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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/18 20060101AFI20220921BHJP
   A47C 7/14 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B60N2/18
A47C7/14 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017118033
(22)【出願日】2017-06-15
(65)【公開番号】P2019001319
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】金 東鉉
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕生
【合議体】
【審判長】藤井 昇
【審判官】出口 昌哉
【審判官】芦原 康裕
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-75737(JP,U)
【文献】特開2007-61297(JP,A)
【文献】特開2017-39365(JP,A)
【文献】特開2016-2924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部が左右の可動部を含んで構成され、前記左右の可動部によって着座乗員の左右の大腿部をそれぞれ支持すると共に、前記左右の可動部が互いに分割され且つ後端部を中心として上下に回動可能とされたシートクッションと、
前記シートクッションに設けられ、駆動源の駆動力又は手動操作により前記左右の可動部を連動させずに個別に上下に回動可能とされた調整機構と、
を備え、
前記左右の可動部の後方で前記シートクッションの本体部を構成するクッション本体部の上面と、前記左右の可動部の上面とが面一状となる位置が、前記左右の可動部の標準位置とされており、
前記左右の可動部は、前記調整機構によって前記標準位置よりも下側へ回動可能とされており、
前記左右の可動部が前記標準位置に位置し且つ前記着座乗員がAM50ダミーである場合、前記AM50ダミーの左右の大腿部において、前記AM50ダミーのヒップポイントから膝関節の中心までの間の部位のうち、前記ヒップポイント側の4割の部位が前記クッション本体部に支持されるように構成されている車両用シート。
【請求項2】
前記調整機構は、前記駆動源の駆動力によって送りねじ機構を駆動する左右のアクチュエータにより前記左右の可動部を回動させる請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
記左右の可動部は、前記調整機構によって前記標準位置よりも上側へ回動可能とされている請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記シートクッションは、前記左右の可動部及び前記クッション本体部の左右両側に配置され、前記標準位置に位置する前記左右の可動部及び前記クッション本体部よりも上方側へ凸をなす左右のサイドサポート部を有しており、前記左右のサイドサポート部と前記左右の可動部とが分割されている請求項1~請求項3の何れか1項に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションの前部に上下に回動可能な可動部が設けられた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載された自動運転車両のシートでは、シートクッションの前部が、座部左側部分と座部右側部分とに分割されている。座部左側部分及び座部右側部分は、後端部付近を中心として上下に回転移動可能とされている。また、座部左側部分及び座部右側部分は、連結リンクによって連結されており、アクチュエータによって交互に上下に移動される構成になっている。これにより、車両の自動運転時に、着座乗員の左右の脚部を交互に上下に移動させて、下肢の疲労を軽減するようにしている。
【0003】
下記特許文献2に記載された乗物用シートでは、シートクッションが、着座乗員の荷重を支える左右のサイドフレームと、左右のサイドフレームに対して弾性的に支持されたフロントパネルとを有している。フロントパネルは、右側パネルと左側パネルとに分割されており、右側パネル及び左側パネルに作用するバネの支持力により、シートクッション前部の前上がり状の着座面が形成されて着座乗員の大腿部が支えられるようになっている。また、上記バネの支持力に抗して着座乗員が大腿部を下方側へ押し込むと、右側パネルや左側パネルが下方側へ押し込まれてシートクッションの前部の着座面が押し下げられる。これにより、良好な乗り心地を維持しながらペダルの操作性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-39365号公報
【文献】特開2016-2924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された自動運転車両のシートでは、座部左側部分及び座部右側部分のうちの一方が上昇する際に他方が下降し、他方が上昇する際に一方が下降する。これにより、着座乗員の左右の脚部を交互に上下に移動させるようにしている。このような構成は、着座乗員が右脚(右足)でペダルを操作しなければならない運転席に対しては、適用することができない。また、着座乗員(特に運転者)の左右の脚部の疲労を個別に軽減することができない。
【0006】
