの帯連結部2Cに取り付けられた合成樹脂製、あるいは金属製のアジャスターやコキ等の固定具25によって連結されている。この固定具25に対する装着用帯部4の連結長さを適宜に変更することにより、首部Nに対する顎支え用具1の装着状態を調節することができる。
【0032】
〔クッション部ついて〕
左右の本体部2Aは、袋状のカバー体20(外側収容袋に相当する)の内部にクッション材30が封入されている。
袋状のカバー体20は、前面側に位置する前布21の布材周縁部分21aと、後面側に位置する後布22の布材周縁部分22aを縫合することにより、上部側及び下部側が円弧状となる袋状に形成されている。
前布21及び後布22のうち、少なくとも一方は二軸延伸のストレッチ布で構成されているのが望ましい。この実施形態では、前布21が伸縮性のない、もしくは少ない布材で構成され、後布22が伸縮可能なストレッチ布で構成されている。
【0033】
前布21及び後布22には、前側寄りの端縁部分に前連結部2Bが一連の布で一体に形成され、後側寄りの端縁部分に帯連結部2Cが一連の布で一体に形成されている。
図1及び
図5に示すように、前布21の前面側に対向させて、前連結部2Bから帯連結部2Cに至る全体にわたって補強帯23が設けられている。この補強帯23には、前連結部2B側の端部に、係脱用の面ファスナー24が設けられている。
【0034】
カバー体20の内部には、クッション材30が内装されている。
このクッション材30は、下顎部分C0に対面して当接可能な第一クッション層31と、第一クッション層31の下顎部分C0に対する対面箇所よりも下顎部分C0から離れて位置する第二クッション層32と、を備え、これらの第一クッション層31と第二クッション層32の組み合わせで構成されている。
【0035】
カバー体20内における第一クッション層31は、その第一クッション層31内での移動が比較的自由に行えるところの流動性クッション材31aが充填された層である。流動性クッション材31aとしては、例えばポリウレタン材料で構成された微細粒状のクッションビーズなどが用いられる。
この流動性クッション材31aは、カバー体20の内部という閉じられた空間内で、微細粒の流動が可能な状態で内装されている。つまり、クッションビーズは、個々にはある程度の弾性反発力は有しているが、カバー体20の外部から作用する圧力に応じて、面圧が平均化されるようにカバー体20内を流動可能に封入されている。このように、カバー体20の内部空間内に限ってクッションビーズが移動可能であるようにして、カバー体20の表面形状が多様に変形することを許容し得るものである。これによって第一クッション層31は、大きな反発力を有したものではないが、クッションとしての役割を有している。
【0036】
第二クッション層32は、カバー体20の内部に位置させた中袋26(内側収容袋に相当する)の内部に封入される。つまり、第二クッション層32は、カバー体20に封入されたクッションビーズなどの第一クッション層31によって外側を囲繞された状態でカバー体20の内部に位置している。この状態では、第二クッション層32は、第一クッション層31の下顎部分C0に対する対面箇所よりも下顎部分C0から離れて位置することになる。
第二クッション層32を構成するように中袋26の内部には、体積弾性変形可能な弾性体32aが封入されている。この弾性体32aとしては、ポリウレタン材料で構成された綿や、スポンジゴムなどが採用されている。したがって、第二クッション層32は、クッションビーズを封入した第一クッション層31よりも大きな弾性復元力を備えた反発層としての役割を果たすように構成されている。
【0037】
中袋26は、カバー体20の内部にクッションビーズを充填する際の充填案内筒を兼ねるものである。
つまり、
図8に実線で示すように、中袋26は、カバー体20の外に出ている状態で、筒状連結部27(内側連通口に相当する)を介してカバー体20の内部と連通しており、中袋26には開口部26a(外側連通口に相当する)が形成されている。この状態で、中袋26の開口部26aから、中袋26、筒状連結部27、を経てカバー体20内にクッションビーズを充填させることができる。
そして、中袋26は、
図8に仮想線で示すように、カバー体20の内部へ入り込んだ状態に位置を変更することができる。この状態で、筒状連結部27の開放側端部27aから、中袋26内へ弾性体32aを挿入することができる。
【0038】
その順序としては、
図8に実線で示すようにカバー体20の外に出ている中袋26の開口部26aから、矢印で示すように中袋26、筒状連結部27、を経てカバー体20内にクッションビーズを充填させ、中袋26の開口部26aを縫製又は接着して閉じることにより、カバー体20内で中袋26の外側に第一クッション層31が設けられる。
その後、中袋26を反転させながらカバー体20の内部へ押し込んで
図8に仮想線で示す状態とし、筒状連結部27の開放側端部27aから、中袋26内の充填用空間に弾性体32aを充填すれば、第二クッション層32が設けられる。これによって、第一クッション層31と第二クッション層32の組み合わせで構成されたクッション材30が本体部2Aの内部に封入された状態となる。
尚、中袋26に充填された第二クッション層32を構成する弾性体32aは、筒状連結部27から外部へ漏出する虞は少ない。したがって、筒状連結部27の外部への開放側端部27aは、あえて閉じる必要はないが、外部から内部の充填物が見える場合は、筒状連結部27の開放側端部を、縫製や接着などの適宜手段で閉じればよい。
【0039】
〔前連結部について〕
前連結部2Bは、次のように構成されている。
図7に実線で示すように、前連結部2Bは平面視で本体部2Aにおける前面Ffと後面Rfとの境界部分28よりも、前面Ff側に偏倚した位置に設けられている。
前面Ffと後面Rfとの境界部分28は、通常は前布21と後布22が接合される布材周縁部分21a,22aとほぼ一致する位置であり、この境界部分28の延長線上に前連結部2Bを位置させると、同図中に仮想線で示す位置になる。
【0040】
上記のように、前連結部2Bを、境界部分28よりも前面Ff側に偏倚させて本体部2Aに取り付けると、本体部2Aの全体積のうちで、下顎部分C0の下側へ潜り込み可能な部分の体積の割合を大きく確保し易い。