一方、上記特許文献2に記載された乗物用シートでは、着座乗員がバネの支持力に抗して大腿部を下方側へ押し込んだときだけ、シートクッション前部の着座面が押し下げられる構成であるため、下肢の疲労軽減効果が十分に得られない。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、着座乗員の左右の脚部の疲労を個別に軽減することができる車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明に係る車両用シートは、前部が左右の可動部を含んで構成され、前記左右の可動部によって着座乗員の左右の大腿部をそれぞれ支持すると共に、前記左右の可動部が互いに分割され且つ後端部を中心として上下に回動可能とされたシートクッションと、前記シートクッションに設けられ、駆動源の駆動力又は手動操作により前記左右の可動部を連動させずに個別に上下に回動可能とされた調整機構と、を備え、前記左右の可動部の後方で前記シートクッションの本体部を構成するクッション本体部の上面と、前記左右の可動部の上面とが面一状となる位置が、前記左右の可動部の標準位置とされており、前記左右の可動部は、前記調整機構によって前記標準位置よりも下側へ回動可能とされており、前記左右の可動部が前記標準位置に位置し且つ前記着座乗員がAM50ダミーである場合、前記AM50ダミーの左右の大腿部において、前記AM50ダミーのヒップポイントから膝関節の中心までの間の部位のうち、前記ヒップポイント側の4割の部位が前記クッション本体部に支持されるように構成されている。
【0009】
請求項1に記載の車両用シートでは、シートクッションの前部に含まれる左右の可動部によって着座乗員の左右の大腿部がそれぞれ支持される。左右の可動部は、互いに分割され且つ後端部を中心として上下に回動可能とされている。また、シートクッションに設けられた調整機構は、駆動源の駆動力又は手動操作により左右の可動部を連動させずに個別に上下に回動可能とされている。このため、調整機構を用いて左右の可動部を個別に上下に回動させることにより、着座乗員の左右の大腿部が左右の可動部すなわちシートクッションの前部から受ける圧迫力を個別に調整することができる。これにより、着座乗員の左右の脚部の疲労を個別に軽減することができる。
【0011】
しかも、この車両用シートでは、上記のように構成されているので、例えば本車両用シートが運転席である場合、調整機構によって右側の可動部を標準位置よりも下側へ回動させる一方、左側の可動部を標準位置に配置させたままとすることができる。これにより、左側の可動部によって着座乗員の左大腿部を適度に支持しつつ、着座乗員が右脚(右足)でアクセルペダル等を操作する際に、着座乗員の右大腿部が右側の可動部によって圧迫されることを抑制できる。
さらに、この車両用シートでは、上記のように構成されているので、着座乗員の左右の大腿部のうち、シートクッションによって静脈が圧迫され易い膝部側の部位が、左右の可動部に支持されるようにすることができる。その結果、左右の可動部の上下動によって、静脈の血流を促進することができるので、血流の悪化に起因して生じる疲労感や浮腫みを軽減することができる。
請求項2に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1に記載の車両用シートにおいて、前記調整機構は、前記駆動源の駆動力によって送りねじ機構を駆動する左右のアクチュエータにより前記左右の可動部を回動させる。
【0012】
請求項3に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1又は請求項2に記載の車両用シートにおいて、前記左右の可動部は、前記調整機構によって前記標準位置よりも上側へ回動可能とされている。
【0013】
請求項3に記載の車両用シートでは、上記のように構成されているので、左右の可動部のうちの一方又は両方を標準位置よりも上側へ回動させることにより、着座乗員に気分転換をさせたり、着座乗員に対して眠気防止等のための刺激を与えたりすることができる。
【0016】
請求項に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1~請求項の何れか1項に記載の車両用シートにおいて、前記シートクッションは、前記左右の可動部及び前記クッション本体部の左右両側に配置され、前記標準位置に位置する前記左右の可動部及び前記クッション本体部よりも上方側へ凸をなす左右のサイドサポート部を有しており、前記左右のサイドサポート部と前記左右の可動部とが分割されている。
【0017】
請求項に記載の車両用シートでは、左右の可動部が標準位置に位置する状態では、左右のサイドサポート部によって、着座乗員の左右の大腿部を側方から支持することができる。しかも、上下に回動される左右の可動部と、左右のサイドサポート部とが分割されているので、左右のサイドサポート部が左右の可動部と一体で回動される構成と比較して、可動部の構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る車両用シートによれば、着座乗員の左右の脚部の疲労を個別に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る車両用シートの主要部の構成を示す斜視図であり、シートクッションの左右の可動部が標準位置に位置する状態の図である。
図2】同車両用シートのシートクッションを示す分解斜視図である。
図3】同シートクッションのフレームを示す斜視図である。
図4】同シートクッションが備えるチルトユニットをシート上方側から見た斜視図である。
図5】同チルトユニットをシート下方側から見た斜視図である。
図6】同チルトユニットの側面図である。
図7図1のF7-F7線に沿った切断面を拡大して示す断面図である。
図8】同車両用シートの主要部の構成をシート左方側から見た断面図である。
図9A】左可動部が標準位置に位置し、右可動部が下降位置に位置する状態を示す図1に対応した斜視図である。
図9B図9Aに示される状態の車両用シートに乗員が着座した状態を示す側面図である。
図10A】右可動部が標準位置に位置し、左可動部が下降位置に位置する状態を示す図1に対応した斜視図である。
図10B図10Aに示される状態の車両用シートに乗員が着座した状態を示す側面図である。
図11A】左右の可動部が下降位置に位置する状態を示す図1に対応した斜視図である。
図11B図11Aに示される状態の車両用シートに乗員が着座した状態を示す側面図である。
図12】左可動部が標準位置に位置し、右可動部が上昇位置に位置する状態を示す図1に対応した斜視図である。
図13】左可動部が上昇位置に位置し、右可動部が標準位置に位置する状態を示す図1に対応した斜視図である。
図14】左右の可動部が上昇位置に位置する状態を示す図1に対応した斜視図である。
図15】成人男性の右脚部における血管の位置を当該右脚部の左側から見た状態で概略的に示す斜視図である。
図16】成人男性の右脚部における血管の位置を当該右脚部の後側から見た状態で概略的に示す斜視図である。
図17】大腿部のうちシートクッションによって静脈が圧迫され易い部位について説明するための側面図である。
図18】生体電気インピーダンス法に基づく生体水分量の測定方法を示す模式図である。
図19】生体水分の正常な分布状態を示す模式図である。
図20】間質液が足側に過剰に溜まった状態を示す模式図である。
図21A図1と同様の斜視図である。
図21B図21Aに示される状態の車両用シートに着座した被験者の身体におけるインピーダンスの変化率と着座時間との関係を示すグラフである。
図22A図11Aと同様の斜視図である。
図22B図21Aに示される状態の車両用シートに着座した被験者の身体におけるインピーダンスの変化率と着座時間との関係を示すグラフである。
図23A図9Aと同様の斜視図である。
図23B図21Aに示される状態の車両用シートに着座した被験者の身体におけるインピーダンスの変化率と着座時間との関係を示すグラフである。
図24】従来の車両用シートにおいて、シートクッションの前部をチルト機構により上昇させた状態を示す側面図である。
図25】従来の車両用シートにおいて、シートクッションの前部をチルト機構により上昇させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図1図23Bを用いて、本発明の実施形態に係る車両用シート10について説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FR、矢印UP、矢印LHは、車両用シート10の前方向、上方向、左方向をそれぞれ示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート左右方向(シート幅方向)の左右、シート上下方向の上下を示すものとする。また、各図においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。
【0021】
(構成)
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、車両の運転席とされており、座部であるシートクッション12と、背もたれであるシートバック14とを備えている。シートバック14の下端部は、図示しない周知のリクライニング機構を介してシートクッション12の後端部に連結されている。この車両用シート10は、シートクッション12の前部に設けられたチルトユニット40が左右に分割された左右独立チルトシートとされている。この車両用シート10の前後左右上下の方向は、この車両用シート10が搭載された車両の前後左右上下の方向と一致している。
【0022】
シートクッション12は、フレーム(骨格部材)であるクッションフレーム16(図2及び図3参照)と、当該クッションフレーム16に取り付けられたクッションパッド70(図2図7図8参照)と、当該クッションパッド70の表面を覆ったクッション表皮74(図2図7図8参照)とを備えている。
【0023】
クッションフレーム16は、シートクッション12の左右の側部においてシート前後方向に延在する左右一対のサイドフレーム18と、左右のサイドフレーム18の前端部における上端部間に架け渡されたパンフレーム20と、パンフレーム20の下方で左右のサイドフレーム18の前端部間に架け渡されたチルトユニット固定用パイプ22と、左右のサイドフレーム18の後端部間に架け渡されたリヤフレーム24とを備えている。左右のサイドフレーム18及びパンフレーム20は、例えば板金がプレス成形されて製造されたものであり、チルトユニット固定用パイプ22及びリヤフレーム24は、例えば金属パイプによって製造されたものである。
【0024】
さらに、このクッションフレーム16は、パンフレーム20とリヤフレーム24との間に架け渡された複数のクッションスプリング(所謂Sバネ)26と、左右のサイドフレーム18の前端部に固定された左右の縫製用ワイヤ28と、を備えている。左右の縫製用ワイヤ28は、ワイヤが曲げ加工されて製造されたものであり、溶接等の手段によって左右のサイドフレーム18に固定されている。これらの縫製用ワイヤ28は、上下に並んだ上方部位28Aと下方部位28Bとを備えている。上方部位28A及び下方部位28Bは、サイドフレーム18の前端部からシート前方側へ突出しており、平面視でシート後方側が開放された略U字状をなしている。
【0025】