つまり、本体部2Aが首部Nの周部に装着される際には、前連結部2Bと帯連結部2Cを逆向きに引っ張る力が加えられた状態である。このとき、前連結部2Bと帯連結部2Cを結ぶ線分L1を境にして、本体部2Aの体積をみると、線分L1よりも首部Nが存在する側における体積が、線分L1よりも首部Nから離れる側における体積よりも大きくなっている。
したがって、下顎部分C0の下側へ潜り込み可能な部分の体積、すなわち前記線分L1よりも首部Nが存在する側における体積が、線分L1の反対側における体積よりも大きくなる。これによって、本体部2A全体の体積を必要以上に大きくすることなく、下顎部分C0の支えに必要な量の本体部2Aの体積を確保し易いものである。
【0041】
〔別実施形態の1〕
実施の形態では、顎支え部2を構成するにあたり、袋状のカバー体20と、そのカバー体20の内部に位置させた中袋26と、を用いて、第一クッション層31と、第二クッション層32と、を備えた構造のものを例示したが、必ずしも、このような構造に限定されるものではない。
例えば、中袋26を省略して、カバー体20のみの単一の袋構造を採用してもよい。この場合、袋状のカバー体20内に、第一クッション層31と、第二クッション層32と、の両方を備えさせたものであっても良いし、第一クッション層31、又は第二クッション層32の何れか一方のみを備えたものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0042】
〔別実施形態の2〕
実施の形態では、顎支え部2として、左右に分離可能に構成された構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、
図9に示すように、左の顎支え部2と、右の顎支え部2と、を一連のカバー体20によって構成し、その中央部に凹入空間形成部Sや通気路5が形成された構造のものであってもよい。
この場合、一連のカバー体20に中袋26を設けても良いし、中袋26を省略した構造のものであってもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0043】
〔別実施形態の3〕
実施の形態では、左の顎支え部2と、右の顎支え部2と、を使用者の身体に装着するための装着用帯部4が備えられた構造のものを例示したが、必ずしもこの構造に限定されるものではない。
例えば、
図10に示すように、180度以上、好ましくは270度程度の範囲にわたる部分円弧状のバネ板材29を、左右の顎支え部2と使用者の首部Nの後部にわたって装着してもよい。このような構造のものでは、バネ板材29の弾性復元力で、左右の顎支え部2を下顎部分C0に向けて押し付けるように付勢して、左右の顎支え部2を使用者の身体に装着することができる。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0044】
〔別実施形態の4〕
実施の形態では、前連結部2Bを、平面視で本体部2Aにおける前面Ffと後面Rfとの境界部分28よりも、前面Ff側に偏倚した位置に設けた構造のものを例示したが、この構造にかぎられるものではない。
例えば、
図7に仮想線で示すように、前連結部2Bを、平面視で本体部2Aにおける前面Ffと後面Rfとの境界部分28の延長線上に位置させるように設けてもよい。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0045】
〔別実施形態の5〕
実施の形態では、クッション材30として、ポリウレタン材料で構成された微細粒状のクッションビーズに代表される流動性クッション材31aや、ポリウレタン材料で構成された綿やスポンジゴムなどで構成された体積弾性変形可能な弾性体32aを例示し、これらを組み合わせて用いた構造のものを例示したが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。
例えば、流動性クッション材31aを、クッションビーズに限らず、そば殻や樹脂パイプ、あるいはゲル状の物質で構成してもよい。さらにまた、体積弾性変形可能な弾性体32aを、空気を封入したボール状のもので構成するなど、適宜に変更することも可能である。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【0046】
〔別実施形態の6〕
実施の形態では、クッション材30として、流動性クッション材31aと体積弾性変形可能な弾性体32aが組み合わされた構造のものを例示したが、必ずしも、この構造に限定されるものではない。
例えば、クッション材30を、流動性クッション材31aのみで構成したり、体積弾性変形可能な弾性体32aのみで構成したものであってもよい。この場合、単一材料のみで構成される流動性クッション材31aとしても、ポリウレタン材料で構成された微細粒状のクッションビーズや、そば殻や樹脂パイプ、あるいはゲル状の物質を用いればよい。
また、単一材料のみで構成される体積弾性変形可能な弾性体32aとしては、ウレタンフォームやポリエチレンフォーム等で構成されるスポンジ材、あるいは、空気を封入したボールや風船などで構成すればよく、その形状も球状に限らず、ドーナツ状、円盤状など、適宜に変更することも可能である。
その他の構成は、前述した実施形態と同様の構成を採用すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、就寝時に用いる場合に限らず、旅行等での移動中に座席に座った状態で仮眠する場合等に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0048】
2 顎支え部
2A クッション部
2B 接続片部
4 装着用帯部
5 通気路
20 外側収容袋
21 前布
22 後布
26 内側収容袋
26a 外側連通口
27 内側連通口
28 境界部分
31 第一クッション層
32 第二クッション層
32a 弾性体
31a 流動物
C0 下顎部分
C1 オトガイ部分
C2 下顎角
Ff 前面
Rf 後面
S 凹入空間形成部