左右のサイドフレーム18は、図2及び図3に示されるように、シートクッション12の上下位置を調整するための周知のリフタ機構30を介して左右のスライドレール32と連結されている。左右のスライドレール32は、左右のサイドフレーム18の下方でシート前後方向に延在しており、前端部及び後端部がフロアブラケット34、36を介して車体の床部に固定されている。これらのスライドレール32は、車体に対するシートクッション12の前後位置を調整するための周知のシートスライド機構を構成している。
【0026】
図2図6に示されるように、チルトユニット固定用パイプ22(以下、「固定用パイプ22」と略称する)には、チルトユニット40が取り付けられている。このチルトユニット40は、互いに独立した左側チルトユニット40L及び右側チルトユニット40Rによって構成されている。左側チルトユニット40Lは、シートクッション12の前部の左側に配置されており、右側チルトユニット40Rは、シートクッション12の前部の右側に配置されている。左側チルトユニット40L及び右側チルトユニット40Rは、左右対称に構成されており、シートクッション12の幅方向中央を介して左右対称に配置されている。
【0027】
左側チルトユニット40L及び右側チルトユニット40Rは、図4図6に示されるように、可動フレーム42L、42Rと、アクチュエータ48L、48Rとを備えている。また、左側チルトユニット40L及び右側チルトユニット40Rは、可動フレーム42L、42Rを固定用パイプ22に連結するための左右一対の可動フレーム用ブラケット44、46と、アクチュエータ48L、48Rを固定用パイプ22に固定するためのアクチュエータ用ブラケット50とを各々が備えている。左右のアクチュエータ48L、48Rは、調整機構としての駆動機構52を構成している。
【0028】
左右の可動フレーム用ブラケット44、46は、例えば板金によって長尺板状に形成されており、長手方向がシート前後方向に沿い且つ板厚方向がシート幅方向に沿う姿勢で固定用パイプ22のシート前方に配置されている。これらの可動フレーム用ブラケット44、46の後端部は、溶接等の手段によって固定用パイプ22に固定されている。
【0029】
可動フレーム42L、42Rは、例えば板金がプレス成形されて製造されたものであり、固定用パイプ22のシート前方に配置されている。この可動フレーム42L、42Rは、シート下方側及びシート後方側が開放された略箱状をなしている。具体的には、可動フレーム42L、42Rは、シート幅方向に対向した左右一対の側壁42Aと、左右の側壁42Aの上端部をシート幅方向に繋いだ上壁42Bと、上壁42Bの前端部からシート下方側へ延びる前壁42Cとを備えている。左右の側壁42Aにおける互いに反対側を向く面には、それぞれ縫製用ワイヤ43が溶接等の手段によって固定されている。これらの縫製用ワイヤ43は、ワイヤが曲げ加工されて製造されたものであり、平面視で可動フレーム42L、42R側が開放された略C字状をなしている。
【0030】
左右の側壁42Aの後端部は、左右の可動フレーム用ブラケット44、46の前部に対してシート幅方向の外側から重ね合わされており、左右の側壁42A及び左右の可動フレーム用ブラケット44、46を貫通した支持軸54によって左右の可動フレーム用ブラケット44、46に連結されている。この支持軸54は、軸線方向がシート幅方向に沿っている。これにより、可動フレーム42L、42Rは、後端部を中心としてシート幅方向に沿った軸線回りに上下に回動(移動)可能とされている。また、左右の側壁42Aのうち、シート幅方向中央側の側壁42Aの後部には、シート下方側へ延びるロッド連結部42A1(図5及び図6参照)が設けられている。
【0031】
アクチュエータ用ブラケット50は、例えば板金がプレス成形されて製造されたものであり、固定用パイプ22の下方側に配置されている。このアクチュエータ用ブラケット50は、シート前後方向を長手とし且つシート上下方向を板厚方向とする下壁50Aと、下壁50Aのシート幅方向内側端部からシート上方側へ延びる内側フランジ50Bと、下壁50Aの前部のシート幅方向外側端部からシート上方側へ延びる外側フランジ50Cとによって構成されている。内側フランジ50Bの前部の上端部と、外側フランジ50Cの上端部とは、溶接等の手段によって固定用パイプ22に固定されている。
【0032】
アクチュエータ48L、48Rは、送りねじ機構56と、当該送りねじ機構56を駆動するモータ(駆動源)58とによって構成されており、電動式とされている。送りねじ機構56は、アクチュエータ用ブラケット50の下方に配置されたハウジング60を備えている。ハウジング60は、ビス止め等の手段によって下壁50Aの下面に固定されている。このハウジング60のシート幅方向外側面には、上記のモータ58がビス止め等の手段によって固定されている。モータ58は、図示しない出力軸がシート幅方向に沿う姿勢でハウジング60のシート幅方向外側に配置されている。
【0033】
また、上記のハウジング60には、送りねじ機構56の構成部材であるロッド62が支持されている。このロッド62は、シート前後方向を長手とする長尺棒状に形成されており、後部側がハウジング60をシート前後方向に貫通している。このロッド62の後部側には、外周に雄ねじが形成された雄ねじ部(符号省略)が設けられている。この雄ねじ部に対応してハウジング60内には、内周に雌ねじが形成された回転体(図示省略)が設けられており、当該回転体の雌ねじに上記の雄ねじ部が螺合している。この回転体がモータ58によって回転されることにより、ロッド62がハウジング60に対してシート前後方向に相対移動される構成になっている(図6の矢印S参照)。
【0034】
上記ロッド62の前端部は、シート幅方向を軸線方向とするピン64を介して可動フレーム42L、42Rのロッド連結部42A1と連結されている。これにより、ロッド62がモータ58によってシート前後方向に移動されると、可動フレーム42L、42Rが支持軸54回りに上下に回動される構成になっている(図6の矢印R参照)。具体的には、モータ58が正転すると、ロッド62がシート前方側へ移動され、可動フレーム42L、42Rがシート上方側へ回動する。また、モータ58が逆転すると、ロッド62がシート後方側へ移動され、可動フレーム42L、42Rがシート下方側へ回動する。
【0035】
上記構成のチルトユニット40が前部に取り付けられたクッションフレーム16には、例えばウレタンフォーム等の発泡体からなるクッションパッド70(図2図7図8以外では符号省略)がシート上方側から被せられている。クッションパッド70の前部は、図2及び図7に示されるように、左右の可動フレーム42L、42Rによってシート下方側から支持された左右一対のパッド可動部70L、70Rを含んで構成されている。このクッションパッド70において、左右の一対のパッド可動部70L、70Rの後方の部位を構成するパッド本体部70M(図2参照)は、パンフレーム20、複数のクッションスプリング26及びリヤフレーム24によってシート下方側から支持されている。また、左右一対のパッド可動部70L、70R及びパッド本体部70Mの左右両側に配置された左右一対のパッドサイド部70LS、70RSは、左右のサイドフレーム18及び左右の縫製用ワイヤ28の上方部位28Aによってシート下方側から支持されている。左右のパッド可動部70L、70Rの間、及び左右のパッド可動部70L、70Rと左右のパッドサイド部70LS、70RSとの間には、それぞれスリット状の切り込み72(図7参照)が形成されている。これにより、左右のパッド可動部70L、70Rが互いに分割されると共に、左右のパッド可動部70L、70Rと左右のパッドサイド部70LS、70RSとが分割されている。
【0036】
上記構成のクッションパッド70は、クッション表皮74(図2図7図8以外では符号省略)によって表面を覆われている。クッション表皮74は、例えば布材、皮革又は合成皮革等からなる複数の表皮片が縫製されて形成されている。このクッション表皮74は、図2及び図7に示されるように、左右のパッド可動部70L、70Rに対してシート上方側から被せられた左右一対の表皮可動部74L、74Rと、左右のパッドサイド部70LS、70RSに対してシート上方側から被せられた左右一対の表皮サイド部74LS、74RSと、パッド本体部70Mに対してシート上方側から被せられた表皮本体部74Mとを備えている。左右のパッドサイド部70LS、70RSの前部と左右の表皮可動部74L、74Rとは分割されている。左右の表皮サイド部74LS、74RSの前部及び左右の表皮可動部74L、74Rは、シート下方側及びシート後方側が開放された袋状に縫製されており、左右のパッドサイド部70LS、70RSの前部及び左右のパッド可動部70L、70Rをシート前方側及びシート幅方向両側から覆っている。
【0037】
左右の表皮サイド部74LS、74RSの前部の下縁部、及び左右の表皮可動部74L、74Rの下縁部には、それぞれ複数のJフック76(図7参照)が取り付けられている。Jフック76は、例えば樹脂によって断面J字状に形成されており、縫製等の手段によって左右の表皮可動部74L、74R及び左右の表皮サイド部74LS、74RSの下縁部に取り付けられている。左右の表皮可動部74L、74Rの下縁部に取り付けられた複数のJフック76は、前述した左右の縫製用ワイヤ43に引っ掛けられている。これにより、左右の表皮可動部74L、74Rの下縁部が複数のJフック76及び左右の縫製用ワイヤ43を用いて可動フレーム42L、42Rに係止されている。また、左右の表皮サイド部74LS、74RSの前部の下縁部に取り付けられた複数のJフック76は、前述した左右の縫製用ワイヤ28の下方部位28Bに引っ掛けられている。これにより、左右の表皮サイド部74LS、74RSの下縁部が複数のJフック76及び左右の縫製用ワイヤ28を用いてクッションフレーム16に係止されている。なお、図示は省略するが、クッション表皮74の後部側も上記同様の方法によりクッションフレーム16に係止されている。
【0038】
上記構成のシートクッション12では、左右の可動フレーム42L、42Rが上下に回動されると、左右の可動フレーム42L、42Rに支持された左右のパッド可動部70L、70R、及び左右のパッド可動部70L、70Rを覆った左右の表皮可動部74L、74Rが、左右の可動フレーム42L、42Rと一緒に上下に回動される。左側の可動フレーム42L、左側のパッド可動部70L、及び左側の表皮可動部74Lは、シートクッション12の左可動部12Lを構成しており、右側の可動フレーム42R、右側のパッド可動部70R及び右側の表皮可動部74Rは、シートクッション12の右可動部12Rを構成している。
【0039】
左可動部12L及び右可動部12R(以下、「左右の可動部12L、12R」と称する場合がある)は、シートクッション12の前部におけるシート幅方向中央側の部位を構成している。左右の可動部12L、12Rの後方には、シートクッション12の本体部であるクッション本体部12Mが配置されている。また、このシートクッション12において、左右の可動部12L、12R及びクッション本体部12Mの左右両側に配置された部位は、左右一対のサイドサポート部12LS、12RSとされている。クッション本体部12M及び左右のサイドサポート部12LS、12RSは、本実施形態では非可動部とされている。
【0040】
一方、左右の可動部12L、12Rは、互いに分割されると共に、左右のサイドサポート部12LS、12RSとも分割されている。これら左右の可動部12L、12Rの後端部には、可動フレーム42L、42Rを左右の可動フレーム用ブラケット44、46に連結した支持軸54が設けられており、左右の可動部12L、12Rは、後端部を中心として上下に回動可能とされている。左可動部12Lは、左側チルトユニット40Lのアクチュエータ48Lによって上下に回動され、右可動部12Rは、右側チルトユニット40Rのアクチュエータ48Rによって上下に回動される構成になっている。
【0041】
具体的には、左右の可動部12L、12Rは、図8に実線で示される位置を標準位置としており、当該標準位置よりも上側に設定された上昇位置(図8に一点鎖線で示される位置)と、当該標準位置よりも下側に設定された下降位置(図8に二点鎖線で示される位置)との間で上下に回動可能とされている。上記の標準位置は、左右の可動部12L、12Rの上面12L1、12R1(図1及び図8以外では符号省略)が、クッション本体部12Mの上面12M1(図1及び図8以外では符号省略)と面一状となる位置とされている。詳細には、クッション本体部12Mの上面12M1は、シート前方側へ向かって上り勾配の緩やかな傾斜面とされており、左右の可動部12L、12Rが標準位置に位置する状態では、左右の可動部12L、12Rの上面12L1、12R1の傾斜角度が、クッション本体部12Mの上面12M1の傾斜角度と一致又は略一致する構成になっている。つまり、上記の「面一状」は、上面12L1、12R1の傾斜角度が上面12M1の傾斜角度と一致又は略一致するものであればよく、上面12L1、12R1と上面12M1とが略面一状となるものでもよい。
【0042】
なお、図1には、左右の可動部12L、12Rが標準位置に位置する状態が図示されている。また、図9Aには、左可動部12Lが標準位置に位置し、右可動部12Rが下降位置に位置する状態が図示されており、図10Aには、右可動部12Rが標準位置に位置し、左可動部12Lが下降位置に位置する状態が図示されており、図11Aには、左右の可動部12L、12Rの両方が下降位置に位置する状態が図示されている。また、図12には、左可動部12Lが標準位置に位置し、右可動部12Rが上昇位置に位置する状態が図示されており、図13には、左可動部12Lが上昇位置に位置し、右可動部12Rが標準位置に位置する状態が図示されており、図14には、左右の可動部12L、12Rの両方が上昇位置に位置する状態が図示されている。
【0043】
また、前述した左右のアクチュエータ48L、48Rの各モータ58には、それぞれ図示しないスイッチが電気的に接続されている。これらのスイッチは、例えばシートクッション12における車幅方向外側の側面に配設されており、各スイッチの操作によって上記各モータ58がそれぞれ正転及び逆転する構成になっている。このため、本実施形態では、上記各スイッチを個別に操作することにより、左右の可動部12L、12Rを連動させずに個別に(独立して)上下に回動させることができるようになっている。また、本実施形態では、送りねじ機構56を含んで構成された左右のアクチュエータ48L、48Rは、左右の可動部12L、12Rを上下に回動させた(昇降させた)位置に継続して保持可能とされている。
【0044】
上記構成の車両用シート10では、シートクッション12に着座した着座乗員P(運転者;図8図9B図10B図11B参照)の臀部Bがクッション本体部12Mに支持され、着座乗員Pの左右の大腿部LF、RFが左右の可動部12L、12R及びクッション本体部12Mに支持される構成になっている。なお、図8図9B図10B図11Bに示される着座乗員Pは、AM50ダミー(米国人成人男性の50%パーセンタイルのダミー人形)である。また、図8図9B図10B図11Bにおいて、LL、RL、LN、RNは、着座乗員Pの左脚部、右脚部、左膝部、右膝部をそれぞれ示している。以下、着座乗員PをAM50ダミーPと称する場合がある。
【0045】
また、本実施形態では、左右の可動部12L、12Rが標準位置(図8に実線で示される位置)に位置し且つ着座乗員PがAM50ダミーである場合、当該AM50ダミーPの左右の大腿部LF、RFにおいて、AM50ダミーPのヒップポイントHPから膝関節の中心JSまでの間の部位(図8において矢印L1を付した範囲の部位)のうち、ヒップポイントHP側の4割の部位(図8において矢印L2を付した範囲の部位)がクッション本体部12Mに支持され、上記4割の部位よりも膝部LN、RN側の部位(図8において矢印L3を付した部位)が左右の可動部12L、12Rに支持される構成になっている(図8においてL1:L2=10:4)。
【0046】
また、本実施形態では、シートクッション12の左右のサイドサポート部12LS、12RSは、標準位置(図8に実線で示される位置)に位置する左右の可動部12L、12R、及びクッション本体部12Mよりもシート上方側へ凸をなすように形成されている。
【0047】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0048】
上記構成の車両用シート10では、シートクッション12の前部が左右の可動部12L、12Rを含んで構成されており、これら左右の可動部12L、12Rによって着座乗員Pの左右の大腿部LF、RFがそれぞれ支持される。左右の可動部12L、12Rは、互いに分割され且つ後端部を中心として上下に回動可能とされている。また、シートクッション12に設けられた駆動機構52は、左右のアクチュエータ48L、48Rが有するモータ58の駆動力によって、左右の可動部12L、12Rを連動させずに個別に上下に回動可能とされている。このため、駆動機構52を用いて左右の可動部12L、12Rを個別に上下に回動させることにより、運転者である着座乗員Pの左右の大腿部LF、RFが左右の可動部12L、12Rから受ける圧迫力を個別に調整することができる。これにより、着座乗員Pの左右の脚部LL、RLの疲労を個別に軽減することができる。
【0049】
また、本実施形態では、シートクッション12の左右の可動部12L、12Rは、駆動機構52によって、標準位置よりも下側の下降位置へ回動可能とされている。このため、例えば図9Aに示されるように、右可動部12Rを下降位置へ回動させる一方、左可動部12Lを標準位置に配置させたままとすることができる。これにより、左可動部12Lによって着座乗員Pの左大腿部LFを適度に支持しつつ、着座乗員Pが右脚RLでアクセルペダル等を操作する際に、着座乗員Pの右大腿部RFが右可動部12Rによって圧迫されることを抑制できる(図9B参照)。これにより、車両が高速道路を長時間走行するときのように、着座乗員Pがアクセルペダルを例えば10%程度踏込んだ状態を継続する場合に、着座乗員Pの右脚部RLの疲労を軽減することができる。
【0050】
また、例えば図10Aに示されるように、左可動部12Lを下降位置へ回動させる一方、右可動部12Rを標準位置に配置させたままとすれば、ペダル操作をしない左脚部LLをストレッチすることが可能となる(図10B参照)。さらに、例えば着座乗員Pが車両を停車させて休憩する際などには、図11Aに示されるように左右の可動部12L、12Rを両方とも下降位置へ回動させることができる(図11B参照)。これにより、着座乗員Pの左右の脚部LL、LRの自由度が向上するので、着座乗員Pが休憩時等に寛ぎやすくなる。
【0051】
また、本実施形態では、シートクッション12の左右の可動部12L、12Rは、駆動機構52によって、標準位置よりも上側の上昇位置へ回動可能とされている。このため、図12に示されるように、右可動部12Rを上昇位置へ回動させる一方、左可動部12Lを標準位置に配置させたままとすることや、図13に示されるように、左可動部12Lを上昇位置へ回動させる一方、右可動部12Rを標準位置に配置させたままとすることができる。また、図14に示されるように、左右の可動部12L、12Rを両方とも上昇位置へ回動させることもできる。このように構成されているので、着座乗員Pに気分転換をさせたり、着座乗員Pに対して眠気防止等のための刺激を与えたりすることができる。
【0052】
さらに、本実施形態では、左右の可動部12L、12Rが標準位置に位置し且つ着座乗員PがAM50ダミーである場合、当該AM50ダミーPの左右の大腿部LF、RFにおいて、AM50ダミーPのヒップポイントHPから膝関節の中心JSまでの間の部位のうち、ヒップポイントHP側の4割の部位がクッション本体部12Mに支持されるように構成されている。これにより、着座乗員Pの左右の大腿部LF、RFのうち、シートクッション12によって静脈が圧迫され易い膝部LN、RN側の部位が、左右の可動部12L、12Rに支持される。その結果、左右の可動部12L、12Rの上下動によって、静脈の血流を促進することができるので、血流の悪化に起因して生じる疲労感や浮腫みを軽減することができる。
【0053】
このように、本実施形態に係る車両用シート10では、左右の可動部12L、12Rを個別に上下動させることにより、着座乗員Pの左右の脚部LL、RLを状況に応じて適切に支持することができる。特に長時間着座時に図9Aに示される状態とすれば、ペダル操作をする右脚部RLの大腿部RFが受ける圧迫力を低減することができると共に、左脚部LLが適度に支持されて臀部Bのすべりが防止されるので、着座乗員Pに安定した姿勢を提供することができる。しかも、図1図9A図10A図11A図12図13図14に示される複数の態様により、着座乗員Pに複数の姿勢を提供することができるため、ストレッチや左脚伸ばしなど、着座乗員Pのニーズに応じて長時間着座でも快適な運転をサポートすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、シートクッション12は、左右の可動部12L、12R及びクッション本体部12Mの左右両側に配置され、標準位置に位置する左右の可動部12L、12R及びクッション本体部12Mよりも上方側へ凸をなす左右のサイドサポート部12LS、12RSを有している。このため、左右の可動部12L、12Rが標準位置に位置する状態では、左右のサイドサポート部12LS、12RSによって、着座乗員Pの左右の大腿部LF、RFを側方から支持することができる。しかも、上下に回動される左右の可動部12L、12Rと、左右のサイドサポート部12LS、12RSとが分割されているので、左右のサイドサポート部12LS、12RSが左右の可動部12L、12Rと一体で回動される構成と比較して、可動部の構成を簡素化することができる。
【0055】
以下、本実施形態における上述した疲労軽減効果について、図15図23Bを用いて補足説明する。図15及び図16には、成人男性の脚部Lの血管が概略的に示されている。これらの図に示されるように、脚部Lには静脈Vが存在する。この静脈Vは、図17に示されるように、大腿部FにおけるヒップポイントHP側(骨盤P側)から膝部N側へ向かうほど脚部Lの後側(着座状態で下側)の皮膚に接近するように延びている。このため、図17に示される着座状態の大腿部Fにおいて、ヒップポイントHPから膝関節の中心JSまでの間の部位のうち、ヒップポイントHP側の4割(40%)の部位では、静脈VがシートクッションSCから圧迫を受け難く、当該4割の部位よりも膝部N側の部位(図17においてドットを付した部位)では、静脈VがシートクッションSCから圧迫を受け易い。
【0056】
この点、本実施形態では、図8に示されるように、シートクッション12に着座したAM50ダミーPの左右の大腿部LF、RFにおいて、ヒップポイントHPから膝関節の中心JSまでの間の部位のうち、ヒップポイントHP側の4割の部位がクッション本体部12Mに支持され、当該4割の部位よりも膝部LN、RN側の部位が左右の可動部12L、12Rに支持される。これにより、左右の可動部12L、12Rの上下動により、静脈の血流を効果的に促進することができる。
【0057】
上記の血流促進効果に関して、本願の発明者は、生体電気インピーダンス法に基づく試験を実施した。生体電気インピーダンス法では、例えば図18に模式的に示されるように、被験者STの左右の足裏等に接触させた電極E1、E2から被験者STの身体(主に下半身)に電流Iを流し、被験者STの身体のインピーダンスを測定する。これにより、被験者STの生体水分量を測定することができる。なお、図19には、同被験者STの身体における生体水分の正常な分布状態がドットにより模式的に示されており、図20には、同被験者STの足側に間質液が過剰に溜まった状態がドットにより模式的に示されている。図20に示される状態になると、被験者STは脚部に浮腫みが生じて疲労感が増加する。
【0058】
ここで、上記の試験では、本実施形態に係る車両用シート10に被験者を着座させるに際し、左右の可動部12L、12Rの上下位置を変更し、被験者の身体におけるインピーダンスの変化率を着座時間との関係で測定した。具体的には、先ず図21Aに示されるように、左右の可動部12L、12Rが標準位置に位置する状態の車両用シート10に被験者を着座させ、被験者の身体におけるインピーダンスの変化率を着座時間との関係で測定した。その結果、図21Bに示されるグラフが得られた。この図21Bに示されるように、左右の可動部12L、12Rが標準位置に位置する状態では、着座時間の経過に伴って被験者の身体におけるインピーダンスの変化率が増加することが確認された。
【0059】
次いで、図22Aに示されるように、左右の可動部12L、12Rの両方が下降位置に位置する状態の車両用シート10に被験者を着座させ、被験者の身体におけるインピーダンスの変化率を着座時間との関係で測定した。その結果、図22Bに示されるグラフが得られた。この図22Bに示されるように、左右の可動部12L、12Rの両方が下降位置に位置する状態では、着座時間の経過に関わらず、被験者の身体におけるインピーダンスの変化率が微小にしか変動しないことが確認された。
【0060】
次いで、図23Aに示されるように、左可動部12Lを標準位置に位置される一方、右可動部12Rを下降位置に位置させた状態の車両用シート10に被験者を着座させ、被験者の身体におけるインピーダンスの変化率を着座時間との関係で測定した。その結果、図22Bに示されるグラフが得られた。この図23Bに示されるように、左可動部12Lが標準位置に位置し、右可動部12Rが下降位置に位置する状態では、着座時間の経過に関わらず、被験者の身体におけるインピーダンスの変化率が微小にしか変動しないことが確認された。以上の試験により、本実施形態に係る車両用シート10によれば、着座乗員Pの脚部LL、LRの血行が促進され、脚部LL、LRの浮腫みが抑制されることが確認された。
【0061】
なお、図24及び図25に示される従来の車両用シート100(比較例)では、左右に分割されていないチルト機構102がシートクッション104の前部に設けられており、当該チルト機構102によってシートクッション102の前部を上下動させることができる。しかしながら、この車両用シート100の場合、シートクッション104の前部が上昇されたチルトアップ状態(図24図示状態)では、着座乗員Pの臀部Bのすべりが防止され、着座乗員Pの姿勢が安定し、着座乗員Pがシートクッション104から受ける支持感が向上する一方、着座乗員Pの大腿部Fがシートクッション104の前部から受ける圧迫力が増加する。これに対し、シートクッション104の前部が下降されたチルトダウン状態(図25図示状態)では、着座乗員Pの姿勢の自由度が向上し、着座乗員Pがシートクッション104から受ける支持感が減少すると共に、着座乗員Pの大腿部Fがシートクッション104の前部から受ける圧迫力が減少する。このような車両用シート100に着座して長時間運転する着座乗員は、脚部の血流が悪くなったり、脚部が浮腫んだりすることにより、疲労を感じるが、本実施形態ではこれを解消することができる。
【0062】
<実施形態の補足説明>
上記実施形態では、車両用シート10が車両の運転席とされた構成にしたが、これに限らず、本発明に係る車両用シートは、車両の助手席や後部座席であってもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、調整機構としての駆動機構52を構成する左右のアクチュエータ48L、48Rが、送りねじ機構56及びモータ58(駆動源)を備えた構成にしたが、本発明はこれに限らず、調整機構の構成は適宜変更可能である。例えば、可動フレーム42L、42Rの下方に配置された一対のエアバッグを膨張及び収縮させるエアバッグ装置が、調整機構の駆動源とされた構成にしてもよい。その場合、上記一対のエアバッグが個別に膨張及び収縮されることで、可動フレーム42L、42Rが個別に上下に回動される構成になる。
【0064】
また、本発明に係る調整機構は、駆動源を備えたものに限らず、手動式であってもよい。その場合、例えばシートクッション12の側面等に取り付けられた一対のノブが手動で個別に回転操作されることにより、各ノブの回転力が各可動フレーム42L、42Rに個別に伝達されて、可動フレーム42L、42Rが個別に上下に回動される構成になる。
【0065】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
10 車両用シート
12 シートクッション
12L、12R 左右の可動部
12L1、12R1 左右の可動部の上面
12M クッション本体部
12M1 クッション本体部の上面
12LS、12RS サイドサポート部
52 駆動機構(調整機構)
58 モータ(駆動源)
P 着座乗員(AM50ダミー)
LF、RF 左右の大腿部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図24
図25